説明

FGFR4に関連する癌細胞浸潤を抑制するための材料および方法

本発明は、哺乳類細胞によって発現される繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合し癌細胞浸潤を抑制する単離された抗体またはその抗体フラグメントを提供する。所望により、その抗体またはそのフラグメントは、モノクローナル抗体F90−10C5により結合されるFGFR4のエピトープと結合するか、またはモノクローナル抗体F90−10C5の相補性決定領域と同一の相補性決定領域を含んでなる。被験体において癌細胞の浸潤、内方成長、または転移をモジュレートし癌を処置するために抗体またはそのフラグメントを使用する方法も提供される。本発明は、加えて、浸潤性を抑制する抗体または抗体フラグメントを同定する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2008年9月3日出願の米国仮特許出願第61/093,925号、および2009年3月2日出願の米国仮特許出願第61/156,634号の優先権を主張するものである。
【発明の背景】
【0002】
発明の属する技術分野
本発明は、一般的には、癌療法、さらに繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)と結合する抗体および抗体フラグメントならびにその使用ならびにそれらを含有する併用療法に関する。
【0003】
発明の背景
腫瘍細胞浸潤は、癌の病因において重要な役割を果たす。下にある基底膜への癌細胞の浸潤および遠隔臓器への転移は発癌現象および癌拡散における律速段階と考えられている。これらのプロセス中に、腫瘍細胞はその細胞表面を目標とするタンパク質分解活性により基底膜を通り抜け、コラーゲンまたはフィブリン豊富な間質の一時的基質に浸潤しそこで成長する。体の遠位領域における二次性腫瘍の形成は、治療上の選択肢を複雑にし、多くの場合、癌患者において不良な臨床転帰をもたらす。
【0004】
現在の癌処置戦略は、アポトーシス促進療法、増殖抑制療法、および抗脈管形成療法を通じて腫瘍成長を阻害することに主眼を置いている。例えば、増殖因子受容体、例えば、繊維芽細胞増殖因子受容体は、増殖を抑制するための考えられる標的として示唆されている。例えば、St. Bernard et al., Endocrinology, 146(3): 1145-1153 (2005)参照。増殖因子受容体シグナル伝達の考えられるレギュレーターとしては、例えば、小分子、不活性化リガンド、および抗体が挙げられる。Kwabi-Addo et al., Endocrine-Related Cancer, 11: 709-724 (2004). Chen et al., Hybridoma, 24(3): 152-159 (2005)では、例えば、ヒト乳癌腫瘍細胞株におけるFGFR4と結合する抗体が意図的に同定された。しかしながら、腫瘍浸潤を抑制しようとする試みはそれほど成功していない。よって、細胞浸潤へ向ける新たな介入の開発は、より効率的な癌処置のために決定的に重要である。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、一般的には、癌などの新生物性障害の処置において有用な材料に関し、それらには抗体物質、核酸、ポリペプチド、および組成物が含まれる。本発明はさらに、かかる材料を使用する方法にも関し、それらには処置、医学的使用、および医薬組成物作製のための使用の方法が含まれる。本発明はまた、新規治療用物質についてスクリーニングするための手段および新規併用療法にも関する。
【0006】
本発明は、(i)哺乳類細胞によって発現される繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合し、かつ(ii)癌細胞浸潤を抑制する単離された抗体または抗体フラグメントを提供する。加えて、本発明は、モノクローナル抗体F90−10C5、ならびにモノクローナル抗体F90−10C5の1以上の、好ましくは総ての相補性決定領域(all complementarity determine regions)(CDR)を含んでなり、かつ哺乳類細胞において発現されるFGFR4の細胞外エピトープと結合する単離された抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドを提供する。もう1つの態様において、本発明は、単離された抗体、例えば、モノクローナル抗体、またはモノクローナル抗体F90−10C5により結合されるFGFR4のエピトープと結合するそのフラグメントなどを提供する。前記抗体によって認識されるFGFR4は、FGFR4 G388タンパク質またはFGFR4 R388変異体のアミノ酸配列を含んでなり得る。前記抗体、そのフラグメント、またはポリペプチドを、所望により他の治療用物質とおよび/または薬学上許容される担体(群)、賦形剤(群)、アジュバントなどと組み合わせて、含んでなる組成物も本発明に含まれる。
【0007】
本発明はまた、特許請求する抗体またはそのフラグメントを作製するための材料および方法も提供する。例えば、本発明は、本発明の抗体またはそのフラグメントをコードする単離されたポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含んでなるベクター、前記ポリヌクレオチドまたはベクターを含んでなる単離された宿主細胞、およびハイブリドーマを提供する。抗体重鎖可変領域および抗体軽鎖可変領域からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含んでなる単離されたポリヌクレオチドもまた本発明により提供される。前記重鎖可変領域および軽鎖可変領域は、モノクローナル抗体F90−10C5 CDRと同一の相補性決定領域(CDR)を含んでなる。本発明はまた、抗体または抗体フラグメントを同定する方法も提供する。その方法は、FGFR4と結合する1以上の抗体または抗体フラグメントを得ること;腫瘍細胞浸潤性アッセイにおいて前記抗体または抗体フラグメントをスクリーニングすること;および前記アッセイにおいて浸潤性を少なくとも50%抑制する抗体を同定することを含む。
【0008】
本発明は、本発明の抗体またはそのフラグメントを使用する方法をさらに含む。例えば、癌細胞の浸潤、内方成長、または転移をモジュレートする方法を提供する。その方法は、癌細胞の浸潤、内方成長、または転移をモジュレートするのに有効な量の本発明の抗体またはそのフラグメントを含んでなる組成物と癌細胞集団を接触させることを含む。その方法はin vivoで行うことができるため、前記癌細胞は哺乳類被験体におけるものであり、前記接触工程は前記組成物を前記哺乳類被験体に投与することを含む。
【0009】
もう1つの態様において、本発明は、本発明の抗体、そのフラグメント、またはポリペプチドを含んでなる組成物を投与することにより被験体を処置する方法を含む。例えば、一つの実施態様において、その方法は、癌と診断された、または癌の処置を受ける哺乳類被験体を処置のために選択すること;および癌細胞の浸潤、内方成長、または転移をモジュレートするのに有効な量の本発明の組成物を前記被験体に投与することを含む。癌を処置する方法も提供される。その方法は、癌を処置するのに有効な量の本発明の抗体またはそのフラグメントを含んでなる組成物を前記被験体に投与することを含む。所望により、(i)前記抗体またはそのフラグメントは、モノクローナル抗体F90−10C5により結合されるFGFR4のエピトープと結合しかつ(ii)前記方法は、mAb F90−10C5によって認識されるエピトープとは異なるFGFR4のエピトープと結合する抗体またはそのフラグメントと癌細胞集団を接触させること(または前記被験体に投与すること)をさらに含む。あるいはまたは加えて、前記方法は、MT1−MMP阻害薬と癌細胞集団を接触させること(または前記被験体に投与すること)を含み得る。
【0010】
本発明のいくつかの変形において、前記被験体は、アミノ酸位置388のアルギニン(FGFR4 R388)を特徴とする少なくとも1つのFGFR4対立遺伝子を含む細胞を含む癌を有する。この特定の対立遺伝子は癌細胞浸潤亢進および不良な患者予後と関係しており、本発明の方法から思いもよらない利益を得る可能性がある。前記癌細胞は、FGFR4 R288対立遺伝子を、前記癌に局在する突然変異により有し得るかまたはその対立遺伝子の継承により有し得る。前記癌に1以上のFGFR4 R388対立遺伝子を有する癌患者を処置のために選択することは、本発明の態様として具体的に企図される。
【0011】
以下の番号付けしたパラグラフ各々により、本発明の1以上の例示的な変形を簡潔に定義する:
1.哺乳類細胞によって発現される繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合し癌細胞浸潤を抑制する、単離された抗体またはその抗体フラグメント。
2.哺乳類細胞によって発現される繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合する抗体のフラグメントを含んでなる単離されたポリペプチドであって、前記抗体および前記ポリペプチドが癌細胞浸潤を抑制する、ポリペプチド。
3.FGFR4 R388(配列番号2)を発現する哺乳類細胞上の繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合し前記細胞におけるFGFR4の繊維芽細胞増殖因子2(FGF2)誘導性リン酸化を阻害する、単離された抗体またはその抗体フラグメント。
4.FGFR4 R388(配列番号2)を発現する哺乳類細胞上の繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合する抗体のフラグメントを含んでなる単離されたポリペプチドであって、前記抗体および前記ポリペプチドが前記細胞におけるFGFR4の繊維芽細胞増殖因子2(FGF2)誘導性リン酸化を阻害する、ポリペプチド。
5.FGFR4 R388(配列番号2)および繊維芽細胞増殖因子受容体−1(FGFR1)を共発現する哺乳類細胞上の繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合する単離された抗体またはその抗体フラグメントであって、前記細胞における繊維芽細胞増殖因子2(FGF2)誘導性FGFR1分解を増大させる、抗体またはその抗体フラグメント。
6.FGFR4 R388(配列番号2)および繊維芽細胞増殖因子受容体−1(FGFR1)を共発現する哺乳類細胞上の繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合する抗体のフラグメントを含んでなる単離されたポリペプチドであって、前記抗体および前記ポリペプチドが前記細胞における繊維芽細胞増殖因子2(FGF2)誘導性FGFR1分解を増大させる、ポリペプチド。
7.前記細胞におけるFGFR4のFGF2誘導性リン酸化も阻害する、パラグラフ5または6の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
8.FGFR4 R388(配列番号2)および膜型−1メタロプロテイナーゼ(MT1−MMP)を共発現する哺乳類細胞上の繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合する単離された抗体またはその抗体フラグメントであって、前記細胞におけるFGFR4とMT1−MMPの間での複合体形成を阻害する、抗体またはその抗体フラグメント。
9.FGFR4 R388(配列番号2)および膜型−1メタロプロテイナーゼ(MT1−MMP)を共発現する哺乳類細胞上の繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合する抗体のフラグメントを含んでなる単離されたポリペプチドであって、前記抗体および前記ポリペプチドが前記細胞におけるFGFR4とMT1−MMPの間での複合体形成を阻害する、ポリペプチド。
10.癌細胞浸潤を抑制する、パラグラフ3〜9のいずれか1つの抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
11.前記抗体が、配列番号1のアミノ酸配列を含んでなるFGFR4と結合する、パラグラフ1〜10のいずれか1つの抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
12.前記抗体が、配列番号2のアミノ酸配列を含んでなるFGFR4と結合する、パラグラフ1〜10のいずれか1つの抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
13.前記抗体が、配列番号5〜9からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる少なくとも一つのFGFR4ペプチドと結合する、パラグラフ1〜12のいずれか1つの抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
14.配列番号7からなるFGFR4ペプチドと結合する、パラグラフ13の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
15.前記抗体または抗体フラグメントが、アミノ酸残基79〜81を含んでなる配列番号1または2のエピトープと結合する、パラグラフ13の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
16.モノクローナル抗体F90−10C5により結合されるFGFR4のエピトープと結合する、単離された抗体またはそのフラグメント。
17.前記抗体がモノクローナル抗体F90−10C5である、パラグラフ2、4、6および9のいずれか1つのポリペプチド。
18.前記抗体フラグメントが、抗体のScFv、Fv、Fab’、Fab、ダイアボディー、またはF(ab’)抗原結合フラグメントである、パラグラフ1〜17のいずれか1つの抗体フラグメントまたはポリペプチド。
19.モノクローナル抗体F90−10C5の総ての相補性決定領域(CDR)を含んでなる単離された抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドであって、哺乳類細胞によって発現されるFGFR4の細胞外エピトープと結合する、抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
20.モノクローナル抗体F90−10C5の可変領域を含んでなる、パラグラフ19の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
21.前記抗体または抗体フラグメントが、腫瘍細胞浸潤性アッセイにおいて、FGFR4 R388タンパク質を発現するMDA−MB−231細胞の浸潤を抑制する、パラグラフ1〜20のいずれか1つの抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
22.前記抗体または抗体フラグメントが腫瘍細胞浸潤性アッセイにおいて細胞浸潤を少なくとも25%減少させる、パラグラフ21の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
23.前記抗体または抗体フラグメントが腫瘍細胞浸潤性アッセイにおいて細胞浸潤を少なくとも50%減少させる、パラグラフ21の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
24.モノクローナル抗体F90−10C5である、パラグラフ20の抗体。
25.モノクローナル抗体F85−6C5の総ての相補性決定領域(CDR)を含んでなる単離された抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドであって、哺乳類細胞によって発現されるFGFR4の細胞外エピトープと結合する、抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
26.モノクローナル抗体F85−6C5の可変領域を含んでなる、パラグラフ25の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
27.モノクローナル抗体F85−6C5である、パラグラフ26の抗体。
28.モノクローナル抗体F90−3B6の総ての相補性決定領域(CDR)を含んでなる単離された抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドであって、哺乳類細胞によって発現されるFGFR4の細胞外エピトープと結合する、抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
29.モノクローナル抗体F90−3B6の可変領域を含んでなる、パラグラフ28の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
30.モノクローナル抗体F90−3B6である、パラグラフ29の抗体。
31.前記抗体がモノクローナル抗体である、パラグラフ1、3、5、7、8、10〜15および21〜23のいずれか1つの抗体または抗体フラグメント。
32.前記抗体がヒト化抗体、ヒト抗体、またはキメラ抗体である、パラグラフ1、3、5、7、8、10〜15および20〜31のいずれか1つの抗体または抗体フラグメント。
33.mAb F90−10C5、F85−6C5、またはF90−3B6の可変領域またはFGFR4と結合するこれらのいずれかのフラグメントを含んでなる、ヒト化抗体。
34.コンジュゲートまたは結合させた抗新生物薬または細胞傷害薬をさらに含んでなる、パラグラフ1〜33のいずれか1つの抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
35.前記抗新生物薬が放射性ヌクレオチドを含んでなる、パラグラフ34の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
36.パラグラフ1〜35のいずれか1つの抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド、および生理学上許容される担体を含んでなる、組成物。
37.標準的治療の抗癌治療化合物をさらに含んでなる、パラグラフ36の組成物。
38.VEGFR−3またはVEGFR−2のVEGF−DまたはVEGF−C刺激を抑制する薬剤をさらに含んでなる、パラグラフ36または37の組成物。
39.前記薬剤が、
VEGF−C、VEGF−D、またはVEGFR−3もしくはVEGFR−2の細胞外ドメインと結合する抗体または抗体フラグメント;
VEGF−CまたはVEGF−Dと結合するのに有効な、VEGFR−3細胞外ドメインまたはそのフラグメントを含んでなる可溶性タンパク質;および
VEGF−CまたはVEGF−Dと結合するのに有効な、VEGFR−2細胞外ドメインまたはそのフラグメントを含んでなる可溶性タンパク質
からなる群から選択されるメンバーを含んでなる、パラグラフ38の組成物。
40.前記抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドが、モノクローナル抗体またはそのフラグメント(「第一のモノクローナル抗体またはそのフラグメント」)である、パラグラフ36〜38のいずれか1つの組成物。
41.前記第一のモノクローナル抗体またはそのフラグメントによって認識されるエピトープとは異なるFGFR4の第二のエピトープと結合する第二のモノクローナル抗体またはそのフラグメントをさらに含んでなる、パラグラフ40の組成物。
42.前記第二のモノクローナル抗体またはそのフラグメントがヒトまたはヒト化抗体である、パラグラフ41の組成物。
43.膜型−1メタロプロテイナーゼ(MT1−MMP)阻害薬をさらに含んでなる、パラグラフ36〜42のいずれか1つの組成物。
44.前記MT1−MMP阻害薬が、MT1−MMPと結合する抗体もしくはそのフラグメント、またはMT1−MMPの小分子阻害薬である、パラグラフ43の組成物。
45.前記MT1−MMP阻害薬が、MT1−MMPゲノムDNAまたはmRNAとハイブリダイズして、MT1−MMP転写または翻訳を阻害する阻害薬核酸である、パラグラフ43の組成物。
46.パラグラフ1〜33のいずれか1つの抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでなる、単離されたポリヌクレオチド。
47.パラグラフ46のポリヌクレオチドを含んでなる、ベクター。
48.発現ベクターである、パラグラフ47のベクター。
49.複製欠損性ウイルスベクターである、パラグラフ48のベクター。
50.パラグラフ49のベクターおよび生理学上許容される担体を含んでなる、組成物。
51.パラグラフ46〜49のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはベクターで形質転換またはトランスフェクトされた、単離された細胞。
52.パラグラフ1〜33のいずれか1つの抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドを産生する、単離された細胞。
53.パラグラフ24、27および30〜32のいずれか1つのモノクローナル抗体または抗体フラグメントを産生する、ハイブリドーマ。
54.癌細胞の浸潤、内方成長、または転移をモジュレートする方法であって、癌細胞の浸潤、内方成長、または転移をモジュレートするのに有効な量の、パラグラフ1〜50のいずれか1つの抗体、抗体フラグメント、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、または組成物と、癌細胞集団を接触させることを含んでなる、方法。
55.前記癌細胞が哺乳類被験体におけるものであり、前記接触が前記組成物を前記哺乳類被験体に投与することを含む、パラグラフ54の方法。
56.哺乳類被験体を処置する方法であって、
癌と診断された、または癌の処置を受ける哺乳類被験体を処置のために選択すること;および
癌細胞の浸潤、内方成長、または転移をモジュレートするのに有効な量の、パラグラフ36〜45および50のいずれか1つの組成物を前記被験体に投与すること
を含んでなる、方法。
57.(i)前記組成物がパラグラフ13〜17のいずれか1つによる抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドを含んでなるものであり、かつ、
前記組成物の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドによって認識されるエピトープとは異なるFGFR4の第二のエピトープと結合する抗体またはそのフラグメントを前記哺乳類被験体に投与することをさらに含んでなる、パラグラフ55または56の方法。
58.第二のエピトープと結合する前記抗体またはそのフラグメントが、mAb F90−3B6またはそのフラグメントである、パラグラフ57の方法。
59.前記組成物がパラグラフ36〜42のいずれか1つによる組成物であり、かつ、膜型−1メタロプロテイナーゼ(MT1−MMP)阻害薬を含んでなる組成物を前記哺乳類被験体に投与することをさらに含んでなる、パラグラフ55または56の方法。
60.前記MT1−MMP阻害薬が、MT1−MMPと結合する抗体もしくはそのフラグメント、またはMT1−MMPの小分子阻害薬である、パラグラフ59の方法。
61.前記組成物がパラグラフ36、37および40〜42のいずれか1つによる組成物であり、かつ、VEGR−3またはVEGFR−2のVEGF−DまたはVEGF−C刺激を抑制する薬剤を含んでなる組成物を前記哺乳類被験体に投与することをさらに含んでなる、パラグラフ55または56の方法。
62.標準的治療の抗癌療法を前記哺乳類被験体に投与することをさらに含んでなる、パラグラフ55〜61のいずれか1つの方法。
63.被験体において癌を処置する方法であって、癌を処置するのに有効な量の、パラグラフ36〜45および50のいずれか1つの組成物を前記被験体に投与することを含んでなる、方法。
64.哺乳類被験体における癌細胞の浸潤、内方成長、または転移を抑制するための、パラグラフ1〜50のいずれか1つの抗体、抗体フラグメント、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、または組成物の使用。
65.哺乳類被験体における癌細胞の浸潤、内方成長、または転移を抑制するための、MT1−MMP阻害薬、またはVEGFR−3もしくはVEGFR−2へのVEGF−CもしくはVEGF−Dの結合の阻害薬と組み合わせての、パラグラフ64による使用。
66.(i)前記組成物がパラグラフ13〜17のいずれか1つによる抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドを含んでなるものであり、前記組成物の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドによって認識されるエピトープとは異なるFGFR4の第二のエピトープと結合する抗体またはそのフラグメントと併用される、パラグラフ64または65による使用。
67.前記被験体がヒトである、パラグラフ54〜66のいずれか1つの方法または使用。
68.前記癌が、乳癌、膀胱癌、黒色腫、前立腺癌、中皮腫、肺癌、精巣癌、甲状腺癌、扁平上皮癌、膠芽腫、神経芽腫、子宮癌、結腸直腸癌、および膵臓癌からなる群から選択される、パラグラフ54〜67のいずれか1つの方法または使用。
69.抗体重鎖可変領域(V)および抗体軽鎖可変領域(V)からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含んでなる単離されたポリヌクレオチドであって、前記Vおよび前記Vが、モノクローナル抗体F90−10C5の相補性決定領域(CDR)と同一のCDRを含んでなる、ポリヌクレオチド。
70.パラグラフ69によるポリヌクレオチドを含んでなる、ベクター。
71.パラグラフ69によるポリヌクレオチドまたはパラグラフ70によるベクターを含んでなる細胞であって、(a)前記Vおよび前記Vを含有する抗体または抗体フラグメントを発現し、かつ(b)該抗体または抗体フラグメントがFGFR4と結合する、細胞。
72.抗体または抗体フラグメントを選択する方法であって、
(a)FGFR4と結合する1以上の抗体または抗体フラグメントを得ること;
(b)腫瘍細胞浸潤性アッセイにおいて前記抗体または抗体フラグメントをスクリーニングすること;および
(c)前記アッセイにおいて浸潤性を少なくとも50%抑制する抗体を選択すること
を含んでなる、方法。
