FeSi2系熱電変換材料及びその製造方法
【課題】従来に比べて高いゼーベック係数を示す結晶構造を有するFeSi2系熱電変換材料を提供する。
【解決手段】熱電変換材料は、所定量のクロム(Cr)又はコバルト(Co)を含むFeSi2系熱電変換材料であって、従来一般的に行われていた2段階焼結方式に替えて、焼結温度、加圧時間及び焼結時間を適切に制御して1段階で焼結することによって、(220)面及び(311)面を有するβ相単相の結晶構造をえることを特徴とする。
【解決手段】熱電変換材料は、所定量のクロム(Cr)又はコバルト(Co)を含むFeSi2系熱電変換材料であって、従来一般的に行われていた2段階焼結方式に替えて、焼結温度、加圧時間及び焼結時間を適切に制御して1段階で焼結することによって、(220)面及び(311)面を有するβ相単相の結晶構造をえることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はFeSi2系すなわち鉄シリサイド系熱電変換材料、その製造方法及びその熱電変換材料を使用した熱電変換モジュールに関し、詳細には、熱電変換材料として適した結晶構造を有しかつ高いゼーベック係数を示す熱電変換材料並びにそのような熱電変換材料を製造する製造方法、更には、そのような熱電変換材料を用いて作られた熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーを電気エネルギーに変換できる熱電変換材料は、現在のクリーンエネルギーの確保の観点及び環境保護の観点から注目されている。熱電変換材料の原料としては種々のものがあるが、その中で、鉄シリサイド系すなわちFeSi2系合金は安価で原料の入手が容易でありしかも高温条件にも対応できる点で注目されており、例えば、下記特許文献1ないし4に示されるように、材料自体或いはその製造方法が、種々提案されている。
しかしながら、これら特許文献を含む従来の製造方法で製造されたFeSi2系熱電変換材料ではゼーベック係数が小さく、実用に適した十分な起電力を得られない問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開平7−7186号公報
【特許文献2】特開平7−162041号公報
【特許文献3】特開平7−216401号公報
【特許文献4】特開平7−242901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、FeSi2系熱電変換材料について鋭意研究を重ねた結果、FeSi2系熱電変換材料の製造方法で従来一般的に行われていた2段階に分けて行っていた焼結方式よりも、焼結温度、加圧力及び焼結時間を適切に制御して1段階で焼結することによって、材料の結晶構造を熱電変換に適した高いゼーベック係数を示す構造にできることを見いだした。
【0005】
したがって、本発明の目的は、従来のFeSi2系熱電変換材料に比べて高いゼーベック係数を示す結晶構造を有するFeSi2系熱電変換材料及びその製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、原料粉末を焼結温度、加圧力及び焼結時間を適切に制御して1段階で焼結することによって、(220)面及び(311)面を有するβ相単相の結晶構造を有するFeSi2系熱電変換材料及びその製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、従来のFeSi2系熱電変換材料に比べて高いゼーベック係数を示しかつ高い起電力を発揮するFeSi2系熱電変換材料及びその製造方法を提供することである。
本発明の別の目的は、上記熱電変換材料を使用した熱電変換モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、所定量のクロム(Cr)又はコバルト(Co)を含むFeSi2系熱電変換材料であって、(220)面及び(311)面を有するβ相単相の結晶構造を備えることを特徴とする。
前記FeSi2系熱電変換材料において、クロムを0.1ないし8質量%含むP型熱電変換材料であっても、或いは、コバルトを0.1ないし5質量%含むN型熱電変換材料であってもよい。より好ましくは、クロムを3ないし5質量%含むP型熱電変換材料であっても、或いは、コバルトを1.5ないし3.5質量%含むN型熱電変換材料であってもよい。
