説明

FIBシステムのビーム品質の改善

【課題】液体金属イオン・ビームのミリングに対するビーム品質を向上させる。
【解決手段】イオン源からのイオンの非対称エネルギー分布によって、処理時間をあまり短縮することなく、低エネルギー・ビーム・テール中のイオンをフィルタによって除去することによって色収差を低減させることが可能になる。一実施形態は、イオン・ビーム・カラム内に、低エネルギー・イオンをビームから除去するフィルタを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束イオン・ビーム(FIB)などの改良された粒子ビーム装置に関し、より具体的には、そのような装置のビーム品質およびミリング(milling)品質を向上させるエネルギー・フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
集束イオン・ビーム(FIB)システムでは、イオンを源から抽出し、ビームに形成し、集束させ、基板を横切って走査して、フィーチャの像を形成し、フィーチャをミリングし、またはガス環境から材料を付着させる。フィーチャがますます小さくなるにつれて、より高品質のビームを提供するように、すなわち、電流分布ができるだけコンパクトであるべき、より小さな、より集束したビーム・スポットを提供するように、FIBシステムを最適化しなければならない。
【0003】
いくつかの因子が、FIBの電流分布の品質を低下させる。液体金属イオン源(LMIS)を使用するイオン・カラムにおいて、低ないし中程度のビーム電流での低いビーム品質の主な原因は、色収差である。液体金属イオン源から放出されるガリウム・イオンは、固有相互作用と粒子相互作用との組合せであるエネルギー分布を有し、後者の成分は普通、ベルシュ(Boersch)効果と呼ばれる。イオンを形成する異なるいくつかの機構が存在するため、前者は非常に複雑である。色収差は、イオン・カラム内のレンズによって、異なるエネルギーの粒子が異なる位置に集束した結果である。この色収差により、ビームの電流分布は、イオンのエネルギーの広がり(ΔE)とともに変化する。イオン・ビーム中のイオンのエネルギーを、それぞれのエネルギー値におけるイオンの出現度数を表すヒストグラム上にプロットした場合、このグラフは、「公称」エネルギー値にピークを有し、そのピークの上下のエネルギーでは急速に低下し、その後、より緩やかに低下する。グラフが緩やかに低下するこの領域は、ビームの「テール(tail)」として知られている。エネルギーの広がりΔEは一般に、「半値幅」、すなわちピークの両側の最大ピーク値の半値点間のエネルギーとして測定される。一般的なガリウム液体金属イオン源において、1pAから数百nAの電流を有するビームのエネルギーの広がりは一般に、源からの1.5から2.5μAの放出電流で、約5eVである。
【0004】
図1A〜1Cは、フォトレジストのイオン・ビーム・ミリングに対するビーム・エネルギー・テールの影響を示す顕微鏡写真である。図1A〜1Cに示すフィーチャは、金−シリコン・イオン源を使用し、ビーム電流0.2nAでミリングしたものである。図1Aでは、ビームを2秒間当てて、4×1014イオン/cm2のドーズを与えた。ビームを正方形のパターン内で移動させて、中央の正方形100をミリングした。ピークから離れたエネルギーを有するエネルギー・テール中のイオンは、イオン・カラム内で、ピークのイオンとは異なって偏向され、正方形のパターンの外側に当たり、フォトレジストを円102の形に軽くミリングした。
【0005】
図1Bでは、ビームを10秒間当てて、総イオン・ドーズ2×1015イオン/cm2を与えた。特定のエネルギー値を有するイオンの相対数は、その特定のエネルギー値が公称ビーム値から離れるにつれて減少する。すなわち、エネルギー値が公称値から離れるにつれて、イオン数は減る。しかしながら、イオンの総数が増加するにつれて、公称値から離れたエネルギーを有するイオンの数も増加する。ミリング操作が長いほど、観察されるエネルギー・テール中のイオンの影響も大きくなる。公称値から離れたテール中のイオンの数が多いことによりそれらのイオンの影響も大きいため、図1Bの円102は、図1Aのそれよりも大きい。図1Cでは、ビームを100秒間当てて、総イオン・ドーズ2×1016イオン/cm2を与えた。公称エネルギー値から離れたイオンの数が増えたため、円102はよりいっそう大きく、それらのイオンの影響はより明白である。
【0006】