73.前記(b)が、繊維芽細胞増殖因子−2を化学誘引物質として使用する三次元コラーゲン浸潤アッセイにおいてFGFR4を発現する腫瘍細胞の浸潤を検出することを含む、パラグラフ72の方法。
74.パラグラフ72またはパラグラフ73の方法により選択された、単離された抗体または抗体フラグメント。
75.Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)寄託受託番号DSM ACC2967で寄託された、ハイブリドーマ細胞株。
76.DSMZ寄託受託番号DSM ACC2966で寄託された、ハイブリドーマ細胞株。
77.DSMZ寄託受託番号DSM ACC2965で寄託された、ハイブリドーマ細胞株。
78.抗体mAb F90−3B6を産生することができる、単離された細胞。
79.ハイブリドーマF90−3B6(DSMZ寄託受託番号DSM ACC2965)である、パラグラフ78の単離された細胞。
80.抗体mAb F90−10C5を産生することができる、単離された細胞。
81.ハイブリドーマF90−10C5(DSMZ寄託受託番号DSM ACC2967)である、パラグラフ80の単離された細胞。
82.抗体mAb F85−6C5を産生することができる、単離された細胞。
83.ハイブリドーマF85−6C5(DSMZ寄託受託番号DSM ACC2966)である、パラグラフ82の単離された細胞。
84.FGFR4をコードするアミノ酸配列の5〜25個のアミノ酸からなる単離された抗原ペプチドであって、配列番号5〜9のいずれか1つに記載されたアミノ酸配列またはそのフラグメントを含んでなる、単離された抗原ペプチド。
85.パラグラフ84の抗原ペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
86.パラグラフ85のポリヌクレオチドを含んでなる、ベクター。
87.パラグラフ86のベクターを含んでなる、単離された細胞。
88.パラグラフ84のペプチドおよびアジュバントを含んでなる、組成物。
89.前記癌においてFGFR4 R388をコードするFGFR4対立遺伝子の有無を決定する工程を含み、前記癌がFGFR4 R388をコードする少なくとも1つのFGFR4対立遺伝子を有する場合に前記処置が投与される、パラグラフ56〜63のいずれか1つの方法。
90.哺乳類被験体を処置する方法であって、
癌と診断された、または癌の処置を受ける哺乳類被験体を処置のために選択すること(ここで、前記癌は、FGFR4 R388をコードする少なくとも1つのFGFR4対立遺伝子を含む細胞を含む);および
癌細胞の浸潤、内方成長、または転移をモジュレートするのに有効な量の、請求項36〜45および50のいずれか一項に記載の組成物を前記被験体に投与すること
を含んでなる、方法。
91.FGFR4 R388対立遺伝子の有無が、FGFR4 R388およびG388対立遺伝子と別個に結合する抗体または抗体フラグメントを用いてFGFR4タンパク質をアッセイすることにより判定される、パラグラフ89または90の方法。
92.FGFR4 R388対立遺伝子の有無が、前記被験体由来または前記癌由来の核酸をアッセイすることにより判定される、パラグラフ89または90の方法。
93.哺乳類被験体を処置する方法であって、
癌と診断された、または癌の処置を受ける哺乳類被験体を処置のために選択すること;ならびに
第一の抗FGFR4抗体またはそのFGFR4結合フラグメントおよび第二の抗FGFR4抗体またはそのFGFR4結合フラグメントを前記被験体に投与すること(ここで、前記第一の抗FGFR4抗体またはフラグメントはFGFR4 R388のFGF2誘導性リン酸化を阻害し、前記第二の抗FGFR4抗体またはフラグメントはリガンド非依存性FGFR4リン酸化を阻害する)
を含んでなる、方法。
94.前記第一および第二の抗体またはそのフラグメントが、前記第一の抗体またはフラグメントを含む第一の組成物および前記第二の抗体またはフラグメントを含む第二の組成物として、同時にまたは逐次的に、別々に投与される、パラグラフ93の方法。
95.前記癌の標準的治療の化学療法を前記被験体に投与することをさらに含んでなる、パラグラフ90〜94のいずれか1つによる方法。
【0012】
上述の概要は、本発明の総ての態様を定義するものではなく、他の節、例えば、詳細な説明などにおいてさらなる態様が記載される。本文書全体は統合的開示として関係づけられるものであり、特徴の組合せが本文書と同じ文、またはパラグラフ、または節において一緒に記載されていなくても、本明細書において記載される特徴の総ての組合せが企図されることは理解されるべきである。タンパク質(例えば、抗体)療法が記載されている場合には、ポリヌクレオチド療法(前記タンパク質をコードするポリヌクレオチド/ベクターを使用)を含む実施態様が具体的に企図され、その逆もまた当てはまる。本発明の実施態様が特定の抗体、例えば、FGFR4モノクローナル抗体などに関して記載されている場合には、抗体フラグメント、変異体などを含む類似実施態様が具体的に企図されることは理解されるべきである。
【0013】
上述のものに加えて、本発明は、さらなる態様として、上に具体的に記述された変形より多少なりとも範囲が狭い本発明の総ての実施態様を含む。属として記載された本発明の態様に関して、総ての個別の種は個別に本発明の独立した態様とみなされる。「1つの(a)」または「1つの(an)」を用いて記載されたまたは特許請求された本発明の態様に関して、これらの用語は、文脈上より限定された意味に解すべき場合を除き「1以上の」を意味することは理解されるべきである。1セット内での1以上と記載された要素に関して、そのセット内での総ての組合せが企図されることは理解されるべきである。
【0014】
本出願人(ら)は添付の特許請求の範囲の全範囲を発明したが、添付の特許請求の範囲はそれらの範囲に他者の先行技術を包含するものではない。従って、特許庁あるいは他の団体または個人により、本出願人らに対して請求項の範囲内にある法定先行技術が指摘された場合には、本出願人(ら)は適用される特許法の下に補正の権利を行使する権利を留保し、かかる法定先行技術または法定先行技術の明らかな変形をかかる請求項の範囲から具体的に排除するようにかかる請求項の対象を再定義する。かかる特許請求の範囲の補正によって定義された本発明の変形もまた、本発明の態様として意図される。本発明のさらなる特徴および変形は本願全体から当業者には明らかであり、かかる総ての特徴は本発明の態様として意図される。
【発明の具体的説明】
【0015】
本発明は、少なくとも一部は、周囲組織への癌細胞の浸潤を抑制するある特定の抗繊維芽細胞増殖因子受容体4(FGFR4)抗体の予期せぬ同定に関する。特定の作用機序に縛られることを望むものではないが、本発明者らは、驚くべきことに、FGFR4はヒト膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ1(MT1−MMP)と機能的に関係しており、そしてそれは癌および反応性細胞において発現されることを見つけ出した。MT1−MMPは、主として、組織微小環境に隔離され、数多くの公知のMMP阻害薬による不活性化を逃れることができる。FGFR4は、MT1−MMPにより媒介される転移事象の新規標的となる。本発明は、FGFR4と結合し癌細胞浸潤を抑制またはダウンレギュレートする単離された抗体またはそのフラグメント、ならびに癌細胞の浸潤、内方成長、または転移をモジュレートするために前記抗体またはそのフラグメントを使用する方法を提供する。このように、本発明の抗体は、癌の進行を遅らせる治療的有用性を有する。
【0016】
FGFR4
FGFR4は、FGFにより活性化される4回膜貫通型受容体チロシンキナーゼの1つである(Givol et al., FASEB J., 6: 3362-3369, 1992)。その受容体は、3つの免疫グロブリン(Ig)様細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、チロシンキナーゼ、およびCOOH末端尾部からなる(Givol et al., 前掲)。少なくとも2つの既知ヒトFGFR4アミノ酸配列が報告されており、コドン388に作用する突然変異の結果として異なり、この位置においてグリシン(FGFR4 G388、配列番号1)またはアルギニン(FGFR4 R388、配列番号2)のいずれかとなる。R388突然変異を有する対立遺伝子は、浸潤性腫瘍進行と相関し、不良な臨床転帰の指標と考えられる(例えば、Bange et al., Cancer Res., 62(3): 840-7, 2002参照)。その突然変異は、タンパク質の膜貫通ドメインにおいて疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸との置換をもたらす。この関連で、野生型FGFR4膜貫通ドメインはおおよそアミノ酸配列RYTDIILYASGSLALAVLLLLAGLY(配列番号3)を含んでなり、一方、R388変異体はおおよそアミノ酸配列RYTDIILYASGSLALAVLLLLARLY(配列番号4)を含んでなる膜貫通ドメインを含んでなる。R388 FGFR4変異体は、例えば、引用することにより本明細書の一部とされる、Bange et al., 前掲;および米国特許第6,770,742号にさらに記載されている。
【0017】
抗体およびそのフラグメント
本発明のいくつかの実施態様または態様は、FGFR4(任意のFGFR4ポリペプチドのアミノ酸配列を含んでなり、FGFR4のあらゆる天然に存在するアイソフォームまたは対立遺伝子変異体が含まれる)の細胞外エピトープと結合し癌細胞浸潤を抑制する抗体またはそのフラグメントに関する。例えば、前記抗体またはそのフラグメントは、哺乳類(例えば、ヒト)細胞の表面で発現されるFGFR4と結合する。前記抗体またはそのフラグメントは、配列番号1に記載されたアミノ酸配列を含んでなるFGFR4(一般にFGFR4 G388対立遺伝子と呼ばれる)と結合することができる。あるいはまたは加えて、前記抗体またはそのフラグメントは、野生型FGFR4の388位のグリシンがアルギニンと置換されているFGFR4(FGFR4 R388対立遺伝子)(配列番号2)と結合することができる。
【0018】
好ましくは、前記抗体またはそのフラグメントはFGFR4の細胞外エピトープと結合する。FGFR4の細胞外領域の3つの免疫グロブリン(Ig)様ドメインは、膜貫通ドメインを超えて細胞外間隙に広がり、配列番号1および2に関しては、FGFR4アミノ酸配列のおおよそアミノ酸残基25〜369を含んでなる。本発明のある特定の態様において、前記抗体またはそのフラグメントは、アミノ酸残基25〜366にわたる細胞外ドメインの領域に位置する細胞外エピトープ、例えば、FGFR4の細胞外領域の最初の免疫グロブリン様ドメイン(FGFR4アミノ酸配列のおおよそアミノ酸残基50〜107にわたる)などと結合する。FGFR4の細胞外ドメインは、Loo et al., Int. J. Biochem. Cell Biol., 32: 489-97, 2000;およびSorenson et al., J. Cell. Sci., 117: 1807-1819, 2004にさらに記載されており、FGFR4に関するそれらの開示は引用することにより本明細書の一部とされる。
【0019】
いかなるタイプの抗体も本発明において好適であり、それらには全長重鎖および/または軽鎖を有するポリクローナル、モノクローナル、キメラ、ヒト化、またはヒト型が含まれる。本発明はまた、本発明のFGFR4抗体のFGFR4結合特性を保持する抗体フラグメント(および/または抗体フラグメントを含んでなるポリペプチド)も含む。抗体フラグメントには、抗体の抗原結合領域および/またはエフェクター領域、例えば、F(ab’)、Fab、Fab’、Fd、Fc、およびFvフラグメント(非共有結合された重鎖可変領域と軽鎖可変領域からなるフラグメント)、または単一ドメイン抗体(ナノボディー)が含まれる。一般用語において、可変(V)領域ドメインは、免疫グロブリン重(V)鎖可変ドメインおよび/または軽(V)鎖可変ドメインの任意の好適な配列であってよい。よって、例えば、V領域ドメインは二量体で、FGFR4と結合するV−V、V−V、またはV−V二量体を含んでよい。必要に応じて、そのV鎖およびV鎖は直接またはリンカーを通じて共有結合し、単鎖Fv(scFv)を形成してよい。参照しやすいように、scFvタンパク質は本明細書においてカテゴリー「抗体フラグメント」に含まれるとみなされる。同様に、抗体フラグメントは、癌細胞浸潤を抑制するために、単一ドメイン抗体、マキシボディー(maxibodies)、ミニボディー(minibodies)、イントラボディー(intrabodies)、ダイアボディー、トリアボディー(triabodies)、テトラボディー(tetrabodies)、新抗原受容体(new antigen receptors)(v−NAR)の可変ドメイン、およびビス−単鎖Fv領域(bis-single chain Fv regions)に組み込んでよい(例えば、Hollinger and Hudson, Nature Biotechnology, 23(9): 1126-1136, 2005参照)。加えて、本発明は、哺乳類細胞によって発現される繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合する抗体のフラグメントを含んでなる単離されたポリペプチドを提供する。必要に応じて、抗体フラグメントは、エフェクター機能(例えば、細胞傷害性、免疫補充活性など)を有する部分、混合物からの単離を容易にする部分(例えば、タグ)、検出標識などと融合される。本明細書において記載される本発明の抗体またはそのフラグメントの特徴は、抗体フラグメントを含んでなるポリペプチドにも及ぶことは理解されるべきである。
【0020】
前記抗体または抗体フラグメントは、合成または遺伝子操作の免疫動物から単離することができる。抗体由来の抗体フラグメントは、例えば、抗体のタンパク質分解による加水分解により、得ることができる。例えば、全抗体のパパインまたはペプシン消化により、それぞれ、F(ab’)と呼ばれる5Sフラグメント(すなわち、2つの一価Fabフラグメント)およびFcフラグメントが生ずる。F(ab)は、チオール還元剤を用いてさらに開裂することができ、3.5S Fab一価フラグメントが得られる。抗体フラグメントを作出する方法は、例えば、Edelman et al., Methods in Enzymology, 1: 422 Academic Press (1967); Nisonoff et al., Arch. Biochem. Biophys., 89: 230-244, 1960; Porter, Biochem. J., 73: 119-127, 1959;米国特許第4,331,647号;およびAndrews, S.M. and Titus, J. A.によるCurrent Protocols in Immunology (Coligan et al., eds), John Wiley & Sons, New York (2003), 2.8.1−2.8.10頁および2.10A.1−2.10A.5頁にさらに記載されている。
【0021】
抗体またはそのフラグメントも、例えば、組換えDNA工学技術により作出された可変領域ドメインを含んでなるように遺伝子操作することができる。例えば、特異的抗体可変領域を、抗体のアミノ酸配列中またはその配列への挿入、欠失、または変更によって修飾し、対象となる抗体を作製することができる。この関連で、対象となる相補性決定領域(CDR)をコードするポリヌクレオチドは、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を用い抗体産生細胞のmRNAを鋳型として用いて可変領域を合成することにより調製される(例えば、Courtenay-Luck, "Genetic Manipulation of Monoclonal Antibodies," in Monoclonal Antibodies: Production, Engineering and Clinical Application, Ritter et al. (eds.), 166頁(Cambridge University Press 1995); Ward et al., "Genetic Manipulation and Expression of Antibodies," in Monoclonal Antibodies: Principles and Applications, Birch et al., (eds.), 137頁(Wiley-Liss, Inc. 1995);およびLarrick et al., Methods: A Companion to Methods in Enzymology, 2: 106-110, 1991参照)。現在の抗体操作技術は、第一の抗体由来の少なくとも1つのCDRおよび所望により1以上のフレームワークアミノ酸、ならびに第二の抗体由来の可変領域ドメイン残部を含有する操作された可変領域ドメインの構築を可能にする。かかる技術は、例えば、抗体をヒト化するためまたは結合標的に対する抗体の親和性を向上させるために用いられる。
【0022】
「ヒト化抗体」は、モノクローナル抗体の相補性決定領域が非ヒト免疫グロブリンの重可変鎖および軽可変鎖からヒト可変ドメインへと移入された組換えタンパク質である。定常領域は存在する必要はないが、存在する場合には、定常領域は、所望によりヒト免疫グロブリン定常領域と実質的に同一、すなわち、少なくとも約85〜90%同一、ある特定の実施態様においては約95%以上同一である。よって、ある場合には、ヒト化免疫グロブリンの総ての部分(場合によってはCDRの部分を除く)は、天然ヒト免疫グロブリン配列の対応する部分と実質的に同一である。例えば、一態様において、ヒト化抗体は、宿主抗体の超可変領域残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有する、マウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)由来の超可変領域残基に置き換えられているヒト免疫グロブリン(宿主抗体)である。本明細書において記載されるもののようなヒト化抗体は、当業者には公知の技術を用いて作製することができる(Zhang et al., Molecular Immunology, 42(12): 1445-1451, 2005; Hwang et al., Methods, 36(1): 35-42, 2005; Dall'Acqua et al., Methods, 36(1): 43-60, 2005; Clark, Immunology Today, 21(8): 397-402, 2000、ならびに米国特許第6,180,370号;同第6,054,927号;同第5,869,619号;同第5,861,155号;同第5,712,120号;および同第4,816,567号、それらの総ては、これによって総て明示的に引用することにより本明細書の一部とされる)。
【0023】
一つの実施態様において、前記抗体は、ヒト抗体、例えば、限定されるものではないが、フレームワーク領域およびCDR領域の両方が、例えば、Kabat et al. (1991) Sequences of proteins of Immunological Interest, 第5版, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242に記載されているヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列由来である可変領域を有する抗体などである。抗体が定常領域を含む場合には、定常領域も、好ましくはヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列由来のものである。ヒト抗体は、例えば、抗体の活性を増大させるために、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基を含んでなってよいが、他の種由来のCDR(すなわち、ヒト可変フレームワーク領域内に置かれるマウスCDR)を含まない。
【0024】
前記抗体またはそのフラグメントは、癌細胞浸潤を抑制し(または減少させ)かつ/または他の望ましい活性パラメーターの1以上が保持される限り、FGFR4のいずれの領域と結合してもよい。一つの実施態様において、本発明はさらに、下の実施例においてさらに記載される、モノクローナル抗体(mAb)F90−10C5(本明細書では「10C5」とも呼ぶ)により結合されるFGFR4のエピトープと結合する単離された抗体または抗体フラグメントを提供する。mAb F90−10C5の結合活性は、FGFR4の細胞外領域の最初の免疫グロブリン様ドメインに局在する(図3A〜3C参照)。驚くべきことに、mAb F90−10C5は、FGFR4の細胞外ドメイン(シグナル配列を除く)のアミノ酸67〜93にわたる一連の15のアミノ酸フラグメント(それらの配列は3つのアミノ酸で重複)で構成された免疫ブロッティングアレイによって判定されたように、FGFR4アミノ酸配列のおおよそアミノ酸67〜93内の線状エピトープを認識する。mAb F90−10C5は、以下のFGFR4フラグメント:YKEGSRLAPAGRVRG(配列番号5);GSRLAPAGRVRGWRG(配列番号6);LAPAGRVRGWRGRLE(配列番号7);AGRVRGWRGRLEIAS(配列番号8);およびVRGWRGRLEIASFLP(配列番号9)と結合する。前記単離抗体またはそのフラグメントは、好ましくは、配列番号5〜9に記載されたアミノ酸配列の任意の1以上を含んでなるペプチドと結合する。より好ましくは、前記単離抗体またはそのフラグメントは、配列番号7のアミノ酸配列を含んでなる(またはからなる)ペプチドと結合する。
【0025】
FGFR4と結合し癌細胞浸潤を抑制する他の抗体も、本発明において好適である。例えば、様々な実施態様において、本発明は、(i)mAb F90−10C5との結合について競合するか、(ii)FGFR4 mAb F90−10C5によって認識される領域と結合するか、または(iii)FGFR4細胞外領域のアミノ酸残基67〜93(例えば、アミノ酸残基73〜87またはアミノ酸残基79〜81)においてまたはその近くで結合すると同時に、癌細胞浸潤を抑制する、抗体またはそのフラグメントを投与することを含む。必要に応じて、前記抗体フラグメントは、抗体、例えば、mAb F90−10C5などの抗原結合エレメントの総てまたは一部(mAb F90−10C5(または本発明の任意の他の抗体)の可変領域を含む)を含んでなる。前記抗体フラグメントは、抗体の抗原結合エレメントの総てまたは一部を含んでなり得るが抗体のフレームワーク領域の総てまたは一部を含まない。この関連で、前記単離抗体またはそのフラグメントは、癌細胞浸潤を抑制するFGFR4結合抗体、例えば、mAb F90−10C5の1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つ(すなわち、総て)の相補性決定領域(CDR)を含んでなる。相補性決定領域および特異性決定領域を同定する方法は当技術分野で公知であり、例えば、Tamura et al., J. Immunol, 164: 1432-1441, 2000にさらに記載されている。一つの実施態様において、前記抗体またはそのフラグメントはmAb F90−10C5またはそのFGFR4結合フラグメントである。
【0026】
本発明において、抗体結合とは、抗体の可変領域と抗原との免疫反応を指し、他のタンパク質−タンパク質相互作用(例えば、免疫グロブリンとの黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)プロテインA相互作用など)とは異なる。前記抗体またはそのフラグメントは、好ましくは、FGFR4と選好的に結合し、前記抗体またはそのフラグメントが、関連のない対照タンパク質と結合するよりも高い親和性でFGFR4と結合することを意味する。より好ましくは、前記抗体またはそのフラグメントは、FGFR4(またはその部分)を特異的に認識し結合する。「特異的結合」とは、関連のない対照タンパク質との交差反応性が本質的にないことを意味する。本発明のいくつかの変形において、前記抗体はFGFR4と実質的に排他的に結合する(すなわち、結合親和性の測定可能な差異によってFGFR4と他の公知のポリペプチド(例えば、他のFGFR)とを区別することができる)。実施態様に応じて、前記抗体またはそのフラグメントは、関連のない対照タンパク質に対する親和性より少なくとも5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、50倍、100倍、250倍、500倍、1000倍、または10,000倍高い親和性でFGFR4と結合する。他の変形において、前記抗体は、他のFGFR配列と交差反応する。抗体の結合特異性/親和性を決定し、さらに結合部位について競合する(すなわち、例えば、mAb F90−10C5の、FGFR4との交差阻害結合)抗体を同定するためのスクリーニングアッセイは周知で、当技術分野では日常的に実施されている。例えば、結合親和性または交差阻害は、実施例に記載される方法を用いて決定することができる。表面プラズモン共鳴技術を用いて相互作用の程度を測定する、Biacore社装置使用の競合結合アッセイも適している。もう1つの好適なアッセイは、FGFR4との結合に関しての抗体間の競合を測定するELISAに基づくアプローチを用いる。結合アッセイの網羅的な議論については、Harlow et al. (Eds), Antibodies A Laboratory Manual; Cold Spring Harbor Laboratory; Cold Spring Harbor, NY (1988), 第6章を参照のこと。一般的に、mAb F90−10C5と「競合する」かまたは「交差阻害する」抗体は、FGFR4とのmAb F90−10C5の結合を50%〜100%(例えば、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%)妨げる。
【0027】
抗体およびそのフラグメントを作製するための材料および方法
