説明

CTLA−4のシグナル発生に伴うTリンパ球ダウンレギュレーションの遮断

【課題】抗原刺激に対するT細胞反応のアップレギュレーションのための方法および組成物を提供する。
【解決手段】抗原に対する反応におけるT細胞活性化は、CTLA−4によるシグナル発生を遮断する結合因子の投与によって高められる。CTLA−4シグナル発生がこのようにして遮断されるとき、抗原に対するT細胞反応は抑制から開放される。このように高められた反応は、腫瘍、慢性ウイルス感染の治療に、さらに免疫時のアジュバントとして有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アメリカ予防衛生研究所により付与されたコントラクトNo.CA40041およびNo.CA09179に基づき政府の支援を受けて達成された。合衆国政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
免疫療法の実施はヒトの疾患治療では極めて望ましい目標である。通常の薬剤を用いる場合にはほとんど認められない作用の特異性が免疫療法では期待することができる。免疫療法の基本は免疫反応、特にT細胞の反応を操作することである。T細胞は、それらの相互作用を制御し、さらにその進行のために多くのレセプターおよび可溶性因子を利用する複雑で巧妙なシステムを有する。個々のシグナルが免疫反応において有する効果は、関与するこれら因子、レセプターおよび対立レセプターに応じて変化するであろう。
【0003】
ダウンレギュレーション反応の経路は、活性化のために必要とされる経路と同じように重要である。T細胞寛容を生じる胸腺感作は、特定の抗原に対する免疫反応を防止する一メカニズムである。他のメカニズム、例えば抑圧性サイトカインの分泌もまた知られている。
【0004】
T細胞の活性化には、抗原レセプター(TCR)を介した刺激だけでなく、同時刺激性表面分子(例えばCD28)を介した別のシグナル発生が必要である。CD28に対するリガンドはB7−1(CD80)およびB72(CD86)蛋白で、これらは抗原表出細胞(例えば樹状突起細胞、活性化B細胞または単球)で発現される。B7とCD28との間の相互作用はいくつかの同時剌激性シグナル発生経路の1つであり、抗原特異的T細胞の成熟と増殖の引き金となるために必要にして十分であると思われている。
【0005】
同時剌激の欠如(および随伴する不適切なIL−2産生)はその後に続くT細胞増殖を妨げ、“アネルギー”と称される無反応状態を誘発する。これは、IL−2遺伝子転写の遮断および応答T細胞のIL−2に対する反応の欠如と密接な関係を有する。アネルギーはIL−2刺激の引き延ばしによって克服できるかもしれない。種々のウイルスおよび腫瘍は直接的または間接的手段によるT細胞活性化および増殖を遮断し、それによって感染細胞また形質転換細胞に対するホスト免疫系の不十分な反応または無反応状態を誘発する可能性がある。多くのT細胞機能障害の中で、とりわけアネルギーは少なくとも部分的にはホストの病原細胞除去不全に起因するものかもしれない。
【0006】
感染および腫瘍の治療において、同時剌激に必要なレセプターの操作によって強力な細胞性免疫反応を活性化できるとしたら都合のよいことであろう。
抗腫瘍免疫を仲介する場合にB7蛋白を使用することが報告されている(Chenら、Cell 71:1093-1102(1992); Townsend &Allison,Science 259:368(1993))。シュバルツ(Schwartz,Cell 71:1065(1992))は、IL−2産生におけるCD28、CTLA−4およびB7の役割並びに免疫療法について概説した。ハーディングら(Hardingら、Nature 356:607-609(1994))は、CD28仲介シグナル発生はネズミT細胞を同時刺激し、T細胞コロニーでのアネルギー誘発を防止することを示した。
【0007】
CTLA−4は、初めはネズミの細胞溶解性T細胞のcDNAライブラリーを弁別的にスクリーニングすることによって特定されたT細胞表面分子である (Brunetら、Nature 328:267-270(1987))。B7の第二のレセプターとしてのCTLA−4の役割はリンスリーら(Linsleyら、J.Exp.Med.174:561-569(1991))の報告で考察されている。フリーマンら(Freemanら、Science 262:907-909(1993))はB7欠陥マウスのCTLA−4について考察している。CTLA−4のリガンドはレンショウら(Lenschowら、PNAS 90:11054-11058(1993))が報告している。
【0008】
CTLA−4の可溶形によるインビボでの免疫抑制についてはリンスリーら(Linsleyら、Science 257:792-795(1992))が報告している。レンショウら(Lenschowら、Science 257:789-792(1992))は、CTLA−4Igによって誘発された膵島移植片の長期生存について考察している。ウォルナスら(Walunasら、Immunity 1:405-413(1994))は、CTLA−4はT細胞活性化で負の調節因子として機能することができると提唱した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の要旨
CTLA−4のシグナル発生の遮断によりT細胞活性化を増強させる方法および組成物を提供する。特異的にCTLA−4抗原と相互作用するが、シグナル発生は活性化しない結合分子(遮断剤)はインビトロまたはインビボでT細胞と結合する。この遮断剤はまた免疫反応刺激因子(例えばサイトカインおよび抗原)とも結合することができる。このようにCTLA−4のシグナル発生が遮断されたとき、抗原に対するT細胞の反応は抑制から開放される。そのような反応強化は腫瘍、慢性ウイルス感染の治療に有用で、さらに免疫時のアジュバントとして有益である。本発明の特徴の1つでは、この遮断剤は、CTLA−4の細胞外ドメインまたはそのフラグメントに対する抗体以外のものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ヌクレオチドおよびアミノ酸配列の参照データベース
ヒトCTLA−4の完全なcDNA配列のGenbank 受託番号はL15006である。アミノ酸1−37の領域はリーダーペプチドで、38−61は細胞外V様ドメインで、162−187はトランスメンブレンドメインで、188−223は細胞質ドメインである。これらヌクレオチド配列の変種が報告され、49位のGからAの塩基転移、272位のCからTの塩基転移、および439位のAからGの塩基転移が含まれる。マウスCTLA−4の完全なDNA配列のEMBL受託番号はXO5719(Brunetら、Nature 328:267-270(1987))である。アミノ酸1−35の領域はリーダーペプチドである。
ヒトB7−1(CD80)の完全なDNA配列のGenbank受託番号はX60958である。マウスの当該配列の受託番号はX60958で、ラット配列のそれはU05593である。ヒトB7−2(CD86)の完全なcDNA配列のGenbank受託番号はL25259で、マウスの当該配列の受託番号はL25606である。
CD28をコードする遺伝子の性状は詳しく調べられた。ニワトリのmRNA配列のGenbank受託番号はX67915である。ラットのmRNA配列のGenbank受託番号はX55288である。ヒトのmRNA配列のGenbank 受託番号はJ02988である。マウスのmRNA配列のGenbank受託番号はM34536である。
【0011】
発明の詳細な説明
抗原刺激に対するT細胞反応のアップレギュレーションのための方法および組成物を提供する。特異的に細胞表面CTLA−4と相互作用するがCTLA−4のシグナル発生は活性化しない結合分子(遮断剤)はT細胞と結合する。抗原に対するT細胞の反応は遮断剤の存在下で増強される。そのような処置は、腫瘍および慢性の病原体感染に対する特異的な免疫反応の増強、並びに免疫時のアジュバントとして有益である。
【0012】
本発明の実施にはその作用メカニズムの理解は必ずしも必要ではない。結果は、本治療によってT細胞はCTLA−4によって仲介される抑制シグナルから開放されることを示している。CTLA−4仲介シグナルは、明らかに細胞周期の進行およびIL−2発現を抑制する。抗原および同時刺激性CD28シグナル発生に対するT細胞の反応はしたがってCTLA−4遮断剤の存在下でアップレギュレーションを示す。本方法は非剌激T細胞の普遍的増殖は促進しない。
【0013】
本方法は、意図した抗原剌激に対して不適切なT細胞仲介反応が存在する場合に有益である。インビトロのT細胞仲介反応には細胞溶解性T細胞の産生および大半の抗体反応(特に免疫グロブリンのアイソタイプのクラス切り換えに含まれるもの)が含まれる。抗原剌激とは、感染細胞上のウイルス抗原の存在;自然には存在しない蛋白もしくは蛋白の組合せを発現する腫瘍細胞;寄生虫もしくは細菌感染;または免疫付与(例えばワクチン接種、単クローン性抗体の調製)であてもよい。インビトロでは、本方法は抗原に対する培養T細胞の反応の強化に用いられる。そのような活性化T細胞は、養子免疫療法、活性化メカニズムの研究、薬剤スクリーニングなどで有益である。
【0014】
CTLA−4遮断剤は、CTLA−4蛋白の細胞外ドメインに特異的に結合してCTLA−4とその対立レセプター(例えばCD80、CD86など)との結合を遮断する分子である。遮断剤の結合親和性は、通常少なくとも約100μMであろう。遮断剤は、CTLA−4関連分子(例えばCD28および免疫グロブリン上科の他のもの)とは実質的に反応しないであろう。例えばCD80およびCD86のような分子はしたがって遮断剤としては除外される。さらに、遮断剤はCTLA−4によるシグナル発生を活性化しない。好都合なことに、これは一価または二価の結合分子によって達成できる。異なる分子間における交叉反応性および競合に関する以下の考察は同一の種に由来する分子を指すことは当業者には理解されよう。例えば、ヒトCTLA−4はヒトCD80および86と結合する。
【0015】
候補遮断剤はこの基準に適合するか否かについてその能力をスクリーニングされる。結合親和性および特異性を決定するアッセイは当技術分野では既知であり、それらには競合アッセイおよび非競合アッセイが含まれる。重要なアッセイにはELISA、RIA、フローサイトメトリーなどが含まれる。結合アッセイでは精製もしくは半精製CTLA−4蛋白を用いることができる。また別には、CTLA−4を発現するT細胞(例えばCTLA−4発現構築物を核酸感染させた細胞);CD3およびCD28の架橋により刺激したT細胞;照射異種細胞の添加などを利用することができる。結合アッセイの例としては、精製CTLA−4蛋白を不溶性支持体(例えばマイクロタイタープレート、磁性ビーズなど)に結合させる。候補遮断剤および標識した可溶性CD80またはCD86を該細胞に添加し、続いて未結合成分を洗い流す。結合した標識CD80またはCD86を定量することによって、CTLA−4結合に対してCD80およびCD86と競合する遮断剤の能力を決定する。遮断剤がCD28と交叉反応しないという確認は、CTLA−4をCD28で置き換えた同様なアッセイを用いて実施できる。適切な分子ではCD28との結合はCTLA−4との結合よりも少なくとも約103、より通常は少なくとも104低い。
【0016】
一般に、可溶性の一価または二価の結合分子はCTLA−4のシグナル発生を活性化しないであろう。T細胞活性化を検出する機能アッセイを確認に用いてもよい。例えば、候補遮断剤の存在下または非存在下でCD80またはCD86を発現している異種照射細胞でT細胞集団を刺激することができる。増殖および細胞周期の進行、IL−2の遊離、CD25およびCD69のアップレギュレーションなどによって測定したとき、CTLA−4シグナル発生を遮断する物質はT細胞活性化の増強をもたらすであろう。細胞表面での発現、リポゾーム中への封入、粒子もしくは陥没孔(ウェル)への吸着などは分子の有効価数を増加させるであろう。
【0017】
遮断剤は、ペプチド、小型の有機分子、ペプチド模倣体、可溶性T細胞レセプター、抗体などである。抗体は好ましい遮断剤である。抗体は、多クローン性または単クローン性であるか;完全形または短縮形(例えばF(ab')2、Fab、Fv)であるか;異種、同種異系、同種またはそれらの修飾形(例えばヒト化、キメラ化など)でもよい。
多くの場合、遮断剤はオリゴペプチド(例えば抗体またはそのフラグメントなど)であろうが、比較的高い特異性および親和性を提供する他の分子もまた用いることができる。組合せ式ライブラリー(combinatory library)は必要な結合特性を有する、オリゴペプチド以外の複合体を提供する。一般に、親和性は少なくとも約10-6、より通常は約10-8M(すなわち特異的単クローン性抗体で通常観察される結合親和性)であろう。
【0018】
多くのスクリーニングアッセイが遮断剤のために利用できる。そのようなアッセイの構成成分には典型的にはCTLA−4蛋白が含まれ、場合によってはCTLA−4活性化因子(例えばCD80、CD86など)が含まれる。アッセイ混合物はまた候補薬剤を含むであろう。一般に、種々の濃度に対する弁別的反応を得るために異なる薬剤濃度を含む複数のアッセイ混合物を平行して用いる。典型的には、これらの濃度の1つは陰性コントロール(すなわち濃度0または検出レベル未満の濃度)として使用される。
【0019】
好都合なことに、これらのアッセイでは分子のうちの1つまたは2つ以上が標識に結合され、該標識は直接または間接的に検出可能なシグナルを提供する。種々の標識には放射性同位元素、蛍光、化学発光、酵素、特異的結合分子、粒子(例えば磁性粒子)などが含まれる。特異的結合分子には対形成物質、例えばビオチンとストレプトアビジン、ジゴキシンとアンチジゴキシンなどが含まれる。特異的結合分子類の場合、通常は補足成分が検出手段の分子で既知の方法にしたがって標識される。
【0020】
重要なスクリーニングアッセイの1つは対立レセプターによるCTLA−4の活性化に干渉する物質に向けられる。活性化の定量は当技術分野で既知の多くの方法によって達成されてもよい。例えば、T細胞活性化の抑制は細胞増殖、サイトカインの遊離などを定量することによって決定されてもよい。
【0021】
重要な他のアッセイは、その対立レセプターとCTLA−4との結合を遮断する物質に向けられる。このアッセイ混合物は、天然の対立レセプターの少なくとも一部分、または特異的結合を可能にする十分な配列類似性を共有するオリゴペプチドおよび候補薬剤を含む。このオリゴペプチドの長さは、アッセイの条件および要求に従ういずれの長さでもよいが、通常は少なくとも8アミノ酸から完全な長さの蛋白またはその融合物である。CTLA−4は不溶性基材と結合させてもよい。該基材は多様な素材を用いて多様な形状に作製してもよい(例えばマイクロタイタープレート、マイクロビーズ、浸漬棒、樹脂粒子など)。基材は、バックグラウンドを最少にし、ノイズ比に対してシグナルを最大にするために選択される。結合は当技術分野で既知の種々の方法によって定量してもよい。結合が平衡に達するために十分な時間保温した後、不溶性支持体を洗浄して残存標識を定量する。結合を妨害する薬剤の場合には検出される標識が減少するであろう。
【0022】
候補薬剤は多様な化学薬品類を包含するが、典型的にはそれらは有機分子であり、好ましくは小型の有機化合物で、50ダルトン以上で約2500ダルトン未満の分子量を有する。候補薬剤は、蛋白との構造的相互作用に必要な官能基、特に水素結合を含み、さらに典型的には少なくともアミン、カルボニル、ヒドロキシル、スルフヒドリルまたはカルボキシル基、好ましくはこれら機能的化学基の少なくとも2つを含む。候補薬剤は、しばしば環状炭素または複素環構造および/または芳香族もしくは多環性芳香族構造を含み、これらは上記の官能基の1つまたは2つ以上で置換されている。候補薬剤はまた生物学的分子にも見出され、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、それらの誘導体、構造類似体またはそれらの組合せを含む。
