説明

DNA一本鎖切断を検出する方法

真核細胞サンプルにおけるDNA一本鎖切断のレベルの増加を検出する方法であって、(a)真核細胞サンプルを水溶性テトラゾリウム塩に、テトラゾリウム塩がNADHまたはNADPHの存在下で細胞サンプルにおいてホルマザン染料に変換する条件の下で、接触させるステップと、(b)細胞サンプル中のホルマザン染料の存在を検出するステップであって、ホルマザン染料のレベルの減少が真核細胞サンプルにおけるDNA一本鎖切断の増加レベルを示す、ステップとを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国国立環境衛生科学研究所の後援を受けている研究の過程でなされた(NIEHS認可番号P30-ES10126、R42-ES11746-02、およびP42-ES05948)。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、DNA内の一本鎖切断(single stranded breaks)の迅速な検出のための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
細胞内のDNAは、内因性および外因性のアルキル化剤および酸化ストレスを受けることからの損傷に絶えず晒されている。塩基除去修復(base excision repair)は、これらの有害なDNA損傷の大部分の除去のための主たる責任を担っているように思われる(Wood(1996)Annu.Rev.Biochem.65:135-167)。これらの因子(agent)によって誘発されたDNA損傷に加えて、自発的な脱プリン化/脱ピリミジン化(depyrimidination)が、生理的条件の下で有意な量の脱プリン部位/脱ピリミジン(apyrimidinic)(AP)部位を導入させることがあり得る(Nakamura,et al.(1998)Cancer Res.58:222-225)。アルデヒド反応性プローブおよびスロットブロット技法の組み合わせを用いて、生理的条件の下での自発的な脱プリン化速度は、1日につき1細胞毎に9000個のAP部位に対応する、1日につき106個のヌクレオチド毎に1.5個のAP部位であることが判明した(Nakamura,et al.(1998)Cancer Res.58:222-225)。修正された塩基およびAP部位は、塩基除去修復経路の中間体として一本鎖切断DNAを導入させる(Krokan,et al.(1997)Biochem.J.325:1-16)。このプロセスでは、DNAグリコシラーゼは、修正された塩基またはさらには通常の塩基とデオキシリボースとの間のN−グリコシリック(glycosylic)結合を裂き、AP部位をそのままにする(Krokan,et al.(1997)Biochem.J:325:1-16;Lindahl(2000)Mutat.Res.462:129-135)。DNAグリコシラーゼによって生成されたAP部位は、その後クラスII Apエンドヌクレアーゼによって開裂され(DempleおよびHarrison(1994)Annu.Rev.Biochem.63:915-948)、結果として3’−ヒドロキシル基および5’−デオキシリボースホスフェート(5’−dRp)を生じる。DNAポリメラーゼβ(β−pol)による5’−dRpの切除の後に、β−polおよびDNAリガーゼのそれぞれポリメラーゼ活性およびリガーゼ活性によって、修復が完了する。さらに、反応性酸素種(ROS:reactive oxygen species)もまた、デオキシリボースの水素除去によって損傷を誘発し、酸化されたAP部位ならびにDNA一本鎖切断をしばしば作り出す(Breen and Murphy(1995)Free Radic.Biol.Med.18:1033-1077)。B型二本鎖DNAでは、デオキシリボースのC−4’およびC−5’位における水素原子は、ROSに最もアクセスでき(Von Sonntag(1987)In:The Chemical Basis of Radiation Biology,pp.238-249,Taylor and Francis,London)、それぞれ3’−末端および5’−末端の損傷を生じさせる。そのために、DNAの一本鎖切断は、生理的条件の下でさえ哺乳動物細胞での最も頻繁なDNA損傷の1つである。単一細胞アガロースゲル電気泳動、すなわちコメットアッセイは周知であり、一本鎖切断およびその修復の量を評価するための高感度アッセイである(Tice,et al.(2000)Environ.Mol.Mutagen.35:206-221)。しかしながら、このアッセイは、後になされるゲル電気泳動のためにDNAを変性させるアルカリ性条件を通常必要とする。アルキル化剤および酸化剤は、アルカリで不安定な塩基損傷またはAP部位を導入させ、基本条件の下で一本鎖切断をもたらす(Burrows and Muller(1998)Chem.Rev.98:1109-1152;Miyamae,et al.(1997)Mutat.Res.393:107-113)。したがって、一本鎖切断の人為的な形成が、DNA抽出の間にもたらされるかもしれない。そのため、単離された細胞DNAを使った場合、一本鎖切断の数およびその修復における不均衡を正確に決定することは難しい。
【発明の開示】
【0004】
一般に、DNAの一本鎖切断修復の不均衡を検出する高感度で信頼性が高くリアルタイムな方法で、細胞内のNADHおよびNADPHの消耗を通してポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP)活性化を間接的に測定する方法が、今や見いだされている(図1)。本発明は、以下においていっそう詳細に説明される。
【0005】
本発明は、細胞または細胞サンプル内のDNA一本鎖切断の増加レベルを検出する方法を提供する。本方法は、(a)細胞を水溶性のテトラゾリウム塩に、テトラゾリウム塩がNADHまたはNADPHの存在下で細胞内においてホルマザン染料に変換される条件の下で、接触させるステップと、(b)細胞内のホルマザン染料の存在を検出するステップであって、ホルマザン染料のレベルの減少(例えば、同一の接触条件および同一の検出条件の下で標準細胞またはコントロール細胞内で生成したホルマザン染料のような任意の適切な基準と比較した場合の「減少」)が細胞内のDNA一本鎖切断のレベルの増加を示す、ステップとを含む。ホルマザン染料は、水溶性であっても非水溶性であってもよい。しかし、水溶性のホルマザン染料を使用するには、検出するステップの前に細胞を溶解する必要がある。特定の実施形態では、細胞は生きている細胞、または生きている細胞の培養物またはサンプルである。接触させステップは水溶液で実行されるのが好ましく、検出するステップは、UV吸光度(本明細書ではUV透過率を検出することと同じものとして扱われる)を検出するような任意の適切な手段で実行することができる。
【0006】
1つの実施形態では、テスト化合物は、接触させるステップの前または接触させるステップの間に細胞に接触させ、一本鎖切断のレベルの増加は、テスト化合物が細胞に遺伝毒性(genotoxic)があることを示し、一本鎖切断のレベルの減少は、テスト化合物が細胞を保護するもの(protective)であることを示す。細胞は、接触させるステップの前または接触ステップの間に酸化ストレスを受け得る。テスト化合物は、接触させるステップの前または接触させるステップの間に細胞に接触させ、一本鎖切断のレベルの増加は、テスト化合物が酸化ストレスを悪化させる(exacerbate)ことを示し、一本鎖切断のレベルの減少は、テスト化合物が酸化ストレスに対して保護するものであることを示す。