電子ビームのエネルギーの広がりを低減させるため、時おりモノクロメータが使用される。モノクロメータは、指定された量を超えて平均エネルギーから外れたエネルギーを有する電子を除去することにより、ビーム中の電子の対称ガウス形エネルギー分布の一部を切り捨てるように設計されている。モノクロメータは複雑であり、一般にビーム電流を大幅に低減させる。したがって、商業用途の荷電粒子ビーム・ミリングおよび荷電粒子ビーム付着に使用されるFIBシステムでは、モノクロメータは使用されない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「Design of Retarding Fields Energy Analyzers」、The Review of Scientific Instruments、32巻、12号(1961年、1283〜93ページ)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、液体金属イオン・ビームのミリングに対するビーム品質を、ビームの低エネルギー・テールを排除することによって向上させるシステムおよび方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願の出願人らは、公称ビーム・エネルギーよりもかなり低いエネルギーを有する少数のイオンが、イオン・ビームの品質の劣化に不釣合いに寄与することに気づいた。本出願の出願人らは、比較的に単純な高域エネルギー・フィルタを使用することによって、ビームの品質を向上させるが、ビーム電流の減少は予想外に小さい。
【0010】
以上では、以下の本発明の詳細な説明をより理解できるように、本発明の特徴および技術上の利点をかなり広く概説した。以下では、本発明の追加の特徴および利点を説明する。開示される着想および特定の実施形態を、本発明と同じ目的を達成するために他の構造を変更しまたは設計するベースとして容易に利用することができることを当業者は理解すべきである。さらに、このような等価の構造は、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨および範囲を逸脱しないことを当業者は認識すべきである。
【0011】
次に、本発明および本発明の利点のより徹底的な理解のため、添付図面に関して書かれた以下の説明を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】ビーム・エネルギー・テールの影響を示す顕微鏡写真である。
【図1B】ビーム・エネルギー・テールの影響を示す顕微鏡写真である。
【図1C】ビーム・エネルギー・テールの影響を示す顕微鏡写真である。
【図2】液体金属イオン源からのイオンのエネルギー分布を示すグラフである。
【図3】図2のデータを使用し、x軸を、任意のゼロ位置を有するエネルギー・スケールに変換したグラフであり、曲線の下側に累積面積も示されている。
【図4】図2および3に示したエネルギーの広がりを使用した色収差計算に基づいて計算したビーム・スポット・サイズを示す図である。
【図5】高域エネルギー・フィルタをイオン・ビーム・カラム内に含むデュアル・ビーム・システムを示す図である。
【図6】好ましい高域エネルギー・フィルタの一実施形態を示す図である。
【図7】高域エネルギー・フィルタの代替実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本出願の出願人らは、イオン・ビーム中のイオンのエネルギー分布を求めるため、それらのイオンのエネルギー値を測定した。図2は、2μAイオン・ビーム中の単一の同位体(monoisotopic)からなる一価のガリウム・イオンのビームのイオン・エネルギーに対する検出器信号のグラフを示す。イオンのエネルギーは、質量分析計を使用して測定した。単一の同位体からなるガリウム・イオンの質量および電荷は既知のため、質量分析計システムを使用して、イオンのエネルギーを決定することができた。灰色の点は、源に抽出電圧が印加されていないときの検出器の背景雑音を示す。図2は、約275Vのピーク・エネルギー値よりも約150eV下まで、ガリウム・テールが延びているようであることを示している。図3は、図2と同じデータを示すが、ゼロ・エネルギーがx軸上の任意の位置に配置されており、エネルギーの広がりの別の視覚的表現を提供するため、このエネルギー曲線の下側に累積面積を示す別の曲線も示されている。図3から、エネルギー・テールは、低エネルギー側に少なくとも約100eV延びているようである。
【0014】
イオン・エネルギーのこの広がりは、ビーム、特に低エネルギー・ビーム・テールを集束させるカラム光学部品の能力に影響を及ぼす。図4は、図2および3に示したイオン・エネルギー分布を使用した色収差計算に基づいて計算したビーム・スポット・サイズを示す。破線402は、ガウス・エネルギー分布を仮定した中心ビームのスポット径を示し、実線404は、長い低エネルギー・テールによるスポット・サイズを示す。線404は、スポット・サイズが150nmまで増大することを示している。
【0015】