【0007】
本発明は、また、所定量のクロム(Cr)又はコバルト(Co)を有しかつ平均粒径1μmないし20μmを有するFeSi2の粉末材料を焼結してFeSi2系熱電変換材料を製造する方法において、前記粉末材料の焼結を、焼結によりできた焼結体が(220)面及び(311)面を有するβ相単相の結晶構造を有するように、行うことに特徴を有する。
上記FeSi2系熱電変換材料の製造方法において、焼結を、
加圧力 :0MPaないし100MPa
昇温速度 :50度/minないし100度/min
焼結温度 :580℃(853K)ないし820℃(1093K)
焼結時間 :0secないし7.2ksec
で行うとよい。
ここで焼結時間とは、被焼結材料が目標焼結温度になった時点からその目標焼結温度に保った時間を言う。したがって、焼結時間0secとは目標焼結温度になったら直ぐに降温する状態を言う(以下同じ)。焼結温度の上記の範囲にしたのは、その範囲から外れると、(220)面及び(311)面を有するβ相単相の結晶構造が得られなくなる可能性があるからである。
また、上記FeSi2系熱電変換材料の製造方法において、好ましくは、焼結温度が750℃(1023K)ないし800℃(1073K)であるのがよく、加圧力が35MPaないし70MPaであるのがよく、或いは、焼結時間が600secないし1.8ksecであるのがよい。
焼結温度を上記の範囲にしたのは750℃より低い温度ではβ相単相の焼結体を作製可能であるが、低密度或いは(311)面のみで構成されるために高いゼーベック係数を示さないからであり、800℃より高い温度では熱電変換効率の低いα相が析出し、ゼーベック係数が著しく低下するからである。また、加圧力を上記範囲にしたのは、35MPaより低いと焼結が不完全であるために低密度であり硬さなどの機械的性質が低いからであり、70MPaより高いと密度がほぼ100%となり脆くなり、加工性が著しく低下するからである。更に、焼結時間を上記範囲にしたのは、600secより少ないとα相が存在することと、低密度であるため機械的特性が低いからであり、1.8Ksecより多いと低温側ではβ相単相となるがゼーベック係数が低く、高温側では高密度になり脆くなるからである。
更に、本発明による熱電変換モジュールは、請求項1又は2に記載のFeSi2系のP型熱電変換材料から作られたP型熱電変換素子と、請求項1又は3に記載のFeSi2系のN型熱電変換材料から作られたN型熱電変換素子と、を備える点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によればゼーベック係数の大きな熱電変換材料及びそれを用いた熱電変換モジュールを安価に量産可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下図面を参照して本発明の熱電変換材料の製造方法について説明する。
まず、所定量、例えば4.1質量%のクロム(Cr)を有しかつ平均粒径1μmないし20μmを有するFeSi2の原料粉末及び所定量、例えば2.4質量%のコバルト(Co)を有しかつ平均粒径1μmないし20μmを有するFeSi2の粉末材料を用意する。このような粉末材料は市場で容易に入手できる。FeSi2系合金は安価で入手が容易でありしかも高温条件にも対応できるので、熱電変換材料としては好ましい。
次にこの粉末材料を所定量、例えば10g、図1に示されるような貫通穴2を有する環状のグラファイト製焼結型1内に入れる。焼結型の貫通穴2内にはグラファイト製の下パンチ3を予め挿入しておき、その下パンチ3の上に粉末材料を入れる。この場合、好ましくは、貫通穴の内周面にカーボンペーパー6を筒状に配置し、パンチ3の上面に円盤状のカーボンペーパー5を敷き、その上に粉末材料を入れる。粉末材料の上に好ましくは別の円板状のカーボンペーパー5を乗せ、その上からグラファイト製の上パンチ4で押さえるように、上パンチを貫通穴内に入れる。これにより焼結を行うための焼結型のセットが完了する。