【0023】
候補薬剤は、合成または天然化合物ライブラリーを含む多様な起源から得られる。例えば、任意抽出オリゴヌクレオチドの発現を含む、広範囲の有機化合物および生物分子のランダム合成および誘導合成のための種々の手段を用いることができる。また別には、細菌、真菌、植物および動物抽出物の形態をとる天然化合物ライブラリーは入手可能であり、また容易に作製できる。さらに、天然または合成により製造されるライブラリーおよび化合物は、通常の化学的、物理的および生化学的手段によって容易に改変できる。構造的類似体を作製するために、既知の医薬物質を特異的または任意の化学的修飾、例えばアシル化、アルキル化、エステル化、アミド付加に付すことができる。
【0024】
多様な他の試薬をスクリーニングアッセイに包含させることができる。これらには塩、中性蛋白(例えばアルブミン)、洗剤などの試薬が含まれるが、これらは最適な蛋白−DNA結合を促進し、および/または非特異的もしくはバックグラウンド反応を減少させるために用いることができる。これとは別にアッセイの効率を改善する試薬、例えばプロテアーゼ抑制物質、ヌクレアーゼ抑制物質、抗菌剤なども用いることができる。
【0025】
遮断剤として用いられる適切な抗体は、ホストの動物をCTLA−4蛋白全体またはその一部分を含むペプチドで免疫して得られる。適切なホスト動物にはマウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、ハムスター、ウサギなどが含まれる。免疫原蛋白の由来は、マウス、ヒト、ラット、サルなどであってもよい。ホスト動物は一般に免疫原以外の異なる種で、例えばハムスターの免疫にはマウスCTLA−4、マウスの免疫にはヒトCTLA−4が用いられる。ヒトおよびマウスCTLA−4は高度に保存された部分を細胞外ドメインに含んでいる(Harperら、J.Immunol.147:1037-1044(1991))。そのように高度に保存された領域に由来するペプチドは交差特異的(cross-specific)抗体を作製するために免疫原として用いてもよい。
【0026】
免疫原は完全な蛋白またはそのフラグメントおよびその誘導体を含むことができる。好ましい免疫原は、ヒトCTLA−4の細胞外ドメイン(アミノ酸残基38−161)の全部または一部分を含むが、これらの残基は、天然のCTLA−4で見出される翻訳後修飾(例えば糖付加)を含む。細胞外ドメインを含む免疫原は、当技術分野で既知の多様な方法、例えば、通常の組換え方法を用いたクローン化遺伝子の発現、高レベルのCTLA−4を発現している分別細胞集団、T細胞の分離などにより作製される。
【0027】
組換えまたは修飾蛋白の発現を所望する場合、所望のCTLA−4部分をコードするベクターが用いられる。一般に発現ベクターは、CTLA−4分子の細胞外ドメインが核酸感染細胞表面に存在するように、また別には該細胞外ドメインが細胞から分泌されるようにデザインされる。細胞外ドメインを分泌させる場合は、分泌を可能にする配列(シグナルペプチドを含む)と細胞外ドメインのコード配列をフレームに従って融合させる。シグナルペプチドは外来性のものであっても、天然のものであってもよい。免疫のために重要な融合蛋白は、CTLA−4の細胞外ドメインが免疫グロブリンの定常領域に連結されている。例えば、ヒトCg1(ヒンジ−CH2−CH3)ドメインのヒンジ領域に連結されたマウスCTLA−4の細胞外ドメインを含む融合蛋白はハムスターの免疫に用いることができる。
【0028】
細胞表面にCTLA−4を発現させる場合は、細胞外ドメインを膜内に固定するペプチドをコードする配列およびシグナル配列と細胞外ドメインのコード配列をフレームに従って融合させる。そのようなアンカー配列には天然のCTLA−4トランスメンブレンドメイン、または他の細胞の表面蛋白(例えばCD4、CD8、sIgなど)由来のトランスメンブレンドメインが含まれる。マウスの免疫にヒトCTLA−4遺伝子で核酸感染させたマウス細胞を用い、ヒトCTLA−4蛋白に特異的な抗体を作製してもよい。
【0029】
単クローン性抗体は通常の技術によって製造する。一般に、免疫したホスト動物の脾臓および/またはリンパ節はプラズマ細胞源を提供する。プラズマ細胞をミエローマ細胞と融合させハイブリドーマを作製することによって永続させる。個々のハイブリドーマから得た培養上清を標準的技術でスクリーニングし、所望の特異性を有する抗体を産生するハイブリドーマを特定する。ヒト蛋白に対する単クローン性抗体の作製に適した動物にはマウス、ラット、ハムスターなどが含まれる。マウス蛋白に対する抗体を作製する動物は一般にハムスター、モルモット、ウサギなどであろう。抗体はハイブリドーマ細胞上清または腹水から通常の技術、例えば不溶性支持体、蛋白Aセファロースなどに結合させたCTLA−4を用いた親和性クロマトグラフィーによって精製されてもよい。
【0030】
抗体は通常の多重構造物ではなく単一鎖として作製されてもよい。単一鎖抗体についてはジョストら(Jostら、J.B.C.269:26267-73(1994))および他の研究者が報告している。重鎖の可変領域および軽鎖の可変領域をコードするDNA配列を小型の中性アミノ酸(グリシンおよび/またはセリン)の少なくとも4つをコードするスペーサーに連結する。この融合によってコードされる蛋白は、本来の抗体の特性と親和性を保持する機能的可変領域の組み立て集合を可能にする。
【0031】
インビボで使用する場合(特にヒトに注射する場合)、遮断剤の抗原性を減少させることが好ましい。受容者の遮断剤に対する免疫応答は、治療が有効な期間を減少させる可能性が高い。抗体をヒト化させる方法は当技術分野で知られている。ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリンの定常領域遺伝子を導入された動物の生成物でもよい(例えば国際特許出願WO90/10077およびWO90/04036号参照)。また別の重要な抗体は、CH1、CH2、CH3、ヒンジドメインおよび/または対応するヒト配列を有するフレームワークドメインを置換するために組換えDNA技術で操作することができる(国際特許出願WO92/02190号参照)。
【0032】
キメラ免疫グロブリン遺伝子を構築するためにIgcDNAを使用することは当技術分野で既知である(Liuら、P.N.A.S.84:3439(1987)およびJ.Immunol.139:3521(1987))。mRNAをハイブリドーマまたは抗体を産生している他の細胞から分離し、cDNAを作製するために用いる。問題のcDNAは特定のプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応によって増幅できる(米国特許第4683195および4683202 号)。また別には、ライブラリーを作製し、問題の配列を分離するためにスクリーニングする。続いて抗体の可変領域をコードするDNA配列をヒトの定常領域の配列に融合させる。ヒトの定常領域の配列は文献に記載されている(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest(免疫学的に重要な蛋白質の配列)、NIH刊行物 91-3242号)。ヒトのC領域遺伝子は既知のクローンから容易に入手できる。アイソタイプは所望のエフェクター機能(例えば補体の固定)または抗体依存細胞性細胞毒性における活性によって選択されるであろう。好ましいアイソタイプはIgG1、IgG3およびIgG4である。ヒト軽鎖定常領域、カッパまたはラムダのいずれかを用いることができる。このヒト化キメラ抗体を続いて通常の方法によって発現させる。
【0033】
完全な蛋白の切断、例えばプロテアーゼまたは化学的切断によって、抗体フラグメント(例えばFv、F(ab')2およびFab)を調製することができる。また別には短縮遺伝子が所望される。例えば、F(ab')2フラグメントの一部分をコードするキメラ遺伝子は、CH1ドメインおよびH鎖のヒンジ領域をコードするDNA配列、それに続く翻訳終止コドンを含み、短縮分子を生じるであろう。
【0034】
ヒトC領域セグメントにV領域をその後で連結できるようにJ領域に有用な制限部位を導入するためにプライマーとして使用するオリゴヌクレオチドを作製するべく、HおよびLJ領域のコンセンサス配列を用いてもよい。C領域のcDNAは、位置特異的変異によって修飾してヒト配列内の類似の場所に制限部位を配置することができる。
【0035】
発現ベクターにはプラスミド、レトロウイルス、YAC、EBV由来エピソームなどが含まれる。好都合なベクターは、機能的に完全なヒトCHまたはCL免疫グロブリン配列をコードし、いずれかのVHまたはVL配列が容易に挿入され発現されるように操作された適切な制限部位を有するベクターである。そのようなベクターでは、スプライシングは通常は、挿入されたJ領域内のスプライスドナー部位とヒトC領域に先行するスプライスアクセプター部位との間で生じるか、さらにヒトCHエクソン内で発生するスプライス領域でも生じる。ポリアデニル化および転写終了は、該コード領域の下流の本来の染色体部位で生じる。得られたキメラ抗体は強力ないずれかのプロモーターと結合させてもよい。強力なプロモーターはレトロウイルスLTR(例えばSV−40初期プロモーター(Okayamaら、Mol.Cell Biol.3:280(1983))、ラウス肉腫ウイルスLTR(Gormanら、P.N.A.S.79:677(1982))およびモロニーネズミ白血病ウイルスLTR(Grosschedlら、Cell 41:885(1985)))、天然のIgプロモーターなどを含む。
【0036】
CTLA−4遮断剤は単独または免疫反応剌激剤と組み合わせて用いることができる。本明細書で用いられるように、“免疫反応刺激剤”とは、CTLA−4遮断剤と組み合わされて直接または間接的に免疫反応を剌激する一切の作用物質を指す。例えば、免疫反応刺激剤にはサイトカインの他に腫瘍抗原および病原体由来抗原を含む種々の抗原が含まれる。さらに、免疫反応剌激剤は、サイトカイン形質導入腫瘍細胞(例えばGMCSFを形質導入した腫瘍細胞)の他に照射腫瘍細胞および/または化学療法剤の生体外もしくは生体内処置腫瘍細胞を含む。幾つかの事例では、既に死んだ腫瘍細胞または死につつある腫瘍細胞から生じる細胞性残屑は、生体内または生体外でCTLA−4遮断剤と組み合わされて免疫反応刺激をもたらす。化学療法剤の使用は、間接的手段による免疫反応刺激剤産生の例である。生体外または生体内で腫瘍細胞を照射するためにその供給源を使用することもまた、免疫反応刺激剤を間接的に産生する方法を構成する。実施例9から実施例12は、CTLA−4遮断剤と合わせて用いた場合に免疫反応刺激剤が腫瘍治療に顕著な効果を有することを示している。
【0037】
CTLA−4遮断剤とともに化学療法剤を使用する根拠は以下の通りである。実施例で示すように、CTLA−4遮断は成長した腫瘍でより強く機能し、照射腫瘍の免疫原性を高める。この事は、CTLA−4遮断を癌治療のより通常的な方法と組み合わせて相乗効果を生み出すことができることを示唆している。例えば、CTLA−4遮断は化学療法剤の処置後まもなく開始することができる。化学療法剤の用量は、相当量の腫瘍集団を殺し、CTLA−4遮断の結果としてT細胞による免疫反応を刺激する作用物質として作用する残屑を生じるレベルに調整する。CTLA−4により促進された免疫反応が残存する腫瘍集団を排除するので、最大の腫瘍細胞の死を得るために現在用いられている用量よりもはるかに低いレベルで化学療法剤を投与することが可能になる。これによって、通常の化学療法の適用に付随するしばしば激烈な副作用(免疫抑制を含む)を最小限に止めることができる。同様なことが放射線療法にも言える。化学療法剤の用量または照射線量は、CTLA−4遮断剤と併用する場合は通常使用される用量の好ましくは2−20%、より好ましくは5−10%である。
【0038】
CTLA−4遮断剤がCTLA−4の細胞外ドメインに対する抗体またはそのフラグメント(例えばFab')以外のものである場合は、そのような遮断剤は独立して、すなわち免疫反応刺激剤を併用することなく用いることができる。しかしながら、CTLA−4遮断剤、特にCTLA−4の細胞外部分に対する抗体から成るものを、1つまたは2つ以上の免疫反応刺激剤と併用して用いるのが好ましい。CTLA−4遮断剤はまた、間接的に免疫反応刺激剤を産生する照射および/または化学療法と合わせて用いることができる。そのような併用ではCTLA−4遮断剤と免疫反応刺激剤の同時使用または連続使用が必要で、さらに異なる部位で実施できる。例えば、腫瘍に直接照射した後、CTLA−4遮断剤は腫瘍から離れた部位に投与できる。また別には、CTLA−4遮断剤の使用に続いて化学療法剤を局所的または全身的に用いて腫瘍を治療することができる。
【0039】
抗原に対するホストのT細胞反応が不完全であることを特徴とする状況は、慢性感染症、腫瘍、ペプチドワクチンによる免疫などを含む。そのようなホストへの本CTLA−4遮断剤の投与は活性化T細胞の表現型を特異的に変化させ、抗原仲介活性化に対する反応を高める。霊長類、より具体的にはヒトの治療は重要であるが、他の哺乳類、特に家畜(例えばブタ、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ネズミ、ウサギ)もまた治療の恩恵を受けてもよい。
【0040】
製剤は、抗原剌激に対するT細胞の反応の増強に有効な用量で投与される。活性化されたT細胞の反応は、休止T細胞よりもはるかに強く本治療によって影響を受ける。T細胞反応の測定は処置される条件にしたがって変動するであろう。有用なT細胞活性測定は、増殖、サイトカイン(例えばIL−2、IFNg、TNFa)の遊離、T細胞のマーカー(例えばCD25およびCD69)発現、および当技術分野で知られているような他のT細胞活性測定である。
【0041】
本治療は、抗原表出細胞を刺激するサイトカイン、例えば顆粒球−マクロファージコロニー剌激因子(GM−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン12(IL−12)などと併用して実施できる。T細胞増殖およびT細胞分泌を強化することが知られているまた別の蛋白および/またはサイトカイン、例えばIL−1、IL−2、B7、抗CD3および抗CD28もまた遮断剤と同時にまたは引き続いて用いて免疫反応を高めることができる。本治療は、種々のサイトカインまたは細胞表面レセプターをコードする遺伝子の腫瘍細胞または腫瘍浸潤リンパ球への核酸感染と併用することができる(Ogasawaraら、Cancer Res.53:3561-8(1993);Townsendら、Science 259:368-370(1993)参照)。例えば、CD80をコードするcDNAを腫瘍細胞に核酸感染させることによって核酸感染腫瘍細胞の拒絶がもたらされ、核酸感染されていない元の腫瘍細胞によるその後の攻撃に対して免疫を誘発することができることが示された(Townsendら、Cancer Res.54:6477-6483(1994))。
【0042】
ホストの腫瘍特異T細胞を本遮断剤および腫瘍抗原とともに生体外で混合し、再度患者に注入することができる。ホストに投与されたとき、この刺激細胞は腫瘍死反応を誘発して腫瘍の退縮をもたらす。ホスト細胞は種々の供給源、例えばリンパ節(例えば鼠径部、腸間膜、表層末梢補助リンパ節など)、骨髄、脾臓または末梢血液から分離でき、また腫瘍、例えば腫瘍浸潤リンパ球からも分離できる。細胞は同種異系または好ましくは自己由来であってもよい。生体外刺激の場合は、ホスト細胞を無菌的に取り出し、当技術分野で既知の適切な培養液に浮遊させる。細胞を遮断剤とともに種々のプロトコル(特にB7、抗CD28と混合)のいずれかによって刺激する。結合剤、充填剤、担体、保存料、安定剤、乳化剤および緩衝剤のような添加物を含む種々の医薬組成物とともに刺激した細胞を注射(例えば静脈内、腹腔内など)によってホストに再度導入する。適切な希釈剤および賦形剤は水、食塩水、ブドウ糖などである。
