説明

EGRシステム

【課題】一部の気筒に対し個別に接続された排気配管と吸気配管とが接続されたEGRシステムにおいて、各気筒におけるEGR率のばらつきを抑えることが可能なEGRシステムを提供する。
【解決手段】6つの気筒1〜6を有するエンジン10のインテークマニホールド12に接続される吸気配管13と、気筒1に対し、気筒2〜6に対応する排気配管16とは別に設けられる排気配管であって、吸気配管13に接続される第1EGR配管22と、を備え、第1EGR配管22が接続される気筒1からの排気が、当該第1EGR配管22を通じて吸気配管13に強制的に還流されるEGRシステムにおいて、吸気配管13には、第1EGR配管22との接続部よりも下流に、流路面積を局部的に大きくするバッファ部30が配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の気筒を有するエンジンに適用され、一部の気筒に対し個別に接続された排気配管と吸気配管とが接続されるEGRシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、EGRシステムとしては、例えば特許文献1のように、一部の気筒に対し他の気筒とは異なる排気配管が接続され、該排気配管と吸気配管とが接続されてなる強制EGR機構を備えたものが知られている。また、例えば、タービンの上流とコンプレッサーの下流とがEGR配管によって接続され、該EGR配管に配設されたEGR弁の開度が制御されることよって排気の還流量が調整される高圧EGR機構を備えたものも知られている。これら強制EGR機構及び高圧EGR機構から構成されるEGRシステムの一例について図3を参照して説明する。図3は、強制EGR機構及び高圧EGR機構から構成されるEGRシステムの概略構成を示した構成図である。
【0003】
図3に示されるように、EGRシステム20は、6つの気筒1,2,3,4,5,6を有する直列6気筒のエンジン10に適用され、該エンジン10にはターボチャージャ11が配設されている。気筒1〜6に接続されたインテークマニホールド12には、吸気配管13が接続され、該吸気配管13には、インタークーラー14が接続されている。また、気筒2〜6に接続されたエキゾーストマニホールド15には、排気配管16が接続され、該排気配管16には、ターボチャージャ11を構成するタービン11bが接続されている。
【0004】
強制EGR機構21は、気筒1に対し個別に接続され、且つ吸気配管13に接続される排気配管である第1EGR配管22を有している。第1EGR配管22には、吸気配管13へと還流される排気を冷却するための第1EGRクーラー23が配設されている。
【0005】
高圧EGR機構26は、エキゾーストマニホールド15と吸気配管13とに接続される第2EGR配管27を有している。第2EGR配管27には、吸気配管13へと還流される排気を冷却する第2EGRクーラー28と、排気側と吸気側の圧力差に基づく排気の還流量を制御するEGR弁29とが配設されている。
【0006】
こうした構成のEGRシステム20によれば、気筒1からの排気の全てが吸気配管13に還流される。そのため、同じ量の排気が吸気配管13に還流される前提であれば、高圧EGR機構26のみを有するEGRシステムに比べて、高圧EGR機構26における排気の還流量を低減することが可能である。これによって、エキゾーストマニホールド15内における排気の圧力をさほど高める必要がなくなり、エンジン10のポンピングロスを低減することができることから、高圧EGR機構26のみで構成されるEGRシステムに比べて、燃費を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−54715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図4は、上述したEGRシステム20を備えるエンジン10において、各気筒1〜6に導入された吸気に占める排気の割合であるEGR率のシミュレーション結果の一例を示す。なお、図4に示されるシミュレーション結果は、エンジン10の排気量を約9L、吸気配管13の流路断面が直径84mmの円形、エンジン10の回転速度及び燃料噴射量を一定、各気筒1〜6におけるEGR率が40%となるようにEGR弁29の開度を制御するという条件の下で行なわれた結果である。また、図4における図中の横軸は気筒の番号を示し、縦軸はEGR率を示している。また、図4には、参考例として、高圧EGR機構のみを有するEGRシステムにおいて、EGR率が40%となるようにEGR弁29の開度を保持した場合のシミュレーション結果も併せて記載している。
