説明

D−アミノアシラーゼによるD−アミノ酸の製造方法

【課題】本発明は、D−アミノアシラーゼを用いてN−アセチル−D,L−アミノ酸からD−アミノ酸を工業的に有利に製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の方法は、N−アセチル−D,L−アミノ酸にD−アミノアシラーゼを作用させてD−アミノ酸を製造するに当たり、反応系内に第3級アミンを存在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D−アミノアシラーゼによるD−アミノ酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
D−アミノ酸は、医農薬中間体として注目されており、D−アミノ酸の製造法、生理活性、代謝作用等について様々な研究がなされている。
【0003】
D−アミノ酸は、通常、D,L−アミノ酸を物理化学法、化学法、酵素法等により光学分割されて製造されている。これらの中でもD−アミノ酸を安価で安全に製造する方法としては、酵素法、特にD−アミノアシラーゼを用いてN−アセチル−D,L−アミノ酸からN−アセチル−D−アミノ酸を選択的に加水分解する方法(非特許文献1及び非特許文献2)が有効である。この方法では、安価で入手容易なL−アミノ酸を出発物質として無水酢酸でN−アセチル−D,L−アミノ酸を合成し、D−アミノアシラーゼによる酵素分割によりD−アミノ酸を製造する。
【0004】
しかしながら、D−アミノアシラーゼは、アミノ酸の種類により活性が大きく異なり、またその活性は、基質濃度や酵素濃度に大きく依存する。また、D−アミノアシラーゼは、温和な条件下での使用が必須であり、至適温度及び至適pHでの使用が要求されている。
【0005】
そのため、D−アミノアシラーゼを存在させる反応系内のpHを至適pHに保持するため、反応系内に緩衝剤を存在させることが通常行われている。このような緩衝剤としては、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール塩酸塩(Tris−HCl)、リン酸塩等が繁用されている。しかしながら、Tris−HCl又はリン酸塩を緩衝剤として用いる場合、反応を完結させるためにD−アミノアシラーゼを多量に使用する必要がある。
【0006】
D−アミノアシラーゼは高価であるため、D−アミノアシラーゼの少量使用でD−アミノ酸を効率良く製造できることが工業的見地から重要であり、D−アミノアシラーゼの反応性を高めるため、上記緩衝剤と共に、各種金属、キレート材、SH試薬等の各種添加剤を併用されている。しかしながら、これら添加剤の配合量によっては、逆にD−アミノアシラーゼの活性度が低下する場合がある(特許文献1、特許文献2等)。このため、使用する添加剤の種類に応じて、添加剤の配合量の最適化を図る必要があり、工業的見地から問題がある。
【特許文献1】特開平11−318442号公報
【特許文献2】特表2000−509980号公報
【非特許文献1】M.Sugie,H.Suzuki,Agric.Biol.Chem.,44,1089 (1980)
【非特許文献2】M.Moriguchi,K.Ideta,Appl.Environ.Microbiol.,54,2267 (1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、D−アミノアシラーゼを用いてN−アセチル−D,L−アミノ酸からD−アミノ酸を工業的に有利に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねて来た。その結果、D−アミノアシラーゼを用いてN−アセチル−D,L−アミノ酸からD−アミノ酸を製造するに際し、反応系内に第3級アミンを存在させることにより、至適pHの保持が容易になり、しかも、他の添加剤を使用することなく第3級アミンだけでD−アミノアシラーゼの活性を向上できることを見い出した。このような知見に基づき、本発明は完成されたものである。
【0009】
本発明は、下記項1〜4に係るD−アミノ酸の製造方法及びD−アミノアシラーゼの酵素活性向上方法を提供する。
項1.N−アセチル−D,L−アミノ酸にD−アミノアシラーゼを作用させてD−アミノ酸を製造するに当たり、反応系内に第3級アミンを存在させる、D−アミノ酸の製造方法。
項2.第3級アミンが、一般式(1)
【0010】
【化1】

【0011】
[式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水酸基を有することのあるC1-6アルキル基を示す。
3は、水酸基を有することのあるC1-6アルキル基、基
【0012】
【化2】

【0013】
又は基
【0014】
【化3】

【0015】
を示す。
ここで、R4はC1-6アルキル基、n及びmは各々1〜6の整数を示す。R1及びR2は前記に同じ。
或いは、R1及びR3は、酸素原子もしくは窒素原子を介し又は介することなく互いに結合して5〜6員の飽和環を形成してもよい。R1及びR3が窒素原子を介し互いに結合して5〜6員の飽和環を形成する場合、該窒素原子上にはC1-6アルキル基が置換しているものとする。]