本発明による抗体は、任意の好適な方法により、例えば、本明細書において記載され当技術分野で公知の免疫化および細胞融合手法および/または本明細書において記載されるFGFR4細胞外ドメインエピトープを用いた抗体または抗体フラグメントライブラリーのスクリーニングなどにより得ることができる。本発明のモノクローナル抗体は、種々の公知の技術を用いて作出される(例えば、Coligan et al. (eds.), Current Protocols in Immunology, 1: 2.5.12.6.7 (John Wiley & Sons 1991); Monoclonal Antibodies, Hybridomas: A New Dimension in Biological Analyses, Plenum Press, Kennett, McKearn, and Bechtol (eds.) (1980); Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow and Lane (eds.), Cold Spring Harbor Laboratory Press (1988); およびPicksley et al., "Production of monoclonal antibodies against proteins expressed in E. coli," in DNA Cloning 2: Expression Systems, 第2版, Glover et al. (eds.), 93頁 (Oxford University Press 1995)参照)。一つの実施態様において、本発明は、抗体mAb F90−3B6、mAb F90−10C5、またはmAb F85−6C5を産生することができる単離された細胞を提供する。一般に、モノクローナル抗体はハイブリドーマによって産生され、本発明は、本発明のモノクローナル抗体または抗体フラグメントを産生するハイブリドーマを提供する。抗体F90−10C5、F85−6C5、およびF90−3B6を産生するハイブリドーマ細胞株は、本発明によって提供され、特許手続き上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約(the Budapest Treaty for the International Recognition of the Deposit of Microorganisms for the Purpose of Patent Procedure)(「ブダペスト条約」)の規定に基づいてthe Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH (DSMZ), Mascheroder Wep 1b. D-38124, Germanyに寄託され、それぞれ、寄託受託番号DSM ACC2967、DSM ACC2966、およびDSM ACC2965が割り当てられた。
【0028】
同様に、ヒト抗体は、限定されるものではないが、ヒト末梢血液細胞(例えば、Bリンパ球を含む)のエプスタインバーウイルス(EBV)形質転換、ヒトB細胞のin vitro免疫化、挿入されたヒト免疫グロブリン遺伝子を担持する免疫トランスジェニックマウス由来の脾臓細胞の融合、ヒト免疫グロブリンV領域ファージライブラリーからの単離、または当技術分野で公知であり本明細書における開示に基づく他の手法を含む複数の技術のいずれかによって作出される。トランスジェニック動物からヒト抗体を得るための方法は、例えば、Bruggemann et al., Curr. Opin. Biotechnol., 8: 455-58, 1997; Jakobovits et al., Ann. N. Y. Acad. Sci., 764: 525-35, 1995; Green et al., Nature Genet., 7: 13-21, 1994; Lonberg et al., Nature, 368: 856-859, 1994; Taylor et al., Int. Immun. 6: 579-591, 1994; および米国特許第5,877,397号にさらに記載されている。
【0029】
例えば、ヒト抗体は、抗原投与に応答して特異的ヒト抗体を産生するように操作されたトランスジェニック動物から得られる。例えば、国際特許公報第WO 98/24893号には、内因性重鎖遺伝子座および軽鎖遺伝子座の不活性化により機能的内因性免疫グロブリンを産生しない、ヒトIg遺伝子座を有するトランスジェニック動物が開示されている。また、抗体が霊長類定常領域および/または可変領域を有し、遺伝子座をコードする内因性免疫グロブリンが置換または不活性化されている、免疫原に対する免疫応答を開始することができるトランスジェニック非霊長類哺乳類宿主も記載されている。国際特許公報第WO 96/30498号には、哺乳類における免疫グロブリン遺伝子座を修飾するため、例えば、定常領域または可変領域の総てまたは一部を置き換え修飾抗体分子を形成するなどのためのCre/Lox系の使用が開示されている。国際特許公報第WO 94/02602号には、不活性化された内因性Ig遺伝子座と機能的ヒトIg遺伝子座とを有する非ヒト哺乳類宿主が開示されている。米国特許第5,939,598号には、内因性重鎖を欠き1以上の異種定常領域を含んでなる外因性免疫グロブリン遺伝子座を発現するトランスジェニックマウスを作製する方法が開示されている。トランスジェニック動物、例えば、本明細書において記載されるトランスジェニック動物などを用いて、選択された抗原分子に対して免疫応答を引き起こすことができ、抗体産生細胞を動物から取り出し、ヒト由来モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを作製するために用いることができる。免疫化プロトコール、アジュバントなどは、当技術分野で公知であり、国際特許公報第WO 96/33735号に記載されているように、例えば、トランスジェニックマウスの、免疫化に用いられる。モノクローナル抗体は、対応するタンパク質の生物活性または生理学的効果を阻害または中和する能力について試験することができる。
【0030】
本発明は、本発明の抗FGFR4抗体およびそのフラグメントを作出するための材料を提供する。例えば、本発明は、本発明の抗体または抗体フラグメントを産生する単離された細胞(例えば、ハイブリドーマ)、例えば、本明細書においてさらに記載されるハイブリドーマ細胞株F90−10C5、F85−6C5、およびF90−3B6などを提供する。本発明はさらに、本発明の抗体または抗体フラグメントをコードする単離されたポリヌクレオチドにも関する。本発明の一態様において、前記単離ポリヌクレオチドは、抗体重鎖可変領域(V)および/または抗体軽鎖可変領域(V)をコードするヌクレオチド配列を含んでなり、ここで、前記Vおよび前記Vは、モノクローナル抗体F90−10C5の相補性決定領域(CDR)と同一のCDRを含んでなる。
【0031】
関連実施態様において、本発明は、好適な宿主細胞におけるポリヌクレオチドの発現を命令するために本発明のポリヌクレオチドを含んでなるベクター(例えば、発現ベクター)を提供する。かかるベクターは、例えば、有用な量を与えるために宿主細胞においてポリヌクレオチドを増幅するため、および組換え技術を用いて、ペプチド、例えば、抗体または抗体フラグメントなどを発現するために、有用である。好ましい実施態様において、前記ベクターは、本発明のポリヌクレオチドが、発現制御配列を含んでなるポリヌクレオチドと機能しうる形で連結された発現ベクターである。本発明のポリヌクレオチドを組み込んでいるプラスミドおよびウイルスDNAベクターなどの自己複製する組換え発現構築物が具体的に企図される。発現制御DNA配列としては、プロモーター、エンハンサー、およびオペレーターが挙げられ、一般的には、発現構築物が利用される発現系に基づいて選択される。好ましいプロモーター配列およびエンハンサー配列は、一般的に、遺伝子発現を増加させる能力のために選択され、一方、オペレーター配列は、一般的に、遺伝子発現を調節する能力のために選択される。本発明の発現構築物はまた、発現構築物を有する宿主細胞の同定を可能にする1以上の選択マーカーをコードする配列も含んでよい。発現構築物はまた、宿主細胞における相同組換えを容易にし、好ましくは促進する配列も含んでよい。本発明の好ましい発現構築物はまた、宿主細胞における複製に必要な配列も含んでよい。
【0032】
例示的な発現制御配列としては、標的哺乳類細胞における発現のための、プロモーター/エンハンサー配列、例えば、サイトメガロウイルスプロモーター/エンハンサー(Lehner et al., J. Clin. Microbiol., 29: 2494-2502, 1991; Boshart et al., Cell, 41: 521-530, 1985);ラウス肉腫ウイルスプロモーター(Davis et al., Hum. Gene Ther., 4: 151, 1993);Tieプロモーター(Korhonen et al., Blood, 86(5): 1828-1835, 1995);シミアンウイルス40プロモーター;DRA(ダウンレギュレーティド・イン・アデノーマ(downregulated in adenoma);Alrefai et al., Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol, 293: G923-G934, 2007);MCT1(モノカルボン酸輸送体1;Cuff et al., Am. J. Physiol. Gastrointet. Liver Physiol, G977-G979. 2005);およびMath1(マウスアトナルホモログ1(mouse atonal homolog 1);Shroyer et al., Gastroenterology, 132: 2477-2478, 2007)が挙げられ、プロモーターはポリペプチドコード配列の上流(すなわち、5’)に機能しうる形で連結される(引用した参考文献の開示は全体として特に発現制御配列の考察に関して引用することにより本明細書の一部とされる)。もう1つの変形において、前記プロモーターは、上皮特異的プロモーターまたは内皮特異的プロモーターである。本発明のポリヌクレオチドはまた、所望により、ポリペプチドコード配列の下流(すなわち、3’)に機能しうる形で連結された好適なポリアデニル化配列(例えば、SV40またはヒト成長ホルモン遺伝子ポリアデニル化配列)も含んでよい。
【0033】
必要に応じて、本発明のポリヌクレオチドはまた、所望により、ポリペプチド配列とインフレームで融合された分泌シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列も含んでなる。分泌シグナルペプチドは、前記ポリヌクレオチドを発現する細胞による本発明のポリペプチドの分泌を命令し、分泌されたポリペプチドから細胞により切断される。前記ポリヌクレオチドはさらに、所望により、例えば、細菌における、ベクターの大量生産を促すことだけが目的の機能である配列、例えば、細菌複製起点および選択マーカーをコードする配列なども含んでなってよい。しかしながら、ベクターが動物に投与される場合には、かかる無関係の配列は好ましくは少なくとも部分的に切断される。他の導入遺伝子について文献に記載されている手法を用いて遺伝子療法のためのポリヌクレオチドを製造し投与することができる。例えば、Isner et al., Circulation, 91: 2687-2692, 1995;およびIsner et al., Human Gene Therapy, 7: 989-1011, 1996参照;引用することにより本明細書の一部とされる。
【0034】
いくつかの実施態様において、本発明のポリヌクレオチドは、宿主細胞による取り込みおよび前記抗体またはそのフラグメント(および/または任意の他のペプチド)の発現を促すためのさらなる配列をさらに含んでなる。一つの実施態様において、本明細書において記載される抗体またはそのフラグメントをコードする「裸の」導入遺伝子(すなわち、トランスフェクションを促すウイルスベクター、リポソームベクター、または他のベクターを含まない導入遺伝子)が使用される。
【0035】
ベクターはまた、「遺伝子療法」処置計画にも有用であり、その場合、例えば、抗体またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチドは、浸潤癌に罹患しているまたは罹患する危険性がある被験体に、前記被験体の細胞にin vivoで前記抗体またはそのフラグメントを発現させる形で導入される。任意の好適なベクターを用い抗体またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチドを前記宿主に導入し得る。文献において記載されている例示的なベクターとしては、複製欠損性レトロウイルスベクター、限定されるものではないが、レンチウイルスベクターを含む(Kim et al., J. Virol., 72(1): 811-816, 1998; Kingsman & Johnson, Scrip Magazine, October, 1998, 43〜46頁);パルボウイルスベクター、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなど(米国特許第5,474,9351号;同第5,139,941号;同第5,622,856号;同第5,658,776号;同第5,773,289号;同第5,789,390号;同第5,834,441号;同第5,863,541号;同第5,851,521号;同第5,252,479号;Gnatenko et al., J. Invest. Med., 45: 87-98, 1997);アデノウイルス(AV)ベクター(米国特許第5,792,453号;同第5,824,544号;同第5,707,618号;同第5,693,509号;同第5,670,488号;同第5,585,362号;Quantin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 2581-2584, 1992; Stratford Perricaudet et al., J. Clin. Invest., 90: 626-630, 1992;およびRosenfeld et al., Cell, 68: 143-155, 1992);アデノウイルス・アデノ随伴ウイルスキメラベクター(米国特許第5,856,152号)またはワクシニアウイルスもしくはヘルペスウイルスベクター(米国特許第5,879,934号;同第5,849,571号;同第5,830,727号;同第5,661,033号;同第5,328,688号
);リポフェクチンにより媒介される遺伝子移入(BRL);リポソームベクター(米国特許第5,631,237号);およびそれらの組合せが挙げられる。上述の文書の総ては全体として特に発現ベクターの考察に関して引用することにより本明細書の一部とされる。これらの発現ベクターのいずれも、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning, a Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)、およびAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates and John Wiley & Sons, New York, N.Y. (1994)に記載されている標準的な組換えDNA技術を用いて調製することができる。所望により、前記ウイルスベクターは、例えば、ウイルス複製に必要な選択遺伝子を欠失または破壊することにより、複製欠損性にされる。
【0036】
企図される他の非ウイルス送達機構としては、リン酸カルシウム沈殿(Graham and Van Der Eb, Virology, 52: 456-467 ', 1973; Chen and Okayama, Mol. Cell Biol., 7: 2745-2752, 1987; Rippe et al., Mol. Cell Biol., 10: 689-695, 1990)DEAE−デキストラン(Gopal, Mol. Cell Biol., 5: 1188-1190, 1985)、エレクトロポレーション(Tur-Kaspa et al., Mol. Cell Biol., 6: 716-718, 1986; Potter et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 81: 7161-7165, 1984)、直接マイクロインジェクション(Harland and Weintraub, J. Cell Biol, 101: 1094-1099, 1985、DNA添加リポソーム(Nicolau and Sene, Biochim. Biophys. Acta, 721: 185-190, 1982; Fraley et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76: 3348-3352, 1979; Feigner, Sci Am., 276(6): 102-6, 1997; Feigner, Hum Gene Ther., 7(15): 1791-3, 1996)、細胞音波処理(Fechheimer et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84: 8463-8467, 1987)、高速マイクロプロジェクタイルを用いる遺伝子衝撃(Yang et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA, 87: 9568-9572, 1990)、および受容体媒介トランスフェクション(Wu and Wu, J. Biol. Chem., 262: 4429-4432, 1987; Wu and Wu, Biochemistry, 27: 887-892, 1988; Wu and Wu, Adv. Drug Delivery Rev., 12: 159-167, 1993)が挙げら
れる。
【0037】
前記発現ベクター(または本明細書において論じられる抗体またはそのフラグメント)は、リポソーム中に取り込ませてもよい。リポソームは、リン脂質二重層および内部水性媒体を特徴とする小胞構造である。多重膜リポソームは、水性媒体によって隔てられた複数の脂質層を有する。それらは、リン脂質を過剰の水性溶液に懸濁すると自然に形成される。閉鎖構造の形成前に脂質成分は自己再構成を受け、脂質二重層の間に水および溶解溶質を取り込む(Ghosh and Bachhawat, In: Liver diseases, targeted diagnosis and therapy using specific receptors and ligands, Wu G, Wu C ed., New York: Marcel Dekker, 87〜104頁 (1991))。DNAのカチオン性リポソームへの添加は、リポソームから光学的複屈折液晶性凝縮球へのトポロジー転移を引き起こす(Radler et al., Science, 275(5301): 810-814, 1997)。これらのDNA−脂質複合体は、遺伝子療法および送達における使用のための潜在的な非ウイルスベクターである。
【0038】
in vitroでの外来DNAのリポソーム媒介核酸送達および発現には成功している。また、本発明では、「リポフェクション」技術を含めた様々な商業的アプローチも企図される。本発明のある特定の実施態様において、リポソームは、血球凝集性ウイルス(HVJ)と複合体化し得る。これは、細胞膜との融合を促進し、リポソームに封入されたDNAの細胞浸入を促すことが分かっている(Kaneda et al., Science, 243: 375-378, 1989)。他の実施態様において、リポソームは、核非ヒストン染色体タンパク質(HMG−1)とともに複合体化するかまたは併用する(Kato et al., J. Biol. Chem., 266: 3361-3364, 1991)。いっそうさらなる実施態様において、リポソームは、HVJおよびHMG−1の両方とともに複合体化するかまたは併用する。かかる発現構築物は、in vitroおよびin vivoでの核酸の移入および発現に使用することに成功している。本発明のいくつかの変形において、リポソームが表面にFGFR4を発現する細胞(癌細胞など)を標的とするように、リポソームにFGFR4標的化部分、例えば、FGFR4抗体またはフラグメントなどが含められる。
【0039】
裸のDNA発現構築物の細胞への移入は、粒子衝撃を用いることにより行うことができる。この方法は、DNA被覆マイクロプロジェクタイルを高速まで加速し、それらが細胞膜を貫通し細胞を死滅することなく細胞に浸入することができる能力に依存する(Klein et al., Nature, 327: 70-73, 1987)。小粒子を加速するためのいくつかの装置が開発されている。かかる1つの装置は、電流を発生させるための高圧放電に依存し、そしてそれが次に原動力を提供する(Yang et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA, 87: 9568-9572, 1990)。使用されたマイクロプロジェクタイルは、タングステンまたは金ビーズなどの生物学的に不活性な物質で構成されていた。
【0040】
ウイルスベクターを使用する実施態様において、好ましいポリヌクレオチドはさらに、上記のような好適なプロモーターおよびポリアデニル化配列も含む。さらに、これらの実施態様において、前記ポリヌクレオチドはさらに、本発明のポリペプチドをコードする配列に機能しうる形で連結されたベクターポリヌクレオチド配列(例えば、アデノウイルスポリヌクレオチド配列)も含むことは容易に分かるであろう。
【0041】
本発明はさらに、前記ポリヌクレオチドまたは前記ベクターを含んでなる細胞を提供し、例えば、その細胞は、本発明の抗体またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチドまたは前記ポリヌクレオチドを含んでなるベクターで形質転換またはトランスフェクトされる。本発明のある特定の態様において、前記細胞は、mAb F90−10C5のCDRと同一のCDRを含んでなるVおよびVを含有する抗FGFR4抗体または抗体フラグメントを発現する。前記細胞は、原核細胞、例えば、大腸菌(Escherichia coli)など(例えば、Pluckthun et al., Methods Enzymol., 178: 497-515, 1989参照)、または真核宿主細胞、例えば、動物細胞(例えば、骨髄腫細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞、またはハイブリドーマ細胞)、酵母(例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))、または植物細胞(例えば、タバコ、トウモロコシ、ダイズ、またはイネの細胞)などであってよい。哺乳類宿主細胞の使用は、組換え発現産物に最適な生物活性を与えるために望ましい可能性があるような翻訳修飾(例えば、グリコシル化、末端切断、脂質化、およびリン酸化)を提供すると予想される。同様に、本発明は、グリコシル化されたまたはグリコシル化されていないかつ/あるいはポリエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、またはポリプロピレングリコールなどの1以上の水溶性ポリマー結合を含むように共有結合により修飾されたポリペプチドを包含する。
【0042】
本発明のポリヌクレオチドは、環状プラスミドの一部として、または単離されたタンパク質コード領域もしくはウイルスベクターを含んでなる線状DNAとして宿主細胞に導入し得る。宿主細胞にDNAを導入するための方法は、周知で、当技術分野では日常的に実施されており、それらの方法としては、形質転換、トランスフェクション、エレクトロポレーション、核注入、またはリポソーム、ミセル、ゴースト細胞、およびプロトプラストなどの担体との融合が挙げられる。上述のように、かかる宿主細胞は、前記ポリヌクレオチドの増幅に、さらに前記ポリヌクレオチドによりコードされる本発明のポリペプチドの発現にも有用である。前記宿主細胞は単離されかつ/または精製されていてよい。前記宿主細胞はまた、in vivoで前記ポリペプチドの一過的発現または永久発現を引き起こすようにin vivo形質転換した細胞であってもよい。前記宿主細胞はまた、例えば、治療目的でin vivoで前記ポリペプチドを産生するように、ex vivo形質転換し、形質転換後に導入される単離された細胞であってもよい。宿主細胞の定義は、トランスジェニックヒトを明確に排除する。
【0043】
ポリヌクレオチドから抗体を作製するための特定の方法は、一般的に周知で、日常的に用いられている。例えば、基礎分子生物学手法は、Maniatis et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 1989によって記載されている(Maniatis et al., 第3版, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 2001も参照)。加えて、多数の刊行物には、DNA操作による抗体調製、発現ベクターの創出、および適当な細胞の形質転換および培養に好適な技術が記載されている(例えば、Mountain and Adair, Biotechnology and Genetic Engineering Reviewsの第1章, Tombs ed., Intercept, Andover, UK, 1992);およびCurrent Protocols in Molecular Biology, Ausubel ed., Wiley Interscience, New York, 1999参照)。
【0044】
本発明はさらに、FGFR4のアミノ酸67〜93またはFGFR4のアミノ酸67〜93の亜領域を含んでなる(またはからなる)ペプチドを提供する。この関連で、本発明は、アミノ酸配列YKEGSRLAPAGRVRG(配列番号5);GSRLAPAGRVRGWRG(配列番号6);LAPAGRVRGWRGRLE(配列番号7);AGRVRGWRGRLEIAS(配列番号8);またはVRGWRGRLEIASFLP(配列番号9)を含んでなる(またはからなる)ペプチドを提供する。本発明のペプチドは、、例えば、FGFR4に対する抗体を作出しおよび/または抗FGFR4活性について抗体を同定するために使用し得る。加えて、本発明は、例えば、FGFR4を提示する腫瘍細胞に対する免疫系を刺激するための、免疫原としてのペプチドの使用を企図する。一態様において、本発明は、FGFR4をコードするアミノ酸配列の5〜25個のアミノ酸からなる単離された抗原ペプチドを提供し、そのペプチドは、配列番号5〜9のいずれか1つに記載されたアミノ酸配列またはそのフラグメントを含んでなる。本発明はまた、上述のペプチドのいずれかと1以上の賦形剤(群)、アジュバント(群)、化学療法薬(群)などを含んでなる組成物も提供する。抗体またはそのフラグメントを作出するための材料および方法は、本明細書において記載されるペプチドにも適用されることは理解されよう。例えば、本発明は、上述のペプチドのいずれかをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含んでなるベクター、および前記ポリヌクレオチド(所望によりベクターに組み込まれたもの)を含んでなる単離された細胞を提供する。
