説明

ELパネル

【課題】 優れた耐食性を有する引き出し部を備えるELパネルを提供すること。
【解決手段】 本発明の好適なELパネルは、基板、この基板上に形成されたEL素子部、及び、基板上にEL素子部を封止するように配置された封止部材を備えている。このELパネルにおいて、EL素子部は、陽極層と、この陽極層と対向して配置された陰極層と、陽極層と陰極層との間に配置された有機発光層とを少なくとも有する。そして、陰極層及び陽極層の少なくとも一方には、封止部材の外部まで延びる引き出し部が接続されている。この引き出し部は、基板側に形成された金属単体又は合金からなる下部配線、及び、この下部配線上に形成された導電性を有する金属酸化物又は金属窒化物からなる上部配線を有している。そして、陰極層と陽極層の少なくとも一方は、封止部材の内部で、引き出し部の下部配線と少なくとも接触している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ELパネル、より詳しくは、有機EL素子を備えたELパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、陽極と陰極との間に有機発光層を備えた構成を有しており、両電極間に電流を流すことで発光する素子である。このような有機EL素子は、互いに直交するように対向配置されたストライプ状の陽極配線と陰極配線との間に有機発光層を配置したEL素子部が、基板上に配置されるとともに、所定の封止部材によって封止された構造を有するELパネルとしてディスプレイ等に適用される。かかるELパネルにおいては、陽極配線と陰極配線との交点部分がそれぞれ有機EL素子を構成し、この部分で発光が生じる。
【0003】
上記のような構成を有するELパネルの場合、外部の駆動回路等との接続を行うため、陽極配線や陰極配線の端部が封止部材の外側に引き出されて接続用の端子部を構成する。しかし、この端子部は、封止部材の外部にあるため、外気中の湿気等に触れて腐食を生じ、外部配線等との接続特性が低下することがある。そこで、このような腐食を防止するために、陽極配線や陰極配線等の端部に引き出し部を別途接続し、この引き出し部に耐食性の高い高耐食性金属部を設ける方法が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−243558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術のELパネルにおいて、引き出し部は、高耐食性を有するとはいえ金属からなる部分が表面を覆っているため、例えば高温高湿環境等といった比較的厳しい条件下では、この金属部において腐食を生じたり、また表面荒れを生じたりすることも少なくなかった。こうなると、引き出し部は、陽極配線や陰極配線との接触抵抗が高くなって、外部配線等との接続特性が不十分なものとなる。
【0005】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、EL素子の配線との接触抵抗を十分に低く維持できる引き出し部を備えるELパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のELパネルは、基板、この基板上に形成されたEL素子部、及び、基板上にEL素子部を封止するように配置された封止部材を備えるELパネルであって、EL素子部は、EL素子部は、陽極層と、この陽極層と対向して配置された陰極層と、陽極層と陰極層との間に配置された有機発光層とを少なくとも有し、陰極層及び陽極層の少なくとも一方の電極層には、封止部材の外部まで延びる引き出し部が接続され、引き出し部は、基板上に形成された金属単体又は合金からなる下部配線、及び、下部配線上に形成された導電性を有する上部配線を有しており、且つ、この引き出し部は、封止部材の内部で、下部配線において上記電極層と少なくとも接触していることを特徴とする。
【0007】
このような構成を有するELパネルにおいては、引き出し部が下部配線と上部配線との2層構造とされ、下部配線が上部配線によって覆われたような構成を有している。したがって、引き出し部は、少なくとも下部配線が外気等と触れることが少なくなっているため、腐食による引き出し部としての特性低下が小さい。また、本発明のELパネルにおいては、下部配線が低抵抗の金属単体又は合金から構成されており、電極層(陽極層又は陰極層)は少なくともこの下部配線と接触しているため、引き出し部は、電極層との接触抵抗が低いものとなっている。また、このように陽極層や陰極層が少なくとも下部配線と接触していることで、仮に高温高湿条件等に晒されて上部電極に腐食が発生した場合であっても、下部配線との接触によって、電極層と引き出し部との接触抵抗は十分に低く維持される。
