D−ピニトールを有効成分として含む骨代謝性疾患の予防または治療用組成物
本発明は、D−ピニトールを有効成分として含む破骨細胞分化抑制用組成物または骨代謝性疾患の予防または治療用組成物を提供する。
本発明の組成物は、破骨細胞の分化を抑制する効能を有することにより、破骨細胞の過活性化または過増殖化に起因する骨代謝性疾病の予防または治療に非常に有用に使用できる。
本発明の組成物は、破骨細胞の分化を抑制する効能を有することにより、破骨細胞の過活性化または過増殖化に起因する骨代謝性疾病の予防または治療に非常に有用に使用できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D−ピニトール(D-pinitol)を有効成分として含む骨代謝性疾患の予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
骨(bone)は、人体の筋肉や臓器を支えて、内部器官を取り囲んで、内部臓器を外部の衝撃から保護する。なお、体内のカルシウムだけではなく、リンやマグネシウムのような必須無機質を貯蔵する人体の重要な部分である。大人の古くなった骨は破壊・吸収され、新しい骨に造り替えられるが、このような骨の生成と吸収過程を繰り返しながら均衡を維持する。これを骨再形成(bone remodeling)という(Yamaguchi A. et al., Tanpakushitsu Kakusan Koso., 50(6Suppl):664-669(2005)。骨の循環(turnover)は、成長とストレスにより発生する骨の微細な損傷を回復し、骨の機能を適切に維持するに必須的である(Cohen-Solal M. et al., Therapie., 58(5):391-393(2003))。
【0003】
骨再形成は、大きく二種類の細胞が関与すると知られている。その一つは、骨を生成する造骨細胞(osteoblast)であり、他の一つは、骨を破壊する破骨細胞(osteoclast)である。造骨細胞は、RANKL(receptor activator of nuclear factor-κB ligand)と、これのおとり受容体(decoy receptor)であるOPG(osteoprotegerin)を生成する。RANKLが、破骨前駆細胞(osteoclast progenitor cells)表面にある受容体のRANK(receptor activator of nuclear factor-κB)に結合すると、破骨前駆細胞が破骨細胞に成熟化(maturation)し、骨吸収(resorption)が起こる。しかし、OPGがRANKLと結合すると、RANKLとRANK間の結合が遮断され、破骨細胞の形成が抑制されて、骨吸収が起こらなくなる(Theill LE. et al., Annu Rev Immunol., 20:795-823(2002); Wagner EF. et al., Curr Opin Genet Dev., 11:527-532(2001))。古くなった骨の吸収または破壊は、血液細胞(造血幹細胞)から生じる破骨細胞によりなされて、骨に孔を生じさせて、少ない量のカルシウムが血流に放出され、身体機能を維持するに使用される(William J. et al., Nature., 423:337-342(2003))。
【0004】
造骨細胞は、膠原質で骨の孔を満たし、カルシウムとリンの沈積物(hydroxyapatite)で覆い、固い新しい骨を造って骨格を再建する(Stains JP. et al., Birth Defects Res C Embryo Today., 75(1):72-80(2005))。破骨速度と造骨速度とが等しくなければ、骨密度を一定に維持することができない。骨再形成の均衡が崩れる場合、様々な疾患が引き起こされるが、骨多孔症が代表的である(図1)。
【0005】
骨多孔症(osteoporosis)は、様々な原因により骨の質量が減少して、骨組織の微細構造の退化により骨折危険が持続的に増加する疾患である。骨多孔症は、骨を構成するミネラル(特にカルシウム)と基質が減少した状態であって、骨再形成の均衡が崩れ、破骨作用が造骨作用より増加した状態で発生する(Iqbal MM., South Med J., 93(1):2-18(2000))。骨多孔症は、閉経期の始まりと同時に急速な骨損失(年間2〜3%)が現れて、脊髄の圧迫及び手根骨の骨折が起こりやすい閉経期以後の骨多孔症(postmenopausal osteoporosis)と、年齢に関係なく、疾病(内分泌疾患、胃腸疾患、悪性腫瘍)や、薬物(副腎皮質ホルモン、抗癌化学療法、甲状腺ホルモン、抗痙攣剤、抗凝固剤、methotexate、cyclosporine、GnRHなど)、アルコール、喫煙、事故により発生する2次骨多孔症(secondary osteoporosis)とに分類される(Rosep CJ., N Engl J Med., 353(6):595-603(2005); Davidson M., Clinicain Reviews., 12(4):75-82(2002))。
【0006】
現在、破骨細胞の機能抑制による骨多孔症治療剤の開発は、大きく二つの方向で進行されている。その一つは、破骨細胞の骨再吸収機序阻害剤の開発である。分化された破骨細胞の再吸収機序を抑制する物質は、骨多孔症の治療剤として直接使用できる。他の一つは、破骨細胞の分化過程中に信号伝達機序を抑制できる物質の探索である。破骨細胞は、免疫細胞の分化過程と同様に、骨髄(bone marrow)に存在する造血幹細胞(hematopoietic stem cell)から分化される。破骨細胞は、初期に大食細胞(macrophage)の分化因子のM−CSF(macrophage-colony stimulating factor)とTRANCE(TNF-related activation induced cytokine)により単核細胞(monocyte)に分化された後、TRANCEにより最終的に破骨細胞に分化される(図2)(1−6)。
【0007】
骨再形成の均衡が崩れた場合に引き起こされるもう一つの重要な疾病として、癌細胞の骨転移(bone metastasis)による損傷が挙げられる。乳癌(breast cancer)、前立腺癌(prostate cancer)または多発性骨髄腫(multiple myeloma)患者においては、ほぼ常に骨転移が起こるが(Kozlow W. et al., J Mammary Gland Biol Neoplasia., 10(2):169-180(2005))、この癌患者たちがどれくらい長く生きられるかは、骨転移により影響を受けると知られている。
【0008】
乳癌から観察される骨転移は、そのほとんどが骨を破壊する骨融解性骨転移(osteolytic metastasis)であって、乳癌細胞が骨に直接的な影響を及ぼすのではなく、破骨細胞を刺激することにより起こると知られている(Boyde A. et al., Scan Electron Microsc., 4:1537-1554(1986))。その反面、前立腺癌から観察される骨転移は、骨造性骨転移(osteoblsatic metastasis)である。骨造性骨転移も同様に、骨融解と密接な関係があると知られている。
【0009】
D−ピニトールは、松(pinewood)と豆科植物(legumes)に含有されていると知られている。イカダカズラ(Bougainvillea spectabilis)から抽出された、構造の確認されていないピニトール類似物質(pinitol-like substances)を、正常マウス及びアロキサン(alloxan)処理されたインシュリン欠乏マウスに、0.01g/kgの最少服用量を投与すると、血糖水準を低めることができることが報告された(Narayanan, C.R., Joshi, D.D., Mujumdar, A.M., Dhekne, V.V. 1987. Pinitol- A new antidiabetic compound from the leaves of Bougainvillea spectabilis. Current Science 56 : 139141)。米国特許第5,827,896は、D−ピニトール及びその誘導体を、代謝性疾患である糖尿病の治療に使用することを提案した。しかしながら、D−ピニトールが骨(bone)関連疾患に治療効能があるということは、未だに知られていない。
【0010】
本明細書全体にかけて多数の特許文献及び論文が参照されて、その引用が表示されている。引用された特許文献及び論文の開示内容は、その全体が本明細書に参照として取り込まれ、本発明の属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,827,896
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Yamaguchi A. et al., Tanpakushitsu Kakusan Koso., 50(6Suppl):664-669(2005)
【非特許文献2】Cohen-Solal M. et al., Therapie., 58(5):391-393(2003)
【非特許文献3】Theill LE. et al., Annu Rev Immunol., 20:795-823(2002)
【非特許文献4】Wagner EF. et al., Curr Opin Genet Dev., 11:527-532(2001)
【非特許文献5】William J. et al., Nature., 423:337-342(2003)
【非特許文献6】Stains JP. et al., Birth Defects Res C Embryo Today., 75(1):72-80(2005)
【非特許文献7】Iqbal MM., South Med J., 93(1):2-18(2000)
【非特許文献8】Rosep CJ., N Engl J Med., 353(6):595-603(2005)
【非特許文献9】Davidson M., Clinicain Reviews., 12(4):75-82(2002)
【非特許文献10】Kozlow W. et al., J Mammary Gland Biol Neoplasia., 10(2):169-180(2005)
【非特許文献11】Boyde A. et al., Scan Electron Microsc., 4:1537-1554(1986)
【非特許文献12】Narayanan, C.R., Joshi, D.D., Mujumdar, A.M., Dhekne, V.V. 1987. Pinitol- A new antidiabetic compound from the leaves of Bougainvillea spectabilis. Current Science 56 : 139141
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、骨代謝性疾患が効果的に予防または治療でき、長期間の使用にも人体に安全な物質を開発するために鋭意研究した。その結果、D−ピニトール(D-pinitol)が破骨細胞(osteoclast)の分化を抑制する効能を有して、骨代謝を改善し、骨疾患の治療または予防に非常に有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
したがって、本発明の目的は、D−ピニトールを有効成分として含む破骨細胞分化抑制用組成物を提供することにある。
【0015】