で表される第3級アミンである、項1に記載の製造方法。
項3.N−アセチル−D,L−アミノ酸が、N−アセチル−D,L−フェニルアラニン、N−アセチル−D,L−トリプファン、N−アセチル−D,L−バリン、N−アセチル−D,L−ロイシン、N−アセチル−D,L−メチオニン、N−アセチル−D,L−チロシン又はN−アセチル−D,L−セリンである、項1又は2に記載の製造方法。
項4.D−アミノアシラーゼに第3級アミンを接触させてD−アミノアシラーゼの酵素活性を向上させる方法。
【0016】
本発明のD−アミノ酸の製造方法においては、N−アセチル−D,L−アミノ酸にD−アミノアシラーゼを作用させてD−アミノ酸を製造するに当たり、反応系内に第3級アミンを存在させる。
【0017】
本発明で製造原料として用いられるN−アセチル−D,L−アミノ酸は、公知であり、市販品又は公知の方法で製造されたものを広く使用することができる。公知の方法で製造されたN−アセチル−D,L−アミノ酸としては、例えば、Strecker法(実験化学講座.,16,176)、Bucherer−Burgs法(実験化学講座.,16,178〜179)等の一般的なアミノ酸の合成法に従って合成されたN−アセチル−D,L−アミノ酸、L−アミノ酸を無水酢酸中又はアルカリ性、酸性ないし中性の水溶液中で150〜250℃に加熱し、ラセミ化することにより製造されたN−アセチル−D,L−アミノ酸等を挙げることができる。
【0018】
N−アセチル−D,L−アミノ酸としては、例えば、N−アセチル−D,L−フェニルアラニン、N−アセチル−D,L−トリプファン、N−アセチル−D,L−バリン、N−アセチル−D,L−ロイシン、N−アセチル−D,L−メチオニン、N−アセチル−D,L−チロシン、N−アセチル−D,L−セリン等が挙げられる。
【0019】
本発明の方法では、先ず、N−アセチル−D,L−アミノ酸及び第3級アミンを無機アルカリ水溶液に加えて、溶解し、必要に応じて酸又はアルカリを加えて、溶液のpHを7〜9に調整する(A工程)。無機アルカリ水溶液におけるN−アセチル−D,L−アミノ酸の濃度は、通常1〜50重量%程度、好ましくは5〜20重量%程度である。
【0020】
本発明で使用される第3級アミンとしては、公知のものを広く使用でき、例えば、一般式(1)
【0021】
【化4】

【0022】
[式中、R1、R2及びR3は前記に同じ。]
で表される第3級アミンを挙げることができる。
【0023】
本明細書において、C1-6アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基,イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、3−メチルペンチル基等の炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状アルキル基等を挙げることができる。
【0024】
水酸基を有することのあるC1-6アルキル基としては、前記C1-6アルキル基に加えて、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、1−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、3,4−ジヒドロキシブチル基、1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル基、5−ヒドロキシペンチル基、6−ヒドロキシヘキシル基、2−メチル−3−ヒドロキシプロピル基、2,3,4−トリヒドロキシブチル基等の水酸基を1〜3個有することのある炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状アルキル基を挙げることができる。
【0025】
酸素原子もしくは窒素原子を介し又は介することなく互いに結合して形成される5〜6員の飽和環としては、例えば、ピロリジン環、モルホリン環、ピペリジン環、ピペラジン環等が挙げられる。
【0026】
一般式(1)で表される第3級アミンの具体例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリn−プロピルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、トリiso−プロピルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルブチルアミン、トリn−ペンチルアミン、トリn−ヘキシルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルプロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルブタンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサンジアミン、N,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジプロピレントリアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン,N,N−ジ−n−ブチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−t−ブチルジエタノールアミン、N−イソブチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、1−メチルピロリジン、1−エチルピロリジン、1−ブチルピロリジン、1−メチル−2−ピロリジンメタノール、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、1−メチルピペリジン、1−エチルピペリジン、1,4−ジメチルピペリジン、1,3−ジメチルピペリジン、1,2−ジメチルピペリジン、1−ピペリジンエタノール、1−メチル−2−ピペリジンメタノール、1−メチル−3−ピペリジンメタノール、1−メチル−4ピペリジンメタノール、1−メチル−2−ピペリジノール、1−メチル−3−ピペリジノール、1−メチル−4−ピペリジノール、1,4−ジメチルピペラジン、1,4−ジエチルピペラジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.0]オクタン等が包含される。
【0027】
第3級アミンは、無機アルカリ水溶液中に、通常1〜100mM程度、好ましくは5〜50mM程度になるように配合される。
【0028】
無機アルカリとしては、公知のものを広く使用でき、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等の水酸化アルカリ、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム等の炭酸塩、アンモニア水等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上混合して使用される。
【0029】
無機アルカリの使用量は、N−アセチル−D,L−アミノ酸が溶解する最低必要量でよく、N−アセチル−D,L−アミノ酸に対し、通常0.1〜2当量程度、好ましくは0.5〜1当量程度である。
【0030】
N−アセチル−D,L−アミノ酸及び第3級アミンを無機アルカリ水溶液に溶解するに当たっては、室温付近で行うことができるが、溶解速度を上げるために50℃付近まで加温するのが望ましい。
【0031】
pH調整する際に用いられる酸としては、公知の無機酸及び有機酸を広く使用することができる。無機酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸、硼酸等が挙げられ、有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、トルエンスルホン酸等が挙げられる。アルカリとしては、上述した無機アルカリをいずれも使用できる。
【0032】
本発明において、第3級アミンは、緩衝剤として作用するので、一度上記pH値への調整を行うだけで、そのpH値を容易に維持することができる。
【0033】
本発明では、次にA工程で得られる溶液にD−アミノアシラーゼを加え、N−アセチル−D−アミノ酸をD−アミノ酸に加水分解する(B工程)。この工程では、N−アセチル−L−アミノ酸はL−アミノ酸に加水分解されない。
【0034】
第3級アミンは、D−アミノアシラーゼに接触すると、D−アミノアシラーゼを活性化させることができる。それ故、本発明の方法では、D−アミノアシラーゼの使用量を軽減することができる。
【0035】
D−アミノアシラーゼの使用量は、通常10〜1000U/ml程度、好ましくは10〜300U/ml程度である。
【0036】
N−アセチル−D−アミノ酸をD−アミノ酸に加水分解する際の温度は、25〜50℃程度が適当であり、上記加水分解は一般に1〜3日程度で終了する。この加水分解は、撹拌下で行ってもよいし、無撹拌下で行ってもよい。
【0037】
上記加水分解反応終了後、目的とするD−アミノ酸は、通常行われている単離及び精製手段により、反応混合物から単離され、精製される。
【0038】
目的とするD−アミノ酸を単離した後の反応混合物には、N−アセチル−L−アミノ酸の他、少量のN−アセチル−D−アミノ酸及びD−アミノ酸が含まれている。この単離後の反応混合物に、後記実施例12に示すように、L−アミノ酸を加え、公知の方法によりN−アセチル−D,L−アミノ酸を製造し、更に本発明の方法を適用することにより、再び目的とするD−アミノ酸を製造することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、D−アミノアシラーゼを用いてN−アセチル−D,L−アミノ酸からD−アミノ酸を工業的に有利に製造し得る。
【0040】
D−アミノアシラーゼを用いてN−アセチル−D,L−アミノ酸からD−アミノ酸を製造するに際し、反応系内に第3級アミンを存在させることにより、至適pHの保持が容易になり、しかもD−アミノアシラーゼの活性を向上できる。D−アミノアシラーゼの活性を向上できることに伴い、D−アミノアシラーゼの使用量を削減できる。
【0041】
また、第3級アミンの使用量の多少に拘わらず、N−アセチル−D,L−アミノ酸からD−アミノ酸を効率的に製造できる。
【0042】
