説明

ErbB2の結晶構造及びその使用

さらに詳細には、本発明はErbB2又はその変異体の結晶構造、具体的にはErbB2又はその変異体の細胞外部分の結晶構造に関し、かつErbB2又はその変異体と相互作用する化合物のスクリーニング及び設計にその結晶及び関係する構造情報を使用する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ErbB2の構造研究に一般に関する。さらに詳細には、本発明は、ErbB2若しくはそのバリアントの結晶構造、具体的にはErbB2若しくはそのバリアントの細胞外部分の結晶構造に関し、かつErbB2若しくはそのバリアントと相互作用するか、又はそれをモジュレートする化合物のスクリーニング及び設計にその結晶及び関係する構造情報を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ErbB2はラット脳腫瘍における癌遺伝子(neu)として発見された(Schecterら、1984、Nature 312、513〜516頁)。ErbB2/HER2はEGF受容体と密接に関係し、EGFRファミリーのうち最も腫瘍形成性の大きいメンバーである。これはヒト乳癌の約30%及び他の多くの種類のヒト悪性疾患で増幅及び/又は過剰発現し、この過剰発現は臨床的予後不良と相関している(Mendelsohn及びBaselga、2000、Oncogene 19、6550〜6565頁;Yu及びHung、2000、Oncogene 19、6115〜6121頁参照)。 ErbB2の過剰発現は、癌細胞の浸潤、血管形成及び生存の増加のような転移に関係する性質を増強し、化学療法及びガンマ線照射を含めた多様な癌治療に対する耐性の増加を付与する(Mendelsohn及びBaselga、2000;Yu及びHung、2000参照)。一部の種類の乳癌はErbB2を認識する抗体で現在治療されており、抗ErbB2療法の改良はErbB2の3D構造とその作用機作をさらに十分に理解することから生じると予想される。
【0003】
かなりの資源がErbB2リガンドの同定に向けられた。リガンドは見つからなかったが、ErbB2の検索はErbB4の発見をもたらし、EGF受容体ファミリーについての我々の生物学的理解をかなり向上させた(Harari及びYarden、2000、Oncogene 19、6102〜6114頁;Yarden及びSliwkowski、2001、Nat. Rev. Mol. Cell. Biol. 2、127〜137頁)。現在、ErbB2はリガンドを有さないことが確実であるとみなされている。その代わりにErbB2はEGF受容体ファミリーの3つのヘテロ二量体ErbBl-ErbB2、ErbB3-ErbB2及びErbB4-ErbB2における受容体の第二サブユニットとして働く(Dalyら、1997、Cancer Res.57、3804-3811頁;Sundaresanら、1998、Endocrinol.139、4756〜4764頁)。EGF受容体ホモ二量体がEGF受容体-ErbB2ヘテロ二量体とは異なるシグナル伝達を行うという明らかな証拠がある。ErbB2がc-neuでのように腫瘍形成性突然変異を有する場合を除いて、EGF又は他の関連するリガンドによるヘテロ二量体パートナーの活性化後に初めてシグナルを伝達する。
【0004】
ヒトErbB2は、細胞外ドメイン、単一の膜貫通領域及び非触媒性調節領域に隣接する細胞内細胞質チロシンキナーゼを有する、分子量の大きい(残基1234個)単量体性モジュール糖タンパク質である(Yamamotoら、1986、Nature 319、230〜234頁)。EGFRと同様にヒトErbB2の細胞外部分(残基1〜632)は4つのサブドメインL1,、CR1、L2及びCR2から成り(Bajajら、1987、Biochim. Biophys. Acta 916、220〜226頁;Wardら、1995、Proteins:Struct. Funct. Genet.22、141〜153頁)、それらのサブドメインはドメインI〜IVとも呼ばれる(Laxら、1988、Mol. Cell. Biol.8、1970〜1978頁)。
【特許文献1】US5,891,418
【非特許文献1】Schecterら、1984、Nature 312、513〜516頁
【非特許文献2】Mendelsohn及びBaselga、2000、Oncogene 19、6550〜6565頁
【非特許文献3】Yu及びHung、2000、Oncogene 19、6115〜6121頁
【非特許文献4】Harari及びYarden、2000、Oncogene 19、6102〜6114頁
【非特許文献5】Yarden及びSliwkowski、2001、Nat. Rev. Mol. Cell. Biol. 2、127〜137頁
【非特許文献6】Dalyら、1997、Cancer Res.57、3804-3811頁
【非特許文献7】Sundaresanら、1998、Endocrinol.139、4756〜4764頁
【非特許文献8】Yamamotoら、1986、Nature 319、230〜234頁
【非特許文献9】Bajajら、1987、Biochim. Biophys. Acta 916、220〜226頁
【非特許文献10】Wardら、1995、Proteins:Struct. Funct. Genet.22、141〜153頁
【非特許文献11】Laxら、1988、Mol. Cell. Biol.8、1970〜1978頁
【非特許文献12】Garrettら、2002、Cell 110、763〜773頁
【非特許文献13】Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版(2001)Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、ニューヨーク
【非特許文献14】Ausubelら、Short Protocols in Molecular Biology(1999)第4版、John Wiley&Sons社
【非特許文献15】Current Protocols in Molecular Biology
【非特許文献16】Sali及びBlundell、1993、J.Mol.Biol.、234巻:779〜815頁
【非特許文献17】Guida,W.C.(1994)「Software For Structure-Based Drug Design」 Curr.Opin.Struct.Biology 4:777〜781頁
【非特許文献18】S. J. Weiner、P.A.Kollman、D.A.Case、U.C.Singh、C.Ghio、G.Alagona、及びP.Weiner、J.Am.Chem.Soc.106巻、765〜784頁(1984)
【非特許文献19】B.R.Brooks、R.E.Bruccoleri、B.D.Olafson、D.J.States、S Swaminathan、及びM.Karplus、J.Comp.Chem.4巻、187〜217頁(1983)
【非特許文献20】Goodford,P. J.、「A Computational Procedure for Determining Energetically Favorable Binding Sites on Biologically Important Macromolecules」、J. Med. Chem.、28、849〜857頁(1985)
【非特許文献21】Miranker,A.及びM.Karplus、「Functionality Maps of Binding Sites:A Multiple Copy Simultaneous Search Method」Proteins:Structure,Function and Genetics、11、29〜34頁(1991)
【非特許文献22】Goodsell,D. S.及びA. J. Olsen、「Automated Docking of Substrates to Proteins by Simulated Annealing」、Proteins:Structure,Function, and Genetics、8、195〜202頁(1990)
【非特許文献23】Kuntz,I.D.ら、「A Geometric Approach to Macromolecule-Ligand Interactions」、J. Mol. Biol.、161、269〜288頁(1982)
【非特許文献24】Bartlettら、「CAVEAT:A Program to Facilitate the Structure-Derived Design of Biologically Active Molecules」、「Molecular Recognition in Chemical and Biological Problems」から、特別出版、Royal Chem.Soc.、78、182〜196頁(1989)
【非特許文献25】Martin、「3D Database Searching in Drug Design」、J.Med.Chem.、35、2145〜2154頁(1992)
【非特許文献26】Cohenら、「Molecular Modeling Software and Methods for Medicinal Chemistry」、J. Med. Chem.、33、883〜894頁(1990)
【非特許文献27】Navia及びMurcko、「The Use of Structural Information in Drug Design」、Current Opinions in Structural Biology、2、202〜210頁(1992)
【非特許文献28】Kuntzら、1982、J. Mol. Biol.161:269
【非特許文献29】Ewingら、2001,J.Comput-Aid.Mol.Design15:411
【非特許文献30】Bohm及びStahl、1999、M.Med.Chem.Res.9:445
【非特許文献31】Rarey, M.ら、J.Mol.Biol.1996、261:470
【非特許文献32】Goodford、1985、J.Med.Chem.28:849
【非特許文献33】Debら、2001、J Biol Chem 276:15554〜15560頁
【非特許文献34】Berezovら、2001、J. Med. Chem.44:2565〜2574頁
【非特許文献35】Agus、D.B.ら、Cancer Cell 2:127〜137頁
【非特許文献36】Waddleton, D.ら、Anal.Biochem.309:150〜157頁、2002
【非特許文献37】Jones,J.T.ら、FEBS Lett.447:227〜231頁、1999
【非特許文献38】Berezov, A.ら、J.Biol.Chem.277:28330〜28339頁(2002)
【非特許文献39】Brunger、Meth.Enzym.、276巻、558〜580頁、1997
【非特許文献40】Navaza及びSaludjian、Meth.Enzym.、276巻、581〜594頁、1997
【非特許文献41】Tong及びRossmann、Meth.Enzym.、276巻、594〜611頁、1997
【非特許文献42】Bentley、Meth.Enzym.、276巻611〜619頁、1997)
【非特許文献43】Lattman、「Use of the Rotation and Translation Functions」、Meth.Enzymol.より、115、55〜77頁(1985)
【非特許文献44】Rossmann編、「The Molecular Replacement Method」、Int.Sci.Rev.Ser.、13号、Gordon & Breach、ニューヨーク(1972)
【非特許文献45】Jones,T.A.、Zou,J.Y.、Cowan,S.W.、及びKjeldgaard(1991)「Improved methods for binding protein models in electron density maps and the location of errors in these models」Acta Crystallogr.A47、110〜119頁
【非特許文献46】Brunger,A.T.、Adams,P.D.,Clore,G.M.,DeLano,W.L.、Gros,P.、Grosse-Kunstleve,R.W.、Jiang,J.S.、Kuszewski,I.、Nilges,M.、Pannu,N.S.ら(1998)「Crystallography and NMR system:a new software suite for macromolecular structure determination」Acta Crystallogr.D Biol.Crystallogr.54、905〜921頁)
【非特許文献47】Meth.Enzymol.、114及び115巻、H.W.Wyckoffら編、Academic Press(1985)
【非特許文献48】Stanley、1989、Mol. Cell Biol.9:377〜383頁
【非特許文献49】Blundel,T. L.及びN. L.Johnson、Protein Crystallography、Academic Press(1976)
【非特許文献50】Cho,H.S.及びLeahy,D.J.、Science297、1330〜1333頁(2002)
【非特許文献51】Fergusonら、Molecular Cell、11巻、507〜517頁、(2003)
【非特許文献52】Garrettら、Molecular Cell、11巻、495〜505頁
【非特許文献53】Hrubyら、「Applications of Synthetic Peptides」、Synthetic Peptides:A User's Guideより:259〜345頁(W.H.Freeman & Co.1992)
【非特許文献54】Wood及びWetzel、1992、Int'l J.Peptide Protein Res.39:533〜39頁
【非特許文献55】Burgess及びLeach、1973、Biopolymers 12(12):2691-2712頁
【非特許文献56】Burgess及びLeach、1973、Biopolymers 12(11):2599〜2605頁
【非特許文献57】O'Donohueら、1995、Protein Sci.4(10):2191〜2202頁
【非特許文献58】Brizzardら、1994、Biotechniques 16、730〜735頁
【非特許文献59】Bebbington及びHentschel、1987、DNA Cloningより(Glover, D.編)、III巻、163〜188頁、IRL Press、オックスフォード、イギリス
【非特許文献60】Jancarik及びKim、1991、J.Appl.Cryst.24、409〜411頁
【非特許文献61】Brungerら、1998、Acta Crystallogr. D Biol Crystallogr.54、905〜921頁
【非特許文献62】Ogisoら、2002、Cell 110、775〜787頁
【非特許文献63】Garrettら、1998、Nature 394、395〜399頁
【非特許文献64】Kohdaら、1993、J.Biol.Chem.268、1976〜1981頁
【非特許文献65】Yip YL、Smith G、Koch J、Dubel S、Ward RL.「Identification of epitope regions recognized by tumor inhibitory and stimulatory anti-ErbB-2 monoclonal antibodies: implications for vaccine design」J hnmunol:166(8):5271〜8、(2001)
【非特許文献66】Orlandi R、Formantici C、Menard S、Boyer CM、Wiener JR、Colnaghi M.「A linear region of a monoclonal antibody conformational epitope mapped on p185HER2 oncoprotein.」J. Biol Chem.378(11):1387〜92頁、(1997)
【非特許文献67】Ullrichら、1984、Nature 309、418〜425頁
【非特許文献68】Krausら、1989、Proc Natl Acad Sci USA.86、9193〜9197頁
【非特許文献69】Plowmanら、1990、Proc.Natl Acad.Sci.USA.87、4905〜4909頁
【非特許文献70】Plowmanら、1993、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.90、1746〜1750頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
我々は、受容体型チロシンキナーゼErbB2のエクトドメインの短縮形(残基1〜509)の三次元構造を分解能2.5Åで決定し、最近解明されたTGFα又はEGFを伴うEGFRエクトドメイン及びリガンドが結合していないErbB3エクトドメインの構造とそれを比較した。ErbB2にリガンドの結合が欠如していることは、ErbB2のL1及びL2ドメインにおけるアミノ酸の相違により起こると考えられる。さらに、第一富Cys領域(CR1)中のキンクがLドメイン同士をさらに近づけて横並びにし、EGFRのリガンド結合部位と類似したErbB2領域を塞ぐため、リガンドはここで観察されたErbB2のコンホメーションとは結合できないであろう。L1/L2に埋もれた面の範囲及びLドメインの界面における相補性の程度は、この「クローズド」形が生物学的に関連性があることを意味している。
【0006】
したがって、一態様において、本発明はErbB2の潜在的モジュレータ化合物を同定する方法を提供し、その方法は、
(a)
(i)別紙Iに示す原子座標を有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標を有する、ErbB2ポリペプチドのアミノ酸1〜509;又は
(ii) 別紙Iに示す原子座標の対応するサブセットを有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標の対応するサブセットを有する、前記アミノ酸のサブセット;
の三次元構造を提供すること;
(b)候補化合物の三次元構造を提供すること;
(c)工程(b)の三次元構造と工程(a)の三次元構造の領域との間の立体化学的相補性を評価すること;及び
(d)その立体化学的相補性に基づいて化合物を選択すること;
を含む。
【0007】
好ましい実施形態において、本方法はさらに、
(e)工程(a)の三次元構造に対する立体化学的相補性を有すると工程(c)で評価された候補化合物を合成又は獲得すること;
(f)その候補化合物がErbB2と相互作用し、かつ/又はその活性をモジュレートする能力を決定すること;
を含む。
【0008】
その上さらなる態様において、本発明はErbB2の異常なシグナル伝達に関連する疾患を治療するための医薬組成物の調製法を提供し、その方法は、
(a)
(i)別紙Iに示す原子座標を有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標を有するErbB2ポリペプチドのアミノ酸1〜509;又は
(ii)別紙Iに示す原子座標の対応するサブセットを有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標の対応するサブセットを有する、前記アミノ酸のサブセット;
の三次元構造を提供すること;
(b)候補化合物の三次元構造を提供すること;
(c)工程(b)の三次元構造と工程(a)の三次元構造の領域との間の立体化学的相補性を評価すること;
(d)その立体化学的相補性に基づいて化合物を選択すること;
(e)工程(a)の三次元構造に対する立体化学的相補性を有すると工程(c)で評価された候補化合物を合成又は獲得すること;
(f)その候補化合物がErbB2と相互作用し、かつ/又はその活性をモジュレートする能力を決定すること;及び
(g)医薬組成物にその化合物を混合すること;
を含む。
【0009】
この方法は標的スクリーニング又は広範なスクリーニングに使用できる。標的スクリーニングは、いくつかの活性化合物の類似体である化学化合物か、又は検討中の生物学的標的と特異的に作用できる化学化合物の設計と合成を必要とする。広範なスクリーニングは、最大限に多様な化学化合物の大きなアレイの設計と合成を必要とし、様々な生物学的標的に対して試験される多様なライブラリーをもたらす。
【0010】
さらなる態様において、本発明はErbB2をモジュレートする方法を提供し、その方法はCR1ドメインと、L1ドメイン、CR1ドメイン及びL2ドメインの間の潜在的CR1ループドッキング部位と、CR1-L2ヒンジ領域と、クローズドコンホメーションで互いに接するL1ドメイン及びL2ドメインの領域とのうちの少なくとも1つから選択される領域と合致する化合物と、その受容体とを接触させることを含む。
