説明

EGFR変異体仲介性疾患の治療における抗EGFR抗体の使用

本発明は、チロシンキナーゼ阻害剤療法に耐性のある、EGFR仲介性疾患(特に癌)の治療に関する。標準的療法に耐性のある二次EGFR変異(特にチロシンキナーゼドメイン変異)を有する患者における、癌の治療および腫瘍増殖の減少のための方法が提供される。本発明は、チロシンキナーゼ阻害剤耐性癌の抗EGFR抗体による治療のための方法を提供する。チロシンキナーゼ阻害剤に耐性のある非小細胞肺癌を含む再発肺癌の抗EGFR mAb806抗体による治療のための方法が記述される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チロシンキナーゼ阻害剤療法に耐性のある、EGFR仲介性疾患(特に癌)の治療に関する。標準的療法に耐性のある二次EGFR変異(特にチロシンキナーゼドメイン変異)を有する個体における、癌の治療および腫瘍増殖の減少のための方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
標的化癌療法は、発癌性および腫瘍増殖のために必要とされる特異的分子の機能を破壊するようにデザインされており、したがって癌細胞を殺傷するかまたはその増殖を阻害する(Ji H et al (2006) Cell Cycle 5(18):2072-2076 Epub 2006年9月15日)。従来の細胞傷害性化学療法とは対照的に、かかる標的化癌療法はより有効であり、正常細胞に対してあまり有害でない。標的化癌療法の分野における主な取り組みは、表皮増殖因子受容体(EGFR)を標的とする薬剤の開発であった。EGFRは、EGFR(ErbB−1)、Her2/neu(ErbB−2)、Her3(ErbB−3)およびHer4(ErbB−4)を含む非常によく関連した受容体のErbBファミリーのメンバーである。EGFRの活性化は、癌細胞の継続的な増殖および生存に重要なプロセスであるアポトーシスの阻害(2〜4)に加えて、受容体チロシンキナーゼの活性化、ならびに細胞の増殖、運動性、付着、浸潤および化学療法に対する耐性を仲介する一連の下流のシグナル伝達事象を導く。
【0003】
現在までに、抗EGFR抗体および低分子EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の2つの主なタイプの抗EGFRの薬剤が臨床設定に入っている(5、6)。セツキシマブなどの抗EGFR抗体は、EGFRの細胞外ドメインに結合し、EGFR下流のシグナリングの活性化をブロックするようにデザインされた(7)。セツキシマブ(抗体225としてもまた公知である、米国特許第4,943,533号)は、高レベルの野生型EGFRを発現するA431細胞に対して作製された。これとは対照的に、ゲフィチニブ(化合物ZD1839、イレッサ)またはエルロチニブ(化合物OSI−774、タルセバ)などの低分子TKIは、EGFRチロシンキナーゼの細胞内触媒ドメインへの結合ためのATPを競合し、したがってEGFR自己リン酸化および下流のシグナリングを阻害する(4)。
【0004】
これらの抗EGFRの薬物グループの両方は、様々な異なるタイプの癌に罹患した患者のサブセットにおいてある程度の臨床的有効性を示した。EGFRキナーゼドメイン変異を有する肺癌に罹患した患者におけるゲフィチニブまたはエルロチニブによる治療は、しばしば劇的な臨床反応を生ずる(5、8)。しかしながら、野生型EGFRを有する肺腺癌または扁平上皮癌などの他の組織学的なサブタイプにおけるゲフィチニブまたはエルロチニブの有効性は限定されている(9、10)。さらに、エクソンII〜VIIのインフレーム欠失がある別の活性化EGFR変異であるEGFRvIII変異体(11)(EGFRde2−7とも表示される)の機能の阻害には、ゲフィチニブまたはエルロチニブは概して効果がないことが、前臨床試験および臨床試験において示された。EGFRvIIIはグリア芽腫において共通して見出され、ヒト肺扁平上皮細胞癌のサブセット(12)および頭頸部癌の大部分(13)で存在することが最近見出された。
【0005】
セツキシマブは、結腸直腸癌患者に加えて、非小細胞肺癌(NSCLC)患者の小サブセットおよび頭頸部癌に罹患した患者で有効であることが示される。しかしながら、セツキシマブに対する反応は、EGFRの発現レベルに相関するようには思われない。したがって、なぜこれらの患者がセツキシマブ治療に反応するが、EGFRを高発現する腫瘍に罹患する他の癌患者がセツキシマブ治療に対して抵抗性があるのかは明らかではない(14)。
【0006】
EGFRvIII変異受容体の発現が腫瘍細胞に限定されるので、この受容体は抗体療法のための高度に特異的な標的となる。従って、de2−7 EGFRの特有のペプチドに特異的なポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方が作製された。一連のマウスmAb(特有のde2−7ペプチドによる免疫に続いて単離された)はすべて、短縮型受容体について選択性および特異性を示し、ヌードマウス中で増殖させたde2−7EGFR陽性の異種移植片を標的とした(Wikstrand CJ et al (1995) Cancer Res 55:3140-3148; Okamoto, S et al (1996) Br J Cancer 73:1366-1372; Hills D et al (1995) Int J Cancer 63:537-543; Reist CJ et al (1997) Cancer Res 57:1510-1515; Reist CJ et al (1995) Cancer Res 55:4375-4382; U.S. Patent 5,401,828)。抗EGFRvIII抗体の実例は、ABX−EGF(パニツムマブ)、DH8.3、L8A.4およびY10を含む。
【0007】
mAb806は、免疫原としてEGFRvIII変異体を発現する全細胞を使用して、特有の短縮変異体(EGFRvIII)を認識するようにもとは作製された新規マウス抗体である(15〜17)。重要なことには、mAb806によって認識されるエピトープは、不活性野生型(wt)EGFRでは接近可能でないが、EGFR過剰発現の細胞におけるwtEGFRの移行性の形態、およびEGFRvIIIの発現において露出される(18)。エピトープの研究は、806抗体が広範囲の上皮癌だけでなく、神経膠腫に存在するエピトープに結合するが、正常ヒト組織には結合しないことを実証する免疫組織化学的研究によって支持される(16、19)。これらおよび他の前臨床データーは、mAb806が、セツキシマブおよび他の抗EGFR抗体とは別の異なるスペクトルの臨床活性および副作用プロフィールを有することを示唆する。異種移植片モデルにおいて、mAb806は、正常組織を標的とせずに強力な抗腫瘍活性を示した。したがって、mAb806の特有の標的化能力は、癌特異的分子標的化療法についての新しいパラダイムを表わす。
【0008】
EGFRを含むチロシンキナーゼは、過剰発現または変異によって活性化された場合に癌進行の一因となり、これらの変異チロシンキナーゼ(TK)酵素は、しばしば選択的かつ特異的な癌療法のための標的または感受性を提供する。EGFR遺伝子のチロシンキナーゼドメインにおける体細胞変異は、ゲフィチニブおよびエルロチニブを含む特定のチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)に対する肺癌の感受性に関連する。エクソン19におけるインフレームEGFR欠失(del L747−S752)およびコドン858における頻繁な点変異(エクソン21)(L858R)は、非小細胞肺癌および腺癌において同定され、TKIのゲフィチニブおよびエルロチニブに対する感受性に関連する(Lynch TJ et al (2004) N Engl J Med 350:2129-2139; Paez JG et al (2004) Science 304:1497-1500; Pao W et al (2004) PNAS 101(36):13306-13311)。最近の研究から、NSCLC患者の10〜30%はEGFRキナーゼドメイン変異を有するが、肺扁平上皮癌(SCC)患者の5%は細胞外ドメインEGFRvIII変異を有することが示された(12、20)。EGFRにおける変異(特にキナーゼドメインにおける)の評価に基づくEGFR標的化治療に対する癌の反応性を決定する方法、および患者において予測される阻害剤感受性は、Bell et al(WO2005/094357およびUS20060147959)に記述される。
【0009】
化学療法または標的化癌療法に対する獲得耐性(二次耐性または補償変異によって仲介される)は、進行中の課題である。ゲフィチニブまたはエルロチニブのいずれかを含むTKIに感受性の腫瘍は、TKIによる継続的な治療にもかかわらず最終的には進行する。EGFRの位置790での二次変異(T790M)は再発患者および耐性患者の腫瘍生検において同定された(Kobayashi S et al (2005) N Engl J Med 352(8):786-792)。この変異はATPキナーゼ結合ポケットにおける阻害剤結合の立体障害を導くことが予測される。
【0010】
EGFR仲介性疾患においてTKIに対する獲得耐性が存在し優勢であることおよび癌再発率が有意であることを考慮して、標的に対して有効であるかまたはEGFR変異体およびEGFR仲介性疾患における獲得耐性を回避するEGFR標的化薬剤を用いる、より広範囲に有効な治療プロトコールの臨床的必要性がある。
【0011】
本明細書における参照の引用は、そのようなものが本発明に対する先行技術であるという承認として解釈されないものとする。
【発明の概要】
【0012】
活性化表皮増殖因子受容体(EGFR)変異は、肺癌を含む多数のEGFR仲介性癌において現在同定されている。EGFR変異は、ヒト非小細胞肺癌(NSCLC)においては、EGFRvIII変異を有するヒト肺扁平上皮細胞癌の5%およびEGFRキナーゼドメイン変異を有する肺腺癌の10〜30%で同定された。EGFR標的化モノクローナル抗体(mAb806)は、短縮型EGFRvIII変異体に加えて、野生型(wt)EGFRのコンフォメーショナルエピトープを認識する。EGFR仲介性癌の療法へのmAb806の適用の特性をさらに評価する目的で、mAb806を使用してEGFRvIII変異またはEGFRキナーゼドメイン変異のいずれかによって引き起こされた肺腫瘍に罹患した遺伝子操作マウスを治療した。本発明は、抗EGFRvIII抗体(特にmAb806)がEGFRvIIIシグナリングのブロックおよび腫瘍細胞アポトーシスの誘導に著しく有効であり、EGFRvIIIで引き起こされるマウス肺癌において劇的な腫瘍退縮を結果として生じることを確証する。高レベルの野生型EGFRを発現する細胞に対して作製された別のEGFR標的化抗体(セツキシマブ)は、遺伝的に規定された肺腫瘍において活性を示さなかった。加えて、認識され、臨床的に関連するEGFRキナーゼドメイン変異(L858R)によって引き起こされたマウス肺腫瘍のmAb806による治療は、有意な腫瘍退縮を誘導した。このキナーゼドメイン変異は、TKI療法(特にゲフィチニブまたはエルロチニブ)に対して感受性があることが示されている。
【0013】
ゲフィチニブまたはエルロチニブのいずれかを含むTKIに対する獲得耐性は進行中の課題であり、TKIに感受性の腫瘍は継続療法にもかかわらず最終的には進行する。この獲得耐性は、特にEGFRの位置790での二次変異(T790M)を含む二次耐性または補償変異によって仲介されうる。抗EGFR抗体(特にmAb806)がT790M変異に対して有効であり、EGFR T790M/L858Rで引き起こされるマウス肺癌において劇的な腫瘍退縮を結果として生じることが、研究者により現在示される。総合すれば、これらのデーターから、抗EGFR抗体(特にmAb806)が癌患者(特に肺癌患者)を含むEGFRキナーゼドメイン変異を有する患者の治療において有効な代替または補助を提供することが実証される。
【0014】
本発明は、哺乳類におけるチロシンキナーゼ阻害剤耐性EGFR仲介性疾患の治療方法であって、該耐性EGFR仲介性疾患が変異体EGFRを生じるEGFRにおける二次変異の結果であり、該変異がEGFRvIII変異とは異なり、変異体EGFRに結合し阻害することが可能な抗EGFR抗体の有効量を該哺乳類に対して投与することを含む、治療方法を提供する。特定の態様において、二次EGFR変異はEGFRチロシンキナーゼドメイン変異である。さらなる態様において、チロシンキナーゼドメイン変異はT790Mである。
【0015】
本方法の特定の実施形態において、抗EGFR抗体はmAb806抗体またはその活性断片である。mAb806はマウス抗体、組換え抗体またはヒト化抗体を含む。
【0016】
