説明

FISH細胞画像解析方法、FISH細胞画像解析システム及びFISH細胞画像解析装置

【課題】細胞核内での蛍光スポットの三次元的な配置、細胞外のゴミ等による発光、蛍光波長の漏れこみ等に影響されずに、目的の蛍光スポットを正確に検出可能なFISH細胞画像解析方法、システム及び装置の提供。
【解決手段】細胞区画をレポートする第1の蛍光レポーター分子と、第1、第2の遺伝子配列をレポートする第2、第3の蛍光レポーター分子を含む複数の細胞画像を取得する撮像装置1と、コンピュータを備えた画像解析装置2を有し、撮像装置は、複数の細胞をZ方向を異ならせて複数撮影し、画像解析装置は、コンピュータを、画像から三次元の細胞区画を構築する手段2a、三次元の細胞区画の内外を識別する手段2b、三次元の細胞区画内の、第2、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを認識する手段2c、認識された蛍光シグナルの特徴量を測定する手段2dとして機能させるソフトウェアを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光物質等で標識したヌクレオチドプローブを目的とする遺伝子とハイプリダイゼーションさせ、蛍光顕微鏡等で検出する「FISH法」を用いた、細胞診断や分子細胞遺伝学研究などに用いるFISH細胞画像解析方法、FISH細胞画像解析システム及びFISH細胞画像解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、FISH法を用いた癌の細胞診断や分子細胞遺伝学研究等の分野では、例えば、次の非特許文献1に記載の、自動化された蛍光顕微鏡をベースにした細胞画像取得装置や、特許文献1に記載の装置等を用いて、二次元細胞画像を取得し、その二次元細胞画像を元に目的の蛍光スポットの発光を画像処理にて検出し、その細胞に特定の遺伝子配列が含まれているか否かの判定や、染色体異常の検出が行われている。
【0003】
例えば、細胞核内の染色体上において、癌関連遺伝子の遺伝的異常があるか否かを判定するために、細胞核全体をDAPIで染色し、続いて、コントロールとなるプローブを例えば、FITCで標識し、目的部位とハイブリダイズするプローブをTexas Red等で標識する。次いで、細胞内でハイブリダイズさせ、自動化された蛍光顕微鏡をベースにした、例えば、非特許文献1に記載の細胞画像取得装置などで、DAPI,FITC,Texas Redそれぞれのチャネルに適した励起光を照射し、各々の励起光によって得られたカラーチャネル毎の蛍光画像を二次元細胞画像として取得し、その画像を元に目的とする蛍光スポットの発光を検出および測定し、その細胞に染色体異常が含まれているか否かを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4029983号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】オリンパス株式会社ホームページ、「細胞イメージ解析システム CELAVIEW RS100」、[online]、http://www.olympus.co.jp/jp/lisg/genome/product/rs100/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の二次元細胞画像を用いたFISH法での細胞画像の解析には、次の(1)〜(4)に示すような問題があった。
【0007】
(1)細胞の三次元構造に伴う問題
三次元構造を有する細胞核内では、目的とする染色体自体が三次元的に配置されている。一般に、顕微鏡などの蛍光観察光学系を有する細胞画像取得装置では、焦点面での蛍光は明るく観察・撮像ができるが、焦点面から外れた蛍光は暗く、もしくは取得できないことが多い。しかるに、非特許文献1や特許文献1に記載の従来の細胞画像取得装置において撮像された二次元細胞画像は、三次元構造の細胞における一つのZ位置での面に焦点を合わせて撮像した画像であり、その面には蛍光スポットが存在していない(即ち、蛍光スポットは焦点面から外れたZ位置に存在する)場合がある。そのような場合、撮像された画二次元細胞画像には、上述のように取得すべき蛍光が非常に暗く、もしくは全く取得できない事態が発生し、その結果、コントロール及び目的部位が画像解析出来ず、目的部位が発現しているにもかかわらず、発現していない細胞として判断され、遺伝子配列等の判定について正しい判定を下すことができない。
【0008】
(2)細胞の外側に存在するゴミ等による悪影響
また、細胞の外側で、かつ非常に近隣に蛍光を発してしまうゴミなどが存在する場合、目的部位の蛍光スポットとゴミとが重なり合った状態で撮像され、目的部位の発現なのかゴミなのかの判定が非常に困難になる。
【0009】
(3)蛍光スポットがZ方向に重なっている場合の問題
また、細胞核内で同一蛍光色の蛍光スポットがZ方向に重なり合っている場合、スポットが実際には二つ存在するにもかかわらず、画像上では一つとして認識されてしまい、正しい結果を得られない。
【0010】
(4)蛍光波長の漏れこみによる悪影響
また、一般に、短波長側の蛍光が長波長側の蛍光に漏れこみを起すことがある。例えば、コントロールとなるプローブを緑色の蛍光を発するFITC等で染色し、目的部位とハイブリダイズするプローブを赤色の蛍光を発するTexas Redで染色したとする。蛍光波長は、FITC(520nm)の方がTexas Red(620nm)よりも短波長である。また、このとき、コントロールの蛍光スポットが二つ光るものが正常細胞と定義し、コントロールの蛍光スポット二つと赤色の蛍光スポット二つの両方が光る細胞ががん細胞等の異常な細胞であると定義するものとする。その場合において、FITC用の励起光を照射したときにFITCの蛍光がTexas Redに漏れこみ、本来はTexas Redの励起波長のみで蛍光を発するはずのスポットが発光してしまうことが起こりうる。このような蛍光波長の漏れこみが生ずると、コントロールの蛍光スポットが四つ光っているように誤認識され、異常な細胞としてカウントから排除されてしまう。