【0008】
上記本発明のELパネルにおいては、少なくとも陰極層に引き出し部が接続されており、且つ、下部配線及び前記上部配線の両方が、封止部材の内部で当該陰極層と接触していることが好ましい。こうすれば、陰極層と引き出し部とをより良好に接続することができる。
【0009】
本発明のELパネルにおいて、上部配線は、導電性を有する金属酸化物及び金属窒化物から構成されることが好ましい。導電性を有する金属酸化物及び金属窒化物は、金属等と比べて大気中の成分等による腐食を生じ難いものである。したがって、金属酸化物及び金属窒化物からなる上部配線を形成することにより、引き出し部(上部配線)の腐食自体を低減することが可能となり、引き出し部の特性劣化を更に有効に抑制することが可能となる。
【0010】
また、近年では、ELパネルにおいて、精細な画像を形成できるように陽極配線や陰極配線の高密度配線化が進められており、これらの配線は細線化されるとともに配線間隔が狭くされる傾向にある。そのため、これに伴って引き出し部も細線化や配線間隔の狭小化がなされることになる。これに対し、本発明のELパネルにおいては、引き出し部が、強度等にも優れる金属酸化物の上部配線を有していることから、細線化されても引き出し部の断線等が生じ難い。さらに、この引き出し部においては、金属単体や合金からなる下部配線が上部配線で覆われていることから、金属等が表面に露出しているような場合に比べて、下部配線中の金属や合金のマイグレーションが生じ難くなっている。したがって、配線間隔を狭くした場合であっても、隣り合う引き出し部同士がマイグレーションによって短絡して、ELパネルの表示不良を引き起こすといった不都合は極めて生じ難い。
【0011】
さらに、本発明のELパネルにおいて、上部配線は、下部配線の少なくとも一部の側面まで覆うように下部配線上に形成されていると好ましい。このように、上部配線が下部配線の上面だけでなく側面までを覆っていることで、下部配線における側面の露出部分が少なくなる。これにより、引き出し部の耐食性が更に向上するとともに、側面からのマイグレーションが生じることによる短絡等の不都合も大幅に低減できるようになる。さらに言えば、引き出し部の封止部材で封止されていない領域において、下部配線を上部配線で完全に覆うようにすれば、引き出し部の耐食性が更に良好となり、側面で生じるマイグレーションも一層確実に低減することが可能となる。
【0012】
下部配線と、陽極層とは、同一の材料で構成されていることが好ましい。このような構成を採用した場合、陽極層と下部配線とを同時に形成することが可能となる。したがって、ELパネルの製造をより簡便に行うことができ、また製造コストを低減することも可能となる。
【0013】
また、本発明のELパネルにおいては、引き出し部の下部配線がMoを含む合金(以下、「Mo合金」と略す)からなるものであると更に好ましい。Mo合金は、大気中の湿気等による腐食を生じ難く、このような下部配線の上側に上部配線が形成されることによって、引き出し部は、特に優れた耐食性を発揮し得るようになる。
【0014】
より具体的には、下部配線は、Nbの含有割合が5〜15原子%であるMoNb合金からなるものであると一層好ましい。このような割合でNbを含むMoNb合金により下部配線が形成されることで、引き出し部の耐食性が極めて良好となるとともに、下部配線の形成が容易となる傾向にある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、EL素子の配線との接触抵抗を十分に低く維持できる引き出し部を備えるELパネルを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、図面の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、好適な実施形態に係るELパネルを概略的に示す平面図である。同図に示すELパネル100は、基板2上に封止部材22が配置された構成を有している。封止部材22によって覆われた領域が、ELパネル100の表示領域となる。本実施形態のELパネル100は、基板2側から発光を取り出すボトムエミッションタイプの素子である。
【0018】
封止部材22の内部では、図中破線で示されるように、帯状の陽極配線6がストライプ状に複数並列されるとともに、これらの陽極配線6と交差(ほぼ直交)するように帯状の陰極配線18がストライプ状に複数並列されている。また、複数の陽極配線6からなる陽極層と、複数の陰極配線18からなる陰極層との間には有機発光層16が配置されており(図2参照)、この有機発光層16が形成されている領域がEL素子部50となっている。EL素子部50では、陽極配線6と陰極配線18との交差部分が一つの画素を構成し、発光する。なお、EL素子部50の詳細な層構成については後述する。
