説明

ETBE含有ガソリン組成物及びその製造方法

【課題】優れた防錆性能及び冷機時運転性を有するエチルターシャリブチルエーテル含有ガソリン組成物、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】エチルターシャリブチルエーテル(ETBE)含有量が1〜20容量%であり、炭素数7の芳香族炭化水素含有量が3.0容量%以下であり、(炭素数9の芳香族炭化水素含有量)/(炭素数7の芳香族炭化水素含有量)比(容量比)が3以上であり、かつ、次式で示される運転性指数Aが1020以下であるETBE含有ガソリン組成物。 A=5×(T10)+6×(T50)+(T70)+30×(OX)(式中、T10は10%留出温度(℃)、T50は50%留出温度(℃)、T70は70%留出温度(℃)、OXは酸素分(質量%)を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチルターシャリブチルエーテル(ETBE)を含有するガソリン組成物に関し、特には、防錆性能と冷機時運転性に優れたガソリン組成物と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含酸素化合物であるエタノールやエチルターシャリブチルエーテル(以下、ETBEという。)を用い、レギュラーガソリンのオクタン価を高めると、エンジンの熱効率が上がり、CO2削減に寄与することが報告されている(非特許文献1)。このうち、ETBEはエタノールに比べて、同じ酸素含有量において高いオクタン価を有し、また低添加量でも共沸現象による蒸気圧の上昇を起こすことがなく、また水混入時にガソリンの相分離を起こすことがないこと等から、ハンドリングが容易である。これらのメリット及び前記CO2削減効果などを背景に2010年にはガソリンに導入することが決定されている。また、これまでにオクタン価向上基材としてETBEをガソリンに混合するETBE含有ガソリンの製造法(特許文献1)やETBEをガソリンに混合し、運転性、加速性及び排気ガスを良好にしたガソリンは数多く報告されている(特許文献2、特許文献3)。しかし、ETBEを用いてレギュラーガソリンのオクタン価を高めるにあたって、ETBEを混合すると、ガソリンの防錆性能は低下し、冷機時に運転性が悪化するが、これまでにこれらに着目した報告、あるいはこれらを改良した報告は見当たらない。
【特許文献1】特開2005−029762号公報
【特許文献2】特開2004−292511号公報
【特許文献3】特開2004−285204号公報
【非特許文献1】JCAP第4回成果発表会 「ガソリン車WG報告−硫黄分、オクタン価試験結果を中心に−」ガソリン車WG、財団法人石油産業活性化センター、2005.6.1、インターネット〈URL:http://www.pecj.or.jp/japanese/jcap/pdf/JCAP200506/2_1.pdf〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ETBEを配合したガソリンにおいては、ETBEにより防錆性能が悪化し、また冷機時運転性が良好でない場合がある。本発明は、このような問題を解決するものであり、ETBEを含有するガソリン組成物でありながら優れた防錆性能及び冷機時運転性を有するETBE含有ガソリン組成物を提供することを課題とし、さらにその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によるETBE含有ガソリン組成物は、ETBE含有量が1〜20容量%であり、炭素数7の芳香族炭化水素含有量が3.0容量%以下であり、(炭素数9の芳香族炭化水素含有量)/(炭素数7の芳香族炭化水素含有量)比(容量比)が3以上であり、かつ、次式で示される運転性指数Aが1020以下であるガソリン組成物である。
A=5×(T10)+6×(T50)+(T70)+30×(OX)
式中、T10は10%留出温度(℃)、T50は50%留出温度(℃)、T70は70%留出温度(℃)、OXは酸素分(質量%)を示す。
【0005】
また、本発明のガソリン組成物は、硫黄分が10質量ppm以下であり、(エタノール含有量)/(ETBE含有量)比(容量比)が0.001〜0.010であり、かつ、リサーチ法オクタン価が91〜98であるガソリン組成物である。また、防錆剤が添加されていることが好ましい。
また、(ターシャリブチルアルコール(以下、TBA)含有量)/(ETBE含有量)比(容量比)が0.004〜0.010となるようにTBAを含有するものが好ましい。