次に上記焼結型のセットを、図2に示されるように、それ自体公知のパルス通電加圧焼結装置(放電プラズマ焼結装置或いはプラズマ活性化焼結装置とも呼ぶ)10の上下一対の通電電極11と12との間にセットする。そして、パルス通電加圧焼結装置の真空チャンバー13内を公知の方法で真空雰囲気(1ないし5Paの真空状態)にした後或いはすると同時に通電電極を介してパンチを所定の力で加圧し、上下通電電極、上下パンチ及び焼結型を介して粉末材料に直流パルス焼結電源14からパルス電流を流して下記の条件で焼結を行う。
加圧力 :0MPaないし100MPa
昇温速度 :50度/minないし100度/min
焼結温度 :580℃(853K)ないし820℃(1093K)
焼結時間 :0secないし7.2ksec
パルス電流:1000ないし1500A
焼結後、約250℃(527K)まで徐冷或いは放冷し、気圧を常圧すなわち大気圧に戻し、できた焼結体をパルス通電加圧焼結装置(以下単に焼結装置)から取り出す。
【0010】
上記の焼結工程をクロム(Cr)を含むFeSi2の粉末材料について行ってP型熱電変換材料をつくり、またコバルト(Co)を含むFeSi2の粉末材料について行ってN型熱電変換材料をつくる。
このようにしてできたP型熱電変換材料及びN型熱電変換材料のブロック状すなわち円柱状の焼結体6p、6n(直径20mm、高さ10mmの円柱体)から、図3(A)に示されるように所定の寸法(直径20mm、高さ7mm)のブロックを切り出し、そのブロックからP型熱電変化素子7p及びN型熱電変換素子7nを作成する。
このようにしてできた各熱電変換素子7p及び7nを、図4に示されるように、一対の導体8a及び8bと他の導体8cとの間に挟まれるようにしてそれらに接合し、熱電変換モジュールをつくる。導体8aないし8cの材料は銅板が好ましいが電気抵抗の小さい材料なら他の材料でもよい。また導体と各熱電変換素子7p、7nとを接合する方法としては、この実施例では銀(Ag)製両面テープ9を使用したが、量産品を製造する場合には他の接合方法を使用してもよい。
【0011】
[実施例1]
(1)クロム(Cr)を4.1質量%含むFeSi2の粉末材料を10グラム電子天秤で計り取る。
(2)外径40mm、内径20.6mm、高さ40mmの焼結型、外径20mm、高さ20mmの上下両パンチ及びカーボンペーパーを使用して焼結型内に上記計り取った粉末材料を挿入し、前述のように焼結型のセットをつくる。
(3)この焼結型のセットを前述のように焼結機にセットする。
(4)焼結機の真空チャンバー内の気圧を3.0Paまで下げる。
(5)焼結装置の通電電極を介して焼結型のセットのパンチに35MPaの加重を加えると共に、2.0V、1200Aの電流を流して焼結を開始する。
(6)焼結温度を約800℃(1073K)で1.8キロ秒(ks)間焼結した。
(7)焼結後約250℃(527K)まで徐冷或いは放冷し、気圧を常圧すなわち大気圧に戻し、できた焼結体を焼結装置から取り出す。これによりブロック状すなわち円柱状P型熱電変換材料ができた。このP型熱電変換材料のX線回折の結果を示すと図5に示されるようになる。この結果から明らかなようにβ相が単相で、β相構成面(220)と(311)がはっきりと見られる。
(8)でき上がったP型熱電変換材料から直径20mm、高さ10mmのブロックを切り出し、そのブロックから厚さ直径20mm、高さ7mmのP型熱電変換素子をつくった。
(9)一方、上記と同じ方法でコバルト(Co)を2.4質量%含むFeSi2の粉末材料を10グラムを用いてN型の熱電変換材料をつくり、それから上記と同じ寸法のN型熱電変換素子をつくった。N型熱電変換材料のX線回折の結果は図6に示されるようになる。この結果から明らかなようにβ相が単相で、β相構成面(220)と(311)がはっきりと見られる。
(10)上記のP型熱電変換素子及びN型の熱電変換素子、前述のように、銅板製(板厚2mmの一対の導体及び同じ寸法の他の導体並びに銀製の両面テープを用いて熱電変換モジュールをつくった。
【0012】
[比較例(2段階焼結方法)]
上記実施例1により得られた熱電変換材料の性能を比較するために従来の2段階焼結法で下記の通り熱電変換材料をつくった。
(1)クロム(Cr)を4.1質量%含むFeSi2の粉末材料を10グラム電子天秤で計り取る。
