説明

FEM解析を利用した柔軟物の形状解析システム

【課題】ワイヤーハーネス等の柔軟物が、自動車の特定位置に配設されるとき、その経時的な形状を正確に再現することはできなかった。
【解決手段】モーションキャプチャ装置1により検出された形状解析対象物Wの特定位置の特定部位の移動を座標データに変換する座標変換部2と、形状解析対象物の特定部位の移動量を算出する軌跡データ作成部3と、部品データを登録する部品データ登録部4と、軌跡データと部品データをリンクさせる部品軌跡リンク部5と、解析条件入力部6と、形状解析対象物の特定位置での特定部位の各移動量を元に、特定位置での形状解析対象物の形状を解析するFEM解析部7と、画面に表示する再生表示部8とを有し、FEM解析部7によって形状解析対象物の特定位置での形状を有限要素法により解析し、再生表示部8によって再生し、この操作を繰り返し特定位置での形状を経時的に解析する柔軟物の形状解析システムによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ワイヤーハーネス、バンパー等の柔軟物を自動車等に配設する場合に、その配設作業時に、その配設場所における柔軟物の具体的な動きをモーションキャプチャ装置を使って検出するとともにFEM解析(有限要素法による解析)を利用してそれらの特定位置における形状を正確に再生、登録するFEM解析を利用した柔軟物の形状解析システムに関する。詳細には、ワイヤーハーネス等の線状柔軟物を自動車等に配設する場合に利用されるFEM解析を利用した柔軟物の形状解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2005−38398号公報(従来技術1)に「ワイヤーハーネス等の線状柔軟物、バンパー等の柔軟物の特定部位の移動に伴う柔軟物の変形過程を解析して画像表示する柔軟物の変形解析装置」の開示がある。
【0003】
従来技術1の「柔軟物の変形解析装置」は、「柔軟物の特定部位の移動に伴う柔軟物の変形過程を解析して、画像表示装置の画面に表示するようになった柔軟物の変形解析装置において、画面上の三次元仮想空間に柔軟物の三次元形状を模したグラフィック表示を行う画像表示手段と、所定部位で拘束されている柔軟物の特定部位が画面上で指示されて移動させられた移動位置を三次元座標値として認識する座標値認識手段と、柔軟物の物性データ、形状データ及び拘束条件を入力条件として、認識された移動位置の三次元座標値データに応答して、有限要素法により特定部位の移動に伴って初期状態の柔軟物の解析モデルが変形するのを解析して変形解析モデルを逐次作成する変形解析手段とを備え、画像表示手段が、解析された変形解析モデルに応答して、変形した柔軟物の三次元形状を模したグラフィック表示を逐次行うことを特徴とする」装置である。
【0004】
この従来技術1の「柔軟物の変形解析装置」は、ワイヤハーネス等の柔軟物について、その一端に取付けられたコネクタの着脱操作時に周辺部品に干渉せずに着脱できるか否か、或はプレート状の部品を強制的に撓ませて実装状態に取付ける際に干渉しないか否か等のように、解析対象となる柔軟物の特定部位の移動に対して、柔軟物の一連の変形過程を視覚的に確認するような解析装置は存在していないという課題を解決するために発明されたものである。
【0005】
図5に従来技術1のシステム構成図、図6に従来技術1のフローチャートを示す。柔軟物の移動をマウスによって操作するデータ操作部10によって柔軟物の移動量を得て、その移動量と、部品データ登録部に登録されている部品データとをFEM解析するものである。
【0006】
また、様々な動きを検出、記録、再現するモーションキャプチャ装置の従来技術の一つとしてとして特開2007−236602号(従来技術2)に以下のような記載がある。
【0007】
従来技術2のモーションキャプチャ装置は「手指の繊細な動きを記録・再現するための磁気式位置姿勢センサを用いた手指用モーションキャプチャ装置に関する」ものであり、その構成は「ケーブルを細線化した小型軽量のトランスミッタと16個のセンサを用いた磁気式3次元位置姿勢センサを用いて手指の動きを計測することを特徴とするモーションキャプチャ装置」である。
【特許文献1】特開2005−38398号公報(従来技術1)
【特許文献2】特開2007−236602号公報(従来技術2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら従来技術1の「柔軟物の変形解析装置」は、図5及び図6に示すようにマウスである「データ操作部」を操作することによって「画面上の三次元仮想空間に柔軟物の三次元形状を模したグラフィック表示を行い」、データ操作部の操作量を「移動量取得部」によって対象の柔軟物の移動量に変換し、「解析条件入力部」「有限要素法解析部」によって解析された結果を結果表示部によって表示するものである。
