説明

E型肝炎パキスタン株の組換えタンパク質ならびに診断法およびワクチンにおけるそれらの利用

【課題】腸伝染性非A型、非B型の肝炎(E型肝炎)の流行病に関与するパキスタン(SAR−55)由来のE型肝炎のウイルスが開示される。本発明は、SAR−55の構造領域全体(オープンリーディングフレーム−2;ORF−2)の真核細胞発現系での発現に関する。
【解決手段】発現されたタンパク質はHEVウイルス様粒子を形成することができ、この粒子は、診断免疫分析における抗原およびE型肝炎による感染に対して防御する免疫原またはワクチンとして機能できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は肝炎ウイルス学の分野に関する。特に、本発明は、腸伝染性のE型肝炎ウイルス株SAR−55由来の組み換えタンパク質、並びにこれらのタンパク質を使った診断法およびワクチン応用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術
腸伝染性非A/非B型肝炎であるE型肝炎の流行は、アジア、アフリカおよび中央アメリカにおいて報告されている(バラヤン(Balayan),M.S.(1987)、Soviet Medical Reviews,Section E,Virology Reviews,ズダノフ(Zhdanov),V.M.(編)、クール、スイス:Harwood Academic Publishers,vol.2,235−261;ザッカーマン(Zuckerman),A.J.(編)、パーセル(Purcell),R.G.ら、(1988)、“Viral Hepatitis and Liver Disease“,ニューヨーク:アラン R.リス(Alan R.Liss),131−137;ブラドレー(Bradley),D.W.(1990),British Medical Bulletin,46:442−461;ホリンガー(Hollinger),F.B.、レモン(Lemon),S.M.、マーゴリス(Margolis),H.S.(編)、ティチェハースト(Ticehurst),J.R.(1991):“Viral Hepatitis and Liver Disease”,Williams and Wilkins,バルチモア,501−513)。散発性肝炎のケース(E型肝炎と推定される)は、E型肝炎ウイルス(HEV)が風土病である国では、報告される肝炎の90%にまで達する。感染した個体の血清中の抗HEV抗体の検出に関する血清学的試験の開発の必要性は、当該分野で広く認識されているが、しかし感染個体もしくは動物から排出されるHEVが非常に低濃度なため、そのようなHEVを血清学的試験用の抗原のソースとして利用することは不可能であった。そして細胞培養でのHEVの増殖において制限付きの成功が報告された(ファン(Huang),R.T.ら(1992),J.Gen.Virol.,73:1143−1148)が、血清学的試験に必要な量の抗原を生産するには、細胞培養は現行ではあまりにも非能率的である。
【0003】
最近、世界中の多くの労力がE型肝炎に関するウイルスゲノム配列を同定するために払われたことにより、数は限られているが幾つかのHEV株のゲノムがクローン化された(タン(Tam),A.M.ら(1991),Virology,185:120−131;ツァレフ(Tsarev),S.A.ら(1992),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:559−563;フライ(Fry),K.E.ら(1992),Virus Genes,6:173−185)。DNA配列の解析から、研究者たちは、HEVゲノムが3つのオープンリーディングフレーム(ORF)に組織されているという仮説、並びにこれらのORFがインタクトなHEVタンパク質をコードするという仮説を立てるに至った。
【0004】
ビルマ(ミャンマー)からのHEV株のゲノムの部分DNA配列がレイエス(Reyes)ら1990,Science,247:1335−1339に開示されている。タンら、1991、およびレイエスら、PCT特許出願WO91/15603号(1991年10月17日公開)は、HEVビルマ株の完全なヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列を開示している。これらの著者たちは、3つの順方向のオープンリーディングフレーム(ORF)が本株の配列内に含まれると仮説を立てた。
【0005】
イチカワ(Ichikawa)ら、1991,Microbiol.Immunol.,35:535−543は、HEV感染したカニクイザルからの血清でλgt11発現ライブラリーをスクリーニングした際に、長さ240−320ヌクレオチドの一連のクローンが単離されたことを開示している。1つのクローンにより発現される組み換えタンパク質を大腸菌で発現させた。この融合タンパク質は、HEVミャンマー株のORF−2の3’領域にコードされる。
【0006】
HEVメキシコ株およびHEVビルマ株のORF−2の3’領域内にコードされるさらに別のタンパク質の発現について、ヤーボー(Yarbough)ら、1991 J.Virology,65:5790−5797が記載している。この論文は、HEV由来の2つのcDNAクローンの単離を記載している。これらのクローンがORF−2の3’領域のタンパク質群をコードする。そのクローンを大腸菌内で融合タンパク質として発現させた。
【0007】
パーディ(Purdy)ら、1992,Archives of Virology,123:335−349、およびファボロフ(Favorov)ら、1992,J.of Medical Virology,36:246−250は、ビルマ株からのより大きなORF−2タンパク質断片の大腸菌での発現を開示している。これらの参考文献は、以前に考察したものと同様に、細菌発現系を用いたORF−2遺伝子の一部の発現の開示でしかない。ORF−2タンパク質全長を首尾よく発現させることは、本発明までは開示されたことがなかった。
【0008】
HEVのゲノム構成および形態学的構造を他のウイルスのそれと比較することにより、HEVがカリチウイルス(calicivirus)に最も近縁であることがあきらかとなった。興味深いことに、カリチウイルスの構造タンパク質群はゲノムの3’部分にコードされる(ネイル(Neil),J.D.ら、(1991)J.Virol.,65:5440−5447;およびカーター(Carter),M.J.ら、(1992),J.Arch.Virol.,122:223−235)。そしてHEVゲノムの3’端部分も構造タンパク質群をコードするという直接的証拠は無いが、3’ゲノム領域のある小さな部分を細菌細胞で発現させると、ELISAおよびウェスタンブロットにおいて抗HEV血清と反応するタンパク質群が生産される(ヤーボーら、(1991);イチカワら、(1991);ファボロフら、(1992)およびドーソン(Dawson),G.J.ら、(1992)J.Virol.Meth.,38:175−186)。しかし、構造タンパク質としてのORF−2タンパク質の機能は、本発明までは証明されなかった。
【0009】
ORF−2遺伝子の一部によりコードされる小さなタンパク質群は、動物血清中のHEVに対する抗体を検出するイムノアッセイに利用されてきた。細菌で発現された小さなタンパク質群を血清学的なイムノアッセイにおいて抗原として利用することは、幾つかの潜在的な欠点を有している。第1に、細菌細胞でのこれらの小タンパク質の発現は、可溶性に関する問題、ならびにイムノアッセイに大腸菌の粗溶解物を抗原として用いた場合の、患者血清の大腸菌タンパク質との非特異的交差反応をもたらす(パーディら、(1992))。第2に、ルーチン疫学において抗HEV抗体に関する血清学的試験の最初のラインとしてウェスタンブロットを用いることは、時間的および経済的制約から実践的ではない。HEVゲノムの3’端部分由来の小ペプチドを用いたELISAは、既知のHEV感染患者中の41%しか陽性として検出できなかった。第3に、Caliciviridaeに最も近い科であるPicornaviridaeを含め、多くのウイルスに関して、重要な抗原および免疫原エピトープは立体構造性が高い(ホリンガー,F.B.、レモン(Lemon),S.M.、マーゴリス,H.S.(編)、レモン,S.M.ら、(1991):“Viral Hepatitis and Liver Disease”,Williams and Wilkins,バルチモア、20−24)。それゆえ、インタクトなHEV遺伝子をコードする完全なORFを真核細胞系で発現させれば、HEVウイルス様粒子を形成し得るタンパク質の生産をもたらすのではないかと考えられる。そのような完全なORFタンパク質であれば、上記のより小さなタンパク質(HEV構造タンパク質の一部しか表していない)よりも天然のキャプシドタンパク質(群)の免疫学的構造に近い構造を持つだろう。それ故、これらの完全なORFタンパク質は、現在使われているより小さなタンパク質よりも、より代表的な抗原として並びにより有効な免疫原として役立ちそうである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明の概要
本発明は、分離されて実質的に純粋な、ヒトE型肝炎ウイルス株SAR−55の調製品に関する。
【0011】
本発明はまた、分離されて実質的に純粋な、ヒトE型肝炎ウイルス株SAR−55のゲノムRNAの調製品に関する。
本発明はさらに、ヒトE型肝炎ウイルス株SAR−55のcDNAに関する。
【0012】
本発明の目的は、組み換えHEVタンパク質を生産させることのできる合成核酸配列を、等価な天然核酸配列以外に提供することである。そのような核酸配列は、HEVタンパク質を合成させることのできる遺伝子を同定し分離することのできるcDNAもしくはゲノムライブラリーから分離することができる。
【0013】
本発明はさらに、SAR−55 cDNA由来のプライマーを用いたE型肝炎遺伝子断片の選択的増幅に基づいた、生物試料中のE型肝炎ウイルスの検出法に関する。
本発明はまた、SAR−55 cDNA由来の一本鎖アンチセンスのポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチドを用いて、E型肝炎遺伝子の発現を阻害することに関する。
【0014】
本発明はまた、SAR−55のHEVゲノムにコードされる、または合成核酸配列によりコードされる、単離され実質的に精製されたHEVタンパク質およびその変異体に、特に少なくとも1つの完全なHEVオープンリーディングフレームにコードされる組み換えタンパク質に関する。
【0015】
本発明はまた、核酸をクローン化し、cDNAを発現ベクターに挿入し、そして宿主細胞中で組み換えタンパク質を発現させることによって、HEVゲノム配列由来の組み換えHEVタンパク質を調製する方法に関する。
【0016】
本発明はまた、得られた組み換えタンパク質を診断薬およびワクチンとして利用することに関する。本発明はまた、生物試料中のE型肝炎ウイルスに特異的な抗体を検出する方法も含む。そのような方法は、HEVが引き起こす感染症および疾患の診断、並びにそのような疾患の進行の監視に有用である。そのような方法はまた、哺乳動物でのHEV感染症および疾患の治療過程において治療薬の効力をモニターするのにも有用である。
【0017】
本発明はまた、哺乳動物でのE型肝炎の予防もしくは治療に使われる医薬構成物にも関する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
発明の詳細な説明
本発明は、分離されて実質的に純粋な、パキスタンからのE型肝炎ウイルス(HEV)SAR−55株に関する。本発明はまた、HEVタンパク質をコードするウイルス遺伝子のクローン化および発現系を用いた組み換えタンパク質の発現にも関する。
【0019】
本発明は分離されたタンパク質に関する。望ましくは、本発明のHEVタンパク質は天然のHEVタンパク質に実質的に相同であり、最も望ましくはそれと生物学的に等価である。本明細書および特許請求の範囲を通して使われる「生物学的に等価」によって意味されることは、その構成物がウイルス様粒子を形成でき、免疫原たりうることである。本発明のHEVタンパク質はまた、哺乳動物に注射すると、野生型HEVに挑戦するときに該哺乳動物を防御してくれる防御抗体の生産を刺激することもできる。本明細書の以下の部分および特許請求の範囲を通して使われる「実質的に相同」によって意味されることは、アミノ酸配列の天然HEVタンパク質との相同性の度合いである。望ましくは相同性の度合いは70%より大きく、好適には90%を越え、特に好適なタンパク質のグループについては天然のHEVタンパク質との相同性が99%を越える。
【0020】
好適なHEVタンパク質はORF遺伝子にコードされるタンパク質である。HEVのORF−2遺伝子にコードされるタンパク質は特に興味深く、HEVのSAR−55株のORF−2遺伝子にコードされるタンパク質は最も興味深い。ORF−1、ORF−2およびORF−3タンパク質のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:3として以下に示される:
SEQ ID NO:1:
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

