説明

ERK1/ERK2のリン酸化比のアルツハイマー病特異的な変化―アルツハイマー病に特異的な分子バイオマーカー(ADSMB)

本発明は、アルツハイマー病を診断する方法、同様に、被験者におけるアルツハイマー病の存在または非存在を確認する方法に関する。また、本発明は、アルツハイマー病の治療に有用なリード化合物を同定するための方法に関し、該方法は非-アルツハイマー細胞をアミロイド ベータ ペプチドと接触させること、前記細胞をプロテインキナーゼC アクチベータで刺激すること、前記細胞を試験化合物と接触させること、およびアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値を決定することを含む。また、本発明は、プロテインキナーゼC アクチベータで刺激後の細胞において特異的にリン酸化されたMAPキナーゼタンパク質の比率の変化を検出することにより、被験者におけるアルツハイマー病を診断する方法に関する。本願で開示されるアルツハイマー病に特異的な分子バイオマーカーは、アルツハイマー病の診断のため、被験者におけるアルツハイマー病の進行のモニタリングのために有用であり、またアルツハイマー病を治療する又は予防するための化合物を同定するスクリーニング方法に有用である。また、本発明は、アルツハイマー病の存在または非存在を本願に開示されるアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーを用いて検出および診断する試薬を含んでいるキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の説明】
【0001】
本願は、2006年6月7日に出願された同時係属のPCT/US2006/022156の一部継続出願であり、この出願は2005年10月11日に出願された同時係属のPCT/US2005/036014の一部継続出願であり、これらの双方の出願全体が本願に参照によって援用される。
【0002】
[発明の分野]
[0001] 本発明は、アルツハイマー病を診断する又は被験者におけるアルツハイマー病の存在または非存在を確認(confirming)する方法に関する。また、本発明は、アルツハイマー病の治療または予防に有用な治療剤の開発に使用しえるリード化合物をスクリーニングする方法に関する。また、本発明は、プロテインキナーゼC アクチベータで刺激後の細胞において特異的にリン酸化されたMAPキナーゼタンパク質の比率の変化を検出することにより、被験者におけるアルツハイマー病を診断する方法に関する。本願で開示されるアルツハイマー病に特異的な分子バイオマーカー(ADSMB)は、アルツハイマー病の診断のため、疾患の進行のモニタリングのため有用であり、またリード化合物の同定のためのスクリーニング方法に有用である。また、本発明は、アルツハイマー病の治療への応答性が増加している患者を選択するための方法に関する。
【0003】
[発明の背景]
[0002] 細胞内のカルシウムホメオスタシスの混乱, 酸化ストレスのレベルの増加, および炎症のメカニズム(興奮性の毒性およびニューロンの死を生じる)が、アルツハイマー病 (AD)の病因に寄与することが示唆されている(Ito et al. 1994, Putney, 2000; Yoo et al., 2000; Sheehan et al., 1997; De Luigi et al., 2001; Anderson et al., 2001; Remarque et al., 2001)。幾つかの細胞内の Ca2+ レベル および 他の細胞プロセスにおけるAD関連の異常は、ブラジキニンを刺激に用いた研究から由来した。強力な炎症メディエータとして、ブラジキニン (BK)は、外傷(trauma), 発作(stroke), 疼痛 虚血, および 喘息などの病態生理学的なコンディション下で脳および末梢の細胞により産生される(Regoli et al., 1993; Bockmann & Paegelow, 2000; Ellis et al., 1989; Kamiya et al., 1993)。B2 ブラジキニン レセプター (BK2bR)(G-タンパク質共役型レセプター)に作用することにより、BKは、ホスホリパーゼC (PLC)の活性をとおしてホスファチジルイノシトール (PI)の ターンオーバーを惹起し、次にIP3-感受性のストアからの細胞内の Ca2+ 放出を増加させるイノシトール 1,4,5-三リン酸(IP3)を産生する(Noda et al., 1996; Venema et al., 1998; Wassdal et al., 1999; Cruzblanca et al., 1998; Ricupero et al., 1997; Pascale et al., 1999)。同じ経路を通じて、BKは、マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼの活性化をとおして他の炎症誘発性サイトカインの産生も惹起する(Hayashi et al., 2000; Schwaninger et al., 1999; Phagoo et al., 2001)。細胞内の Ca2+ レベルの上昇の増強が、ブラジキニンの刺激およびK+ チャネルの不活性化に応答するADの脳、同様に、ADの末梢細胞において認められた〔Etcheberrigaray et al., 1993, 1998; Hirashima et al., 1996; Gibson et al., 1996(a)〕。
【0004】
[0003] また、BK2bR 活性化に引き続くPLCの刺激はジアシルグリセロールの産生を導き、細胞内の Ca2+の増加にともなってプロテインキナーゼC (PKC) アイソフォームが活性化される。BK-活性化PLC/リン脂質- Ca2+/PKC カスケードは、Ras/Raf シグナル伝達経路と相互作用して、細胞外シグナル制御キナーゼ 1/2 (Erk 1 および Erk2, これらは共に「Erk1/2」と称される), MAPキナーゼファミリーのサブタイプが活性化される(Berridge, 1984; BAssa et al., 1999; Hayashi et al., 2000; Blaukat et al., 2000, Zhao et al. Neurobiology of Disease 11, 166-183, 2002)。Erk1/2は複数のシグナル伝達経路からのシグナルを受け取り、そしてAP-1, NF-κB, および サイクリックAMP-応答配列結合タンパク質 (CREB)を含む幾つかの転写因子をとおした遺伝子発現の制御による細胞の増殖および分化が導かれる。主要なキナーゼの一つとしてErk2が作用することによって、tauをSer-262 および Ser-356を含む複数のセリン/スレオニン部位でリン酸化する(Reynolds et al., 1993; Lu et al., 1993)。加えて、PKC-活性化MAPキナーゼ および BKレセプター関連経路が、アミロイド前駆体タンパク質(sAPP)の可溶化型の形成 および 分泌を制御することが異なる研究室により示された(Desdouits-Magnen et al., 1998; Gasparini et al., 2001; Nitsch et al., 1994, 1995, 1996, 1998)。これらの所見によって、BK-関連性のsAPP プロセシングがPKC-MAPキナーゼ経路と関連しえる可能性が示唆された。他方で、ウイルス感染, 酸化ストレスの増加, APPの異常な発現, およびApβへの曝露などの病理学的コンディションによって、MAPキナーゼの活性化が生じ(Rodems & Spector, 1998; McDonald et al., 1998; Ekinci et al., 1999; Grant et al., 1999)、tau リン酸化が増強される(Greenberg et al., 1994; Ekinci & Shea, 1999; Knowles et al., 1999)。これらの作用は、ADの病因におけるMAPキナーゼ シグナル伝達経路の撹乱(derangement)と関係する。
【0005】
[0004] マイトジェン活性化タンパクキナーゼ(例えば、Erk1 および Erk2)は、微小管関連タンパク質 tau のリン酸化およびアミロイド タンパク質 βのプロセシングを制御する(双方のイベントはアルツハイマー病の病態生理学に重要である)。ブラジキニンに応答した増強した長期のErk1/2 リン酸化は、家族性および散発性のアルツハイマー病の両方の線維芽細胞で検出されるが、年齢が適合する対照では検出されない(Zhao et al. Neurobiology of Disease 11, 166-183, 2002)。ブラジキニンで誘導される持続性の Erk1/2 リン酸化は以前にアルツハイマー病の線維芽細胞に見出されており、WO 02/067764(本願にその全体が参照によって援用される)の対象である。
【0006】
[0005] アルツハイマー病を診断するための及びアルツハイマー病の治療および予防に有用な化合物をスクリーンするための感度が高く、特異的が高い試験が必要とされる。本発明の発明者は、以前に知られている診断上の試験と比較して高度に感受性で高度に特異的な様式でアルツハイマー病の診断に有用な独特のアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカー(molecular biomarkers)を初めて同定した。このようなことから、本願に開示される独特のアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、アルツハイマー病を検出 および 診断するため高度の感度および特異性を有している診断方法の基礎として貢献する。また、本発明の独特なアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、アルツハイマー病の治療および予防の治療剤として使用されえる化合物を同定するためのスクリーニング方法に有用である。
【0007】
[発明の概要]
[0006] 特定の態様において、本発明は、アルツハイマー病の治療への増加した応答性を有している患者を選択するための方法に関し、該方法は患者からの細胞をプロテインキナーゼC アクチベータである因子と接触させることと、前記細胞におけるアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値を測定することとを含み;前記細胞における前記アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値が早期ステージのアルツハイマー病と関連する高い正の値である場合、前記患者における前記アルツハイマー病の治療への増加した応答性が示される。
【0008】
[0007] 好適な態様において、前記細胞は末梢細胞である。特定の好適な態様において、前記細胞は、皮膚細胞, 線維芽皮膚細胞(fibroblast skin cells), 血液細胞, および頬粘膜の細胞(buccal mucosa cells)からなる群から選択される。
【0009】
[0008] 特定の態様において、前記の早期ステージのアルツハイマー病と関連する高い正の値は、零年ないし一年, または零年ないし二年, または零年ないし三年, または零年ないし四年, または零年ないし五年, または零年ないし六年の痴呆を示す。
【0010】
[0009] 特定の態様において、前記プロテインキナーゼC アクチベータは、ブラジキニン, ブリオスタチン, ボンベシン, コレシストキニン, トロンビン, プロスタグランジン F2α, および バソプレッシンからなる群から選択される。
【0011】
[0010] 特定の態様において、本発明は、アルツハイマー病の治療への増加した応答性を有している患者を選択するための方法に関し、該方法は患者からの細胞をプロテインキナーゼC アクチベータである因子と接触させることと、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値を測定することとを含み、前記細胞における前記アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値が対照細胞からの前記アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値よりも高い場合、前記患者におけるアルツハイマー病の治療への応答性の増加が示される。
【0012】
[0011] 好適な態様において、前記細胞は末梢細胞である。特定の好適な態様において、前記細胞は、皮膚細胞, 線維芽皮膚細胞, 血液細胞, および頬粘膜の細胞からなる群から選択される。
【0013】
[0012] 特定の態様において、前記の早期ステージのアルツハイマー病と関連する高い正の値は、零年ないし一年, または零年ないし二年, または零年ないし三年, または零年ないし四年, または零年ないし五年, または零年ないし六年の痴呆を示す。
【0014】
[0013] 特定の態様において、前記プロテインキナーゼC アクチベータは、ブラジキニン, ブリオスタチン, ボンベシン, コレシストキニン, トロンビン, プロスタグランジン F2α, および バソプレッシンからなる群から選択される。
【0015】
[0014] 特定の態様において、本発明は、本願に開示される任意の方法によりアルツハイマー病の治療への増加した応答性を有していると同定された患者を治療するための方法に関し、該方法は治療上効果的な量の医薬品(pharmaceutical agent)を前記患者に投与することを含んでいる。
【0016】
[0015] また、本発明は、被験者におけるアルツハイマー病の存在または非存在を決定する又は確認(confirming)するための方法に関する。特定の態様において、前記方法は、被験者からの細胞をアミロイド ベータ ペプチドと接触させることと、前記接触させる工程が前記細胞においてアルツハイマー病の表現型を誘導するかどうかを決定することとを含み; アルツハイマー病の表現型が前記接触させる工程により前記細胞に誘導される場合、前記被験者におけるアルツハイマー病の非存在が確立される又は指摘される。特定の態様において、前記アミロイド ベータ ペプチドとのインキュベーションによって前記細胞におけるアルツハイマー病の表現型において有意な変更(alteration)または変化が生じない場合、前記被験者におけるアルツハイマー病の存在が確立される又は指摘される。アルツハイマー病の表現型に有意な変更または変化がないことは次の事項を意味する: その事項とは、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値は、前記細胞が前記アミロイド ベータ ペプチドと接触される前の値と比較して不変であること、或いは前記アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値は、前記細胞が前記アミロイド ベータ ペプチドと接触される前の値と比較して約 15%未満, または約 14%未満, または約 13%未満, または約 12%未満, または約 11%未満, または約 10%未満, または約 9%未満, または約 8%未満, または約 7%未満, または約 6%未満, または約 5%未満, または約 4%未満, または約 3%未満または約 2%未満, または約 1%未満または約 0.5%未満, または約 0.25%未満で変化した又は変更されたことである。
【0017】
[0016] 特定の態様において、アミロイド ベータ ペプチドはAβ (1-42)であるが、任意のアミロイド ベータ ペプチドを使用しえる。更なる態様において、前記方法は、前記細胞をプロテインキナーゼC アクチベータと接触させることを含む。なおさらなる態様において、前記プロテインキナーゼC アクチベータは、ブラジキニン, ブリオスタチン, ボンベシン, コレシストキニン, トロンビン, プロスタグランジン F2α, および バソプレッシンからなる群から選択される。なおさらなる態様において、前記細胞は末梢細胞(peripheral cells)である。なおさらなる態様において、前記細胞は、線維芽細胞, 唾液, 血液, 尿, 皮膚細胞, 頬粘膜細胞 および 脳脊髄液(cerebro spinal fluid)からなる群から選択される。本願に記載される全ての方法は、インビボまたはインビトロで実施されてもよい。好適な態様において、本発明の方法は、インビトロで実施される。
【0018】
[0017] 本発明の特定の態様において、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値がゼロよりも大きい正の値(positive value)である場合、アルツハイマー病の表現型が前記細胞において誘導される。
【0019】
