説明

EL素子

【課題】絶縁層がATO膜よりなるEL素子において、隣り合うAl23層の間に位置するTiO2層の厚さを、厚く確保したまま、ATO膜によって発生する応力を小さくする。
【解決手段】基板1の上に、第1の電極2、第1の絶縁層3、発光層4、第2の絶縁層5および第2の電極6が順次積層されてなるEL素子S1において、第1および第2の絶縁層3、5の少なくとも一方が、Al23層10とTiO2層20とを積層してなるATO膜からなり、隣り合うAl23層10の間に位置するTiO2層20は、さらに、TiO2とは異種材料よりなる異種膜30により積層方向にて複数の層20a〜20cに分割されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光層が絶縁層を介して電極間に挟み込まれてなるEL(エレクトロルミネッセンス)素子に関し、特に絶縁層に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のEL素子は、一般的に、第1の電極、第1の絶縁層、発光層、第2の絶縁層、第2の電極が順次積層されてなり、第1および第2の電極間に電圧を印加させることにより発光層を発光させるものである。
【0003】
このようなEL素子において、第1および第2の絶縁層としては、Al23層とTiO2層とを積層してなるAl23/TiO2積層構造膜(以下、ATO膜という)を採用したものが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
このATO膜は、原子層成長法(Atomic Layer deposition:以下、ALD法という)によって比較的薄く、被覆性が良く且つ欠陥のない膜質を実現できるため、種々の絶縁膜のなかでもEL素子に用いて好適なものである。
【特許文献1】特開昭58−206095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このATO膜を長寿命化するためには、ATO膜の絶縁耐圧を向上させるべくTiO2層の1層の膜厚を厚くすることが有効であると考えられる。ここで、TiO2層の1層の膜厚とは、隣り合うAl23層の間に位置するTiO2層の厚さである。しかしながら、TiO2層の1層の膜厚を厚くすると、ATO膜と基板や他の積層膜との熱膨張係数差によって発生する応力がTiO2層の1層の膜厚とともに大きくなり、結果的にクラックが発生するなどの問題が生じる。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、絶縁層がATO膜よりなるEL素子において、隣り合うAl23層の間に位置するTiO2層の厚さを、厚く確保したまま、ATO膜と基板や他の積層膜との熱膨張係数差によって発生する応力を小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、第1および第2の絶縁層(3、5)の少なくとも一方が、ATO膜からなり、隣り合うAl23層(10)の間に位置するTiO2層(20)は、さらに、TiO2とは異種材料よりなる異種膜(30)により積層方向にて複数の層(20a〜20c)に分割されていることを特徴とする。
【0008】
本発明は、後述する図3に示されるように実験的に見出したものであり、それによれば、隣り合うAl23層(10)の間に位置するTiO2層(20)の厚さを、見かけ上厚く確保したまま、ATO膜と基板や他の積層膜との熱膨張係数差によって発生する応力を小さくすることができる。
【0009】
ここで、異種膜(30)は、Al23、SiO2、SiON、ITO(Indium Tin Oxide)、ZnOのうち少なくとも1つから選択された材料よりなるものにできる。
【0010】
また、実験検討の結果、異種膜(30)によって分割されたTiO2層(20)の各層(20a〜20c)の厚さ(d1)を、1nm以上であるものにすれば、EL素子の使用寿命を長くできることがわかった。分割されたTiO2層(20)の各層(2a〜2c)の厚さ(d1)が1nm未満であると、使用寿命が大幅に短くなってしまう(後述の図4参照)。
【0011】
また、実験検討の結果、異種膜(30)によって分割されたTiO2層(20)の各層(20a〜20c)の厚さ(d1)は、1nm以上10nm以下であることが好ましく、異種膜(30)がAl23である場合には、その厚さ(d2)は0.05nm以上0.1nm以下であることが好ましい。それによれば、EL素子の使用寿命を長くできるが、異種膜(30)の厚さが0.1nm以上であると、使用寿命が大幅に短くなる(後述の図5参照)。
【0012】
また、異種膜(30)はTiO2層(20)を分割するべく存在すればよいものであり、このことは、すなわち異種膜(30)が当該異種膜を構成する材料分子の1分子層以上の厚さを有することに相当する。なお、異種膜(30)がAl23の場合、1分子層の厚さとはおおよそ0.05nmに相当する。