(2)外径40mm、内径20.6mm、高さ40mmの焼結型、外径20mm、高さ20mmの上下両パンチ及びカーボンペーパーを使用して焼結型内に上記計り取った粉末材料を挿入し、前述のように焼結型のセットをつくる。
(3)この焼結型のセットを前述のように焼結機にセットする。
(4)焼結機の真空チャンバー内の気圧を3.0Paまで下げる。
(5)焼結装置の通電電極を介して焼結型のセットのパンチに70MPaの加重を加えると共に、2.5V、1700Aの電流を流して焼結を開始する。
(6)その加圧力を保って焼結温度を約900℃(1173K)で1.8キロ秒(ks)間焼結した後、加圧力を徐々に35MPaまで下げ、β相単相になる35MPa、約800℃(1073K)、1.8キロ秒の条件で焼結した。
(7)焼結後約250℃(527K)まで徐冷或いは放冷し、気圧を常圧すなわち大気圧に戻し、できた焼結体を焼結装置から取り出す。これによりブロック状すなわち円柱状P型熱電変換材料ができた。このP型熱電変換材料のX線回折の結果を示すと図7に示されるようになる。この結果から明らかなようにβ相が単相で、β相構成面(311)のみが現れるだけである。
(8)でき上がったP型熱電変換材料から直径20mm、高さ10mmのブロックを切り出し、そのブロックから直径mm、高さ7mmのP型熱電変換素子をつくった。
(9)一方、上記と同じ方法でコバルト(Co)を2.4質量%含むFeSi2の粉末材料を10グラムを用いてN型の熱電変換材料をつくり、それから上記と同じ寸法のN型熱電変換素子をつくった。N型熱電変換材料のX線回折の結果は図8に示されるようになる。この結果から明らかなようにβ相が単相で、β相構成面(311)のみが現れるだけである。
(10)上記のP型熱電変換素子及びN型の熱電変換素子、前述のように、銅板製(板厚2mmの一対の導体及び同じ寸法の他の導体並びに銀製の両面テープを用いて熱電変換モジュールをつくった。
【0013】
上記実施例1でつくられた熱電変換モジュールの起電圧と、前記の比較例としての従来の2段階法でつくられた熱電変換材料でつくった熱電変換モジュールの起電圧とを、市販の起電圧測定装置を用いて測定し得た値をプロットして比較すると図9に示されるようになる。実施例1による起電力をプロットしたものは多数の□印で表示され、比較例による起電力をプロットしたものは多数の○印で表示される。この図から明らかなように、従来の方法である2段階焼結法により得られた熱電変換材料のゼーベック係数は0.114mV/Kであるのに対して、本発明の方法による焼結法で得られた熱電変換材料のゼーベック係数は0.318mV/Kとなり、遙かに大きな値となった。
【0014】
[実施例2]
(1)クロム(Cr)を4.1質量%含むFeSi2の粉末材料を10グラム電子天秤で計り取る。
(2)外径40mm、内径20.6mm、高さ40mmの焼結型、外径20mm、高さ20mmの上下両パンチ及びカーボンペーパーを使用して焼結型内に上記計り取った粉末材料を挿入し、前述のように焼結型のセットをつくる。
(3)この焼結型のセットを前述のように焼結機にセットする。
(4)焼結機の真空チャンバー内の気圧を3.0Paまで下げる。
(5)焼結装置の通電電極を介して焼結型のセットのパンチに70MPaの加重を加えると共に、2.5V、1400Aの電流を流して焼結を開始する。
(6)焼結温度を約800℃(1073K)で1.8キロ秒(ks)間焼結した。
(7)焼結後約250℃(527K)まで徐冷或いは放冷し、気圧を常圧すなわち大気圧に戻し、できた焼結体を焼結装置から取り出す。これによりブロック状すなわち円柱状P型熱電変換材料ができた。このP型熱電変換材料のX線回折の結果を示すと図10に示されるようになる。この結果から明らかなようにβ相が単相で、β相構成面(220)と(311)がはっきりと見られる。
(8)でき上がったP型熱電変換材料から実施例1と同じ大きさのブロックを切り出し、そのブロックから実施例1と同じ大きさのP型熱電変換素子をつくった。
(9)一方、上記と同じ方法でコバルト(Co)を2.4質量%含むFeSi2の粉末材料を10グラムを用いてN型の熱電変換材料をつくり、それから上記と同じ寸法のN型熱電変換素子をつくった。N型熱電変換材料のX線回折の結果は図11に示されるようになる。この結果から明らかなようにβ相が単相で、β相構成面(220)と(311)がはっきりと見られる。
