説明

DNP装置に関する改善

【課題】改善されたDNP装置を提供すること。
【解決手段】DNP装置内で用いられる冷却材サブアセンブリは、以下のものを含む。向かい合う第1及び第2の端部を有する内側ボアチューブ(6)を囲む多数の同心ジャケット(7,14,16,17)を含み、ジャケットは内側ボアチューブ(6)への熱流を妨げるように適応されており、DNP作業領域(21)は内側ボアチューブ(6)内に規定されており、ここでDNP工程がDNP作業領域内の試料上で行われる。冷却材供給経路(2)は、DNP作業領域(21)における内側ボアチューブ(6)の外面に隣接して延びて前述の外面を冷却し、それによって試料ホルダ・アセンブリ(18)を、内側ボアチューブの第1の端部を通して挿入して、試料・ホルダをDNP作業領域に導き、内側ボアチューブの第2の端部を通して移動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNP(動的核分極)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(NMR)分析の分野において、関心のある材料の核スピンを検出することが必要である。従来の磁気共鳴画像法(MRI)及びNMR分光学は、多くの場合、用いられる材料の核スピンの分極が極めて低いために感度を欠く。この問題を緩和するために様々な技術を用いて分極を増強することが一般的になってきており、その1つが動的核分極(DNP)である。DNPにおいて、試料は高強度磁場に置かれ、マイクロ波が照射される間、低温に保たれる。高度に分極した試料は、次いでDNP装置から急速に移動され、その後の検査のためにNMR装置内に置かれる。公知のシステムの例をWO−A−02/37132及びWO−A−2005/114244において見ることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらの公知のシステムの問題は、炭素の高度な分極は液体内でゆっくり緩和するため試料は炭素の分極を保持するが、プロトンの分極は、これが非常に速く緩和するために保持されないことである。このことは、ほとんどの高分解能NMRはプロトン上で行われるため、難点である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、DNP装置内で用いられる冷却材サブアセンブリは、
向かい合う第1及び第2の端部を有する内側ボアチューブを囲み、内側ボアチューブへの熱流を妨げるように適応された多数の同心ジャケット、
を含み、DNP作業領域は内側ボアチューブ内に規定され、DNP工程がDNP作業領域における試料上で行われ、試料ホルダアセンブリを内側ボアチューブの第1の端部を通して挿入して、試料ホルダをDNP作業領域に導き、内側ボアチューブの第2の端部を通して移動させることができ、
DNP作業領域における内側ボアチューブの外面に隣接して延びて、外面を冷却する冷却材供給経路と、
使用中はDNP作業領域における試料ホルダに配置され、DNP作業領域における内側ボアチューブの壁の1つ又はそれ以上の孔を通して冷却材を試料に供給するための予備の冷却材供給経路と、
を含み、
内側ボアチューブの一方又は両方の端部は、冷却材を内側ボアチューブから離れるように運ぶために冷却材廃棄経路に開いており、冷却材経路、予備の冷却材経路、及び廃棄経路は、使用中、ポンプ手段に連結されて、冷却材が、冷却材経路、予備の冷却材経路、及び廃棄経路を通るようにされている。
【0005】
発明者らは、試料ホルダアセンブリを、これが挿入された内側ボアチューブの第1の端部に向かい合うその第2の端部を通して引き抜くことができるようにサブアセンブリが構築される間に、試料を越えて冷却材を流すことにより、DNP作業領域内の試料を冷却できる新しい形態の冷却材サブアセンブリを考案した。このことは、冷却材サブアセンブリがNMR装置と同軸状に取り付けられている場合には、高度に分極した試料をDNP作業領域からNMR作業領域に急速に移動できることを意味する。
【0006】
一部の例において冷却材廃棄経路は、前述の内側ボアチューブの第1の端部に開いており、他の例では、前述の内側チューブの第2の端部に開いている。第3の例では、冷却材廃棄経路は、内側ボアチューブの両端に開くことができる。
【0007】
試料への冷却材の流れを制御することができるのは重要である。流れが遅すぎる場合には冷却は不十分となり、流れが激しすぎる場合には冷却材の液滴が生じることがあり、サブアセンブリが垂直に配列されているときには、内側ボアチューブの下端を冷やすことになり、室温又はおよそ室温であるべきであるため、サブアセンブリがNMR装置のボアに連結しているときは望ましくない。
【0008】