【0006】
本発明のガソリン組成物は、接触分解ガソリンから得た、(n-C7+n-C8)/(n-C9+n-C10)比(容量比)が3以下であり、かつ(n-C7+n-C8)/(n-C5+n-C6)比(容量比)が0.5以下である接触分解ガソリン基材を50〜80容量%含むものが好ましい。なお、前記容量比を表す記号について、n-C5はn-ペンタン含有量(容量%)、n-C6はn-ヘキサン含有量(容量%)、n-C7はn-ヘプタン含有量(容量%)、n-C8はn-オクタン含有量(容量%)、n-C9はn-ノナン含有量(容量%)、n-C10はn-デカン含有量(容量%)を示す。
【0007】
本発明によるETBE含有ガソリン組成物の製造方法は、炭化水素基材とETBE基材を配合して上述のETBE含有ガソリン組成物を製造するものである。
【0008】
また、純度90〜98容量%のETBEを蒸留分離して、ETBE純度99容量%以上の高純度ETBEと98容量%未満の低純度ETBEを得、その低純度ETBEをETBE基材として用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるETBE含有ガソリン組成物は、炭素数9の芳香族炭化水素含有量、炭素数7の芳香族炭化水素含有量を特定の範囲に限定し、さらに、蒸留性状と酸素含有量とから算出される運転性指数Aを所定の範囲内に限定したETBE含有ガソリン組成物であることから、ETBEを含有していながら、十分な防錆性能を有し、良好な冷機時運転性を示すという格別な効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明によるETBE含有ガソリン組成物は、ETBEを1〜20容量%含有する。ETBE含有量は、オクタン価向上効果から好ましくは5容量%以上、さらに好ましくは7容量%以上、特に好ましくは10容量%以上である。一方、燃費の面からは20容量%以下が好ましく、さらに防錆性能、水分離性などの面から17容量%以下が好ましく、特に好ましくは15容量%以下である。
炭素数7の芳香族炭化水素含有量が3.0容量%以下、防錆性能から好ましくは2.5容量%以下、さらに好ましくは2.0容量%以下、特には1.5容量%以下である。また、冷機時運転性から好ましくは0.1容量%以上である。
【0011】
また、炭素数9の芳香族炭化水素含有量の、炭素数7の芳香族炭化水素含有量に対する比(容量比)は、3以上であり、防錆性能から好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上、特には20以上である。
【0012】
さらに、次式で表される運転性指数Aが1020以下である。
A=5×(T10)+6×(T50)+(T70)+30×(OX)
式中、T10は10%留出温度(℃)、T50は50%留出温度(℃)、T70は70%留出温度(℃)、OXは酸素分(質量%)を示す。
運転性指数Aは、冷機時運転性から好ましくは1010以下、さらに好ましくは1000以下、特には990以下である。
【0013】
ETBE含有ガソリン組成物中の硫黄分は、10質量ppm以下が好ましく、排ガス浄化触媒の硫黄被毒を回避するために5質量ppm以下がより好ましい。
また、エタノール含有量の、ETBE含有量に対する比(容量比)は、0.001〜0.010が好ましく、防錆性能及び水曇り防止性能から、より好ましくは0.0015以上、さらに好ましくは0.0020以上である。一方、水分離性の悪化や酸素含有量当りのオクタン価の低下を避けるために、好ましくは0.009以下、さらに好ましくは0.008以下である。このエタノールはETBE製造時にETBEに含有されていることが、精製コスト低減となり好ましいが、ETBE製造後に、前記好ましい範囲になるようにエタノールをガソリンに混合しても良い。
本発明のETBE含有ガソリン組成物の有するリサーチ法オクタン価(以下、単にオクタン価又はRONという。)は91〜98が好ましく、エンジンの熱効率を高めることから93以上、さらに好ましくは95以上である。一方、オクタン価を高めることによって蒸留性状が重質化したり、あるいは冷機時運転性が悪化することがあることから、97以下が好ましく、さらには96以下が好ましい。
また、本発明のETBE含有ガソリン組成物は、エタノール以外のアルコールとしてTBAを(TBA含有量)/(ETBE含有量)比(容量比)が0.004〜0.100となるように含有するものが好ましく、防錆性能から0.006以上含有するものがさらに好ましい。なお、オクタン価の低下や蒸気圧上昇の観点からはTBA含有量は前記(TBA含有量)/(ETBE含有量)比は0.010以下が好ましく、さらに好ましくは0.009以下、特には0.008以下である。