【0011】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、細胞核内における蛍光スポットの三次元的な配置に影響されることなく、細胞外のゴミ等による発光と誤認識することなく、さらには蛍光波長の漏れこみ等にも影響されることなく、目的とする蛍光スポットを正確に検出することが可能なFISH細胞画像解析方法、FISH細胞画像解析システム及びFISH細胞画像解析装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明によるFISH細胞画像解析方法は、FISH法を用いた細胞画像解析方法であって、所定の細胞区画についてレポートする第1の蛍光レポーター分子と、所望の第1の遺伝子配列についてレポートする第2の蛍光レポーター分子と、所望の第2の遺伝子配列についてレポートする第3の蛍光レポーター分子とを含有する複数の細胞が容器に播種された状態にするステップ、蛍光観察光学系を備えた細胞画像撮像装置を用いて、前記複数の細胞に対し、焦点面を同じXY座標上でZ座標を異ならせて複数撮像し、前記各蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを自動的に画像として入手するステップ、前記入手した画像を用いて前記細胞区画を三次元の細胞区画として構築するステップ、前記三次元に構築した細胞区画の区画内と区画外を識別するステップ、前記三次元に構築し、認識した細胞区画の区画内に存在する、前記第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを夫々自動的に認識するステップ、前記認識した第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルに対し、夫々の特徴量として、少なくとも強度、大きさ、蛍光若しくは発光領域の数を測定するステップ、を有することを特徴としている。
【0013】
また、本発明のFISH細胞画像解析方法においては、前記第2の蛍光レポーター分子と前記第3の蛍光レポーター分子のうち、短波長側の蛍光レポーター分子が発する蛍光の、長波長側の蛍光レポーター分子への漏れこみを検出して、長波長側の蛍光の発光であるとの誤認識を防止するステップを有するのが好ましい。
【0014】
また、本発明のFISH細胞画像解析方法においては、前記長波長側の蛍光の発光であるとの誤認識を防止するステップは、前記第2の蛍光レポーター分子、および前記第3の蛍光レポーター分子の夫々発光しているXYZ座標位置が、同一位置にあるか否かを判定することにより行うのが好ましい。
【0015】
また、本発明のFISH細胞画像解析方法においては、前記測定した第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルの夫々の特徴量を用いて、予め規定した条件を満たす細胞の数を自動的に計測しその計測結果を表示するステップを有するのが好ましい。
【0016】
また、本発明のFISH細胞画像解析方法においては、前記複数の細胞に対し、焦点面を同じXY座標上でZ座標を異ならせて複数撮像し、前記各蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを自動的に画像として入手するステップは、前記蛍光観察光学系に共焦点光学系を有する前記細胞画像撮像装置を用いて行うのが好ましい。
【0017】
また、本発明によるFISH細胞画像解析システムは、所定の細胞区画についてレポートする第1の蛍光レポーター分子と、所望の第1の遺伝子配列についてレポートする第2の蛍光レポーター分子と、所望の第2の遺伝子配列についてレポートする第3の蛍光レポーター分子を含有する複数の細胞の画像を取得する細胞画像撮像装置と、前記細胞画像撮像装置を介して取得された細胞画像を解析するコンピュータを備えた細胞画像解析装置を有する細胞画像解析システムであって、前記細胞画像撮像装置は、試料に対する合焦位置をZ方向に所定ピッチで連続的に変えて、各合焦位置における試料の像を結像する蛍光観察光学系と、前記蛍光観察光学系を介して結像された細胞像を撮像する撮像素子を有し、前記複数の細胞に対し、焦点面を同じXY座標上でZ座標を異ならせて複数撮像し、前記各蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを自動的に画像として入手し、前記細胞画像解析装置は、前記コンピュータを、前記細胞画像撮像装置を介して入手された画像を用いて前記細胞区画を三次元の細胞区画として構築する三次元細胞区画構築手段、前記三次元細胞区画構築手段を介して三次元に構築された細胞区画の区画内と区画外を識別する細胞区画識別手段、前記三次元細胞区画構築手段を介して三次元に構築され、前記細胞区画識別手段を介して認識された細胞区画の区画内に存在する、前記第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを夫々自動的に認識する蛍光シグナル認識手段、前記蛍光シグナル認識手段を介して認識された第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルに対し、夫々の特徴量として、少なくとも強度、大きさ、蛍光若しくは発光領域の数を測定する特徴量測定手段、として機能させる画像解析ソフトウェアを有することを特徴としている。
【0018】
また、本発明のFISH細胞画像解析システムにおいては、前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、前記第2の蛍光レポーター分子と前記第3の蛍光レポーター分子のうち、短波長側の蛍光レポーター分子が発する蛍光の、長波長側の蛍光レポーター分子への漏れこみを検出して、長波長側の蛍光の発光であるとの誤認識を防止する誤認識防止手段として機能させるのが好ましい。
【0019】
また、本発明のFISH細胞画像解析システムにおいては、前記誤認識防止手段は、前記第2の蛍光レポーター分子、および前記第3の蛍光レポーター分子の夫々発光しているXYZ座標位置が、同一位置にあるか否かを判定するのが好ましい。
【0020】
