説明

D−アロースおよびD−プシコースの抗神経因性疼痛効果の利用

【課題】 種々の機序により発現する神経因性疼痛の制御。
【解決手段】 D−アロース、D−アロース誘導体、D−プシコースおよびD−プシコース誘導体からなる群から選ばれる一以上の物質を有効成分とする、好ましくは0.01〜90重量%含む神経因性疼痛の消失、緩和あるいは軽減組成物。D−アロースおよび/またはD−アロース誘導体、ならびに、D−プシコースおよび/またはD−プシコース誘導体の混合物を1:1〜10:1の割合で含む。三叉神経痛、術後痛、歯周炎、歯肉炎、口内炎、口腔潰瘍、帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性神経炎、カウザルギー、幻肢痛および悪性腫瘍からなる群から選ばれる疾病による神経因性疼痛である。神経因性疼痛を患う患者に、該一以上の物質の一日あたりの摂取量は0.01〜100gであるように与えて神経因性疼痛を消失、緩和あるいは軽減することを特徴とする上記いずれかの組成物を用いる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は希少糖の1種であるD−アロースおよび/またはその誘導体ならびに同じくD−プシコースおよび/またはその誘導体の有する抗神経因性疼痛効果の利用に関する。 より詳細には、本発明は、種々の原因により現れる神経因性疼痛をおさえることができ、三叉神経痛、帯状疱疹罹患時および/または帯状疱疹後神経痛、術後痛、糖尿病性神経炎、カウザルギー、幻肢痛などによる疼痛を制御することが可能で、それらの患者用に適したD−アロースおよび/またはその誘導体ならびにD−プシコースおよび/またはその誘導体のそれぞれの単独あるいは両者の混合物を有効成分として含有する組成物に関する。本組成物には、食品、食品素材、食品添加物、飲料、飲料水、薬剤、製剤原料、飼料等が含まれる。また本発明は、D−アロースおよび/またはその誘導体ならびにD−プシコースおよび/またはその誘導体のそれぞれの単独あるいは両者の混合物からなる組成物を用いることを特徴とする、種々の原因により現れる神経因性疼痛を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希少糖は天然に存在するが、その存在量が微量である単糖をいう。希少糖は化学構造により、アルドース、ケトースおよびアルコールに分けられる。アルドース類としては例えばD−アロースが、ケトース類としては例えばD−プシコースが、アルコール類としては例えばアリトールがある。
従来これらの糖の大部分は大量生産ができず入手困難であったため、その生理活性や薬理活性に関する研究はほとんどなされていなかった。最近、香川大学農学部何森らにより酵素を用いた大量生産方法が開発され、その生物活性に関する研究が進んでいる。D−アロースについては白血球を用いたin vitro実験で活性酸素産生抑制作用等が、D−プシコースについては同様の実験で活性酸素消去作用やMCP−1分泌抑制作用などが見出されている(特許文献1)。
【0003】
神経因性疼痛(ニューロパシー性疼痛)は末梢感覚受容器に対する刺激がないのに生じる疼痛で、神経組織の直接損傷や圧迫などが誘引となって起こる慢性痛である。悪性腫瘍、糖尿病性神経症、帯状疱疹などで起こる痛みが代表的な神経因性疼痛であり、その他に骨折、外傷、火傷の1〜6か月後の痛みも神経因性疼痛に分類される。症状は持続的あるいは突発する自発痛で、しびれる、電気が走る、切り刻まれる、刺される、などの異常な感覚、痛覚過敏やアロディニアを訴える。成立機序は不明で、血液神経関門の破綻、脊髄後角細胞のシナプス異常形成、脱髄線維の再生異常、受容体の感受性増大、交感神経線維異常分布などが仮説としてあげられている。神経因性疼痛の具体的疾患としては、三叉神経痛、帯状疱疹後神経痛、外傷性末梢神経損傷後疼痛、有痛性糖尿病性ニューロパチー、腕神経叢引き抜き損傷後疼痛、更には幻肢痛、脊椎疾患、外傷、多発性硬化症、脊髄空洞症、脊髄腫瘍、脳腫瘍などによる疼痛の他、モルヒネなどの麻薬性鎮痛薬による鎮痛効果が不十分な癌性疼痛が挙げられる。
治療(改善)とは、神経が傷害された後に薬物を投与することにより、神経因性に発現した疼痛を抑制する効果を指し、異常化した痛覚閾値を正常値付近にまで戻すことにより疼痛を和らげ、あるいは消失させる効果を発揮することを言う。
【0004】
