説明

CO2ハイドレートとその製造方法

【課題】ゲスト物質として二酸化炭素以外の物質を含むCOハイドレートとその製造方法を提供する。
【解決手段】粉砕した氷1と常温で液体である炭化水素2を耐圧容器10内に密封し(S1)、耐圧容器内のガスを二酸化炭素3に置換し(S2)、耐圧容器内をCOハイドレート4が形成されない圧力まで二酸化炭素により加圧し(S3)、氷と炭化水素を攪拌しながら、耐圧容器内をCOハイドレート4が形成される温度まで冷却する。COハイドレート4は、水分子が水素結合によって作成するかご状構造の内部に二酸化炭素と常温で液体である炭化水素2(エタノール、2−プロパノール)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラスレートハイドレートに係り、さらに詳しくはCOハイドレートとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クラスレートハイドレートとは、水分子が水素結合によって作成するかご状構造の内部に他の分子が取り込まれている結晶のことをいう。かご状構造を形成する水分子を「ホスト分子」、かご状構造に包み込まれている分子を「ゲスト分子」または「ゲスト物質」と呼ぶ。
クラスレートハイドレートは、標準状態の気体と比較して体積比で約150倍以上の分子を包み込むことが出来る高いガス包蔵性を有している。
【0003】
メタン(CH)及び二酸化炭素(CO)が、クラスレートハイドレートのゲスト分子(ゲスト物質)として広く知られている。メタンをゲスト物質とするクラスレートハイドレートを「メタンハイドレート」、二酸化炭素をゲスト物質とするクラスレートハイドレートを「COハイドレート」と呼ぶ。
なお、以下の説明において、クラスレートハイドレート及びCO2ハイドレートを、特に区別が不要な場合には、単に「ハイドレート」と呼ぶ。
【0004】
現在、炭酸飲料は清涼感のある飲物として広く知られている。炭酸飲料の液中にはCOが飽和状態で含まれ、口に含んだ際にこれが放出されることにより清涼感を出している。しかし炭酸飲料は液体であり、固体で用いるためにそのまま凍らせてもCOは外部へ放出されてしまう。
これに対し、COハイドレートは固体であり、内部に多くのガスを含むことが出来る。そこで、COハイドレートを食品に用いれば炭酸飲料のような清涼感のある食品を開発できることが期待される。
【0005】
なお、COハイドレートとその製造方法は、例えば特許文献1に既に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6576276号明細書、「CO2−HYDRATE PRODUCT AND METHOD OF MANUFACTURE THEREOF」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたCOハイドレートプロダクトは、COハイドレートを含むプロダクト(例えば飲物)であり、COハイドレートのゲスト物質は、二酸化炭素のみである。
【0008】
これに対し、COハイドレートのゲスト物質として、二酸化炭素以外の物質を含むものは、自然界に存在していない。しかし、ゲスト物質として二酸化炭素以外の物質、例えば常温で液体である炭化水素(エタノール、2−プロパノール、など)を含むCOハイドレートは、新規な味覚の飲物や食品、効用の高い化粧品や医薬品として、高い有用性が予想される。
【0009】
本発明は、かかる要望に応えるために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、ゲスト物質として二酸化炭素以外の物質を含むCOハイドレートとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、水分子が水素結合によって作成するかご状構造の内部に二酸化炭素と常温で液体である炭化水素を含むことを特徴とするCOハイドレートが提供される。
【0011】
前記常温で液体である炭化水素は、分子径が0.8nm以下のエタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、アルキルアルコール、メチルブタノール、ジメチルブタノール、又はトリメチルブタノールである。
【0012】