【0014】
また、本発明のETBE含有ガソリン組成物は、防錆剤を含有していることが好ましい。防錆剤としては、無機系としてクロム酸塩、タングステン酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、バナジン酸塩、亜硝酸塩、安息香酸塩、けい酸塩、ほう酸塩、りん酸塩、有機系としてアミン、ピリジン、第4ピリジン塩基塩等の窒素含有化合物、2−メルカプトイミダゾール、プロパルギルアルコール等の硫黄含有化合物、ヘキシン−1−オール-3,プロパルギルエステル等のアセチレン化合物等であり、特には、カルボン酸エステル脂肪酸アミン、アルケニル琥珀酸エステルリン酸塩、アルキルフェノールのフォスファイトエステルが好ましい。防錆剤の含有量は、通常1〜50mg/lであるが、1〜10mg/lが好ましい。また、金属不活性剤を含有していても良いが、この場合、ジェット燃料で通常使用されるNN’-ジサリシィリジン(NN'-disalicylidene)、1,2‐プロパンジアミンなどを1〜2mg/L含有させることが好ましい。
なお、これらの防錆性剤や金属不活性剤は単独でガソリンに添加することができるが、通常はポリイソブテンアミンやポリエーテルアミン等の清浄剤とパッケージ化して商品販売されており、これを使用してガソリンに添加する場合は、添加剤添加ガソリンの未洗浄実在ガム(JIS K2261)が20mg/100ml以下を満足する様に、通常は清浄剤とのパッケージ添加剤を50〜300mg/l添加する。
【0015】
本発明のETBE含有ガソリン組成物は、接触分解ガソリンから得た、(n-C7+n-C8)/(n-C9+n-C10)比(容量比)が3以下であり、かつ(n-C7+n-C8)/(n-C5+n-C6)比(容量比)が0.5以下である接触分解ガソリン基材を50〜80容量%含むことが好ましい。この式を満たす接触分解ガソリン基材は、比較的オクタン価が高いのでガソリン基材として好ましい。接触分解ガソリン基材は、生産コストが芳香族基材に比較して低いことから、さらに好ましくは60容量%以上、特に好ましくは65容量%以上、またオクタン低下及び蒸留性状の重質化を防止する観点からさらに78容量%以下、特には75%以下が好ましい。
なお、(n-C7+n-C8)/(n-C9+n-C10)比(容量比)が3以下であり、かつ(n-C7+n-C8)/(n-C5+n-C6)比(容量比)が0.5以下である接触分解ガソリン基材を調製する方法は、特に制限されるものではないが、例えば、後述の各種の製造工程、精製工程によって製造された接触分解ガソリンを分留して軽質留分、中質留分及び重質留分を得、この軽質留分と重質留分を、ノルマルパラフィン成分の上記比率(容量比)を満足するように、混合して得ることができる。
【0016】
本発明によるETBE含有ガソリン組成物の製造方法は、鉱油系及び/又は合成油系の炭化水素化合物からなるガソリン基材(以下、炭化水素基材という。)と、ガソリン調製用の市販のETBE製品や、エタノールとイソブチレンを合成して得た、あるいはエタノールとTBAとを脱水反応して得たETBE、さらには、それらを分留や精製して、ETBE純度、不純物の含有量等を適宜調整して得られたETBEを主成分とするガソリン基材(以下、ETBE基材という。)を配合して上述のETBE含有ガソリン組成物を製造するものである。
【0017】
また、本発明の製造方法で用いるETBE基材は、エタノール以外のアルコールとしてTBAを(TBA含有量)/(ETBE含有量)比が0.004〜0.100となるように含有するものが好ましく、防錆性能から0.006以上含有するものがさらに好ましい。なお、オクタン価の低下や蒸気圧上昇の観点からはTBA含有量は(TBA含有量)/(ETBE含有量)比は0.010以下が好ましく、さらに好ましくは0.009以下、特には0.008以下である。ETBE基材としては、市販品(例えば、純度約95%のシェブロン化学製ETBE)をそのまま用いることができるが、防錆性能に劣る製品があるのでそのまま用いることはあまり好ましいとはいえない。比較的低純度のETBEは、蒸留により99%以上の高純度のETBEとETBE98%未満の低純度のETBEに分けて用いることが好ましい。本発明のETBE含有ガソリン組成物は、高純度のETBEでも、低純度のETBEでも、どちらも使用することができる。防錆性能を改善するエタノールやTBAは、蒸留分離した時、軽質留分(低純度なETBE)に比較的多く含まれる。このため、この軽質留分を前記好ましい範囲に入るように配合することがオクタン価の低下や蒸気圧上昇を抑えつつ防錆性能を付与するために有効である。このTBAは、TBAをETBE合成原料として用いたとき、ETBE基材に含有されていることが精製コスト低減から好ましいが、TBA自身を前記好ましい範囲になるようにガソリン調合の際に混合しても良い。