【0009】
図4に示されるように、高圧EGR機構のみを有するEGRシステムでは、還流される排気が全ての気筒1〜6からの排気であり、これら気筒1〜6の排気行程が連続的に行なわれていることから、各気筒1〜6のEGR率が概ね40%に保持されている。これに対し、高圧EGR機構26に加えて強制EGR機構21を有するEGRシステム20では、強制EGR機構21を通じて還流される排気が気筒1の排気のみであり、気筒1の排気行程が間欠的に行なわれることから、気筒1の排気行程と各気筒1〜6の吸気行程とのタイミングに基づいて、各気筒1〜6のEGR率に大きなばらつきが生じている。特に、気筒4と気筒5に関しては、目標とするEGR率40%に対して±10%程度のばらつきが生じている。
【0010】
こうしたEGR率のばらつきは、高圧EGR機構26においてEGR弁29の開度を制御することによって抑えることが可能ではある。しかし、EGR弁29の開閉動作が複雑なものになる虞があるばかりか、第2EGR配管27を流通する排気が増大することによってエンジン10のポンピングロスが増大し燃費が悪化してしまう虞もある。そのため、強制EGR機構21を備えるEGRシステムに対し、EGR率のばらつきを抑える対策が強く望まれている。
【0011】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、一部の気筒に対し個別に接続された排気配管と吸気配管とが接続されたEGRシステムにおいて、各気筒におけるEGR率のばらつきを抑えることが可能なEGRシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様の一つは、インテークマニホールドに接続された吸気配管と、エキゾーストマニホールドに接続された気筒とは異なる気筒と前記吸気配管とを接続するEGR配管と、前記吸気配管のうち前記EGR配管が接続される部位よりも前記インテークマニホールド側の配管部分の途中に形成されたバッファ部とを有し、前記配管部分では、前記バッファ部の流路断面積が前記バッファ部以外の流路断面積よりも大きいEGRシステム。
【0013】
本発明の態様の一つによれば、吸気配管を流通する新気とEGR配管を通じて吸気配管に還流される排気との混合吸気がバッファ部に流入する。その結果、バッファ部において、新気と排気との混合を促進させること、また、この混合吸気とバッファ部に先行して流入していた混合吸気との混合を促進させること、それらが可能である。それゆえに、吸気配管にバッファ部が設けられていない場合に比べて、EGR配管が接続された気筒からの排気が拡散されやすくなることから、各気筒の吸気におけるEGR率のばらつきを抑えることができる。
【0014】
本発明の態様の一つは、前記EGR配管が、第1EGR配管であり、前記エキゾーストマニホールドに接続された排気配管と、前記排気配管と前記吸気配管とに接続される第2EGR配管とを有し、前記第2EGR配管が、前記吸気配管における前記バッファ部の上流に接続されている。
【0015】
本発明の態様の一つによれば、バッファ部には、新気、第2EGR配管を通じて還流された排気、第1EGR配管を通じて還流された排気、これらの混合吸気が流入する。その結果、第2EGR配管がバッファ部の下流に接続される場合に比べて、排気と新気との混合を促進させることができる。
本発明の態様の一つは、前記EGR配管には、当該EGR配管を流通する排気を冷却するEGRクーラーが配設されている。
【0016】
本発明の態様の一つによれば、吸気配管には、EGRクーラーによって冷却された排気が還流される。その結果、EGRクーラーが配設されていない場合に比べて、吸気配管への熱的な負荷を低減させることができるとともに、排気そのものの体積、ひいては混合吸気の体積を小さくすることが可能であることから、エンジンの吸気効率を向上させることもできる。
本発明の態様の一つは、前記EGR配管が、1つの気筒に接続されている。
【0017】
本発明の態様の一つにように、EGR配管が1つの気筒に接続される場合、該EGR配管が複数の気筒のうちの何れの気筒に接続されるとしても上述した効果を得られるので、EGR配管を配設するうえで該EGR配管の配置に関する自由度を増大させることができる。
本発明の態様の一つは、前記バッファ部の流路断面が、円形である。
本発明の態様の一つのように、具体的には、バッファ部の流路断面を円形にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態におけるEGRシステムの概略構成を示す概略構成図。