【0009】
したがって、対象たる1つの柔軟物の変形の様子(移動軌跡)は、あくまでもその対象たる1つの柔軟物のデータからデータ操作部であるマウスの操作によって移動量を作成するものであり、イメージは再現でき視覚的に確認できるが、個々の具体的なワイヤーハーネス、バンパー等の柔軟物が、自動車等の各部位に配設されるときの変形の様子(移動軌跡)を正確に再現することはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、上記課題を解決するために、
形状解析対象物の特定位置での特定部位の移動を検出するモーションキャプチャ装置と、
モーションキャプチャ装置によって検出された形状解析対象物の特定位置での特定部位の移動を座標データとして取り込み、その座標データを有限要素法解析用の座標データに変換する座標変換部と、
座標変換部によって三次元座標値とした形状解析対象物の特定位置での特定部位の各移動点の軌跡を軌跡データとして作成し記録するとともに、形状解析対象物の特定部位の各移動点間のピッチに基づいて移動量を算出する軌跡データ作成部と、
それぞれの形状解析対象物である部品の特性データを登録する部品データ登録部と、
軌跡データ作成部によって作成された形状解析対象物の特定位置での特定部位の軌跡データと、登録されている部品の特性データをリンクさせる部品軌跡リンク部と、
部品軌跡リンク部と部品データ登録部とからのデータをFEM解析部へ入力する解析条件入力部と、
形状解析対象物の特定位置での特定部位の各移動量を元に、特定位置での形状解析対象物の形状を有限要素法により解析するFEM解析部と、
FEM解析部から送られてきた形状解析対象物の形状を画面に表示する再生表示部とを有し、
FEM解析部によって形状解析対象物の特定位置での形状を、形状解析対象物の移動量と、部品データ登録部の部品の特性データを元にして有限要素法により解析し、
形状解析対象物の特定位置での形状を再生表示部によって再生し、この操作を繰り返すことによって特定位置での形状を経時的に解析することを特徴とするFEM解析を利用した柔軟物の形状解析システムを提案する。
【0011】
また、柔軟物が線状柔軟物である0010欄に記載のFEM解析を利用した柔軟物の形状解析システムを提案する。
【0012】
更に、線状柔軟物が、端部にコネクタが接続されたワイヤハーネスであり、コネクタを外した状態を想定して端部が特定部位として移動させられる線状柔軟物である0011欄に記載のFEM解析を利用した柔軟物の形状解析システムを提案する。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、従来ある柔軟物の特定位置での移動軌跡を、柔軟物のデータを利用してマウスによって仮想3次元空間の中での再現をしていたが、現実の作業者によって移動する具体的な柔軟物又は柔軟物を操作する作業者の手などの形状解析対象物、すなわちワイヤーハーネス、バンパー等の柔軟物の移動軌跡をモーションキャプチャ装置によって検出した具体的なデータに基づいて作業軌跡を得て、その移動量を元に有限要素法によってFEM解析し、それを繰り返すことによってある柔軟物の特定位置における形状を正確に予想することができる。
【0014】
そのため、ワイヤーハーネス、バンパー等の柔軟物を自動車等の各部位に配設されるとき、その位置における柔軟物の変形の様子(移動軌跡)、作業者の操作するための動きや個々のワイヤーハーネスの端部に設けられるコネクタの向き等の具体的な様子が、登録されている同じワイヤーハーネスを同じ箇所に配設する状況と比較しながら行えるため、特定位置における柔軟物等の形状を従来に比し非常に正確に再現することができるようになった。
【0015】
更に、ある柔軟物の特定位置(ポジション)における作業軌跡と経時的な形状をデータとして登録しておくことによって、柔軟物を配設する場所の特性とその柔軟物の移動特性等の間隔関係データを蓄積することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明の実施の形態であるFEM解析を利用した柔軟物の形状解析システムについて、全体のシステム構成を示す図1、全体のフローチャートを示す図2、座標変換部によって表示される一つの表である図3、軌跡データ作成部と有限要素法解析部と軌跡再生表示部と部品軌跡比較部とにおけるデータの流れを示す説明図である図4に基づいて説明する。
【0017】