また、本発明のETBE含有ガソリン組成物は、防錆剤を添加して含有することも有効である。
【0018】
また、市販のETBEを蒸留分離して得た純度99容量%以上の高純度ETBEは、比較的オクタン価が高く防錆剤を含有するガソリン(いわゆる、プレミアムガソリン)に混合し、一方、前記高純度ETBEを蒸留分離した残りとして生産されたETBE98容量%未満の低純度ETBEを、本発明の比較的オクタン価が低いETBE含有ガソリン組成物に混合することが、高純度ETBEと低純度ETBEを無駄なくガソリンの製造に活用されるので好ましい。
本発明の製造方法に用いるETBE基材は、目標品質に合致したETBE基材を国内外から受入れてもよく、国内外で目標品質に合わせて製造、又は分離、精製したETBE基材を使用してもよい。このETBE基材は、本発明のETBE含有ガソリン組成物の製造において、通常1〜20容量%配合される。
【0019】
また、ETBE合成の原料であるエタノールとしては、生産余剰となったトウモロコシ、サトウキビ、又は廃材のセルロースなどから生産されるバイオエタノールを使用することが、二酸化炭素増加を防止する環境調和型のエネルギー源としての観点から好ましい。また、ETBE合成のもう一つの原料であるイソブテンとしては、炭素数3以下及び炭素数5以上の炭化水素化合物の含有量が少ない方が、ETBE生産時に生成する副生成物が少なくなり好ましい。
【0020】
このETBE含有ガソリン組成物に用いるETBE基材は、排気ガスの触媒被毒防止の観点から硫黄分は5質量ppm以下が好ましく、さらに好ましくは2質量ppm以下、特に好ましくは1質量ppm以下である。また、ETBE基材のリード蒸気圧は、ガソリンの蒸気圧低減効果から40kPa以下が好ましく、37kPa以下、特には35kPa以下が好ましい。
【0021】
また、ガソリンの蒸気圧低減から、炭素数4以下の炭化水素化合物の含有量は好ましくは1容量%以下、さらに好ましくは0.5容量%以下、特に好ましくは0.1容量%以下である。また、沸点低減効果から炭素数8以上の炭化水素化合物の含有量は好ましくは1容量%以下、さらに好ましくは0.5容量%以下、特に好ましくは0.1容量%以下である。
オレフィン分は、酸化安定性から0.5容量%以下が好ましく、さらに好ましくは0.1容量%以下である。
【0022】
また、排気ガス品質の悪化防止の観点から、ベンゼン分は0.5容量%以下が好ましく、さらに好ましくは0.2容量%以下、特に好ましくは0.1容量%以下である。また、沸点上昇抑制と防錆性能からトルエン分は、5容量%以下が好ましく、さらに好ましくは4容量%以下、特に好ましくは3容量%以下である。また、水混入による水層の分離を防止するため、メチルターシャリブチルエーテル(MTBE)は0.3容量%以下とすることが好ましい。さらには0.2容量%以下が好ましく、特には0.1容量%以下である。また、水曇り防止の観点から水分は500質量ppm以下が好ましく、さらに好ましくは400質量ppm以下、特に好ましくは350質量ppm以下である。
【0023】
〔接触分解ガソリン基材〕
接触分解ガソリン基材は、後述の炭化水素基材のうちの一つであるが、本発明のETBE含有ガソリン組成物を構成する最も重要な基材である。
接触分解ガソリンの製造工程は、接触分解装置、原料油、運転条件を特に限定するものでなく、公知の任意の製造工程を採用できる。接触分解装置は、無定形シリカアルミナ、ゼオライトなどの触媒を使用して、軽油から減圧軽油までの石油留分の他、重油間接脱硫装置から得られる間脱軽油、重油直接脱硫装置から得られる直脱重油、常圧残さ油などを接触分解して高オクタン価ガソリン基材を得る装置である。例えば石油学会編「新石油精製プロセス」に記載のあるUOP接触分解法、フレキシクラッキング法、ウルトラ・オルソフロー法、テキサコ流動接触分解法などの流動接触分解法、RCC法、HOC法などの残油流動接触分解法などがある。接触分解ガソリンは硫黄分を低減するために、接触分解装置にかける原料油の硫黄分を可能な限り低減しておくか、接触分解ガソリンそのものを脱硫することが好ましい。接触分解ガソリンを脱硫するには、オクタン価の減少を極力抑制しながら脱硫するのが好ましい。その脱硫方法としてExxonMobil社のSCANfiningプロセス、Axens社のPrime-G+プロセス、UOP社のISALプロセスなどがある。(21st JPI Petroleum Refining Conference "Recent Progress in Petroleum Process Technology" 2002)
