説明

Cu−Ag合金線及びその製造方法

【課題】高強度、高靭性、高導電率である極細のCu-Ag合金線、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】Agを2.0質量%以上15.0質量%以下含有するCu-Ag合金素材(鋳造材に冷間加工を施したもの)に中間熱処理を施す。この熱処理材に加工度:ln(A/A0)=1以上10以下の最終冷間加工を施した後、最終熱処理(軟化処理)を施す。上記中間熱処理及び最終熱処理はいずれも、熱処理後の線材の伸びが10%以上となるように行う。最終熱処理前に特定の条件の冷間加工を施すことで、伸びが高く、耐疲労性に優れるCu-Ag合金線が得られる。このCu-Ag合金線は、線径が0.1mm以下、引張強さが290MPa以上、伸びが10%以上、導電率が80%IACS以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極細のCu-Ag合金線及びこの合金線の製造方法に関する。特に、高強度、高靭性、高導電率であるCu-Ag合金線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯用電気機器などのスピーカーに利用されるコイル、いわゆるボイスコイルは、通常、コイルのターンと、ターンへの給電部分とが一連の巻線から形成されている。この巻線は、ターンの形成が可能な程度の靭性(伸び)を有する必要があるため、従来、靭性に優れる純銅が用いられている。
【0003】
純銅は、導電率が高いものの、耐疲労性(疲労強度)が低い。耐疲労性を向上するには、合金化することが効果的である。例えば、特許文献1,2には、Ag(銀)やTl(タリウム)を添加して高強度化したCu-Ag合金が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特公昭49-041014号公報
【特許文献2】特開2001-040439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
純銅からなる巻線は、上述のように耐疲労性に劣るため、給電部分に過度の振動などが加わることでこの部分で断線が生じることがある。特に、電気機器によっては、線径(直径):φ0.1mm以下の極細の巻線が利用されている。このような極細線は、上記断線が生じ易い。そこで、上述のように合金化により耐疲労性を向上することが考えられる。しかし、添加元素を増加すると、強度が高められる反面、導電率が低下することから、所望の導電率を得るために巻線の断面積を大きくする必要がある。すると、軽量化、小型化などの要求により、極細線が望まれる場合、添加元素の増加による高強度化には限界がある。
【0006】
また、従来、極細線に対して高強度化に着目して合金線の開発を行っているものの、合金線の靭性に対して十分な検討がなされていない。
【0007】
そこで、本発明の目的の一つは、極細でありながら、高強度、高靭性、高導電率であるCu-Ag合金線を提供することにある。また、本発明の他の目的は、この合金線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、純銅に比較して高強度であり、かつ高い導電率を維持することができるCu-Ag合金を対象として靭性の向上を検討した。そして、所望の靭性(伸びが10%以上)を得るために、線材に軟化処理を施すことを考えた。しかし、従来の合金線は、軟化により伸びが向上する反面、強度(疲労強度)が低下する。そこで、軟化処理を施す対象を再度検討したところ、軟化処理前の冷間加工を特定の加工度で行うと、軟化による疲労強度の低下を低減でき、その結果、高強度かつ高靭性であり、導電率も高い極細線が得られるとの知見を得た。この知見に基づき、本発明製造方法は、軟化処理前の(最終)冷間加工の加工度を規定する。
【0009】
また、Cu-Ag合金は、鋳造後、伸線といった冷間加工を施すことで二相分離が生じ、Ag相がファイバー状(繊維状)に伸ばされる。このAg相が繊維強化の働きを持つことで、伸線材の強度が大幅に向上する。上記二相分離は、製造途中に中間熱処理を行うことで促進され、熱処理材の強度が更に向上し、最終軟化後でも強度が維持し易くなると考えられる。このように繊維強化された状態で、かつ特定の伸びを有する合金線は、疲労強度も飛躍的に向上すると考えられる。この知見に基づき、本発明製造方法は、中間熱処理工程及び最終熱処理工程を具える。
【0010】