【0011】
その化合物は低分子モジュレータであり得る。「低分子」という用語は、研究室で合成されたか、又は自然界にみられる有機化合物を含む。概して、低分子は分子量約1500未満の任意の有機分子である。この分子は好ましくは分子量が約1000未満であり、さらに好ましくは約500未満である。
【0012】
本明細書において使用される「ErbB2」という用語は、野生型ErbB2、並びに対立遺伝子バリアント、天然突然変異体及び遺伝子操作されたバリアントを含めたそのバリアントを含む。
【0013】
本発明は、別紙Iに示す座標のセット若しくはそのサブセット、又はバックボーン原子も提供し(前記座標はErbB2ポリペプチドのアミノ酸1〜509若しくは前記アミノ酸のサブセットの三次元構造を規定する)、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する座標のセット若しくはそのサブセットも提供する。
【0014】
関連する態様において、本発明は分子又は分子複合体の三次元表示を製作するためのコンピュータを提供し、そのコンピュータは、
(a)
(i)別紙Iに示すErbB2ポリペプチドのアミノ酸1〜509の原子座標、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標;又は
(ii)別紙Iに示す原子座標の対応するサブセットを有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標の対応するサブセットを有する、前記アミノ酸のサブセットの原子座標;
を含む機械可読なデータをコードするデータ記憶物を有する機械可読なデータ記憶媒体、
(b)その機械可読なデータを処理するための命令を格納するワーキングメモリ、
(c)その機械可読なデータを三次元表示に処理するための、そのワーキングメモリ及びその機械可読なデータ記憶媒体に結合された中央処理装置、並びに
(d)その三次元表示を受信するための、その中央処理装置に結合された出力ハードウェア
を備える。
【0015】
好ましくは前記アミノ酸サブセットは、TGFα:sEGFR二量体複合体でみられるものと同等の、L1ドメイン、CR1ドメイン及びL2ドメインの間の潜在的CR1ループドッキング部位及びCR1ドメイン(Garrettら、2002、Cell 110、763〜773頁)から、又はCR1-L2ヒンジ領域若しくはこのクローズドコンホメーションで互いに接するL1ドメイン及びL2ドメインの領域から選択される。
【0016】
さらに好ましくはそのアミノ酸サブセットは、ホモ二量体接触面(homodimerisation surface)又は他のEGF受容体ファミリーのメンバーとのヘテロ二量体接触面を規定する。好ましいヘテロ二量体接触面には、(i)CR1ドメインのN末端(残基200〜203、210〜213、216〜218、225〜230)、(ii)CR1ドメインの二量体化ループ(残基247〜268)及び近隣残基(残基244〜246、285〜289)、並びに(iii)CR1ドメインのC末端(残基294〜319)がある。
【0017】
さらに好ましい実施形態において、アミノ酸サブセットは、Gln36、Gln60、Arg82、Thr84、Gln85、Phe237、Thr269、Phe270、Gly271、Ala272、Tyr282、Thr285、Gly288、Ser289、Cys290、Thr291、Leu292、Val293、Cys294、Pro295及びCys310である残基を含む。
【0018】
薬物設計に有用で、かつErbB2活性をモジュレートする候補化合物のin silicoでのスクリーニングに有用なモデルの開発にErbB2の三次元構造を使用できる。前記モデルの開発に、他の生理化学的性質(例えば結合、静電学など)も使用できる。
【0019】
一般的に、「in silico」という用語はコンピュータメモリにおける、すなわちシリコン又は他のチップ上での生成のことを呼ぶ。特に述べない場合は、「in silico」は「仮想」を意味する。本明細書において使用される場合、「in silico」という用語は、in vitro又はin vivo実験よりもむしろコンピュータモデルの使用に基づくスクリーニング法を呼ぶことを意図する。
【0020】
「モジュレート」は、化合物がErbB2を介したシグナル伝達を増加又は減少させることを意味する。「シグナル伝達を減少させる」という句は、ErbB2を介したシグナル伝達の部分的又は完全な阻害を包含することを意図する。本明細書において記載する、細胞に基づく任意のErbB2アッセイにより、候補化合物がErbB2を介したシグナル伝達を増加又は減少させる能力を評価できる。
【0021】
「低分子」という用語は、分子量1500以下の化合物を含む。好ましくは、低分子は分子量1000未満であり、特に好ましくは分子量500未満の分子である。
【0022】
したがって、その上さらなる態様において、本発明はコンピュータに基づいたErbB2の候補モジュレータを同定する方法を提供し、その方法は、
(i)別紙Iに示す原子座標を有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標を有するErbB2ポリペプチドのアミノ酸1〜509;又は
(ii) 別紙Iに示す原子座標の対応するサブセットを有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標の対応するサブセットを有する、前記アミノ酸のサブセット;
の構造を、候補モジュレータ分子の構造とフィッティングすることを含む。
【0023】
さらなる関係する態様において、本発明は、処理装置、入力デバイス、及び出力デバイスを備えるプログラムされたコンピュータを用いて、ErbB2と相互作用することによってこの受容体により仲介される活性をモジュレートできる候補化合物を同定するコンピュータ援用法を提供し、その方法は、
(a)別紙Iに示すErbB2のアミノ酸1〜509の原子座標、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標、又は前記座標のサブセットを含むデータを、プログラムされたコンピュータに入力デバイスを介して入力する工程;
(b)工程(a)で入力された原子座標に対する立体的相補性を有する構造の原子座標のセットをコンピュータ法を用いて作製することにより、基準データセットを作製する工程;
(c)処理装置を用いてその基準データセットを化学構造のコンピュータデータベースと比較する工程;
(d)コンピュータ法を用いて、前記基準データセットの一部分と類似した化学構造を、データベースから選択する工程; 及び
(e)その基準データセットの一部分に相補的又は類似している選択された化学構造を出力デバイスに出力する工程;
を含む。
【0024】
別の関係する態様において、本発明は化学物質がErbB2と相互作用する能力の評定法を提供し、前記方法は、
(a)構造座標を用いて、ErbB2の少なくとも1つの領域のコンピュータモデルを提供する工程(前記構造座標と、別紙Iに示すErbB2のアミノ酸1〜509の構造座標との間の二乗平均平方根偏差は1.5Åを超えない);
(b)コンピュータを利用した手段を採用して、化学物質と結合面の前記コンピュータモデルとの間のフィッティング演算を実行する工程;及び
(c)前記フィッティング演算の結果を分析して、化学物質と結合面モデルとの間の会合を定量する工;
を含む。
【0025】
このモデルは、例えば側鎖又は主鎖における小さな動きによるわずかな面の変化を考慮して、候補化合物とタンパク質との間の適合度を向上させるという意味で適応性であり得る。
【0026】
好ましくは、ErbB2の領域は、TGFα:sEGFR二量体複合体でみられるものと同等の、L1ドメイン、CR1ドメイン及びL2ドメインの間の潜在的CR1ループドッキング部位とCR1ドメイン (Garrettら、2002)により、又はCR1-L2ヒンジ領域若しくはこのクローズドコンホメーションで互いに接するL1ドメイン及びL2ドメインの領域、並びにその組み合わせにより規定される。
【0027】
さらに好ましくは、その領域は他のEGF受容体ファミリーのメンバーとヘテロ二量体接触面を規定する。好ましいヘテロ二量体接触面には、(i)CR1ドメインのN末端(残基200〜203、210〜213、216〜218、225〜230)、(ii)CR1ドメインの二量体化ループ(残基247〜268)及び近隣残基(残基244〜246、285〜289)並びに(iii)CR1ドメインのC末端(残基294〜319)がある。
【0028】
さらに好ましい実施形態では、その領域は、Gln36、Gln60、Arg82、Thr84、Gln85、Phe237、Thr269、Phe270、Gly271、Ala272、Tyr282、Thr285、Gly288、Ser289、Cys290、Thr291、Leu292、Val293、Cys294、Pro295及びCys310であるアミノ酸残基を含む。
【0029】
本明細書において提供されるErbB2の結晶構造は、分子置換を用いた新しい結晶構造のモデルリング/解明にも使用できる。したがって、さらなる態様において本発明は未知構造の分子又は分子複合体についての構造情報を得る分子置換の使用法を提供し、その方法は、
(i)前記分子又は分子複合体を結晶化する工程;
(ii)結晶化した前記分子又は分子複合体からX線回折パターンを作製する工程;及び
(iii)別紙Iに示す構造座標の少なくとも一部分、又はバックボーン原子を、別紙Iに示す構造座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する構造座標の少なくとも一部分を、X線回折パターンに適用し、構造が未知である分子又は分子複合体の少なくとも一部分の三次元電子密度マップを作製する工程;
を含む。
【0030】
好ましくは、未知構造の分子はErbB2又はそのバリアントである。
【0031】
一実施形態において、未知構造の分子複合体は、ErbB2又はそのバリアントと、リガンド又は候補リガンドとの複合体である。
【0032】
別の実施形態では、未知構造の分子複合体は、ErbB2とEGF受容体との複合体である。構造が未知である分子複合体は、ErbB2と、ErbB1(EGF受容体)、ErbB3又はErbB4受容体と、リガンド又は候補リガンドとの複合体でもあり得る。
【0033】
ErbB2シグナル伝達をモジュレートする化合物の同定に、本発明の第四の態様のスクリーニング法を使用してもよい。そのような化合物をErbB2の機能不全に関連した障害の治療に使用してもよい。
【0034】
したがって、さらなる態様において本発明はErbB2によるシグナル伝達に関連する疾患の予防法又は治療法を提供し、その方法は、それを必要とする対象に、本発明のスクリーニング法により同定された化合物を投与することを含む。
【0035】
本発明は、本発明のスクリーニング法により同定された化合物を含む医薬組成物及びErbB2によるシグナル伝達に関連する疾患の予防法又は治療法も提供し、その化合物はErbB2の細胞外ドメインと結合して前記受容体の活性をモジュレートでき、その予防法又は治療法はそれを必要とする対象に本発明の組成物を投与することを含む。
【0036】
その上さらなる態様において、本発明はErbB2ポリペプチドの結晶を提供する。具体的には、本発明は空間群P212121で単位胞の寸法がa=75.96Å、b=82.24Å及びc=110.06Åで、いずれの胞の辺も約1%以下の変動を有するErbB2ポリペプチドの結晶を提供する。好ましくは、前記ErbB2ポリペプチドは全長ErbB2を短縮した可溶性細胞外ドメインである。
【0037】
本発明はErbB2の結晶を含む結晶性組成物も提供する。
【0038】
さらなる態様において、本発明はErbB2の1つ又は複数の候補モジュレータを同定するためのコンピュータシステムを提供し、そのシステムは、
(i)別紙Iに示す原子座標を有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標を有する、ErbB2ポリペプチドのアミノ酸1〜509;又は
(ii) 別紙Iに示す原子座標の対応するサブセットを有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標の対応するサブセットを有する、前記アミノ酸のサブセット;
の構造を表示するデータを含む。
【0039】
本発明はErbB2結晶のモデル及び/又は原子座標を表示するデータを記録されたコンピュータ可読な媒体をさらに提供する。別紙Iにしたがう座標データ又はそのサブセットを記録されたコンピュータ可読な媒体も提供する(前記座標データとは、ErbB2ポリペプチドのアミノ酸1〜509又は前記アミノ酸のサブセットの三次元構造を規定し、又は、座標データは、バックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する座標データ、又はそのサブセットを有する)。
【0040】
ErbB2によるシグナル伝達に関連した特定の疾患には、脳、頭頚部、前立腺、精巣、卵巣、乳腺、子宮頚、肺、膵臓及び結腸の癌;並びに黒色腫、横紋筋肉腫、中皮腫、皮膚扁平上皮癌及び神経膠芽腫のような癌性状態がある。
【0041】
別紙Iに提供される情報は、ErbB2が二量体接触面の内側に多数のループ構造があることを示している。これらのループ構造に対する抗体は、他のEGF受容体ファミリーのメンバーとのヘテロ二量体の形成を妨害するであろうと考えられる。
【0042】
したがって、さらなる態様において本発明はErbB2と結合する抗体を提供し、その抗体は、(i)ErbB2のアミノ酸残基200〜203、(ii)ErbB2のアミノ酸残基210〜213、(iii)ErbB2のアミノ酸残基216〜218、(iv)ErbB2のアミノ酸残基225〜230、(v)ErbB2のアミノ酸残基247〜268若しくはそのサブセット、(vi)ErbB2のアミノ酸残基244〜246、(vii)ErbB2のアミノ酸残基285〜289、又は(viii)ErbB2のアミノ酸残基294〜319若しくはそのサブセットにより規定される構造に対する。
【0043】
その上さらなる態様において、本発明は、(i)ErbB2のアミノ酸残基200〜203、(ii)ErbB2のアミノ酸残基210〜213、(iii)ErbB2のアミノ酸残基216〜218、(iv)ErbB2のアミノ酸残基225〜230、(v)ErbB2のアミノ酸残基247〜268若しくはそのサブセット、(vi)ErbB2のアミノ酸残基244〜246、(vii)ErbB2のアミノ酸残基285〜289、又は(viii)ErbB2のアミノ酸残基294〜319若しくはそのサブセットから必須になる、コンホメーションが束縛された、単離されたペプチド又はペプチド模倣体を提供する。
【0044】
その上さらなる態様において、本発明は処理装置、データ記憶システム、入力デバイス、及び出力デバイスを備えたプログラムされたコンピュータを用いてErbB2の潜在的模倣体を同定するためのコンピュータ援用法を提供し、その方法は、
(a)別紙Iに示すようにErbB2のアミノ酸200〜203、210〜213、216〜218、225〜230、247〜268、244〜246、285〜289、若しくは294〜319の原子座標を含むデータ、又は別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えないバックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標を含むデータを、前記入力デバイスを介して、プログラムされたコンピュータに入力することにより基準データセットを作製する工程;
(b)前記処理装置を用いて、前記コンピュータのデータ記憶システムに格納された化学構造のコンピュータデータベースと前記基準データセットを比較する工程;
(c)コンピュータ法を用いて、前記基準データセットと構造的に類似した部分を有する化学構造を前記データベースから選択する工程;及び
(d)前記基準データセットと類似した部分を有する、選択された化学構造を前記出力デバイスに出力する工程;
を含む。
【0045】
その上さらなる態様において、本発明は処理装置、データ記憶システム、入力デバイス、及び出力デバイスを備えたプログラムされたコンピュータを用いて、ErbB2の潜在的模倣体を同定するためのコンピュータ援用法を提供し、その方法は、
(a)別紙Iに示すようなErbB2のアミノ酸200〜203、210〜213、216〜218、225〜230、247〜268、244〜246、285〜289、若しくは294〜319の原子座標を含むデータ、又はバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標を含むデータを、前記入力デバイスを介して、プログラムされたコンピュータに入力することにより基準データセットを作製する工程;
(b)コンピュータ法を用いて、前記基準データセットと構造的に類似した部分を有する化学構造のモデルを構築する工程;
(c)構築されたモデルを前記出力デバイスに出力する工程;
を含む。
【0046】
その上さらなる態様において、本発明は本発明の方法を用いて選択された化学構造を有するErbB2模倣体である化合物を提供する。好ましくは、その化合物はアミノ酸30個未満を、さらに好ましくはアミノ酸25個未満を有するペプチド模倣体である。
【0047】
当分野の技術者に容易に理解されるように、本発明の方法はErbB2と相互作用する抗体を含めた化合物を設計及び選択する合理的な方法を提供する。大多数の場合で、これらの化合物は活性を増加させるためにさらなる開発を必要とする。そのようなさらなる開発は当分野で通常の方法であり、本出願で提供される構造情報により支援される。特定の実施形態において、本発明の方法がそのようなさらなる開発工程を含むことを意図する。
【0048】
本発明の実施形態が薬剤の製造において医薬組成物にその化合物を混合するような製造工程を含むことも意図する。
【0049】
本明細書全体を通して、好ましい態様及び実施形態は、別々又は組み合わせで、そのこと自体明確に述べられようとなかろうと、必要な変更を加えて他の態様及び実施形態に妥当に当てはまる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
他に定義しない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、当分野(例えば分子生物学、生化学、構造生物学及び数理生物学)の当業者が通常理解するものと同じ意味をもつ。標準的な技術は分子法、生化学法(一般にSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版(2001)Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、ニューヨーク及びAusubelら、Short Protocols in Molecular Biology(1999)第4版、John Wiley&Sons社、並びにCurrent Protocols in Molecular Biologyという標題の完全版を参照のこと。これらは参照により本明細書に組み込まれている)及び化学法に使用される。
【0051】
本明細書全体を通して、「含む(comprise)」、又は「comprises」若しくは「comprising」のような変型は、述べられた要素、完全体若しくは工程の包含、又は要素、完全体若しくは工程の群の包含を示すと理解され、他のいかなる要素、完全体若しくは工程の除外、又は要素、完全体若しくは工程の群の除外を示すものではない。
【0052】
(ErbB2の結晶と結晶構造)
本発明はErbB2ポリペプチドを含む結晶を提供する。そのような結晶は、好ましくは空間群P212121で単位胞の寸法がa=75.96Å、b=82.24Å及びc=110.06Åである。
【0053】
本明細書において使用するように、「結晶」という用語は、(三次元(3D)固体凝集体のような)構造を意味し、その構造では平面が一定角度で交わり、構成化学種の(内部構造のような)規則性構造が存在する。よって、「結晶」という用語は、実験的に調製された結晶のような固体物理結晶形態、結晶構造に基づく3Dモデル、その概略表示又は図表示のようなその表示、コンピュータのためのそのデータセットのうちいずれか1つを含み得る。
【0054】
本発明にしたがう結晶を全長ErbB2ポリペプチドを用いて調製してもよい。しかし、単離には好ましくは細胞外ドメインが採用される。よって、好ましくはErbB2ポリペプチドは、細胞外ドメインを含み、膜貫通ドメイン及び細胞内チロシンキナーゼドメインを欠如する短縮ポリペプチドである。概して、細胞外ドメインはヒトErbB2の(成熟受容体の番号で)残基1から632、若しくはその等価物、又はアミノ酸1から509、若しくは他のErbB2ポリペプチドにおけるその等価残基を好ましくは有するその短縮版を含む。
【0055】
好ましい実施形態においてErbB2ポリペプチドはヒトErbB2(寄託番号A24571、成熟タンパク質は残基22から始まる)である。しかし、ErbB2ポリペプチドを他の哺乳動物種のような他の種からも得てもよい。