また本発明によれば、粉砕した氷と常温で液体である炭化水素を耐圧容器内に密封し、
前記耐圧容器内のガスを二酸化炭素に置換し、
前記耐圧容器内をCOハイドレートが形成されない圧力まで二酸化炭素により加圧し、
前記氷と炭化水素を攪拌しながら、前記耐圧容器内をCOハイドレートが形成される温度まで冷却する、ことを特徴とするCOハイドレートの製造方法が提供される。
【0013】
前記COハイドレートが形成されない圧力は、257〜259Kにおいて0.65〜0.7MPaであり、
前記COハイドレートが形成される温度は、250〜256Kである。
【0014】
さらに、前記氷、常温で液体である炭化水素、COハイドレート及び気相の二酸化炭素が四相平衡を維持する温度と圧力で保存する。
【0015】
本発明の実施例によれば、前記常温で液体である炭化水素はエタノールであり、前記四相平衡を維持する温度と圧力は、255.0K,0.527MPaと262.4K,0.715MPaを結ぶ直線より低温かつ高圧である。
【0016】
また本発明の別の実施例によれば、前記常温で液体である炭化水素は2−プロパノールであり、前記四相平衡を維持する温度と圧力は、圧力を対数表示し、250.8K,0.275MPa、253.6K,0.376MPa、及び261.9K,0.736MPaを順次結ぶ直線より低温かつ高圧である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法により、二酸化炭素以外のゲスト物質、すなわち常温で液体である炭化水素(エタノール、2−プロパノール)を含むCOハイドレートが製造できることが後述する実施例により確認された。

【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によるCOハイドレートの製造方法の全体フロー図である。
【図2】実施例1で用いた実験装置の全体構成図である。
【図3】実施例1における相平衡条件測定結果である。
【図4】実施例1におけるXRD測定結果である。
【図5】実施例1における格子定数の温度依存性測定結果である。
【図6】定容積法の模式図である。
【図7】実施例2における相平衡条件の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明によるCOハイドレートの製造方法の全体フロー図である。
この図に示すように、本発明の方法は、S1〜S5の各ステップ(工程)からなる。
【0021】
密封工程(ステップS1)では、粉砕した氷1と常温で液体である炭化水素2を耐圧容器内に密封する。なお、この出願において常温とは、20〜30℃を意味する。
置換工程(ステップS2)では、耐圧容器内のガスを二酸化炭素3に置換する。
【0022】
加圧工程(ステップS3)では、耐圧容器内をCOハイドレート4が形成されない圧力まで二酸化炭素3により加圧する。後述する実施例において、COハイドレート4が形成されない圧力は、257〜259Kにおいて0.65〜0.7MPaである。
【0023】
攪拌・冷却工程(ステップS4)では、氷1と炭化水素2を攪拌しながら、耐圧容器内をCOハイドレート4が形成される温度まで冷却する。後述する実施例において、COハイドレート4が形成される温度は、250〜256Kである。
【0024】
保存工程(ステップS5)では、氷1、常温で液体である炭化水素2、COハイドレート4及び気相の二酸化炭素3が四相平衡を維持する温度と圧力で保存する。
後述する実施例1において、常温で液体である炭化水素2はエタノールであり、四相平衡を維持する温度と圧力は、255.0K,0.527MPaと262.4K,0.715MPaを結ぶ直線より低温かつ高圧である。
後述する実施例2において、常温で液体である炭化水素2は2−プロパノールであり、四相平衡を維持する温度と圧力は、圧力を対数表示し、250.8K,0.275MPa、253.6K,0.376MPa、及び261.9K,0.736MPaを順次結ぶ直線より低温かつ高圧である。
【実施例1】
【0025】
(ゲスト物質としてエタノールを含むCOハイドレート)