【0007】
別の実施形態では、細胞が植物被検体または動物被検体から集められ、遺伝毒性のある化合物に接触する場合、細胞内のDNA一本鎖切断の量は、遺伝毒性のある化合物に接触させていない同様の細胞の当該量と比較され、遺伝毒性のある化合物に対する当該被検体の感受性を決定する。
【0008】
さらに別の実施形態では、細胞が植物被検体または動物被検体から集められ、酸化ストレスにさらす場合、細胞内のDNA一本鎖切断の量は、酸化ストレスにさらされていない同様の細胞の当該量と比較され、酸化ストレスに対する当該被検体の感受性を決定する。
【0009】
本発明の前記の目的、他の目的および態様は、以下に記載される明細書で詳細に説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書で用いられる「アルキル」は、一般的に低級アルキル(loweralkyl)またはC1〜C4アルキルをいい、メチル、エチル、プロピルおよびブチルを含むが、これらに限定されない。
【0011】
本明細書で用いられる「アルコキシ」は、一般的に低級アルコキシ(loweralkoxy)またはC1〜C4アルコキシをいい、メチル、エチル、プロピルおよびブチルを含むが、これらに限定されない。
【0012】
本明細書で用いられる「アルカリ金属」は、ナトリウムおよびカリウムを含むが、これらに限定されない。好ましくは、ナトリウムである。
【0013】
本明細書で用いられる「ハロゲン」は、任意の適切なハロゲン原子であり、フルオロ、ブロモ、クロロ、ヨードを含むが、これらに限定されない。
【0014】
本明細書で用いられる「細胞」は、任意のタイプの細胞をいい、好ましくは植物細胞および動物細胞を含む真核細胞である。適切な細胞としては、酵母細胞および哺乳動物細胞(例えば、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、ヒト)が含まれる。細胞は、どの組織タイプのものであってもよく、皮膚、血などが含まれるが、これらに限定されない。
【0015】
本明細書で用いられる「酸化ストレス」は、任意のタイプの酸化ストレスをいい、細胞内でフリーラジカルを発生させるイオン化放射能、化合物にさらされることなどを含むが、これらに限定されない。
【0016】
本明細書で用いられる「遺伝毒性のある」は、細胞内での核酸の分裂または破壊のために有毒な化合物をいい、例えば、発癌性化合物および催奇性化合物を含むことが意図されている。
【0017】
出願人は、本明細書で引用した全ての米国特許で開示されたものが、引用によりその全体として本明細書に組み込むことを特に意図する。
【0018】
水溶性または非水溶性のホルマザン染料を作り出す水溶性のテトラゾリウム塩は公知であり、以下に記載されている。例えば、米国特許第6,063,587号Ishiyama et al;米国特許第5,185,450号Owen;D.A.Scudiero,R.H.Shoemaker,K.D.Paull,A.Monks,S.Tierney,T.H.Nofziger,M.J.Curens,D.Seniff,M.R.Boyd,Evaluation of a Soluble Tetrazolium/Formazan Assay for Cell Growth and Drug Sensitivity in Culture Using Human and Tumor Cell Lines,Cancer Res.48,4827(1988);N.W.Roehm,G.H.Rodgers,S.M.Hatfield,A.L.Glasebrook,An Improved Colorimetric Assay for Cell Proliferation and Viability Utilizing the Tetrazolium Salt XTT,J Immunol.Methods,142,257(1991);M.G.Stevens,S.C.Olsen,Comparative Analysis of Using MTT and XTT in Colorimetric Assays for Quantitating Bovine Neutrophil Bactericidal Activity,J Immunol.Methods,157,225(1993)。
【0019】
1つの実施形態では、Ishiyama et al.の米国特許第6,063,587号で明らかにされたように、このようなテトラゾリウム塩は、下記の一般式の化合物のようなスルホン化テトラゾリウム塩である。
【化1】

式中、A、BおよびCは、独立して選択された(例えば、1箇所または2箇所における、アルキル、アルコキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、カルボキシなどのような独立して選択された基による)置換または非置換のアリール基またはヘテロアリール基(例えば、フェニル)であり、A、BおよびCの少なくとも1つが、SO3-で少なくとも1箇所(好ましくは2箇所)置換されている。
【0020】
いくつかの実施形態では、テトラゾリウム塩は、下記の一般式を有する。
【化2】

式中、R1およびR2は、独立して水素またはニトロを表し、Mはアルカリ金属またはアンモニウムを表す。
【0021】
別の実施形態では、水溶性のテトラゾリウム塩は、下記の一般式を有する。
【化3】

式中、R1およびR2は、独立して水素原子、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基またはハロゲン原子を表す。R3は、アルキル基またはアルコキシル基を表し、Mはアルカリ金属またはアンモニウムを表す。
【0022】
水溶性のテトラゾリウム塩の他の例としては、Owenの米国特許第5,185,450号に記載のように、側鎖としてそのテトラゾリウム環に付いたナフタレン環であって、2つのスルホネート基を有するナフタレン環(例えば、2−ナフチル−6,8−ジスルホネート)を有するテトラゾリウム化合物、またはそのテトラゾリウム環に付いた側鎖であって、1つのスルホネート基およびオキシ酢酸基またはホスホモノエステル(phosphomonoester)基からなる群から選択されるスルホネート基より弱い酸の1つの基を有し、その化合物および関連するホルマザンを水溶性とする側鎖を有するテトラゾリウム化合物である。
【0023】
1つの実施形態では、水溶性のテトラゾリウム塩は、WST−8、すなわち2−(2−メトキシル−4−ニトロフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、モノナトリウム塩である。
【0024】
別の実施形態では、水溶性のテトラゾリウム塩は、WST−1、すなわち4−[3−(4−ヨードフェニル)−2−(4−ニトロフェニル)−2H−5−テトラゾリオ]1,3−ベンゼンジスルホネートである。
【0025】
別の実施形態では、水溶性のテトラゾリウム塩は、XTT、すなわち2,3−ビス[2−メトキシ(methyoxy)−4−ニトロ−5−スルホフェニル]−2H−テトラゾリウム−5−カルボキサニリドである(また、「(2,3−ビス[2−メトキシ−4−ニトロ−5−スルホフェニル]−2H−テトラゾリウム−5−カルボキシ−アニリド内塩」とも呼ばれる。)。