【0025】
【化5】

【0026】
【化6】

【0027】
【化7】

【0028】
【化8】

【0029】
【化9】

【0030】
SEQ ID NO:2:
【0031】
【化10】

【0032】
【化11】

【0033】
【化12】

【0034】
【化13】

【0035】
SEQ ID NO:3:
【0036】
【化14】

【0037】
3文字の略号は、20の天然に存在するアミノ酸に対する慣例のアミノ酸速記法に従う。
【0038】
好適な組み換えHEVタンパク質は少なくとも1つのORFタンパク質を含む。同じもしくは異なるORFタンパク質群を複数含む他の組み換えタンパク質を、該タンパク質の生物学的特性を変更するように作製することもできる。種々のアミノ酸もしくは種々のアミノ酸配列の付加、置換もしくは欠失が該HEVタンパク質の生物学的活性を高めうることも予期される。
【0039】
本発明はまた、上述のHEVタンパク質もしくは該HEVタンパク質群に実質的に相同なタンパク質群を生産させることのできる核酸配列である。この核酸配列は、SAR−55と名付けられ、SEQ ID NO:4として以下に示され、1992年9月17日にアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)に寄託された。
【0040】
【化15】

【0041】
【化16】

【0042】
【化17】

【0043】
【化18】

【0044】
【化19】

【0045】
ヌクレオチドに用いた略号は当該分野で標準的に用いられるものである。
一方向の配列を、RNAウイルスのタンパク質をコードする鎖であることから、慣習により「プラス」配列と表記するが、これは上でSEQ ID NO:4として示した配列である。
【0046】
SAR−55のオープンリーディングフレームの推定されるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3である。ORF−1はSEQ ID NO:4のヌクレオチド28から始まり5078ヌクレオチド広がる。ORF−2はSEQ ID NO:4のヌクレオチド5147から始まり1979ヌクレオチド広がる。ORF−3はSEQ ID NO:4のヌクレオチド5106から始まり368ヌクレオチド広がる。
【0047】
DNA配列中の変異の結果、ORF−2タンパク質の類似物の産生を指示しうるDNA配列となることもありうると考えられる。上述のDNA配列は、本発明の好ましい態様を表すものであることに注意されたい。遺伝コードの縮重により、上記のORFタンパク質またはその類似体の産生を指示しうるDNA配列とするのに、莫大なヌクレオチドの選択を行えることを、理解すべきである。従って、上述の配列と機能的に同じDNA配列、またはORFタンパク質の類似物を上述のアミノ酸配列に準じて産生するよう指示する配列と機能的に同じDNA配列は、本発明に含まれるものとする。
【0048】
本発明は生物試料中のE型肝炎ウイルスを、E型肝炎遺伝子断片の選択的増幅に基づいて検出する方法に関するものである。望ましい形では、本方法はDNA二重鎖断片の相補鎖の非相同領域に由来する一組の一本鎖プライマーを使用するが、そのDNA二重鎖断片はSEQ ID NO:4に示したSAR−55配列に相同性をもつ領域を含むゲノムを有するE型肝炎ウイルスに由来するものである。これらのプライマーを、米国特許第4,683,202号に規定される特定の核酸配列の増幅過程に従う方法に用いることができる。
【0049】
本発明はまた、SAR−55 cDNAに相同性をもつ配列に由来する一本鎖アンチセンスのポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを用いて、E型肝炎遺伝子の発現を阻害することに関するものである。これらのアンチセンスのポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、DNAでもRNAでもよい。標的とする配列は典型的にはメッセンジャーRNAであり、より好ましいのはRNAのプロセッシングと翻訳に必要なシグナル配列である。アンチセンスのポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、レマイター、Mら(Lemaitre,M.et al.(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:648−652)の記述のようにポリリジンなどのポリ陽イオンに結合することができ、この結合物の十分量を哺乳類に投与し、メッセンジャーRNAにハイブリダイズさせ、その機能を阻害することができる。
【0050】
本発明はHEVタンパク質の作製のための組換えDNA法を含み、HEVタンパク質として望ましいのは少なくとも一つのORFタンパク質から構成されるタンパク質、最も望ましいのは少なくとも一つのORF−2タンパク質から構成されるタンパク質である。組換えORFタンパク質は一つのORFタンパク質で構成されるか、または同種あるいは異なるORFタンパク質の組合せで構成される。天然の核酸配列または合成核酸配列を用いて、HEVタンパク質の産生を指示することができる。
【0051】
本発明の一つの態様では、方法は以下の工程を包含する:
(a)宿主生物にHEVタンパク質の産生を指示できる核酸配列を調製し;
(b)宿主生物に導入し複製できるベクターで、核酸配列に対する調節要素を含むようなベクターへ核酸配列をクローン化し;
(c)タンパク質を発現できる宿主生物へ、核酸配列と調節要素を含むベクターを導入し;
(d)ベクターの増幅とタンパク質の発現に適当な条件下で宿主生物を培養し;そして
(e)タンパク質を回収する。
【0052】
本発明のもう一つの態様では、HEVの核酸でコードされるタンパク質の組換えDNA合成法は以下のものを包含する。ここでHEVタンパク質は望ましくは少なくとも一つのHEVORFでコードされるか、または同種あるいは異なるORFタンパク質の組合せでコードされ、最も望ましくは少なくとも一つのORF−2核酸配列でコードされる:
(a)宿主生物を形質転換またはトランスフェクションして、宿主生物にタンパク質産生を指示しうる核酸配列を持たせ、タンパク質を産生する条件下でこれを培養すること。ここで前述のタンパク質は、HEVから単離されたSEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3の生来のHEVタンパク質、またはこの組み合わせと実質的に相同性を示すアミノ酸配列を持つものである。
【0053】
一つの態様ではHEV株SAR−55のウイルスゲノムのRNA配列を単離し、以下のようにクローン化しcDNAとした。SAR−55を感染させたカニクイザルから集めた生物試料より、ウイルスRNAを抽出した後、ウイルスRNAを逆転写し、Burma(タムら(Tam et al.))由来のHEV株のゲノムまたはSAR−55ゲノムのプラス鎖またはマイナス鎖に相補的なプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応により増幅する。PCR断片はpBR322またはpGEM−32にサブクローン化し、二重鎖PCR断片の配列を決定した。
【0054】
本発明に用いることが考えられるベクターには、上に記載した核酸配列を望ましいまたは必要な任意の調節要素と共に挿入することが可能で、さらにその後宿主生物に導入し、そうした生物中で複製可能な全てのベクターが含まれる。望ましいベクターは制限部位がよく記録され、核酸配列の転写に望ましいまたは必要な調節要素を含むものである。
【0055】
本明細書で論じる「調節要素」には、少なくとも一つのプロモーター、少なくとも一つのオペレーター、少なくとも一つのリーダー配列、少なくとも一つの終止コドン、およびベクター上の核酸の適当な転写とその後の翻訳に必要または望ましい配列全てを含む。特にこうしたベクターとして考えられるのは、宿主生物が認識する少なくとも一つの複製起点を含み、また少なくとも一つの選択マーカー、核酸配列の転写開始を可能とする少なくとも一つのプロモーター配列が存在するものである。
【0056】
本発明のクローン化ベクターの構築では、核酸配列とこれに付随する調節要素を多コピーで各ベクターに挿入できることを、付加的に記さねばならない。こうした態様では宿主生物は、望みのHEVタンパク質をベクターあたり大量に産生する。ベクターに挿入できるDNA配列の多コピー数を制限するのは、結果として生じるベクターがその大きさで、適当な宿主微生物に導入され複製、転写される能力を持つか否かだけである。
【0057】
