説明

CO2センサ

【課題】炭酸Li等のアルカリ金属炭酸塩を用いた検知極とを用いたCO2センサは、高湿中への放置により起電力が著しくシフトするとの問題があり、センサの耐湿性を改善する。
【解決手段】アルカリイオン伝導体に対極と検知極とを接続し、加熱用のヒータを設けて、CO2センサとする。センサの検知極を貴金属とアルカリ金属のジルコン酸塩とで構成する。アルカリ金属ジルコン酸塩は、結露によるマイグレーションが少なく、Liイオンなどのアルカリ金属イオンの活量を一定に保つことができ、しかもCO2との電極反応を可逆に行うことができるため、CO2センサの耐湿性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はアルカリ金属イオン伝導体を用いたCO2センサに関し、特にその耐湿性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
ナシコン(Na1+xZr2P3-xSixO12)等のアルカリ金属伝導体と、炭酸Li等のアルカリ金属炭酸塩を用いた検知極とを用いたCO2センサは、高湿中への放置により起電力が著しくシフトするとの問題がある。このことは、結露などにより検知極の炭酸Liがマイグレーションすることや、センサの起電力に関与するLiイオンの活量が一定ではないことと関係するものと推定されている。そこでCO2センサに関して、高湿雰囲気への非加熱放置に伴う、起電力の変化を抑制する必要がある。
【0003】
ここでCO2センサについて、関連する先行技術を示す。特許文献1:特許2834679はナシコン(Na1+xZr2P3-xSixO12)と検知極の炭酸Li等の間に、ジルコニアリッチの層を設けることを記載している。
また特許文献2:特開2004−239831は、SnO2等の金属酸化物半導体と炭酸Li等の金属炭酸塩との混合物からなる検知極を提案している。
【特許文献1】特許2834679
【特許文献2】特開2004−239831
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の課題は、CO2センサの耐湿性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、アルカリイオン伝導体に接続した対極と検知極と、該アルカリイオン伝導体を加熱するヒータとを設けたCO2センサにおいて、前記検知極が貴金属とアルカリ金属のジルコン酸塩とからなることを特徴とする。
アルカリ金属のジルコン酸塩はK塩やRb塩、Cs塩などでも良いが、好ましくはNaもしくLiのジルコン酸塩とし、例えばLi2ZrO3、Li6Zr2O7、Na2ZrO3、Na6Zr2O7とする。
特に好ましくはジルコン酸塩はLi2ZrO3もしくはLi6Zr2O7で、最も好ましくはLi2ZrO3である。
【発明の効果】
【0006】
CO2センサの耐湿性が低い原因として、検知極中のアルカリ金属の炭酸塩が結露によりマイグレーションすることや、CO2との直接の反応を担うLiイオンの活量が一定ではないこと、が考えられる。アルカリ金属のジルコン酸塩は一般に水溶性ではないので、結露によるマイグレーションは問題にならない。次に、アルカリ金属のジルコン酸塩はアルカリイオン伝導体であり、例えばNa2ZrO3やNa6Zr2O7はNaイオンの、Li2ZrO3やLi6Zr2O7はLiイオンの伝導体で、電極反応に必要なNaイオンやLiイオンを供給する。言い換えるとアルカリ金属のジルコン酸塩はアルカリ金属イオンのバッファとして作用し、アルカリ金属イオンの活量を一定に保つ。さらに、アルカリ金属のジルコン酸塩はCO2と可逆的に反応する。例えばLi2ZrO3の場合、400℃付近から Li2ZrO3+CO2=Li2CO3+ZrO2 の反応を行い、このことはNa2ZrO3等のようにアルカリ金属の種類を変えても同様で、またLi6Zr2O7のようにアルカリ金属とZrとの比を変えても同様である。このことはLi2ZrO3等のアルカリ金属のジルコン酸塩を加熱すると、CO2との反応が容易に生じることを意味する。即ち、
2Li(electrode)+2e-(electrode)+CO2(gas)+1/2O2(gas)=Li2CO3
の電極反応がLi2ZrO3等の表面で容易に進行することを意味する。このことは他のアルカリ金属ジルコン酸塩でも同様と考えられ、また上記の電極反応は可逆である。
【0007】
以上のように、アルカリ金属ジルコン酸塩は、結露によるマイグレーションが少なく、Liイオンなどのアルカリ金属イオンの活量を一定に保つことができ、しかもCO2との電極反応を可逆に行うことができる、電極材料と考えられる。発明者は、CO2センサの耐湿性を改善するため種々の電極材料を探索し、Li2ZrO3により著しく耐湿性を改善し得ることを発見した。そして耐湿性の改善がLi2ZrO3に限らず、Na2ZrO3等でも得られることを確認し、これらの電極反応の機構を推定した。以下に実施例を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0009】
