説明

EMT構造を有する微結晶ゼオライト及びその製造方法

【課題】
本発明は、触媒や吸着剤等での用途が期待できる、六角板状の形状、及び、EMT構造を有する微結晶ゼオライトを提供するものである。また、当該EMT構造を有するゼオライトの製造方法を提供する。
【解決手段】
平均厚さが0.03μm以上0.3μm以下であり、EMT構造を有する六角板状ゼオライト。平均底面径が0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。このようなゼオライトは、以下の組成の反応混合物を攪拌しながら結晶化させることで製造することができる。
Si/Alモル比=9〜11
O/Siモル比=12〜16
(18−クラウン−6)/Siモル比=0.06〜0.10
Na/Siモル比=0.43〜0.50
OH/Siモル比=0.43〜0.50

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六角板状の形状、及び、EMT構造を有する微結晶ゼオライト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
EMT構造を有するゼオライトは、国際ゼオライト協会規定の構造コードEMTで表されるゼオライトであり、例えば、物質名「EMC−2」として知られている(非特許文献1)。
【0003】
これまでに報告されたEMT構造を有するゼオライトは、3μmの六角板状結晶を有するゼオライトや(非特許文献2)、平均径4〜5μm、厚さ0.5〜1.0μmの六角板状結晶を有するゼオライト(非特許文献3)などであり、いずれも比較的大きなEMT構造を有するゼオライトであった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES,6th reviced edition,p.122−123,Elsevier(2007)
【非特許文献2】Zeolites,10,p.546(1990)
【非特許文献3】VERIFIED SYNTHESIS OF ZEOLITIC MATERIALS,2nd reviced edition,p.145−146,Elsevier(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゼオライトは、触媒、吸着剤又はイオン交換剤等として広く利用されている。これらの用途においては、結晶径が小さいゼオライトが必要とされている。しかしながら、これまでに報告されたEMT構造を有するゼオライトは結晶径が大きく、これらの用途において適したものではなかった。
【0006】
本発明は、触媒や吸着剤等での用途が期待できる、六角板状の形状、及び、EMT構造を有する微結晶ゼオライトを提供するものである。また、当該EMT構造を有するゼオライトの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、EMT構造を有する微結晶ゼオライトについて鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は平均厚さが0.03μm以上0.3μm以下であり、EMT構造を有する六角板状ゼオライトである。
【0009】
以下、本発明のEMT構造を有する六角板状ゼオライト(以下、「本発明のゼオライト」とする)について説明する。
【0010】
本発明のゼオライトは、その結晶構造がEMT構造である。EMT構造は、COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITES,5th reviced edition,p.146−147,Elsevier(2007)(以下、参考文献1)に記載された粉末X線回折パターンを示す構造である。したがって、EMT構造を有するゼオライトか否かは、参考文献1に示された粉末X線回折パターンとゼオライトの粉末X線回折パターンとを比較することにより確認できる。
【0011】
本発明のゼオライトはEMT構造の純相からなる結晶構造を有することが好ましい。なお、EMT構造の純相とは、粉末X線回折パターンにおいて、EMT構造に由来するX線回折ピークしか存在しないことである。
【0012】
本発明のゼオライトの形状、つまり、本発明のゼオライトの一次粒子の形状は六角板状である。形状が六角板状であり、なおかつ、その結晶面が明瞭であることは、六方晶のEMT構造が高結晶性であることを示している。
【0013】
本発明のゼオライトは、平均厚さが0.03μm以上0.3μm以下である。平均厚さが0.3μmより大きい場合、触媒として用いた場合において、活性、選択性、及び、耐コーキング性が劣るだけでなく、吸着剤又はイオン交換剤として用いた場合において、十分な吸着速度やイオン交換速度が得られない。そのため、本発明のゼオライトの平均厚さは0.3μm以下であり、0.2μm以下であることが好ましく、0.15μm以下であることがより好ましい。一方、平均厚さが0.03μmより小さいと耐熱性、耐熱水性が低い。そのため、本発明のゼオライトの平均厚さは0.03μm以上であり、0.05μm以上であることが好ましい。
【0014】
本発明のゼオライトは、平均底面径が0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。平均底面径が1.0μm以下、好ましくは0.9μm以下であることで、触媒として用いた場合において、活性、選択性、及び、耐コーキング性が高くなりやすい。さらには、本発明のゼオライトを吸着剤又はイオン交換剤として用いた場合、吸着速度やイオン交換速度が速くなりやすい。また、平均底面径が0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.4μm以上とすることで、耐熱性、耐熱水性が高くなりやすい。