【0043】
本遮断剤の投与によってその増殖が減少する腫瘍細胞は癌腫、例えば腺癌(これらは乳房、卵巣、子宮内膜、子宮頚管、大腸、肺、膵、食道、前立腺、小腸、直腸、子宮または胃に原発腫瘍部位を有していてもよい)、および扁平上皮癌(これらは肺、口腔、舌、喉頭、食道、皮膚、膀胱、子宮頚管、瞼、結膜、膣などに原発部位を有していてもよい)を含む。処置できる他の種類の腫瘍は肉腫(例えば筋原性肉腫)、神経腫、メラノーマ、白血病、ある種のリンパ腫、栄養膜性および胚細胞腫瘍、神経内分泌性および神経外胚葉性腫瘍を含む。
【0044】
特に重要な腫瘍は腫瘍特異抗原を表出している腫瘍である。そのような抗原は異常な状態で(通常は高レベルで)表出されているか、または変異形であろう。腫瘍抗原は本遮断剤とともに投与され、該腫瘍細胞に対するホストT細胞の反応を高めることができる。そのような抗原調製物は精製蛋白または腫瘍細胞由来の溶解物を含む。
【0045】
腫瘍抗原の例はサイトカイン、特に癌腫の抗原としてはサイトケラチン8、18および19である。上皮性膜抗原(EMA)、ヒト胎児抗原(HEA−125)、母乳脂肪球、MBr1、MBr8、Ber−EP4、17−1A、C26およびT16もまた既知の癌腫抗原である。デスミンおよび筋特異的アクチンは筋原性肉腫の抗原である。胎盤性アルカリホスファターゼ、β−ヒト絨毛膜性腺剌激ホルモンおよびα−フェトプロテインは栄養膜性および胚細胞腫瘍の抗原である。前立腺特異抗原は、前立腺癌の抗原、大腸腺癌の癌胎児性抗原である。HMB−45はメラノーマの抗原である。クロマグラニン−Aおよびシナプトフィシンは神経内分泌性および神経外胚葉性腫瘍の抗原である。特に重要なものは、壊死領域を有する固形腫瘍塊を形成する侵襲性腫瘍である。そのような壊死細胞の溶解は抗原表出細胞のための豊富な抗原供給源である。
【0046】
本遮断剤の投与はある種のリンパ腫については禁忌であろう。特にT細胞リンパ腫は活性化の増強によって利益を受けないであろう。ホジキン氏病のリード・スタンバーグ細胞でCD80抗原は強く発現され、この細胞をしばしばCD28発現T細胞が取り巻いている(Delabieら、Blood 82:2845-52(1993))。リード・スタンバーグ細胞の補助的機能はT細胞の活性化をもたらしてホジキン氏病症候群をもたらすと言われている。
多くの慣用的な癌療法、例えば化学療法および放射線療法はリンパ球の増殖を激しく減少させる。本療法はこの免疫抑制をある程度緩和することができるが、併用治療の好ましい工程では、そのようなリンパ球毒性治療が本療法の前後で用いられるであろう。
【0047】
本遮断剤は、病原体へのT細胞の反応を高めるために投与できる。ホストの抗ウイルスメカニズムが不完全である場合ある種のウイルス感染は慢性になる。そのような感染は何年も、または感染者の生涯にわたって持続し、しばしば重篤な疾患を引き起こす。高い罹患率と早期の死亡を伴う慢性感染症は2種のヒト肝炎ウイルス(B型肝炎(HBV)およびC型肝炎(HCV))によるものを含み、これらは慢性肝炎、肝硬変および肝癌を引き起こす。他のヒト慢性ウイルス感染は、ヒトレトロウイルス、エイズを惹起するヒト免疫不全ウイルス(HIV−1およびHIV−2)並びに、T細胞白血病およびミエロパシーを惹起するヒトTリンパ向性ウイルス(HTLV−1およびHTLV−2)によるものである。単純ヘルペスウイルス(HSV)1型および2型、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)、水痘−帯状疱疹ウイルス(VZV)およびヒトヘルペスウイルス6(HHV−6)を含むヒトヘルペスウイルスによる感染は通常ホストのメカニズムニよっては根絶できない。細胞内で増殖する他の病原体(例えば病原性原生動物(例:トリパノソーマ、マラリアおよびトキソプラズマ)、細菌(例:マイコバクテリウム、サルモネラおよびリステリア)および真菌(例:カンジダ))による感染もまた、ホストの防御メカニズムがそれらを排除できないときに慢性になるであろう。
【0048】
本遮断剤はそのような病原体の慢性感染をもつ患者に投与される。免疫反応を高めるために、遮断剤は該病原体とともに製剤化するのが望ましいであろう。そのような種々の抗原は当技術分野で既知で、該病原体の分離または組換え技術による発現によって入手可能である。例にはHIVgp120、HBV表面抗原、ウイルスのエンベロープおよびコート蛋白などが含まれる。
【0049】
アジュバントは抗原に対する免疫反応を高める。CTLA−4遮断剤は、T細胞活性化を高め、さらに抗体産生細胞のクラス切り換えを高めてそれによって当該免疫原に対する反応で産生されるIgGクラスの抗体濃度をぞうかさせるためにアジュバントとして用いられる。遮断剤は、アジュバントを用いる場合の慣用的な技術にしたがって、生理学的に許容可能な媒体中で免疫原と混合される。免疫原は単一製剤として遮断剤と混合してもよいが、また別々に投与してもよい。免疫原には多糖類、蛋白、蛋白フラグメント、ハプテンなどが含まれる。特に重要なものはペプチド免疫原と使用するものである。ペプチド免疫原には、上記で述べた腫瘍抗原およびウイルス抗原またはそのフラグメントが含まれる。
【0050】
また重要なものは、遺伝子による免疫と合わせて本遮断剤を使用するものである。問題のペプチドまたは蛋白抗原をコードするDNA発現ベクターをホスト動物の一般に筋肉または皮膚に注射する。遺伝子生成物は正確に糖付加され、折り畳まれてホスト細胞によって発現される。この方法は、抗原が所望の純度、量または正確に糖付加された形態で得ることが困難であるか、または遺伝子配列が既知である場合(例えばHCV)においてのみ有利である。典型的には、DNAは筋肉内に注射するか、または“遺伝子銃”と称される粒子放出装置によって金に被覆した微粒子を皮膚内に送り込む。遺伝子免疫は特異的な液性免疫反応の誘発だけでなく、癌、マイコプラズマ、TB、マラリアおよび多くのウイルス感染(インフルエンザおよびHIVを含む)の動物モデルにおいてより広範囲に反応する細胞性免疫をも誘発することを示した。例えば以下の論文を参照されたい(Morら、J.Immunol.155:2039-46(1995);Xu & Liew,Immunol.84:173-6(1995);Davisら、Vaccine 12:1503-9(1994))。
【0051】
本遮断剤は、単クローン性抗体産生のために実験動物(例えばマウス、ラット、ハムスター、ウサギなど)を免疫するときに用いられる。この投与によって抗原に対する反応レベルは増加し、さらにクラス切り換えを受けるプラズマ細胞の割合が増加する。
CTLA−4遮断剤は培養T細胞の活性化を高めるためにインビトロで投与される。培養T細胞には一切のインビトロ細胞培養系、例えば永代化細胞株、混合または精製細胞集団、非形質転換細胞の初代培養などが含まれる。特に重要なものは初代T細胞培養で、この場合細胞は患者または同種異系ドナーから取り出され、生体外で剌激され再び患者に注入される。
【0052】
種々の投与方法を用いることができる。CTLA−4遮断製剤は血管内、皮下、腹腔内に注射できる。治療用製剤の用量は、疾患の性状、投与頻度、投与態様、投与目的、ホストから薬剤が除去される時間などによって大きく変動するであろう。投与量は既知の因子、例えば特定の製剤の薬理学的消長、投与の態様およびルート、受容者の年令、健康状態および体重、症状の性状および程度、同時に行われる処置、治療頻度並びに所望される効果にしたがって変動するであろう。投与は1週間に1回または2週間に1回の低い頻度で実施されるか、またはより少ない用量に分割して有効な用量レベルを維持するために毎日もしくは1週間に2回投与してもよい。一般に、活性成分の1日の用量は約0.1から100mg/kg体重であろう。体内投与に適した投与形は、一般に1単位当たり約0.1mgから500mgの活性成分を含む。活性成分は全組成物重量に対して0.5から95重量%であろう。
【0053】
いくつかの事例では、過剰なT細胞増殖のために治療期間を限定するのが望ましい。期間は、治療に対する患者の反応、患者のT細胞数などにしたがって経験的に決定される。患者のT細胞の数は当技術分野で既知の方法によってモニターされるが、これらの方法にはT細胞特異的抗体による染色およびフローサイトメトリーが含まれる。
【0054】
本TCLA−4遮断剤は、医薬的に許容できる担体(例えば通常の食塩水、植物油、鉱物油、PBSなど)中に有効量を有する製剤として調製される。治療用調製物は、生理学的に許容できる液体、ゲルもしくは固形担体、希釈剤、アジュバントおよび賦形剤を含む。添加物には殺菌剤、等張性を維持する添加物(例えばNaCl)、マンニトール、化学安定剤(例えば緩衝剤)および保存料などが含まれてもよい。CTLA−4遮断剤はカクテルとしてまたは単剤として用いることができる。非経口投与のためには、遮断剤は溶液、懸濁剤、乳濁剤、または医薬的に許容可能な注射用賦形剤を添えた凍結乾燥粉末として製剤化できる。リポゾームまたは非水性賦形剤(例えば不揮発性油)もまた用いることができる。製剤は当技術分野で既知の方法によって滅菌される。
【0055】
CTLA−4遮断剤の機能効果は、本発明で認められた細胞内シグナル発生における変化を模倣する他の薬剤の投与によってもまた誘発されてもよい。例えば、特定の細胞質キナーゼは細胞外レセプターの結合に反応して活性化できることが知られている。このキナーゼ活性を遮断する薬剤は、遮断レセプター結合と同様な生理学的効果を有するであろう。同様に、サイクリックAMP、GTP濃度および細胞内カルシウムレベルを増加させる薬剤は、細胞外レセブター結合で認められるものと類似する生理学的効果を生じるであろう。
【0056】
以下の実施例は説明のために提供され、制限を目的として提供されるものではない。
実験
実施例1
マウスCTLA−4と反応する単クローン性抗体の作製
a)マウスCTLA−4免疫原の調製
マウスCTLA−4の細胞外部分およびヒトIgG1の定常領域を含む融合蛋白(mCTLA4−Hg1と称する)をレーン博士およびカリャレーネン博士(P.Lane & K.Karjalainen,Base Institute for Immunology,バーゼル、スイス)から入手した。mCTLA4−Hg1蛋白を発現することができる発現ベクターを報告にしたがって構築した(Laneら、Immunol.80:56(1993))。簡単に記せば、マウスCTLA−4分子の細胞外部分をコードする配列をPCRを用いて作製した。マウスCTLA−4配列を含むプラスミドからCTLA−4配列を増幅させるために以下のプライマーを用いた:5'-TTACTCTACTCCCTGAGGAGCTCAGCACATTTGCC-3'(配列番号:1)および5'-TATACTTACCAGAATCCGGGCATGGTTCTGGATCA-3'(配列番号:2)。続いてこの増幅CTLA−4配列を発現ベクターに挿入する。発現ベクターは問題の遺伝子をヒトIgG1蛋白のヒンジ、CH2およびCH3ドメインをコードする配列の上流に挿入できるベクターである(Trauneckerら、Trends Biotech.9:109(1991))。各プライマーは、ヒトIgG1発現ベクターでのサブクローニングのために適切な制限部位を含み、さらにスプライスによって正確なヒトg1エクソンを得るために3'プライマー内に3'スプライスドナー部位を含む。mCTLA4−Hg1融合蛋白をコードする配列を含むプラスミドをpHβ-APr-1-neo-mCTLA4-Hg1と称した。mCTLA4−Hg1蛋白のアミノ酸配列は配列番号:3に挙げた。
【0057】
mCTLA4−Hg1蛋白を発現させるために、pHβ-APr-1-neo-mCTLA4-Hg1発現ベクターをマウスの形質細胞腫株、J558Lに標準的なプロトプラスト融合技術を用いて核酸感染させた(J558LはJ558細胞株と同一で、後者はATCCから入手できる[ATCC TIB6])。J558L細胞を5×104細胞/mlで培養した。核酸感染させたJ558L細胞をキサンチン(Sigma )およびミコフェノール酸(Calbiochem,ラホイヤ、CA)を含む培地(選択培地)で続いて選別した。選択培地を核酸感染後24時間用い、2週間してから陽性クローン(すなわち選択培地で増殖するクローン)をスクリーニングした。融合タンパクを分泌するクローンをヒトIgG1についてELISAを用いて特定した。良好な分泌クローンを特定し、クローン15と命名した。クローン15の細胞を代謝的に〔35S〕メチオニンで標識し、分泌蛋白を蛋白Aで免疫沈澱させて沈澱した蛋白をSDSポリアクリルアミドゲルで解離させた。mCTLA4−Hg1蛋白は、還元状態では約60000MWの単量体として、さらに非還元状態では二量体としてSDS−PAGEゲル上を移動することが分かった。
【0058】
蛋白A−セファロース(Zymed,サウスサンフランシスコ、CA)カラムでクローン番号の細胞上清を親和性クロマトグラフィーで精製してmCTLA4−Hg1蛋白の精製調製物を得た。簡単に記せば、mCTLA4−Hg1蛋白を発現しているJ558L細胞を5%FCS、グルタミン、2MEおよび抗生物質を補充したIMDMで増殖させた。培養上清を細胞から採集し、1500×gで遠心して一切の残存細胞を除去し、清澄な上清をポアサイズが0.4ミクロンのフィルターに通した。濾過上清を1NのNaOHを用いてpH8.5に調節し、続いてこの上清を2m1/分の流速で2ml(集積容積)の蛋白A−セファロースカラムに流した。J558L細胞株は、蛋白Gに結合するまた別の免疫グロブリン(すなわちマウスCTLAIgの他に)を産生し、したがって核酸感染J558L細胞からmCTLA4−Hg1蛋白を精製するために蛋白G樹脂を使用することは推奨できない。
【0059】
蛋白Aカラムを20から30カラム容積のPBSで洗浄し、融合蛋白を50mMのジエチルアミン(pH11.0)で溶出させた。2mlの分画を0.2mlの1Mトリス−HClを含む試験管に採集してサンプルのpHを中和させた。280nmでの吸収を求め、各分画の蛋白濃度を調べるために用いた。蛋白を含む分画を合わせ、PBS(1リットル/回、2から3回交換)に対して一晩透析した。mCTLA4−Hg1蛋白の存在はSDS−PAGEで確認した。SDS−PAGEは約40kD(融合蛋白の予想分子量)のバンドを示した。さらに、精製mCTLA4−Hg1蛋白は、抗ヒトIgG1抗体(HP6058;HP6058抗体の供給源としてHP6058ハイブリドーマ(ATCC CRL1786)を用いた)を用いてELISAで調べた。
【0060】
b)ハムスターの免疫
マウスCTLA−4融合蛋白でハムスターを免疫するために、精製mCTLA4−Hg1蛋白(以後CTLA−4Igという)を用いて加熱殺菌した黄色ブドウ球菌(StaphA)菌体(Calbiochem,ラホイヤ、CA)を被覆した。0.2mlのPBSに浮遊させた約100μgのCTLA−4Igで被覆した加熱殺菌StaphA菌50μl(集積容積)を6週齢のゴールデンシリアンハムスター(Harlan Sprague Dawley,インジアナポリス、IN)の足裏に注射した。StaphA菌体は以下のように被覆した。
【0061】
StaphA菌体を製造元のプロトコルにしたがって食塩水(0.9%NaCl)中で10%(w/v)の濃度に調製した。この菌体スラリーの1mlを1400×gで遠心して菌を沈澱させ、上清を除去した。PBS中に約100μgの精製CTLA−4Igを含む1ml溶液を前記沈殿物に加え、混合物を攪拌しながら37℃で2時間保温した。続いて細菌を上記のように遠心して沈澱させ、沈殿物を1回当たり1mlのPBSで2回洗浄した。続いてCTLA−4Ig被覆菌体を約200μlのPBS中に再懸濁させ、この調製物の50μ1を足裏に注射した。
【0062】
ハムスター1匹につき合計5回注射を施した。最後の追加免疫の日の注射前に、実験動物管理室(0ffice of Laboratory Animal Care)(カリフォルニア大学、バークレー校)の職員による眼内採血によって約100μlの血清を得た。この血清を最初の注射前に同一の方法によって得た血清と分析比較した。