[0018] 本発明の好適な態様は、被験者におけるアルツハイマー病の非存在を決定する又は確認するための方法に関し、該方法は被験者からの細胞をAβ (1-42)と接触させること;前記細胞をブラジキニンと接触させること;アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値を測定することを含み;前記アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値がゼロよりも大きい正の値である場合、前記被験者におけるアルツハイマー病の非存在が確立される又は指摘される。特定の態様において、前記アミロイド ベータ ペプチドとのインキュベーションによって前記細胞におけるアルツハイマー病の表現型に有意な変更(alteration)または変化が生じない場合、前記被験者におけるアルツハイマー病の存在が確立される又は指摘される。アルツハイマー病の表現型に有意な変更または変化がないことは次の事項を意味する: その事項とは、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値は前記細胞が前記アミロイド ベータ ペプチドと接触される前の値と比較して不変であること、或いは前記アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値は前記細胞が前記アミロイド ベータ ペプチドと接触される前の値と比較して約 15%未満, または約 14%未満, または約 13%未満, または約 12%未満, または約 11%未満, または約 10%未満, または約 9%未満, または約 8%未満, または約 7%未満, または約 6%未満, または約 5%未満, または約 4%未満, または約 3%未満または約 2%未満, または約 1%未満または約 0.5%未満, または約 0.25%未満で変化した又は変更されたことである。なおさらなる好適な態様において、前記細胞は末梢細胞である。なおさらなる好適な態様において、前記細胞は、線維芽細胞, 唾液, 血液, 尿, 皮膚細胞, 頬粘膜細胞 および 脳脳脊髄液からなる群から選択される。
【0020】
[0019] また、本発明は、アルツハイマー病の治療に有用なリード化合物を同定するための方法に関し、該方法は非-アルツハイマー細胞をアミロイド ベータ ペプチドと接触させること、同じ細胞をプロテインキナーゼC アクチベータである因子と接触させること、さらに前記細胞を試験化合物と接触させること、およびアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値を決定することを含んでいる。
【0021】
[0020] 特定の態様において、アミロイド ベータ ペプチドはAβ(1-42)であるが、任意のアミロイド ベータ ペプチドを使用しえる。本発明の別の態様において、非アルツハイマー病の細胞は、線維芽細胞, 唾液, 血液, 尿, 皮膚細胞, 頬粘膜細胞 および脳脊髄液からなる群から選択される。本発明のなお別の態様において、前記プロテインキナーゼC アクチベータは、ブラジキニン, ブリオスタチン, ボンベシン, コレシストキニン, トロンビン, プロスタグランジン F2α, および バソプレッシンからなる群から選択される。
【0022】
[0021] 本発明の特定の態様において、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値が試験化合物と接触されたことがない対照細胞から測定された類似する分子バイオマーカーの値未満である場合、前記アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値はアルツハイマー病の治療に有用である化合物の指標である。好適な態様において、対照細胞は、アミロイド ベータ ペプチドと接触されている。他の好適な態様において、アミロイド ベータ ペプチドはAβ(1-42)であるが、任意のアミロイド ベータ ペプチドを使用しえる。なお他の態様において、対照細胞は、プロテインキナーゼC アクチベータである因子と接触されている。
【0023】
[0022] 特定の態様において、アルツハイマー病の治療に有用なリード化合物を同定するための方法は、さらに無修飾の化合物の安全性および有効性と比較して安全性および有効性を至適化する又は改善するためアルツハイマー病の治療に有用であると同定された化合物を修飾する工程を含む。好適な態様において、同定された修飾された化合物は、アルツハイマー病の治療に有用である。
【0024】
[0023] また、本発明は、治療上効果的な量の修飾された化合物を必要とする被験者に投与することを含んでいるアルツハイマー病を治療する方法を開示する。
【0025】
[0024] また、本発明は、アルツハイマー病の治療に有用な化合物を同定する方法に関し、該方法は非アルツハイマーの対照細胞をAβ(1-42)と接触させること(任意のアミロイド ベータ ペプチドが使用しえるが)、同じ細胞をブラジキニンと接触させること、さらに前記対照細胞を試験化合物と接触させること、およびアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値を決定してアルツハイマー病の治療に有用な化合物を同定することを含んでいる。
【0026】
[0025] 特定の態様において、本発明は、被験者におけるアルツハイマー病を診断する方法に関し、該方法は被験者から得られる細胞をプロテインキナーゼC アクチベータである因子と接触させること、および前記細胞における特異的にリン酸化されたMAPキナーゼ タンパク質の比を測定して前記被験者におけるアルツハイマー病を診断することを含んでいる。好適な態様において、前記の特異的にリン酸化されたMAPキナーゼ タンパク質の比は、二つのリン酸化された MAPキナーゼ タンパク質の間の比である。好適な態様において、本発明の診断方法は、インビトロ アッセイを含む。診断方法のなおさらなる好適な態様において、特異的にリン酸化されたMAPキナーゼタンパク質は、互いの配列バリアントであり、同じファミリーのタンパク質に属する。
【0027】
[0026] 本発明の特定の態様において、特異的にリン酸化されたMAPキナーゼタンパク質の比は、リン酸化された Erk1とリン酸化された Erk2との比であり、リン酸化された Erk1の標準化された量(normalized amount)をリン酸化された Erk2の標準化された量で割ることで計算される。本発明の好適な態様において、前記プロテインキナーゼC アクチベータは、ブラジキニン, ブリオスタチン, ボンベシン, コレシストキニン, トロンビン, プロスタグランジン F2α, および バソプレッシンからなる群から選択される。
【0028】
[0027] 本発明の特定の態様において、診断アッセイに使用される細胞は、末梢細胞である。好適な態様において、前記細胞は、皮膚細胞, 皮膚の線維芽細胞, 血液細胞または頬の粘膜細胞であってもよい。特定の態様において、前記細胞は、脳の髄液(cerebral spinal fluid)から単離されない。他の好適な態様において、前記細胞は、脳の髄液を含まない。なお他の好適な態様において、前記細胞は、脊椎穿刺または腰椎穿刺によって得られない。
【0029】
[0028] 診断方法の特定の態様において、プロテインキナーゼC アクチベータは、血清を含んでいる培地において細胞と接触される。本発明の他の好適な態様において、プロテインキナーゼC アクチベータは、無血清培地において前記細胞と接触される。
【0030】
[0029] 本発明の診断方法の特定の態様において、リン酸化された MAPキナーゼ タンパク質は、イムノアッセイで検出される。本発明の好適な態様において、イムノアッセイは、ラジオイムノアッセイ, ウエスタンブロット アッセイ, 免疫蛍光アッセイ, 酵素免疫測定法, 免疫沈降アッセイ, 化学発光 アッセイ, 免疫組織化学的なアッセイ, 免疫電気泳動法アッセイ, ドットブロットアッセイ, またはスロットブロット アッセイであってもよい。本発明の診断方法のさらなる好適な態様において、タンパク質アレイ またはペプチド アレイ またはタンパク質のマイクロアレイが、診断方法に使用されてもよい。
【0031】
[0030] 特定の態様において、アルツハイマー病の陰性の診断が本願に開示される任意の診断方法を用いて達成される又は示される場合(即ち、アルツハイマー病の存在を示している結果が非存在である又は欠如する)、さらなる確証的な診断法をアルツハイマー病の非存在を決定するための本願に開示される診断方法を用いて実施されてもよい。かかる確証的な診断法は、本願に開示される任意の診断方法と並行して、又は、それに引き続いて実施されてもよい。同様に、特定の態様において、アルツハイマー病の陽性の診断が本願に開示される任意の診断方法を用いて示される場合(即ち、アルツハイマー病の存在を示している結果)、さらなる確証的な診断法をアルツハイマー病の存在を決定するための本願に開示される診断方法を用いて実施されてもよい。かかる確証的な診断法は、本願に開示される任意の診断方法と並行して、又は、それに引き続いて実施されてもよい。
【0032】
[0031] 本発明の診断方法の特定の態様において、アルツハイマー病は、被験者からの細胞をプロテインキナーゼC アクチベータである因子と接触させること、次にリン酸化された第一のMAPキナーゼタンパク質とリン酸化された第二のMAPキナーゼタンパク質との比を測定することにより被験者において診断されてもよく、前記のリン酸化された第一およびリン酸化された第二のMAPキナーゼタンパク質は、プロテインキナーゼC アクチベータと接触された後に細胞から得られる。本発明の診断方法のさらなる態様において、プロテインキナーゼC アクチベータと接触されていない被験者からの細胞におけるリン酸化された第一のMAPキナーゼタンパク質とリン酸化された第二のMAPキナーゼタンパク質との比が決定され、この比を、それらがプロテインキナーゼC アクチベータと接触された後に細胞から得られるリン酸化された第一および第二のMAPキナーゼタンパク質の比から差し引いて、その比の差に基づいて被験者におけるアルツハイマー病の存在が診断される。本発明の診断方法の好適な態様において、比の差は、その差が正の値である場合、被験者におけるアルツハイマー病の診断である。
【0033】
[0032] 本発明の診断方法の他の好適な態様において、前記差は、その差が負の値またはゼロである場合、被験者におけるアルツハイマー病の非存在の診断である。
【0034】
[0033] 本発明の特定の態様は、被験者におけるアルツハイマー病を診断するためのキットに関する。本発明の特定の態様において、キットはプロテインキナーゼCアクチベータである因子を含みえる; 本発明のさらなる態様において、キットはリン酸化された第一のMAPキナーゼ タンパク質に特異的な抗体を含みえる。本発明のなおさらなる態様において、キットは、リン酸化された第二のMAPキナーゼタンパク質に特異的な抗体を含みえる。好適な態様において、キットは、上述のものの任意の組み合わせを含みえる。
【0035】
[0034] 本発明の特定の態様において、被験者におけるアルツハイマー病を診断するためのキットは、ブラジキニン, ブリオスタチン, ボンベシン, コレシストキニン, トロンビン, プロスタグランジン F2α および バソプレッシンからなる群から選択される一または二以上のプロテインキナーゼC アクチベータを含みえる。好適な態様において、キットは、上述のものの任意の組み合わせを含みえる。
【0036】
[0035] 本発明の特定の態様において、被験者におけるアルツハイマー病を診断するためのキットは、リン酸化された Erk1またはリン酸化されたErk2または両方に特異的な抗体を含みえる。本発明の好適な態様において、キットは、抗-phospho-Erk1抗体を含みえる。本発明のさらなる好適な態様において、キットは、抗-phospho-Erk2 抗体を含みえる。好適な態様において、キットは、上述のものの任意の組み合わせを含みえる。
【0037】
[0036] 本発明の特定の態様において、アルツハイマー病を診断するためのキットは、さらにアミロイド ベータ ペプチドを含みえる。特定の好適な態様において、アミロイド ベータ ペプチドは、Aβ (1-42)であってもよい。
【0038】
[0037] 本発明の特定の態様において、被験者におけるアルツハイマー病の存在または非存在を診断するためのキットは、アミロイド ベータ ペプチド; リン酸化された第一のMAPキナーゼタンパク質に特異的な抗体;およびリン酸化された第二のMAPキナーゼ タンパク質に特異的な抗体を含む。好適な態様において、アミロイド ベータ ペプチドは、Aβ (1-42)である。好適な態様において、キットは、上述のものの任意の組み合わせを含みえる。
【0039】
[0038] 本発明の特定の態様は、アルツハイマー病の治療または予防に有用な試験化合物(またはリード化合物)をスクリーニングするための方法に関し、該方法は以下を含む:
アルツハイマー病と診断された被験者から単離された細胞をプロテインキナーゼCアクチベータである因子と接触させること〔ここで、接触は、試験化合物(またはリード化合物)の存在下で行われる〕;
リン酸化された第一のMAPキナーゼタンパク質とリン酸化された第二のMAPキナーゼタンパク質との比を測定すること〔ここで、リン酸化された第一およびリン酸化された第二のMAPキナーゼタンパク質は、前記接触後の細胞から得られる〕;
試験化合物(またはリード化合物)と接触されたことがない被験者の細胞においてリン酸化された第一のMAPキナーゼタンパク質とリン酸化された第二のMAPキナーゼタンパク質との比を測定すること;
試験化合物(またはリード化合物)の非存在下で行った接触工程から得られる比を、試験化合物(またはリード化合物)の存在下で行った接触工程から得られる比から差し引くこと;および
アルツハイマー病の治療に有用な試験化合物(またはリード化合物)を、その比の差に基づいて同定すること。
【0040】
アルツハイマー病の治療または予防に有用な試験化合物(またはリード化合物)をスクリーニングするための方法の好適な態様において、その比において計算された差は、その差が負の値またはゼロである場合に、アルツハイマー病の治療に有用な試験化合物(またはリード化合物)の指標(indicative)である。
【0041】
[0039] 本発明の好適な態様において、本発明は、アルツハイマー病の治療または予防に有用な試験化合物(またはリード化合物)をスクリーニングするための方法に関し、該方法はインビトロ アッセイを含む。
【0042】
[0040] アルツハイマー病の治療または予防に有用な試験化合物(またはリード化合物)をスクリーニングするための方法の好適な態様において、第一のMAPキナーゼタンパク質はErk1であり、第二のMAPキナーゼタンパク質はErk2である。本発明の診断方法のなおさらなる好適な態様において、比は、リン酸化された Erk1の標準化された量をリン酸化された Erk2の標準化された量で割ることで計算される。本発明のさらなる態様において、前記プロテインキナーゼC アクチベータは、ブラジキニン, ブリオスタチン, ボンベシン, コレシストキニン, トロンビン, プロスタグランジン F2α, および バソプレッシンからなる群から選択される。本発明のさらなる好適な態様において、前記細胞は末梢細胞である。本発明のなおさらなる態様において、末梢細胞は、皮膚細胞, 皮膚の線維芽細胞, 血液細胞および頬の粘膜細胞からなる群から選択される。本発明のなおさらなる好適な態様において、前記細胞は、脳の髄液から単離されない。本発明のなおさらなる態様において、前記細胞は脳の髄液を含まない。本発明のなおさらなる態様において、前記細胞は、脊椎穿刺または腰椎穿刺によって得られない。本発明のなおさらなる態様において、プロテインキナーゼC アクチベータは、血清を含んでいる培地において前記細胞と接触される。本発明のなおさらなる態様において、プロテインキナーゼC アクチベータは、無血清培地において前記細胞と接触される。本発明のなおさらなる態様において、リン酸化されたMAPキナーゼ タンパク質は、イムノアッセイで検出される。本発明のなおさらなる態様において、イムノアッセイは、ラジオイムノアッセイ, ウエスタンブロット アッセイ, 免疫蛍光アッセイ, 酵素免疫測定法, 免疫沈降アッセイ, 化学発光 アッセイ, 免疫組織化学的なアッセイ, 免疫電気泳動法アッセイ, ドットブロットアッセイ, またはスロットブロット アッセイである。本発明のなおさらなる態様において、測定は、タンパク質アレイ, ペプチドアレイ, またはタンパク質マイクロアレイを用いて行われる。
【0043】
[0041] 特定の態様において、本発明は、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーを測定することを含む被験者のアルツハイマー病の進行をモニタリングする方法に関する。特定の好適な態様において、前記方法は、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーを一を超えるタイムポイントで測定することを含む。好適な態様において、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、少なくとも 六 月はなれたタイムポイントで, より好ましくは少なくとも 12 月はなれたタイムポイントで測定される。本発明の好適な態様において、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの数値における減少(即ち、低い正の値)は、被験者におけるアルツハイマー病の進行の指標である。
【0044】
[0042] 特定の態様において、本発明は、本願に開示される化合物をスクリーニングするための任意の方法で同定された化合物を含むアルツハイマー病の治療に有用な組成物に関する。好適な態様において、本発明の組成物は、必要とする被験者におけるアルツハイマー病を治療するための、本願に開示される化合物をスクリーニングする任意の方法で同定された治療上効果的な量の化合物を含む薬学的組成物を含む。
【0045】