【0015】
このように、本発明のゼオライトは、その形状が六角板状であるだけでなく、その平均厚さ、さらにはその平均底面径が上記の範囲であることで、触媒、吸着剤又はイオン交換剤として適している。
【0016】
なお、本発明のゼオライトの平均厚さ及び平均底面径は、以下の実施例に示した方法などにより測定することができる。
【0017】
本発明のゼオライトは、そのSiO/Alは特に限定されないが、例えば、SiO/Alがモル比で7〜9であることを挙げることができる。
【0018】
次に、本発明のゼオライトの製造方法について説明する。
【0019】
本発明のEMT構造を有する六角板状ゼオライトは、以下の組成の反応混合物を攪拌しながら結晶化させることにより製造することができる。
【0020】
Si/Alモル比=9〜11
O/Siモル比=12〜16
(18−クラウン−6)/Siモル比=0.06〜0.10
Na/Siモル比=0.43〜0.50
OH/Siモル比=0.43〜0.50
【0021】
本発明の製造方法において、シリカ源、アルミナ源、ナトリウム源、有機構造指向剤、及び、水を原料とすることが好ましい。また、反応混合物の結晶化を促進させるため、原料に種晶を添加しても良い。
【0022】
シリカ源としては、ケイ酸ソーダ、シリカゾル、ヒュームドシリカ、沈降法シリカ、シリカアルミナゲル又はテトラエトキシランなどが例示できる。
【0023】
アルミナ源としては、アルミン酸ソーダ、水酸化アルミニウム、擬ベーマイト、アルミナゾル、シリカアルミナゲル又はアルミニウムイソプロポキシドなどが例示できる。
【0024】
ナトリウム源としては、水酸化ナトリウム、ケイ酸ソーダ、アルミン酸ソーダが例示できる。
【0025】
有機構造指向剤として18−クラウン−6(別名18−クラウン−6−エーテル又は1,4,7,10,13,16−ヘキサオキサシクロオクタデカン)を用いることが好ましい。
【0026】
本発明の製造方法では、反応混合物は以下の組成とする。反応混合物の組成が以下の範囲外であると、本発明のゼオライトは得られない。
【0027】
Si/Alモル比=9〜11
O/Siモル比=12〜16
(18−クラウン−6)/Siモル比=0.06〜0.10
Na/Siモル比=0.43〜0.50
OH/Siモル比=0.43〜0.50
【0028】
本発明の製造方法では、反応混合物を攪拌しながら結晶化させる。これにより、反応混合物が均一に混合されるだけでなく、反応が促進する。さらに、結晶化中で結晶核の生成が促進されるため、得られるEMT構造を有するゼオライトの結晶が微細となる。
【0029】
反応混合物の攪拌は、攪拌羽根やスターラーなどにより行うことができる。また、その際の回転数として10回転/分〜600回転/分が例示できる。
【0030】
さらに、反応混合物を反応容器に入れ、該反応容器を回転させることで反応混合物を攪拌することが好ましい。反応容器を回転させる場合、回転方法は特に限定されない。反応容器の回転方法として、反応容器内部の点又は軸の回りを回転する自転、反応容器外部の点又は軸の回りを回転する公転の何れでも良い。
【0031】
反応容器を回転させる場合、その回転数として10回転/分〜120回転/分が例示できる。
【0032】
結晶化は、結晶化温度105℃以上115℃以下で行なうことが好ましい。結晶化温度をこの範囲で行うことにより、本発明のゼオライトが生成しやすくなる。
【0033】
結晶化後の反応混合物は、十分に放冷し、固液分離、十分量の純水で洗浄し、40℃〜300℃の任意の温度で乾燥する。これにより、有機構造指向剤含有のEMT構造を有するゼオライトが得られる。
【0034】
本発明の製造方法では、有機構造指向剤を除去することが好ましい。有機構造指向剤の除去方法として、焼成、若しくは分解による除去が例示できる。
【0035】
焼成により有機構造指向剤を除去する場合、焼成の条件として、400℃〜800℃、0.5時間〜12時間、酸素を含むガス流れ等の条件が例示できる。分解により有機構造指向剤を除去する場合、分解の条件として、室温以上、1時間以上24時間以下で、10%以上の過酸化水素水水溶液とゼオライトとを接触させる等の条件が例示できる。
【0036】
本発明のゼオライトは、触媒、吸着剤、イオン交換剤としての機能を高めるために、イオン交換、金属担持を行うことができる。イオン交換は、交換イオンの一部又は全部を置換するために行われる。導入するイオンを含む水溶液等を接触させ、固液分離、必要に応じて純水で洗浄して得ることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明のEMT構造を有するゼオライトは、触媒として用いた場合において、高活性、高選択性、高耐コーキング性が期待できる。さらに、吸着剤又はイオン交換剤として用いた場合において、速い吸着速度・イオン交換速度が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】六角板状のモデル(厚さと底面径)を示す図。
【図2】実施例1で製造したEMT構造を有する六角板状ゼオライトの粉末X線回折パターンを示す図。
【図3】実施例1で製造したEMT構造を有する六角板状ゼオライトの結晶構造を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率=50,000倍、図中スケール=0.5μm)。
【図4】実施例1で製造したEMT構造を有する六角板状ゼオライトの結晶構造を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率=10,000倍、図中スケール=1μm)。
