説明

DBMSベースのシステムにおいてパラメータ化SPARQLクエリを使用するSPARQLクエリプロセシングのためのシステムおよび方法

本発明は、免疫原性SARSコロナウイルスS (スパイク)ポリペプチド、またはその断片もしくは変異体; ならびにリポ多糖、サポニンおよびリポソームを含むアジュバントを含むワクチンまたは免疫原性組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する分野
本発明は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)感染に対するワクチン、およびSARSの予防でのその使用に関する。本発明はまた、そのようなワクチンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
コロナウイルスは、プラス-センスで非分節の一本鎖RNAゲノムを有し、該ゲノムは、構造タンパク質E、M、NおよびSを含む少なくとも18個のウイルスタンパク質をコードする。コロナウイルスの主要な抗原であるS (スパイク)タンパク質は、ウイルスエンベロープの表面から出現するスパイク形態で存在する膜糖タンパク質(200〜220 kDa)である。それは宿主細胞の受容体へのウイルスの付着およびウイルスエンベロープと細胞膜との融合の惹起に関与する。Sタンパク質は2つのドメイン: 受容体結合に関与すると考えられるS1; およびウイルスと標的細胞の間の膜融合を媒介すると考えられるS2を有する(Holmes and Lai, 1996)。Sタンパク質は非共有結合によって連結されたホモ三量体(オリゴマー)を形成することができ、それは受容体結合およびウイルス感染力を媒介しうる。
【0003】
2003年3月、重症急性呼吸器症候群(SARS)の事例に関連して新規コロナウイルス(SARS-CoVまたはSARSウイルス)が単離された。この新規コロナウイルスのゲノム配列が取得されており、それにはUrbani単離体(Genbankアクセッション番号AY274119.3およびA. MARRA et al., Science, May 1, 2003, 300, 1399-1404)およびToronto単離体(Tor2, Genbankアクセッション番号AY278741およびA. ROTA et al., Science, 2003, 300, 1394-1399)のゲノム配列が含まれる。
【0004】
別のSARS関連コロナウイルスの系統もまた同定されている。それはTor2およびUrbani単離体から識別可能である。このコロナウイルス系統は、SARSに罹患している患者由来の気管支肺胞(bronchoaleveolar)洗浄から回収され、No. 031589の下に記録され、ハノイ(ベトナム)French病院で収集されたサンプル由来である(WO 2005/056781およびWO 2005/056584)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の要旨
本発明は、免疫原性SARSコロナウイルスS (スパイク)ポリペプチド、またはその断片もしくは変異体、ならびにリポ多糖、サポニンおよびリポソームを含むアジュバントを含むワクチン組成物を提供する。
【0006】
本発明はまた、本発明のワクチン組成物の製造方法であって、免疫原性Sポリペプチド、またはその断片もしくは変異体を、リポ多糖、サポニンおよびリポソームを含むアジュバントと混合するステップを含む、方法を提供する。
【0007】
本発明は以下のものをさらに提供する:
・医薬として使用するための本発明のワクチン組成物;
・重症急性呼吸器症候群または他のSARS-CoV-関連疾患を予防または治療するための本発明のワクチン組成物;
・重症急性呼吸器症候群または他のSARS-CoV-関連疾患の予防または治療のための医薬の製造のための本発明のワクチン組成物の使用;
・重症急性呼吸器症候群または他のSARS-CoV-関連疾患の予防または治療方法であって、本発明のワクチン組成物の有効量をそれを必要としている個体に投与するステップを含む、方法; および
・以下を含む免疫原性組成物:
(a) 免疫原性SARSコロナウイルスS (スパイク)ポリペプチド、またはその断片もしくは変異体; および
(b) リポ多糖、サポニンおよびリポソームを含むアジュバント。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、Ssolポリペプチドによって惹起される体液性応答に対するアジュバントの効果を示す。アジュバントを加えない(no adj.)か、または50μgのAlumもしくは50μLの3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを加えた(GSK1 adj.) 2μgのSsolタンパク質の2回の筋肉内注射によって3週間間隔で若い成体BALB/cマウス(8匹/群)を免疫した。2つの対照群は、それぞれのアジュバント単独で免疫した。各注射の3週間後に血清(それぞれIS1およびIS2)を採取し、Callendret et al. (Virology, 2007, 363 : 288-302)に記載のようにSARS-CoVネイティブ抗原に対する特異的抗体応答を抗SARS ELISAによって測定した。各マウス由来の力価を黒丸によって示し、平均を水平バーによって示す。実験の検出限界を点線によって示す。
【図2】図2は、Ssolポリペプチドによって惹起される中和性体液性応答に対するアジュバントの効果を示す。若い成体BALB/cマウス(8匹/群)を上記のようにして免疫した。最後の注射の3週間後に採取された血清の中和抗体力価をCallendret et al. (Virology, 2007, 363 : 288-302)に記載のように測定した。各マウス由来の力価を丸によって示し、平均を水平バーによって示す。実験の検出限界を点線によって示す。
【図3】図3は、アジュバントを使用することによる、BALB/cマウスにおいてSsolタンパク質によって惹起される免疫応答タイプのモジュレーションを示す。SARS-CoVネイティブ抗原に対する特異的IgG1およびIgG2aアイソタイプ力価を、免疫の3週間後に採取されたマウス血清に関して測定した。各マウスに関して測定された力価を丸として示す。対照群では、各群由来の血清の混合物に関して力価を測定し、それをひし形によって示す。実験の検出限界を点線によって示す。
【図4】図4は、シリアンゴールデンハムスターにおいてSsolポリペプチドによって惹起される体液性応答に対するアジュバントの効果を示す。各注射の3週間後(それぞれIS1およびIS2)および第二の注射の3ヶ月後(IS2bis)に血清を採取し、SARS-CoVネイティブ抗原に対する特異的抗体応答を図1のように抗SARS ELISAによって測定した。各ハムスター由来の力価を黒丸によって示し、平均を水平バーによって示す。
【図5】図5は、シリアンゴールデンハムスターにおいてSsolポリペプチドによって惹起される中和性体液性応答に対するアジュバントの効果を示す。最後の注射の3ヶ月後に採取された血清の中和抗体力価を図2に記載のようにして測定した。各ハムスター由来の力価を丸によって示し、平均を水平バーによって示す。
【図6】図6および7は、シリアンゴールデンハムスターにおいてSsolポリペプチドによって惹起される防御免疫応答に対するアジュバントの効果を示す。第二の注射の3ヶ月後に、ハムスターに105 PFUのSARS-CoVの鼻内投与によりチャレンジした。接種の4日後、ハムスターを安楽死させた。肺および上気道(URT、すなわち咽頭および気管)ホモジネートを調製し、Callendret et al. (Virology, 2007, 363 : 288-302)に記載のようにしてVero細胞に対するプラークアッセイによって感染性SARS-CoVを力価測定(滴定)した。個々の各ハムスターに関する値を肺(図6)およびURT (図7)に関して黒丸で示し、平均を水平バーで示す。アッセイの検出限界を点線によって示す。
【図7】図6および7は、シリアンゴールデンハムスターにおいてSsolポリペプチドによって惹起される防御免疫応答に対するアジュバントの効果を示す。第二の注射の3ヶ月後に、ハムスターに105 PFUのSARS-CoVを鼻内投与してチャレンジした。接種の4日後、ハムスターを安楽死させた。肺および上気道(URT、すなわち咽頭および気管)ホモジネートを調製し、Callendret et al. (Virology, 2007, 363 : 288-302)に記載のようにしてVero細胞に対するプラークアッセイによって感染性SARS-CoVを力価測定(滴定)した。個々の各ハムスターに関する値を肺(図6)およびURT (図7)に関して黒丸で示し、平均を水平バーで示す。アッセイの検出限界を点線によって示す。
【図8】図8は、0.2μgのSsolタンパク質であらかじめ免疫したチャレンジされたハムスターの肺の組織病理学的解析の結果を示す。肺の炎症および病変(HE)のスコアおよびウイルス抗原量(viral antigen loads) (IHC)のスコアを1〜10のスケールで示す。
【図9】図9は、単独の、またはAlumもしくは3D-MPL/QS21/リポソーム(GSK1 adj.)でアジュバント化された種々の用量のSsolで免疫されたBALB/cマウスから免疫後14日目に得られた血清から間接ELISAによって決定されたSARS-CoV特異的IgG抗体力価を示す。
【図10】図10は、単独の、またはAlumもしくは3D-MPL/QS21/リポソーム(GSK1 adj.)でアジュバント化された2μgのSsolで免疫されたBALB/cマウスから免疫後14日目に得られた血清から間接ELISAによって決定されたSARS-CoVアイソタイプ抗体力価を示す。
【図11】図11は、単独の、またはAlumもしくは3D-MPL/QS21/リポソーム(GSK1 adj.)でアジュバント化された0.2μgのSsolで免疫されたBALB/cマウスから免疫後14日目に得られた血清から決定されたSARS-CoV中和抗体力価を示す。
【図12】図12は、単独の、またはAlumもしくは3D-MPL/QS21/リポソーム(GSK1 adj.)でアジュバント化された種々の用量のSsolで免疫されたBALB/cマウスから免疫後7日目に得られたPBMC中のCD4+ T細胞応答を示す。
【図13】図13は、単独の、またはAlumもしくは3D-MPL/QS21/リポソーム(GSK1 adj.)でアジュバント化された種々の用量のSsolで免疫されたBALB/cマウスから免疫後14日目に得られた脾臓中のCD4+ T細胞応答を示す。
【図14】図14は、単独の、またはAlumもしくは3D-MPL/QS21/リポソーム(GSK1 adj.)でアジュバント化された種々の用量のSsolで免疫されたBALB/cマウスから免疫後14日目に得られた脾臓細胞からのサイトカイン分泌(IL-5、IL-13およびIFN-γ)を示す。
【図15】図15は、単独の、またはAlumもしくは3D-MPL/QS21/リポソーム(GSK1 adj.)でアジュバント化された種々の用量のSsolで免疫されたC57BL/6マウスから免疫後14日目に得られた血清から間接ELISAによって決定されたSARS-CoV特異的IgG抗体力価を示す。
【図16】図16は、単独の、またはAlumもしくは3D-MPL/QS21/リポソーム(GSK1 adj.)でアジュバント化された2μgのSsolで免疫されたC57BL/6マウスから免疫後14日目に得られた血清から間接ELISAによって決定されたSARS-CoVアイソタイプ抗体力価を示す。
【図17】図17は、単独の、またはAlumもしくは3D-MPL/QS21/リポソーム(GSK1 adj.)でアジュバント化された0.2μgのSsolで免疫されたC57BL/6マウスから免疫後14日目に得られた血清から決定されたSARS-CoV中和抗体力価を示す。
【図18】図18は、単独の、またはAlumもしくは3D-MPL/QS21/リポソーム(GSK1 adj.)でアジュバント化された種々の用量のSsolで免疫されたC57Bl/6マウスから免疫後7日目に得られたPBMC中のCD4+ T細胞応答を示す。