【0024】
接触分解ガソリン基材は、(n-C7+n-C8)/(n-C9+n-C10)比(容量比)は3以下、かつ(n-C7+n-C8)/(n-C5+n-C6)比(容量比)が0.5以下となるように接触分解ガソリンを分留し、各留分を適宜選択し、混合して調整することが好ましい。より好ましくは、(n-C7+n-C8)/(n-C9+n-C10)比(容量比)は2以下、特には1以下、かつ(n-C7+n-C8)/(n-C5+n-C6)比(容量比)は0.4以下となるように接触分解ガソリンを分留し、各留分を適宜選択し、混合して調整することが好ましい。これにより、蒸留性状をほとんど変化させること無く、オクタン価を向上させることができる。
【0025】
〔炭化水素基材〕
接触分解ガソリン基材以外の重要な炭化水素基材としては、先ず、改質ガソリン基材が挙げられる。改質ガソリン基材を用いるとき、本発明効果を出すためには、改質ガソリンを炭素数7から9以上に各炭素数で分離し、このうち炭素数9以上の基材、いわゆる重質改質ガソリン(AC9ということがある。)を用いることが好ましい。重質改質ガソリン(AC9)は、接触改質ガソリン基材の比較的重質な、炭素数9の炭化水素化合物を主成分とする留分であり、10%留出温度が150℃以上、好ましくは155〜170℃である留分である。この留分は、芳香族分を90質量%以上、特には95質量%以上含み、90%留出温度が165〜175℃であることが好ましい。このような重質改質ガソリンを5〜25容量%、特には10〜20容量%配合することが好ましい。なお、改質ガソリン基材として、AC9以外に、炭素数7ないし8の炭化水素化合物を主成分とする留分(AC7やAC8)、あるいは、蒸留分離前のいわゆるホールの改質ガソリンなども適宜、本発明の効果を損なわない範囲で、使用することができる。
【0026】
また、その他の、イソブタンとブチレンを主として硫酸又はふっ化水素触媒下にアルキル化反応させて得られるアルキレート基材を好ましく用いることができる。さらに、その他のガソリン調製用の炭化水素基材としては、原油を常圧蒸留した直留ナフサ、直留ナフサを脱硫処理した脱硫ナフサ、軽質ナフサを接触処理し、異性化してオクタン価を高めたアイソメレート(異性化ガソリン)、原油や各種の2次精製装置から回収されるLPG留分、軽質ナフサや、さらにそれらを精密蒸留して得られるブタン、イソペンタン(iC5)などが挙げられる。
【0027】
さらに、炭化水素基材として、炭素数7及び8の芳香族炭化水素、すなわちトルエン及びキシレンなどを主成分とする基材を用いることができる。これらは、典型的には、改質ガソリンを分留することにより得ることができる。配合量は、例えば、トルエンを80容量%以上含む基材を、10容量%以下、さらに好ましくは5容量%以下配合することができる。しかし、芳香族炭化水素基材は、環境保全の観点からできれば配合しないことが好ましい。
【0028】
さらに、上記の炭化水素基材やETBE基材の他に、ガソリン基材として特に限定されないが、メチル−t−ブチルエーテル(MTBE)、エチル−s−ブチルエーテル(ESBE)、t−アミルエチルエーテル(TAEE)、メタノール、エタノール等の含酸素ガソリン基材を用いることができる。
炭化水素基材、ETBE基材あるいは含酸素ガソリン基材等のガソリン基材は、硫黄分が10質量ppm以下であることが好ましく、特には5質量ppm以下であることが好ましい。
【0029】
〔他の添加物〕
さらに、本発明のガソリンには、上記の防錆剤の他に、当業界で公知の燃料油添加剤の1種又は2種以上を必要に応じて配合することができる。これらの配合量は適宜選べるが、通常は添加剤の合計配合量を0.1質量%以下に維持することが好ましい。本発明のガソリンで使用可能な燃料油添加剤を例示すれば、フェノール系、アミン系などの酸化防止剤、シッフ型化合物、チオアミド型化合物などの金属不活性化剤、有機リン系化合物などの表面着火防止剤、コハク酸イミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミンなどの清浄分散剤、多価アルコール又はそのエーテルなどの氷結防止剤、有機酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、高級アルコールの硫酸エステルなどの助燃剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などの帯電防止剤、アゾ染料などの着色剤を挙げることができる。