また、本発明の他の目的は、D−ピニトールを有効成分として含む、骨代謝性疾患の改善、予防または治療用機能性食品組成物または薬剤学的組成物を提供することにある。
【0016】
また、本発明のまた他の目的は、骨代謝性疾患の予防または治療する方法を提供することにある。
【0017】
また、本発明の他の目的は、骨代謝性疾患の予防または治療用薬物を製造するためのD−ピニトールの用途を提供することにある。
【0018】
本発明の他の目的及び利点は、発明の詳細な説明、請求の範囲及び図面により、さらに明確にされる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一様態によると、本発明は、D−ピニトール(D-pinitol)を有効成分として含む破骨細胞(osteoclast)分化抑制用組成物を提供する。
【0020】
本発明者らは、骨疾患が効果的に治療または予防でき、長期間の使用にも人体に安全な物質を開発するために鋭意研究した。その結果、D−ピニトールが破骨細胞の分化を抑制する効果を有して、骨代謝を改善し、多様な骨疾患の治療または予防に非常に有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0021】
本発明者らは、D−ピニトール(D-pinitol)が、破骨細胞の前駆細胞から破骨細胞への分化を抑制する効能を有することを確認した。したがって、この化合物を有効成分として含む本発明の組成物は、破骨細胞の分化を抑制する用途として非常に有用に使用できる。
【0022】
本発明の他の様態によると、本発明は、(a)D−ピニトールの薬剤学的有効量と、(b)薬剤学的に許容される担体とを含む骨代謝性疾患の予防または治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0023】
本発明のまた他の様態によると、本発明は、D−ピニトールを有効成分として含む、骨代謝性疾患の予防または改善用機能性食品組成物を提供する。
【0024】
本発明のまた他の様態によると、本発明は、(a)D−ピニトールの薬剤学的有効量と、(b)薬剤学的に許容される担体とを含む薬剤学的組成物を、骨代謝性疾患を病んでいる対象(subject)に投与する段階を含む骨代謝性疾患の予防または治療方法を提供する。
【0025】
本発明のまた他の様態によると、本発明は、骨代謝性疾患の予防または治療用薬物を製造するためのD−ピニトールの用途を提供する。
【0026】
本発明の化合物‘D−ピニトール’の構造は、下記の化学式で表される。
【0027】
【化1】
【0028】
本発明の明細書において、用語‘D−ピニトール’は、D−ピニトールと等しい破骨細胞分化抑制効果を有する‘D−ピニトール類似化合物(D-pinitol-like compound)’を含む。
【0029】
本明細書において、用語‘D−ピニトール類似化合物’は、D−ピニトールの適合した誘導体(derivative)または代謝体(metabolite)、D−ピニトール含有化合物、またはD−ピニトールのプロドラッグ(prodrug)を含む。
【0030】
本発明において、D−ピニトールの適合した‘誘導体’または‘代謝物’は、D−ピニトールグリコシド(D-pinitol glycosides)、D−ピニトールホスホリピド(D-pinitol phospholipids)、エステル化されたD−ピニトール(esterified D-pinitol)、脂質-結合D−ピニトール(lipid-bound D-pinitol)、D−ピニトールホスフェート(D-pinitol phosphate)及びD−ピニトールフィテート(D-pinitol phytates)及びこれらの混合物を含むが、これらに限定されない。
【0031】
本発明において、‘D−ピニトール含有化合物’は、D−ピニトール部分(D-pinitol moiety)をより大きい構造の一部分として含む任意の化合物を意味する。前記‘D−ピニトール含有化合物’は、D−ピニトールと一つ以上の追加的な糖(グルコース、ガラクトース、マンノース、グルコサミン、ガラクトサミン及びマンニトール)を含む多糖類及びピニトールと一つ以上の金属イオンとの複合体またはキレート化合物を含むが、これらに限定されない。
【0032】
本明細書において、用語D−ピニトールの‘プロドラッグ’は、D−ピニトールの誘導体であって、インビボ(in vivo)で酵素的または化学的工程により真のD−ピニトールに転換されて、より向上された伝達特性及び/または治療効能を示す化合物を意味する。糖質(saccharide)のプロドラッグ、例えば、メチル化またはアセチル化されたヒドロキシルグループ形態のプロドラッグを製造する方法及びこれを投与する方法については、当業界に公知されている(Baker et al., J. Med. Chem., 27:270-274(1984))。
【0033】
D−ピニトールは、多数の天然源、例えば、松葉、ひよこ豆(chick peas)、ブーゲンビリアの葉(Bougainvillea leaves)、アルファルファ(alfalfa)、大豆(soy beans)及びその他の豆科植物(legumes)から得られるか、合成工程を通じて得られるが、好ましくは大豆分画物から得る。
【0034】
本明細書において、用語‘破骨細胞(osteoclast)’とは、古くなった骨を除去し、新しい骨に代替する過程である骨再形成(bone remodeling)において、骨を破壊する作用を担当する細胞を意味する。
【0035】
本発明の組成物の有効成分であるD−ピニトール(D-pinitol)は、破骨細胞の前駆細胞から破骨細胞への分化を抑制する効能を有する。
【0036】
したがって、本発明の組成物は、骨代謝性疾患の予防または治療に非常に有用に使用できる。
【0037】
本明細書において、用語‘骨代謝性疾患(bone metabolism disorder)’とは、破骨細胞と造骨細胞の活性及び増殖の均衡が崩れたことに起因する疾患または疾病を意味し、例えば、破骨細胞の過活性(overactivity)または過増殖(hyper-proliferation)に起因する疾病(disease)または状態(conditions)がある。本明細書に使用された‘破骨細胞の過活性または過増殖に起因する疾病または状態’は、破骨細胞が過度に活性化されるか、過度に増殖することにより発生する疾病を意味する。
【0038】
本明細書において、用語‘予防’は、疾患または疾病を保有していると診断されたことはないが、このような疾患または疾病にかかり易い傾向がある動物において、その疾患または疾病の発生を抑制することを意味する。本明細書において用語‘治療’は、(i)疾患または疾病の発展の抑制;(ii)疾患または疾病の軽減;及び(iii)疾患または疾病の除去を意味する。
【0039】
本発明の他の好ましい具現例によると、本発明の組成物は、破骨細胞による過度なる骨再吸収(bone resorption)に起因した疾患の改善、予防または治療に使用できる。
【0040】
本発明のまた他の好ましい具現例によると、本発明の組成物は、骨多孔症(osteoporosis)及び関連の骨減少疾患(osteopenic diseases)の治療及び予防に有用である。
【0041】
本発明の組成物により治療、予防または改善可能な疾患は、骨多孔性、特に閉経前後期間に係わる骨多孔症、パジェット病(Paget's disease)、骨腫瘍(bone neoplasms)に係わる高カルシウム血症(hypercalcemia)を含み、下記のような相異なるタイプの骨多孔性疾患及び関連疾患を含むが、これらに限定されない:更年期骨多孔症(involutional osteoporosis)、タイプIまたは閉経後骨多孔症、タイプIIまたは老年性骨多孔症(senile osteoporosis)、小児骨多孔症(juvenile osteoporosis)、特発性骨多孔症(idiopathic osteoporosis)、内分泌異常(endocrine abnormality)、甲状腺機能亢進症(hyperthyroidism)、性腺機能低下症(hypogonadism)、卵巣無発生症(ovarian agensis)またはターナー症候群(Turner's syndrome)、副腎皮質亢進症(hyperadrenocorticism)またはクッシング症候群(Cushing's syndrome)、副甲状腺機能亢進症(hyperparathyroidism)、骨髄異常症(bone marrow abnormalities)、多発性骨髄腫(multiple myeloma)及び関連疾患、全身性肥満細胞症(systemic mastocytosis)、播種がん腫(disseminated carcinoma)、ゴーシェ病(Gaucher's disease)、結合組織異常症(connective tissue abnormalities)、骨形成不全症(osteogenesis imperfecta)、ホモシスチン尿症(homocystinuria)、エーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos syndrome)、マルファン症候群(Marfan's syndrome)、メンケス症候群(Menke's syndrome)、固定化(immobilization)または無重力症(weightlessness)、ズデック萎縮症(Sudeck's atrophy)、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease)、慢性ヘパリン投与(chronic heparin administration)及び慢性抗痙攣剤服用(chronic ingestion of anticonvulsant drugs)。
【0042】
また、本発明の組成物は、関節リウマチ(rheumatoid arthritis)、歯周疾患(peridontaldisease)、人工挿入物周囲骨融解(periprosthetic osteolysis)、他の自己免疫疾患、骨の腫瘍性破壊(neoplastic destruction)及び癌関連骨再吸収疾病の治療または予防に使用できるが、これらに限定されない。
【0043】
また、本発明の組成物は、本明細書に明示的に記載されていないが、破骨細胞の過活性化または過増殖化に起因する他の疾病及びこの2次的疾病の治療に使用できる。
【0044】
本発明の最も好ましい具現例によると、前記破骨細胞の過活性化または過増殖化に起因する他の疾病は、骨多孔症(osteoporosis)、パジェット病(Paget's disease)、高カルシウム血症(hypercalcemia)、関節リウマチ(rheumatoid arthritis)、転移性骨破壊(metastatic bone destruction)、癌(cancer)及び免疫疾病を含む。
【0045】
本発明の破骨細胞の過活性化または過増殖に起因する疾病の予防または治療用薬剤学的組成物は、有効成分の他に、薬剤学的に許容される担体を含む。
【0046】
本発明の薬剤学的組成物に含まれる薬剤学的に許容される担体は、製剤時に通常的に利用されるものであって、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、及びミネラルオイルなどを含むが、これらに限定されるものではない。本発明の薬剤学的組成物は、前記成分の他に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むことができる。適した薬剤学的に許容される担体及び製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences (19th ed., 1995)に詳細に記載されている。