EGFRvIII変異体を標的とする抗体を含む追加の抗EGFR抗体は、本発明の治療用方法において利用できる。例示的および公知の抗EGFR抗体は、ABX−EGF(パニツムマブ)、DH8.3、L8A4、および/またはその活性断片から選択できる。
【0017】
本方法における治療のためのEGFR仲介性疾患は癌を含む。EGFR仲介性癌は、グリア芽腫、頭頸部癌、膵臓癌、肺癌、神経系の癌、消化管癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、腎臓癌、網膜癌、皮膚癌、肝癌、泌尿生殖器癌および膀胱癌を含む。特定の態様において、EGFR仲介性癌は、肺腺癌、肺扁平上皮癌または非小細胞肺癌である。
【0018】
本発明は、癌患者におけるEGFR仲介性腫瘍増殖の減少させる方法であって、該癌患者はあらかじめ1つまたは複数チロシンキナーゼ阻害剤により治療され再発性疾患および腫瘍増殖を発症し、再発性疾患および腫瘍増殖が阻害および減少されるように抗EGFR抗体の有効量を該患者に対して投与することを含む、方法を提供する。
【0019】
腫瘍増殖を減少させる方法の特定の実施形態において、抗EGFR抗体はmAb806抗体またはその活性断片である。mAb806はマウス抗体、組換え抗体またはヒト化抗体を含む。
【0020】
EGFRvIII変異体を標的とする抗体を含む追加の抗EGFR抗体が利用できる。例示的および公知の抗EGFR抗体は、ABX−EGF(パニツムマブ)、DH8.3、L8A4、および/またはその活性断片から選択できる。
【0021】
特定の臨床的態様において、癌患者における再発性疾患および腫瘍増殖は、EGFRチロシンキナーゼドメイン変異である二次EGFR変異の結果である。特定の二次EGFR変異はチロシンキナーゼドメイン変異T790Mである。
【0022】
本発明は、チロシンキナーゼ阻害剤および抗EGFR抗体を該哺乳類に対して投与することを含む哺乳類におけるEGFR仲介性癌の治療方法であって、チロシンキナーゼ阻害剤に耐性のある潜在的な二次変異体EGFRを阻害するために該抗EGFR抗体がセカンドライン療法としてチロシンキナーゼ阻害剤による治療後に投与される治療方法をさらに提供する。
【0023】
EGFR仲介性癌は、グリア芽腫、頭頸部癌、膵臓癌、肺癌、神経系の癌、消化管癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、腎臓癌、網膜癌、皮膚癌、肝癌、泌尿生殖器癌および膀胱癌から選択できる。特に、癌は、肺腺癌、肺扁平上皮癌または非小細胞肺癌である。
【0024】
この方法の1つの態様において、チロシンキナーゼ阻害剤は可逆的チロシンキナーゼ阻害剤である。可逆的チロシンキナーゼ阻害剤はアニリニキナゾリン(aniliniquinazoline)でありえ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、AG1478、ST1571およびSU−6668から選択される。
【0025】
この方法のさらなる態様において、チロシンキナーゼ阻害剤は不可逆的チロシンキナーゼ阻害剤である。例示的な不可逆的チロシンキナーゼ阻害剤は当技術分野において公知であり、EKB−569、EKI−569、HKI−272、HKI−357およびBIBW2992を含むがこれらに限定されない。
【0026】
他の目的および利点は、以下の説明的な図面を参照して以下の説明の概観から当業者に明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】EGFRvIII発現によって引き起こされたマウス肺腫瘍は、mAb806抗体およびch806抗体の治療に感受性があるが、セツキシマブ治療には耐性があることを示した図である。Tet−op−EGFRvIII/CCSP−rtTA、Ink4A/Arf−/−マウスを、毎日のI.P.注射を介して、1用量あたり0.5mgのmAb806もしくはch806、または1用量あたり1mgのセツキシマブのいずれかにより治療した。治療の第1週後に2日ごとに同じ用量で抗体を投与した。連続的なMRIを示されたタイムポイントで実行し、各治療群における代表的なマウスの対応する切片を示す。MRIによって測定された腫瘍退縮を図示する棒グラフは平均±標準偏差(SD)として表現し、統計分析はスチューデントの正確t検定を使用して実行した。すべてのマウスは実験の全体にわたってドキシサイクリン飼料で飼育した。H:心臓の領域を示す。
【0028】
【図2A】mAb806により治療されたEGFRvIIIで引き起こされるマウスにおける肺腺癌の組織病理学的特徴を図示した図である。8週間以上のEGFRvIII発現によって引き起こされた肺腺癌(上部パネル)。mAb806による治療の1週間後に、腫瘍は小さくなり、線維化が増加した(中央パネル)。mAb806治療が5週間で終了したときに、肺標本は肉眼で見て正常であった(下部パネル)。矢印は、線維芽細胞およびマクロファージからなる線維性の結節を示す。腫瘍細胞はこの特定の線維化領域において見出されなかった。左側パネル:100×、右側パネル:800×。
【図2B】mAb806により治療されたEGFRvIIIで引き起こされるマウスにおける肺腺癌の組織病理学的特徴を図示した図である。全EGFRの免疫組織学的染色の類似したパターンおよび強度が、対照マウスおよび1週間間mAb806により治療されたマウスにおいて観察できる(それぞれ左側の上部および下部パネル)。未処理の腫瘍と比較したときに(右側上部パネル)、腫瘍細胞のリン酸化EGFRの染色の強度は治療の1週間後に減少した(右側下部パネル)。代表的な写真は200×の倍率で撮影される。
【図2C】無治療の腫瘍(左側上部パネル)と比較したときに、mAb806による治療の1週間後のEGFRvIIIで引き起こされる肺腫瘍(左側下部パネル)においてアポトーシスを起こした核(赤色矢印)が増加することを示したTUNEL染色である。代表的な写真は200×の倍率で撮影される。mAb806治療の前および1週間後の肺腫瘍におけるアポトーシス指数を図示し平均±SDとして表現される棒グラフは、少なくとも200個の高倍率視野(HPF)から決定された。統計分析はスチューデントの正確t検定を使用して実行した(右側パネル)。
【0029】
【図3】mAb806により治療したTet−op−EGFRvIII/CCSP−rtTA、Ink4A/Arf−/−マウスからの全肺溶解物のウエスタンブロット分析を示した図である。mAb806治療の異なるタイムポイントでマウスから採取された腫瘍からの全肺溶解物を解析した。治療の1週間後すぐにEGFRリン酸化の阻害を観察できるが、全EGFRレベルは5週間の治療後にのみ減少する。Erkl、2のリン酸化はmAb806投与の全体にわたって抗体によって阻害されたが、AKTのリン酸化は両方の治療タイムポイントで無治療対照群と同等のレベルにとどまった。β−アクチンはローディング対照である。
【0030】
【図4A】EGFRキナーゼドメイン変異L858Rで引き起こされたマウス肺腺癌は、ch806治療に反応することを示した図である。Tet−op−EGFRL858R−IRES−ルシフェラーゼ/CCSP−rtTAマウスは、I.P.注射による1用量あたり0.5mgのch806により4週間毎日治療した。MRIにより、2週間および4週間の治療後に腫瘍容積が減少することが示された。MRIによって測定された腫瘍退縮を図示する棒グラフは平均±標準偏差(SD)として表現し、統計分析はスチューデントの正確t検定を使用して実行した。H:心臓の領域を示す。
【図4B】EGFRキナーゼドメイン変異L858Rで引き起こされたマウス肺腺癌は、ch806治療に反応することを示した図である。組織病理学分析から、無治療対照(左側2枚のパネル)と比較したときに、Tet−op−EGFRL858R−IRES−ルシフェラーゼ/CCSP−rtTAマウス(右側2枚のパネル)における腫瘍の収縮および著しいマクロファージ浸潤が示される。矢印は、残存腫瘍病巣を示す。図中のフットノートによって示すように、100×および800×の両方の倍率からの写真を示す。
【0031】
【図5A】mAb806対セツキシマブによる、EGFR T790M−L858R肺腫瘍の治療結果の図である。8週間以上の間継続的なドキシサイクリン飼料で飼育したマウスの全身腫瘍組織量を調べるためにMRIを行った。mab806を、0.5mgの用量でI.P.注射を介して肺腫瘍を持つマウスへ4週間毎日送達した。セツキシマブを、1用量あたり1mgのI.P.注射によってマウスに対して4週間毎日投与した。同腹仔を対照としてすべての治療研究について使用した(治療なし)。マウスは、0、2および4または5週目にMRIにより画像診断し、腫瘍容積の減少を決定した。
【図5B】mAb806対セツキシマブによる、EGFR T790M−L858R肺腫瘍の治療結果の図である。8週間以上の間連続的なドキシサイクリン飼料で飼育したマウスの全身腫瘍組織量を調べるためにMRIを行った。mab806を、0.5mgの用量でI.P.注入を介して肺腫瘍を持つマウスへ4週間毎日送達した。セツキシマブを、1用量あたり1mgのI.P.注入によってマウスに対して4週間毎日投与した。同腹仔を対照としてすべての治療研究について使用した(治療なし)。治療およびMRI画像診断の完了後に、さらなる組織学的なおよび生化学試験のためにマウスは屠殺した。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に従って、当技術分野の技能内の従来の分子生物学、微生物学および組換えDNA技術を用いることができる。そのような技術は、文献において十分に説明される。例えば、Sambrook et al、「分子クローニング:実験手引き書(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」(1989);「分子生物学における最新のプロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」I〜III巻[Ausubel, R. M.、編(1994)];「細胞生物学:実験ハンドブック(Cell Biology: A Laboratory Handbook)」I〜III巻[J. E. Celis、編(1994)];「免疫学における最新のプロトコール(Current Protocols in Immunology)」I〜III巻[Coligan, J. E.、編(1994)];「オリゴヌクレオチド合成(Oligonucleotide Synthesis)」(M.J. Gait編1984);「核酸ハイブリダイゼーション(Nucleic Acid Hybridization)」[B. D. Hames & S.J. Higgins編(1985)];「転写および翻訳(Transcription And Translation)」[B. D. Hames & SJ. Higgins、編(1984)];「動物細胞培養(Animal Cell Culture)」[R.I. Freshney、編(1986)];「固定化細胞および酵素(Immobilized Cells And Enzymes)」[IRL出版(IRL Press)、(1986)];B. Perbal、「分子クローニングへの解説書(A Practical Guide To Molecular Cloning)」(1984)を参照。
【0033】
したがって、以下の用語は、本明細書において現われるならば以下に設定される定義を有する。
【0034】
用語「抗体」は、天然で産生されたか、または部分的にもしくは完全に合成的に産生されたかどうかにかかわらず、免疫グロブリンを記述する。抗体は、特異的なエピトープを結合する抗体およびその断片を含む任意の免疫グロブリンを含む。この用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、ヒト化抗体およびキメラ抗体を包含する。この用語は、抗体結合ドメインであるか、または抗体結合ドメインに相同である、結合ドメインを有する任意のポリペプチドまたはタンパク質もまた包含する。CDRに移植された抗体もまた、この用語によって意図される。
【0035】
抗体は多数の方法で修飾できるので、用語「抗体」は、必要とされる特異性を備えた結合ドメインを有する任意の特異的結合のメンバーまたは物質の包含として解釈されるべきである。したがってこの用語は、天然か、または完全にもしくは部分的に合成的であるかどうかにかかわらず、免疫グロブリン結合ドメインを含む任意のポリペプチドを含む、抗体断片、誘導体、機能的な同等物および抗体のホモログを包含する。したがって、他のポリペプチドに融合された免疫グロブリン結合ドメインまたは同等物を含むキメラ分子が含まれる。キメラ抗体のクローニングおよび発現は、EP−A−0120694およびEP−A−0125023ならびに米国特許第4,816,397号および第4,816,567号に記述される。
【0036】