また、本発明のFISH細胞画像解析システムにおいては、前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、前記特徴量測定手段を介して測定された第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルの夫々の特徴量を用いて、予め規定した条件を満たす細胞の数を自動的に計測しその計測結果を表示する細胞数計測表示手段として機能させるのが好ましい。
【0021】
また、本発明のFISH細胞画像解析システムにおいては、前記細胞画像撮像装置は、前記蛍光観察光学系に共焦点光学系を有するのが好ましい。
【0022】
また、本発明によるFISH細胞画像解析装置は、試料に対する合焦位置をZ方向に所定ピッチで連続的に変えて、各合焦位置における試料の像を結像する蛍光観察光学系と、前記蛍光観察光学系を介して結像された細胞像を撮像する撮像素子を有し、所定の細胞区画についてレポートする第1の蛍光レポーター分子と、所望の第1の遺伝子配列についてレポートする第2の蛍光レポーター分子と、所望の第2の遺伝子配列についてレポートする第3の蛍光レポーター分子を含有する複数の細胞に対し、焦点面を同じXY座標上でZ座標を異ならせて複数撮像し、前記各蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを自動的に画像として入手する細胞画像撮像装置を有する細胞画像解析システムに備わる、該細胞画像撮像装置を介して取得された細胞画像を解析するコンピュータを備えた細胞画像解析装置であって、前記コンピュータを、前記細胞画像撮像装置を介して入手された画像を用いて前記細胞区画を三次元の細胞区画として構築する三次元細胞区画構築手段、前記三次元細胞区画構築手段を介して三次元に構築された細胞区画の区画内と区画外を識別する細胞区画識別手段、前記三次元細胞区画構築手段を介して三次元に構築され、前記細胞区画識別手段を介して認識された細胞区画の区画内に存在する、前記第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを夫々自動的に認識する蛍光シグナル認識手段、前記蛍光シグナル認識手段を介して認識された第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルに対し、夫々の特徴量として、少なくとも強度、大きさ、蛍光若しくは発光領域の数を測定する特徴量測定手段、として機能させる画像解析ソフトウェアを有することを特徴としている。
【0023】
また、本発明のFISH細胞画像解析装置においては、前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、前記第2の蛍光レポーター分子と前記第3の蛍光レポーター分子のうち、短波長側の蛍光レポーター分子が発する蛍光の、長波長側の蛍光レポーター分子への漏れこみを検出して、長波長側の蛍光の発光であるとの誤認識を防止する誤認識防止手段として機能させるのが好ましい。
【0024】
また、本発明のFISH細胞画像解析装置においては、前記誤認識防止手段は、前記第2の蛍光レポーター分子、および前記第3の蛍光レポーター分子の夫々発光しているXYZ座標位置が、同一位置にあるか否かを判定するのが好ましい。
【0025】
また、本発明のFISH細胞画像解析装置においては、前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、前記特徴量測定手段を介して測定された第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルの夫々の特徴量を用いて、予め規定した条件を満たす細胞の数を自動的に計測しその計測結果を表示する細胞数計測表示手段として機能させるのが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、細胞核内における蛍光スポットの三次元的な配置に影響されることなく、細胞外のゴミ等による発光と誤認識することなく、さらには蛍光波長の漏れこみ等にも影響されることなく、目的とする蛍光スポットを正確に検出することができるFISH細胞画像解析方法、FISH細胞画像解析システム及びFISH細胞画像解析装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態にかかるFISH細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態のFISH細胞画像解析システムにおける処理手順を示すフローチャートで、(a)は細胞の標識から細胞画像の解析・出力までの全体の処理手順を示すフローチャート、(b)は細胞画像の解析及び出力処理における処理手順を示すフローチャートである。
【図3】FISH法でハイブリダイズされた細胞核と該細胞核内の蛍光スポットの一例を模式的に示す説明図であり、(a)はZ方向に沿う断面図、(b)は(a)に示される細胞核をZ位置がaであるXY平面で撮像したときの画像を示す図、(c)は(a)に示される細胞核をZ位置がbであるXY平面で撮像したときの画像を示す図である。
【図4】FISH法でハイブリダイズされたコントロールの蛍光スポットと目的部位の蛍光スポットの両方が発光している細胞核の一例を示す説明図で、(a)はZ方向に沿う断面図、(b)は(a)に示される細胞核をZ位置がaであるXY平面で撮像したときの画像を示す図である。
【図5】FISH法でハイブリダイズされた一つの細胞核と該細胞核内で発現しているコントロールの蛍光スポット及び目的部位の蛍光スポットと、細胞核の周辺に存在するコントロールと同じ蛍光を発する異物を示すとともに、細胞核を含む周囲を、焦点面を同じXY座標上でZ座標を異ならせて複数撮像するときの各Z位置の一例を示す説明図である。
【図6】図5に示す各Z位置で撮像したXY平面の画像を夫々示す説明図である。
【図7】Z方向に異なる複数の焦点面で撮像された細胞核の画像を用いて細胞核を三次元に構築する手法の一例を示す説明図で、(a)はZ方向に異なる複数の焦点面で撮像された細胞核の画像における隣接する部分をつなぎ合わせる状態を概念的に示す図、(b)は(a)の手法により三次元に構築された細胞核を示す図である。