低エネルギー・ビーム・テールを排除すれば、ビーム品質は向上し、例えば図1A〜1Cに示した円などの望ましくない要素は低減すると考えられる。ビーム品質が向上すれば、ミリングしたフィーチャおよび付着させたフィーチャの品質も向上するであろう。ビーム・テールを排除すれば、クリーンアップ(clean−up)ステップが排除されることによってイオン・ビーム処理が単純になり、より小さな構造のミリングおよび付着が可能になり、一般に、FIBシステムの使いやすさが向上すると考えられる。
【0016】
ビーム・テールが、低エネルギー方向にそのように長く延びることを発見したことにより、本出願の出願人らは、低エネルギー・ビーム・テールを排除することにより、エネルギーの広がりをかなり低減させることができる。この低エネルギー・ビーム・テールの排除による有用なビーム電流の低減は最小限に留まる。低エネルギー・ビーム・テール中のイオンは、公称エネルギー値付近のエネルギーを有するイオンに影響を与えないため、低エネルギー・ビーム・テール中のイオンは、処理速度に寄与せず、そのため、いくつかの実施形態では、テールの低減が、ミリング速度または画像化の信号対雑音比に対して最小限の影響を有する。一般的なガリウム液体金属イオン源では、低エネルギー・テール中に、わずかに約2%から3.3%の電流しか存在しないことを、本出願の出願人らは見出した。
【0017】
単純な高域フィルタを使用することにより低エネルギー・ビーム・テールを排除して、ビーム品質を相当程度に向上させ、同時にビーム電流の低減を最小限に抑えることができる。用語「高域フィルタ」は、低エネルギー・ビーム・テール中のイオンを優先的に除去する任意のエネルギー・フィルタを含むように使用される。本発明の文脈において、高域フィルタは、特定のエネルギーよりも大きい全てのイオンを通過させることができ、高域フィルタは、中心がピーク・エネルギー値よりも上にある通過帯域を有し、そのため、ピーク値よりも大きなエネルギーを有するイオンを通過させ、エネルギー・テールの通過を阻止する帯域フィルタとすることができ、高域フィルタは、中心がピーク値上にあるが、十分に広い通過帯域を有し、そのため、イオン・エネルギー分布の非対称性に基づいて、主に低エネルギー・ビーム・テール中のイオンの通過を阻止し、ピーク値よりも大きいエネルギーを有する実質的に全てのイオンを通過させる帯域フィルタとすることができる。
【0018】
図5は、走査型電子顕微鏡カラム502と、低エネルギー・ビーム・テールを排除する高域エネルギー・フィルタ506を含むイオン・ビーム・カラム504とを含むデュアル・ビーム・システム500を示す。知られている任意のタイプの高域エネルギー・フィルタを使用することができる。イオン・ビーム・カラム504は、排気されたエンベロープ(envelope)510を含み、その中には、イオン源514、抽出光学部品(extractor optics)516、第1のレンズ518、ビーム・ブランカ(beamb lanker)520、可変開口522、高域エネルギー・フィルタ506、ビーム走査偏向器526および最終レンズ528が位置する。源514からのイオンは、抽出光学部品516によって抽出され、ビームに形成され、第1のレンズ518によって集束する。可変開口522は、ビームの直径および電流を画定し、高域エネルギー・フィルタ506は、ビーム・テール中の低エネルギー・イオンを除去する。ビーム偏向器526は、ビームを走査し、ビームは、最終レンズ528によって、ワークピース530上に、ワークピース530の表面の所望のパターンとして集束する。ワークピース530は例えば、下部真空室534内の可動X−Yステージ532上に配置された半導体デバイスを含む。ガス噴射器540が、ビーム支援エッチングまたはビーム支援付着のための処理ガスを供給する処理ガスの供給源542に接続され、2次粒子検出器544が、2次粒子を検出して、ビデオ・モニタ546上に画像を形成する。コンピュータなどのコントローラ550が、デュアル・ビーム・システム500の動作を制御する。
【0019】
イオン源514は一般に、ガリウム・イオン・ビームを供給する液体金属イオン源だが、イオン用に例えば酸素、アルゴンまたは他の貴ガスを使用する、マルチカスプ(multicusp)または他のプラズ・マイオン源などの他のイオン源を使用することもできる。イオン源514は一般に、イオン・ミリング、化学強化エッチング、材料付着によってワークピース530を改変するため、またはワークピース530を画像化するために、ワークピース530における幅が1/10ミクロン以下のビームに集束させることができる。ビームを一点に集束させるのではなく、このイオン・カラムは成形ビームを提供することもできる。成形ビームは、より大きなビーム電流を供給して、スパッタリング時間を短縮することができる。
【0020】
集束イオン・ビーム・システムには可能な多くの構成があること、および、本発明は、特定の集束イオン・ビーム・システムに限定されないことを当業者は理解するであろう。例えば、単一の集束レンズを使用することもでき、または偏向器526を最終レンズ528の下流に配置することもできる。