【図19】図19は、3D-MPL/QS21/リポソーム(GSK1 adj.)でアジュバント化された種々の用量のSsolで免疫されたC57Bl/6マウスから免疫後14日目に得られた脾臓細胞中のCD4+ T細胞応答を示す。
【図20】図20は、3D-MPL/QS21/リポソーム(GSK1 adj.)でアジュバント化された種々の用量のSsolで免疫されたC57Bl/6マウスから免疫後14日目に得られた脾臓細胞からのサイトカイン分泌(IL-5、IL-13およびIFN-γ)を示す。
【図21】図21は、シリアンゴールデンハムスターにおいて2μgのSsolポリペプチドによって惹起される中和性体液性応答に対するアジュバントの効果を示す。最後の注射の8ヶ月後に回収された血清の中和抗体力価を図2に記載のように測定した。各ハムスター由来の力価を丸によって示し、平均を水平バーによって示す。
【図22】図22および23は、シリアンゴールデンハムスターにおいて2μgのSsolポリペプチドによって惹起される防御免疫応答に対するアジュバントの効果を示す。第二の注射の8ヶ月後に、ハムスターに105 PFUのSARS-CoVを鼻内投与してチャレンジした。接種の4日後、ハムスターを安楽死させた。肺および上気道(URT、すなわち咽頭および気管)ホモジネートを調製し、Callendret et al. (Virology, 2007, 363 : 288-302)に記載のようにしてVero細胞に対するプラークアッセイによって感染性SARS-CoVに関して力価測定(滴定)した。個々の各ハムスターに関する値を肺(図S2)およびURT (図S3)に関して黒丸で示し、平均を水平バーで示す。アッセイの検出限界を点線によって示す。
【図23】図22および23は、シリアンゴールデンハムスターにおいて2μgのSsolポリペプチドによって惹起される防御免疫応答に対するアジュバントの効果を示す。第二の注射の8ヶ月後に、ハムスターに105 PFUのSARS-CoVを鼻内投与してチャレンジした。接種の4日後、ハムスターを安楽死させた。肺および上気道(URT、すなわち咽頭および気管)ホモジネートを調製し、Callendret et al. (Virology, 2007, 363 : 288-302)に記載のようにしてVero細胞に対するプラークアッセイによって感染性SARS-CoVに関して力価測定(滴定)した。個々の各ハムスターに関する値を肺(図S2)およびURT (図S3)に関して黒丸で示し、平均を水平バーで示す。アッセイの検出限界を点線によって示す。
【図24】図24は、2μgのSsolタンパク質であらかじめ免疫されたチャレンジを受けたハムスターの肺の組織病理学的解析の結果を示す。肺の炎症および病変(HE)のスコアおよびウイルス抗原量(IHC)のスコアを1〜10のスケールで示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
詳細な説明
本発明は、重症急性呼吸器症候群(SARS)または他のSARS-CoV-関連疾患の予防または治療において有用なワクチン組成物を提供する。本発明において使用される用語「ワクチン」とは、場合によりアジュバントとともに好適に製剤化された場合に、個体、例えばヒトにおいて免疫応答を惹起可能な免疫原性成分を含む組成物を表す。したがって、一実施形態では、本発明は、免疫原性SARSコロナウイルスS (スパイク)ポリペプチド、またはその断片もしくは変異体、ならびにリポ多糖、サポニンおよびリポソームを含むアジュバントを含む免疫原性組成物を提供する。
【0010】
本発明のワクチン組成物は、免疫原性SARSコロナウイルスS (スパイク)ポリペプチド(その断片および変異体を含む)を含む。該免疫原性Sポリペプチドは、防御免疫応答を惹起可能なエピトープ、例えば、SARS-CoV感染に対し、中和抗体の産生を惹起可能および/または細胞性免疫応答を促進可能なエピトープを有する、Sタンパク質の任意の部分を含んでよい。
【0011】
典型的なSARS-CoV Sタンパク質は1,255アミノ酸を有し(例えば配列番号1を参照のこと)、13アミノ酸シグナル配列、アミノ酸12〜672のS1ドメイン、およびアミノ酸673〜1192のS2ドメインを有する。該タンパク質は、シグナルペプチド(アミノ酸1〜13)、細胞外ドメイン(アミノ酸14〜1195)、膜貫通ドメイン(アミノ酸1196〜1218)および細胞内ドメイン(アミノ酸1219〜1255)からなる。Sタンパク質配列は任意のSARS-CoV系統由来であってよく、該系統には、ヒト集団においてSARSを引き起こしたことが知られている系統、例えばTor2、UrbaniまたはNo. 031589系統が含まれ、またはSARS-CoVの任意の他の系統、例えば動物集団、例えばジャコウネコまたはコウモリにおいて血中循環しているがヒト集団に未だ侵入していない系統由来であってよい。
【0012】
一実施形態では、免疫原性Sポリペプチドは全長Sタンパク質の部分または断片である。本明細書中に記載されるように、免疫原性Sポリペプチドには、SARSコロナウイルスに対して防御免疫応答を惹起する、それぞれ全長Sタンパク質または野生型Sタンパク質内に含有される少なくとも1つのエピトープを有するSタンパク質の断片またはSタンパク質変異体(本明細書中に記載の全長Sタンパク質の変異体またはS断片であってよい)が含まれる。
【0013】
一実施形態では、免疫原性Sポリペプチドは、Sタンパク質の細胞外ドメイン(外部ドメイン)全体、例えばアミノ酸1〜1193からなるか、またはそれを含む。ゆえに、免疫原性Sポリペプチドは、その細胞質内および膜貫通ドメインが欠失しているS糖タンパク質からなるものでありうる。場合により、シグナルペプチド(アミノ酸1〜13)を欠失させてよい。一実施形態では、免疫原性Sポリペプチドは、セリン-グリシンリンカー(SG)およびオクタペプチドFlag (DYKDDDDK)によってそのC末端まで延長されたSタンパク質の細胞外ドメインからなる。特に、免疫原性Sポリペプチドは、C末端で配列SGDYKDDDDKに融合されているSARS-CoV Sタンパク質のアミノ酸14〜1193からなるか、またはそれを含んでよい。別の実施形態では、Sポリペプチドは配列番号2の配列からなるか、またはそれを含んでよい。
【0014】
免疫応答を刺激するか、誘導するか、または惹起するエピトープを含むSタンパク質断片は、配列番号1の8アミノ酸〜150アミノ酸の範囲の任意の数のアミノ酸(例えば、8、10、12、15、18、20、25、30、35、40、50、等のアミノ酸)の範囲の連続したアミノ酸の配列を含んでよい。
【0015】
他の実施形態では、コロナウイルスSポリペプチド変異体は、配列番号1に記載の全長Sタンパク質のアミノ酸配列に対して少なくとも50%〜100%のアミノ酸同一性(すなわち、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%同一性)を有する。そのようなSポリペプチド変異体および断片は、少なくとも1つのSタンパク質特異的生物学的活性または機能、例えば: (1) SARS-CoVに対する防御免疫応答、例えば中和応答および/または細胞性免疫応答を惹起する能力; (2) 受容体結合を介するウイルス感染を媒介する能力; および(3) ビリオンと宿主細胞の間の膜融合を媒介する能力、を保持する。
【0016】
Sポリペプチドは保存的アミノ酸置換を含有してよい。保存的置換の例には、1つの脂肪族アミノ酸を別の脂肪族アミノ酸、例えばIle、Val、Leu、またはAlaに代えて置換すること、または1つの極性残基を別の極性残基に代えて置換すること、例えばLysとArg、GluとAsp、またはGlnとAsnの間での置換が含まれる。類似アミノ酸置換または保存的アミノ酸置換はまた、アミノ酸残基が、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン); 酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸); 非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、ヒスチジン); 無極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン); ベータ分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン)を有するアミノ酸を含む、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換される置換であってよい。分類が困難であると考えられるプロリンは、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(例えば、Leu、Val、Ile、およびAla)と特性を共有する。特定の状況では、グルタミン酸をグルタミンで置換することまたはアスパラギン酸をアスパラギンで置換することは、グルタミンおよびアスパラギンがそれぞれグルタミン酸およびアスパラギン酸のアミド誘導体である点で、類似置換であるとみなされる。
【0017】
本明細書中で開示されるコロナウイルス免疫原配列中のアミノ酸の保存的および類似置換は、本明細書中に記載されかつ当技術分野において実施される方法にしたがって容易に調製することができ、該方法は、類似の物性および機能的または生物学的活性、例えば免疫応答を誘導または惹起する能力を保持する変異体を提供し、該免疫応答には、体液性応答(すなわち、野生型(または非変異体(nonvariant))免疫原に結合しかつ、野生型(もしくは非変異体)免疫原に特異的に結合する抗体および/または野生型もしくは非変異体免疫原に特異的に結合する抗体に結合する抗体と同じ生物学的活性を有する抗体を惹起すること)が含まれる。そのSタンパク質免疫原変異体は、例えば、細胞の受容体に結合し感染力を媒介する能力を保持する。
【0018】
本明細書中で使用される「同一性パーセント」または「同一性%」とは、コンピュータ実装アルゴリズムを典型的にはデフォルトパラメータで使用して、被験ポリペプチド、ペプチド、またはその変異体配列の全体を試験配列と比較することによって得られるパーセンテージ値である。本明細書中に記載の変異体免疫原は、1以上の種々の突然変異、例えば点突然変異、フレームシフト突然変異、ミスセンス突然変異、付加、欠失、等を含むように作製することができ、または変異体は、例えば特定の化学置換基による改変(グリコシル化およびアルキル化が含まれる)の結果であってよい。
【0019】
本明細書中に記載されるように、本明細書中に記載のSタンパク質免疫原、その断片、および変異体は、免疫応答、例えば防御免疫応答を惹起または誘導するエピトープを含有し、該免疫応答は体液性応答および/または細胞性免疫応答であってよい。防御免疫応答は、コロナウイルスによる宿主の感染の予防; 感染の改変または制限; 感染からの宿主の回復の支援、改善、増強、または刺激; およびSARSコロナウイルスによるその後の感染を予防または制限する免疫記憶の生成の少なくとも1つによって現れる。体液性応答は、感染力を中和し、ウイルスおよび/または感染細胞を溶解し、宿主細胞によるウイルスの除去を促進し(例えば食作用を促進し)、かつ/またはウイルスの抗原性物質に結合してその除去を促進する抗体の生産を含む。体液性応答はまた、特異的粘膜IgA応答の惹起または誘導を含む粘膜応答を含む。
【0020】
本明細書中に記載のSARS-CoV Sポリペプチド、断片、または変異体による、被験体または宿主(ヒトまたは非ヒト動物)における免疫応答の誘導は、本明細書中に記載の方法および当技術分野において日常的に実施される方法によって決定し、特徴づけることができる。これらの方法には、例えばウサギ、マウス、フェレット、ジャコウネコ、アフリカミドリザル、またはアカゲザルマカクモデルを使用する動物免疫化試験等のin vivoアッセイ、およびウエスタンイムノブロット解析、ELISA、免疫沈降、ラジオイムノアッセイ、等、およびその組み合わせを含む抗体の検出および分析のための免疫化学的方法等の多数のin vitroアッセイのいずれかが含まれる。
【0021】