したがって、予備の冷却材供給経路は、冷却材供給経路から内側ボアチューブ壁の前述の孔の対応するものに延びる1つ又はそれ以上のキャピラリによって規定されることが好ましい。この構造は、冷却材の流れを正確に定めることができ、さらに、キャピラリの1つ又はそれ以上に連結したヒータを与えることによって実現することができる。
【0009】
冷却材サブアセンブリをNMR装置に取り付けたときに生じるさらに別の問題点は、NMR装置のボアが室温であるために、対流及び放射により、熱が内側ボアチューブを通り上がることがあることである。しかしながら、同時に、内側ボアチューブの第2の端部を通して試料ホルダを引き抜くことができなければならない。これに対処するために、熱放射を減少させ、試料ホルダがバッフル又は各々のバッフルを越える移動を可能にするのに十分に可撓性をもつように、内側ボアチューブ孔の第1の端部と第2の端部との間に内側ボアチューブにわたり延びる1つ又はそれ以上の弾性バッフルをさらに含むことが好ましい。バッフルはmylarのような好適な反射材料で作られなくてはならない。
【0010】
同心ジャケットの配置は、各々の適応例に応じて選ぶことができる。典型的には、その配置は、少なくとも1つの放射線シールドと、排気領域及び/又は冷却材含有領域とを含む。その選択は、内側ボアチューブが維持される温度、並びに、好適な冷却材が利用可能であるかどうかに応じて決まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明による冷却材サブアセンブリの一部の実施例が、次に添付の図面を参照して説明される。
図1に示される冷却材サブアセンブリ(又はクライオ挿入体)は、内側及び外側放射線シールド14、7と、外側真空チャンバ壁16と、外側ソック17とを含む多数の同心ジャケットによって囲まれた内側ボアチューブ6を含む。時として、1つの放射線シールドのみが必要なこともある。内側ボアチューブ6は、垂直方向に向けられており、シール19により閉じられる上方の第1開口部を有し、これを通して試料挿入ロッド9を取り外し可能に挿入することができる。ロッド9は、その下端に取り外し可能に取り付けられた試料ホルダ18を有し、試料ホルダは図1で示されるように、網掛け領域21によって示されるDNP作業領域に置かれている。内側ボアチューブ6と放射線シールド7との間の空間、及び放射線シールド7と16との間の空間は排気されている。
【0012】
一次液体ヘリウム冷却材供給経路は、一次冷却を内側ボアチューブ6に与えるために用いられる。この供給経路は、上端がサイホン1により格納デュワー40(図2)に接続されたキャピラリ2を含み、このキャピラリ2は内側ボアチューブ6と放射線シールド7との間で規定される排気された空間を通って熱交換器4まで延びる。熱交換器4において、膨張及び冷却は約3Kから4Kで発生する。気体ヘリウムは次いで、この外側放射線シールドを冷却するために放射線シールド7に熱的に連結したチューブ部分5を通って逆流し、最終的に、キャピラリ2に入ってくるヘリウムを冷却する、キャピラリ2を囲むサイホンジャケット8に戻る。この冷却材経路を通る液体ヘリウムの主要な流れは、供給デュワーにおける小さい真空ポンプ42によって促進される。試料挿入ロッド9は、ボアを通る伝導により冷却され、したがってばね指10を用いて主要液体ヘリウムの流路に入り、これはさらに、ロッドを内側ボアチューブ6内に導き、中央寄せする。
【0013】
試料を試料ホルダ18内で冷却するために予備の冷却材流路が与えられ、そこで熱交換器4からの少ない割合の液体ヘリウムが、1つ又はそれ以上の長いキャピラリ11a、11bにより流れるように分岐され、擬似等エンタルピー膨張を受け、対応する第1の孔12A、12Bにより内側ボアチューブ6の主要ボアに流れて、試料上に吹き付けられ、過冷却フィルムを形成する。
【0014】
2つのキャピラリ(キャピラリ11bより大きいボアを有するキャピラリ11a)のインピーダンスは、キャピラリの周りに巻かれた1つ又はそれ以上の小さいヒータ13に電流を印加することによって変更することができる。図1においては、ヒータ13がキャピラリ11aの周りに巻かれて示されているが、それはキャピラリ11bの周りに与えられてもよいし、又は、さらに両方のキャピラリ11a、11bがそれぞれのヒータをもっていてもよい。
【0015】
主要なボアは、高容量真空ポンプ44により第1の冷却材廃棄経路60を通して排気される。高容量真空ポンプ44は、内側ボアチューブ6の上端において開口部26に接続している。
【0016】
この例においては、さらに別の冷却材廃棄経路62が設けられ、内側ボアチューブ6の第2の下端22を通過し、外側真空チャンバ壁16と外側ソック17との間を通り上がって、内側ボアチューブ6の上端に入り、次いで開口部26を通って外にでる。