【0021】
高域エネルギー・フィルタ506は静電フィルタであることが好ましい。これは、非相対論的極限においては、静電偏向が質量に依存しないためである。ガリウムは自然界において2つの同位体、ガリウム69およびガリウム71として存在し、静電偏向器は、これらの両方の同位体を同じ量だけ偏向させる。磁気フィルタを使用することもできるが、ガリウムの異なる同位体に対して異なる軌道を与えるため、静電フィルタほどには好ましくない。磁気高域フィルタを使用する場合には、単一の同位体からなるガリウムを使用するか、または異なる質量のガリウムのビームを再結合するために磁気偏向器を追加すべきである。磁気フィルタではさらに、磁場が、集束カラムの他の部品内でのイオンの軌道に影響を及ぼさないように、遮蔽が必要となることもある。どのタイプのフィルタを使用するにせよ、フィルタがさらに、ビーム中の中性ガリウム原子を排除し、それによって性能をさらに向上させることが好ましい。
【0022】
図6は、好ましい静電フィルタを示す。フィルタ600は、4組の偏向器、すなわち偏向器602、偏向器604、偏向器606および偏向器608を含む。偏向器602には、その光軸に沿って、全てのエネルギー・レベルのイオンが入る。高エネルギーのイオンほど高速に移動し、偏向器間の偏向フィールドに留まる時間は短く、そのため、高エネルギーのイオンは、より低エネルギーのイオンに比べてわずかにしか偏向されない。図6は、以下の3つの代表的エネルギー・レベルを有するイオンの軌道を示す:公称エネルギーqVを有するイオンに対する第1の軌道610、エネルギーq(V+dV)を有するイオンに対する第2の軌道612、およびエネルギーq(V−dV)を有するイオンに対する第3の軌道614である。
【0023】
偏向器604は、エネルギーqVを有するイオンを、軌道610によって示すように、最初の軌道に実質的に平行な軌道上に偏向させる。エネルギーq(V+dV)を有する、より少なく偏向されるイオンは、最初の軌道に対して完全には平行でない軌道612に偏向される。q(V−dV)未満のエネルギーを有する、より多く偏向されるイオンは、最初の軌道に対して完全には平行でない軌道614に偏向され、バリヤ616をちょうど回避するように偏向される。q(V−dV)未満のエネルギーを有するイオンは、バリヤ616を回避するほど十分には偏向されず、そのため、これらのイオンはバリヤに衝突し、フィルタを通過しない。
【0024】
q(V−dV)よりも大きなエネルギーを有するイオンは通過することができるが、q(V−dV)よりも小さいエネルギーを有するイオンは通過しないため、フィルタ600は「高域」フィルタである。通過させるイオンのエネルギーは、バリヤ616を光軸に近づけまたは遠ざけることによって、あるいは偏向電圧を変化させることによって、調整することができる。
【0025】
イオンの衝突によってバリヤ616は傷つき、そのため、イオン・エネルギーが比較的に小さい源の近くにフィルタを配置して、スパッタリングを低減させることが好ましく、バリヤ616は、スパッタリングに対して抵抗性の炭素、タングステンなどの材料からなることが好ましい。
【0026】
偏向器606は、偏向器608に向かってイオンを偏向させ、偏向器608は、フィルタ600に入る前のイオンの軌道に実質的に平行な軌道上にイオンを偏向させる。qVとはわずかに異なるエネルギーを有するイオンは、最終的に、最初の軌道に対して完全には平行でない軌道に偏向され、フィルタ600は、ビームの非点収差を引き起こす可能性があり、この非点収差は、必要ならば、8極レンズなどの知られている技法を使用して補正することができる。偏向器602、604、606および608は単純な平行なプレートとして示されているが、4極、6極または8極など任意のタイプの偏向器を使用することができる。
【0027】
例えば、好ましい一実施形態では、公称イオン・エネルギーが30keVであり、偏向器602、604、606および608上のイオン電圧は一般に、それぞれ0〜250Vの範囲である。特定の用途に対するバリヤ616の最適な位置は、バリヤ616の位置を光軸に近づけ、または光軸から遠ざけながら、イオン電流の変化を観察し、表面上のミリング結果を観察することによって、実験的に容易に決定することができる。ビーム・エネルギー・テールの影響を低減させまたは排除し、一方で全体電流の低減を最小限に抑えるように、バリヤ616は、光軸の十分に近くに配置することが好ましい。
【0028】