【0026】
別の実施形態では、水溶性のテトラゾリウム塩は、MTS、すなわち3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、内塩である。
【0027】
別の実施形態では、水溶性のテトラゾリウム塩は、MTT、すなわち3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]2,5−ジフェニルテトラゾリウム臭化物である。(MTTは、水溶性の染料を生成するが、検出するステップまたは決定するステップの前に細胞を溶解させることによって、使用することができる。)
【0028】
別の実施形態では、水溶性のテトラゾリウム塩は、WST−3、すなわち2−(4−ヨードフェニル)−3−(2,4−ジニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、ナトリウム塩;WST−4、すなわち2−ベンゾチアゾリル−3−(4−カルボキシ−2−メトキシフェニル)−5−[4−(2−スルホエチル−カルバモイル)フェニル]−2H−テトラゾリウム;あるいはWST−5、すなわち2,2’−ジベンゾチアゾリル−5,5’−ビス[4−ジ(2−スルホエチル)カルバモイルフェニル]−3,3’−(3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレン)ジテトラゾリウム、ジナトリウム塩である。
【0029】
DNAの一本鎖切断は、酸化ストレスまたは塩基除去修復経路によって生み出される、ゲノムDNAでの最も頻繁な損傷の1つである。DNAの一本鎖切断は、PARP−1の活性化を誘発する(Lautier,et al.(1993)Mol.Cell Biochem.122:171-193;de Murcia,et al.(1994)Mol.Cell Biochem.138:15-24)。これにより、細胞内のNAD+が消耗される(Berger(1985)Radiat.Res.101:4-15)。さらに、細胞内のNAD+の減少は、NADHおよびNADPHだけでなく、ATPを消耗させる(Carson,et al.(1986)Exp.Cell Res.164:273-281;OleinickおよびEvans(1985)Radiat.Res.101:29-46)。したがって、本発明は、本明細書でNAD(P)Hと呼ばれるNADHおよびNADPHの細胞内のレベルを測ることによって、細胞内での一本鎖切断DNAを検出するための方法を提供する。
【0030】
1つの実施形態では、本発明の方法は、生検標本、組織、細胞または液体(例えば、全血または血漿)のようなサンプルを被検体から得るステップと、そのサンプルを水溶性のテトラゾリウム塩と接触させるステップと、テトラゾリウム塩のホルマザン染料への還元を介してサンプル内のNAD(P)Hのレベルを測定するステップとにより実行される。ホルマザン染料の形成は、任意の標準的な分光光度計の使用のような任意の適切な技法によって測定される。分光光度計は、同時に多数のサンプルを読むことができるものが好ましい(例えば、96−ウエルプレートリーダー)。サンプル内のNAD(P)Hのレベルは、コントロールと比較されるか、または一定の時間(例えば、30分から4時間または8時間)にわったてモニターされて、DNAの一本鎖切断修復メカニズムに不均衡があるかどうかを評価することができる。NAD(P)Hのレベルが減少しているサンプルは、PARP活性化、すなわち、サンプルが得られた被検体の中でDNAの一本鎖が切断されていることを示している。したがって、一本鎖切断DNAを検出するための方法は、DNA損傷因子に晒されていると思われる被検体の選別の一部として用いることができる。さらに、本発明の検出方法は、単独で、またはDNA一本鎖切断を確認するための他の周知の診断方法と組み合わせて使うことができる。
【0031】
DNAでの一本鎖切断は、遺伝関連または年齢関連の基礎をなすことがあり、またはアルキル化によってDNA付加物を生成するものを含む因子に晒されることの結果として生じ得る。例えば、メチルメタンスルホネート(MMS)、エチルメタンスルホネート(EMS)、N−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニン(MNNG)、ジメチルニトロサミン(DMN)、ジメチルスルフェート);反応性酸素種(例えば、過酸化物);ブロモウラシル、5−ヒドロキシメチル−2’−デオキシウリジンおよびアミノプリンのような塩基アナログ;または紫外線およびイオン化放射能(例えば、X線およびγ線)のような照射である。
【0032】
NAD(P)Hの細胞内のレベルを測定することによって決定される細胞内のDNA一本鎖切断の検出は、医療実験および他の処置の間に治療の効果をモニターするのに有用である。したがって、細胞内でDNA一本鎖切断を引き起こすように設計された放射線療法のための放射性核種(radionucleide)または化学療法のための細胞毒性薬のような因子の治療効果は、最終標的としてのPARPの活性化、すなわちNAD(P)Hの還元を用いてモニターされ得る。
【0033】
さらに、本発明の検出方法は、一本鎖切断の修復または塩基除去修復のいずれかの減少した能力について個人を選別するために使うことができる。
【0034】
本発明のさらなる態様は、サンプル中のDNA損傷因子を検出する方法を提供する。サンプルは、生体由来または環境由来のいずれでもよい。生体サンプルとしては、上記で与えられたもの、ならびに乳製品、野菜、肉類および肉類副産物のような食品および原料および廃棄物が挙げられる。環境サンプルとしては、表面物質、土壌、水、廃水、下水、汚泥、工業サンプル(例、工業用水)のような環境物質ならびに、食品加工および乳製品加工の器具、装置、設備、使い捨て商品および使い捨てでない商品から得られるサンプルが挙げられる。これらの環境サンプルの他に、飲料水を本発明の方法で使うことができると考えられる。飲料水という用語には、ヒトおよび他の動物による消費のために使われるあらゆるタイプの水が含まれ、井戸水、廃水、貯水池、川、小川などに貯められた水などが挙げられるが、これらに限定されないことが意図されている。本方法は、DNA損傷因子を有すると推測されるサンプルとテスト細胞とを接触させ、そのサンプルの存在下でテスト細胞をインキュベートし、当該細胞内のNAD(P)Hのレベルを測定することにより、テスト細胞内でDNA一本鎖切断が生じたかどうかを検出する。さらに、XRCC1欠損細胞、APエンドヌクレアーゼ欠損細胞、DNAグリコシラーゼ−欠損細胞、DNAリガーゼ欠損細胞またはDNAポリメラーゼヌル変異体細胞のような塩基除去修復欠損細胞系をDNA損傷因子にさらし、当該因子により誘発されたDNA損傷が塩基除去修復によって修復されるかどうかを決定することができる。細胞内のNAD(P)Hの細胞内のレベルを測定することにより、細胞内でのDNA一本鎖切断を検出する方法は、本明細書で提供される。さらに、DNA修復のプロセスは、たいていDNA合成を必要とするので、ヒドロキシウレアのようなDNA合成インヒビターと組み合わされるこの細胞ベースの方法は、DNA損傷因子により誘発されたDNA SSBの蓄積を促進する。したがって、この応用により、研究者は、通常のDNA修復熟達(repair-proficient)細胞を使ってDNA損傷因子を高感度で都合よく検出することができるようになる。