免疫応答を分析しかつ特徴づけるために使用しうる他の方法および技術には、中和アッセイ(例えばプラーク減少アッセイまたは細胞変性効果(CPE)を測定するアッセイまたは当業者によって実施される任意の他の中和アッセイ)が含まれる。当技術分野において公知の前記および他のアッセイおよび方法を使用して、SARSコロナウイルスに対して防御体液性免疫応答または細胞性免疫応答を惹起する少なくとも1つのエピトープを有するSタンパク質免疫原およびその変異体を同定しかつ特徴づけることができる。種々のアッセイにおいて得られた結果の統計学的有意性は、当該技術分野の当業者によって日常的に実施される方法にしたがって算出しかつ理解することができる。
【0022】
コロナウイルスSタンパク質免疫原(全長タンパク質、その変異体、または断片)、ならびにそのような免疫原をコードする対応する核酸は、単離された形態で提供され、特定の実施形態では、均質に精製される。本明細書中で使用される用語「単離された」とは、核酸またはポリペプチドがその元の環境または天然環境から取り出されていることを意味する。
【0023】
SARSコロナウイルスSタンパク質免疫原ならびにその断片および変異体は合成または組換えによって製造することができる。コロナウイルスに対する免疫応答を誘導するエピトープを含有するコロナウイルスタンパク質断片を、自動化手順による合成を含む、標準化学的方法によって合成することができる。あるいは、Sタンパク質免疫原を組換えによって製造してよい。例えば、核酸発現構築物中で発現制御配列、例えばプロモーターに作動可能に連結されているポリヌクレオチドからSタンパク質免疫原を発現させることができる。例えば、Sタンパク質免疫原は配列番号3または4のDNA配列によってコードされる。SARSコロナウイルスSポリペプチドおよびその断片または変異体を哺乳類細胞、酵母、細菌、昆虫または他の細胞中で適切な発現制御配列の制御下で発現させることができる。無細胞翻訳系を用いて、核酸(RNAを含む)および発現構築物を使用してそのようなコロナウイルスタンパク質を製造してもよい。原核生物および真核生物宿主で使用するために適切なクローニングおよび発現ベクターは当業者によって日常的に使用され、例えばSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor, NY, (1989)およびThird Edition (2001)に記載されている。該ベクターには、プラスミド、コスミド、シャトルベクター、ウイルスベクター、および上記文献中で開示される染色体複製起点を含むベクターが含まれる。
【0024】
当業者には理解されるであろうが、コロナウイルスSポリペプチドまたはその変異体をコードするヌクレオチド配列は、例えば遺伝暗号の縮重のために、本明細書中に記載の配列と異なってよい。コロナウイルスポリペプチド変異体をコードするヌクレオチド配列には、相同体または変異株または他の変異体をコードする配列が含まれる。変異体は天然多型に起因するか、または例えばアミノ酸突然変異を導入する組換え方法論または化学合成によって合成することができ、1以上のアミノ酸置換、挿入、欠失、等によって野生型ポリペプチドと異なってよい。
【0025】
アジュバントTH1およびTH2免疫応答
免疫応答は、2つの両極のカテゴリーである、体液性または細胞性免疫応答(伝統的にそれぞれ抗体および細胞性エフェクターの防御機構によって特徴づけられる)に広く分類することができる。これらの応答カテゴリーはTH1型応答(細胞性応答)およびTH2型免疫応答(体液性応答)と称されている。
【0026】
極端なTH1型免疫応答は、抗原特異的なハプロタイプ拘束性細胞傷害性Tリンパ球、およびナチュラルキラー細胞応答の生成によって特徴づけられる。マウスのTH1型応答はIgG2aサブタイプの抗体の生成によって特徴づけられることが多いが、ヒトでは、これはIgG1タイプ抗体に対応する。TH2型免疫応答は、マウスのIgG1を含む一連の免疫グロブリンアイソタイプの生成によって特徴づけられる。
【0027】
これらの2つのタイプの免疫応答の成立の背後にある推進力はサイトカインであると考えることができる。高レベルのTH1型サイトカインは所定の抗原に対する細胞性免疫応答の誘導を促進する傾向があるが、高レベルのTH2型サイトカインは抗原に対する体液性免疫応答の誘導を促進する傾向がある。
【0028】
TH1およびTH2型免疫応答の区別は絶対的ではなく、これらの2つの両極の間で連続した形式をとりうる。実際、個体は、TH1優勢またはTH2優勢であると記載される免疫応答を支持する。しかし、Mosmann and CoffmanによってマウスCD4 +ve T細胞クローンにおいて記載される観点から、サイトカインのファミリーを考慮することが好都合であることが多い(Mosmann, T.R. and Coffman, R.L. (1989) TH1 and TH2 cells: different patterns of lymphokine secretion lead to different functional properties. Annual Review of Immunology, 7, p145-173)。伝統的に、TH1型応答はTリンパ球によるINF-γサイトカインの生産と関連している。TH1型免疫応答の惹起と直接関連していることが多い他のサイトカイン、例えばIL-12はT細胞によっては生産されない。対照的に、TH2型応答は、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10および腫瘍壊死因子-β(TNF-β)の分泌と関連している。
【0029】
特定のワクチンアジュバントがTH1またはTH2型サイトカイン応答の刺激に特に適していることが知られている。伝統的に、ワクチン接種または感染後の免疫応答のTH1:TH2バランスの指標には、抗原での再刺激後のin vitroのTリンパ球によるTH1またはTH2サイトカインの生産の直接測定、および/または抗原特異的抗体応答のIgG1:IgG2a比の(少なくともマウスでの)測定が含まれる。
【0030】
ゆえに、TH1型アジュバントは、単離されたT細胞集団を刺激して、in vitroで抗原での再刺激時に高レベルのTH1型サイトカインを産生させるアジュバントであり、TH1型アイソタイプと関連している抗原特異的免疫グロブリン応答を惹起する。
【0031】
リポ多糖成分
本発明の組成物は、リポ多糖であるアジュバントを含む。リポ多糖は、リピドAの無毒の誘導体、例えばモノホスホリルリピドAまたはさらに具体的に3-脱アシル化モノホスホリルリピドA (3D-MPL)であってよい。
【0032】
腸内細菌リポ多糖(LPS)は免疫系の強力な刺激因子であることが長く知られているが、アジュバントにおけるその使用はその毒性作用によって阻まれている。その還元末端グルコサミンからのコア炭水化物基およびリン酸の除去によって製造されるLPSの無毒の誘導体であるモノホスホリルリピドA (MPL)はRibi et al (1986, Immunology and Immunopharmacology of bacterial endotoxins, Plenum Publ. Corp., NY, p407-419)に記載されており、以下の構造を有する:
【化1】

【0033】
さらに無毒化されたタイプのMPLが二糖主鎖の3位からのアシル鎖の除去によって生じ、3-O-脱アシル化モノホスホリルリピドA (3D-MPL)と称される。3D-MPLはGlaxoSmithKline Biologicals N.A.によってMPLの名称で販売されている。これをここではMPLまたは3D-MPLと称する(例えば米国特許Nos. 4,436,727; 4,877,611; 4,866,034および4,912,094を参照のこと)。それはGB 2122204Bにおいて教示される方法によって精製および製造することができる。化学的には、それは3-脱アシル化モノホスホリルリピドAと3、4、5または6アシル化鎖の混合物である。
【0034】
小粒子3D-MPLは、0.22μmフィルターを通して滅菌ろ過することができるような粒子サイズ、例えば直径100nm未満の粒子サイズを有する。小粒子3D-MPLを製造する方法はWO 94/21292に開示されている。モノホスホリルリピドAおよび界面活性剤を含む水性製剤はWO9843670に記載されている。
【0035】
サポニン成分
本発明のワクチン組成物は、場合によりリポソームの形式で提供されるサポニンアジュバント成分をさらに含む。本発明での使用に好適なサポニンはQuil Aおよびその誘導体である。Quil Aは南米の樹木Quillaja Saponaria Molinaから単離されたサポニン調製物であり、アジュバント活性を有することが1974年にDalsgaard et al.によって最初に報告された("Saponin adjuvants", Archiv. fur die gesamte Virusforschung, Vol. 44, Springer Verlag, Berlin, p243-254)。アジュバント活性を保持し、Quil Aに付随する毒性を有さないQuil Aの精製断片、例えばQS7およびQS21 (QA7およびQA21としても知られる)がHPLCによって単離されている(EP 0 362 278)。QS-21はQuillaja saponaria Molinaの樹皮由来の天然サポニンであり、CD8+細胞傷害性T細胞(CTL)、Th1細胞および顕著なIgG2a抗体応答を誘導する。
【0036】
本発明の好適な形式では、組成物内のサポニンアジュバントはsaponaria molina quil Aの誘導体、例えばQuil Aの免疫学的活性画分、例えばQS-17またはQS-21であり、好適にはQS-21である。一実施形態では、本発明の組成物は、実質的に純粋な形態の免疫学的活性サポニン画分を含有し、すなわち、QS21は少なくとも90%純粋であり、例えば少なくとも95%純粋であるか、または少なくとも98%純粋である。
【0037】
特定の実施形態では、QS21はその低反応原性(reactogenic)組成物中で提供され、該組成物中では、例えばコレステロール等の外因性ステロールでそれがクエンチされている。QS21が外因性コレステロールでクエンチされているいくつかの特定の形態の低反応原性組成物が存在する。特定の実施形態では、サポニン/ステロールはリポソーム構造の形態である(WO 96/33739, 実施例1)。
【0038】
リポソーム製剤
リポソームは、好適には、中性脂質、例えばホスファチジルコリン(好適には、室温で非結晶性である)、例えば卵黄ホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)またはジラウリルホスファチジルコリンを含有する。該リポソームは、飽和脂質から構成されるリポソームに関するリポソーム-サポニン構造の安定性を増加させる荷電脂質(ステロール)を含有してもよい。サポニン:ステロール比は、典型的に、1:100〜1:1 (w/w)のオーダーであり、好適には1:10〜1:1 (w/w)の範囲であり、通常は1:5〜1:1 (w/w)である。好適には過剰のステロールを存在させ、サポニン:ステロール比は少なくとも1:2 (w/w)である。一実施形態では、サポニン:ステロール比は1:5 (w/w)である。
【0039】
好適なステロールには、β-シトステロール、スチグマステロール、エルゴステロール、エルゴカルシフェロールおよびコレステロールが含まれる。特定の一実施形態では、ワクチン組成物はステロールとしてコレステロールを含む。これらのステロールは当技術分野において周知であり、例えばコレステロールは動物性脂肪中で見出される天然に存在するステロールとしてMerck Index, 11th Edn., 341ページに開示されている。
【0040】
QS21およびステロール、特にコレステロールを含む本発明のアジュバント化組成物は、ステロールが存在しない組成物と比較された場合に低下した反応原性(reactogenicity)を示すが、アジュバント効果は維持される。反応原性試験は、WO 96/33739に開示されている方法にしたがって評価することができる。本発明のステロールは、外因性ステロール、例えば抗原性調製物の採取源の生物にとって内因性でないが、抗原調製物に添加されるか、または後の製剤化の時点で添加されるステロールを意味すると解釈される。典型的には、例えばステロールでクエンチされた形態のサポニンを使用することによって、その後のサポニンアジュバントを用いた抗原調製物の製剤化の際にステロールを加えてもよい。好適には、WO 96/33739に記載のように外因性ステロールはサポニンアジュバントと結合している。