図7は、高域フィルタ700の他の設計を示す。図7の高域フィルタは、例えば「Design of Retarding Fields Energy Analyzers」、The Review of Scientific Instruments、32巻、12号(1961年、1283〜93ページ)に記載されている半球キャパシタを使用することに基づく。高域フィルタ700は、内側半球導体704と外側半球導体706とを有する第1の半球フィルタ702を含む。内側半球導体と外側半球導体との間には、ある電位差が維持される。これらの導体間の電場によって、荷電粒子は、フィルタ内でカーブを描き、あるエネルギー帯内の粒子だけがフィルタを通過する。
【0029】
通過帯域内のエネルギーを有する荷電粒子は、軌道708などの軌道をたどる。エネルギー通過帯域の上限よりも大きなエネルギーを有する荷電粒子は、軌道710などの軌道をたどり、螺旋を描いて外側半球導体706に衝突することになる。エネルギー通過帯域よりも小さいエネルギーを有する荷電粒子は、軌道712などの軌道をたどり、螺旋を描いて内側半球導体704に衝突する。第1の半球フィルタ702内には、粒子阻止器(particle blocker)714があり、これを使用して、それがなければ半球フィルタ702を通過するであろう粒子の通過を阻止し、それによって通過帯域を非対称に変化させて、ピーク・エネルギー値よりも小さい指定された量であるエネルギーを有するイオンの通過を優先的に阻止することができる。軌道716は、粒子阻止器714によって阻止されなかった場合にはフィルタ702を通過したであろうイオンの経路を示す。
【0030】
あるイオン・ビームのエネルギー・ピーク付近に中心を有するある広いエネルギー範囲内のエネルギーを有するイオンがフィルタを通過するように、第1の半球フィルタ702を調整することができる。したがって、粒子阻止器714がない場合、フィルタは、そのビーム中の実質的に全てのイオンを通過させることになる。このようにすると、粒子阻止器714は、指定された値よりも小さいエネルギーを有するイオンの通過を阻止して、低エネルギー・イオン・テールを排除する。すなわち、半球フィルタ702の通過帯域は非常に広く、阻止器714は、低エネルギー・イオンの通過を優先的に阻止することによって、半球フィルタ702を高域フィルタに変える。粒子阻止器714を必要としない代替実施形態では、通過帯域の中心が、ビームのエネルギー・ピークよりもかなり上になるように、半球フィルタ702を調整することができる。このフィルタはしたがって、通過帯域の外側にある低エネルギー・イオンのテールの通過を阻止し、同時に、ビームのエネルギー・ピークよりも大きい実質的に全てのイオンを通過させることができる。他の実施形態では、フィルタのエネルギー通過帯域の中心が実質的にビームのピーク・エネルギー値上にあり、この通過帯域が、ビームのピーク・エネルギーよりも大きい実質的に全てのイオンを通過させる十分な幅を有し、通過帯域よりも低エネルギー側に長く延びたビーム・テールの通過だけを阻止する。そのようなフィルタは技術的には高域フィルタではないが、低エネルギー・イオンを高エネルギー・イオンよりも多く阻止し、好ましくは、エネルギー・ピーク値よりも大きいビーム中の実質的に全てのイオンを通過させ、低エネルギー・テールの通過を阻止するため、本明細書で使用する高域フィルタの定義に含まれる。
【0031】
第1の半球フィルタ702を出るとき、荷電粒子は、それらがフィルタ702に入った方向とは反対方向に移動している。これらの荷電粒子の方向を最初に移動していた方向に戻すため、第2の半球キャパシタ720を使用することができる。この第2の半球フィルタをフィルタとして使用することもできる。当業者は、特定の公称ビーム・エネルギーに対して、これらの半球フィルタに印加する電圧を容易に決定することができる。
【0032】
本発明のさまざまな実施形態においてフィルタが通過させる好ましいイオン・エネルギーは、用途に依存する。例えば、粗い機械加工に対しては、より多くのイオンを通過させることが望ましく、色収差はあまり重要ではない。細かいマイクロ機械加工に対しては、通過エネルギーを、公称値のより近くに設定することができる。例えば、いくつかの実施形態では、通過エネルギーを、公称ビーム・エネルギーよりも2.5eV、3eV、4eV、5eV、6eV、10eV、25eV、50eVまたは75eV小さい値に設定することができる。すなわち、このフィルタは、ピーク値から2.5eV、3eV、4eV、5eV、6eV、10eV、25eV、50eVまたは75eVを差し引いた値よりも小さいエネルギーを有するイオンの通過を阻止するように設定されることが好ましい。
【0033】
