説明

CO2分離回収装置並びにCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラント

【課題】より高いCO2回収率が得られるCO2分離回収装置並びに高いプラント効率のCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラントを提供する。
【解決手段】本発明のCO2分離回収装置は、CO2とH2を主成分とするガスを導入して、COとH2OとするCOシフト反応器を備え、
COシフト反応器の入り口側に設けられた入口弁と、COシフト反応器の出口側に設けられた出口弁と、入口弁の前段に高温蒸気を与えるための蒸気制御弁と、COシフト反応器に流入する流体のガス組成を検知するガス組成分析器とを備え、
ガス組成分析器の分析結果から求めたCOとH2Oのモル量差により蒸気制御弁を制御し、
COシフト反応器の触媒槽温度からCOシフト反応器の入口弁と、出口弁を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO2分離回収装置並びにCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
石炭は、価値が低位で安定、採掘可能な埋蔵量が多い、地域偏在性が少ない、産炭地の性状が安定しているなどの理由から、将来にわたって主要な一次エネルギーになるとみられ、世界全体で経済成長のため今後も利用が拡大すると予測されている。
【0003】
かかる石炭の利用拡大に当り、EU諸国、北米、オーストラリア、日本の先進各国は、地球温暖化対策として革新的な中長期CO2削減目標を設定しているが、他の一次エネルギー源に比べて単位電力量当たりのCO2排出量が多い石炭の利用を拡大するには、その削減が不可欠である。
【0004】
そこで、CO2排出量を削減可能な新技術として、石炭ガス化複合発電プラントIGCC(Integrated Coal Gasification Combined Cycle)と、CO2分離回収装置CCS(Carbon Dioxide Capture and Storage)を組み合わせたプラント構成の石炭利用技術として、特許文献1、特許文献2がある。
【0005】
このプラントでは、石炭ガス化炉で石炭と酸素を混合燃焼し得られた石炭ガス化ガス(COリッチガス)に水蒸気を添加し、COをCO2とH2に転化する。そのうえで、CO2を吸収させた吸収液を再生してCO2を分離回収し、回収されたCO2は、圧縮液化され、輸送、貯留される。また、このときに得られるCO2回収後の水素リッチガスは、ガスタービン燃料として使用されるので、プラント全体として高効率化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−144720号公報
【特許文献2】特開2009−221098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
石炭ガス化複合発電プラントIGCCに付帯するCO2分離回収装置CCSの設備の中にCOに水蒸気を添加してCO2とH2に転化するCOシフト反応器がある。COシフト反応器で転化されたCO2は圧縮液化され、輸送、貯留される。
【0008】
COをCO2に転化するCOシフト反応は発熱反応であり、その反応速度を促進させる為に用いる触媒は、一般的に熱に阻害されやすく、上手く反応器内の触媒槽温度を制御しなければ触媒能低下によりCO2転化率が低下する傾向にある。
【0009】
現在、その触媒能低下に起因する温度制御は、マニュアル制御であって、プラントオペレーターの経験則と過去のプラントデータにより運用する煩雑な温度制御に留まっている。
【0010】
本発明では、この石炭利用技術において、石炭ガス化ガスからCO2を分離するCOシフト反応器の触媒反応に着眼し、その反応がプラントの負荷運用状態に合わせ最適条件で進行すれば、より高いCO2回収率が得られるCO2分離回収装置並びに高いプラント効率のCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラントを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のCO2分離回収装置は、CO2とH2を主成分とするガスを導入して、COとH2OとするCOシフト反応器を備え、
COシフト反応器の入り口側に設けられた入口弁と、COシフト反応器の出口側に設けられた出口弁と、入口弁の前段に高温蒸気を与えるための蒸気制御弁と、COシフト反応器に流入する流体のガス組成を検知するガス組成分析器とを備え、
ガス組成分析器の分析結果から求めたCOとH2Oのモル量差により蒸気制御弁を制御し、
COシフト反応器の触媒槽温度からCOシフト反応器の入口弁と、出口弁を制御する。
【0012】