【0041】
最初はMPLを伴わずにリポソームを(WO 96/33739に記載のように)調製し、そしてMPLを加える。したがって、本発明のこの態様では、MPLは小胞膜内に含有されない(MPL outとして知られる)。MPLが小胞膜内に含有されている(MPL inとして知られる)組成物もまた本発明の態様を構成する。抗原を小胞膜内に含有させるか、または小胞膜の外側に含有させてよい。
【0042】
本発明の特定の実施形態では、リポ多糖は3D-MPLであり、かつ免疫学的活性サポニンはQS21である。本発明の別の実施形態では、アジュバントは、本質的に、コレステロールを含むリポソーム製剤中の3D-MPLおよびQS21からなる。3D-MPLおよびQS21は典型的に約1:1の比で存在する。特定の一実施形態では、ワクチン組成物はヒト用量あたり約50μgのQS21、約50μgの3D-MPLおよび約25μlのリポソームを含む。別の特定の実施形態では、ワクチン組成物はヒト用量あたり約25μgのQS21、約25μgの3D-MPLおよび約12.5μlのリポソームを含む。
【0043】
ワクチン製剤および投与
各ワクチン用量中に存在する本発明のタンパク質の量は、通常のワクチンにおける重大な有害副作用を伴うことなく免疫防御応答を誘導する量として選択される。そのような量は、どの具体的免疫原が用いられるか、および使用されるアジュバントのタイプおよび量に応じて、変動する。特定のワクチンに関する最適な量は、被験体における抗体力価および他の応答の観察を含む標準的研究によって確かめることができる。一般に、各用量は1〜1000μgのタンパク質、例えば1〜200μg、または10〜100μgを含むと予測される。典型的用量は、10〜50μg、例えば15〜25μg、好適には約20μgのタンパク質を含有する。あるいは、例えば大流行状況において「用量節約」アプローチを使用することができる。これは、有効なアジュバントが存在するおかげで低用量の抗原を使用して同じ防御効果を提供することが可能であるという知見に基づく。したがって、各ヒト用量は、用量あたりかなり少ない量のタンパク質、例えば0.1〜10μg、または0.5〜5μg、または1〜3μg、好適には2μgのタンパク質を含有してよい。用語「ヒト用量」とは、ヒトでの使用に好適な量とした投与量を意味する。一般にこれは0.3〜1.5 mlの範囲である。一実施形態では、ヒト用量は0.5 mlである。
【0044】
最初のワクチン接種後、被験体は典型的に、2〜4週間の間隔、例えば3週間の間隔後に追加免疫を受け、その後、場合により、感染のリスクが存在する限り、反復して追加免疫を受ける。本発明の特定の実施形態では、一回量ワクチン接種スケジュールを提供する。該スケジュールでは、アジュバントと併用される一用量のSタンパク質が、SARS CoVに対する防御を提供するために十分であり、最初のワクチン接種後にいかなる追加免疫の必要性もない。
【0045】
本発明のワクチンは、任意の種々の経路、例えば経口、局所、皮下、経粘膜(典型的に膣内)、静脈内(intraveneous)、筋肉内、鼻腔内、舌下、皮内経路によっておよび坐薬を介して提供してよい。
【0046】
免疫は予防的または治療的免疫化であってよい。本明細書中に記載の発明は、排他的ではないが主に、SARSに対する予防的ワクチン接種に関係する。
【0047】
本発明において使用するための適切な製薬的に許容される担体または賦形剤は当技術分野において周知であり、それには例えば水またはバッファーが含まれる。ワクチン製造は概してPharmaceutical Biotechnology, Vol.61 Vaccine Design - the subunit and adjuvant approach, edited by Powell and Newman, Plenum Press New York, 1995. New Trends and Developments in Vaccines, edited by Voller et al., University Park Press, Baltimore, Maryland, U.S.A. 1978に記載されている。リポソーム内のカプセル化は例えばFullerton, 米国特許4,235,877に記載されている。
【0048】
本発明のワクチンおよび免疫原性組成物は、上で説明される特定成分を含む。本発明の別の態様では、ワクチンまたは免疫原性組成物は本質的に該成分からなるか、または該成分からなる。
【0049】
以下の実施例に関して本発明をさらに説明する。該実施例は本発明を説明するためのものである。
【実施例1】
【0050】
実施例1
可溶型のSARS CoV-Sタンパク質の発現
哺乳類細胞中のSタンパク質の外部ドメインを精製するために、細胞質内ドメインおよび膜貫通ドメインが欠失しているスパイク糖タンパク質の発現を可能にする遺伝子を構築した。Ssolと称されるこのポリペプチドは、セリン-グリシンリンカーおよびオクタペプチドFlagによってそのC末端まで拡張されたSタンパク質の細胞外ドメイン全体(アミノ酸1〜1193)を含む。膜アンカードメインが欠失しているため、Ssolポリペプチドは培地中に分泌される。
【0051】
Ssolポリペプチドの構成性発現
TRIPレンチウイルスベクターを使用して、Ssolタンパク質を安定かつ構成的に発現する細胞系統を確立した。pTRIPプラスミドベクター、p8.7パッケージングプラスミドおよびpHCMV-VSV-Gプラスミドの共トランスフェクションによって、これらのベクターを製造する(Yee et al., 1994; Zennou et al., 2000; Zufferey et al.,1997)。
【0052】
Ssolタンパク質の発現のためのTRIPベクターを構築するために、CMVi/eプロモーター、pCIプラスミド由来のキメライントロン、Ssol ORF、および2つのウイルス輸送エレメントCTEまたはWPREのうちの1つからなる発現カセットを、プラスミドpTRIP-EF1-EGFP中にEF1プロモーターおよびGFP ORFの代わりに導入した。pTRIP-Ssol-CTEおよびpTRIP-Ssol-WPREと称される、得られたプラスミドを使用して、それぞれTRIP-Ssol-CTEおよびTRIP-Ssol-WPREレンチウイルスベクターストックを得た。これらのベクターを使用して、24時間にわたって一定間隔で行われる一連の5回の連続した形質導入サイクルにしたがってFRhK-4細胞に形質導入した。形質導入された細胞を限界希釈によってクローン化し、得られた細胞クローンを当該ポリペプチドSsolポリペプチドの顕著な分泌に応じて選択した。これを実行するために、種々のクローン由来の固定数の細胞を35mm培養皿に播種し、上清中のSsolタンパク質の存在を72時間後にウエスタンブロットによって分析した。
【0053】
すべてのクローン由来の上清中で予測サイズ(約180 kDa)のタンパク質が検出され、形質導入プロトコルの効率が確認された。しかし、その生産に使用されたTRIPベクターとは無関係に、発現レベルはクローンごとに様々であった。FRhK-4-Ssol-CTE#3細胞クローンは、72時間の培養後に回収された上清中で最高濃度のSsolタンパク質の取得を可能にした。このクローンを第二シリーズの5回の形質導入サイクルに付し、選択プロセスを反復して第二世代のクローンを得た。最も増殖性の第二世代クローン(FRhK-4-Ssol-CTE#30)を増幅し、それを使用して大量の上清を製造した。次いで、捕捉ELISA試験を使用し、一連の精製されたSsolをタンパク質マーカーとして使用して、Ssolタンパク質が5〜10μg/mlの変動濃度でFRhK-4-Ssol-CTE#30クローンの上清中に分泌されたことを評価することが可能であった。Ssolタンパク質を生産するための最適条件を、細胞密度パラメータ、血清中濃度、培養温度および分泌期間について実験的に決定した。
【0054】
組換えSsolタンパク質の生産および精製
Ssolタンパク質の大規模生産のために、FRhK-4-Ssol-CTE#30クローンの多量の1.5〜2.108のサブコンフルエントな細胞を、0.5%のウシ胎児血清を含有する1リットルのDMEMベースの培地中で35℃で4日間インキュベートした。分泌されたSsolタンパク質を含有する上清を限外ろ過ユニットで濃縮し、抗FLAG抗体カラムでのアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。カラムに固定された物質を非変性条件下でFlagペプチドとの競合によって溶出させ、そしてゲルろ過によって分離してFlagペプチドおよび低分子量混入物を排除した。
【0055】
精製された物質をSDS-PAGEおよび硝酸銀染色によって分析した。Ssolポリペプチドの予測サイズ(180〜200kDa)を有する、糖タンパク質に特徴的な強い拡散性バンドが示された。Sタンパク質の特異的ウサギポリクローナル抗体を使用する、SDS-PAGE後のウエスタンブロッティングによる分析によって、精製されたタンパク質がSタンパク質の外部ドメインに明らかに対応することが確認された。SDS-PAGEおよびruby SYPROでの染色後に、精製されたタンパク質の純度の程度を見積もった。蛍光シグナルの定量によって、ゲルろ過から溶出された90%以上のタンパク質がSsolタンパク質由来であることが示された。次いで、ビ-シンコニン酸(Bi-cinchoninic acid)アッセイ(BCA)を使用するキットを活用して、精製されたSsolタンパク質を定量した。3回の独立の生産を分析した後、培養上清1リットルあたり1.3〜2.5 mgのSsolタンパク質を得ることが可能であった。全段階(濃縮、アフィニティー精製およびゲルろ過)を含めた全体精製収率は26〜53%で変動する。次いで、精製されたSsolタンパク質を、N末端シークエンシング、質量分析および分析用超遠心によってさらに特徴づけた。これにより、精製されたSsolタンパク質がSタンパク質の外部ドメイン全体に対応する182 kDaの可溶性単量体であり、シグナルペプチド(アミノ酸1〜13)が失われていることが確認された。
【0056】
3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントの製造
濃縮されたリポソームを製造するために、40gのジオレオイルホスホコリン(DOPC)、10gのコレステロールおよび3gの3D-MPLの混合物をエタノール中で可溶化し、次いで減圧下で乾燥して脂質フィルムを得た。脂質フィルムをアルゴン下で洗い流し、-20℃で数日間保存し、次いで室温に1時間置いた。リン酸緩衝食塩水(50mMリン酸, 100mM NaCl, pH 6.1)を加えて、40 mg/mlの最終DOPC濃度、10 mg/mlのコレステロール濃度および2 mg/mlの最終3D-MPL濃度を得た。すべての脂質が懸濁状態になるまで容器を攪拌した。そして、リポソームサイズが約100 nmに減少するまでこの懸濁液をホモジナイズし、0.2μmフィルターに通して滅菌ろ過した。
【0057】
濃縮されたリポソームをリン酸緩衝食塩水(50mMリン酸, 100mM NaCl, pH 6.1)中のQS21と混合することによって、2倍濃縮形態の3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを調製した。そして、200μg/mlの3D-MPLおよび200μg/mlのQS21の終濃度に達するようにこの混合物を希釈した。
【0058】
以下の順序にしたがって即席で製剤を調製した: リン酸緩衝食塩水+Ssol抗原(40μg/mlまたは4μg/mlまたは0.4μg/mlの終濃度に達するための量を加えた)、オービタルシェーカーテーブルで室温で5分間の混合、+2倍濃縮されたアジュバント、オービタルシェーカーテーブルで室温で5分間の混合。製剤化終了後2時間以内に注射を行った。
【0059】
マウスモデルでのアジュバント化ワクチンの試験