【0047】
本発明の薬剤学的組成物の適合した投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性、病的状態、飲食、投与時間、投与経路、排泄速度、及び反応感応性のような要因により様々である。一方、本発明の薬剤学的組成物の投与量は、好ましくは、1日当たり0.001〜1000mg/kg(体重)である。
【0048】
本発明の薬剤学的組成物は、経口または非経口で投与でき、非経口投与の場合は、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、経皮投与などにより投与できる。本発明の薬剤学的組成物は、適用される疾患の種類によって、投与経路が決定されることが好ましい。
【0049】
本発明の組成物に含まれる有効成分のD−ピニトールの濃度は、治療目的、患者の状態、必要期間、疾患の危篤度などを考慮して決定し、特定範囲の濃度に限定されるものではない。
【0050】
本発明の薬剤学的組成物は、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できる方法により、薬剤学的に許容される担体及び/または賦形剤を利用して製剤化することにより、単位容量形態に製造されるか、または多用量容器内に入れて製造できる。この際、剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液または乳化液の形態であるか、エキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態であってもよく、分散剤または安定化剤をさらに含むことができる。
【0051】
本発明の組成物は、食品、特に機能性食品組成物の形態として提供できる。本発明の機能性食品組成物は、食品製造時に通常的に添加される成分を含むが、例えば、タンパク質、炭水化物、脂肪、栄養素及び調味剤を含む。例えば、ドリンク剤に製造される場合は、有効成分としてD−ピニトールの他に、香味剤または天然炭水化物を追加成分として含ませることができる。例えば、天然炭水化物は、単糖類(例えば、グルコース、フルクトースなど);二糖類(マルトース、スクロースなど);オリゴ糖;多糖類(例えば、デキストリン、シクロデキストリンなど);及び糖アルコール(例えば、キシリトール、ソルビトール、エリスリトールなど)を含む。香味剤として、天然香味剤(例えば、ソーマチン、ステビア抽出物)及び合成香味剤(例えば、サッカリン、アスパルテームなど)を使用することができる。食品に対する容易な接近性を考慮すると、本発明の機能性食品組成物は、骨代謝性疾患の改善、軽減、予防に非常に有用である。
【0052】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれら実施例に限定されないことは、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者にとっては自明なことであろう。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】破骨細胞及び造骨細胞の恒常性調節と骨多孔症の発病機序を示す図である。
【図2】破骨細胞分化及びこれに係わるサイトカイン(cytokine)の機能を示す図である。
【図3】Raw 264.7細胞の増殖に及ぼすD−ピニトールの影響を調べた結果を示したグラフである。三日間、0、0.2、0.5、1、5、10、20及び50mMの濃度でD−ピニトールを処理した後、24時間間隔で細胞の数を調べた。
【図4】CCK8の活性測定を通じて、骨髄由来の造血幹細胞の増殖に及ぼすD−ピニトールの濃度別影響を調べた結果を示したグラフである。
【図5】Raw 264.7細胞の破骨細胞への分化過程において、D−ピニトールの影響を、TRAP染色を通じて調べた結果を示す写真である。Raw 264.7細胞は、RankL 200ng/mlで四日間処理し、四日目にTRAP染色を通じて破骨細胞の分化を確認した。
【図6】Raw 264.7細胞の破骨細胞への分化過程において、D−ピニトールの処理濃度によって、TRAP染色を通じて多核破骨細胞の数を測定した結果である。
【図7】TRAP溶液分析を通じて、Raw 264.7細胞の破骨細胞への分化過程において、D−ピニトールの濃度別影響を測定した結果を示したグラフである。
【図8】骨髄由来の破骨細胞の分化過程中に、D−ピニトールの濃度別影響を示す写真である。骨髄の造血幹細胞にRankLを200ng/ml及びM−CSF 50ng/ml処理した後、四日間培養した。四日目にTRAP染色を通じて破骨細胞の分化を確認した。
【図9】骨髄由来の破骨細胞の多核化及び破骨細胞分化過程において、D−ピニトールの濃度別影響を、TRAP染色結果を通じて示したグラフである。
【図10】骨髄由来の破骨細胞の多核化及び破骨細胞分化過程において、D−ピニトールの濃度別影響を、TRAP溶液分析結果を通じて示したグラフである。
【図11】造骨細胞及び骨髄由来の破骨細胞の共同培養時に、破骨細胞の分化過程に及ぼすD−ピニトールの濃度別影響を示す写真である。
【図12】骨髄由来の破骨細胞の分化の各段階に及ぼすD−ピニトールの濃度別影響を示したグラフである。
【図13】骨髄由来の破骨細胞の骨吸収能に及ぼすD−ピニトールの濃度別影響を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0054】
(実施例)
〔実験方法〕
<Raw264.7細胞の培養及び破骨細胞の分化>
Raw264.7細胞は、10%牛胎児血清(Fetal Bovine Serum)を含むa-MEM (a-minimal essential medium)培地で培養した。破骨細胞(osteoclast)分化実験は、96ウェルプレート(well plates)に2.0×103細胞/200μlになるようにした後、200ng/mlのsRANKLを処理した。この際、D-ピニトールを1mM、3.5mM、7mM、12.5mM、25mM、50mM濃度別処理をして三日間培養した後、四日目にTRAP(tartrate resistant acid phosphatase)染色とTRAP溶液分析(TRAP solution assay)を進行した。細胞は、TRAP染色とTRAP溶液分析のために固定した。TRAPポジティブ多核性(3核以上)細胞は、破骨細胞−類似細胞として計数した。細胞は、Leica DM IRM顕微鏡で観察した。
【0055】
<TRAP染色>
TRAPポジティブ細胞の細胞化学的染色は、培地を除去した後、10%ホルマリン100μlを入れて常温で10分間放置した。その後、メタノール/アセトン100μlを入れて、常温で1分間反応した。そして、10ml TRAPバッファ(Tris-HCl, pH4.5, EDTA)、ナフトールASホスフェート(Naphthol AS phosphate, 基質, Sigma #N-4875)と5mg Fast Red Violet dye(Sigma, F-1625)を使用して染色した。この際、1 mgナフトールASホスフェートは、N, N-ジメチルフォーミド(DMF, Sigma #319937) 150mlに溶かして使用した。前記反応を10〜30分間くらい行って、赤色を帯びることを観察することができた。赤色が明らかに現れると、流れる水で洗浄した後、乾燥した。TRAP-染色された細胞は、光学顕微鏡で観察した。
【0056】
<TRAP溶液分析(TRAP solution assay)>
TRAPポジティブ細胞のTRAP溶液分析は、以下の方法により行った。まず培地を除去した後、10%ホルマリン100μlを入れて、常温で10分間放置した。その後、メタノール/アセトン100μlを入れて常温で1分間反応した後、乾燥した。TRAPバッファ(pH 5.2) 20mlにp-ニトロフェニルホスフェート(p-nitrophenylphosphate, pNPP) 1タブレットを溶かしたTRAP基質溶液を150μl入れて、37℃で20〜30分間反応した。新しい96ウェルプレートを用意し、これに1N NaOH 50μlを入れた後、TRAP基質100μlを移した。最終的に405nm波長で数値に換算した。
【0057】
<D−ピニトールの細胞毒性測定>
Raw264.7細胞に対するD-ピニトールの細胞毒性を検証するために、Raw264.7細胞を96ウェルプレートに0.5×103細胞/200μlになるように培養した。培養された細胞にD-ピニトールを1mM、3.5mM、7mM、12.5mM、25mM、50mMの濃度別処理し、三日間培養した。添加した化合物の細胞毒性を確認するために、三日間増加される細胞数を計数した。
【0058】
骨髄細胞に対するD-ピニトールの細胞毒性を検証するために、骨髄細胞を96ウェルプレートに1.0×105細胞/200μlになるように調整した後、50ng/mlのM-CSFと共に培養した。培養された細胞にD-ピニトールを1mM、3.5mM、7mM、12.5mM、25mM、50mM濃度別処理して、四日間培養した。細胞毒性は、CCK8 kit (Cell Counting Kit-8, Dojindo, Japan)を使用して測定した。それぞれの培養時間による培養液に10% CCK8溶液を添加した後、37℃で2時間培養した。培養後、Microplate reader(Bio-Rad)で450nmで吸光度を測定した。
【0059】
<骨髄由来の破骨細胞の分化に対するD−ピニトールの影響>
マウス骨髄細胞を分離するために、生後3〜4週齢のC57/BL6雄性マウスの大腿骨と脛骨を無菌状態で摘出及び軟組織を除去した。抽出された骨組織から長骨の両端を切断した後、26G注射針を利用して一端の骨髄腔にα-MEM/10% FBSを注射して骨髄細胞を取り出した。収獲された骨髄細胞に5ng/mlのM-CSFを処理して16時間培養した後、プレートの底面に付着されなかった細胞を収獲した。
【0060】
骨髄由来の破骨細胞の分化実験のために、96ウェルプレートに、各ウェル当たり1.0×105骨髄細胞を、α-MEM/10% FBSで200ng/mlのsRANKLと50ng/mlのM-CSF存在下で培養した。この際、D-ピニトールを多様な濃度で添加して培養した。各濃度別に3回行って、sRANKLとM-CSF、D-ピニトールを含んだ完全培地で培養し、三日目に入れ替えた。四日目にLeica DM IRM顕微鏡で観察した後、TRAP染色とTRAP溶液分析を行った。
【0061】
破骨細胞に及ぼすD-ピニトールの影響を培養段階別に調べるために、培養中の破骨細胞にD-ピニトールを濃度別に処理した。D-ピニトールの処理された破骨細胞を培養時間別に分離した後、TRAP溶液分析法を使用し、分化された破骨細胞の量を分析した。
【0062】
<造骨細胞の分離及び破骨細胞の共同培養>
マウスの1次造骨細胞を製造するために、生後1日目の新生マウスから前頭骨と頭頂骨を無菌状態で摘出した。摘出された骨組織をPBS溶液で洗浄した後、混合酵素溶液(0.2% collagenase及び0.1% dispase)に連続的に20分間隔で6回処理し、造骨細胞の特性を有した細胞を収集して培養液で洗浄した。洗浄された細胞を、10%血清が含まれたα-MEM培地で三日間培養した後、1次造骨細胞として使用した。共同培養は、96ウェルプレートに1.0×104細胞/200μlの造骨細胞と1.0×105個の骨髄細胞を入れて、ビタミンD3 (Vitamin D3, 10-6M)とProstagrandin E2(PGE2, 10-8M)を添加し五日間培養した後、TRAP染色を行った。