【0017】
ボアが整合した状態で、クライオ挿入体がNMRシステムの上部に取り付けられた場合には、内側ボアチューブの下端の温度は実質的に室温になる。したがって、内側ボアチューブ6の下半分において熱の最小放射(及び対流)を制御することが重要であり、これはこの例において、幾つかの反射アルミmylarフィルムバッフル15を挿入することによって実現される。これらはまた、ボアの下端からの直接放射を遮断する。バッフルは、蒸気流が妨げられず、さらに試料がNMR装置に向かって下方に移動するときに、ロッド9が容易に通り抜けることができるように適応されたクロスカットのスリット(図示せず)が入っている。
【0018】
この例においては、液体ヘリウムが冷却材として用いられているが、液体窒素のようなその他の冷却材も、特にクライオスタットジャケットを冷却するのに用いることができる。
【0019】
図3は、クライオスタット34の室温ボア32内に置かれた図1のクライオ挿入体30を概略的に示す。DNP及びNMRマグネット36、37は、クライオスタット34内に同軸状に配置されて、これらがDNP作業領域21及びNMR作業領域38のそれぞれにおいて高磁界強度を生成するように、超伝導状態で動作させることができるようにする。図3はまた、DNP領域21におけるマイクロ波キャビティ40及びマイクロ波供給42を示す。
【0020】
動作中に試料は、試料ホルダ18内に置かれており、これは次いで試料保持ロッド9の端部に取り付けられて、ロッド9はシール19を通って内側ボアチューブ6に挿入される。試料ホルダ18は、次いでDNP作業領域21に持ち込まれる。予備の冷却材経路を通る液体ヘリウムの流れは、液体が試料を越えて流れ始めるようにし、それを極めて低い温度にまで冷却する。この段階において、キャビティ40に置かれた試料は、マイクロ波により照射されて、高度な分極を実現する。
【0021】
試料保持ロッド9は、次いで、ボアチューブ6を通ってさらに下方へ押し込まれて、試料ホルダがフィルムバッフル15を通って溶解位置20に入るようにする。この位置では、溶剤は、試料保持ロッド9を通って又は何らかのその他の手段で試料ホルダに供給されて、試料を溶解する。その他の例において、高度に分極した試料は、例えば熱又はレーザー又はその他の公知の方法によって融解される。試料が溶解(又は融解)すると、試料保持ロッド9は、試料を、NMR工程を行うことができるNMR作業領域38内に移送するために、さらに下方に押し込まれる。
【0022】
第1の代替的な実施形態(図示せず)においては、全ての廃棄ヘリウムは、内側ボアチューブ6を通って上り、開口部26を通って真空ポンプに出る。さらに別の代替的手法においては、全ての廃棄液体ヘリウムは、真空ポンプを用いて内側ボアチューブ6の下端22を通って抜き取られる。
【0023】
さらに、高度に分極した試料に溶剤を送給する、すなわち、試料保持ロッド9を通って下方に、又は内側ボアチューブ6の下端を通って試料ホルダに送給するといった選択肢がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】冷却材サブアセンブリの例を通る概略縦断面図である。
【図2】図1の例の冷却材経路を示す。
【図3】本発明による冷却材サブアセンブリを組み込んだ複合DNP及びNMR装置を示す。
【符号の説明】
【0025】
2:冷却材供給経路
6:内側ボアチューブ
7:外側放射線シールド
11a,11b:予備の冷却材供給経路
14:内側放射線シールド
16:外側真空チャンバ壁
17:外側ソック
18:試料ホルダアセンブリ
21:DNP作業領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNP装置において用いるための冷却材サブアセンブリであって、
向かい合う第1及び第2の端部を有する内側ボアチューブを囲み、前記内側ボアチューブへの熱流を妨げるように適応された多数の同心ジャケット、
を含み、DNP作業領域は前記内側ボアチューブ内に規定され、DNP工程が前記DNP作業領域における試料上で行われ、試料ホルダアセンブリを前記内側ボアチューブの前記第1の端部を通して挿入して、試料ホルダを前記DNP作業領域に導き、前記内側ボアチューブの前記第2の端部を通して移動させることができ、
前記DNP作業領域における前記内側ボアチューブの外面に隣接して延びて、前記外面を冷却する冷却材供給経路と、
使用中は前記DNP作業領域における前記試料ホルダに配置され、前記DNP作業領域における前記内側ボアチューブの壁の1つ又はそれ以上の孔を通して冷却材を試料に供給するための予備の冷却材供給経路と、
を含み、