また、COシフト反応器の触媒槽温度で定まるエネルギーが、その上下限エネルギーを逸脱するときにCOシフト反応器の入口弁と、出口弁を制御する。
【0013】
また、ガス組成分析器の分析結果から求めたCOモル量と、触媒反応必要温度エネルギーから前記COシフト反応器内の触媒反応必要温度エネルギー総量を求め、触媒槽温度で定まるエネルギーが、触媒反応必要温度エネルギー総量を下回るときに、入口弁を開制御すると同時に、出口弁を閉制御し、COシフト反応器内を加圧状態として、触媒槽温度を上げる。
【0014】
また、触媒槽温度で定まるエネルギーが、触媒反応阻害温度エネルギーを上回るときに入口弁を開制御すると同時に、出口弁を開制御して、反応器内を減圧状態として、触媒槽温度を下げる。
【0015】
また、ガス組成分析器の分析結果から求めたCOモル量と、触媒反応必要温度エネルギーからCOシフト反応器内の触媒反応必要温度エネルギー総量を求め、触媒槽温度で定まるエネルギーが、触媒反応必要温度エネルギー総量を下回るときに、入口弁を開制御すると同時に、出口弁を閉制御し、COシフト反応器内を加圧状態として、触媒槽温度を上げ、
触媒槽温度で定まるエネルギーが、触媒反応阻害温度エネルギーを上回るときに入口弁を開制御すると同時に、出口弁を開制御して、反応器内を減圧状態として、触媒槽温度を下げる。
【0016】
本発明のCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラントは、蒸気タービンとガスタービンを用いたコンバインドサイクルプラントと、微粉炭をガス化し、コンバインドサイクルプラントのガスタービン燃焼器に燃料ガスとして与える石炭ガス化プラントと、石炭ガス化プラントの排出するCO2とH2を主成分とするガスを導入してCOとH2OとするCOシフト反応器を備え、
COシフト反応器の石炭ガス化プラント側に設けられた入口弁と、COシフト反応器の出口側に設けられた出口弁と、入口弁の前段に蒸気タービンからの抽気を与えるための抽気制御弁と、COシフト反応器に流入する流体のガス組成を検知するガス組成分析器とを備え、
ガス組成分析器の分析結果から求めたCOとH2Oのモル量差により前記抽気制御弁を制御し、
COシフト反応器の触媒層温度からCOシフト反応器の入口弁と、出口弁を制御する。
【0017】
また、ガス組成分析器の分析結果が、COリッチであり、かつプラント負荷に余裕があるときにタービン抽気を増加する方向に抽気制御弁を制御する。
【0018】
また、ガス組成分析器の分析結果が、H2Oリッチであるとき、タービン抽気を減少する方向に抽気制御弁を制御する。
【0019】
また、ガス組成分析器の分析結果が、COリッチであり、かつプラント負荷に余裕がないときにタービン抽気を減少する方向に抽気制御弁を制御する。
【0020】
また、COシフト反応器の触媒槽温度で定まるエネルギーが、その上下限エネルギーを逸脱するときにCOシフト反応器の入口弁と、出口弁を制御する。
【0021】
また、ガス組成分析器の分析結果から求めたCOモル量と、触媒反応必要温度エネルギーからCOシフト反応器内の触媒反応必要温度エネルギー総量を求め、触媒槽温度で定まるエネルギーが、触媒反応必要温度エネルギー総量を下回るときに、入口弁を開制御すると同時に、出口弁を閉制御し、COシフト反応器内を加圧状態として、触媒槽温度を上げる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のCO2分離回収装置によれば、COシフト反応器内の触媒槽温度がその上下限を逸脱しても、元の安定運転状態に速やかに復帰することができる。
【0023】
また、本発明のCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラントによれば、さらにそのうえでプラント全体としての効率向上をはかることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】COシフト反応器11の周辺の配管系統図を示す図。
【図2】CO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラントの構成を示す図。
【図3】COシフト反応器制御の制御方式を決定する考え方を示す図。
【図4】水蒸気量を制御するタービン抽気弁制御を示す図。
【図5】COシフト反応器の入口と出口にある温度調節弁の制御を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【実施例】
【0026】
COをCO2に転化するCOシフト反応器の適用事例として、ここでは図2のCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラントの構成を示している。
【0027】