若い成体BALB/cマウス(8匹/群)に、アジュバントを加えないかまたは50μgのAlum(水酸化アルミニウム)もしくは50μLの3D-MPL/QS21/リポソームアジュバント(GSK1 adj.)を加えた2μgのSsolタンパク質の注射2回を3週間隔で筋組織内に施した。これらのアジュバント用量は小型げっ歯類の場合に伝統的に使用され、ヒト医療で使用される用量の1/10に相当する。2つの群のマウスがコントロールとしてこの研究に使われた。各群はそれらのアジュバントの一方のみで免疫された。各注射の3週間後にマウス血清を回収し、抗SARS ELISA、血清中和(seroneutralisation)およびアイソタイプ分析によってSARS-CoVの特異的体液性応答を評価した。
【0060】
ELISA (図1)では、対照群由来の血清の抗体における力価は常に検出限界(1.7 log10)未満のままであった。1回の注射のみ行った後、アジュバントを加えないかまたはAlumアジュバントを加えたタンパク質によって惹起された抗体応答は弱く(それぞれ1.9±0.2 log10および2.1±0.3 log10の平均力価)、以前に得られた結果が確認された。逆に、3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを加えたタンパク質によって惹起された抗体力価は第一の注射と比べて非常に大きい(3.6±0.2 log10の平均力価)。2回の注射後、タンパク質で免疫されたすべての群において力価の顕著な増加が観察される。最も弱い応答および最も不均一な応答はアジュバントが使用されなかった場合に観察される(3.9±0.5 log10の平均力価)。免疫原性調製物にAlumを加えると、抗体応答の改善が可能になる(4.6±0.2 log10の平均力価; p < 0.01)。第一の注射後に観察された結果と合わせると、3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントは2回の注射後にSsolタンパク質の免疫原性を顕著に改善した。得られた抗体力価(5.2±0.2 log10の平均力価)はAlumアジュバントを加えたタンパク質によって惹起された抗体力価より有意に高い(p < 10-4)。
【0061】
第二の注射の3週間後に回収された血清に関して、種々の免疫原による体液性応答の性質を研究した。中和抗体力価(図2)は、ELISAによる分析の時点で観察されるヒエラルキーにしたがう。アジュバントを加えないタンパク質の場合に最も弱い力価が得られる(2.3±0.4 log10の平均力価)。Alumを加えることによって中和化応答は有意に改善される(3.1±0.3 log10の平均力価; p < 0,001)。同様に、タンパク質に3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを加えると、非常に大きい中和抗体力価の達成が可能になり(3.6±0.1 log10の平均力価)、それはAlumアジュバントを加えたタンパク質によって惹起される中和抗体力価より有意に3倍高い(p < 0.002)。
【0062】
最後の注射の3週間後に回収された血清に関する抗SARS ELISAによって、SARS-CoV抗原に対する特異的IgG1およびIgG2aアイソタイプ力価を各群に関して評価した(図3)。アジュバントを加えないタンパク質またはAlumアジュバントを加えたタンパク質での免疫はほぼ例外なくIgG1を誘導する。3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントをSsolタンパク質に加えると、IgG1力価(4.8±0.1 log10の平均力価)と同等の高いIgG2a力価(4.9±0.2 log10の平均力価)の誘導が可能になる(IgG2aに対するIgG1の平均比1)。これらの結果は、アジュバントを加えないかまたはAlumを加えたタンパク質によって惹起される免疫応答が主に2型であることを示す。逆に、3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントをSsolタンパク質に加えると、TH1型およびTH2型の混合免疫応答の惹起が可能になる。
【実施例2】
【0063】
実施例2
ハムスターモデルでのアジュバント化ワクチンの試験
50μgのAlumまたは50μLの3D-MPL/QS21/リポソームアジュバント(GSK1 adj.)を加えた2μgまたは0.2μgのSsolタンパク質を用いて、シリアンゴールデンハムスター(6匹/群)に3週間間隔で筋組織内に2回注射した。これらのアジュバント用量は小型げっ歯類の場合に伝統的に使用され、ヒト医療で使用される用量の1/10に相当する。2つの群のハムスターがコントロールとしてこの実験に使われた。各群は一方のアジュバントのみで免疫された。別の群のハムスターに50μgのAlumを伴う2μg (S-相当量(S-equivalent))の精製されたβ-プロピオラクトン不活性化SARS-CoVビリオン(BPL-SCoV)を注射した。該ビリオンはSARSに対する潜在的ワクチンを構成する。各注射の3週間後(それぞれIS1およびIS2)および第二の注射の3ヶ月後(IS2bis)にハムスターの血清を採取し、SARS-CoVの特異的体液性応答を抗SARS ELISAおよび血清中和分析によって評価した。
【0064】
ELISA (図4)では、対照群由来の血清の抗体の力価は常に検出限界(1.7 log10)未満のままであった。2μg Ssol用量で、3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントは1回(IS1)および2回(IS2)の注射後にSsolタンパク質の免疫原性を顕著に改善した。得られた抗体力価(平均力価4.3±0.1 log10および4.9±0.1 log10)は、Alumアジュバントを加えたタンパク質によって惹起される抗体力価よりも0.6 log10高い(p < 10-3)。
【0065】
0.2μgのSsolの1回のみの注射後に、Alumアジュバントが使用された場合に観察された応答は弱く、検出限界に近い(1.8±0.2 log10の平均力価)。逆に、3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを加えたタンパク質によって惹起された抗体力価は第一の注射よりも高い(3.5±0.4 log10の平均力価)。2回の注射後、タンパク質で免疫された両群において力価の顕著な増加が観察される。最も弱い応答および最も不均一な応答はAlumアジュバントが使用された場合に観察される(2.6±0.7 log10の平均力価)。3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを免疫原性調製物に加えると、抗体応答の強力な改善が可能になる(4.7±0.2 log10の平均力価; p < 10-4)。
【0066】
顕著なことに、第二の注射後に、3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを加えた0.2μgおよび2μg Ssolは、すべての免疫されたハムスターにおいて同等の高力価の応答を達成した(4.7±0.2 log10対4.9±0.1 log10力価)。これは、3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを使用すれば、SARSに対する用量節約ワクチンストラテジーが可能になることを示す。
【0067】
第二の注射の3ヶ月後に採取された血清に関して、0.2μg Ssolまたは2μg (S-相当量)不活性化ビリオンによって惹起される体液性応答の性質を研究した。中和抗体力価(図5)は、ELISAによる分析の時点で観察されるヒエラルキーにしたがう。Alumと共にタンパク質を用いて得られた力価は検出限界(1.3 log10)未満のままであった。3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを加えることによって中和応答が強く改善される(2.6±0.3 log10の平均力価; p < 10-6)。この応答は、2μg (S-相当量)不活性化ビリオンによって惹起される応答(2.5±0.2 log10の平均力価)と明らかに類似していた。
【0068】
Ssol免疫化ハムスターのチャレンジ感染
免疫後3ヶ月の時点で、選択された群のハムスターを105 pfuのSARS-CoVの鼻腔内接種によってチャレンジし、ウイルス複製を評価するために4日後に安楽死させた。各動物の肺(図6)および上気道(URT)、すなわち咽頭+気管(図7)においてウイルス量を評価した。発明者らは、各偽免疫動物の肺において活発かつ一貫したウイルス複製(7.8±0.2 log10 pfu)を観察した。さらに、偽ワクチン接種ハムスターの上気道においてウイルス複製を記録した(5.2±0.5 log10 pfu)。Alumを加えた0.2μg Ssolで免疫化された動物の肺(4.1±1.4 log10 pfu)およびURT (2.5±0.4 log10 pfu)の両方において、SARS-CoV量は検出可能なままであった。著しく対照的に、この動物モデルでの活発なウイルス複製にもかかわらず、Ssolおよび3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントで免疫されたいかなるハムスターにおいても感染性ウイルスは検出されなかった(log10 pfu/器官 < 2.1)。これらのデータは、SsolおよびAlumで免疫されたハムスターと比較して、Ssolおよび3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントで免疫されたハムスターの肺におけるSARS-CoV複製の102倍を超える減少に関する証拠を提供する。Ssolおよび3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを用いて達成されたこの高レベルの防御は、不活性化ビリオンおよびAlumで免疫されたハムスターにおいて観察される防御と同等である。
【0069】
興味深いことに、3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを加えた2μg Ssolの1回の注射は、チャレンジの時点での3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを加えた0.2μg Ssolの2回の注射(4.3±0.3 log10 pfu)と同様の高い抗SARS抗体のELISA力価(4.3±0.1 log10 pfu)を惹起した(図4)。この後者のワクチン接種スケジュールが、免疫されたハムスターをSARSのチャレンジから防御すること(図6および7)を考慮すると、3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを加えた2μg Ssolの1回の注射が防御応答を同様に惹起すると予測することができる。このことは、3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを使用することにより、SARSに対する一回量ワクチン接種ストラテジーが可能になることを示す。
【0070】
チャレンジを受けたハムスターの肺の組織病理学的分析
チャレンジ後、0.2μgのSsolタンパク質で免疫されたハムスターの肺を、Hemalun-Eosin染色を使用する組織病理学的検査および抗SARS-CoVポリクローナル抗体を使用する免疫組織化学分析に付した。図8は、1〜10のスケールでの肺の炎症および病変のスコア(HE)およびウイルス抗原量のスコア(IHC)を示す。偽ワクチン接種動物では、滲出性肺胞炎のびまん性病変、肺実質のびまん性凝縮およびびまん性肺胞損傷を有する急性ウイルス性肺炎の特徴的病変が観察された(スコア= 3.3±0.6)。したがって、これらの肺胞炎病巣内および気管の上皮および気管支肺胞ツリー内においてもウイルス抗原が検出された(スコア= 4.3±0.6)。病変スコア(2.6±1.0)およびウイルス抗原量(3.3±1.2)はともに、Alumを加えた0.2μg Ssolで免疫された動物の肺において高いままであった。著しく対照的に、Ssolおよび3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントでワクチン接種されたハムスターでは、肺において肺胞炎または肺炎の特定病変は検出されず(スコア= 0.6±0.2)、一匹のハムスターの気管支上皮由来の少数の細胞でウイルス抗原が検出されたのみであった(スコア0.1±0.2)。5匹の他の動物由来の気道セクションの広範囲にわたるIHCスクリーニングによって、上気道(咽頭-気管, データは示していない)および肺(図8)でのウイルス抗原の不存在が確認された。
