説明

CaO・Al2O3・2SiO2を含有する焼成物の製造方法

【課題】 セメント混合材、細骨材として有用なCaO・Al・2SiO(CAS)を含む焼成物を石炭灰とCa含有原料とから製造する際に、製造設備コスト、運転コストを低減できる製造方法を提供する。
【解決手段】 Ca含有原料として、これを単独で焼成した際、CS、CS、CA及びCAFを主成分とするポルトランドセメントクリンカーを生じるように化学組成が調製された粉末を用いる。このような粉末は、ポルトランドセメントクリンカー製造のために既存の設備で多量に製造されているため、例えば、Ca含有原料として石灰石を単独で用いる場合に比べ、該石灰石を粉砕するために新規の粉砕装置を用意する必要がないという利点を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCaO・Al・2SiOを20質量%以上含有する焼成物を得るため製造方法に関する。詳しくは、廃棄物や副産物、特に石炭灰を主原料としてCaO・Al・2SiOを20質量%以上含有する焼成物を得るに際して、既存の設備を有効に利用可能な製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の地球環境問題と関連して、廃棄物、副産物等の有効利用は重要な課題となっている。セメント産業、セメント製造設備の特徴を生かし、セメント製造時に原料や燃料として廃棄物を有効利用あるいは処理を行うことは、安全かつ大量処分が可能という観点から有効とされている。
【0003】
廃棄物、副産物等の中で、石炭灰、都市ごみ焼却灰、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ等、特に石炭灰は、通常のセメントクリンカー組成に比べ、Al含有量が多い。そのためこのような廃棄物、副産物等の使用量を増加させた場合、セメントクリンカー成分のうち間隙相に当たる3CaO・Al含有量が増加することになり、セメント物性に影響が生じる。従って、セメント製造での廃棄物、副産物等の利用量は、Al成分の量により制約を受け、多量に使用できないという問題がある。
【0004】
そのようななか、上記石炭灰を主成分とし、Caを含む原料を副成分としてCaO・Al・2SiO(以下CASと略記する場合がある)を含有する焼成物を製造し、セメント混合材や細骨材とする技術が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0005】
一般的な石炭灰の構成成分の比率をCASと比較すると、Al及びSiOの割合が高い一方で、CaOの割合が低い。そのため通常は、石炭灰に対してCa含有原料を混合して焼成しなければCASを含む焼成物を得ることができない。このCa含有原料の混合比率は、該Ca含有原料の種類にもよるが、一般的には石炭灰100質量部に対して、90〜5質量部と相対的に少量である。
【0006】
ここで、通常のポルトランドセメントの製造に際しては、所定の焼き上がり(クリンカー)組成になるように各種原料を混合し、ボールミル、竪型ミル等のミル等により粉砕・混合した後、この粉砕物を焼成する(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4494743号公報
【特許文献2】特許第4456832号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】セメント協会HP、“セメントができるまで(製造工程)”、[online]、セメント協会、インターネット、<URL:http://www.jcassoc.or.jp/cement/1jpn/jd3.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、上記CASを石炭灰とCa含有原料とから製造しようとした場合、石炭灰は、それ単独でみると細かい粉末であり、敢えて粉砕工程に供す利点がない。むしろ、上記ポルトランドセメントの製造方法と同様にCa含有原料と混合して粉砕することは、粉砕時のエネルギーが余計に必要となるだけであり、省エネルギーの観点からむしろ問題がある。
【0010】