抗体全体の断片は結合抗原の機能を果たすことができることが示されている。結合断片の具体例は、(i)VLドメイン、VHドメイン、CLドメインおよびCH1ドメインからなるFab断片;(ii)VHドメインおよびCH1のドメインからなるFd断片;(iii)単一抗体のVLドメインおよびVHドメインからなるFv断片;(iv)VHドメインからなるdAb断片(Ward, E.S. et al., Nature 341, 544-546 (1989));(v)単離されたCDR領域;(vi)2つの連結したFab断片を含む二価断片である、F(ab’)2断片(vii)抗原結合部位を形成するように2つのドメインが会合することを可能にするペプチドリンカーによってVHドメインおよびVLドメインが連結される、一本鎖Fv分子(scFv)(Bird et al, Science, 242, 423-426, 1988; Huston et al, PNAS USA, 85, 5879-5883, 1988);(viii)多価抗体断片(scFvの二量体、三量体および/または四量体)(Power and Hudson, J Immunol. Methods 242: 193-204 9 (2000))(ix)二重特異性一本鎖Fv二量体(PCT/US92/09965)および(x)遺伝子融合によって構築される多価性または多重特異性の断片である、「ダイアボディ」(WO94/13804;P. Holliger et al Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 6444-6448, (1993))である。
【0037】
「抗体の結合部位(combining site)」は、特異的に抗原を結合する、軽鎖または重鎖および軽鎖の可変領域および超可変領域からなる抗体分子の構造部分である。
【0038】
本明細書において使用されるような様々な文法形式における語句「抗体分子」は、完全な形の免疫グロブリン分子および免疫学的に活性のある免疫グロブリン部分分子の両方を意図する。
【0039】
例示的な抗体分子は、完全な形の免疫グロブリン分子、実質的に完全な形の免疫グロブリン分子、ならびにFab、Fab’、F(ab’)2およびF(v)として当技術分野において公知の部分を含むパラトープを含み、本明細書において記述される治療用方法における使用のために好ましい免疫グロブリン分子のそれらの部分である。
【0040】
抗体は、抗体の1つの結合ドメインは本発明の特異的結合メンバーであり、もう一方の結合ドメインは異なる特異性(例えばエフェクター機能または同種のものを動員する)を有する、二重特異性でもありえる。本発明の二重特異性抗体は、抗体の1つの結合ドメインがその断片を含む本発明の特異的結合メンバーであり、もう一方の結合ドメインが別の抗EGFR抗体の断片を含む別の抗体またはその断片であり、例えば、抗体528(米国特許第4,943,533号)、キメラのヒト化225抗体(米国特許第4,943,533号およびWO/9640210)、DH8.3などの抗de2−7抗体(Hills, D. et al (1995) Int. J. Cancer 63(4):537-543)、抗体L8A4およびY10(Reist, CJ et al (1995) Cancer Res. 55(19):4375-4382; Foulon CF et al. (2000) Cancer Res. 60(16):4453-4460)、ICR62(Modjtahedi H et al (1993) Cell Biophys. Jan-Jun;22(l-3):129-46; Modjtahedi et al (2002) P.A.A.C.R. 55(14):3140-3148)、またはWikstrand et alの抗体(Wikstrand C. et al (1995) Cancer Res. 55(14):3140-3148)を含む。神経系細胞またはグリア細胞に特異的な抗体のように、もう一方の結合ドメインは特定の細胞タイプを認識または標的とする抗体でありえる。本発明の二重特異性抗体において、本発明の抗体の1つの結合ドメインは、特定の細胞受容体を認識および/または特定の様式で細胞を修飾する、他の結合ドメインまたは分子、例えば免疫修飾因子(例えば1つまたは複数のインターロイキン)、増殖調節因子もしくはサイトカイン(例えば腫瘍壊死因子(TNF)、および特に2002年2月13日に出願されその全体が本明細書において組み入れられる米国シリアルナンバー60/355,838において実証されたTNF二重特異性モダリティ)または毒素(例えばリシン)または抗有糸分裂もしくはアポトーシスの薬剤もしくは因子と組み合わせることができる。
【0041】
抗体分子のFab部分およびF(ab’)2部分は、周知の方法で、実質的に完全な形の抗体分子に対するパパインおよびペプシンのタンパク質分解反応によってそれぞれ調製できる。例えばTheofilopolous et alの米国特許第4,342,566号を参照。Fab’抗体分子部分もまた周知であり、2つの重鎖部分を連結するジスルフィド結合のメルカプトエタノールによる還元を行い、次にヨードアセトアミドなどの試薬により生じるタンパク質メルカプタンのアルキル化を行なうことによってF(ab’)2部分から産生する。完全な形の抗体分子を含む抗体は本明細書において好ましい。
【0042】
様々な文法形式における語句「モノクローナル抗体」は、特定の抗原と免疫反応できる抗体の結合部位の1種類のみを有する抗体を指す。したがってモノクローナル抗体は、典型的にはそれが免疫反応する任意の抗原について単一の結合親和性を提示する。モノクローナル抗体は、複数の抗体の結合部位(異なる抗原について各々免疫特異的である)を有する抗体分子、例えば二重特異性(キメラ)モノクローナル抗体もまた含みうる。
【0043】
用語「抗原結合ドメイン」は、特異的に結合し、抗原の一部またはすべてに対して相補的な領域を含む抗体の部分を記述する。抗原が大きい場合には、抗体は抗原の特定の部分のみに対して結合でき、その部分はエピトープと呼ばれる。抗原結合ドメインは1つまたは複数の抗体可変ドメインによって提供されうる。好ましくは、抗原結合ドメインは抗体軽鎖可変領域(VL)および抗体重鎖可変領域(VH)を含む。
【0044】
用語「mAb806」、「806抗体」、「モノクローナル抗体806」、「ch806」、「ヒト化806」および具体的にリストされない任意の変形は、本明細書において同じ意味で使用でき、参照する本出願および請求項の全体にわたって使用される。従って、実質的に等価な活性または変更された活性を提示する、組換え抗体、キメラ抗体、遺伝子操作抗体または代替の抗体を含む抗体が、同様に意図される。これらの修飾は、例えば部位特異的変異誘発を介して得られた修飾などの計画的なものであるか、または抗体もしくはその断片の生産者である宿主中の変異を介して得られたものなどの偶発的なものでありうる。また、用語「mAb806」、「806抗体」「モノクローナル抗体806」、「ch806」、「ヒト化806」は、それらの範囲内に、すべての実質的に相同の類似体および対立遺伝子変異体に加えて、具体的に本明細書において詳述され、当業者に既知であり、公に開示された、タンパク質および免疫グロブリンを含むように意図される。mAb806抗体(その産出、特定の活性、アミノ酸および核酸配列、抗原結合ドメイン、可変領域配列を含む)は、開示され当業者に公知であり、WO02/092771; Luwor RB et al (2001) Cancer Res 61:5355-5361; Mishima K et al (2001) Cancer Res 61 :5349-5354; Johns TG et al (2002) Int J Cancer 98:398-408; Jungbluth AA et al (2003) Proc Natl Acad Sci 100(2) :639-644において提供されるように含まれ、各々その全体は参照することにより本明細書に組み入れられる。
【0045】
本明細書において記述されるアミノ酸残基は「L」異性体であるのが好ましい。しかしながら、免疫グロブリン結合の所望される機能特性がポリペプチドによって保持される限り、「D」異性体中の残基は任意のLアミノ酸残基で置換することができる。NH2はポリペプチドのアミノ末端で存在する遊離アミノ基を指す。COOHはポリペプチドのカルボキシ末端で存在する遊離カルボキシ基を指す。標準的ポリペプチド命名法(J. Biol. Chem., 243:3552-59 (1969))に沿って、アミノ酸残基についての略語を以下の対応表に示す:
対応表
記号 アミノ酸
1文字 3文字
Y Tyr チロシン
G Gly グリシン
F Phe フェニルアラニン
M Met メチオニン
A Ala アラニン
S Ser セリン
I Ile イソロイシン
L Leu ロイシン
T Thr スレオニン
V Val バリン
P Proプロリン
K Lys リジン
H His ヒスチジン
Q Gln グルタミン
E Glu グルタミン酸
W Trp トリプトファン
R Arg アルギニン
D Asp アスパラギン酸
N Asn アスパラギン
C Cys システイン
【0046】
すべてのアミノ酸残基配列の左および右の方向性が、アミノ末端からカルボキシ末端への従来の方向である式によって、本明細書において表わされることに注意。さらに、アミノ酸残基配列の開始または末端でのダッシュが、1つまたは複数のアミノ酸残基のさらなる配列に対するペプチド結合を示すことに注意。上記の表は、3文字表記および1文字表記(本明細書において1つおきに現われる)を関連づけるために提供される。
【0047】
本発明の方法で使用される組成物の範囲内のものは、公に開示され当業者に公知であり、抗EGFR抗体、その抗原結合ドメイン、またはmAb806抗体と同じアミノ酸配列を有するその活性断片をコードするが、公知のmAb806配列に縮重する、有効な抗EGFR抗体(特にmAb806およびch806を含む)をコードおよび/または発現するDNA配列でもあることが理解されるべきである。「に縮重する」によって、異なる3文字のコドンが特定のアミノ酸を指定するために使用されることが意味される。各々の特異的なアミノ酸をコードするように以下のコドンを同じ意味で使用できることは当技術分野において周知である。
フェニルアラニン(PheまたはF) UUUまたはUUC
ロイシン(LeuまたはL) UUAまたはUUGまたはCUUまたはCUCまたはCUAまたはCUG
イソロイシン(IleまたはI) AUUまたはAUCまたはAUA
メチオニン(MetまたはM) AUG
バリン(ValまたはV) GUUまたはGUCまたはGUAまたはGUG
セリン(SerまたはS) UCUまたはUCCまたはUCAまたはUCGまたはAGUまたはAGC
プロリン(ProまたはP) CCUまたはCCCまたはCCAまたはCCGスレオニン(ThrまたはT) ACUまたはACCまたはACAまたはACG
アラニン(AlaまたはA) GCUまたはGCGまたはGCAまたはGCG
チロシン(TyrまたはY) UAUまたはUAC
ヒスチジン(HisまたはH) CAUまたはCAC
グルタミン(GlnまたはQ) CAAまたはCAG
アスパラギン(AsnまたはN) AAUまたはAAC
リジン(LysまたはK) AAAまたはAAG
アスパラギン酸(AspまたはD) GAUまたはGAC
グルタミン酸(GluまたはE) GAAまたはGAG
システイン(CysまたはC) UGUまたはUGC
アルギニン(ArgまたはR) CGUまたはCGCまたは、CGAまたはCGGまたはAGAまたはAGG
グリシン(GlyまたはG) GGUまたはGGCまたはGGAまたはGGG
トリプトファン(TrpまたはW) UGG
終止コドン UAA(オーカー)またはUAG(アンバー)またはUGA(オパール)
【0048】
上で指定されたコドンはRNA配列のためのものであることが理解されるべきである。DNAに対応するコドンはUをTに置換する。
【0049】
特定のコドンが異なるアミノ酸をコードするコドンへ変化するように、抗EGFR抗体配列(mAb806抗体配列を含む)中に変異を作製することができる。そのような変異は、一般的にできるだけ少数のヌクレオチド変化を生じさせることによって作製される。この種の置換変異は、非保存的様式(すなわち他の分類に属するアミノ酸に特有の大きさまたは特性を有するアミノ酸の分類に属するアミノ酸からのコドンの変化による)で、または保存的様式(すなわち同じ分類に属するアミノ酸に特有の大きさまたは特性を有するアミノ酸の分類に属するアミノ酸からのコドンの変化による)で、結果として生じるタンパク質中のアミノ酸を変化させるように作製できる。そのような保存的変化は、結果として生じるタンパク質の構造および機能においてより少ない変化を一般的に導く。非保存的変化は、結果として生じるタンパク質の構造、活性または機能を変更する可能性が高い。本発明は、結果として生じる免疫グロブリンおよび抗体の活性特性または結合特性を有意に変更しない保存的変化を含む配列を含むと判断されるべきである。