【0071】
これらの結果によって、上気道および下気道での検出可能なウイルス抗原のほとんど完全な欠如および肺炎の不存在によって示されるように、Ssolおよび3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントでワクチン接種されたハムスターがSARS-CoVチャレンジから完全に防御されたことが確認される。
【0072】
Ssolで免疫されたハムスターの、チャレンジ感染からの長期防御
2μgのSsolで2回免疫されたハムスターの群について長期防御を研究した。第二の注射の8ヶ月後、alumを加えた場合と比較して、3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを加えることによって中和抗体応答が改善された(2.5±0.3 log10の平均力価; p = 0.02) (図21)。この応答は、2μg (S-相当量)不活性化ビリオンによって惹起される応答(2.6±0.2 log10の平均力価)と明らかに類似していた。
【0073】
次いでハムスターを105 pfuのSARS-CoVの鼻腔内接種によってチャレンジし、ウイルス複製を評価するために4日後に安楽死させた。各動物の肺(図22)および上気道(URT) (図23)においてウイルス量を評価した。上記結果と一致して、偽ワクチン接種動物の肺およびURTの両方において、活発なウイルス複製が観察された(肺およびURTにおいてそれぞれ7.8±0.2 log10 pfuおよび5.4±0.1 log10 pfu)。Alumを加えた2μg Ssolで免疫された動物では、5匹の動物のうちの2匹の肺およびURTの両方においてSARS-CoV量が検出可能であり、1匹の動物のURTにおいて高いウイルス量(4.8 log10 pfu)が観察された。著しく対照的に、Ssolおよび3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントで免疫されたいかなるハムスターにおいても感染性ウイルスは検出されなかった(log10 pfu/器官 < 2.1)。Ssolおよび3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを用いて達成されたこの高レベルの防御は、不活性化ビリオンおよびAlumで免疫されたハムスターにおいて観察される防御と同等である。
【0074】
さらに、チャレンジおよび安楽死の後、ハムスターの肺を、Hemalun-Eosin染色(HE)を使用する組織病理学的検査および抗SARS-CoVポリクローナル抗体を使用する免疫組織化学(IHC)分析に付した(図24)。上記のように、偽ワクチン接種動物では、滲出性肺胞炎のびまん性病変、肺実質のびまん性凝縮およびびまん性肺胞損傷を有する急性ウイルス性肺炎の特徴的病変が観察され(スコア= 4.6±0.2)、かつウイルス抗原が検出された(スコア5.3±0.4)。2μgのSsolおよび3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントでワクチン接種された動物の肺では、病変スコアは有意に減少し(0.9±0.6, p<10-5)、かつウイルス抗原量は検出できなかったが、Alumを加えた2μgのSsolでワクチン接種された動物では、病変スコアの、よりゆるやかな減少が観察され(スコア= 2.6±0.8)、かつ5匹の動物のうちの2匹においてウイルス抗原は検出可能なままであった(スコア= 0.5±0.6)。
【0075】
よって、これらのデータは、Ssolタンパク質および3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントによる長期防御の可能性に関する証拠を提供する。
【実施例3】
【0076】
実施例3
A) BALB/cマウスでのアジュバント化Ssolタンパク質に対する体液性免疫応答
6〜8週齢の雌性BALB/cマウスをHarlan Horst, The Netherlandsから入手した。マウス(23匹マウス/群)に、アジュバントを加えない(「プレーン」)かまたは50μg Alumもしくは3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントでアジュバント化した2、0.2または0.02μg Ssolタンパク質を、0日目および21日目に筋肉内注射した。追加の3群のマウスをコントロールとして使用し、各群をPBS、Alumまたは3D-MPL/QS21/リポソームアジュバント単独で免疫した。
【0077】
アジュバント化されていないSsol抗原の調製
以下の順序にしたがって即席で製剤を調製した: 注射用水+Ssol抗原(40μg/mlまたは4μg/mlまたは0.4μg/mlの終濃度に達するための量を加える)、オービタルシェーカーテーブルで室温で5分間の混合+NaCl 1500mM (150mMの終濃度に達するように)、オービタルシェーカーテーブルで室温で5分間の混合。製剤化終了後1時間以内に注射を行った。
【0078】
Alumでアジュバント化されたSsolの調製
以下の順序にしたがってワクチン調製物を作製した: 注射用水+水酸化アルミニウム(1000μg/mlの終濃度に達するための量を加える)+Ssol抗原(40μg/ml、4μg/mlまたは0.4μg/mlの終濃度に達するように)、オービタルシェーカーテーブルで室温で30分間の混合+NaCl 1500mM (150mMの終濃度に達するように)、オービタルシェーカーテーブルで室温で5分間の混合。第一の試験での第一の免疫の6日前にワクチンを調製し、注射時まで4℃で維持した。
【0079】
3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolの調製
濃縮されたリポソームとPO4 50mM/NaCl 100mM pH6.1バッファー中のQS21を混合することによって、2倍濃縮形式の3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを調製した。濃縮されたリポソームは、DOPC、コレステロールおよび3D-MPLから作製した。MPLの終濃度は200μg/mlであり、かつQS21の終濃度は200μg/mlであった。以下の順序にしたがって即席で製剤を調製した: 注射用水+生理食塩水バッファー(PO4 0.5M/NaCl 1M pH6.1)+Ssol抗原(40μg/mlまたは4μg/mlまたは0.4μg/mlの終濃度に達するための量を加える)、オービタルシェーカーテーブルで室温で5分間の混合、+2倍濃縮されたアジュバント、オービタルシェーカーテーブルで室温で5分間の混合。製剤化終了後1時間以内に注射を行った。
【0080】
体液性応答の分析
免疫の14日後(35日の時点)にて個々のマウス(8匹マウス/群)から採取された血液サンプルから調製された血清に関して体液性応答を評価した。抗SARS-CoV特異的抗体の存在の検出およびアイソタイプ分析を、抗原であるSARS-CoVによって感染させたVeroE6細胞のライセートまたはネガティブコントロールである感染していないVeroE6細胞のライセートを使用する間接ELISAによって実施した。ペルオキシダーゼにカップリングされたポリクローナル抗マウスIgG(H+L)抗体(NA931V, Amersham)およびその後のTMBおよびH2O2 (KPL)の添加によって示された後に0.5のODをもたらす血清の希釈の逆数として力価を算出した。アイソタイプの分析では、マウスIgG1およびIgG2a抗体に特異的なポリクローナル血清を使用した(Southern Biotech)。
【0081】
抗SARS-CoV抗体
アジュバントを加えないかまたはAlumもしくは3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントの存在下のSsolタンパク質で免疫されたマウスにおいて用量依存的抗SARS-CoV抗体応答が観察された(図9)。該抗体応答は、アジュバント化されていないSsolで免疫されたマウスと比較して、アジュバントの存在下のSsolで免疫されたマウスにおいて有意に高いことが見出された。3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスに関する応答は、Alumでアジュバント化されたSsolで免疫されたマウスと比較して有意に高かった(p<10-4)。3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントの存在下で最小量のSsol (0.02μg)で惹起された抗体力価は、alumの存在下で最高量のSsol (2μg)で惹起された抗体力価より優れていることが見出された(p<0.01)。
【0082】
抗SARS-CoV抗体のアイソタイプ分析
2μg Ssolの用量で免疫された「プレーン」、Alumでアジュバント化された群および3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化された群(8匹マウス/群)から調製された血清に関して、SARS-CoVに特異的なIgG1およびIgG2a抗体に関するアイソタイプ分析をELISAによって実施した。結果を図10に示す。
【0083】
アジュバント化されていないSsolタンパク質またはalumでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスでは、応答がIgG1アイソタイプに強く偏っていることが見出され、非常に低レベルのIgG2a抗体しか検出されなかった。3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスでは、IgG1 (4.9±0.2 log10力価)およびIgG2a (5.1±0.1 log10力価)抗体の両方で高力価に達した。
【0084】
中和抗体
ウェルあたり100 TCID50のSARS-CoVを使用するFRhK-4細胞に対する標準血清中和アッセイによって中和抗体の存在を決定した。熱不活性化血清(56℃で30分間)の連続2倍希釈液を1:20希釈から使用し、二重に試験した。Reed and Munschの方法(Am J Hyg 1938;27:493-97)にしたがって、50%のウェル(4ウェルのうちの2ウェル)でウイルス感染力を中和する希釈の逆数として中和力価を決定した。
【0085】
alumまたは3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを伴わないかまたはその存在下の0.2μgのSsolで免疫された個々のマウス(8匹マウス/群)から免疫の14日後に調製された血清を、SARS-CoVを中和する抗体の存在に関して分析した。3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントの存在下で0.5μg Sタンパク質に相当する用量の不活性化された全ウイルス調製物で免疫されたマウス由来の血清を比較のために使用した。結果を図11に示す。
【0086】
3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスでは、中和抗体力価(3.5±0.3 log10力価)は、alumでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウス(2.8±0.3 log10力価)より0.7 log10高く(p<0.001)、アジュバント化されていないSsolタンパク質で免疫されたマウスでは、8匹マウスのうちの6匹マウスに関して中和力価は検出できないままであった(<1.3 log10力価)。顕著なことに、3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントの存在下では、中和抗体力価が、0.5μg S-相当量の全ウイルス抗原と比較して0.2μgのSsolタンパク質と同等であった。