1. エタノールはアルコール飲料に含まれるほか,防腐剤などとして幅広く用いられている物質である。エタノールは一般的にはハイドレートの生成を抑制するThermodynamic Inhibitorとして知られている。これは、エタノールに含まれる親水基がハイドレートのかごの形成を妨げることにより生成を抑制することによる。その一方でエタノールはハイドレートのゲスト物質になることとも知られている。さらに、CH−COH−HO系における相平衡条件測定では、純水系よりも相平衡条件が緩くなるといった結果も得られている。
【0026】
ハイドレートを食品に用いる際には相平衡条件を知ることが不可欠である。また、COやエタノールがどの程度かご状構造の中に入っているかを知ることは清涼感やアルコール度数に影響を及ぼすため知る必要がある。そのため、結晶構造を知ることが必要となる。以上より、実施例1では、CO−COH−HO系における相平衡条件測定およびXRDにより結晶構造を特定し、食品・化粧品への適合性を検討する。
【0027】
2. 実験装置および方法
図2は、実施例1で用いた実験装置の全体構成図である。この図において、10は耐圧容器、11はバス容器、12は攪拌羽、13は攪拌モータ、14はサーミスタ、15は圧力計、16はCOボンベである。
【0028】
相平衡条件測定の実験には図2に示した装置を用いた。図示しないヒータおよび投げ込み式クーラによって−20℃〜2℃の範囲で実験装置の入っているバス容器11内のバス5の温度を調整した。
実験を行う耐圧容器10は内径30mm,高さ173mm,容積118cmの円筒になっている。COガス1はCOボンベ16から供給し、サーミスタ14および圧力計15によって内部の温度・圧力を測定した。実験は反応促進のため装置内にある攪拌羽12を回転させながら行った。温度・圧力の測定不確かさは±0.1Kおよび±0.005MPaである。実験はモル濃度が0.060mole fractionになるようにHOに常温で液体である炭化水素2としてエタノールを加えて行った。
【0029】
エタノール2を0.060mole fraction加えることにより系の凝固点は約6.3K下がる。実験は初期条件がこの凝固点以下の場合はHOを氷1で、凝固点以上の場合はHOとして蒸留水を試料に用いて行った。
【0030】
実験試料には、約25gの氷1(粒径1〜2mm)または蒸留水、および約4gのエタノール2を用いた。あらかじめ約−15℃に冷却しておいた耐圧容器10にそれらを入れ、COガス3で加圧と減圧を繰り返すことにより中の空気をCOに置き換え、系を密閉した。その後耐圧容器10内の圧力をハイドレートが生成しない程度まで加圧し、その温度で定常化した圧力を初期条件とした。
【0031】
系を冷却することによりCOハイドレート4が生成し、系の圧力は急激に低下した。その後系の温度を徐々に上昇させ、各温度において6〜20時間かけて定常化させた。系の圧力はハイドレート分解によるものと温度上昇によるものによって徐々に上昇していくが、COハイドレート4が全て分解した後は系の圧力上昇は温度上昇によるわずかのものになる。これより、ハイドレート4が完全に分解する直前の点を最も正確なデータとして相平衡条件として採用した。この操作を様々な初期条件で行い、p−T線図上にプロットした。
【0032】
相平衡条件測定と同様の手順でXRD測定用の結晶を合成した。まず、系を真空引きし、COガス1でパージした。実験は約−18℃に保ったバス5内で行い、COハイドレート4が生成しないように、その平衡圧力0.550MPaを超えない0.540MPaまで加圧した後に密閉した。COハイドレート4が生成することにより、系の圧力が0.524MPaまで下がったら再び0.540MPaまで圧力を加える。0.524MPaはCO−COH−HO系の平衡圧力である。
圧力を加えても低下しなくなるまでこの間欠的な加圧操作を繰り返し、約84時間以上圧力が低下しなかったらハイドレート生成反応は完了したと判断し、耐圧容器10をバス5から取り出し図示しない液体窒素に浸ける。
【0033】
耐圧容器10内の温度が230K以下になったら容器を液体窒素から出し、すばやく容器を開ける。容器の下部は再び液体窒素に浸けCOハイドレート4が分解しないようにし、COハイドレート4を取り出す。COハイドレート4は液体窒素の入った容器で保存し、XRD測定のサンプル試料として用いた。
【0034】
3. 結果および考察
図3及び表1は、実施例1における相平衡条件測定結果である。
【0035】
【表1】

【0036】
図3には、CO−COH−HO系における相平衡条件測定結果の254〜263Kの部分(四角形のプロット)を示した。またこの図には比較のためにCO−HO系の相平衡条件(丸印のプロット)も示した。