神経因性疼痛に対する医療現場の対応は、残念ながら不十分である。このような疾患に対する治療法として、局所麻酔薬を用いた神経ブロック療法があるが、長期に持続した症例ではほとんど効果がなく、治療自体も長期間にわたるという欠点がある。また各種鎮痛剤も試みられているが、未だ有効な鎮痛剤はほとんどない。最近、薬物療法が脚光を浴びてきており、三環系抗うつ剤(アミトリプチン、イミプラミン、ノルトリプチン)、ガバペンチン、メキシレチン、クロニジン、ケタミン、オピオイド(モルヒネ、フェンタニル)、局所投与薬としてカプサイシン等が神経因性疼痛に対する疼痛緩和が検討されている。サリドマイドが血液神経関門の破綻を防ぐことで神経因性疼痛を緩和することが明らかになり、今後の成果が期待されている。しかし、これらの薬物は試験的な段階に止まっており、臨床的に確実な効果が期待できるわけではない。更に、神経因性疼痛は通常の侵害受容性疼痛に有効である鎮痛剤、特に麻薬性鎮痛薬等が効きにくいことが知られている。例えば、モルヒネは侵害性疼痛に対して、鎮痛作用が強力であるが、神経因性疼痛に対しては、効果をほとんど示さないことが報告されている (非特許文献1)。
【0005】
【非特許文献1】The Lancet 353, 1959-1966, 1999
【特許文献1】国際公開番号WO03/097820
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
がんの進行や、糖尿病、感染症などで神経が傷ついて発生する慢性的な痛み(神経因性疼痛)は、モルヒネなど一般的な鎮痛剤がほとんど効かない。がんを例にとると、それ自体が知覚神経を刺激することによる痛み(侵害受容性疼痛)に対しては、鎮痛薬(モルヒネなど)が有効で、経口投与でかなりの痛みが緩和される。さらに強い痛みには注射が行われる。がんが進行し知覚神経を破壊し始めると鎮痛薬が効きにくい神経因性疼痛が起こる。このような痛みには神経ブロックなど侵襲的緩和治療が検討され、その他に鎮痛補助薬、放射線治療、理学療法など補助的治療がどの段階でも併用される。しかし、神経ブロックにも副作用と合併症があり、すべての痛みの強い患者が、神経ブロックにより望んだ状態が得られるわけではない。痛みがとれても機能障害が起こることもある。神経ブロック以外にも鎮痛薬の投与経路の変更、補助的鎮痛法の併用などが治療の選択肢として用意されている。最近の医療は生活の質を重視する立場に立っている。したがって、医療側がそれぞれの治療で期待しうる結果や利点・欠点について、患者ならびに家族の誤解偏見を解き正しい知識を提供する事、痛みの評価のみでなく、個人の状況や価値観に応じたより有効なアプローチの選択が重視されるようになってきた。
【0007】
国立医薬品食品衛生研究所の井上らの研究グループは、脊髄内ミクログリア細胞のATP受容体の一種であるP2X4受容体がこの痛みシグナルの伝達にかかわっていることを、次のようなラットの実験で突き止めた。知覚神経細胞を傷つけたラットの脊髄で、脳内免疫を担う活性型ミクログリア細胞内にP2X4受容体が高密度に存在し、さらに、この受容体の働きを抑えたところ、ラットの神経因性疼痛反応が減ることを明らかにした。ATPで刺激した活性型ミクログリアを健康なラットの脊髄内に直接注入したところ、逆に痛みに敏感となった。この研究は、P2X4受容体の働きを阻害することで、神経因性疼痛の画期的な治療法が開発できる可能性があることを示した(M.Tsuda,Y.Shigemoto−Mogami,S.Koizumi,A.Mizokoshi,S.Kohsaka,M.W.Salter&K.Inoue,Nature(2003)424:778−783)。しかし、P2X4受容体阻害による神経因性疼痛の治療は、理論的な可能性を示したに過ぎず、実際に活用される段階に立ち至っていない。
【0008】
神経因性疼痛は、通常は全く痛みを感じない接触や温度変化を痛みと感じたり、通常は痛みと感じない程度の刺激を痛みとして感じるといった異常な状態であり、神経因性疼痛をもっている人のQOL(Quality of life:生活の質)は極めて低い。神経因性疼痛は、何らかの神経損傷により発現すると考えられているが、その発現機序には複数のものがあり、発現する病態も複雑で決定的な治療法は未だ出てきていない(ニューロパシックペインの今、弓削孟文および森脇克行、麻酔科診療プラクティス6,ニューロパシックペインの今、2002、文光堂)。このような状況下では、治療法の種類をなるべく多く開発し、病態ごとに対応することが現在考えられる神経因性疼痛に対する最良の対応方法である。そのためには、薬物であればできるだけ性質の異なった多くの種類の薬物を鎮痛薬として開発することが必要となる。これまでに、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬、イオンチャンネル作動薬、抗うつ薬など多くの種類の薬物が神経因性疼痛に対する鎮痛薬として開発されてきたが、その効果は限られており、副作用なども問題となっている。一方、糖類にはこれまでに特異な薬理作用を有するものは見いだされておらず、治療薬として用いられているものはほとんどない。