【0035】
本発明のさらなる態様は、DNA修復酵素の活性化を調節する因子を識別する細胞ベースの方法を提供する。平静な(unperturbed)細胞では、PARPのようなDNA修復酵素は、不活性の状態にある。DNA一本鎖切断の際、これらの酵素は活性化し、PARPの場合は同時にNAD(P)Hの還元をもたらす。したがって、PARPの活性化を調節する因子は、細胞を因子に接触させるステップと、NAD(P)Hの細胞内のレベルを測定するステップとにより、スクリーニングアッセイにおいて同定される。さらに、当該アッセイは、テトラゾリウム塩を添加する前の洗浄し、テトラゾリウム塩と相互作用し得る残存する因子を除去するステップを含んでもよい。PARP活性化は、活性化をブロックし、阻害し、または減少させるだけでなく、刺激し、促進し、または活性化の速度もしくは量を増加させることにより調節することができる。インヒビターのための一般的なスクリーニングアッセイには、因子およびメチルメタンスルホネートのような遺伝子毒を平静な細胞に接触させるステップと、NAD(P)Hの細胞内のレベルを測定することによりPARPの活性化を当該因子がブロックまたは阻害するかどうかを決定するステップとが含まれる。PARP活性化を阻害する因子は、多様なヒトの腫瘍の処置における放射線増感剤または化学増感剤(chemosensitizers)として有用である。エンハンサーのための一般的なスクリーニングアッセイには、因子を平静な細胞に接触させるステップと、NAD(P)Hの細胞内のレベルを測定することにより当該因子がPARPの活性化を促進または刺激するかどうかを決定するステップとが含まれる。PARPの活性化を促進または活発にする因子は、癌細胞に対する化学療法薬剤として役立つ。細胞内NAD(P)Hの細胞内のレベルを測定するための方法は、本明細書において提供される。
【0036】
本発明のさらなる態様は、癌化学療法薬剤だけではなく、抗HIV薬のためのDNA合成インヒビターを同定する細胞ベースの方法を提供する。前述したように、大部分のDNA修復経路は、損傷を受けた塩基またはヌクレオチドの除去の後にDNA合成を必要とする。したがって、DNA損傷因子とこの細胞ベースのアッセイとの組み合わせにより、4時間以内にDNA合成を妨害する化学物質またはタンパク質を効率的に選別することができる。DNA合成インヒビターは、抗HIV剤として有用であることが知られているので、この方法は、HIV関連の研究に適用することができる。
【0037】
本明細書で提供されるスクリーニングアッセイを用いて選別され得る因子には、多くの化学物質の種類が含まれる。それらは、一般的に有機分子であるが、好ましくは100ダルトンより大きく、約2500ダルトン未満の分子量を有する小さい有機化合物である。
【0038】
因子は、タンパク質との構造的な相互作用、特に水素結合に必要な官能基を含む。その官能基の例としては、一般的に、少なくともアミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基またはカルボキシル基が挙げられ、少なくとも2つの官能化学基があることが好ましい。当該因子は、しばしば、1以上の上記の官能基で置換された環状炭素もしくはヘテロ環状構造物および/または芳香族構造もしくは多環芳香族構造を含む。因子はまた、ペプチド、抗体、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、それらの誘導体、構造アナログまたは組み合わせを含む生体分子の間で見いだすことができる。このような因子は、合成化合物または天然化合物のライブラリーまたは組み合わせライブラリーを含む多様なソースから得ることができる。
【0039】
他の種々の試薬を、スクリーニングアッセイに含めることができる。この例としては、最適なタンパク質−タンパク質結合を容易にし、および/または非特異性相互作用またはバックグラウンド相互作用を減らすために使うことのできる塩、中性タンパク質(例、アルブミン)、洗浄剤などのような試薬が挙げられる。また、プロテアーゼインヒビター、ヌクレアーゼインヒビター、抗菌剤などのようなアッセイの効率を別の方法で改善する試薬を用いることもできる。必要な結合を提供する成分の混合物を、任意の順序で添加することができる。
【0040】
本発明のさらなる態様は、サンプル中のDNA損傷因子を検出するためのキットを提供する。キットには、テトラゾリウム塩が含まれる。キットには、さらにテスト細胞を含むことができる。さらに、NAD(P)Hの存在量を標準と比較するための手段をキットの中に提供することができる。キットは適切な容器でパッケージされて、さらに上記の方法を実行するための説明書のようなDNA損傷因子を検出するためのキットを使用するための説明書(例、印刷された説明書)を含めることができる。
【0041】
1つの実施形態では、(c)ホルマザン染料の検出された存在から、細胞内のDNA一本鎖切断の量を定量的に示すステップを、前記検出するステップの後に含む。この示すステップは、任意の適切な技法により実行することができる。例えば、選択された細胞で検出されたホルマザン染料のレベルをコントロール細胞でのホルマザン染料のレベルと比較することによって、経時的に形成されたホルマザン染料の量を決定することよって、他の知られている標準と比較することによって、または他の任意の適切な技法などである。
【0042】
本方法は、リアルタイム手法で実行される。すなわち、抽出するステップを行わずに、生きている細胞を用いて、および経時的に同一の細胞または細胞サンプルから受ける多数の測定により連続的に、生きている細胞のサンプルをモニターすることができる。さらに、(装置の感度により)500,000個未満の細胞、200,000個未満の細胞、100,000個未満の細胞、10,000個未満の細胞、および1,000個未満の細胞であっても、アッセイのために必要とされる。最終的に、アッセイのステップは、現在利用可能な技法に必要とされる時間と比較すると、例えば、4時間、3時間、2時間未満、または1時間未満以内であっても、迅速に実行することができる。
【0043】
以下の実施例は、本発明を例証するために記載されており、本発明を限定すると解釈するべきではない。
【実施例】
【0044】
[実施例1:細胞培養]
XRCClが十分な(proficient)CHO細胞およびXRCCl欠損CHO細胞(Taylor,et al.(2002)Mol.Cell.Biol.22:2556-2563)を、10%のウシ胎児血清(Sigma-Aldrich、セントルイス、米国ミズーリ州)、100μg/mLのペニシリンおよび100μg/mLのストレプトマイシンを補充したα−最小必須培地(INVITROGEN(登録商標)、Carlsbad、米国カリフォルニア州)で、単層として培養した。PARP−1+/+およびPARP−1-/-由来の固定化マウス胎児線維芽細胞を、ダルベッコ変法イーグル培地、10%のウシ胎児血清および0.5%のゲンタマイシン(Schreiber,et al.(2002)J Biol.Chem.277:23028-23036)を補充した4.5g/リットルのグルコース培地(INVITROGEN(登録商標)、Carlsbad、米国カリフォルニア州)で維持した。ヒトリンパ芽球様細胞(GM15030、GM15061、GM15237、GM15268、GM15339、GM15349、GM15365およびGM15380;Coriell Cell Repositories、Camden、米国ニュージャージー州)を、15%のウシ胎児血清(Sigma-Aldrich、セントルイス、米国ミズーリ州)、100μg/mLのペニシリンおよび100μg/mLのストレプトマイシンを補充したRPMI1640培地(INVITROGEN(登録商標)、Carlsbad、米国カリフォルニア州)で増殖させた。その細胞を5%のCO2および95%の空気の湿潤雰囲気で37℃において維持した。