図3から明らかなように、254〜263Kの温度域ではCO−COH−HO系の相平衡条件はCO−HO系の相平衡条件よりも緩くなっている。圧力差は20−30kPa程度であるが、この差は測定の不確かさの範囲を超えている。そのため、CO−COH−HO系ではCO−HO系とは違ったCOハイドレート4が生成していると考えられる。
【0037】
図4は、実施例1におけるXRD測定結果である。この図に0.056mole fractionで生成させたCOハイドレート4のXRDによる測定結果を示した。XRDによる測定からCO−COH−HO系で生成したCOハイドレート4の構造は構造Iであり、COハイドレート4の割合は約50mass%であることがわかった。
【0038】
なお、構造Iとは、COハイドレートの結晶構造の1つである。構造Iは立方晶である。COハイドレートの単位格子は46個の水分子と8個のCO分子から構成され、これらの分子が一辺およそ1.2nmの立方体の中に収まっている。
【0039】
図5は、実施例1における格子定数の温度依存性測定結果である。この図に0.056mole fraction(三角形のプロット)および0.060 mole fraction(四角形のプロット)で生成させたハイドレートサンプルと、CO−HO系で生成させたハイドレートサンプル(丸いプロット)の格子定数の温度依存性測定結果を示した。図中の実線はCO−HO系での測定結果である。
この図から、CO−COH−HO系で生成したCOハイドレート4の格子定数の方が約0.01Å大きいという結果が得られた。格子定数測定の不確かさは0.002Åであり、二つの値の相違は不確かさの範囲を超えている。格子定数の値はゲスト物質のサイズによって異なってくることは知られているので、この相違は二つの系で異なったハイドレートが生成していることを示している。
【0040】
従来の炭酸飲料に含まれるCOは5°C,0.5MPaで4.3mass%である。一方、実施例1で得られたCOハイドレート4に含まれるCOは約12.9mass%とCOハイドレート4には炭酸飲料の約3倍のCOが含まれる。
また、エタノール2が構造Iの大ケージに10%,50%,100%入っていと仮定すると、アルコール度数はそれぞれ2.0,8.8,15.3vol%である。これらの結果から今回の実験で得られたCOハイドレート4は食品への応用に十分なCOまたはエタノールを含むといえ、食品への応用の可能性は高いと言える。
【0041】
上述した実施例1により、CO−COH−HO系における相平衡条件測定およびXRD測定によりCOとCOHの両方をゲスト物質として含む新たなハイドレート(COハイドレート4)の存在が示された。また、このCOハイドレート4に含まれるCO、エタノール2は共に食品に応用するのに十分な濃度が含まれていることがわかった。
【実施例2】
【0042】
(ゲスト物質として2−プロパノールを含むCOハイドレート)
4. エタノール、Propan−2−ol(以下2−プロパノールと表記)などのアルコール類はハイドレート生成の抑制剤(inhibitor)として知られている。石油などのパイプライン内でハイドレートが生成し閉塞を及ぼす問題があり、この防止のためにしばしばアルコールが用いられる。しかしながら、inhibitorとして作用すると考えられていたアルコール(エタノール,2−プロパノール)がメタンなどと同時にゲスト物質となり、平衡条件を高温・低圧側に押し下げるという報告例も存在する。2−プロパノールは、他の物質と共に乳液の成分や防腐剤として用いられる物質である。
実施例2では、COハイドレート4を新規な化粧品に応用することを想定して、CO+COH(2−プロパノール)+HO系での相平衡条件を測定し、その結果からゲスト物質としての2−プロパノールが相平衡条件に及ぼす影響について検討する。
【0043】
5.実験装置
使用した実験装置は、図2に示した実施例1の実験装置と同一である。バス5はエチレングリコール水溶液である。エチレングリコール水溶液は60〜80mass%であり、この濃度の水溶液の凝固点は約−40℃である。耐圧容器10は、ステンレス鋼製円筒容器であり、この例では内径は30mm,高さは100mm、容積は71cmである。
【0044】
6.実験方法