【0087】
B) BALB/cマウスでのアジュバント化されたSsolタンパク質に対する細胞性免疫応答
以下の表Aにまとめられているように、「プレーン」、Alumでアジュバント化された群および3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化された群のBALB/cマウスの細胞性免疫応答を調査した。
【表1】

【0088】
15匹マウス/群由来のPBMCおよび脾臓に関して細胞性応答を測定した。免疫の7日後にPBMCを回収し、免疫の14日後に脾臓を回収した。群あたり、3匹マウスずつからなる5つのプールでPBMCを検査し、2匹マウスずつからなる4つのプールで脾臓を検査した。
【0089】
細胞内サイトカイン染色(ICS)
溶解バッファー(BD pharmingen)で赤血球を溶解した後、最終1μg/mlのSsolの濃度で107細胞/mlの終濃度(マイクロプレート96ウェル)でPBMCのin vitro抗原刺激を行い、次いで抗CD28および抗CD49d (両者に関して1μg/ml)を加えて37℃で2時間インキュベートした。抗原再刺激ステップ後、ブレフェルジン(1μg/ml)の存在下で一晩37℃で細胞をインキュベートしてサイトカイン分泌を阻害した。
【0090】
マウスから脾臓を回収し、培地RPMI+Add中にプールした(群あたり2マウスからなる4プール)。RPMI+Addで希釈されたPBL懸濁液は、RPMI 5%ウシ胎児血清中で107細胞/mlに調節した。脾臓細胞のin vitro抗原刺激を最終1μg/mlのSsolで実施し、次いで抗CD28および抗CD49d (両者に関して1μg/ml)を加えて37℃で2時間インキュベートした。抗原再刺激ステップ後、ブレフェルジン(1μg/ml)の存在下で一晩37℃で細胞をインキュベートしてサイトカイン分泌を阻害した。
【0091】
4℃で一晩の後、以下のように細胞染色を実施した: 細胞懸濁液を洗浄し、2% Fcブロッキング試薬(1/50; 2.4G2)を含有する50μlのPBS 1% FCSに再懸濁した。4℃で10分のインキュベーション後、抗CD4-PE (1/50)および抗CD8a perCp (1/50)の50μlの混合物を加え、4℃で30分インキュベートした。PBS 1% FCS中で洗浄した後、200μlのCytofix-Cytoperm (Kit BD)に再懸濁することによって細胞を透過化処理し、4℃で20分インキュベートした。
【0092】
次いでPerm Wash (Kit BD)で細胞を洗浄し、PermWash中に希釈した50μlの抗IFNγ-APC (1/50) +抗IL-2 FITC (1/50)で再懸濁した。4℃で2時間のインキュベーション後、細胞をPerm Washで洗浄し、PBS 1% FCS + 1%パラホルムアルデヒド中に再懸濁した。FACSによるサンプル分析を実施した。生存細胞をゲーティングし(FSC/SSC)、約20,000イベントで取得を実施した(リンパ球CD4)。CD4+ゲート集団に関してIFNγ+またはIL2+のパーセンテージを算出した。
【0093】
また、免疫の14日後脾臓由来のPBMCに対して再刺激上清中のサイトカインの投与を実施した。マウスから脾臓を回収し、培地RPMI+ Add中にプールした(群あたり2匹マウスからなる4つのプール)。PBMC懸濁液を、RPMI 5%ウシ胎児血清中の107細胞/mlになるよう調節した。最終1μg/mlのSsolでPBMCのin vitro抗原刺激を実施し、次いで37℃で72時間インキュベートした。上清を回収し、IFNγ、IL-5およびIL-13検出に関してCBA (Cyokine Bead Assay)-flex (BD Kit)によって試験するまで-70℃で保存した。
【0094】
PBMCにおけるCD4+ T細胞応答
各抗原用量で、Alumでアジュバント化されたSsolまたはアジュバント化されていないSsolタンパク質で免疫されたマウスと比較して、3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスにおいて有意に高い(p<0.05) CD4+ T細胞応答が惹起された(図12)。Alumでアジュバント化されたSsolまたはアジュバント化されていない抗原は、アジュバント単独またはPBSでの免疫によって達成されるレベルと類似のレベルのCD4+ T細胞応答を惹起した。2μg (p = 0.04, しかし差異は< 2.5倍)または0.02μg (p=0.07)の3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスと比較して、3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化された0.2μg Ssolタンパク質でのマウスの免疫後に高いCD4+ T細胞応答に関する傾向が観察された。
【0095】
脾臓におけるCD4+ T細胞応答
各抗原用量で、Alumでアジュバント化されたSsolまたはアジュバント化されていないSsolタンパク質で免疫されたマウスと比較して、3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスにおいて高いCD4+ T細胞応答が惹起された(図13)。Alumでアジュバント化されたSsolまたはアジュバント化されていない抗原は、アジュバント単独またはPBSでの免疫によって達成されるレベルと類似のレベルのCD4+ T細胞応答を惹起した。2μgの3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスと比較して、3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化された0.2μgまたは0.02μg Ssolタンパク質でのマウスの免疫後に高いCD4+ T細胞応答に関する傾向が観察された。
【0096】
脾臓細胞からのサイトカイン分泌
識別可能な蛍光強度を示すビーズ集団を、IFN-γ、IL5およびIL-13タンパク質に特異的な捕捉抗体でコーティングした。ビーズ集団を1つに混合してサイトメトリックビーズアレイ(CBA)を形成し、それをBD FACSブランドフローサイトメーターのFL3チャンネルで分離した。サイトカイン捕捉ビーズを、PEコンジュゲート化検出抗体と混合し、次いで組換え標準品または試験サンプルとともにインキュベートしてサンドイッチ複合体を形成させた。フローサイトメーターを使用してサンプルデータを取得した後、グラフおよび表形式でサンプル結果を作成した。
【0097】
マウスサイトカイン標準品を再構成し、アッセイ希釈液を使用する段階希釈によって希釈した。マウスサイトカイン捕捉ビーズ懸濁液をプールし、混合し、各アッセイチューブに移した(50μl/チューブ)。標準希釈液および試験サンプルを適切なサンプルチューブに加え(50μl/チューブ)、次いで50μlのPE検出試薬を加えた。すべてのサンプルおよび標準品を暗所で室温で2時間インキュベートした。インキュベーション後、すべての反応チューブを1 mlの洗浄バッファーで洗浄し、200 x gで5分間遠心分離した。デカント後、標準品およびサンプルを300μlの洗浄バッファーに再懸濁した。サイトメーターを設定するためのBD FACSCompソフトウェアおよびサンプルを解析するためのCellQuest_ソフトウェアを備えたFACSCaliburフローサイトメーターで標準品およびサンプルを読み取り、次いでBD CBAソフトウェアを使用してその後の解析(標準曲線を用いるサンプル濃度の計算)を行った。
【0098】
脾臓細胞からのサイトカイン分泌
アジュバント化されていないSsolタンパク質で免疫されたマウスと比較して、Alumでアジュバント化されたSsolまたは3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスにおいて高レベルのIL-13およびIFN-γ分泌が惹起された(図14)。両アジュバント(Alumおよび3D-MPL/QS21/リポソーム)について、0.2および0.02μg Ssolタンパク質の用量でのIL-13およびIFN-γの両者に関するこの差異は統計学的に有意であった。プレーンのSsolタンパク質または3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスと比較して、Alumでアジュバント化されたSsolで免疫されたマウスにおいて高レベルのIL-5を示す傾向が惹起され、Alumを用いた場合の高いTh2型プロファイルを示す傾向が確認された。それでもやはり、アジュバント化されていないSsolタンパク質と比較して、Alumおよび3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントによって混合Th1型(IFN-γ)およびTh2型(IL-5およびIL-13)サイトカインが誘導された。種々の量の3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolタンパク質またはアジュバント化されていないSsolタンパク質を投与されたマウスにおいて、抗原用量反応は観察されなかった。
【実施例4】
【0099】
実施例4
A) C57Bl/6マウスでのアジュバント化されたSsolタンパク質に対する体液性免疫応答
Harlan Horst, The Netherlandsから入手された6〜8週齢の雌性C57Bl/6マウスに対して、BALB/cマウスに関して実施例3に記載したプロトコルと同じ実験プロトコルを実行した。アイソタイプの分析では、マウスIgG1およびIgG2b抗体に特異的なポリクローナル血清を使用した(Southern Biotech)。
【0100】
抗SARS-CoV抗体
アジュバントを加えないかまたはAlumもしくは3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントの存在下のSsolタンパク質で免疫されたマウスにおいては、用量依存的抗SARS-CoV抗体応答が観察された(図15)。各抗原用量で、該抗体応答は、アジュバント化されていないSsolで免疫されたマウスと比較して、アジュバントの存在下のSsolで免疫されたマウスにおいて有意に(0.5〜2 log10)高いことが見出された。2μgおよび0.2μg抗原用量では、Alumでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスと比較して、3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスに関する応答は有意に(0.5〜1.1 log10)高かった(p<0.01)。alumでアジュバント化された(p=0.05, 差異= 0.5 log10)かまたはプレーン(p=0.03 Ssol, 差異= 0.6 log10)のSsolタンパク質で免疫されたマウスと比較して、3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化された0.02μg Ssolでのマウスの免疫後に、高い抗体応答の傾向が観察された。
【0101】
抗SARS-CoV抗体のアイソタイプ分析
アジュバント化されていないSsolタンパク質またはalumでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスでは、応答がIgG1アイソタイプに強く偏っていることが見出され、IgG2b抗体がまったく検出されないか、または非常に低レベルのIgG2b抗体しか検出されなかった(図16)。3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスでは、IgG1 (4.5±0.3 log10力価)およびIgG2b (4.8±0.3 log10力価)の両方の抗体が高力価に達した。
【0102】
中和抗体
3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスでは、中和抗体力価(2.6±0.4 log10力価)は、alumでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウス(1.8±0.4 log10力価)より有意に高く(p<0.01)、アジュバント化されていないSsolタンパク質で免疫されたマウスでは、中和力価が検出限界未満に落ちた(図17)。