この発明の実施の形態であるFEM解析を利用した柔軟物の形状解析システムは、ワイヤーハーネス等の柔軟物である形状解析対象物Wの特定位置での特定部位の移動を検出するモーションキャプチャ装置1と、モーションキャプチャ装置1によって検出された形状解析対象物Wの特定位置での特定部位の移動を座標データとして取り込み、その座標データを有限要素法解析用の座標データに変換する座標変換部2と、座標変換部2によって三次元座標値とした形状解析対象物の特定位置での特定部位の各移動点の軌跡を軌跡データとして作成し記録するとともに、形状解析対象物の特定部位の各移動点間のピッチに基づいて移動量を算出し記録する軌跡データ作成部3と、それぞれの形状解析対象物である部品の特性データを登録する部品データ登録部4と、軌跡データ作成部3によって作成された形状解析対象物の特定部位の軌跡データと、登録されている部品データをリンクさせる部品軌跡リンク部5と、部品軌跡リンク部5と部品データ登録部4とからのデータをFEM解析部7へ入力する解析条件入力部6と、形状解析対象物Wの特定部位の各移動量を元に、特定位置での形状解析対象物Wの形状を有限要素法により解析するFEM解析部7と、FEM解析部7から送られてきた形状解析対象物の特定位置での形状を画面に表示する再生表示部8とを有する。
【0018】
モーションキャプチャ装置1は、ワイヤーハーネスW等の柔軟物又はその柔軟物を操作する作業者の手、手袋などの特定部位に装着される光学マーカ等からなる発信部1aと、発信部1aの位置情報によりワイヤーハーネスWの動きを検出・捕捉する受信部1bとからなる。この実施例ではモーションキャプチャ装置1の発信部1aは、光学式であるが、磁気式マーカでも、機械式でもよい。
【0019】
座標変換部2は、パソコンからなり、CPU、メモリ等を内蔵してプログラムにより作動し、モーションキャプチャ装置1の受信部1bから検出された柔軟物Wの特定位置での特定部位の移動データを座標データとして取り込み、その座標データを有限要素法解析用の座標データに変換する。それらの座標データは、ディスプレー部の画面に図4に示すようにワイヤーハーネスWの特定部位Pの移動点(P1、P2、P3−−−PN)として経時的に三次元座標値として表示される。
【0020】
軌跡データ作成部3は、座標変換部2によって三次元座標値とした柔軟物Wの特定位置における特定部位の各移動点の軌跡を軌跡データとして作成し記録するとともに、柔軟物Wの特定部位の各移動点間のピッチに基づいて移動量を算出し記録する。
【0021】
部品データ登録部4は、それぞれの形状解析対象物である部品、この実施形態ではワイヤーハーネスW等の柔軟物やコネクタ等の部品の特性データ、すなわちそれらの物性、拘束条件などのデータを登録している。
【0022】
部品軌跡リンク部5は、軌跡データ作成部3によって作成された一つの柔軟物Wの特定部位の軌跡データ(移動量)と、登録されている柔軟物Wの部品としての特性データ(物性、拘束条件)をリンクさせる。
【0023】
解析条件入力部6は、部品データ登録部4と部品軌跡リンク部5とからのデータをFEM解析部7へ入力する。
【0024】
FEM解析部7は、形状解析対象物であるワイヤーハーネスW等の柔軟物の特定位置での特定部位の各移動量を元に、特定位置でのワイヤーハーネスW等の柔軟物の形状を有限要素法により解析する。
【0025】
再生表示部8は、FEM解析部7から送られてきたワイヤーハーネスW等の柔軟物の特定位置での形状を画面に表示する。
【0026】
次に、この発明のシステムの流れを図2に示すフローチャート及び図3、図4に基づいて説明する。作業者によってワイヤーハーネスW等の柔軟物のある特定位置での特定部位の動きをモーションキャプチャー装置1によってデータとして受信部1bが獲得する。
【0027】
モーションキャプチャー装置1の受信部1bで得たワイヤーハーネスW等の柔軟物のある特定位置での特定部位の動きのデータは、座標変換部2でFEM解析用の座標データである三次元座標値として変換する。
【0028】
軌跡データ作成部3は、座標変換部2によって三次元座標値とした特定位置での特定部位Pの各移動点(P1、P2、P3−−−PN)の移動軌跡を軌跡データとして作成し記録する。次に軌跡データ作成部3は、その記録されたワイヤーハーネスWの特定部位の各移動点(P1、P2、P3−−−PN)間の軌跡データに基づいて、特定部位の移動点間の移動量(V1、V2、V3−−−VN)を算出する。このワイヤーハーネスWの特定部位Pの各移動点(P1、P2、P3−−−PN)間のピッチ(距離)は以下のような式によって各移動量(V1、V2、V3−−−VN)として算出される。
【0029】