実験方法は定容積法を用いた。定容積法とは一定容積の容器内部でハイドレートを生成・分解させることで相平衡条件を測定する方法である。図6に定容積法の模式図を示す。
【0045】
実験では水に対して常温で液体である炭化水素2として5.6mol%の2−プロパノールを使用した。この比率は2−プロパノールが入りうるCOハイドレート4の構造Iの大ケージに2−プロパノールが全て収まった場合の水分子と2−プロパノールの比率である。
【0046】
実験操作は耐圧容器10に蒸留水から作った粒径1〜2mm粉末氷1と常温で液体である炭化水素2として2−プロパノールを入れることから始める。氷点以上の温度領域では蒸留水を用いる。耐圧容器10内を真空に引いた後、COガス3で加圧・減圧を繰り返すことで内部の気体をCOに置換する。その後の実験手順は以下の通りである。なお(1)〜(4)は図6の数字に対応している。
【0047】
(1) 系を初期条件とする温度に設定した後、COハイドレート4が生成しないレベルに圧力を調整し、圧力の定常化を待つ。次に、系の温度を下げることでCOハイドレート4が生成する条件にする。
(2) COハイドレート4の生成に伴って系の圧力は低下する。その後(1)と同様に、下げた温度において圧力の定常化を待つ。
(3) 系の温度を0.1Kずつ上昇させ、各温度において圧力を定常化させる。系の圧力はCOハイドレート4の分解と温度上昇により上昇する。
(4) COハイドレート4が完全に分解した後は、温度の上昇に対して圧力上昇はわずかなものとなる。実施例2ではCOハイドレート4が完全に分解する直前の温度・圧力を最も正確なデータとして採用する。
様々な温度領域において初期条件を設定し、相平衡条件を決定していく。
【0048】
7.実験結果および考察
図7及び表2は、実施例2における相平衡条件の測定結果である。
【0049】
【表2】

【0050】
図7はCO+COH+HO系での相平衡条件測定結果を示している。この図において、縦軸は圧力(p)で、単位はMPaである。横軸は温度(T)で、単位はKである。なお、この図は片対数で示されている。
図7において、丸印のプロットがCO+HO系での相平衡条件、逆三角形のプロットがCO+COH+HO系での相平衡条件である。図中の直線は同じ系のプロットの指数近似である。
【0051】
図7より、253.5K,262.0K,264.0K付近において圧力の勾配が変化していることが確認できる。この結果について以下のように考察する。
【0052】
262.0Kより低温側では、CO+HO系と比べて平衡圧力が低くなったことから、COと2−プロパノールをゲスト物質とするCOハイドレート4が生成したと考えられる。この温度領域では四相平衡であり、それぞれの相は氷1・2−プロパノール水溶液2・COハイドレート4・気相の二酸化炭素3である。
これに対して262.0Kより高温側においてはCO+水系の相平衡条件と重なっていることから、二酸化炭素以外のゲスト分子を含まないCOハイドレート4が存在していると思われる。260.0K〜264.0Kの領域は四相平衡である。
【0053】
264.0Kを境にして圧力勾配が変化しているのは、この温度付近に氷点が存在しているためであると考えられる。氷点より高温側では2−プロパノールがinhibitorの役割を果たし、相平衡条件を高圧側に押し上げていると考えられる。この相は三相平衡であり、それぞれの相は2−プロパノール水溶液2・COハイドレート4・気相の二酸化炭素3である。
253.5K付近での圧力勾配の変化は,CO+2−プロパノールハイドレートの結晶構造が変化しているためであると考えられる。
【0054】
COと2−プロパノールを含んだCOハイドレート4の化粧品を製造する場合、CO+COH+HO系の相平衡条件を参考にする。また保存の場合には環境をハイドレートが分解しない温度・圧力に保つ必要がある。
【0055】
一般の化粧品への実用性を考え、COハイドレート4内に入る2−プロパノールが含まれた場合のアルコール度数を算出した。2−プロパノールが入りうるCOハイドレート4の構造Iの大ケージに、2−プロパノールが100%,50%,10%入った場合を想定し計算した。2−プロパノールが100%かごに入った場合のアルコール度数は体積換算で最大約20%,50%入った場合は約5〜10%、10%入った場合には1〜3%という結果になった。2−プロパノールが化粧品に応用される場合には、含有される量が10%にも満たないのがほとんどである。したがってかごに入る2−プロパノールは50%未満で十分であり、ハイドレートを化粧品に応用するには十分な量だと考えられる。