【0019】
ELパネル100において、各陰極配線18の端部には、封止部材22の外部まで延びる陰極引き出し部30が接続されている。一方、陽極配線6は、それぞれの端部が封止部材22の外部まで引き出されており、この部分が陽極引き出し部40を構成している。陰極引き出し部30及び陽極引き出し部40は、それぞれ基板2の縁部付近まで延びており、外部回路等との接続端子として機能することができる。
【0020】
次に、図2を参照して、陰極引き出し部30付近の断面構成を説明するとともに、EL素子部50の層構成について説明する。図2は、図1に示すELパネルのII−II線に沿う断面構成を示す図であり、陰極引き出し部30付近の陰極配線18を含む断面の構成を概略的に示している。同図に示す断面では、基板2上にEL素子部50と陰極引き出し部30とが設けられている。また基板2上には、EL素子部50を内側に含むように封止部材22が配置されており、これによってEL素子部50が封止されている。陰極引き出し部30は、封止部材22の外側まで延びるように設けられている。
【0021】
EL素子部50は、基板2上に、陽極補助配線4、陽極配線6、絶縁層10、有機発光層16及び陰極配線18が所定の位置関係となるように順に積層された構成を有している。一方、陰極引き出し部30は、基板2上に下部配線14及び上部配線20が積層された2層構造を有している。この陰極引き出し部30とEL素子部50との間には、絶縁部材12が設けられている。
【0022】
ELパネル100における基板2は、EL素子用の基板として一般に用いられているものから適宜選択される。例えば、透湿率が低く光の透過性が高いガラス基板が好ましい。また、樹脂フィルムを他の吸湿性の低い層と組み合わせた積層体を基板2としてもよい。
【0023】
EL素子部50における陽極補助配線4は、帯状の形状を有する電極であり、図中の手前側から奥側の方向に沿って連続的に形成されている。この陽極補助配線4は、後述する陽極配線6の通電性を補助するための配線である。陽極補助配線4は、導電性が良好な材料から構成され、例えば、Al、Ag、Au、Mo、Cr、Cu、Ti、W、Ta等の金属単体やこれらを含む合金等からなるものが好適である。
【0024】
陽極配線6は、陽極補助配線4上に形成された帯状の電極である。この陽極配線6は、陽極補助配線4を覆う部分と、その側方に張り出して基板2上に直接形成された部分とを有している。陽極配線6は、有機発光層16からの発光を取り出すため、光の透過性が高い導電材料から構成されている。このような導電材料としては、導電性を有する金属酸化物や金属窒化物が好ましい。例えば、導電性を有する金属酸化物としては、ITO、IZO、ZnO、ZnO−Al、SnO、In、CdO、ZnO、Ga等が挙げられ、導電性を有する金属窒化物としてはTiNが挙げられる。ELパネル100においては、陽極補助配線4と陽極配線6の両方が陽極として機能する。ただし、陽極補助配線4は、陽極の抵抗を下げるだけの機能を有しており、ELパネル100による発光を通さない材料によって構成されることもある。
【0025】
絶縁層10は、陽極補助配線4の形成領域が発光しないように、陽極補助配線4上に設けられた陽極配線6の部分を覆うように形成されている。これにより、陽極補助配線4の形成領域上の陽極配線6と有機発光層16とが絶縁されている。絶縁層10は、陽極配線6と有機発光層16とを十分に絶縁できるものであればよく、例えば、絶縁性を有する金属酸化物や樹脂等によって構成される。
【0026】
有機発光層16は、絶縁層10を挟むように陽極配線6上に形成されており、その縁部が絶縁部材12に接することで陰極引き出し部30と絶縁されている。この有機発光層16は、公知の有機EL素子の発光層に用いられる発光材料からなり、発光材料としては低分子発光材料、高分子発光材料、あるいは2種以上の発光材料を組み合わせたもの等を特に制限無く適用できる。
【0027】
陰極配線18は、有機発光層16上に形成されており、さらに絶縁部材12の上部を回りこんでその端部が陰極引き出し部30に接続されている。これにより、EL素子部50の陰極配線18と陰極引き出し部30との接続が図られている。陰極配線18は、例えば、EL素子部50に電流を供給できるような導電性を有する金属材料から構成される。具体的には、例えば、低仕事関数を有するアルカリ金属、アルカリ土類金属、両性金属等の金属単体や、これらを含む合金が挙げられる。また、これらの金属単体や合金のほか、これらの金属を含む酸化物、窒化物、ハロゲン化物からなる層と、Au、Ag、Pt、Pd等の低抵抗な金属単体、Ag−Pt、Ag−Pd等の合金、Ag−Pd−Cu等の貴金属に卑金属が添加された合金等からなる層とを有する積層構造からなる陰極配線18としてもよい。このような積層構造を有する陰極配線18とすれば、膜厚を厚くしないで低抵抗な配線を得ることができる。また、光の透過が可能な陰極配線18を構成することもでき、こうすれば、陰極側から発光を取り出すトップエミッション型のELパネルを形成することも可能となる。