V1=P2(X2、Y2、Z2)−P1(X1、Y1、Z1)
V2=P3(X3、Y3、Z3)−P2(X2、Y2、Z2)
V3=P4(X4、Y4、Z4)−P3(X3、Y3、Z3)

VN=PN+1(XN+1、YN+1、ZN+1)−PN(XN、YN、ZN)
【0030】
また、軌跡データ作成部3は、図3の表に示されるようにワイヤーハーネスW等の柔軟物のある特定位置での特定部位を3次元座標軸に基づいて回転させ、特定部位の向きを経時的に示すことができる。
【0031】
部品軌跡リンク部5は、軌跡データ作成部3によって作成された柔軟物Wの特定位置での特定部位の軌跡データ(移動量)と、登録されている柔軟物Wの部品としての特性データ(物性、拘束条件)をリンクさせる。
【0032】
FEM解析部7は、、部品軌跡リンク部5によって作成されたワイヤーハーネスWの特定位置における特定部位の移動量(V1、V2、V3−−−VN)を元に有限要素法解析(FEM解析)によって順次解析し、ワイヤーハーネスWの特定位置での形状を再生表示部8によって再生する。この作業を繰り返すことによってワイヤーハーネスWの特定位置でのワイヤーハーネスWの形状を経時的に解析する。
【産業上の利用可能性】
【0033】
この発明は、ワイヤーハーネス、バンパー等の柔軟物の自動車等に配設する場合に利用される。自動車の他、バイク等の二輪車、電機業界で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の実施の形態であるFEM解析を利用した柔軟物の形状解析システムの全体のシステム構成を説明する構成図
【図2】同じくこの発明の実施の形態の全体のフローチャート
【図3】同じく座標変換部によって表示される一つの表
【図4】同じく軌跡データ作成部とFEM解析部と再生表示部におけるシステムの流れを示す説明図
【図5】従来技術1のシステム構成図
【図6】従来技術1のフローチャート
【符号の説明】
【0035】
1 モーションキャプチャ装置
1a 発信部
1b 受信部
2 座標変換部
3 軌跡データ作成部
4 部品データ登録部
5 部品軌跡リンク部
6 解析条件入力部
7 FEM解析部
8 再生表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状解析対象物の特定位置での特定部位の移動を検出するモーションキャプチャ装置と、
モーションキャプチャ装置によって検出された形状解析対象物の特定位置での特定部位の移動を座標データとして取り込み、その座標データを有限要素法解析用の座標データに変換する座標変換部と、
座標変換部によって三次元座標値とした形状解析対象物の特定位置での特定部位の各移動点の軌跡を軌跡データとして作成し記録するとともに、形状解析対象物の特定部位の各移動点間のピッチに基づいて移動量を算出する軌跡データ作成部と、
それぞれの形状解析対象物である部品の特性データを登録する部品データ登録部と、
軌跡データ作成部によって作成された形状解析対象物の特定位置での特定部位の軌跡データと、登録されている部品の特性データをリンクさせる部品軌跡リンク部と、
部品軌跡リンク部と部品データ登録部とからのデータをFEM解析部へ入力する解析条件入力部と、
形状解析対象物の特定位置での特定部位の各移動量を元に、特定位置での形状解析対象物の形状を有限要素法により解析するFEM解析部と、
FEM解析部から送られてきた形状解析対象物の形状を画面に表示する再生表示部とを有し、
FEM解析部によって形状解析対象物の特定位置での形状を、形状解析対象物の移動量と、部品データ登録部の部品の特性データを元にして有限要素法により解析し、
形状解析対象物の特定位置での形状を再生表示部によって再生し、この操作を繰り返すことによって特定位置での形状を経時的に解析することを特徴とするFEM解析を利用した柔軟物の形状解析システム。
【請求項2】
柔軟物が、線状柔軟物である請求項1記載のFEM解析を利用した柔軟物の形状解析システム。
【請求項3】
線状柔軟物が、端部にコネクタが接続されたワイヤハーネスであり、コネクタを外した状態を想定して端部が特定部位として移動させられる線状柔軟物である請求項2に記載のFEM解析を利用した柔軟物の形状解析システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−102424(P2010−102424A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271763(P2008−271763)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】