【0030】
特に、ETBE基材が酸化安定性に劣る場合、ガソリンへの混合量により酸化防止剤を適宜添加することが有効であり、欧州においては50質量ppm以上添加されている場合がある。また、ETBE基材にポリイソブチルアミンやポリエーテルアミン等の清浄剤を、ETBE基材のガソリン混合比率とガソリンの未洗実在ガム許容量に合わせて、0〜2000mg/Lの範囲で適宜添加することも有効である。さらにETBE基材の防錆性能を改善するために防錆剤や金属不活性剤を添加することも有効である。
【実施例】
【0031】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの例により何ら制限されるものではない。
【0032】
〔ETBE基材の調製〕
米国シェブロン化学製ETBE基材を原料にして精密蒸留分離(分離条件:理論段数15、塔頂温度73℃、圧力745〜750mmHg、還流比5)を行い、軽質分を30容量%、重質分を10容量%カットし、ETBE純度が99容量%以上の高純度ETBEを約55容量%得た。また、カットした軽質分のETBE純度は98容量%未満であり、実施例及び比較例のガソリン組成物の調製には、これにブラジル産バイオエタノールを2%添加したものを用いた。上述の高純度ETBE基材に、防錆性能が付与されている清浄剤(BASF社製AP114K)を100mg/L添加して、清浄剤添加高純度ETBEを調製した。各ETBE基材の諸特性を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
〔ガソリン組成物の調製〕
表2及び表3に示すガソリン基材(炭化水素基材)を用意し、表4及び表5の上部に示す混合割合(容量%)でブレンドして実施例、比較例となるガソリン組成物を調製した。なお、用いたガソリン基材は、次のように調製された。また、用いた防錆剤は、清浄剤とのパッケージ品として販売されているBASF社製のAP114Kを用い、その添加量を100mg/Lとした。
【0035】
C4:
いわゆるブタン留分であり、脱硫液化石油ガスを蒸留分離することにより炭素数4の炭化水素を95%以上含有し、ノルマルブタンを73容量%含有する留分を得た。
iC5:
イソペンタンを多く含む炭素数5が主体の留分であり、脱硫軽質ナフサ留分を蒸留分離することにより、純度95%以上の炭素数5の成分を得た。
DS−LG:
脱硫直留軽質ナフサであり、中東系原油のナフサ留分を水素化脱硫後、その軽質分を蒸留分離することにより得た。
ALKG:
アルキレートガソリンであり、ブチレンを主成分とする留分とイソブタンを主成分とする留分を硫酸触媒よりアルキル化反応させて、イソパラフィン分の高い炭化水素を得た。
FCCG:
流動接触分解ガソリンであり、脱硫軽油および脱硫重油を固体触媒により流動床式反応装置を用いて分解した後、オレフィン水添を抑制しながら選択的水素化脱硫を行い、スイートニングして、オレフィン分が高く硫黄分が低い炭化水素(FCCG)を得た。
FCCG−1:
前述のFCCGを軽質留分40容量%、中質留分25容量%、重質留分35容量%に分留し、得られた軽質留分と重質留分を混合し、FCCG−1を得た。
FCCG−2:
FCCG−1と同様に、前述のFCCGを軽質留分50容量%、中質留分27容量%、重質留分23容量%に分留し、得られた軽質留分と重質留分を混合し、FCCG−2を得た。
TOL:
純度が99.5容量%のトルエンである。前記脱硫直留軽質ナフサ(DS−LG)を得る際に、脱硫後、重質留分(脱硫重質ナフサ)が蒸留分離される。この脱硫重質ナフサを固体触媒により移動床式反応装置を用いて改質反応させることにより、芳香族分の高い炭化水素、すなわち改質ガソリンを得た。これからスルフォラン溶剤を用いて芳香族分を抽出し、その後抽出した芳香族分を蒸留分離することによりトルエンを99.5容量%含有する留分を得た。
AC9:
重質改質ガソリンであり、前記のよう調製された改質ガソリンの蒸留分離において、炭素数11以上の炭化水素が5容量%以下、炭素数9及び10の炭化水素が90容量%以上含有される留分(AC9)を得た。炭素数9の芳香族炭化水素の含有量は、90容量%である。