【0045】
本発明のポリヌクレオチド、ベクター、および細胞は、in vitroおよびin vivoで癌細胞浸潤を抑制する方法において(例えば、被験体において癌を処置する方法において)用いることができることは理解されよう。
【0046】
癌細胞浸潤の抑制/処置方法
前記抗体または抗体フラグメントはFGFR4と結合し癌細胞浸潤を抑制する。本明細書において、「癌細胞浸潤」とは、癌細胞の周囲組織またはコラーゲンもしくはフィブリン豊富な間質の一時的基質への内方成長を指す。この関連で、本発明はまた、癌細胞の浸潤、内方成長、または転移をモジュレートする方法も提供し、その方法は、癌細胞の浸潤、内方成長、または転移をモジュレートするのに有効な量の本発明の抗体またはそのフラグメント(例えば、前記抗体またはそのフラグメントを含んでなる組成物)と癌細胞集団を接触させることを含む。哺乳類被験体において癌細胞が存在する場合に、本発明の抗体またはそのフラグメントを含んでなる組成物を前記哺乳類被験体に投与することにより癌細胞集団に接触させる。in vivoにおいて、癌細胞浸潤および転移は、基底膜およびコラーゲン豊富な間質性基質を含む細胞外基質の分解と、原発腫瘍からの活性細胞移動とを必要とする多面的なプロセスである。前記抗体またはそのフラグメントは、in vivoでの癌細胞浸潤、例えば、細胞外基質の分解などに関連した1以上のプロセスを妨げる。好ましくは、前記抗体またはそのフラグメントは、細胞外基質(コラーゲンおよび基底膜)の分解および三次元組織環境での細胞移動の両方を阻害する(すなわち、ダウンレギュレートするまたは遅らせる)。
【0047】
癌細胞浸潤を抑制する抗体の効力は、in vitro浸潤性アッセイを用いて立証され、好ましくは、癌についての動物モデルにおいて確認される。この関連で、本発明は、抗体または抗体フラグメントを同定する方法を提供し、その方法は、(a)FGFR4と結合する1以上の抗体または抗体フラグメントを得ること;(b)腫瘍細胞浸潤性アッセイにおいて前記抗体または抗体フラグメントをスクリーニングすること;および(c)前記アッセイにおいて浸潤性を、例えば、少なくとも50%抑制する抗体を同定すること、を含む。例示的なin vitroデュアルチャンバー腫瘍細胞浸潤性アッセイを実施例に記載している。いくつかの変形において、前記浸潤性アッセイに用いられる細胞は、FGFR4を他の受容体、例えば、FGFR1などと共発現する。いくつかの変形において、対象となる受容体(群)は組換え発現される。他の変形において、前記細胞は腫瘍(初代分離株)から単離されるかまたは対象となる受容体(群)を発現する腫瘍細胞株由来のものである。
【0048】
例示的なアッセイにおいて、FGFR4(例えば、FGFR4 R388タンパク質)を発現する癌細胞(例えば、MDA−MB−231細胞)は、三次元培養(例えば、コラーゲン)ゲルに加えられる。所望により、細胞移動を活性化するために、化学誘引物質、例えば、FGF2などは、(デュアルチャンバー形式を使用する場合には下部チャンバーに)加えられる。浸潤は、培養ゲルへ移動した細胞の数を測定することにより、または培養ゲルに達している細胞アームの長さを測定することにより判定することができる。抗体の不在下での浸潤と比べての、候補抗体によってもたらされる培養ゲルへの細胞浸潤の減少は、癌細胞浸潤を抑制する抗体またはそのフラグメントを示している。腫瘍細胞浸潤アッセイは、例えば、Puiffe et al., Neoplasia, P(10): 820-829, 2007; Alonso-Escolano et al., J. Pharm. Exper. Ther., 318: 373-380, 2006;およびKeese et al., BioTechniques, 33: 842-850, 2002にさらに記載されている。前記方法により同定された抗体またはそのフラグメントが提供される。
【0049】
抗体またはそのフラグメントは、当技術分野で公知の他のアッセイ、例えば、実施例に記載されるものなどを用いて特徴付けることができることは理解されよう。例えば、FGFR4活性化は、例えば、免疫沈降技術および免疫ブロット技術を用いて受容体リン酸化を検出することにより調べることができる。ある特定の態様において、本発明の抗体またはそのフラグメントは、FGFR4のリガンド非依存性またはリガンド依存性(例えば、繊維芽細胞増殖因子2(FGF2)誘導性)リン酸化を阻害するまたは減少させる。同様の技術を使用して、細胞におけるFGFR4およびMT1−MMPの共局在に対する抗体またはそのフラグメントの影響を調べることができる。
【0050】
加えて、in vivoでの癌細胞浸潤を抑制する抗体またはそのフラグメントの能力は、任意の好適な動物モデル、例えば、骨浸潤モデル(例えば、Kang, Cancer Cell, 3: 537-549, 2003;およびPauli et al., Cancer Research, 40: 4571-4580, 1980参照)、膀胱癌浸潤の動物モデル(Mohammed et al., Mol. Cancer Ther., 2(2): 183-188, 2003;およびKameyama et al., Carcinogenesis., 14(8): 1531-1535, 1993)、マウス黒色腫転移モデル(Lee et al., Cancer Chemother. Pharmacol., 57(6): 761-71, 2006)など、または修飾漿尿膜を使用するスクリーニングアッセイ(例えば、Ossowski, J. Cell Biol., 107(6): 2437-2445, 1988参照)を用いて判定することができる。ヒト患者における転移をモニタリングする方法は周知であり、それらの方法としては、例えば、転移細胞を検出するための組織生検材料の検査が挙げられる。
【0051】
癌細胞浸潤を「抑制すること」、「阻害すること」、または「妨害すること」には、浸潤または転移の100%廃絶は必要でない。癌細胞浸潤のいかなる減少も被験体において有益な生物学的効果となる。この関連で、前記抗体またはそのフラグメントは、細胞浸潤(例えば、3−Dコラーゲン腫瘍細胞浸潤性アッセイのMDA−MB−231細胞浸潤)を、前記抗体またはそのフラグメントの不在下で(例えば、前記抗体またはそのフラグメントに曝されない、生物学的に適合した対照の被験体、検体、または細胞培養物において)観察された癌細胞浸潤レベルと比べて、例えば、少なくとも約5%(少なくとも約10%、少なくとも約20%、または少なくとも約25%)抑制することができる。いくつかの実施態様において、細胞浸潤は、少なくとも約50%、例えば、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%減少する。in vitroモデルもしくは動物モデルではまたは繰り返しを必要とする臨床試験では、浸潤性の抑制は、結果が(例えば、有意水準p<0.05に対して)統計的に有意であることを確認する標準的な統計分析を用いて確認することができる。
【0052】
加えて、本発明は、被験体(例えば、哺乳類、例えば、ヒトなど)において癌を処置する方法を提供する。その方法は、癌を処置するのに有効な量の本発明の抗体またはそのフラグメントを前記被験体に投与することを含む。「癌を処置すること」は、異常な細胞または組織の成長または増殖を特徴とする障害、特に、転移能を有するものの発生または進行を抑制することまたは阻止することを包含する。「癌を処置すること」はまた、周囲組織における浸潤性成長の進展を妨害すること、それにより遠隔臓器への癌細胞拡散および二次性腫瘍の成長(転移)を遅らせることも包含する。「癌を処置すること」はまた、過剰増殖を特徴とする障害を、総てまたは部分的に、軽減することも包含する。本発明において、転移能または浸潤態様を有しかつFGFR4を発現するあらゆる癌が治療処置に好適である。実際には、ある特定の実施態様において、前記方法は、本発明の抗体またはそのフラグメントを、転移癌と診断された患者(a patent)に投与することを含む。例示的な癌としては、口腔および咽頭、消化器系、呼吸器系、骨および関節(例えば、骨転移)、軟部組織、皮膚(例えば、黒色腫)、乳房、生殖器系、泌尿器系、眼および眼窩、脳および神経系(例えば、神経膠腫)、または内分泌系(例えば、甲状腺)の癌が挙げられる。いくつかの実施態様において、本発明の方法の癌は乳癌、膀胱癌、黒色腫、前立腺癌、結腸直腸癌、甲状腺癌、神経膠腫、中皮腫、肺癌、精巣癌、または膵臓癌である。R388 FGFR4変異体は、乳房腫瘍、扁平上皮癌、膠芽腫、神経芽腫および子宮癌由来の細胞株において検出されている(米国特許第6,770,742号参照);よって、本発明の材料および方法は、前記障害の処置に特に好適である。
【0053】
癌の処置(例えば、周囲組織への癌細胞浸潤の妨害)における本発明の方法の進行は、任意の好適な方法、例えば、本明細書において記載される、癌進展を追跡するために診療所で現在用いられている方法などを用いて確かめることができる。必要に応じて、本発明の方法の効力を、新たな腫瘍の検出、腫瘍抗原またはマーカーの検出、生検、陽電子放射断層撮影法(PET)スキャン、生存、無増悪生存、無増悪期間、症状緩和効果(Clinical Benefit Response)の評価などの生活の質に関する評価など(それらは総てヒトにおける癌の全体的な進行(または退縮)を示すことができる)により判定する。
【0054】
本発明のいくつかの実施態様において、本発明の方法は、前記癌においてFGFR4 R388をコードするFGFR4対立遺伝子の有無を決定することを含む。特定の実施態様に応じて、前記癌がFGFR4 R388をコードする少なくとも1つのFGFR4対立遺伝子を有する場合に前記処置が投与される。よって、一態様において、本発明は、哺乳類被験体を処置する方法を提供し、その方法は、癌と診断された、または癌の処置を受ける哺乳類被験体を処置のために選択すること(ここで、前記癌は、FGFR4 R388をコードする少なくとも1つのFGFR4対立遺伝子を含む細胞を含む);および癌細胞の浸潤、内方成長、または転移をモジュレートするのに有効な量の前記抗体またはそのフラグメント(または前記抗体またはそのフラグメントをコードする核酸)を含んでなる組成物を前記被験体に投与することを含む。
【0055】
生体サンプルにおけるFGFR4 R388対立遺伝子の有無は、種々の技術を用いて判定することができる。サンプルは、一般に、血液、血清、尿、または例えば、筋肉、結合組織、神経組織などからの組織生検材料から単離される。一度得たら、サンプルの細胞を検査し、FGFR4 R388の有無を検出する。FGFR4 R388を同定するための1つの方法は、被験体(例えば、癌検体または組織生検材料)から採取した生体サンプルの核酸をアッセイすること(例えば、核酸配列データを得ること)を含む。生体サンプルからゲノムDNA、RNA、またはcDNAを得、所望により、FGFR4をコードする核酸をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する。次いで、そのDNA、RNA、またはcDNAサンプルを検査する。FGFR4 R388の存在は、R388対立遺伝子に特異的な核酸プローブの配列特異的ハイブリダイゼーションにより判定することができる。当業者は、生体サンプルがFGFR4 R388コード配列を含む場合にのみ配列特異的ハイブリダイゼーションが起こるようにプローブを設計するのに必要な知識と技能を有している。あるいはまたは加えて、被験体から得たDNAまたはRNAを直接配列決定することによりFGFR4 R388の有無を判定する。
【0056】
一つの態様において、生体サンプル(例えば、細胞)におけるFGFR4 R388対立遺伝子の有無は、FGFR4 R388およびG388対立遺伝子と別個に結合する抗体または抗体フラグメントを用いてFGFR4タンパク質をアッセイすることにより判定される。用語「別個に結合する」とは、R388 FGFR4タンパク質とG388 FGFR4タンパク質とを区別する抗体の能力を指す。例えば、FGFR4 R388と別個に結合する抗体またはそのフラグメントは、FGFR4 G388と結合するより高い親和性(例えば、少なくとも10倍、15倍、20倍、25倍、50倍、100倍高い親和性)で前記タンパク質と結合する。FGFR4 R388タンパク質を検出するための例示的な方法としては、限定されるものではないが、イムノアッセイ、例えば、蛍光免疫イムノアッセイ、免疫沈降、ラジオイムノアッセイ(radioimmunoasays)、ELISA、ウエスタンブロッティング、および蛍光活性化細胞選別(FACS)が挙げられる。これらの方法は、FGFR4 R388と別個に結合する抗体またはそのフラグメントと生体サンプルを接触させること、およびFGFR4 R388と結合する抗体を検出することを含む。
【0057】
非抗体系阻害薬
本発明のいくつかの変形は、FGFR4および、所望により、MT1−MMPに対する非抗体系阻害薬の使用を含む。マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)は、癌組織における細胞外基質の分解に関与する酵素のファミリーを構成する(Nagase et al., J. Biol. Chem., 274: 21491-21494, 1999; Nelson et al., J. Clin. Oncol., 18: 1135-1149, 2000)。MMPは、ほとんど例外なく、プロペプチドドメイン、触媒ドメイン、ヒンジドメイン、およびC末端(ヘモペキシン様)ドメインを含んでなる基本構造的構成を共有する亜鉛依存性マルチドメインエンドペプチダーゼである(Nagase et al., 前掲; Massova et al., FASEB J., 12: 1075-1095, 1998)。総てのMMPは、触媒活性の活性化(プロペプチドドメインのタンパク質分解による除去により通常行われるプロセス)を必要とする潜在型(プロMMP)で産生される。
【0058】
MT1−MMP(MMP−14)は、繊維状コラーゲンおよびフィブリンを含む種々の細胞外基質成分を分解する多機能酵素である(Pei et al., J. Biol. Chem., 271: 9135-9140, 1996; d'Ortho et al., FEBS Lett., 421: 159-164, 1998; Ohuchi et al., J. Biol. Chem., 272: 2446-2451, 1997)。加えて、MMP−2およびMT1−MMPは両方、多くのヒト癌の転移能と関係しており、実験系において腫瘍細胞浸潤を増大させる。MT−MMP1は、癌細胞および様々な形態の癌の反応性間質細胞の両方においてアップレギュレートされることが多く、MT1−MMPを過剰発現する癌細胞は、対照細胞より著しく速い速度でヌードマウスにおいて浸潤し増殖し転移する。MT1−MMPのアミノ酸配列は配列番号10に記載される。
【0059】
FGFR4またはMT1−MMP阻害薬は、FGFR4またはMT1−MMPを直接標的とすること、すなわち、タンパク質レベルでは、FGFR4またはMT1−MMPの転写または翻訳を標的とすること、あるいはFGFR4またはMT1−MMP機能実現に必要な下流分子を標的とすることにより活性をモジュレートする。核酸レベルでは、阻害薬は、FGFR4またはMT1−MMPコード配列を不活性化するかまたは破壊する。阻害はまた、ゲノムDNAまたはFGFR4 mRNA、FGFR4リガンド mRNA、MT1−MMP mRNAおよび/または下流標的のmRNAを標的とすることによっても転写または翻訳を遮断し得る。この関連で、アンチセンス療法は、特にFGFR4およびMT1−MMPに関して(その説明は他の遺伝子標的にも等しく好適であるという理解の下で)下に記載される、発現を阻害するための1つの方法である。
【0060】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、FGFR4(またはMT1−MMP)をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)とのハイブリダイゼーションを介してFGFR4(またはMT1−MMP)発現を負に調節する。FGFR4 G388タンパク質およびFGFR4 R388タンパク質をコードする核酸配列は、例えば、FGFR4 G388(配列番号11)の核酸配列についてはGenBank受託番号X57205で記載されるように公知である。FGFR4 R388の核酸配列は配列番号12に記載される。同様に、MT1−MMPをコードする核酸配列は、例えば、GenBank受託番号X90925(配列番号13)で記載されるように当技術分野で公知である。これらの配列は、当技術分野で公知の任意の方法を用いてアンチセンス分子を調製し最適化するために使用し得る。この関連で、本発明は、MT1−MMP(またはFGFR4)ゲノムDNAまたはmRNAとハイブリダイズして、MT1−MMP(またはFGFR4)転写または翻訳を阻害する阻害薬核酸の使用を含む。本明細書において記載されるあらゆる種類の核酸阻害薬は、単独でも、本明細書において記載される他の阻害薬物質と組み合わせても使用することができる(併用療法に関する下の節を参照のこと)。
【0061】
一つの態様において、FGFR4またはMT1−MMPをコードするmRNAと特異的にハイブリダイズしmRNA発現を阻害し、結果としてFGFR4またはMT1−MMPタンパク質発現を阻害する、少なくとも5〜約50ヌクレオチド長(間の(整数のヌクレオチドで測定される)総ての長さを含む)アンチセンスオリゴヌクレオチドが、本発明の方法における使用のために企図される。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、前記オリゴヌクレオチドの安定性を向上させること、すなわち、前記オリゴヌクレオチドの、特にin vivoでのヌクレアーゼ分解に対する耐性を高めることが当技術分野で知られている、修飾ヌクレオチド間結合を含んでなるものおよび/または修飾ヌクレオチドを含んでなるもを含む。標的ポリヌクレオチド中の領域と完全相補的であるアンチセンスオリゴヌクレオチドは最高度の特異的阻害を与える一方、完全には相補的でないアンチセンスオリゴヌクレオチド、すなわち、標的ポリヌクレオチド中の領域に関して限られた数のミスマッチを含むものも高度のハイブリダイゼーション特異性を保持するため、標的mRNAの発現を阻害することは当技術分野では理解される。従って、本発明は、FGFR4またはMT1−MMPをコードするポリヌクレオチド中の標的領域と完全相補的であるアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いる方法、ならびに完全には相補的でない、すなわち、標的ポリヌクレオチド中の標的領域に対して、ミスマッチを、そのミスマッチが標的ポリヌクレオチド中の標的領域との特異的ハイブリダイゼーションを妨げない程度に含むアンチセンスオリゴヌクレオチドを利用する方法を含む。アンチセンス化合物の調製および使用は、米国特許第6,277,981号に記載されており、その開示は全体として引用することにより本明細書の一部とされる。
【0062】
本明細書において記載される標的遺伝子の発現を阻害するためのもう1つの種類の治療用物質は、リボザイムである。リボザイム阻害薬は、標的ポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズするヌクレオチド領域および標的ポリヌクレオチドを消化する酵素部分を含む。リボザイム阻害の特異性は、アンチセンス領域の長さおよび標的ポリヌクレオチド中の標的領域とのアンチセンス領域の相補性の程度と関係している。よって、本発明は、完全相補的である、5〜約50ヌクレオチド長(間の総てのヌクレオチド長を含む)のアンチセンス領域、ならびにミスマッチを、そのミスマッチが標的FGFR4またはMT1−MMPをコードするポリヌクレオチド中の標的領域との特異的ハイブリダイゼーションを妨げない程度に含むアンチセンス領域を含んでなるFGFR4またはMT1−MMPのリボザイム阻害薬の使用を含む。本発明の方法に有用なリボザイムは、前記オリゴヌクレオチドの安定性を向上させること、すなわち、前記オリゴヌクレオチドの、特にin vivoでのヌクレアーゼ分解に対する耐性を高めることが当技術分野で知られている、修飾ヌクレオチド間結合を含んでなるものおよび/または修飾ヌクレオチドを含んでなるものを、その修飾が、標的領域と特異的にハイブリダイズするまたは前記分子の酵素活性を低下させるリボザイムの能力を変えない程度に含む。リボザイムは酵素であるため、単一分子により複数の標的分子の消化を命令することができ、それによって非酵素アンチセンスオリゴヌクレオチドより低い濃度で効果があるという利点を提供する。リボザイム技術の調製および使用は、米国特許第6,696,250号;同第6,410,224号;および同第5,225,347号に記載されており、それらの開示は全体として引用することにより本明細書の一部とされる。
【0063】
本明細書において記載される標的遺伝子/経路の発現(それゆえ、活性)を阻害するためのもう1つの種類の治療用物質は、RNA干渉(RNAi)または低分子干渉RNA(siRNA)としても知られるRNA干渉技術である。FGFR4またはMT1−MMPなどの標的遺伝子の配列の知識を用いて、前記遺伝子の発現に干渉するsiRNA分子を形成する。SiRNAは、二本鎖RNA(dsRNA:センス鎖およびアンチセンス鎖の両方の混合物)の直接導入により転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)を誘導する技術を表す(Fire et al., Nature, 391: 806-811, 1998)。現在のPTGSモデルにより、干渉dsRNAの短いストレッチ(21〜23ヌクレオチド;「ガイドRNA」としても知られるsiRNA)がPTGSを媒介することが示されている。siRNAは、直接または導入遺伝子またはウイルスを介して導入されたdsRNAの切断によって生じることは明らかである。これらのsiRNAはRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)により増幅することができ、siRNAはRNA誘導型サイレンシング複合体(RISC)に組み込まれ、その複合体を相同内因性mRNAへ導き、そこで複合体は転写物を切断する。組織特異的に遺伝子の発現を破壊するためにRNAiを使用し得ることが企図される。所望のdsRNAをコードする遺伝子フラグメントを誘導プロモーターまたは組織特異的プロモーターの後に置くことにより、生物内の特定位置でまたは特定の発達段階に遺伝子を不活性化することができるはずである。
【0064】
また、一方の鎖が標的FGFR4またはMT1−MMPをコードするポリヌクレオチド中の標的領域と相補的である二本鎖RNA(dsRNA)も企図される。一般的に、30ヌクレオチド長より短いこの種のdsRNA分子は、当技術分野では低分子干渉RNA(siRNA)と呼ばれている。しかしながら、本発明はまた、30ヌクレオチド長より長いdsRNA分子の使用も含み、本発明のある特定の態様においては、これらのより長いdsRNA分子は、約30ヌクレオチド長〜200ヌクレオチド長までおよびそれ以上であってよく、間の総ての長さのdsRNA分子を含む。他のRNA阻害薬と同様に、dsRNA分子の一方の鎖の相補性は、標的ポリヌクレオチド中の標的領域と完全マッチであり得るか、またはミスマッチを、そのミスマッチが標的FGFR4またはMT1−MMPをコードするポリヌクレオチド中の標的領域との特異的ハイブリダイゼーションを妨げない程度に含んでよい。他のRNA阻害技術と同様に、dsRNA分子は、前記オリゴヌクレオチドの安定性を向上させること、すなわち、前記オリゴヌクレオチドの、特にin vivoでのヌクレアーゼ分解に対する耐性を高めることが当技術分野で知られている、修飾ヌクレオチド間結合を含んでなるものおよび/または修飾ヌクレオチドを含んでなるものを含む。MT1−MMPを標的とする例示的なレンチウイルスshRNA構築物としては、Open Biosystems (Huntsville, Alabama)のTRCN0000050854(GenBank受託番号NM_004995)およびTRCN0000050585(GenBank受託番号NM_006703)(カタログ番号 catalog RHS3979−9618053およびRHS3979−9617784;Tatti et al., Exp. Cell. Res., 314(13): 2501-14, 2008にさらに記載されている)が挙げられる。Qiagen (Hilden, Germany)のHP Validated siRNA SI03648841(配列番号14)もMT1−MMPを効果的にダウンレギュレートする。例示的な、FGFR4を標的とするsiRNAとしては、Qiagen (Hilden, Germany)のHP Validated siRNA SI02659979(配列番号15)、HP Validated siRNA SI02665306、およびHP GenomeWide siRNA SI00031360(配列番号16)が挙げられる。RNAi化合物の調製および使用は、米国特許出願第20040023390号に記載されており、その開示は全体として引用することにより本明細書の一部とされる。
【0065】
本発明はさらに、FGFR4またはMT1−MMPの阻害がRNA lasso技術を用いて行われる方法も企図する。環状RNA lasso阻害薬は、本質的に分解に対してより耐性があり、それゆえ、一般的に修飾ヌクレオチド間結合または修飾ヌクレオチドを含まないまたは必要としない高度に構造化された分子である。環状lasso構造は、標的ポリヌクレオチド中の標的領域とハイブリダイズすることができる領域を含み、このlasso中のハイブリダイズする領域は他のRNA阻害技術について典型的な長さである。他のRNA阻害技術と同様に、lasso中のハイブリダイズする領域は、標的ポリヌクレオチド中の標的領域と完全マッチであってよく、またはミスマッチを、そのミスマッチが標的FGFR4またはMT1−MMPをコードするポリヌクレオチド中の標的領域との特異的ハイブリダイゼーションを妨げない程度に含んでよい。RNA lassoは環状であり標的領域と強固なトポロジー結合を形成するため、この種の阻害薬は、典型的なアンチセンスオリゴヌクレオチドと異なり、一般的にヘリカーゼ作用により置き換えられず、それゆえ典型的なアンチセンスオリゴヌクレオチドより低い用量で利用することができる。RNA lassoの調製および使用は、米国特許第6,369,038号に記載されており、その開示は全体として引用することにより本明細書の一部とされる。