もう一つの態様では、HEVタンパク質のコーディング配列を含んだ制限酵素消化断片を、原核または真核細胞中で機能する適当な発現ベクターに挿入することができる。ここで適当というのは、HEVタンパク質をコードする完全な核酸配列を、望ましくは少なくとも一つの完全なORFタンパク質をコードする完全な核酸配列を、ベクターが運搬し発現できることを意味する。ORF−2の場合には、発現されたタンパク質はウイルス様の粒子を形成しなければならない。望ましい発現ベクターは、真核細胞で機能するものである。こうしたベクターの例にはワクシニアウイルスベクター、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス、望ましいものとしてバキュロウイルス導入ベクターであるpBlueBacが含まれるが、これらに制限される訳ではない。望ましいベクターは完全なORF−2遺伝子を含むp63−2、および完全なORF−3とORF−2遺伝子を含むP59−4である。これらのベクターは1992年9月10日にAmerican Type Culture Collection,12301 Parklawn Drive,Rockville,MD 20852 USAに寄託された。実施例1はORF−2遺伝子をpBlueBacにクローン化しp63−2を作製した例を説明している。この方法に含まれるのは、SAR−55 HEV株のゲノムの制限酵素NruIおよびBglIIによる消化、ベクター上の唯一のNheI部位へのBlnIIおよびBglII部位を含むポリリンカーの挿入、およびNruI−BglII ORF−2断片のBlnI−BglII Pbluebacへのアダプターを用いた挿入である。
【0058】
さらにもう一つの態様では、組換えタンパク質の発現を目的として、選択した組換え発現ベクターを適当な真核細胞系に導入することもできる。こうした真核細胞系に含まれるのは、HeLa、MRC−5またはCv−1などの細胞系であるが、これらに制限される訳ではない。望ましい真核細胞系はSF9昆虫細胞である。一つの望ましい方法にはPbluebac発現ベクターの使用が含まれるが、ここでは昆虫細胞系SF−9を組換えPbluebacとAcMNPVバキュロウイルスDNAでCa沈澱法により同時形質転換する。
【0059】
発現した組換えタンパク質は当該分野で知られる方法で検出することができ、これにはクマジーブルー染色、および実施例2に示すような抗HEV抗体を含んだ血清を用いたウェスタンブロッティングが含まれる。もう一つの方法は実施例3に示すような、免疫電子顕微鏡によるウイルス様粒子の検出である。
【0060】
さらに他の態様では、SF−9細胞で発現された組換えタンパク質を粗抽出物として調製したり、または当該分野で知られる標準的なタンパク質精製操作で精製することも可能であり、こうした操作には分離沈澱、分子ふるいクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、等電点焦点電気泳動、ゲル電気泳動、親和性および免疫親和性クロマトグラフィーなどが含まれる。免疫親和性クロマトグラフィーの場合には、ORFタンパク質に特異的な抗体を結合させたレジンを含むカラムを通過させることで、組換えタンパク質を精製できる。
【0061】
もう一つの態様では、本発明で発現した組換えタンパク質を用いて、哺乳類のE型肝炎の診断、予後のための免疫検定を行うことができる。ここで哺乳類にはヒト、チンパンジー、旧世界サル、新世界サル、その他の霊長類などが含まれるが、これに制限される訳ではない。望ましい態様では、免疫検定はヒトのE型肝炎感染の診断に有用である。HEVタンパク質、特にORFタンパク質、とりわけORF−2タンパク質を用いた免疫検定は、部分的なORFタンパク質を用いた免疫検定とは対照的に、特異性、感受性、再現性の高いHEV感染の診断法を供給する。
【0062】
本発明の免疫検定は放射性免疫検定、ウェスタンブロット検定、免疫蛍光検定、酵素免疫検定、化学発光検定、免疫組織化学検定などでよい。当該技術分野で知られる標準的なELISAの手法は、Methods in Immunodiagnosis,2nd Editionローズとビガッジ編(Rose & Bigazzi eds.)John Wiley and Sons,1980とキャンベルら(Campbell et al.)Methods of Immunology W.A. Benjamin,Inc.,1964に記載されており、両者は本明細書に参考文献として取り入れてある。こうした検定は当該技術分野に記載されているように、直接、間接、競争または非競争の免疫検定でありうる。(オレリッヒ,M(Oollerich,M.1984.J.Clin.Chem.Clin.Biochem.22:895−904)こうした検出検定に適した生物試料に含まれるのは、組織生検抽出物、全血液、血漿、血清、脳脊髄液、胸膜液、尿などが含まれるが、これらに限定される訳ではない。
【0063】
一つの態様では、試験する血清を固体相試薬と反応させるが、この固体相試薬の表面には組換えHEVタンパク質を抗原として結合してあり、特に一つのORFタンパク質またはORF−2およびORF−3といった異なるORFタンパク質の組合せを、抗原として結合してあるのが望ましい。より望ましい形では、HEVタンパク質はウイルス様粒子を形成するORF−2タンパク質である。固体表面試薬は、タンパク質を固体支持物質に結合させる既知の手法により調製できる。こうした結合法にはタンパク質の支持体への非特異的吸収、または支持体上の反応基へのタンパク質の共有結合が含まれる。抗原を抗HEV抗体と反応させた後、結合しなかった血清成分を洗浄して除き、抗原抗体複合体を、標識した抗ヒト抗体などの二次抗体と反応させる。固体支持体を適当な蛍光または比色試薬の存在下でインキュベートすることにより検出できるような酵素を、標識として用いることもできる。放射性標識または金コロイドなどの他の検出標識を用いることもできる。
【0064】
望ましい態様では、SAR−55のORF−2配列全体を含んだPbluebac組換えベクターにより発現されるタンパク質は、抗HEV抗体、望ましい形ではIgGまたはIgM抗体を検出する特異的な結合試薬として使用できる。実施例4および5は、固体相試薬が組換えORF−2を表面抗原としてもつようなELISAの結果を示す。ORF−2核酸配列全体でコードされるこのタンパク質は、部分的なORF−2タンパク質より優れる。なぜならHEVを感染させた異なる霊長類種のより多くの抗血清に対して、このタンパク質は部分的なORF−2抗原よりも反応するからである。本発明のタンパク質はHEVの異なる株に応答して産生された抗体も検出できるが、A型、B型、C型肝炎またはD型肝炎に応答した抗体は検出しない。
【0065】
HEVタンパク質およびその類似体は単体として、または二次抗体などの他の試薬との組合せとして、免疫検定用のキットの形で調製できる。
本発明の組換えHEVタンパク質は、望ましい形では単独のORFタンパク質またはORFタンパク質の組合せ、さらに望ましいのはORF−2タンパク質であるが、このタンパク質および実質的に相同性をもつタンパク質、および類似体は、哺乳類のE型肝炎による感染を防ぐワクチンとして用いることができる。免疫原として作用するワクチンは、細胞、組換え発現ベクターで形質転換した細胞の細胞溶解物または発現されたタンパク質を含んだ培養上清が考えられる。この代わりに免疫原は部分的または実質的に精製された組換えタンパク質でもよい。免疫原を純粋な形または実質的に純粋な形で投与することも可能であるが、薬剤組成物、処方薬、製剤として提示する方が望ましい。
【0066】
本発明の処方薬は、家畜の治療およびヒトへのの用法のいずれでも、上に記載の免疫原と薬学的に受理できる一種または複数の担体、および随意に他の治療上の成分を含む。担体は、処方薬中の他の成分と両立し、薬の受血者に有害ではないという意味で「受容できる」ものでなければならない。処方薬は投薬量単位という形で便利に提示することが可能であり、薬学技術分野でよく知られるいかなる方法でも調製できる。
【0067】
全ての方法には、活性のある成分を一種または複数の付属成分を構成する担体と結合させる段階が含まれる。一般に処方薬の調製の際には、均一かつ精細に活性のある成分を、液体担体または細かく砕いた固体担体またはその両者に結合させ、後に必要であれば調製物を望みの処方薬の形にする。
【0068】
静脈、筋肉、皮下、腹腔内投与に適した処方薬は、披投与者の血液と等張であることが望ましい溶液に、活性のある成分を溶かした無菌水溶液を含むのが、便利である。こうした処方薬を調製するには、塩化ナトリウム(たとえば0.1−2.0M)、グリシンなどの生理的に害のない基質を含み、水溶液を作製するのに生理的条件と両立するような緩衝化Phをもつ水に固体活性成分を溶解させ、この水溶液を滅菌するのが便利である。これらはたとえば封印したアンプルまたはバイアル瓶といった、投薬量単位または複数の投薬量の入った入れ物で提供することもできる。