【0103】
B) C57B1/6マウスでのアジュバント化されたSsolタンパク質に対する細胞性免疫応答
BALB/cマウスに関して実施例3に記載されるように、「プレーン」、Alumでアジュバント化された群および3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化された群のC57B1/6マウスの細胞性免疫応答を調べた。しかし、脾臓回収に伴う技術的な問題のせいで、プレーン製剤(アジュバント化されていないSsolタンパク質)で免疫されたマウスまたはAlumでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスに関して、脾臓における細胞性応答は得られなかった。
【0104】
PBMCにおけるCD4+ T細胞応答
2または0.2μgの用量の3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolタンパク質は、用量にかかわらず、Alumでアジュバント化されたSsolで免疫されたマウスと比較して有意に高い頻度でCD4+ T細胞を誘導した(p<0.05) (図18)。0.2μg Ssolタンパク質の用量では、アジュバント化されていないSsolタンパク質で免疫されたマウスと比較して、3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスにおいて有意に高い(p<0.05) CD4+ T細胞応答が同様に惹起された。0.02μgの3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスと比較して、3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化された2μgまたは0.2μg Ssolタンパク質でのマウスの免疫化後に、有意に高い(p<0.05) CD4+ T細胞応答が観察された。単独のまたは3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化された0.02μg Ssolの投与は、Alumでアジュバント化されたSsolまたはアジュバント単独での免疫によって誘導される頻度と同様の頻度でCD4+ T細胞を誘導した。
【0105】
脾臓におけるCD4+ T細胞応答
0.2μgの3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスと比較して、3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化された2μg Ssolタンパク質でのマウスの免疫後に、より高いCD4+ T細胞応答の傾向が観察された(図19)。0.02μgの3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されたSsolタンパク質で免疫されたマウスと比較して、3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化された2μg Ssolタンパク質でのマウスの免疫後に、有意に高い(p<0.05) CD4+ T細胞応答が観察された。3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化されているかまたはされていない0.02μg Ssolの投与は、アジュバント単独と同様のレベルのCD4+ T細胞応答を惹起した。
【0106】
脾臓細胞からのサイトカイン分泌
3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化された0.02μg Ssolタンパク質で免疫されたマウスと比較して、3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化された2または0.2μg Ssolタンパク質で免疫されたマウスにおいて、より高いサイトカイン産生の傾向が観察された(図20)。3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化された2μg Ssolタンパク質は、3D-MPL/QS21/リポソームでアジュバント化された0.02μg Ssolタンパク質より有意に高い(p<0.05) IFN-γを誘導した。
【0107】
実施例3および4の結果および結論のまとめ
これらのデータは、全体的に、3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントでSsolタンパク質をアジュバント化すると、BALB/cおよびC57BL/6の両マウスにおいて、アジュバントの不存在下またはalumの存在下でのSsolタンパク質での免疫と比較して、より高レベルの抗SARS-CoV ELISA抗体応答および中和抗体応答が惹起されたことを実証している。さらにまた、3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントでSsolタンパク質をアジュバント化すると、BALB/cおよびC57BL/6の両マウスにおいて、Alumでアジュバント化されたSsolまたはアジュバント化されていないSsolタンパク質での免疫と比較して、より高いCD4+ T細胞応答およびサイトカイン生産が惹起された。さらに、3D-MPL/QS21/リポソームアジュバントを加えたSsolタンパク質は、BALB/cおよびC57BL/6マウスにおいて、それぞれ、Th1型サイトカインの高生産、Th2型サイトカインの低誘導、およびIgG2aまたはIgG2bの産生増加によって示される、Th1様の応答方向性をもたらした。
【0108】
配列番号1
SARS-CoV #031589系統Sタンパク質のアミノ酸配列

【0109】
配列番号2
Ssolアミノ酸配列
アミノ酸1〜13はシグナルペプチドに相当し、成熟タンパク質から切断される(下線部)。Ser-GlyリンカーおよびFLAGペプチド配列を太字で示す。
【0110】

【0111】
配列番号3
pCI-S-WPREと同様に、BamH1-Xho1カセット内に挿入されたSタンパク質をコードするDNA配列。ATGおよびTERコドンに下線を付し、余分な配列(BamH1, Xho1, Kozak配列)を太字で示す。
【0112】

【0113】
配列番号4
BamH1-Xho1カセット内に挿入されたSsolポリペプチドをコードするDNA
- ATGおよびTERコドンに下線を付す
- 余分な配列(BamH1, Xho1, Kozak配列)を太字で示す
- Ser-Glyリンカー配列に影をつける
- FLAGペプチド配列を枠で囲む


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含むワクチン組成物:
(a) 免疫原性SARSコロナウイルスS(スパイク)ポリペプチド、またはその断片もしくは変異体; および
(b) リポ多糖、サポニンおよびリポソームを含むアジュバント。
【請求項2】
Sポリペプチドが、Sタンパク質の細胞外ドメインからなるか、またはそれを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
Sポリペプチドが、配列SGDYKDDDDKにC末端で融合されているSARS-CoV Sタンパク質のアミノ酸14〜1193からなるか、またはそれを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
Sポリペプチドが、配列番号2の配列からなるか、またはそれを含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
Sポリペプチドがヒト一用量あたり1〜5μgの量で存在する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
リポ多糖がリピドAの無毒の誘導体である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
リピドA誘導体が3D-MPLである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
サポニンが、Quillaja Saponaria Molinaの樹皮由来の免疫学的に活性なサポニン画分である、先行する請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
サポニンがQS21である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
3D-MPLおよびQS21が1:1の比で存在する、請求項7または9に記載の組成物。
【請求項11】
リポソームがステロールを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
ステロールがコレステロールである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
サポニン:ステロールの比が1:1〜1:10 w/wである、請求項11または12に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物の製造方法であって、免疫原性SARSコロナウイルスS(スパイク)ポリペプチド、またはその断片もしくは変異体を、リポ多糖、サポニンおよびリポソームを含むアジュバントと混合するステップを含む、方法。
【請求項15】
医薬として使用するための、請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
重症急性呼吸器症候群または他のSARS-CoV関連疾患の予防または治療用の、請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
重症急性呼吸器症候群または他のSARS-CoV関連疾患の予防または治療用の医薬を製造するための、請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項18】
重症急性呼吸器症候群または他のSARS-CoV関連疾患の予防または治療方法であって、請求項1〜13のいずれか一項に記載のワクチン組成物の有効量を、それを必要としている個体に投与するステップを含む、方法。
【請求項19】
ワクチン組成物が1〜5μgのSポリペプチドを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
一回量ワクチン接種スケジュールで組成物を投与する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
以下を含む免疫原性組成物:
(a) 免疫原性SARSコロナウイルスS(スパイク)ポリペプチド、またはその断片もしくは変異体; および
(b) リポ多糖、サポニンおよびリポソームを含むアジュバント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公表番号】特表2011−506267(P2011−506267A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513163(P2010−513163)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【国際出願番号】PCT/TT2008/000001
【国際公開番号】WO2009/085025
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(305060279)グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム (169)
【出願人】(593218462)インスティチュート・パスツール (19)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR
【出願人】(311000351)
【Fターム(参考)】