【0066】
FGFR4またはMT1−MMPに対するアンチセンスRNAおよびDNA分子、リボザイム、RNAiならびに三重らせん分子は、DNAおよびRNA分子の合成について当技術分野で公知の任意方法によって調製することができる。これらには、当技術分野で周知のオリゴデオキシリボヌクレオチドを化学合成するための技術が含まれ、限定されるものではないが、固相ホスホルアミダイト化学合成などである。あるいは、RNA分子は、アンチセンスRNA分子をコードするDNA配列のin vitroおよびin vivo転写により作出してよい。かかるDNA配列は、T7またはSP6ポリメラーゼプロモーターなどの好適なRNAポリメラーゼプロモーターが組み込まれた様々なベクターに組み込み得る。あるいは、用いるプロモーターに応じて構成的にまたは誘導的にアンチセンスRNAを合成するアンチセンスcDNA構築物は、安定にまたは一過的に細胞に導入することができる。
【0067】
(アプタマーは)FGFR4またはMT1−MMPの相互作用に干渉するためのもう1つの核酸に基づく方法は、アプタマーの使用である。アプタマーは、他の分子と結合する能力に基づきランダムなプールから選択されたDNAまたはRNA分子である。核酸、タンパク質、低分子有機化合物、さらには完全生物と結合するアプタマーが選択されている。アプタマーを同定し作製するための方法および組成物は当業者に公知であり、例えば、各々引用することにより本明細書の一部とされる米国特許第5,840,867号および米国特許第5,582,981号に記載されている。FGFR4またはMT1−MMPと結合するアプタマーは、本治療実施態様において有用であるように具体的に企図される。
【0068】
コンビナトリアルサイエンスの分野における最近の進歩により、所定の標的に対して高い親和性と特異性を有する短いポリマー配列が同定された。例えば、SELEX技術は哺乳類抗体に匹敵する結合特性を有するDNAおよびRNAアプタマーを同定するために使用されており、免疫学分野では無数の化合物と結合する抗体または抗体フラグメントが作出、単離されており、ファージディスプレイは非常に有利な結合特性を有する新規ペプチド配列を発見するために利用されている。これらの分子進化技術の成功に基づき、いずれの標的分子と結合する分子も創出することができることは確かである。ループ構造は、以下の場合のように、所望の結合特性の提供に関与することが多い:相補的塩基対形成をしない短い領域から創出されるヘアピンループを利用することが多いアプタマー、ループ超可変領域のコンビナトリアル配列を利用する天然由来抗体、および直鎖ペプチドのファージディスプレイの結果と比較したときに結果の改善を示した環状ペプチドを利用する新規なファージディスプレイライブラリー。このように、コンビナトリアル分子進化技術によって高親和性リガンドを創出および同定することができることを示唆する十分な証拠が得られている。本発明では、分子進化技術は、本明細書において記載されるリガンドに特異的な結合構築物を単離するために使用することができる。アプタマーについての詳細は、一般的には、Gold et al., J. Biotechnol., 74: 5-13, 2000を参照のこと。アプタマーを作出するための関連技術は、米国特許第6,699,843号に見ることができ、それは全体として引用することにより一部とされる。
【0069】
いくつかの実施態様において、アプタマーは、核酸ライブラリーを作成し;その核酸ライブラリーを標的、例えば、FGFR4またはMT1−MMPと接触させることにより作出し得、ここで、(ライブラリーの他の核酸と比べて)その標的に対してより高い結合親和性を有する核酸が選択され増幅され、その標的との結合に対して比較的高い親和性および特異性を有する核酸を多く含む核酸混合物が生じる。このプロセスを繰り返してよく、選択された核酸を突然変異させ再びスクリーニングし、それによって標的アプタマーを同定する。
【0070】
他の阻害薬は、FGFR4またはMT1−MMPを直接、すなわち、タンパク質レベルを標的とする。この関連で、FGFR4またはMT1−MMPの化学化合物阻害薬が企図される。小型化により分子が標的細胞により取り込こまれ易くなるため、小分子化合物(すなわち、分子量が1000ダルトン未満、一般に300〜700ダルトンの間である化合物)が一般的に好ましい。FGFR4の合成阻害薬としては、PD173074(Pfizer; Ezzat et al., Clinical Cancer Res., 11: 1336-1341, 2005、およびKwabi-Addo et al., Endocrine-Related Cancer, 11; 709-724, 2004)が挙げられる。MT1−MMP活性を遮断することができる合成阻害薬としては、Maquoi et al., Clin. Cancer Res., 15: 4038-47 (2004)に記載されている、Ro−28−2653が挙げられる。合成阻害薬は、Nisato et al., Cancer Res., 65(20): 9377-9387, 2005;およびGalvez et al., J. Biol. Chem., 276: 37491-500, 2001にさらに記載されている。
【0071】
他の阻害薬としては、FGFR4と特異的に結合し1以上のリガンド、例えば、FGF2などとのヒトFGFR4の結合を遮断するかまたは減じるFGFR4結合剤が挙げられる。かかる薬剤は前記受容体と結合するが、それらの薬剤はFGFR4活性に関与するシグナル伝達カスケードを引き起こさない。あるいは、可溶性FGFR4受容体はFGFR4からリガンドを隔離するために使用し得る。この関連で、FGFR4の細胞外領域を、血清半減期を延長する別の部分、例えば、Fc抗体ドメインと融合して融合タンパク質を作製することができるし、またはPEG部分と融合して可溶性FGFR4受容体を作出することができる。
【0072】
投与に関する考察
癌を処置するまたはin vivoでの癌細胞浸潤をモジュレートする場合、前記方法は、好ましくは、被験体は癌の危険性があると判定された(例えば、癌マーカーが検出された)後できる限り早期にあるいは癌および/または周囲組織浸潤が検出された後(例えば、腫瘍切除後)できる限り早期に行われる。この目的のために、前記抗体またはそのフラグメントは、癌細胞の浸潤、内方成長、または転移を総てまたは部分的に保護するために、腫瘍浸潤が検出される前に投与される。前記抗体またはそのフラグメントは、さらなる浸潤または二次性腫瘍の形成を総てまたは部分的に予防するために、腫瘍浸潤が始まった後にも投与することができる。この関連で、本発明は、哺乳類被験体を処置する方法を提供し、その方法は、(i)癌と診断された、または癌の処置を受ける哺乳類被験体を処置のために選択すること;および(ii)癌細胞の浸潤、内方成長、または転移をモジュレートするのに有効な量の本発明の抗体またはそのフラグメント(例えば、組成物に処方された本発明の抗体またはそのフラグメント)を前記被験体に投与することを含む。
【0073】
好ましい実施態様において、前記抗体または抗体フラグメント(および/または本明細書において記載される任意の他の治療薬)は、組成物、例えば、担体(すなわち、ビヒクル、アジュバント、または希釈剤)を含んでなる生理学上許容される組成物などに処方される。使用される特定の担体は、物理化学的要件、例えば、溶解度および反応性の欠如などによってのみ限定され、投与経路によって限定される。生理学上許容される担体は当技術分野で周知である。注射用途に好適な例示的剤形には、滅菌水溶液または分散液および滅菌注射用溶液または分散液の即時調製用滅菌粉末が含まれる(例えば、米国特許第5,466,468号参照)。注射用処方物は、例えば、Pharmaceutics and Pharmacy Practice, J. B. Lippincott Co., Philadelphia. Pa., Banker and Chalmers, eds. (1982)、およびASHP Handbook on Injectable Drugs, Toissel, 第4版 (1986))にさらに記載されている。本明細書において記載される材料のいずれかを含んでなる医薬組成物は、容器内に、かかる医薬組成物の使用に関する説明を提供するパッケージング材料とともに入れてよい。一般的に、かかる使用説明書には、試薬濃度と、ある特定の実施態様においては、賦形剤成分または医薬組成物を再構成するのに必要な希釈剤(例えば、水、生理食塩水またはPBS)の相対量も記載している具体的な表現が含まれる。
【0074】
特定の被験体についての特定の投与計画は、用いる特定の抗体、他の治療用物質の存在、投与される量、投与経路、ならびに副作用の原因および程度によってある程度決まるであろう。本発明により被験体(例えば、哺乳類、例えば、ヒトなど)に投与される量は、妥当な期間にわたって所望の応答に影響を及ぼすのに十分であるべきである。用量の大きさも投与の経路、時期、および回数によって決まるであろう。従って、医師ならば、最適な治療効果を得るために、用量を滴定し投与経路を変更し得、従来の用量反応域検出技術は、当業者には公知である。単に例として、本発明の方法は、上述の因子に応じて、例えば、約0.1μg/kg〜約100mg/kgまでまたはそれ以上を投与することを含み得る。他の実施態様において、前記用量は、1μg/kg〜約100mg/kgまで;または5μg/kg〜約100mg/kgまで;または10μg/kg〜約100mg/kgまでに及んでよい。癌の過剰増殖性から、抗体またはそのフラグメントの1回用量は、完全な抗癌(抗浸潤)効果に達するものでなくてよい。実際には、大部分の慢性疾患と同様に、治療薬の複数回投与を必要とする長期処置が必要な場合がある。従って、一つの実施態様において、本発明の方法は、ある期間にわたって医薬組成物の複数回用量を送達することを含む。
【0075】
生理学上許容される組成物、例えば、抗FGFR4抗体またはそのフラグメントを含んでなる医薬組成物などを投与する好適な方法は、当技術分野で周知である。薬剤の投与には2以上の経路を用いることができるが、他の経路より即時で効果的な反応を提供することができる特定の経路がある。状況に応じて、前記薬剤を含んでなる医薬組成物は体腔内に適用または注入され、皮膚または粘膜を通じて吸収され、消化され、吸入され、および/または循環に入る。例えば、ある特定の状況においては、生理学上許容される(例えば、医薬)組成物を静脈内、腹腔内、大脳内(実質内)、脳室内、筋肉内、眼内、動脈内、門脈内、病巣内、髄内、くも膜下腔内、脳室内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、経腸、局所、舌下、尿道、膣、または直腸手段による注射により、持続放出システムにより、あるいは埋込み装置により送達することも望ましいであろう。必要に応じて、前記抗体またはそのフラグメントは、対象となる領域に供給する動脈内または静脈内投与を介して、例えば、肝臓への送達の場合には肝動脈を介して局部的に投与される。あるいは、前記組成物は、前記抗体を吸収させたまたは封入したメンブレン、スポンジ、または別の適当な材料の埋込みを介して局所的に投与される。埋込み装置を使用する場合には、その装置を任意の好適な組織または器官に埋め込んでよく、前記抗体の送達は、拡散、時限放出型ボーラス、または連続投与を介したものであってよい。他の態様において、前記薬剤は、腫瘍切除または他の外科的処置中に露出した組織に直接または標的化注射(例えば、腫瘍内注射)により投与される。治療的送達アプローチは当業者には周知であり、それらのいくつかは、例えば、米国特許第5,399,363号にさらに記載されている。
【0076】
併用療法
適当な場合には、前記薬剤は、さらなる(または増大された)生物学的効果を得るために、他の物質(例えば、治療用物質)および/または他の治療モダリティーと組み合わせて投与される。例えば、一つの実施態様において、本発明の方法は、2種以上の異なる抗FGFR4抗体(またはそのフラグメント)を被験体に投与することを含む。この関連で、本発明の方法が、mAb F90−10C5によって認識されるFGFR4エピトープと結合する抗体を使用することを必要とする場合、その方法は、mAb F90−10C5によって認識されるエピトープとは異なるFGFR4のエピトープと結合する抗体またはそのフラグメントを被験体に投与すること(または前記抗体またはそのフラグメントと癌細胞集団を接触させること)をさらに含んでよい。例示的な第二の抗体およびそのフラグメントとしては、(i)実施例において記載されるF85−6C5およびF90−3B6(本明細書ではそれぞれ「6C5」および「3B6」とも呼ぶ)、(ii)F85−6C5および/またはF90−3B6とのFGFR4の結合について競合する抗体またはそのフラグメント、ならびに(iii)F85−6C5および/またはF90−3B6によって認識されるFGFR4の領域と結合する抗体またはそのフラグメントが挙げられる。驚くべきことに、癌細胞を、mAb F90−10C5に、F85−6C5もしくはF90−3B6とを組み合わせて曝露すると、mAb F90−10C5単独での処置と比べて、前記細胞中の総MT1−MMPタンパク質量および活性化MT1−MMPタンパク質量の減少が大きい結果となる。異なるFGFR4エピトープ(とりわけ、異なる細胞外エピトープ)を認識する2種以上の抗FGFR4抗体による併用療法は、mAb F90−10C5の阻害効果を増大させることができる。
【0077】
あるいは(またはこれに加えて)、複数の生物学的効果を得るために、複数の抗体が被験体に送達される。一態様において、本発明は、哺乳類被験体を処置する方法を提供し、その方法は、第一および第二の抗FGFR4抗体またはそのFGFR4結合フラグメントを、癌と診断された、または癌の処置を受ける被験体に投与することを含み、ここで、前記第一の抗FGFR4抗体またはフラグメントは、FGFR4 R388のFGF2誘導性リン酸化を阻害し、前記第二の抗FGFR4抗体またはフラグメントは、リガンド非依存性FGFR4リン酸化を阻害する。前記抗体またはそのフラグメントは単一組成物に処方してよく、あるいは同時にまたは逐次的に投与される別個の組成物(すなわち、前記第一の抗体またはフラグメントを含有する第一の組成物および前記第二の抗体またはフラグメントを含有する第二の組成物)で投与してよい。本発明の方法はまた、前記抗FGFR4抗体を非抗体系FGFR4阻害薬、例えば、本明細書においてさらに記載されるものなどと組み合わせて投与することを必要とすることもある。例えば、前記方法は、癌の標準的治療の化学療法を前記被験体に投与することを含み得る。
【0078】
あるいは、またはこれに加えて、本発明の方法は、MT1−MMP阻害薬を被験体に投与すること(または前記阻害薬と癌細胞集団を接触させること)をさらに含む。MT1−MMPのいずれの阻害薬も、本発明において使用に好適であり、非抗体系(例えば、小分子)MT1−MMP阻害薬は上に記載されている。一態様において、前記阻害薬は、MT1−MMPと結合してその酵素の活性を阻害する(例えば、細胞外基質の分解を阻害する)抗体またはそのフラグメントである。いくつかの抗MT1−MMP抗体は当技術分野で公知である。例えば、Nisato et al., Cancer Res., 65(20): 9377-9387, 2005にさらに記載されている、抗体LEM−1およびLEM−2は、用量依存的に、三次元コラーゲンゲルのサイトカイン誘導性ウシ微小血管内皮(BME)細胞浸潤を抑制する。抗MT1−MMP抗体は、Galvez et al., J. Biol. Chem., 276: 37491-500, 2001にも記載されている。FGFR4抗体に関して上に記載した抗体およびそのフラグメントの考察は、抗MT1−MMP抗体にも関連している。
【0079】
MT1−MMPの内因性阻害薬は同定されており、本発明の方法における使用のために企図される。例えば、一度活性化したら、MMPは、その活性部位と結合し触媒作用を阻害する、メタロプロテイナーゼ(TIMP)の内因性組織阻害薬群により特異的に阻害される(Nagase et al., 前掲)。MT1−MMPは、TIMP−2、TIMP−3およびTIMP−4により阻害されるが、TIMP−1によっては阻害されない(Will et al., J. Biol. Chem., 271: 17119-17123, 1996; Bigg et al., Cancer Res., 61: 3610-3618, 2001)。GPI結合糖タンパク質であるRECK(Kazalモチーフを含む復帰突然変異誘発システインリッチタンパク質(reversion inducing-cysteine rich protein with Kazal motifs))は、MT1−MMPのもう1つの阻害薬である(Oh et al., Cell, 107: 789-800, 2001)。突然変異RECKを有するマウスは、E10.5において胚致死となり、コラーゲン原繊維、基底板、および血管発生の異常−過剰なMMP活性と相関している可能性がある表現型を示す。コンドロイチン/ヘパラン硫酸プロテオグリカン、testican 1、testican 3、およびtestican 3のスプライス変異体であるN−TesもMT1−MMPを阻害することが分かっている(Nakada et al., Cancer Res., 67: 8896-8902, 2001)。
【0080】
血管内皮細胞増殖因子受容体−3(VEGFR−3)または血管内皮細胞増殖因子受容体−2(VEGFR−2)の阻害薬もまた、本発明の抗体、そのフラグメント、ポリペプチド、またはポリヌクレオチドとともに使用するために企図される。本発明の方法は、VEGFR−3またはVEGFR−2のVEGF−DまたはVEGF−C刺激を抑制する薬剤、例えば、VEGF−C、VEGF−D、またはVEGFR−3もしくはVEGFR−2の細胞外ドメインと結合する抗体または抗体フラグメント;VEGF−CまたはVEGF−Dと結合するのに有効な、VEGFR−3細胞外ドメインまたはそのフラグメントを含んでなる可溶性タンパク質;あるいはVEGF−CまたはVEGF−Dと結合するのに有効な、VEGFR−2細胞外ドメインまたはそのフラグメントを含んでなる可溶性タンパク質などを投与することを含み得る。VEGFR−3およびVEGFR−2活性をモジュレートするための例示的な薬剤および方法は、例えば、米国特許第7,034,105号および同第6,824,777号、米国特許公報第2005/0282233号および同第2006/0030000号;ならびに国際特許公報第WO 2005/087812号(出願第PCT/US2005/007742号)、同第WO 2005/087808号(出願第PCT/US2005/007741号)、同第WO 2002/060950号(出願第PCT/US2002/001784号)、および同第WO 2000/021560号(出願第PCT/US 1999/023525号)に記載されている。
【0081】
いかなる場合でも、医師は、例えば、特定の癌、進行度、および患者のタイプに適当である、または好ましいと考えられる1以上の「標準的治療の」療法を有する。本発明は、さらなる変形として、本明細書において記載される療法と組み合わせての、標準的治療の療法(standard or care therapies)の投与/使用を含む。
【0082】
本発明の方法との併用に好適な他の治療用物質/同時療法としては、例えば、放射線療法、温熱療法、外科的切除、化学療法、抗脈管形成因子(例えば、可溶性増殖因子受容体(例えば、sflt)、増殖因子アンタゴニスト(例えば、アンジオテンシン)など)、鎮静薬などが挙げられる。各治療因子は、前記薬剤に好適な計画に従って投与される。これには、本発明の抗体またはそのフラグメントおよび1種以上のさらに好適な薬剤(群)の同時発生投与(すなわち、実質的に同時投与)および非同時発生投与(すなわち、重なっているかどうかにはかかわらず任意の順序での異なる時間での投与)が含まれる。異なる成分は、同じ組成物でまたは別個の組成物で、同じまたは異なる投与経路により投与してよいことは分かるであろう。この関連で、本発明の組成物は、mAb F90−10C5によって認識されるエピトープとは異なるFGFR4のエピトープと結合する抗体またはそのフラグメントおよび/またはMT1−MMP阻害薬を含んでなり得る。あるいはまたは加えて、本発明の抗体またはそのフラグメントは、コンジュゲートまたは結合させた抗新生物薬(例えば、放射性ヌクレオチド)または細胞傷害薬を含んでなり得る。放射性ヌクレオチド−抗体コンジュゲートのさらなる考察については、例えば、Appelbaum et al., Blood, 75(8): 2202, 1989;および米国特許第6,743,411号を参照のこと。
【0083】
本発明と併用するための化学療法処置は抗悪性腫瘍薬を使用し、抗悪性腫瘍薬としては、限定されるものではないが、ナイトロジェンマスタード、例えば、メクロレタミン、シクロホスファミド、イフォスファミド、メルファランおよびクロラムブシルなど;ニトロソ尿素、例えば、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、およびセムスチン(メチル−CCNU)など;トリエチレンメラミン(thriethylenemelamine)(TEM)、トリメチレン、チオホスホルアミド(チオテパ)、およびヘキサメチルメラミン(HMM、アルトレタミン)などのエチレンイミン/メチルメラミン;ブスルファンなどのスルホン酸アルキル;ダカルバジン(DTIC)などのトリアジン;メトトレキサートおよびトリメトレキサートなどの葉酸類似体、5−フルオロウラシル、フルオロデオキシウリジン、ゲムシタビン、シトシンアラビノシド(AraC、シタラビン)、5−アザシチジン、2,2’−ジフルオロデオキシシチジンなどのピリミジン類似体、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、アザチオプリン、2’−デオキシコホルマイシン(ペントスタチン)、エリスロヒドロキシノニルアデニン(EHNA)、リン酸フルダラビン、および2−クロロデオキシアデノシン(クラドリビン、2−CdA)などのプリン類似体を含む代謝拮抗物質;パクリタキセル、ビンブラスチン(VLB)、ビンクリスチン、およびビノレルビンを含むビンカアルカロイド、タキソテール、エストラムスチン、およびリン酸エストラムスチンなどの細胞分裂抑制薬を含む天然物;エトポシドおよびテニポシドなどのピポドフィロトキシン(pipodophylotoxins);アクチモマイシンD(actimomycin D)、ダウノマイシン(ルビドマイシン)、ドキソルビシン、ミトキサントロン、イダルビシン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)、マイトマイシンC、およびアクチノマイシンなどの抗生物質;L−アスパラギナーゼなどの酵素;インターフェロン−α、IL−2、G−CSFおよびGM−CSFなどの生物応答修飾物質;シスプラチンおよびカルボプラチンなどのプラチニウム配位錯体(platinium coordination complexes)、ミトキサントロンなどのアントラセンジオン、ヒドロキシウレアなどの置換尿素、N−メチルヒドラジン(MIH)およびプロカルバジンを含むメチルヒドラジン誘導体、ミトーテン(o,p’?DDD)およびアミノグルテチミドなどの副腎皮質抑制剤を含む様々な薬剤;プレドニゾンおよび等価物、デキサメタゾンおよびアミノグルテチミドなどの副腎皮質ステロイドアンタゴニストを含むホルモンおよびアンタゴニスト;カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メドロキシプロゲステロンおよび酢酸メゲストロールなどのプロゲスチン;ジエチルスチルベストロールおよびエチニルエストラジオール等価物などのエストロゲン;タモキシフェンなどの抗エストロゲン薬;プロピオン酸テストステロンおよびフルオキシメステロン/等価物を含むアンドロゲン;フルタミド、ゴナドトロピン放出ホルモン類似体およびロイプロリドなどの抗アンドロゲン薬;ならびにフルタミドなどの非ステロイド系抗アンドロゲン薬:を含むアルキル化剤が挙げられる。
【0084】
腫瘍転移の抑制に効果的なサイトカインも併用療法における使用のために企図される。かかるサイトカイン、リンホカイン、または他の造血因子としては、限定されるものではないが、M−CSF、GM−CSF、TNF、IL−I、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−14、IL−15、IL−16、IL−17、IL−18、IFN、TNFα、TNF1、TNF2、G−CSF、Meg−CSF、GM−CSF、トロンボポエチン、幹細胞因子、およびエリスロポエチンが挙げられる。
【実施例】
【0085】
このように一般的に記載した本発明は、以下の実施例を参照することによりより理解されるであろう。それらの実施例は例示として記載し、本発明を限定するものではない。
【0086】
実施例1
この実施例では、MT1−MMP活性についてのバイアスのかからない機能獲得型kinomeスクリーニングを用いてFGFR4および他のキナーゼ分子を腫瘍細胞浸潤のレギュレーターとして同定する。
【0087】
腫瘍細胞浸潤を調節するキナーゼ分子を同定するために、ゼラチンザイモ電気泳動を用いるMT1−MMP活性についてのバイアスのかからない機能獲得型kinomeスクリーニングを開発した。MT1−MMPは、HT−1080細胞において最も顕著に発現されるMT−MMPで、主要なMMP−2アクチベーターである(Lehti et al., J. Biol. Chem., 27(10): 8440-48, 2002)ため、MMP−2活性化はMT1−MMP活性の間接的な指標となった。ヒトプロテインキナーゼ全体の約93%をコードするcDNAライブラリー(480種の異なるキナーゼをコードする564種のcDNA)(Varjosalo et al., Cell, 133(3): 537-48, 2008)をFuGENE6(Roche)で、96ウェルプレートに密度1×10細胞/ウェルでプレーティングしたヒトHT−1080繊維肉腫細胞に一過的にトランスフェクトした。トランスフェクション後、その細胞を完全培地中で24時間、無血清培地中でさらに20時間インキュベートした。馴化培地のアリコートを非還元Laemmliサンプルバッファーに溶解させ、不連続3.5:10%ポリアクリルアミドゲル(1mg/mlゼラチン含有)を用いて電気泳動により分離した。Lohi et al., Eur. J. Biochem., 239(2): 239-47, 1996に記載されているように、SDSを除去し、MMP再折りたたみおよび自己活性化をさせた。その後、それらのゲルを37℃で16時間インキュベートし、10%酢酸、5%メタノール中クーマシーブルーで染色した。