【0069】
本発明の処方薬は安定剤を含むこともできる。実例となる安定剤はポリエチレングリコール、タンパク質、糖、アミノ酸、無機酸、有機酸であり、これらは単独でまたは添加物として用いることができる。これらの安定剤は免疫原の単位重量あたり0.11−10,000の重量部で取り込ませるのが望ましい。二種またはそれ以上の安定剤を用いるのであれば、その総量を上に規定した範囲内にするのが望ましい。これらの安定剤は適当な濃度とPhの水溶液で用いる。こうした水溶液の特異的浸透圧は一般に0.1−3.0オスモルの範囲で、0.8−1.2の範囲が望ましい。水溶液のPhは5.0−9.0の範囲に調整するべきで、6−8の範囲が望ましい。本発明の免疫原を処方薬とする際には、抗吸着試薬を用いることもできる。
【0070】
作用の持続期間を制御するために、付加的な薬学的方法を使用することもできる。制御放出製剤は、重合体を用いてタンパク質およびその派生物を複合体とする、または吸収させることで作製することができる。制御された放出を果たすには、適当な巨大分子(たとえばポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニル、ピロリドン、エチレンビニル酢酸、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、硫酸プロタミン)を選択し、巨大分子の濃度と、制御放出のための取り込みの方法を選択すればよい。制御放出製剤による作用の持続期間の制御として可能なもう一つの方法は、ポリエステル、ポリアミノ酸、ハイドロゲル、ポリ酪酸、エチレンビニル酪酸共重合体などの重合体物質の粒子に、タンパク質、タンパク質類似体およびこれらの機能的な派生物を取り込ませることである。一方これらの試薬を重合体粒子に取り込ませる代わりに、これらの物質を微量カプセルまたはコロイド薬剤放出系またはマクロ乳剤に入れることも可能であり、こうしたカプセルの調製はたとえばコアセルベーション技術や界面重合化が考えられ、それぞれヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン微量カプセル、ポリメチルメタクリレート微量カプセルを例として挙げられるし、コロイド薬剤放出系としてたとえばリポソーム、アルブミン微小球、微小乳剤、ナノ粒子、ナノカプセルが考えられる。
【0071】
経口調剤が望ましい場合には、組成物をとりわけラクトース、スクロース、デンプン、ステアリン酸マグネシウムタルク、クリスタリンセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、グリセリン、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴムといった典型的な担体に結合させることもできる。
【0072】
本発明のタンパク質は、キットの形で、単独で、または上に記載した薬剤組成物の形で供給することもできる。
ワクチン化は一般な方法で行える。たとえば生理的食塩水または水などの適当な希釈剤中で、または完全あるいは不完全なアジュバント中で免疫原を用いることができる。さらに免疫原を担体に結合させて、免疫原タンパク質を作製することもできるし、また特にそのようにしなくてもよい。こうした担体分子の例にはウシ血清アルブミン(BSA)、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、破傷風トキソイドなどが含まれるが、これに制限される訳ではない。免疫原は、静脈、腹腔内、筋肉、皮下などの抗体作製に適当ないかなる経路によっても、投与することができる。免疫原は有意な力価の抗HEV抗体が産生されるまで、一回または定期的な期間で投与する。血清中の抗体は、免疫検定を用いて検出できる。
【0073】
本発明の免疫原の投与は予防または治療を目的とすることができる。予防のための供給の場合には、免疫原はHEVへのいかなる被曝よりも先んじて、あるいはHEV感染によるいかなる徴候よりも先んじて投与される。免疫原を予防用として投与することで、哺乳類でのその後のHEVのいかなる感染をも防止あるいは緩和することができる。治療用として供給する際には、感染の始めに(またはそのすぐ後に)、またはHEVに起因する感染または症状の始めに、免疫原を投与する。免疫原を治療投与することで、感染または症状を緩和できる。
【0074】
望ましい態様はHEV株SAR−55のORF−2配列で発現される組換えORF−2タンパク質、またはその同等物を用いて調製したワクチンである。ORF−2タンパク質は様々なHEV陽性血清に反応することが既に示されているので、様々なHEV株に対する防御の際のこれらの有用性が指摘される。
【0075】
ワクチンとして用いるのに加えて、本組成はHEV用粒子に対する抗体の調製に用いることができる。抗体は直接抗ウイルス試薬として用いることができる。抗体を調製するには、ウイルス粒子、または適切な場合には、ウイルス粒子の生来の非粒子抗原を上に記載したような担体に結合させてワクチンとしたものを用いて、宿主動物を免疫する。宿主の血清または血漿を、適当な時間間隔の後に集めて、ウイルス粒子に反応する抗体を含む組成物を供給する。ガンマグロブリン画分またはIgG抗体を、たとえば飽和硫酸アンモニウムやDEAE Sephadexまたは当業者の既知の他の手法を用いることで、調製できる。こうした抗体は、薬剤などの他の抗ウイルス試薬に付随する多くの有害な副作用を実質的に持たない。
【0076】
抗体組成物は、潜在する有害な免疫系応答を低減することで、さらに宿主系に害の少ないものとすることができる。これは外来種の抗体のFc部分の全体または一部を取り除くか、宿主動物と同種の抗体たとえばヒト/ヒトハイブリドーマ由来の抗体を用いることにより、可能となる。ヒト化された抗体(すなわちヒトでは免疫原とならない)を作製するには、たとえば抗体の免疫原となる部分を、対応するが免疫原とはならない部分で置換すればよい(すなわちキメラ抗体)。こうしたキメラ抗体は、一つの種由来の抗体の反応性部分または抗原結合部分と、異なる種の抗体のFc部分(免疫原とならない)を含んでいる。キメラ抗体の例には、ヒト以外の哺乳類とヒトのキメラ、醤歯類とヒトのキメラ、マウスとヒトおよびラットとヒトのキメラが含まれるが、これに限定されない。(ロビンソンら(Robinson et al.)国際特許出願(International Patent Application)184,187;タニグチ M.(Taniguchi M.)欧州特許出願(European Patent Application)171,496;モリソンら(Morrison et al.)欧州特許出願(European Patent Application)173,494;ノイバーガーら(Neuberger et al.)PCT出願WO/86/01533;カビリイら(Cabillyet al.),1987 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:3439;ニシムラら(Nishimura et al.),1987 Canc.Res.47:999;ウッドら(Wood et al.),1985 Nature 314:446;ショーら(Shaw et al.)1988 J.Natl.Cancer Inst.80:15553、これらは全て本明細書に参考文献として取り込んだ。)
”ヒト化”キメラ抗体についての概論は、モリソンおよびオイらにより提供されている。Morrison S.,1985 Science 229:1202およびOi et al.,1986 BioTechniques 4:214
適切な”ヒト化”抗体は、CDRまたはCEA置換によってつくられる(ジョーンズら、Jones et al.,1986 Nature 321:552;ヴァーホイアンら、Verhoeyan et al.,1988 Science 239:1534;ビードレレットら、Biedleret et al.,1988 J.Immunol.141:4053,参照により本明細書に含まれる)。
【0077】
抗体または抗原結合断片は、また遺伝子工学によってもつくられる。大腸菌で重鎖および軽鎖遺伝子を発現させる技術は、PCT特許出願の国際公開番号W0901443,WO901443およびWO9014424、およびフセらHuse et al.,1989 Science 246:1275−1281の主題とされている。
【0078】
抗体はまた免疫反応を増強させる方法としても使用できる。抗体は、他の治療上の抗体の投与と同程度の量投与できる。例えば、狂犬病、はしか、およびB型肝炎などの他のウイルス病の初期潜伏期に、プールしたガンマグロブリンがウイルスの細胞への侵入を阻止するため、体重1ポンド当たり0.02−0.1ml投与される。そこで、HEVウイルス顆粒と反応する抗体は、HEVが感染した宿主に、免疫反応および/または抗ウイルス薬剤の効果を増強するため、単独で、または他の抗ウイルス薬剤とともに受動的に投与できる。