【0056】
野生型ErbB2ポリペプチド配列、又は対立遺伝子バリアント、天然突然変異及び遺伝子操作バリアントを含めたその変異体を用いて結晶を構築してもよい。概して、変異体は対応する野生型ErbB2ポリペプチドと少なくとも95又は98%の配列同一性を有する。
【0057】
任意選択でErbB2の結晶はErbB2と結合しているか、そうでなければ結晶に入り込んでいるか、又はErbB2と共結晶化している1つ又は複数の分子を含む場合がある。そのような分子にはリガンド又は低分子があり、それらは、ErbB2と、EGF受容体ファミリーの他のメンバーのようなその生物学的標的又は二量体のパートナーとの間の相互作用をモジュレートすることを意図される候補薬剤であり得る。ErbB2の結晶は、ErbB1(EGF受容体)、ErbB3又はErbB4のようなEGF受容体ファミリーの他の受容体との分子複合体でもあり得る。複合体はこれらの受容体のリガンドのような追加の分子も含み得る。
【0058】
ErbB2の結晶の製作について以下に記載する。
【0059】
好ましい実施形態において、本発明のErbB2結晶は別紙Iに示す原子座標を有する。当分野の技術者は、原子座標がそれから得られるモデルの正確さにあまり影響を与えずに変動し得ると理解しているため、本発明は好ましい原子構造の非常に精密な規定を提供するものの、小さな変動が考えられ、特許請求の範囲はそのような変動を包含することを意図されることが理解されよう。好ましいのは、水素原子以外の全てのバックボーン原子についてのx、y及びz座標のr.m.s.偏差が別紙Iに示された座標と比較して1.5Å未満(好ましくは1Å、0.7Å未満又は0.3Å未満)である変異体である。
【0060】
極めて好ましい実施形態において、結晶は別紙Iに示す原子座標を有する。
【0061】
本明細書において使用するように「原子座標」という用語は、軸系に関して1つ又は複数の原子の位置を規定する値のセットのことを呼ぶ。
【0062】
本発明はErbB2ポリペプチドの結晶構造、具体的にはErbB2ポリペプチドの細胞外ドメイン又はその領域の結晶構造も提供する。
【0063】
ヒトErbB2の(成熟受容体の番号で)アミノ酸1から509について実験的に得られた原子座標を別紙Iに示す。しかし、当分野の技術者は、X線結晶解析により決定された原子座標のセットは常に標準誤差を伴うことを認識している。したがって、別紙Iに列挙する原子座標と(バックボーン原子を用いて)重ね合わせた場合に0.75Å未満のバックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する、ErbB2ポリペプチドについての構造座標の任意のセットを同一とみなす。
【0064】
本発明は別紙Iに列挙した原子座標と実質的に一致するErbB2ポリペプチドの原子座標も含む。
【0065】
所定の原子座標のセットと「実質的に一致する」構造は、そのような構造の少なくとも約50%が、各ドメインでの二次構造要素中のバックボーン原子について約1.5Å未満の、さらに好ましくは各ドメインでの二次構造要素中のバックボーン原子について約1.3Å未満の、そして好ましさが増加する順に、各ドメインでの二次構造要素中のバックボーン原子について約1.0Å未満、約0.7Å未満、約0.5Å未満、そして最も好ましくは約0.3Å未満の二乗平均平方根偏差(RMSD)を有する構造である。
【0066】
さらに好ましい実施形態において、所定の原子座標と実質的に一致する構造は、そのような構造の少なくとも約75%が述べられた二乗平均平方根偏差(RMSD)値を、さらに好ましくはそのような構造の少なくとも約90%が述べられた二乗平均平方根偏差(RMSD)値を、そして最も好ましくはそのような構造の約100%が述べられた二乗平均平方根偏差(RMSD)値を有する構造である。
【0067】
その上さらに好ましい実施形態において、「実質的に一致する」の上記の定義をアミノ酸側鎖の原子を含むように広げることができる。本明細書において使用されるように、「共通のアミノ酸側鎖」という句は、所定の原子座標のセットと実質的に一致する構造と、そのような原子座標により実際に表示される構造との両方に共通であるアミノ酸側鎖のことを呼ぶ。
【0068】
本発明は、別紙Iに挙げた前記原子座標のサブセット、及びそれと実質的に一致するサブセットも提供する。好ましいサブセットは、TGFα:sEGFR二量体複合体でみられるものと同等の、L1ドメイン、CR1ドメイン及びL2ドメインの間の潜在的CR1ループドッキング部位とCR1ドメイン(Garrettら、2002)とから、又はCR1-L2ヒンジ領域若しくはこのクローズドコンホメーションで互いに接するL1ドメイン及びL2ドメインの領域から選択されるヒトErbB2細胞外ドメインの1つ又は複数の領域を規定する。特に好ましいサブセットはErbBl、ErbB3及び/又はErbB4のようなEGF受容体ファミリーの他のメンバーと共にErbB2のヘテロ二量体接触面を規定する。
【0069】
ポリペプチドについての構造座標のセットは、三次元での形状を規定する点の相対的なセットであると認識されている。よって、完全に異なる座標のセットが、類似する、又は同一の形状を規定することが可能である。さらに、個々の座標のわずかな変動は全体の形状にほとんど影響を及ぼさない。
【0070】
座標の変動は構造座標の数学的操作が原因で発生し得る。例えば、別紙Iに示す構造の座標を、構造座標の結晶学的置換、構造座標の分割、構造座標のセットへの整数の加減、構造座標の反転又はその任意の組み合わせにより操作できる。
【0071】
代わりに、アミノ酸の突然変異、付加、置換及び/若しくは欠失、又は結晶を構成する任意の構成要素における他の変化による結晶構造の変更も構造座標の変動の原因となり得る。
【0072】
分子複合体又はその一部分が上記のErbB2の細胞外ドメインの構造の全て又は部分に十分類似しているかどうかを決定するために、種々のコンピュータを利用した解析が使われた。そのような解析を分子類似性プログラムQUANTA(Molecular Simulations Inc.、サンディエゴ、カリフォルニア州)4.1版のような最新のソフトウェアアプリケーションで実施できる。
【0073】
分子類似性プログラムは種々の構造、同一構造の種々のコンホメーション及び同一構造の種々の部分の間の比較を可能にする。
【0074】
概して比較は、同等の原子の特定の対に関して適合度の二乗平均平方根差が絶対最小となるために必要とされる最適な並進と回転の計算を伴う。この数はオングストローム単位で示される。
【0075】
したがって、本発明の範囲に属するErbB2の構造座標には、全体の並進及び/又は回転により別紙Iに挙げる原子座標に関係する構造座標がある。したがって、上に挙げたr.m.s.偏差は、その構造の少なくともバックボーン原子が、最適に重ね合わされたことを仮定しており、最適な適合度を達成するにはバックボーン原子の並進及び/又は回転が必要な場合があり、最適な適合度からr.m.s.d.を計算する。
【0076】
特定のセットの原子座標と実質的に一致するErbB2タンパク質又はその領域の三次元構造を、Insight IIホモロジーソフトウェアパッケージ(Insight II(97.0)、MSI、サンディエゴ))において遂行されるMODELER(Sali及びBlundell、1993、J.Mol.Biol.、234巻:779〜815頁)のような適当なコンピュータモデリングプログラムによりモデリングできる。モデリングには、例えば、(1)ヒトErbB2タンパク質のアミノ酸配列、(2)三次元立体配置を有する特定のセットの原子座標により表示されるタンパク質の関係する部分のアミノ酸配列、及び(3)特定の三次元配置の原子座標のデータから得られる情報を使用する。特定のセットの原子座標と実質的に一致するErbB2タンパク質の三次元構造を、以下に詳細に記載する分子置換のような方法によっても計算できる。
【0077】
構造座標/原子座標は、その後のコンピュータによる操作のために機械可読な媒体に概してロードされる。よって、モデル及び/又は原子座標は、テープ、ディスク、ハードディスク、CD-ROM及びDVD、フラッシュメモリカード又はチップ、サーバ及びインターネットを含めた磁気媒体若しくは光学式媒体、及びランダムアクセスメモリ又は読み出し専用メモリのような機械可読な媒体に格納するのが有利である。機械は概してコンピュータである。
【0078】
構造座標/原子座標をコンピュータにおいて使用して、コンピュータによりディスプレイでき、かつ/又は電子ファイルに表示できるErbB2結晶の三次元構造の、例えば映像である表示を作製することができる。
【0079】
構造座標/原子座標及びそれから得られるモデルは、薬物発見及び他のタンパク質結晶のX線結晶解析のような様々な目的にも使用できる。
【0080】
(ErbB2と結合する化学物質の設計/選択)
様々な既知のモデリング法を使用すると、ErbB2の少なくとも一部に対するモデルの作製に本発明の結晶構造を使用できる。
【0081】
本明細書において使用するように、「モデリング」という用語には、原子の構造情報及び相互作用モデルに基づいた分子構造及び/又は機能の定量及び定性分析が含まれる。「モデリング」という用語には、従来の数値に基づく分子動力学及びエネルギー最小化モデル、インタラクティブコンピュータグラフィックモデル、修正分子力学モデル、距離幾何学法並びに他の構造に基づく束縛モデルがある。
【0082】
分子モデリング法をErbB2の原子座標に適用して、3Dモデルの範囲を得ることができ、かつモノクローナル抗体及び阻害性ペプチドの結合部位のような結合部位の構造を研究できる。
【0083】
ErbB2と結合でき、EGF受容体ファミリーの他のメンバーのような細胞外生物学的標的と、ErbB2が相互作用する能力をモジュレートできる(例えばErbB2がヘテロ二量体化する能力をモジュレートする)低分子及び高分子の化学物質のスクリーニング又は設計にもこれらの手法を使用できる。スクリーニングには固体3Dスクリーニング系又はコンピュータを利用したスクリーニング系を採用し得る。
【0084】
そのようなモデリング法は、ErbB2の特定の領域に対して立体化学的相補性を有する化学物質を設計又は選択することができる。
【0085】
「立体化学的相補性」は、化合物又はその一部分が受容体と結合する際に自由エネルギーの純減少を得るために、十分な数のエネルギー的に都合のよい接触を受容体と行うことを意味する。
【0086】
そのような立体化学的相補性は、別紙Iに示す座標により列挙されるような、受容体部位の溝の内側にある部位内表面残基と合致する分子の特徴である。「合致」は、同定された部分が、例えば水素結合を介して、又は(表面又は残基との)非共有結合性ファンデルワールス及びクーロン相互作用により表面残基と相互作用することを意味する。それらの相互作用は、溝内の分子の保持をエネルギー的に都合よくして、その部位内の分子の脱溶媒和作用を促進する。
【0087】
化合物の受容体部位に対するKdが10-4M未満、さらに好ましくは10-5M未満、さらに好ましくは10-6Mであるような立体化学的相補性が好ましい。最も好ましい実施形態においてKd値は10-8M未満であり、さらに好ましくは10-9M未満である。
【0088】
別紙Iに示す原子座標に位置するアミノ酸により特徴付けられる受容体部位の形状及び静電学的性質又は化学的性質と相補的である化学物質は、その受容体と結合でき、その結合が十分強力であると、その化学物質は他のEGF受容体のような生物学的標的分子とのErbB2の相互作用を実質的に妨げる。
【0089】
ErbB2と自然に相互作用する分子又は複合体の結合を阻害するためには、化学物質と受容体部位との間の相補性が、溝内側の全ての残基にまで及ぶ必要はないと認識されている。
【0090】
ErbB2の細胞外ドメインの領域に対して立体相補性を有する化学物質を同定するために多数の方法を使用できる。例として、機械可読な記憶媒体から作製した別紙IにおけるErbB2座標に基づくコンピュータスクリーン上の潜在的結合部位、例えば抗ErbB2抗体の結合部位を目視検査することによりそのプロセスを開始できる。代わりに、選択された断片又は化学物質を様々な配向に位置させるか、又は上に規定したようなErbB2の個々の結合部位内にドッキングさせる。十分に公知であり、当分野で入手できるモデリングソフトウェアを使用してもよい(Guida,W.C.(1994)「Software For Structure-Based Drug Design」 Curr.Opin.Struct.Biology 4:777〜781頁)。これらのソフトウェアにはQUANTA及びInsightII[Molecular Simulations,Inc.、サンディエゴ、カリフォルニア州、Pharmacopiea,Inc.の一部門、プリンストン、ニュージャージー州、1992]、SYBYL[Molecular Modeling Software、Tripos Associates,Inc.、セントルイス、ミズーリ州、1992]がある。このモデリング工程の後にAMBER [S. J. Weiner、P.A.Kollman、D.A.Case、U.C.Singh、C.Ghio、G.Alagona、及びP.Weiner、J.Am.Chem.Soc.106巻、765〜784頁(1984)]及びCHARMM[B.R.Brooks、R.E.Bruccoleri、B.D.Olafson、D.J.States、S Swaminathan、及びM.Karplus、J.Comp.Chem.4巻、187〜217頁(1983)]のような標準分子力学の力場を用いたエネルギー最小化を行ってもよい。さらに、本発明の結合部分を選択するプロセスを支援するさらに専門のコンピュータプログラムが多数ある。
【0091】
専門のコンピュータプログラムは、断片又は化学物質の選択プロセスにおいても支援できる。これらには、とりわけ以下が含まれる:
1. GRID(Goodford,P. J.、「A Computational Procedure for Determining Energetically Favorable Binding Sites on Biologically Important Macromolecules」、J. Med. Chem.、28、849〜857頁(1985))。GRIDはオックスフォード大学、オックスフォード、イギリスから入手できる。
2. MCSS(Miranker,A.及びM.Karplus、「Functionality Maps of Binding Sites:A Multiple Copy Simultaneous Search Method」Proteins:Structure,Function and Genetics、11、29〜34頁(1991))。MCSSはMolecular Simulations、バーリントン、マサチューセッツ州から入手できる。
3. AUTODOCK (Goodsell,D. S.及びA. J. Olsen、「Automated Docking of Substrates to Proteins by Simulated Annealing」、Proteins:Structure,Function, and Genetics、8、195〜202頁(1990))。AUTODOCKはScripps Research Institute、ラホーヤ、カリフォルニア州から入手できる。
4. DOCK(Kuntz,I.D.ら、「A Geometric Approach to Macromolecule-Ligand Interactions」、J. Mol. Biol.、161、269〜288頁(1982))。DOCKはカリフォルニア大学、サンフランシスコ、カリフォルニア州から入手できる。
【0092】
いったん適当な化学物質又は断片が選択されると、それらを単一化合物に組み立てることができる。一実施形態において、ErbB2の構造座標に関してコンピュータスクリーン上にディスプレイされた三次元画像上で互いに対する断片の関係を目視検査することによって組み立てに着手することができる。この後にQuanta又はSybylのようなソフトウェアを用いて手動によるモデル構築を行う。代わりに、標準化学幾何学を用いて断片を追加の原子と結びつけてもよい。
【0093】
上記の化学物質の評価プロセスを化学化合物に対して同様に実施してもよい。
【0094】
個々の化学物質又は断片を接続する上で当分野の技術者を援助する有用なプログラムには、以下がある:
1. CAVEAT(Bartlettら、「CAVEAT:A Program to Facilitate the Structure-Derived Design of Biologically Active Molecules」、「Molecular Recognition in Chemical and Biological Problems」から、特別出版、Royal Chem.Soc.、78、182〜196頁(1989))。CAVEATはカリフォルニア大学、バークレー、カリフォルニア州から入手できる。
2. MACCS-3D(MDL Information Systems、サンリアンドロ、カリフォルニア州)のような3Dデータベース系。この領域はMartin、「3D Database Searching in Drug Design」、J.Med.Chem.、35、2145〜2154頁(1992)に総説されている。
3. HOOK(Molecular Simulations、バーリントン、マサチューセッツ州から入手できる)。
【0095】
他の分子モデリング法も本発明にしたがって採用できる。例えば、Cohenら、「Molecular Modeling Software and Methods for Medicinal Chemistry」、J. Med. Chem.、33、883〜894頁(1990)を参照のこと。Navia及びMurcko、「The Use of Structural Information in Drug Design」、Current Opinions in Structural Biology、2、202〜210頁(1992)も参照のこと。
【0096】
本発明にしたがうと、ErbB2の立体化学を相補する分子の設計に、2つの好ましい取り組みがある。第一の取り組みは、幾何学の基準を独占的ではなく主として用いて、三次元構造データベースから分子をin silicoで受容体の部位に直接ドッキングさせて、その部位に対する特定の分子の適合度を評価することである。この取り組みでは、内部自由度の数(及び分子コンホメーション空間における対応する極小値)は2つの剛体の幾何学的(剛体球)相互作用のみを考慮することによって減少する。ここで、一方の剛体(活性部位)は、第二の剛体(相補的な分子)の結合部位を形成している「ポケット」又は「溝」を含んでいる。
【0097】
この取り組みはKuntzら、1982、J. Mol. Biol.161:269及びEwingら、2001,J.Comput-Aid.Mol.Design15:411に例証され、それらの内容は参照により本明細書に組み込まれている。リガンド設計のためのこれらのアルゴリズムはthe Regents of the University of Californiaが配布する市販のソフトウェアパッケージ、DOCK4.0版に実施され、その発売元が提供する「Overview of the DOCK program suite」という標題の文書にさらに記載されており、この文書の内容は参照により本明細書に組み込まれている。Kuntzのアルゴリズムに準じてErbB2上の部位により表示される腔の形状は種々の半径の一連の球の重複として規定される。ケンブリッジ大学(University Chemical Laboratory、レンズフィールドロード、ケンブリッジ、イギリス)が維持するCambridge Structural Database System、Research Collaboratory for Structural Bioinformatics(ラトガーズ大学、ニュージャージー州、米国)が維持するProtein Data Bank、LeadQuest(Tripos Associates,Inc.、セントルイス、ミズーリ州)、Available Chemicals Directory(Molecular Design Ltd.、サンリアンドロ、カリフォルニア州)、及びNCI database(National Cancer Institute、米国)のような、結晶学データの1つ又は複数の現存データベースから、このように規定された形状に近い分子を次に検索する。
【0098】
次に、幾何パラメータに基づいて同定された分子を修正して、水素結合、イオン相互作用及びファンデルワールス相互作用のような化学相補性と関連した基準を満たすようにすることができる。種々のスコアリング機能を採用してデータベースから最良の分子を等級付けし選択できる。例えば、Bohm及びStahl、1999、M.Med.Chem.Res.9:445を参照のこと。Tripos Associates,Inc.(セントルイス、ミズーリ州)が販売するソフトウェアパッケージFlexXはこの直接ドッキング法に使用できるもう1つのプログラムである(Rarey, M.ら、J.Mol.Biol.1996、261:470参照)。