CTLA−4Ig結合ELISAを用いて、免疫後採血血液中のCTLA−4Ig融合蛋白を認識する抗体の存在を証明した。CTLA−4Ig結合ELISAは以下のように実施した。CTLA−4Ig融合蛋白またはCD4Ig融合蛋白を用いて、96ウェルの改変平底ELISAプレート(Corning,コーニング、NY)のウェルを被覆した。
【0063】
CD4Igは、マウスCD4の細胞外ドメイン並びにヒトIgG1のヒンジ、CH2およびCH3ドメインから成る融合蛋白である(Trauneckerら、上掲書)。CD4Ig蛋白はELISAアッセイで陰性コントロールとして用いた。CD4Ig融合蛋白は核酸感染J558細胞から調製し、上記(a)でmCTLA4-Hg1(すなわちCTLA−4Ig)融合蛋白について述べたように蛋白Aセファロースで親和性クロマトグラフィーによって精製した。
【0064】
0.4%ゼラチンを含むPBS中に1μg/mlの濃度の融合蛋白50μlをウェルに加えた。プレートを37℃で2−3時間保温して蛋白を吸着させた。続いてプレートを0.05%トゥイーン20を含む0.9%NaClの150μlを用いて3回洗浄した。さらにウェル中の残存する蛋白結合部位を0.4%ゼラチンを含むPBS(遮断緩衝液)を用いて37℃で30分遮断し、遮断工程に続いてプレートを0.05%トゥイーン20を含む0.9%NaClで2回洗浄した。抗CTLA−4抗体(すなわち免疫ハムスター由来血清、精製抗体または培養上清)を含む溶液50μlを3組ずつウェルに添加し、37℃で2−3時間プレートを保温した。免疫ハムスターの血清中に存在する抗CTLA−4抗体の量を調べるために、免疫後の最初の採血血液を1:1000から1:100の範囲の希釈(0.4%ゼラチン含有PBSで希釈)を用いて調べた。
【0065】
続いてウェルを0.05%トゥイーン20含有0.9%NaClの50μlで3回洗浄した。セイヨウワサビペルオキシダーゼ(CalTag、サウスサフランシスコ、CA)結合ヤギ抗ハムスターIgG多クローン性血清を遮断緩衝液中に1μg/mlの濃度で含む溶液50μlをウェルに添加し、プレートを37℃で1時間保温した。続いてプレートを0.05%トゥイーン20含有0.9%NaClで4回洗浄した。ABTS〔2,2'−アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)〕をクエン酸緩衝液(0.1Mクエン酸(pH4.35))中に0.55mg/mlで含有する溶液を加え、プレートを37℃で約20分保温した。続いてプレートをバイオテック(BioTech)プレート読み取り装置を用いて405nmで読み取り(Beckman Instruments,パロアルト、CA)、緑色の反応生成物の吸収を調べた。
【0066】
CTLA−4Ig結合ELISAの結果によって、免疫後採血血液の1000倍希釈(免疫前血液を用いた場合、バックグラウンドが検出される希釈よりも高い希釈)でCTLA4−Ig融合蛋白を認識する抗体が存在することが明らかになった。
【0067】
c)抗マウスCTLA−4抗体を分泌するハイブリドーマ株の分離
最後の注射後3日して流入領域リンパ節をハムスターから取り出した。後肢の液体を排出する膝下リンパ節からリンパ球を分離した。以下のように分離したリンパ節から細胞浮遊液を作製した。10%FCS(BioWhittaker,ウォーカースビル、MD)補充RPMI培養液(GibcoBRL,Gaithersburg,MD)を入れた組織培養皿(Falcon Plastics,マウンテンビュー、CA)に切断したリンパ節を静置した。つや消しを施したガラススライドでリンパ節を穏やかに磨り潰してリンパ球をリンパ節から遊離させた。リンパ球浮遊液は血球計算盤を用いて計測した。
【0068】
免疫ハムスターから分離したリンパ球を融合細胞の片方(P3X3.Ag8.653(ATCCCRL1580))と融合させた。P3X3.Ag8.653細胞は、融合前に3日に1度20%FCS(ウシ胎児血清、BioWhittaker,ウォーカースビル、MD)、50μMの2−ME、50μMのゲンタマイシンを含むIMDM(カリフォルニア大学、サンフランシスコ組織培養施設)中で1:20に希釈した。
ミエローマ株との融合には標準的なポリエチレングリコール融合技術を用いた(Mckearnら、Immunol.Rev.47:91(1979))。簡単に記せば、無菌的なリンパ球細胞浮遊液を血清を含まないイスコフの改変ダルベッコー培養液(Iscove's Modified Dulbecco's Media(IMDM))で調製した。リンパ球を2回IMDMで洗浄し、濃度を12.5×106細胞/mlに調整した。
【0069】
P3X3.Ag8.653細胞(上記のように増殖させた)を血清非含有IMDMで2回洗浄した(これらの細胞は、TJ−6遠心器(Beckman Instruments,パロアルト、CA)で25℃で5分1000rpmで遠心して、細胞を沈澱させた)。P3X3.Ag8.653 細胞の濃度は5×106細胞/mlに調節した。
4mlのリンパ球浮遊液を1mlの洗浄P3X3.Ag8.653細胞と60mmの組織培養皿(Falcon)で混合した。この組織培養皿をマイクロタイタープレート支持器(Beckman Instruments,パロアルト、CA)に置いて250×g(1200rpm、TJ−6遠心器)で5分遠心して培養皿の底に粘着した単層細胞を得た。上清を皿から吸引し、50%ポリエチレングリコール(PEG1500,Boehringer Mannheim)を含む1mlのIMDMを手際よく加えた。PEG溶液は4mlのPEG1500および4mlのIMDMを別々に60℃の水槽中で温め、PEGをピペット中に吸引し続いてIMDMを吸引して一緒にし、さらに十分に混合して調製した。室温で30秒してから、培養皿に5mlの血清非含有IMDMを加えた。
【0070】
融合させる日に最後の洗浄を施した後、細胞を60mmの培養皿にFCSを含む5mlのIMDM培養液とともに5%CO2下に37℃12時間放置した。次の日に20%FCSおよび1×HAT培養液(Boehringer Mannheim,NJ)を含む100mlのIMDMで融合細胞を希釈し、96ウェルの平底プレートにウェル当たり100μl加えた。5から9日後、さらに50μlの培養液を各ウェルに加えた。その後、3日間隔で50μlの培養液を取り除き、新しい培養液を加えた。細胞数がウェル当たり1000−5000の範囲になったら、CTLA−4Igに対する反応性とCD4Igに対する反応欠如について上記(b)で述べたようにハイブリドーマ上清をELISAで調べた。ELISAではハイブリドーマ上清は希釈せずに用いた(50μl/ウェル)。
【0071】
陽性ウェルのハイブリドーマを照射マウス胸腺細胞の養育細胞層(Feeder layer)の存在下で限界希釈によって繰り返しクローニングした。単クローン性抗体(抗体9H10と称する)を分泌するハイブリドーマ株は以下の基準で選別した。1)ELISAでCTLA−4Igに対する反応性を有するが、CD4Igに対しては反応性をもたない;2)B7核酸感染体へのCTLA−4Ig結合を遮断する能力を有する;3)活性化T細胞を染色する能力を有するが新鮮な分離T細胞を染色しない;および4)CTLA−4核酸感染体を染色する能力を有するがコントロールの核酸感染体を染色しない。
【0072】
B7核酸感染体へのCTLA4Ig結合を遮断する抗体9H10の能力は以下のようにして明らかにした。約10μlのmAb9H10を1μgのCTLA−4Ig融合蛋白とともに最終容積50μlのPBSを含む溶液中で22℃30分保温した。この混合物に1%ウシ血清および0.05%アジ化ナトリウムを含む氷冷PBS10μlに懸濁した2×105B7−EL−4細胞を加えた。B7−EL−4細胞は、タウンセンドら(Townsendら、Cancer Res.54:6477-83(1994))の報告にしたがって、マウスB7細胞表面蛋白をコードする発現ベクターを核酸感染させたC57BL/6由来EL4胸腺腫細胞株である。
【0073】
続いて得られた混合物を氷上で30分インキュベートし、続いて1%ウシ血清および0.05%アジ化ナトリウムを含む10μlのPBSで4ml/回で2回洗浄した。さらに細胞をフルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合抗ヒトIgG(Caltag,サウスサンフランシスコ、CA)で染色した。この実験の陰性コントロールとしてCTLA−4Ig融合蛋白をコントロールのハムスターIgGまたはEL−4親細胞株のいずれかとともに保温した。細胞をFACScan(BectonDickinson,マウンテンビュー、CA)で調べた。関連細胞の電子的ゲート作動にはLYSISIIプログラム(Becton Dickinson)を用いた。ほとんどの実験で、分析には10000件の明白なゲート作動を集めた。結果は、9H10抗体はB7−EL−4細胞へのCTLA−4結合を遮断することを示した。
新しく分離されたT細胞は染色しないが活性化T細胞を染色する9H10抗体の能力は、以下のようにして明らかにした。新鮮な脾細胞および活性化脾細胞を作製した。4−6週齢のBALB/cマウスの脾臓を採取して細切し、当技術分野で標準的な技術(Mishell & Shiigi,細胞性免疫学の選別方法(Selected Methods in Cellular Immunology),W.H.Freeman & Co.,サンフランシスコ(1980) pp.23-24)にしたがって、浮遊液を溶血性ゲイ液で処理して赤血球を除去した。
【0074】
細胞集団の一部分を活性化させるために10μg/mlで添加した可溶性抗CD−3抗体とともに10%のウシ胎児血清を含むRPMIで細胞を培養した。その他の脾細胞集団は抗CD3抗体で処理せず新鮮な脾細胞(しかし活性化されていない脾細胞)を代表する。続いてこの2つの細胞集団を次のいずれかで染色した:1)FITC結合9H10(抗CTLA−4抗体、5μgの抗体)およびPE結合Thy1.2の組合せ、または2)FITC結合ハムスターIgおよびPE結合Thy1.2の組合せ。結果はFACScanで分析し、関連T細胞集団のみを分析するためにThy1.2陽性細胞についてのみ電子的にゲート作動させた。この実験の結果は、9H10抗体は活性化(すなわちCTLA−4発現)T細胞を染色するが新鮮な分離T細胞は染色しないことを示した。
【0075】
CTLA−4核酸感染体を染色するがコントロール核酸感染体は染色しない9H10抗体の能力は以下のようにして明らかにされた。親CHO(チャイニーズハムスター卵巣(Chinese Hamster 0vary)、CHO−K1細胞)細胞株(ATCC CCL61)をpSR1neo.CTLA-4で核酸感染させた。pSR1neo.CTLA-4は、pSR1neo 発現ベクターに挿入されたマウスCTLA−4蛋白をコードする完全な1.9kbのcDNA(Brunetら、Nature 328:267(1987))を含む。pSR1neo.CTLA-4ベクターを核酸感染させた細胞は、細胞表面にマウスCTLA−4蛋白を発現する。
【0076】
親(すなわちCHO−K1細胞)および核酸感染細胞を次のいずれかで染色した:1)FITC結合9H10(抗CTLA−4抗休、5μgの抗体)およびPE結合Thy1.2の組合せ、または2)FITC結合ハムスターIgおよびPE結合Thy1.2の組合せ。データは、関連T細胞集団のみを分析するためにThy1.2陽性細胞について電子的にゲート作動させた。この実験の結果は、9H10抗体はCTLA−4核酸感染体を染色するがコントロール核酸感染体は染色しないことを示した。
上記の結果は、9H10単クローン性抗体は特異的にマウスCTLA−4蛋白と反応することを明示した。
【0077】
実施例2
抗CTLA−4単クローン性抗体はマウスでV51BLim10腫瘍の拒絶を惹起する
抗マウスCTLA−4単クローン性抗体(9H10)を大腸癌細胞株を注射したマウスを処置するために用いた。V51BLim10腫瘍細胞とともに9H10mAbを注射することによって、この実験動物では腫瘍細胞の完全な拒絶がもたらされた。対照的に、抗CD28mAbおよびV51BLim10細胞を注射したマウス、またはV51BLim10細胞のみを注射したマウスはともに腫瘍が発生し、平均的な腫瘍サイズで4週間にわたって安定した増殖を示した。
【0078】
a)V51BLim10細胞株の作製
V51BLim10細胞株を51BLim10細胞株にSR1neo発現ベクターを核酸感染させて作製した。51BLim細胞株は大腸癌細胞株で、ヒトの大腸癌転移について正確な動物モデル提供する(Bresalierら、Cancer Res.47:1398(1987))。
本実験に用いるV51BLim10細胞株は以下のようにして作製した。コーベットら(Corbettら、Cancer Res.35:2434-9(1975))が樹立したネズミ大腸癌細胞株51BをBALB/cマウスの盲腸壁に注射した。得られた大腸癌は注射マウスの少数の肝臓に偶発的に転移することが見出された(Bresalierら、Cancer Res.47:1398(1987))。転移活性が次第に増加する腫瘍細胞株が最初の転移から細胞を採集することによって確立された。続いてこれを用いて新たなマウスの盲腸に連続して再注射した。これらの細胞株を51BLim-1から51BLim-5と名付けた。ダッシュの後の数字は転移サイクルの数である。
ウォーレン博士(Dr.Warren,カリフォルニア大学サンフランシスコ校)から入手した51B転移派生株は51BLim10と呼んだ。51BLim10細胞株はブレサリエら(Bresalierら、Cancer Res.47:1398(1987))が記載した51BLiM5 細胞株に対応する。
【0079】
SR1neo発現ベクターを51BLiM-10細胞株に核酸感染させて、記載(Townsendら、Cancer Res.54:6477-83(1994))にしたがってV51BLim10細胞株を作製した。SR1neo発現ベクター(ラニエ(L.Lanier,DNAX Research Institute of Molecular and Cellular Biology,パロアルト、CA))より入手)はHTLV−1LTRの転写制御下で問題の遺伝子の発現を可能にする。SR1neoベクターはまた、SV40プロモーター/エンハンサーの転写制御下にあるneo遺伝子を含む。neo遺伝子の存在はSR1neoベクターを含む核酸感染細胞の選別を可能にする。
【0080】
SR1neo発現ベクターを51BLiM-10細胞にBTXT800電気穿孔器(BTX,Inc.,サンディエゴ、CA)を用いて電気穿孔によって核酸感染させた。450または600Vで各々99μs、5パルスで実施した。電気穿孔は、270mM蔗糖、7mMのNaPO4(pH7.4)、1mMのMgCl2、5×10651BLim-10細胞および50μgのSR1neo発現ベクターを含む溶液を最終反応容積750μlで用いて実施した。電気穿孔の後、細胞を完全な培養液(イーグルMEM(カリフォルニア大学サンフランシスコ校細胞培養施設、サンフランシスコ、CA))で24時間37℃で培養した。この完全培養液には、10%ウシ胎児血清(Sigma)、非必須アミノ酸、MEMビタミン溶液、L−グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、ゲンタマイシン(全てIrvine Scientificより入手、サンタアナ、CA))および7.5%重炭酸ナトリウム(Sigma)が補充されていた。選別培地は1mg/mlのジェネティシン(Geneticin)(G418硫酸塩、GIBCO,グランドアイランド、NY)を含む完全な培養液である。選別培養液で14日間培養した後、薬剤耐性細胞を集め、V51BLim10細胞と称する多クローン性集団としてこの後の実験に用いた。
【0081】