【0079】
また、抗HEV抗体は、抗原として抗イデオタイプ抗体を投与することで誘導できる。好適には、上に記載された様な精製抗HEV抗体の調製物を宿主動物でイデオタイプ抗体を誘導するのに用いる。調製物が適当な希釈で宿主動物へ投与される。投与に続いて、通常は繰り返しの投与に続いて、宿主は抗イデオタイプ抗体を産生する。Fc領域に対する抗原反応を排除するために、宿主動物と同種の動物によって産生された抗体を用いるか、または、投与する抗体のFc領域を除いて用いてもよい。宿主動物での抗イデオタイプ抗体の誘導に続き、血清または血漿を採取して抗体調製物を産する。抗体調製物は、抗HEV抗体について上に記載されたようにして、または親和性マトリクスに結合された抗HEV抗体を用いた親和性クロマトグラフィーによって、精製される。産生された抗イデオタイプ抗体は構造的に本来のHEV抗原に似ており、HEV粒子抗原を用いる代わりにHEVワクチンを調製するのに用いられる。
【0080】
動物中で抗HEVウイルス抗体を誘導する方法としてもちられる場合、抗体を注入する方法は、予防接種を目的とする場合と同様である。つまり、アジュバントを用いたり、あるいは用いないで、生理学的に適切な希釈液で希釈した効果的濃度で筋肉、腹腔、皮下などへ行う注射である。1回以上の追加投与を用いるのが望ましい。
【0081】
本発明のHEV由来タンパク質はまた、感染前予防、または感染後予防のために計画的に抗血清を産生するのに用いられる。ここでは、ひとつのHEVタンパク質またはタンパク質の混合物が、ヒト抗血清を産生する既知の方法に従って、適当なアジュバントとともに処方され、志願者(ボランティア)に注射によって投与される。注射されたタンパク質に反応する抗体は免疫処置後数週間にわたって、一定間隔で血清を取り、ここで記載された免疫アッセイを用いて抗HEV血清抗体の存在を同定することでモニターされる。
【0082】
免疫された人からの血清は、感染の危機にある人の前予防の方法として投与することもできる。血清はまた、B型肝炎ウイルスに対する高力価の抗血清の後予防としての使用の場合と同様に、後予防で用いるのにも有用である。
【0083】
HEVウイルス様粒子およびタンパク質に対する抗体および抗イデオタイプ抗体の生体内での(in vivo)使用および治療上での使用の両方でモノクローン抗体を用いることが好ましい。モノクローン抗ウイルス粒子抗体または抗イデオタイプ抗体は以下の方法で産生できる。免疫された動物から脾臓またはリンパ球を取り出し、不死化するか、または当業者には既知の方法でハイブリドーマを調製するのに用いる。(ゴーディング、Goding,J.W.1983.Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,Pladermic Press,Inc.,NY,NY,pp56−97)。ヒト−ヒト ハイブリドーマを産生するために、ヒトリンパ球の提供者が選択される。HEVに感染していることが分かっている提供者は(この場合、感染は例えば血液中の抗ウイルス抗体の存在によって、またはウイルス培養によって示される)、適当なリンパ球の提供者として役立つ。リンパ球は抹消の血液試料から単離できる。また、提供者が脾臓摘出を受けるなら脾臓細胞が用いられる。エプスタインーバーウイルス(EBV)がヒトリンパ球を不死化するのに用いられる。また、ヒト融合パートナーがヒト−ヒト ハイブリドーマを産生するのに用いられる。主に試験管内での(in vitro)ペプチドを用いた免疫化がまた、ヒトモノクローン抗体を産するのに用いられる。
【0084】
不死化細胞から分泌された抗体は、望まれた特異性をもつ抗体を分泌するクローンを決定するために選別される。モノクローン抗ウイルス粒子抗体としては、抗体はHEVウイルス粒子に結合しなければならない。モノクローン抗イデオタイプ抗体としては、抗ウイルス粒子に結合しなければならない。望まれる特異性をもつ抗体を産する細胞が選択される。
【0085】
上述の抗体およびその抗原結合断片は単独のキットの形態で、または生体内使用用の薬剤組成物として供給される。抗体は、治療用、免疫アッセイでの診断用、または本明細書中に記載されたようなORFタンパク質を精製するための免疫親和性試薬として用いられる。
【実施例】
【0086】
材料
以下の実施例で用いられる材料はいかのようなものであった:
霊長類. チンパンジー(Chimp)(Pan troglodytes)。旧世界サル:カニクイザル(Cyno)(Macaca fascicularis)、アカゲザル(Rhesus)(M.mulatta)、ブタオザル(PT)(M.nemestrina)、およびアフリアカミドリザル(AGM)(Cercopithecus aethiops)。新世界サル:クチヒゲタマリン(Tam)(Saguinus mystax)、リスザル(SQM)(Saimir isciureus)、およびヨザル(OWL)(Aotus trivigatus)。霊長類は生物学的危険物の封じ込め条件下で一匹ずつ飼われた。動物の飼育場、飼育、および世話は、霊長類の飼育上のすべての要求にかなっていたか、十分すぎるほど満たしていた。
【0087】
多くの動物は、ツァレヴら(Tsarev,S.A. et al.(1992),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:559−563、およびTsarev,S.A.et al.(1992),J.Infect.Dis.(投稿中))によって記載されたようにウシ胎児血清で希釈された0.5mlの便(stool)懸濁液中に含まれたHEV、SAR−55株を静脈注射された。Chimp−1313および1310は7人のパキスタン人E型肝炎の患者から採集した便のプールを接種された。
【0088】
血清試料は接種の前と後のほぼ週2回採集された。肝臓の酵素、血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、イソシトレートデヒドロゲナーゼ(ICD)、およびガンマグルタミルトランスフェラーゼ(GGT)が商品化された試験法を用いてアッセイされた(メドパス社、メリーランド州ロックビル、Medpath Inc.,Rockville,MD)。血清学的試験は上記のように行った。
【0089】
実施例1
HEV SAR−55株のゲノムのDNA配列の同定
PCR用の鋳型ウイルスRNAの調製 HEV感染カニクイザルの胆汁(10μl)、20%(wt/vol)SDS(最終濃度1%)、プロテイナーゼK(10mg/ml;最終濃度1mg/ml)、1μlのtRNA(10mg/ml)、および3μlの0.5M EDTAを最終的に250μlとして混合し、30分間55度で保温した。全核酸を胆汁から、フェノール/クロロフォルム、1:1(vol/vol)を用いて65度で2回、クロロフォルムを用いて1回処理し抽出し、エタノールで沈殿させ、95%エタノールで洗い、RT−PCRに用いた。糞からの、特に血清からのHEV RNAのRT−PCR増幅は、RNAがもっと大量に精製された場合に、より効果的である。血清(100μl)または10%糞懸濁液(200μl)を上記のようにプロテイナーゼKで処理した。30分の保温の後、300μlのCHAOSバッファー(4.2Mグアニジンチオシアネート/0.5N ラウロイルサルコシン/0.025M Tris−HCI,pH8.0)を加えた。核酸は65度でフェノール/クロロフォルムを用いて2回、続いて室温でクロロフォルムを用いて1回処理し抽出した。そして、上層に7.5M酢酸アンモニウム(225μl)を加え、核酸を0.68mlの2−プロパノールで沈殿させた。沈殿を300μlのCHAOSバッファーで融解し、100μlの水を加えた。クロロフォロム抽出および2−プロパノール沈殿を繰り返した。核酸を水に溶かし、エタノールで沈殿させ、95%エタノールで洗い、RT−PCRに用いた。
【0090】
プライマー 21−40ヌクレオチド(nt)で、ビルマからのHEV株(BUR−121)(タムら、Tam,A.W. et al.(1991),Virology,185:120−131)のゲノムまたはSAR−55ゲノムのプラスまたはマイナス鎖に相補的である、94個のプライマーをアプライドバイオシステムズモデル391 DNA合成機(Applied Biosystems model 391 DNA synthesizer)を用いて合成した。
【0091】
これらの94個のプライマーの配列はSEQ ID NO:5からはじまりSEQ ID NO:98まで以下に示してある:
HEVプライマーリスト
【0092】
【化20】