【0009】
そこで、本研究では、薬理学的性質がほとんど知られていない希少糖について鎮痛効果の探索を行うなかで、D−プシコースとD−アロースが抗神経因性疼痛効果を有するか否かについて検討した。
上記研究に基づき、本発明は、疼痛を緩和・軽減して種々の病態を現わす神経因性疼痛患者のQOLの改善が可能で、それら患者用に適したD−アロースおよび/またはその誘導体および/またはD−プシコースおよび/またはその誘導体をそれぞれ単独あるいはこれらの混合物を含有する組成物、食品、患者用食品、食品素材、患者用食品素材、食品添加物、患者用食品添加物、飲料、患者用飲料、飲料水、薬剤、製剤原料、飼料、疼痛時に使用する飼料を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、D−アロースおよび/またはその誘導体あるいはD−プシコースおよび/またはその誘導体のそれぞれ単独あるいはこれらの混合物を含有する組成物を用いることを特徴とする、種々の機序により発現する神経因性疼痛の制御方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者はD−アロースおよびD−プシコースが、神経因性疼痛に有効であることを発見し、さらに、これら希少糖の両者を併用した場合には、相互に鎮痛効果を増強することを発見し本発明を完成した。活性酸素は多様な疾患に関与しており、特に疼痛や炎症にも関与していることがわかっており、D−アロース、D−プシコースがin vitro実験で活性酸素産生抑制作用や活性酸素消去作用が見られているので、鎮痛効果を現す可能性は示唆されるが、神経因性疼痛の実験動物モデルに対する有効性を検討することはこれまでなかった。本発明者は、実験動物に発現させた神経因性疼痛に対するD−アロースおよびD−プシコースの効果を検討したところ、これらの希少糖に実験的神経因性疼痛を軽減する効果を見いだし、その発見をもとに鋭意研究を重ねて本発明を完成するに至った。すなわち、ラット神経因性疼痛モデルであるChungモデルにおいて、D−アロースおよびD−プシコースはそれぞれ単独に経口投与した場合に、発現時間が早く、比較的強い鎮痛効果を示した。また、これら希少糖の両者を併用した場合には、相互に鎮痛効果を増強した効果を示すことを示した。
【0012】
本発明は、D−アロース、D−アロース誘導体、D−プシコースおよびD−プシコース誘導体からなる群から選ばれる一以上の物質を有効成分とする神経因性疼痛の消失、緩和あるいは軽減組成物を要旨とする。
【0013】
D−アロースおよび/またはD−アロース誘導体、ならびに、D−プシコースおよび/またはD−プシコース誘導体の混合物をそれぞれ0.1〜50重量%含んでおり、その場合、本発明は、D−アロース、D−アロース誘導体、D−プシコースおよびD−プシコース誘導体からなる群から選ばれる一以上の物質を有効成分とし、それぞれ0.1〜50重量%含む神経因性疼痛の消失、緩和あるいは軽減組成物を要旨とする。
【0014】
D−アロースおよび/またはD−アロース誘導体、ならびに、D−プシコースおよび/またはD−プシコース誘導体の混合物を1:1〜10:1の割合で含んでおり、その場合、本発明は、D−アロース、D−アロース誘導体、D−プシコースおよびD−プシコース誘導体からなる群から選ばれる一以上の物質を有効成分とし、それぞれ0.1〜50重量%含み、かつ、D−アロースおよび/またはD−アロース誘導体、ならびに、D−プシコースおよび/またはD−プシコース誘導体の混合物を1:1〜10:1の割合で含んでいる神経因性疼痛の消失、緩和あるいは軽減組成物を要旨とする。
【0015】
また、本発明は、上記いずれかの組成物であって、D−アロース、D−アロース誘導体、D−プシコースおよびD−プシコース誘導体からなる群から選ばれる一以上の物質の一日あたりの摂取量が0.01〜100gである神経因性疼痛の消失、緩和あるいは軽減組成物を要旨とする。
【0016】
また、本発明は、上記いずれかの組成物であって、神経因性疼痛が、三叉神経痛、術後痛、歯周炎、歯肉炎、口内炎、口腔潰瘍、帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性神経炎、カウザルギー、幻肢痛および悪性腫瘍からなる群から選ばれる疾病による神経因性疼痛である神経因性疼痛の消失、緩和あるいは軽減組成物を要旨とする。