V51BLim10腫瘍細胞はイーグルMEM(カリフォルニア大学サンフランシスコ校細胞培養施設、サンフランシスコ、CA)で維持した。この培養液には10%ウシ胎児血清(Sigma)、非必須アミノ酸、MEMビタミン溶液、L−グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、ゲンタマイシン、ペニシリン−ストレプトマイシン(全てIrvineScientificより入手、サンタアナ、CA))および1mg/mlのジェネティシンを補充した。細胞培養は、低継代(すなわち10継代未満)凍結標本から樹立し、使用前に30日以上の培養維持は行わなかった。
V51BLim10細胞および親51BLim10細胞は同様なインビトロおよびインビボ増殖速度を示すことが分かった。V51BLim10細胞のネオマイシン耐性遺伝子の発現および様々な他の細胞株は、注射細胞に由来する腫瘍の腫瘍原性または腫瘍の増殖速度に影響を与えなかった。
【0082】
b)V51BLim10腫瘍細胞および単クローン性抗体のマウスへの注射
V51BLim10腫瘍細胞をトリプシン−EDTA(Sigma)で組織培養プレートから採取し、血清非含有培養液(イーグルMEM)で3回洗浄し、濃度2×107細胞/mlで浮遊液とした。
この実験に用いたマウスは6−8週齢の雌のBALB/cマウス(Charles River Laboratories,ウィルミントン、MA)であった。5匹ずつのマウスのグループをメトキシフルラン吸入で麻酔して固体特定のために耳に印を入れ、200μlのV51BLim10腫瘍細胞浮遊液(4×106)を左の大腿部外側の皮下に注射した。処置群には100μgの上記抗CTLA−4mAb、9H10、または抗CD28mAb、37.51の腹腔内注射を同日に実施し、さらに腫瘍細胞注射後3日および6日にまた別に50μgを腹腔内注射した(図1には黒い矢印で示す)。単クローン性抗CD28抗体、37.51はマウスCD28蛋白に対して作製し(Grossら、J.Immunol.149:380(1992))、陰性コントロールとして用いた。
【0083】
マウスの皮下腫瘍増殖をモニターし、切除した成長腫瘍の直径をカリパスで測定した。未処置のマウス、または抗CD28抗体処置マウスの全ては次第に腫瘍が成長し、接種後35日で安楽死を必要とした。対照的に、抗CTLA−4抗体処置マウスは全て、短い限定的増殖期間の後で腫瘍を完全に拒絶した。図1Aに示したように、mm2で示す平均腫瘍面積(y軸)は、腫瘍注射後14日(x軸)から開始し約24日で0に達するまで徐々に減少する。抗CTLA−4処置はより低い腫瘍投与量では効果が少ない。図1Bは、2×106腫瘍細胞を注射し、抗CTLA−4抗体または無関係のハムスター抗体で上記のように処置したマウスでの平均腫瘍サイズを示している。抗CTLA−4抗体処置は腫瘍増殖に対して劇的な作用を持ち続けたが、あるマウスでは腫痘は急速に成長し、別のマウスではよりゆっくりと成長した。図1Cは、2×106のV51BLim10細胞を注射したマウスの個々の増殖を示している。マウスのうち3匹は80日以上も腫瘍を発生させなかった。CTLA−4遮断はB7陰性腫瘍の拒絶を顕著に高めることは明白である。
【0084】
c)B7-51BLim10腫瘍細胞と単クローン性抗体のマウスへの注射
51BLim10細胞にネズミB7−1の遺伝子を含むプラスミドを上記のように核酸感染させ、限界希釈によってクローニングした。B7-51BLim10腫瘍細胞をトリプシン−EDTA(Sigma)で組織培養プレートから採取し、血清非含有培養液(イーグルMEM)で3回洗浄して2×107細胞/mlで懸濁させた。
この実験に用いたマウスは6−8週齢の雌のBALB/cマウス(Charles River Laboratories,ウィルミントン、MA)であった。5匹ずつのマウスのグループをメトキシフルラン吸入で麻酔して固体特定のために耳に印を入れ、100μlのB7-51BLim10腫瘍細胞浮遊液(4×106)を左の大腿部外側の皮下に注射した。処置群には100μgの上記抗CTLA−4mAb、9H10、または抗CD28mAb、37.51を腹腔内注射した。100、50および50μgの注射をそれぞれ0日、3日および6日目に与えた(注射日は図2で黒い矢印で示されている)。単クローン性抗CD28抗体、37.51はマウスCD28蛋白に対して作製し(Grossら、J.Immunol.149:380(1992))、陰性コントロールとして使用した。
【0085】
マウスの皮下腫瘍増殖をモニターし、切除した成長腫瘍の直径をカリパスで測定した。この実験の結果は図2に示す。抗CTLA−4抗体による処置は、抗CD28抗体およびコントロール群と比較してB7-51BLim10腫瘍細胞を抑制した。未処置、または抗CD28抗体処置群のマウスは全て、5から10日間に次第に成長する小さな腫瘍を生じた。続いてこの腫瘍は10匹のマウスのうち8匹で注射後約23日で完全に退縮した。退縮しなかった2つの小さな腫瘍は90日間にわたって安定していた。対照的に、抗CTLA−4抗体で処置した5匹のマウスのうち3匹では極めて小さな腫瘍が成長し、さらにこれらの腫瘍の全ては17日目までに完全に退縮した。
【0086】
d)抗CTLA−4誘発V51BLim10腫瘍細胞拒絶はその後の野性型大腸癌細胞のチャレンジに対して防御を生じる
完全にV51BLim10 腫瘍細胞を拒絶した5匹の抗CTLA−4処置マウスに、4×106の野性型51BLim10腫瘍細胞を反対側の大腿部外側の皮下に注射して70日後に再チャレンジした。コントロールとして5匹の無傷のマウスにもまた注射した。腫瘍の直径を測定し、記載したように記録した。無傷のコントロールと比較して、以前に腫瘍を拒絶したものは第二のチャレンジに対して顕著な防御を生じた。全てのコントロールマウスは次第に増殖する腫瘍を成長させ、大きな腫瘍塊を生じ、接種後35日目に安楽死させた。以前に免疫した5匹のマウスのうち3匹はチャレンジ後70日間腫瘍を持たなかった。以前に免疫したマウスのうち1匹のみが14日目に検出可能な腫瘍を有し、この腫瘍の増殖は極めて緩徐であった。最終的には、チャレンジ後42日目にさらに2つの腫瘍が免疫マウスで発生した。結果は図3に示す。これらの結果はCTLA−4遮断により仲介される腫瘍拒絶は免疫の記憶を生じることを示している。
【0087】
e)抗CTLA−4処置は定着腫瘍の増殖を低下させる
マウスのグループに2×10651BLim10腫瘍細胞を皮下注射した。図4の上向きの矢印で示したように、コントロール動物(n=10)には0、3、6および9日目に無関係のハムスター抗体100μgを腹腔内注射した。1つの抗CTLA−4処置群には同じ日に腹腔内注射を実施した。他の処置マウス(n=5)にはCTLA−4抗体の腹腔内注射を7日目に開始し、続いて10、13および16日目(下向き矢印)に注射を実施した。結果は図4に示す。いずれかの時点で抗CTLA−4抗体で処置したマウスでは未処置コントロールと比較して腫瘍の増殖が顕著に低下した。5匹のマウスのうち2匹は接種後30日を越えても腫瘍を発生させず、より遅い処置は一層効果的であるように思える。
【0088】
f)抗CTLA−4処置はネズミの線維肉腫SA1Nの増殖を低下させる
抗CTLA−4による処置の効果は癌細胞株に限定されない。同様な結果が急速に増殖するA/JCrマウスの線維肉腫細胞株で得られた。マウスのグループに1×106のSA1N線維肉腫細胞浮遊液を皮下注射した。処置群には100μgの抗CTLA−4または無関係のハムスターコントロール抗体を図5の矢印で示すように0、3および6日目に腹腔内注射した。全てのコントロール動物は30日目までに死亡した。5匹の抗CTLA−4処置動物のうち2匹は55日目には腫瘍を認めなかった。結果は図5に示す。
【0089】
実施例3
抗CTLA−4単クローン性抗体はアジュバントとして機能するa)免疫原の調製
DNP−KLHはカルビノケム(Calbinochem,サンディエゴ、CA)から入手し、脱イオン水に1mg/ml、100ng/mlまたは10pg/mlで懸濁させた。フロイントの完全アジュバント(Difco,MI)1mlをDNP−KLH調製物の各1mlに加えた。続いて、成書(「免疫学の最新プロトコル(Current Protocols in Immunology)」、Colliganら編、2.4節)に記載されているように、両端型ルアーロック連結器で連結した2本の5ml容量の注射器内を迅速に通過させてこれらを乳化させた。
【0090】
免疫原を注射する30分前に、200μgの非特異的コントロールハムスター抗体または200μgの抗CTLA−4抗体9H10(ともに全容量200μl)を4−6週齢のC57B1/6マウスに23ゲージの注射筒を用いて腹腔内に注射した。続いて、上記の形態の免疫原200μlをマウスの背中の2か所に21ゲージの注射筒を用いて皮下注射した。投与用量はそれぞれ100μg、10μgまたは1pg/マウスであった。
最初の処置の後10日して動物を安楽死させた。心臓穿剌で血液を採取し、エッペンドルフ管に移した。これらのサンプルを4℃で一晩凝固させ、続いて遠心して血清を得た。
【0091】
上掲書(「免疫学の最新プロトコル」、2.1節)に記載されているように、標準的なアイソタイプELISAを用いてDNPを認識するアイソタイプ特異的抗体について血清を調べた。簡単に記せば、96ウェルのコーニング改造丸底ELISAプレートの各ウェルに100ng/mlのDNP(50μl容量)を入れた。ウェルを記載にしたがって緩衝液を用いて遮断した。各血清の3倍段階希釈(1:100から開始)を各ウェルに添加する。これらを25℃で1時間保温し、洗浄用緩衝液で洗浄した。アイソタイプは、遮断緩衝液50μl中の1μg/mlのマウス特異的抗体を検出剤として用い1時間保温して検出した。アイソタイプ抗体はビオチン付加し、検出はアビジンセイヨウワサビペルオキシダーゼと保温し、洗浄してペルオキシダーゼ基質(ABTS,Sigma,Mo.)を添加して実施する。停止緩衝液を加え、反応停止後5−8分以内に各ウェルの吸収を490−498nmの波長でELISA読み取り装置で読み取った。
【0092】
結果は図6に示す。各々のパネルは、異なるアイソタイプの血清サンプル中の濃度を示す。y軸はODの読みを示し、この場合ODの増加は当該アイソタイプを含む血清中の抗体濃度の増加を示す。x軸は注射された抗原量、動物につきそれぞれ100μg、10ngまたは1pgを示す。抗CTLA−4抗体は、より大きい用量の抗原でIgG1、IgG2aおよびIgG2bへのクラス切り換えを高めることが分かる。
【0093】
T細胞機能の分析は以下のように実施される。リンパ節細胞を分離し、KLHで72時間インビボで刺激する。完全RPMI(10%FCS(Hyclone,モンタナ)、2mMグルタミン、50μMのβ−メルカプトエタノール、50μg/mlのゲンタマイシン)を含む培養皿に腋窩、鼠径部、腸間膜、上腕、頸部および膝窩リンパ節を取り出した。このリンパ節を細切して単一細胞浮遊液を得た。これをナイテックス(nytex)メッシュに通して濾過し、個々の微粒子を除去して血球計算盤で計測した。細胞を5×105、2.5×105または1.25×105細胞/ウェルのいずれかで96ウェルの丸底クラスタープレートに入れた150μlの完全RPMIに播種した。完全RPMI中のKLH溶液を最終濃度100、10、1または0μg/mlで加え、プレートを湿潤インキュベーターで5%CO2とともに37℃で64時間保温した。64時間後、1μCiの3H−チミジンを含む完全RPMIの20μlを各ウェルに加え、さらにこのプレートをまた8時間保温した。この時点でイノテック(Inotech)96ウェル採取器を用いてガラス線維フィルター上に培養を採取した。フィルターを乾燥させ、パッカード(Packard)マトリックスカウンターを用いて計測した。各条件につき3組ずつで実施し、結果は3組の値の平均値を示す。
【0094】
結果を図7に示す。最上段は抗原濃度(x軸に示す)を変化させ細胞数を一定(5×105細胞)にしたものを示す。y軸は3H−チミジンの取り込み(細胞増殖の測定)を示す。下方のパネルは細胞数を変動(x軸に示す)させ抗原濃度を一定にした(10μg/ml)ものを示す。結果は、CTLA−4遮断によってより大きい抗原用量に対してT細胞反応は強いアップレギュレーションを受けることを示している。
【0095】
実施例4
ヒトCTLA−4蛋白に対して誘導された抗体の作製
抗ヒトCTLA−4抗体は以下のように作製される。
a)ホスト動物免疫用ヒトCTLA−4蛋白
ヒトCTLA−4蛋白を含む免疫原はヒトCTLA−4蛋白の細胞外ドメインの全部または一部分を含む。ヒトCTLA−4蛋白の細胞外ドメインは、データベース参照に挙げたようにアミノ酸残基38−161を含む。
ヒトCTLA−4免疫原は完全なヒトCTLA−4蛋白を含むか、またはヒトCTLA−4の細胞外ドメインおよびその融合相手を含む融合蛋白を含む。この免疫原は細胞の膜に挿入された完全なヒトCTLA−4蛋白を含み、ヒトCTLA−4蛋白をその表面に発現している細胞はホスト動物の免疫に用いられる。
【0096】
ヒトCTLA−4蛋白の部分を含む免疫原はPCRを用いて、H38細胞(HTLVII付随白血病株(R.Gallo,アメリカ国立癌研究所))由来mRNAからヒトCTLA−4蛋白をコードするDNA配列を増幅して作製される。このmRNAは逆転写されて第一鎖cDNAを生じる。このcDNAを続いて増幅させる。文献(Linsleyら、J.Exp.Med.174:561(1991))に記載されたようにこれらの配列を融合相手をコードする配列に連結する。発現ベクターはCTLA4Igと称する融合タンパクをコードする。この融合蛋白は、アミノ末端からカルボキシ末端に向かってオンコスタチンM由来のシグナルペプチド、ヒトCTLA−4の細胞外ドメイン並びにヒトIgG1のH、CH2およびCH3ドメインを含む。オンコスタチンMのシグナルペプチドは天然に存在するヒトCTLA−4シグナルペプチドの代わりに用いられる。CTLA−4Ig蛋白をコードするベクター構築物では、ヒトIgG1分子の野性型ヒンジドメインに見出されるシステイン残基はセリンに変異させられた(Linsleyら、上掲書)。
【0097】
b)ヒトCTLA−4蛋白によるホスト動物の免疫
ヒトCTLA−4蛋白を含む免疫原で動物を免疫するために非ヒトホスト動物が用いられる。ヒトCTLA−4/IgG融合蛋白(例えばCTLA4Ig)を含む免疫原は、実施例1bで述べたように加熱殺菌黄色ブドウ球菌A(StaphA)菌体を被覆するために用いられる。0.2mlのPBSに懸濁させた約100μgのCTLA4−Igで被覆した加熱殺菌StaphA菌の50μl(集積容積)を6週齢のBALB/cマウスの足裏に注射する。
【0098】
マウスにつき総計5回の注射を施す。最後の追加免疫の日に注射前に、実施例1bに記載したように約100μlの血清を眼内採血によって得る。この血清を最初の注射前に同じ方法で得た血清(すなわち免疫前血清)とともに分析する。
ヒトCTLA−4Ig結合ELISAを用いて、免疫後採血血液中のヒトCTLA−4Ig融合蛋白を認識する抗体の存在を明らかにする。ELISAプレートをヒトCTLA−4蛋白で被覆するという点を除いて、ヒトCTLA−4Ig結合ELISAを上記の実施例1bで述べたように実施する。
ヒトCTLA−4Ig融合蛋白を認識する抗体を免疫後採血血液中に、バックグラウンドで検出される希釈よりもはるかに高希釈である1000倍希釈で含む免疫マウスの血清およびリンパ節を採集する。免疫マウスの流入領域リンパ節からリンパ球を調製し、続いて実施例1cで述べたようにヒトCTLA−4蛋白に対して誘導された単クローン性抗体を作製するために用いる。
【0099】
その細胞表面にヒトCTLA−4蛋白を発現している形質転換細胞を含む免疫原は以下のように調製される。完全なヒトCTLA−4蛋白をコードする発現ベクターを用いてマウスリンパ腫細胞株EL4(ATCC TIB39)を核酸感染させる。1×106から1×107核酸感染細胞/注射で核酸感染EL4細胞をマウスに注射する。核酸感染細胞はPBSを含む溶液で注射する。マウスの腹腔内または後肢の足裏のいずれかに注射できる。腹腔内注射を施す場合、総計約4回の注射を実施する。注射部位として足裏を用いる場合は、総計約5回の注射を施す。血清を免疫動物から採集し、プレートをヒトCTLA−4蛋白で被覆するという点を除いて、実施例1bに述べたようにELISAを用いてヒトCTLA−4蛋白に対して誘導された抗体の存在を検査する。