[0043] 特定の態様において、本発明は、本願に開示される治療上効果的な量の任意の薬学的化合物を必要とする被験者に投与することを含んでいるアルツハイマー病を治療する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】[0044] 図 1は、コリエル・セル・レポジトリー(Coriell Cell Repository)から得られた保存された皮膚の線維芽細胞において並びに解剖で確認された被験者から得られ、直ちに組織培養に配置されたパンチ皮膚バイオプシー(punch skin biopsy)のサンプルにおいてアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカー (ADSMB)を決定した結果を示す。ADはアルツハイマー病の細胞を意味する; AD/PD/LBD混合はアルツハイマー病, パーキンソン病および/またはローリー体病の混合性の病理(mixed pathologies)を有する患者からとられた細胞を意味する; ACは痴呆ではない年齢が適合する対照細胞を意味する; 非-ADDは、非-アルツハイマー病の痴呆(例えば、ハンチントン舞踏病またはパーキンソン病または臨床上の精神分裂病)と診断された被験者からとられた細胞を意味する。試験したAD細胞におけるアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、約 0.02 ないし約 0.4未満の間にあたいする正の値であった。AD/PD/LBD混合におけるアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、共に非常に低い正の値(即ち、約 0.02または約 0.03未満)に集まった。痴呆ではない年齢が適合する対照細胞におけるアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、陰性または非常に低い正の値(即ち、約 0.01未満)であった。非-ADD細胞(non-ADD cells)におけるアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、負の値であった。アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、ブラジキニンで刺激された細胞におけるリン酸化された Erk1とリン酸化された Erk2との比からブラジキニンを欠いている媒体で刺激された細胞におけるリン酸化された Erk1とリン酸化された Erk2との比を引いたものを決定することで測定された。これは次のように表現される: つまり、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカー = {(pErk1/pErk2)ブラジキニン} - {(pErk1/pErk2)ビヒクル}。ADSMB(図中で「識別因子(Distinguishing Factor)」(D.F.)と記載される)を、四つの異なるカテゴリーの患者〔つまり、アルツハイマー病 (AD), AD/PD/DLV混合(アルツハイマー, パーキンソンおよびLew体病を解剖で確認した混合の診断) 年齢が適合する対照(AC)および非-AD痴呆(パーキンソン病およびハンチントン病)〕をコリエル・セル・レポジトリーおよび解剖で確認した細胞株に関してプロットした。
【図2】[0045] 図2は、痴呆の年数との関係としてのアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの線形回帰分析を示す。線形回帰は、約 -0.01の負の傾きを示し、痴呆の年数とアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの陽性の程度との間で逆相関性を示している。痴呆である年数が増加(即ち、アルツハイマー病が進行)すると、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは正の数値が低くなる。高い正の値が疾患の早期ステージの指標であるので、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの測定によってアルツハイマー病の早期診断が許容される。アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、ブラジキニンで刺激された細胞におけるリン酸化された Erk1とリン酸化された Erk2との比からブラジキニンを欠いている媒体で刺激された細胞におけるリン酸化された Erk1とリン酸化された Erk2との比を引いたものを決定することで測定された。これは次のように表現される: つまり、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカー = {(pErk1/pErk2)ブラジキニン} - {(pErk1/pErk2)ビヒクル}。解剖で確認されたケースの疾患の持続期間(disease duration)との関係としてのアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカー(ADSMB)の線形回帰分析。アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、疾患の早期の年により効果的である。これは、本発明の方法がアルツハイマー病の早期診断により効果的であることを示す。
【図3】[0046] 図3は、ブラジキニン (BK+) 処理および ビヒクル (DMSO, ブラジキニンなし, BK-)の後のp-Erk1/2 (リン酸化された Erk1 および Erk2)のウエスタンブロット データをAD および 対照の細胞株に関して示す。ブラジキニン処理(BK+)に関して、無血清(24 hrs)の細胞が10 nM ブラジキニンで10 min、37℃で処理された。対応するビヒクル処理(BK-)では、無血清(24 hrs)の細胞が同じ 量のDMSO(BKなし)で10 min、37℃で処理された。10 min後、P-Erk1/2のバンドは、AD 細胞株に関してBK-処理よりもBK+に対して濃くなったが、対照の細胞株に関しては逆であった。これによって、ErkのBK誘導性の活性化がAD 細胞株に関して高かったことが示される。
【図4A】[0047] 図 4A および 4Bは、本願での議論のとおり計算されたアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカー (ADSMB) (図中で「識別因子(Distinguishing Factor)」(D.F.)と表される)を示す。ADSMBを、AD (アルツハイマー病), AC (年齢が適合する対照) および 非-ADD(非 AD 痴呆、例えば、パーキンソン疾患 レビ小体疾患)のコリエル・セル・レポジトリーからの細胞株 (A) (Coriell Institute of Medical Research, Camden, New Jersey) および Neurologic社から提供された細胞株(解剖で確認された) (B)に関してプロットした。結果は、ADのケースに関してADSMBが一貫してAC および 非-ADDのケースよりも高かったことを示している。
【図4B】[0047] 図 4A および 4Bは、本願での議論のとおり計算されたアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカー (ADSMB) (図中で「識別因子(Distinguishing Factor)」(D.F.)と表される)を示す。ADSMBを、AD (アルツハイマー病), AC (年齢が適合する対照) および 非-ADD(非 AD 痴呆、例えば、パーキンソン疾患 レビ小体疾患)のコリエル・セル・レポジトリーからの細胞株 (A) (Coriell Institute of Medical Research, Camden, New Jersey) および Neurologic社から提供された細胞株(解剖で確認された) (B)に関してプロットした。結果は、ADのケースに関してADSMBが一貫してAC および 非-ADDのケースよりも高かったことを示している。
【図5A】[0048] 図5A および 5Bは、可溶性の Aβが誘導され、ブリオスタチン処理がヒト線維芽細胞のアルツハイマー表現型を逆転させることを示す。(A) アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカー(図中で「識別因子(Distinguishing Factor)」(D.F.)と表される)が、対照の(非-AD)細胞株(AG07723, AG11363, AG09977, AG09555 および AG09878)で本願に記載のとおり測定され、低い陰性であることが見いだされた。1.0 μMのAβ-42 処理後、(ADSMB)が再び記載のとおり測定され、高い陽性であることが見いだされた。これによって、ブラジキニン誘導性の活性化 Erk1/ Erk2 比が1.0 μMのAβ(1-42)処理後に高くなったことが示される。AC 細胞株は、Aβ(1-42)処理後にAD 表現型様に振る舞う。(B) ADSMB〔「識別因子)」(D.F.)〕を、AC 細胞株に対する24 hrsの1.0 μMのAβ(1-42)処理後に測定した。ADSMB値は、前に認められたとおり高く陽性であった。同じ細胞株を、最初に1.0 μMのAβ(1-42)で24 hrsで処理し、そして0.1 nMのブリオスタチンで20 min処理した。ADSMB (D.F.)値が、再び測定され、低い陰性であることが見いだされた。これによって、可溶性の Aβ誘導性の変化がブリオスタチン処理により逆転できることが示された。
【図5B】[0048] 図5A および 5Bは、可溶性の Aβが誘導され、ブリオスタチン処理がヒト線維芽細胞のアルツハイマー表現型を逆転させることを示す。(A) アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカー(図中で「識別因子(Distinguishing Factor)」(D.F.)と表される)が、対照の(非-AD)細胞株(AG07723, AG11363, AG09977, AG09555 および AG09878)で本願に記載のとおり測定され、低い陰性であることが見いだされた。1.0 μMのAβ-42 処理後、(ADSMB)が再び記載のとおり測定され、高い陽性であることが見いだされた。これによって、ブラジキニン誘導性の活性化 Erk1/ Erk2 比が1.0 μMのAβ(1-42)処理後に高くなったことが示される。AC 細胞株は、Aβ(1-42)処理後にAD 表現型様に振る舞う。(B) ADSMB〔「識別因子)」(D.F.)〕を、AC 細胞株に対する24 hrsの1.0 μMのAβ(1-42)処理後に測定した。ADSMB値は、前に認められたとおり高く陽性であった。同じ細胞株を、最初に1.0 μMのAβ(1-42)で24 hrsで処理し、そして0.1 nMのブリオスタチンで20 min処理した。ADSMB (D.F.)値が、再び測定され、低い陰性であることが見いだされた。これによって、可溶性の Aβ誘導性の変化がブリオスタチン処理により逆転できることが示された。
【図6A】[0049] 図6A および 6Bは、ADSMBの決定マトリックス分析(decision matrix analysis)を示す。バイオマーカーの感度および特異性をプロットして、コリエル・セル・レポジトリー(A)および解剖で確認された(B)細胞に関して疾患を検出することが有効であることが示された。
【図6B】[0049] 図6A および 6Bは、ADSMBの決定マトリックス分析(decision matrix analysis)を示す。バイオマーカーの感度および特異性をプロットして、コリエル・セル・レポジトリー(A)および解剖で確認された(B)細胞に関して疾患を検出することが有効であることが示された。
【0047】
[詳細な記載]
[0050] 特定の側面において、本発明は、試験および診断のため識別された被験者からとられたヒト細胞におけるアルツハイマー病を診断する方法に関する。診断は、独特のアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの発見に基づいている。特定の側面において、本発明は、アルツハイマー病の進行をモニタリングする方法およびアルツハイマー病を治療する又は予防するためのリード化合物を同定するスクリーニング方法に関する。特定の側面において、本発明は、被験者における又は被験者からとられたサンプルにおけるアルツハイマー病の存在または非存在を決定する又は確認するための方法に関する。
【0048】
[0051] 生きているヒトの脳におけるニューロンへの直接のアクセスが不可能であるので、アルツハイマー病の早期診断は極度に困難である。本願に開示されるアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーを測定することにより、本発明は、アルツハイマー病の早期診断のための高度に実用的で、高度に特異的で、高度に 選択的な試験を提供する。加えて、本願に記載されるアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、アルツハイマー病の疾患の進行を追跡するための及び治療および予防を目的とした薬剤開発のため治療剤を同定するための基礎を提供する。
【0049】
[0052] 発明者は、アルツハイマー病の診断に高度に感受性で高度に特異的な診断アッセイに有用な末梢性(非-CNS)の組織を用いるアルツハイマー病に関する独特の分子バイオマーカーを見出した。本発明の大きな利点は、本願に開示されたアッセイおよび方法に使用される組織が、侵襲性が最小の処置(即ち、脊椎穿刺を使用することなく)を用いて被験者から取得しえることである。従って、本発明の一側面は、プロテインキナーゼC アクチベータ(例えば、ブラジキニン)で誘導されるErk1 リン酸化とErk2 リン酸化との内的に制御された比(internally controlled ratio)が、特異的な抗体で、ヒト細胞(例えば、皮膚の線維芽細胞, または他の末梢細胞、例えば、血液細胞)における成長培地へのベースライン規準化応答(baseline normalization response)を用いて測定される、被験者におけるアルツハイマー病の早期検出のためのアッセイまたは検査に関する。
【0050】
[0053] 本発明の方法において、個体または患者からとられたサンプル細胞は、任意の生細胞であってもよい。好ましくは、それらは皮膚の線維芽細胞である。しかし、細胞を取得する又は処理するため便利である場合に任意の他の末梢組織(即ち、中枢神経系の外側の組織細胞)を本発明の試験に使用してもよい。他の適切な細胞には、血液細胞、例えば、赤血球およびリンパ球, 頬の粘膜細胞, 神経細胞、例えば、嗅覚ニューロン, 脳脊髄液, 尿および任意の他の末梢細胞のタイプが含まれるが、これらに限定されない。加えて、比較の目的で使用される細胞は、必ずしも健常ドナーからのものでなければならないことはない。
【0051】
[0054] 前記細胞は、新鮮なものであってもよい又は培養されたものであってもよい(本願に参照によってその全体が援用される米国特許第 6,107,050を参照されたい)。特定の態様において、パンチ皮膚バイオプシーを使用して被験者から皮膚の線維芽細胞を得ることができる。これらの線維芽細胞は、直接的に本願に記載される技術を用いて分析される又は細胞培養状態へと導入される。生じた培養された線維芽細胞は、次に例および本願をとおして記載されたとおり分析される。他の工程が、分析に使用しえる他のタイプの細胞(例えば、頬粘膜の細胞, 神経細胞、例えば、嗅覚細胞, 血液細胞、例えば、赤血球およびリンパ球, など)を調製するため必要とされてもよい。例えば、血液細胞は、末梢の静脈から血液を抜くことにより容易に取得しえる。細胞は、次に標準の処置(例えば、セルソーター, 遠心分離, などを用いて)で分離し、後に分析できる。
【0052】
[0055] 従って、特定の側面において、本発明は、被験者におけるアルツハイマー病の診断 および 治療のための方法に関する。特定の態様において、本発明の診断方法は、プロテインキナーゼCアクチベータである因子で刺激された被験者から採取された細胞における二の特異的で別個のリン酸化されたMAPキナーゼ タンパク質の比率を測定することに基づく。また、特定の態様において、本発明は、アルツハイマー病の検出または診断に有用な試薬を含んでいるキットに関する。特定の側面において、本発明は、アルツハイマー病の治療に有用なリード化合物を同定するスクリーニングのための方法、同様に、必要とする被験者におけるアルツハイマー病を治療する又は予防する薬学的製剤にこれらの化合物またはリード化合物の化学的な誘導体を用いる方法に関する。
【0053】
I. 定義
[0056] 医学的なスクリーニングおよび診断の文脈において本願に使用される「感度(sensitivity)」の用語は、検査が明らかにすることを意図している疾患に関して陽性の検査結果を与える冒された個体(affected individuals)の割合、即ち、トータルの真の陽性および偽陰性の結果で割った真の陽性の結果を意味し、通常パーセンテージとして表現される。
【0054】
[0057] 医学的なスクリーニングおよび診断の文脈において本願に使用される「特異性(specificity)」の用語は、検査が明らかにすることを意図する疾患に関して陰性の検査結果を有する個体の割合、即ち、トータルの真の陰性および偽陽性の結果の比率としての真の陰性の結果を意味し、通常パーセンテージとして表現される。
【0055】