【0099】
第二の好ましい取り組みは、活性部位内及びその周辺を試料位置として、活性部位とそれぞれの化学基(「プローブ」)の相互作用を評価することを必要とし、その相互作用によりエネルギー値のアレイが生じ、そのアレイから選ばれたエネルギーレベルの三次元等高線の面を描くことができる。化学プローブによるリガンド設計の取り組みは、例えばGoodford、1985、J.Med.Chem.28:849に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれている。この取り組みは、GRID(Molecular Discovery Ltd.、West Way House、エルムズパレード、オックスフォードOX-2 9LL、イギリスの製品)のようないくつかの市販のソフトウェアパッケージで実施されている。
【0100】
この取り組みに準じて、部位相補性分子の化学的必要条件を、例えば水、メチル基、アミン窒素、カルボキシル酸素又はヒドロキシルのような種々の化学プローブで活性部位を探索することによって最初に同定する。このように活性部位と各プローブとの間の相互作用に都合のよい部位を決定し、そのような部位の結果として生ずる三次元パターンから推定上の相補性分子を作製することができる。三次元データベースを検索して希望の薬理作用団(pharmacophore)のパターンを組み入れた分子を同定するプログラムによって、又は入力として都合のよい部位及びプローブを用い新規な(de novo)設計を実行するプログラムのどちらかによってこれを行ってもよい。薬理作用団の決定と設計に適したプログラムにはCATALYST (HypoGen又はHipHopを含む)(Molecular Simulations社)、並びにCERIUS2、DISCO(Abbott Laboratories、Abbott Park、イリノイ州)及びChemDBS-3D(Chemical Design Ltd.、オックスフォード、イギリス)がある。
【0101】
CATALYST(Molecular Simulations,Inc.)、MACCS-3D及びISIS/3D(Molecular Design Ltd.、サンリアンドロ、カリフォルニア州), ChemDBS-3D (Chemical Design Ltd.、オックスフォード、イギリス)、並びにSybyl/3DB Unity (Tripos Associates,Inc.、セントルイス、ミズーリ州)のようなプログラムを用いてin silicoで化合物ライブラリー/三次元データベースをスクリーニングするために、薬理作用団を使用できる。
【0102】
化学構造のデータベースは、Cambridge Crystallographic Data Centre(ケンブリッジ、イギリス)、Molecular Design, Ltd.,(サンリアンドロ、カリフォルニア州)、Tripos Associates, Inc.(セントルイス、ミズーリ州)、Chemical Abstracts Service(コロンブス、オハイオ州)、Available Chemical Directory(MDL Inc)、the Derwent World Drug Index(WDI)、 BioByteMasterFile、the National Cancer Institute database(NCI)、及びMaybridgeのカタログを含めた多数の情報源から入手できる。
【0103】
新規設計プログラムには、LUDI(Biosym Technologies Inc.、サンディエゴ、カリフォルニア州)、Leapfrog (Tripos Associates, Inc.)、Aladdin(Daylight Chemical Information Systems、アービン、カリフォルニア州)、及びLigBuilder(北京大学、中国)がある。
【0104】
いったん上記の方法により化学物質又は化合物が設計又は選択されると、その化学物質又は化合物がErbB2と結合する効率を検査し、コンピュータによる評定により最適化することができる。例えば、ErbB2結合化合物として機能すると設計又は選択された化合物も、天然ErbB2と結合する場合に、結合部位が占有するボリュームと重ならないボリュームを好ましくは出入りしなければならない。有効なErbB2結合化合物は、結合状態と遊離状態との間のエネルギーの差が比較的小さいこと(すなわち結合の変形エネルギーが小さいこと)を好ましくは実証されなければならない。よって、最も効率的なErbB2結合化合物は、約10kcal/molを超えない、好ましくは7kcal/molを超えない変形エネルギーを有するように好ましくは設計すべきである。ErbB2結合化合物は、全結合エネルギーが類似している1つを超えるコンホメーションでErbB2と相互作用する可能性がある。これらの場合では、結合の変形エネルギーは、遊離化合物のエネルギーと、タンパク質に化合物が結合した場合に観察されるコンホメーションの平均エネルギーとの差であると解釈される。
【0105】
ErbB2と結合するとして設計又は選択された化合物をコンピュータによりさらに最適化して、結合状態で標的タンパク質との静電反発相互作用を好ましくは欠くようにすることができる。
【0106】
このような非相補性(例えば静電)相互作用には反発性の電荷-電荷相互作用、双極子-双極子相互作用、及び電荷-双極子相互作用がある。特に、化合物がErbB2と結合した場合のその化合物とタンパク質との間の全ての静電相互作用の合計は、中性になり、好ましくは、結合のエンタルピーに対して好ましい貢献を行う。
【0107】
いったんErbB2結合化合物が上記のように最適に選択又は設計した後に、原子又は側基の一部に置換を行ってその化合物の結合特性を改善又は修正してもよい。一般に、最初の置換は保守的、すなわち置換後の基は本来の基とおよそ同じ大きさ、形状、疎水性及び電荷を有する。もちろん当分野でコンホメーションを変えることが知られている構成要素は避けるべきであると理解すべきである。次に、上に詳述するのと同じコンピュータ法によりそのように置換された化学化合物についてErbB2とフィッティングする効率を分析してもよい。
【0108】
化合物の変形エネルギー及び静電相互作用を評価する特定のコンピュータソフトウェアが当分野で入手できる。そのような用途のために設計されたプログラムの例には、Gaussian 92、改訂版 C(Frisch、Gaussian,Inc.、ピッツバーグ、ペンシルベニア州)、 AMBER第4.0版(Kollman、カリフォルニア大学サンフランシスコ校);QUANTA/CHARMM(Molecular Simulations,Inc.、バーリントン、マサチューセッツ州)、及びInsight II/Discover(Biosysm Technologies Inc.、サンディエゴ、カリフォルニア州)がある。
【0109】
このスクリーニング/設計法をハードウェア若しくはソフトウェア、又はその両方の組み合わせで実施してもよい。しかし、プログラムできるコンピュータ上で実行しているコンピュータプログラムにおいてこの方法を実施することが好ましい。ここで、各コンピュータは、処理装置、(揮発性メモリ及び不揮発性メモリ並びに/又は記憶素子を含めた)データ記憶システム、少なくとも1つの入力デバイス、及び少なくとも1つの出力デバイスを備えている。データの入力にプログラムコードを適用して上記の機能を実行し出力情報を作製する。出力情報を1つ又は複数の出力デバイスに既知の方法で適用する。コンピュータは例えばパーソナルコンピュータ、マイクロコンピュータ又は従来の設計のワークステーションであってもよい。
【0110】
各プログラムはコンピュータシステムと通信する高水準手続き型プログラミング言語又はオブジェクト指向プログラミング言語で実施されることが好ましい。しかし、望むならばそのプログラムをアセンブリ言語又は機械語で実施できる。いずれの場合も言語はコンパイラ言語又はインタープリタ言語であり得る。
【0111】
記憶媒体又はデバイスをコンピュータにより読み出し、本明細書において記載された手続きを実行する場合に、コンピュータを設定し稼働させるためにそのようなコンピュータプログラムのそれぞれは、プログラム可能型汎用又は専用コンピュータにより読み取り可能な記憶媒体又はデバイス(例えばROM又は磁気ディスク)に格納されることが好ましい。システムは、コンピュータプログラムで設定されたコンピュータ可読な記憶媒体として実施されるともみなされ得る。ここで、そのように設定された記憶媒体は、コンピュータを特定の予め規定された方法で稼働し、本明細書において記載された機能を実行する。
【0112】
本発明の方法により同定又は設計された化合物は、合成物又は天然物であり得、好ましくは合成物である。一実施形態では、本発明の方法により選択又は設計された合成化合物は、約5000又は1000ダルトン以下の分子量を好ましくは有する。本発明の方法により選択又は設計された化合物は生理的条件で好ましくは可溶性である。
【0113】
(結合と生体活性の確定)
本発明のin silicoでの方法にしたがって選択又は設計された化合物を、本明細書において記載されるようにErbB2との化合物の共結晶化及び構造決定によりErbB2との結合をさらに確定するために供してもよい。
【0114】
本発明の方法にしたがって設計又は選択された化合物を、多数のErbB2機能のin vitroアッセイ及びin vivoアッセイにより評価して、それらの化合物がErbB2の活性と相互作用してそれをモジュレートする能力を確定することが好ましい。例えば、化合物がErbB2と結合する能力及び/又はErbB1、ErbB3若しくはErbB4のようなEGF受容体ファミリーの他のメンバーと共にErbB2がヘテロ二量体化するのをモジュレートする、例えば妨害する能力を試験してもよい。
【0115】
適したアッセイには、Debら、2001、J Biol Chem 276:15554〜15560頁又はBerezovら、2001、J. Med. Chem.44:2565〜2574頁に記載されているようなin vitro結合アッセイ及びErbB2依存性増殖アッセイがある。
【0116】
適したアッセイの特定の例を下に述べる。
【0117】
(ErbB2と他のErbBファミリーのメンバーとの間のヘテロ二量体形成の阻害)
〈原理〉 ErB2は独自に、腫瘍形成を治療する主なターゲットであるが、ErbB2に関連する腫瘍促進活性の一部は、他のErbBファミリーのメンバーとのリガンド誘導性ヘテロ二量体形成に依存することが多いことが現在明らかとなっている。ErbB2に対するリガンドは知られてないが、他のErbBファミリーのメンバー(ErbB1、ErbB3及びErbB4)に対するリガンドの結合は、ErbB2とのヘテロ二量体化を引き起こす。よって、この会合を遮断する試薬、例えばErbB2特異的抗体2C4は、in vitroでリガンドが刺激する増殖及びin vivoの腫瘍異種移植を阻害する(Agus、D.B.ら、Cancer Cell 2:127〜137頁)。ヘテロ二量体化は、ErbB2キナーゼによる二量体化パートナーの交差リン酸化(cross-phosphorylation)を招く。具体的には、ErbB3が仲介するシグナル伝達はヘテロ二量体の形成を必要とする。それは、この特定のErbBファミリーのメンバーが機能的キナーゼを欠如しているからである。よって、ErbB2キナーゼをリガンドにより直接活性化することは不可能であるが、ヘテロ二量体化パートナーに特異的なリガンドを添加することにより、EGFRファミリーの1つ又は複数のメンバーと共にErbB2を同時発現する細胞におけるErbB2キナーゼの活性をモニターすることは可能である。
【0118】
〈方法〉 リガンドに誘導されるヘテロ二量体の形成の、細胞に基づいたアッセイにおいて、得られた値を使用してErbB2化合物/抗体の効力及び特異性を評価できる。以下のうち1つ又は複数によって活性を評価できる:
(i)標的細胞系、例えばMCF-7乳癌細胞におけるErbB2と、他のErbBファミリーのメンバーとのリガンド誘導性ヘテロ二量体化の阻害。細胞溶解物からのErbB2複合体の免疫沈降を受容体特異的抗体を用いて行うことができ、複合体内の他のErbB受容体及びその生物学的関連リガンドの有無を、電気泳動/他のErbB受容体に対する抗体を用いたウエスタンブロッティングにより分析することができる。
【0119】
(ii)リガンドにより活性化されたヘテロ二量体によるシグナル伝達経路の活性化の阻害。ErbB2との会合は、ErbBファミリー受容体の他のメンバーがリガンドの結合後に最大の細胞性応答を誘発するために重大であると思われる。キナーゼを欠損しているErbB3の場合、ErbB2は増殖因子のリガンドが結合した後に機能的チロシンキナーゼドメインを提供してシグナル伝達が起こることを可能にする。よって、ErbB2及びErbB3を同時発現する細胞を、阻害薬の非存在下及び存在下でリガンド、例えばヘレグリンで処理し、処理された細胞溶解物からのErbB3の免疫沈降、及びそれに続く抗ホスホチロシン抗体を用いたウエスタンブロットを含めた多数の方法により、ErbB3チロシンリン酸化に及ぼす作用をモニターできる(Agus、詳細は上記参照)。代わりに、抗ErbB3受容体抗体をコートした96穴プレートの穴の表面に、可溶化した溶解物に由来するErbB3をトラップし、Waddleton, D.ら、Anal.Biochem.309:150〜157頁、2002で実施されたように例えばユウロピウム標識抗ホスホチロシン抗体を用いてチロシンリン酸化レベルを測定することにより、ハイスループットアッセイを開発できる。
【0120】
この取り組みをさらに拡張すると、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)及びAktのような活性化受容体ヘテロ二量体の活性化された下流にあることが知られているエフェクター分子を、処理された溶解物の免疫沈降及びこれらのタンパク質の活性化型を検出する抗体を用いたブロッティングにより、又はこれらのタンパク質が特異的基質を修飾/活性化する能力を分析することにより直接分析できる。
【0121】
(iii)リガンドが誘導する細胞増殖の阻害。様々な細胞系、例えば乳癌及び前立腺癌細胞系の多くは、ErbB受容体の組み合わせを同時発現することが知られている。DNA合成(トリチウムチミジンの取り込み)、細胞数の増加(クリスタルバイオレット染色)などを用いて24/48/96穴形式でアッセイを行うことができる。しかし、そのような細胞系でErbB1又はErbB4が同時発現していることは、ErbB1又はErbB4ホモ二量体のどちらのシグナル伝達がリガンドに対する増殖応答を担っているかを決定することが困難であることを意味する。
【0122】
候補化合物がErbB2活性と相互作用しそれをモジュレートする能力を確定するために使用できる、ErbB2のシグナル伝達活性をモニターするための新しい半自動アッセイ系が開発された。このアッセイはErbBファミリーの受容体のヘテロ二量体化特性を利用している。我々は、ErbBファミリーのどのメンバーも通常は発現せず、IL-3に依存して野生型ErbB2及びキナーゼを欠損している(しかしながらリガンド応答性の)ErbB-1変異体(EGFR-K721R)を同時発現するBaF/3細胞系を創出した。細胞にEGF(又は他のErbB1リガンド)を曝露すると、ヘテロ二量体の形成が起こり、ErbB2キナーゼによるキナーゼ欠損ErbB1のリン酸化、受容体下流のシグナル伝達経路の開始、及びついにはDNA合成が生じる。この実験系において、シグナル伝達はリガンドに厳密に依存するが、ErbB2キナーゼに完全に仲介され、ErbB2のヘテロ二量体化の阻害薬の特異的で高感度のアッセイをもたらす。EGF非存在下でのIL-3に対する細胞の応答性を試験することにより、試験する試料の非特異的な毒性を並行して評価する。
【0123】
〈方法〉 EGFR-K721R及び全長の野生型ErbB2を同時発現するBaF/3細胞を、IL-3を含むRPMI/10%FCSで通常の方法で増殖させる。アッセイ前に、細胞を3回洗浄して残ったIL-3を除き、RPMI1640+10%FCSに再懸濁する。Biomek2000(Beckman)を用いて、200μl中に2×104細胞となるように96穴プレートに細胞を蒔き、10%CO2中で37℃で4時間培養する。推定されるErbB2阻害薬を第一タイトレーション点まで加えて、一定量のEGF(1nM)又はIL-3(1μl)の存在下又は非存在下で、2穴ずつ96穴プレートに2倍希釈を行っていきタイトレーションを行った。3H-チミジン(0.5μCi/穴)を添加し、プレートを5%CO2中で37℃で20時間培養する。培養の終了時に、細胞を0.5MのNaOH中で室温で30分間溶解してから、自動回収装置(Tomtec、コネチカット、米国)を用いてニトロセルロースフィルターマット上に回収した。このマットを乾燥させ、プラスチック製カウンティングバッグに入れ、シンチレータ(10m1)を加える。取り込まれた3H-チミジンをβカウンター(1205Betaplate、Wallac、フィンランド)を用いて測定する。
【0124】
(iv)軟寒天中での増殖阻害。これは動物における異種移植研究の前に抗腫瘍活性を評価するために行われる基準型アッセイである。液状軟寒天培地に細胞を蒔き、寒天をセットし、細胞のコロニーの出現を以後14〜21日間モニターする。半固形培地中のコロニーの出現はアンカー非依存性増殖として知られており、腫瘍表現型の特徴である。受容体のヘテロ二量体化のリガンドと候補拮抗薬との両方の存在下で腫瘍細胞系の培養を始めることができ、コロニーの増殖をモニターする。
【0125】
(v)候補化合物が、例えばMCF7乳癌細胞、LNCap前立腺癌細胞などのヒト腫瘍細胞系の腫瘍異種移植片のin vivo増殖を遮断する能力(その細胞系の腫瘍形成性表現型は、ErbB2ヘテロ二量体による細胞シグナル伝達をリガンドが活性化することに少なくとも部分的に依存することが知られている)。免疫無防備状態のマウスを単独、又は問題の細胞系に対する適当な細胞傷害剤と組み合わせてこれを評価できる。
【0126】
(リガンド-受容体相互作用のモジュレーション)
〈原理と方法〉 ErbB2はそれ自体の同定されたリガンドを有さず、他のErbBファミリーのメンバーと会合して、リガンドとのヘテロ二量体パートナーの相互作用に顕著な影響を与え得る。
【0127】
(i)細胞表面の、又は免疫グロブリンFcドメインを用いた組換え融合タンパク質として作製されたErbB2/3ヘテロ二量体は、相当するErbB3ホモ二量体に比べて2〜3オーダ高い親和性でヘレグリンと結合する。(Jones,J.T.ら、FEBS Lett.447:227〜231頁、1999)。同様にErbB4ホモ二量体はEGFと結合しないが、ErbB2/4ヘテロ二量体は結合する(Jones、上記)。ヘテロ二量体の拮抗性抗体2C4は、細胞表面及びFc融合ヘテロ二量体に対するヘレグリンの結合を非常に効果的に遮断する。これは、今後立証すべきであるものの、リガンド結合部位を介した立体障害の結果である可能性がある。この観察は、ヘテロ二量体の会合の候補阻害薬、具体的にはErbB2のCR1ループに特異的な抗体についてこのような方法で活性を試験できることを示唆している。よって、時間分解蛍光を使用して、(抗体であってもなくてもよい)リード化合物の、固定化されたErbB2ヘテロ二量体の組み合わせ(一例としてはErbB2/4とFcとの融合タンパク質)に対する、タグ融合リガンド(例えばユウロピウム標識EGF)の結合を遮断する能力を96穴形式でアッセイすることができる。
【0128】
(ii)Berezov, A.ら、J.Biol.Chem.277:28330〜28339頁(2002)はBlAcoreを用いたスクリーニングについて記載し、そのスクリーンニングで固定化したErbB1、ErbB2又はErbB3のエクトドメインと、ErbB3のエクトドメイン及びリガンド(ヘレグリン)を含有する溶液との間のヘテロ二量体の形成を阻害するために低分子ErbB2ペプチド模倣体を使用している。そのペプチドはErbB2の第二富システインドメインのC末端領域に由来する。
【0129】
(分子置換/結合)
別紙Iに示すようなErbB2の構造座標は、ErbB2の少なくとも一部分と類似する構造特性を少なくともいくつか含むような分子複合体の三次元構造のうちの少なくとも一部分を決定するためにも使用できる。具体的には、別の結晶化した分子複合体についての構造情報を獲得することができる。分子置換法を含めた十分に公知である多数の手法のうちの任意のものによりこれを達成できる。
【0130】