【0050】
同様に、EGFRの活性(例えば本明細書において記述および利用されるEGFRキナーゼドメイン変異)に著しく影響を与えるかまたは変更できる特定のEGFR変異が、抗EGFR抗体(特に抗EGFRvIII変異体抗体を含み、特にmAb806抗体を含む)によるEGFRの認識、結合または阻害に影響を与えないことは予想される。したがって、mAb806が、他のまだ認識されていないか、またはまだ公知でないEGFR変異(特に抗癌療法の間に生じる二次変異)に対して同様に有効でありえることは予想される。これらの変異は、TKI阻害療法の結果として、またはキナーゼもしくはEGFRの他の活性を標的とするEGFR仲介性疾患に対する他の療法の結果として起こりうる。
【0051】
アミノ酸は、類似のもしくは異なる、または保存的もしくは非保存的なものとして分類できる。アミノ酸の分類は、R基(例えば非極性基、非荷電極性基、荷電極性基、フェニル基を持ったそれらのもの)に基づき、R基の分子量または大きさに基づき、分子量に基づく。特に好ましい置換は、正の電荷が維持されるようにするArgのLysによる置換、およびその逆の置換;負の荷電が維持されるようにするAspのGluによる置換およびその逆の置換;遊離OHを維持できるようにするThrのSerによる置換;および遊離NH2を維持できるようにするAsnのGlnによる置換である。
【0052】
アミノ酸置換は、特に好ましい特性を備えたアミノ酸を置換するためにもまた導入できる。例えば、Cysは、他のCysとのジスルフィド架橋のために導入される可能性のある部位でありえる。Hisは特に「触媒」部位として導入できる(すなわち、Hisは酸または塩基として作用することができ、生化学的な触媒作用において最も一般的なアミノ酸である)。タンパク質の構造中のβターンを誘導するProは、特にその平面構造のために導入できる。
【0053】
アミノ酸残基の少なくとも約70%(好ましくは少なくとも約80%、および最も好ましくは少なくとも約90または95%)が同一であるか、または保存的置換を表わすときに、2つのアミノ酸配列は「実質的に相同」である。
【0054】
語句「薬学的に許容される」は、ヒトに投与したときに生理学的に耐容され、典型的には胃蠕動異常亢進、めまいおよび同種のものなどのアレルギー反応または類似した有害反応を産生しない分子的な構成要素および組成物を指す。
【0055】
語句「治療的有効量」は標的細胞塊のS期活性の臨床的に有意な変化、または標的の細胞塊もしくは腫瘍の大きさまたは容積の有意な変化、または存在および活性に関わる病状の他の特色を、好ましくは少なくとも約20%まで、より好ましくは少なくとも30%まで、さらにより好ましくは少なくとも50%まで、より好ましくは少なくとも70%まで、より好ましくは少なくとも90%まで、阻害および減少させるのに十分な量を意味するように、本明細書において使用される。
【0056】
抗体または活性断片は、中和された薬学的に許容される塩形態として治療用組成物の中へ製剤化することができる。薬学的に許容される塩は、酸付加塩(ポリペプチドまたは抗体分子の遊離アミノ基により形成された)、ならびに例えば塩酸もしくはリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸および同種のものなどの有機酸により形成した塩を含む。遊離カルボキシル基から形成される塩もまた、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウムまたは水酸化第二鉄などの無機塩基、ならびにイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインおよび同種のもののような有機塩基から誘導できる。
【0057】
治療用抗体または活性断片を含む組成物は、慣習的に静脈内に、例えば単位用量の注入によって投与される。用語「単位用量」は、本発明の治療用組成物に関して使用されたときに、ヒトの単一の投与量として適切な物理的に個別の単位であり、必要な希釈剤(すなわち担体または賦形剤)と共同して所望される治療用効果を産生することが意図される活性原料の所定量を含む各単位を指す。組成物は、投与量製剤と適合性のある様式で、および治療的有効量で投与される。投与される量は、治療される被験体、活性成分を利用する被験体の免疫系の能力、および所望される阻害の程度または標的化腫瘍塊の大きさに依存する。投与に必要な正確な量の活性成分は、実施者の判断に依存し、各個体に特有である。しかしながら適切な投与量は、1日あたり個体のキログラム体重あたり約0.1〜20ミリグラム、好ましくは約0.5〜約10ミリグラム、より好ましくは1〜数ミリグラムの活性成分にわたり、投与経路に依存する。初回投与およびブースター注射のための適切なレジメ(regime)は可変的でもあるが、初回投与によって代表され、続いて行なわれる注入または他の投与による1つまたは複数の時間間隔での反復投与が後続する。あるいは、血液中で10ナノモル〜10マイクロモルの濃度を維持するのに十分な持続点滴静注が意図される。
【0058】
本明細書において使用されるように、「pg」はピコグラムを意味し、「ng」はナノグラムを意味すし、「ug」または「μg」はマイクログラムを意味し、「mg」はミリグラムを意味し、「ul」または「μl」はマイクロリットルを意味し、「ml」はミリリットルを意味し、「l」はリットルを意味する。
【0059】
EGFR仲介性癌療法に対するmAb806の適用の特性をさらに評価するする目的で、本発明は、EGFRvIII変異またはEGFRキナーゼドメイン変異のいずれかによって引き起こされた肺腫瘍に罹患する遺伝子操作マウスを治療するmAb806の使用について記述する。これらの変異の各々は、EGFR仲介性疾患(特に肺癌、膵臓癌、結腸直腸癌、頭頸部癌およびグリア芽腫を含む癌)について臨床的に関連し重要である。本発明は、抗EGFRvIII抗体(特にmAb806)がEGFRvIIIシグナリングのブロックおよび腫瘍細胞アポトーシスの誘導に著しく有効であり、EGFRvIIIで引き起こされるマウス肺癌において劇的な腫瘍退縮を結果として生じることを確証する。高レベルの野生型EGFRを発現する細胞に対して作製された別のEGFR標的化抗体(セツキシマブ)は、遺伝的に規定された肺腫瘍において活性を示さなかった。加えて、認識され、臨床的に関連するEGFRキナーゼドメイン変異(L858R)によって引き起こされたマウス肺腫瘍のmAb806による治療は、有意な腫瘍退縮を誘導した。このキナーゼドメイン変異はTKI療法、特にゲフィチニブまたはエルロチニブに感受性のあることが示されている。ゲフィチニブまたはエルロチニブのいずれかを含むTKIに対する獲得耐性は進行中の課題であり、TKIに感受性のある腫瘍は、継続にもかかわらず最終的には進行する。この獲得耐性は、二次耐性または補償変異、特にEGFRの位置790での二次変異(T790M)によって仲介されうる。研究者により、抗EGFR抗体(特にmAb806)がT790M変異に対して有効であり、EGFR T790M/L858Rで引き起こされるマウス肺癌において劇的な腫瘍退縮を結果として生じることが現在示される。総合すれば、これらのデーターから、抗EGFR抗体(特にmAb806)が癌患者(特に肺癌患者)を含むEGFRキナーゼドメイン変異を有する患者の治療において有効な代替または補助を提供することが実証される。
【0060】
したがって、治療用および診断用の適用および方法の両方は、抗EGFR抗体(特にmAb806の)の抗腫瘍活性の実証によって提供および作製される。以前に示唆され、本明細書においてさらに詳述されるように、本発明はキナーゼドメイン変異(一次耐性変異および二次耐性変異の両方)を含むEGFR変異と関連した腫瘍形成性能力を修飾するために、EGFRが関わる反応およびシグナリングのカスケードにおける薬学的介入を意図する。
【0061】
本明細書において提供されるデーターは、L858RおよびTKI耐性T790Mを含むEGFRキナーゼドメイン変異に対するmAb806の活性を実証する。さらなるキナーゼドメイン変異またはEGFR二次変異が、継続的な高度指向性の抗EGFR療法により存続または生じることが予想される。システイン797(EGFRvIII欠失変異体におけるシステイン530に対応する)でEGFRに結合する不可逆的阻害剤HKI272は、前臨床プロトコールにおいて行なわれている。システインでの置換による耐性二次変異は予想されないが可能性が高い。これら追加のEGFR二次変異体は、抗EGFRの抗体療法のための候補になる。
【0062】
したがって本発明は、哺乳類におけるチロシンキナーゼ阻害剤耐性EGFR仲介性疾患の治療方法であって、該耐性EGFR仲介性疾患が変異体EGFRを生じるEGFRにおける二次変異の結果であり、該変異がEGFRvIII変異とは異なり、変異体EGFRに結合し阻害することが可能な抗EGFR抗体の有効量を該哺乳類に対して投与することを含む、治療方法を提供する。特定の態様において、二次EGFR変異はEGFRチロシンキナーゼドメイン変異である。さらなる態様において、チロシンキナーゼドメイン変異はT790Mである。本方法の特定の実施形態において、抗EGFR抗体はmAb806抗体またはその活性断片である。mAb806は、マウス抗体、組換え抗体またはヒト化抗体を含む。EGFRvIII変異体を標的とする抗体を含む追加の抗EGFR抗体は、本発明の治療用方法において利用できる。例示的および公知の抗EGFR抗体は、ABX−EGF(パニツムマブ)、DH8.3、L8A4、および/またはその活性断片から選択できる。
【0063】
治療のためのEGFR仲介性疾患は、特に癌であり、グリア芽腫、頭頸部癌、膵臓癌、肺癌、神経系の癌、消化管癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、腎臓癌、網膜癌、皮膚癌、肝癌、泌尿生殖器癌および膀胱癌から選択できる。特定の態様において、EGFR仲介性癌は、肺腺癌、肺扁平上皮癌または非小細胞肺癌である。
【0064】
本発明は、癌患者におけるEGFR仲介性腫瘍増殖を減少させる方法であって、該癌患者はあらかじめ1つまたは複数チロシンキナーゼ阻害剤により治療され再発性疾患および腫瘍増殖を発症し、再発性疾患および腫瘍増殖が阻害および減少されるように抗EGFR抗体の有効量を該患者に対して投与することを含む、方法を含む。腫瘍増殖を減少させる方法の特定の実施形態において、抗EGFR抗体はmAb806抗体またはその活性断片である。mAb806は、マウス抗体、組換え抗体またはヒト化抗体を含む。EGFRvIII変異体を標的とする抗体を含む追加の抗EGFR抗体が利用できる。例示的および公知の抗EGFR抗体は、ABX−EGF(パニツムマブ)、DH8.3、L8A4、および/またはその活性断片から選択できる。
【0065】
特定の臨床的態様において、癌患者における再発性疾患および腫瘍増殖は、EGFRチロシンキナーゼドメイン変異である二次EGFR変異の結果である。特定の二次EGFR変異はチロシンキナーゼドメイン変異T790Mである。
【0066】
本発明は、哺乳類にチロシンキナーゼ阻害剤および抗EGFR抗体を投与することを含む、該哺乳類におけるEGFR仲介性癌を治療する方法をさらに提供する。1つの態様において、チロシンキナーゼ阻害剤および抗EGFRの抗体は同時に投与される。1つの態様において、チロシンキナーゼ阻害剤および抗EGFR抗体は、従来の化学療法の前にまたはその化学療法の後に、同時にまたは連続的におよび繰り返して投与される。
【0067】
本発明は、チロシンキナーゼ阻害剤および抗EGFR抗体を該哺乳類に対して投与することを含む哺乳類におけるEGFR仲介性癌の治療方法であって、チロシンキナーゼ阻害剤に耐性のある潜在的な二次変異体EGFRを阻害するために該抗EGFR抗体がセカンドライン療法としてチロシンキナーゼ阻害剤による治療後に投与される治療法をさらに提供する。
【0068】
チロシンキナーゼ阻害剤は、可逆的チロシンキナーゼ阻害剤または不可逆的チロシンキナーゼ阻害剤でありうる。可逆的チロシンキナーゼ阻害剤はアニリニキナゾリン(aniliniquinazoline)でありえ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、AG1478、ST1571およびSU−6668から選択される。例示的な不可逆的チロシンキナーゼ阻害剤は、当技術分野において公知であり、EKB−569、EKI−569、HKI−272、HKI−357およびBIBW2992を含むが、これらに限定されない(Kwak EL et al (2005) Proc Natl Acad Sci U S A 102(21):7665-70)。
【0069】