[0058] 本願に使用される「高度に感受性(highly sensitive)」の用語は、約 50%の感受性, または約 55%の感受性, または約 60%の感受性, または約 65%の感受性, または約 70%の感受性, または約 75%の感受性, または約 80%の感受性, または約 85%の感受性, または約 90%の感受性, または約 95%の感受性, または約 96%の感受性, または約 97%の感受性, または約 98%の感受性, または約 99%の感受性 または約 100%の感受性よりも大きい又は同等の診断法を意味する。
【0056】
[0059] 本願に使用される「高度に特異的(highly specific)」の用語は、約 50%特異的, または約 55%特異的, または約 60%特異的, または約 65%特異的, または約 70%特異的, または約 75%特異的, または約 80%特異的, または約 85%特異的, または約 90%特異的, または約 95%特異的, または約 96%特異的, または約 97%特異的, または約 98%特異的, または約 99%特異的 または約 100%特異的よりも大きい又は同等の診断法を意味する。
【0057】
[0060] 本願に使用される「リード化合物(lead compounds)」は、本願に開示された化合物をスクリーニングする方法を用いて同定された化合物である。リード化合物は、本願に開示されたアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーを本願に記載されるアッセイにおいて正常な健常細胞を用いて決定されたアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーに関して計算された値に対応する値にシフトする活性を有してもよい。リード化合物は引き続いて化学的に修飾されて、アルツハイマー病の治療または予防のための薬学的組成物に使用する活性が至適化または増強されてもよい。
【0058】
[0061] 本願に使用される「配列バリアント(sequence variants)」は、構造上および機能上の両方で互いに関連するタンパク質である。特定の態様において、配列バリアントは、アミノ酸配列のレベルで構造上の類似性を共有し、酵素活性のレベルで機能的な属性を共有するタンパク質である。特定の態様において、配列バリアントは、他のタンパク質のリン酸化を触媒するMAPキナーゼタンパク質である。
【0059】
[0062] 本願に使用される「アルツハイマー病の非存在(absence of Alzheimer's Disease)」は、被験者からとられた対象または細胞が測定可能な又は検出可能なアルツハイマー病の表現型を示さないことを意味する。
【0060】
[0063] 本願に使用される対象または細胞のサンプルにおける「アルツハイマー病の表現型(Alzheimer's Disease phenotype)」は、ゼロよりも大きい正の値を有しているアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーが含まれるが、限定されない。
【0061】
[0064] 本願に使用される「アミロイド ベータ ペプチド(Amyloid Beta Peptide)」は、アミロイド ベータ ペプチドまたは完全長のアミロイド ベータ ペプチドの任意の断片である。
【0062】
[0065] 本願に使用される「治療への増加した応答性(increased responsiveness to treatment)」は、治療に陽性に反応する能力を意味し、症状を前記の治療への増加した応答性を示さない患者よりも急速に及び効率的に緩和することを意味する。
【0063】
[0066] 本願に使用される「早期ステージのアルツハイマー病(early stage Alzheimer's Disease)」は、疾患の段階を意味する。早期ステージのアルツハイマー病および関連する痴呆の人物は、疾患の症状が原因の穏やかな障害(impairment)のみを有する。彼らは、なおも働き、運転でき、日常生活の特定の活動に最低限の補助のみを必要としている。このステージの個体は、これらの状況および能力をしばしば自覚する。
【0064】
[0067] 病期分類によって、如何にしてアルツハイマー病が展開(unfold)するかを理解し、将来のプランをつくる有用な評価基準が提供される。しかし、全ての人が同じ症状を経験する又は同じ速度で進行するわけではないことに注意することが重要である。アルツハイマーの人々は平均して診断後四年ないし六年で死亡する。しかし、疾患の持続期間は、三年ないし20 年で変動しえる。
【0065】
[0068] 以下にアルツハイマー病の段階の一般的な記載を提供し、どのステージが軽度, 中等度, 中高度(moderately severe)および高度(severe)のアルツハイマー病の広く使用される概念と一致するかを記載する。どの段階が早期ステージ, 中期ステージおよび後期ステージのカテゴリーのより一般的な区分であるかも記載される。
【0066】
ステージ1: 障害なし(正常な機能)
未障害の個体は記憶の問題の経験がなく、医学的な面接の間に保健医療の専門家に明らかとならない。
【0067】
ステージ 2: 非常に穏やかな認知の減退(通常の年齢関連性の変化またはアルツハイマー病の最早期の徴候であってもよい)
個体は記憶力が衰えたように感じる(特に、見慣れた単語または名前または鍵, 眼鏡または他の日常の物品の位置の忘却)。しかし、これらの問題は、健康診断の間に又は友人, 家族もしくは同僚に明らかではない。
【0068】
ステージ 3: 穏やかな認知の減退
早期ステージのアルツハイマーが幾人かで診断されるが、これらの症状を有する全ての個体ではない
友人, 家族もしくは同僚は、欠陥に気づき始める。記憶または集中の問題は、臨床検査で測定可能または詳細な医学的な面接で識別可能である。共通する困難性には次のものが含まれる:
・ 家族または親しい仲間に認識可能な単語または名前をみつける問題
・ 新しい人々に紹介した際の名前を記憶する能力の減少
・ 家族, 友人または同僚に認識可能な社会または仕事の環境における能力の問題
・ 一文を読むこと及び小さなものを保持すること
・ 価値あるものを失う又は置き違える
・ 計画または組織化の能力の減退
ステージ 4: 中等度の認知の減退
(中等度または早期ステージのアルツハイマー病)
このステージで、慎重な医学的な面接によって、次の領域における明快な欠陥が検出される:
・ 最近のできごと又は現在のイベントの認識の減少
・ 暗算(例えば、75から7逆算する)に取り組む能力の障害
・ 複雑な課題(例えば、客への食事の計画、請求書の支払、および資金の管理)を行う能力の減少
・ 個人歴の記憶の減少
・ 冒された個体は、特に、社会的または精神的に取り組む状況において抑制され、内気になると思われる。
【0069】
ステージ 5: 中高度の認知の減退
(中等度または中期ステージのアルツハイマー病)
記憶における大きなギャップおよび出現する認知機能における欠陥(deficits)。日々の活動にある程度の補助が必須となる。このステージで、個体は:
・ 医学的な面接の間に、現在の住所, 電話番号または卒業した大学または高等学校の名前などの重要な項目の想起(recall)が不可能であろう
・ どこにいるか又は日付, 曜日または季節を混乱するようになるであろう
・ 暗算(例えば、40から4または20から2逆算する)への取り組みが低く困難を有するであろう
・ 季節または機会に適切な衣類を選択することに援助を必要とするであろう
・ 通常、彼ら自身の重要な認識(substantial knowledge)を記憶し、彼ら自身の名前および彼らの配偶者または子供の名前を知っているであろう
・ 通常、摂食またはトイレットの使用に補助を必要としないであろう
ステージ 6: 高度の認知の減退
(中高度または中期ステージのアルツハイマー病)
記憶困難が連続的に悪化し、顕著な個性の変化が出現する可能性があり、冒された個体は習慣的な日常の活動に広範な援助を必要とする。このステージで、個体は:
・ 最近の経験およびイベント、同様に、彼らの周囲の多くの認識を失うであろう
・ 個人歴を不完全に想起する、しかし、一般に自身の名前は想起するであろう
・ 時折、彼らの配偶者または主要な介護者の名前を忘れるが、一般に見慣れた顔からの見慣れない顔を区別することができる。
【0070】
・ 正しく服を着るために援助が必要; 監視なしで、昼間にパジャマを着る又は靴を誤った足にはくなどの誤りをおかすだろう
・ 正常な睡眠/目覚のサイクルの崩壊を経験するだろう
・ トイレの細かな取扱いに援助が必要だろう(トイレの流水、拭き、ティシューの正しい処理)
・ 尿または大便の失禁のエピソードの増加を有するだろう
・ 嫌疑(suspiciousness)および妄想(例えば、彼らの介護者を詐欺師と信じる);幻覚(現実には、そこにないことを見る又は聞く);または強迫感, 反復性の行動、例えば、手をもむこと(hand-wringing)または組織をきること(tissue shredding)を含む有意な個性の変化および行動の症状(behavioral symptoms)を経験するだろう
・ 放浪(wander)および行方不明となる傾向があるだろう
ステージ 7: 非常に高度の認知の減退
(高度または後期ステージのアルツハイマー病)
これは、個体が彼らの環境に反応する能力, 話す能力および究極的に動きを制御する能力を失った際の疾患の最終的な段階である。
【0071】
・ しばしば個体は認識可能な話をする能力を失うが、単語またはフレーズはしばしば語られるだろう。
【0072】
・ 個体は摂食およびトイレを援助される必要があり、一般的な尿失禁があるだろう
・ 個体は、補助なしで歩行する能力、そして支持なしで座る能力、ほほえむ能力、および彼らの頭をあげる能力を失うだろう。反射は異常になり、筋肉は強固(rigid)に成長する。嚥下は、障害される。
【0073】
II. アルツハイマー病を診断する方法
[0069] 特定の態様において、本発明は、アルツハイマー病を診断する方法に関する。特定の好適な態様において、診断方法には、細胞サンプルを被験者から取得すること、細胞サンプルをプロテインキナーゼCアクチベータである因子と接触させること、および前記細胞における特異的にリン酸化されたMAPキナーゼ タンパク質の比を測定して前記被験者におけるアルツハイマー病を診断することの工程が関与する。特定の特異的な態様において、本願に開示される診断上のアッセイは、インビトロまたはインビボで実施されてもよい。特定の態様において、プロテインキナーゼC アクチベータは、ブラジキニンである。さらなる特異的な態様において、特異的にリン酸化されたMAPキナーゼタンパク質の比は、リン酸化された Erk1とリン酸化された Erk2との比であり、リン酸化された Erk1の相対的な又は標準化された量をリン酸化された Erk2の相対的な又は標準化された量で割ることで計算される。
【0074】
アルツハイマー病に特異的な分子バイオマーカー
[0070] 本願に開示されるアルツハイマー病の診断方法および治療に有用な化合物をスクリーニングする方法は、アルツハイマー病にユニークな分子のバイオマーカーの発明者による発見に基づいている。アルツハイマー病に特異的な分子バイオマーカーの数値は、アッセイに使用される細胞、アッセイに使用されるプロテインキナーゼC アクチベータおよびリン酸化の比率の測定の標的とされる特定のMAPキナーゼ タンパク質などの特定の変数に依存する。
【0075】
[0071] 特定の態様において、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、プロテインキナーゼC アクチベータで刺激された細胞におけるリン酸化された Erk1とリン酸化された Erk2との比を決定すること、これからプロテインキナーゼC アクチベータを欠く対照溶液(ビヒクル)で刺激された細胞におけるリン酸化された Erk1とリン酸化された Erk2との比を引くことによって測定されえる。特定の態様において、その差がゼロよりも大きい場合(即ち、正の値)、これがアルツハイマー病の診断である。さらなる好適な態様において、その差がゼロ未満またはゼロと等しい場合、これがアルツハイマー病の非存在の指標である。
【0076】
[0072] 他の態様において、本発明のアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、細胞をプロテインキナーゼC アクチベータで刺激後の二つのリン酸化されたMAPキナーゼ タンパク質の比を決定することによって測定される。分子バイオマーカーは、プロテインキナーゼC アクチベータで刺激された細胞における第一のリン酸化されたMAPキナーゼタンパク質とリン酸化された第二のMAPキナーゼタンパク質との比を決定すること、これからプロテインキナーゼC アクチベータを欠く対照溶液(ビヒクル)で刺激された細胞におけるリン酸化された第一のMAPキナーゼタンパク質とリン酸化された第二のMAPキナーゼタンパク質との比を引くことによって測定されえる。特定の好適な態様において、その差がゼロよりも大きい場合(即ち、正の値)、これがアルツハイマー病の診断である。さらなる好適な態様において、その差がゼロ未満またはゼロと等しい場合、これがアルツハイマー病の非存在の指標である。
【0077】
[0073] 特定の態様において、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、アルツハイマー病と診断された患者からとられた細胞サンプル(AD細胞)における正の数値である。特定の好適な態様において、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーがブラジキニンで刺激されたAD 細胞におけるリン酸化された Erk1とリン酸化された Erk2との比を決定することによって測定される場合、AD 細胞におけるアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーに関する正の数値は約 ゼロ から約 0.5の範囲であってもよい。
【0078】
[0074] 特定の態様において、パーキンソン病またはハンチントン舞踏病または臨床上の精神分裂病(Clinical Schizophrenia)などの非アルツハイマー病痴呆と診断された被験者からとられた細胞(非-ADD細胞)において測定される場合、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは負の数値である。特定の好適な態様において、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーがブラジキニンで刺激された非ADD細胞におけるリン酸化された Erk1とリン酸化された Erk2との比を決定することによって測定される場合、負の数値は約 ゼロ から約 -0.2または約 -0.3の範囲であってもよい。
【0079】
[0075] 特定の態様において、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、アルツハイマー病を有していない患者からとられた年齢が適合する対照細胞(AC細胞)からの細胞サンプルにおける負の数値, ゼロまたは非常に低い正の数値であってもよい。アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーがブラジキニンで刺激されたAC 細胞におけるリン酸化された Erk1とリン酸化された Erk2との比を決定することによって測定される場合、AC 細胞におけるアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは約 0.05未満から約 -0.2の範囲であってもよい。
【0080】
[0076] 本発明の特定の態様において、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、ブラジキニンで刺激された細胞におけるリン酸化された Erk1とリン酸化された Erk2との比からブラジキニンを欠いている溶液で刺激された細胞におけるリン酸化された Erk1とリン酸化された Erk2との比を引いて計算することで測定されてもよい。これは次のように表現される: つまり、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカー = {(pErk1/pErk2)ブラジキニン} - {(pErk1/pErk2)ビヒクル}。
【0081】
プロテインキナーゼC アクチベータ
[0077] 本発明の診断方法, キットおよび化合物を同定するためのスクリーニングの方法における使用を特に意図するプロテインキナーゼC アクチベータは: ブラジキニン; α-APPモジュレーター; ブリオスタチン 1; ブリオスタチン 2; DHI; 1,2-ジオクタノイル-sn-グリセロール; FTT; グニディマクリン, ステレラ・カマエヤスメ(Stellera chamaejasme L.); (-)-インドラクタム V; リポキシン A4; リングビアトキシンA, Micromonospora sp.; オレイン酸; 1-オレオイル-2-アセチル-sn-グリセロール; 4 α-ホルボール; ホルボール-12,13-ジブチラート; ホルボール-12,13-ジデカノアート; 4α-ホルボール-12,13-ジデカノアート; ホルボール-12-ミリスチン酸エステル-13-アセテート; L-α-ホスファチジルイノシトール-3,4-二リン酸エステル, ジパルミトイル-, ペンタアンモニウム塩; L- α -ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸エステル, ジパルミトイル-, ペンタアンモニウム塩; L- α -ホスファチジルイノシトール-3,4,5-三リン酸エステル, ジパルミトイル-, ヘプタアンモニウム塩; 1-ステアロイル-2-アラキドノイル-sn-グリセロール; チメレアトキシン, Thymelea hirsuta L.; インシュリン, ホルボールエステル, リゾホスファチジルコリン, リポ多糖, アントラサイクリン(dannorubicin)および硫酸バナジルを含むが、これらに限定されない。同様に含まれるものは、ブリオログ(bryologues)として知られる化合物である。ブリオログは、例えば文献〔Wender et al. Organic letters ( United States ) May 12, 2005 ,7 (10) p1995-8; Wender et al. Organic letters ( United States ) Mar 17 2005 , 7 (6) p1177-80; Wender et al. Journal of Medicinal Chemistry ( United States ) Dec 16 2004, 47 (26) p6638-44〕に記載される。プロテインキナーゼC アクチベータは、本願に開示される診断方法, キットおよび化合物をスクリーニングする方法において単独で又は任意の他のプロテインキナーゼC アクチベータと組み合わせてされてもよい。