【0088】
それらのゲルをゼラチンザイモ電気泳動により展開し、プロMMP−2およびプロMMP−9の相対的タンパク質レベルおよび活性化レベルをザイモ電気泳動画像から定量した。最大の相対的レベルのプロMMP−2をもたらしたキナーゼのサブセットを次のスクリーニングのために選択した。MT1−MMPおよびMMP−9はどちらも再構成プロセス(浸潤を含む)に一般に関与する生物学的に重要なMMPであるため、これらのMMPは共通の調節経路を共有する可能性が考えられる。しかしながら、プロ酵素としてのみ検出可能なMMP−9の相対的レベルを増大させたキナーゼは、MT1−MMP活性およびMMP−2活性化を増大させるキナーゼと大部分は異なっていた。
【0089】
次のMT1−MMP/MMP−2カスケードスクリーニングでは、22種のキナーゼの発現は、対照と比べてプロMMP−2活性化の2倍を超える増大を生じた(図1)。これらのキナーゼは、公知のMT1−MMP誘導性刺激の下流に新規MT1−MMP/MMP−2カスケードレギュレーターおよび経路成分の両方を含んだ。この後者の群には、IL−IまたはTNF−αにより活性化される炎症シグナル伝達経路に関連するTGF−βファミリーメンバーおよびキナーゼの受容体がある。MMP−2活性化を有意に増大させた予期せぬヒットには、受容体チロシンキナーゼFGFR4およびEphA2などがあった。
【0090】
FGFR4は、MT1−MMP活性の間接的な指標であるMMP−2活性化を有意に増大させた。これらの結果は、腫瘍細胞浸潤のレギュレーターとしてのFGFR4の役割を示した。
【0091】
実施例2
この実施例では、MT1−MMP活性についてFGFR4のモジュレーションが転写後に起こることを立証する。
【0092】
MT1−MMP遺伝子発現は悪性組織では、正常組織に対してアップレギュレートされていることが多いため、選択キナーゼのMT1−MMP発現への潜在的寄与を検討した。HT−1080細胞を、FGFR4、EphA2、またはTGFβ、IL−I、およびTNFα経路において最も有力なキナーゼをコードする発現ベクターでトランスフェクトした。MT1−MMP mRNAのレベルを定量的リアルタイムPCRにより決定した。IRAK1、MAP3K13、ACVRIC、およびEpbA2は、緩やかではあるが有意にMT1−MMP mRNAのレベルを増大させた(1.5〜2.5倍、n=3、p<0.005)。in vitroデータと一致して、8478個の悪性サンプルの正規化された発現データを含むIn Silico Transcriptomics(IST)データベースの相関ブロットでは、いくつかのタイプの癌の組織サンプルにおいてMT1−MMPの発現とIRAK1、EphA2、またはACVRlLとの間に有意な正の相関が明らかになった。興味深いことに、MT1−MMP/MMP−2スクリーニングにおいて最大のヒットに入ったFGFR4は、HT−1080細胞においてMT1−MMP mRNAレベルにほとんど影響を及ぼさなかった。同様に、種々のタイプの腫瘍の組織サンプルにおいてFGFR4発現レベルとMT1−MMP発現レベルとの間には弱い相関しか認められなかった。これは、これらの2つの遺伝子の非依存性転写調節と一致し、FGFR4によるMT1−MMP調節のより直接的な機構の可能性を提起する。
【0093】
MT1−MMPレベルおよび細胞内分布に対するキナーゼの転写後の影響を評価するために、検出可能な内因性MT1−MMPを発現しないCOS−1細胞においてMT1−MMPをFGFR4、EphA2、またはIRAK1と共発現させた。細胞を抗MT1−MMP抗体での免疫蛍光染色に付した。観察により、MT1−MMPは、MT1−MMP単独でトランスフェクトした細胞の細胞内核周囲コンパートメントに主に局在するように見えた。興味深いことに、生じたFGFR4の共発現は、細胞質構造および細胞表面膜構造の両方におけるMT1−MMPの局在を強調する。これらの変化は、FGFR4発現細胞における細胞拡散の増大と一致し、それはEphA2トランスフェクト細胞でも見られた。IRAKは、細胞表面におけるMT1−MMP染色の強度を高めた。MT1−MMPは、変異体キナーゼを発現する細胞では主に核周囲に留まり活性部位モチーフにおける点突然変異を不活性化したことから、触媒キナーゼ活性は、MT1−MMP調節に必須であった(Varjosalo et al., 前掲)。
【0094】
トランスフェクト細胞におけるMT1−MMPタンパク質の量も調査した。MDA−MB−231ヒト乳癌細胞を、様々なキナーゼをコードする発現ベクターで一過的にトランスフェクトし、MT1−MMPタンパク質発現を免疫ブロッティングにより評価した。MT1−MMPタンパク質の細胞表面レベルを、スルホ−NHS−ビオチン標識およびMT1−MMPに対する抗体を用いた免疫沈降により評価した。FGFR4、IRAK1、およびEphA2は総て、MT1−MMPの総レベルと細胞表面レベルを著しく高めたが、IRAK1は、リアルタイムPCRによって評価されるようにMT1−MMP mRNA発現をわずかに高めただけであった。活性化MT1−MMPと、高い細胞表面MT1−MMP活性と相関することが多い(Lehti et al., Biochem. J., 334: 345-53, 1998; Lehti et al., J. Biol. Chem., 275: 15006-13, 2000)自己触媒的にプロセシングを受けた43kDa型の両方がIRAK1およびFGFR4発現細胞において検出された。対照的に、MT1−MMPレベルは大部分の非機能性キナーゼによってあまり影響を受けなかった。
【0095】
これらの結果は、活性FGFR4がMT1−MMPタンパク質レベルを転写後に高めその分布を変更することを示唆している。
【0096】
実施例3
この実施例では、FGFR4およびMT1−MMPが物理的に相互作用しFGFR4によるMT1−MMP調節の潜在的な機構を強調することを立証する。
【0097】
FGFR4によるMT1−MMP調節の考えられる機構を検討するために、FGFR4またはIRAK1およびMT1−MMPについて、それぞれのキナーゼをコードする発現ベクターでトランスフェクトしたMDA−MB−231細胞において二重免疫蛍光染色を行った。FGFR4トランスフェクト細胞をFGF2(25ng/ml)とともにまたはFGF2なしで30分間インキュベートし、その後MT1−MMPおよびFGFR4に対する抗体で免疫蛍光染色した、IRAK1トランスフェクト細胞をIL−1β(5ng/ml)とともにまたはIL−1βなしで30分間インキュベートし、MT1−MMPおよびIRAK1について免疫蛍光染色を行った。興味深いことに、FGFR4は、主として、未処置細胞の小胞膜構造にMT1−MMPとともに共局在し、FGF2刺激はこの共局在をさらに増大させた。IRAK1発現細胞では、MT1−MMPは、IL−1β刺激を受けてもIL−1β刺激なしでもその細胞表面上に顕著に局在した。どちらのタンパク質も細胞の同じ領域に蓄積する傾向があったが、FGFR4とは異なり、細胞質IRAK染色はMT1−MMPとともに特異的に共局在しなかった。
【0098】
同じ膜小胞に局在するMT1−MMPおよびFGFR4が、同じ膜受容体複合体で物理的に相互作用するかどうかを定義するために、細胞を共トランスフェクトしHAタグ付きMT1−MMPおよびV5タグ付きFGFR4を作製した。この後、免疫沈降および免疫ブロッティング解析を行った。免疫ブロッティング実験では、コンフルエントな細胞培養物を洗浄し、無血清DMEM中で24時間インキュベートした。一過的にトランスフェクトした細胞を、トランスフェクション後、無血清培地へ入れる前に16時間インキュベートした。次いで、馴化培地を回収し、記載されているとおりに細胞溶解物を調製した(Lehti et al. 1998、前掲)。SDS−PAGEは、4〜20%勾配Laemmliポリアクリルアミドゲル(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて行った。タンパク質をニトロセルロース膜に転写し、記載されているとおりにそれらの免疫検出を行った(Lohi et al., Eur. J. Biochem., 239: 239-47, 1996)。免疫ブロッティング解析は、タンパク質タグ、HAおよびV5に対する抗体を用いて行った。
【0099】
FGFR4は、抗HA抗体を用いて免疫沈降したMT1−MMP複合体における抗V5抗体を用いた免疫ブロッティングによりはっきりと検出できた。同様に、抗V5抗体を用いて免疫沈降したFGFR4複合体でもHAタグ付きMT1−MMPが検出された。同じ実験条件下ではV5タグ付きIRAK1とHAタグ付きMT1−MMPとの間の相互作用は検出されなかったため、FGFR4とMT1−MMPとの間の相互作用は特異的であった。
【0100】
FGFR4はエンドサイトーシス後にほとんど再循環されることが報告されているため、MT1−MMPのエンドソーム局在に対するFGFR4の影響を評価した。エンドソームマーカータンパク質(クラスリンおよびEEA1)に対する抗体を用いた免疫蛍光解析により、FGFR4とのMT1−MMP相互作用が細胞内クラスリンおよびEEA1陽性エンドソーム小胞におけるMT1−MMPのレベルの増大と一致することが明らかになった。一方、IRAK1発現細胞の表面において顕著なMT1−MMP染色が検出された。これらの結果は、FGFR4との相互作用によりエンドサイトーシスされたMT1−MMPの潜在的に増大した安定性と一致する。
【0101】
IRAK1およびFGFR4によるMT1−MMP活性およびタンパク質発現の調節に対するリソソーム分解の寄与を定義するために、これらのキナーゼを発現するMDA−MB−231細胞を、リソソーム阻害薬、バフィロマイシンA(Calbiochem)、およびプロテオソーム阻害薬、MG132(MG-132, Z-Leu-Leu-CHO; Peptide Institute Inc., Osaka, Japan)とともにインキュベートした。MDA−MB−231細胞を、エンプティーpCR3.1発現ベクター(模擬)およびIRAK1またはFGFR4についてコードする対応するベクターでトランスフェクトした。細胞を抗MT1−MMP抗体および抗クラスリン抗体で免疫染色し、共焦点像により評価した。FGFR4トランスフェクト細胞を抗MT1−MMP抗体および抗LAMP1抗体で免疫染色した。MT1−MMPのレベルに対するMG132の影響はごくわずかであった。対照的に、バフィロマイシンAによるリソソーム分解の阻害は対照細胞におけるMT1−MMPタンパク質レベルを増大させ、これは、MT1−MMPの報告されている急速で構成的なリソソーム分解と一致する。重要なことに、FGFR4は、未処置細胞におけるMT1−MMPのレベルを特異的に増大させ、その結果、処置していない細胞とバフィロマイシンAで処置した細胞との間でのMT1−MMPタンパク質レベルの差は減少した。従って、FGFR4発現細胞ではLAMP−1陽性リソソーム構造におけるMT1−MMP局在は、対照細胞と比べて著しく減少した。
【0102】
この実施例の結果は、FGFR4がMT1−MMPのリソソーム選別および分解を阻害し、その結果、細胞の活性MT1−MMPレベルが増大することを示している。FGFR4により媒介されるMT1−MMPの増大は、ひいては、腫瘍細胞浸潤性をモジュレートする。
【0103】
実施例4
この実施例では、三次元コラーゲン浸潤アッセイを用いて、すなわち、腫瘍細胞浸潤アッセイを用いて、キナーゼにより媒介されるMT1−MMP調節の機能的意義を例示する。
【0104】
細胞周囲のコラーゲン分解は、MT1−MMPの主要な確立された生物学的機能である。MT1−MMP活性のキナーゼ媒介モジュレーションは、三次元コラーゲン浸潤アッセイにより判定した。MDA−MB−231ヒト乳癌細胞を、FGFR4、EPHA2、およびIRAK1をコードする発現ベクターで、またはそれぞれの不活性化したキナーゼでトランスフェクトした。それらの細胞をI型コラーゲンゲルの上部に播種し、5日間浸潤させた。それらのゲルを固定し、パラフィン包埋した。コラーゲン基質に浸潤した細胞を視覚化し、ヘマトキシリンおよびエオシン染色切片から計数した。
【0105】
活性キナーゼのそれぞれの過剰発現は、他の場合では相対的に遅い、未刺激MDA−MB−231細胞の浸潤を有意に増大させた。IRAK1、FGFR4、またはEphA2の発現はそれぞれ、模擬トランスフェクト細胞と比べて4倍を超える浸潤速度の増大をもたらした。予想通り、不活性化したキナーゼは細胞浸潤にほとんど影響を及ぼさなかった。注目すべきは、FGFR4およびEphA2のみ、20μmを超えて浸潤した細胞の数を有意に増大させた(それぞれ12.1倍および9.8倍)ことである。FGFR4は、100μmを超えて浸潤したMDA−MB−231細胞の数を20倍増大させた。MT1−MMPおよびFGFR4は、急速に浸潤する細胞の先導端にも細胞内小胞内にも共局在した。
【0106】
細胞浸潤研究に加えて、基質分解を検討した。トランスフェクト細胞を、Alexa 488ゼラチンコートしたカバースリップ上に播種し、GM6001(10μM)の存在下で3時間付着および拡散させた。MMP阻害薬を洗い流した後、細胞媒介ゼラチン分解を完全培地中で20分間行った。固定し透過処理した細胞を抗MT1−MMP抗体で免疫染色した。分解を共焦点顕微鏡により視覚化し、低倍率図から分解面積と細胞数との比率として定量した(平均±1SD、n=3)。加えて、トランスフェクト細胞を架橋コラーゲン基質上で3時間インキュベートし、MT1−MMPおよびFGFR4について免疫染色した。
【0107】
コラーゲン浸潤速度が増大したことと一致して、IRAK1、FGFR4およびEphA2を発現する細胞は、対照細胞またはKDキナーゼでトランスフェクトした細胞より効率的に蛍光ゼラチン基質を分解することができた。興味深いことに、前記細胞におけるFGFR4発現により、細胞の一端にMT1−MMPクラスターとともに共局在する、細胞周囲基質タンパク質分解による著しく分極した病巣が誘導された。FGFR4発現細胞はまた、3時間内に架橋コラーゲン基質を分解し通り抜けることもできた。対照的に、細胞−基質接着においてゼラチン分解およびMT1−MMPレベルを効率的に増大させたIRAK1は、同じ期間内に架橋3−Dコラーゲン層において分解ホールの大きさを増大することはできなかった。
【0108】
これらの結果は、MT1−MMPが細胞運動性機構と協調的に機能し架橋3−Dコラーゲンにおける浸潤を駆動するという、高浸潤性癌細胞表現型の誘導におけるFGFR4の特異的な役割を示唆している。
【0109】
実施例5
この実施例では、MT1−MMP機能および細胞浸潤に対する2つのFGFR4対立遺伝子の影響を比較し、FGFR4を癌細胞浸潤抑制のための新規標的として確立する。
【0110】
FGFR4遺伝子における一塩基多型は、乳腺癌、前立腺癌、および結腸腺癌、ならびに頭頸部扁平上皮癌、黒色腫、および軟部組織肉腫などのいくつかのタイプの腫瘍を有する患者の不良な予後と関係していた。該当するFGFR4変異体では、膜貫通ドメインのグリシン388がアルギニンに変更されている(R388)。興味深いことに、配列解析により、実施例1に記載したkinomeライブラリーに含まれるFGFR4 cDNAはArg388変異体をコードすることが明らかになった。MT1−MMP機能および細胞浸潤に対するG388 FGFR4対立遺伝子およびR388 FGFR4対立遺伝子の影響を比較するために、kinomeライブラリーのR388 FGFRをコードするcDNAを、野生型G388 FGFR4をコードするように修飾した。MDA−MB−231細胞を、FGFR4対立遺伝子(FGFR4G388−V5−HisおよびFGFR4R388−V5−His)をコードする発現ベクターおよび対応する非機能性キナーゼ、ならびにHAタグ付きMT1−MMPをコードする発現ベクターで一過的にトランスフェクトした。細胞をバフィロマイシンAまたはGM6001とともに16時間インキュベートし、MT1−MMPおよびFGFR4のレベルを免疫ブロッティングにより評価した。細胞培地を回収し、記載されているとおりに細胞溶解物を調製した(Lehti et al. 1998、前掲)。SDS−PAGEは、4〜20%勾配Laemmliポリアクリルアミドゲル(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて行った。次いで、タンパク質をニトロセルロース膜に転写し、記載されているとおりにそれらの免疫検出を行った(Lohi et al., 前掲)。
【0111】
対照MDA−MB−231細胞におけるバフィロマイシンAによるリソソーム分解阻害によりMT1−MMPタンパク質レベルが増大した。FGFR4 R388変異体の発現により、処置していない細胞においてMT1−MMPレベルが増大したことで、この効果が相対的に低下した。対照的に、FGFR4 G388の発現では、MT1−MMPレベルはあまり増大しなかった。FGFR4 G388発現細胞では、バフィロマイシン処置後のMT1−MMPレベルの増大は、大きなFGFR4ダウンレギュレーションにつながった。R388または不活性化したキナーゼのいずれか1つを発現する細胞ではその効果ははっきりしなかった。合成MMP阻害薬であるGM6001によるMT1−MMP活性の阻害は、免疫ブロッティングにより検出されないレベルでFGFR4 G388を正常に発現する対照細胞における内因性FGFR4の検出と関係していた。
【0112】
MT1−MMPタンパク質発現に対する、FGFR4 G388およびFGFR4 R388により媒介される逆の影響も共トランスフェクション実験により明らかになった。FGFR4 Gly388発現は、MT1−MMPタンパク質レベルの減少につながったが、一方、FGFR4 Arg388変異体はMT1−MMPの相対的レベルを増大させた。FGFR4 Arg388はMT1−MMPにより顕著に共沈降した。しかしながら、MT1−MMP免疫沈降物中には対立遺伝子および不活性キナーゼ変異体の両方が検出された。
【0113】
細胞浸潤に対する2つのFGFR4対立遺伝子の影響も、実施例4に記載した方法と同様の方法を用いて検討した。G388対立遺伝子についてコードするcDNAをMDA−MB−231細胞において安定発現させ、それらの細胞を1型コラーゲンゲルの上にプレーティングした。FGFR4 R388発現細胞は、模擬トランスフェクト細胞と比べて増大した速度でコラーゲンに浸潤したが、一方、FGFR4 G388発現細胞は、模擬トランスフェクト細胞、と同じ速度であるいはよりゆっくりと、浸潤した。コラーゲン浸潤は、レンチウイルスMT1−MMPサイレンシングRNAにより廃絶され、浸潤の駆動におけるMT1−MMPとFGFR4 R388との間の機能的関係が確認された。
【0114】
この実施例では、FGFR4 Gly388およびMT1−MMPが、キナーゼ活性およびメタロプロテイナーゼ活性それぞれに依存する機構を通じて相互にダウンレギュレートされることを立証する。よって、Gly388および/またはArg388 FGFR4変異体は腫瘍細胞浸潤抑制のための標的である。
【0115】
実施例6
この実施例の結果により、FGFR4およびMT1−MMPがin vivoで浸潤癌細胞において共発現されることを確立し、前記分子間の機能的関係をさらに裏付ける。
【0116】
MT1−MMPおよびFGFR4のmRNAは、種々のタイプのヒト癌由来のサンプルにおいて共発現されることが多い。個々の組織サンプルにおける発現に十分な相関がない場合でも、MT1−MMPおよびFGFR4両方の平均発現レベルは、結腸癌、精巣癌、子宮癌および乳癌を含む種々の腫瘍タイプにおいてアップレギュレートされることが多い。これらの結果は、両方のタンパク質がin vivoで同じ細胞において発現される場合には、それらの相互作用がヒト腫瘍の浸潤性に機能的に寄与することを示唆する。種々の腫瘍および間質細胞集団におけるMT1−MMPおよびFGFR4の共局在をさらに検討するために、40の悪性組織サンプルおよび正常乳房組織サンプルを含む凍結組織アレイを得、抗MT1−MMP抗体および抗FGFR4抗体で免疫染色した。抗FGFR4抗体は、培養細胞の他のFGFRと交差反応しない十分に確立されたポリクローナル抗体であった。MT1−MMP−/−マウスの免疫化によって作製されたモノクローナル抗MT1−MMP抗体(Ingvarsen et al., Biol. Chem., 389: 943-53, 2008)を用いた。MDA−MB−231乳癌細胞の免疫蛍光染色により試験した場合、抗MT1−MMP抗体により内因性MT1−MMPが容易に検出され、その染色はsiRNA媒介MT1−MMPノックダウン後に完全に阻害した。検体はLeica顕微鏡により分析した。
【0117】
FGFR4が主として乳房上皮細胞および乳癌細胞に局在することを観察した。FGFR4は、分析した正常乳房4ケース総ての乳管上皮細胞で検出され、乳管癌細胞においては相対的レベルが増大した場合が多かった(20/36ケースで強い染色)。MT1−MMPは、乳癌の反応性間質において(28/36ケース)、とりわけ、癌細胞に隣接する筋上皮において有意にアップレギュレートされた。これは、癌の浸潤領域および非浸潤領域の両方において観察された。重要なことに、MT1−MMPは、腫瘍の浸潤先進部に局在する癌細胞と、低分化型乳癌の細胞で特異的に検出され(10/36ケース)、そこでMT1−MMPは、FGFR4とともに顕著に共局在した。14の異なる腫瘍タイプおよび対応する正常組織由来のサンプルを含む複数の凍結組織アレイの免疫組織化学により、MT1−MMP染色の相対的レベルがほとんどの他の悪性組織においても増大した(10/14ケース)ことが明らかになった。MT1−MMPは、反応性間質においてアップレギュレートされた場合が多く(6/14ケース)、腫瘍細胞ではFGFR4とともに共発現された(8/14ケース)。乳癌と同様に、他のタイプの癌、例えば、結腸腺癌などにおけるMT1−MMPは、浸潤先進部の腫瘍細胞において顕著に発現された。
【0118】
in vivoでのFGFR4対立遺伝子(FGFR4 G388およびFGFR4 R388)およびMT1−MMPの発現を、qPCRアレイを用いて検討し、そのアレイは、48のヒト乳癌cDNAサンプルからのFGFR4配列決定につながった。RNAをRNeasy Mini Kit(Qiagen)で抽出し、続いて、ランダムヘキサマープライマー(Invitrogen)およびスーパースクリプトII逆転写酵素(Life Technologies)による逆転写を行った。mRNA発現は、記載されているとおりに(Tatti et al., Exp. Cell Res., 314: 2501-2514, 2008)、TaqMan Universal PCR Master Mixおよび有効なプライマー(MT1−MMP;Hs 01037006_gH、MT2−MMP;Hs 00233997_ml、MT3−MMP;Hs 00234676_ml、MT4−MMP;Hs 00211754ml、MT5−MMP;Hs 00198580ml、MT6−MMP;Hs 00360861_ml;MMP−9;Hs00957555_ml;FGFR1;Hs00915140_ml、FGFR4;Hs00242558_ml(Applied Biosystems))を用いて定量した。発現は、TATA−結合タンパク質(TBP)およびグリセルアルデヒド三リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)mRNA発現を用いて正規化した。Gly388〜Arg388部位(塩基対1329〜1331)を含有するFGFR4 cDNAのフラグメントをPCR(プライマー:TACCAGTCTGCCTGGCTC(配列番号17)およびAGTACGTGCAGAGGCCTT(配列番号18))により増幅し、BstNl(New England BioLabs)により消化した。R388対立遺伝子は、特異的な126塩基対フラグメントにより同定した。G388対立遺伝子は、2つのフラグメント(97塩基対および29塩基対)により同定した。
【0119】
48のヒト乳癌cDNAサンプルのうち、22サンプルはFGFR4の同型接合のG/G対立遺伝子を有し(46%);22サンプルは異型接合のG/R対立遺伝子を有し(46%);4サンプルは同型接合のR/R対立遺伝子を有した(8%)。癌患者において報告された不良な予後と一致して、同型接合のR388対立遺伝子を有する4つのcDNAサンプルは総て悪性度が最も高い(3)乳癌由来のものであった。MT1−MMP mRNAはこれらの腫瘍の総てにおいて顕著に発現され、それは低いFGFR4 R388発現と一致した。
【0120】
この実施例において記載した観察結果により、FGFR4およびMT1−MMPには腫瘍浸潤性に対して相乗作用があることが強く示唆され、FGFR4 R388対立遺伝子が高浸潤性癌と強く相関することが確認される。
【0121】
実施例7
この実施例では、コラーゲンの前立腺癌細胞浸潤におけるFGFR4 R388活性化およびFGFR4 G388抑制の機能的意義を例示する。
【0122】
MT1−MMPおよびFGFR4はヒト前立腺癌において共発現されることが最も多かったため、対応する細胞株を内因性MT1−MMPおよびFGFR4発現について評価した。PC3およびDU145前立腺腺癌細胞は、著しいレベルのFGFR1、MT1−MMP、およびFGFR4のR388(PC3細胞)またはG388(DU145細胞)変異体のいずれかを発現した。特に、同型接合のFGFR4 R388対立遺伝子を発現するPC3細胞だけがコラーゲンゲルに効率的に浸潤したが、一方、FGFR4 G388対立遺伝子について同型接合の対応するDU145細胞は浸潤しなかった。FGFR4 siRNAは、PC3細胞浸潤の87%を抑制し、それはTIMP−2により媒介されるMT1−MMP阻害によっても本質的に阻止された。報告されているFGFR1およびFGFR4の両方による増殖および運動性誘導(Sahadevan et al., J. Pathol, 213: 82-90, 2007)と一致して、これらのFGFRのいずれか1つを一過的に標的とするsiRNAは、FGF2誘導性ERKリン酸化を減少させた。しかしながら、FGFR1 mRNA発現をサイレンシングした場合にはコラーゲン浸潤が増大し、FGFR1が異なる機能を有することが示唆された。特に、DU 145細胞のMT1−MMP mRNA発現は低かったが、これらの細胞もFGFR4 R388でのトランスフェクション後にコラーゲンに浸潤した。