【図8】FISHにおける短波長側の蛍光の長波長側への漏れこみの一例を示す説明図で、(a)はFITCの励起光でコントロールの蛍光スポットを発光させているときに、目的部位の蛍光スポットが短波長側の蛍光の漏れこみによって発光している状態を示す図、(b)はTexas Redの励起光を照射したときに発光する目的部位の蛍光スポットを示す図である。
【図9】蛍光スポットの個数、蛍光スポット内の平均輝度、領域の大きさをウェルごとに示す一覧表の一例を示す図である。
【図10】対物レンズの屈折率と細胞が載置される容器底面の屈折率との違いから、細胞内部に結ばれる焦点のZ方向の移動距離と対物レンズの移動距離が異なる状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかるFISH細胞画像解析システムの全体構成を示すブロック図である。図2は本実施形態のFISH細胞画像解析システムにおける処理手順を示すフローチャートで、(a)は細胞の標識から細胞画像の解析・出力までの全体の処理手順を示すフローチャート、(b)は細胞画像の解析及び出力処理における処理手順を示すフローチャートである。
本実施形態のFISH細胞画像解析システムは、細胞画像撮像装置1と細胞画像解析装置2を有する。
細胞画像撮像装置1は、例えば、コンフォーカル顕微鏡で構成されており、蛍光観察光学系1aと、撮像素子1bを有する。
蛍光観察光学系1aは、光源、照明レンズ、複数種類の励起フィルタをターレット等に備えた励起光切換手段、対物レンズ、吸収フィルタ、結像レンズ、ピンホール等、一般的なコンフォーカル蛍光顕微鏡における照明光学系及び観察光学系(図示省略)で構成され、試料に対する合焦位置をZ方向に所定ピッチで連続的に変えて、各合焦位置における試料の像を撮像素子1bの撮像面に結像する。
撮像素子1bは、蛍光観察光学系1aを介して結像された細胞像を撮像する。
そして、細胞画像撮像装置は、所定の細胞区画についてレポートする第1の蛍光レポーター分子と、所望の第1の遺伝子配列についてレポートする第2の蛍光レポーター分子と、所望の第2の遺伝子配列についてレポートする第3の蛍光レポーター分子を含有する複数の細胞に対し、焦点面を同じXY座標上でZ座標を異ならせて複数撮像し、各蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを自動的に画像として入手する。
【0029】
細胞画像解析装置2は、コンピュータと、画像解析ソフトウェアを備えて構成されている。
画像解析ソフトウェアは、コンピュータを三次元細胞区画構築手段2a、細胞区画識別手段2b、蛍光シグナル認識手段2c、特徴量測定手段2dとして機能させ、さらには、誤認識防止手段2e、細胞数計測表示手段2fとして機能させるように構成されている。
三次元細胞区画構築手段2aは、細胞画像撮像装置1を介して入手された画像を用いて細胞区画を三次元の細胞区画として構築する。
細胞区画識別手段2bは、三次元細胞区画構築手段2aを介して三次元に構築された細胞区画の区画内と区画外を識別する。
蛍光シグナル認識手段2cは、三次元細胞区画構築手段2aを介して三次元に構築され、細胞区画識別手段2bを介して認識された細胞区画の区画内に存在する、第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを夫々自動的に認識する。
特徴量測定手段2dは、蛍光シグナル認識手段2cを介して認識された第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルに対し、夫々の特徴量として、少なくとも強度、大きさ、蛍光若しくは発光領域の数を測定する。
誤認識防止手段2eは、第2の蛍光レポーター分子と第3の蛍光レポーター分子のうち、短波長側の蛍光レポーター分子が発する蛍光の、長波長側の蛍光レポーター分子への漏れこみを検出して、長波長側の蛍光の発光であるとの誤認識を防止する。
細胞数計測表示手段2fは、特徴量測定手段2dを介して測定された第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルの夫々の特徴量を用いて、予め規定した条件を満たす細胞の数を自動的に計測しその計測結果を表示する。
【0030】
次に、このように構成された本実施形態のFISH細胞画像解析システムを用いた細胞の標識から画像解析・出力までの全体の処理手順について説明する。
全体の処理は、図2(a)に示すように、細胞の標識(ステップS1)、細胞画像撮像装置1による細胞像の撮像(ステップS2)、細胞画像解析装置2による細胞画像の解析(ステップS3)、細胞画像解析装置2による解析結果の出力(ステップS4)の順で行う。
【0031】
標識処理段階(ステップS1)
標識処理段階では、所定の細胞区画についてレポートする第1の蛍光レポーター分子と、所望の第1の遺伝子配列についてレポートする第2の蛍光レポーター分子と、所望の第2の遺伝子配列についてレポートする第3の蛍光レポーター分子とを含有する複数の細胞が、例えば、マルチウェルプレート、ディッシュ、スライドガラスなどの容器に播種された状態にする。
具体的には、本実施形態では、所定の細胞区画についてレポートする第1の蛍光レポーター分子としてDAPIを用いて細胞核を染色する。また、第1の遺伝子配列についてレポートする第2の蛍光レポーター分子として、FITCを用いてコントロールとなるプローブを標識する。また、所望の第2の遺伝子配列についてレポートする第3の蛍光レポーター分子として、Texas Redを用いて目的部位とハイブリダイズするプローブを標識する。そして、これらのレポーター分子を含有する複数の細胞が、例えば、マルチウェルプレートに播種された状態にする。
【0032】
細胞の構造1
図3はFISH法でハイブリダイズされた細胞核と該細胞核内の蛍光スポットの一例を模式的に示す説明図であり、(a)はZ方向に沿う断面図、(b)は(a)に示される細胞核をZ位置がaであるXY平面で撮像したときの画像を示す図、(c)は(a)に示される細胞核をZ位置がbであるXY平面で撮像したときの画像を示す図である。図3(a)中、αは細胞核、βはFISH法におけるコントロールと呼ばれる蛍光スポットである。
細胞核αは、DAPIで染色されており、358nmを中心波長とする励起光により、461nmを中心波長とする蛍光を発する。この蛍光により、細胞の核の形状およびその存在を確認することができる。