図2のプラントは、蒸気タービンとガスタービンを用いたコンバインドサイクルプラントCCと、微粉炭をガス化し、このコンバインドサイクルプラントCCのガスタービン燃焼器に燃料ガスとして与える石炭ガス化プラントGCと、ガス化プラントの排出するCOをCO2分離回収するCO2分離回収装置CCSが組み合わされている。
【0028】
なお、通常石炭ガス化複合発電プラントというときには、コンバインドサイクルプラントCCと石炭ガス化プラントGCとを組み合わせたプラント部分のことであり、図1の装置全体としてはCO2分離回収装置CCSを備えた石炭ガス化複合発電プラントということができる。COをCO2に転化するCOシフト反応器は、CO2分離回収装置CCSの主要な構成機器である。以下、CO2分離回収装置CCSを備えた石炭ガス化複合発電プラントを構成する各プラント、装置について、順を追って説明する。
【0029】
図2において、まず、蒸気タービンとガスタービンを用いたコンバインドサイクルプラントCCについて説明する。図示のコンバインドサイクルプラントCCでは、ガスタービンGTと、蒸気タービンSTと、圧縮機23と、発電機Gが同一回転軸上に設置され、ガスタービンGTと蒸気タービンSTが原動機となり、負荷である圧縮機23と発電機Gを駆動する。
【0030】
このうち、ガスタービンGT側は、圧縮機23に大気導入して圧縮空気を得、燃焼器22において後述する石炭ガス化プラントGCからの燃料ガスFと燃焼させ、この燃焼エネルギーでガスタービンGTが回転する。なお、燃焼器22には石炭ガス化プラントGC側から窒素も供給されているが、これは燃焼器22での燃焼温度を低減させることにより、高温燃焼により発生する窒素酸化物NOXを低減する目的で使用されている。
【0031】
このようにして仕事をしたガスタービンGTの排気30は、まだ十分に大きな熱エネルギーを有しているので、蒸気タービンST側において、更なる熱回収を図る。具体的には、排熱回収ボイラ26において、ガスタービン排気30と復水器27からの復水31の熱交換により、蒸気32を得、蒸気タービンSTを駆動する。排熱回収ボイラ26で熱回収後の排気33は煙突29から大気放出される。なお、蒸気タービンSTで仕事をした後の蒸気は復水器27で水に戻され、排熱回収ボイラ26に復水として供給されることで、循環利用される。
【0032】
次に、微粉炭をガス化し、このコンバインドサイクルプラントCCのガスタービン燃焼器22に燃料ガスFとして与える石炭ガス化プラントGCについて説明する。石炭ガス化プラントGCは、ガス化炉4を中心に構成されるが、ここでは微粉炭を高濃度酸素で燃焼させることにより、最終的に燃料ガスFを得る。
【0033】
このうち、ガス化炉4で使用する高濃度酸素は、先に説明したコンバインドサイクルプラントCCのガスタービンGTからの高温、高圧の排気30を、さらに空気圧縮機1で圧縮し、空気圧縮機1を通過した圧縮空気を精留塔2に与えて、酸素と窒素に分離して求める。分離された酸素は、高濃度酸素としてガス化炉4へ送り、他方窒素はガス化炉4とガスタービン燃焼器22へ送られる。
【0034】
ガス化炉4では、スラリータンク3内の微粉炭を、精留塔2で分離した酸素を用いて混合燃焼させる。このとき以下の(1)(2)式の化学反応が生じ、一酸化炭素COとエンタルピHを発生する。なお、ガス化炉4での微粉炭燃焼により発生したスラグ5は、別途排出される。
【0035】
[数1]
C+1/2O2→2CO+ΔH(29.4kJ/mol) …(1)
【0036】
[数2]
C+H2O→CO+H2+ΔH(−38.2kJ/mol) …(2)
その後、燃焼ガスはフィルタ6に導かれて不純物チャー7と分離され、クーラー8にてガスタービン21へ送る燃料ガスFと硫黄分を含む混合ガスDに分離される。なお、不純物チャー7は、ガス化炉4に戻される。
【0037】
このようにして、ガス化炉4での微粉炭燃焼により得られた燃料ガスFは、先に説明したコンバインドサイクルプラントCCのガスタービンGTの燃焼器22に与えられて、燃料として有効利用される。
【0038】
他方、ガス化炉4での微粉炭燃焼では、硫黄分を含む混合ガスDも得られており、この混合ガスDは、最後に、石炭ガス化プラントGCの排出するCOをCO2に分離して回収するCO2分離回収装置CCSで、有効利用されるので、このことについて説明する。
【0039】
硫黄分を含む混合ガスDの主成分はCOSであり、まずCOS変喚器9において、COSをH2Sへ転化し、さらに硫黄分SとCO2+H2へ分離する。
【0040】
他方、蒸気タービンSTで仕事を行い復水器27から得られる水蒸気が、ポンプ28を通じてCOS変喚器9の出口流体と混合され、ヒータ10で加熱され、COシフト反応器11に導かれる。このとき、ヒータ10により加熱された混合ガス(CO+H2+H2O)により、COシフト反応器11内では(3)式の化学反応が生じている。
【0041】
[数3]