図1〜図7に、実施例のCO2センサとその特性を示し、図8,図9に比較例のCO2センサ(Li2ZrO3とLi2CO3の等モルの混合物)の特性を示す。図において、2はCO2センサで、ディスク上のナシコン焼結体4を備え、その組成は Na1+xZr2P3-xSixO12 で、xは0〜3で、通常は2程度である。なおナシコン中のNaイオンをLiイオンに変えたリシコンなどを用いてもよく、アルカリ金属イオン伝導体の組成は任意である。6は作用極で、例えばLi2ZrO3とAu等の貴金属との重量比で1:1の混合物からなり、8はAu等の貴金属からなる対極である。10はヒータ基板で、ここではアルミナであり、12はヒータで、ここではPt膜であり、他のヒータ膜でも良く、14〜16はリードである。18は封止ガラスで、対極8を雰囲気から遮断するために用いる。
【0010】
作用極6はLi2ZrO3等とAuとの混合物からなるが、Li6Zr3O7やNa2ZrO3などと貴金属の混合物を用いてもよい。図2に作用極6を拡大して示し、作用極6はLi2ZrO3等とAuとのほぼ均一な混合物で、後述の700℃焼成ではLi2ZrO3等はほとんど焼結しないので、通気性がある。実施例では作用極を1相で構成したが、図3のようにLi2ZrO3層上にAuなどの貴金属層21を積層して、例えば2相で構成しても良い。作用極6中のLi2ZrO3は、Liイオンの例えば10mol%以下をNaイオンやKイオンなどの他のアルカリ金属イオンで置換しても良く、Li2ZrO3とLi2CO3との合計量を100mol%とした際に、例えば5mol%以下、好ましくは2mol%以下の割合でLi2CO3を含んでいても良い。Li2ZrO3は例えば400℃以上でCO2と可逆的に反応してLi2CO3を生成するので、Li2ZrO3の一部がLi2CO3に変化していることがある。作用極6に添加する貴金属の種類は任意である。またLi2ZrO3の分解に伴って、Li2CO3の他にZrO2を含んでいることも有り得る。
【0011】
CO2センサ2の製造方法を説明する。作用極材料として、Li2ZrO3とAuペーストとを混合する。同様に対極材料としてAuペーストを用意し、ナシコン焼結体4を焼結する。次にヒータ12を設けたヒータ基板10に、対極8のAuペーストを塗布し、ナシコン焼結体4をセットし、その上部に作用極6のペーストを塗布する。次いでこれらを例えば空気中700℃で1時間焼成し、熱圧着などによりリード14〜16を取り付ける。その後、封止ガラス18を塗布し、再度600℃で30分間空気中で焼成して封止する。
【0012】
作用極6のアルカリ金属ジルコン酸塩として、Li2ZrO3を用いたもの(実施例1)、Li6Zr2O7(実施例2)を用いたもの、Na2ZrO3(実施例3)を用いたものの3種類を調製した。またこれ以外に、Li2ZrO3とLi2CO3のモル比を98:2としたもの(実施例4)、95:5としたもの(実施例5)、1:1としたもの(比較例)を調製した。またLi2ZrO3に代えてLi2CO3を用いたもの(従来例)を調製した。
【0013】
測定結果に付いて説明する。センサの起電力を10倍に増幅したものを出力とし、CO2 350ppm中と30000ppm中との出力の差を出力差とする。製造した各CO2センサを45℃相対湿度100%の雰囲気に非加熱放置し、時々雰囲気から取り出して30分間400℃に加熱した後、CO2 350ppm中と30000ppm中の起電力を測定した。図4〜図7に実施例の特性を、図8,図9に比較例の特性を示す。従来例の結果は図6,図7に示す。そして従来例での、フィールドテストの結果と、45℃相対湿度100%中での非加熱放置テストの結果との比較から、45℃相対湿度100%での非加熱放置は2日で、フィールドテストでの1年分程度の特性変化をもたらすことを確認した。従って45℃相対湿度100%の雰囲気で20日程度の非加熱放置に耐えることができれば、実用的には充分な耐湿性を備えていることになる。表1に、各試料の組成を示す。なお(Li2ZrO3+Li2CO3 98:2)等は混合比をモル比で示し、AuはLi2ZrO3等と等重量添加した。試料の調製条件は共通である。
【0014】
表 1
実施例 図 作用極の組成 サンプル数
実施例1 図4〜図7 Li2ZrO3+Au (1:1) 5
実施例2 図6 Li6ZrO7+Au (1:1) 5
実施例3 図6 Na6ZrO7+Au (1:1) 5
実施例4 図7 (Li2ZrO3+Li2CO3 98:2)+Au (1:1) 5
実施例5 図7 (Li2ZrO3+Li2CO3 95:5)+Au (1:1) 5

比較例 図8,図9 (Li2ZrO3+Li2CO3 50:50)+Au(1:1) 8
従来例 図6,図7 Li2CO3+Au (1:1) 5