(10)上記のP型熱電変換素子及びN型の熱電変換素子、実施例1と同じ銅板製の一対の導体及び同じ寸法の他の導体並びに銀製の両面テープを用いて熱電変換モジュールをつくった。
【0015】
[実施例3]
(1)クロム(Cr)を4.1質量%含むFeSi2の粉末材料を10グラム電子天秤で計り取る。
(2)外径40mm、内径20.6mm、高さ40mmの焼結型、外径20mm、高さ20mmの上下両パンチ及びカーボンペーパーを使用して焼結型内に上記計り取った粉末材料を挿入し、前述のように焼結型のセットをつくる。
(3)この焼結型のセットを前述のように焼結機にセットする。
(4)焼結機の真空チャンバー内の気圧を3.0Paまで下げる。
(5)焼結装置の通電電極を介して焼結型のセットのパンチに70MPaの加重を加えると共に、2.5V、1300Aの電流を流して焼結を開始する。
(6)焼結温度を約750℃(1023K)で1.8キロ秒(ks)間焼結した。
(7)焼結後約250℃(527K)まで徐冷或いは放冷し、気圧を常圧すなわち大気圧に戻し、できた焼結体を焼結装置から取り出す。これによりブロック状すなわち円柱状P型熱電変換材料ができた。このP型熱電変換材料のX線回折の結果を示すと図12に示されるようになる。この結果から明らかなようにβ相が単相で、β相構成面(220)と(311)がはっきりと見られる。
(8)でき上がったP型熱電変換材料から実施例1と同じ大きさのブロックを切り出し、そのブロックから実施例1と同じ大きさのP型熱電変換素子をつくった。
(9)一方、上記と同じ方法でコバルト(Co)を2.4質量%含むFeSi2の粉末材料を10グラムを用いてN型の熱電変換材料をつくり、それから上記と同じ寸法のN型熱電変換素子をつくった。N型熱電変換材料のX線回折の結果は図13に示されるようになる。この結果から明らかなようにβ相が単相で、β相構成面(220)と(311)がはっきりと見られる。
(10)上記のP型熱電変換素子及びN型の熱電変換素子、実施例1と同じ銅板製の一対の導体及び同じ寸法の他の導体並びに銀製の両面テープを用いて熱電変換モジュールをつくった。
【0016】
上記実施例1でつくられた熱電変換モジュールの起電圧と、実施例2、3でつくられた熱電変換モジュールの起電圧とを、市販の起電圧測定装置を用いて測定し得た値をプロットして比較すると図14に示されるようになる。実施例1による起電力をプロットしたものは多数の△印で表示され、実施例2による起電力をプロットしたものは多数の○印で表示され、実施例3による起電力をプロットしたものは多数の□印で表示される。
上記実施例1いし3及び比較例で得た焼結体である熱電変換材料の密度の測定結果が、示されている。図15は、実施例1による熱電変換材料並びに比較例の2段階焼結法による熱電変換材料の焼結時間(保持時間)に対する相対密度の関係を示す図であり、図16は実施例1ないし3の加圧力に対する相対密度の関係を示す図である。図15からいずれの条件も相対密度90%以上を示していることがわかる。2段階焼結法による焼結体でもP型、N型両方で密度がほぼ100%となっていることがわかる。また、有効なゼーベック係数を示した35MPa、800℃(1073K)、1.8キロ秒の条件の焼結体2段階焼結法で得たものより低い値となっていることがわかる。また、図16から加圧力の増加と共に焼結体の密度が増加している一方で、加圧力を高くしても焼結温度を下げてしまうと密度が著しく低下することもわかる。
以上の結果より、密度が100%に近い焼結体の方が有効なゼーベック係数を得られるが、高い焼結温度、長い保持時間による緻密化では有効なゼーベック係数が得られないことが分かった。
【0017】
上記から、本発明の実施例1ないし3でつくられた熱電変換材料では有効な熱電変換特性を有するβ相のピークが29゜と49゜付近に見られ、有効なゼーベック係数を示すことがわかる。有効なゼーベック係数を示した熱電変換材料とそうでない熱電変換材料を比較すると、前者は29゜付近のβ相のピークには二つのβ相構成面(220)と(311)とがあるが、後者には構成面(311)しかないことがわかる。このことから、β相単相に構成面(220)のピークを得られるようにすることにより、有効なゼーベック係数を示す焼結体が得られ、したがって熱電変換材料が得られることがわかる。なお、実施例2及び3によりつくられた焼結体は実施例1でつくられた焼結体よりも2倍の加圧力になっているのでそれだけ密度も高くなっている。