EGFR仲介性癌は、グリア芽腫、頭頸部癌、膵臓癌、肺癌、神経系の癌、消化管癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、腎臓癌、網膜癌、皮膚癌、肝癌、泌尿生殖器癌および膀胱癌から選択できる。特に、癌は、肺腺癌、肺扁平上皮癌または非小細胞肺癌である。
【0070】
抗EGFR抗体(特にmAb806)は、本方法において単独でまたは他の抗EGFRの抗体との組合せで投与できる。したがってMab806は、連続的にまたはセツキシマブとの組合せで投与されてもよい。mAb806は、連続的に、またはABX−EGF(パニツムマブ)、DH8.3、L8A4、および/またはその活性断片を含む他の抗EGFRvIII抗体との組合せでもまた投与できる。
【0071】
1つまたは複数の抗EGFR抗体は、医薬組成物中で、適切な担体と共に、および患者に対する様々な手段による投与のために有効な強度で調製できる。様々な管理技術、中でも皮下注射、静脈内注射および腹膜腔内注射、カテーテル挿入ならびに同種のものなどの非経口技術を利用できる。抗体またはそれらの活性断片の量は変化させることができ、特に本明細書において提供される結果およびデーターの考慮を含む、有資格医師または獣医師の推奨および処方に基づくべきである。
【0072】
mAb806を含む、本発明において使用する抗EGFR抗体は、TKI療法の結論の後にまたは同時に、癌患者の診断および/またはモニタリングのための画像診断適用または診断用生検適用を含む、有用な診断適用を提供できる。
【0073】
これらの研究のために共通して用いられる標識は、放射性元素、酵素、紫外線光に暴露されたときに蛍光を発する化学物質、およびその他のものである。多数の蛍光性材料は公知であり、標識として利用することができる。これらは例えば、フルオレセイン、ローダミン、オーラミン、テキサスレッド、AMCAブルーおよびルシファーイエローを含む。
【0074】
本発明の抗体は、検出可能な標識または機能的な標識により標識できる。検出可能な標識は、アイソトープ3H、14C、32P、35S、36Cl、51Cr、57Co、58Co、59Fe、90Y、121I、124I、125I、131I、111In、211At、198Au、67Cu、223Ac、213Bi、99Tcおよび186Reなどの放射標識を含むがこれらに限定されず、抗体画像診断の技術分野において公知の従来の化学を使用して、本発明の抗体に結合できる。標識は、蛍光標識、および当技術分野におけるMRI−CT画像診断のために慣習的に使用される標識もまた含む。それらは、ホースラディッシュペルオキシダーゼなどの酵素標識もまた含む。標識は、特異的な同族の検出可能な部分(例えば標識アビジン)への結合を介して検出できるビオチンなどの化学的部分をさらに含む。
【0075】
機能的な標識は、腫瘍組織の破壊を引き起こすために腫瘍部位を標的とするようにデザインされる物質を含む。そのような機能的な標識は、5−フルオロウラシルまたはリシンなどの細胞傷害薬、および腫瘍部位でプロドラッグを活性薬物に変換できる細菌性カルボキシペプチダーゼまたはニトロ還元酵素などの酵素を含む。
【0076】
放射性同位元素で標識された抗EGFR抗体およびその断片は、インビトロの診断法技術およびインビボの放射性画像診断技術ならびに放射免疫療法において有用である。インビボの画像診断の実例において、本発明の特異的結合メンバーは、放射性同位元素よりもむしろ、磁気共鳴造影剤(例えば抗体分子はキレート基を介して多数の常磁性イオンをロードする)を含むがこれらに限定されない造影剤にコンジュゲートできる。キレート基の例は、EDTA、ポルフィリン、ポリアミンクラウンエーテルおよびポリオキシムを含む。常磁性イオンの例は、ガドリニウム、鉄、マンガン、レニウム、ユウロピウム、lanthanium(ランタニウム)、ホルミウムおよびferbium(フェルビウム)を含む。本発明のさらなる態様において、放射性同位元素で標識された特異的結合メンバー、特に抗体およびその断片、特に放射免疫コンジュゲートは、特に癌療法のための放射性同位元素で標識された抗体として放射免疫療法において有用である。なおさらなる態様において、放射性同位元素で標識された特異的結合メンバー(特に抗体およびその断片)は、放射免疫ガイド下手術の技術において有用であり、それらは、癌細胞、前癌細胞、腫瘍細胞および過剰増殖性細胞の存在および/または位置を、そのような細胞除去手術の前、その間、またはその後に、同定および示すことができる。
【0077】
本発明の特異的結合メンバー(特に抗体およびその断片)が他の分子または薬剤へコンジュゲートまたは結合される本発明の免疫コンジュゲートまたは抗体融合タンパク質は、化学的アブレーション剤、毒素、免疫修飾物質、サイトカイン、細胞傷害剤、化学療法剤または化学療法薬にコンジュゲートした結合メンバーをさらに含むが、これらに限定されない。
【0078】
放射免疫療法(RAIT)は臨床に入っており、様々な抗体免疫コンジュゲートを使用して、有効性が実証されている。131I標識ヒト化抗癌胚抗原(抗CEA)抗体hMN−14は結腸直腸癌において評価され(Behr TM et al (2002) Cancer 94(4Suppl): 1373-81)、90標識による同じ抗体は甲状腺髄様癌において評価された(Stein R et al (2002) Cancer 94(1):51-61)。モノクローナル抗体を使用する放射免疫療法もまた評価されており、非ホジキンリンパ腫および膵臓癌について報告されている(Goldenberg DM (2001) Crit Rev Oncol Hematol 39(1-2):195-201 ; Gold DV et al (2001) Crit Rev Oncol Hematol 39 (1-2) 147-54)。特定の抗体による放射免疫療法もまた米国特許6,306,393および6,331,175において記述されている。放射免疫ガイド下手術(RIGS)もまた臨床に入っており、抗CEA抗体および腫瘍関連抗原に対して向けられた抗体の使用を含む有効性および有用性が実証されている(Kim JC et al (2002) Int J Cancer 97(4):542-7; Schneebaum S et al (2001) World J Surg 25(12): 1495-8; Avital S et al (2000) Cancer 89(8): 1692-8; Mclntosh DG et al (1997) Cancer Biother Radiopharm 12 (4):287-94)。
【0079】
本発明の抗体は、任意の適切な経路を介して、通常、血流もしくは脳脊髄液の中へ、または直接腫瘍の部位の中への注入によって、治療を必要性とする患者に投与できる。正確な用量は、抗体が診断または治療のためのものであるかどうか、腫瘍の大きさおよび位置、抗体(抗体全体、断片およびダイアボディなど)の正確な性質、ならびに抗体に結合された検出可能または機能的な標識の性質を含む、多数の因子に依存するだろう。放射性核種が治療法のために使用される場合には、適切な最大の単回用量は約45mCi/m2〜最大約250mCi/m2である。好ましい投与量は15〜40mCiの範囲であり、さらに好ましい投与量範囲は20〜30mCi、または10〜30mCiである。そのような治療法は骨髄または幹細胞の置換を必要としうる。腫瘍画像診断または腫瘍治療のいずれかのための典型的な抗体用量は、F(ab’)2の形態において0.5〜40mg、好ましくは1〜4mgの範囲の抗体である。そのままの抗体は、好ましくは1用量あたり20〜1000mgのタンパク質、1用量あたり20〜500mgのタンパク質、または1用量あたり20〜100mgのタンパク質の用量で投与される。これは成人患者の単一治療のための用量であり、それは小児および乳児については比例して調整され、また、分子量に比例して他の抗体形式のために調整できる。治療は、医師の裁量で毎日、週2回、週1回、または月1回の間隔で繰り返すことができる。
【0080】
本発明は、以下の非限定例と参照によってより理解でき、本発明の例示的なものとして提供される。以下の実施例は本発明の好ましい実施形態をより完全に説明するために提供されるが、本発明の幅広い範囲を限定するものとして解釈されるべきでない。
【実施例1】
【0081】
治療用抗EGFR抗体806は、マウスのデノボEGFR変異体依存的肺癌において反応を生じる。
活性化表皮増殖因子受容体(EGFR)変異は、ヒト非小細胞肺癌(NSCLC)においては、EGFRvIII変異を有するヒト肺扁平上皮細胞癌の5%およびEGFRキナーゼドメイン変異を有する肺腺癌の10〜30%で起こる。EGFR標的化モノクローナル抗体(mAb806)は、短縮型EGFRvIII変異体と同様に野生型(wt)EGFRのコンフォメーショナルエピトープを認識する。EGFR標的化癌療法のためのこの抗体の抗癌性スペクトルを調査するために、mAb806をEGFRvIII変異またはEGFRキナーゼドメイン変異のいずれかによって引き起こされた肺腫瘍に罹患する遺伝子操作マウスを治療するために使用した。我々の結果は、mAb806がEGFRvIIIシグナリングのブロックおよび腫瘍細胞アポトーシスの誘導に著しく有効であり、したがってEGFRvIIIで引き起こされるマウス肺癌において劇的な腫瘍退縮を結果として生じることをと実証する。他のEGFR標的化抗体(セツキシマブ)は、遺伝的に規定された肺腫瘍において活性を示さなかった。さらに、EGFRvIIIで引き起こされる腫瘍において観察されたものよりも少ない程度とはいえ、EGFRキナーゼドメイン変異によって引き起こされたマウス肺腫瘍のmAb806による治療は、有意な腫瘍退縮を誘導した。総合すれば、これらのデーターは、mAb806がこれらの2つのクラスのEGFR変異を有するNSCLC患者集団の治療において有意な活性を提供できるという仮説を支持する。
導入
【0082】
標的化癌療法は、発癌性および腫瘍増殖のために必要とされる特異的分子の機能を破壊するようにデザインされており、したがって癌細胞を殺傷するかまたはその増殖を阻害する(1)。従来の細胞傷害性化学療法とは対照的に、かかる標的化癌療法はより有効であり、正常細胞に対してそあまり有害でない。標的化癌療法の分野における主な取り組みは、表皮増殖因子受容体(EGFR)を標的とする薬剤の開発であった。EGFRは、EGFR(ErbB−1)、Her2/neu(ErbB−2)、Her3(ErbB−3)およびHer4(ErbB−4)を含む非常によく関連した受容体のErbBファミリーのメンバーである。EGFRの活性化は、癌細胞の継続的な増殖および生存に重要なプロセスであるアポトーシスの阻害(2−4)に加えて、受容体チロシンキナーゼの活性化、ならびに細胞の増殖、運動性、付着、浸潤および化学療法に対する耐性を仲介する一連の下流のシグナリング事象を導く。
【0083】
現在までに、抗EGFR抗体および低分子EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の2つの主なタイプの抗EGFRの薬剤が臨床設定に入った(5、6)。セツキシマブなどの抗EGFR抗体は、EGFRの細胞外ドメインに結合し、EGFR下流のシグナリングの活性化をブロックするようにデザインされた(7)。これとは対照的に、ゲフィチニブまたはエルロチニブなどの低分子TKIは、EGFRチロシンキナーゼの細胞内触媒ドメインへの結合のためのATPを競合し、したがってEGFR自己リン酸化および下流のシグナリングを阻害する(4)。
【0084】
これらの抗EGFRの薬物グループの両方は、様々な異なるタイプの癌に罹患した患者のサブセットにおいてある程度の臨床的有効度を示した。EGFRキナーゼドメイン変異を有する肺癌に罹患した患者におけるゲフィチニブまたはエルロチニブによる治療は、しばしば劇的な臨床反応を生ずる(5、8)。しかしながら、野生型EGFRを有する肺腺癌または扁平上皮癌などの他の組織学的なサブタイプにおけるゲフィチニブまたはエルロチニブの有効性は限定されている(9、10)。さらに、エクソンII〜VIIのインフレーム欠失がある別の活性化EGFR変異であるEGFRvIII変異体(11)の機能の阻害には、ゲフィチニブまたはエルロチニブは概して効果がないことが、前臨床試験および臨床試験において示された。EGFRvIIIはグリア芽腫において共通して見出され、ヒト肺扁平上皮細胞癌のサブセット(12)および頭頸部癌の大部分(13)で存在することが最近見出された。セツキシマブは、結腸直腸癌患者に加えて、非小細胞肺癌(NSCLC)患者の小サブセットおよび頭頸部癌に罹患した患者で有効であることが示される。しかしながら、セツキシマブに対する反応は、EGFRの発現レベルと相関するようには思われない。したがって、なぜこれらの患者がセツキシマブ治療に反応するが、EGFRを高発現する腫瘍に罹患する他の癌患者がセツキシマブ治療に対して抵抗性があるのかは明らかではない(14)。
【0085】