CO+H2O→CO2+H2+H2O+ΔH(40.9kJ/mol)…(3)
その後、CO2は吸収塔13、再生塔14、蒸留塔16を経てCO2回収される。他方、吸収塔13で生じた水素H2は、ガスタービンGTの燃焼器22に送られて燃料となり、水H2Oは回収されて、例えば蒸気タービンST系統内で再利用される。
【0042】
ここで、CO2分離回収装置CCSにおけるCOシフト反応器11内で生じる式(3)は、触媒を用いたCOシフト反応であって、エンタルピーΔH(40.9kJ/mol)の発熱反応である。このため、その発熱により触媒能を低下させる原因になるので、COシフト反応を有効に高効率に機能させるためには、この温度制御は不可欠である。
【0043】
また、本反応によってCO2転化率が決定され、蒸留塔16を経て得られるCO2回収率に影響する。COシフト反応はCOとH2Oの1対1の等モル反応であって、COはガス化炉から生成され、H2Oは蒸気タービンSTから抽気生成される。従って、これらの組成比を反応進行中にオンライン分析できれば、より高いCO2転化率と反応進行を促進させる温度制御が可能となる。
【0044】
本発明においては、COシフト反応器11内で生じるこれら諸量の間の制御、調整を以下のように実施する。
【0045】
図1に、COシフト反応器11の周辺の配管系統図を示す。この図において、COシフト反応器11は、COS変喚器9から、ヒータ10、反応器入口温度調節弁40を介してCO2+H2を、導入している。また、反応器入口温度調節弁34の前段には、蒸気タービンSTからの抽気が抽気調整弁41を介して導入されている。さらにヒータ10の前段には、図2に図示したポンプ28からの復水蒸気が導かれている。また、COシフト反応器11の出口側には、反応器出口温度調節弁34が設置される。
【0046】
なお、反応器11には、いずれもH2Oを含む復水と抽気が導入されることになるが、これは以下のように使い分けられている。先に説明したようにポンプ28からの復水蒸気は、COS変喚器9の出口流体と混合され、ヒータ10で加熱された混合ガス(CO+H2+H2O)となり、COシフト反応器11内での(3)式の化学反応を生じせしめる。これに対し、蒸気タービンSTからの抽気は、COシフト反応がCOとH2Oの1対1の等モル反応であることから、等モル反応による微妙な温度調整に貢献させる。つまり、COシフト反応器11内での大まかな、基本部分での化学反応はポンプ28からの復水蒸気が担当し、等モル反応による微妙な温度調整を蒸気タービンSTからの抽気が担当している。
【0047】
図1において、100はCOシフト反応制御装置であり、COシフト反応器11の前後配管に設けた反応器入口温度調節弁40、抽気調整弁41、反応器出口温度調節弁42を制御操作端として調整する。また、この調整のためにCOシフト反応器11の前後と内部に温度検出器50,51,52を設け、それぞれ反応器入口流体温度、反応器内触媒温度、反応器出口温度を検出する。更に本発明では、反応器11の前後にガス組成分析器(オンラインガスクロ)60,61を設置して、COとH2Oの組成を検知している。
【0048】
このように本発明においては、COシフト反応器11の入口と出口にオンラインガスクロ60,61を設置することで、常に反応中の(3)式に示すガス組成を分析する。また、触媒槽温度を温度検出器52で検出することで触媒阻害因子である温度も監視制御可能となる。
【0049】
図3に、オンラインガスクロ組成解析をベースとして実現するCOシフト反応器制御の制御方式決定チャートを示す。ここでは、COシフト反応器内の状態と、石炭ガス化複合発電プラントの運転状態とを総合的に判断したときに、今何をなすべきかを決定するための考え方を説明する。
【0050】
本発明により行うCOシフト反応器11内の反応(COシフト反応)は、COとH2Oの1対1の等モル反応である。そのため、ボックスB100において、反応器入口のオンラインガスクロ60によりCO濃度(ppm)とH2O濃度(ppm)を計測し、各々のモル量を算出する。この結果として、COシフト反応器11の入口混合ガス組成が、COリッチガスもしくはH2Oガスリッチであるかが判定できる。
【0051】
その結果、COシフト反応器11の入口混合ガス組成がH2Oリッチガスの場合には、ボックスB200に示した判断経緯により、最終的には蒸気タービン負荷フォロー制御C1を実行すればよい。ここで、ボックスB200の判断経緯とは、「H2Oリッチガスの場合には、COをCO2に転化するH2Oガス量は必要以上に存在するので、タービン抽気弁41を閉制御し、タービンからの蒸気抽気量を減少させるべきである。このときには、抽気量が減少することで、主蒸気圧力が増加し発電効率も向上する」というものである。この運転モードは、タービン負荷フォロー制御C1である。このように、H2Oリッチガスの場合には、オンラインガスクロを用いてガス組成を分析することで、プラント負荷運用に見合ったCOシフト反応条件の確立が可能となる。