一方、Ca含有原料としては、工業的に生産される炭酸カルシウム、消石灰などが粉末として入手できるが、コストの点を考慮すると、天然の石灰石等の鉱物を使用した方が、粉砕コストを考慮しても有利である。しかしながら前述のように、CASを含む焼成物を石炭灰とCa含有原料とから製造する場合、相対的にCa含有原料の使用量はすくないため、既存のセメント製造用の粉砕設備(竪型ミルやボールミルなど)及び焼成設備(ロータリーキルンなど)を、該CASの製造に使用しようとすると、粉砕設備と焼成設備とのバランスが崩れ、粉砕能力が過剰となり、よって未使用の粉砕済みCa含有原料を多量に保管する設備が必要となるという問題があった。また、このような問題の発生を避けるため、能力の小さな粉砕設備を設けると、こんどはその装置コスト等が新たに発生してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。そして、既存のポルトランドセメントクリンカーを製造するために用いられる粉砕・調合原料は、その大部分を石灰石等のCaO源が占め、かつ、既存の設備により工業的に多量に製造されている点に着目し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち本発明は、石炭灰と、Ca含有原料とを混合して焼成し、CaO・Al・2SiOを20質量%以上含有する焼成物を得るため製造方法であって、
該Ca含有原料として、これを単独で焼成した際、CS、CS、CA及びCAFを主成分とするポルトランドセメントクリンカーを生じるように化学組成が調製された粉末を用いることを特徴とする前記製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、多量の廃棄物、副産物等の有効利用を可能とするCASを含む焼成物を、既存のポルトランドセメントの製造設備をそのまま使用して製造することができ、製造コストの点で極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の製造方法は、石炭灰と、Ca含有原料とを混合して焼成し、CASを20質量%以上含有する焼成物を得るためのものである。
【0015】
当該石炭灰は、公知の石炭灰、即ち、火力発電所等から排出されるものを特に制限されることなく使用できる。一般的な石炭灰は、主成分としてSiOを35〜76質量%、Alを17〜40質量%含み、その他の少量成分として、CaO、Fe、MgO、TiO、NaO、KO等を含む。より多量のCASを生じさせるために、Alを20質量%以上含むものが好ましい。なお石炭灰は、その語が示すように粉末状のものである。
【0016】
本発明においては、Ca含有原料として、これを単独で焼成した際、CS、CS、CA及びCAFを主成分とするポルトランドセメントクリンカーを生じるように化学組成が調製された粉末(以下、この未焼成のポルトランドセメントクリンカー原料粉末を「クリンカー原料粉末」という)を用いることを最大の特徴とする。
【0017】
当該CS、CS、CA及びCAF、並びに焼成によりこれら鉱物を生じる原料の化学的な組成については当業者には周知の事項であるが、以下、簡単に記しておく。
【0018】
Sはエーライトとも呼ばれ、3CaO・SiOで示される鉱物である。CSはビーライトとも呼ばれ、2CaO・SiOで示される鉱物である。CAはアルミネートとも呼ばれ3CaO・Alで示されるアルミネート相とも呼ばれ、フェライト相とも呼ばれるCAFと共にクリンカー中の間隙相を構成する成分である。
【0019】
ポルトランドセメントとして代表的な普通ポルトランドセメントにおいては、CSが30〜75%、CSが5〜50%、CAが3〜15%、CAFが5〜15%程度になるように各種原料が混合されて焼成される。なお無論、本発明におけるクリンカー原料粉末は、上記普通ポルトランドセメント用に調製されたものに限定されず、早強、中庸熱、低熱、耐硫酸塩ポルトランドセメント用に調製されたものでもよい。
【0020】
当該クリンカー原料粉末の原料は、公知の原料を用いることができる。具体的には、石灰石、珪石、粘土等の鉱物系の原料や、高炉スラグ、製鋼スラグ、非鉄鉱滓、下水汚泥、浄水汚泥、製紙スラッジ、建設発生土、鋳物砂、ばいじん、焼却飛灰、溶融飛灰、塩素バイパスダスト、木屑、廃白土、ボタ、廃タイヤ、貝殻、都市ごみやその焼却灰等の副産物・廃棄物系の原料が挙げられる。また、これら原料を混合・粉砕する方法もポルトランドセメントクリンカーの製造方法として公知の方法で行えばよい(例えば、非特許文献1参照)。例えば、クリンカー原料粉末の粉末度としては、90μmふるい残分50%未満とすることが望ましい。
【0021】