mAb806は特有の短縮変異体(EGFRvIII)を認識するようにもとは作製された新規マウス抗体である(15〜17)。重要なことには、mAb806によって認識されるエピトープは、不活性野生型(wt)EGFRでは接近可能でないが、EGFR過剰発現の細胞におけるwtEGFRの移行性形態、およびEGFRvIIIの発現において露出される(18)。エピトープの研究は、806抗体が、広範囲の上皮癌だけでなく、神経膠腫に存在するエピトープに結合するが、正常ヒト組織には結合しないことを実証する免疫組織化学的研究によって支援される(16、19)。これらおよび他の前臨床データーは、mAb806が、セツキシマブおよび他の抗EGFR抗体とは別の異なるスペクトルの臨床活性および副作用プロフィールを有することを示唆する。異種移植片モデルにおいて、mAb806は、正常組織を標的とせずに強力な抗腫瘍活性を示した。したがって、mAb806の特有の標的化能力は、癌特異的分子標的化療法についての新しいパラダイムを表わす。
【0086】
最近の研究から、NSCLC患者の10〜30%はEGFRキナーゼドメイン変異を有するが、肺扁平上皮癌(SCC)患者の5%は細胞外ドメインEGFRvIII変異を有することが示された(12、20)。EGFR変異を保有するNSCLC患者における癌特異的標的化療法におけるmAb806の臨床能力を研究するために、EGFRvIII変異体またはEGFRキナーゼドメイン変異体に依存する2つの確立したマウス肺癌モデルを利用した。我々のデーターは、mAb806がEGFRvIII変異またはEGFRキナーゼドメイン変異のいずれかの発現によって引き起こされたマウスNSCLCの治療において非常に有効であることを示し、この抗体がそのマウスの腫瘍に類似した変異を有する患者において臨床活性を有することを示唆する。
結果
セツキシマブではなくmAb806による治療は、EGFRvIII変異による肺腫瘍を持つマウスにおいて腫瘍退縮を誘導する。
【0087】
従来の研究から、変異によって引き起こされたマウス肺腫瘍の腫瘍維持において、EGFRvIII変異が必須の役割を持つことが確立されている。EGFRvIII活性化のブロックは、デノボマウス肺癌モデルにおいてアポトーシスに関連した劇的な腫瘍退縮をもたらす(12)。Tet−op−EGFRvIII/CCSP−rtTA、Ink4A/Arf−/−マウスは、8〜10週間のドキシサイクリン投与後に細気管支肺胞上皮癌(BAC)特徴を備えた肺腺癌を発症した(図1、左側パネル;図2A、上部パネル)。腫瘍を持つマウスをMRIによって同定した後、1用量あたり0.5mgのmAb806を腹腔内(I.P.)注射で第1週の間は毎日、その後次の4週の間は2日ごとに与えた。1、3および5週間の治療の終了時に連続MRIを実行し、腫瘍容積および/または密度の変化を決定した。腫瘍減少はmAb806治療の1週間後のMRIによって顕著に見られた(6匹のマウスの中では60%±5%の平均減少、図1、上部パネル)。3週間の治療後に全身腫瘍組織量は減少し続け(95%±8%の平均減少)、5週間の治療後に6匹のマウスすべてに完全な腫瘍退縮が見られた。これとは対照的に、セツキシマブによるマウスの治療は、同じ投薬スケジュールによるマウスあたり1mgで5週間の治療後でさえ、4匹のTet−op−EGFRvIII/CCSP−rtTA、Ink4A/Arf−/−マウスにおいて腫瘍退縮を誘導することができなかった。セツキシマブにより治療されたマウスが次第に虚弱になっていき、治療期間の間に有意な全身腫瘍組織量のために何匹かのマウスの死亡さえ起こったこともまた観察された(データー不掲載)。
【0088】
MRI所見に関連するマウス肺の病理学検査から、腫瘍細胞充実度の減少がmAb806による治療の1週間後の腺癌に見られた(図2A、中央パネル)。5週間後に、肺においては単球の細胞浸潤はまばらであり、局所性線維化および瘢痕化を有しており、退縮した腫瘍からの再構築が継続する領域を潜在的に表わしていた(図2A、下部パネル)。これらのいくつかの線維性の結節の病巣中に生存癌細胞をまだまれに観察できたが、大部分の線維化および瘢痕化領域はいかなる腫瘍細胞も含んでいなかった。これとは対照的に、セツキシマブに治療されたマウスからの腫瘍は、無治療の腫瘍と比較したときに目視可能な組織学的な差はなく影響がないように思われた(データー不掲載)。したがってmAb806抗体による治療は、EGFRvIIIで引き起こされるマウス肺癌モデルにおいて急速で劇的な腫瘍退縮を導いたが、セツキシマブ治療は概して効果がなかった。
mAb806はEGFRvIIIリン酸化を阻害し、Tet−op−EGFRvIII/CCSP−rtTA、Ink4A/Arf−/−マウスにおける腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する。
【0089】
腹腔内に投与されたmAb806が肺腫瘍中で標的を認識したかどうかを決定するために、全EGFRおよびリン酸化EGFRに対する抗体を使用して、mAb806ありまたはmAb806なしで治療したマウスの肺腫瘍において免疫組織化学的染色を実行した。予想されるように、mAb806治療は腫瘍細胞における全EGFRvIII発現に効果がなかった(図2B)。しかしながらリン酸化EGFRvIIIの発現はmAb806治療の1週間後に減少した(図2B)。次にmAb806による治療の間の異なるタイムポイントで回収された肺溶解物を使用するイムノブロット分析によってこれらの結果を確認した。リン酸化EGFRvIIIのレベルは1週間のmAb806治療後に劇的に減少したが、全EGFRvIIIレベルは無治療対照群のレベルと同じままであり(図3)、EGFRvIIIリン酸化に対するmAb806の強力な抑制効果を示した。興味深いことには、最終的には全EGFRvIIIレベルは5週間のmAb806投与後に減少した。これについての1つの説明は生存可能な腫瘍細胞数の劇的な減少であろう。この解釈と一致して、無治療の腫瘍と比較して、mAb806治療の1週間後の肺腫瘍において大幅に増加したTUNEL染色が観察された(図2C)。1週間のmAb806治療により、リン酸化EGFRレベルの変化に加えてリン酸化AKtおよびリン酸化Erk1、2の発現もまた減少し、これらのEGFRの下流のシグナリング分子は機能的に抗アポトーシスおよび増殖の経路に関連している。意外にも、1週間の治療と比較したときに、5週間のmAb806治療後にリン酸化AKtレベルの弱いが再現性のある増加が観察された。リン酸化EGFRvIIIがこのタイムポイントでは低いので、Aktのこのリン酸化がEGFRvIIIによって開始されることはありそうではない。恐らく、肺再構築プロセスに関与する他のシグナリング事象によってAktを活性化できるのかもしれない。これらのデーターは、EGFR活性化をブロックし腫瘍細胞のアポトーシスを増加させることによって、mAb806がEGFRvIIIマウス中で腫瘍退縮を誘導したことを示唆する。
ch806治療はEGFRvIII変異によるマウス肺腫瘍において劇的な腫瘍退縮を導く。
【0090】
ch806はmAb806のヒト化形態である(22)。ヒト化抗体が肺腺癌の治療においてマウスmAb806と同じくらいインビボで効率的であるかどうかを決定するために、I.P.注射によって、第1週の間は毎日0.5mgのch806の1用量、およびその後次の7週間は2日ごとに1用量で,担癌Tet−op−EGFRvIII/CCSP−rtTA、Ink4A/Arf−/−マウスを治療した。これらのマウスは1.5、5および8週間の治療で再び画像診断を行い、次に組織学的分析のために屠殺した。MRIスキャニングにより観察される腫瘍容積の劇的な減少は1.5週間の治療(43%±3%)から始まり、ch806により治療している4匹のマウスの各々において8週間の治療(83%±7%)でほぼ完全な腫瘍退縮が達成された(図1、下部パネル)。ch806により治療されたマウスの組織構造(データー不掲載)はmAb806治療後の腫瘍の組織構造と同様であり、MRIデーターと一致していた。
ch806はEGFRのL858R変異を持つマウス肺腫瘍の治療に有効である。
【0091】
ch806がEGFRキナーゼドメイン変異で引き起こされる肺癌に対して有効であるかどうかを検討するために、EGFR L858R−IRES−ルシフェラーゼ/CCSP−rtTAマウスを用いた。ch806を0.5mg/マウスで4週間毎日投与し、すべての治療したマウスの連続MRIスキャニングを1、2および4週間の治療の終了時に実行した。腫瘍退縮は2週間のch806治療(21%±2%)後に観察され、4週間のch806治療では41%±2%であった(図4A)。顕微鏡による観察では、ch806で治療したマウスの肺は、特に残存する生存可能な腫瘍を囲む領域におけるマクロファージのび慢性細胞浸潤の増加が示された。さらにマクロファージは腫瘍の複数の領域に存在し、マクロファージ仲介性細胞傷害が抗体誘導性腫瘍退縮の潜在的メカニズムの1つかもしれないことを示唆する(図4B)。腫瘍細胞に関連したマクロファージの蓄積増加に起因する肺内部の硬化の存在は、MR画像による腫瘍容積を過大評価させたことにも注意すべきである。
考察
【0092】
EGFRの変異および活性化の事象は、NSCLCを含むヒト悪性腫瘍において一般的である。EGFRシグナリングの活性化は、EGFRの機能獲得性変異型に起因する構成的シグナリングに加えて、受容体過剰発現を介しても起こりうる。NSCLC患者のおよそ10〜30%は肺腫瘍にEGFRキナーゼドメイン変異を有しており、扁平上皮細胞肺癌に罹患した患者の約5%は特異的EGFRvIII細胞外ドメイン変異を有する(12、20)。mAb806およびそのヒト化形態(ch806)が両方のタイプのEGFR変異を有するマウス肺癌の治療に有効であることをここで示す。観察された劇的な腫瘍退縮は、EGFRvIIIシグナリングの遮断状態、および結果的にアポトーシスの増加と関連していた。EGFRキナーゼドメイン変異を有する肺腫瘍のマウスにおいて、ch806に対する反応は、エルロチニブおよびセツキシマブについて報告された反応ほど目覚ましくなかったが、X線写真および組織学的に客観的反応(41%±2%)があった(21、23)。これとは対照的に、EGFRvIIIで引き起こされる肺腫瘍のマウスにおいて、mAb806の治療後にほぼ完全な腫瘍退縮が達成されたが、セツキシマブは効果がなかった。セツキシマブはリガンドとEGFR細胞外ドメインとの間の相互作用を妨害するようにデザインされているので、この後者の結果は恐らく驚くようなことではない(24)。EGFRvIII変異がコンフォメーション変化を導き、腫瘍形成に寄与するリガンド刺激非依存性構成的キナーゼ活性を示すことが立証されている(25)。セツキシマブは癌患者のためにFDAによって承認されたが、反応率および全体的な生存が免疫組織化学によるEGFRタンパク質発現と相関していないので、個々の患者においてこの抗体の治療の有効性を予測する明瞭なバイオマーカーはない(14)。
【0093】
低分子TKIは、EGFRキナーゼドメイン変異を有する多くのNSCLC患者の治療に有効であるが、すべての患者は最終的には二次変異のT790Mと関連した耐性を発症する(10、26)。これとは矛盾なく、インビトロの研究から、T790M変異を有する腫瘍細胞がエルロチニブの治療に耐性があることが示された(27、28)。二次T790M変異を有するEGFRキナーゼドメインの結晶構造からの証拠は、受容体機能に対してT790M変異の効果がほとんどないことを示す。それは、ATPアーゼポケットへのエルロチニブの結合をT790M変異が妨害するということかもしれない(27)。それにもかかわらず、T790M変異体の細胞外ドメインは、セツキシマブおよびmAb806を含む抗体に基づく癌療法のための優れた標的を提供する可能性がある。これは、二次T790M点変異を有するNSCLC腫瘍(少量のTKI治療に耐性がある)がmAb806治療に反応しうることを意味する。活性化キナーゼドメイン変異およびT790M変異の両方を含む化合物変異体EGFR対立遺伝子を保有するマウスを作製する取り組みはこの仮説を検査するために進行中である。
【0094】
最近発表されたフェーズI臨床試験からのデーターは、セツキシマブとは異なり、ch806抗体は扁平上皮細胞肺癌を含む肺癌の腫瘍細胞に選択的に結合するが、正常組織には結合しないことを示した。(Scott, ASCO 2006)。ch806抗体の有意な毒性はこの試験において観察されなかった。セツキシマブ治療およびTKI治療を含む他のEGFR標的化癌療法と比較して、ch806は癌細胞上のEGFRのコンフォメーショナルに依存するエピトープの標的とし、全部ではないが大部分の正常細胞上のwt EGFRは逃れさせることによってはるかに高い特異性を有するように思われる。我々の結果は、EGFRシグナリングのブロックに対するmAb806の有効性を明白に示す。したがって、ch806の特有の標的化能力は、癌に特異的分子標的化療法のための新しくエキサイティングなパラダイムを表わし、癌が過剰発現またはEGFRvIII変異もしくはEGFRキナーゼドメイン変異を含む機能獲得型変異に起因する非抑制性EGFRシグナリングに依存する癌に罹患する患者に役立つことができる。