【0082】
[0078] ブラジキニンは、様々な炎症条件の過程で生成される強力な血管作動性のノナペプチドである。ブラジキニンは、特異的な細胞膜のブラジキニン レセプターに結合し、活性化し、マイトジェン活性化タンパクキナーゼ(MAPK)として知られるタンパク質のリン酸化を誘導する細胞内イベントのカスケードを誘発させる。タンパク質のリン酸化(リン酸基のSer, Thr, またはTyr残基への付加)は、プロテインキナーゼとして集合的に知られる多くの酵素により媒介される。通常、リン酸化は、タンパク質の機能を修飾し、通常は活性化する。ホメオスタシスは、リン酸化が基質を脱リン酸するホスファターゼ酵素で逆転される一過性のプロセスであることを要求する。リン酸化または脱リン酸化における何らかの異常によって、生化学的な経路および細胞の機能が破壊される可能性がある。このような破壊は、特定の脳疾患の基礎である可能性がある。
【0083】
リン酸化されたタンパク質のレベルの測定または検出
[0079] 本願に開示されるアルツハイマー病を診断する方法およびアルツハイマー病の治療または予防に有用な因子を同定するための化合物をスクリーニングする方法は、本発明のアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーを測定することに依存する。
【0084】
[0080] 好適な態様において、細胞に存在するリン酸化された タンパク質のレベルは、ウエスタンブロッティングで検出される。リン酸化された Erk1またはリン酸化された Erk2のタンパク質レベルは、線維芽細胞において抗-Erk1, 抗-Erk2, 抗-phospho-Erk1 および抗-phospho-Erk2 抗体(Cell Signaling Technology)を用いて測定できる。また、異なるタンパク質のレベルが、標準化のため参照タンパク質と同じサンプルにおいて測定されてもよい。可能性のある参照タンパク質の例には、アネキシン-IIまたはアクチンが含まれるが、これらに限定されない。
【0085】
[0081] 一態様において、ELISAは、次の処置により実施される: 1) 線維芽細胞の細胞溶解産物を処理後にデュープリケートまたはトリプリケートで抗-Erk 抗体で事前にコートされた96-ウェルのマイクロプレートに加える。2) サンプルをマイクロプレートウェルにおいて室温で約 2 時間インキュベートする。3) サンプルを吸引し、ウェルをリン酸緩衝塩類溶液(PBS)に基づく洗浄緩衝剤で洗浄する。4) 抗-phospho-Erk1/2, または抗-標準Erk1/2 抗体(anti-regular Erk1/2 antibody)の常用の希釈物を各ウェルに加え、室温で約 1 時間インキュベートする。5) ウェルを洗浄緩衝剤で吸引および洗浄する。6) 西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)抱合型の二次抗体の常用の希釈物(working dilution)を各ウェルに加え、ウェルを室温で約 30 minインキュベートする。7) ウェルを洗浄緩衝剤で吸引し、洗浄する。8) 安定化させた色素原〔例えば、ジアミノベンジジン (DAB)〕を加え、室温で約 30 minインキュベートする。9) 停止液を加え、吸光度を450 nmで測定する。Erk1/2のリン酸化は、標準化の後で評価される: NR = AP/AR。式中でNR = 標準化された比である; AP は、phospho-Erk1/2に関する吸光度値である; および AR は、トータル(標準)のErk1/2に関する吸光度である。
【0086】
[0082] 好適な態様において、Erk1/2のリン酸化は、抗-phospho-Erk1/2 抗体を用いてウエスタンブロットでアッセイされた。リン酸化された Erk1/2に関する免疫反応性のシグナルのレベルは、濃度測定スキャン(densitometric scan)を介して定量される。phospho-Erk1/2 シグナルの平均密度は、同じ細胞溶解産物のサンプルを分離したウエスタンブロットで抗-標準Erk1/2 抗体で検出したトータルErk1/2 シグナルの平均密度で標準化される。標準化の式はNR = DP/DRである。式中でNR (標準化した比)はErk1/2 リン酸化の程度を表す; DP はphospho-Erk1/2の平均密度である, および DR は同じサンプルのウエスタンブロットにおいて検出されたErk1/2の総量に関する平均密度である。
【0087】
[0083] タンパク質の検出のための本発明のイムノアッセイは、免疫蛍光アッセイ, ラジオイムノアッセイ, ウエスタンブロットアッセイ, 酵素免疫測定法, 免疫沈降, 化学発光アッセイ, 免疫組織化学的アッセイ, ドットまたはスロットブロットアッセイなど〔In "Principles and Practice of Immunoアッセイ" (1991) Christopher P. Price and David J. Neoman (eds), Stockton Press, New York, New York, Ausubel et al. (eds ) (1987) in "Current Protocols in Molecular Biology" John Wiley and Sons, New York, New York〕であってもよい。検出は、当業者に知られている比色法(colorimetric)または放射性法(radioactive method)または任意の他の従来法によってもよい。ELISAに関する当該技術分野において既知の標準技術は、文献〔Methods in Immunodiagnosis, 2nd Edition, Rose and Bigazzi, eds., John Wiley and Sons, New York 1980 および Campbell et al., Methods of Immunology, W.A. Benjamin, Inc., 1964〕に記載され、その双方が本願に参照によって援用される。係るアッセイは、文献〔"Principles and Practice of Immunoassay" (1991) Christopher P. Price and David J. Neoman (eds), Stockton Pres, NY, NY; Oellirich, M. 1984. J. Clin. Chem. Clin. Biochem. 22: 895-904 Ausubel, et al. (eds) 1987 in Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, New York, New York〕に記載された直接的な, 間接的な, 競合的な, または非競合的なイムノアッセイであってもよい。
【0088】
細胞タイプ, タンパク質の単離および抗体
[0084] 前に述べたとおり、診断された患者からとられた細胞は、任意の細胞であってもよい。使用しえる細胞の例には、皮膚細胞, 皮膚の線維芽細胞, 頬の粘膜細胞, 血液細胞, 例えば、赤血球, リンパ球 およびリンパ芽球細胞(lymphoblastoid cells), および神経細胞およびErk1/2 タンパク質を発現している任意の他の細胞が含まれえるが、これらに限定されない。剖検サンプル(Necropsy samples)および病理サンプルも使用しえる。これらの細胞を含んでいる組織も使用しえる(脳組織または脳細胞を含む)。細胞は、新鮮なもの, 培養されたもの又は凍結されたものであってもよい。細胞または組織から単離されたタンパク質サンプルは、直ちに診断アッセイまたは化合物をスクリーニングするための方法に使用されてもよい又は後の使用のため凍結されてもよい。好適な態様において、線維芽細胞が使用される。線維芽細胞は、皮膚のパンチバイオプシーで得られてもよい。
【0089】
[0085] タンパク質は、細胞から当業者に知られている従来の方法で単離されてもよい。好適な方法において、患者から単離される細胞は、リン酸緩衝塩類溶液(PBS)で洗浄され、沈降される。ペレットは、それから50 nM NaF, 1mM EDTA, 1 mM EGTA, 20 μg/ml ロイペプチン, 50 μg/ml ペプスタチン, 10 mM TRIS-HCl(pH = 7.4)を含んでいる「均質化緩衝剤(homogenization buffer)」で洗浄され、遠心分離で沈降される。上清が廃棄され、「均質化緩衝剤」がペレットに加えられ、ペレットの超音波処理が引き続く。タンパク質抽出物は、新鮮なものを使用してもよい又は後の分析のため-80℃で貯蔵されてもよい。
【0090】
[0086] 本発明の方法において、開示されたイムノアッセイに使用された抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルの起源であってもよい。抗体を産生するため使用されたリン酸化された及び非-リン酸化のErk1/2 タンパク質又はその部分は、天然または組換え型の供給源からのものであってもよい又は化学合成で生産されてもよい。天然のErk1/2 タンパク質は、生物学的サンプルから従来の方法で単離できる。Erk1/2 タンパク質を単離するため使用しえる生物学的サンプルの例には、次のものが含まれるが、これらに限定されない: そのものは、皮膚細胞、例えば、線維芽細胞, 線維芽細胞の細胞株、例えば、アルツハイマー病の線維芽細胞の細胞株および 対照の線維芽細胞の細胞株であり、これらはコリエル・セル・レポジトリー(Camden, N.J.)から商業的に利用可能であり、また細胞株のカタログ[National Institute of Aging 1991 Catalog of Cell Lines, National Institute of General Medical Sciences 1992/1993 Catalog of Cell Lines (NIH Publication 92-2011 (1992)]にリストされる。
【0091】
III. アルツハイマー病の診断のためのキット
[0087] 本発明が上記の任意の診断検査の実施に利用できるキットに関することがさらに企図される。キットは、本願に開示される単一の診断検査または検査の任意の組み合わせを含みえる。キットは、通常のErk1/2 (非リン酸化の Erk1 または非リン酸化の Erk2)またはリン酸化された Erk1/2 (リン酸化された Erk1またはリン酸化された Erk2)を認識する抗体を含みえる。キットは、通常のMAPキナーゼ タンパク質、同様に、リン酸化された MAPキナーゼ タンパク質を認識する抗体を含みえる。キットは、本願に開示される任意の一または二以上のプロテインキナーゼC アクチベータ(例えば、ブラジキニンまたはブリオスタチン)も含みえる。抗体は、ポリクローン性であっても又はモノクローン性であってもよい。キットは、一または二以上のバイオプシー(例えば、パンチ皮膚バイオプシー)を行うため必要な器具(instruments), 緩衝剤および貯蔵容器を含んでもよい。キットは、本発明のアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーを同定するため使用された比の決定、同様に、診断検査における抗体または他の成分の使用に関連する説明書も含んでもよい。また、説明書は、バイオプシー(例えば、パンチ皮膚バイオプシー)を行うための処理を記載してもよい。キットは、診断検査を行うための他の試薬も含んでもよい(例えば、標準化に使用される参照タンパク質の検出のための抗体)。可能性のある参照タンパク質を認識する抗体の例には、アネキシン-IIまたはアクチンを認識する抗体が含まれるが、これらに限定されない。キットは、緩衝剤, 二次抗体, 対照細胞なども含みえる。
【0092】
IV. アルツハイマー病の治療または予防に有用な化合物をスクリーニングする方法
[0088] 本発明は、アルツハイマー病の治療または予防に有用な物質を選抜および同定するための方法に関する。この態様によると、本願に記載されたアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーを逆転(reverses)させる又は改善する物質(即ち、正常細胞に認められたレベルに戻る)が同定され、アルツハイマー病の治療または予防に潜在的に有用な物質として選択されるであろう。
【0093】
[0089] 例示として、このような治療物質を同定するスクリーニング方法の一つは、アルツハイマー病の患者からのサンプル細胞を、本願に開示される任意のプロテインキナーゼC アクチベータの存在下で選抜される物質と接触させること、本願に開示される任意のアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーを測定することの工程が関与するであろう。アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーを正常細胞(即ち、アルツハイマー病がない被験者からとられた細胞)に認められたレベルに戻して逆転させる又は改善する因子が、同定され、アルツハイマー病の治療または予防に潜在的に有用な物質として選択されるであろう。
【0094】
[0090] 特定の態様において、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーを逆転させる又は改善する因子は、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーに関して正の値の減少および/またはより負の値への移動を生じる因子である。
【0095】
V. アルツハイマー病の進行をモニターする方法
[0091] また、本発明は、被験者におけるアルツハイマー病の進行をモニターする方法に関する。図2は、痴呆の持続年数との関係としてのアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの線形回帰分析を提供する。線形回帰は、約 -0.01の負の傾きを示し、痴呆の年数とアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの陽性の程度との間で逆相関性を示している。痴呆である年数が増加(即ち、アルツハイマー病が進行)すると、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、正の数値が低くなる。特定の態様において、高い正の値が疾患の早期ステージの指標であるので、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの測定によってアルツハイマー病の早期診断が許容される。特定の態様において、アルツハイマー病が被験者において進行すると、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、より低い正の値となる。
【0096】
[0092] 特定の態様において、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーは、ブラジキニンで刺激された細胞におけるリン酸化された Erk1とリン酸化された Erk2との比からブラジキニンを欠いている媒体で刺激された細胞におけるリン酸化された Erk1とリン酸化された Erk2との比を引いたものを決定することで測定された。これは次のように表現される: つまり、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカー = {(pErk1/pErk2)ブラジキニン} - {(pErk1/pErk2)ビヒクル}。
【0097】
VI. アミロイド ベータ ペプチド