【0028】
図2に示す断面において、有機発光層16及び陰極配線18は、陽極配線6上の全領域を覆うように形成されている。そのため、EL素子部50は、陽極補助配線4が形成されていない領域において、陽極配線6、有機発光層16及び陰極配線18の3層構造となっており、この部分で発光を生じることができる。
【0029】
また、陰極引き出し部30は、上述の如く、基板2上に形成された下部配線14と、この上に形成された上部配線20との2層構造となっている。陰極引き出し部30は、一方の端部が封止部材22内でEL素子部50から延びる陰極配線18の端部と接続されており、これと反対側の端部が封止部材22の外部まで引き出されている。
【0030】
下部配線14は、導電性を有する金属単体や合金から構成される。このような金属単体や合金としては、上側に形成される上部配線20との電蝕を起こさないものが好ましい。例えば、Mo合金やAg系合金が挙げられ、優れた耐食性を得る観点からはMo合金が好ましい。なかでも、MoNb合金は、陰極配線18との接触抵抗が低く、上部配線20との組み合わせで優れた耐食性を発揮し得ることから特に好ましい。下部配線14がMoNb合金からなる場合、MoNb合金は、Nbの含有割合が1〜20原子%ものであると好ましく、5〜15原子%のものであるとより好ましい。このような組成を有するMoNb合金は、耐食性に優れ、しかも十分な低抵抗化が図れるほか、製造時のパターン形成が容易となる傾向にある。
【0031】
上部配線20は、導電性を有する金属酸化物又は金属窒化物から構成される。このような金属酸化物としては、例えば、ITO、IZO、ZnO、ZnO−Al、SnO、In、CdO、ZnO、Ga等が挙げられ、金属窒化物としてはTiNが挙げられる。上部配線20の構成材料としては、なかでも、ITO、IZO、ZnO又はZnO−Alが好ましい。この上部配線20の構成材料は、陽極配線6の構成材料と同じでも異なっていてもよいが、製造上の観点からは同じであるとより好ましい。上部配線20と陽極配線6の構成材料を同じとすれば、ELパネル100の製造において、これらを同時に成膜等することで一度に形成することができ、別々に形成する場合に比べて工程を省略することができるほか、製造コスト等の低減も図れるようになる。
【0032】
このような陰極引き出し部30において、下部配線14のEL素子部50側の端部付近は、上部配線20に覆われていない状態となっており、この部分でEL素子部50から延びる陰極配線18の端部と直接接触することができるようになっている。これにより、陰極配線18は、より接続抵抗が小さい下部配線14と接続されることとなり、陰極配線18と陰極引き出し部30との間の電気的な接続が更に良好に図られる。
【0033】
封止部材22は、基板2との間にEL素子部50を含むように設けられる。図示のような封止基板22の場合、基板2側との接触部分は、接着剤等によって固定され、これによりEL素子部50が封止される。陰極配線18と陰極引き出し部30との接続部分は、封止部材22の内部に含まれるようになっている。このような封止部材22として、ELパネルにおいて封止に用いられる公知の部材を適用できる。本実施形態のようにボトムエミッションタイプのパネルの場合、封止部材22は、透明であってもなくてもよく、例えば、ガラス、金属、プラスチック等の種々の材料から構成される。
【0034】
次に、ELパネルの製造方法の好適な実施形態について説明する。好適な実施形態のELパネルの製造方法においては、上述した構成を有するELパネル100の場合、陽極配線(更には陽極引き出し部40)と、陰極引き出し部30における上部配線20を、それぞれ同じ材料を同時に堆積させることによって一度に形成する。以下、このようなELパネルの製造方法について、上述したELパネル100を例に挙げて具体的に説明する。
【0035】
ELパネル100の製造においては、まず、基板2を準備し、適宜洗浄を行う。この基板2上に、陰極引き出し部30の下部配線14を、EL素子部50を形成すべき領域の外側に形成する。具体的には、基板2上の全面に下部配線14を構成する金属単体又は合金をスパッタ法により形成した後、フォトリソグラフィー技術等によって下部配線14の形状に加工する。この際、原料がMoNb合金であり、そのNbの含有割合が1〜20原子%、好ましくは5〜15原子%であると、良好なエッチングレートが得られ、下部配線14の形成が容易となる。Nbが5原子%未満の場合は、これ以上とした場合と比べて下部配線の耐食性が低下する場合がある。