具体的には、本発明Cu-Ag合金線の製造方法は、Agを2.0質量%以上15.0質量%以下含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなるCu-Ag合金で構成された極細線の製造方法であり、以下の工程を具える。
(1) 上記組成のCu-Ag合金の鋳造材を冷間加工してなる素材に中間熱処理を施す工程。この熱処理は、当該熱処理後の線材の伸びが10%以上となる条件で行う。
(2) 上記中間熱処理が施された熱処理材に、加工度ln(A/A0):1以上10以下の条件で最終冷間加工を施して、線径が0.1mm以下の細線材を形成する工程。但し、上記Aは、上記細線材の断面積、A0は、上記中間熱処理材の断面積とする。
(3) 上記細線材に最終熱処理を施す工程。この熱処理は、当該熱処理後の線材の伸びが10%以上となる条件で行う。
【0011】
上記本発明製造方法により、極細で高強度、高靭性、高導電率の本発明Cu-Ag合金線が得られる。具体的は、本発明Cu-Ag合金線は、Agを2.0質量%以上15.0質量%以下含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、線径:0.1mm以下、引張強さ:290MPa以上、伸び:10%以上、導電率:80%IACS以上を満たす。
【0012】
本発明Cu-Ag合金線は、上述のように靭性及び導電率がいずれも高いことから、コイルの巻線といった高靭性及び高導電率が望まれるものに好適に利用することができる。特に、本発明Cu-Ag合金線は、高強度かつ高靭性であることから、過度の振動が加わるような場合にも断線し難く、疲労特性にも優れる。本発明製造方法は、このような高強度、高靭性、高導電率の本発明Cu-Ag合金線を生産性よく製造することができる。以下、本発明をより詳細に説明する。
【0013】
[Cu-Ag合金線]
《組成》
本発明Cu-Ag合金線は、Agを2.0〜15.0質量%含有するCu-Ag合金から構成される。Agが2.0質量%未満では、導電率が高い反面、強度の向上が十分でない。Ag量の増加に伴い強度が向上するもののその効果は15.0質量%程度で飽和し、それ以上のAgの含有はコストの増加を招く。また、15.0質量%超では、導電率が低下する。Agのより好ましい含有量は、3質量%以上6質量%以下である。本発明合金線は、Ag以外の元素を特に含有せず、残部はCu及び不可避的不純物からなる。本発明合金線は、冷間加工や熱処理によって、加工硬化及び繊維状組織化による高強度化を実現し、Tlといった元素を含有する必要がない。
【0014】
《形状》
本発明Cu-Ag合金線は、線径(直径)を0.1mm以下とする。0.1mm超では、軟化処理を施しても、所望の伸び(10%以上)が得られ難い。線径は、例えば、加工度を調整することで変化させられる。本発明製造方法により得られた合金線は、0.05mm以下といった非常に極細であっても、強度、靭性、導電率に優れる。
【0015】
《引張強さ》
本発明Cu-Ag合金線は、引張強さが290MPa以上と高強度である。また、本発明合金線は、細径であっても耐疲労性に優れており、使用時の振動などによる断線を抑制することができる。引張強さは、例えば、Ag量や加工度を調整することで変化させられる。本発明製造方法により得られた合金線は、更に340MPa以上といった高強度線が得られる。
【0016】
《伸び》
本発明Cu-Ag合金線は、10%以上という高い伸びを有する点で従来のCu-Ag合金線と大きく異なる。このように靭性に優れることで、本発明合金線は、コイルの巻線に利用する場合、コイルの成形性に優れる。伸びは、例えば、加工度や熱処理条件を調整することで変化させられる。伸びの向上に伴い、引張強さや導電率が低下する傾向にあるため、伸びの上限は30%が好ましい。伸びの上限は、線径によって異なり、例えば、線径:φ20μmの合金線で20%程度であると考えられる。より好ましい伸びの範囲は、15%以上20%以下、更に好ましい範囲は、15%以上18%以下である。
【0017】
《導電率》
本発明Cu-Ag合金線は、80%IACS以上という高い導電率を有する。導電率は、例えば、組成(Ag量)を調整することで変化させられる。好ましくは、90%IACS以上である。
【0018】
《用途》
本発明Cu-Ag合金線は、細径であり、高強度で高靭性、高導電率であることから、このような特性が望まれる用途、例えば、電気機器のコイルの巻線、より具体的にはボイスコイルに好適に利用することができる。上記巻線に利用する場合、本発明合金線の外周にエナメル被覆といった絶縁被覆層を施すことが好ましい。