[0093] 「アミロイド ベータ ペプチド」, 「ベータアミロイド タンパク質」, 「ベータアミロイド ペプチド」, 「ベータアミロイド」, 「A. beta」および「A. beta ペプチド」の用語は、本願において互換的(interchangeably)に使用される。幾つかの形態において、アミロイド ベータペプチド (例えば、A. beta 39, A. beta 40, A. beta 41, A. beta 42 および A. beta 43)は、アミロイド前駆体タンパク質 (APP)と称される大きな膜貫通型糖タンパク質の39-43 アミノ酸の約 4-kDaの内部断片である。APPの複数のアイソフォームが存在する(例えば、APP695, APP751, および APP770)。現在ヒトに存在することが知られているAPPの特定のアイソタイプの例は、Kang等〔Kang et. al. (1987) Nature 325:733-736〕により記載された695 アミノ酸 ポリペプチド〔「正常な」APPと称される〕; Ponte等〔Ponte et al. (1988) Nature 331:525-527 (1988)〕およびTanzi等〔Tanzi et al. (1988) Nature 331:528-530〕により記載された751 アミノ酸 ポリペプチド;およびKitaguchi等〔Kitaguchi et. al. (1988) Nature 331:530-532〕により記載された770-アミノ酸ポリペプチドである。APPの異なるセクレターゼ酵素でのインビボまたはインサイチューでのタンパク分解性のプロセシングの結果、A. betaは、40 アミノ酸の長さの「短い形態」, および42-43 アミノ酸の長さの範囲にわたる「長い形態」の両方で認められる。APPの疎水性ドメインの部分は、A. betaのカルボキシル端に見つけられ、特に長い形態の場合においてA. betaが凝集する能力が説明されえる。A. beta. ペプチドは、正常な個体およびアミロイド形成障害を被っている個体の両方を含むヒトおよび他の哺乳類の体液(例えば、脳脊髄液)に見つけることができる又はそれから精製できる。
【0098】
[0094] 「アミロイド ベータ ペプチド」, 「ベータアミロイド タンパク質」, 「ベータアミロイドペプチド」, 「ベータアミロイド」, 「A. beta」および「A. betaペプチド」の用語は、APPのセクレターゼ切断から生じるペプチドおよび切断産物と同じ又は本質的に同じ配列を有している合成ペプチドを含む。本発明のA. betaペプチドは、組織, 細胞株, または体液(例えば、血清または脳脊髄液)などの様々な供給源から由来しえる。例えば、A. betaは、Walsh等〔Walsh et al., (2002), Nature, 416, pp 535-539〕などに記載されたチャイニーズハムスター 卵巣 (CHO)細胞などのAPP発現細胞から由来しえる。A.beta.の調製は、以前の記載〔例えば、Johnson-Wood et al., (1997), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:1550を参照されたい〕を用いて組織の供給源から由来しえる。代わりに、A. beta.ペプチドは、当業者に周知の方法を用いて合成できる。例えば、Fields等〔Fields et al., Synthetic Peptides: A User's Guide, ed. Grant, W.H. Freeman & Co., New York, N.Y., 1992, p 77〕を参照されたい。それ故、ペプチドは、t-BocまたはF-moc化学の何れかでのa-アミノ基保護での固相合成の自動化Merrifield技術を用いて、例えば、Applied Biosystems Peptide Synthesizer Model 430Aまたは431で合成できる。長いペプチド抗原は、周知の組換えDNA 技術を用いて合成できる。例えば、ペプチドまたは融合ペプチドをコード化しているポリヌクレオチドを、合成できる又は分子的にクローン化し、トランスフェクションおよび適切な宿主細胞による異種性の発現に適切な発現ベクターに挿入できる。A. beta. ペプチドは、正常な遺伝子のA. beta.領域における変異から生じた関連するA. beta 配列も意味する。
【0099】
[0095] Erk 1/2インデックスのA. beta - 誘導性異常(アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカー)は、アルツハイマー病の存在または非存在の何れかの確証的な検査として使用されえる。言い換えれば、陰性(負)のアミロイドベータ-インデックス応答(negative Amyloid Beta-Index response)は疾患の存在を示し、他方で陽性(正)の応答は疾患の非存在を示す。つまり、アルツハイマー病の表現型がアミロイド ベータ ペプチドとのインキュベーションまたは接触に際して細胞において誘導される場合、これが検査細胞または検査した被験者における疾患の非存在の指標である。対照的に、アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーにおいて変化がないこと又は僅かな変化がアミロイド ベータ ペプチドとのインキュベーションまたは接触に際して細胞において誘導される場合、これが検査細胞または検査した被験者におけるアルツハイマー病の存在の指標である。
【0100】
[0096] アミロイド ベータ(1-42) 〔即ち、Aβ (1-42)〕は好適な誘導刺激であるが、任意の他のアミロイド ベータ断片、例えば、(1-39), (1-40), (1-41), (1-43), (25-35), (16-22), (16-35), (10-35), (8-25), (28-38), (15-39), (15-40), (15-41), (15-42), (15-43)または任意の他のアミロイド ベータ断片も本願に記載される任意のキットまたは方法に使用しえる。
【0101】
VII. アルツハイマー病の治療に有用な組成物
[0097] また、本発明は、アルツハイマー病の治療または予防に有用な組成物に関する。本願に記載されるスクリーニング方法を用いて同定された化合物は、必要とする被験者に投与する薬学的組成物として製剤化しえる。
【0102】
[0098] 本発明の薬学的組成物または本願に開示されるスクリーニング方法を用いて同定された化合物(またはリード化合物の化学的な誘導体)は、経口, 皮下(subcutaneous), 経真皮(transdermal), 経皮(transcutaneous)または非経口(例えば、局所, 直腸内または静脈内)の投与のための錠剤(糖でコートされた錠剤およびフィルムコート錠剤を含む), 粉剤, 顆粒剤, カプセル, (軟カプセルを含む), 液剤, 注射剤, 坐剤, 徐放剤などの薬学的組成物を提供する既知の方法による薬理学的に許容される担体などと混合することにより安全に投与することができる。
【0103】
[0099] 本発明の薬学的組成物に使用する薬理学的に許容される担体の例には、固形の処方に関して賦形剤, 潤滑剤, 結合剤および崩壊剤, および液体の処方に関して溶媒剤(solvents), 溶解剤, 懸濁剤, 等張剤, 緩衝剤, 無痛化剤(soothing agents)などを含む様々な従来の有機または無機の担体が含まれるが、これらに限定されない。必要に応じて、防腐剤, 抗酸化剤, 発色剤, 甘味剤, 吸収剤(absorbents), 加湿剤(moistening agents)などの従来の添加物を、適切な量で適切に使用できる。
【0104】
[00100] 本発明の薬学的組成物に使用する賦形剤の例には、ラクトース, スクロース, D-マンニトール, デンプン, コーンスターチ, 結晶性セルロース, ライト 無水 ケイ酸(light anhydrous silicic acid), ポリサッカライド, 二糖類, 炭水化物, トレハロースなど剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0105】
[00101] 本発明の薬学的組成物に使用する潤滑剤の例には、ステアリン酸マグネシウム, ステアリン酸カルシウム, タルク(talc), コロイド性のシリカなどの剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0106】
[00102] 本発明の薬学的組成物に使用する結合剤の例には、結晶性セルロース, スクロース, D-マンニトール, デキストリン, ヒドロキシプロピルセルロース, ヒドロキシプロピルメチルセルロース, ポリビニルピロリドン, デンプン, スクロース, ゼラチン, メチルセルロース, カルボキシメチルセルロース ナトリウムなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0107】
[00103] 本発明の薬学的組成物に使用する崩壊剤の例には、デンプン, カルボキシメチルセルロース, カルボキシメチルセルロース カルシウム, カルボキシメチルデンプンナトリウム(sodium carboxymethyl starch), L-ヒドロキシプロピルセルロースなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0108】
[00104] 本発明の薬学的組成物に使用する溶媒剤の例には、注射のための水, アルコール, プロピレン グリコール, マクロゴール, ゴマ油, コーン油, オリーブ油などが含まれるが、これらに限定されない。
【0109】
[00105] 本発明の薬学的組成物に使用する溶解剤(solubilizers)の例には、ポリエチレングリコール, プロピレン グリコール, D-マンニトール, 安息香酸ベンジル, エタノール, トリス-アミノメタン, コレステロール, トリエタノールアミン, 炭酸ナトリウム, クエン酸ナトリウムなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0110】
[00106] 本発明の薬学的組成物に使用する懸濁剤(suspending agents)の例には、界面活性剤、例えば、 ステアリルトリエタノールアミン(stearyl triethanolamine), ラウリル硫酸ナトリウム, ラウリルアミノプロピオネート, レシチン, 塩化ベンザルコニウム, 塩化ベンゼトニウム, モノステアリン酸グリセリンなど; 親水性ポリマー、例えば、ポリビニルアルコール, ポリビニルピロリドン, カルボキシメチルセルロース ナトリウム, メチルセルロース, ヒドロキシメチルセルロース, ヒドロキシエチルセルロース, ヒドロキシプロピルセルロースなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0111】
[00107] 本発明の薬学的組成物に使用する等張剤の例には、グルコース, D-ソルビトール, 塩化ナトリウム, グリセリン, D-マンニトールなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0112】
[00108] 本発明の薬学的組成物に使用する緩衝剤の例には、リン酸塩(phosphate), 酢酸塩(acetate), 炭酸塩(carbonate), クエン酸塩(citrate)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0113】
[00109] 本発明の薬学的組成物に使用する無痛化剤の例には、ベンジルアルコールなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0114】
[00110] 本発明の薬学的組成物に使用する防腐剤(antiseptics)の例には、p-オキシベンゾエート, クロロブタノール, ベンジルアルコール, フェネチル アルコール, デヒドロ酢酸, ソルビン酸などが含まれるが、これらに限定されない。
【0115】
[00111] 本発明の薬学的組成物に使用する抗酸化剤(antioxidants)の例には、亜硫酸塩(sulfite), アスコルビン酸, α-トコフェロールなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0116】
[00112] 特定の態様において、本発明の薬学的組成物が注射として使用される場合、使用される注射のための担体は、溶媒剤, 可溶化剤, 懸濁剤, 等張剤, 緩衝剤, 無痛化剤などの任意を又は全てを含みえる。溶媒剤の例には、注射のための水, 生理食塩水, リンゲル溶液などが含まれるが、これらに限定されない。可溶化剤(solubilizer)の例には、ポリエチレングリコール, プロピレン グリコール, D-マンニトール, 安息香酸ベンジル, トリスアミノメタン, コレステロール, トリエタノールアミン, 炭酸ナトリウム, クエン酸ナトリウムなどが含まれるが、これらに限定されない。等張剤の例には、グルコース, D-ソルビトール, 塩化ナトリウム, グリセリン, D-マンニトールなどが含まれるが、これらに限定されない。緩衝剤の例には、リン酸塩, 酢酸塩, 炭酸塩, クエン酸塩などの緩衝剤などが含まれるが、これらに限定されない。無痛化剤の例には、ベンジルアルコールなどが含まれるが、これらに限定されない。pH調整剤(pH adjusting agent)の例には、塩酸, リン酸, クエン酸, 水酸化ナトリウム, 重炭酸ナトリウム, 炭酸ナトリウムなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0117】
[00113] 特定の態様において、本発明の注射のための組成物を、無菌的に処理されたフリーズドライ機においてフリーズドライし、粉末状態に保存しえる又は注射用の容器(例えば、アンプル)に密封し、保存できる。
【0118】
[00114] 加えて、本発明の薬学的組成物は、使用の際に上述の注射用の担体で希釈しえる。
【0119】
[00115] 本発明の薬学的組成物における活性な化合物の含有量は、製剤の形態に依存して変動しえるが、一般に全体の製剤の約 0.01-約 99 wt %, 好ましくは 約 0.1-約 50 wt %, より好ましくは 約 0.5-約 20 wt %である。
【0120】
[00116] 本発明の薬学的組成物における非イオン性界面活性剤の含有量は、製剤の形態に依存して変動しえるが、一般に全体の製剤の約 1 〜約 99.99 wt %, 好ましくは 約 10 〜約 90 wt %, より好ましくは 約 10 〜約 70 wt %である。
【0121】
[00117] 本発明の薬学的組成物におけるエタノール, ベンジルアルコールまたはジメチルアセトアミドの含有量は、製剤の形態に依存して変動しえるが、一般に全体の製剤の約 1 〜約 99.99 wt %, 好ましくは 約 10 〜約 90 wt %, より好ましくは 約 30 〜約 90 wt %である。
【0122】
[00118] 本発明の薬学的組成物における非イオン性界面活性剤 および エタノールの混合比(重量比)は、特に限定されず、例えば, 非イオン性界面活性剤:エタノール = 約 0.01-99.99:99.99-0.01, 好ましくは 約 1-99:99-1, より好ましくは 約 10-90:90-10などである。より好ましくは, 非イオン性界面活性剤:エタノール = 約 10-80:90-20, 約 50-80:50-20など, および 特に, 約 20:80, 約 65:35などが好ましい。
【0123】
[00119] 本発明の薬学的組成物における水に容易に可溶性のシクロデキストリン誘導体の含有量は、製剤の形態に依存して変動するが、一般に全体の製剤の約 1 〜約 99.99 wt %, 好ましくは 約 10 〜約 99.99 wt %, より好ましくは 約 20 〜約 97 wt %, 特に好ましくは 約 50 〜約 97 wt %である。
【0124】
[00120] 本発明の薬学的組成物における他の添加物の含有量は、製剤の形態に依存して変動しえるが、一般に全体の製剤の約 1 〜約 99.99 wt %, 好ましくは 約 10 〜約 90 wt %, より好ましくは 約 10 〜約 70 wt %である。
【0125】
[00121] 本発明の薬学的組成物は、活性な化合物(active compound), 非イオン性界面活性剤および水に容易に可溶性のシクロデキストリン誘導体を含んでいる薬学的組成物であってもよい。この場合において、各成分(即ち、活性な化合物, 非イオン性界面活性剤および水に容易に可溶性のシクロデキストリン誘導体)の含有量は、上述の範囲と同じである。
【0126】
VIII. アルツハイマー病を治療する方法
[00122] また、本発明は、本願に開示される薬学的組成物を用いてアルツハイマー病を治療する又は予防する方法に関する。
【0127】
[00123] 本発明の化合物は、経口的, 非経口的〔例えば, 筋肉内, 腹腔内, 静脈内, ICV, 槽内注射(intracisternal injection)または輸液, 皮下注射, またはインプラント〕で, 噴霧吸入, 鼻内, 膣内, 直腸内, 舌下, または局所経路で投与されてもよい、および単独または共に、投与の各経路に適切な従来の非-毒性の薬学的に許容される担体, アジュバント および ビヒクルを含んでいる適切な用量単位の製剤に製剤化されてもよい。本発明の薬学的組成物および方法は、さらに通常アルツハイマー病の治療に適用される他の治療的に活性な化合物を含んでもよい。
【0128】
[00124] アルツハイマー病の治療または予防において、適切な用量レベルは、一般に約 0.001 〜100 mg/kg 患者体重/日であり、単一または複数の用量で投与できる。好ましくは、用量レベルは、約 0.01 〜約 25 mg/kg /日; より好ましくは 約 0.05 〜約 10 mg/kg /日である。適切な用量レベルは、約 0.01 〜25 mg/kg /日, 約 0.05 〜10 mg/kg /日, または約 0.1 〜5 mg/kg /日であってもよい。この範囲内で、前記用量は、約 0.005 〜約 0.05, 0.05 〜0.5 または0.5 〜5 mg/kg /日であってもよい。経口投与に関して、組成物は、好ましくは治療される患者に症候の調整の用量に関して約 1 〜1000 ミリグラムの活性成分, 特に 約 1, 5, 10, 15, 20, 25, 50, 75, 100, 150, 200, 250, 300, 400, 500, 600, 750, 800, 900, および 1000 ミリグラムの活性成分を含んでいる錠剤の形態で提供される。化合物を、1 〜4 回/日, 好ましくは一回または二回/日の投薬計画で投与しえる。