【0036】
また、下部配線14と同時に、基板2上のEL素子部50を形成すべき領域に陽極補助配線4を形成する。陽極補助配線4は、上記の下部配線14の延在方向とほぼ直交するようにストライプ状に複数設ける。この陽極補助配線4は、下部配線14と同じ工程において、その原料の層を基板2上のEL素子部50を形成すべき全領域にスパッタ法等により形成した後、フォトリソグラフィー技術等によって加工することで所望の形状とすることができる。なお、本実施形態では陽極補助配線4と下部配線14とを同時に形成したが、これらが異なる材料からなる場合は、下部配線14と陽極補助配線4とはどちらを先に形成してもよい。
【0037】
次に、導電性を有する金属酸化物又は金属窒化物を、スパッタリング法等により陽極補助配線4及び下部配線14上に一度に堆積させることにより、陽極補助配線4及び下部配線14上にそれぞれ陽極配線6及び上部配線20を同時に形成させる。下部配線14上に上部配線20が設けられることで、陰極引き出し部30が形成される。この際、陽極配線6は、陰極引き出し部30とは接触しないようにする。また、上部配線20は、少なくとも下部配線14の陰極配線18と接触する部分が覆われないように形成する。なお、陽極補助配線4及び陽極配線6は、これらの端部がそのまま陽極引き出し部40となるように、封止部材22の外側領域まで形成する。
【0038】
次いで、陽極補助配線4の形成領域の陽極配線6上に絶縁層10を形成する。また、陰極引き出し部30とEL素子部50となる領域との境界部分に絶縁部材12を形成する。これらは、製造上の観点からは同時に形成することが望ましいが、それぞれが異なる材料から形成される場合は、どちらを先に形成してもよい。その後、EL素子部50となるべき領域の全面に、例えば真空蒸着法によって有機発光材料を堆積させて、有機発光層16を形成する。
【0039】
それから、真空蒸着や電子ビーム蒸着法によって、陰極配線18の原料である金属等を有機発光層16上に堆積させて、陰極配線18を形成する。これによりEL素子部50が形成される。この陰極配線18は、例えば、オーバーハング形状を有する素子分離体(図示せず)を絶縁層10上に陽極とほぼ直交する方向に形成した後に、陰極配線18の構成材料からなる層を堆積させることで形成することができる。これにより、素子分離体を挟むように平行に配置されたストライプ状の陰極配線18が、陽極配線6とほぼ直交する方向に形成される。陰極配線18の端部は、絶縁部材12の上部を回りこませて陰極引き出し部30、特に下部配線14と接触する形状とする。
【0040】
そして、少なくともEL素子部50と陰極引き出し部30との接続部分よりも内側の領域が覆われるように封止部材22を配置する。封止部材22は、EL素子部50及び陰極引き出し部30が形成された基板2との接触部分が接着剤等によって接着されることにより基板2側に固定される。こうして、基板2と封止部材22との間の空間にEL素子部50が配置されており、陽極引き出し部40及び陰極引き出し部30が封止部材22の外部まで引き出された構造のELパネル100が得られる。
【0041】
上記構成を有するELパネル及びELパネルの製造方法によれば、金属単体又は合金からなる下部配線と、導電性を有する金属酸化物又は金属窒化物からなる上部配線との2層構造を有する引き出し部を備えるELパネルが得られる。このようなELパネルにおける引き出し部は、上側の層に耐食性に優れる金属酸化物や金属窒化物を有しているため、封止部材の外部に位置しており外気の影響を受けやすい引き出し部の腐食等が生じ難い。また、金属単体又は合金からなる下部配線が上部配線によって覆われているため、高密度配線とした場合であっても、引き出し部の断線や、金属等のマイグレーションによる引き出し部間の短絡等が良好に防止される。その結果、本発明のELパネルは優れた耐久性を有し、しかも良好な表示性能をも有するものとなる。
【0042】
なお、本発明のELパネル及びその製造方法は、必ずしも上述した実施形態に限定されず、適宜変更が可能である。例えば、上述した実施形態のELパネルでは、陰極配線18の端部だけに2層構造の陰極引き出し部30が接続されている構成としたが、陽極配線4の端部にも同様の引き出し部が接続されていてもよい。また、ELパネルにおいては、陽極補助配線が必須の構成ではないため、上述した実施形態のELパネル100は、陽極補助配線4を有しないものであってもよい。
【0043】