【0063】
<骨吸収分解能の測定>
破骨細胞の骨吸収分解能に及ぼすD-ピニトールの影響を調べるために、96ウェルプレートに歯骨切片を入れた後、骨髄細胞を1.0×105細胞/200μlになるように培養した。破骨細胞の分化のために、50ng/mlのM-CSFと200ng/mlのsRANKLを添加した後、D-ピニトールを濃度別に処理して、四日間培養した。培養が完了した後、破骨細胞の分化が観察されると、骨切片から細胞を除去して、1%トルイジンブルー(toluidine blue)で染色し、顕微鏡で観察した。
【0064】
〔実験結果〕
<D−ピニトールのRaw264.7細胞毒性の測定>
D-ピニトールの濃度による細胞毒性を調べた。多様な濃度のD-ピニトールを細胞に処理し、細胞増殖(cell proliferation)に対する影響を調べた。破骨細胞の前駆細胞株であるRaw264.7細胞を三日間培養しながら、D-ピニトールを0〜50mMの濃度範囲で処理した後、D-ピニトール濃度増加による生存細胞の数を24時間単位で三日間測定した。図3に示したように、D-ピニトールは、最高濃度50mMでもRaw264.7細胞毒性を示さなかった。
【0065】
<D−ピニトールの造血幹細胞に対する毒性測定>
D-ピニトールの造血幹細胞に対する毒性有無を検査した。骨髄由来の造血幹細胞を抽出した後、分離された細胞にM-SCF(50ng/ml)を処理して細胞増殖を誘導した。増殖誘導された細胞にD-ピニトールを0〜50mMの濃度範囲で処理した後、CCK8酵素活性を測定し、細胞増殖に対する影響を測定した。図4に示されたように、D-ピニトールは、0〜50mMの濃度範囲においてCCK8の活性に影響を与えなかった。50mM以下のD-ピニトールは、造血幹細胞の増殖に影響を与えなかった。
【0066】
<D−ピニトールの、Raw264.7細胞の破骨細胞への分化阻害活性−TRAP染色法>
RankLにより細胞の信号伝達が始まると、Raw264.7細胞は、破骨細胞に分化を始める。分化初期段階で細胞間の融合が現れる。分化が完了された破骨細胞の場合は、2〜50個の核を有する多核細胞になる。多核細胞の形成は、破骨細胞の分化に係わる典型的特性である。破骨細胞の分化は、TRAP染色方法により確認することができる。
【0067】
Raw264.7細胞株にRankL 200ng/mlを四日間処理した。図5に示されたように、Raw264.7細胞株にRankLを処理しなかった場合は、破骨細胞への分化が全く起こらなかった(陰性対照群)。RankL 200ng/mlを処理した細胞株では、細胞間の融合が著しく増加した(陽性対照群)。RankLにより活性された細胞の場合は、TRAPにより強く染色され、朱色の色を帯びて、細胞が融合された多核細胞が観察された。
【0068】
Raw264.7細胞の破骨細胞への分化過程におけるD-ピニトールの影響を調べるために、D-ピニトールをRaw264.7細胞に、細胞毒性のない濃度である50mMまで段階的に処理した後、破骨細胞への分化を観察した。図5に示されたように、破骨細胞への分化は、D-ピニトールの濃度が増加されるにつれて著しく減少した。またTRAP染色により表れる多核細胞の数が、D-ピニトールの濃度が増加するにつれて減少されることを確認した。この結果により、D-ピニトールが、破骨細胞への分化を抑制する物質であることを確認した。
【0069】
Raw264.7細胞の破骨細胞への分化過程において、D-ピニトールの阻害活性を定量化するために、D-ピニトールの処理濃度による多核破骨細胞の数を、TRAP染色を通じて測定した。図6に示されたように、D-ピニトールの濃度が増加されるにつれて、多核細胞の数が著しく減少した。したがって、D-ピニトールは、Raw264.7細胞の破骨細胞への分化過程を阻害する物質であることを確認した。D-ピニトールは、50mM濃度において破骨細胞への分化をほぼ100%抑制した。
【0070】
<D−ピニトールの、Raw264.7細胞の破骨細胞への分化阻害活性−TRAP溶液分析法>
D-ピニトールの、Raw264.7細胞の破骨細胞への分化阻害活性を検証するために、TRAP溶液分析(TRAP solution assay)を行った。破骨細胞の分化過程においてTRAP(tartrate resistant acid phosphatase)は、典型的なマーカー蛋白質として知られている。図7に示したように、TRAP溶液分析結果により、TRAP染色の結果と同様に、D-ピニトールの、破骨細胞への分化抑制活性を確認することができた。ところが、TRAP溶液分析結果では、多核細胞の数測定による結果とは異なって、D-ピニトールの抑制活性が比較的弱く現れた。
【0071】
このような結果は、TRAPが破骨細胞の重要なマーカーであるものの、TRAPポジティブ細胞としての転換機序にはD-ピニトールの関与度が低いことを暗示する。
【0072】
<D−ピニトールの、骨髄細胞由来の破骨細胞の分化阻害活性−TRAP染色法>
破骨細胞は、骨髄に存在する単核細胞から分化される。骨髄由来の破骨細胞は、Raw264.7細胞とは異なって、生体内の破骨細胞と最も近い1次細胞(primary cell)である。
【0073】
骨髄に存在する破骨細胞の前駆細胞を分離した後、これを破骨細胞に分化させる実験を行った。Raw264.7細胞と同様に骨髄由来の破骨細胞も、TRAP染色により、分化された形態の多核細胞を観察することができる。
【0074】
図8に示されたように、骨髄から抽出した前駆細胞にRankL(200ng/ml)とM-CSF(50ng/ml)を処理すると、四日後に破骨細胞が形成されることを観察することができた(陽性対照群)。一方、サイトカインを処理しなかった場合、破骨細胞が形成されなかった(陰性対照群)。
【0075】
骨髄由来の単核細胞から破骨細胞への分化に及ぼすD-ピニトールの影響を調べるために、骨髄に存在する造血幹細胞を抽出した後、M-CSF(5ng/ml)で一日間活性化させて、単核細胞系列の細胞に分化を誘導した。この単核細胞系列の細胞にRankL 200ng/ml及びM-CSF 50ng/mlを処理した後、四日間培養した。培養中にD-ピニトールを0〜50mMの濃度範囲で処理した後、TRAP染色を通じて破骨細胞の分化様相を観察した。図8の結果から分かるように、D-ピニトールの濃度に比例して、TRAP染色された破骨細胞の数が減少されることが分かった。この結果は、D-ピニトールが、Raw264.7細胞の場合と同様に、骨髄由来の破骨細胞の分化を抑制するということを示唆する。
【0076】
骨髄由来の単核細胞から破骨細胞への分化過程におけるD-ピニトールの影響を定量的に示すために、TRAP染色を通じて、実験群内の多核破骨細胞の数を測定した。図9から分かるように、D-ピニトール濃度が増加されるにつれて多核細胞の数が減少し、25mMからは著しく減少した。50mMのD-ピニトール処理時は、破骨細胞への分化がほぼ100%抑制された。
【0077】
<D−ピニトールの、骨髄細胞由来の破骨細胞の分化阻害活性−TRAP溶液分析法>
D-ピニトールの破骨細胞分化阻害効能を確認するために、骨髄1次細胞由来の破骨細胞に対して、TRAP溶液分析法を利用して分析した。図10に示されたように、骨髄由来の破骨細胞の分化阻害現象は、TRAP溶液分析結果によっても現れた。この結果は、D-ピニトールが、TRAPポジティブ細胞への分化過程においても阻害効果を有することを示す。
【0078】
<造骨及び破骨細胞の共同培養において、D−ピニトールの破骨細胞分化阻害活性>
造骨細胞と破骨細胞の共同培養(co-culture)は、人体と最も類似した環境を提供し、且つ、破骨細胞の分化過程が研究できるシステムである。
【0079】
マウスの頭蓋骨から造骨細胞を抽出した後、骨髄の造血幹細胞と共同培養して、破骨細胞の分化を誘導した。分化誘導過程中にD-ピニトールを0〜50mM濃度範囲で処理して、共同培養時、破骨細胞分化に及ぼすD-ピニトールの効果を検査した。図11から分かるように、D-ピニトールの濃度が増加されるにつれて、多核の破骨細胞数が著しく減少されることを確認した。D-ピニトールを50mM濃度で処理した場合、破骨細胞分化阻害効果が明確に現れた。この結果によると、D-ピニトールは、人体と最も類似した共同培養システムにおいても、破骨細胞の分化を抑制する効果を有することを確認した。
【0080】
<骨髄細胞を利用した破骨細胞分化段階別のD−ピニトールの破骨細胞分化阻害活性>
骨髄由来の破骨細胞の分化の各段階におけるD-ピニトールの影響を分析するために、D-ピニトールによる破骨細胞分化能を時間別に分析した。図12から分かるように、D-ピニトール濃度が増加されるにつれて、多核破骨細胞の数が著しく減少した。D-ピニトール25mM以上の濃度において骨髄由来の破骨細胞の分化が、培養二日目から著しく減少された。D-ピニトールを50mMの濃度で処理した場合、破骨細胞分化段階による阻害能を明確に表した。この結果から、D-ピニトールは、破骨細胞の分化初期段階で分化抑制効能を発揮する化合物であることが分かった。これは、D-ピニトールが、破骨細胞の分化過程中、破骨細胞間の融合(fusion)段階に影響を与える物質であることを暗示する。
【0081】
<D−ピニトールによる破骨細胞の骨吸収及び分解阻害活性>
骨切片は、生体内で破骨細胞により吸収及び分解される。骨切片を利用した破骨細胞の骨吸収分解能の調査は、生体内の破骨細胞の機能分析に非常に有用な分析法である。
【0082】
骨髄由来の破骨細胞の骨吸収分解能に及ぼすD-ピニトールの影響を分析するために、ヒトの歯から収獲した骨切片上に破骨細胞を分化させながら、D-ピニトール0〜50mMの濃度範囲で処理した。図13に示したように、骨染色過程を通じて、D-ピニトールの濃度が増加されるにつれて、破骨細胞による骨吸収分解能が著しく減少されることを確認した。特に、25mM以上の濃度で骨髄由来の破骨細胞による骨吸収分解機能が著しく減少された。この結果から、破骨細胞の分化阻害が、破骨細胞の骨吸収分解能の阻害に係わることが分かった。
【0083】
以上、本発明の特定の部分を詳細に記述したが、当業界の通常の知識を有する者にとっては、このような具体的な記述はただ望ましい具現例に過ぎなく、これに本発明の範囲が限定されないことは明らかである。従って、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とその等価物により定義されると言える。
【0084】
−参照文献−
1. TRANCE is a novel ligand of the tumor necrosis factor receptor family that activates c-Jun N-terminal kinase in T cells. J Biol Chem. 1997 Oct 3; 272(40):25190-4.
2. Diverse roles of the tumor necrosis factor family member TRANCE in skeletal physiology revealed by TRANCE deficiency and partial rescue by a lymphocyte-expressed TRANCE transgene. Proc Natl Acad Sci U S A. 2000 Sep 26; 97(20):10905-10.
3. TRANCE, a TNF family member, activates Akt/PKB through a signaling complex involving TRAF6 and c-Src. Mol Cell. 1999 Dec; 4(6):1041-9.