そのため、本発明の方法を採用すれば、N−アセチル−D,L−アミノ酸を経由してD−アミノ酸を簡易に且つ安価に高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下に実施例を掲げて、本発明をより一層明らかにする。
【0044】
なお、各実施例における反応液の評価は、下記に示す高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用し、反応率及び純度を測定した。
カラム:住化分析センター製のSUMICHIRAL OA−5000、φ4.6×150mm、カラム充填剤の粒子径:5μm
溶離液:2mM硫酸銅水溶液:イソプロパノール=85:15
カラム温度:40℃
UV検出器:254nm
D−フェニルアラニンの製造例
実施例1
10g(48.3mmol)のN−アセチル−D,L−フェニルアラニンを106g(48mmol)の5.6%水酸化ナトリウム水溶液に溶解した。これに0.149g(1mmol)のトリエタノールアミンを加え(トリエタノールアミンの添加量:10mM)、少量の酸を加えてpH=8に調整した。これにD−アミノアシラーゼを4000U加えて、酵素濃度を40U/mlとし、33℃で3日間撹拌した。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が93%進行しているのを確認した。
【0045】
実施例2
D−アミノアシラーゼを3000U加えて、酵素濃度を30U/mlとする以外は実施例1と同様にして、加水分解反応を行った。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が91%進行しているのを確認した。
【0046】
実施例3
N−アセチル−D,L−フェニルアラニンを溶解した実施例1と同じ水酸化ナトリウム水溶液に、0.745g(5mmol)のトリエタノールアミンを加え(トリエタノールアミンの添加量:50mM)、少量の酸を加えてpH=9に調整した。これにD−アミノアシラーゼを3000U加えて、酵素濃度を30U/mlとし、50℃で1日撹拌した。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が93%進行しているのを確認した。
【0047】
実施例4
トリエタノールアミンの代わりに0.116g(1mmol)のN,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)を使用(TMEDAの添加量:10mM)する以外は実施例1と同様にして、加水分解反応を行った。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が90%進行しているのを確認した。
【0048】
実施例5
トリエタノールアミンの代わりに0.173g(1mmol)のN,N,N',N'',N''−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)を使用(PMDETAの添加量:10mM)する以外は実施例1と同様にして、加水分解反応を行った。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が94%進行しているのを確認した。
【0049】
実施例6
トリエタノールアミンの代わりに0.115g(1mmol)の1−メチル−2−ピロリジンメタノールを使用(1−メチル−2−ピロリジンメタノールの添加量:10mM)する以外は実施例1と同様にして、加水分解反応を行った。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が93%進行しているのを確認した。
【0050】
比較例1
トリエタノールアミンの代わりに0.157g(1mmol)のTris−HClを使用(Tris−HClの添加量:10mM)する以外は実施例1と同様にして、加水分解反応を行った。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が75%進行しているのを確認した。この反応液をさらに24時間撹拌したが、反応はそれ以上進行しなかった。
【0051】
比較例2
トリエタノールアミンの代わりに0.358g(1mmol)のリン酸水素二ソーダ12水和物を使用(リン酸水素二ソーダ12水和物の添加量:10mM)する以外は実施例1と同様にして、加水分解反応を行った。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が21%進行しているのを確認した。この反応液をさらに24時間撹拌したが、反応はそれ以上進行しなかった。
【0052】
D−トリプトファンの製造例
実施例7
5g(20.3mmol)のN−アセチル−D,L−トリプトファンを102.5g(20mmol)の2.4%水酸化ナトリウム水溶液に溶解した。これに0.117g(1mmol)のN,N−ジエチルエタノールアミンを加え(N,N−ジエチルエタノールアミンの添加量:10mM)、少量の酸を加えて、pH=8に調整した。これにD−アミノアシラーゼを7500U加えて、酵素濃度を75U/mlとし、33℃で3日間撹拌した。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が92%進行しているのを確認した。