低エネルギー・ビーム・テールのため、高域フィルタは、ピーク値よりも小さいエネルギーを有するイオンを、ピーク値よりも大きなエネルギーを有するイオンよりも多く阻止することが好ましい。いくつかの実施形態では、高域フィルタが、ビーム・エネルギー・ピークよりも小さいイオンのうち1%超、2%超または3%超のイオンを除去し、ピーク値よりも大きいエネルギーを有するイオンのうちの2%未満、1%未満、0.5%未満または0.25%未満のイオンの通過を阻止することができる。さまざまな実施形態が、上に挙げた値の任意の組合せを使用して、低エネルギー・イオンの通過を阻止し、高エネルギー・イオンを通過させることができる。例えば、フィルタは、公称値よりも小さいエネルギーを有するイオンのうちの1%超のイオン、および公称値よりも大きなエネルギーを有するイオンのうちの0.5%未満のイオンの通過を阻止することができる。いくつかの実施形態では、高域フィルタが、指定されたエネルギーよりも小さいエネルギーを有するビーム中のイオンの通過を阻止し、指定されたエネルギーよりも大きなエネルギーを有する実質的に全てのイオンを通過させることができ、この指定された値は、イオン・ビームのピーク・エネルギー値よりも小さい。好ましいいくつかの実施形態では、高域フィルタが、ビーム中のイオンの総数の1%超、2%超または3%超のイオンの通過を阻止する。
【0034】
本発明の集束イオン・ビーム・システムの好ましい実施形態は、イオン源と、源からイオンを抽出し、それらのイオンをビームに形成する抽出電極と、指定されたエネルギーよりも小さいエネルギーを有するビーム中のイオンの通過を阻止し、指定されたエネルギー値よりも大きなエネルギーを有する実質的に全てのイオンを通過させる高域フィルタであり、指定された値が、イオン・ビームのピーク・エネルギー値よりも小さい、高域フィルタと、イオン・ビームを試料上に位置決めする偏向器と、試料上のサブミクロン・スポット上にイオンを集束させる集束レンズとを含む。高域フィルタの好ましい実施形態は、ビームのエネルギー・ピークから4eV、6eVまたはより好ましくは10eVを差し引いたエネルギー値よりも小さいエネルギーを有するイオンを除去する。
【0035】
本発明の高域フィルタの好ましい実施形態は、静電偏向器を含み、この高域フィルタは、少なくとも4つの静電偏向器を含むことが好ましい。他の好ましい実施形態では、高域フィルタが、半球フィルタ、磁気偏向器、または帯域フィルタを含み、帯域フィルタの通過帯域は、ビームのエネルギー・ピークよりも大きなエネルギーを有する実質的に全てのイオンを通過させることが好ましい。高域フィルタの好ましい実施形態は、ピーク値よりも小さいエネルギーを有するイオンのうちの2%超のイオン、およびピーク値よりも大きなエネルギーを有するイオンのうちの1%未満のイオンの通過を阻止し、より好ましくは、ピーク値よりも小さいエネルギーを有するイオンのうちの3%超のイオン、およびピーク値よりも大きなエネルギーを有するイオンのうちの2%未満のイオン通過を阻止する。
【0036】
本発明の集束イオン・ビーム・システムの好ましい実施形態は、異なるエネルギーを有するイオンを生成し、それらのイオンをビームに形成するイオン源であり、前記エネルギーが、ピーク・エネルギー付近を中心に分布し、低エネルギー・テールを有する、イオン源と、エネルギー・ピークよりも小さい指定されたエネルギー値よりも小さいエネルギーを有するイオンの通過を阻止するエネルギー・フィルタであり、低エネルギー・イオン・テール中のイオンの通過を優先的に阻止し、エネルギー・ピークよりも大きなエネルギーを有するイオンを通過させるエネルギー・フィルタと、イオン・ビームを試料上に位置決めする偏向器と、試料上のサブミクロン・スポット上にイオンを集束させる集束レンズとを含むことができる。集束イオン・ビーム・システムの好ましい実施形態は、ビーム・ピーク・エネルギーよりも小さいイオンのうちの2%超のイオン、およびビーム・ピークよりも大きいイオンのうちの1%未満のイオンの通過を阻止し、より好ましくは、ビーム・ピーク・エネルギーよりも小さいイオンのうちの1.5%超のイオン、およびビーム・ピークよりも大きいイオンのうちの0.5%未満のイオンの通過を阻止するエネルギー・フィルタを含む。エネルギー・フィルタの好ましい実施形態は、ビームのピーク・エネルギーに関して対称でないエネルギー範囲内のエネルギーを有するイオンを通過させ、このエネルギー範囲は、エネルギー・ピークの下側よりも、エネルギー・ピークの上側へより長く延びる。
【0037】
集束イオン・ビーム・システムのビーム品質を向上させる本発明の好ましい実施形態は、イオン源からイオンを放出し、それらのイオンをビームに形成するステップであり、ビーム中のイオン・エネルギー分布が、ピーク値に関して非対称であり、この分布が、ピーク・エネルギー値よりも小さいエネルギー値を有するイオンを、ピーク・エネルギー値より大きなエネルギーを有するイオンよりも多く含む、ステップと、ピーク値よりも小さいエネルギーを有するイオンを、ピーク値よりも大きなエネルギーを有するイオンよりも多くフィルタによって除去するステップと、残ったイオンを試料上に集束させるステップとを含む。イオンをフィルタによって除去する好ましい実施形態は、ピーク値よりも大きなエネルギーを有するイオンよりも、ピーク値よりも小さいエネルギーを有するイオンの方が多いビームのイオンをフィルタによって除去するステップと、ピーク値よりも大きなエネルギーを有する実質的に全てのイオンを通過させ、ピーク・エネルギー値よりも指定された量以上小さいエネルギーを有するイオンの通過を阻止するステップとを含む。イオンをフィルタによって除去する好ましい実施形態は、イオンを複数回偏向させるステップを含み、エネルギー・ピークよりも指定された偏差以上小さいエネルギーを有するイオンが、バリヤを通過するほど十分には偏向されない。イオンをフィルタによって除去する好ましい実施形態は、ピーク・エネルギーから4eV、より好ましくは6eVを差し引いた値よりも小さいエネルギーを有するイオンをフィルタによって除去するステップを含む。