【0100】
c)抗ヒトCTLA−4抗体を分泌するハイブリドーマ株の分離
リンパ球は、ヒトCTLA−4免疫原で免疫した動物の脾臓または流入領域リンパ節から分離し、実施例1cで述べたようにPEG融合プロトコルを用いてP3X3.Ag8.653細胞と融合させてハイブリドーマ細胞株を作製する。1000−5000細胞/ウェルを含むウェルから得た培養上清を、ELISAアッセイを用いてヒトCTLA−4に対する反応性および非CTLA−4蛋白(例えばヒトCD4)に対する反応性の欠如について検査する。
陽性ウェルから得たハイブリドーマを実施例1cで述べたように限界希釈によって繰り返しクローニングする。ヒトCTLA−4蛋白とは反応するが無関係のヒト蛋白(例えばヒトCD4)とは反応せず、さらにヒトCTLA−4核酸感染体を染色するがコントロール核酸感染体は染色しない単クローン性抗体を分泌するハイブリドーマ株を抗ヒトCTLA−4単クローン性抗体の産生について選別する。
【0101】
実施例5
腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の生体外刺激
ホスト細胞を生体外で刺激し、それらを腫瘍特異的免疫エフェクター細胞に分化させる。続いてこれらの細胞を同じホストに再導入し、抗癌治療作用を仲介させる。
【0102】
a)腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の分離
腫瘍浸潤リンパ球は標準的な技術を用いて得られる。固形腫瘍(新しく切り出すかまたは凍結保存する)を一晩酵素によって消化(例えば0.01%ヒアルロニダーゼV型、0.002%DNアーゼI型、0.1%コラゲナーゼIV型(Sigma,セントルイス)および抗生物質を含むRPMI1640中で室温で一晩攪拌)して単一細胞浮遊液に分散させる。続いて腫瘍浮遊液をフィコール・ハイパーク(Ficoll-Hypaque)勾配(リンパ球分離媒体、Organon Teknika Corp.,Durham,NC)を通す。勾配の境界は生きた腫瘍細胞を含む。単核細胞を洗浄し、全細胞濃度を2.5から5.0×105細胞/mlに調整し、完全培養液で培養する。
【0103】
完全培養液は、熱不活化させた型適合ヒト血清10%、ペニシリン50IU/mlおよびストレプトマイシン50μg/ml(Biofluids,ロックビル、MD)、ゲンタマイシン50μg/ml(GIBCO Laboratories,Chagrin Falls,OH)、アンホテリシン250ng/ml(Funglzone,Squibb,Flow Laboratories,マックリーン、VA)、HEPES緩衝液10mM(Biofluids)並びにL−グルタミン2mM(MA Bioproducts,Walkersville,MD)を含有するRPMIを含む。自己由来または同種異系リンホカイン活性化キラー(LAK)細胞(下記参照)の3−4日培養から得た条件付け培地を最終濃度20%(v/v)で加える。組換えIL−2を最終濃度1000U/mlで添加する。
【0104】
培養は5%CO2の湿潤な雰囲気下で37℃で維持する。細胞を採取し沈澱させ新鮮な培養液に2.5×106細胞/mlで再浮遊させることによって培養を毎週液交換する。最初の培養期間(例えば2から3週間)を過ぎるとリンパ球は選択的に増殖し、一方残存する腫瘍細胞は典型的には完全に消失する。
LAK細胞培養を作製するために、末梢血リンパ球(PBL)を患者または健常ドナーから入手する。フィコール・ハイパーク勾配を通した後、2%ヒト血清、抗生物質、グルタミンおよびHEPES緩衝液を含むRPMI1640で1×106/mlの濃度で細胞を培養する。組換え体IL−2を1000U/mlで添加する。培養を湿潤な6%CO2雰囲気中で37℃で3から7日間維持する。
【0105】
b)TILの生体外刺激
抗CTLA−4mAbを含む培養液2ml中の1×106細胞を24ウェルプレートのウェルの中で5%CO2雰囲気中で37℃で2日間保温する。培養液は、10%熱不活化ウシ胎児血清、0.1mM非必須アミノ酸、1μMピルビン酸ナトリウム、2mMの新しく調製したL−グルタミン、100μg/mlのストレプトマイシン、100U/mlのペニシリン、50μg/mlのゲンタマイシン、0.5μg/mlのファンギゾン(全てGIBCO(グランドアイランド、NY)より入手)および5×10-5Mの2−ME(Sigma)を補充したRPMI1640培養液を含む。細胞を採取し洗浄する。
組換え体IL−2(Chiron Corp.,(Emeryville,CA)より入手可能、比活性6から8×106U/mg、2−3国際単位に匹敵する単位)を含む2mlの培養液中で、初めに刺激した細胞を3×105/ウェルでさらに培養する。IL−2中で3日間保温した後、細胞を採集し洗浄して増殖の程度を決定するために細胞を数え、さらに静脈内投与に適した媒体(例えば生理学的緩衝食塩溶液)に再浮遊させる。この活性化細胞を再注入する前に、細菌の夾雑の有無を決定するために細菌の培養を実施する。
【0106】
活性化TILを注射に適した培養液に再浮遊させた後、ホストの静脈にアクセスして細胞浮遊液を注入する。場合によって、剌激細胞のインビボ機能および生存を高めるためにホストを薬剤(例えばIL−2)で処理する。
【0107】
実施例6
本実験では、超抗原、黄色ブドウ球菌内毒素B(SEB)に対するインビトロおよびインビボでのT細胞集団の反応におけるCD28およびCTLA−4シグナルの影響を調べた。結果は、CD28はインビトロでのSEB反応に対して重要な同時刺激を提供すること、さらにCTLA−4を介するシグナルはこの反応を抑制することを示した。インビボでは、FAbフラグメントまたは完全な抗体によるCD28の遮断は、vβ8+増大において抗CTLA−4FAbフラグメントまたは完全な抗体による同様な遮断と反対の作用を有する。この増大の動態の分析によって、CD28を介するシグナルはT細胞増大を促進し、一方、CTLA−4を介する反対のシグナルはT細胞増大時にSEBに対する反応規模を減弱させるように機能することが暗示される。
【0108】
方法
ネズミ
4−5週齢のBALB/cマウスをチャールズリバーから購入し3週間以内に使用した。
【0109】
抗体および試薬
クローン37.N.51.1由来のハムスター抗マウスCD28(Grossら、J.Immunol.149:380(1992))、クローン9H10.11D3由来のハムスター抗マウスCTLA−4(Krummel & Allison,J.Exp.Med.182 59(1995))、クローン1610.A由来ハムスター抗マウスB7−1(Razi-Wolfら、J.Exp.Med.89:4210(1992))、ラット抗マウスB7−2(クローンGL−1由来(Hathcockら、Science262:905(1993))およびクローンF560.31由来の無関係のハムスターIgGは本出願人らの施設で腹水から精製した。FAbフラグメントは標準的な方法によって固定パパイン(Pierce,ロックフォード、IL)による消化によって作製し、末消化の抗体は蛋白A吸着によって除去した。全てのFAbフラグメントを使用前にSDS−PAGEによって分析した。抗CD28FAbの純度は、アロ−MLR中でのT細胞増殖阻止能力について機能的にアッセイすることによってさらに検査した。抗Vβ8.1,8.2FITC(クローンMR5−2)はファーミンゲン(Pharmingen,サンディエゴ、CA)から入手した。
【0110】
インビトロアッセイ
全く実験に使用していない動物から得た脾臓を細切して浮遊液を作製し、RBCをグレイ溶液で低張処理して溶血させ、続いてPBSで2回洗浄した。2×105の脾細胞を200μlのRPMI(10%FCS、50μMのβ−メルカプトエタノール、2mMのグルタミンおよび50μg/mlのゲンタマイシンを含む)中で96ウェルの丸底プレートに播種した。SEBを表示濃度で加えた。表示がある場合は抗CD28は腹水の1:1000希釈で、抗B7−1は5μg/mlで、抗B7−2は20μg/mlで、さらに非特異的コントロール抗体560.31はそれらに匹敵する量で加えた。FAb実験では、抗CD28、抗CTLA−4またはコントロールFAbフラグメントは100μg/mlで加えた。培養は37℃で60時間保温し、1μCiの3Hチミジンでパルスし、採取前にさらに12時間保温した。
【0111】
インビボSEB反応
マウスの腹腔内に200μgの抗体(表示がある場合)を含むPBS200μlを注射した。1−2時間してから、動物につき50μgのSEB(ToxinTechnologies,サラソタ、Fl)を含むPBSまたはPBSのみを全容積100μlで静注した。
【0112】
フローサイトメトリー
Vβ8発現細胞集団を調べるために、脾臓を細切して浮遊液を作製し、RBCを低張グレイ溶液で溶血させた。得られた細胞を続いて5mlのRPMI−10%FCSに再浮遊させ、3組ずつの部分標本を血球計算盤を用いて数えた。この方法の標準誤差は通常平均値の10%以内であった。染色のために、一部分を0.01%NaN3を含むPBS/1%FCSで1回洗浄し、PBS/FCSに106/50μlの濃度で再浮遊させた。抗体を添加し氷上で30分反応させた。細胞を洗浄し、続いてLysisIIソフト(Becton-Dickinson,マウンテンビュー、CA)を用いてFACScanサイトメーターで分析した。Vβ8を発現する割合について10000件の明白なゲート作動を分析し、これを用いて下記の式によってVβ8細胞の総数を得た。
#Vβ8=総細胞収量×サンプル中の%Vβ8
【0113】
結果
SEB仲介インビトロ増殖における同時刺激の役割
B7/CD28相互作用の役割を知るためにBALB/cマウスの脾細胞のSEBに対する増殖反応を調べた。SEBを脾細胞に添加したとき、当該培養で用量依存性増殖が認められた。抗B7−1/B7−2抗体は顕著に当該反応を抑制するので、これらの培養で細胞上のB7分子は同時刺激を供給するらしい。さらに、抗CD28抗体を介するCD28のシグナル発生の増加は増殖反応を強化した。このシグナル発生の増加は、FcR+B細胞上での抗体の固定によって、または抗体の微小凝集の形成によって仲介されたのかもしれない。興味深いことには、抗CD28および抗B7−1/B7−2の添加は、抗CD28単独と比較してわずかであるが再現可能な増殖の増加を誘発した。このことは、CD28の他に別のB7リガンド(すなわちCTLA−4)がSEBに対するT細胞の反応をダウンレギュレートするために重要であることを示唆している。
【0114】
T細胞反応におけるCD28およびCTLA−4の相対的貢献を知るために、これらの分子に特異的な抗体FabフラグメントをSEB刺激培養に添加した。CD28FAbの添加はSEB依存増殖を抑制した。CD28FAb遮断の規模は抗B71/2を用いて認められたものと同様であった。このことはコントロール培養における増殖のためにCD28/B7はある程度の同時刺激を提供することを示唆している。しかしながら、CTLA−4FAbの存在下で2から3倍の増殖増加があり、このことは、CTLA−4シグナルは当該反応の調節で重要な部分を演じていることを示唆している。さらに、このことは、APC上のB7分子は、CD28によるシグナル増幅およびCTLA−4によるシグナル減弱の相互作用を作り出していることを強く示唆している。
【0115】
CD28およびCTLA−4シグナルはVβ8+T細胞のインビボ増大に反対の作用を有する
SEBに対するT細胞反応における抗CD28および抗CTLA−4抗体の影響を調べた。超抗原に対するT細胞のインビボにおける増大は、典型的には注射後2−3日以内で生じる。当該反応に対する抗CD28および抗CTLA−4の影響を最初に調べる便利な時間として60時間を選んだ。動物にPBSまたはSEBおよび関連mAbまたはFAbフラグメントを注射した。60時間後に、脾臓の細胞充実性およびVβ8+細胞の%を決定するために抗体染色サンプルを計測することによってVβ8保持TCRの総数を決定した。SEB注射動物の脾臓から分離されるVβ8保持細胞の総数は、コントロール注射(PBS)動物に存在する数の約2−3倍であった。対照的に、SEBに加えて注射される抗CD28の用量の増加は、この時点で認められるVβ8保持細胞の数を減少させた。5μgの抗CD28の注射によって回収Vβ8の数はそこそこに減少し、20μgおよび200μgの注射ではともにほぼ等しい2倍の減少をもたらした。この結果と抗CD28仲介T細胞反応増幅を示すインビトロの結果の矛盾に注目して、CD28抗体のFAbフラグメントの日量をSEB反応中に注射した。完全な抗体と同様な態様で、これらFAbはSEBに対するVβ8+細胞の増大を用量依存性態様で遮断した。完全な抗体の抑制作用はFAbを用いて認められたものと同様で、このことは抗CD28抗体およびFAbフラグメントはインビボでともにB7/CD28シグナルに干渉することを示唆している。これは、二価抗体による非効率的なシグナル発生並びに抗体およびFAbフラグメントの両方による天然のリガンドとの競合の結果かもしれない。
【0116】
CD28対CTLA−4の作用を比較するために、抗CTLA−4抗体をSEBと同時注射した。抗CD28処理で認められたものとは対照的に、抗CTLA−4の投与は、用量依存性態様で脾臓のVβ8+細胞の蓄積増加をもたらした。最大投与量の抗CTLA−4によってSEBのみで認められたものより2−3倍のVβ8+細胞数の増加が得られた。抗CTLA−4FAbフラグメントの毎日の注射によってもまた、60時間で検出されるVβ8+細胞数にかなりの増加が認められた。完全な抗CTLA−4および一価のFAbフラグメントの両方が同じ結果をもたらしたという事実は、これらの条件下で両形態の抗体がCTLA−4/B7相互作用を遮断していたということを示唆している。さらに、これらの条件下でVβ8+細胞の増加が認められたという事実は、当該抗体は抑制シグナルを遮断するという考えと一致する。
【0117】
SEB反応性集団の動態分析
CD28およびCTLA−4が反応の規模またはそのタイミングに影響するか否かを知るために動態分析を実施した。フローサイトメトリーで測定したときその量がCD28の飽和に必要な範囲にあったので、200μg/注射の抗体投与量を用いた。SEBおよびコントロール抗体に対する反応は期待されたようなものであった。増大相は3日目にピークとなり、続いて着実に下降した。対照的に、抗CD28およびSEBで処理したマウスは、ピークが72時間の極めて小さな増大を示し、これはコントロールレベルの1/3未満であった。しかしながら、これらの細胞は増大を経たように見え、細胞数はその後7日にわたって低下した。
【0118】
SEBと抗CTLA−4mAbを投与されたマウスは、実験の経過時間中コントロール抗体で処理した動物と比較して細胞数の増加を示した。細胞数は最初の3日間劇的に増加し、さらに10日目までにコントロール/SEB注射動物と同じレベルまで細胞数は急速に減少した。反応のピークでは、CTLA−4処理動物は、コントロール抗体処理動物と比較して約2倍のVβ8+T細胞を有した。最後にCTLA−4またはCD28が優勢なシグナルをもたらすか否かを知るために、両方の抗体を同時に加えた。実験の経過時間中、この処理は抗CD28のみで処理した動物で得られたものと同一の結果を生じた。
【0119】
B7/CD28/CTLA−4相互作用はインビトロSEB反応調節に重要である
ここに提示する結果は、超抗原SEBに対するネズミT細胞の反応における同時刺激性シグナルのための重要な役割を示唆する。抗B7−1/2抗体または抗CD28FAbフラグメントのいずれかによる遮断はSEB誘発増殖を劇的に低下させるので、B7−1/B7−2のCD28との内在性相互作用は増殖を促進させるために重要である。対照的に、完全な抗CD28抗体によるCD28の嵌合はAPCによって提供される閾値以上に増殖を増加させる。この増加は、おそらく効果的なCD28の架橋を生じる抗CD28抗体の微小凝集またはFcR仲介凝集のためである。