また、陰極配線18と陰極引き出し部30における下部配線14とは必ずしも分離しておらず、一体のものであってもよい。この場合、例えば、陰極配線18を形成するまでは下部配線14は形成しないでおき、陰極配線18の形成時に用いる素子分離体を陰極引き出し部30の形成領域まで延ばし、これを用いて陰極配線18とともにこれと一体の下部配線14を形成する。そして、このようにして形成された下部配線14上に上部配線20を形成する。これにより、下部配線14が陰極配線18と一体とされた陰極引き出し部30を形成することもできる。
【0044】
さらにまた、上述したELパネル100では、陰極配線18の端部が、陰極引き出し部30の下部配線14と上部配線20との両方に接するようにしたが、通電性、接触抵抗、密着性等を良好にする観点から、少なくとも下部配線14のみに接するような形態を選択してもよい。また、上記の実施形態では、EL素子部50として最小限の層構成を有するものを示したが、これに限定されず、EL素子部は、所望とする特性に応じて陽極配線、有機発光層、陰極配線以外の層を有するものであってもよい。さらにまた、封止部材22としては、EL素子部50を内部の空間に収納するものを採用したが、封止部材は、例えば、EL素子部を直接覆うように設けられた有機物又は無機物からなる膜やこれらの積層膜であってもよい。
【0045】
また、上記のELパネルの製造方法においては、陽極配線6と上部配線20とを同時に形成する好適例を示したが、本発明の構造を有するELパネルを製造する観点からは、必ずしも陽極配線6と上部配線20とが同時に形成される必要はなく、別々に形成してもよい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
【0047】
(ELパネルの作製)
まず、ガラス基板(コーニング社製、1373基板)上に、MoNb(Nbが5原子%)をスパッタ法により400nmの厚さで全面に成膜した。この上にスピンコート法により感光性レジスト膜を形成し、これに所定のパターン形状の遮光レチクルマスクを通してUV光を照射し、感光性レジスト膜を露光した。次いで、感光性レジスト膜形成後の積層体を現像液に浸漬して、感光性レジスト膜の未露光部分を除去し、更にこれをエッチング液に浸漬して、感光性レジスト膜が形成されている部分以外のMoNbをエッチング除去した。このようなフォトリソグラフィー法により、EL素子部が形成される領域の外側であって、かかる領域に対して対向する一対の側部のそれぞれに、MoNbからなる線幅50μmの下部配線をストライプ状に64本形成させた。
【0048】
次に、スパッタ法によりITOを積層することにより、ガラス基板上のEL素子部が形成される領域内に、下部配線の延在方向と直交するように厚さ100nm、線幅300μmのITOからなる陽極配線をストライプ状に288本形成した。またこの際、同時に、下部配線上にもITOを積層することで、下部配線上の封止部材内の領域を除くようにITOからなる上部配線を形成し、これにより陰極引き出し部を完成させた。なお、これらは、下部配線の場合と同様、フォトリソグラフィーによって所定のパターンに加工することによって形成させた。
【0049】
次いで、絶縁性のポジ型レジストを塗布し、陽極配線の陰極配線との交点となる部分に開口を有するとともに、少なくとも陽極配線のエッジ部が覆われるような形状となるようにパターニングした。この上に、フォトリソグラフィー法により絶縁膜を形成した後、更に陽極配線と直交して交差するように、絶縁物から構成される帯状の素子分離体をストライプ状に65本形成した。上記の操作後の積層体に、ドライクリーニング処理を行った後、蒸着機を用いて、陽極電極等が形成されている側の面上に有機層を3層順次形成した。この有機層は、基板側から、ホール注入層である厚さ80nmのCuPc(銅フタロシアニン)層、ホール輸送層である厚さ30μmのTPD(トリフェニルジアミン)層、及び、有機発光層である厚さ50nmのAlq3(トリス−8−キノリラトアルミニウム)層をこの順に有する3層構造とした。また、有機層は、EL素子部とすべき領域の全面に形成した。
【0050】
このような有機層の形成後の積層体を、真空チャンバーに写し、1×10−4Pa以下程度の真空を維持したまま、真空蒸着法により有機層上にフッ化リチウムからなる厚さ0.5nmの電子注入層を形成し、更に、電子ビーム蒸着法によりアルミニウムからなる厚さ300nmの陰極配線を順次形成した。ここで、陰極配線は、対向している陰極引き出し部間を結ぶようにストライプ状に形成し、両端部は陰極引き出し部と接続されるようにした。なお、陰極引き出し部において、封止部材に覆われる領域の下部配線は、上部配線には覆われていないので、陰極配線は陰極引き出し部の下部配線と確実に接触した状態となっている。
【0051】