【0052】
これに対し、COリッチガスの場合には、他の条件も考慮する必要がある。ボックスB300では、他の条件として実負荷と設定負荷の大小関係を考慮する。ここでの判断は、「COリッチガスならば、等モル反応なのでCOモル量に見合うH2Oガスモル量が必要となってくる。つまり、より多くの抽気量を導入すればよい。しかしながら、H2Oの供給源はタービンの抽気弁であるので、プラント負荷運用に大きく影響を及ぼす。そこで、負荷運用に影響を与える範囲か否かによって以後の対応を変更する」というものである。具体的には、負荷設定値に対して実負荷の偏差を算出し、プラント出力の余裕値を判定する。
【0053】
この判定の結果、その偏差が負荷変動許容範囲内であれば、ボックスB400の判断によりCOシフト反応フォロー制御C2を選択実行する。ここで、ボックスB400の判断経緯とは、「COリッチガスかつプラント出力の余裕値ありの場合には、H2Oガス量が不足しているので、タービン抽気弁41を開制御し、タービンからの蒸気抽気量を増加させてよい。このときには、CO2転化率が増加する」というものである。この運転モードは、COシフト反応フォロー制御C2である。
【0054】
またこの判定の結果、その偏差が負荷変動許容範囲を超過しているときには、ボックスB500の判断により蒸気タービン負荷フォロー制御C1を選択実行する。ここで、ボックス500の判断経緯とは、「COリッチガス、かつプラント出力の余裕値なしの場合には、H2Oガス量が不足しているが、蒸気タービン負荷の余裕値不足を優先に考えて、タービン抽気弁41を閉制御し、タービンからの蒸気抽気量を減少させる。このときには、CO2転化率が減少する」というものである。この運転モードは、蒸気タービン負荷フォロー制御C1である。なお、この場合には、COリッチガスの状態が継続し、このままでは改善されないが止むを得ないものとされる。プラント出力に余裕値が出た場合に、改めてボックスB400の経緯で改善されることになる。
【0055】
本発明においては、図3の判断により、蒸気タービン負荷フォロー制御C1とCOシフト反応フォロー制御C2のいずれかを選択して、各制御操作端である反応器入口温度調節弁40、抽気調整弁41、反応器出口温度調節弁42を調整する。
【0056】
次に、以上の観点から実施される抽気調整弁41の制御について説明する。図4に、COシフト反応に添加する水蒸気量を制御するタービン抽気弁制御図を示す。図4において、DIV1とDIV2は、除算回路であり、反応器11の前段に設置したガス組成分析器(オンラインガスクロ)60の出力から、COモル量XとH2Oモル量Yをモル算出し、減算器SUB1においてその差分を求める。差分からCOリッチ判断回路UCKと、H2Oリッチ判断回路LCKにおいて、それぞれガス状態を判別し、COリッチの場合にはアンド回路ANDに、H2Oリッチの場合にはオア回路ORに信号印加される。
【0057】
アンド回路ANDのもう一方の入力端子には、負荷制限器LLの出力が与えられている。負荷制限器LLの入力には、負荷設定値と実負荷の差(除算器SUB2)が与えられており、プラントに余裕度があるときに出力される。
【0058】
このアンド回路ANDの出力は、COリッチかつプラントに余裕度ありのときに出力されることになり、オア回路OR経由で抽気調整弁41の調節器PIに与えられる。調節器PIは、そのX端子に減算器SUB1の偏差信号が目標値として印加され、かつ調節器PI後段の関数発生器FGの出力を端子Zに帰還して抽気調整弁41の開度制御を実行する。関数発生器FGは、その入力が大きいほど抽気調整弁41の開度を開くように調整するので、プラントに余裕度がある限り、COリッチを改善すべくタービン抽気を供給する。このときの動作は、図3のブロックB400に基づくCOシフト反応フォロー制御C2である。
【0059】
なお、この制御はプラントに余裕度が無くなるか、あるいはCOリッチが改善された状態で中止される。プラントに余裕度が無くなったときには、アンド回路AND出力がなくなるので、調節器PIは、その入力に関わりなく抽気調整弁41を閉じてしまい、抽気供給を停止する。このときの動作は、図3のブロックB500に基づく蒸気タービン負荷フォロー制御C1である。なお、このときに抽気調整弁41を閉じてしまわずに、制御としては生かしたまま抽気量を最小限に制限するような制御とすることも可能である。
【0060】
最後に、H2Oリッチの場合にはオア回路ORに信号印加されて、調節器PIによる抽気調整弁41の制御が実行される。但し、このときには調節器PIの入力端子Xに減算器SUB1から与えられている信号の極性は、COリッチのときとは逆極性なので、抽気調整弁41は閉められる方向(抽気を減少させる方向)に制御されることになる。このときの動作は、図3のブロックB200に基づく蒸気タービン負荷フォロー制御C1である。