【0093】
【化21】

【0094】
【化22】

【0095】
【化23】

【0096】
【化24】

【0097】
配列の左の略語は以下のものを表す:RおよびDはそれそれ逆向き(reverse)および純向き(forward)プライマーを表す;BおよびSはそれぞれE型肝炎のBurma−121株およびE型肝炎のSAR−55株由来の配列を表す;5’NCおよび3’NCはそれそれHEVゲノムの5’および3’ノンコーディング領域を表す;1,2および3はそれぞれオープンリーディングフレーム1,2および3由来の配列を表す。幾つかの配列の右側に示した()の記号はこれらの配列に人為的に挿入した制限酵素部位を表す。
【0098】
PCR断片のクローニング用に、3−7nt上流にEcoRI,BamHIまたはBglII制限酵素部位をプライマーの5’末端に加えた。
RT−PCR 通常の100μlのRT−PCR混合液は、鋳型、10mM Tris−HCl(pH8.4)、50mM KCl、2.5mM MgCl、4種すべてのdNTPs(それぞれ0.2mM)、50pmolのダイレクトプライマー、50pmolのリバースプライマー、40unitsのRNasin(プロメガ Promega)、16unitsの鳥のミエロブラストシスウイルス逆転写酵素(プロメガ)、4unitsのAmpliTaq(シータス Cetus)からなり、100μlの軽ミネラルオイルをのせた。この混合液を、42度で1時間保温し、35回のPCRサイクルで増幅した;94度1分、45度1分、72度1分。PCR産物を1%アガロースゲルを用いて解析した。
【0099】
PCR断片のクローニング 末端に制限酵素部位をもつPCR断片を制限酵素EcoRIおよびBamHI、またはEcoRIおよびBglIIで消化し、EcoRI/BamHIで消化したpBR322またはpGEM−3Z(プロメガ)にクローン化した。あるいは、PCR断片をTAクローニングキット(インビトロゲン Invitrogen)を用いてpCR1000(インビトロゲン)にクローン化した。
【0100】
PCR断片およびプラスミドの塩基配列決定 PCR断片を1%アガロースゲルから切り出し、ジーンクリーン(バイオ101 Bio 101、カリフォルニア州ラ ジョラ)によって精製した。2本鎖PCR断片の塩基配列を、ウインシップ(Winship,P.R.(1984),Nucleic Acids Rev.,17:1226)により記載されているように、シークエナーゼ(ユナイテッドステーツ バイオケミカル UnitedStates Biochemical)によって決定した。CsCl勾配により精製した2本鎖プラスミドの塩基配列を、シークエナーゼキット(ユナイテッドステーツバイオケミカル)を用いて決定した。
【0101】
塩基配列のコンピュータ解析 HEV株のヌクレオチド配列をジェネティックス コンピュータグループ(ウイスコンシン州マジソン)ソフトウエアーパッケージ(デベリュークスら Devereaux,J. et al.(1984),Nucleic Acids Rev.,12:387−395,version7.5、VAX 8650コンピュータを使用(国立ガン研究所 the National CancerInstitute、メリーランド州フレデリック))を用いて比較した。
【0102】
実施例2
組換え発現ベクター,P63−2の構築
HEV株SAR−55のゲノムのORF−2の全長を含むプラスミド(ツァレブら Tsarev,S.A. et al.(1992),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:559−563)をNruI−BglII制限酵素断片を得るのに用いた。NruIはHEV cDNAのORF−2のATG開始コドンの5ヌクレオチド上流を切断する。BglII部位は、前以て、HEVゲノムの3'末端のポリA配列の直前に人為的におかれている(ツァレフら(1992),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:559−563)。この断片をpBlueBac−Transfer ベクター(インビトロゲン)に挿入するために、合成ポリリンカーをベクターの唯一のNheI部位に導入した。このポリリンカーは、HEV cDNA配列およびpBlueBac配列の両方に無いBlnIおよびBglII部位を含む。NruI−BglII ORF−2断片を、図1に示すようなアダプターを用いてBlnI−BglII pBlueBacに挿入した。
【0103】
実施例3
SF9昆虫細胞中でのP63−2の発現
p63−2およびAcMNPVバキュロウイルスDNA(Invitrogen社(インビトロゲン))を、インビトロゲン手順に従ったカルシウム沈澱法によってSF9細胞(インビトロゲン)中に共形質転換した一本手順に従って;AcMNPVバキュロウイルスDNAはp63−2をパッケージして組換えバキュロウイルスを形成できる生きたバキュロウイルスを生産できる。この組換えバキュロウイルスは、4回プラーク精製した。生じた組換えバクロウイルス63−2−IV−2を昆虫SF9細胞を感染させるのに使用した。
【0104】
SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動およびウエスタンブロット 昆虫細胞をローディング緩衝液(50mMトリス−塩酸、pH6.8、100mM DTT,2%SDS,0.1%ブロモフェノールブルーおよび10%グリセロール)中に再懸濁し、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動をラムリ(Laemmli)、イギリス(1970)、Nature,227:680に記載されたように行った。ゲルをクマシーブルーで染色するまたはタンパク質をBA−85ニトロセルロースフィルター(シュライヒャー(Schleicher)&シュエル(Schuell))上に電気ブロットした。トランスファーの後、ニトロセルロースメンブレンを10%胎児牛血清および0.5%ゼラチンを含むPBS中でブロックした。一次抗体として1:1000に希釈したチンパンジー−1313の高度免疫血清を使用した。二次抗体として、1:2000に希釈したヒトIgGに対するホスファターゼでラベルした親和精製済みのやぎ抗体(Kirkegaard&Perry Laboratories,Inc.)を使用した。フィルターをアルカリホスファターゼに対する基質を固定したウエスタンブルー(Promega)中で現像した。全てのインキュベーションはブロッキング溶液中で行い、洗いは0.05%トゥイーン−20(Sigma)を含むPBSで行った。
【0105】
HEV ORF−2の発現 組換えバキュロウイルス63−2−IV−2を感染させたSF9細胞中で合成される主要なタンパク質は、見かけの分子量74kDのタンパク質であった(図2A)。この大きさはORF−2全体から予測されるものよりも(71kD)少し大きい。大きさの違いは、N末端部分に少なくとも1つの潜在的な糖鎖付加部位(アスパラギン−ロイシン−セリン)が存在するため、タンパク質の糖鎖付加による可能性がある。このタンパク質は感染していない細胞または野生型の組換え体でないバキュロウイルスを感染させた細胞中では検出されなかった。後者の場合には、検出された主要なタンパク質は多面性ウイルス性タンパク質であった。同じ抽出物をチンパンジー−1313血清(HEVで高度に免疫済み)によるウエスタンブロットで解析すると、組換え細胞抽出物中のタンパク質のみが反応し、主要なバンドは再び74kDタンパク質として現れた(図2B)。少ない方のバンドはウエスタンブロットにおいてもまた存在した。これら中には糖鎖付加の程度の違いによる可能性がある74kDよりも大きい分子量のものがあり、また中にはプロセッシングおよび/または分解を反映したと思われるより低い分子量のものもあった。HEVで接種する前のチンパンジー−1313由来の血清は、ウエスタンブロットによるとどのタンパク質とも反応しなかった。
【0106】
実施例4
組換え体を感染させたSF9細胞の免疫電子顕微鏡観察
組換え体を感染させたSF9細胞 5×10を、10mMトリス−塩酸、pH7.4、0.3%サルコシルを含む塩化セシウム(1.30g/ml)中で音波処理し、68時間40,000rpmで遠心した(SW60Ti)。ELISA反応の最も高く、浮遊密度が1.30g/mlである50μlの画分を1ml PBS中に希釈し、5μlのチンパンジー−1313高度免疫血清を加えた。高度免疫血清は、先に感染させたチンパンジーに肝炎Eの第二の株(メキシコのHEV)で再免疫を行うことによって調製した。試料は1時間室温、それから一晩4℃でインキュベートした。免疫複合体をSW60Tiローターを使用して30,000rpm,4℃、2時間で沈澱させた。ペレットを蒸留水中に再溶解し、3%PTAでネガティブに染色し、炭素グリッドに載せて電子顕微鏡EM−10、Carl Zeiss、オバーコッヘン、ドイツ中で40,000倍率にて調べた。
【0107】
VPLの検出
野生型または組換え体バキュロウイルス63−2−IV−2を感染させた昆虫細胞由来の細胞抽出液を塩化セシウム密度勾配遠心によって画分化した。組換え体を感染させた昆虫細胞由来の塩化セシウム勾配の画分をチンパンジー−1313高度免疫血清と共にインキュベートすると、抗体で覆われたウイルス様の粒子(VLP)二種類が浮遊密度1.30g/mlの画分中に観察された:1つは(図3A)、抗体で覆われた、HEVであることを示唆する大きさ(30nm)および形態的構造を持つ個々の粒子、2つ目は(図3B)、HEVより小さい粒子であるがその他はHEVに類似する抗体で覆われた粒子の塊(約20nm)であった。直接的な電子顕微鏡の使用は、ウイルス粒子に似ているが抗体が結合していないのでHEVとして確定できない、直径30および20nm等を含む非常にヘテロな集団の存在を示した。多くのIEM実験は、HEVゲノムのORF−2領域から合成される少なくてもいくつかのタンパク質は粒子構造に組み立てられたことを示唆した。小さい方のタンパク質の比率が多い感染後期の昆虫細胞はELISAで常に良い結果を与えたことが観察された。従って、感染後期の組換え昆虫細胞の未分画抽出液を以下の試験におけるELISA用の抗原として使用した。
【0108】
実施例5
抗HEVの完全なORF−2を発現し、後にHEVの異なる株で感染させた昆虫細胞の抗原に基づくELISAによる検出
63−2−IV−2ウイルスを感染させた5×10のSF9細胞を1mlの10mMトリス−塩酸、pH7.5、0.15M塩化ナトリウム中に再懸濁し、それから3回凍結と融解を行った。この懸濁液10μlを10mlの炭酸緩衝液(pH9.6)中に溶解し、簡易マイクロタイター測定プレート(Falcon)を覆うのに使用した。血清試料を1:20、1:400および1:8000、または1:100、1:1000および1:10000に希釈した。ウエスタンブロット用に上記に記載したのと同様のブロッキング溶液および洗い溶液をELISAに使用した。二次抗体として、ヒトIgGに対するペルオキシダーゼを結合させたヤギIgG画分または旧または新世界サルに対する西洋わさびペルオキシダーゼでラベルしたヤギ免疫グロブリンを使用した。結果は、405nmの吸光度(O.D.)を測定することによって決定した。
【0109】
HEVパキスタン株を代表する昆虫細胞由来の抗原がHEVメキシコ株で感染させたカニクイザル中の抗HEV抗体を検出できるかを決定するために、3匹のサルを調査した(図4)。サイノ(カニクイザル)−80A82およびサイノ−9A97の二匹のサルをメキシコ’86HEV株(チセハースト、J.ら.(1992)、J.Infect.Dis.,165:835−845)を含む沈澱物で感染させ、および3匹目のサル、サイノ−83を同じ株の二次培養物で感染させた。コントロールとして、パキスタンHEV株SAR−55で感染させたサイノ−374由来の血清試料を同様の実験で試験した。メキシコ株を感染させた3匹のサルはすべて抗HEVに血清が変換した。一次培養物感染由来の動物は15週で血清が変換し、二次培養物感染由来のものは5週で変換した。興味深いことに、4匹の動物の中で最も高い抗HEV力価はメキシコ株の二次培養物を接種したサイノ−83であった。メキシコ株の一次培養物を接種したサイノは最も低い力価を示し、一方パキスタン株の一次培養物を接種したサイノは中間の力価を示した。
【0110】
実施例6
完全なORF−2を発現する昆虫細胞由来の抗原に基づく抗HEV ELISAの特異性
本明細書中で記載したELISAが、他の型の肝炎に関連する抗体を除外して、抗HEVを特異的に検出するかを調べるために、チンパンジーの血清試料を既知の他の肝炎ウイルスで感染させた4匹に付いて分析した(ガルシ、Pら.(1992),J.Infect.Dis.,165:1006−1001;ファルシ,Pら.(1992),Sclence(投稿中);ポンゼットA.ら.(1987)J.Infect.Dis.,155:72−77;リゼット;mら.(1981)Hepatology 1:567−574;チンパンジー−1413、1373、1442、1551(HAV)についての参考;およびチンパンジー−982、1442、1420、17110(HBV)についての参考;はパーセルらの未発表データである。)(表1)。接種前の血清試料および接種後5週および15週の血清試料を血清希釈1:100、1:1000および1:10000にてHEV ELISA中で分析した。HAV,HBV,HCV,およびHDVで感染させた動物由来の血清はどれもHEV抗体に対するELISAで反応しなかったが、HEVで感染させた4匹全てのチンパンジーは抗HEVのIgMおよびIgGを発現した。
【0111】
【表1】