【0013】
また、現状のEL素子の基板(1)としては、膨張係数が4×10-6/℃以下のものが多く、このような小さな熱膨張係数の基板(1)に対して本発明は有効である。
【0014】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0016】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係るEL素子S1の概略断面構成を示す図である。本実施形態のEL素子S1は、無機EL素子であり、基板1の一面上に第1の電極2、第1の絶縁層3、発光層4、第2の絶縁層5、第2の電極6を順次積層して構成されており、第1の電極2、第1の絶縁層3、第2の絶縁層5、第2の電極6のうち少なくとも光取出し側が透光性を有する材料によって構成されている。
【0017】
ここで、基板1は、ガラスや樹脂などよりなる絶縁性基板であり、その熱膨張係数が4×10-6/℃以下である。このような熱膨張係数を有する基板1は、一般的なEL素子の基板として典型的なものである。
【0018】
第1の電極2と第2の電極6は、本例ではストライプ状をなし、互いに直交しているもので、透明なITO(Indium Tin Oxide)膜にて構成されている。この第1の電極2と第2の電極6とが直交した部分が、両電極2、6間に挟まれている第1の絶縁層3、第2の絶縁層5および発光層4とともに画素を構成している。
【0019】
そして、第1の電極2、第2の電極6間に電圧を印加することで、この画素において発光層4が発光する。本例においては、発光層4で発光した光が第1の絶縁層3、第1の電極2およびガラス基板1を透過して、ガラス基板1の他面から取り出されるようになっている。
【0020】
発光層4は例えば、ZnS、ZnSe、SrS等の半導体材料にて構成されており、発光中心としては、Mn、Tb、Sm、Ce、Cu等を用いることができる。なお、発光中心にMnを用いた場合では黄橙色、Tbを用いた場合では緑色、Smを用いた場合では、赤色、Ceを用いた場合では青緑色、Cuを用いた場合では青色の発光を生じる。また、これらの材料を積層したり、同一面内に配置することで混合色が得られ、例えばZnS:Mn膜とSrS:Cu膜とを組み合わせることで白色の発光が得られる。本例では、発光層4はZnS:Mn膜としている。
【0021】
また、第1の絶縁層3および第2の絶縁層5は、ATO膜により構成された透明な膜であり、両絶縁層3、5の少なくとも一方がATO膜からなる。ここでは、第1および第2の絶縁層3、5はともに、ATO膜からなる。図2は、本実施形態の第1の絶縁層3の詳細構成を示す拡大断面図である。なお、ここでは、第2の絶縁層5も、図2に示される第1の絶縁層3と同様の構成となっている。
【0022】
図2に示されるように、第1の絶縁層3は、Al23層10とTiO2層20とを交互に、たとえば2〜100層、積層してなる。ここで、Al23層10の厚さは、たとえば3nm〜10nmである。
【0023】
本実施形態では、このATO膜としての第1の絶縁層3においては、隣り合うAl23層10の間に位置するTiO2層20は、さらに、TiO2とは異種材料よりなる異種膜30により積層方向にて複数の層20a〜20cに分割されている。たとえば当該TiO2層20は異種膜30によって2層〜10層に分割されている。
【0024】
図2に示される例では、当該TiO2層20は、3個の層20a、20b、20cに分割されている。つまり、隣り合うAl23層10の間に位置するTiO2層20は、異種膜30にて分割されてはいるが、これら3個の層20a、20b、20cおよび異種膜30により構成されている。図2では、TiO2層20が3個の層20a〜20cに分割された場合について図示したが、n個(n:2以上の整数)の層に分割された場合はTiO2層20が複数層20a〜20x(x:n番目のアルファベット)に分割される。
【0025】
ここでは、異種膜30はAl23よりなり、その厚さd2は0.05nm以上0.1nm以下であることが望ましい。なお、異種膜30を含むATO膜としての絶縁層3、5は、ALD法により成膜されるが、Al231分子層に相当する厚さを厳密に制御することは困難な場合もある。しかしながら、異種膜30をAl23とした場合、1分子層の厚さはおおよそ0.05nmに相当する。
【0026】
また、異種膜30によって分割されたTiO2層20の各層20a〜20cの厚さd1は、1nm以上10nm以下であることが望ましく、たとえば厚さd1は1nm〜3nmである。なお、TiO2層20が異種膜30により複数層20a〜20cに分割されていること、上記分割されたTiO2の個々の層の厚さd1が1nm以上10nm以下であること、異種膜30の厚さd2が0.05nm以上0.1nm以下であることの根拠は後述する。