【0053】
比較例3
N,N−ジエチルエタノールアミンの代わりに0.157g(1mmol)のTris−HClを使用(Tris−HClの添加量:10mM)する以外は実施例7と同様にして、加水分解反応を行った。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が72%進行しているのを確認した。この反応液をさらに24時間撹拌したが、反応はそれ以上進行しなかった。
【0054】
比較例4
N,N−ジエチルエタノールアミンの代わりに0.358g(1mmol)のリン酸水素二ソーダ12水和物を使用(リン酸水素二ソーダ12水和物の添加量:10mM)する以外は実施例7と同様にして、加水分解反応を行った。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が47%進行しているのを確認した。この反応液をさらに24時間撹拌したが、反応はそれ以上進行しなかった。
【0055】
D−メチオニンの製造例
実施例8
20g(105mmol)のN−アセチル−D,L−メチオニンを113.1g(105mmol)の11.5%水酸化ナトリウム水溶液に0.202g(2mmol)のN−メチルモルホリンを加え(N−メチルモルホリンの添加量:20mM)、少量の酸を加えて、pH=8に調整した。これにD−アミノアシラーゼを4500U加えて、酵素濃度を45U/mlとし、33℃で3日間撹拌した。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が95%進行しているのを確認した。
【0056】
比較例5
N−メチルモルホリンの代わりに0.316g(2mmol)のTris−HClを使用(Tris−HClの添加量:20mM)する以外は実施例8と同様にして、加水分解反応を行った。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が85%進行しているのを確認した。この反応液をさらに24時間撹拌したが、反応はそれ以上進行しなかった。
【0057】
比較例6
N−メチルモルホリンの代わりに0.714g(2mmol)のリン酸水素二ソーダ12水和物を使用(リン酸水素二ソーダ12水和物の添加量:20mM)する以外は実施例8と同様にして、加水分解反応を行った。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が80%進行しているのを確認した。この反応液をさらに24時間撹拌したが、反応はそれ以上進行しなかった。
【0058】
D−バリンの製造例
実施例9
10g(62.8mmol)のN−アセチル−D,L−バリンを107.8g(62.8mmol)の7.1%水酸化ナトリウム水溶液に溶解した。これに0.114g(1mmol)の1,4−ジメチルピペラジンを加え(1,4−ジメチルピペラジンの添加量:10mM)、少量の酸を加えて、pH=8に調整した。これにD−アミノアシラーゼを10000U加え、酵素濃度を100U/mlとし、33℃で3日間撹拌した。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が93%進行しているのを確認した。
【0059】
比較例7
1,4−ジメチルピペラジンの代わりに0.158g(1mmol)Tris−HClを使用(Tris−HClの添加量:10mM)する以外は実施例9と同様にして、加水分解反応を行った。HPLCにて反応液を分析すると、加水分解反応が82%進行しているのを確認した。この反応液をさらに24時間撹拌したが、反応はそれ以上進行しなかった。
【0060】
比較例8
1,4−ジメチルピペラジンの代わりに0.358g(1mmol)リン酸水素二ソーダ12水和物を使用(リン酸水素二ソーダ12水和物の添加量:10mM)する以外は実施例9と同様にして、加水分解反応を行った。HPLCにて反応液を分析すると、加水分解反応が78%進行しているのを確認した。この反応液をさらに24時間撹拌したが、反応はそれ以上進行しなかった。
【0061】
D−チロシンの製造例
実施例10
5g(22.4mmol)のN−アセチル−D,L−チロシンを102.8g(22.4mmol)の2.7%水酸化ナトリウム水溶液に溶解した。0.173g(1mmol)のN,N,N',N'',N''−ペンタメチルジエチレンテトラアミン(PMDETA)を加え(PMDETAの添加量:10mM)、少量の酸を加えて、pH=8に調整した。これにD−アミノアシラーゼを5000U加えて、酵素濃度を50U/mlとし、33℃で3日間撹拌した。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が95%進行しているのを確認した。
【0062】
実施例11