前記内側ボアチューブの一方又は両方の端部は、冷却材を前記内側ボアチューブから離れるように運ぶために冷却材廃棄経路に開いており、前記冷却材経路、前記予備の冷却材経路、及び前記廃棄経路は、使用中、ポンプ手段に連結されて、冷却材が、前記冷却材経路、前記予備の冷却材経路、及び前記廃棄経路を通るようにされていることを特徴とする冷却材サブアセンブリ。
【請求項2】
前記廃棄経路は前記同心ジャケットの2つの隣接するものの間の領域によって部分的に規定されることを特徴とする請求項1に記載のサブアセンブリ。
【請求項3】
前記予備の冷却材供給経路は、前記冷却材供給経路に平行に対して接続されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサブアセンブリ。
【請求項4】
前記予備の冷却材供給経路は、前記冷却材供給経路から前記内側ボアチューブ壁の前記孔の対応するものに延びる1つ又はそれ以上のキャピラリにより規定されることを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載のサブアセンブリ。
【請求項5】
少なくとも1つのキャピラリは、少なくとも他の1つのキャピラリより大きい直径を有することを特徴とする請求項4に記載のサブアセンブリ。
【請求項6】
前記キャピラリの1つ又はそれ以上に連結されて、これを通る冷却材の流れを制御するヒータをさらに含むことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のサブアセンブリ。
【請求項7】
前記冷却材供給経路内に、前記DNP作業領域において前記内側ボアチューブの外面に接触する熱交換器をさらに含むことを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載のサブアセンブリ。
【請求項8】
熱放射を減らし、前記バッフル又は各々のバッフルを越える試料ホルダの移動を可能にする可撓性があるように、前記孔と前記内側ボアチューブの前記第2の端部との間に、前記内側ボアチューブにわたり延びる1つ又はそれ以上の弾性バッフルをさらに含むことを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載のサブアセンブリ。
【請求項9】
前記バッフル又は各々のバッフルは、多数の可撓性のあるリーブによって形成されることを特徴とする請求項8に記載のサブアセンブリ。
【請求項10】
前記バッフル又は各々のバッフルは、mylarのような反射材料で作られることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のサブアセンブリ。
【請求項11】
前記ジャケットは排気ジャケットを含むことを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載のサブアセンブリ。
【請求項12】
細長い部材の端部に取り付けられた試料ホルダを含む試料ホルダアセンブリをさらに含むことを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載のサブアセンブリ。
【請求項13】
DNP及びNMRそれぞれに適した磁場が発生される、離間されたDNP及びNMR作業領域をもつ孔を規定する1つ又はそれ以上のマグネットを含む試料処理装置であって、
前記ボア内に配置され、前記請求項のいずれか1項に記載される冷却材サブアセンブリ、
を含み、この配置は試料ホルダを前記DNP作業領域から前記内側ボアチューブの前記第2の端部を通して移動できるようになっており、
好ましくは高温の溶剤を前記試料ホルダ又は前記試料を融解するための手段に供給できるようにする溶剤供給システムと、
を含むことを特徴とする試料処理装置。
【請求項14】
前記マグネットはクライオスタット内に位置することを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項15】
一方が前記DNP作業領域の周りに配置され、他方が前記NMR作業領域の周りに配置される2つのマグネットが与えられることを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記冷却材供給経路に接続した液体ヘリウムリザーバをさらに含むことを特徴とする請求項13から15までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
前記ボアは、前記NMR作業領域の上に、前記DNP作業領域と垂直に配置されることを特徴とする請求項13から16までのいずれか1項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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