方法
マウスコホート。
【0095】
Tet−op−EGFRvIII/CCSP−rtTA、Ink4A/Arf−/−マウスおよびTet−op−EGFRL858R−IRES−ルシフェラーゼ/CCSP−rtTAマウスの作成は以前に記述された(12、21)。マウスはすべてハーバード公衆衛生大学院(Harvard School of Public Health)で病原体を含まない環境に収容し、実行されたすべてのマウス実験は施設内の動物実験委員会(IACUC)により承認された。同腹仔はすべての実験において対照として使用する。EGFRvIIIおよびEGFR L858Rの発現を誘導するために、マウスにドキシサイクリン飼料(リサーチ・ダイエット(Research Diets)社)の餌を与えた。従来の研究のドキシサイクリン中止実験は、両方の対立遺伝子からの肺腫瘍がドキシサイクリンにもっぱら依存することを明らかに同定した。
mAb806またはch806またはセツキシマブのいずれかをインビボで使用する標的化療法。
【0096】
8週間以上の間の継続的なドキシサイクリン飼料を与えたマウスのMRIを行い、肺腫瘍負荷を立証した。mAb806またはch806(ルードウィヒ癌研究所(Ludwig Institute for Cancer Research)、メルボルン、オーストラリアにより作製された)を、1用量あたり0.5mgでI.P.注射を介して肺腫瘍を持つマウスへ毎日送達した。1週間の治療後に、追加の指示された週にわたって2日ごとに同じ用量で抗体を投与した。セツキシマブ(BMSファーマシューティカルズ(BMS pharmaceuticals)から購入した)を同じ投薬スケジュールを使用して、1つの用量あたり1mgでI.P.注射によりマウスに投与した。マウスは指示されたタイムポイントでMRIにより画像診断して腫瘍容積の減少を測定し、次に治療の完了後にさらなる組織学的研究および生化学的研究のために屠殺した。すべてのマウスは実験の全体にわたってドキシサイクリン飼料で飼育した。同腹仔を対照としてすべての薬物治療研究のために使用した。
肺腫瘍の病理学的評価。
【0097】
マウスは指示された時間で安楽死させ、左肺を生化学分析のために切り分けて急冷凍結した。次に右肺を中性に緩衝された10%ホルマリンによる加圧(25cm)下で10分間膨張させ、一晩固定した。ヘマトキシリン‐エオジン(H&E)染色は、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院(Brigham and Women’s Hospital)の病理部において、ホルマリン固定しパラフィン包埋した腫瘍サンプルの5μm厚の切片上で実行した。
【0098】
免疫組織化学的分析をホルマリン固定パラフィン切片上で実行した。スライドをキシレン中で脱パラフィンし、エタノール中で連続して再水和した。抗原性回復が必要な抗体のために、抗原暴露溶液(antigen−unmasking solution)(ベクター・ラボラトリーズ(Vector Laboratories)社)を製造者の使用説明書に従って使用した。スライドを過酸化水素(0.3%〜3%)中でクエンチングして内在性ペルオキシダーゼ活性をブロックし、次にオートメーションバッファー(フィッシャー・サイエンティフィック(Fisher Scientific)社)中で洗浄した。スライドは室温で1時間5%正常血清中でブロックし、次にブロッキングバッファー中で希釈された一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。アビジンビオチンペルオキシダーゼ複合体法(ベクター社)を使用し、スライドをヘマトキシリンにより対比染色した。スライドをエタノール中で連続して脱水し、キシレンにより透明化し、パーマウント(Permount)(フィッシャー社)によりマウントした。ビオチン化DBAレクチン(ベクター社)は1:100で使用した。使用する抗体は、全EGFRおよびリン酸化EGFR Y1068(1:50、セル・シグナリング・テクノロジー(Cell Signaling Technology)社)に対するものであった。アポトーシスは、TUNEL分析(アポプタッグ(ApopTag)キット;インタージェン(Intergen)社)を使用して、陽性細胞をカウントすることによって測定した。
ウエスタンブロット分析。
【0099】
急冷凍結した肺組織サンプルは、コンプリートプロテアーゼインヒビターカクテル(Complete Protease Inhibitors Cocktail)およびホスファターゼインヒビターカクテルセット(Phosphatase Inhibitors Cocktail Set)IおよびII(EMDバイオサイエンス(EMD Biosciences)社)を含む、RIPAバッファー(ボストン・バイオプロダクト(Boston Bioproducts)社)中でホモジナイズした。肺溶解物は遠心分離により清澄化し、1×の最終的なドデシル硫酸ナトリウム(SDS)サンプル緩衝液(50mMトリス(pH6.8)、10%グリセロール、0.715Mβ−メルカプトエタノール、2%SDSおよび0.01%ブロモフェノールブルー)中で5分間煮沸した。次に溶解物をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)によって分離し、ニトロセルロース膜に転写し、スーパーシグナルウェストピコ(SuperSignal West Pico)化学発光基質(ピアース・バイオテクノロジー(Pierce Biotechnology)社)を使用して、抗体によるイムノブロットによって検出した。この研究において使用する抗体は、全EGFR、リン酸化EGFR(pY1068)、全Akt、リン酸化AKT(pS473)、全Erk1/2およびリン酸化ERK1/2(pT202/pY204)(すべてセル・シグナリング(Cell Signaling)社から);ならびにβ−アクチン(サンタクルズ・バイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology)社)に対するものである。抗体は製造者により推奨された条件に従って使用した。
MRIおよび腫瘍容積測定。
【0100】
動物は、ノーズコーンを介して100%酸素中で混合した1.5〜2%イソフルラン(イソフロ(IsoFlo)、アボット・ラボラトリーズ(Abbot Laboratories)社)により麻酔をかけた。体動の問題をなくすために、心臓ゲーティングおよび呼吸ゲーティングの両方をすべてのMRI研究に適用した。MR信号の受信が心臓周期および呼吸周期と同期するので、MR信号は各心位相および終末呼気相で受信され、体動アーチファクトを著しく減少させることを可能にする。
【0101】
正常マウスにおける肺実質および肺血管の評価のために最適化されたMRIプロトコール(29)は、4.7テスラ(バイオスペック(Biospec)47/40、ブルカー・バイオスピン(Bruker BioSpin)社、カールスルーエ、ドイツ)での操作のために改変した。このシステムは、30G/cmの最大電力勾配により遮蔽された勾配システムおよび心臓−呼吸トリガーシステム(cardiac−respiratory triggering system)(バイオトリグ(BioTrig)、ブルカー・バイオスピン社、カールスルーエ、ドイツ)を装備する。次に動物を、身体の上の心臓ゲーティングおよび呼吸センサーのための電極(前部パッドおよび左側後部パッドの両方)と共に、胸部を無線周波数バードケージコイル(内径3cm)の中心に関してセンタリングして腹臥で頭から先にシステムへと置いた。画像化領域の再現性のある位置決めのために、終末呼気相ローカライザとして働く低分解能マルチスライス画像を、高速スピンエコーシーケンスを使用して、横断面および前額面の両方で肺全体について最初に取得した(RARE:緩和増強による急速撮像、TR/実効TE=1000/28ミリ秒、帯域幅=50kHz、視野=30mm、マトリックス=128×128、スライス厚=1mm、励起回数=1)。さらに、二次元(2D)マルチスライスグラディエントエコー画像診断は、心臓−呼吸ゲーティングにより全体肺を包含するマルチスライスの横断面および前額面で実行した。1つのk空間ラインが単一の心拍ごとに各画像について満たされる場合には、パルス繰返し時間(TR)は、1つの心臓周期(150〜200ミリ秒にわたる、平均178ミリ秒)の継続期間未満で選択された。最小エコー時間(TE:1.8ミリ秒)を空気/骨および組織との間の境界面から生じる磁化率効果を減少させるために使用し、使用しなければMR信号は減少する。他のスキャンパラメーターは、フリップ角=22°、マトリックスサイズ=256×256、視野(FOV)=2.56cm2、スライス厚=1mm、および励起回数(NEX)=4であり100μm2面内分解能を与えた。全スキャンタイムは個々の動物の心拍数/呼吸数に依存して、各面においておよそ6〜7分であった。各MR画像上で肺腫瘍を示す領域を手動で分けて測定し、イメージJ(ImageJ)(バージョン1.33、国立衛生研究所)を使用して腫瘍容積を計算した。

〔文献〕





【実施例2】
【0102】
806 抗体はEGFR T790M変異を有する肺腫瘍において腫瘍退縮を導く
ヒトEGFR二次変異T790Mを発現するマウスを作製した。mab806を、1マウスあたり1用量あたり0.5mgのI.P.注射を介して肺腫瘍を持つマウスへ4週間毎日送達した。治療したマウスの連続MRIスキャニングを、以下に記載されるような2週間および4週間の治療の終わりで実行した。
Tet−op−hEGFR T790M−L858R/CCSP−rtTAマウスコホートの作製
【0103】
ヒトEGFR T790M−L858R変異体の誘導可能な発現を備えたマウスを作製するために、我々は、テトラサイクリン(tet)−オペレーター配列の7つのダイレクトリピート、続いてEGFR T790M−L858RのcDNAおよび?−グロビンポリAからなる4.7kbのDNAセグメントを構築した。コンストラクトをFVB/N胚盤胞の中へ注入し、子孫はPCR法を使用してスクリーニングした。15匹のTet−op−hEGFR T790M−L858Rファウンダーを同定し、次にCCSP−rtTAマウス(対立遺伝子はII型肺胞上皮細胞においてリバーステトラサイクリントランス活性化タンパク質(rtTA)の発現を特異的に標的とすることが示される(Fisher GH et al (2001) Genes Dev 15(24):3249-62))に交配して、活性化因子および応答導入遺伝子の両方を保有する誘導可能な両遺伝子を導入したマウスコホートを作製した(Fisher GH et al (2001) Genes Dev 15(24):3249-62; Perl AK, Tichelaar JW, and Whitsett JA. (2002) Transgenic Res 1 l (l):21-9)。4匹の厳密に調節されたhEGFR T790M−L858R(#17、#19、#24および#29)ファウンダーをRT−PCR分析によって同定し、個々のファウンダーのコピー数を定量的リアルタイムPCRによって測定した(Ji H et al (2006) Cancer Cell 9(6):485-95)。
肺組織におけるEGFR T790M−L858RのRNAレベルでの厳密に調節された発現
【0104】
肺コンパートメントにおけるEGFR変異体導入遺伝子発現の誘導性を、ヒトEGFR特異的プライマーによるRT−PCRによってRNAレベルで評価した。各々の可能性のあるファウンダーについて、両遺伝子を導入したマウスTet−op−hEGFR T790M−L858R/CCSP−rtTAコホートの肺を、8週間のドキシサイクリン投与前および投与後、ならびに8週間の期間のドキシサイクリン投与に続く3日のドキシサイクリン投与中止後に回収した。EGFR変異体転写物は、非トランスジェニックマウス、またはドキシサイクリン処理なしの両遺伝子を導入したマウスのどちらからも検出できなかったが、8週間のドキシサイクリン投与後には容易に検出可能となり、変異体EGFRの転写はすべての系統において3日のドキシサイクリン投与中止によって完全に消失した。変異体EGFR転写物が誘導可能であり、ドキシサイクリンによって厳密に調節されることをさらに確認するために、上述されるものと同じプライマーを使用するRT−PCRおよび定量的リアルタイムPCRを、ファウンダー#19からドキシサイクリン投与および投与中止の連続的なタイムポイントで回収した肺サンプルについて実行した。EGFR発現はドキシサイクリン投与の1週間後に観察され、投与の8週間の期間を通じて同等のレベルで維持され、ドキシサイクリン投与中止は変異体EGFRの発現をブロックするのに十分であり、導入遺伝子の発現はドキシサイクリン投与中止の12週間後には観察されなかった。