【0061】
以上、図3の各場面における抽気調整弁41の制御について説明したが、係る制御の結果として図1のCOシフト反応器11に流入する流量が大きく変動し、かつCOシフト反応器11内の温度も変化するので、図4の抽気調整弁41の制御と同時に、図5の反応器入口温度調節弁40と出口温度調節弁42を温度制御の観点から制御する。
【0062】
まず、ここでの温度制御の考え方を説明する。COシフト反応器11でのCOシフト反応は、発熱反応である。その温度エネルギーが触媒に阻害因子をもたらす。このため、最適な触媒槽温度を保つ必要がある。本発明では、COシフト反応器11の入口と出口にある温度調節弁40,42を用いて、触媒槽温度を最適温度に保持すべく制御する。
【0063】
触媒槽温度を最適化するのに、以下の温度条件を考慮する。
【0064】
[数4]
温度A[kJ/mol]×反応物[mol]<温度B[kJ]<温度C[kJ]…(4)
但し、
温度A:触媒反応必要最低温度エネルギー[kJ/mol]
温度B:触媒槽温度エネルギー[kJ]
温度C:触媒反応阻害温度エネルギー[kJ]
反応物:CO、H2Oのモル量[mol]
である。
【0065】
温度Aは、触媒反応が最低限進行できる温度エネルギーである。このエネルギー量は反応物量((式3)COとH2Oのモル量)に依存する。
【0066】
温度Bは反応器11から検出される実測温度エネルギーであって、絶対値である。
【0067】
温度Cは、触媒反応が阻害される温度エネルギーである。(4)式に示す温度Bの温度量が常に保持されることが、COシフト反応を最適に進行させる条件となる。
【0068】
以上の関係を満たすべく、本発明においては図5の制御ロジックに従って、COシフト反応器11の入口と出口にある温度調節弁40,42を制御する。この制御に当り、先に説明した3組の温度A,B,Cのうち、温度A,Cが予め設定されている。温度Bは、触媒槽に設置した温度計測器51からの実測値である。
【0069】
まず、反応器11の入り口に設けられるガスクロ60の出力から除算器DIV3においてCOモル量Xが求められ、乗算器MLTにおいて温度Aと乗算されることにより、反応器11内のCOに必要な触媒反応必要最低温度エネルギーの総量(KJ)が求められる。減算器SUB3は、乗算器MLTからの触媒反応必要最低温度エネルギーの総量(KJ)と、触媒槽温度エネルギー[kJ]Bの差分を求め、かつ不足判定器UCK1において、不足(触媒槽温度エネルギー[kJ]Bが触媒反応必要最低温度エネルギーの総量(KJ)よりも少ない)とされたときに、オア回路OR経由で温度調節弁40,42の調節器PI2による制御を実行する。
【0070】
また、オア回路ORのもう1つの成立条件がある。減算器SUB4では、触媒反応阻害温度エネルギーCと触媒槽温度エネルギーBの減算を実行しており、かつ超過判定器LCK1において、超過(触媒槽温度エネルギーBが触媒反応阻害温度エネルギーCよりも大きい)とされたときに、オア回路OR経由で温度調節弁40,42の調節器PI2による制御を実行する。
【0071】
オア回路ORが成立する前者の条件では、触媒槽は加熱される必要があり、後者の条件では触媒槽は冷却されねばならない。
【0072】
具体的には、触媒反応必要最低温度エネルギー[kJ/mol]と触媒槽温度エネルギー[kJ]に差分があって、触媒槽温度の上昇が必要な場合は、入口温度調節弁40を開制御すると同時に、出口温度調節弁42を閉制御し、反応器内を加圧状態として、触媒槽温度を上げる。
【0073】
また、触媒槽温度エネルギー[kJ]が触媒反応阻害温度エネルギー[kJ]を上回って、触媒槽温度を減少しなければならない場合は、入口温度調節弁40を開制御すると同時に、出口温度調節弁42を開制御して、反応器内を減圧状態として触媒槽温度を下げる。この制御方式によって、反応器内に滞留するガス組成に見合った触媒槽温度制御が可能となる。
【0074】
なお、制御量切替器Uは、調節器PI2の入力端子Xに与える設定値を、状況に応じて切り替えるものであり、オア回路ORが不足判定器UCK1側で成立しているとき、減算器SUB3の出力を設定信号とし、オア回路ORが超過判定器LCK1側で成立しているとき、減算器SUB4の出力を設定信号として調節器PI2に印加して入口温度調節弁40と出口温度調節弁42を制御する。
【0075】
また、入口温度調節弁40と出口温度調節弁42は、同じ調節器PI2で駆動され、あるときは同じ方向に開閉制御され、あるときには一方が開放、他方が閉成とされる。この操作方向の切り替えについては、図5に図示していないが、不足判定器UCK1と超過判定器LCK1のどちらで操作許可条件が成立しているかを勘案し、適宜入口温度調節弁40と出口温度調節弁42の開閉方向を変更するための極性反転回路を設けることで容易に実現できることであるので、ここでは具体的実現手法の説明を省略する。
