説明

Ca含有の18−8系ステンレス鋼の圧延時の割れ疵の防止方法

【課題】 Caを含有する18−8系ステンレス鋼のブルームを熱間圧延する場合に、ブルームを加熱する加熱炉の在炉時間が3.5時間を超えても、その後のブルームの熱間圧延において発生するブルームのコーナー部に割れを防止する方法を提供する。
【解決手段】 Caを含有する18−8系ステンレス鋼のブルームを熱間圧延するため、加熱炉でブルームを加熱するための在炉時間が3.5時間以上に長くなる場合、予熱帯、加熱帯および均熱帯からなる加熱炉における加熱帯および均熱帯の設定温度を在炉時間35時間未満の場合の設定温度よりもそれぞれ10℃低くすることにより、ブルームの熱間圧延温度を10℃低く制御して圧延し、ブルームのコーナー部におけるフェライトの生成量を抑制によるブルームの熱間圧延時の図1に示す割れ疵の発生の防止方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCaを含有する18−8系ステンレス鋼のブルームを熱間圧延するために加熱する加熱炉の設定温度を変更することにより、その後の熱間圧延時の割れ疵の発生を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Caを含有する、特にCaを30〜50ppm含有する、18−8系ステンレス鋼のブルームを熱間圧延するために加熱する加熱炉の設定温度は、炉内の予熱帯を1160〜1180℃、加熱帯を1330〜1350℃、均熱帯を1330〜1340℃とし、この設定温度において、この加熱炉にブルームを装入してから抽出するまでのブルームの在炉時間を2.5〜6.0時間の範囲として加熱している。しかし、加熱炉にブルームを装入してから抽出するまでのブルームの在炉時間が3.5時間を超えて長くなると、その後の熱間圧延時にブルームのコーナー部分に割れが発生していた。
【0003】
従来の鋼の熱間圧延では、圧下量が過少であると鍛練不足による側面割れ疵の発生があることが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。しかし、これはCaを含有する18−8系ステンレス鋼に関するものではなく、したがって、その対処方法は示されていないものである。
【0004】
【非特許文献1】鉄鋼便覧第4版、p.2247参照
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、Caを含有する18−8系ステンレス鋼のブルームを熱間圧延する場合に、ブルームを加熱する加熱炉の在炉時間が3.5時間を超えても、その後のブルームの熱間圧延において発生するブルームのコーナー部に割れを防止する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
Caを含有する18−8系ステンレス鋼のブルームを熱間圧延する場合に、ブルームを加熱する加熱炉の在炉時間が3.5時間を超えた場合に、その後の熱間圧延で発生するブルームのコーナー部の割れの原因及びその対策について、発明者は鋭意研究したところ、ブルームのコーナー部に生成するフェライトがその原因であることをつきとめ、3.5時間を超える長時間にわたる加熱炉による加熱をする場合に、その加熱温度を従来よりも低下することで、その後の熱間圧延でブルームのコーナー部のフェライトの生成が抑制でき、割れが防止できることを見出した。
【0007】
そこで、上記の課題を解決するための本発明の手段は、請求項1の発明では、Caを含有する18−8系ステンレス鋼、のブルームを熱間圧延するために、加熱炉でブルームを加熱するための在炉時間が3.5時間以上に長くなる場合、予熱帯、加熱帯および均熱帯からなる加熱炉における加熱帯および均熱帯の設定温度を在炉時間3.5時間未満の場合の設定温度よりもそれぞれ10℃低くすることにより、ブルームの熱間圧延温度を10℃低く制御して圧延し、ブルームのコーナー部におけるフェライトの生成量を抑えることを特徴とするブルームの熱間圧延時の割れ疵の発生の防止方法である。
【0008】
請求項2の発明では、Caを含有する18−8系ステンレス鋼はCaを30〜50ppm含有する18−8系ステンレス鋼であることを特徴とする、請求項1の手段のブルームの熱間圧延時の割れ疵の発生の防止方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明はCa入り18−8系ステンレス鋼、特にCaを30〜50ppm含有する18−8系ステンレス鋼からなるブルームの熱間圧延のための加熱炉での加熱において、加熱炉の在炉時間が3.5時間以上の場合に、加熱炉の加熱帯および均熱帯の温度を、従来の方法におけるそれらの温度よりも10℃だけ低下することで、このブルームの引き続く熱間圧延によるコーナー部におけるフェライトの生成量を減少して割れ疵を減少することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
Ca:30〜50ppm入り18−8系ステンレス鋼からなるブルームの加熱炉の在炉時間によって加熱炉中での設定温度を変更し、熱間圧延の圧延温度を制御することによって、ブルームのコーナー部におけるフェライト生成量を抑制して圧延疵を防止した。そのために、ブルームの加熱炉の在炉時間、ブルームの圧延時のコーナー部の温度、圧延時の面中央部の温度、ブルーム1本当たりの疵の個数(N−10)および疵の評価によって、従来方法の在炉時間と加熱炉設定温度におけるテスト結果を表1に示す。
【0011】
【表1】