エタノール:
ブラジル産バイオエタノールである。エタノール純度が99.0%で水分を5,800質量ppm含有する。
【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
表4及び5の下部に、試作・調製した実施例及び比較例のガソリン組成物の物性及び性能の評価試験結果を示す。
表1〜表5に示すETBE基材、ガソリン基材及び実施例、比較例のガソリン組成物の性状は、次の方法により測定した。
蒸留性状:JIS K 2254「石油製品−蒸留試験法」
蒸気圧(RVP):JIS K 2258「原油及び燃料油−蒸気圧試験方法−リード法」
オクタン価(RON):JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」のリサーチ法オクタン価試験方法
硫黄分:JIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」の紫外蛍光法(ASTM D 5453(紫外蛍光法))に準拠して、小数点以下1桁まで求めた。
窒素分:JIS K 2606「窒素分試験方法(化学発光法)
密度:JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法」
水分:カールフィッシャー法により測定した。
【0041】
オレフィン、芳香族、ノルマルパラフィン(n-C5〜n-C10)、ベンゼン、炭素数7、9の芳香族(トルエン、AC7、AC9)、炭化水素化合物の含有量:JIS K 2536「石油製品−成分試験方法」のガスクロマトグラフィー法により次の条件下に測定した。
[カラム槽条件]
材質:メチルシリコーン
初期温度5℃、保持時間10分、昇温速度2℃/分、最終温度140℃
ガス条件:流速2mL/分、スプリット比50:1、メークアップ量50mL/分、
試料注入量:0.5μL
ジエン価:UOP法326−82に従い、試料100gと反応する無水マレイン酸と当量のヨウ素のグラム数を求めた。ジエン価により検出される化合物はともに接触分解ガソリン及び熱分解ガソリンに多く含まれ、特有の臭気をもつ他、特にジエン価が高い場合はガソリンの酸化安定性を悪化させる。
【0042】
ETBE含有量及び炭素数2以上のアルコール、エーテルなどの不純物含有量:GC−MS、GC−FIDにより測定した。測定条件は次の通りである。
[GC−MS測定条件]
GC装置:Agilent社製 5973N型 四重極質量分析計
カラム:Agilent社製 HP-5MS 0.25mm i.d.*30m, df=0.25μm
カラムオーブン温度:40℃で10分保持、10℃/分で昇温し、300℃で15分保持
注入口温度:290℃、インターフェイス温度:290℃
注入方法:スプリット(50:1)注入量:0.1μL
カラム流量:0.7mL/分(ヘリウム)
[GC−FID測定条件]
GC装置:Hewlett Packard社製 6890型 FID検出器付GC
カラム:Spelco社製 PTE-5 0.25mm i.d.*30m, df=0.25μm
カラムオーブン温度:40℃で10分保持、10℃/分で昇温し、300℃で15分保持
注入口温度:290℃、
インターフェイス温度:300℃
注入方法:スプリット(50:1)注入量:0.5μl
カラム流量:0.7mL/分(ヘリウム)
FID検出器:水素40mL、空気450mL、メークアップヘリウム及びキャリアー45mL
【0043】
〔銀板腐食試験〕
JIS K 2513「石油製品−銅板腐食試験方法:対応(ASTM D130)」のボンベ法(ジェット燃料)で銅板の代わりにJIS K2276「石油製品−航空燃料油試験方法」の「14.銀板腐食試験方法」に用いる銀板を使用して評価した。試験温度は50℃、試験時間は3時間である。
【0044】
〔防錆性能試験〕
ガラス容器中に、試料300mLと精製水30mLを導入し混合溶液とし、鋼製丸棒試験片(鋼板)を浸漬させ、混合溶液を40℃、4時間、1000rpmで撹拌後、試験片の腐食度合いを評価した。試験に用いた鋼製丸棒試験片は、JIS K2510に定められるJIS G3108のSGD 3M 13φ×68mmの炭素鋼鋼材である。腐食度合いを評価する基準を表6に示す。
【0045】
【表6】

【0046】
〔加速性能試験〕