蛍光スポットβは、どの細胞にも存在する特定のDNA配列と相補的な配列を持つプローブを蛍光物質の一つであるFITCで標識したものであって、ハイブリダイズが正しく行われた細胞かどうかを見分ける指標となるものであり、494nmを中心波長とする励起光により、520nmを中心波長とする蛍光を発する。FISH法を用いた細胞の認識および判定では、コントロールである蛍光スポットβが規定数だけ正しく発光している細胞を対象とする。ここでは、コントロールである蛍光スポットβが二つ発光している細胞が、判定の対象となる細胞であるものとする。
図3の例では、二つのコントロールである蛍光スポットβは、図3(a)に示すように、Z方向に離散して存在している。このように、コントロールである蛍光スポットβがZ方向に大きく離散して存在している場合には、撮像する細胞の焦点面のZ位置によって確認できる発光数が変化し、例えば、図3(b)や、図3(c)に示すように、Z位置がa又はbのいずれか一方であるXY平面の画像では、コントロールである蛍光スポットβを一つだけしか確認できないことが起こり得る。
【0033】
細胞の構造2
図4はFISH法でハイブリダイズされたコントロールの蛍光スポットと目的部位の蛍光スポットの両方が発光している細胞核の一例を示す説明図で、(a)はZ方向に沿う断面図、(b)は(a)に示される細胞核をZ位置がaであるXY平面で撮像したときの画像を示す図である。図4(a)中、γはFISH法によって蛍光を発する目的部位を示す蛍光スポットである。
蛍光スポットγは、例えば、がん細胞に特異的に発現する特定のDNA配列と相補的な配列を持つプロープを蛍光物質の一つであるTexas Redで標識したものであり、587nmを中心波長とする励起光により、620nmを中心波長とする蛍光を発する。ここでは、二つのコントロールである蛍光スポットβと、二つのTexas Redにより発光する蛍光スポットγの両方が発光している細胞ががん細胞として判定されるものとする。
図4の例では、二つのコントロールである蛍光スポットβは、図4(a)に示すように、XY座標が同じでZ方向での位置が異なって存在している。このため、図4(b)に示すZ位置がaであるXY平面の画像では、コントロールである蛍光スポットβを一つだけしか確認できない。一方、二つの目的部位を示す蛍光スポットγは、XYZ方向に離散しているため、蛍光スポットγを二つとも判別できる。
【0034】
上述のように、細胞は立体構造を有し、蛍光スポットの位置もXYZ方向に離散して存在することがあり、蛍光スポットがZ方向に重なっている場合にはXY平面からは重なっている一方の蛍光スポットの確認が漏れてしまうおそれがあるので、正しい細胞判定を行うためには、細胞の三次元構造を考慮に入れた解析が必要である。
【0035】
撮像処理段階(ステップS2)
そこで、本発明者は、細胞を三次元で撮像し、三次元で解析する方法として本発明のFISH細胞画像解析方法を着想するに至った。
撮像処理段階では、コンフォーカル顕微鏡で構成された細胞画像撮像装置1の蛍光観察光学系1aが、各チャネルの蛍光ごとに、試料に対する合焦位置をZ方向に所定ピッチで連続的に変えて、各合焦位置における試料の像を結像し、撮像素子1bが蛍光観察光学系1aを介して結像された細胞像を撮像することにより、複数の細胞に対し、焦点面を同じXY座標上でZ座標を異ならせて複数撮像し、各蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを自動的に画像として入手する。
【0036】
図5はFISH法によってハイプリダイズされた一つの細胞核αと、その内部で発現しているコントロールである蛍光スポットβおよび目的部位の蛍光スポットγと、細胞核αの周辺に存在するコントロールである蛍光スポットβと同じ蛍光を発する異物δを示している、細胞核αのZ方向に沿う断面図である。図5はさらに、細胞核αを含む周囲を、同じXY座標上でZ位置がaからtまで異なる複数の焦点面で、aからtの順番で撮像する一例を示している。蛍光撮像に際しては、共焦点光学系を用いる。共焦点光学系を用いると、一般的な結像光学系よりも、Z方向の分解能を20倍程度向上させることができ、焦点位置以外からの蛍光の影響を大幅に軽減することができるので好ましい。
【0037】
図6は図5に示す各Z位置で撮像したXY平面の画像を夫々示す説明図であり、Z方向の複数の焦点面で撮像された細胞核およびその周辺の画像を示している。撮像されたaからtまでの各Z位置での画像(図6では途中省略している画像がある)には、夫々、各Z位置の焦点面で捉えられた各蛍光スポット(蛍光スポットβ,γ)が撮像されている。また、各Z位置での画像は、細胞の各Z位置での断面を示している。
本来、細胞の断面を撮像するときは、各励起光毎に光学系を切り替え、各々の蛍光色ごとに冷却CCDカメラなどで撮像する。本実施形態では、DAPI,FITC,Texas Redの三色の蛍光を発することになるので、断面ごとに三枚ずつの画像を取得する。なお、図6においては、説明の便宜上、同じZ位置ごとに各蛍光画像を重ね合わせて表示している。
図5及び図6に示す例では、Z位置が異なるごとに、蛍光スポットが細胞核αの内部に存在することが確認できる画像と、細胞核αの外部に存在することが確認できる画像が得られている。
【0038】
解析処理段階(ステップS3)
三次元座標上での細胞区画構築(ステップS31
解析処理段階では、まず、細胞画像解析装置2の三次元細胞区画構築手段2aが、細胞画像撮像装置1を介して入手された画像を用いて細胞区画を三次元の細胞区画として構築する。
図7はZ方向に異なる複数の焦点面で撮像された細胞核の画像を用いて細胞核を三次元に構築する手法の一例を示す説明図で、(a)はZ方向に異なる複数の焦点面で撮像された細胞核の画像における隣接する部分をつなぎ合わせる状態を概念的に示す図、(b)は(a)の手法により三次元に構築された細胞核を示す図である。図7の画像は、DAPI用の励起フィルタおよび吸収フィルタおよびダイクロイックミラー等で構成された光学系により撮像されている。