4. Bisphosphonates: Mechanisms of Action. Endocr. Rev., Feb 1998; 19: 80 - 100.
5. The pathobiology of the osteoclast. J. Clin. Pathol., Mar 1985; 38: 241 - 252.
6. Cancer and Bone. Endocr. Rev., Feb 1998; 19: 18 - 54.
【技術分野】
【0001】
本発明は、D−ピニトール(D-pinitol)を有効成分として含む骨代謝性疾患の予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
骨(bone)は、人体の筋肉や臓器を支えて、内部器官を取り囲んで、内部臓器を外部の衝撃から保護する。なお、体内のカルシウムだけではなく、リンやマグネシウムのような必須無機質を貯蔵する人体の重要な部分である。大人の古くなった骨は破壊・吸収され、新しい骨に造り替えられるが、このような骨の生成と吸収過程を繰り返しながら均衡を維持する。これを骨再形成(bone remodeling)という(Yamaguchi A. et al., Tanpakushitsu Kakusan Koso., 50(6Suppl):664-669(2005)。骨の循環(turnover)は、成長とストレスにより発生する骨の微細な損傷を回復し、骨の機能を適切に維持するに必須的である(Cohen-Solal M. et al., Therapie., 58(5):391-393(2003))。
【0003】
骨再形成は、大きく二種類の細胞が関与すると知られている。その一つは、骨を生成する造骨細胞(osteoblast)であり、他の一つは、骨を破壊する破骨細胞(osteoclast)である。造骨細胞は、RANKL(receptor activator of nuclear factor-κB ligand)と、これのおとり受容体(decoy receptor)であるOPG(osteoprotegerin)を生成する。RANKLが、破骨前駆細胞(osteoclast progenitor cells)表面にある受容体のRANK(receptor activator of nuclear factor-κB)に結合すると、破骨前駆細胞が破骨細胞に成熟化(maturation)し、骨吸収(resorption)が起こる。しかし、OPGがRANKLと結合すると、RANKLとRANK間の結合が遮断され、破骨細胞の形成が抑制されて、骨吸収が起こらなくなる(Theill LE. et al., Annu Rev Immunol., 20:795-823(2002); Wagner EF. et al., Curr Opin Genet Dev., 11:527-532(2001))。古くなった骨の吸収または破壊は、血液細胞(造血幹細胞)から生じる破骨細胞によりなされて、骨に孔を生じさせて、少ない量のカルシウムが血流に放出され、身体機能を維持するに使用される(William J. et al., Nature., 423:337-342(2003))。
【0004】
造骨細胞は、膠原質で骨の孔を満たし、カルシウムとリンの沈積物(hydroxyapatite)で覆い、固い新しい骨を造って骨格を再建する(Stains JP. et al., Birth Defects Res C Embryo Today., 75(1):72-80(2005))。破骨速度と造骨速度とが等しくなければ、骨密度を一定に維持することができない。骨再形成の均衡が崩れる場合、様々な疾患が引き起こされるが、骨多孔症が代表的である(図1)。
【0005】
骨多孔症(osteoporosis)は、様々な原因により骨の質量が減少して、骨組織の微細構造の退化により骨折危険が持続的に増加する疾患である。骨多孔症は、骨を構成するミネラル(特にカルシウム)と基質が減少した状態であって、骨再形成の均衡が崩れ、破骨作用が造骨作用より増加した状態で発生する(Iqbal MM., South Med J., 93(1):2-18(2000))。骨多孔症は、閉経期の始まりと同時に急速な骨損失(年間2〜3%)が現れて、脊髄の圧迫及び手根骨の骨折が起こりやすい閉経期以後の骨多孔症(postmenopausal osteoporosis)と、年齢に関係なく、疾病(内分泌疾患、胃腸疾患、悪性腫瘍)や、薬物(副腎皮質ホルモン、抗癌化学療法、甲状腺ホルモン、抗痙攣剤、抗凝固剤、methotexate、cyclosporine、GnRHなど)、アルコール、喫煙、事故により発生する2次骨多孔症(secondary osteoporosis)とに分類される(Rosep CJ., N Engl J Med., 353(6):595-603(2005); Davidson M., Clinicain Reviews., 12(4):75-82(2002))。
【0006】
現在、破骨細胞の機能抑制による骨多孔症治療剤の開発は、大きく二つの方向で進行されている。その一つは、破骨細胞の骨再吸収機序阻害剤の開発である。分化された破骨細胞の再吸収機序を抑制する物質は、骨多孔症の治療剤として直接使用できる。他の一つは、破骨細胞の分化過程中に信号伝達機序を抑制できる物質の探索である。破骨細胞は、免疫細胞の分化過程と同様に、骨髄(bone marrow)に存在する造血幹細胞(hematopoietic stem cell)から分化される。破骨細胞は、初期に大食細胞(macrophage)の分化因子のM−CSF(macrophage-colony stimulating factor)とTRANCE(TNF-related activation induced cytokine)により単核細胞(monocyte)に分化された後、TRANCEにより最終的に破骨細胞に分化される(図2)(1−6)。
【0007】
骨再形成の均衡が崩れた場合に引き起こされるもう一つの重要な疾病として、癌細胞の骨転移(bone metastasis)による損傷が挙げられる。乳癌(breast cancer)、前立腺癌(prostate cancer)または多発性骨髄腫(multiple myeloma)患者においては、ほぼ常に骨転移が起こるが(Kozlow W. et al., J Mammary Gland Biol Neoplasia., 10(2):169-180(2005))、この癌患者たちがどれくらい長く生きられるかは、骨転移により影響を受けると知られている。
【0008】
乳癌から観察される骨転移は、そのほとんどが骨を破壊する骨融解性骨転移(osteolytic metastasis)であって、乳癌細胞が骨に直接的な影響を及ぼすのではなく、破骨細胞を刺激することにより起こると知られている(Boyde A. et al., Scan Electron Microsc., 4:1537-1554(1986))。その反面、前立腺癌から観察される骨転移は、骨造性骨転移(osteoblsatic metastasis)である。骨造性骨転移も同様に、骨融解と密接な関係があると知られている。
【0009】
D−ピニトールは、松(pinewood)と豆科植物(legumes)に含有されていると知られている。イカダカズラ(Bougainvillea spectabilis)から抽出された、構造の確認されていないピニトール類似物質(pinitol-like substances)を、正常マウス及びアロキサン(alloxan)処理されたインシュリン欠乏マウスに、0.01g/kgの最少服用量を投与すると、血糖水準を低めることができることが報告された(Narayanan, C.R., Joshi, D.D., Mujumdar, A.M., Dhekne, V.V. 1987. Pinitol- A new antidiabetic compound from the leaves of Bougainvillea spectabilis. Current Science 56 : 139141)。米国特許第5,827,896は、D−ピニトール及びその誘導体を、代謝性疾患である糖尿病の治療に使用することを提案した。しかしながら、D−ピニトールが骨(bone)関連疾患に治療効能があるということは、未だに知られていない。
【0010】
本明細書全体にかけて多数の特許文献及び論文が参照されて、その引用が表示されている。引用された特許文献及び論文の開示内容は、その全体が本明細書に参照として取り込まれ、本発明の属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,827,896
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Yamaguchi A. et al., Tanpakushitsu Kakusan Koso., 50(6Suppl):664-669(2005)
【非特許文献2】Cohen-Solal M. et al., Therapie., 58(5):391-393(2003)
【非特許文献3】Theill LE. et al., Annu Rev Immunol., 20:795-823(2002)
【非特許文献4】Wagner EF. et al., Curr Opin Genet Dev., 11:527-532(2001)
【非特許文献5】William J. et al., Nature., 423:337-342(2003)
【非特許文献6】Stains JP. et al., Birth Defects Res C Embryo Today., 75(1):72-80(2005)
【非特許文献7】Iqbal MM., South Med J., 93(1):2-18(2000)
【非特許文献8】Rosep CJ., N Engl J Med., 353(6):595-603(2005)
【非特許文献9】Davidson M., Clinicain Reviews., 12(4):75-82(2002)
【非特許文献10】Kozlow W. et al., J Mammary Gland Biol Neoplasia., 10(2):169-180(2005)
【非特許文献11】Boyde A. et al., Scan Electron Microsc., 4:1537-1554(1986)
【非特許文献12】Narayanan, C.R., Joshi, D.D., Mujumdar, A.M., Dhekne, V.V. 1987. Pinitol- A new antidiabetic compound from the leaves of Bougainvillea spectabilis. Current Science 56 : 139141
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、骨代謝性疾患が効果的に予防または治療でき、長期間の使用にも人体に安全な物質を開発するために鋭意研究した。その結果、D−ピニトール(D-pinitol)が破骨細胞(osteoclast)の分化を抑制する効能を有して、骨代謝を改善し、骨疾患の治療または予防に非常に有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
したがって、本発明の目的は、D−ピニトールを有効成分として含む破骨細胞分化抑制用組成物を提供することにある。
【0015】
また、本発明の他の目的は、D−ピニトールを有効成分として含む、骨代謝性疾患の改善、予防または治療用機能性食品組成物または薬剤学的組成物を提供することにある。
【0016】
また、本発明のまた他の目的は、骨代謝性疾患の予防または治療する方法を提供することにある。
【0017】
また、本発明の他の目的は、骨代謝性疾患の予防または治療用薬物を製造するためのD−ピニトールの用途を提供することにある。
【0018】
本発明の他の目的及び利点は、発明の詳細な説明、請求の範囲及び図面により、さらに明確にされる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一様態によると、本発明は、D−ピニトール(D-pinitol)を有効成分として含む破骨細胞(osteoclast)分化抑制用組成物を提供する。
【0020】
本発明者らは、骨疾患が効果的に治療または予防でき、長期間の使用にも人体に安全な物質を開発するために鋭意研究した。その結果、D−ピニトールが破骨細胞の分化を抑制する効果を有して、骨代謝を改善し、多様な骨疾患の治療または予防に非常に有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0021】
本発明者らは、D−ピニトール(D-pinitol)が、破骨細胞の前駆細胞から破骨細胞への分化を抑制する効能を有することを確認した。したがって、この化合物を有効成分として含む本発明の組成物は、破骨細胞の分化を抑制する用途として非常に有用に使用できる。
【0022】
本発明の他の様態によると、本発明は、(a)D−ピニトールの薬剤学的有効量と、(b)薬剤学的に許容される担体とを含む骨代謝性疾患の予防または治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0023】