実施例1〜5、及び比較例1、2のガソリンを用いてシャシダイナモ装置を用い、排気量が1500cc、燃料供給方式がMPIの試験車による加速性能試験を実施した。試験は、車両を冷機(25℃)状態に保持した後、自動運転装置(堀場製作所製、ADS7000)によりアクセル開度を50%上限としてアクセル開度上限まで一気に加速した時に、初速0から50(km/時間)の車速に到達するまでの時間により測定した。その結果を、実施例2を使用したときの到達時間を基準として、それとの相対的な加速時間の差異(加速時間低減率)で比較した。その結果を表4〜5に併せて示す。供試ガソリンの加速時間低減率は、次式により求めた。
加速時間低減率(%)=(実施例2の到達時間−供試ガソリンの到達時間)÷(実施例2の到達時間)×100
【0047】
表1から高純度ETBE基材は、原料の米国シェブロン化学性ETBEに比較して、酸素を含まない炭素数4以下の炭化水素化合物含有量が減少し、蒸気圧が低減し、また酸素を含まない炭素数8以上の炭化水素化合物含有量が減少し、蒸留性状の終点が低下していることがわかる。また、この高純度ETBEに防錆剤を含有する清浄剤を添加することで、防錆性能が改善している。
表4及び表5から、比較例1は実施例1、2と同様に防錆性能は良好であるが、運転性指数Aが大きいことから、加速時間増加率が大きく、冷機時運転性が悪化している。比較例2では運転性指数Aが小さいことから、加速時間増加率が小さく、冷機時運転性は良好であるが、炭素数7の芳香族炭化水素含有量が多く、炭素数9の芳香族炭化水素含有量に対する炭素数7の芳香族炭化水素含有量の比が高いことから、防錆性試験(特に鋼板)が悪化している。また、実施例3〜5では、冷機時運転性及び防錆性試験ともに良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチルターシャリブチルエーテル含有量が1〜20容量%であり、炭素数7の芳香族炭化水素含有量が3.0容量%以下であり、(炭素数9の芳香族炭化水素含有量)/(炭素数7の芳香族炭化水素含有量)比(容量比)が3以上であり、かつ、次式で表される運転性指数Aが1020以下であることを特徴とするエチルターシャリブチルエーテル含有ガソリン組成物、
A=5×(T10)+6×(T50)+(T70)+30×(OX)
(ここで、T10は10%留出温度(℃)、T50は50%留出温度(℃)、T70は70%留出温度(℃)、OXは酸素分(質量%)を示す。)
【請求項2】
硫黄分が10質量ppm以下、(エタノール含有量)/(エチルターシャリブチルエーテル含有量)比(容量比)が0.001〜0.010であり、かつ、リサーチ法オクタン価が91〜98である請求項1に記載のエチルターシャリブチルエーテル含有ガソリン組成物。
【請求項3】
(ターシャリブチルアルコール含有量)/(エチルターシャリブチルエーテル含有量)比(容量比)が0.004〜0.010である請求項1又は2に記載のエチルターシャリブチルエーテル含有ガソリン組成物。
【請求項4】
防錆剤を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のエチルターシャリブチルエーテル含有ガソリン組成物。
【請求項5】
接触分解ガソリンから得た、(n-ヘプタン含有量+n-オクタン含有量)/(n-ノナン含有量+n-デカン含有量)比(容量比)が3以下であり、かつ(n-ヘプタン含有量+n-オクタン含有量)/(n-ペンタン含有量+n-ヘキサン含有量)比(容量比)が0.5以下である接触分解ガソリン基材を50〜80容量%含む請求項1〜4のいずれかに記載のエチルターシャリブチルエーテル含有ガソリン組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のエチルターシャリブチルエーテル含有ガソリン組成物の製造方法であって、炭化水素基材とエチルターシャリブチルエーテル基材を配合するエチルターシャリブチルエーテル含有ガソリン組成物の製造方法。
【請求項7】
純度が90〜98容量%のエチルターシャリブチルエーテルを蒸留分離して、純度99容量%以上の高純度エチルターシャリブチルエーテルと純度98容量%未満の低純度エチルターシャリブチルエーテルを得、該低純度エチルターシャリブチルエーテルをエチルターシャリブチルエーテル基材として用いることを特徴とする請求項6記載のエチルターシャリブチルエーテル含有ガソリン組成物の製造方法。


【公開番号】特開2007−126504(P2007−126504A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318358(P2005−318358)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】