ここで、三次元細胞区画構築手段2aは、まず、適当な閾値を用いて、各Z位置での細胞核画像の二値化を行い、このZ位置での細胞核の特定を行う。ここでの閾値とは、ピクセルの輝度の閾値と、ピクセルの輝度の閾値で決められた輝度以上をもつピクセルの集合体の大きさ範囲(Max Area,Min Area)の閾値の両方を意味する。本実施形態の細胞画像解析装置では、これらの閾値はユーザーが予め規定のGUI等から設定することができるようになっている。
三次元細胞区画構築手段2aは、次いで、各Z位置で特定された細胞核領域を用いて、Z方向に隣接する二値化の結果を比較し、各Z位置での画像における細胞核領域がZ方向に連続する部分および細胞核領域が不連続となるZ位置を判定することで、細胞核の三次元構造を構築する。この処理により、細胞核領域の内側、外側を三次元に識別でき、細胞核のXYZ座標領域が決定される。
【0039】
続いて、三次元細胞区画構築手段2aは、コントロールである蛍光スポットおよび目的部位の蛍光スポットに対し細胞核と同様の解析を行い、三次元に構築する。図7の細胞核画像と同様に同じZ位置で撮像された色別の蛍光スポット画像が撮像されるので、これらの画像に対しても、適当な閾値を用いて、各Z位置での蛍光スポット画像の二値化を行い、このZ位置での各蛍光スポットの特定を行う。ここでの閾値も、ピクセルの輝度の閾値と、ピクセルの輝度の閾値で決められた輝度以上をもつピクセルの集合体の大きさ範囲(Max Area,Min Area)の閾値の両方を意味する。本実施形態の細胞画像解析装置では、これらの閾値もユーザーが予め規定のGUI等から設定することができるようになっている。
三次元細胞区画構築手段2aは、次いで、各Z位置で特定された各蛍光スポットの領域を用いて、Z方向に隣接する二値化の結果を比較し、各Z位置での画像における各蛍光スポット領域がZ方向に連続する部分および各蛍光スポット領域が不連続となるZ位置を判定することで、各蛍光スポットの三次元構造を構築し、夫々一個の蛍光スポットとして識別する。この処理により、コントロールである蛍光スポットおよび目的部位の蛍光スポットのXYZ座標領域が決定される。
【0040】
細胞区画の内外の識別(ステップS32
次いで、細胞区画識別手段2bが、三次元細胞区画構築手段2aを介して三次元に構築された細胞区画の区画内と区画外を識別する。
【0041】
第2、第3の蛍光シグナルの認識(ステップS33
次いで、蛍光シグナル認識手段2cが、三次元細胞区画構築手段2aを介して三次元に構築され、細胞区画識別手段2bを介して認識された細胞区画の区画内に存在する、第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを夫々自動的に認識する。例えば、細胞核と各蛍光スポットが上記二種類の画像解析により三次元に構築された後、蛍光シグナル認識手段2cは、各蛍光スポットが、識別された細胞核のXYZ座標領域内に存在するか否かを三次元構築された細胞核画像の情報と照
らし合わせて判定する。
【0042】
誤認識チェック(ステップS34
図8はFISHにおける短波長側の蛍光の長波長側への漏れこみの一例を示す説明図で、(a)はFITCの励起光でコントロールの蛍光スポットを発光させているときに、目的部位の蛍光スポットが短波長側の蛍光の漏れこみによって発光している状態を示す図、(b)はTexas Redの励起光を照射したときに発光する目的部位の蛍光スポットを示す図である。
本来であれば、目的部位の蛍光スポットγが発光するのは、FITCの励起光でコントロールである蛍光スポットβの蛍光を発光させているときではなく、図8(b)に示すように、Texas Redの励起光を照射したときである。しかし、短波長側の蛍光が、長波長側の蛍光に漏れこんで長波長側の蛍光物質が発光してしまう現象がまれに起こる。
【0043】
本実施形態の細胞画像解析装置では、このような蛍光の漏れこみによる蛍光スポットの誤検出を防ぐことができるようにしている。
即ち、誤認識防止手段2eが、第2の蛍光レポーター分子と第3の蛍光レポーター分子のうち、短波長側の蛍光レポーター分子が発する蛍光の、長波長側の蛍光レポーター分子への漏れこみを検出して、長波長側の蛍光の発光であるとの誤認識を防止する。
具体的には、上述した三次元座標上での細胞区画構築(ステップS31)〜第2、第3の蛍光シグナルの認識(ステップS33)の処理手順によって、三次元に構築され、且つ、細胞区画の区画内に存在するものと認識された、FITCで発光する細胞核内のコントロールである蛍光スポットのXYZ座標とTexas Redで発光する目的部位の蛍光スポットのXYZ座標とを比較する。そして、FITCで発光する蛍光スポットのXYZ座標とTexas Redで発光する目的部位の蛍光スポットのXYZ座標が同一の場合、このXYZ座標が同じ蛍光スポットをコントロールの蛍光スポットではなく、目的部位の蛍光スポットとして認識する。
【0044】
特徴量測定(ステップS35
次いで、特徴量測定手段2dが、蛍光シグナル認識手段2c、誤認識防止手段2eを介して認識された第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルに対し、夫々の特徴量として、少なくとも強度、大きさ、蛍光若しくは発光領域の数を測定し、例えば、蛍光レポーター分子ごとの蛍光スポットの個数、蛍光スポットの平均輝度、蛍光スポット領域の大きさ等を算出する。
このようにして測定、算出されたデータは、例えば、図9に示すような表で一覧表示することができる。図9の表中、“Well”はマルチウェルプレートにおける各ウェルの番号、“Total”は各ウェルにおいて認識された細胞の総個数、“Texas Red”は各ウェルにおいてTexas Redが発光している細胞の個数、“Cell%”は(各ウェルにおいてTexas Redが発光している細胞の個数)/(各ウェルにおいて認識された細胞の総個数)を示している。
【0045】
細胞数計測・表示(ステップ4)
次いで、細胞数計測表示手段2fが、特徴量測定手段2dを介して測定された第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルの夫々の特徴量を用いて、予め規定した条件を満たす細胞の数を自動的に計測しその計測結果を表示する。
このとき、コントロールである蛍光スポット数が予めユーザーが設定した規定数を満たしている細胞を、抽出・カウントし、かつ、その抽出した細胞のうち、目的部位の蛍光スポットが発光している細胞の数をカウントして表示するようにするとよい。