【0123】
細胞成長も検討した。レンチウイルスshRNAによる安定なMT1−MMPまたはFGFR4ノックダウンは、PC3細胞またはDU145細胞いずれの正常な単層成長にも大きな変化をもたらさなかった。しかしながら、前記細胞を架橋コラーゲンIで構成される成長制限3−D基質内にプレーティングした場合には、MT1−MMPサイレンシングによりPC3細胞およびDU145細胞成長および浸潤が有意に減少した。同様に、FGFR4 R388ノックダウンによりPC3細胞の成長および浸潤が抑制され、同時にMT1−MMP含量および繊維芽細胞受容体基質−2(FRS2)リン酸化が減少した。対照的に、DU145細胞におけるFGFR4 G388のノックダウンによりそれらの細胞のコラーゲンへの浸潤性が増大し、それは内因性MT1−MMPのレベル増大と一致した。安定なFGFR4 G388およびMT1−MMPノックダウン細胞ではFRS2およびERKリン酸化も増大した。PC3細胞におけるFRS2リン酸化の強い阻害ですらERK活性化と関係しておらず、FGFR4活性化以外の経路が細胞分裂FGFシグナル伝達に関与していることが示唆された。
【0124】
要するに、上記の結果により、FGFR4 R388が3−DコラーゲンにおけるMT1−MMP駆動のPC3腫瘍細胞浸潤および成長の新規補助因子として同定され、G388およびR388対立遺伝子がMT1−MMP依存性浸潤に対して逆の影響を及ぼすことが示唆される。
【0125】
実施例8
この実施例では、FGFR4 R388がMT1−MMPリン酸化およびエンドソーム安定化を誘導することを立証し、FGFR4によるMT1−MMP調節のさらなる潜在的な機構を強調する。
【0126】
MT1−MMP細胞質尾部は、Srcによりリン酸化され得る1個のチロシン残基を含む(Nyalendo et al., J. Biol. Chem., 282: 15690-15699, 2007)。FGFR4がMT1−MMPリン酸化を誘導することができるかどうかを判定するために、FGFR4 G388および FGFR4 R388をHAタグ付きMT1−MMPとともに共発現させ、続いて、MT1−MMP免疫沈降を行った。MT1−MMPチロシンリン酸化は、MT1−MMPをFGFR4のいずれかの対立遺伝子とともに共発現するCOS1細胞では繰り返し検出されたが、非機能性キナーゼドメインを有するFGFR4タンパク質またはMT1−MMP単独を発現する細胞では検出されなかった。FGFR4 R388およびMT1−MMPは主として細胞内小胞において共局在した。FGF2処置は、FGFR4 R388自己リン酸化だけでなく、MT1−MMPリン酸化およびエンドソーム蓄積も増大させ、複合体において活性化されたFGFR4 R388がMT1−MMPリン酸化を誘導することを示唆した。初期エンドソーム抗原−1(EEA1)およびクラスリンによる共局在の増大、およびリソソーム結合膜タンパク質−1(LAMP1)による共局在の減少により示されるように、この相互作用はエンドサイトーシスされたMT1−MMPの安定性を増大させた。対照的に、細胞内小胞における弱く/一過的に活性化されたFGFR4 G388またはキナーゼ欠損KDタンパク質とのMT1−MMPの共局在の程度は、FGFR4 R388で観察されたものよりも有意に低かった。
【0127】
MT1−MMPの細胞内チロシン残基だけをフェニルアラニンに突然変異させ(MT1−Y/F)、MT1−MMPリン酸化の重要性を評価した。Y573F突然変異により、内因性FGFR4をほとんど発現しないHT−1080細胞では、MT1−MMP活性が変わらないように思われた。しかしながら、その突然変異は、MDA−MB−231細胞の細胞間接触および細胞内小胞における野生型MT1−MMPおよび内因性FGFR4 R388の共局在を廃絶した。MT1−Y/Fは主として細胞表面に局在したが、一方、FGFR4 R388は細胞内小胞内に移行した。細胞表面MT1−MMPの増強と一致して、突然変異は3−Dコラーゲンにおける細胞成長および浸潤を増大させた。よって、トランスフェクトMDA−MB−231細胞ではFGFR4 R388/MT1−MMP複合体と比べて、観察されたFGFR4 R388/MT1−Y/F複合体は少なかった。MT1−Y/F含量が高い細胞ではFGFR4 R388レベルは少し減少したが、一方、FGFR4 G388タンパク質およびFGFR4 G388/MT1−Y/F複合体は十分に抑制されて検出されなかった。MT1−MMP阻害後の内因性FGFR4 G388の検出増加と一致して、過剰発現したFGFR4 G388は野生型MT1−MMPによっても抑制され、プロテイナーゼ活性が廃絶された変異体MT1−E/Aでは抑制されなかった。
【0128】
上記の観察結果により、非リン酸化MT1−MMPによるFGFR4抑制によってFGFR4 G388含有細胞に、浸潤促進(proinvasive)MT1−MMP活性を保持するフィードバック機構が提供されることが示唆される。MT1−MMPによりFGFR4 G388のリン酸化は変わらなかったが、一方、FGFR4 R388リン酸化は、MT1−MMPにより著しく増大し、不活性MT1−MMP変異体では増大しなかった。よって、MT1−MMP/FGFR4 R388複合体の相互作用、リン酸化、および輸送が細胞浸潤におけるそれらの相乗的機能を支えているように思われる。
【0129】
実施例9
この実施例では、内因性FGFR4/MT1−MMP活性がin vivoでの腫瘍成長および浸潤を制御することを立証する。
【0130】
FGFR4/MT1−MMP軸を標的とすることによりin vivoでの腫瘍細胞挙動が調節されるかどうかを判定するために、PC3細胞およびDU145細胞のSCIDマウスへの皮下注射後に腫瘍成長、形態学、および細胞外基質(ECM)組成を分析した。PC3細胞およびDU 145細胞に、ウミシイタケ(Renilla)ルシフェラーゼ緑色蛍光タンパク質(GFP)−融合レポータータンパク質をレンチウイルス形質導入した。MT1−MMP、およびFGFR4−を標的とする小ヘアピンRNAを発現する安定細胞スクランブルプールをレンチウイルス形質導入により作製し、続いてピューロマイシン(Sigma)選抜を行った。qPCRによりノックダウン効率が90%を超えていることが確認された。それらの細胞(2×10)をICR−SCID雄マウス(5〜7週齢;Taconic)の腹部皮下組織に埋め込み、6〜8週間成長させた。腫瘍サイズはカリパスおよび非侵襲的生物発光により測定し、35μg/100μlコエレンテラジンの腹膜内注射後にXenogen IVIS System(Xenogen)を使用して視覚化した。
【0131】
MT1−MMPまたはFGFR4 R388のいずれかの安定なサイレンシングにより、PC3腫瘍の成長速度および血管内に侵入した(intravasated)腫瘍細胞を含む間質血管の数が劇的に減少した。腫瘍、および腫瘍内細胞外基質(ECM)周囲に蓄積した繊維性被膜によりMT1−MMPおよびFGFR4 R388ノックダウン腫瘍細胞が小コンパートメントに分散され、増殖速度の減少を示した。腫瘍の細胞分裂指数、成長、浸潤、および転移は、コラーゲンおよび他のECMタンパク質含量と逆相関した。同時に、細胞はコラーゲンIV、フィブロネクチンおよびラミニンへの極性の増大を示し、腺房形成の増加が検出された。
【0132】
in vitroアッセイの観察結果と一致して、MT1−MMPサイレンシングはDU145腫瘍の成長も減少させ、同時にコラーゲン含量が増加した。MT1−MMPノックダウンDU145腫瘍では、FGFR4 G388mRNA発現は2倍〜4倍の間に増大し、転写フィードバック機構がMT1−MMPによるFGFR4 G388抑制に関与することが示唆された。対照的に、FGFR4 G388サイレンシングはDU145腫瘍細胞のより顕著な浸潤および血管外遊出をもたらし、同時に腫瘍内および腫瘍端においてコラーゲン蓄積が減少した。qPCRによるコラーゲン mRNA発現では有意な変化は検出されなかった。
【0133】
上記の結果は、MT1−MMP/FGFR4 R388複合体のいずれかの成分のサイレンシングが、腫瘍成長、浸潤および転移を抑制したことを示している。いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、その抑制は、腫瘍拡散を物理的に制限し上皮分化を促すECMのタンパク質分解の阻害によって起こるように思われた。FGFR4 G388のサイレンシングでは逆の効果が得られた。
【0134】
実施例10
この実施例では、抗FGFR4モノクローナル抗体、例えば、本発明の抗体などを作出する例示的な方法を提供する。この実施例はまた、抗FGFR4抗体またはそのフラグメントの結合親和性を特徴付ける方法も提供する。
【0135】
His−タグと連結されたFGFR4の細胞外領域をコードするバキュロウイルス発現ベクターを、当技術分野で標準的な方法に従って構築した。組換えFGFR4エクトドメインコードベクターおよび線状化したBACULOGOLD(商標)DNA(Pharmingen)でのSf9細胞の共トランスフェクションにより組換えバキュロウイルスを作出した。High Five細胞を、Sf9細胞から得たウイルスストックに感染させ、免疫化のために組換えHisタグ付きFGFR4タンパク質を、ニッケルカラムを用いて精製した。ハイブリドーマクローンを、標準的な方法を用いて作出し、必要に応じてサブクローニングした。腹水または培養したハイブリドーマ細胞クローンの培養培地を、組換えFGFR4エクトドメイン/Fc−融合タンパク質(R&D systems)を用いた免疫ブロッティングによりスクリーニングした。陽性クローンを、対照およびFGFR4トランスフェクトCOS−7細胞の溶解物を用いた免疫ブロッティングにより、さらに、対応する細胞の免疫蛍光によりさらに評価した。モノクローナル抗体を、使用説明書(GE Life Sciences)に従ってHiTrapプロテインGカラムを使用して精製した。3つのモノクローナル抗体、F85−6C5、F90−3B6およびF90−10C5を、機能阻害分析に付した。
【0136】
FGFR4−Fcに対するmAb 3B6、6C5および10C5の親和性を、酵素結合免疫測定法形式での受容体結合アッセイを用いて比較した(図2)。ヒトIgGのカルボキシ末端領域(アミノ酸残基100〜330)とポリペプチドリンカーを介して融合されたFGFR4細胞外ドメイン(アミノ酸残基1〜369、Partanen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: 8913-8917, 1990)を含んでなる組換えヒトFGFR4−Fcは、R&D Systemsから入手した(カタログ番号685−FR)。マイクロタイタープレートウェル(ThermoElectron、カタログ番号95029100)を、0.1M NaHCO3、pH9.5中の組換えヒトFGF2(R&D Systems、カタログ番号233−FB)およびヘパリン(Sigma-Aldrich、カタログ番号H−3149)でコートした。それらのウェルを洗浄し(100mM Tris、150mM NaCl、0.1%(v/v) Tween 20、pH7.5)、利用可能な非特異的タンパク質結合部位をPBS、0.05%(v/v)Tween 20、0.5%BSAで遮断した。それらのウェルを2回洗浄した。FGF2−ヘパリンコートしたウェルとの競合結合の前に、FGFR4−Fcを、100mM Tris、150mM NaCl、0.1%Tween 20、1%BSA、0.1μg/mlヘパリン、pH7.5中、一連の希釈の各mAb(3B6、6C5または10C5)とともにプレインキュベートした。プレインキュベートしたFGFR4−Fcを添加しさらにインキュベーションを行った後、FGF2コートウェルを洗浄した。結合したFGFR4−Fcを、ヤギ抗ヒトアルカリ性ホスファターゼコンジュゲート(Sigma-Aldrich、カタログ番号A9544)を用いて検出した。
【0137】
図2で示されるように、固定化されたFGF2とFGFR4−Fcとの結合の阻害に対するmAb 3B6、6C5および10C5の効力は異なっていた。最大のFGFR4−FGF2相互作用は低濃度の阻害薬で見られ、一方、より高い濃度ではその相互作用(吸光度単位により測定)はバックグラウンド吸光度のレベルまで阻害される。mAb 3B6および6C5は、可溶性FGF2またはFGF1と同様の効力で固定化されたFGF2とFGFR4との結合を阻害した。また、mAb 3B6および6C5の50%阻害濃度(IC50)はFGF2およびFGF1のIC50と近かった(それぞれ、1.077nM、0.3019nM、0.6914nM、および0.7334nM)。mAb 10C5によるFGFR4−FGF2相互作用の阻害は、高濃度阻害薬への高50%阻害濃度(6.217nM)からの阻害曲線のシフトにより示されるように他の2つのmAbよりも弱かった。固定化されたFGF2とFGFR4との結合は特異的であり、これは(可溶性FGF2とともにまたは可溶性リガンドなしでプレインキュベーションした後に)ヘパリンコートしたウェルから得られた吸光度レベルが非常に低いことから示された。FGFR4を事前添加せずにmAbを使用したときには、バックグラウンドレベルの吸光度値が得られた。よって、このアッセイでは、特異的に結合するFGFR4−FGF2の阻害が測定される。
【0138】
バイオセンサーチップ上に固定化されたFGFR4−Fc融合タンパク質と、mAb 3B6、6B5、および10C5との異なる結合をBIAcoreアッセイ、すなわち、バイオセンサー(BIAcore 2000(登録商標)、BIAcore AB)を使用した表面プラズモン共鳴により測定した。FGFR4−Fcを、10mM酢酸ナトリウムバッファー、pH4.7により希釈し、BIAcoreセンサーチップとアミンカップリングした。抗FGFR4モノクローナル抗体で飽和している場合には、固定化FGFR4−Fcの使用量で1000応答単位のシグナルが発生した。カップリングしていないバイオセンサーチップチャネルを用いて非特異的バックグラウンドシグナルを測定し、その値をFGFR4−Fcカップリングチャネルから得られたシグナルから差し引いた。一連の希釈の各mAbを、バイオセンサーチップ上のFGFR4−Fcに注入し、結合を相対応答単位で測定した。各mAb(3B6、6C5または10C5)は、PBSバッファー中10nM〜240nMで注入した。流速は20μl/分に維持し、5分の結合段階を用いた。mAb注入後、解離速度を決定するために流れをPBSバッファーと交換した。サイクル間に10mMグリシン、pH2.2を30秒流し、センサーチップを再生した。速度論は、BIAcore評価ソフトウェア3.1を使用した1:1ラングミュアフィッティング(1:1 Langmuir fitting)により解析した。比較のため、一連の希釈の各mAbを用いて得られた最大相対応答単位をプロットすることによりKd値も評価した。図4A〜Cでは、X軸にmAbの濃度を示し、Y軸に得られた応答単位を示している。各mAbの解離平衡定数(Kd)は、曲線適合後、得られた最大応答単位と最小応答単位の中間の濃度により評価した。これらのKd値に基づき、固定化されたFGFR4−Fcに対するmAb 6C5の親和性(Kd 1.8×10−8M)は、同様の親和性を有するmAb 3B6またはmAb 10C5の親和性(それぞれ、Kd 2.17×10−7および1.33×10−7M)より有意に高い。
【0139】
加えて、F90−10C5によって認識されるFGFR4エピトープを同定した。FGFR4の細胞外ドメイン(シグナル配列を除く)のアミノ酸配列を含む一連のペプチドで構成されたPepSpotアレイを得た。ペプチドは15アミノ酸長であり、3つのアミノ酸で重複した配列を含んだ。免疫ブロッティングアッセイは、上記のモノクローナル抗FGFR4抗体を用いて行った。mAb 6C5および3B6が線状エピトープを認識しなかったが、10C5は以下のペプチドを検出した:YKEGSRLAPAGRVRG(配列番号5);GSRLAPAGRVRGWRG(配列番号6);LAPAGRVRGWRGRLE(配列番号7);AGRVRGWRGRLEIAS(配列番号8);およびVRGWRGRLEIASFLP(配列番号9)。配列番号7を含んでなるペプチドは最強のシグナルを引き起こした。FGFR4の細胞外領域における配列番号5〜9の位置を図3A〜3Cに例示する。
【0140】
抗体F90−10C5を産生するハイブリドーマ10C5は、特許手続き上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約(「ブダペスト条約」)の規定に基づいて、2008年9月2日に、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH (DSMZ), Mascheroder Wep 1b. D-38124, Germanyに譲渡され、2008年9月4日に寄託受託番号DSM ACC2967が割り当てられた。mAb F85−6C5およびF90−3B6それぞれを産生するハイブリドーマF85−6C5およびF90−3B6も、ブダペスト条約の規定に基づいてDSMZに寄託され、2008年9月4日に寄託受託番号DSM ACC2966(F85−6C5)およびDSM ACC2965(F90−3B6)が割り当てられた。
【0141】
実施例11
この実施例では、コラーゲン浸潤へのFGFR4 G388およびFGFR4 R388の寄与を検討し、モノクローナル抗FGFR4抗体を用いたMT1−MMP媒介癌細胞浸潤の抑制を記載する。
【0142】
MT1−MMPのレベルに対する2つのFGFR4変異体の効果が異なると仮定し、コラーゲン浸潤へのそれらの寄与を判定した。MDA−MB−231細胞を、FGFR4 G388またはFGFR4 R388変異体のいずれかをコードする発現ベクターでトランスフェクトした。トランスフェクト細胞の一部を、10μg/ml対照IgGまたはモノクローナル抗FGFR4抗体3B6、6C5および10C5で処置した。それらのトランスフェクト細胞を、デュアルチャンバー装置内の3−Dコラーゲン上にプレーティングした。FGF2(25ng/ml)を化学誘引物質として用いて浸潤を刺激した。それらの細胞を5日間浸潤させた後、浸潤病巣を定量した。
【0143】
FGFR4 R388発現MDA−MB−231細胞は、模擬トランスフェクト細胞またはFGFR4 G388発現細胞のいずれよりも速い速度で浸潤した。対照細胞、FGFR4 G388発現細胞、およびFGFR4 R388発現細胞の浸潤は、MT1−MMPに対するレンチウイルスshRNA(Open Biosystems, Huntsville, AL)を用いてMT1−MMP mRNAを減少させること(85%減少)によって完全に抑制された。これらの結果は、確認された癌細胞浸潤におけるFGFR4とMT1−MMPとの間の機能的関係をさらに裏付けている。
【0144】
FGFR4とのリガンド結合について競合するモノクローナル抗体F85−6C5、F90−3B6、およびF90−10C5を、デュアルチャンバーコラーゲンアッセイの上部チャンバーと下部チャンバーの両方に添加した。FGFR4 R388誘導性浸潤は、10C5モノクローナル抗FGFR4抗体により効率的に抑制された(図5)。対照的に、3B6抗体および6C5抗体は、FGFR4 G388およびR388発現細胞のどちらの浸潤も増大させる傾向があった(図5)。
【0145】
細胞浸潤の抑制の裏側にある考えられる機構を解明するために、抗FGFR4抗体の存在下でのFGFR4活性化を検討した。FGFR4 R388またはFGFR4 G388(どちらもV5のタグが付けられている)を発現する血清飢餓MDA−MB−231細胞を、F85−6C5抗体、F90−3B6抗体、およびF90−10C5抗体(10μg/ml)で一晩事前処置し未刺激の状態のままにしたかまたはFGF2(10ng/ml)とともに15分間インキュベートした。それらの細胞抽出物をFGFR4に対する抗体での免疫沈降に付し、続いてV5、ホスホチロシン残基、FGFR1、またはERK1/2のリン酸化型に対する抗体を用いた免疫ブロッティングを行った。その免疫ブロットを図6に示している。別に、V5タグ付きFGFR4 G388、V5タグ付きFGFR4 R388、およびFGFR1を単独でまたは組み合わせて発現するようにCOS−1細胞をトランスフェクトした。血清飢餓にした後、それらの細胞を抗FGFR4抗体(10μg/ml)で30分間事前処置した。トランスフェクト細胞の一部を未刺激の状態のままにし、他のものをFGF2(10ng/ml)とともに15分間インキュベートした。FGFR4タンパク質を免疫沈降させ、抗ホスホチロシン抗体および抗V5抗体を用いて免疫ブロットした。その免疫ブロットを図7に示している。
【0146】
興味深いことに、FGFR4 G388は、リガンド刺激を受けたときも受けないときも顕著に自己リン酸化されたが、FGFR4 R388変異体のリン酸化は、FGF2とのインキュベーション後に非常に増加した。FGFR4 G388発現細胞を、浸潤を促進するF85−6C5抗体により処置することで、(i)リガンド非依存性FGFR4自己リン酸化は抑制されたが、(ii)FGF2誘導性リン酸化は増大した。F85−6C5抗体は、FGFR4 R388のリガンド非依存性自己リン酸化をやや抑制したが、リガンド刺激によるリン酸化にはあまり影響を及ぼさなかった。注目すべきは、mAb 6C5で処置した、FGFR4変異体のいずれかを発現する細胞のリン酸化パターンが類似していたことである。FGFR4 R388発現細胞をmAb F90−10C5により処置することで、タンパク質のリガンド非依存性リン酸化およびリガンド誘導性リン酸化は減少した。mAb 10C5と、mAb 10C5とは異なるFGFR4エピトープと結合するmAb 3B6との両方に細胞を曝露するとリン酸化はさらに減少した(図6)。
【0147】
MDA−MB−231細胞は高レベルの内因性FGFR1を発現するため、総FGFR1レベルおよび下流ERK経路の活性化に対するFGFR4発現の潜在的な効果を分析した。対照細胞およびFGFR4 R388発現細胞の両方において、FGF2はERK1/2リン酸化をわずかに増加させたがFGFR1レベルにはあまり影響を及ぼさなかった。対照的に、FGFR1レベルはFGFR4 G388発現細胞において著しく低下し、同時にFGF2誘導性ERK1/2リン酸化の抑制が起こった。興味深いことに、浸潤を抑制する10C5抗体ではなくmAb 6C5によりFGFR4 G388発現細胞を処置することで、FGF2刺激後にFGFR1レベルとERK活性化の両方が救済された。これは、FGFR1とFGFR4(腫瘍細胞浸潤に寄与し、浸潤をモジュレートする抗FGFR4抗体による影響を受け得る)との機能的協調と一致している。
【0148】
これらの結果は、本来FGFRを発現しないトランスフェクトCOS−1細胞を用いて確認された。FGFR4 G388は、リガンド刺激を受けずに顕著に自己リン酸化されたが、R388変異体のリン酸化は、FGF2との15分のインキュベーション後に非常に増加した。FGFR4 G388発現細胞を、浸潤を促進するmAb 6C5により処置することで、リガンド非依存性FGFR4自己リン酸化の抑制が起こり、FGF2誘導性リン酸化が増大した。mAb 6C5によりFGFR4 R388のリガンド非依存性自己リン酸化もやや抑制されたが、リガンド刺激によるリン酸化はあまり影響を受けなかった。抗体6C5はまた、FGF2刺激後にFGFR4/FGFR1ヘテロ二量化も減少させる。注目すべきは、mAb 6C5で処置した、FGFR4変異体のいずれかを発現する細胞のリン酸化パターンが類似していたことである。予測される機能的FGFR1/FGFR4相互作用と一致して、これらの受容体の共発現により、FGFR4 G388およびR388のリガンド非依存性リン酸化の著しい増加が起こった。これはmAb 6C5の影響をあまり受けなかった。mAb 6C5は、構成的FGFR4自己リン酸化を阻害し、FGFR1との異型相互作用またはリガンド誘導性同型FGFR4シグナル伝達に利用可能なFGFR4を多く残すことによって、細胞浸潤に対してその効果を及ぼし得る。mAb 10C5により処置することで、FGF2誘導性FGFR4 R388リン酸化とFGFR1ダウンレギュレーションの阻害が起こった(図7)。
【0149】
この実施例では、ある特定の抗FGFR4抗体が、MT1−MMPおよびFGFR4 R388の両方を発現する癌細胞の浸潤を抑制することが確認される。
【0150】
本明細書に引用された総ての刊行物、特許および特許出願は、個々の刊行物または特許出願が引用することにより一部とされることが具体的にかつ個別に示されたように引用することにより本明細書の一部とされる。上述の発明は、明確に理解することを目的として例示および例として幾分詳細に記載したが、添付の特許請求の範囲の精神または範囲を逸脱することなく、本発明に特定の変更および修飾を加え得ることは、本発明の教示に照らして当業者ならば容易に分かるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】図1は、様々なキナーゼ(X軸に記載)についてのMMP2活性化の相対的レベル(活性型/潜在型)(Y軸)を例示するグラフであり、誘導されたMMP2活性化が模擬トランスフェクト対照細胞と比べて2倍を超えていることを示している。
【図2】図2は、リガンド−受容体結合によってもたらされた吸光度(Y軸)と潜在的結合阻害薬の濃度(nM)(X軸)を比較するグラフである。
【図3】図3A−Cは、二量体化FGFR4の三次元構造についての代替図の例示であり、抗体F90−10C5(配列番号5〜9)により結合されるエピトープ領域の位置をビーズ付き領域として示している。
【図4】図4A−4Cは、応答単位(Y軸)とmAb 10C5(本明細書ではAb F90−10C5とも呼ぶ)(図4A)、mAb 6C5(本明細書ではAb F85−6C5とも呼ぶ)(図4B)、およびmAb 3B6(本明細書ではAb F90−3B6とも呼ぶ)(図4C)の濃度(nM)(X軸)を比較するグラフである。
【図5】図5は、対照抗体、mAb 10C5、mAb 6C5、およびmAb 3B6(X軸)を用いた処置によるコラーゲン浸潤病巣の数(Y軸)をまとめたグラフである。
【図6】図6は、V5タグ付きFGFR4 R388(FGFR4 R)をコードする発現ベクターでトランスフェクトしたMDA−MB−231細胞から作成された免疫ブロットを示す。それらの細胞は、mAb F90−3B6、mAb F90−10C5、またはmAb F90−3B6およびmAb F90−10C5の組合せを用いて一晩前処理し、未刺激の状態のままにした(−)かまたはFGF2とともにインキュベートした(+)。細胞抽出物をFGFR4に対する抗体(IP:FGFR4)で免疫沈降させ、V5タグに対する抗体(IB:V5)またはホスホチロシン残基に対する抗体(IB:pY)を用いて免疫ブロットした。