【0129】
[00125] しかしながら、何らかの特定の患者のための特定の用量レベルおよび用量の頻度は、変動してもよく、使用する特定の化合物の活性, 代謝安定性および化合物の作用の長さ, 年齢, 体重, 一般的な健康, 性, 食餌(diet), 投与の様式および時間, 排泄の速度, 薬の組み合わせ, 特定のコンディション(condition)の重症度, および治療を経験しているホスト(host undergoing therapy)を含んでいる様々な因子に依存することが理解される。
【0130】
[00126] 本発明の開示で言及される全ての文献、特許および文書は、その全体が参照によって本願に援用される。
【0131】
[00127] 以下の例は、本発明の特定の好適な態様をさらに記載するため例の様式で提供され、本発明を限定することは意図されない。
【0132】
[例]
例 1: アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカー(ADSMB)
[00128] ブラジキニン (10 nM, 10 min 、37℃)は、アルツハイマー(AD)の線維芽細胞 vs. 非-AD痴呆および非-痴呆の対照の線維芽細胞においてErk1/2のリン酸化が大きいことの原因であることが見出された。このAD 線維芽細胞に関するErk1/2 リン酸化の増加が本発明で付加的なコリエルの細胞株で観察できたが、これらの測定に認められた固有(inherent)の可変性によって定量性, 信頼性, および再現性が必要とされることが示された。従って、線維芽細胞の成長速度における内因性の差(同様に、ゲルに適用するタンパク質抽出物の正確な量における差)を対照するため、我々は全ての患者のサンプルにおいてErk1ないしErk2のリン酸化をErk1/2 比を用いてBK+ 刺激の前後で比較するリン酸化の新しい測定基準を導入した。この Erk1/Erk2 リン酸化比の測定基準〔アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカー (ADSMB)〕によって、完全に全ての 非-痴呆の対照の線維芽細胞が全ての AD 線維芽細胞から区別される(図 1 および 4A)。対照のケースに関するp-Erk1の見かけ上の高いレベル(BK-) (図 3)は、全ての患者に対して一貫していなかった。非-AD 痴呆の少数のケースは区別されなかった。しかし、これらは臨床診断で解剖で確認されていないことが原因である。この解釈は、解剖で診断が確認された患者からの線維芽細胞で得られたADSMB 測定の結果により支持された(図 1 および 4B)。この測定基準において、ADSMBは、正確に全ての AD ケースを全ての 非-AD 痴呆から区別し、AD および 他の非-ADの病因(例えば、パーキンソン病)の両方が原因の「混合性(mixed)」の痴呆のケースでさえ区別された。AD を非-AD痴呆(non-AD dementia)および非-痴呆の対照患者(non-demented control patients)の双方から区別することにおけるこの高い正確性は、コリエルの細胞サンプルおよび解剖で確認したサンプルの両方を考慮したADSMBの著しい感度および 特異性から反映される(図 6)。解剖で確認した診断のみが考慮される場合、感度および特異性は100%のレベルである。
【0133】
アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカー (ADSMB)は疾患の持続期間で変動する
[00129] 疾患の持続期間(即ち、症状が開始する時間からADSMB測定の時間)が利用可能な患者のサンプルに関して、我々はADSMBの振幅(amplitudes)と疾患の持続期間の関係を調査した。示したとおり(図 2)、ADSMBの規模と疾患の持続期間との間に(線形回帰分析で)有意な逆の相関性が存在した。これらの結果は、MAPキナーゼリン酸化ADSMBが、測定される疾患の過程の早い時間でより著しいことを示唆する。
【0134】
アルツハイマー表現型のAβ (1-42)による誘導
[00130] Aβ(1-42)のレベルが多分早期のADに決定的に影響を与えるので(及び観察されたADSMBがデータで示されて早期ADを診断する能力を有するので)、我々は本発明で上昇したAβ(1-42)がMAPキナーゼ D.F.の異常を誘導する可能性を調査した。正常な対照患者からの線維芽細胞株を、1.0μMのAβ(1-42)に24 時間暴露した。図 5Aに示したとおり、Aβ(1-42)とのプレインキュベーションは、予想とおり正常な(負の) ADSMB 表現型を異常な正に値するADSMB 表現型に転換する(これは全てのAD表現型に観察された)。これらの結果は、このAD 患者におけるADSMB 表現型が実際に上昇したレベルのAβ(1-42)から発生したことを示唆している。
【0135】
アルツハイマー表現型のPKC アクチベータ, ブリオスタチンによる逆転
[00131] 前に議論したとおり、MAPキナーゼのリン酸化(ADSMBにより測定される)はPKC 活性化によって制御され、次にAβのレベルの上昇への脆弱性(vulnerability)が示された。さらに、強力な PKC アクチベータ, マクロラクトン, ブリオスタチンは、ヒト繊維芽細胞におけるPKC 活性化を増強すること、同様に、ヒトのAD遺伝子を有するトランスジェニック マウスの脳におけるAβ(1-42) レベルを減少させることが見出された。これらの所見に基づいて、我々は、ブリオスタチン (0.1nM)のAβ(1-42)-処理ヒト繊維芽細胞における作用を試験した。示したとおり(図 5B および 表 1)、ブリオスタチンによって、全体的に正常な線維芽細胞においてAβ(1-42)により誘導されたMAPキナーゼ リン酸化の変化が逆転(reversed)された。ブリオスタチンは、Aβ-処理した線維芽細胞の異常な正の値を非-AD 線維芽細胞で前に観察された正常な負に値するADSMB(negatively valued ADSMB)に変化させた。このブリオスタチンの「治療上」の有効性は、慢性のブリオスタチン処理に暴露されたAD-トランスジェニックマウスの生存が非常に増加したことと一致している。
【0136】
表 1
アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカー(ADSMB)をAC (対照細胞株) (対照), アミロイド ベータ (Aβ)誘導性の細胞および, アミロイド ベータ (Aβ)誘導性の細胞 プラス ブリオスタチン処理(Aβ+BY)に関して測定した。
【表1】

【0137】
*P<0.001, # P<0.01
aADSMBは、本研究による方法の使用により計算された。
【0138】
*T-検定を対照およびAβ 処理細胞の間で行った。
【0139】
#T-検査をAβ 処理細胞およびAβ + ブリオスタチン処理細胞の間で行った。
【0140】
[00132] ADを診断するためのMAPキナーゼリン酸化のADSMB測定の高い感度および特異性によって、ADの臨床検査としての重要な潜在性が示唆され、痴呆の臨床評価が援助される。現在まで、臨床的に診断された痴呆の解剖での確認は、通常は長期にわたり疾患を有する患者に関してのみ利用可能である。ADが8-15 年持続しえることを考慮すると、短期の持続期間のADの臨床診断は、疾患の進行の後期で解剖での確認へと供試される臨床診断と比較される場合、不正確度が高いことを示すことが認められた。従って、末梢性のバイオマーカー(本発明においてヒト繊維芽細胞のMAPキナーゼのリン酸化比)は、痴呆の治療上の戦略が得られる実際上の有効性を有する。
【0141】
[00133] 理論に縛られることを望まないが、なぜErk1 からErk2のリン酸化の比がAβ代謝のAD-特異的な差による異常に感受性であるかを考慮することも興味深い。この及び過去のADの末梢性のバイオマーカーの研究が意味する一つの事項は、ADの病態生理(pathophysiology)が脳のみならず、様々な他の器官系にも関与することである。このADの全身性の病態生理学的な観点は、アミロイド および tau 代謝性の経路がヒトの身体にユビキタスに存在し、血液, 唾液, 皮膚および脳外組織(extra-brain tissues)で明らかであるとの観察と一致している。
【0142】
[00134] Erk1/Erk2 比 とADとの本発明で示された密接な相関性は、ADのシグナル伝達の「読み出し情報(read-out)」としてのこれらの基質にも注目が集められる。例えば、PKC アイソザイムは、MAPキナーゼに集まる幾つかの分子標的を制御する。
【0143】
PKCは、以下の事項を活性化する:
(1) s-APPのα-セクレターゼ増加(従って、間接的にβ-アミロイドの減少);
(2) β-アミロイドは、MAPキナーゼのリン酸化を増加させるグリコーゲンシンターゼ キナーゼ-3β (GSK-3β)を活性化する;
(3) PKCは、GSK-3βを阻害する;
(4) PKC自身は、GSK-3βをリン酸化する;および
(5) PKCは、BK および 他のAD-開始イベント(AD-initiated events)に応答しえるサイトカイン炎症性シグナルを活性化する;
(6) 毒性のコレステロール代謝物(例えば、17-OH コレステロール)はPKC αを阻害する(これは結局のところAβを減少させ、リン酸化tauを減少させる)。
【0144】
[00135] PKC アイソザイム自身の機能不全がADのプロセスの早期の開始に寄与しえるとの証拠は、全ての上記のシグナル伝達イベントを介して、Erk1/2 リン酸化比の異常性に反映された。
【0145】
[00136] 最終的に、如何にADのリン酸化異常の特異性がヒトの線維芽細胞株の連続的な継代で維持されえることも謎である。この現象は、PKC/MAPキナーゼレベルと線維芽細胞ゲノムとの相互作用をとおして説明されえる。PKC および MAPキナーゼが遺伝子発現を制御することが知られている。従って、彼等自身の合成のPKC/MAPキナーゼ刺激の進行するサイクルによって、ヒト繊維芽細胞の一つの世代から次の世代へとPKCレベルおよびMAPキナーゼリン酸化の異常性を永続化させることが可能であろう。
【0146】
例 2: Aβ処理
[00137] Aβ(1-42) 溶液の調製: 最初に1 mg のAβ(1-42)を6-フルオロイソプロパノール (Sigma, St. Louis, MO)に3 mMの濃度で溶解し、無菌の微量遠心チュウブにアリクウォットに分けた。6-フルオロイソプロパノールを、減圧下で除去し、凍結乾燥した。Aβ(1-42)フィルムを、使用するまで乾燥条件下で-20℃で貯蔵した。5 mM Aβ(1-42) ストック溶液を、実験直前に貯蔵されたAβ(1-42)からDMSOに調製した。1.0 μMのストック溶液を、DSMO ストック溶液からAβ(1-42)を溶解することでDMEM 培地(10% 血清 および ペニシリン/ストレプトマイシンを補充)において調製した。1.0 μMのAβ(1-42)を含んでいるDMEM培地を、90-100%の集密段階で25 mLの培養されたフラスコ中で非-AD 対照(AC)細胞に添加し、細胞培養インキュベーター(37℃、5% CO2)で24 hrs維持した。細胞を、無血清培地(DMEM)中で16 時間飢餓させた。10nMのブラジキニン(DMSO中)溶液を、10% 血清を有するDMEM培地に調製した。7 mLの10 nM BK 溶液を、25 mL の培養されたフラスコに添加し、37℃で10 minインキュベーションした。対照に関して、同じ量のDMSOを、10% 血清を有するDMEM培地に添加した。7 mLのDMSO (<0.01%)有するこの培地を、25 mL の培養されたフラスコに添加し、37℃で10 minインキュベーションした。低温(4℃)の1X PBSで四回洗浄後に、フラスコをドライアイス/エタノール混合物に15 min維持した。フラスコをドライアイス/エタノール 混合物から除き、次に100 μL の溶解緩衝剤 (10 mM Tris, pH 7.4, 150 mM NaCl, 1 mM EDTA, 1 mM EGTA, 0.5% NP-40, 1% Triton X-100, 1% プロテアーゼインヒビターカクテル, 1% ser/thr/チロシン ホスファターゼ インヒビター カクテル)を各フラスコに添加した。フラスコをエンド ツー エンド振盪機(end-to end shaker)で低温室 (4℃)に30 min維持し、細胞を各フラスコから細胞スクレーパーで集めた。細胞を超音波処理し、14000 rpm で15 min遠心分離し、上清をトータルタンパク質アッセイ後にウエスタンブロッティングに使用した。トータルのErk1, Erk2 並びにリン酸化形態のErk1 および Erk2(p-Erk1, p-Erk2)を、特異的な抗体である抗-標準Erk1/2 および 抗-phospho ERK1/2を用いて決定した。少なくとも 三つのブラジキニン処理フラスコ (BK+) および 対応する三つの対照フラスコ (BK-)を、各細胞株に関して含ませて測定の誤差を最小化した。
【0147】
ブリオスタチン処理
[00138] 0.1 nMのブリオスタチン溶液を、DMSO ストック溶液から、標準のDMEM培地 (10% 血清 および ペニシリン/ストレプトマイシンを補充)に調製した。Aβ処理後に、細胞を標準の培養培地 (10% 血清 および ペニシリン/ストレプトマイシンを補充)で四回洗浄した。0.1 nM ブリオスタチンを細胞に添加し、培養フラスコを細胞培養インキュベーター(37℃、5% CO2)に20 min維持した。無血清培地で五回洗浄後に、フラスコをインキュベーター(37℃、5% CO2)に無血清条件で16 hrs維持した。ブラジキニン誘導性のMAPK アッセイを、上記の議論のとおり行った。
【0148】
データ分析
[00139] ウエスタンブロットのタンパク質バンドのシグナルを、Fuji LAS-1000 Plus スキャナーでスキャンした。Erk1, Erk2, p-Erk1 および p-Erk2の強度を、我々の研究所(Blanchette Rockefeller Neurosciences Institute, Rockville, MD)のNelson博士により開発された特別に設計されたソフトウェアでスキャンしたタンパク質バンドから測定した。強度を、ストリップデンシトメトリー(strip densitometry)で測定した。タンパク質バンドをストリップ(strip)で選択し、各ピクセルの密度を前記ソフトウェアでのバックグラウンド除去後に計算した。p-Erk1/p-Erk2の比を、それぞれサンプル(BK+) および 対照(BK-)から計算した。次の式を使用してAD および 非-ADのケースの間を区別した:
ADSMB= [p-Erk1/p-Erk2]BK+ - [p-Erk1/p-Erk2]BK-
ADSMB = アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカー
【0149】
例 3: リン酸化された Erk1 と リン酸化された Erk2との比を決定する皮膚の線維芽細胞のインビトロアッセイ
[00140] Coriell医学研究所(Coriell Institute of Medical Research)からの保存された皮膚の線維芽細胞(アルツハイマー病 (AD), 非 AD 痴呆 (非-ADD)(例えば、ハンチントン および パーキンソン病および臨床上の精神分裂病) および 年齢が適合するコントロール細胞(AC)を、90-100%の集密段階まで培養した。細胞を、無血清培地(DMEM)において16 時間飢餓させた。標準の培地におけるDMSO中の10 nMのブラジキニン (BK)を、37℃で0 minおよび 10 min添加した。対照に関して、同じ量のDMSOを添加した。
【0150】
[00141] 低温(4 °C)の1X PBSで四回洗浄後に、フラスコをドライアイス/エタノール混合物に15 min維持した。フラスコをドライアイス/エタノール 混合物から除き、次に80 μL の溶解緩衝剤 (10 mM Tris, pH 7.4, 150 mM NaCl, 1 mM EDTA, 1 mM EGTA, 0.5% NP-40, 1% Triton X-100, 1% プロテアーゼインヒビターカクテル, 1% ser/thr/チロシン ホスファターゼ インヒビター カクテル)を各フラスコに添加した。
【0151】
[00142] フラスコをエンド ツー エンド振盪機で低温室 (4 °C)で30 min維持し、細胞を各フラスコから細胞スクレーパーで集めた。細胞を超音波処理し、14000 rpm で15 min遠心分離し、上清をトータルタンパク質アッセイ後にウエスタンブロッティングに使用した。
【0152】
[00143] トータルのErk1, Erk2 並びにリン酸化形態のErk1 および Erk2(p-Erk1, p-Erk2)を、特異的な抗体である抗-標準Erk1/2 および 抗-phospho ERK1/2を用いて決定した。
【0153】
例 4: 皮膚の線維芽細胞