5g(22.4mmol)のN−アセチル−D,L−チロシンを102.8g(22.4mmol)の2.7%水酸化ナトリウム水溶液に溶解した。0.865g(5mmol)のN,N,N',N'',N''−ペンタメチルジエチレンテトラアミン(PMDETA)を加え(PMDETAの添加量:50mM)、少量の酸を加えて、pH=8に調整した。これにD−アミノアシラーゼを5000U加えて、酵素濃度を50U/mlとし、33℃で3日間撹拌した。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が95%進行しているのを確認した。
【0063】
比較例9
N,N,N',N'',N''−ペンタメチルジエチレンテトラアミンの代わりに0.158g(1mmol)のTris−HClを使用(Tris−HClの添加量:10mM)する以外は実施例10と同様にして、加水分解反応を行った。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が10%進行しているのを確認した。この反応液をさらに24時間撹拌したが、反応はそれ以上進行しなかった。
【0064】
比較例10
N,N,N',N'',N''−ペンタメチルジエチレンテトラアミンの代わりに0.358g(1mmol)のリン酸水素二ソーダ12水和物を使用(リン酸水素二ソーダ12水和物の添加量:10mM)する以外は実施例10と同様にして、加水分解反応を行った。HPLCにて反応液を分析し、加水分解反応が68%進行しているのを確認した。この反応液をさらに24時間撹拌したが、反応はそれ以上進行しなかった。
【0065】
D−トリプトファンの製造
実施例12
実施例7にて得られた反応液から水を95g回収し、35%塩酸でpH=6.5に中和し、25℃で析出物を濾取、水洗、乾燥し、D−トリプトファンを1.66g(収率80.2%)で得た。得られたD−トリプトファンをHPLCで分析するとL−トリプトファン、N−アセチル−D,L−トリプトファンは、全く含まれず純度100%であった。
【0066】
一方、濾液には、N−アセチル−L−トリプトファンと、少量のN−アセチル−D−トリプトファン及びD−トリプトファンが含まれており、これを用いてN−アセチル−D,L−トリプトファン、D−トリプトファンの合成に用いた。
【0067】
上記の濾液に水40g、L−トリプトファン4.08g(20mmol)及び水酸化ナトリウム5g(40mmol)を加え、これを30℃に加熱し、溶解した。この溶液に3.7g(36.2mmol)の無水酢酸を滴下し、30℃で1時間撹拌した後、80℃に加熱し、無水酢酸9.2g(90mmol)を滴下し、1時間撹拌した。この段階で完全にラセミ化していることをHPLCで確認し、30℃に冷却した。50°硫酸でpH=2.3に酸析し、析出物を濾過、水洗、乾燥し、N−アセチル−D,L−トリプトファン6.22g(収率95.1%)を得た。得られたN−アセチル−D,L−トリプトファンをHPLCで分析するとN−アセチル−D,L−トリプトファンのみであった。
【0068】
更に実施例7と同様にして加水分解反応を行い、反応後HPLCにて分析すると93%反応が進行していることを確認した。この反応液からD−トリプトファン1.64g(収率79.1%)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−アセチル−D,L−アミノ酸にD−アミノアシラーゼを作用させてD−アミノ酸を製造するに当たり、反応系内に第3級アミンを存在させる、D−アミノ酸の製造方法。
【請求項2】
第3級アミンが、一般式(1)
【化1】

[式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水酸基を有することのあるC1-6アルキル基を示す。
3は、水酸基を有することのあるC1-6アルキル基、基
【化2】

又は基
【化3】

を示す。
ここで、R4はC1-6アルキル基、n及びmは各々1〜6の整数を示す。R1及びR2は前記に同じ。
或いは、R1及びR3は、酸素原子もしくは窒素原子を介し又は介することなく互いに結合して5〜6員の飽和環を形成してもよい。R1及びR3が窒素原子を介し互いに結合して5〜6員の飽和環を形成する場合、該窒素原子上にはC1-6アルキル基が置換しているものとする。]
で表される第3級アミンである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
N−アセチル−D,L−アミノ酸が、N−アセチル−D,L−フェニルアラニン、N−アセチル−D,L−トリプファン、N−アセチル−D,L−バリン、N−アセチル−D,L−ロイシン、N−アセチル−D,L−メチオニン、N−アセチル−D,L−チロシン又はN−アセチル−D,L−セリンである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
D−アミノアシラーゼに第3級アミンを接触させてD−アミノアシラーゼの酵素活性を向上させる方法。

【公開番号】特開2009−82026(P2009−82026A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253386(P2007−253386)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000116817)旭化学工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】