CD28とは対照的に、B7分子とのCTLA−4の相互作用はSEBに対するT細胞反応を鈍らせる。抗CTLA−4FAbフラグメントが増殖を強化するという観察は、CTLA−4/B7相互作用はSEBに対するT細胞の増殖反応を抑制することを示唆している。さらに、抗B7−1/2抗体は、CD28抗体による最適剌激の存在下で増殖を増大させるが、このことは、抑制性シグナルはCTLA−4・B7相互作用を介して仲介されるという考えに対して更なる指示を提供する。
【0120】
CD28およびCTLA−4はSEB誘発T細胞増大に対してインビボで反対の作用を有する
CD28またはCTLA−4により誘導されたシグナルと直接干渉させることによるSEB処理マウスでの同時剌激の操作は、Vβ8+T細胞の増大に対して反対の作用をもつ。この結果は、これらの分子は固定されたレベルのTCRシグナルの存在下で増殖の開始を決定するために競合するかもしれないということを示唆する以前のインビトロのデータを支持する。SEBに対する最適な反応のためにCD28シグナルに対する必要性が存在するようで、抗CD28FAbフラグメントまたは完全な抗CD28抗体による遮断は増殖の増大を効果的に低下させる。CTLA−4遮断は反応性細胞の増大増加を同様に可能にするという観察は、インビボでの超抗原およびペプチド抗原反応のための同時刺激の必要性における類似性をさらに指示する。さらに、動態分析によって、B7分子に対するCD28およびCTLA−4との間の競合はT細胞反応の極めて初期のパラメーターを決定することが暗示される。すなわち、本実験では増大におけるCTLA−4依存性変化は最初の2日以内に生じた。CTLA−4遮断は、CD28嵌合が許容されるときSEBに対する反応を増大させ、一方、それは、CD28が遮断されるとき残余のものの増殖に対する影響をもたない。
【0121】
このデータは、CTLA−4は、CD28の作用に対抗することによってSEBに対する反応の減弱における役割を果たすことを示している。これはT細胞寛容のメカニズムを示しているのかもしれないが、この抑制はまた表現型の変化に必要とされるかもしれない。例えば、B7/CTLA−4シグナルによって生じるシグナルはメモリー細胞または別のリンホカイン発現およびエフェクター機能を誘発することが可能かもしれない。
【0122】
実施例7
増殖、IL−2産生、細胞死、細胞周期の進行およびT細胞活性化マーカーの出現に対するCTLA−4連結の影響の動態分析材料と方法
抗体および試薬
活性化に用いた抗体は以下の通りである:抗CD3ハイブリドーマ500A2(Allisonら、The T-cell Receptor(T細胞レセプター)、分子および細胞生物学のUCLAシンポジウム、ニューシリーズ、Alan R.Liss,Inc.,ニューヨーク33-45(1987))、抗CD28ハイブリドーマ37.N.51.1(Grossら、上掲書)、抗CTLA−4ハイブリドーマ 9H10.11G3(Krummelら、上掲書)、および抗Va3ハイブリドーマ536(Havranら、P.N.A.S.86:4185-4189(1989))。CTLA−4Igはレーンらの文献に記載されている(Laneら、Immunol.80:56-61(1994))。APCおよびCD8枯渇は、抗クラスIIMHCハイブリドーマ28-16-8s(0zato& Sachs,J.Immunol.126:317-323(1981))およびBP107(Symington &Sprent,Immunogenetics 14:53-61(1981))、並びに抗CD8抗体ハイブリドーマ3.155(Sarmientoら、J.Immunol.125:2665-2672(1980))を用いて達成された。平均直径が5μM±0.1μMのスルフェートポリスチレンラテックス微小球はメーカーから入手した(Interfacial Dynamics Corp.ポートランド、Or)。
【0123】
CD4+Tリンパ球の調製
リンパ節細胞は、NCI(ベセスダ、MD)から入手した6−8週齢のBALB/cマウスから分離した。分離リンパ球は、組織を細切して生じた浮遊液をナイテックスで濾過して得た。CD4+T細胞に富む調製物は、補体、抗クラスII抗体および抗CD8抗体で処理して得た。典型的な調製物は95%CD4+でB220陽性細胞は0.75%末満であった。
【0124】
固定抗CD3を用いたCD4+T細胞の活性化
丸底の96ウェルプレートを0.1μg/mlの抗CD3の50μlで2時間37℃で被覆し、続いて十分に洗浄し、完全なRPMI(10%FCS、50μMのβ−メルカプトエタノール、2mMのグルタミンおよび50μg/mlのゲンタマイシンを含む)で37℃で30分遮断処理した。200μlの完全RPMI1640中のT細胞1×105をウェル当たり加え、全ての培養を37℃、5%CO2下で保温した。表示がある場合は、抗CD28を10μg/mlで、CTLA−4Igを5μg/mlで、コントロールまたは抗CTLA−4FAbフラグメントを50μg/mlで加えた。採取の12時間前に、1μCiの3Hチミジンを含む20μlの完全RPMIでウェルをパルスした。プレーからガラス線維マットに細胞を採取し、3Hの取り込みをガス相カウンター(Packard,メリデン、Ct)を用いて測定した。
【0125】
ラテックス微小球を用いたT細胞の活性化
ラテックス微小球(ビーズ)を文献(Krummelら、(1995))にしたがって被覆した。簡単に記せば、1×107ビーズ/mlを表示した抗体とともにPBS中に浮遊させ、1.5時間37℃で保温し、続いてPBSで洗浄して10%FCSによる遮断を施した。抗CD3を0.5μg/mlで、抗CD28を1μg/mlで、抗CTLA−4を4μg/mlで添加した。さらに、結合溶液はコントロール抗体536で標準化して結合時の全抗体濃度を6μg/mlの一定濃度に保った。T細胞(1×105/200μl)を1×10のビーズとともに全容積を200μl/ウェルとして培養した。全アッセイについて丸底の96ウェルプレートを用いた。培養を5%CO2中で37℃で保温し、1μCiの3Hチミジンで採取前の最後の12時間パルス標識した。CTLA−4の抑制作用は抗CTLA−4抗体に特異的なようであった。なぜならば、抗Lセレクチン(Mel-14)、抗Thy1.2および無関係の抗体を含む他のT細胞結合抗体は、抗CD3および抗CD28とともに同時固定したとき効果を示さないかまたは増大効果を示すからである。
【0126】
細胞の生命活性の分析
T細胞は増殖アッセイの場合と同じように培養した。1/10容積の0.4%トリパンブルー(Sigma,セントルイス、Mo)を加えて細胞の生命活性をアッセイし、細胞数は血球計算盤で測定した。各培養の10-4mlを2組のウェルで数え、この容積の数値を2倍してインプット(50×104細胞/mlがインプットであった)に対する%値を得た。標準偏差は常に10%未満であった。
【0127】
細胞周期分析
以前に報告(Telfordら、Cytometry 13:137-143(1992))されたように沃化プロピジウムによる細胞周期相の分析を実施した。簡単に記せば、細胞を96ウェルプレートで微小球を用いて記載にしたがって活性化した。表示の時間に、3つの同一のウェル(培養開始時にサンプルにつき3×105をインプット)を採取し、PBSで洗浄して1.0mlの80%エタノールで固定した。細胞を氷上で30分保ち、遠心によって沈澱させ、さらに、0.1%トリトンX100、0.1mMのEDTA、0.05mg/mlのRNアーゼ(50U/mg)および50μg/mlの沃化プロピジウムを含む水溶液0.4mlに再浮遊させた。分析までサンプルを暗所の氷上で保存し、各サンプルは一定の流速で2分間分析した。データはコウルター(Coulter)EPICSシステムを用いて分析した。
【0128】
IL−2の測定
ELISAを用いて細胞上清中のIL−2を検出した。簡単に記せば、捕捉抗体をホウ酸緩衝液(0.2Mのホウ酸ナトリウム、pH8.0)中に1μg/mlの濃度で用いてコーニング(Cornig,NY)ELISAプレートを37℃で2時間被覆した。続いてこれらのプレートを十分に洗浄し、0.4%のゼラチン/PBSで30分遮断処理した。T細胞上清(50μ1)を加え、37℃で2時間保温した。再びプレートを洗浄し、ビオチン付加検出抗体をPBS/0.5%トゥイーン中で添加し37℃1時間保温した。再度プレートを洗浄し、1μg/mlのストレプトアビジン−HRPOを含むPBS/トゥイーン溶液50μlを加え、さらに37℃で30分保温した。クエン酸緩衝液(0.1Mクエン酸、pH4.35)中の反応進行試薬(0.55mg/mlのABTS(2,2'−アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)50μlを加え、25℃15分保温して、405nmでの吸収を測定した。組換えIL−2はベーリンガーマンハイムから入手し、連続希釈して標準曲線を作製した。それに基づいて被験サンプルの3組の吸収値をng/mlで測定したリンホカイン量に変換した。抗体(捕捉用:JES6-1A12、検出用:ビオチン付加JES6-5H4)はファーミンゲン(PharMingen,サンディエゴ、CA)から入手した。
【0129】
CD25およびCD69発現の分析
2×105細胞を50μlの氷冷PBS/1%ウシ血清/0.05%アジ化ナトリウム中に懸濁させた。抗CD25・FITC、抗CD96またはコントロールラットIgG・FITC抗体を添加し、氷上で30分保ち、続いて2回4mlのPBS/ウシ血清/アジ化ナトリウム中で洗浄した。5000件の本物のゲート作動をベクトン−ディッキソンファックスキャン(Becton-Dickinson FACScan)で捕捉し、リシス(Lysis)IIプログラムを用いて関連集団を分析した。
【0130】
結果
CTLA−4嵌合は増殖およびIL−2産生を抑制する
CTLA−4またはB7に対する可溶性抗体は、標準的な3日アッセイでは固定抗CD3および抗CD28によって活性化されたT細胞によるチミジンの取り込みおよびIL−2産生を高めることが以前に示された。これらの結果は、T細胞自身間のCTLA−4/B7相互作用の遮断は、抑制シグナルを除去することによって反応を増大させることを示している。培養はただ1時点でアツセイされるので、培養中のどの時点でその作用が生じるかを決定することは不可能であった。精製したCD4+のT細胞の増殖に対するCTLA−4/B7の遮断の動態分析は図8Aに提示する。CTLA−4Igまたは抗CTLA−4のFabフラグメントのいずれかを抗CD3および抗CD28で刺激した培養に加えることによって増殖の増加がもたらされた。この作用は26時間ではわずかで、この時期にはいずれの培養にも極めてわずかの増殖があっただけである。より後の時期では、CTLA−4/B7遮断は1.5倍または2倍の増殖増加をもたらした。この遮断強化作用はIL−2産生レベルでさらに一層明白であった。図8Bに示したように、IL−2は、26時間までに抗CD3/CD28刺激培養で低レベルではあるが検出可能であった。抗CTLA−4Fabまたは抗CTLA−4Igのいずれかの添加は、26時間までに蓄積されたIL−2の量を約6倍増加させ、40時間までに10倍近く増加させた。
【0131】
増殖およびIL−2産生の抑制の動態は、CTLA−4を抗体被覆微小球を用いてCD3およびCD28と架橋することによって調べた。チミジン取り込みの動態は図1Cに示す。顕著な取り込みは抗CD3および抗CD28によって刺激された培養で26時間までに検出された。またCTLA−4が嵌合されたときは26時間では本質的に取り込みは検出されず、これらの培養ではアッセイを通して増殖は3−4倍低かった。図8Dに示したように、さらに強いIL−2産生抑制が観察された。IL−2は抗CD3/CD28刺激培養では16時間までに容易に検出され、40時間まで増加した。CTLA−4が嵌合されたときは、IL−2は30時間後にもほとんど検出されず、42時間のピークではコントロール培養のそれのわずかに約1/5のレベルであつた。
【0132】
これらの結果は、その天然のリガンドによって仲介されるかまたは抗体架橋によって仲介されるかにかかわらず、CTLA−4の抑制作用は活性化の初期に検出可能で、その過程の後期の反応の急激な停止によるものではないことを示唆している。
【0133】
CTLA−4嵌合は細胞死を誘発しないが、細胞周期の進行を妨げる
CTLA−4による増殖抑制の説明となりうる1つのメカニズムは細胞死の抑制または増強であろう。培養期間を通して抑制が検出できたので、T細胞培養で生じる細胞死の動態を調べた。生体染色色素(トリパンブルー)で染色された細胞の血球計算盤による計測によって、培養から回収された全細胞は本質的にはインプットの100%で、増殖が生じなかったものについても同様であった。非刺激培養では、生命活性のない細胞の数は培養期間を通じて増加し54時間後には50%に達した。抗CD3のみで剌激された培養から回収した死細胞の数は、特に初期の時点でわずかに増加した。増殖データと一致して、抗CD28で同時剌激された培養は、42時間後に生細胞が増加し全収量は78時間で300%を越えた。抗CD3+抗CTLA−4による刺激は、非刺激培養または抗CD3のみで剌激された培養で認められたものを越える死細胞の増加をもたらさなかった。
【0134】
抗CD3および抗CD28の存在下で抗CTLA−4で刺激された培養からもまた、抗CD3および抗CD28で刺激された培養のそれを越える死細胞の回収増加は認められなかった。培養期間を通して、生命活性を有する細胞の回収は、非刺激培養または抗CD3単独刺激培養からのそれよりも実際高かった。これらのデータは、CTLA−4の架橋は、膜透過性レベルで検出できるような細胞死を誘発しないことを示唆している。
【0135】
細胞死および細胞周期相のより直接的でより感度の高い測定として、透過性細胞の沃化プロピジウム染色を用いて種々のステージの培養におけるDNA含有量を測定した。回収細胞のG0/G1、S/G2、およびサブディプロイド集団における絶対数の比較を可能にするために、培養は同一数の細胞で開始し、等しい培養分画を分析した。結果は図9に示す。全ての剌激条件下で全細胞回収は本質的にインプットの100%またはそれより高かった。インプット細胞の99%以上はG0/G1期であった。非刺激培養では、アポプトシスを示唆するサブディプロイド量のDNAを含む細胞の数は、培養期間を通して全体の50%よりわずかに増加した。同様なパターンが抗CD3のみで剌激した培養で認められたが、ただしS/G2期の細胞数はわずかに高かった。抗CD28で同時刺激された培養では、S/G2期の細胞数は早くも20時間で顕著に増加し、この数はアッセイ期間を通して次第に増加した。抗CTLA−4とともに抗CD3で剌激された細胞のDNAプロフィールは本質的にはアッセイ期間を通して非刺激または抗CD3刺激培養と同じで、アポプトシス細胞の数には顕著な違いは無かった。しかしながら、抗CD3のみでの刺激と比較して抗CD3と抗CTLA−4で刺激された培養ではS/G2期の細胞は顕著に減少した。抗CTLA−4および抗CD3とともに抗CD28で剌激された培養は、培養期間を通してサブディプロイド集団の細胞数は同じかまたは他のいずれの条件よりも少なかった。したがって、活性化のいずれの時期においても抗CTLA−4の架橋によってアポプトシスによる細胞死が誘発される証拠は存在しない。抗CD3および抗CD28で刺激された細胞に対する架橋CTLA−4の主要な作用は、生細胞(特にS/G2期の細胞)総数の増加の抑制である。またこれらの結果は、CTLA−4の嵌合は細胞周期の進行を抑制し、細胞をG0/G1期に止めることを示唆している。
【0136】
CTLA−4嵌合はIL−2レセプターのアルファ鎖発現の誘発を部分的に抑制する