【0017】
また、本発明は、神経因性疼痛を患う患者に、D−アロース、D−アロース誘導体、D−プシコースおよびD−プシコース誘導体からなる群から選ばれる一以上の物質の一日あたりの摂取量が0.01〜100gであるように与えて神経因性疼痛を消失、緩和あるいは軽減することを特徴とする上記いずれかの組成物を用いる方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によりこれまで適切な治療手段がなかった神経因性疼痛に対し疼痛を緩和する新しい医薬品ないし食品組成物を提供することができる。したがって、本発明は進行がん、糖尿病、感染症などで神経が傷ついて発生する慢性疼痛に苦しむ患者にとって大きな福音となる可能性がある。これらの疼痛に対しては、これまで有効かつ確実な緩和効果がある手段がなかったからである。
本発明は、各種の病態を示す神経因性疼痛を緩和・軽減することが可能で、D−アロースおよび/またはその誘導体あるいはD−プシコースおよび/またはその誘導体のそれぞれ単独あるいはこれら両者の混合物を有効成分として含有する組成物、食品、患者用食品、食品素材、患者用食品素材、食品添加物、患者用食品添加物、飲料、患者用飲料、飲料水、患者用飲料水、薬剤、製剤原料、飼料、疼痛時に使用する飼料などの組成物を提供することができる。
また本発明は、D−アロースおよび/またはその誘導体あるいはD−プシコースおよび/またはその誘導体のそれぞれ単独あるいはこれら両者の混合物を有効成分として含有する組成物を用いることを特徴とする神経因性疼痛を緩和・軽減する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
D−アロースおよびD−プシコースについて説明する。D−アロースおよびD−プシコースは天然に微量ではあるが存在する単糖であって、希少糖と呼ばれている。これら希少糖はヒトに対する毒性の報告はなく、動物に対する毒性は低いと考えられる。D−アロース結晶の味は必ずしもよいとはいえないが、他の物質と混合することにより、容易にマスクされる。例えば、D−プシコース自体はさわやかな甘みや保湿性があり、D−アロースと混合することにより、D−アロースの味をマスクすることができる。
【0020】
また、これらの希少糖は水に溶けやすい。D−アロースおよび/またはその誘導体ならびにD−プシコースおよび/またはその誘導体は相互にその神経因性疼痛を緩和・軽減する効果を増強する作用もあるので、これら2種の希少糖(誘導体を含む。)の併用はこの発明を実施するに当たってより好ましい使用方法である。
【0021】
本発明が対象とする組成物(食品、患者用食品、食品素材、患者用食品素材、食品添加物、患者用食品添加物、飲料、患者用飲料、飲料水、薬剤、製剤原料、飼料、疼痛時に使用する飼料)は、D−アロースおよび/またはその誘導体あるいはD−プシコースおよび/またはその誘導体のそれぞれを単独に、またはこれら両者の混合物を含む食用および/または薬用の組成物であれば何でもよい。
【0022】
本発明の組成物においては、D−アロースおよび/またはその誘導体および/またはD−プシコースおよび/またはその誘導体を含有する場合は、組成物中にそれぞれ0.1〜50重量%含まれるように配合されている。好ましくはそれぞれ5〜40重量%、より好ましくはそれぞれ10〜30重量%である。D−アロースあるいはD−プシコースがそれぞれ0.1重量%未満であると神経因性疼痛を緩和・軽減する効果が十分ではなく、50重量%を越えると経済的な意味で好ましくない。
【0023】
また、D−アロースおよび/またはその誘導体とD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物における混合比率は、1:1〜10:1となるように配合される。好ましくは2:1〜8:1、より好ましくは3:1〜5:1である。D−アロースおよび/またはその誘導体の割合がD−プシコースおよび/またはその誘導体より小さい場合には前者に対する増強効果が弱くなる。
【0024】
本発明の患者用食品について説明する。上述のように神経因性疼痛を表わす疾患には三叉神経痛、帯状疱疹後神経痛、術後痛、糖尿病性神経炎、カウザルギー、幻肢痛など多くのものがあり、治療が困難で有効な治療薬も少ない。本発明の組成物は、患者用食品として一般の食事とともに摂食、服用あるいは飲用することにより、これら疾患における疼痛を軽減して患者のQOLをたかめるとともに、治療薬の使用量を低減することができる。