【0056】
上述したように、CO+2−プロパノール+水系での相平衡条件測定を行った結果、COと2−プロパノールの両者をゲスト物質とする新たなCOハイドレート4の存在が示唆された。
このCOハイドレート4が生成される温度領域は約262.0Kより低温側であり、2−プロパノール2は相平衡条件を低圧側へ押し下げることが確認された。また約253.5Kを境にして、CO+2−プロパノールのCOハイドレート4の結晶構造は変化することも示唆された。
COと2−プロパノールをゲスト物質とするハイドレートを化粧品を製造する場合は、CO+COH+HO系の相平衡条件を考慮して温度・圧力設定をすると良い。また、保存する場合、環境をハイドレートの分解しない温度・圧力に保たなければならない。
【0057】
上述した実施例1,2から、本発明の方法により、二酸化炭素以外のゲスト物質(エタノール、2−プロパノール)を含むCOハイドレート4が製造できることが確認された。
【0058】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0059】
1 氷、2 常温で液体である炭化水素(エタノール、2−プロパノール)、
3 二酸化炭素、4 COハイドレート、5 バス、
10 耐圧容器、11 バス容器、
12 攪拌羽、13 攪拌モータ、
14 サーミスタ、15 圧力計、
16 COボンベ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分子が水素結合によって作成するかご状構造の内部に二酸化炭素と常温で液体である炭化水素を含むことを特徴とするCOハイドレート。
【請求項2】
前記常温で液体である炭化水素は、分子径が0.8nm以下のエタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、アルキルアルコール、メチルブタノール、ジメチルブタノール、又はトリメチルブタノールである、ことを特徴とする請求項1に記載のCOハイドレート。
【請求項3】
粉砕した氷と常温で液体である炭化水素を耐圧容器内に密封し、
前記耐圧容器内のガスを二酸化炭素に置換し、
前記耐圧容器内をCOハイドレートが形成されない圧力まで二酸化炭素により加圧し、
前記氷と炭化水素を攪拌しながら、前記耐圧容器内をCOハイドレートが形成される温度まで冷却する、ことを特徴とするCOハイドレートの製造方法。
【請求項4】
前記COハイドレートが形成されない圧力は、257〜259Kにおいて0.65〜0.7MPaであり、
前記COハイドレートが形成される温度は、250〜256Kである、ことを特徴とする請求項3に記載のCOハイドレートの製造方法。
【請求項5】
さらに、前記氷、常温で液体である炭化水素、COハイドレート及び気相の二酸化炭素が四相平衡を維持する温度と圧力で保存する、ことを特徴とする請求項3に記載のCOハイドレートの製造方法。
【請求項6】
前記常温で液体である炭化水素はエタノールであり、前記四相平衡を維持する温度と圧力は、255.0K,0.527MPaと262.4K,0.715MPaを結ぶ直線より低温かつ高圧である、ことを特徴とする請求項5に記載のCOハイドレートの製造方法。
【請求項7】
前記常温で液体である炭化水素は2−プロパノールであり、前記四相平衡を維持する温度と圧力は、圧力を対数表示し、250.8K,0.275MPa、253.6K,0.376MPa、及び261.9K,0.736MPaを順次結ぶ直線より低温かつ高圧である、ことを特徴とする請求項5に記載のCOハイドレートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−244728(P2011−244728A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120486(P2010−120486)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(592009281)IHIプラント建設株式会社 (39)
【Fターム(参考)】