【0076】
本発明のCO2分離回収装置におけるCOシフト反応に添加する水蒸気量を制御するタービン抽気弁制御、CO2分離回収装置におけるCOシフト反応器温度制御を用いれば、CO2分離回収装置におけるCOシフト反応器制御方式最適化が実現可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
CO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラントでは、効率と環境の両面から本発明の適用が望まれる。
【符号の説明】
【0078】
1:空気圧縮機
2:精留塔
3:スラリータンク
4:ガス化炉
5:スラグ
6:フィルタ
7:不純物チャー
8:クーラー
9:COS変喚器
10:ヒータ
11:COシフト反応器
13:吸収塔
14:再生塔
16:蒸留塔
22:燃焼器
23:圧縮機
29:煙突
30:ガスタービン排気
26:排熱回収ボイラ
28:ポンプ
27:復水器
31:復水
32:蒸気
GT:ガスタービン
ST:蒸気タービン
G:発電機
F:燃料ガス
D:硫黄分を含む混合ガス
DIV:除算回路
60,62:ガス組成分析器(オンラインガスクロ)
SUB:減算器SUB
UCK:COリッチ判断回路
LCK:H2Oリッチ判断回路
AND:アンド回路
OR:オア回路
LL:負荷制限器
41:抽気調整弁
PI:調節器
FG:関数発生器
C2:COシフト反応フォロー制御
C1:蒸気タービン負荷フォロー制御

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CO2とH2を主成分とするガスを導入して、COとH2OとするCOシフト反応器を備えたCO2分離回収装置において、
前記COシフト反応器の入り口側に設けられた入口弁と、前記COシフト反応器の出口側に設けられた出口弁と、前記入口弁の前段に高温蒸気を与えるための蒸気制御弁と、前記COシフト反応器に流入する流体のガス組成を検知するガス組成分析器とを備え、
前記ガス組成分析器の分析結果から求めたCOとH2Oのモル量差により前記蒸気制御弁を制御し、
前記COシフト反応器の触媒槽温度からCOシフト反応器の入口弁と、出口弁を制御することを特徴とするCO2分離回収装置。
【請求項2】
請求項1記載のCO2分離回収装置において、
前記COシフト反応器の触媒槽温度で定まるエネルギーが、その上下限エネルギーを逸脱するときにCOシフト反応器の入口弁と、出口弁を制御することを特徴とするCO2分離回収装置。
【請求項3】
請求項2記載のCO2分離回収装置において、
前記ガス組成分析器の分析結果から求めたCOモル量と、触媒反応必要温度エネルギーから前記COシフト反応器内の触媒反応必要温度エネルギー総量を求め、前記触媒槽温度で定まるエネルギーが、前記触媒反応必要温度エネルギー総量を下回るときに、入口弁を開制御すると同時に、出口弁を閉制御し、前記COシフト反応器内を加圧状態として、触媒槽温度を上げることを特徴とするCO2分離回収装置。
【請求項4】
請求項2記載のCO2分離回収装置において、
前記触媒槽温度で定まるエネルギーが、触媒反応阻害温度エネルギーを上回るときに入口弁を開制御すると同時に、出口弁を開制御して、反応器内を減圧状態として、触媒槽温度を下げることを特徴とするCO2分離回収装置。
【請求項5】
請求項2記載のCO2分離回収装置において、
前記ガス組成分析器の分析結果から求めたCOモル量と、触媒反応必要温度エネルギーから前記COシフト反応器内の触媒反応必要温度エネルギー総量を求め、前記触媒槽温度で定まるエネルギーが、前記触媒反応必要温度エネルギー総量を下回るときに、入口弁を開制御すると同時に、出口弁を閉制御し、前記COシフト反応器内を加圧状態として、触媒槽温度を上げ、
前記触媒槽温度で定まるエネルギーが、触媒反応阻害温度エネルギーを上回るときに入口弁を開制御すると同時に、出口弁を開制御して、反応器内を減圧状態として、触媒槽温度を下げることを特徴とするCO2分離回収装置。
【請求項6】
蒸気タービンとガスタービンを用いたコンバインドサイクルプラントと、微粉炭をガス化し、前記コンバインドサイクルプラントのガスタービン燃焼器に燃料ガスとして与える石炭ガス化プラントと、石炭ガス化プラントの排出するCO2とH2を主成分とするガスを導入してCOとH2OとするCOシフト反応器を備えたCO2分離回収装置から構成された、CO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラントにおいて、
前記COシフト反応器の石炭ガス化プラント側に設けられた入口弁と、前記COシフト反応器の出口側に設けられた出口弁と、前記入口弁の前段に前記蒸気タービンからの抽気を与えるための抽気制御弁と、前記COシフト反応器に流入する流体のガス組成を検知するガス組成分析器とを備え、