【0012】
さらに、加熱帯および均熱帯において下げた温度、ブルームの圧延時のコーナー部の温度、圧延時の面中央部の温度、ブルーム1本当たりの割れ疵の個数(N−10)および疵の評価によって、本発明の在炉時間3.5時間以上と加熱炉設定温度におけるテスト結果を表2に示す。なお、これらの割れ疵は、図1および図2において割れ疵1としてそれぞれ示す。
【0013】
【表2】

【0014】
上記の表1および表2において、疵評価の〇は疵が3個未満、△は疵が3〜5個、×は疵が6個以上を示す。さらに、表2において、加熱帯および均熱帯で下げた温度が表1の従来の温度に比して20℃以上である場合には、ブルームの温度低下により熱間加工性が悪化し、割れが発生したと推測された。すなわち、表1に示すように従来の方法の疵評価では、在炉時間が2.5時間以上から3.0時間未満までおよび3.0時間以上から3.5時間未満までは〇で、3.5時間以上から6.0時間までは×であった。一方、表2に示すように本発明の方法の疵評価では、在炉時間が3.5時間以上から6.0時間までにおいても加熱炉および均熱炉の温度を、従来のそれらよりも10℃低くした場合は〇であり、従来のそれらよりも20℃あるいは30℃低くした場合はいずれも×であった。
【0015】
以上の表1および表2に示すテスト結果に基づき、Ca:30〜50ppm入り18−8系ステンレス鋼からなるブルームを熱間圧延する際の加熱炉の加熱設定温度をブルームの在炉時間により、以下の表3のように管理することとし、熱間圧延による圧延疵の発生を抑えた。なお、表3において、比較のため、従来法による在炉時間、および予熱帯、加熱帯、均熱帯の温度を旧で示し、本発明によるそれらを新で示した。
【0016】
【表3】

【0017】
ブルームの操業状況において、今回、熱間圧延による圧延疵が多発したブルームは、ブルームの熱間圧延においては操業上での異常記録はみとめられなかった。しかし、圧延材の検査結果の記録を見ると、探触子回転式超音波探傷器R−USTによる表面下0〜2.5mm区間の表面欠陥Loの面積率が高いことがわかった。また、過去のトラブル等による加熱炉内での在炉時間が長いブルームにおいても、熱間圧延材のコーナー割れが発生した記録があり、暫定的ではあるが疵の発生した熱間圧延材の流出対策を取って品質状況を確認した。
【0018】
熱間圧延材のコーナー割れ疵の発生対策として、過熱を防止するために在炉時間による加熱炉の予熱帯の第1ゾーン、加熱帯の第2ゾーンおよび第3ゾーン、均熱帯の第4ゾーンからなる各ゾーンにおける設定温度を変更した。表4に従来法を現状とし、発明方法を改訂として各加熱時間と各ゾーンの加熱炉の各設定温度を示す。
【0019】
【表4】

【0020】
さらに、熱間圧延材のコーナー割れ疵の発生した熱間圧延材の次工程への流出対策として、R−USTのLo面積率が2.5%以上の熱間圧延材は、各圧延材を3ロットにつき確認のために目視検査を実施し、残存の疵があれば、再検査を実施し、残存した疵の状況によっては、疵の部分をピーリング工程を追加し除去して次工程へ流した。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】熱間圧延材のコーナー表面の割れ疵を示すマクロ写真の図である。
【図2】棒状圧延材の表面の割れ疵を示すマクロ写真の図である。
【符号の説明】
【0022】
1 割れ疵

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Caを含有する18−8系ステンレス鋼、のブルームを熱間圧延するために、加熱炉でブルームを加熱するための在炉時間が3.5時間以上に長くなる場合、予熱帯、加熱帯および均熱帯からなる加熱炉における加熱帯および均熱帯の設定温度を在炉時間3.5時間未満の場合の設定温度よりもそれぞれ10℃低くすることにより、ブルームの熱間圧延温度を10℃低く制御して圧延し、ブルームのコーナー部におけるフェライトの生成量を抑えることを特徴とするブルームの熱間圧延時の割れ疵の発生の防止方法。
【請求項2】
Caを含有する18−8系ステンレス鋼はCaを30〜50ppm含有する18−8系ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1に記載のブルームの熱間圧延における割れ疵の発生の防止方法。

【図1】
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【図2】
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