【0027】
そして、以上をまとめると、本実施形態のATO膜としての第1の絶縁層3および第2の絶縁層5は、次のようなものとなる。
【0028】
すなわち、当該絶縁層3、5は、厚さ3〜10nmのAl23層10の間に、TiO2層20が介在するように、これら両層10、20を2〜100層交互に積層し、且つ、Al23層10の間のTiO2層20が、厚さd2が0.05nm〜0.1nmである異種膜30によって個々の厚さd1が1nm〜3nmとなるように分割された2〜10の層20a〜20cよりなるものである。
【0029】
次に、上記例に基づき、EL素子S1の製造方法について述べる。まず、基板1の一面上に、第1の電極2として光学的に透明であるITO膜をスパッタ法で成膜し、フォトリソグラフィー技術を用いてパターニングする。その上に、第1の絶縁層3としてのATO膜をALD法によって形成する。具体的な形成方法について異種膜30がAl23膜である本例の場合について、以下説明する。
【0030】
Al23層10を形成する第1のステップは、アルミニウム(Al)の原料ガスとして三塩化アルミニウム(AlCl3)、酸素(O)の原料ガスとして水(H2O)を用いて、Al23層10を形成する。ALD法では1原子層ずつ膜を形成していくために、原料ガスを交互に供給する。
【0031】
したがって、この場合には、AlCl3をアルゴン(Ar)のキャリアガスで反応炉にたとえば1秒導入した後に、反応炉内のAlCl3ガスを排気するのに十分なパージを行う。次に、H2Oを同様にArキャリアガスで反応炉にたとえば1秒導入した後に、反応炉内のH2Oを排気するのに十分なパージを行う。この第1のステップを繰り返して所定の膜厚のAl23層10を形成する。また、この第1のステップと同様の方法にてAl23膜よりなる異種膜30も形成される。
【0032】
また、TiO2層20を形成する第2のステップは、Tiの原料ガスとして四塩化チタン(TiCl4)、酸素の原料ガスとしてH2Oを用いて、TiO2層20を形成する。具体的には、第1のステップと同様にTiCl4をArキャリアガスで反応炉にたとえば1秒導入した後に、反応炉内のTiCl4を排気するのに十分なパージを行う。
【0033】
次に、H2Oを同様にArキャリアガスで反応炉にたとえば1秒導入した後に、反応炉内のH2Oを排気するのに十分なパージを行う。この第2のステップを繰り返して所定の膜厚のTiO2層20を形成する。
【0034】
このような第1および第2のステップを用いて、本例では、Al23層10を成膜し、次に、分割されたTiO2層20の各層20a〜20cおよびAl23よりなる異種膜30を交互に所定の回数を積層するように成膜し、その上にAl23層10を成膜するというサイクルを2〜100回くり返す。それにより、本実施形態のATO膜としての第1の絶縁層3を形成する。
【0035】
次に、第1の絶縁層3の上に、ZnSを母体材料とし、発光中心としてMnを添加した硫化亜鉛:マンガン(ZnS:Mn)からなる発光層4を蒸着法により形成する。発光層4の膜厚は、たとえば500〜2000nmにすることができる。これは、500nmより薄くなると、発光に寄与しない領域が多くなり発光効率が極端に低下し、2000nmより厚くすれば駆動電圧が高くなってしまうためである。
【0036】
次に、上述したのと同じ方法で、第2の絶縁層5としてのATO膜をALD法で成膜する。最後に、第2の電極6としてITO膜をスパッタ法で成膜し、フォトリソグラフィー技術を用いてパターニングする。このようにして、本実施形態のEL素子S1を作製することができる。
【0037】
次に、本実施形態において、TiO2層20が異種膜30により複数層20a〜20cに分割されていること、上記厚さd1が1nm以上10nm以下であること、異種膜30の厚さd2が0.05nm以上0.1nm以下であることの根拠について述べる。この根拠は、本発明者の行った実験結果に基づく。
【0038】
まず、TiO2層20が異種膜30により複数層20a〜20cに分割されていることについては、絶縁層3、5としてのATO膜においてAl23層10とTiO2層20の積層数および各層10、20、30の厚さを変えずに、TiO2層20の分割数のみを変えて、ATO膜と基板との熱膨張係数差によって発生する応力を実験的に調査した。
【0039】
図3は、その調査結果を示す図であり、TiO2層20の分割数(図3ではTi分割数と図示)と、絶縁層3または5を成膜した基板の曲率半径の逆数(1/R)(単位:(1/m))との関係を示す図である。曲率半径は絶縁膜を成膜した面が凸になる場合を正としている。この曲率半径の逆数(1/R)の絶対値が小さい程、すなわち図3の縦軸の上方に行く程、上記応力が小さいことを意味する。
【0040】