本発明のまた他の様態によると、本発明は、D−ピニトールを有効成分として含む、骨代謝性疾患の予防または改善用機能性食品組成物を提供する。
【0024】
本発明のまた他の様態によると、本発明は、(a)D−ピニトールの薬剤学的有効量と、(b)薬剤学的に許容される担体とを含む薬剤学的組成物を、骨代謝性疾患を病んでいる対象(subject)に投与する段階を含む骨代謝性疾患の予防または治療方法を提供する。
【0025】
本発明のまた他の様態によると、本発明は、骨代謝性疾患の予防または治療用薬物を製造するためのD−ピニトールの用途を提供する。
【0026】
本発明の化合物‘D−ピニトール’の構造は、下記の化学式で表される。
【0027】
【化1】
【0028】
本発明の明細書において、用語‘D−ピニトール’は、D−ピニトールと等しい破骨細胞分化抑制効果を有する‘D−ピニトール類似化合物(D-pinitol-like compound)’を含む。
【0029】
本明細書において、用語‘D−ピニトール類似化合物’は、D−ピニトールの適合した誘導体(derivative)または代謝体(metabolite)、D−ピニトール含有化合物、またはD−ピニトールのプロドラッグ(prodrug)を含む。
【0030】
本発明において、D−ピニトールの適合した‘誘導体’または‘代謝物’は、D−ピニトールグリコシド(D-pinitol glycosides)、D−ピニトールホスホリピド(D-pinitol phospholipids)、エステル化されたD−ピニトール(esterified D-pinitol)、脂質-結合D−ピニトール(lipid-bound D-pinitol)、D−ピニトールホスフェート(D-pinitol phosphate)及びD−ピニトールフィテート(D-pinitol phytates)及びこれらの混合物を含むが、これらに限定されない。
【0031】
本発明において、‘D−ピニトール含有化合物’は、D−ピニトール部分(D-pinitol moiety)をより大きい構造の一部分として含む任意の化合物を意味する。前記‘D−ピニトール含有化合物’は、D−ピニトールと一つ以上の追加的な糖(グルコース、ガラクトース、マンノース、グルコサミン、ガラクトサミン及びマンニトール)を含む多糖類及びピニトールと一つ以上の金属イオンとの複合体またはキレート化合物を含むが、これらに限定されない。
【0032】
本明細書において、用語D−ピニトールの‘プロドラッグ’は、D−ピニトールの誘導体であって、インビボ(in vivo)で酵素的または化学的工程により真のD−ピニトールに転換されて、より向上された伝達特性及び/または治療効能を示す化合物を意味する。糖質(saccharide)のプロドラッグ、例えば、メチル化またはアセチル化されたヒドロキシルグループ形態のプロドラッグを製造する方法及びこれを投与する方法については、当業界に公知されている(Baker et al., J. Med. Chem., 27:270-274(1984))。
【0033】
D−ピニトールは、多数の天然源、例えば、松葉、ひよこ豆(chick peas)、ブーゲンビリアの葉(Bougainvillea leaves)、アルファルファ(alfalfa)、大豆(soy beans)及びその他の豆科植物(legumes)から得られるか、合成工程を通じて得られるが、好ましくは大豆分画物から得る。
【0034】
本明細書において、用語‘破骨細胞(osteoclast)’とは、古くなった骨を除去し、新しい骨に代替する過程である骨再形成(bone remodeling)において、骨を破壊する作用を担当する細胞を意味する。
【0035】
本発明の組成物の有効成分であるD−ピニトール(D-pinitol)は、破骨細胞の前駆細胞から破骨細胞への分化を抑制する効能を有する。
【0036】
したがって、本発明の組成物は、骨代謝性疾患の予防または治療に非常に有用に使用できる。
【0037】
本明細書において、用語‘骨代謝性疾患(bone metabolism disorder)’とは、破骨細胞と造骨細胞の活性及び増殖の均衡が崩れたことに起因する疾患または疾病を意味し、例えば、破骨細胞の過活性(overactivity)または過増殖(hyper-proliferation)に起因する疾病(disease)または状態(conditions)がある。本明細書に使用された‘破骨細胞の過活性または過増殖に起因する疾病または状態’は、破骨細胞が過度に活性化されるか、過度に増殖することにより発生する疾病を意味する。
【0038】
本明細書において、用語‘予防’は、疾患または疾病を保有していると診断されたことはないが、このような疾患または疾病にかかり易い傾向がある動物において、その疾患または疾病の発生を抑制することを意味する。本明細書において用語‘治療’は、(i)疾患または疾病の発展の抑制;(ii)疾患または疾病の軽減;及び(iii)疾患または疾病の除去を意味する。
【0039】
本発明の他の好ましい具現例によると、本発明の組成物は、破骨細胞による過度なる骨再吸収(bone resorption)に起因した疾患の改善、予防または治療に使用できる。
【0040】
本発明のまた他の好ましい具現例によると、本発明の組成物は、骨多孔症(osteoporosis)及び関連の骨減少疾患(osteopenic diseases)の治療及び予防に有用である。
【0041】
本発明の組成物により治療、予防または改善可能な疾患は、骨多孔性、特に閉経前後期間に係わる骨多孔症、パジェット病(Paget's disease)、骨腫瘍(bone neoplasms)に係わる高カルシウム血症(hypercalcemia)を含み、下記のような相異なるタイプの骨多孔性疾患及び関連疾患を含むが、これらに限定されない:更年期骨多孔症(involutional osteoporosis)、タイプIまたは閉経後骨多孔症、タイプIIまたは老年性骨多孔症(senile osteoporosis)、小児骨多孔症(juvenile osteoporosis)、特発性骨多孔症(idiopathic osteoporosis)、内分泌異常(endocrine abnormality)、甲状腺機能亢進症(hyperthyroidism)、性腺機能低下症(hypogonadism)、卵巣無発生症(ovarian agensis)またはターナー症候群(Turner's syndrome)、副腎皮質亢進症(hyperadrenocorticism)またはクッシング症候群(Cushing's syndrome)、副甲状腺機能亢進症(hyperparathyroidism)、骨髄異常症(bone marrow abnormalities)、多発性骨髄腫(multiple myeloma)及び関連疾患、全身性肥満細胞症(systemic mastocytosis)、播種がん腫(disseminated carcinoma)、ゴーシェ病(Gaucher's disease)、結合組織異常症(connective tissue abnormalities)、骨形成不全症(osteogenesis imperfecta)、ホモシスチン尿症(homocystinuria)、エーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos syndrome)、マルファン症候群(Marfan's syndrome)、メンケス症候群(Menke's syndrome)、固定化(immobilization)または無重力症(weightlessness)、ズデック萎縮症(Sudeck's atrophy)、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease)、慢性ヘパリン投与(chronic heparin administration)及び慢性抗痙攣剤服用(chronic ingestion of anticonvulsant drugs)。
【0042】
また、本発明の組成物は、関節リウマチ(rheumatoid arthritis)、歯周疾患(peridontaldisease)、人工挿入物周囲骨融解(periprosthetic osteolysis)、他の自己免疫疾患、骨の腫瘍性破壊(neoplastic destruction)及び癌関連骨再吸収疾病の治療または予防に使用できるが、これらに限定されない。
【0043】
また、本発明の組成物は、本明細書に明示的に記載されていないが、破骨細胞の過活性化または過増殖化に起因する他の疾病及びこの2次的疾病の治療に使用できる。
【0044】
本発明の最も好ましい具現例によると、前記破骨細胞の過活性化または過増殖化に起因する他の疾病は、骨多孔症(osteoporosis)、パジェット病(Paget's disease)、高カルシウム血症(hypercalcemia)、関節リウマチ(rheumatoid arthritis)、転移性骨破壊(metastatic bone destruction)、癌(cancer)及び免疫疾病を含む。
【0045】
本発明の破骨細胞の過活性化または過増殖に起因する疾病の予防または治療用薬剤学的組成物は、有効成分の他に、薬剤学的に許容される担体を含む。
【0046】
本発明の薬剤学的組成物に含まれる薬剤学的に許容される担体は、製剤時に通常的に利用されるものであって、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、及びミネラルオイルなどを含むが、これらに限定されるものではない。本発明の薬剤学的組成物は、前記成分の他に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むことができる。適した薬剤学的に許容される担体及び製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences (19th ed., 1995)に詳細に記載されている。
【0047】
本発明の薬剤学的組成物の適合した投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性、病的状態、飲食、投与時間、投与経路、排泄速度、及び反応感応性のような要因により様々である。一方、本発明の薬剤学的組成物の投与量は、好ましくは、1日当たり0.001〜1000mg/kg(体重)である。
【0048】
本発明の薬剤学的組成物は、経口または非経口で投与でき、非経口投与の場合は、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、経皮投与などにより投与できる。本発明の薬剤学的組成物は、適用される疾患の種類によって、投与経路が決定されることが好ましい。
【0049】
本発明の組成物に含まれる有効成分のD−ピニトールの濃度は、治療目的、患者の状態、必要期間、疾患の危篤度などを考慮して決定し、特定範囲の濃度に限定されるものではない。
【0050】
本発明の薬剤学的組成物は、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できる方法により、薬剤学的に許容される担体及び/または賦形剤を利用して製剤化することにより、単位容量形態に製造されるか、または多用量容器内に入れて製造できる。この際、剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液または乳化液の形態であるか、エキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態であってもよく、分散剤または安定化剤をさらに含むことができる。
【0051】
本発明の組成物は、食品、特に機能性食品組成物の形態として提供できる。本発明の機能性食品組成物は、食品製造時に通常的に添加される成分を含むが、例えば、タンパク質、炭水化物、脂肪、栄養素及び調味剤を含む。例えば、ドリンク剤に製造される場合は、有効成分としてD−ピニトールの他に、香味剤または天然炭水化物を追加成分として含ませることができる。例えば、天然炭水化物は、単糖類(例えば、グルコース、フルクトースなど);二糖類(マルトース、スクロースなど);オリゴ糖;多糖類(例えば、デキストリン、シクロデキストリンなど);及び糖アルコール(例えば、キシリトール、ソルビトール、エリスリトールなど)を含む。香味剤として、天然香味剤(例えば、ソーマチン、ステビア抽出物)及び合成香味剤(例えば、サッカリン、アスパルテームなど)を使用することができる。食品に対する容易な接近性を考慮すると、本発明の機能性食品組成物は、骨代謝性疾患の改善、軽減、予防に非常に有用である。
【0052】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれら実施例に限定されないことは、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者にとっては自明なことであろう。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】破骨細胞及び造骨細胞の恒常性調節と骨多孔症の発病機序を示す図である。
【図2】破骨細胞分化及びこれに係わるサイトカイン(cytokine)の機能を示す図である。