【0019】
[製造方法]
《素材の準備》
本発明製造方法では、まず、上記組成のCu-Ag合金からなる素材を準備する。この素材は、上記組成のCu-Ag合金からなる鋳造材(ロッド)に、冷間加工(以下、第一冷間加工と呼ぶ)を施して形成する。特に、第一冷間加工は、減面率が70%以上であることが好ましい。70%未満では、後述する最終冷間加工を所定の加工度で行うことが難しく、強度の向上を十分に行えない。より好ましい減面率は、線径が半分以下となる値、つまり75%以上である。第一冷間加工、及び後述する第二冷間加工、最終冷間加工は、代表的には、伸線ダイスを用いた伸線加工が挙げられる。また、上記鋳造材(ロッド)は、その断面積が750mm2以下であることが好ましい。750mm2超と大き過ぎると、第一冷間加工の減面率を極めて高くする必要があり、加工硬化により強度が高まる反面、靭性が低下し易い。より好ましい断面積は、50mm2以上500mm2以下であり、直径φ8〜25mmの鋳造材が好適に利用できる。
【0020】
《第一中間熱処理》
上記素材に中間熱処理(以下、第一中間熱処理と呼ぶ)を施す。この熱処理は、この熱処理前の冷間加工による歪みを除去すると共に靭性を高めて、この熱処理後に行う、特定の加工度の最終冷間加工を可能にする。本発明製造方法は、最終冷間加工により、線径:0.1mm以下の極細の細線材を形成するため、この中間熱処理を施さないと、最終冷間加工の途中で断線が多発し易い。中間熱処理は、この中間熱処理後の線材の伸びが10%以上となるように行う。具体的な処理方法は、後述する。この中間熱処理、及び後述する最終熱処理には、後述する連続処理及びバッチ処理のいずれも利用できる。
【0021】
《第二冷間加工及び第二中間熱処理》
上記(第一)中間熱処理が施された熱処理材に更に、上記第一冷間加工及び第一中間熱処理と同様の条件で、第二冷間加工及び第二中間熱処理を順に施してもよい。第二冷間加工及び第二中間熱処理を更に施すことで、強度、靭性、導電率といった特性に更に優れる合金線が得られる。
【0022】
《最終冷間加工》
上記中間熱処理が施された熱処理材に最終冷間加工を施して、線径:0.1mm以下の細線材を形成する。この冷間加工の条件は、加工度ln(A/A0)が1以上10以下とする。加工度ln(A/A0)が1未満でも10超でも、引張強さが小さく、十分な疲労強度が得られない。このような冷間加工により、合金組織を極めて微細な繊維状とし、線材の導電率を損なうことなく、強度を高められる。また、加工硬化により、線材の強度を高められる。
【0023】
《最終熱処理(軟化処理)》
上記最終冷間加工が施された細線材に最終熱処理を施す。最終熱処理は、当該熱処理後の線材の伸びが10%以上となる条件で行う。この最終熱処理は、組織の微細な繊維状化及び加工硬化によって高めた線材の強度を極端に低下させることなく軟化して、線材の靭性を高める。
【0024】
<バッチ処理>
バッチ処理とは、加熱用容器(雰囲気炉、例えば、箱型炉)内に予め加熱対象を入れた状態で加熱する処理方法であり、一度の処理量が限られるものの、加熱対象全体の加熱状態を管理し易いため、伸びの高い線材を得易い処理方法である。中間熱処理や最終熱処理をバッチ処理により行う場合、熱処理後の線材の伸びが10%以上となる条件は、加熱温度(容器内の雰囲気温度)を350℃以上600℃以下とすることが挙げられる。保持時間は、30分以上が好ましい。加熱温度が350℃未満又は保持時間が30分未満では、中間熱処理の場合、歪み除去が十分に行えず、断線が生じ易く、最終熱処理の場合、十分な靭性の向上効果が得られない。600℃超では、中間熱処理の場合、軟化し過ぎて最終冷間加工ができなくなり、最終熱処理の場合、強度だけでなく、導電率も低下する。より好ましい条件は、加熱温度:400℃以上500℃以下、保持時間:1時間以上30時間以下である。
【0025】
<連続処理>