分子置換法は当分野の技術者に一般に公知である(Brunger、Meth.Enzym.、276巻、558〜580頁、1997;Navaza及びSaludjian、Meth.Enzym.、276巻、581〜594頁、1997;Tong及びRossmann、Meth.Enzym.、276巻、594〜611頁、1997;Bentley、Meth.Enzym.、276巻611〜619頁、1997);Lattman、「Use of the Rotation and Translation Functions」、Meth.Enzymol.より、115、55〜77頁(1985);及びRossmann編、「The Molecular Replacement Method」、Int.Sci.Rev.Ser.、13号、Gordon & Breach、ニューヨーク(1972)に概説されている)。
【0131】
一般にX線回折データは、結晶化した標的構造の結晶から収集される。X線回折データを変換してパターソン関数を計算する。結晶化した標的構造のパターソン関数を、既知の構造から計算したパターソン関数と比較する(本明細書において検索構造と呼ぶ)。結晶化した標的構造のパターソン関数を回転させて検索構造のパターソン関数と重ね、その結晶における結晶化した標的構造の正確な配向を決定する。次に並進関数を計算して結晶軸に関して標的構造の所在を決定する。結晶化した標的構造を単位胞中でいったん正確に位置決定すると、実験データに対する初期位相を計算できる。これらの位相は電子密度マップの計算及び構造の改良に必要で、そのマップから構造の差を観察できる。検索分子の構造特性(例えばアミノ酸配列、保存されたジスルフィド結合、及びβストラント又はβシート)が結晶化した標的構造と関係していることが好ましい。
【0132】
同様に、十分に公知である任意のモデル構築法及び構造精密化法に電子密度マップを供し、未知の結晶化した分子複合体の最後の正確な構造をもたらすことができる(例えばJones,T.A.、Zou,J.Y.、Cowan,S.W.、及びKjeldgaard(1991)「Improved methods for binding protein models in electron density maps and the location of errors in these models」Acta Crystallogr.A47、110〜119頁;Brunger,A.T.、Adams,P.D.,Clore,G.M.,DeLano,W.L.、Gros,P.、Grosse-Kunstleve,R.W.、Jiang,J.S.、Kuszewski,J.、Nilges,M.、Pannu,N.S.ら(1998)「Crystallography and NMR system:a new software suite for macromolecular structure determination」Acta Crystallogr.D Biol.Crystallogr.54、905〜921頁)を参照)。
【0133】
分子置換法以外の方法で位相について正確な値を獲得するのは、近似と精密化との反復サイクルを必要とする時間のかかるプロセスであり、これは結晶構造の解明を大きく妨害する。しかし、少なくとも1つの相同部分を含むタンパク質の結晶構造が解明されると、既知の構造からの位相は未知の構造についての位相の満足できる推定をもたらす。
【0134】
分子置換法を用いることにより、本明細書において提供される(そして別紙Iに示される)ErbB2の構造座標の全て又は一部を用いて、構造が未知である結晶化した分子複合体の構造を、初めからそのような情報を決定することを試みるよりも迅速に効率的に決定できる。この方法はErbB2突然変異体及びホモログの構造の決定に特に有用である。
【0135】
この方法によりErbB2の細胞外ドメインの任意の部分と十分に相同である任意の結晶化した分子複合体の任意の部分の構造を解明できる。
【0136】
そのような構造座標は、ErbB2と共に二量体化する他のEGF受容体ファミリーの受容体又は化学物質のような多様な分子と共複合体化したErbB2の結晶構造の解明にも有用である。例えばこの取り組みは、化学物質の間の相互作用及び候補ErbB2作動薬又は拮抗薬の相互作用に最適な部位の決定を可能にする。
【0137】
上に言及した複合体の全ては、十分に公知のX線回折法を用いて研究でき、X-PLOR(イェール大学、Molecular Simulations,Inc.が配布;Blundell及びJohnson上記;Meth.Enzymol.、114及び115巻、H.W.Wyckoffら編、Academic Press(1985)参照)のようなコンピュータソフトウェアを用いて1.5〜3.5Aの分解能のX線データに対して約0.25以下のR値まで精密化できる。このように、この情報を使用して抗ErbB2抗体のような公知のErbB2作動薬/拮抗薬を最適化でき、さらに重要なことには新しいか、又は改良したErbB2作動薬/拮抗薬を設計できる。
【0138】
(ErbB2の結晶の製造)
適当な宿主細胞にErbB2をコードするヌクレオチド配列又はそのバリアントを発現させ、次に精製したタンパク質を結晶化することにより、本発明の結晶を調製できる。好ましくはErbB2ポリペプチドは細胞外ドメイン(成熟ヒトポリペプチドのアミノ酸1から632若しくは好ましくはアミノ酸1から509を含むその短縮版、又は他のErbB2ポリペプチドにおける同等残基)を含有するが、膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインを欠いている。好ましい宿主細胞は、例えばCHO-K1繊維芽細胞の誘導細胞であるLec8チャイニーズハムスター細胞系(ATCC CRC:1737)(Stanley、1989、Mol. Cell Biol.9:377〜383頁)であるグリコシル化欠損哺乳動物細胞系のような組換えポリペプチドのグリコシル化の低下をもたらす細胞である。
【0139】
例えば抽出及び精製を容易にする融合タンパク質としても、ErbB2ポリペプチドを製造できる。融合タンパク質のパートナーの例には、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、ヘキサヒスチジン、GAL4(DNA結合ドメイン及び/又は転写活性化ドメイン)及びβ-ガラクトシダーゼがある。融合タンパク質のパートナーと目的のタンパク質配列との間にタンパク質分解性切断部位を含み、融合タンパク質配列の除去を可能にすることも便利であり得る。
【0140】
発現後に、固定化金属アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、及び/又はゲルろ過によりタンパク質を精製及び/又は濃縮してもよい。
【0141】
タンパク質を公知の方法を用いて結晶化してもよい。通常は結晶化プロセスでは結晶の形成に必要な沈殿剤の濃度よりも低い濃度で結晶化緩衝液を調製する。結晶の形成には、沈殿剤の添加により、又は結晶化緩衝液と貯留緩衝液との間の沈殿剤の拡散により沈殿剤の濃度を増加させなければならない。「ハンギングドロップ」法又は「シッティングドロップ」法のような公知の方法により拡散を達成することができる。これらの方法では、貯留緩衝液の大きな液だまり付近で、タンパク質を含有する結晶化緩衝液の液滴をぶら下げるか、又は載せる。代わりに、結晶化緩衝液を分離し貯留緩衝液にタンパク質が希釈するのを防ぐ半透膜により沈殿剤の平衡を達成することができる。
【0142】
我々は、約15%のPEG1500の含有がヒトErbB2の細胞外ドメインに最適な結晶化条件をもたらすことを発見した。
【0143】
(結晶構造の作製)
結晶をいったん獲得すると、公知のX線回折法により構造を解明できる。多くの方法にいて、重原子導入により修飾された結晶のような化学修飾された結晶を使用している。実際には、例えば塩化鉛、チオリンゴ酸金、チメロサール又は酢酸ウラニルのような重金属原子の塩又は有機金属化合物を含有する溶液に結晶を浸漬する。それらの塩又は化合物は結晶内部を拡散しタンパク質の表面に結合する。次に、浸漬した結晶のX線回折解析により、結合した重金属原子の所在を決定できる。結晶の原子(散乱中心)によるX線の単色ビームの回折に関して得られたパターンを数式により解明し、数学座標を得ることができる。回折データを使用して、結晶の繰り返し単位の電子密度マップを計算する。電子密度マップを使用して、結晶の単位胞内の個々の原子の位置を確立する(Blundel,T. L.及びN. L.Johnson、Protein Crystallography、Academic Press(1976))。
【0144】
(ErbB2のモジュレータの標的結合部位)
本明細書において提供するErbB2の三次元構造は、潜在的ErbB2モジュレータについての標的結合部位の同定を可能にする。
【0145】
好ましい標的結合部位は、ErbB1、ErbB3及び/又はErbB4のようなEGF受容体ファミリーの他のメンバーとのErbB2のヘテロ二量体化に関わる部位である。
【0146】
ヘテロ二量体化に関わる好ましい結合部位の1つは、CR1二量体化ループ(残基247〜268)及び近隣残基(残基244〜246、285〜289)である。他の適した結合部位にはCR1ドメインのN末端(残基200〜203、210〜213、216〜218、225〜230)、及びCR1ドメインのC末端(残基294〜319)がある。
【0147】
さらに好ましい実施形態において、結合部位はヘテロ二量体パートナーのCR1二量体化ループに対するErbB2上のドッキング部位である。このドッキング部位は、ErbB2のL1ドメイン、CR1ドメイン及びL2ドメインの間に位置する。好ましくは、ドッキング部位はErbB2残基であるGln36、Gln60、Arg82、Thr84、Gln85、Phe237、Thr269、Phe270、Gly271、Ala272、Tyr282、Thr285、Gly288、Ser289、Cys290、Thr291、Leu292、Val293、Cys294、Pro295及びCys310を含む。
【0148】
その上、別の好ましい実施形態において、標的結合部位はL1ドメイン又はL2ドメイン上に位置する。ErbB3の未連結(unligated)構造(Cho,H.S.及びLeahy,D.J.、Science297、1330〜1333頁(2002))又はEGFRの疑似未連結構造(Fergusonら、Molecular Cell、11巻、507〜517頁、(2003))とは異なり、ErbB2の構造は2:2リガンド-受容体二量体と類似したコンホメーションで存在する。これは、Garrettら、Molecular Cell、11巻、495〜505頁に記載されているようにL1:L2接触により大部分が維持されている。よって、L1ドメイン若しくはL2ドメインのどちらかと結合するか、又はそれらの間に挿入された低分子若しくは抗体は、ドメインが互いに結合することを防止することにより、又はそれらのドメインの相対位置を変更することにより受容体二量体の形成をモジュレートできる。よって、L1及び/又はL2ドメインに対する化学物質の結合は、そのタンパク質に未連結の関係物質(EGFR又はErbB3)と類似したコンホメーションを採用させることにより二量体化を阻害し得る。代わりに、L1及び/又はL2ドメインに化学物質が結合すると、Garrettら、Molecular Cell、11巻、495〜505頁に記載されるようにCR1(二量体化ドメイン)が変形し、受容体二量体の形成が阻害されるおそれがある。L1又はL2ドメインの関連する結合部位は、これらのドメインのどちらか一方の原子から成り、そのドメインはもう一方のドメインから約4.5オングストローム以内に位置する。
【0149】
(抗体)
本発明において使用される「抗体」という用語は、インタクトな分子だけでなく、エピトープ性決定基と結合できるFab、F(ab')2、及びFvのような、インタクトな分子の断片を含む。これらの抗体断片は抗原又は受容体と選択的に結合する能力をいくらか保有し、以下のように定義される:
(1)Fab:抗体分子の一価の抗原結合断片を含有するこの断片は、パパイン酵素で抗体全体を分解しインタクトな軽鎖及び重鎖の一部を得ることにより製造できる。
(2)Fab':抗体分子のこの断片は、抗体全体をペプシンで処理してから還元し、インタクトな軽鎖及び重鎖の一部分を得ることにより獲得できる。抗体1分子あたり2つのFab'断片が得られる。
(3)(Fab')2:抗体のこの断片は、抗体全体をペプシン酵素で処理し、その後還元を行わないことにより入手できる。F(ab)2は2つのジスルフィド結合により結合する2つのFab'断片の二量体である。
(4)Fv:2本の鎖として発現した軽鎖の可変部及び重鎖の可変部を含む、遺伝子操作による断片として定義される。
(5)単鎖抗体(「SCA」):軽鎖の可変部と重鎖の可変部とを含み、それらが適当なポリペプチドリンカーにより遺伝子的に融合した単鎖分子として連結した、遺伝子操作による分子と定義される。
【0150】
これらの断片の製造法は当分野で公知である(例えば参照により本明細書に組み込まれているHarlow及びLane、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、ニューヨーク(1988)を参照)。
【0151】
例えば精製ErbB2断片1〜509をマウスに免疫することにより、本発明の抗体を製造できる。マウスが抗ErbB2抗体を産生していることを測定した後で、ハイブリドーマを調製し、2つの細胞系Baf/wt-EGFR細胞及びBaf/EGFR-「突然変異x」細胞を用いたELISA又はフローサイトメトリーにより抗体の特異性をアッセイできる。これらのマウス細胞系は野生型ErbB2、又は特定の部位にアミノ酸置換、例えばAla置換(すなわち突然変異x)を含むErbB2のうち一方を発現し、抗体はその特定部位に対することができる。Baf/wt-ErbB2を認識するがBaf/ErbB2-「突然変異x」を認識しない抗体を分泌するハイブリドーマを同定した場合、対応するハイブリドーマをクローニングしてモノクローナル抗体を精製できる。
【0152】
代わりに、本発明の抗体を調達する際にコンホメーションが束縛されたペプチド誘導体又はループ構造を使用することが望ましい。コンホメーションの束縛は、ペプチドがとる三次元形状の安定及び好ましいコンホメーションのことを呼ぶ。コンホメーションの束縛には、ペプチドにおける単一残基のコンホメーション運動を制限することを伴う局所束縛(local constraint)、ある二次構造単位を形成する可能性のある残基の群のコンホメーション運動を制限することを伴う部分束縛(regional constraint)、及びペプチド構造全体を伴う大域束縛(global constraint)がある。例えばErbB2ループ構造に近隣又は近接(flanking)するアミノ酸を構築物に包ませて、抗体の調達に使用されるペプチドのコンホメーションを維持することもできる。
【0153】
さらに、環化のような共有結合性修飾、又はγ-ラクタム若しくは他の種類の架橋の導入により、ペプチドの活性コンホメーションを安定化することができる。例えば、側鎖をバックボーンと環化させ、相互作用部位のそれぞれの側にL-γ-ラクタム部分を作り出すことができる。一般にHrubyら、「Applications of Synthetic Peptides」、Synthetic Peptides:A User's Guideより:259〜345頁(W.H.Freeman & Co.1992)を参照のこと。例えばシスチン架橋の形成、それぞれの末端アミノ酸のアミノ末端基及びカルボキシル末端基の結合、又はLys残基若しくは関係するホモログのアミノ基とAsp、Glu又は関係するホモログのカルボキシル基との結合によっても環化を達成できる。ヨード無水酢酸を使ってポリペプチドのα-アミノ基とリシン残基のε-アミノ基との結合も行うことができる。Wood及びWetzel、1992、Int'l J.Peptide Protein Res.39:533〜39頁参照。
【0154】
さらに、α炭素原子の位置で修飾したアミノ酸(例えばα-アミノ-150-酪酸)(Burgess及びLeach、1973、Biopolymers 12(12):2691-2712頁;Burgess及びLeach、1973、Biopolymers 12(11):2599〜2605頁)又はペプチドの窒素原子の修飾をもたらすアミノ酸(例えばサルコシン又はN-メチルアラニン)(O'Donohueら、1995、Protein Sci.4(10):2191〜2202頁)を含ませることにより、ペプチドアナログのコンホメーションを安定化できる。
【0155】
US5,891,418に記載されている別の方法は、金属イオンと錯体を形成するバックボーンをペプチド構造に含ませることである。概して、好ましい金属-ペプチドバックボーンは、所定の錯体形成金属イオンの配位圏に必要とされる特定の配位基の必要数に基づく。一般に、有用と判明する金属イオンの大部分は、4から6の配位数を有する。ペプチド鎖における配位基の種類にはアミン、アミド、イミダゾール、又はグアニジノ官能基を有する窒素原子;チオール又はジスルフィドの硫黄原子;及びヒドロキシ、フェノール、カルボニル、又はカルボキシル官能基の酸素原子がある。さらに、ペプチド鎖又は個々のアミノ酸を化学的に変更して、例えばオキシム、ヒドラジノ、スルフヒドリル、リン酸基、シアノ、ピリジノ、ピペリジノ、又はモルホリノのような配位基を含ませることができる。ペプチド構築物は直鎖又は環状であり得るが、直鎖構築物が概して好ましい。
【0156】
(ペプチド及びペプチド模倣体)
その上さらなる態様において、本発明は単離され、コンホメーションが束縛されたペプチド又はペプチド模倣体を提供し、そのペプチド又はペプチド模倣体は、必然的に(i)ErbB2のアミノ酸残基200〜203、(ii)ErbB2のアミノ酸残基210〜213、(iii)ErbB2のアミノ酸残基216〜218、(iv)ErbB2のアミノ酸残基225〜230、(v)ErbB2のアミノ酸残基247〜268若しくはそのサブセット、(vi)ErbB2のアミノ酸残基244〜246、(vii)ErbB2のアミノ酸残基285〜289、又は(viii)ErbB2のアミノ酸残基294〜319若しくはそのサブセットから成る。
【0157】
「コンホメーションが束縛された分子」という用語は、コンホメーションが束縛されたペプチド並びにコンホメーションが束縛されたペプチドアナログ及び誘導体を意味する。
【0158】
「アナログ」という用語は、ErbB2に存在する天然α-アミノ酸と化学的に類似した構造を有する分子のことを呼ぶ。例には、gem-ジアミノアルキル基又はアルキルマロニル基を含む分子がある。
【0159】
「誘導体」という用語は、ErbB2に存在する天然α-アミノ酸にみられる1つ又は複数の側基が修飾されたα-アミノ酸を含む。よって、例えばErbB2に存在する天然アミノ酸を、対応するD-アミノ酸又はN-メチルアミノ酸のようなコードされていないか、又は修飾された多様なアミノ酸に置換できる。他の修飾には、ヒドロキシル、チオール、アミノ及びカルボキシル官能基の、化学的に類似した基への置換がある。
【0160】
本発明は、コンホメーションが束縛された(アミノ酸残基247〜268のような)ErbB2断片のペプチド模倣体、すなわちErbB2の活性を模倣し、したがってin vivoでErbB2活性をモジュレートできるアナログ及び誘導体の使用を包含する。これらのペプチド模倣体は、天然ErbB2上に存在するペプチドの構造(例えばループ構造)と実質的に類似した三次元形状であることが好ましい。実質的に類似であることは、ErbB2ペプチド断片における基の幾何学的関係が保存され、そのペプチド模倣体がin vivoでErbB2の活性を模倣することを意味する。
【0161】
「ペプチド模倣体」は、ペプチドの生物学的活性を模倣するが、化学的性質はもはやペプチド的ではない分子である。厳密な定義により、ペプチド模倣体はペプチド結合(すなわちアミノ酸同士のアミド結合)をもはや全く含まない分子である。しかし、ペプチド模倣体という用語は疑似ペプチド、半ペプチド、及びペプトイドのように性質がもはや完全にはペプチド的ではない分子を記載するために使用されるときもある。完全に非ペプチドであろうと部分的に非ペプチドであろうと、本発明の方法に使用するためのペプチド模倣体は、そのペプチド模倣体が基本とするペプチドにおける活性基の三次元配置に密接に似通った反応性化学部分の空間配置をもたらす。この類似した活性部位の外形の結果として、ペプチド模倣体はペプチドの生物学的活性と類似した作用を生物系に及ぼす。
【0162】
所定のペプチド自体よりも、むしろそのペプチドの模倣体を使用する方が明らかに有利である。それはペプチドが、(1)低いバイオアベイラビリティ及び(2)短い作用時間という2つの望ましくない性質を共通して示すからである。ペプチド模倣体はこれらの2つの主要な障害を回避するはっきりとした道筋を提供する。それは、当の分子が経口活性と作用の長期持続との両者に足るほど低分子であるからである。ペプチド模倣体に関連して、かなりのコストの節約と患者のコンプライアンスの向上もある。それは、ペプチドが非経口投与であることに比べてペプチド模倣体は経口投与できるからである。さらに、ペプチド模倣体はペプチドよりも製造がずっと安価である。
【0163】