【0112】
実施例7
ヒト以外の霊鳥類におけるHEVSAR−55株の宿主範囲の決定
異なる霊鳥類の種に、HEVの標準的な便懸濁液を接種し、一連の血清試料を感染を測定するために集めた。血清ALTレベルを肝炎の指標として決定し、血清変換は抗HEVの検出によって決定された。
【0113】
HEVで感染させたアカゲザル(表2)はどちらも、血清変換と同様にALT活性の非常に突出したピークを示した。増加するALT活性の最初の徴候は両動物とも14日目に観察され、決定的な血清変換は21日目におきた。抗HEVの最大力価は29日目に得られた。
【0114】
【表2】

【0115】
本実験で使用したアフリカミドリザルはどちらも(表2)ALT活性および抗HEVの増大を表した。AGM−230は接種後7週で死亡したが、感染の徴候はその時点より前に観察された。AGM−74は他の種で報告されているように(Tsarev,S.A.ら.(1992)、J.Infect.Dis.(印刷中))ALT活性の2型性の増加を示した。AGM−74およびAGM−230の血清変換は各々27日目および21日目に最初に観察された。
【0116】
接種した短い尾のマカク(macaques)はどちらもALT活性が僅かに増加したが、これらの増加は先に記載した動物の場合のように顕著ではなかった。しかし、両サルとも21日目に血清変換し、抗HEV力価はチンパンジーおよび他の旧世界サルと等しかった。
【0117】
本実験で接種したタマリンはどれもALT活性の上昇または抗HEVへの血清変換を示さなかった(表2)。リスザルはチンパンジーおよび旧世界ザルよりも明らかに低い抗HEVレベルで反応した(表2)。血清変換の時期もまたこれら他の動物と比較すると遅延していた。SQM−868は41日目に血清変換し、SQM−869は35日目に血清変換した。抗HEV力価は調査した3カ月以上の間どの時点でも1:400より高くならず、どちらの動物でも47−54日目にピークに達してから明らかに衰微した。しかし、ALT活性の増加は両動物においてかなり際だっていた。
【0118】
フクロウザルはHEV感染に対して旧世界ザル種とほぼ同様の反応を示した(表2)。どちらのOWMも21日目に血清変換し、28日目までには抗HEV力価が1:8000の値まで到達した。ALT活性はOWN−924では35日目にピークになったが、OWM−925では91日目までピークにならなかった。
【0119】
実施例8
チンパンジーにおける抗HEV IgMおよびIgGの検出
両チンパンジーにおいて、血清ALTレベルは接種後約4週で増加した(表2、図5)。両チンパンジーともALT酵素の上昇の時期またはそれより早くに血清変換した(図5A、5C)。抗HEV IgMのレベルもまたチンパンジーについて決定された。チンパンジー−1374では抗HEV IgMの力価(図5B)はIgG力価(図5A)ほど高くなく、2週で衰微した。IgGおよびIgM抗体はこの動物に付いて20日目に最初に検出されたが、その日に抗HEV IgM力価は最も高く、一方、IgG力価はその日に最も低く、それから上昇して3カ月以上およそ同じレベルにとどまった。チンパンジー−1375では、抗HEV IgMのみが20日目に検出された(図5D)。力価はチンパンジー−1374よりも高く、抗HEV IgMは調査の期間中ずっと検出された。抗HEV IgGはこの動物中で27日目に最初に観察され(図5C)、実験中およそ同じレベルを保持した。
【0120】
実施例9
昆虫細胞中で発現させた完全なORF−2タンパク質に基づくELISAと大腸菌中で発現させた構造タンパク質の断片に基づくELISAの比較
真核細胞中におけるHEVゲノムの完全なORF−2領域の発現は、大腸菌中での構造タンパク質断片の発現に対して何らかの利点があるかを調べるために、細菌中で発現させた抗原断片を使用して(表3)、我々はELISA中で以前の抗原を使用して先に分析したサイノモルガスザルの血清(Trarev,S.A.ら.(1992)、Proc.Natl.Acad.Sci UAS、89:559−563;およびTrarev,S.A.ら.(1992)J.Infect.Dis.(投稿中))を再試験した。
【0121】
【表3】

【0122】
血清はより感受性の低いORF−3抗原でも試験した。
Tsarev,S.A.ら.(1992)、J.Infect.Dis.(印刷中)
ELISAで調べた6匹のサルの3匹に付いて、昆虫細胞中で発現させた抗原は大腸菌中で発現させた抗原より早く血清変換を検出した。昆虫細胞由来の抗原を使用して、我々は最も高度に希釈した試験(1:8000)ですべての6匹のサル由来の血清中に抗HEV抗体を検出することができた。全ての血清を1:100希釈で試験したが、大腸菌細胞由来の抗原(ブルマ株)では抗HEV力価に付いて何の情報も得られなかった(Tsarev,S.A.ら.(1992)Proc.Nat.Acad.Sci. USA;89:559−563;Tsarev,S.A.ら.(1992)J.Infect.Dis.(投稿中))。
【0123】
別の実験で、肝炎EウイルスSAR−55株を10倍ずつ一連に希釈し、10−1から10−5希釈をウイルス力価を調べるために2匹のサイノモルガスザルに接種した。血清ALTレベルを測定して肝炎を決定し、HEVに対する血清抗体を本発明のELISA方法(図のデータ)またはGenelabのELISA(図6a−gの下に陽性(+)または陰性(−)試験で示したデータ)によって決定した。全ての試料はコード下で試験した。
【0124】
本発明のELISA法は接種した全てのサイノ中の抗HEV IgGへの血清変換および全ての希釈ウイルスを検出した。
反対に、Genlabの結果は以下にまとめたように著しく多様であった。
【0125】
【表4】