【0018】
次に、前記実施例1と同じ粉末材料を用いて加圧力を35MPaとして焼結温度、焼結時間を変えた種々の実施例における焼結体のα相及びβ相の有無について調べた結果は次の表1の通りである。
【表1】
上記表においてα+βはα相とβ相の両方が現れていることを示し、βはβ相単相であることを示す。このうちβ は(220)面及び(311)面を有するβ相単相である。
【0019】
図17ないし図18において上記表中のβで示されるβ相単相を有する熱電変換材料のX線回折の結果を示す。これらの熱電変換材料うち600℃、7.2ksの焼結条件で得た熱電変換材料と700℃、7.2ksの焼結条件で得た熱電変換材料では、図17及び図18に示されるように、β相のピークが29゜に見られ、そのβ相のピークには二つのβ相構成面(220)と(311)とがあるがわかる。また、800℃、600sの焼結条件で得た熱電変換材料では、29゜と49゜付近にβ相のピークが見られ、29゜付近のβ相のピークには二つのβ相構成面(220)と(311)とがあることがわかる。
なお、上記実施例はパルス通電加圧焼結法によりFeSi2系粉末材料を焼結したが、パルス通電加圧焼結法の他にホットプレス法で焼結してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明による熱電変化材料は熱電変換素子の製造分野に利用可能であり、熱電変換素子は熱を利用したクリーンエネルギー発電の分野に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(A)は本発明の方法を実施するために焼結型内への粉末材料の装填を示す図であり、(B)は焼結型の内面に筒状に配置されるカーボンペーパーの斜視図である。
【図2】パルス通電加圧焼結法で焼結を行う概念図である。
【図3】焼結体から熱電変換素子をつくるブロックを切り出す方法を説明する図である。
【図4】本発明の熱電変換材料でつくられた熱電変換素子を用いて熱電変換モジュールをつくる方法を示す説明図である。
【図5】(A)は35MPa、約800℃(1073K)、1.8ksで焼結したP型FeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図6】(A)は35MPa、約800℃(1073K)、1.8ksで焼結したN型FeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図7】(A)は2段階焼結でつくったP型FeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図8】(A)は2段階焼結でつくったN型FeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図9】本発明によりつくられた熱電変換材料のゼーベック係数と従来の2段階焼結法でつくった熱電変換材料のゼーベック係数の比較を表す図である。
【図10】(A)は70MPa、約800℃(1073K)、1.8ksで焼結したP型FeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図11】(A)は70MPa、約800℃(1073K)、1.8ksで焼結したN型FeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図12】(A)70MPa、750℃(1023K)、1.8ksで焼結したP型FeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図13】(A)70MPa、750℃(1023K)、1.8ksで焼結したN型FeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図14】本発明の実施例1ないし3によりつくられた熱電変換材料のゼーベック係数比較を表す図である。