容易に利用できる手法を用いて、例えば残基247〜268に基づく適当なペプチド模倣体を開発できる。よって、例えばペプチド結合を非ペプチド結合に置き換えることができ、ペプチド模倣体が本来のペプチドと類似した構造、及びしたがって類似した生物学的活性を示すことが可能になる。 アミノ酸の化学基を、類似した構造の他の化学基と置換することにより、さらなる修飾も行うことができる。別紙Iに示すようなこれらの残基の三次元構造を参照することにより、残基247〜268に基づくErbB2ペプチドから得られるペプチド模倣体の開発を援助できる。この構造情報をMACCS-3D及びISIS/3D(Molecular Design Ltd.、サンリアンドロ、カリフォルニア州)、ChemDBS-3D(Chemical Design Ltd.、オックスフォード、イギリス)、及びSybyl/3DB Unity(Tripos Associates、セントルイス、ミズーリ州)のようなプログラムを用いて、三次元データベースの検索に使用して、類似した構造を有する分子を同定できる。
【0164】
当分野の技術者は、ペプチド模倣体の設計が本発明の方法を用いて設計又は同定された化学構造のわずかな構造の変更又は調整を必要とし得ることを認識している。一般に本発明の方法を用いて同定又は設計された化学化合物を化学合成し、次に本明細書において記載された任意の方法を用いて、ErbB2活性をモジュレートする能力を試験できる。本発明の方法が、ErbB2活性をモジュレートする能力をスクリーニングしなければならない潜時的模倣体の数を大きく減らすために使用できることから、本発明の方法は特に有用である。
【0165】
ErbB2の領域と結合し、EGF受容体ファミリーの別のメンバーとのErbB2のヘテロ二量体化を潜在的に妨害する候補化合物をスクリーニングするアッセイに、本発明のペプチド又はペプチド模倣体を使用できる。
【0166】
標準固相ELISAアッセイ形式は、二量体化の阻害薬の同定に特に有用である。本実施形態にしたがって、本発明のペプチド又はペプチド模倣体を、例えばポリマー製ピンのアレイ又はガラス製支持体のような固形マトリックスに固定化する。固定化ペプチド又は固定化ペプチド模倣体は、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST;例えばCAP-ERK融合体)を含む融合ポリペプチドであると便利である。ここで、GST部分は固相支持体へのタンパク質の固定化を促進する。次に、固定化したペプチド若しくはペプチド模倣体と結合し、かつ/又は固定化したペプチド若しくはペプチド模倣体に対するErbB2の天然結合パートナーの結合を妨害する候補化合物をスクリーニングするためにこのアッセイ形式を使用できる。
【0167】
(ErbB2のモジュレータの使用)
細胞におけるErbB2活性のモジュレート、すなわちErbB2活性の活性化又は阻害に、上記の本発明の方法により設計又は選択された化合物/化学物質を使用できる。具体的にはErbB2と、ErbB1、ErbB2及びErbB4のようなEGF受容体ファミリーの他のヘテロ二量体化パートナーとの間の相互作用をモジュレートするために、それらを使用できる。
【0168】
ErbB2のヘテロ二量体接触面に対する化学物質の直接結合により、かつ/又はErbB2の細胞外ドメインの別の位置におけるアロステリック相互作用により、ErbB2とEGF受容体ファミリーの他のメンバーとの間のヘテロ二量体化のモジュレーションを達成できる。
【0169】
異常なEGF/ErbB2活性が様々な障害に関係していると仮定すると、上記の化合物は、異常なErbB2のシグナル伝達を特徴とする障害の治療、改善又は予防にも使用できる。そのような障害の例には、脳、頭頚部、前立腺、卵巣、乳腺、子宮頚、肺、膵臓及び結腸の腫瘍;並びに横紋筋肉腫、中皮腫、皮膚扁平上皮癌及び神経膠芽腫を含めた悪性状態がある。
【0170】
(投与)
本発明の化合物、すなわち本発明の抗体又は本発明のスクリーニング法で同定されたか、若しくは同定可能なErbB2のモジュレータを、様々な構成要素と好ましくは組み合わせることによって、本発明の組成物を製造することができる。組成物を薬学的に許容可能な担体又は希釈剤と組み合わせて(ヒト用又は動物用であり得る)医薬組成物を製造することが好ましい。
【0171】
製剤は化合物の性質及び投与経路に依存するが、概して局所、非経口、筋肉内、経口、静脈内、腹腔内、鼻腔内吸入、肺吸入、皮内又は関節内投与用に製剤できる。注射可能な剤形で化合物を使用してもよい。したがって、化合物を薬学的に許容可能な任意の賦形剤と混合して注射可能な製剤として、全身投与してもよいが、好ましくは治療部位での直接注射用にする。
【0172】
薬学的に許容可能な担体又は希釈剤は、例えば滅菌等張生理食塩水、又はリン酸緩衝生理食塩水のような他の等張溶液であり得る。本発明の化合物を任意の適当な結合剤、滑沢剤、懸濁化剤、コーティング剤、可溶化剤と混合してもよい。経口活性な剤形に化合物を製剤することも好ましい。
【0173】
一般に、本発明の化合物及びその塩を含めた本発明の化合物の経口又は静脈内投与で治療有効な1日量は、治療される対象の体重1kgあたり0.01から50mg、好ましくは0.1から20mgの範囲にあると思われる。本発明の化合物及びその塩を、0.001〜10mg/kg/hrの範囲にあると思われる用量で静脈内点滴によっても投与できる。
【0174】
化合物の錠剤又はカプセルを、一度に1つ、又は必要に応じて2つ以上投与してもよい。化合物を持続放出製剤の形で投与することも可能である。
【0175】
概して、医師は個別の患者に最も適した実際の投与量を決定し、その投与量は年齢、体重、及び特定の患者の応答に応じて変動する。上記の用量は平均的な場合の例である。もちろん、それよりも高用量又は低用量が正当である個々の事例があり得、そのようなことは本発明の範囲内に属する。
【0176】
いくつかの適用では、デンプン若しくは乳糖のような賦形剤を含有する錠剤、又は組成剤単独若しくは賦形剤と混合したカプセル若しくは卵形カプセル(ovule)、又は着香料若しくは着色料を含有するエリキシル剤、液剤若しくは懸濁剤の剤形で組成物を経口投与することが好ましい。
【0177】
組成物(及び化合物単独)を非経口注射、例えば静脈内、筋肉内又は皮下注射することもできる。この場合、組成物は適当な担体又は希釈剤を含む。
【0178】
非経口投与には、例えば溶液を血液と等張にするために十分な塩類又は単糖のような他の物質を含み得る滅菌溶液の剤形で組成物を使用することが最良である。
【0179】
口腔投与又は舌下投与には、従来法で製剤できる錠剤又はトローチ剤の剤形で組成物を投与してもよい。
【0180】
対象(患者のような)への経口、非経口、口腔及び舌下投与には、本発明の化合物並びにその薬学的に許容可能な塩及び溶媒和化合物の1日量は、概して(単回投与又は分割投与で)10から500mgであり得る。よって、例として1つ、又は必要に応じて2つ以上投与するための錠剤又はカプセル剤は、有効化合物5から100mgを含有し得る。上に示したように、医師は個別の患者に最も適した実際の投与量を決定し、その投与量は年齢、体重、及び特定の患者の応答に応じて変動する。
【0181】
専門家は、特定の患者に対する最適な投与経路及び投与量を例えばその患者の年齢、体重及び状態に応じて容易に決定できるため、記載した投与経路及び投与量は、指針のみを意図する。
【0182】
本発明は以下の実施例を参照して今後さらに記載するが、実施例は例示に過ぎず、限定するものではない。実施例は図を参照している。
【実施例】
【0183】
(実験方法)
〈ErbB2-509発現ベクターの構築〉
発現ベクターpRc/CMV(Invitrogen)中にコード領域全体を包含するErbB2のcDNAクローンはRod Fiddes博士(AMBRI Pty.Ltd.)からの贈与であった。5'非コード領域及びアミノ酸1-412をコードするヌクレオチドにわたるHind 111/EcoR1断片を単離し、pUC19(Pharmacia)にクローニングした。プライマー5'-CGGACAGCCTGCCTGACCTC-3'(上流)及び5'-CCGGAATTCTAGACTACTTATCATCGTCATCTTTGTAATCGTTGACACACTGGGTGGGC-3'を用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、ErbB2のアミノ酸413〜509及びC末端FLAGエピトープを組み込んだ324塩基対のEcoR1断片(Brizzardら、1994、Biotechniques 16、730〜735頁)を作製し、このプラスミドにおけるEcoR1部位にクローニングした。このプラスミドのErbB2の5'HindIII/BamHIをヌクレオチド171-1170に対応する短縮HindIII/BamHI断片に置換することにより、このプラスミドをさらに修正した(GenBank寄託番号X03363)。この短縮断片は、プライマー5'-GGGGAAGCTTGCCACCATGGAGCTGGCGGCC-3'(上流)及び5'-GCTGCACTTCTCACACCGCTG-3'(下流)を用いてPCRにより作製したものである。全ての増幅産物の正確性をヌクレオチド配列決定により確認した。それから、修正したErbB2のcDNA挿入物をHindIII/XbaI断片として切り出し、哺乳類発現ベクターpEE14(Bebbington及びHentschel、1987、DNA Cloningより(Glover, D.編)、III巻、163〜188頁、IRL Press、オックスフォード、イギリス)の対応する制限部位にクローニングしpESE.ErbB2-509を作製した。
【0184】
〈細胞培養とトランスフェクション〉
CHO-K1線維芽細胞の誘導細胞であるLec8チャイニーズハムスター細胞系をAmerican Tissue Culture Collection(ATCC CRC:1737)から入手し、ウシ胎仔血清(FCS)10%を補充したグラスゴーの修正イーグル培地(Life Technologies)中で維持した。製造業者の使用説明書にしたがってFuGENE(Roche Molecular Biochemicals)を用いてFspIで分解することにより直鎖化したpESE.ErbB2-509を細胞にトランスフェクトした。透析FCS10%及びメチオニンスルホキシミン25μMを含有する無グルタミン培地で細胞を培養することにより安定トランスフェクタントを単離した。ニトロセルロース上にドットブロットを行い、抗FLAGモノクローナル抗体であるM2(Brizzardら、1994)で探査することで上清をスクリーニングした。
【0185】
〈タンパク質の製造と精製〉
陽性のポリクローン性培養物を、ローラーボトル中で細胞を増殖させることによるスケールアップタンパク質生産のために使用し、その間に細胞を、透析したFCS(Life Techologies)10%及びメチオニンスルホキシミン25uMを補充したDMEM/F12(JRH)培地に適用させた。ErbB2-509断片の収量及び質を確認するために、それぞれFibraCellディスク(New Brunswick Scientific)10gを入れた500ml容のスピナーフラスコ4本に、集密状態のローラーボトル8本から回収した細胞を植えた。3週間にわたり毎日、古い培地をスピナーフラスコから集め、新鮮培地と入れ替えた。3日目以降は透析血清の代わりに未透析血清(CSL)を使用した。回収した培地を3週間で約30l集めた。
【0186】
製造業者の使用説明書通りMini Leak Low(Kem-En-Tek Denmark)と共有結合させたM2抗FLAG抗体の50ml容カラムを通過させる免疫アフィニティクロマトグラフィーにより、FLAGタグ融合ErbB2-509タンパク質を精製した。培地4〜6lの4℃のバッチを100〜200ml/hの流束でカラムを通過させ、約20カラム容のトリス緩衝生理食塩水(40mM、pH8)/ナトリウムアジド(TBSA)0.02%で洗浄した。TBSAに溶かしたFLAGペプチドDYKDDDDKの0.25mg/ml溶液50mlを90分間再循環させた後に、TBSAに溶かした0.1mg/mlのFLAGペプチド3から4カラム容を用いて溶離することにより、FLAGタグ融合タンパク質をカラムから溶離させた。アフィニティカラムをO.1Mクエン酸ナトリウム(pH3)で再生してからTBSAを用いてpH8で再平衡化し、次の回収バッチの準備を行った。TBSAを用いて5 ml/minでペプチドで溶離した産物の濃縮液にSuperdex200カラム(ファルマシア26/60)を通過させることにより、さらに精製を行った。280nmに吸光を示す物質の90%超が、みかけの分子量約70kDaの単一対称ピークとして溶離し、これはスピナーフラスコから収集した液に対して1〜2mg/Lの回収率であった。ピーク画分を10mMのHEPES(pH7.5)に緩衝液交換し、8mg/mlまで濃縮した。
【0187】
〈結晶化とデータ収集〉
ハンギングドロップ法を用いた要因スクリーニング(Jancarik及びKim、1991、J.Appl.Cryst.24、409〜411頁)で結晶化試験を行った。最初に、4日以内に棒状の結晶が成長し、その結晶は約3.5Åで回折した。しかし、さらに結晶化試験を行ったところ、最良の条件は15%PEG1500であり、分解能は2.5Åに及んだ。PEG20%、グリセロール20%中で結晶(空間群P212121、a=75.96、b=82.24、c=110.06Å)を-170℃に冷却した。長円形ガラスキャピラリー光学系(AXCO)を備えたRU-300Rigaku発生器を用いたRigaku RAXIS IV二次元検出器への1921°の露光として回折データを記録した。2.5Åまでのデータを積分しDENZO/SCALEPACK(モザイク幅0.8°、Rsym=0.103、多重度7.2、完全性97.2%)を用いてスケーリングした。
【0188】
〈構造解析と精密化〉
分解能10〜4Åのデータ及び検索モデルとしてEGFRの2つの残基(残基4-238及び310〜500)を用いたAMOREで分子置換を行って構造を解明した。回転関数と並進関数の両方における最も高いピークは、正しい解に相当する。Oを有する電子密度マップ(分解能10〜3.5Å)の観察により、EGFRの構造からErbB2の初期モデルを構築した。このモデルは510個の残基のうち472個から成り、相当するEGFRを短縮した91個の側鎖を含む。構造の精密化をCNSで行った(Brungerら、1998、Acta Crystallogr. D Biol Crystallogr.54、905〜921頁)。まず、4群(残基1-194、197〜310、318〜510)を用いた剛体の精密化はR=0.473、Rfree=0.482(データの5%)を与えた。手動再フィッティング、エネルギー最小化、B因子の精密化及び場合によりシミュレーテッドアニーリングを交互に9巡行った。3巡目から適用したバルク溶媒補正、及び6巡目からの全異方性温度因子を用いて段階的に分解能を高めた。最終モデルはアミノ酸506個、糖質残基4つ及び溶媒分子134個を含み、R=0.226、Rfree=0.264 (25〜2.5Åのデータ)を与える。残基1-2、100-102、107-113及び294〜318については電子密度が低く、残基103-106又は510以降の残基については電子密度がない。
【0189】
〈データベースの調製〉
納入業者又はNIH発達治療プログラムにより提供される情報を用いてデータベースを作製した。NCIデータベースは2000年10月の公開から、Tripos Leadquestデータベースは2001年10月の公開を用いて築かれた。sybyl6.7におけるUNITY環境からdbtranslateユーティリティを用いてSDFの記録を三次元Sybyl mol2ファイルに変換し、Concord 4.0.2を用いて座標を作製し、得られたmol2ファイルの原子タイピングを我々の組織内ツールMol-prepareを用いて補正した。得られたmol2ファイルを次にプロトン化し、Gasteiger-Huckel電荷を割り当てSybyl6.7を用いて最小化した(繰り返し回数最大500回の共役勾配法)。次に、我々のデータベースサーバプログラム用に、データベースにインデックスをつけた。
【0190】
〈ErbB2キナーゼ活性を測定するためのアッセイ〉
K721R-ErbB1及びwtErbB2を同時発現するBaF/3細胞をIL-3を含有するRPMI/10%FCSで通常の方法で増殖させる。アッセイ前に細胞を3回洗浄して残ったIL-3を除き、RPMI1640+10%FCSに再懸濁する。Biomek2000(Beckman)を用いて200μl中に2×104細胞となるように96穴プレートに細胞を蒔き、10%CO2中で37℃で4時間培養する。候補ErbB2阻害薬を第一タイトレーション点に加えて、一定量のmEGF(1nM)又はIL-3(1μl)の存在下又は非存在下で、2穴ずつ96穴プレートに2倍希釈を行っていきタイトレーションを行う。3H-チミジン(0.5μCi/穴)を添加し、プレートを5%CO2中で37℃で20時間培養する。培養の終了時に、細胞を0.5MのNaOH中で室温で30分間溶解してから、自動回収装置(Tomtec、コネチカット、米国)を用いてニトロセルロースフィルターマット上に回収した。そのマットを乾燥させ、プラスチック製カウンティングバッグに入れ、シンチレータ(10m1)を加える。取り込まれた3H-チミジンをβカウンター(1205Betaplate、Wallac、フィンランド)を用いて測定する。
【0191】
(実施例1:構造の記載)
本明細書において記載されるErbB2断片は、L1ドメイン、CR1ドメイン及びL2ドメイン、並びに第二富cys領域CR2の第一モジュール(残基489〜509)を有する。結晶は非対照単位胞中に短縮ErbB2エクトドメイン1分子のみを含み、二量体の証拠を示さない。ErbB2 (残基1〜509)はTGFα(Garrettら、2002)又はEGF(Ogisoら、2002、Cell 110、775〜787頁)との2:2複合体におけるEGFRエクトドメインのクローズドコンホメーションを連想させるが、リガンドと結合していない全長ErbB3エクトドメイン(Cho及びLeahy、2002)又は密接に関係した1型インスリン様増殖因子受容体の短縮型L1/CR/L2断片(Garrettら、1998、Nature 394、395〜399頁)にみられるオープンコンホメーションとは非常に異なるコンパクトな2ローブ構造を採っている。
【0192】
各Lドメインの主鎖のコンホメーションは、L1のCα原子に対するrmsdが (Cα原子の>91%について)1.14〜1.21Åで、L2のCα原子に対するrmsdが0.97〜1.05Å(96%)であり、EGFRの対応するドメインと類似している。ErbB2のL1ドメインにおいて、EGFRにおけるリガンド結合面の実質的な部分を形成するV型領域(残基9-17)は維持されている。しかし、ErbB2ではN末端らせん(残基17-30)の位置がわずかに移動し、EGFRにおいてTGFαとの主鎖の接触を引き起こす残基に相当する残基にわずかな差がある(Garrettら、2002)。ErbB2に特異的な大きな挿入部(残基101-109)の位置(図1)は、EGFRではL1ドメインの第二及び第三βシートの角の第四リピートのループ(残基101-106)内にあり、これはErbB2では大部分がディスオーダしている。ErbB2のL2の主鎖では、EGFRにおいてリガンドと結合するループに相当する2つのループ(残基324〜334及び360〜374)(Garrettら、2002)及びL2ドメインに続く単一富cysモジュール(残基489〜509)の相対位置に小さな移動がみられる。
【0193】
ErbB2及びEGFR/TGFα複合体において2つのLドメインのフォールドは類似している(Garrettら、2002)が、これらの2つのドメインの相対的な配向は全く異なる(図3及び4)。これは、2つのLドメインが実質的に接する位置に互いに向けるErbB2のCR1ドメイン及びCR1-L2ヒンジにおける差が原因である(埋もれた利用可能な総表面積1264Å2及び形状相補性Sc=0.63)。L1に関するErbB2のL2ドメインの全般的な移動は、L2の大βシートの鎖と平行な軸の周り約35°(A37.4°、B31.8°)の回転及びCR1方向への7Åの並進に相当するため、ErbB2ではL2上の大シートの底面はL1のN末端(残基1-33)に載っている。このコンホメーションでは、EGF様リガンドは(EGFRとは異なり)ErbB2のL1又はL2ドメインのどちらの部位とも結合できない。これは、各部位が向かい合うLドメインに塞がれているからである。
【0194】