【0046】
さらに、本実施形態の細胞画像解析装置は、対物レンズのZ方向への移動量の値を補正して、細胞核内のZ方向の位置情報を演算出力する機能を有するようにするのが望ましい。
図10に示すように、対物レンズの屈折率n1と、細胞が載置される例えばマルチウェルプレート等の細胞培養容器の底面部の屈折率n2の違いから、細胞内部に結ばれる焦点のZ方向への移動距離L2と、実際の対物レンズの移動距離L1とが異なる場合がある。例えば、細胞の厚みが100μmあるときにおいて、その細胞の底面と上面とに焦点を合わせるための対物レンズの移動距離が80μmとなる場合がある。一般的に、対象物の厚みの情報を入手する場合、その情報源として焦点を合わせた対物レンズのZ方向への移動量を用いることが多い。しかし、上述のように、対物レンズのZ方向への移動量と対象物の厚みとが一致しない場合があるため、対物レンズの屈折率とマルチウェルプレートのような細胞培養容器の底面部の屈折率との差に基づく所定の補正値を用いて、対物レンズのZ方向への移動量の値を補正して、細胞核内のZ方向の位置情報を演算出力する機能を備えるようにするとよい。
【0047】
本実施形態の細胞画像解析方法、細胞画像解析システム、及び細胞画像解析装置によれば、同じ細胞をZ方向に複数枚撮像し、細胞核の三次元形状を構築し、細胞核の内側と外側の領域を認識し、細胞核に含まれているFISH法により蛍光を発する蛍光スポットを三次元で解析することが出来るため、蛍光スポットが重なって判別不能となることが無く、細胞全体から蛍光スポットを検出することができ、さらに、細胞の外側のゴミによる発光を誤認識することが無いので、正確なFISH法での細胞解析が出来る。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のFISH細胞画像解析方法、FISH細胞画像解析システム及びFISH細胞画像解析装置は、FISH法を用いて細胞診断や細胞遺伝子学研究を行う分野に有用である。
【符号の説明】
【0049】
1 細胞画像撮像装置
1a 蛍光観察光学系
1b 撮像素子
2 細胞画像解析装置
2a 三次元細胞区画構築手段
2b 細胞区画識別手段
2c 蛍光シグナル認識手段
2d 特徴量測定手段
2e 誤認識防止手段
2f 細胞数計測表示手段
α 細胞核
β コントロールである蛍光スポット
γ 目的部位の蛍光スポット
δ コントロールである蛍光スポットと同じ蛍光を発する異物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FISH法を用いた細胞画像解析方法であって、
所定の細胞区画についてレポートする第1の蛍光レポーター分子と、所望の第1の遺伝子配列についてレポートする第2の蛍光レポーター分子と、所望の第2の遺伝子配列についてレポートする第3の蛍光レポーター分子とを含有する複数の細胞が容器に播種された状態にするステップ、
蛍光観察光学系を備えた細胞画像撮像装置を用いて、前記複数の細胞に対し、焦点面を同じXY座標上でZ座標を異ならせて複数撮像し、前記各蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを自動的に画像として入手するステップ、
前記入手した画像を用いて前記細胞区画を三次元の細胞区画として構築するステップ、
前記三次元に構築した細胞区画の区画内と区画外を識別するステップ、
前記三次元に構築し、認識した細胞区画の区画内に存在する、前記第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子から蛍光シグナルを夫々自動的に認識するステップ、
前記認識した第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルに対し、夫々の特徴量として、少なくとも強度、大きさ、蛍光若しくは発光領域の数を測定するステップ、
を有することを特徴とするFISH細胞画像解析方法。
【請求項2】
前記第2の蛍光レポーター分子と前記第3の蛍光レポーター分子のうち、短波長側の蛍光レポーター分子が発する蛍光の、長波長側の蛍光レポーター分子への漏れこみを検出して、長波長側の蛍光の発光であるとの誤認識を防止するステップを有することを特徴とする、請求項1に記載のFISH細胞画像解析方法。
【請求項3】
前記長波長側の蛍光の発光であるとの誤認識を防止するステップは、前記第2の蛍光レポーター分子、および前記第3の蛍光レポーター分子の夫々発光しているXYZ座標位置が、同一位置にあるか否かを判定することにより行うことを特徴とする請求項2に記載のFISH細胞画像解析方法。
【請求項4】
前記測定した第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルの夫々の特徴量を用いて、予め規定した条件を満たす細胞の数を自動的に計測しその計測結果を表示するステップを有することを特徴とする請求項1に記載のFISH細胞画像解析方法。
【請求項5】
前記複数の細胞に対し、焦点面を同じXY座標上でZ座標を異ならせて複数撮像し、前記各蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを自動的に画像として入手するステップは、前記蛍光観察光学系に共焦点光学系を有する前記細胞画像撮像装置を用いて行うことを特徴とする請求項1に記載のFISH細胞画像解析方法。
【請求項6】
所定の細胞区画についてレポートする第1の蛍光レポーター分子と、所望の第1の遺伝子配列についてレポートする第2の蛍光レポーター分子と、所望の第2の遺伝子配列についてレポートする第3の蛍光レポーター分子を含有する複数の細胞の画像を取得する細胞画像撮像装置と、前記細胞画像撮像装置を介して取得された細胞画像を解析するコンピュータを備えた細胞画像解析装置を有する細胞画像解析システムであって、
前記細胞画像撮像装置は、試料に対する合焦位置をZ方向に所定ピッチで連続的に変えて、各合焦位置における試料の像を結像する蛍光観察光学系と、前記蛍光観察光学系を介して結像された細胞像を撮像する撮像素子を有し、前記複数の細胞に対し、焦点面を同じXY座標上でZ座標を異ならせて複数撮像し、前記各蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを自動的に画像として入手し、