【0105】
EGFR T790M−L858R変異体の過剰発現は、実質組織における細気管支肺胞の特徴を備えた肺腺癌および気道における乳頭状腺癌の進行を引き起こす。
hEGFR変異体の過剰発現が肺腫瘍発生を引き起こすかどうかを決定するために、継続的にドキシサイクリンを投与した両遺伝子を導入したhEGFR T790M−L858R/CCSP−rtTAマウスに連続磁気共鳴画像(MRI)を行い、様々なタイムポイントで肺の組織学的検査のために屠殺した。ドキシサイクリン投与の5〜6週間後にMRIによってのみ腫瘍を観察することができ、腫瘍容積はMRIによって確定されるようにドキシサイクリン処理の延長に続いて増加した。無処理のマウスとは対照的に、初期病変は2〜3週間のドキシサイクリン処理後に肺の実質組織において発生し始めた。4〜5週間後に典型的なBACが現われた。
【0106】
細気管支肺胞の特徴を備えた侵襲性腺癌が7〜9週間後に現われ、12週間のドキシサイクリン処理後に優性な組織学的パターンとなる。このマウスモデルにおいて観察された肺実質腺癌は、以前に記述されたEGFR L858Rマウスモデルの癌に組織学的に類似し(Ji, H., et al. (2006) Cancer Cell 9:485-495; Politi, K., et al. (2006) Genes Dev. 20: 1496-1510)エルロチニブに初めは反応したNSCLC患者のサブセットにおいて見られ癌にもまた類似する。
【0107】
hEGFR T790M−L858R/CCSP−rtTAマウスは、実質腺癌に加えて、気管支乳頭状腺癌もまた発症した。2〜3週間の継続的なドキシサイクリン投与後に細気管支において初期の乳頭状新生物が観察され、次に追加の6〜8週間以内に腺癌へと発達した。4匹のファウンダーはすべて類似した形態学的特徴および類似した腫瘍形成潜伏期を示した。気管支腫瘍は、最新の研究において同定されたhEGFR T790M−L858R/CCSP−rtTAマウスの4匹のファウンダーのすべてにおいて見出されたが、EGFR L858Rマウスのすべてにおいては存在しなかった。たまに、EGFR T790M−L858Rで引き起こされる肺腫瘍を発生するマウスのリンパ節において腺癌の転移巣を観察することができるが、EGFR L858Rで引き起こされる腫瘍を有するマウスのリンパ節では観察されなかった。気管支腫瘍および実質腫瘍の両方についての特異的細胞マーカーによるIHC染色は、異なるパターンの分化を示す。プロサーファクタントタンパク質C(SPC)は肺胞におけるII型肺細胞に特有のバイオマーカーであるが、クララ細胞分泌タンパク質(CCSP)は細気管支の上皮におけるクララ細胞に特異的である。大多数の実質腫瘍は強いSPC染色を示し、予想されるようにII型肺細胞起源を意味する。これとは対照的に、気管支腫瘍はSPCについて陰性だった。興味深いことには、気管支腫瘍細胞の少量のサブセットのみがCCSPについて陽性である。恐らくCCSP発現マーカーの消失に結びつくクララ細胞起源の低分化度によって、これについて説明できるかもしれない。
hEGFR T790M−L858R変異体の発現は実質腺癌および気管支腺癌の両方の腫瘍維持のために必須である
【0108】
hEGFR T790M−L858R/CCSP−rtTAマウスからの気管支腺癌および実質肺腺癌の両方は、全EGFR抗体およびリン酸化EGFR抗体によって陽性に染色され、発現されたEGFR変異体が機能的に活性のあることを示す。3日のドキシサイクリン投与中止後に、いずれかの抗体からの陽性のシグナルは観察されず、両方のタイプの腫瘍がEGFR T790M−L858Rで引き起こされることおよびそれらの生存がEGFR T790M−L858Rに依存することを示唆する。ドキシサイクリン投与中止後に、末端デオキシヌクレオチド転移酵素仲介性dUTP−ビオチンニック末端標識(TUNEL)分析の陽性染色の増加もまた観察され、アポトーシスプロセスが誘発されたことが示された。
【0109】
TUNEL染色によって示唆されたアポトーシスと一致して、EGFR T790M−L858Rで引き起こされる肺腫瘍が10日のドキシサイクリン投与中止後に完全に退縮したことはMRIの結果から実証される。MRIによって検査したマウスと同じマウスからの肺の顕微鏡分析は、肉眼で見て正常な肺組織学を示す。他の担癌マウスにおける12週間のドキシサイクリン投与中止後に、気道または実質組織のどちらかにおいて腫瘍病変は見出されなかった。
【0110】
タンパク質レベルでの腫瘍中の変異体EGFR発現をよりよく定量するために、ドキシサイクリン投与の異なる時期の後に、両遺伝子を導入したマウスからの全肺溶解物を使用するウェスタンブロッティングを実行した。個体差は存在するが、EGFRリン酸化は、ドキシサイクリンによって厳密に調節され腫瘍の存在と同調し、IHC染色およびMRIにおいて観察されるように、腫瘍維持において変異体EGFRシグナリングが必須の役割を持つことを確証した。したがってEGFRは、新規マウス肺癌モデルのための魅力的な治療標的であり続ける。
【0111】
EGFR T790M−L858Rで引き起こされる肺腫瘍のmAb806による治療
mAb806vsセツキシマブによるEGFR T790M−L858R肺腫瘍の治療の結果を図5に示す。8週間以上の間継続的にドキシサイクリン飼料を与えたマウスにMRIを行ない、全身腫瘍組織量を立証した。mab806を、0.5mgの用量でI.P.注射を介して肺腫瘍を持つマウスへ4週間毎日送達した。セツキシマブを、1用量あたり1mgでI.P.注射によってマウスに対して4週間毎日投与した。マウスは、0、2および4または5週間でMRIにより画像診断し、腫瘍容積の減少を決定した。腫瘍容積は、mAb806による治療によって2週間で減少し(20%以上)、および4週間でより著しく(30%以上)減少した。腫瘍容積はセツキシマブによる治療によって2週間で最初は減少したが、腫瘍容積はセツキシマブによる5週間の治療までに著しく増大した(5週間のセツキシマブ治療で観察された腫瘍容積は、0週間でのもとの容積よりも大きかった)。治療およびMRI画像診断の完了後に、マウスはさらなる組織学的研究および生化学的研究のために屠殺した。同腹仔を対照としてすべての治療研究のために使用した(治療なし)。
【0112】
本発明は、その趣旨または本質的特質から逸脱せずに、他の形態で具体化または他の方法で実行できる。したがって、説明するすべての態様におけるように、そして限定的ではなく、本開示は判断されることになっており本発明の範囲は添付された請求項によって示され、等価な意味および範囲内で生じるすべての変更は本発明中に包含されることが意図されている。
【0113】
様々な参照文献がこの明細書の全体にわたって引用され、その各々はその全体を参照することによって本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類におけるチロシンキナーゼ阻害剤耐性EGFR仲介性疾患の治療方法であって、該耐性EGFR仲介性疾患が変異体EGFRを生じるEGFRにおける二次変異の結果であり、該変異がEGFRvIII変異とは異なり、変異体EGFRに結合し阻害することが可能な抗EGFR抗体の有効量を該哺乳類に対して投与することを含む、治療方法。
【請求項2】
前記二次EGFR変異がEGFRチロシンキナーゼドメイン変異である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記チロシンキナーゼドメイン変異がT790Mである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗EGFR抗体がmAb806抗体またはその活性断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記mAb806が組換え抗体またはヒト化抗体である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記抗EGFR抗体が、ABX−EGF(パニツムマブ)、DH8.3、L8A4、および/またはその活性断片から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記EGFR仲介性疾患が、癌であり、グリア芽腫、頭頸部癌、膵臓癌、肺癌、神経系の癌、消化管癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、腎臓癌、網膜癌、皮膚癌、肝癌、泌尿生殖器癌および膀胱癌から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記癌が、肺腺癌、肺扁平上皮癌または非小細胞肺癌である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
癌患者におけるEGFR仲介性腫瘍増殖を減少させる方法であって、該癌患者はあらかじめ1つまたは複数チロシンキナーゼ阻害剤により治療され再発性疾患および腫瘍増殖を発症し、再発性疾患および腫瘍増殖が阻害および減少されるように抗EGFR抗体の有効量を該患者に対して投与することを含む方法。
【請求項10】
前記抗EGFR抗体がmAb806抗体またはその活性断片である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記mAb806が組換え抗体またはヒト化抗体である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記抗EGFR抗体が、ABX−EGF(パニツムマブ)、DH8.3、L8A4、および/またはその活性断片から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記癌患者が、EGFRチロシンキナーゼドメイン変異である二次EGFR変異を発生する、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記チロシンキナーゼドメイン変異がT790Mである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
チロシンキナーゼ阻害剤および抗EGFR抗体を該哺乳類に対して投与することを含む哺乳類におけるEGFR仲介性癌の治療方法であって、チロシンキナーゼ阻害剤に耐性のある潜在的な二次変異体EGFRを阻害するために該抗EGFR抗体がセカンドライン療法としてチロシンキナーゼ阻害剤による治療後に投与される治療方法。
【請求項16】
前記EGFR仲介性癌が、グリア芽腫、頭頸部癌、膵臓癌、肺癌、神経系の癌、消化管癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、腎臓癌、網膜癌、皮膚癌、肝癌、泌尿生殖器癌および膀胱癌から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記癌が肺腺癌、肺扁平上皮癌または非小細胞肺癌である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が可逆的チロシンキナーゼ阻害剤であることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記可逆的チロシンキナーゼ阻害剤が、アニリニキナゾリン(aniliniquinazoline)、ゲフィチニブ、エルロチニブ、AG1478、ST1571およびSU−6668から選択されることを請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、不可逆的チロシンキナーゼ阻害剤である、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記不可逆的チロシンキナーゼ阻害剤が、EKB−569、EKI−569、HKI−272、HKI−357およびBIBW2992から選択される、請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−516770(P2010−516770A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−547312(P2009−547312)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際出願番号】PCT/US2008/001024
【国際公開番号】WO2008/091701
【国際公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(592090692)ダナ ファーバー キャンサー インスティテュート,インコーポレイテッド (20)
【Fターム(参考)】