【0025】
本発明の食品素材および食品添加物について説明する。D−アロースおよびD−プシコースは水によく溶けるため、コーヒーやジュースなどの飲料や菓子類および各種の加工食品に有効成分として添加することは容易であり、各種食品製造のための食品添加物または食品素材として用いることができる。
【0026】
D−アロースおよび/またはその誘導体ならびにD−プシコースおよび/またはその誘導体をヒトが摂取する場合、個々人の年齢、体重および症状などによって用法用量が決定されるべきであるが、多くの場合有効な用量はD−アロースおよび/またはその誘導体ならびにD−プシコースおよび/またはその誘導体それぞれ単独で使用するとした場合、1日当たり0.01〜100gで、分割して食前、食後あるいは食事とともに摂取されるのが適当である。
【0027】
本発明の組成物の、神経因性疼痛軽減を目的とした使用形態としては、錠剤、カプセル剤や、飲料などに溶解させる粉末あるいは顆粒などの固形剤、軟膏剤、貼付剤あるいはゼリー剤などの半固形体、飲料水などの液体、希釈して用いる高濃度溶液などがある。さらに、本発明の組成物を適宜食品に添加して鎮痛などを目的とした保健食または病人食とすることができる。
【0028】
本発明の飲料水について説明する。神経因性疼痛は多様な病態を現わし、その治療は困難である。現在使用されている神経因性疼痛治療薬は少なくないが、いずれも効果に限界があり、副作用も無視できない。従って、長期にわたって連続的に使用することには鎮痛効果の減弱や副作用の発現などの危険を伴うことが多い。そのため、長期連続使用しても効果が減弱せず、副作用も現われにくい薬剤の出現が望まれている。本発明の飲料水は、D−アロースおよび/またはその誘導体単独あるいはD−プシコースおよび/またはその誘導体の単独あるいはD−アロースおよび/またはその誘導体とD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物を0.1〜5重量%を含む無色透明で無臭でほとんど無味の水溶液である。好ましくは1〜4重量%、より好ましくは2〜3重量%である。0.1重量%未満であると血糖上昇抑制効果が十分ではなく、5重量%を越えると無味ではなくなる。この飲料水は、無色透明でにおいはなく、かすかな甘みを有している。したがって、そのまま飲料水として飲用できるとともに、炊飯、調理やお茶、コーヒーなどを淹れるためにも使用できる。
【0029】
本発明の飲料水をこのように日常の食事や嗜好品を作るために使用することにより、特に意識することなく神経因性疼痛を制御することができる。また、連続的に薬剤を服用する煩わしさを避けることができ、薬剤の使用量を減らすこともできる。このことにより、現在使用されている神経因性疼痛治療薬の副作用発現の機会を減らしてその長期投与が可能になる。このことは、神経因性疼痛に悩む人たちのQOLの向上に益するものである。
【0030】
本発明の薬剤について説明する。本発明者は、D−アロースならびにD−プシコースのそれぞれ単独ならびにこれらの混合物の抗神経因性疼痛効果について、実験動物を用いて詳細に検討した。
【0031】
その結果、D−アロースおよびD−プシコースには神経因性疼痛を抑制する作用があり、D−アロースならびにD−プシコースを併用することにより、その作用が増強されることを見いだした。この作用は、人における各種神経因性疼痛を緩和あるいは減弱させる新しい薬剤および鎮痛方法創成の大きな可能性を示している。
【0032】
本発明の化合物を投与す場合、好ましくは経口剤として投与されるが、類似の用途に供される薬剤が許容されている任意の投与経路で純品の形、又は適当な医薬品組成物の形で製剤化して投与することができる。すなわち、D−アロースおよび/あるいはその誘導体ならびにD−プシコースおよび/あるいはその誘導体をそれぞれ単独で、またはこれら両者を混合したものを有効成分とする前記の効果を目的とした薬剤は、これらのみで用いるほか、一般的賦形剤、安定剤、保存剤、結合剤、崩壊剤などの適当な添加剤を配合し、液剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、散剤、錠剤、外用剤、ゼリー剤等の適当な剤型を選んで製剤し、経口的、経静脈的、経鼻的あるいは経皮的に投与することができる。
【0033】
本発明の組成物を薬剤として臨床に適用するに際しては、有効成分としてD−アロースおよび/あるいはその誘導体ならびにD−プシコースおよび/あるいはその誘導体をそれぞれ単独で、またはこれら両者を混合したものを、固体、半固体または液体の医薬用担体、例えば希釈剤、賦形剤、安定剤等の添加剤とともに含む製剤とすることが望ましい。