【図15】従来の2段階焼結法により得た焼結体の相対密度と本発明の実施例1により得た焼結体の相対密度との比較を示す図である。
【図16】本発明の実施例2及び3により得た焼結体の相対密度との比較を示す図である。
【図17】(A)は35MPa、約600℃(873K)、7.2ksで焼結したFeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図18】(A)は35MPa、約700℃(973K)、7.2ksで焼結したFeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図19】(A)35MPa、約800℃(1073K)、600sで焼結したFeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【技術分野】
【0001】
本発明はFeSi2系すなわち鉄シリサイド系熱電変換材料、その製造方法及びその熱電変換材料を使用した熱電変換モジュールに関し、詳細には、熱電変換材料として適した結晶構造を有しかつ高いゼーベック係数を示す熱電変換材料並びにそのような熱電変換材料を製造する製造方法、更には、そのような熱電変換材料を用いて作られた熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーを電気エネルギーに変換できる熱電変換材料は、現在のクリーンエネルギーの確保の観点及び環境保護の観点から注目されている。熱電変換材料の原料としては種々のものがあるが、その中で、鉄シリサイド系すなわちFeSi2系合金は安価で原料の入手が容易でありしかも高温条件にも対応できる点で注目されており、例えば、下記特許文献1ないし4に示されるように、材料自体或いはその製造方法が、種々提案されている。
しかしながら、これら特許文献を含む従来の製造方法で製造されたFeSi2系熱電変換材料ではゼーベック係数が小さく、実用に適した十分な起電力を得られない問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開平7−7186号公報
【特許文献2】特開平7−162041号公報
【特許文献3】特開平7−216401号公報
【特許文献4】特開平7−242901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、FeSi2系熱電変換材料について鋭意研究を重ねた結果、FeSi2系熱電変換材料の製造方法で従来一般的に行われていた2段階に分けて行っていた焼結方式よりも、焼結温度、加圧力及び焼結時間を適切に制御して1段階で焼結することによって、材料の結晶構造を熱電変換に適した高いゼーベック係数を示す構造にできることを見いだした。
【0005】
したがって、本発明の目的は、従来のFeSi2系熱電変換材料に比べて高いゼーベック係数を示す結晶構造を有するFeSi2系熱電変換材料及びその製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、原料粉末を焼結温度、加圧力及び焼結時間を適切に制御して1段階で焼結することによって、(220)面及び(311)面を有するβ相単相の結晶構造を有するFeSi2系熱電変換材料及びその製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、従来のFeSi2系熱電変換材料に比べて高いゼーベック係数を示しかつ高い起電力を発揮するFeSi2系熱電変換材料及びその製造方法を提供することである。
本発明の別の目的は、上記熱電変換材料を使用した熱電変換モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、所定量のクロム(Cr)又はコバルト(Co)を含むFeSi2系熱電変換材料であって、(220)面及び(311)面を有するβ相単相の結晶構造を備えることを特徴とする。
前記FeSi2系熱電変換材料において、クロムを0.1ないし8質量%含むP型熱電変換材料であっても、或いは、コバルトを0.1ないし5質量%含むN型熱電変換材料であってもよい。より好ましくは、クロムを3ないし5質量%含むP型熱電変換材料であっても、或いは、コバルトを1.5ないし3.5質量%含むN型熱電変換材料であってもよい。