そして、ガラス基板上のEL素子部の外周であって、陰極配線と陰極引き出し部との接続部分よりも外側の位置に接着剤を塗布した後、基板との空間にEL素子部が含まれるように封止部材を貼り付けた。このようにして、実施例1のELパネルを完成させた。
【0052】
得られたELパネルの引き出し部にフレキシブル配線板(FPC)を熱圧着により接続して、EL表示装置を作製した後、FPCに接続されている駆動回路を動作させたところ、ELパネルが発光することが確認された。
【0053】
(特性評価)
まず、封止部材を取り付ける前のELパネルを用い、陰極配線と引き出し部との接続部分の接合抵抗を測定したところ、0.38Ωであった。
【0054】
また、ELパネルを用いた表示装置を、温度60℃、湿度95%の環境下に2000時間放置した後、動作させたが、引き出し部に腐食は生じておらず、表示不良は発生しなかった。
[比較例1]
【0055】
(ELパネルの製造)
引き出し部のITOからなる上部配線を形成させなかったこと以外は、実施例1と同様にしてELパネルを製造した。
【0056】
(特性評価)
ELパネルを用いた表示装置を、温度60℃、湿度95%の環境下に放置したところ、100時間で引き出し部(MoNbの下部配線)が腐食した。
[比較例2]
【0057】
(ELパネルの製造)
MoNbからなる下部配線の全面がITOからなる上部配線に覆われた引き出し部を形成し、且つ、陰極配線を上部配線だけに接続させたこと以外は、実施例1と同様にしてELパネルを製造した。
【0058】
(特性評価)
封止部材を取り付ける前のELパネルを用い、陰極配線と引き出し部との接続部分の接合抵抗を測定したところ、0.51Ωと実施例1よりも大きくなった。
【0059】
ELパネルを用いた表示装置を、温度60℃、湿度95%の環境下に2000時間放置した後、動作させたが、引き出し部に腐食は生じておらず、表示不良は発生しなかった。
[参考例:引き出し部の腐食性の評価]
【0060】
ELパネルにおける引き出し部の耐食性を確認するため、以下、引き出し部のみに対応する構造の積層体を作製して、その耐食性を評価した。参考例1は、下部配線にMo又はMo合金を用いた場合、参考例2は、下部配線にAg合金を用いた場合を示している。
【0061】
(参考例1)
厚さ0.7mm×縦300mm×横400mmのソーダライムガラス基板を洗浄した。次いで、スパッタ装置にセットしてDCスパッタ法により厚さ20nmの下部配線を形成した。次いで、サンプルによっては、下部配線形成後のガラス基板を洗浄した後、これをスパッタ装置にセットし、DCスパッタ法により厚さ100nmのITO膜(上部配線)を形成した。本参考例では、このような製造方法により得られる3種の評価用サンプルを製造した。なお、MoNbとしては、Nbを10原子%含むものを用いた。
a1:下部配線にMoを用い、上部配線を形成しなかったもの。
b1:下部配線にMoNbを用い、上部配線を形成しなかったもの。
c1:下部配線にMoNbを用い、上部配線を形成したもの。
【0062】
そして、これらの評価用サンプルを、温度60℃、湿度95%の恒温槽に入れ、1000時間放置後の表面を観察した。その結果、各サンプルについて以下のような結果が得られた。各サンプルの表面状態を示す顕微鏡写真を、図3、4及び5に示す。図3、4及び5は、それぞれサンプルa1、b1及びc1の観察結果にそれぞれ対応する写真である。なお、各図中、Aは、サンプル表面の落斜写真を示しており、Bは透過写真を示している。
a1:表面の膜(Mo)が全体的に荒れており、ピンホールも形成されていた。
b1:表面の膜(Mo−10wt%Nb)が全体的に荒れていたが、ピンホールは確認されなかった。
c1:表面荒れ、ピンホールともに確認されなかった。
なお、Nb含有量を5〜20原子%の間で変化させたMoNbを下部配線に用いてb1及びc1に対するサンプルを作製し、これらについても同様の評価を行ったが、いずれの場合も上記と同様の結果が得られることが確認された。
【0063】
(参考例2)
参考例2では、参考例1と同様にして以下の2種の評価用サンプルを作製した。なお、Ag合金としては、Agに3重量%のPdを添加した合金を用いた。
a2:下部配線にAg合金を用い、上部配線を形成しなかったもの。
b2:下部配線にAg合金を用い、上部配線を形成したもの。
【0064】
そして、これらの評価用サンプルを、温度60℃、湿度95%の恒温槽に入れて170時間放置後、又は、UV照射後のサンプルの表面をそれぞれ観察した。その結果、各サンプルについて以下のような結果が得られた。各サンプルの表面状態を示す顕微鏡写真を、図6及び7に示す。図6及び7は、それぞれサンプルa2及びb2の観察結果に対応する写真である。なお、各図は、サンプル表面の落斜写真を示している。