【0034】
前記有効成分の担体成分に対する割合は、約1〜90重量%の間で変動させ得る。剤型および投与形態としては、顆粒剤、細粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、液剤、ゼリー剤などの経口剤として、又は原末のまま経口投与してもよい。もしくは軟膏、貼付剤など外用剤などの剤型にして、経皮的に投与してもよい。液剤として使用する場合には、経口投与の他に経静脈的あるいは経鼻的に投与してもよい。
【0035】
経口投与、経静脈投与、経鼻投与あるいは経皮投与に適した医薬用の有機又は無機の固体、半固体又は液体の担体、溶解剤もしくは希釈剤を、本発明の組成物を薬剤として調製するために用いることができる。
【0036】
水、ゼラチン、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、動植物油、ベンジルアルコール、ガム、ポリアルキレングリコール、石油樹脂、ヤシ油、ラノリン、又は医薬に用いられる他のキャリアー(担体)は全て、本発明の組成物を含む薬剤の担体として用いることができる。
【0037】
また、安定剤、湿潤剤、乳化剤や、浸透圧を変えたり、配合剤の適切なpHを維持するための塩類を補助薬剤として適宜用いることができる。
【0038】
さらに、本発明の組成物を含有する薬剤は、神経因性疼痛を現わす疾患の治療において、本発明の薬剤とともに適切に投与することができる他の医薬として有効な成分、例えば他の適当な鎮痛薬、抗炎症薬などを含有していてもよい。
【0039】
顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、散剤、錠剤、軟膏あるいは貼付剤の場合には、本発明の組成物を0.1〜50重量%含有しているのが好ましく、液剤の場合には、対応する量(割合)は0.1〜50重量%であるのが好ましい。
【0040】
本発明の製剤原料について説明する。他の適当な神経因性疼痛治療薬などを薬剤として製造するときに、D−アロースおよび/またはその誘導体ならびにD−プシコースおよび/またはその誘導体をそれぞれ単独で、またはこれら両者を混合したものを、製剤原料として、一般的賦形剤、安定剤、保存剤、結合剤、崩壊剤などの目的で使うこともできる。
【0041】
あるいは、例えば続発性に神経因性疼痛が現れた場合には原因疾患の治療に加えて疼痛制御が必要となるが、このような場合の原因疾患治療剤製造に、本発明の組成物を上記のような製剤原料としても用いることができる。この場合のD−アロースおよび/あるいはその誘導体ならびにD−プシコースおよび/あるいはその誘導体をそれぞれ単独で、またはこれら両者を混合したものの使用量や他の適当な神経因性疼痛治療薬などとの割合は、これら治療薬の製剤中含有量あるいは性質により適宜調整することができる。
【0042】
臨床投与量は、経口投与の場合、成人に対してD−アロースおよび/あるいはその誘導体ならびにD−プシコースおよび/あるいはその誘導体としてそれぞれ成人の体重60kgあたり1日量0.01〜100g、望ましくは0.1〜60gを内服するのが好ましいが、年齢、症状などにより適宜増減することも可能である。前記1日量の本発明の薬剤は、1日1回または適当な間隔を置いて1日2回以上にわけて、あるいは食前、食後あるいは食事とともに投与することが好ましい。
【0043】
[作用]
ラット神経因性疼痛モデルであるChungモデルにおいて、D−アロースおよびD−プシコースはそれぞれ単独に経口投与した場合に、発現時間が早く、比較的強い鎮痛効果を示した。また、これら希少糖の両者を併用した場合には、相互に鎮痛効果を増強した。
【0044】
本発明を実施例および試験例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
[実験方法]
6週齢の雄SDラットを用い、1群を10匹とした。試験物質の抗神経因性疼痛効果を見るために、Chungモデルを作製した。すなわち、腰髄神経のうち片側の第5および第6腰髄神経をできるだけ腰椎に近い部位で完全結紮した。10日間の回復期間の後、手術側の足底部に対してvon Frey testを行い、疼痛閾値を測定した。von Frey testは、それぞれ1週間の休薬期間をおいて3回行った。第1回目はD−アロースの、第2回目はD−プシコースの、第3回目はD−アロースとD−プシコースの混合物の、それぞれの疼痛閾値に対する効果を検討した。
【0046】
試験物質は、全て精製水に溶解して投与容量は5mL/kgとし、経口投与した。疼痛閾値の測定は、試験物質投与直前、投与15分、30分、60分および120分後に行った。
結果は平均値及び標準誤差で表し、平均値の有意差検定は、Dunnett’s
multiple testを用いて行なった。
【0047】
[実験結果]
D−アロースの効果について検討した第1回目の薬物投与前のvon
Frey testでの疼痛閾値は、4.4±0.3gであった。D−アロース1g/kg投与によっては、疼痛閾値は精製水投与群と較べて有意な差は見られなかった。D−アロース3g/kg投与群では投与15分後に、D−アロース6g/kg投与群では、投与15分、30分および60分に、それぞれ精製水投与群と較べて有意な疼痛閾値上昇が見られた(図1)。
【0048】
D−プシコースの効果について検討した第2回目の薬物投与前のvon Frey testでの疼痛閾値は、4.7±0.3gであった。D−プシコース1g/kg投与によって投与15分後に疼痛閾値上昇が見られたが、精製水投与群との間に有意な差は見られなかった。D−プシコース3g/kg投与群では投与15分および30分後に、D−アロース6g/kg投与群では、投与15分、30分および60分に、それぞれ精製水投与群と較べて有意な疼痛閾値上昇が見られた(図2)。
【0049】
D−アロースとD−プシコースの混合物の効果について検討した第3回目の薬物投与前のvon Frey testでの疼痛閾値は、5.1±0.4gであった。D−アロース1g/kg+D−プシコース1g/kgの投与によって投与15分後に、D−アロース3g/kg+D−プシコース1g/kg投与群およびD−アロース1g/kg+D−プシコース3g/kg投与群では投与15分、30分および60分後に、それぞれ精製水投与群と較べて有意な疼痛閾値上昇が見られた(図3)。
【0050】
D−アロース、D−プシコースあるいはこれら両者の混合物のそれぞれの投与前の疼痛閾値の間には、いずれも有意差は見られなかった。
【0051】
[考察]
神経因性疼痛は、通常は全く痛みを感じない接触や温度変化を痛みと感じたり、通常は痛みと感じない程度の刺激を痛みとして感じるといった異常な状態にあり、その患者のQOLは極めて低い。神経因性疼痛は、何らかの神経損傷により発現すると考えられているが、その発現機序には複数のものがある。そのため、発現する病態も複雑で決定的な治療法は未だ出てきていない。このような状況下では、治療法の種類をなるべく多く開発し、病態ごとに対応することが現在考えられる最良の対応である。そのためには、薬物であればできるだけ性質の異なった多くの種類の薬物を鎮痛薬として開発することが必要となる。
【0052】
そこで、本研究では、これまで鎮痛効果が認められていない糖類の中で、薬理学的性質がほとんど知られていない希少糖について鎮痛効果の探索を行い、D−アロースとD−プシコースに抗神経因性疼痛効果のあることを明らかにした。
【0053】
神経因性疼痛モデルはヒトの神経痛モデルとして、疼痛研究や鎮痛薬のスクリーニングによく用いられている。神経因性疼痛モデルには数種ありそれぞれに特徴を持っている(Bennett, G.J. and Xie, Y.K., Pain, 33, 87-107, 1988,Coderre, T.J., et.al.,
Pain, 26, 61-84, 1986,Pain, 43, 205-218, 1990,Kim, S.H. and Chung, J.M., Pain, 50, 355-363, 1992)。本研究で用いた神経因性疼痛モデルであるChungモデルは、接触刺激により強い疼痛を発現するという特徴を持つモデルで、ヒトの神経痛によく似た疼痛を発現することで知られている(Exp. Brain Res., 113, 200-206, 1997)。これらのモデルにおいては、接触による疼痛の強さを測定するためにvon Frey testが用いられることが多い。von Frey testは、細い金属線で足底部を押して足を引っ込めるかどうかを見る方法である。足を引っ込めたときに足底部を押していた力をそのときの閾値とする。
【0054】
D−アロースおよびD−プシコースのいずれを投与した場合でも、その投与量に比例して閾値上昇が強く現れた。しかし、D−アロース投与と較べてD−プシコース投与による閾値上昇が大きく現れた。さらに、D−アロース3g/kgあるいはD−プシコース1g/kgをそれぞれ単独で投与したときと較べて、D−アロース3g/kgおよびD−プシコース1g/kgを同時に投与したときの方が疼痛閾値上昇とその持続時間延長が見られ、D−アロースおよびD−プシコースの併用による閾値上昇効果の増強が見られた。D−アロース1g/kgおよびD−プシコース3g/kgの併用についても同様の傾向が認められた。