ErbB2がこの「クローズド」形であるという発見から、EGFR(又はErbB3/ErbB4)の未連結形でこれが起こるかどうかという疑問が生じる。ErbB2のこの領域で主鎖の転位、すなわちL1のN末端らせんの約1.8Åの偏位があることから、構造の重ね合わせは簡単ではない。この偏位の原因は、ErbB2のLeu22がErbB1(F24)、ErbB3(Y27)及びErbB4(Y24)における芳香族側鎖と置き換わることが原因の可能性がある(図1)。しかし、たとえ残基9-17及びらせんを別々に重ね合わせてからL2の重ね合わせと比較しても、このファミリーの他のメンバーではこれらの領域の相補性は観察されなかった。EGFRでは、G1n411はErbB2のA1a419に相当し、かさの高いGlnの側鎖はErbB2の構造に容易には収容され得ないであろう。それは、その側鎖がSer26及びMet3O(ErbB2におけるMet24及びLeu28)と立体的に衝突すると考えられるからである。このクローズドコンホメーションは、ErbB2のA1a419に対応する残基がGly残基であるErbB3/ErbB4では問題を起こさないと思われる(図1)。EGFRの Asn12はリガンドの結合に主要な残基であり、ErbB2以外の全てのEGFRファミリーで厳密に保存されている。EGFRの非リガンド結合形がErbB2と同じコンホメーションを有することができるならば、Asn12(ErbB2のMetlOに相当)はHis409(ErbB2のAsn417)と立体的に衝突し、L2の主なβシートの最終鎖上のLys463及びLys465(ErbB2の疎水性残基A1a471及びLeu473に相当)は、それぞれArg29及びAsp22と重複するであろう。EGFR/ErbB3/Erb4では残基29及び463は塩基性(Lys/Arg)であるが、ErbB2ではそれぞれHis及びAlaであるため、立体衝突以外に静電斥力も重要であり得る。よって、ErbB2のドメイン1〜3でみられる「クローズド」コンホメーションはこの受容体ファミリーの一般的な特性ではなく、ErbB2分子に独特と考えられる。
【0195】
(実施例2:リガンド結合領域の分析)
ErbB2及びEGFRの構造の比較は、ErbB2がなぜEGF、TGFα又はニューレギュリンのようなリガンドと結合しないかを示している。リガンドであるTGFαを伴うEGFRのLドメインを、大βシートの鎖を用いてErbB2の対応するLドメインと重ね合わせた。リガンドの結合を妨害すると思われるErbB2のL1の残基は、L1ドメインのN末端短鎖上のArg13(ErbB1、ErbB3及びErbB4ではThr、Ser及びSerに置換)及びPro15(ErbB1、ErbB3及びErbB4ではLeu、Thr及びLeuに置換)である(図1)。EGFRでは、残基13-15はリガンドと共にβシートを形成する。Arg13単独の存在はリガンドの結合を防止するようである。それは、この残基が界面の中心に位置するからである。受容体の側鎖が小さくない限り、リガンドの側鎖のための空間はない。EGFRにおける別の重要な残基はAsnl2であり、その側鎖はリガンドの主鎖と2つの水素結合を形成する。AsnはEGFR、ErbB3及びErbB4に存在するが、ErbB2では相当する残基(Met10)はVal8とPro15との間に埋もれ、リガンド相互作用に利用できない。ErbB2とのEGF関連リガンドの結合を妨害すると思われるL1ドメインの別の残基はAsp98であり、他のErbBファミリーのメンバーではこの残基はSer又はLeuであり(図1)、Asp98はTGFαのG1u27と衝突すると思われる。
【0196】
Kohdaら、1993(J.Biol.Chem.268、1976〜1981頁)による観察は、リガンドが低親和性ではあるがL2単独と結合できることを示している。L2ドメインではErbB2と他のErbB受容体との間の差はいっそうわずかである。TGFαの高度に保存されたArg42と塩の架橋を形成するEGFRのAsp355(Garrettら、2002)は、ErbB2を含めた全てのEGFRホモログで保存されている。しかし、ErbB2では近隣ループにおける残基324〜334の動きがこの残基(Asp363)の位置を撹乱するようである。His346及びG1n384のようなEGFRのL2結合部位における他の残基はErbB2では小さいため(A1a354及びSer392)、ErbB2との結合は、低親和性であることが期待される。
【0197】
EGFRホモログのリガンド結合面は決して保存性が高くなく、各ErbB受容体は独自のリガンド結合特性を有する。ErbB3及びErbB4はニューレギュリン群と主に結合する。繰り返すが、ErbB2はこのリガンドのサブファミリーと相互作用せず、EGFRのリガンド結合面に相当する位置にあるErbB2の残基は、L1及びL2の結合面を明らかに分断する(図1)。
【0198】
(実施例3: CR1の差)
TGFα:EGFR複合体においてCR1の顕著な特性は、大きなループ(残基242〜259)であり、そのループは棒状のCR1から伸び受容体のホモ二量体化とシグナル伝達に主要な役割を果たす。このループは他のEGFRホモログとは限られた配列相同性しか有さず(33〜44%)、受容体の二量体化がこのループのコンホメーションに影響を及ぼすどうかは明らかでなかった。結晶ではErbB2は単量体として存在し、CR1ループは溶媒に突き出し、結晶が接触する近隣分子に向かって位置する。ErbB2及びEGFRのこのループの重ね合わせは、ErbB2ループの主鎖がEGFR二量体でみられるのと非常に類似した構造(15個のCαに対するrmsdは0.61A)を採り、先端でのみわずかな差がみられることを示している。よって、このループは二量体化していない状態でさえも確定したコンホメーションを有すると思われる。この構造を維持する上で重要な残基は、種々のホモログの種々の位置でみられるプロリン、特にPro257(EGFR)及び2つの完全に保存されたアスパラギン(EGFRでは残基247及び256)であり、これらの残基は主鎖の原子と水素結合により接触している。ErbB2においてこのループは、対応するEGFRの第五富cysモジュールに対してわずかに屈曲している(12〜13°)。
【0199】
CR1ドメインの全体的比較は、EGFRに対してそれが滑らかに屈曲しているのではなく、3か所で局所的に屈曲していることを示している。個々のモジュールについて、Cαの位置におけるrms偏差は1Å未満であるが、ドメイン全体ではrms偏差は1.7/1.8Åである(117個の残基の106/98)。富cysモジュール2〜4は、ErbB2及びEGFRの両方でL1に対して同様の位置になり、屈曲は第四モジュールと第七モジュールとの界面で起こる。最も大きい屈曲は第四モジュールと及び第五モジュールとの間のCR1中央(21/25°)に存在するが、他の差(第五モジュールと第六モジュールとの間の11°、第六モジュールと第七モジュールとの間の15/27°)及び第七モジュールとL2ドメインの間との37/32°の屈曲が共にL1に関してL2を再配向する変化のセットを構成している。
【0200】
(実施例4:二量体化の意味)
CR1の転位、したがってこのコンホメーションにおいてErbB2がリガンドとEGFRとの1:1複合体と共にヘテロ二量体を形成する能力は、EGFRにみられるように3つの作用を有する。ErbB2のCR1からの第五富cysモジュールを、EGFR二量体の2分の1と重ね合わせると、ErbB2の第四及び第五モジュールの屈曲はErbB2のN末先端がもう一方の分子上の対応する領域から離れ、その領域は背中合わせの接触から移動する。ErbB2の富cysモジュール6及び7での屈曲は、モジュール8をEGFRのモジュール7と接触させるであろう。しかし、さらに重要なことにはErbB2の第四及び第五モジュールでの屈曲は、ErbB2のL1ドメインをパートナーのCR1ループの先端に近づけ、EGFR)のThr249がErbB2のThr84及びG1n60と重複するようにする。したがって、ErbB2はクローズド形でEGFRと相互作用できそうにないと考えられる。いくつかの小さな構造転位があると、ErbB2のCR1ループの先端はEGFRに収容され得るであろう。
【0201】
(実施例5:ErbB2活性をモジュレートする化合物のin silicoでのスクリーニング)
公知の三次元構造又はモデリングした三次元構造の標的タンパク質に対する化合物の大データベースの分子ドッキングは、新しい先導化合物の同定に今や一般的な取り組みである。この「仮想スクリーニング」の取り組みは、リガンドの結合モードの迅速で正確な推定とリガンドの親和性の推定値に頼っている。概して実在又は仮想の化合物の大データベースを標的構造とドッキングさせ、最良の潜在的リガンドのリストを作る。この順位は活性化合物に富むはずであり、それから最良の潜在的リガンドをさらなる実験による評価に回すことができる。
【0202】
静的なタンパク質構造に対して、柔軟な方法でリガンドをドッキングできる分子ドッキングプログラムにより、リガンドの結合モードの計算を行ってもよい。リガンドの親和性の推定は、別々のスコアリング関数の使用により概して行われる。これらのスコアリング関数には経験による関数[DOCKポテンシャルエネルギー、Chemscore、Score]、又は知識に基づく平均力のポテンシャル[PMF、SMoG]がある。コンセンサススコアリングは、多数のスコアリング関数で各リガンドを再スコアリングしてから、これらの順位の組み合わせを用いてヒットリストを作製することを必要とする。
【0203】
我々は、リガンドの結合の都合のよいコンホメーションを作製するためにDOCKプログラム(4.0.1版)を使用した。プロトン及びコルマン全原子電荷をSybyl6.7のBiopolymerモジュールを用いてタンパク質に加え、他の全ての原子を固定してプロトンの位置を最小化した。スコアリンググリッドをグリッド分解能0.25オングストロームでGRIDプログラムを用いて計算した。DOCKエネルギー関数を用いて全てのコンホメーションを最小化した。リガンドデータベースのドッキングを、以前に同定した部位に向けた。Score、Score-Quality推定値、DOCKエネルギー関数、PMF、PMF-RB(回転可能な結合に対してペナルティを有するPMF関数)、SMoG関数、SMoG/H(リガンド重原子の数によりスケールされるSMOG関数)、Chemscore、及びAutodock Scoring関数を含めた9つのスコアリング関数を使用した。DOCKポテンシャルエネルギーを用いたDOCKプログラムから得られた25個の最良解から、9つの異なるスコアリング法による順位毎の一致を用いて、リガンドのコンホメーションを選択した。(最良の一致により順位付けされたコンホメーションにおける)各リガンドについての個々のスコアの一致を用いて、順位づけした化合物のリストを作製した。
【0204】
上位4つの化合物(化合物39293、94289、19378及び20697)が得られ、上記の方法にしたがって、それらがErbB2キナーゼ活性をモジュレートする能力を試験した。これらの阻害アッセイの結果を図3に示す。これらの結果は、試験した4つの化合物全てが10-1から102μMの濃度でErbB2キナーゼ活性を阻害したことを示している。
【0205】
(結論)
ErbB2(1〜509)単量体、TGFα:sEGFR501の2:2二量体複合体(Garrettら、2002)及びEGF:EGFR621の2:2二量体複合体(Ogisoら、2002)、リガンドが結合していないErbB3エクトドメイン単量体(Cho and Leahy, 2002)及びIGF-1Rの関係するL1/富cys/L2断片(Garrettら、1998)の3D構造を入手できることは、ErbB2受容体の機能に関係する顕著な問題のいくつかを探索する枠組みをもたらす。これらの比較の著しい特性は、CR1/L2結合部に存在する柔軟性であり、その柔軟性がL1/CR1領域に対するL2ドメインの配置に主な差を招く。
【0206】
リガンドが結合していないErbB3全長エクトドメインの構造は、IGF-1R断片の構造よりもさらにオープンであり、L2ドメインが回転してL1ドメインからさらに離れている(図3)。このオープンコンホメーションは、2つのEGFR/リガンド二量体構造、及びここで報告されたErbB2(1〜509)構造でみられたL1及びL2ドメインのクローズド配置とは大きく異なる。オープンコンホメーションは、単一の主鎖/主鎖水素結合、並びにCR1ループ(残基242〜259)におけるTyr246、Phe251及びG1n252と、CR2におけるAsp562、G1y563、His565(モジュール5)及びLys583(モジュール6)との間の側鎖相互作用により安定化されている。これらの接触する残基は、EGFR及びErbB4では保存されているが、ErbB2では保存されていない(Cho及びLeahy、2002)。ErbB3のこのオープン構造は、sEGFR501がリガンドとの高親和性結合を示すのに比べて可溶性全長EGFRエクトドメインがリガンドと顕著に低親和性の結合を示すことを説明している。sEGFR501はCR2のモジュール2〜7を欠くため、これらの接触を行うことはできない。リガンドが誘導するEGFR二量体の形成に、同一のCR1ループが決定的に関与していることは、リガンドが結合した後にCR1ループがそのような二量体相互作用に利用できるようになることを示唆している。
【0207】
ここでみられるリガンドが結合していないErbB2(1〜509)断片の「クローズド」構造では、L2ドメインの底部がL1ドメインの上部に載っており、これはEGFR/リガンド複合体にみられるのと類似したドメインの「疑似活性」配置に似ている(Garrettら、2002;Ogisoら、2002)。このクローズド構造は、全長エクトドメインのコンホメーションを表している可能性がある。それは、ErbB3のCR1ループ/CR2相互作用に関与する残基がErbB2では保存されおらず(Cho及びLeahy、2002)、そのような束縛性のCR1/CR2相互作用がリガンドTGFα:sEGFR501と結合していない受容体では寛容されないおそれがあるからである。
【0208】
モノクローナル抗体には阻害するもの、刺激するものもあれば細胞増殖に作用を及ぼさないものもあるため、ErbB2の3D構造によりそれらの抗体のエピトープをマッピングし、それらの作用モードを推測することも可能になる。mAbsL87、N28及びN12のエピトープは、(成熟受容体についての番号で)Cys199-Cys214、Thrl95-Cys214及びCys510-A1a565の領域にそれぞれ位置する(Yip YL、Smith G、Koch J、Dubel S、Ward RL.「Identification of epitope regions recognized by tumor inhibitory and stimulatory anti-ErbB-2 monoclonal antibodies: implications for vaccine design」J Immunol:166(8):5271〜8、(2001))。mAbsL87及びN28(それぞれ乳癌細胞系のサブセットの増殖に無作用であるか、又はその増殖を刺激することが報告されている)のエピトープはCR1の第二富cysモジュールに位置し、阻害性抗体であるmAbN12のエピトープはCR2の富cysモジュール2〜4を含む大きな領域内に位置する(図2)。同様に、潜在的に治療性の抗ErbB2モノクローナル抗体であるMGr6(Orlandi R、Formantici C、Menard S、Boyer CM、Wiener JR、Colnaghi M.「A linear region of a monoclonal antibody conformational epitope mapped on p185HER2 oncoprotein.」J. Biol Chem.378(11):1387〜92頁、(1997))のエピトープはCR1の第三モジュールにおける(成熟受容体についての番号で)残基207〜215を含むことが示された。
【0209】
CR2領域は、阻害性ペプチドのセットの作用部位としても関係している。阻害性ペプチドは、ハーセプチンのCDR3ループを模倣するように本来設計され、ErbB2との結合をハーセプチンと競合することが示された。ErbB2のヘテロ二量体の形成に寄与することが示された領域であるCR2のモジュール4〜6における配列を模倣する、次の阻害性ペプチドのセットが設計された。ErbB2機能の他の阻害薬には、ErbB2のスプライス変異体であるハースタチン及び低分子富ロイシンリピートプロテオグリカンであるデコリンがある。デコリンによる乳癌細胞におけるErbB2機能の阻害は間接的であり、恐らく直接結合によるErbB4の不活性化を伴うことが示された。
【0210】
これらの受容体の3D構造を入手できると、これらの阻害剤の正確な作用機作の決定及びErbB受容体の機能を妨害する新しい取り組みの設計を容易になるであろう。
【0211】
本適用に引用した全ての出版物の開示は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0212】
広く記載された本発明の精神又は範囲から離れることなしに、特定の実施形態に示されるように、本発明に多数の変更及び/又は改造を加え得ることは当分野の専門家により認識されている。したがって、本実施形態は全ての点で例示であり限定するものではないとみなされる。
[別紙I]



































































【図面の簡単な説明】
【0213】
【図1】ErbBファミリーの他のメンバーと比較したヒトErbB2エクトドメインの構造に基づく配列アライメントを示す図である。(A)受容体のL1及びL2ドメイン並びに富cys領域の第一モジュールであるCR1及びCR2。アミノ酸の生理化学的性質が保存されている位置を四角で囲む。ジスルフィド結合を実線で示す。二次構造エレメントを配列の上下に示し、αらせんを円筒でβ鎖を矢印で示す。L1/L2界面に埋もれた残基をRで示す。配列の入手源:EGFR(Ullrichら、1984、Nature 309、418〜425頁)、ErbB2(Yamamotoら、1986)、ErbB3(Krausら、1989、Proc Natl Acad Sci USA.86、9193〜9197頁;Plowmanら、1990、Proc.Natl Acad.Sci.USA.87、4905〜4909頁)、ErbB4(Plowmanら、1993、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.90、1746〜1750頁)。(B)ErbBファミリーの富cys領域CR1のモジュール2〜8及びCR2のモジュール2〜7。ジスルフィド結合したモジュール3種を配列の下の棒線で示す。富cys配列の部分の下の白い棒線は(Cys1-3及び2-4の並び方で)2つのジスルフィド結合を有するモジュールを示し、黒い棒線は単一ジスルフィド結合を含みβフィンガーモチーフを有するモジュールを示し、点棒線は5つの残基のみから成るジスルフィドで連結した屈曲に存在する残基を示す。ジスルフィド結合を実線で示し、これは点線で示したCR1のパターンに適応しない結合を除いている。かっこ内の数字はアミノ酸を省略した位置を示す。四角で囲んだ残基及び二次構造エレメントはA単位である。
【図2】ErbB2の残基1〜509についてのポリペプチドフォールド、並びにTGFαとの2:2複合体でみられるEGFR(1〜501)及びErbB3の全長エクトドメインとの比較を示す図である。
【図3】EGFR-K721R(キナーゼ欠損EGFR)+全長ErbB2でerbB2を発現する細胞系に取り込まれるチミジンの、化合物39293、94289、19378及び20697による阻害率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ErbB2の潜在的モジュレータ化合物を同定する方法であって、
(a)
(i)別紙Iに示す原子座標を有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標を有するErbB2ポリペプチドのアミノ酸1〜509;又は
(ii)別紙Iに示す原子座標の対応するサブセットを有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標の対応するサブセットを有する、前記アミノ酸のサブセット;
の三次元構造を提供すること;
(b)候補化合物の三次元構造を提供すること;
(c)工程(b)の三次元構造と工程(a)の三次元構造の領域との間の立体化学的相補性を評価すること;及び
(d)前記立体化学的相補性に基づいて化合物を選択すること;
を含む方法。
【請求項2】
(e)工程(a)の三次元構造のトポグラフィの領域に対する立体化学的相補性を有すると、工程(c)で評価された候補化合物を合成又は獲得すること;
(f)前記候補化合物がErbB2と相互作用し、かつ/又はErbB2の活性をモジュレートする能力を決定すること;