当該クリンカー原料粉末は、これを単独で1350〜1550℃で焼成すると前記したようなポルトランドセメントクリンカーを生じるが、本発明においては、該クリンカー原料粉末を前記石炭灰と混合して焼成し、CaO・Al・2SiOを20質量%以上含有する焼成物とする。
【0022】
当該クリンカー原料粉末は、前述したとおりその主成分を石灰石等のCaO源が占め、またその他の成分としてもCASの構成成分であるSiO、Alが多く、かつ、工業的に多量に製造されているため入手が容易であり、粉末であるという性状とあいまって、Ca含有原料として極めて優れた利点を有する。
【0023】
石炭灰とクリンカー原料粉末との混合方法は、公知の混合機やその他の混合方法といった公知の技術が特に制限なく使用できる。混合比率は、石炭灰の化学組成等により若干異なるが、通常は石炭灰100質量部に対して、クリンカー原料粉末を90〜5質量部とすればよい。
【0024】
よりCASの含有率の高い焼成物を安定的に得るために、石炭灰とクリンカー原料粉末との混合物(以下。「混合原料」ともいう)におけるCaO換算でのCa量は、好ましくは10〜35質量%、より好ましくは12〜28質量%、特に好ましくは15〜23質量%の範囲となるように両原料を制御して混合する。
【0025】
混合原料からCASを生じさせるための焼成温度としては、通常、1000〜1400℃、好ましくは1150〜1350℃である。焼成時間は、焼成温度にもよるが、一般的には0.5〜10時間、好ましくは1〜5時間である。
【0026】
焼成装置も特に限定されるものではないが、既存のポルトランドセメント製造設備を使用できるという観点からNSPキルンや、SPキルンに代表されるセメントキルン等の高温加熱が可能な装置が好適に使用できる。また、大量生産あるいは大量処理の観点からも当該セメント製造設備を用いることが好ましい。
【0027】
焼成物中のCASは、全体の20質量%以上含まれていればよいが、セメント混合材として使用する際の物性を考慮すると、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上が特に好ましい。一方、石炭灰を主原料とする特性上、100%CASとすることは困難であり、通常80〜90質量%がCASであれば十分である。CASの割合は、第一に混合原料の化学組成をCASの化学組成に近づけることにより、第二に前記したような適切な温度範囲と時間で焼成を行うことによって高くすることができる。
【0028】
本発明の製造方法で製造されたCASを含む焼生物は、ポルトランドクリンカーおよびセッコウと共に粉砕または個別に粉砕した後、混合することにより、水硬性組成物とすることができる。使用するセッコウについては、二水セッコウ、半水セッコウ、無水セッコウ等のセメント製造原料として公知のセッコウが特に制限なく使用できる。セッコウの添加量は、水硬性組成物中のSO量が1.5〜5.0質量%となるように添加することが好ましく、1.8〜3質量%となるような添加量がより好ましい。上記CASを含む焼成物、ポルトランドセメントクリンカーおよびセッコウの粉砕方法については、公知の技術が特に制限なく使用できる。ポルトランドセメントクリンカーは、その製造方法、組成に特に制限なく公知のものが制限なく使用できる。
【0029】
また、該水硬性組成物には、更に高炉スラグ、シリカ質混合材、フライアッシュ、炭酸カルシウム、石灰石等の混合材や粉砕助剤を適宜、添加混合、混合粉砕してもよい。また塩素バイパスダスト等を混合してもよい。
【0030】
当該水硬性組成物の粉末度は、特に制限されないが、2800〜4500cm/gに調整されることが好ましい。
【0031】
さらに必要に応じ、粉砕後に高炉スラグ、フライアッシュ等を混合し、高炉スラグセメント、フライアッシュセメント等にすることも可能である。
【0032】
むろん本発明の焼成物は、JIS規格外のセメントの製造原料や、セメント系固化材等の原料としてもよい。
【0033】
さらに本発明の製造方法で得られた焼成物は、ふるい法で粒径2.5mm以下になるまで粉砕することにより、モルタルやコンクリートを製造する際の細骨材とすることも可能である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を具体的に説明するため、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。
【0035】