【0045】
[実施例2:細胞内のNAD(P)Hの検出]
水溶性テトラゾリウム塩を使い、ホルマザン染料への還元を通して細胞内のNAD(P)Hの量を測定した。培地で生存能力のある細胞内のNAD(P)Hの全体の量を、分光光度計によって周期的に決定した。細胞を96ウエルプレート(CHO細胞およびマウス線維芽細胞:5×103細胞/ウエル;リンパ芽球様細胞:15×103細胞/ウエル)に播種し、上記のウシ胎児血清および抗生物質を含む100μLの培地で培養した。30分のインキュベーションの後に、細胞を、指示された濃度のMMSならびに水溶性の2−(2−メトキシル−4−ニトロフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウムモノナトリウム塩(WST−8;5mM)および電子メディエーターとして1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルスルファート(1−メトキシPMS;0.2mM)からなる1/10体積のCCK−8溶液(Dojindo Molecular Technology、Gaithersburg、米国メリーランド州)で処理した。各ウエルの中の細胞を、さらに最高4時間まで培養した。WST−8は、1−メトキシPMSのような電子キャリア、ジアフォラーゼ、フラビン酵素の存在下で、または直接NAD(P)Hによって、その生体還元を介して水溶性で黄色のホルマザン染料を生成した。したがって、テトラゾリウム塩の還元は、主に細胞内のNAD(P)Hの量に依存している。培地で生きている細胞によって作り出されたホルマザン染料の量を、分光光度計によりコントロールの値と比較して、約30分ごとに決定した。吸光度を、650nmの参照フィルターを用い、450nmにおいて96−ウエルプレートリーダーに記録した。培地ブランクを培地およびCCK−8反応溶液だけで調製した。リン酸緩衝食塩水(PBS)のみで処理された細胞を含むウエルの吸光度に対するMMSで処理された細胞を含むウエルの吸光度を比較することにより、細胞内のNAD(P)Hの減少を算定した。
【0046】
細胞死をトリパンブルー染色で決定した。細胞を0、0.75および1.5mMにおけるMMSにより1〜4時間の間で処理された。トリプシン化(trypsinization)の後に、細胞を標準的なトリパンブルー染料排除アッセイを使って染色した。
【0047】
XRCC1は、ヒトAPエンドヌクレアーゼ(APE1)、DNA Pol−β、DNAリガーゼIII、ポリヌクレオチドキナーゼ(PNK)およびPARP−1を含む他の塩基ベース切除修復関連タンパク質との相互作用のために骨格(scaffold)として機能する(Caldecott,et al.(1996)Nucl.Acids Res.24:4387-4394;Whitehouse,et al.(2001)Cell 104:1-11;Kubota,et al.(1996)EMBO J.15:6662-6670;Caldecott,et al.(1994)Mol.Cell.Biol.14:68-76;Caldecott,et al.(1995)Nucl.Acids Res.23:4836-4843)。XRCC1は、哺乳動物細胞において効率的な一本鎖切断修復および遺伝子安定性のために必要とされる。XRCC1欠損であるげっ歯類の細胞は、DNA損傷因子に過敏である(Whitehouse,et al.(2001)Cell 104:1-11;Kubota,et al.(1996)EMBO J 15:6662-6670;Caldecott,et al.(1994)Mol.Cell.Biol.14:68-76)。XRCC1の損失はまた、自発的および/または誘発された染色体転位および染色体欠失が起こる頻度が多くなることも含めて、遺伝子の安定性を減少させることももたらす(Caldecott,et al.(1995)上記;Carrano,et al.(1986)Mutat.Res.162:233-239;Dominguez,et al.(1998)Mutat.Res.398:67-73;Thompson,et al.(1982)Mutat.Res.95:427-440;Veld,et al.(1998)Mutat.Res.398:83-92;Zdzienicka,et al.(1992)Mutagenesis 7:265-269)。細胞内のNAD(P)Hレベルの量をモニターするために、水溶性テトラゾリウム塩を使って、XRCC1が十分(proficient)または不十分のいずれかの同質遺伝子(isogenic)CHO細胞系をMMSにさらした。使われた細胞系は、一本鎖切断修復欠損細胞として空のpcD2Eベクター(EM9−V)を発現し、一本鎖切断修復熟達細胞として野生型のヒトXRCC1(pcD2EXH)(EM9−XH5)を発現するXRCCl欠損CHO EM9細胞であった(Whitehouse,et al.(2001)Cell 104:1-11)。これらの細胞を様々な濃度のMMSに4時間さらした。トリパンブルー排除アッセイは、どの濃度におけるMMS処理においても主要な細胞死を全く実証しなかったが、両方の細胞系における細胞内のNAD(P)Hを、用量依存手法におけるMMSでの処理により、有意に減少させた(図2、パネルA)。NAD(P)Hの減少を示すこれらのデータは、生存能力のある細胞の数の減少によるものである。
【0048】
細胞内のNAD(P)Hの減少において早期の段階で起きることをモニターするために、測定をMMSに晒した4時間の間で約30分ごとに行った。CCK−8は、NAD(P)Hの実証のために細胞溶解を必要としないので、リアルタイムNAD(P)Hアッセイを 96−ウエルプレートリーダーを用いて行った。NAD(P)Hの減少は、EM9−V細胞をMMSにさらしている間の30分ぐらいの早期に検出された(図2、パネルB)。EM9−XH5細胞に対するEM9−V中のNAD(P)Hの比をMMSにさらした時間の関数としてプロットしたものは、その比が1時間以内に安定期に達したことを示した(図2、パネルC)。したがって、引き続いてNAD(P)Hの測定をMMSにさらした細胞で1〜4時間の間で行った。本明細書で提供された方法の再現性は、図2、パネルDに示される。細胞をMMSへ4時間晒して、4つの独立した実験を行った。
【0049】
[実施例3:PARPインヒビターの存在下でのNAD(P)Hの減少]