図3では、Ti分割数:1のときが分割無しの場合であるが、この図3に示されるように、TiO2層20を分割すれば、分割しない場合よりもATO膜によって発生する応力が小さくなり、さらにTiO2層20の分割数が大きくなるほど、ATO膜によって発生する応力が小さくなっていく。
【0041】
このことから、隣り合うAl23層10の間に位置するTiO2層20を、TiO2とは異種材料よりなる異種膜30により積層方向にて複数層20a〜20cに分割すれば、TiO2層20の厚さを、見かけ上厚く確保したまま、ATO膜によって発生する応力を小さくすることができる。
【0042】
次に、上記異種膜30によって分割されたTiO2層20の各層20a〜20cの厚さd1が1nm以上であることについては、絶縁層3、5としてのATO膜においてAl2O3層10とTiO2層20の積層数および各層10、20、30の厚さを変えずに、当該厚さd1の大きさのみを変えて、EL素子の使用寿命を実験的に調査した。
【0043】
図4は、その調査結果を示す図であり、分割されたTiO2層20の各層20a〜20cの厚さd1(図4では分割Ti膜厚d1:単位:nm)と、EL素子の使用寿命(単位:hr)との関係を示す図である。
【0044】
ここで、使用寿命は50℃の環境において、電圧が250V、パルス幅が20μs、フレーム周波数(正負に関係なくパルス電圧が印加される周波数)が480Hzの交流パルス電圧を印加してEL素子を駆動した場合に絶縁層3、5が絶縁破壊するなどして発光しなくなるまでの時間であり、この時間が長いほどよいことはもちろんである。また、使用寿命はEL素子を駆動する環境あるいは駆動条件によって変化するものである。
【0045】
図4では、分割されたTiO2層20の各層20a〜20cの厚さd1がおおよそ1nm以上、厳密には1.1nm以上であれば、1nm未満の場合に比べて、EL素子の使用寿命が大幅に向上することがわかる。また、分割されたTiO2層20の各層20a〜20cの厚さd1を例えば10nmより大きくしても、使用寿命は大幅には向上しない。さらに、分割Ti膜厚d1が3.4nmの場合に比べて応力が3倍程度と過大になってしまう。
【0046】
次に、異種膜30の厚さd2が、0.05nm以上0.1nm以下であることについては、他の条件はすべて同一であって当該厚さd2の大きさのみを変えて、EL素子の使用寿命を実験的に調査した。
【0047】
図5は、その調査結果を示す図であり、Al23よりなる異種膜30の厚さd2(図4では異種膜厚d2:単位:nm)と、上記EL素子の使用寿命(単位:hr)との関係を示す図である。
【0048】
図5では、異種膜30の厚さd2が、0.05nm以上であれば、異種膜30が存在し、TiO2層20が異種膜30によって分割されている。また、異種膜30の厚さd2が0.1nmを超えると、使用寿命が大幅に低減する可能性があることがわかる。これは、異種膜30がAl23のような絶縁膜である場合、その膜厚が厚くなると絶縁膜として機能し、TiO2層20を電気的に分割してしまい、通常のATO膜においてTiO2層20が薄くなることと等価になるため、使用寿命の低下につながると考えられる。
【0049】
ここで、上記図3〜図5の検討結果に基づけば、本実施形態における最も好ましい絶縁層3、5は、Al23層10の間のTiO2層20が、厚さd2が0.1nmである異種膜30によって厚さd1が1.1nmであるように3分割された層20a〜20cよりなるものである。なお、上記したAl23よりなる異種膜30の厚さd2:0.05nmとは、アルミナ1分子層相当の厚さである。
【0050】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、EL素子として無機EL素子の例を示し、その中において発光層4を挟む絶縁層3、5が上記ATO膜として構成されている場合について述べた。しかしながら、上記絶縁層3、5と同様の構成の絶縁層を、有機EL材料よりなる発光層を有する有機EL素子に適用してもよい。
【0051】
図6は、その有機EL素子S2の概略断面構成を示す図である。基板101は、ガラス基板、樹脂基板等の透明な基板からなる。この基板101の一面上には、光の3原色である赤、青、緑のカラーフィルタ層102が設けられている。その上には、平坦化層として、透明且つ電気絶縁性のオーバーコート層103が形成されている。
【0052】
このオーバーコート層103の上には、ITOなどの透明導電膜からなる陽極104が形成されている。そして、陽極104の上には、有機発光材料からなる発光層を含む有機層105が形成されており、この有機層105の上には、Alなどからなる陰極106が形成されている。
【0053】
そして、陰極106の上には、有機EL素子S2の最表面を構成する保護膜107が設けられている。この保護膜107は、内部への水の侵入防止などの役割を担うものである。
【0054】