a:恒温槽放置後のサンプルは、表面の膜(Ag合金)全面に荒れが発生していた。また、UV照射後のサンプルは、局所的に表面荒れが発生しており、ピンホールが形成されていた。
b:恒温槽放置後、UV照射後ともに表面の膜(ITO)に荒れ、ピンホールは確認されなかった。
[参考例:MoNbからなる下部配線の好適なNb含有量の測定]
【0065】
(参考例3)
上記実施例におけるMoNbからなる下部配線において、Nbの含有割合を変化させ、下部配線を形成する際に行うエッチングのエッチングレートを各条件で比較した。この場合、エッチング条件は、エッチャント:燐硝酢酸、液温:20℃とした。
【0066】
その結果、エッチングレートは、Nbが5原子%では13.3Å/secであり、Nbが10原子%では5.0Å/secであり、Nbが15原子%では2.5Å/secであり、Nbが20原子%では1.1Å/secであった。この結果から、例えば下部配線の膜厚を2000Åと設定した場合、Nbが20原子%であるMoNbではエッチング時間が30分となり、Nb含有割合をこれ以下とした場合に比べて生産性が低下することが確認された。したがって、下部配線に用いるMoNbにおけるNbの含有割合は、5〜15%が特に好ましいことが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】好適な実施形態に係るELパネルを概略的に示す平面図である。
【図2】図1に示すELパネルのII−II線に沿う断面構成を示す図である。
【図3】サンプルa1の表面の顕微鏡写真を示す図である。
【図4】サンプルb1の表面の顕微鏡写真を示す図である。
【図5】サンプルc1の表面の顕微鏡写真を示す図である。
【図6】サンプルa2の表面の顕微鏡写真を示す図である。
【図7】サンプルb2の表面の顕微鏡写真を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
2…基板、4…陽極補助配線、6…陽極配線、10…絶縁層、14…下部配線、16…有機発光層、18…陰極配線、20…上部配線、22…封止部材、30…陰極引き出し部、40…陽極引き出し部、50…EL素子部、100…ELパネル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板、該基板上に形成されたEL素子部、及び、前記基板上に前記EL素子部を封止するように配置された封止部材を備えるELパネルであって、
前記EL素子部は、陽極層と、該陽極層と対向して配置された陰極層と、前記陽極層と前記陰極層との間に配置された有機発光層と、を少なくとも有し、
前記陰極層及び前記陽極層のうちの少なくとも一方の電極層には、前記封止部材の外部まで延びる引き出し部が接続されており、
前記引き出し部は、前記基板上に形成された金属単体又は合金からなる下部配線、及び、該下部配線上に形成された導電性を有する上部配線を有し、且つ、前記封止部材の内部で、前記下部配線において前記電極層と少なくとも接触している、
ELパネル。
【請求項2】
少なくとも前記陰極層に前記引き出し部が接続されており、且つ、前記下部配線及び前記上部配線の両方が、前記封止部材の内部で当該陰極層と接触している、請求項1記載のELパネル。
【請求項3】
前記上部配線は、導電性を有する金属酸化物及び金属窒化物から構成される、請求項1又は2記載のELパネル。
【請求項4】
前記上部配線は、前記下部配線の少なくとも一部の側面まで覆うように前記下部配線上に形成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載のELパネル。
【請求項5】
前記下部配線と、前記陽極層とは、同一の材料で構成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載のELパネル。
【請求項6】
前記下部配線は、Moを含む合金からなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のELパネル。
【請求項7】
前記下部配線は、Nbの含有割合が5〜15原子%であるMoNb合金からなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のELパネル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−262749(P2008−262749A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103103(P2007−103103)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】