【0038】
本発明および本発明の利点を詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された実施形態に、さまざまな変更、置換および改変を加えることができることを理解すべきである。さらに、本出願の範囲が、本明細書に記載されたプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法およびステップの特定の実施形態に限定されることは意図されていない。当業者なら本発明の開示から容易に理解するように、本明細書に記載された対応する実施形態と実質的に同じ機能を実行し、または実質的に同じ結果を達成する既存のまたは今後開発されるプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法またはステップを、本発明に従って利用することができる。したがって、添付の特許請求の範囲は、その範囲内に、このようなプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法またはステップを含むことが意図されている。
【符号の説明】
【0039】
100 正方形
102 円
402 ガウス・エネルギー分布を仮定した中心ビームのスポット径
404 長い低エネルギー・テールによるスポット・サイズ
500 デュアル・ビーム・システム
502 走査型電子顕微鏡カラム
504 イオン・ビーム・カラム
506 高域エネルギー・フィルタ
510 排気されたエンベロープ
514 イオン源
516 抽出光学部品
518 第1のレンズ
520 ビーム・ブランカ
522 可変開口
526 ビーム走査偏向器
528 最終レンズ
530 ワークピース
532 可動X−Yステージ
534 下部真空室
540 ガス噴射器
542 処理ガス源
544 2次粒子検出器
546 ビデオ・モニタ
550 コントローラ
600 高域フィルタ
602 偏向器
604 偏向器
606 偏向器
608 偏向器
610 第1の軌道
612 第2の軌道
614 第3の軌道
616 バリヤ
700 高域フィルタ
702 第1の半球フィルタ
704 内側半球導体
706 外側半球導体
708 軌道
710 軌道
712 軌道
714 粒子阻止器
716 軌道
720 第2の半球キャパシタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を処理する集束イオン・ビーム・システムであって、
イオン源と、
前記源からイオンを抽出し、前記イオンをビームに形成する抽出電極と、
指定されたエネルギーよりも小さいエネルギーを有する前記ビーム中のイオンの通過を阻止し、前記指定されたエネルギーよりも大きなエネルギーを有する実質的に全てのイオンを通過させる高域フィルタであり、前記指定された値が、イオン・ビームのピーク・エネルギー値よりも小さい、高域フィルタと、
前記イオン・ビームを前記試料上に位置決めする偏向器と、
前記試料上のサブミクロン・スポット上に前記イオンを集束させる集束レンズと、
を備える集束イオン・ビーム・システム。
【請求項2】
前記高域フィルタが、前記ビームのエネルギー・ピークから4eVを差し引いたエネルギー値よりも小さいエネルギーを有するイオンを除去する、請求項1に記載の集束イオン・ビーム・システム。
【請求項3】
前記高域フィルタが、前記ビームのエネルギー・ピークから6eVを差し引いたエネルギー値よりも小さいエネルギーを有するイオンを除去する、請求項1に記載の集束イオン・ビーム・システム。
【請求項4】
前記高域フィルタが、前記ビームのエネルギー・ピークから10eVを差し引いたエネルギー値よりも小さいエネルギーを有するイオンを除去する、請求項1に記載の集束イオン・ビーム・システム。
【請求項5】
前記高域フィルタが静電偏向器を備える、請求項1に記載の集束イオン・ビーム・システム。
【請求項6】
前記高域フィルタが、少なくとも4つの静電偏向器を備える、請求項5に記載の集束イオン・ビーム・システム。
【請求項7】
前記高域フィルタが半球フィルタを備える、請求項5に記載の集束イオン・ビーム・システム。
【請求項8】