【図3】Raw 264.7細胞の増殖に及ぼすD−ピニトールの影響を調べた結果を示したグラフである。三日間、0、0.2、0.5、1、5、10、20及び50mMの濃度でD−ピニトールを処理した後、24時間間隔で細胞の数を調べた。
【図4】CCK8の活性測定を通じて、骨髄由来の造血幹細胞の増殖に及ぼすD−ピニトールの濃度別影響を調べた結果を示したグラフである。
【図5】Raw 264.7細胞の破骨細胞への分化過程において、D−ピニトールの影響を、TRAP染色を通じて調べた結果を示す写真である。Raw 264.7細胞は、RankL 200ng/mlで四日間処理し、四日目にTRAP染色を通じて破骨細胞の分化を確認した。
【図6】Raw 264.7細胞の破骨細胞への分化過程において、D−ピニトールの処理濃度によって、TRAP染色を通じて多核破骨細胞の数を測定した結果である。
【図7】TRAP溶液分析を通じて、Raw 264.7細胞の破骨細胞への分化過程において、D−ピニトールの濃度別影響を測定した結果を示したグラフである。
【図8】骨髄由来の破骨細胞の分化過程中に、D−ピニトールの濃度別影響を示す写真である。骨髄の造血幹細胞にRankLを200ng/ml及びM−CSF 50ng/ml処理した後、四日間培養した。四日目にTRAP染色を通じて破骨細胞の分化を確認した。
【図9】骨髄由来の破骨細胞の多核化及び破骨細胞分化過程において、D−ピニトールの濃度別影響を、TRAP染色結果を通じて示したグラフである。
【図10】骨髄由来の破骨細胞の多核化及び破骨細胞分化過程において、D−ピニトールの濃度別影響を、TRAP溶液分析結果を通じて示したグラフである。
【図11】造骨細胞及び骨髄由来の破骨細胞の共同培養時に、破骨細胞の分化過程に及ぼすD−ピニトールの濃度別影響を示す写真である。
【図12】骨髄由来の破骨細胞の分化の各段階に及ぼすD−ピニトールの濃度別影響を示したグラフである。
【図13】骨髄由来の破骨細胞の骨吸収能に及ぼすD−ピニトールの濃度別影響を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0054】
(実施例)
〔実験方法〕
<Raw264.7細胞の培養及び破骨細胞の分化>
Raw264.7細胞は、10%牛胎児血清(Fetal Bovine Serum)を含むa-MEM (a-minimal essential medium)培地で培養した。破骨細胞(osteoclast)分化実験は、96ウェルプレート(well plates)に2.0×103細胞/200μlになるようにした後、200ng/mlのsRANKLを処理した。この際、D-ピニトールを1mM、3.5mM、7mM、12.5mM、25mM、50mM濃度別処理をして三日間培養した後、四日目にTRAP(tartrate resistant acid phosphatase)染色とTRAP溶液分析(TRAP solution assay)を進行した。細胞は、TRAP染色とTRAP溶液分析のために固定した。TRAPポジティブ多核性(3核以上)細胞は、破骨細胞−類似細胞として計数した。細胞は、Leica DM IRM顕微鏡で観察した。
【0055】
<TRAP染色>
TRAPポジティブ細胞の細胞化学的染色は、培地を除去した後、10%ホルマリン100μlを入れて常温で10分間放置した。その後、メタノール/アセトン100μlを入れて、常温で1分間反応した。そして、10ml TRAPバッファ(Tris-HCl, pH4.5, EDTA)、ナフトールASホスフェート(Naphthol AS phosphate, 基質, Sigma #N-4875)と5mg Fast Red Violet dye(Sigma, F-1625)を使用して染色した。この際、1 mgナフトールASホスフェートは、N, N-ジメチルフォーミド(DMF, Sigma #319937) 150mlに溶かして使用した。前記反応を10〜30分間くらい行って、赤色を帯びることを観察することができた。赤色が明らかに現れると、流れる水で洗浄した後、乾燥した。TRAP-染色された細胞は、光学顕微鏡で観察した。
【0056】
<TRAP溶液分析(TRAP solution assay)>
TRAPポジティブ細胞のTRAP溶液分析は、以下の方法により行った。まず培地を除去した後、10%ホルマリン100μlを入れて、常温で10分間放置した。その後、メタノール/アセトン100μlを入れて常温で1分間反応した後、乾燥した。TRAPバッファ(pH 5.2) 20mlにp-ニトロフェニルホスフェート(p-nitrophenylphosphate, pNPP) 1タブレットを溶かしたTRAP基質溶液を150μl入れて、37℃で20〜30分間反応した。新しい96ウェルプレートを用意し、これに1N NaOH 50μlを入れた後、TRAP基質100μlを移した。最終的に405nm波長で数値に換算した。
【0057】
<D−ピニトールの細胞毒性測定>
Raw264.7細胞に対するD-ピニトールの細胞毒性を検証するために、Raw264.7細胞を96ウェルプレートに0.5×103細胞/200μlになるように培養した。培養された細胞にD-ピニトールを1mM、3.5mM、7mM、12.5mM、25mM、50mMの濃度別処理し、三日間培養した。添加した化合物の細胞毒性を確認するために、三日間増加される細胞数を計数した。
【0058】
骨髄細胞に対するD-ピニトールの細胞毒性を検証するために、骨髄細胞を96ウェルプレートに1.0×105細胞/200μlになるように調整した後、50ng/mlのM-CSFと共に培養した。培養された細胞にD-ピニトールを1mM、3.5mM、7mM、12.5mM、25mM、50mM濃度別処理して、四日間培養した。細胞毒性は、CCK8 kit (Cell Counting Kit-8, Dojindo, Japan)を使用して測定した。それぞれの培養時間による培養液に10% CCK8溶液を添加した後、37℃で2時間培養した。培養後、Microplate reader(Bio-Rad)で450nmで吸光度を測定した。
【0059】
<骨髄由来の破骨細胞の分化に対するD−ピニトールの影響>
マウス骨髄細胞を分離するために、生後3〜4週齢のC57/BL6雄性マウスの大腿骨と脛骨を無菌状態で摘出及び軟組織を除去した。抽出された骨組織から長骨の両端を切断した後、26G注射針を利用して一端の骨髄腔にα-MEM/10% FBSを注射して骨髄細胞を取り出した。収獲された骨髄細胞に5ng/mlのM-CSFを処理して16時間培養した後、プレートの底面に付着されなかった細胞を収獲した。
【0060】
骨髄由来の破骨細胞の分化実験のために、96ウェルプレートに、各ウェル当たり1.0×105骨髄細胞を、α-MEM/10% FBSで200ng/mlのsRANKLと50ng/mlのM-CSF存在下で培養した。この際、D-ピニトールを多様な濃度で添加して培養した。各濃度別に3回行って、sRANKLとM-CSF、D-ピニトールを含んだ完全培地で培養し、三日目に入れ替えた。四日目にLeica DM IRM顕微鏡で観察した後、TRAP染色とTRAP溶液分析を行った。
【0061】
破骨細胞に及ぼすD-ピニトールの影響を培養段階別に調べるために、培養中の破骨細胞にD-ピニトールを濃度別に処理した。D-ピニトールの処理された破骨細胞を培養時間別に分離した後、TRAP溶液分析法を使用し、分化された破骨細胞の量を分析した。
【0062】
<造骨細胞の分離及び破骨細胞の共同培養>
マウスの1次造骨細胞を製造するために、生後1日目の新生マウスから前頭骨と頭頂骨を無菌状態で摘出した。摘出された骨組織をPBS溶液で洗浄した後、混合酵素溶液(0.2% collagenase及び0.1% dispase)に連続的に20分間隔で6回処理し、造骨細胞の特性を有した細胞を収集して培養液で洗浄した。洗浄された細胞を、10%血清が含まれたα-MEM培地で三日間培養した後、1次造骨細胞として使用した。共同培養は、96ウェルプレートに1.0×104細胞/200μlの造骨細胞と1.0×105個の骨髄細胞を入れて、ビタミンD3 (Vitamin D3, 10-6M)とProstagrandin E2(PGE2, 10-8M)を添加し五日間培養した後、TRAP染色を行った。
【0063】
<骨吸収分解能の測定>
破骨細胞の骨吸収分解能に及ぼすD-ピニトールの影響を調べるために、96ウェルプレートに歯骨切片を入れた後、骨髄細胞を1.0×105細胞/200μlになるように培養した。破骨細胞の分化のために、50ng/mlのM-CSFと200ng/mlのsRANKLを添加した後、D-ピニトールを濃度別に処理して、四日間培養した。培養が完了した後、破骨細胞の分化が観察されると、骨切片から細胞を除去して、1%トルイジンブルー(toluidine blue)で染色し、顕微鏡で観察した。
【0064】
〔実験結果〕
<D−ピニトールのRaw264.7細胞毒性の測定>
D-ピニトールの濃度による細胞毒性を調べた。多様な濃度のD-ピニトールを細胞に処理し、細胞増殖(cell proliferation)に対する影響を調べた。破骨細胞の前駆細胞株であるRaw264.7細胞を三日間培養しながら、D-ピニトールを0〜50mMの濃度範囲で処理した後、D-ピニトール濃度増加による生存細胞の数を24時間単位で三日間測定した。図3に示したように、D-ピニトールは、最高濃度50mMでもRaw264.7細胞毒性を示さなかった。
【0065】
<D−ピニトールの造血幹細胞に対する毒性測定>
D-ピニトールの造血幹細胞に対する毒性有無を検査した。骨髄由来の造血幹細胞を抽出した後、分離された細胞にM-SCF(50ng/ml)を処理して細胞増殖を誘導した。増殖誘導された細胞にD-ピニトールを0〜50mMの濃度範囲で処理した後、CCK8酵素活性を測定し、細胞増殖に対する影響を測定した。図4に示されたように、D-ピニトールは、0〜50mMの濃度範囲においてCCK8の活性に影響を与えなかった。50mM以下のD-ピニトールは、造血幹細胞の増殖に影響を与えなかった。
【0066】
<D−ピニトールの、Raw264.7細胞の破骨細胞への分化阻害活性−TRAP染色法>
RankLにより細胞の信号伝達が始まると、Raw264.7細胞は、破骨細胞に分化を始める。分化初期段階で細胞間の融合が現れる。分化が完了された破骨細胞の場合は、2〜50個の核を有する多核細胞になる。多核細胞の形成は、破骨細胞の分化に係わる典型的特性である。破骨細胞の分化は、TRAP染色方法により確認することができる。
【0067】
Raw264.7細胞株にRankL 200ng/mlを四日間処理した。図5に示されたように、Raw264.7細胞株にRankLを処理しなかった場合は、破骨細胞への分化が全く起こらなかった(陰性対照群)。RankL 200ng/mlを処理した細胞株では、細胞間の融合が著しく増加した(陽性対照群)。RankLにより活性された細胞の場合は、TRAPにより強く染色され、朱色の色を帯びて、細胞が融合された多核細胞が観察された。
【0068】
Raw264.7細胞の破骨細胞への分化過程におけるD-ピニトールの影響を調べるために、D-ピニトールをRaw264.7細胞に、細胞毒性のない濃度である50mMまで段階的に処理した後、破骨細胞への分化を観察した。図5に示されたように、破骨細胞への分化は、D-ピニトールの濃度が増加されるにつれて著しく減少した。またTRAP染色により表れる多核細胞の数が、D-ピニトールの濃度が増加するにつれて減少されることを確認した。この結果により、D-ピニトールが、破骨細胞への分化を抑制する物質であることを確認した。
【0069】
Raw264.7細胞の破骨細胞への分化過程において、D-ピニトールの阻害活性を定量化するために、D-ピニトールの処理濃度による多核破骨細胞の数を、TRAP染色を通じて測定した。図6に示されたように、D-ピニトールの濃度が増加されるにつれて、多核細胞の数が著しく減少した。したがって、D-ピニトールは、Raw264.7細胞の破骨細胞への分化過程を阻害する物質であることを確認した。D-ピニトールは、50mM濃度において破骨細胞への分化をほぼ100%抑制した。
【0070】
<D−ピニトールの、Raw264.7細胞の破骨細胞への分化阻害活性−TRAP溶液分析法>
D-ピニトールの、Raw264.7細胞の破骨細胞への分化阻害活性を検証するために、TRAP溶液分析(TRAP solution assay)を行った。破骨細胞の分化過程においてTRAP(tartrate resistant acid phosphatase)は、典型的なマーカー蛋白質として知られている。図7に示したように、TRAP溶液分析結果により、TRAP染色の結果と同様に、D-ピニトールの、破骨細胞への分化抑制活性を確認することができた。ところが、TRAP溶液分析結果では、多核細胞の数測定による結果とは異なって、D-ピニトールの抑制活性が比較的弱く現れた。
【0071】
このような結果は、TRAPが破骨細胞の重要なマーカーであるものの、TRAPポジティブ細胞としての転換機序にはD-ピニトールの関与度が低いことを暗示する。
【0072】
<D−ピニトールの、骨髄細胞由来の破骨細胞の分化阻害活性−TRAP染色法>
破骨細胞は、骨髄に存在する単核細胞から分化される。骨髄由来の破骨細胞は、Raw264.7細胞とは異なって、生体内の破骨細胞と最も近い1次細胞(primary cell)である。