前記細胞画像解析装置は、前記コンピュータを、
前記細胞画像撮像装置を介して入手された画像を用いて前記細胞区画を三次元の細胞区画として構築する三次元細胞区画構築手段、
前記三次元細胞区画構築手段を介して三次元に構築された細胞区画の区画内と区画外を識別する細胞区画識別手段、
前記三次元細胞区画構築手段を介して三次元に構築され、前記細胞区画識別手段を介して認識された細胞区画の区画内に存在する、前記第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを夫々自動的に認識する蛍光シグナル認識手段、
前記蛍光シグナル認識手段を介して認識された第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルに対し、夫々の特徴量として、少なくとも強度、大きさ、蛍光若しくは発光領域の数を測定する特徴量測定手段、
として機能させる画像解析ソフトウェアを有することを特徴とするFISH細胞画像解析システム。
【請求項7】
前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、
前記第2の蛍光レポーター分子と前記第3の蛍光レポーター分子のうち、短波長側の蛍光レポーター分子が発する蛍光の、長波長側の蛍光レポーター分子への漏れこみを検出して、長波長側の蛍光の発光であるとの誤認識を防止する誤認識防止手段として機能させることを特徴とする請求項6に記載のFISH細胞画像解析システム。
【請求項8】
前記誤認識防止手段は、前記第2の蛍光レポーター分子、および前記第3の蛍光レポーター分子の夫々発光しているXYZ座標位置が、同一位置にあるか否かを判定することを特徴とする請求項7に記載のFISH細胞画像解析システム。
【請求項9】
前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、
前記特徴量測定手段を介して測定された第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルの夫々の特徴量を用いて、予め規定した条件を満たす細胞の数を自動的に計測しその計測結果を表示する細胞数計測表示手段として機能させることを特徴とする請求項6に記載のFISH細胞画像解析システム。
【請求項10】
前記細胞画像撮像装置は、前記蛍光観察光学系に共焦点光学系を有することを特徴とする請求項6に記載のFISH細胞画像解析システム。
【請求項11】
試料に対する合焦位置をZ方向に所定ピッチで連続的に変えて、各合焦位置における試料の像を結像する蛍光観察光学系と、前記蛍光観察光学系を介して結像された細胞像を撮像する撮像素子を有し、所定の細胞区画についてレポートする第1の蛍光レポーター分子と、所望の第1の遺伝子配列についてレポートする第2の蛍光レポーター分子と、所望の第2の遺伝子配列についてレポートする第3の蛍光レポーター分子を含有する複数の細胞に対し、焦点面を同じXY座標上でZ座標を異ならせて複数撮像し、前記各蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを自動的に画像として入手する細胞画像撮像装置を有する細胞画像解析システムに備わる、該細胞画像撮像装置を介して取得された細胞画像を解析するコンピュータを備えた細胞画像解析装置であって、
前記コンピュータを、
前記細胞画像撮像装置を介して入手された画像を用いて前記細胞区画を三次元の細胞区画として構築する三次元細胞区画構築手段、
前記三次元細胞区画構築手段を介して三次元に構築された細胞区画の区画内と区画外を識別する細胞区画識別手段、
前記三次元細胞区画構築手段を介して三次元に構築され、前記細胞区画識別手段を介して認識された細胞区画の区画内に存在する、前記第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルを夫々自動的に認識する蛍光シグナル認識手段、
前記蛍光シグナル認識手段を介して認識された第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルに対し、夫々の特徴量として、少なくとも強度、大きさ、蛍光若しくは発光領域の数を測定する特徴量測定手段、
として機能させる画像解析ソフトウェアを有することを特徴とするFISH細胞画像解析装置。
【請求項12】
前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、
前記第2の蛍光レポーター分子と前記第3の蛍光レポーター分子のうち、短波長側の蛍光レポーター分子が発する蛍光の、長波長側の蛍光レポーター分子への漏れこみを検出して、長波長側の蛍光の発光であるとの誤認識を防止する誤認識防止手段として機能させることを特徴とする請求項11に記載のFISH細胞画像解析装置。
【請求項13】
前記誤認識防止手段は、前記第2の蛍光レポーター分子、および前記第3の蛍光レポーター分子の夫々発光しているXYZ座標位置が、同一位置にあるか否かを判定することを特徴とする請求項12に記載のFISH細胞画像解析装置。
【請求項14】
前記画像解析ソフトウェアは、前記コンピュータを、さらに、
前記特徴量測定手段を介して測定された第2の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナル、第3の蛍光レポーター分子からの蛍光シグナルの夫々の特徴量を用いて、予め規定した条件を満たす細胞の数を自動的に計測しその計測結果を表示する細胞数計測表示手段として機能させることを特徴とする請求項11に記載のFISH細胞画像解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−30492(P2011−30492A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179592(P2009−179592)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】