連続処理とは、加熱用容器内に連続的に加熱対象を供給して、加熱対象を連続的に加熱する処理方法であり、連続的に加熱できる点で作業性に優れる処理方法である。連続処理には、加熱対象に直接通電して加熱する直接通電方式(通電連続軟化処理、以下、通電連軟と呼ぶ)、電磁誘導などを利用して加熱対象に間接的に通電して加熱する間接通電方式(誘導加熱連続軟化処理)、加熱雰囲気とした加熱用容器(パイプ軟化炉)内に加熱対象を導入して熱伝導により加熱する炉式(以下、パイプ連軟と呼ぶ)が挙げられる。連続処理の場合、所望の特性(ここでは、伸び)に関与し得る制御パラメータを適宜変化させ、そのときの特性(伸び)を測定し、このような測定データを予め作成しておく。そして、このデータに基づいて、所望の特性値(伸び:10%以上)が得られるようにパラメータを調整するとよい。通電方式の場合、制御パラメータは、容器内への供給速度(線速)、加熱対象の大きさ(線径)、電流値などが挙げられる。炉式の場合、制御パラメータは、容器内への供給速度(線速)、加熱対象の大きさ(線径)、炉の大きさ(パイプ型炉の直径)、加熱雰囲気の温度(400〜600℃が好ましい)などが挙げられる。伸線機の伸線材の排出側に例えば、通電方式の軟化装置を配置させている場合、線速は数百m/min以上、特に400m/min以上とすることで、加熱温度が350〜600℃のバッチ処理に相当する熱処理とすることができ、この連続処理後において伸びが10%以上の線材が得られる。
【0026】
《合金線の特性》
上記本発明製造方法により得られた合金線は、微細な繊維状組織を有する。このような組織を有するCu-Ag合金線は、引張強さが高い状態を維持したまま、高い伸びを有し、疲労強度を向上することができる。一般に、銅や銅合金に軟化処理を施すと、強度が急激に低下する。これに対し、本発明製造方法では、上述のように軟化処理直前の冷間加工の加工度を特定の範囲とすることで、強度の低下を低減し、かつ靭性に優れる合金線が得られる。この理由は定かではないが、上記特定の加工度の冷間加工によって繊維組織が維持されると共に、0.1mm以下の細径にすることによる加工硬化が要因の一つであると考えられる。
【発明の効果】
【0027】
本発明Cu-Ag合金線は、極細でありながら高強度かつ高靭性であり、耐疲労性に優れ、導電率も高い。本発明製造方法は、このような本発明合金線を生産性よく製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
[試験例1]
表1に示す種々の加工条件でCu-Ag合金線を作製し、引張強さ、伸び、導電率を測定した。試料は、鋳造材の作製→第1冷間加工→第1中間熱処理→(第2冷間加工→第2中間熱処理)→最終冷間加工→最終熱処理という手順で作製した。
【0029】
鋳造材は、Agを2〜5質量%含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなるCu-Ag合金で作製した(線径φ8mm又は22mm、断面積:50mm2又は380mm2≦750mm2)。この鋳造材に、表1に示す冷間加工(冷間伸線加工)及び熱処理を施し、最終線径φ0.05〜0.1mmの伸線材を作製した。また、比較として、純銅(公知の組成のタフピッチ銅)の鋳造材に冷間伸線加工及び最終熱処理を施した伸線材を作製した。なお、表1において、冷間加工の数値は、冷間加工後の線径(mm)を示す。また、表1において、最終冷間加工度は、最終線径を有する伸線材(細線材)の断面積をA、第1中間熱処理が施された熱処理材の断面積、第2中間熱処理が施された試料は、第2中間熱処理が施された熱処理材の断面積をA0とするとき、ln(A/A0)とする。更に、表1において特に断りが無い場合、熱処理は雰囲気炉を用いたバッチ処理を示す。加工条件の欄に記載される「(伸び)」は、試料No.2を除く各試料は、第1中間熱処理後最終熱処理前の伸びを示し、試料No.2は、第1中間熱処理後第2冷間加工前の伸び、及び第2中間熱処理後最終熱処理前の伸びを示す。
【0030】
【表1】

【0031】
最終熱処理を施して得られたCu-Ag合金線又は銅線について、引張強さ(MPa)、伸び(%)、導電率(%IACS)を測定した。その結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表2に示すように、中間熱処理を行うと共に、特定の加工度(ln(A/A0)=1〜10)で冷間加工を行った後、最終熱処理を行うことで、線径φが0.1mm以下の極細でありながら、高強度(引張強さ:290MPa以上)、高靭性(伸び:10%以上)、高導電率(80%IACS以上)の合金線が得られることが分かる。また、得られた合金線は、高強度かつ高靭性であることから、耐疲労性にも優れると考えられる。
【0034】
更に、上記試験結果から、第2冷間加工及び第2中間熱処理を施すことで、特性をより向上できることが分かる。但し、熱処理回数が増えることから、経済性を考慮した場合、第1冷間加工及び第1中間熱処理のみでもよいと考えられる。所望の特性に応じて、第2冷間加工及び第2中間熱処理を施すとよい。また、線径が0.1mm以下の範囲において線径が大きいと伸びが高くなる傾向にある。