【図7】図7は、V5タグ付きFGFR4 G388(「FGFR4 G」または「FR4 G」)、V5タグ付きFGFR4 R388(「FGFR4 R」または「FR4 R」)、FGFR1を単独でまたは組み合わせてコードする発現ベクターでトランスフェクトしたCOS−1細胞から作成された免疫ブロットを示す。それらの細胞は、mAb F85−6C5またはmAb F90−10C5を用いて前処理し、FGF2とともにインキュベートした(+)かまたは未刺激の状態のままにした(−)。細胞抽出物を、抗FGFR4抗体(IP:FGFR4)を用いて免疫沈降させ、抗ホスホチロシン抗体(IB:pY)、FGFR1に対する抗体(IB:FGFR1)、またはV5タグに対する抗体(IB:V5)を用いて免疫ブロットした。mAb F90−10C5処理は、FGF2誘導性FGFR4 R388リン酸化およびFGFR1ダウンレギュレーションを阻害したのに対し、mAb F85−6C5は、FGF2刺激後にリガンド非依存性FGFR4リン酸化およびFGFR4/FGFR1ヘテロ二量化を減少させた。
【図3A】

【図3B】

【図3C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類細胞によって発現される繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合する単離された抗体またはその抗体フラグメントであって、癌細胞浸潤を抑制する、抗体またはその抗体フラグメント。
【請求項2】
哺乳類細胞によって発現される繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合する抗体のフラグメントを含んでなる単離されたポリペプチドであって、前記抗体および前記ポリペプチドが癌細胞浸潤を抑制する、ポリペプチド。
【請求項3】
FGFR4 R388を発現する哺乳類細胞上の繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合する単離された抗体またはその抗体フラグメントであって、前記細胞におけるFGFR4の繊維芽細胞増殖因子2(FGF2)誘導性リン酸化を阻害する、抗体またはその抗体フラグメント。
【請求項4】
FGFR4 R388を発現する哺乳類細胞上の繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合する抗体のフラグメントを含んでなる単離されたポリペプチドであって、前記抗体および前記ポリペプチドが前記細胞におけるFGFR4の繊維芽細胞増殖因子2(FGF2)誘導性リン酸化を阻害する、ポリペプチド。
【請求項5】
FGFR4 R388および繊維芽細胞増殖因子受容体−1(FGFR1)を共発現する哺乳類細胞上の繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合する単離された抗体またはその抗体フラグメントであって、前記細胞における繊維芽細胞増殖因子2(FGF2)誘導性FGFR1分解を増大させる、抗体またはその抗体フラグメント。
【請求項6】
FGFR4 R388および繊維芽細胞増殖因子受容体−1(FGFR1)を共発現する哺乳類細胞上の繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合する抗体のフラグメントを含んでなる単離されたポリペプチドであって、前記抗体および前記ポリペプチドが前記細胞における繊維芽細胞増殖因子2(FGF2)誘導性FGFR1分解を増大させる、ポリペプチド。
【請求項7】
前記細胞におけるFGFR4のFGF2誘導性リン酸化も阻害する、請求項1、2、5および6のいずれか一項に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
【請求項8】
FGFR4 R388および膜型−1メタロプロテイナーゼ(MT1−MMP)を共発現する哺乳類細胞上の繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合する単離された抗体またはその抗体フラグメントであって、前記細胞におけるFGFR4とMT1−MMPの間での複合体形成を阻害する、抗体またはその抗体フラグメント。
【請求項9】
FGFR4 R388および膜型−1メタロプロテイナーゼ(MT1−MMP)を共発現する哺乳類細胞上の繊維芽細胞増殖因子受容体−4(FGFR4)の細胞外エピトープと結合する抗体のフラグメントを含んでなる単離されたポリペプチドであって、前記抗体および前記ポリペプチドが前記細胞におけるFGFR4とMT1−MMPの間での複合体形成を阻害する、ポリペプチド。
【請求項10】
癌細胞浸潤を抑制する、請求項3〜9のいずれか一項に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
【請求項11】
前記抗体が、配列番号1のアミノ酸配列を含んでなるFGFR4と結合する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
【請求項12】
前記抗体が、配列番号2のアミノ酸配列を含んでなるFGFR4と結合する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
【請求項13】
前記抗体が、配列番号5〜9からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる少なくとも一つのFGFR4ペプチドと結合する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
【請求項14】
配列番号7からなるFGFR4ペプチドと結合する、請求項13に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
【請求項15】
前記抗体または抗体フラグメントが、配列番号1または2のアミノ酸残基79〜81を含んでなる配列番号1または2のエピトープと結合する、請求項13に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
【請求項16】
モノクローナル抗体F90−10C5(DSM ACC2967)により結合されるFGFR4のエピトープと結合する、単離された抗体またはそのフラグメント。
【請求項17】
前記抗体がモノクローナル抗体F90−10C5(DSM ACC2967)である、請求項2、4、6および9のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項18】
前記抗体フラグメントが、抗体のScFv、Fv、Fab’、Fab、ダイアボディー、またはF(ab’)抗原結合フラグメントである、請求項1〜17のいずれか一項に記載の抗体フラグメントまたはポリペプチド。
【請求項19】
モノクローナル抗体F90−10C5(DSM ACC2967)の総ての相補性決定領域(CDR)を含んでなる単離された抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドであって、哺乳類細胞によって発現されるFGFR4の細胞外エピトープと結合する、抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
【請求項20】
モノクローナル抗体F90−10C5(DSM ACC2967)の可変領域を含んでなる、請求項19に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
【請求項21】
前記抗体または抗体フラグメントが、腫瘍細胞浸潤性アッセイにおいて、FGFR4 R388タンパク質を発現するMDA−MB−231細胞の浸潤を抑制する、請求項1〜20のいずれか一項に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
【請求項22】
前記抗体または抗体フラグメントが前記細胞浸潤を少なくとも25%減少させる、請求項21に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
【請求項23】
前記抗体または抗体フラグメントが前記細胞浸潤を少なくとも50%減少させる、請求項21に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
【請求項24】
モノクローナル抗体F90−10C5(DSM ACC2967)である、請求項20に記載の抗体。
【請求項25】
モノクローナル抗体F85−6C5(DSM ACC2966)の総ての相補性決定領域(CDR)を含んでなる単離された抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドであって、哺乳類細胞によって発現されるFGFR4の細胞外エピトープと結合する、抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
【請求項26】
モノクローナル抗体F85−6C5(DSM ACC2966)の可変領域を含んでなる、請求項25に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
【請求項27】
モノクローナル抗体F85−6C5(DSM ACC2966)である、請求項26に記載の抗体。
【請求項28】
モノクローナル抗体F90−3B6(DSM ACC2965)の総ての相補性決定領域(CDR)を含んでなる単離された抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドであって、哺乳類細胞によって発現されるFGFR4の細胞外エピトープと結合する、抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
【請求項29】
モノクローナル抗体F90−3B6(DSM ACC2965)の可変領域を含んでなる、請求項28に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
【請求項30】
モノクローナル抗体F90−3B6(DSM ACC2965)である、請求項29に記載の抗体。
【請求項31】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1、3、5、7、8、10〜15および21〜23のいずれか一項に記載の抗体または抗体フラグメント。
【請求項32】
前記抗体がヒト化抗体、ヒト抗体、またはキメラ抗体である、請求項1、3、5、7、8、10〜15、20〜23、25、26、28、29および31のいずれか一項に記載の抗体または抗体フラグメント。
【請求項33】
mAb F90−10C5、F85−6C5(DSM ACC2966)、またはF90−3B6(DSM ACC2965)の可変領域またはFGFR4と結合するこれらのいずれかのフラグメントを含んでなる、ヒト化抗体。
【請求項34】
コンジュゲートまたは結合させた抗新生物薬または細胞傷害薬をさらに含んでなる、請求項1〜33のいずれか一項に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
【請求項35】
前記抗新生物薬が放射性ヌクレオチドを含んでなる、請求項34に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド。
【請求項36】
請求項1〜35のいずれか一項に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチド、および生理学上許容される担体を含んでなる、組成物。
【請求項37】
標準的治療の抗癌治療化合物をさらに含んでなる、請求項36に記載の組成物。
【請求項38】
VEGFR−3またはVEGFR−2のVEGF−DまたはVEGF−C刺激を抑制する薬剤をさらに含んでなる、請求項36または37に記載の組成物。
【請求項39】
前記薬剤が、
VEGF−C、VEGF−D、またはVEGFR−3もしくはVEGFR−2の細胞外ドメインと結合する抗体または抗体フラグメント;
VEGF−CまたはVEGF−Dと結合するのに有効な、VEGFR−3細胞外ドメインまたはそのフラグメントを含んでなる可溶性タンパク質;および
VEGF−CまたはVEGF−Dと結合するのに有効な、VEGFR−2細胞外ドメインまたはそのフラグメントを含んでなる可溶性タンパク質
からなる群から選択されるメンバーを含んでなる、請求項38に記載の組成物。
【請求項40】
前記抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドが、モノクローナル抗体またはそのフラグメント(「第一のモノクローナル抗体またはそのフラグメント」)である、請求項36〜38のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項41】
前記第一のモノクローナル抗体またはそのフラグメントによって認識されるエピトープとは異なるFGFR4の第二のエピトープと結合する第二のモノクローナル抗体またはそのフラグメントをさらに含んでなる、請求項40に記載の組成物。
【請求項42】
前記第二のモノクローナル抗体またはそのフラグメントがヒトまたはヒト化抗体である、請求項41に記載の組成物。
【請求項43】
膜型−1メタロプロテイナーゼ(MT1−MMP)阻害薬をさらに含んでなる、請求項36〜42のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項44】
前記MT1−MMP阻害薬が、MT1−MMPと結合する抗体もしくはそのフラグメント、またはMT1−MMPの小分子阻害薬である、請求項43に記載の組成物。
【請求項45】
前記MT1−MMP阻害薬が、MT1−MMPゲノムDNAまたはmRNAとハイブリダイズして、MT1−MMP転写または翻訳を阻害する阻害薬核酸である、請求項43に記載の組成物。
【請求項46】
請求項1〜33のいずれか一項に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでなる、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項47】
請求項46に記載のポリヌクレオチドを含んでなる、ベクター。
【請求項48】
発現ベクターである、請求項47に記載のベクター。
【請求項49】
複製欠損性ウイルスベクターである、請求項48に記載のベクター。
【請求項50】
請求項49に記載のベクターおよび生理学上許容される担体を含んでなる、組成物。
【請求項51】
請求項46〜49のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドまたはベクターで形質転換またはトランスフェクトされた、単離された細胞。
【請求項52】
請求項1〜33のいずれか一項に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドを産生する、単離された細胞。
【請求項53】
請求項24、27および30〜32のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体または抗体フラグメントを産生する、ハイブリドーマ。
【請求項54】
癌細胞の浸潤、内方成長、または転移をモジュレートする方法であって、癌細胞の浸潤、内方成長、または転移をモジュレートするのに有効な量の、請求項1〜50のいずれか一項に記載の抗体、抗体フラグメント、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、または組成物と、癌細胞集団を接触させることを含んでなる、方法。
【請求項55】
前記癌細胞が哺乳類被験体におけるものであり、前記接触が前記組成物を前記哺乳類被験体に投与することを含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
哺乳類被験体を処置する方法であって、
癌と診断された、または癌の処置を受ける哺乳類被験体を処置のために選択すること;および
癌細胞の浸潤、内方成長、または転移をモジュレートするのに有効な量の、請求項36〜45および50のいずれか一項に記載の組成物を前記被験体に投与すること
を含んでなる、方法。
【請求項57】
(i)前記組成物が請求項13〜17のいずれか一項に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドを含んでなるものであ、かつ、
前記組成物の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドによって認識されるエピトープとは異なるFGFR4の第二のエピトープと結合する抗体またはそのフラグメントを前記哺乳類被験体に投与することをさらに含んでなる、請求項55または56に記載の方法。
【請求項58】
第二のエピトープと結合する前記抗体またはそのフラグメントが、mAb F90−3B6またはそのフラグメントである、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記組成物が請求項36〜42のいずれか一項に記載の組成物であり、かつ、膜型−1メタロプロテイナーゼ(MT1−MMP)阻害薬を含んでなる組成物を前記哺乳類被験体に投与することをさらに含んでなる、請求項55または56に記載の方法。
【請求項60】
前記MT1−MMP阻害薬が、MT1−MMPと結合する抗体もしくはそのフラグメント、またはMT1−MMPの小分子阻害薬である、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記組成物が請求項36、37および40〜42のいずれか一項に記載の組成物であり、かつ、VEGR−3またはVEGFR−2のVEGF−DまたはVEGF−C刺激を抑制する薬剤を含んでなる組成物を前記哺乳類被験体に投与することをさらに含んでなる、請求項55または56に記載の方法。
【請求項62】
標準的治療の抗癌療法を前記哺乳類被験体に投与することをさらに含んでなる、請求項55〜61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
被験体において癌を処置する方法であって、癌を処置するのに有効な量の、請求項36〜45および50のいずれか一項に記載の組成物を前記被験体に投与することを含んでなる、方法。
【請求項64】
哺乳類被験体における癌細胞の浸潤、内方成長、または転移を抑制するための、請求項1〜50のいずれか一項に記載の抗体、抗体フラグメント、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、または組成物の使用。
【請求項65】
哺乳類被験体における癌細胞の浸潤、内方成長、または転移を抑制するための、MT1−MMP阻害薬、またはVEGFR−3もしくはVEGFR−2へのVEGF−CもしくはVEGF−Dの結合の阻害薬と組み合わせての、請求項64に記載の使用。
【請求項66】
(i)前記組成物が請求項13〜17のいずれか一項に記載の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドを含んでなるものであり、前記組成物の抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドによって認識されるエピトープとは異なるFGFR4の第二のエピトープと結合する抗体またはそのフラグメントと併用される、請求項64または65に記載の使用。
【請求項67】
前記被験体がヒトである、請求項54〜66のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項68】
前記癌が、乳癌、膀胱癌、黒色腫、前立腺癌、中皮腫、肺癌、精巣癌、甲状腺癌、扁平上皮癌、膠芽腫、神経芽腫、子宮癌、結腸直腸癌、および膵臓癌からなる群から選択される、請求項54〜67のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項69】
抗体重鎖可変領域(V)および抗体軽鎖可変領域(V)からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含んでなる単離されたポリヌクレオチドであって、前記Vおよび前記Vが、モノクローナル抗体F90−10C5(DSM ACC2967)の相補性決定領域(CDR)と同一のCDRを含んでなる、ポリヌクレオチド。
【請求項70】
請求項69に記載のポリヌクレオチドを含んでなる、ベクター。
【請求項71】
請求項69に記載のポリヌクレオチドまたは請求項70に記載のベクターを含んでなる細胞であって、(a)前記Vおよび前記Vを含有する抗体または抗体フラグメントを発現し、かつ(b)該抗体または抗体フラグメントがFGFR4と結合する、細胞。
【請求項72】
抗体または抗体フラグメントを選択する方法であって、
(a)FGFR4と結合する1以上の抗体または抗体フラグメントを得ること;
(b)腫瘍細胞浸潤性アッセイにおいて前記抗体または抗体フラグメントをスクリーニングすること;および
(c)前記アッセイにおいて浸潤性を少なくとも50%抑制する抗体を選択すること
を含んでなる、方法。
【請求項73】
前記(b)が、繊維芽細胞増殖因子−2を化学誘引物質として使用する三次元コラーゲン浸潤アッセイにおいてFGFR4を発現する腫瘍細胞の浸潤を検出することを含む、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
請求項72または73に記載の方法により選択された、単離された抗体または抗体フラグメント。
【請求項75】
Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)寄託受託番号DSM ACC2967で寄託された、ハイブリドーマ細胞株。
【請求項76】
DSMZ寄託受託番号DSM ACC2966で寄託された、ハイブリドーマ細胞株。
【請求項77】
DSMZ寄託受託番号DSM ACC2965で寄託された、ハイブリドーマ細胞株。
【請求項78】
抗体mAb F90−3B6を産生することができる、単離された細胞。
【請求項79】
ハイブリドーマF90−3B6(DSMZ寄託受託番号DSM ACC2965)である、請求項78に記載の単離された細胞。
【請求項80】
抗体mAb F90−10C5を産生することができる、単離された細胞。
【請求項81】
ハイブリドーマF90−10C5(DSMZ寄託受託番号DSM ACC2967)である、請求項80に記載の単離された細胞。
【請求項82】
抗体mAb F85−6C5を産生することができる、単離された細胞。
【請求項83】
ハイブリドーマF85−6C5(DSMZ寄託受託番号DSM ACC2966)である、請求項82に記載の単離された細胞。
【請求項84】
FGFR4をコードするアミノ酸配列の5〜25個のアミノ酸からなる単離された抗原ペプチドであって、配列番号5〜9のいずれか1つに記載されたアミノ酸配列またはそのフラグメントを含んでなる、単離された抗原ペプチド。
【請求項85】
請求項84に記載の抗原ペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項86】
請求項85に記載のポリヌクレオチドを含んでなる、ベクター。
【請求項87】
請求項86に記載のベクターを含んでなる、単離された細胞。
【請求項88】
請求項84に記載のペプチドおよびアジュバントを含んでなる、組成物。
【請求項89】
前記癌においてFGFR4 R388をコードするFGFR4対立遺伝子の有無を決定する工程を含み、前記癌がFGFR4 R388をコードする少なくとも1つのFGFR4対立遺伝子を有する場合に前記処置が投与される、請求項56〜63のいずれか一項に記載の方法。
【請求項90】
哺乳類被験体を処置する方法であって、
癌と診断された、または癌の処置を受ける哺乳類被験体を処置のために選択すること(ここで、前記癌は、FGFR4 R388をコードする少なくとも1つのFGFR4対立遺伝子を含む細胞を含む);および
癌細胞の浸潤、内方成長、または転移をモジュレートするのに有効な量の、請求項36〜45および50のいずれか一項に記載の組成物を前記被験体に投与すること
を含んでなる、方法。
【請求項91】
FGFR4 R388対立遺伝子の有無が、FGFR4 R388およびG388対立遺伝子と別個に結合する抗体または抗体フラグメントを用いてFGFR4タンパク質をアッセイすることにより判定される、請求項89または90に記載の方法。
【請求項92】
FGFR4 R388対立遺伝子の有無が、前記被験体由来または前記癌由来の核酸をアッセイすることにより判定される、請求項89または90に記載の方法。
【請求項93】
哺乳類被験体を処置する方法であって、
癌と診断された、または癌の処置を受ける哺乳類被験体を処置のために選択すること;ならびに
第一の抗FGFR4抗体またはそのFGFR4結合フラグメントおよび第二の抗FGFR4抗体またはそのFGFR4結合フラグメントを前記被験体に投与すること(ここで、前記第一の抗FGFR4抗体またはフラグメントはFGFR4 R388のFGF2誘導性リン酸化を阻害し、前記第二の抗FGFR4抗体またはフラグメントはリガンド非依存性FGFR4リン酸化を阻害する)
を含んでなる、方法。
【請求項94】
前記第一および第二の抗体またはそのフラグメントが、前記第一の抗体またはフラグメントを含む第一の組成物および前記第二の抗体またはフラグメントを含む第二の組成物として、同時にまたは逐次的に、別々に投与される、請求項93に記載の方法。
【請求項95】
前記癌の標準的治療の化学療法を前記被験体に投与することをさらに含んでなる、請求項90〜94のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−501637(P2012−501637A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525583(P2011−525583)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【国際出願番号】PCT/FI2009/050697
【国際公開番号】WO2010/026291
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(501129435)ライセンティア・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】