[00144] ADの患者からの保存された皮膚の線維芽細胞および年齢が適合する対照は、Coriell医学研究所から購入した。解剖で確認された皮膚の線維芽細胞は、別々に取得された。患者は、重篤な痴呆, 進行性の記憶喪失, および他の認知機能の障害で臨床的に影響されていてもよい。これらの患者からの脳は、異常な EEG、異なる程度の脳萎縮をCATまたはCTスキャンにより示す。年齢が近く適合する正常な個体からの細胞は、対照として使用された。
【0154】
[00145] 新たに採取した皮膚の線維芽細胞。新たに取得した皮膚組織からの線維芽細胞の採集および培養は以下のとおり行われる: 非-FAD (nFAD) 患者および年齢が適合する対照からのパンチバイオプシーの皮膚組織は、資格をもつ作業員により取得された。全ての患者(または代理人)は、インフォームドコンセントの用紙にサインした。
【0155】
[00146] ハンチントン病からの保存された線維芽細胞。これらの線維芽細胞は、痴呆に典型的なハンチントン病の症状が伴うハンチントン病(HD; Huntington's disease)の患者から由来する。正常な年齢および性別が適合する個体からの線維芽細胞は、対照として使用された。
【0156】
例 5: 材料
[00147] DMEMは、Gibco BRLから購入した。ウシ胎児血清は、Bio Fluidsから購入された。ブラジキニン, ジフェニルホウ酸 2-アミノエチル エステル(2ABP), プロテアーゼ, および ホスファターゼ インヒビター カクテルはSigmaから購入された; ビスインドリルマレイミド-1 および LY294002はAlexisから購入された; PD98059はCell Signaling Technologyから購入された。抗-phospho-Erk1/2 抗体は、Cell Signaling Technologyから購入された。抗-標準Erk1/2は、Upstate Biotechnologyから購入された。SDS ミニゲル(4-20%)は、Invertrogene-Novexから購入された。ニトロセルロース膜は、Schleicher & Schuell (Keene, NH)から購入された。全てのSDS 電気泳動法の試薬は、Bio-Radから購入された。SuperSignal ケミルミネッセンス基質 キットは、Pierceから購入された。
【0157】
[00148] 代わりに, ブラジキニン (M.Wt. 1060.2)は、Calbiochem (San Diego, CA)から購入された。ウサギの抗 phospho-p44/p42 MAPKは、Cell Signaling Technology (Danvers, MA)から取得された。抗-標準Erk1/2はUpstate Biotechnology, (Charlottesville, VA)から購入された、抗-ウサギ二次抗体はJackson Lab (Bar Harbor, ME)から購入された。ベータ アミロイド (1-42) (M.Wt. 4514.1)は、American Peptide (Sunnyvale, CA)から購入された。ブリオスタチンは、Biomol (Plymouth Meeting, PA)から購入された。
【0158】
例 6: AC および ADの線維芽細胞の培養
[00149] FAD および nFADタイプの両方を含んでいるアルツハイマー病患者からの及び年齢が適合する対照(AC)からの保存された線維芽細胞が、維持され、T25/T75 フラスコにおいて10% ウシ胎児血清 (FBS)を含んでいるDMEMで培養された。細胞は、6 〜17継代内に使用された。
【0159】
例 7: 新鮮なバイオプシー組織または保存されたサンプルからの線維芽細胞の処理および培養
[00150] サンプルは、1xPBSに配置され、移動培地(transfer medium)中で研究室に増殖のため輸送された。移動培地が除去された後に、皮膚組織はPBSでリンスされ、1-mm-サイズのエクスプラント(explants)に切り刻まれた。エクスプラントは、一つ一つ45% FBS および 100 U/ml ペニシリン および 100 U/ml ストレプトマイシン (Pen/Strep)を含んでいる3 ml のバイオプシー培地を有するベント型T25 フラスコの成長表面(growth surface)に移動された。組織は、10% FBSを含んでいる2 ml のバイオプシー培地の添加の前に24 h、37゜Cで培養された。培地は、48 h後に10% FBS および 100 U/ml Pen/Strepを含んでいる5 mlの標準的な培養培地で置換される。細胞を、次に上記の標準的な手順にしたがって継代し、維持した。
【0160】
[00151] ヒトの皮膚の線維芽細胞の培養系も、これらの研究に使用されてきた。Coriell医学研究所(Camden, New Jersey)からの保存された皮膚の線維芽細胞のアルツハイマー病 (AD), 非 AD 痴呆 (例えば、ハンチントンおよびパーキンソン病および臨床上の精神分裂病および年齢が適合するコントロール, AC)を、90-100%の集密段階まで25mLの細胞培養フラスコにおいて(10% 血清およびペニシリン/ストレプトマイシンを補充し、37℃、5% CO2で)培養した。細胞を、無血清培地(DMEM)中で16 時間飢餓させた。10nMのブラジキニン(DMSO中)溶液を、10% 血清を有するDMEM培地に調製した。7mL の10nM BK溶液を、25mLの培養フラスコに添加し、37℃ で10 minインキュベーションした。対照に関して、同じ量のDMSOを、10% 血清を有するDMEM培地に添加した。7mL のこのDMSO (<0.01%)を有する培地を、25mLの培養フラスコに添加し、37℃ で10 minインキュベーションした。低温(4℃)の1X PBSで四回洗浄後に、フラスコをドライアイス/エタノール混合物に15 min維持した。フラスコをドライアイス/エタノール 混合物から除き、次に100 μL の溶解緩衝剤 (10 mM Tris, pH 7.4, 150 mM NaCl, 1 mM EDTA, 1 mM EGTA, 0.5% NP-40, 1% Triton X-100, 1% プロテアーゼインヒビターカクテル, 1% ser/thr/チロシン ホスファターゼ インヒビター カクテル)を各フラスコに添加した。フラスコをエンド ツー エンド振盪機(end-to end shaker)で低温室 (4℃)で30 min維持し、細胞を各フラスコから細胞スクレーパーで集めた。細胞を超音波処理し、14000 rpm で15 min遠心分離し、上清をトータルタンパク質アッセイ後にウエスタンブロッティングに使用した。
【0161】
例 8: 線維芽細胞の異なるプロテインキナーゼCアクチベータでの処理。
【0162】
[00152] ブラジキニン または 異なる特異的なプロテインキナーゼC アクチベータを使用して線維芽細胞を処理した。保存されたAC および ADの皮膚の線維芽細胞は、無血清のDMEMにおいて一晩「飢餓(starved)」させる前に80-100% 集密まで培養された。細胞は、10 nM プロテインキナーゼC アクチベータで37℃で異なる長さの時間で処理されて、プロテインキナーゼC アクチベータ-誘導作用のためのタイムコース(time course)が確立される。プロテインキナーゼC アクチベータの適用の直後に反応が停止されるタイムポイントは、「0 min」後-プロテインキナーゼC アクチベータ処理と規定された。各細胞株に関して、各処理のタイムポイントで対照フラスコの細胞は、同一の容量のPBSを添加された。反応は、培養培地を除去すること、急速に細胞を予冷したPBS(pH 7.4)でリンスすること、およびフラスコをドライアイス/エタノールに移動することによって停止された。新鮮なバイオプシー組織から取得され、培養された細胞に関して、0.1 nMのプロテインキナーゼC アクチベータの濃度を使用してもよい。処理時間は、37℃で約 10 minである。
【0163】
[00153] 処理細胞から細胞溶解産物を調製するために、フラスコがドライアイス/エタノールから氷水に移動された。各フラスコに10 mM Tris, pH 7.4, 150 mM NaCl, 1 mM EDTA, 1 mM EGTA, pH 8, 0.5% NP-40, 1% Triton X-100, 1% プロテアーゼインヒビター 反応混液 (Sigma), 1% Ser/Thr, および チロシン ホスファターゼ インヒビター カクテル (Sigma)を含んでいる1 mlの溶解緩衝剤が添加された。エンド ツー エンド振盪機で低温室で30 min振盪後、細胞を各フラスコから細胞スクレーパーで集めた。細胞は超音波処理され、5000 rpm で5 min遠心分離され、上清がウエスタンブロッティングに使用された。
【0164】
例 9: ウエスタンブロッティング
[00154] プロトコール 1: 細胞溶解産物は、等容量の2X SDS-サンプル緩衝剤で処理され、10 min煮沸された。各サンプルからのタンパク質は、4-20%のミニ-グラジエントゲルで分離され、ニトロセルロース膜に転写した。リン酸化された Erk1/2は、抗-phospho-Erk1/2抗体でSuperSignal ECL 検出キットを用いて検出された。Erk1/2の総量に対するリン酸化された Erk1/2の量を標準化するために、抗-phospho-Erk1/2 抗体でブロッティングした後に同じ膜を62.5 mM Tris-HCI, pH 6.7, 2% SDS, および100 mM 2-メルカプトエタノールを含んでいるストリッピングバッファー(stripping buffer)で60℃で45 minストリップし、抗-標準Erk1/2 抗体でブロットした。代わりに、SDS-PAGEで分離し、ニトロセルロース膜に転写したデュープリケート(duplicate)のサンプルが、それぞれ抗-phospho- および 抗-標準Erk 抗体でブロットされた。0.01% Tween 20を含んでいる10 mM PBS(pH 7.4)で洗浄(10 minを三回)した後に、膜は抗-標準Erk1/2 抗体でブロットされ、SDS ゲルにロードされたErk1/2の総量が測定された。
【0165】
[00155] プロトコール 2: 等しい容量の2xSDS サンプル 緩衝剤を、各細胞溶解産物に添加し、沸騰水浴において10 分間煮沸した。電気泳動法を、8-16%のミニ-グラジエントゲルで行い、ニトロセルロース膜に転写した。トータルのErk1, Erk2 並びにリン酸化形態のErk1 および Erk2(p-Erk1, p-Erk2)を、特異的な抗体を用いて決定した。
【0166】
例 10: データ分析
[00156] リン酸化および標準の形態のErk1/2の両方に対するシグナルは、Fujifilm LAS-1000 Plus スキャナーでスキャンされた。各タンパク質のバンドの平均光学密度は、NIH イメージ ソフトウェアを用いて測定された。phospho-Erk1/2シグナルからの値は、それぞれトータルのErk1/2 シグナルのものに対して標準化された。標準化後に、各々の処理した細胞株からのデータは、基礎の対照のパーセンテージに転換され、統計学的分析に供試された。
【0167】
例 11: 免疫細胞化学
[00157] 線維芽細胞を、0.02 mgのポリリジンでコートされた2.5-cm-直径のカバーガラスの表面で成長させた。上記のとおりブラジキニンまたは別のプロテインキナーゼC アクチベータでの処理に際して、細胞は、低温のPBS(pH 7.4)で迅速にリンスされ、4% ホルムアルデヒドをPBS(pH 7.4)中に含むもので室温で15 min固定された。PBS(pH 7.4)で三回洗浄(各々は5 min持続する)した後、細胞は、0.1% Triton x-100をPBS(pH 7.4)中に含むもので室温で30 min透過された。10%の通常のウマ血清をPBS(pH 7.4)中に含むもので室温で30 minインキュベーション後に、細胞は抗-phospho-Erk1/2 抗体 (1:200)で4℃で一晩インキュベーションされた。カバーガラス上の細胞は、PBS(pH 7.4)で三回洗浄され、フルオレッセインで標識された抗-マウス IgG(Vector Laboratories)が添加され(1:200)、細胞と室温で60 minインキュベーションされた。PBSでの三回の洗浄およびVectashield(Vector Laboratories)での包埋に続いて、細胞における免疫染色シグナルはNikonの蛍光顕微鏡で観察された。細胞のイメージにおける免疫細胞化学シグナルの強度は、Bio-Rad Quantity One ソフトウェア(BioRad) およびTnimageで測定された。皮膚の線維芽細胞におけるBKまたはプロテインキナーゼC アクチベータのレセプターの局在化に関して、モノクローナル 抗-BK B2 抗体, または抗 プロテインキナーゼC アクチベータ抗体は、正常な線維芽細胞に適用され、次にCy5-抱合型の抗-マウス IgGでインキュベーションされた。生じた免疫反応シグナルは、蛍光顕微鏡で視覚化された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルツハイマー病の治療への増加した応答性を有している患者を選択するための方法であって:
a. 患者からの細胞をプロテインキナーゼC アクチベータである因子と接触させることと;
b. 該細胞におけるアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値を測定することと;を含み、
該細胞における前記アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値が早期ステージのアルツハイマー病と関連する高い正の値である場合、前記患者における前記アルツハイマー病の治療への増加した応答性が示される方法。
【請求項2】
前記細胞が末梢の細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記の早期ステージのアルツハイマー病と関連する高い正の値は、零年ないし二年の痴呆を示す方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記の早期ステージのアルツハイマー病と関連する高い正の値は、零年ないし三年の痴呆を示す方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記細胞は、皮膚細胞, 線維芽皮膚細胞, 血液細胞, および頬粘膜の細胞からなる群から選択される方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、前記プロテインキナーゼC アクチベータは、ブラジキニン, ブリオスタチン, ボンベシン, コレシストキニン, トロンビン, プロスタグランジン F2α, および バソプレッシンからなる群から選択される方法。
【請求項7】
アルツハイマー病の治療への増加した応答性を有している患者を選択するための方法であって:
a. 患者からの細胞をプロテインキナーゼC アクチベータである因子と接触させることと;
b. アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値を測定することと;を含み、
該細胞における前記アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値が対照細胞からの前記アルツハイマー病特異的な分子バイオマーカーの値よりも高い場合、前記患者における前記アルツハイマー病の治療への増加した応答性が示される方法。
【請求項8】
前記細胞が末梢の細胞である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法であって、前記の早期ステージのアルツハイマー病と関連する高い正の値は、零年ないし二年の痴呆を示す方法。
【請求項10】
請求項7に記載の方法であって、前記の早期ステージのアルツハイマー病と関連する高い正の値は、零年ないし三年の痴呆を示す方法。
【請求項11】
請求項7に記載の方法であって、前記細胞は、皮膚細胞, 線維芽皮膚細胞, 唾液, 血液細胞, および頬粘膜の細胞からなる群から選択される方法。
【請求項12】
請求項7に記載の方法であって、前記プロテインキナーゼC アクチベータは、ブラジキニン, ブリオスタチン, ボンベシン, コレシストキニン, トロンビン, プロスタグランジン F2α, および バソプレッシンからなる群から選択される方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法によりアルツハイマー病の治療への増加した応答性を有していると同定された患者を治療するための方法であって、治療上効果的な量の医薬品を前記患者に投与することを含む方法。
【請求項14】
請求項7に記載の方法によりアルツハイマー病の治療への増加した応答性を有していると同定された患者を治療するための方法であって、治療上効果的な量の医薬品を前記患者に投与することを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2011−516883(P2011−516883A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503976(P2011−503976)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【国際出願番号】PCT/US2009/002120
【国際公開番号】WO2009/126232
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(503310224)ブランシェット・ロックフェラー・ニューロサイエンスィズ・インスティテュート (25)
【Fターム(参考)】