【0055】
疼痛閾値は、それが大きいほど痛みを感じにくいことを示している。従って、本実験においてD−アロース、D−プシコースのそれぞれ単独投与およびこれら両者の同時投与による鎮痛効果が明らかとなった。このことは、D−アロースおよびD−プシコースが神経因性疼痛治療効果を有することを示すものである。これまでに、糖類の中に鎮痛効果を持つものは見いだされていない。従って、本研究の結果は、糖類の構造を持ち、神経因性疼痛治療効果を有するという新しい系統の治療薬開発の可能性を示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
痛みをやわらげることは、もっとも基本的な医療行為である。医学が発達した現在でも、ある種の痛みを緩和することが困難なことが知られている。本特許に発明が開示された神経因性疼痛は、緩和することが困難な痛みである。例えば、末期ガンの痛み、糖尿病に合併する神経症の痛み等は耐え難いと言われているが、現代医学はこのような痛みに対して無力である。本発明で開示された組成物は神経因性疼痛に有効であり、かつ、毒性がなくきわめて安全なことから、治療の手段がなかった痛みを緩和するために利用できる可能性が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】Chungモデルラットの疼痛閾値に及ぼすD−アロースの影響〔図中、*;<0.05,**;p<0.01(vs精製水5mL/kg),N=10〕。
【図2】Chungモデルラットの疼痛閾値に及ぼすD−プシコースの影響〔図中、**;p<0.01(vs精製水5mL/kg),N=10〕。
【図3】Chungモデルラットの疼痛閾値に及ぼすD−アロースおよびD−プシコース併用の影響〔図中、*;<0.05,**;p<0.01(vs精製水5mL/kg),N=10〕。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
D−アロース、D−アロース誘導体、D−プシコースおよびD−プシコース誘導体からなる群から選ばれる一以上の物質を有効成分とする神経因性疼痛の消失、緩和あるいは軽減組成物。
【請求項2】
D−アロースおよび/またはD−アロース誘導体、ならびに、D−プシコースおよび/またはD−プシコース誘導体の混合物をそれぞれ0.01〜90重量%含む請求項1の神経因性疼痛の消失、緩和あるいは軽減組成物。
【請求項3】
D−アロースおよび/またはD−アロース誘導体、ならびに、D−プシコースおよび/またはD−プシコース誘導体の混合物を1:1〜10:1の割合で含む請求項2の神経因性疼痛の消失、緩和あるいは軽減組成物。
【請求項4】
D−アロース、D−アロース誘導体、D−プシコースおよびD−プシコース誘導体からなる群から選ばれる一以上の物質の一日あたりの摂取量が0.01〜100gである請求項1ないし3のいずれかの神経因性疼痛の消失、緩和あるいは軽減組成物。
【請求項5】
神経因性疼痛が、三叉神経痛、術後痛、歯周炎、歯肉炎、口内炎、口腔潰瘍、帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性神経炎、カウザルギー、幻肢痛および悪性腫瘍からなる群から選ばれる疾病による神経因性疼痛である請求項1ないし4のいずれかの神経因性疼痛の消失、緩和あるいは軽減組成物。
【請求項6】
神経因性疼痛を患う患者に、D−アロース、D−アロース誘導体、D−プシコースおよびD−プシコース誘導体からなる群から選ばれる一以上の物質の一日あたりの摂取量が0.01〜100gであるように与えて神経因性疼痛を消失、緩和あるいは軽減することを特徴とする請求項1ないし5に記載のいずれかの組成物を用いる方法。























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−51134(P2007−51134A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196750(P2006−196750)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(000215958)帝國製薬株式会社 (44)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】