PARPは、DNA一本鎖切断によるその活性化を介して、ADP−リボースの数百の分岐鎖を核タンパク質に転換する(Kubota,et al.(1996)上記;Caldecott,et al.(1994)上記)。大量のDNA損傷の下で、PARPの活性化は、その基質NAD+を消耗する(Taylor,et al.(2002)上記)。NAD(P)Hは、デヒドロゲナーゼとその基質との反応によってNAD(P)から生成されるので、NAD(P)の量の減少によりNAD+が消耗される。NADHの減少が、ミトコンドリア機能の減少によるものか、またはPARP活性化によるNAD+の消耗によるものかどうか決定するために、CHO細胞をMMSおよび特定のPARPインヒビターに共にさらした。特定のPARPインヒビターである3−アミノベンズアミド(3−AB;Sigma-Aldrich、セントルイス、米国ミズーリ州)(10mM)および3,4−ジヒドロ−5−[4−(1−ピペリジニル)ブトキシ]−1(2H)−イソキノリノン(DPQ;Sigma-Aldrich、セントルイス、米国ミズーリ州)(90μM)を、MMS処理の前に1〜2時間添加し、細胞が分析されるまでMMSにさらしている間に培地を維持した。3−ABおよびDPQは、EM9−VおよびEM9−XH5細胞系の両方において、MMSで誘発された細胞内のNAD(P)Hの量の減少をほとんど完全に妨げた(図3、パネルAおよびB)。これらの結果により、4時間MMSにさらしたCHO細胞での細胞内のNAD(P)Hの減少が、一本鎖切断の形成を介したPARP活性化を理由とするものであったことが示された。
【0050】
[実施例4:PARP−1-/-細胞内でのNAD(P)Hの減少]
PARP−1-/-細胞およびPARP−1+/+細胞をMMSにさらし、NAD(P)Hの減少が、PARP活性化によるものかどうか決定した。MMSは、PARP−1+/+細胞内でNAD(P)Hを減少させた(図4、パネルA)。ところが、PARP−1-/-細胞は、NAD(P)Hの減少に抵抗をもっと示した(図4、パネルB)。さらに、3−ABは、MMSに晒される際のNAD(P)Hの減少からPARP−1+/+細胞を保護した。PARP−1-/-細胞でのNAD(P)Hのわずかな減少は、ミトコンドリア機能の減少によるものとされている。
【0051】
[実施例5:コメットアッセイに対してのNAD(P)H決定アッセイ]
NAD(P)Hを測定する本発明の方法と一本鎖切断の検出のためのコメットアッセイとの間の直接の比較を行った。コメットアッセイのためのスライドを周知の方法により調製した(Tennant,et al.(2001)Mutat.Res.493:1-10)。簡単にいえば、スライドをアガロースに浸漬し、60℃で乾燥する。低融点アガロース(0.5%)を調製し、42℃に保つ。細胞懸濁液(1×104細胞/10μL)を190μLの低融点アガロースと混合した。90μLのこの懸濁液を各2つのスライド上にピペットで取り、カバーグラスで覆った。各スライドを5分間氷の上に置き、カバーグラスをはずして、90μLの低融点アガロースを各スライド上にピペットで取り、カバーグラスを再び被せて、スライドを氷に戻した。5分後、カバーグラスをはずして、スライドを、2.5M塩化ナトリウム、100mMのEDTA−2Na、10mMのTris、1%のNaサルコシネート、1%のTRITON(登録商標)X-100および10%のジメチルスルホキシドを含有する溶解緩衝液(pH11)中に20分間静置した。溶解に続いて、スライドを変性緩衝液(すなわち、電気泳動緩衝液;300mMのNaOH、1mMのEDTA、pH13)中に静置した。電気泳動を、BIO-RAD(登録商標)1000電源(BIO-RAD(登録商標)Labs、Hercules、米国カリフォルニア州)を使って、大きい水平ユニット(Fisher Biotech、ピッツバーグ、米国ペンシルベニア州)で20分間300mVにおいて行った。スライドを取り出し、0.4MのTrisを含むpH7.5の中性緩衝液の中に15分間静置した。その後、スライドを95%のエタノール中に5分間置き、一晩中フード内で乾燥空気をあてた。
【0052】
スライドを35μLのSYBR GREEN-1(登録商標)(MOLECULAR PROBES(登録商標)、ユージーン、米国オレゴン州)(Tris-EDTA緩衝液pH0.8で10X)で染色し、カバーグラスを当てた。細胞を100WのHg蛍光源およびライツ(Leitz)I3フィルターキューブを用いて、ライツオルトプラン顕微鏡で観察した。Dage CCD725カメラ(Dage MTI、ミシガンシティ、米国アイオワ州)をイメージを得るために使った。各2つのスライドから50個の細胞をその処理の知識のない独立したスコアラーによって分析した。分析をKOMET(登録商標)5.0(Kinetic Imaging、英国)コメット分析ソフトウェアを使って実行した。テイル中のテイルレングス(tail length)およびDNAのパーセンテージについてデータを集めた。終点を使って、式:テイルモーメント=テイルレングス×DNA中のDNAのパーセンテージ/100を用いて、KOMET(登録商標)5.0ソフトウェアによりテイルモーメントを計算した。コクランC検定(Cochran's C test)およびバートレット検定を使って分散の均一性を調べた後、単純線形回帰(1つのテイル)を行った。統計学的に有意な正の勾配が得られた場合、1つのテイルのダネット(Dunnett)分析を用いて、各処理の平均値とそれに関するコントロールを比較した。培養物を実験の単位とし、全てのテストにおいてαを0.05に設定した。全てのテストをSTAGRAPHICS(登録商標)プラスバージョン5統計パッケージを使って行った。
【0053】
約5μMぐらいの低い濃度のMMSに4時間さらしたXRCC1欠損EM9−V細胞で比較を行った。NAD(P)Hの量の減少を10μM以下ぐらいの濃度のMMSに1時間、2時間および4時間晒した細胞において検出した(図5、それぞれパネルA、BおよびC)。コメットアッセイを使って、50μM以下のMMSに晒したEM9−V細胞においてテイルモーメントの量の増加を検出した(図5、パネルD)。これらの結果により、本明細書で提供された方法がコメットアッセイより感度が良く、細胞内の一本鎖切断の不均衡を評価するのに有用であることが示された。
【0054】
[実施例6:MMSにさらしたヒトリンパ芽球様細胞中のNAD(P)H]
8人の様々な健康な個体から確立されたヒトリンパ芽球様細胞の中の一本鎖切断修復能力におけるバリエーションを決定した。本明細書で提供される一本鎖切断を検出する方法は、リンパ芽球様細胞系でのMMSへの感度における広いバリエーションを実証した(図6、パネルA)。最も耐性の高い細胞(39:GM15339)および最も敏感な細胞(80:GM15380)から得られたデータを、EM9−XH5細胞およびEM9−V細胞からのデータと比較した(図6、パネルB)。GM15339の感度は、XRCCl十分のEM9−XH5細胞の感度とほとんど等しかった。それと対照的に、GM15380細胞系は、2つの同質遺伝子EM9細胞系と比較して感度では中間であった。NAD(P)Hのレベルの減少をPARPインヒビターとの共インキュベーションによりかなり抑制した(図6、パネルC)。これらの結果により、本明細書で提供される方法が、集団ベースのサンプルまたは臨床サンプルにおいて一本鎖切断修復の不均衡をモニターすることに役立つことが示される。
【0055】
[実施例7:XTTまたはMTSのいずれかを使った細胞内のNAD(P)Hの検出]