【図5】比較例1で製造したEMT構造を有する六角板状ゼオライトの粉末X線パターンを示す図。
【図6】比較例1で製造したEMT構造を有する六角板状ゼオライトの結晶構造を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率=10,000倍、図中スケール=1μm)。
【図7】比較例1で製造したEMT構造を有する六角板状ゼオライトの結晶構造を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率=2,000倍、図中スケール=10μm)。
【実施例】
【0039】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、実施例、比較例における各測定方法は、以下の通りである。
(粉末X線回折)
マックサイエンス製MXP3システムを用いて、X線源CuKα、加速電圧40kV、管電流30mA、操作速度2θ=0.02°/sec、サンプリング間隔0.02sec、発散スリット1deg、散乱スリット1deg、受光スリット0.3mm、モノクロメーター使用、ゴニオ半径185mmで評価した。
(平均厚さ及び平均底面径の測定)
平均厚さ及び平均底面径は、走査型電子顕微鏡(日本電子製,JSM−6390LV)観察から評価した。厚さ及び底面径の評価の模式図を図1に示す。10個以上の一次粒子の厚さ及び底面径を測定し、それを加重平均することによって、平均厚さ及び平均底面径とした。
【0040】
実施例1
30重量%のシリカゾル(日産化学製,スノーテックスN−30)、液体アルミン酸ソーダ(住友化学製)、18−クラウン−6(東京化成製)、48重量%の水酸化ナトリウム(東ソー製)、純水を原料として用いた。これらの原料を以下の組成となるように混合し、1時間攪拌して反応混合物を得た。
【0041】
Si/Al=10
O/Si=14
(18−クラウン−6)/Si=0.087
Na/Si=0.44
OH/Si=0.44
【0042】
次に、得られた反応混合物を、容積約200mlのSUS製の反応容器に移し替え、24時間、室温(約25℃)にて静置した。
【0043】
その後、反応容器を公転式反応装置に設置し、50回転/分で反応容器を公転させながら約30分掛けて110℃まで昇温した。昇温後、反応容器を公転させたまま12日間保持した。結晶化後のスラリーは、放熱し、純水で洗浄した後に、110℃乾燥して粉末を得た。
【0044】
得られた粉末の粉末X線回折パターンを図2に、走査型電子顕微鏡写真を図3,4に示す。得られた粉末はEMT構造純相のゼオライトからなる粉末であった。
【0045】
また、得られたゼオライトは六角板状であり、その平均厚さは0.16μm、平均底面径は0.89μmであった。このように、本発明のゼオライトは微細な結晶であることがわかった。
【0046】
又、得られたゼオライトの組成をICP分析で測定した。その結果、当該ゼオライトのSiO/Alモル比は7.8であった。
【0047】
比較例1
結晶化を静置した状態で行った以外は実施例1と同様にして粉末を得た。
【0048】
得られた粉末の粉末X線回折パターンを図5に、走査型電子顕微鏡写真を図6,7に示す。粉末X線回折パターンから、得られた粉末は、EMT構造純相のゼオライトからなる粉末であることが分かった。
【0049】
また、得られたゼオライトは六角板状であったが、その平均厚さは0.52μm、平均底面径は4.2μmであり、大きな結晶のゼオライトであった。
【0050】
又、得られたゼオライトの組成をICP分析で測定した。その結果、当該ゼオライトのSiO/Alモル比は7.8であった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のゼオライトは、触媒、吸着剤、イオン交換剤として用いることができる。例えば、石油精製、又は石炭、天然ガス、バイオ原料を用いた精製における、流動接触分解、水素化分解、水素化脱蝋、アルカンの異性化等の触媒として、高活性、高選択性、高耐コーキング性が期待できる。また石油化学、又は石炭、天然ガス、バイオ原料を用いた、芳香族化、アルキル化、水和反応、脱水反応、転移反応等の触媒として高活性、高選択性、高耐コーキング性が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均厚さが0.03μm以上0.3μm以下であり、EMT構造を有する六角板状ゼオライト。
【請求項2】
平均底面径が0.1μm以上1.0μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のEMT構造を有する六角板状ゼオライト。
【請求項3】
以下の組成の反応混合物を攪拌しながら結晶化させる請求項1又は2に記載のEMT構造を有する六角板状ゼオライトの製造方法。
Si/Alモル比=9〜11
O/Siモル比=12〜16
(18−クラウン−6)/Siモル比=0.06〜0.10
Na/Siモル比=0.43〜0.50
OH/Siモル比=0.43〜0.50
【請求項4】
反応混合物を反応容器に入れ、該反応容器を回転させることで反応混合物を攪拌することを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
105℃以上115℃以下で結晶化させることを特徴とする請求項3又は4に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−218998(P2012−218998A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88830(P2011−88830)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】