原料及び焼成物の化学組成、鉱物組成は、原料又は焼成物を蛍光X線分析にかけ、粉末X線回折の内部標準を用いたリートベルト解析にて求めた。
【0036】
クリンカー原料粉末としては、石灰石、廃棄物等の汎用のポルトランドセメントクリンカー用の各種原料を、そのまま焼成すると下記表1に示す鉱物組成のセメントクリンカーを生じるように化学組成を調製、粉砕して得た。粉末度は、90μm残分で35%未満として調整した。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例1
石炭灰とクリンカー原料粉末とを、混合原料中のCa含有量がCaO換算にして17.5質量%となるように混合して混合原料粉末を得た。小型電気炉で、最高温度1250℃で1時間焼成した。得られた焼成物の化学分析結果を表2に示す。なお、CaO・Al・2SiO量は80質量%を示した。
【0039】
【表2】

【0040】
実施例2
既存のセメント製造の原料工程を利用して、上記のクリンカー原料粉末を調整しサイロに貯蔵した。一方、石炭灰は、随時化学分析を行い、別のサイロに貯蔵した。用いた石炭灰は、主成分としてSiOが約61%、Alが約25.5%のものを用いた。
【0041】
それぞれのサイロから、混合原料中のCa含有量がCaO換算にして14±0.5質量%で一定となるように、各々の原料が含むCaO値から計算して求めた量の石炭灰とポルトランドセメントクリンカー用粉末原料を切出し、焼成物用原料貯蔵サイロに同時投入した。サイロへの投入は石炭灰とCaO含有粉末原料の合量で400t/hで行った。この際、焼成物用原料貯蔵サイロ内の原料は、下から抜出し、上から再投入を300t/hの循環をかけながら行い、約3000tの原料を調合した。
【0042】
この調合原料を約90t/hでキルンにフィードした。キルンで焼成された焼成物がクーラーから出始めたところから試料の採取を開始した。キルン内の最高温度は、CaO・Al・2SiOの生成の仕方の変化を見るために1000〜1300℃の幅で変動させた。試料採取開始から0.5あるいは1時間ごと焼成物を採取し分析を行った。得られた焼成物のCaO含有率、及びCaO・Al・2SiO量の結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
実施例3
前記クリンカー原料粉末を焼成して、前記表1に示す鉱物組成のポルトランドセメントクリンカーを得た。
【0045】
このポルトランドクリンカーに実施例1で得た焼成物を0、5又は10質量%(内割)となるように加え、さらにSO換算で2±0.2質量%となるように二水セッコウを添加し、Blaine法による比表面積が3200±50cm/gとなるように混合粉砕し、セメントを試製した。
【0046】
これらの試製セメントを用い、JIS R 5201に準拠する方法によりモルタル圧縮強さを測定した。結果を表4に示した。
【0047】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭灰と、Ca含有原料とを混合して焼成し、CaO・Al・2SiOを20質量%以上含有する焼成物を得るため製造方法であって、
該Ca含有原料として、これを単独で焼成した際、CS、CS、CA及びCAFを主成分とするポルトランドセメントクリンカーを生じるように化学組成が調製された粉末を用いることを特徴とする前記製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法で、CaO・Al・2SiOを20質量%以上含有する焼成物を得、これと、ポルトランドセメントクリンカー及び石膏とを混合することを特徴とする水硬性組成物の製造方法。
【請求項3】
更に、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ質原料及び石灰石から選ばれる少なくとも一種の混合材を混合する請求項2記載の水硬性組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1の製造方法で焼成物を得、この焼成物を粒径2.5mm以下(ふるい法)となるまで粉砕する細骨材の製造方法。

【公開番号】特開2012−232867(P2012−232867A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101639(P2011−101639)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】