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミノ酸サブセットが、CR1ドメインと、L1ドメイン、CR1ドメイン及びL2ドメインの間の潜在的CR1ループドッキング部位と、CR1-L2ヒンジ領域と、クローズドコンホメーションで互いに接するL1ドメイン及びL2ドメインの領域とのうちの少なくとも1つから選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記アミノ酸サブセットがEGF受容体ファミリーの別のメンバーとのヘテロ二量体接触面の少なくとも一部を規定する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記EGF受容体ファミリーのメンバーがErbB1(EGF受容体)、ErbB3及びErbB4から成る群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ヘテロ二量体接触面が、(i)CR1ドメインのN末端、(ii)CR1ドメインの二量体化ループ及び近隣残基、並びに(iii)CR1ドメインのC末端のうちの少なくとも1つを含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記面が200〜203、210〜213、216〜218、225〜230、247〜268、244〜246、285〜289及び294〜319から選択される残基のうちの少なくとも1つを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記サブセットがCR1ループドッキング部位を規定する、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記ドッキング部位が、以下のErbB2残基:Gln36、Gln60、Arg82、Thr84、Gln85、Phe237、Thr269、Phe270、Gly271、Ala272、Tyr282、Thr285、Gly288、Ser289、Cys290、Thr291、Leu292、Val293、Cys294、Pro295及びCys310の少なくとも1つを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法がin silicoで実行される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記候補化合物が実在化合物、仮想化合物又はその組み合わせから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記化合物が少なくとも1つの他の候補化合物と共にライブラリーの中に存在する、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が標的スクリーニングに使用される、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ライブラリーが最大限に多様な化合物のアレイを含む、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ErbB2をモジュレートする方法であって、CR1ドメインと、L1ドメイン、CR1ドメイン及びL2ドメインの間の潜在的CR1ループドッキング部位と、CR1-L2ヒンジ領域と、クローズドコンホメーションで互いに接するL1ドメイン及びL2ドメインの領域とのうちの少なくとも1つから選択される領域と合致する化合物と前記受容体を接触させることを含む方法。
【請求項16】
前記領域がEGF受容体ファミリーの別のメンバーと前記受容体のヘテロ二量体接触面である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記EGF受容体ファミリーの他のメンバーがErbB1(EGF受容体)、ErbB3及びErbB4から成る群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ヘテロ二量体接触面が、(i)CR1ドメインのN末端、(ii)CR1ドメイン二量体化ループ及び近隣残基、並びに(iii)CR1ドメインのC末端のうちの少なくとも1つを含む、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記面が200〜203、210〜213、216〜218、225〜230、247〜268、244〜246、285〜289及び294〜319から選択される残基のうちの少なくとも1つを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記領域がCR1ループドッキング部位である、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項21】
前記領域が、以下のErbB2残基:Gln36、Gln60、Arg82、Thr84、Gln85、Phe237、Thr269、Phe270、Gly271、Ala272、Tyr282、Thr285、Gly288、Ser289、Cys290、Thr291、Leu292、Val293、Cys294、Pro295及びCys310の少なくとも1つを含む請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記分子が低分子モジュレータである、請求項15から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記低分子が請求項1の方法により同定される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記分子が抗体である、請求項15から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
ErbB2の候補モジュレータを同定する、コンピュータに基づく方法であって、
(a)別紙Iに示す原子座標を有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標を有するErbB2ポリペプチドのアミノ酸1〜509;又は
(b) 別紙Iに示す原子座標の対応するサブセットを有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標の対応するサブセットを有する、前記アミノ酸のサブセット;
の構造を候補モジュレータ分子の構造に対してフィッティングすることを含む方法。
【請求項26】
処理装置、入力デバイス、及び出力デバイスを備えるプログラムされたコンピュータを用いた、ErbB2と相互作用することにより受容体により仲介される活性をモジュレートできる候補化合物を同定するためのコンピュータ援用法であって、
(a)別紙Iに示すErbB2のアミノ酸1〜509の原子座標、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標、又は前記座標のサブセットを含むデータを、前記のプログラムされたコンピュータに、前記入力デバイスを介して入力する工程;
(b)工程(a)で入力された原子座標に対する立体化学的相補性を有する構造の原子座標のセットをコンピュータ法を用いて作製することによって、基準データセットを作製する工程;
(c)前記処理装置を用いて、前記基準データセットを化学構造のコンピュータデータベースと比較する工程;
(d)コンピュータ法を用いて、前記基準データセットの一部分と類似した化学構造を前記データベースから選択する工程;及び
(e)前記基準データセットの一部分に相補的であるか、又は類似している前記の選択された化学構造を、前記出力デバイスに出力する工程;
を含む方法。
【請求項27】
候補モジュレータがErbB2と相互作用する能力の評定方法であって、前記方法が、
(a)構造座標を用いてErbB2の少なくとも1つの領域のコンピュータモデルを提供する工程であって、ここで、前記構造座標と、別紙Iに示すErbB2のアミノ酸1〜509の構造座標との間の二乗平均平方根偏差は1.5Åを超えない;
(b)コンピュータ手段を使用して前記化学物質と結合面の前記コンピュータモデルとの間のフィッティング演算を実行する工程;及び
(c)前記フィッティング演算の結果を解析して前記化学物質と前記結合面モデルとの間の関連を定量する工程;
を含む方法。
【請求項28】
ErbB2の1つ又は複数の候補モジュレータを同定するコンピュータシステムであって、
(a)別紙Iに示す原子座標を有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標を有するErbB2ポリペプチドのアミノ酸1〜509;又は
(b)別紙Iに示す原子座標の対応するサブセットを有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標の対応するサブセットを有する、前記アミノ酸のサブセット;
の構造を表示するデータを含むシステム。
【請求項29】
分子又は分子複合体の三次元表示を製作するためのコンピュータであって、前記コンピュータが、
(a)機械可読なデータをコードしたデータ記憶物を有する機械可読なデータ記憶媒体;
(b)前記機械可読なデータを処理するための命令を格納するワーキングメモリ;
(c)前記機械可読なデータを三次元表示に処理するための、前記ワーキングメモリ及び前記の機械可読なデータ記憶媒体に結合した中央処理装置;並びに
(d)前記三次元表示を受信するための、前記中央処理装置に結合した出力ハードウェア;
を備え、
前記機械可読なデータが、(i)別紙Iに示すErbB2ポリペプチドのアミノ酸1〜509の原子座標、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標を含むか;又は(ii)別紙Iに示す原子座標の対応するサブセットを有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標の対応するサブセットを有する、前記アミノ酸のサブセットの原子座標を含む;
コンピュータ。
【請求項30】
ErbB2結晶のモデル及び/又は原子座標を表示するデータを記録された、コンピュータ可読な媒体。
【請求項31】
別紙Iにしたがう座標データ又はそのサブセットを記録されたコンピュータ可読な媒体であって、前記座標データが、ErbB2ポリペプチドのアミノ酸1〜509若しくは前記アミノ酸のサブセットの三次元構造を規定するか、又はバックボーン原子を、別紙Iにしたがう原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する座標データ若しくはそのサブセットを規定する、媒体。
【請求項32】
ErbB2ポリペプチドの結晶。
【請求項33】
空間群P212121を有し、単位胞の寸法がa=75.96Å、b=82.24Å、及びc=110.06Åであり、いずれの胞の寸法も変動が約1%以下である、ErbB2ポリペプチドの結晶。
【請求項34】
ErbB2の結晶を含む結晶性組成物。
【請求項35】
未知構造の分子又は分子複合体についての構造情報を獲得するための分子置換の使用法であって、
(a)前記分子又は分子複合体を結晶化する工程;
(b)前記結晶化した分子又は分子複合体からX線回折パターンを作製する工程;及び
(c)別紙Iに示す構造座標の少なくとも一部分、又はバックボーン原子を、別紙Iに示す構造座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する構造座標の少なくとも一部分を、前記X線回折パターンに適用して、構造が未知である前記分子又は分子複合体の少なくとも一部分の三次元電子密度マップを作製する工程;
を含む方法。
【請求項36】
前記の未知構造の分子がErbB2又はそのバリアントである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記の未知構造の分子複合体がErbB2とEGF受容体との複合体である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記の未知構造の分子複合体が、ErbB2、ErbB1、ErbB3又はErbB4受容体と、リガンド又は候補リガンドとの複合体である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
ErbB2によるシグナル伝達に関連する疾患の予防法又は治療法であって、それを必要とする患者に、請求項1から27のいずれか一項の方法により同定された化合物を投与することを含む方法。
【請求項40】
請求項1から27のいずれか一項の方法により同定された化合物を含む医薬組成物。
【請求項41】
異常なErbB2シグナル伝達に関連する疾患を治療するための医薬組成物の調製法であって、
(a)
(i)別紙Iに示す原子座標を有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標を有するErbB2ポリペプチドのアミノ酸1〜509;又は
(ii)別紙Iに示す原子座標の対応するサブセットを有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標により描写される対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標の対応するサブセットを有する、前記アミノ酸のサブセット;
の三次元構造を提供すること、
(b)候補化合物の三次元構造を提供すること;
(c)工程(b)の三次元構造と工程(a)の三次元構造の領域との間の立体化学的相補性を評価すること;
(d)前記立体化学的相補性に基づいて化合物を選択すること;
(e)工程(a)の三次元構造に対する立体化学的相補性を有すると工程(c)で評価された候補化合物を合成又は獲得すること;
(f)前記候補化合物がErbB2と相互作用し、かつ/又はErbB2の活性をモジュレートする能力を決定すること;及び
(g)医薬組成物に前記化合物を混合すること;
を含む方法。
【請求項42】
ErbB2によるシグナル伝達に関連する疾患の予防法又は治療法であって、それを必要とする患者に、請求項40に記載の組成物を投与することを含む方法。
【請求項43】
ErbB2に結合する抗体であって、CR1ドメインのN末端、CR1ドメイン二量体化ループ及び近隣残基、並びにCR1ドメインのC末端のうちの少なくとも1つに対する抗体。
【請求項44】
請求項43に記載の抗体であって、(i)ErbB2のアミノ酸残基200〜203、(ii)ErbB2のアミノ酸残基210〜213、(iii)ErbB2のアミノ酸残基216〜218、(iv)ErbB2のアミノ酸残基225〜230、(v)ErbB2のアミノ酸残基247〜268若しくはそのサブセット、(vi)ErbB2のアミノ酸残基244〜246、(vii)ErbB2のアミノ酸残基285〜289、又は(viii)ErbB2のアミノ酸残基294〜319若しくはそのサブセットにより規定される構造に対する抗体。
【請求項45】
(i)ErbB2のアミノ酸残基200〜203、(ii)ErbB2のアミノ酸残基210〜213、(iii)ErbB2のアミノ酸残基216〜218、(iv)ErbB2のアミノ酸残基225〜230、(v)ErbB2のアミノ酸残基247〜268若しくはそのサブセット、(vi)ErbB2のアミノ酸残基244〜246、(vii)ErbB2のアミノ酸残基285〜289、又は(viii)ErbB2のアミノ酸残基294〜319若しくはそのサブセットから必須になる、コンホメーションが束縛された単離されたペプチド又はペプチド模倣体。
【請求項46】
ErbB2のための潜在的モジュレータ化合物を同定するin vitroアッセイであって、候補化合物をCR1ドメイン二量体化ループ又はその断片と接触させること、及び前記化合物が前記二量体化ループ又はその断片と結合するかどうかを決定することを含む方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ErbB2の潜在的モジュレータ化合物を同定する方法であって、
(a)別紙Iに示す原子座標を有するか、若しくはバックボーン原子を、別紙Iに示す原子座標を有する対応するバックボーン原子と重ね合わせた場合に、1.5Åを超えない前記バックボーン原子の二乗平均平方根偏差を有する原子座標を有する、ErbB2ポリペプチドのアミノ酸1〜509によって形成された構造に、エネルギー的に都合が良く結合する化合物を設計すること又は選択すること;及び
(b)工程(a)で設計又は選択した化合物の、ErbB2と相互作用する能力及び/又はErbB2の活性をモジュレートする能力を調べること;
を含む方法。
【請求項2】
前記化合物が、CR1ドメインと、L1ドメイン、CR1ドメイン及びL2ドメインの間の潜在的CR1ループドッキング部位と、CR1-L2ヒンジ領域と、クローズドコンホメーションで互いに接するL1ドメイン及びL2ドメインの領域とのうちの少なくとも1つから選択されるアミノ酸のサブセットに結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミノ酸サブセットがEGF受容体ファミリーの別のメンバーとのヘテロ二量体接触面の少なくとも一部を規定する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記EGF受容体ファミリーのメンバーがErbB1(EGF受容体)、ErbB3及びErbB4から成る群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ヘテロ二量体接触面が、(i)CR1ドメインのN末端、(ii)CR1ドメインの二量体化ループ及び近隣残基、並びに(iii)CR1ドメインのC末端のうちの少なくとも1つを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記面が200〜203、210〜213、216〜218、225〜230、247〜268、244〜246、285〜289及び294〜319から選択される残基のうちの少なくとも1つを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記サブセットがCR1ループドッキング部位を規定する、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記ドッキング部位が、以下のErbB2残基:Gln36、Gln60、Arg82、Thr84、Gln85、Phe237、Thr269、Phe270、Gly271、Ala272、Tyr282、Thr285、Gly288、Ser289、Cys290、Thr291、Leu292、Val293、Cys294、Pro295及びCys310の少なくとも1つを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記方法がin silicoで実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記候補化合物が実在化合物、仮想化合物又はその組み合わせから選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記化合物が少なくとも1つの他の候補化合物と共にライブラリーの中に存在する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が標的スクリーニングに使用される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記ライブラリーが最大限に多様な化合物のアレイを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
ErbB2ポリペプチドの結晶。
【請求項15】
空間群P212121を有し、単位胞の寸法がa=75.96Å、b=82.24Å、及びc=110.06Åであり、いずれの胞の寸法も変動が約1%以下である、ErbB2ポリペプチドの結晶。
【請求項16】
ErbB2の結晶を含む結晶性組成物。
【請求項17】
ErbB2に結合する抗体であって、CR1ドメインのN末端、CR1ドメイン二量体化ループ及び近隣残基、並びにCR1ドメインのC末端のうちの少なくとも1つに対する抗体。
【請求項18】
請求項17に記載の抗体であって、(i)ErbB2のアミノ酸残基200〜203、(ii)ErbB2のアミノ酸残基210〜213、(iii)ErbB2のアミノ酸残基216〜218、(iv)ErbB2のアミノ酸残基225〜230、(v)ErbB2のアミノ酸残基247〜268若しくはそのサブセット、(vi)ErbB2のアミノ酸残基244〜246、(vii)ErbB2のアミノ酸残基285〜289、又は(viii)ErbB2のアミノ酸残基294〜319若しくはそのサブセットにより規定される構造に対する抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−520182(P2006−520182A)
【公表日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−540382(P2004−540382)
【出願日】平成15年10月6日(2003.10.6)
【国際出願番号】PCT/AU2003/001310
【国際公開番号】WO2004/031232
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(591269435)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガニゼーション (23)
【氏名又は名称原語表記】COMMONWEALTH SCIENTIFIC AND INDUSTRIAL RESEARCH ORGANIZATION
【出願人】(500025570)ルードヴィッヒ インスティテュート フォー キャンサー リサーチ (16)
【出願人】(302009017)ウォルター アンド エリザ ホール インスティテュート オブ メディカル リサーチ (3)
【Fターム(参考)】