【図2】同実施形態において、各気筒とEGR率との関係を示すグラフ。
【図3】従来例におけるEGRシステムの概略構成を示す概略構成図。
【図4】従来例において、各気筒とEGR率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のEGRシステムを具体化した一実施形態について、図1及び図2を参照して説明する。なお、図1において、図3で示した部材と同じ部材については、同じの符号を付すことによりその詳細な説明は省略する。
【0020】
図1に示されるように、エンジン10のインテークマニホールド12に接続される吸気配管13には、強制EGR機構21の第1EGR配管22との接続部よりも下流にバッファ部30が設けられている。バッファ部30は、吸気配管13の流路面積を局部的に大きくする部位である。また、吸気配管13には、第1EGR配管22との接続部の上流に、高圧EGR機構26の第2EGR配管27が接続されている。
【0021】
すなわち、バッファ部30には、コンプレッサー11aによって過給された新気と、高圧EGR機構26を通じて吸気配管13に還流される排気と、強制EGR機構21を通じて吸気配管13に還流される排気とが混合された混合吸気が流入する。そして、バッファ部30を通過した混合吸気は、インテークマニホールド12へと流入し、各気筒1〜6へと分配される。
【0022】
ここで、強制EGR機構21による排気の還流は、気筒1の排気行程に合わせて間欠的に行なわれる。そのため、気筒1の排気を多く含む混合吸気に先行してバッファ部30に流入した混合吸気には、気筒1の排気が多くは含まれていないことになる。一方、バッファ部30に流入した混合吸気は、新気と排気との混合が促進される。また、バッファ部30に流入する混合吸気と、当該バッファ部30に先行して流入した混合吸気との混合も促進される。すなわち、上述したバッファ部30を吸気配管13に配設することによって、該バッファ部30において気筒1の排気がより拡散されやすくなる。それゆえに、各気筒1〜6におけるEGR率のばらつきを抑えることができる。
【0023】
次に、吸気配管13にバッファ部30を設けたEGRシステム20に対して行なったシミュレーション結果の一例について図2を参照して説明する。なお、このシミュレーションにおいては、吸気配管13にバッファ部30が設けられていること以外、先に説明したシミュレーションと同じ条件で行なった。また、バッファ部30は、その流路断面を内径150mmの円形にするとともに、その容量が0.5L、1.0L、1.5L、3.0L、6.0L、9.0Lとなるように、吸気配管13の延出方向における長さを28mm、57mm、85mm、170mm、340mm、509mmとした。
【0024】
図2に示されるように、本シミュレーションによって、吸気配管13に0.5L以上の容量を有するバッファ部30を配設することによって、目標とするEGR率40%に対するばらつきが±5%程度に抑えられることが確認された。また、6つの気筒1〜6を有する排気量9Lのエンジン10に対して、バッファ部30の容量が1.0L以上であれば、目標とするEGR率40%に対するばらつきが±3%以下となることが確認された。また、バッファ部30の容量が大きくなるほど、EGR率のばらつきが小さくなる傾向にあることが確認された。
以上説明したように、本実施形態のEGRシステム20によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
【0025】
(1)吸気配管13には、強制EGR機構21の第1EGR配管22との接続部よりも下流にバッファ部30が設けられている。バッファ部30においては、新気と第1EGR配管22を通じて還流された排気との混合を促進させることができる。また、バッファ部30に先行して流入した混合吸気と、バッファ部30に新たに流入する混合吸気との混合を促進させることもできる。それゆえに、吸気配管13にバッファ部30が設けられていない場合に比べて、バッファ部30において気筒1の排気が拡散されやすくなることから、各気筒1〜6におけるEGR率のばらつきを抑えることができる。
【0026】
(2)吸気配管13には、第1EGR配管22との接続部の上流に、高圧EGR機構26の第2EGR配管27が接続されている。すなわち、バッファ部30には、新気、高圧EGR機構26によって還流された排気、強制EGR機構21によって還流された排気、これらの混合吸気が流入する。その結果、第2EGR配管27がバッファ部30の下流に接続される場合に比べて、新気と排気との混合をさらに促進させることができる。
【0027】