【0073】
骨髄に存在する破骨細胞の前駆細胞を分離した後、これを破骨細胞に分化させる実験を行った。Raw264.7細胞と同様に骨髄由来の破骨細胞も、TRAP染色により、分化された形態の多核細胞を観察することができる。
【0074】
図8に示されたように、骨髄から抽出した前駆細胞にRankL(200ng/ml)とM-CSF(50ng/ml)を処理すると、四日後に破骨細胞が形成されることを観察することができた(陽性対照群)。一方、サイトカインを処理しなかった場合、破骨細胞が形成されなかった(陰性対照群)。
【0075】
骨髄由来の単核細胞から破骨細胞への分化に及ぼすD-ピニトールの影響を調べるために、骨髄に存在する造血幹細胞を抽出した後、M-CSF(5ng/ml)で一日間活性化させて、単核細胞系列の細胞に分化を誘導した。この単核細胞系列の細胞にRankL 200ng/ml及びM-CSF 50ng/mlを処理した後、四日間培養した。培養中にD-ピニトールを0〜50mMの濃度範囲で処理した後、TRAP染色を通じて破骨細胞の分化様相を観察した。図8の結果から分かるように、D-ピニトールの濃度に比例して、TRAP染色された破骨細胞の数が減少されることが分かった。この結果は、D-ピニトールが、Raw264.7細胞の場合と同様に、骨髄由来の破骨細胞の分化を抑制するということを示唆する。
【0076】
骨髄由来の単核細胞から破骨細胞への分化過程におけるD-ピニトールの影響を定量的に示すために、TRAP染色を通じて、実験群内の多核破骨細胞の数を測定した。図9から分かるように、D-ピニトール濃度が増加されるにつれて多核細胞の数が減少し、25mMからは著しく減少した。50mMのD-ピニトール処理時は、破骨細胞への分化がほぼ100%抑制された。
【0077】
<D−ピニトールの、骨髄細胞由来の破骨細胞の分化阻害活性−TRAP溶液分析法>
D-ピニトールの破骨細胞分化阻害効能を確認するために、骨髄1次細胞由来の破骨細胞に対して、TRAP溶液分析法を利用して分析した。図10に示されたように、骨髄由来の破骨細胞の分化阻害現象は、TRAP溶液分析結果によっても現れた。この結果は、D-ピニトールが、TRAPポジティブ細胞への分化過程においても阻害効果を有することを示す。
【0078】
<造骨及び破骨細胞の共同培養において、D−ピニトールの破骨細胞分化阻害活性>
造骨細胞と破骨細胞の共同培養(co-culture)は、人体と最も類似した環境を提供し、且つ、破骨細胞の分化過程が研究できるシステムである。
【0079】
マウスの頭蓋骨から造骨細胞を抽出した後、骨髄の造血幹細胞と共同培養して、破骨細胞の分化を誘導した。分化誘導過程中にD-ピニトールを0〜50mM濃度範囲で処理して、共同培養時、破骨細胞分化に及ぼすD-ピニトールの効果を検査した。図11から分かるように、D-ピニトールの濃度が増加されるにつれて、多核の破骨細胞数が著しく減少されることを確認した。D-ピニトールを50mM濃度で処理した場合、破骨細胞分化阻害効果が明確に現れた。この結果によると、D-ピニトールは、人体と最も類似した共同培養システムにおいても、破骨細胞の分化を抑制する効果を有することを確認した。
【0080】
<骨髄細胞を利用した破骨細胞分化段階別のD−ピニトールの破骨細胞分化阻害活性>
骨髄由来の破骨細胞の分化の各段階におけるD-ピニトールの影響を分析するために、D-ピニトールによる破骨細胞分化能を時間別に分析した。図12から分かるように、D-ピニトール濃度が増加されるにつれて、多核破骨細胞の数が著しく減少した。D-ピニトール25mM以上の濃度において骨髄由来の破骨細胞の分化が、培養二日目から著しく減少された。D-ピニトールを50mMの濃度で処理した場合、破骨細胞分化段階による阻害能を明確に表した。この結果から、D-ピニトールは、破骨細胞の分化初期段階で分化抑制効能を発揮する化合物であることが分かった。これは、D-ピニトールが、破骨細胞の分化過程中、破骨細胞間の融合(fusion)段階に影響を与える物質であることを暗示する。
【0081】
<D−ピニトールによる破骨細胞の骨吸収及び分解阻害活性>
骨切片は、生体内で破骨細胞により吸収及び分解される。骨切片を利用した破骨細胞の骨吸収分解能の調査は、生体内の破骨細胞の機能分析に非常に有用な分析法である。
【0082】
骨髄由来の破骨細胞の骨吸収分解能に及ぼすD-ピニトールの影響を分析するために、ヒトの歯から収獲した骨切片上に破骨細胞を分化させながら、D-ピニトール0〜50mMの濃度範囲で処理した。図13に示したように、骨染色過程を通じて、D-ピニトールの濃度が増加されるにつれて、破骨細胞による骨吸収分解能が著しく減少されることを確認した。特に、25mM以上の濃度で骨髄由来の破骨細胞による骨吸収分解機能が著しく減少された。この結果から、破骨細胞の分化阻害が、破骨細胞の骨吸収分解能の阻害に係わることが分かった。
【0083】
以上、本発明の特定の部分を詳細に記述したが、当業界の通常の知識を有する者にとっては、このような具体的な記述はただ望ましい具現例に過ぎなく、これに本発明の範囲が限定されないことは明らかである。従って、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とその等価物により定義されると言える。
【0084】
−参照文献−
1. TRANCE is a novel ligand of the tumor necrosis factor receptor family that activates c-Jun N-terminal kinase in T cells. J Biol Chem. 1997 Oct 3; 272(40):25190-4.
2. Diverse roles of the tumor necrosis factor family member TRANCE in skeletal physiology revealed by TRANCE deficiency and partial rescue by a lymphocyte-expressed TRANCE transgene. Proc Natl Acad Sci U S A. 2000 Sep 26; 97(20):10905-10.
3. TRANCE, a TNF family member, activates Akt/PKB through a signaling complex involving TRAF6 and c-Src. Mol Cell. 1999 Dec; 4(6):1041-9.
4. Bisphosphonates: Mechanisms of Action. Endocr. Rev., Feb 1998; 19: 80 - 100.
5. The pathobiology of the osteoclast. J. Clin. Pathol., Mar 1985; 38: 241 - 252.
6. Cancer and Bone. Endocr. Rev., Feb 1998; 19: 18 - 54.
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D−ピニトール(D-pinitol)を有効成分として含む破骨細胞(osteoclast)分化阻害用組成物。
【請求項2】
(a)D−ピニトールの薬剤学的有効量と、(b)薬剤学的に許容される担体とを含む骨代謝性疾患の予防または治療用薬剤学的組成物。
【請求項3】
前記骨代謝性疾患は、骨多孔症(osteoporosis)、パジェット病(Paget's disease)、高カルシウム血症(hypercalcemia)、骨の腫瘍性破壊(neoplastic destruction)、癌(cancer)関連の骨再吸収疾病、骨融解(osteolysis)、関節リウマチ(rheumatoid arthritis)または免疫疾病(immune disease)であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
D−ピニトールを有効成分として含む骨代謝性疾患の予防または改善用機能性食品組成物。
【請求項5】
前記骨代謝性疾患は、骨多孔症、パジェット病、高カルシウム血症、骨の腫瘍性破壊、癌関連の骨再吸収疾病、骨融解、関節リウマチまたは免疫疾病であることを特徴とする、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
(a)D−ピニトールの薬剤学的有効量と、(b)薬剤学的に許容される担体とを含む薬剤学的組成物を、骨代謝性疾患を病んでいる対象(subject)に投与する段階を含む骨代謝性疾患の予防または治療方法。
【請求項7】
前記骨代謝性疾患は、骨多孔症、パジェット病、高カルシウム血症、骨の腫瘍性破壊、癌関連の骨再吸収疾病、骨融解、関節リウマチまたは免疫疾病であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
骨代謝性疾患の予防または治療用薬物(medicament)を製造するためのD−ピニトールの用途。
【請求項9】
前記骨代謝性疾患は、骨多孔症、パジェット病、高カルシウム血症、骨の腫瘍性破壊、癌関連の骨再吸収疾病、骨融解、関節リウマチまたは免疫疾病であることを特徴とする、請求項8に記載の組成物。
【請求項1】
D−ピニトール(D-pinitol)を有効成分として含む破骨細胞(osteoclast)分化阻害用組成物。
【請求項2】
(a)D−ピニトールの薬剤学的有効量と、(b)薬剤学的に許容される担体とを含む骨代謝性疾患の予防または治療用薬剤学的組成物。
【請求項3】
前記骨代謝性疾患は、骨多孔症(osteoporosis)、パジェット病(Paget's disease)、高カルシウム血症(hypercalcemia)、骨の腫瘍性破壊(neoplastic destruction)、癌(cancer)関連の骨再吸収疾病、骨融解(osteolysis)、関節リウマチ(rheumatoid arthritis)または免疫疾病(immune disease)であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
D−ピニトールを有効成分として含む骨代謝性疾患の予防または改善用機能性食品組成物。
【請求項5】
前記骨代謝性疾患は、骨多孔症、パジェット病、高カルシウム血症、骨の腫瘍性破壊、癌関連の骨再吸収疾病、骨融解、関節リウマチまたは免疫疾病であることを特徴とする、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
(a)D−ピニトールの薬剤学的有効量と、(b)薬剤学的に許容される担体とを含む薬剤学的組成物を、骨代謝性疾患を病んでいる対象(subject)に投与する段階を含む骨代謝性疾患の予防または治療方法。
【請求項7】
前記骨代謝性疾患は、骨多孔症、パジェット病、高カルシウム血症、骨の腫瘍性破壊、癌関連の骨再吸収疾病、骨融解、関節リウマチまたは免疫疾病であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
骨代謝性疾患の予防または治療用薬物(medicament)を製造するためのD−ピニトールの用途。
【請求項9】
前記骨代謝性疾患は、骨多孔症、パジェット病、高カルシウム血症、骨の腫瘍性破壊、癌関連の骨再吸収疾病、骨融解、関節リウマチまたは免疫疾病であることを特徴とする、請求項8に記載の組成物。
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図7】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2010−538057(P2010−538057A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523947(P2010−523947)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【国際出願番号】PCT/KR2008/005192
【国際公開番号】WO2009/031819
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(510062181)ソルジェント カンパニー (1)
【氏名又は名称原語表記】SOLGENT CO.
【住所又は居所原語表記】3F,63−10 Hwaam−dong,Yuseong−gu,Daejeon 305−348,Republic of Korea
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【国際出願番号】PCT/KR2008/005192
【国際公開番号】WO2009/031819
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(510062181)ソルジェント カンパニー (1)
【氏名又は名称原語表記】SOLGENT CO.
【住所又は居所原語表記】3F,63−10 Hwaam−dong,Yuseong−gu,Daejeon 305−348,Republic of Korea
【Fターム(参考)】
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