前記ガス組成分析器の分析結果から求めたCOとH2Oのモル量差により前記抽気制御弁を制御し、
前記COシフト反応器の触媒層温度からCOシフト反応器の入口弁と、出口弁を制御することを特徴とするCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラント。
【請求項7】
請求項6記載のCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラントにおいて、
前記ガス組成分析器の分析結果が、COリッチであり、かつプラント負荷に余裕があるときに前記タービン抽気を増加する方向に抽気制御弁を制御することを特徴とするCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラント。
【請求項8】
請求項7記載のCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラントにおいて、
前記ガス組成分析器の分析結果が、H2Oリッチであるとき、前記タービン抽気を減少する方向に抽気制御弁を制御することを特徴とするCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラント。
【請求項9】
請求項7記載のCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラントにおいて、
前記ガス組成分析器の分析結果が、COリッチであり、かつプラント負荷に余裕がないときに前記タービン抽気を減少する方向に抽気制御弁を制御することを特徴とするCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラント。
【請求項10】
請求項7記載のCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラントにおいて、
前記COシフト反応器の触媒槽温度で定まるエネルギーが、その上下限エネルギーを逸脱するときにCOシフト反応器の入口弁と、出口弁を制御することを特徴とするCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラント。
【請求項11】
請求項7記載のCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラントにおいて、
前記ガス組成分析器の分析結果から求めたCOモル量と、触媒反応必要温度エネルギーから前記COシフト反応器内の触媒反応必要温度エネルギー総量を求め、前記触媒槽温度で定まるエネルギーが、前記触媒反応必要温度エネルギー総量を下回るときに、入口弁を開制御すると同時に、出口弁を閉制御し、前記COシフト反応器内を加圧状態として、触媒槽温度を上げることを特徴とするCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラント。
【請求項12】
請求項7記載のCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラントにおいて、
前記触媒槽温度で定まるエネルギーが、触媒反応阻害温度エネルギーを上回るときに入口弁を開制御すると同時に、出口弁を開制御して、反応器内を減圧状態として、触媒槽温度を下げることを特徴とするCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラント。
【請求項13】
請求項7記載のCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラントにおいて、
前記ガス組成分析器の分析結果から求めたCOモル量と、触媒反応必要温度エネルギーから前記COシフト反応器内の触媒反応必要温度エネルギー総量を求め、前記触媒槽温度で定まるエネルギーが、前記触媒反応必要温度エネルギー総量を下回るときに、入口弁を開制御すると同時に、出口弁を閉制御し、前記COシフト反応器内を加圧状態として、触媒槽温度を上げ、
前記触媒槽温度で定まるエネルギーが、触媒反応阻害温度エネルギーを上回るときに入口弁を開制御すると同時に、出口弁を開制御して、反応器内を減圧状態として、触媒槽温度を下げることを特徴とするCO2分離回収装置を備えた石炭ガス化複合発電プラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−76970(P2012−76970A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225474(P2010−225474)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】