(3)第1EGR配管22には、吸気配管13へ還流される排気を冷却する第1EGRクーラー23が配設されている。その結果、第1EGR配管22に第1EGRクーラー23が配設されていない場合に比べて、吸気配管13への熱的な負荷を低減させることができる。また、吸気配管13へ還流される排気そのものの体積、ひいては当該排気を含んだ混合吸気の体積が小さくなることから、エンジン10の吸気効率を向上させることもできる。
【0028】
(4)第1EGR配管22は、気筒1に対応するように設けられているが、こうしたEGR配管22を気筒1〜6の内の何れの気筒に接続されたとしても上記(1)に記載した効果を得ることができる。その結果、第1EGR配管22を配設するうえでその配置に関する自由度を増大させることができる。
【0029】
(5)第2EGR配管27には、EGR弁29が配設されており、このEGR弁29を用いて、第2EGR配管27を通じた排気の還流量を調整することが可能である。その結果、強制EGR機構21のみを有するEGRシステムに比べて、各気筒1〜6に導入される吸気のEGR率のばらつきをさらに抑えることができる。
【0030】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・バッファ部30は、吸気配管13における流路面積よりも大きな流路面積を有しているものであればよく、バッファ部30の流路断面は、円形に限らず、矩形状、楕円状、多角形状等であってもよく、これらが組み合わされるものであってもよい。
【0031】
・第1EGR配管22に流入する排気は、1つの気筒からの排気に限らず、複数の気筒からの排気が流入してもよい。すなわち、第1EGR配管22は、複数の気筒に対応する排気配管であってもよい。
・上記実施形態において、第1EGR配管22に配設された第1EGRクーラー23が割愛された構成であってもよい。
【0032】
・吸気配管13において、第2EGR配管27の接続部は、第1EGR配管22との接続部よりも下流であってもよいし、これら2つの接続部が同じ位置であってもよい。
・EGRシステムは、強制EGR機構21のみを有するものであってもよい。
【0033】
・エンジンは、直列6気筒であるエンジン10に限られるものではなく、V型6気筒エンジン、直列4気筒エンジン、水平対向4気筒エンジン等であってもよい。
【符号の説明】
【0034】
1,2,3,4,5,6…気筒、10…エンジン、11…ターボチャージャ、11a…コンプレッサー、11b…タービン、12…インテークマニホールド、13…吸気配管、14…インタークーラー、15…エキゾーストマニホールド、16…排気配管、20…EGRシステム、21…強制EGR機構、22…第1EGR配管、23…第1EGRクーラー、26…高圧EGR機構、27…第2EGR配管、28…第2EGRクーラー、29…EGR弁、30…バッファ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インテークマニホールドに接続された吸気配管と、
エキゾーストマニホールドに接続された気筒とは異なる気筒と前記吸気配管とを接続するEGR配管と、
前記吸気配管のうち前記EGR配管が接続される部位よりも前記インテークマニホールド側の配管部分の途中に形成されたバッファ部とを有し、
前記配管部分では、前記バッファ部の流路断面積が前記バッファ部以外の流路断面積よりも大きいEGRシステム。
【請求項2】
前記EGR配管が、第1EGR配管であり、
前記エキゾーストマニホールドに接続された排気配管と、
前記排気配管と前記吸気配管とに接続される第2EGR配管とを有し、
前記第2EGR配管が、前記吸気配管における前記バッファ部の上流に接続されている
請求項1に記載のEGRシステム。
【請求項3】
前記EGR配管には、当該EGR配管を流通する排気を冷却するEGRクーラーが配設されている
請求項1又は2に記載のEGRシステム。
【請求項4】
前記EGR配管が、1つの気筒に接続されている
請求項1〜3のいずれか一項に記載のEGRシステム。
【請求項5】
前記バッファ部の流路断面が、円形である
請求項1〜4のいずれか一項に記載のEGRシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−96314(P2013−96314A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240294(P2011−240294)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】