前記高域フィルタが磁気偏向器を備える、請求項1に記載の集束イオン・ビーム・システム。
【請求項9】
前記高域フィルタが帯域フィルタを備え、通過帯域が、前記ビームのエネルギー・ピークよりも大きなエネルギーを有する実質的に全てのイオンを通過させる、請求項1に記載の集束イオン・ビーム・システム。
【請求項10】
前記高域フィルタが、前記ピーク値よりも小さいエネルギーを有するイオンのうちの2%超のイオン、および前記ピーク値よりも大きなエネルギーを有するイオンのうちの1%未満のイオンの通過を阻止する、請求項1に記載の集束イオン・ビーム・システム。
【請求項11】
前記高域フィルタが、前記ピーク値よりも小さいエネルギーを有するイオンのうちの3%超のイオン、および前記ピーク値よりも大きなエネルギーを有するイオンのうちの2%未満のイオンの通過を阻止する、請求項1に記載の集束イオン・ビーム・システム。
【請求項12】
試料を処理する集束イオン・ビーム・システムであって、
異なるエネルギーを有するイオンを生成し、前記イオンをビームに形成するイオン源であり、前記エネルギーが、ピーク・エネルギー付近を中心に分布し、低エネルギー・テールを有する、イオン源と、
前記エネルギー・ピークよりも小さい指定されたエネルギー値よりも小さいエネルギーを有するイオンの通過を阻止するエネルギー・フィルタであり、前記低エネルギー・イオン・テール中のイオンの通過を優先的に阻止し、前記エネルギー・ピークよりも大きなエネルギーを有するイオンを通過させるエネルギー・フィルタと、
イオン・ビームを前記試料上に位置決めする偏向器と、
前記試上のサブミクロン・スポット上に前記イオンを集束させる集束レンズと、
を備える集束イオン・ビーム・システム。
【請求項13】
前記エネルギー・フィルタが、前記ビーム・ピーク・エネルギーよりも小さいイオンのうちの2%超のイオン、および前記ビーム・ピークよりも大きいイオンのうちの1%未満のイオンの通過を阻止する、請求項12に記載の集束イオン・ビーム・システム。
【請求項14】
前記エネルギー・フィルタが、前記ビーム・ピーク・エネルギーよりも小さいイオンのうちの1.5%超のイオン、および前記ビーム・ピークよりも大きいイオンのうちの0.5%未満のイオンの通過を阻止する、請求項12に記載の集束イオン・ビーム・システム。
【請求項15】
前記エネルギー・フィルタが、前記ビームの前記ピーク・エネルギーに関して対称でないエネルギー範囲内のエネルギーを有するイオンを通過させ、前記エネルギー範囲が、前記エネルギー・ピークの下側よりも、前記エネルギー・ピークの上側へより長く延びる、請求項12に記載の集束イオン・ビーム・システム。
【請求項16】
集束イオン・ビーム・システムのビーム品質を改善する方法であって、
イオン源からイオンを放出し、前記イオンをビームに形成するステップであり、前記ビーム中のイオン・エネルギー分布が、ピーク値に関して非対称であり、前記分布が、前記ピーク・エネルギー値よりも小さいエネルギー値を有するイオンを、前記ピーク・エネルギー値より大きなエネルギーを有するイオンよりも多く含む、ステップと、
前記ピーク値よりも小さいエネルギーを有するイオンを、前記ピーク値よりも大きなエネルギーを有するイオンよりも多くフィルタによって除去するステップと、
残ったイオンを試料上に集束させるステップと、
を含む方法。
【請求項17】
イオンをフィルタによって除去するステップが、前記ピーク値よりも大きなエネルギーを有する前記ビーム中の実質的に全てのイオンを通過させ、前記ピーク・エネルギー値よりも指定された量以上小さいエネルギーを有するイオンの通過を阻止するステップを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
イオンをフィルタによって除去するステップが、前記イオンを複数回偏向させるステップを含み、前記エネルギー・ピークよりも前記指定された偏差以上小さいエネルギーを有するイオンが、バリヤを通過するほど十分には偏向されない、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
イオンをフィルタによって除去するステップが、前記ピーク・エネルギーから4eVを差し引いた値よりも小さいエネルギーを有するイオンをフィルタによって除去するステップを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
イオンをフィルタによって除去するステップが、前記ピーク・エネルギーから6eVを差し引いた値よりも小さいエネルギーを有するイオンをフィルタによって除去するステップを含む、請求項16に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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