水溶性のテトラゾリウム塩である、XTT1)(2,3−ビス[2−メトキシ−4−ニトロ−5−スルホフェニル]−2H−テトラゾリウム−5−カルボキシアニリド内塩)およびMTS2)(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、内塩)を使って、水溶性ホルマザン染料への還元を介して細胞内のNAD(P)Hの量を測定した。EM9−V細胞およびXH5細胞を96ウエルプレートに播種し、ウシ胎児血清および前述した抗生物質を含む100μLの培地で培養した(1ウエルにつき10,000個の細胞)。30分間のインキュベーションの後、指示された濃度のDMS(ジメチルスルファート)および1/10体積のフェノジンメトスルファートのような電子カップリング剤を含むXTT(Sigma)もしくはフェノジンメトスルファートを含むMTS(Promega)のいずれかで、細胞を処理した。さらに、各ウエル中の細胞を最高4時間までで培養した。XTTまたはMTSのいずれかが、水溶性の黄色のホルマザン染料を生成し、吸光度を650nmの参照フィルターにより450nmにおいて96ウエルプレートリーダーに記録した。
【0056】
これらの細胞を、様々な濃度のDMSに2.5時間または4時間晒した。EM9−XH5細胞ではなく、EM9−V細胞系での細胞内のNAD(P)Hを、用量依存の手法でDMSでの処理により有意に減少させた(図7、パネルAおよびB)。さらに、CHO細胞を、DMSおよびPARPインヒビターに共にさらした。DMS処理の前に、3−アミノベンズアミド(10mM)を1〜2時間加え、細胞が分析されるまでDMSにさらしている間に培地を維持した。3−ABは、両方のEM9−V細胞系において、DMSで誘発された細胞内のNAD(P)Hの量の減少を完全に妨げた(図7、パネルAおよびB)。これらの結果により、WST−8に加えて、XTTおよびMTSの両方は、SSB修復の不均衡をモニターするための生きている細胞内でのNAD(P)Hのレベルをモニターするのに利用することができることが示された。これらのデータにより、水溶性ホルマザンを形成する水溶性テトラゾリウム塩(WST−1、−3、−4および−8、XTTおよびMST)は、SSBの蓄積をモニターするために細胞内でのNAD(P)Hのレベルを定量するのに利用可能であることもまた示された。
【0057】
上記の実施例は、本発明を例証するものであり、本発明を制限すると解釈されるべきではない。本発明は、それに含まれる特許請求の範囲と均等な事項と共に、特許請求の範囲により説明される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、一本鎖切断修復の不均衡、NAD+消耗およびNAD(P)H消耗を表現する。
【図2】図2は、空のベクター(EM9−V)およびヒト野生型XRCC1(EM9−XH5)を発現している、生きているチャイニーズハムスター卵巣EM9細胞中のNAD(P)Hのレベルを示す。パネルAは、メチルメタンスルホネート(MMS)に4時間さらした細胞中のNAD(P)Hのレベルを示す。パネルBは、MMSにさらしたEM9−V細胞のリアルタイムNAD(P)Hアッセイの結果を示す。パネルCは、MMSにさらした時間の関数としてEM9−XH5細胞に対するEM9−V細胞でのNAD(P)Hレベルの比の経時変化を示す。パネルDは、4つの独立した実験の平均値としてNAD(P)Hアッセイの再現性を示す。パネルDに提示したデータを除いて、結果は3つの組のサンプルから得たものであり、再現性は少なくとも3回確かめられている。バーは、標準偏差を表す。
【図3】図3は、PARPインヒビター、3−アミノベンズアミド(3−AB)(10mM;パネルA)または3,4−ジヒドロ−5−[4−(1−ピペリジニル)ブトキシ]−1(2H)−イソキノリノン(DPQ)(90μM、パネルB)の非存在下または存在下で、MMSに4時間さらしたEM9−VおよびEM9−XH5におけるNAD(P)Hの消耗の用量依存を示す。結果は3つの組のサンプルを表す。再現性は少なくとも3回確認した。バーは、標準偏差を表す。
【図4】図4は、3−AB(10mM)の非存在下または存在下でMMSに4時間晒した野生型(PARP+/+、パネルA)線維芽細胞およびPARP−1ノックアウト(PARP-/-、パネルB)線維芽細胞におけるNAD(P)Hの消耗を示す。結果は3つの組のサンプルを表す。再現性は少なくとも3回確認した。バーは、標準偏差を表す。
【図5】図5は、本発明のNAD(P)Hアッセイおよびコメットアッセイにより検出されたMMSによって誘発された細胞の効果の比較を示す。MMSに1時間(パネルA)、2時間(パネルB)、および4時間(パネルC)さらしたEM9−V細胞中のNAD(P)Hの消耗。結果は3つの組のサンプルを表す。再現性は少なくとも3回確認した。バーは、標準偏差を表す。パネルDは、0mM、0.0059mM、0.0117mMまたは0.0469mMでMMS処理を1時間された直後のEM9−V細胞でのコメットアッセイにより定量されたテイルモーメントを示す。結果は、3つの組のサンプルからの平均値である。バーは、標準偏差を表す。
【図6】図6は、8人の健康な個体から確証されたヒトリンパ芽球様細胞のNAD(P)Hアッセイからの結果を示す。パネルAは、MMSに4時間晒したリンパ芽球様細胞(30:GM15030、61:GM15061、37:GM15237、68:GM15268、39:GM15339、49:GM15349、65:GM15365、および80:GM15380)におけるNAD(P)H消耗を示す。パネルBは、リンパ芽球様細胞39および80とEM9−V細胞およびEM9−XH5細胞との間のNAD(P)H消耗の比較を示す。パネルCは、3−AB(16mM)の非存在下または存在下でMMSに4時間晒したリンパ芽球様細胞39および80のNAD(P)H消耗を示す。結果は3つの組のサンプルを表す。再現性は少なくとも3回確認した。バーは、標準偏差を表す。
【図7】図7は、PARPインヒビター、3−アミノベンズアミド(3−AB)(10mM)の非存在下または存在下で、DMSに4時間(XTTを使用;パネルA)および2.5時間(MTSを使用;パネルB)さらしたEM9−VおよびEM9−XH5におけるNAD(P)H消耗の用量依存性を示す。結果は、3つの組のサンプルからの平均値を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真核細胞サンプルにおけるDNA一本鎖切断の増加レベルを検出する方法であって、
(a)真核細胞サンプルを水溶性テトラゾリウム塩に、前記テトラゾリウム塩がNADHまたはNADPHの存在下で前記細胞サンプルにおいてホルマザン染料に変換される条件の下で、接触させるステップと、
(b)前記細胞サンプル中の前記ホルマザン染料の存在を検出するステップであって、前記ホルマザン染料のレベルの減少が前記真核細胞サンプルにおけるDNA一本鎖切断のレベルの増加を示す、ステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記真核細胞サンプルが植物細胞サンプルまたは動物細胞サンプルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記真核細胞サンプルが哺乳動物細胞サンプルである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記真核細胞サンプルが生細胞サンプルである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記接触させるステップが水溶液中で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記検出するステップがUV吸光度を検出することにより実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