このように、本実施形態の有機EL素子S2は、一般のものと同様の積層構成を有するが、ここにおいて、本実施形態では、オーバーコート層103および保護膜107の両方もしくはいずれか一方が、上記第1実施形態の絶縁層3、5と同様の構成の絶縁層として構成されている。
【0055】
つまり、本実施形態では、オーバーコート層103および保護膜107の少なくとも一方が、ATO膜からなり、且つ、隣り合うAl23層の間に位置するTiO2層は、さらに、上記異種膜より積層方向にて複数の層に分割されている。
【0056】
この場合も、上記第1実施形態と同様に、隣り合うAl23層の間に位置するTiO2層の厚さを、見かけ上厚く確保したまま、ATO膜と基板や他の積層膜との熱膨張係数差によって発生する応力を小さくできる。つまり、応力の小さい膜でバリア性を持たせたり水分の浸入を防止できるので、有機EL素子S2の特性変動を抑制できる。
【0057】
また、本実施形態においても、異種膜は、Al23、SiO2、SiON、ITO、ZnOのうち少なくとも1つから選択された材料よりなるものにできる。
【0058】
(他の実施形態)
なお、上記絶縁層3、5は、隣り合うAl23層10の間に位置するTiO2層20が異種膜30により複数の層20a〜20cに分割されているATO膜であるが、このようなATO膜は上記ALD法以外にも、可能ならば、スパッタなどの成膜法により形成してもよい。
【0059】
また、異種膜30としては、上記したAl23以外にもSiO2、SiON、ITO、ZnOのうち少なくとも1つから選択された材料を採用してもよい。
【0060】
また、上記EL素子S1において、第1および第2の絶縁層3、5の片方側のみ上記実施形態と同様の構成を有するATO膜を用い、他方は従来のATO膜または他の絶縁膜を採用した構成でもよい。また、電極2、6や発光層4の構成も上記形態に限定されるものではなく、適宜設計変更してよいことはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1実施形態に係るEL素子の概略断面図である。
【図2】第1実施形態の第1の絶縁層の詳細構成を示す拡大断面図である。
【図3】TiO2層の分割数と基板の曲率半径の逆数(1/R)との関係を示す図である。
【図4】分割されたTiO2層の各層厚さd1とEL素子の使用寿命との関係を示す図である。
【図5】Al23よりなる異種膜の厚さd2とEL素子の使用寿命との関係を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る有機EL素子を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1…基板、2…第1の電極、3…第1の絶縁層、4…発光層、5…第2の絶縁層、
6…第2の電極、10…Al23層、20…TiO2層、
20a、20b、20c…異種膜で分割されたTiO2層の各層、
30…異種膜、d1…異種膜によって分割されたTiO2層の各層の厚さ、
d2…異種膜の厚さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(1)の上に、第1の電極(2)、第1の絶縁層(3)、発光層(4)、第2の絶縁層(5)および第2の電極(6)が順次積層されてなるEL素子において、
前記第1および第2の絶縁層(3、5)の少なくとも一方が、Al23層(10)とTiO2層(20)とを積層してなるAl23/TiO2積層構造膜からなり、隣り合う前記Al23層(10)の間に位置する前記TiO2層(20)は、さらに、TiO2とは異種材料よりなる異種膜(30)により積層方向にて複数の層(20a〜20c)に分割されていることを特徴とするEL素子。
【請求項2】
前記異種膜(30)は、Al23、SiO2、SiON、ITO、ZnOのうち少なくとも1つから選択された材料よりなることを特徴とする請求項1に記載のEL素子。
【請求項3】
前記異種膜(30)によって分割された前記TiO2層(20)の各層(20a〜20c)の厚さ(d1)は、1nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のEL素子。
【請求項4】
前記異種膜(30)はAl23であり、その厚さ(d2)は0.05nm以上0.1nm以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のEL素子。
【請求項5】
前記基板(1)の熱膨張係数が4×10-6/℃以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載のEL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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