T細胞活性化のもう1つの特徴は、CD25(IL−2レセプターのアルファ鎖)の発現のアップレギュレーションである。フローサイトメトリーを用いて、CTLA−4同時連結の存在下、非存在下でCD28同時刺激の条件の下でT細胞上のCD25の発現を調べた。抗CD3のみによるT細胞の刺激は、24時間以内にT細胞の約60%にCD25の発現を誘発した。抗CD28による同時剌激は、24時間での陽性細胞の数および発現レベルの両方について発現増加をもたらし、発現は培養60時間でさらに増強した。CTLA−4がまた組み込まれたときには、CD25の発現はより少ない細胞分画(47%対80%)で認められ、平均発現レベルは、抗CD28で同時剌激された培養と比較して24時間(平均螢光インデックス162対194)および60時間(MFI332対669)ではるかに低かった。このデータは、CTLA−4嵌合は活性化の間中CD25のアップレギュレーションを抑制することを明らかにした。
【0137】
CTLA−4嵌合は初期活性化マーカーCD69の発現を部分的に抑制する
CD69はT細胞活性化の初期一過性マーカーである。CD69発現の誘発に対するCD28およびCTLA−4嵌合の影響の動態分析を実施した。CD3単独または抗CD28との同時刺激により活性化したT細胞の50%以上が12時間でCD69を発現し、一方、CTLA−4嵌合に付した同時刺激細胞の15%未満が陽性であった。異質なパターンではあるが、24時間でCD69の発現はCD28同時刺激細胞の75%以上で検出できた。この時点で、CTLA−4も組み込まれた培養中の細胞の45%未満がCD69を発現し、発現レベルは低下した。36時間までに全ての培養でCD69の発現は本質的に休止レベルまで復帰した。CD28同時刺激はCD69の発現を増大させ延長させるが、一方、CTLA−4連結はCD69の最初のアップレギュレーション抑制する。この結果は、CD69レベルはCTLA−4欠陥マウスから分離したT細胞上で構造的に上昇するという観察と合致し、さらにT細胞活性化の初期誘発を妨げるCTLA−4の役割を示唆するさらなる証拠を提供する。
【0138】
これらのデータは、CTLA−4は、CTLA−4によって仲介される細胞死をもたらすことなくT細胞を休止させることによって増殖抑制およびIL−2産生抑制を仲介することを明示する。生細胞および生命活性をもたない細胞の抗CTLA−4抑制培養からの回収は、コントロール抗体または抗CD3剌激培養において観察されたものと同様である。CTLA−4架橋の抑制作用が増殖レベルおよびIL−2産生レベルで最初に観察されてから1−2日後でさえ、細胞のアポプトシスに付随するサブディプロイド量のDNAを含む細胞の蓄積は認められない。最後に、CTLA−4架橋はT細胞を細胞周期のG0/G1期に止める。総合すれば、これらのデータは、CTLA−4によるT細胞増殖抑制およびIL−2分泌抑制は細胞死が存在しなくとも生じることを明瞭に示している。ここに提示したこれらのデータが示唆する重要な事柄は、CTLA−4はT細胞の反応過程の初期ステージでT細胞反応を調節する役割を有するということである。本出願人らのデータは、進行する反応の急激な停止ではなく、むしろT細胞活性化の進行に付随する事象の抑制および遅延を示す。
【0139】
上記の結果は、CTLA−4遮断剤による本処置は、抗原剌激に対するT細胞の反応を高めることを示している。インビボでの腫瘍細胞の増殖は本遮断剤の存在下で強く低下する。この効果は、操作されていない野性型の腫瘍に対して認められる。CTLA−4遮断剤は腫瘍の治療に対する新規な対処方法となるだけでなく、競合の可能性がある抑制シグナルを除去することによって同時剌激経路を含む他の治療方法に対する特に有用な補助となるかもしれない。免疫グロブリン産生細胞によるクラス切り換え(T細胞による支援の尺度)は大きく増加する。ペプチド抗原による免疫に対するT細胞の反応もまた本薬剤による処置によって大きく増加する。
【0140】
実施例8
定着腫瘍に対する有効性
SA1は線維肉腫である。図10に示すように、1投与量当たり100μgの抗CTLA−4抗体を用いたCTLA−4遮断は、腫瘍移植後7日または14日後でさえ有効である。このことは、CTLA−4遮断は定着腫瘍の治療に有効であることを示している。
【0141】
実施例9
免疫反応剌激剤との協力作用
SM1は免疫原性の乏しい乳癌である。それはB7の核酸感染によってもたらされる拒絶に抵抗性を示す。しかしながら、B7およびIFNgを用いてある程度の増殖抑制が得られた。図11に示した実験では、マウスの皮下に非修飾SM1腫瘍を移植し、表示の処置を0、3および6日目に施した。図示したように、抗CTLA−4(100μg/用量)単独処置は腫瘍の増殖に対して影響を与えなかった。照射したGM−CSF形質導入細胞を用いて反対側の部位で免疫しても効果はなかった。しかしながら、この2つの組合せによって、5匹のマウスのうち4匹で完全な拒絶が得られた。このことは、CTLA−4遮断は、GM−CSF(およびおそらく他のリンホカイン)と協力することができることを明示した。
【0142】
実施例10
CTLA−4遮断の遅延
RENCAはゆっくりと増殖する免疫原性の乏しい腫瘍である。図12に示すように、CTLA−4遮断(抗CTLA−4抗体100μg/用量)は、腫瘍移植時に開始したときは極めて有効性が乏しい。しかしながら、腫瘍移植後9日で開始する場合には極めて効果的である。このことは、効果的な拒絶を得るために免疫反応を刺激する因子として比較的大きな腫瘍塊から腫瘍屑が生成されることが重要であることを示唆している。このことは、CTLA−4遮断は、照射または化学療法時またはその直ぐ後で用いることができることを示唆する。
【0143】
実施例11
CTLA−4遮断は腫瘍フラグメントの免疫原性を高める
B16は免疫原性が非常に乏しいメラノーマで、B7発現によって誘発される拒絶に抵抗する。出願人らはCTLA−4遮断によって当該腫瘍を攻撃する方法を探索した。図13に示した実験では、マウスの皮下に非修飾腫瘍細胞を移植し、表示の処置を0、3および6日目に実施した。CTLA−4単独(9H10、100μg/用量)では無効で、照射B16細胞で反対側の部位に免疫しても効果はなかった。しかしながら、両方を用いた処置によって小さいが明瞭で再現性のある腫瘍増殖抑制が示された。しかし治癒は得られなかった。
【0144】
このアプローチはまた防御免疫設定で用いた。図14に示した実験では、CTLA−4遮断(9H10、100μg/用量)もしくは非遮断下で、さらにサイトカイン含有ゼラチン微小球(50ngのγインターフェロンおよび50ngのGM−CSF)の存在下もしくは非存在下でマウスを照射B16細胞で免疫した。このマウスを生きている非修飾腫瘍細胞で2週間後に再度チャレンジした。CTLA−4遮断とともに照射細胞で免疫したマウスは、照射細胞のみを投与されたマウスと比べて腫瘍の増殖は顕著に低下した。最良の防御効果は、CTLA−4遮断と組合せたサイトカイン含有微小球で得られた。
【0145】
総合すれば、CTLA−4遮断は、修飾腫瘍細胞または腫瘍フラグメントによる能動的免疫を用いる免疫方法を強化し、さらにサイトカインとの協力作用を有することをこれらのデータは示している。
本明細書に引用した全ての刊行物および特許出願は、それらが限定的にかつ個々に表示されるのと全く同様に参照により本明細書に含まれる。
前述の発明は、理解を明確にする目的で図面および実施例である程度詳細に述べてきたが、本発明の教示によってある種の変更および修飾を添付の請求の範囲から外れることなく実施できることは当業者には極めて明白であろう。
【0146】

【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1A】CTLA−4またはCD28に対して誘導した抗体の存在下または非存在下における腫瘍細胞株V51Blim10のインビボ増殖を示すグラフである。
【図1B】2×106のV51Blim10細胞および抗体を注射したマウスにおける平均腫瘍サイズを示すグラフである。
【図1C】V51Blim10細胞を注射したマウスにおける個々の腫瘍増殖サイズを示すグラフである。
【図2】CTLA−4またはCD28に対して誘導した抗体の存在下または非存在下での腫瘍細胞株B7-51Blim10腫瘍のインビボ増殖を示すグラフである。
【図3】V51Blim10細胞および抗CTLA−4抗体で予め処置したマウスによる野性型大腸癌細胞の拒絶を示す。
【図4】抗CTLA−4抗体による処置後の定着腫瘍の増殖を示す。
【図5】抗CTLA−4抗体の存在下または非存在下でのネズミ線維肉腫SA1Nのインビボ増殖を示す。
【図6A】ペプチド抗原に対するT細胞の反応における抗CTLA−4抗体のアジュバント効果を示す。
【図6B】ペプチド抗原に対するT細胞の反応における抗CTLA−4抗体のアジュバント効果を示す。
【図6C】ペプチド抗原に対するT細胞の反応における抗CTLA−4抗体のアジュバント効果を示す。
【図6D】ペプチド抗原に対するT細胞の反応における抗CTLA−4抗体のアジュバント効果を示す。
【図6E】ペプチド抗原に対するT細胞の反応における抗CTLA−4抗体のアジュバント効果を示す。
【図7A】クラス切り換え(class switching)におけるCTLA−4遮断の影響を示す。
【図7B】クラス切り換え(class switching)におけるCTLA−4遮断の影響を示す。
【図7C】クラス切り換え(class switching)におけるCTLA−4遮断の影響を示す。
【図7D】クラス切り換え(class switching)におけるCTLA−4遮断の影響を示す。
【図7E】クラス切り換え(class switching)におけるCTLA−4遮断の影響を示す。
【図7F】クラス切り換え(class switching)におけるCTLA−4遮断の影響を示す。
【図8A】精製CD4+細胞の増殖におけるCTLA−4/B7遮断の動態分析を示す。
【図8B】IL−2の検出を示す。
【図8C】チミジン取り込みの動態を示す。
【図8D】CTLA−4をも組み込んだ場合にはIL−2産生の強い抑制が観察された。
【図9A】種々のCTLA−4/B7遮断ステージにおけるDNA含有量を測定する目的で透過性にした培養細胞の沃化プロピジウム染色を示す。
【図9B】種々のCTLA−4/B7遮断ステージにおけるDNA含有量を測定する目的で透過性にした培養細胞の沃化プロピジウム染色を示す。
【図9C】種々のCTLA−4/B7遮断ステージにおけるDNA含有量を測定する目的で透過性にした培養細胞の沃化プロピジウム染色を示す。
【図9D】種々のCTLA−4/B7遮断ステージにおけるDNA含有量を測定する目的で透過性にした培養細胞の沃化プロピジウム染色を示す。
【図9E】種々のCTLA−4/B7遮断ステージにおけるDNA含有量を測定する目的で透過性にした培養細胞の沃化プロピジウム染色を示す。
【図10】線維肉腫におけるCTLA−4遮断延長の影響を示す。
【図11】抗CTLA−4単独、GM−CSF形質導入細胞単独またはその組合せによる乳癌処理の影響を示す。
【図12A】腎臓癌におけるCTLA−4遮断延長の影響を示す。
【図13】は、CTLA−4遮断処置単独、または照射B16腫瘍細胞による免疫と組合せた処置のB16腫瘍に対する影響を示す。
【図14】CTLA−4遮断と照射B16細胞および/またはサイトカイン処置との組合せの影響を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CTLA−4の細胞外ドメインに特異的に結合し、さらにCTLA−4シグナル発生を抑制するという特徴を有するCTLA−4遮断剤であって、当該遮断剤が、CTLA−4の細胞外ドメインに対する抗体またはそのFabもしくはFab'フラグメント以外のものであり、さらに当該遮断剤が、哺乳類T細 胞の抗原刺激に対する反応を高めるか、または哺乳類ホストで腫瘍細胞の増殖を低下させるために有効である前記CTLA−4遮断剤。
【請求項2】
CTLA−4遮断剤および免疫反応刺激剤を含む組成物であって、当該 CTLA−4遮断剤がCTLA−4の細胞外ドメインに特異的に結合し、さらにCTLA−4シグナル発生を抑制するという特徴を有する前記組成物。
【請求項3】
当該免疫反応刺激剤が、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GMー CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン12(IL−12)、インターロイキン1(IL−1)、インターロイキン 2(IL−2)、B7、抗CD3および抗CD28から成る群から選ばれる請 求の範囲第2項記載の組成物。
【請求項4】
当該免疫反応刺激剤が抗原である請求の範囲第2項記載の組成物。
【請求項5】
当該抗原が腫瘍抗原である請求の範囲第4項記載の組成物。
【請求項6】
当該抗原が病原体由来である請求の範囲第4項記載の組成物。
【請求項7】
当該免疫反応刺激剤が化学療法剤である請求の範囲第2項記載の組成物。
【請求項8】
抗原刺激に対する哺乳類T細胞の反応を高めるか、または哺乳類ホストで腫瘍細胞の増殖を低下させるために免疫反応刺激剤の使用を併用するCTLA−4遮断剤の使用であって、当該CTLA−4遮断剤がCTLA−4の細胞外ドメインに特異的に結合し、さらにCTLA−4シグナル発生を抑制するという特徴を有する前記CTLA−4遮断剤の使用。
【請求項9】
抗原刺激に対する哺乳類T細胞の反応を高めるか、または哺乳類ホストで腫 瘍細胞の増殖を低下させるために免疫反応刺激剤の使用を併用するCTLA−4遮断剤の使用であって、当該遮断剤がCTLA−4の細胞外ドメインに特異 的に結合し、さらにCTLA−4シグナル発生を抑制するという特徴を有し、さらに当該遮断剤がCTLA−4の細胞外ドメインに対する抗体またはそのFabもしくはFab'以外のものである前記CTLA−4遮断剤の使用。
【請求項10】
当該免疫反応剌激剤が、化学療法剤、抗原、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球コロニー剌激因子(G−CSF)、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン12(IL−12)、インターロイキン1(IL−1)、インターロイキン2(IL−2)、B7、抗CD3および抗CD28から成る群から選ばれる請求の範囲第7項または8項に記載の使用。
【請求項11】
抗原刺激に対する哺乳類T細胞の反応を高めるか、または哺乳類ホストで腫 瘍細胞の増殖を低下させるためのCTLA−4遮断剤の使用であって、当該遮 断剤がCTLA−4の細胞外ドメインに特異的に結合し、さらにCTLA−4シグナル発生を抑制するという特徴を有し、さらに当該遮断剤がCTLA−4の細胞外ドメインに対する抗体またはそのFabもしくはFab'フラグメン ト以外のものである前記CTLA−4遮断剤の使用。
【請求項12】
抗原刺激に対する哺乳類T細胞の反応を高めるか、または哺乳類ホストで腫瘍細胞の増殖を低下させるために、免疫反応剌激因子を産生させる照射源の使用を併用するCTLA−4遮断剤の使用であって、当該遮断剤がCTLA−4の細胞外ドメインに特異的に結合し、さらにCTLA−4シグナル発生を抑制 するという特徴を有する前記CTLA−4遮断剤の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図7F】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−114191(P2009−114191A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291542(P2008−291542)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【分割の表示】特願平9−521425の分割
【原出願日】平成8年12月4日(1996.12.4)
【出願人】(596054847)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (2)
【Fターム(参考)】