【0126】
サイノ385(10−5)はGenelabおよび本発明による両ELISA試験において陽性であるので、10−4(10回以上ウイルス接種した)および10−3(100回以上ウイルス接種した)もまた陽性であると予想された。サイノ383および393のALTレベルは活性型の肝炎であることを示唆したが、10−3および10−4の一つで両方陽性ではないというGenlabのELISAとは反対に、本発明はそれらを陽性として数えた。それ故、データはHEVの抗体を検出する先の技術の方法よりも本ELISA方法が優ることを支持した。
【0127】
実施例10
ワクチンとしての完全なORF−2タンパク質の使用
以前に上述したように、組換えORF−2タンパク質は免疫反応性がある。さらに、異なるHEV株で感染させた異なる動物種から得た様々な血清と反応することが示された。これは様々なHEV株を予防するためのワクチンとしてのこの組換えタンパク質の使用が支持されることを示す。哺乳類は保護抗体の生産を刺激するのに十分な量の精製または部分的に精製した組換えORF−2タンパク質で免疫される。HEVの野生株で免疫性試験した免疫済みの動物は保護される。
【0128】
全ての引用文献、すなわち論文刊行物、特許および類似物の内容は、本明細書中に参照として組み入れてある。
本明細書中に記載された実施例および態様は実例を示す目的であり、当該技術分野に従事する人によるこれらの若干の修飾および改変は本出願の思想及び範囲、並びに請求の範囲の範囲内に含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】図1はHEV株SAR−55の完全なORF−2タンパク質の発現に使われる組み換えベクターを示す。
【図2】図2AおよびBは、野生型バキュロイウルス若しくは組み換えバキュロウイルス(ORF−2をコードする遺伝子を含む)を感染させた昆虫細胞の細胞溶解物を、クマシーブルーで染めた(A)若しくはHEV感染チンパンジーの血清でウェスタンブロットにかけた(B)、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル(SDS−PAGE)である。
【図3A】図3Aは、30および20nmのウイルス様粒子(組み換え感染昆虫細胞でORF−2タンパク質の発現結果として形成される)の免疫電子ミクログラフ(IEM)を示す。
【図3B】図3Bは、30および20nmのウイルス様粒子(組み換え感染昆虫細胞でORF−2タンパク質の発現結果として形成される)の免疫電子ミクログラフ(IEM)を示す。
【図4】図4は、完全なORF−2をコードする遺伝子を含む昆虫細胞から発現された組み換えORF−2を抗原として用いた、ELISAの結果を示す。血清中の抗HEV抗体レベルは、HEVメキシコ株(Cyno−80A82,Cyno−9A97およびCyno 83)若しくはパキスタン株(Cyno−374)をカニクイザルに接種してからの様々な時間で決定した。
【図5A】図5Aは、完全なORF−2をコードする遺伝子を含む昆虫細胞から発現された組み換えORF−2を抗原として用いた、ELISAの結果を示す。血清中のIgGもしくはIgMの抗HEVレベルは、HEVを2匹のチンパンジーに接種してからの時間に渡って決定した。
【図5B】図5Bは、完全なORF−2をコードする遺伝子を含む昆虫細胞から発現された組み換えORF−2を抗原として用いた、ELISAの結果を示す。血清中のIgGもしくはIgMの抗HEVレベルは、HEVを2匹のチンパンジーに接種してからの時間に渡って決定した。
【図5C】図5Cは、完全なORF−2をコードする遺伝子を含む昆虫細胞から発現された組み換えORF−2を抗原として用いた、ELISAの結果を示す。血清中のIgGもしくはIgMの抗HEVレベルは、HEVを2匹のチンパンジーに接種してからの時間に渡って決定した。
【図5D】図5Dは、完全なORF−2をコードする遺伝子を含む昆虫細胞から発現された組み換えORF−2を抗原として用いた、ELISAの結果を示す。血清中のIgGもしくはIgMの抗HEVレベルは、HEVを2匹のチンパンジーに接種してからの時間に渡って決定した。
【図6A】図6Aは、SAR−55由来の完全な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータと、HEVビルマ株(Genelabs)由来の部分的な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータの比較を示す。
【図6B】図6Bは、SAR−55由来の完全な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータと、HEVビルマ株(Genelabs)由来の部分的な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータの比較を示す。
【図6C】図6Cは、SAR−55由来の完全な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータと、HEVビルマ株(Genelabs)由来の部分的な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータの比較を示す。
【図6D】図6Dは、SAR−55由来の完全な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータと、HEVビルマ株(Genelabs)由来の部分的な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータの比較を示す。
【図6E】図6Eは、SAR−55由来の完全な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータと、HEVビルマ株(Genelabs)由来の部分的な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータの比較を示す。
【図6F】図6Fは、SAR−55由来の完全な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータと、HEVビルマ株(Genelabs)由来の部分的な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータの比較を示す。
【図6G】図6Gは、SAR−55由来の完全な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータと、HEVビルマ株(Genelabs)由来の部分的な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータの比較を示す。
【図6H】図6Hは、SAR−55由来の完全な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータと、HEVビルマ株(Genelabs)由来の部分的な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータの比較を示す。
【図6I】図6Iは、SAR−55由来の完全な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータと、HEVビルマ株(Genelabs)由来の部分的な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータの比較を示す。
【図6J】図6Jは、SAR−55由来の完全な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータと、HEVビルマ株(Genelabs)由来の部分的な組み換えORF−2タンパク質を抗原として用いて得られたELISAデータの比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗HEV抗体と免疫応答性であり、SDS−PAGE上で46.3と74.7キロダルトンとの間の分子量を有するE型肝炎ウイルスのオープンリーディングフレーム2タンパク質であって、E型肝炎ウイルスの完全なオープンリーディングフレーム2コード配列を含む組換えバキュロウイルスベクターを含有する昆虫細胞の発現産物から入手可能なタンパク質であって、ここで、当該タンパク質は全長ではない、前記タンパク質。
【請求項2】
SEQ ID NO:4のcDNA配列に含有される完全なオープンリーディングフレーム2コード配列によってコードされる、請求項1のタンパク質。
【請求項3】
組換えHEV ORF2タンパク質の製造方法であって、
(a)E型肝炎ウイルスの完全なオープンリーディングフレーム2コード配列を含む組換えバキュロウイルスベクターを含有する昆虫細胞を、該ベクターからのタンパク質の発現のために適切な条件下で培養し;そして
(b)前記タンパク質を回収する
ことを含む、前記製造方法。
【請求項4】
E型肝炎ウイルスの完全なオープンリーディングフレーム2コード配列を含む、組換えバキュロウイルス発現ベクター。
【請求項5】
前記コード配列がSEQ ID NO:4のcDNA配列に含有される、請求項4の組換えバキュロウイルス発現ベクター。
【請求項6】
p63−2である、請求項5の組換えバキュロウイルス発現ベクター。
【請求項7】
請求項4、5または6の組換え発現ベクターで形質転換またはトランスフェクトされた昆虫宿主細胞。
【請求項8】
生物学的サンプル中のE型肝炎ウイルスに対する抗体の検出方法であって、
(a)前記サンプルを請求項1のE型肝炎ウイルスのオープンリーディングフレーム2タンパク質と接触させ、抗体との免疫複合体を形成させ;そして
(b)前記免疫複合体の存在を検出する
ことを含む、前記検出方法。
【請求項9】
前記生物学的サンプルが、全血、血漿、血清、脳脊髄液、組織、尿、及び胸膜液である、請求項8の方法。
【請求項10】
IgMまたはIgG抗体を検出する、請求項8の方法。
【請求項11】
組換えHEVタンパク質が固体支持体に結合されている、請求項8の方法。
【請求項12】
免疫複合体が標識抗体を用いて検出される、請求項8の方法。
【請求項13】
請求項1のタンパク質を含む、請求項8の方法に用いるキット。
【請求項14】
標識された二次抗体をさらに含む、請求項13のキット。
【請求項15】
防御抗体の産生を刺激するために有効な量の請求項1のタンパク質、および適当な助剤、希釈剤、または担体を含む、E型肝炎の治療または予防のための薬剤組成物。
【請求項16】
請求項1のタンパク質および薬学的に許容される担体を含む、哺乳動物をE型肝炎感染に対して免疫するためのワクチン。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図6G】
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【図6H】
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【図6I】
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【図6J】
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【公開番号】特開2006−149393(P2006−149393A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377429(P2005−377429)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【分割の表示】特願2004−113548(P2004−113548)の分割
【原出願日】平成5年9月17日(1993.9.17)
【出願人】(502006782)アメリカ合衆国 (47)
【Fターム(参考)】