(c)前記のホルマザン染料の検出された存在から、前記細胞サンプル内のDNA一本鎖切断の量を定量的に示すステップを、前記検出するステップの後に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記接触させるステップの前または間にテスト化合物を前記細胞サンプルに接触させ、一本鎖切断のレベルの増加が、前記テスト化合物が前記細胞サンプルに遺伝毒性があることを示し、一本鎖切断のレベルの減少が、前記テスト化合物が前記細胞サンプルを保護するものであることを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記接触させるステップの前または間に前記細胞サンプルを酸化ストレスにさらし、前記接触させるステップの前または間にテスト化合物を前記細胞サンプルに接触させ、一本鎖切断のレベルの増加が、前記テスト化合物が酸化ストレスを悪化させることを示し、一本鎖切断のレベルの減少が、前記テスト化合物が酸化ストレスに対して保護するものであることを示す、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞サンプルを植物被検体または動物被検体から集め、遺伝毒性化合物に接触させ、前記細胞サンプル内のDNA一本鎖切断の量を、前記遺伝毒性化合物に接触させていない同様の細胞サンプルのDNA一本鎖切断の量と比較する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞サンプルを植物被検体または動物被検体から集め、酸化ストレスにさらし、前記細胞サンプル内のDNA一本鎖切断の量を、酸化ストレスにさらされていない同様の細胞サンプルのDNA一本鎖切断の量と比較する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記水溶性テトラゾリウム塩がスルホン化テトラゾリウム塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記水溶性テトラゾリウム塩が下記の一般式を有する、請求項1に記載の方法。
【化1】

(式中、A、BおよびCは、独立して選択された置換または非置換のアリール基またはヘテロアリール基であり、A、BおよびCの少なくとも1つが、SO3-で少なくとも1箇所置換されている。)
【請求項14】
前記水溶性テトラゾリウム塩が下記の一般式を有する、請求項1に記載の方法。
【化2】

(式中、R1およびR2は、独立して水素またはニトロを表し、Mはアルカリ金属またはアンモニウムを表す。)
【請求項15】
前記水溶性テトラゾリウム塩が下記の一般式を有する、請求項1に記載の方法。
【化3】

(式中、R1およびR2は、独立して水素原子、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基またはハロゲン原子を表し、R3はアルキル基またはアルコキシル基を表し、Mはアルカリ金属またはアンモニウムを表す。)
【請求項16】
前記水溶性テトラゾリウム塩が、
2−(2−メトキシル−4−ニトロフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、モノナトリウム塩(WST−8);
4−[3−(4−ヨードフェニル)−2−(4−ニトロフェニル)−2H−5−テトラゾリオ]1,3−ベンゼンジスルホネート(WST−1);および
2,3−ビス[2−メトキシ−4−ニトロ−5−スルホフェニル]−2H−テトラゾリウム−5−カルボキサニリド(XTT);
2−(4−ヨードフェニル)−3−(2,4−ジニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、ナトリウム塩(WST−3);
2−ベンゾチアゾリル−3−(4−カルボキシ−2−メトキシフェニル)−5−[4−(2−スルホエチル−カルバモイル)フェニル]−2H−テトラゾリウム(WST−4);
2,2’−ジベンゾチアゾリル−5,5’−ビス[4−ジ(2−スルホエチル)カルバモイルフェニル]−3,3’−(3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレン)ジテトラゾリウム、ジナトリウム塩(WST−5)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法
【請求項17】
前記水溶性テトラゾリウム塩が、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、内塩(MTS)である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記水溶性テトラゾリウム塩が、3−[4,5−ジメチルチアゾール−2イル]2,5−ジフェニルテトラゾリウム臭化物(MTT)である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞サンプルが500,000個以下の細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記接触させるステップおよび前記検出するステップが、4時間以内の全体時間で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
生存真核細胞サンプルにおけるDNA一本鎖切断のレベルの増加を検出する方法であって、
(a)500,000以下の細胞を水溶液中に含む生存真核細胞サンプルを水溶性テトラゾウリウム塩に、前記テトラゾリウム塩がNADHまたはNADPHの存在下で前記細胞サンプルにおいて水溶性ホルマザン染料に変換される条件の下で、接触させるステップと、
(b)前記細胞サンプル中の前記ホルマザン染料の存在を検出するステップであって、前記ホルマザン染料のレベルの減少が前記真核細胞サンプルにおけるDNA一本鎖切断のレベルの増加を示す、ステップと、
を含み、
前記接触させるステップおよび前記検出するステップが4時間以内で実行される、
方法。
【請求項22】
前記真核細胞サンプルが植物細胞サンプルまたは動物細胞サンプルである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記真核細胞サンプルが哺乳動物細胞サンプルである、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記水溶性テトラゾリウム塩が、2−(2−メトキシル−4−ニトロフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、モノナトリウム塩である、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−517100(P2006−517100A)
【公表日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500778(P2006−500778)
【出願日】平成16年1月6日(2004.1.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/000068
【国際公開番号】WO2004/063353
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(500282209)ユニヴァーシティ・オヴ・ノース・キャロライナ・アト・チャペル・ヒル (14)
【Fターム(参考)】