【0035】
[試験例2]
試験例1で作製した試料No.5,7,13の細線材について、疲労寿命を調べた。ここでは、図1に示すような屈曲試験装置を用いた屈曲試験により、疲労寿命を評価した。
【0036】
屈曲試験は、図1に示すように、対向配置させた一対のマンドレルm間に試料S(直径:φ0.1mm,長さ:600mm)を配置し、試料Sの一端に錘w(負荷加重:25g)を取り付け、他端を試験機のレバーlで把持してマンドレルmの外周に沿って試料Sに曲げ半径R(=100mm)の曲げを加えることで行う。疲労寿命の評価は、試料が破断するまでの曲げ回数で行う。曲げ回数は、90°往復を1回と数える。例えば、図1に示す矢印のように曲げた場合、曲げ回数は2回となる。屈曲試験の結果を表3に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
表3に示すように試料No.5,7は、引張強さ、伸び、導電率のいずれも高く、かつ、一般に高導電率で伸びが高いタフピッチ銅と比較して、疲労寿命が長いことが分かる。
【0039】
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、Agの含有量を変化させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明Cu-Ag合金線は、細径で、高強度、高靭性、高導電率が望まれる用途、例えば、携帯用電気機器のスピーカー用コイルの巻線に好適に利用することができる。本発明製造方法は、上記本発明合金線の製造に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】曲げ試験の状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0042】
l レバー S 試料 w 錘 m マンドレル R 曲げ半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Agを2.0質量%以上15.0質量%以下含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、
線径が0.1mm以下であり、
引張強さが290MPa以上、伸びが10%以上、導電率が80%IACS以上であることを特徴とするCu-Ag合金線。
【請求項2】
Agを2.0質量%以上15.0質量%以下含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなるCu-Ag合金の鋳造材を冷間加工してなる素材に中間熱処理を施す工程と、
前記中間熱処理が施された熱処理材に最終冷間加工を施して、線径が0.1mm以下の細線材を形成する工程と、
前記細線材に最終熱処理を施す工程とを具え、
前記中間熱処理は、この中間熱処理後の線材の伸びが10%以上となるように行い、
前記最終冷間加工は、Aを前記細線材の断面積、A0を前記中間熱処理材の断面積とするとき、加工度ln(A/A0)を1以上10以下として行い、
前記最終熱処理は、この最終熱処理後の線材の伸びが10%以上となるように行うことを特徴とするCu-Ag合金線の製造方法。
【請求項3】
前記中間熱処理及び前記最終熱処理の少なくとも一方は、バッチ処理であり、加熱温度を350℃以上600℃以下とすることを特徴とする請求項2に記載のCu-Ag合金線の製造方法。
【請求項4】
前記中間熱処理及び前記最終熱処理の少なくとも一方は、通電方式の連続処理であり、線速を400m/min以上とすることを特徴とする請求項2に記載のCu-Ag合金線の製造方法。
【請求項5】
前記素材は、減面率70%以上の冷間加工を施して形成することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のCu-Ag合金線の製造方法。
【請求項6】
前記鋳造材の断面積は750mm2以下であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載のCu-Ag合金線の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−280860(P2009−280860A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133601(P2008−133601)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】