【0015】
図4〜図7に実施例や従来例の結果を示す。非加熱放置に対して起電力は安定で、起電力のドリフトは緩やかである。結果はLi2ZrO3を用いたものが最良で、Li6ZrO7がこれに次ぎ、Na6ZrO7はLi6ZrO7よりも劣るが、従来例よりも充分に優れている。Li2ZrO3にLi2CO3を混合すると、2モル%程度までは影響が少なく、5モル%では影響があるものの、なお優れた特性が得られる。これに対してLi2ZrO3とLi2CO3との等モル混合物では従来例と大差のない結果となった。CO2 30000ppmと350ppm間の出力差は、実施例1では当初の10日程度増加し、その後ほぼ安定化し、実施例2〜5でも類似の結果が得られた。従って10日程度この雰囲気でエージングすれば、出力も出力差も安定したCO2センサが得られる。
【0016】
この発明では、作用極にアルカリ金属のジルコン酸塩、好ましくはNaもしくはLiのジルコン酸塩、特に好ましくはLi2ZrO3もしくはLi6Zr2O7、最も好ましくはLi2ZrO3を用いることにより、CO2センサの耐湿性を向上させる。作用極はアルカリ金属のジルコン酸塩と貴金属などの金属のみからなることが好ましく、アルカリ金属ジルコン酸塩の一部がCO2との反応により分解することを考慮しても、アルカリ金属ジルコン酸塩とアルカリ金属炭酸塩の合計を100mol%とした場合に、炭酸Liなどのアルカリ金属炭酸塩の含有量は、Li2CO3等として5mol%以下、より好ましくは2mol%以下とする。
【0017】
CO2センサの構造自体は任意で、変形例のCO2センサ82を図10に示す。ヒータ基板10の一面にヒータ12を設け、他面にナシコン膜84を設け、その表面に作用極6と対極8とを設け、対極8を封止ガラス18で封止する。他の点では図1〜図5の実施例と同様で、ナシコン膜84はヒータ基板10への印刷と焼成により調製する。

【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例のCO2センサの断面図
【図2】作用極の拡大断面図
【図3】変形例の作用極の拡大断面図
【図4】実施例1のCO2センサを、45℃相対湿度100%雰囲気で40日間非加熱放置した際の、CO2350ppm中の起電力を示す特性図
【図5】図4の条件での、実施例1でのCO23%と350ppmとの間の起電力差を示す特性図
【図6】実施例1(Li2ZrO3実施例2(LiZrO)、実施例3(Na2ZrO3)、従来例(Li2CO3)の各CO2センサを、45℃相対湿度100%雰囲気で非加熱放置した際の、CO2350ppm中の起電力を示す特性図
【図7】実施例1(Li2ZrO3実施例4(LiZrO:Li2CO3=98:2)、実施例5(LiZrO:Li2CO3=95:5)、従来例(Li2CO3)の各CO2センサを、45℃相対湿度100%雰囲気で非加熱放置した際の、CO2350ppm中の起電力を示す特性図
【図8】比較例のCO2センサ(Li2ZrO3とLi2CO3の等モルの混合物)を、45℃相対湿度100%雰囲気で40日間非加熱放置した際の、CO2350ppm中の起電力を示す特性図
【図9】図8の条件での、比較例でのCO23%と350ppmとの間の起電力差を示す特性図
【図10】変形例のCO2センサの断面図
【符号の説明】
【0019】
2,82 CO2センサ
4 ナシコン焼結体
6 作用極
8 対極
10 ヒータ基板
12 ヒータ
14〜16 リード
18 封止ガラス
20 Li2ZrO3
21 貴金属層
84 ナシコン膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリイオン伝導体に接続した対極と検知極と、該アルカリイオン伝導体を加熱するヒータとを設けたCO2センサにおいて、
前記検知極が貴金属とアルカリ金属のジルコン酸塩とからなることを特徴とするCO2センサ。
【請求項2】
前記ジルコン酸塩がNaもしくLiのジルコン酸塩であることを特徴とする、請求項1のCO2センサ。
【請求項3】
前記ジルコン酸塩がLi2ZrO3もしくはLi6Zr2O7であることを特徴とする、請求項2のCO2センサ。
【請求項4】
前記ジルコン酸塩がLi2ZrO3であることを特徴とする、請求項3のCO2センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図10】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−128184(P2009−128184A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303396(P2007−303396)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000112439)フィガロ技研株式会社 (58)
【Fターム(参考)】