【0007】
本発明は、また、所定量のクロム(Cr)又はコバルト(Co)を有しかつ平均粒径1μmないし20μmを有するFeSi2の粉末材料を焼結してFeSi2系熱電変換材料を製造する方法において、前記粉末材料の焼結を、焼結によりできた焼結体が(220)面及び(311)面を有するβ相単相の結晶構造を有するように、行うことに特徴を有する。
上記FeSi2系熱電変換材料の製造方法において、焼結を、
加圧力 :0MPaないし100MPa
昇温速度 :50度/minないし100度/min
焼結温度 :580℃(853K)ないし820℃(1093K)
焼結時間 :0secないし7.2ksec
で行うとよい。
ここで焼結時間とは、被焼結材料が目標焼結温度になった時点からその目標焼結温度に保った時間を言う。したがって、焼結時間0secとは目標焼結温度になったら直ぐに降温する状態を言う(以下同じ)。焼結温度の上記の範囲にしたのは、その範囲から外れると、(220)面及び(311)面を有するβ相単相の結晶構造が得られなくなる可能性があるからである。
また、上記FeSi2系熱電変換材料の製造方法において、好ましくは、焼結温度が750℃(1023K)ないし800℃(1073K)であるのがよく、加圧力が35MPaないし70MPaであるのがよく、或いは、焼結時間が600secないし1.8ksecであるのがよい。
焼結温度を上記の範囲にしたのは750℃より低い温度ではβ相単相の焼結体を作製可能であるが、低密度或いは(311)面のみで構成されるために高いゼーベック係数を示さないからであり、800℃より高い温度では熱電変換効率の低いα相が析出し、ゼーベック係数が著しく低下するからである。また、加圧力を上記範囲にしたのは、35MPaより低いと焼結が不完全であるために低密度であり硬さなどの機械的性質が低いからであり、70MPaより高いと密度がほぼ100%となり脆くなり、加工性が著しく低下するからである。更に、焼結時間を上記範囲にしたのは、600secより少ないとα相が存在することと、低密度であるため機械的特性が低いからであり、1.8Ksecより多いと低温側ではβ相単相となるがゼーベック係数が低く、高温側では高密度になり脆くなるからである。
更に、本発明による熱電変換モジュールは、請求項1又は2に記載のFeSi2系のP型熱電変換材料から作られたP型熱電変換素子と、請求項1又は3に記載のFeSi2系のN型熱電変換材料から作られたN型熱電変換素子と、を備える点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によればゼーベック係数の大きな熱電変換材料及びそれを用いた熱電変換モジュールを安価に量産可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下図面を参照して本発明の熱電変換材料の製造方法について説明する。
まず、所定量、例えば4.1質量%のクロム(Cr)を有しかつ平均粒径1μmないし20μmを有するFeSi2の原料粉末及び所定量、例えば2.4質量%のコバルト(Co)を有しかつ平均粒径1μmないし20μmを有するFeSi2の粉末材料を用意する。このような粉末材料は市場で容易に入手できる。FeSi2系合金は安価で入手が容易でありしかも高温条件にも対応できるので、熱電変換材料としては好ましい。
次にこの粉末材料を所定量、例えば10g、図1に示されるような貫通穴2を有する環状のグラファイト製焼結型1内に入れる。焼結型の貫通穴2内にはグラファイト製の下パンチ3を予め挿入しておき、その下パンチ3の上に粉末材料を入れる。この場合、好ましくは、貫通穴の内周面にカーボンペーパー6を筒状に配置し、パンチ3の上面に円盤状のカーボンペーパー5を敷き、その上に粉末材料を入れる。粉末材料の上に好ましくは別の円板状のカーボンペーパー5を乗せ、その上からグラファイト製の上パンチ4で押さえるように、上パンチを貫通穴内に入れる。これにより焼結を行うための焼結型のセットが完了する。
次に上記焼結型のセットを、図2に示されるように、それ自体公知のパルス通電加圧焼結装置(放電プラズマ焼結装置或いはプラズマ活性化焼結装置とも呼ぶ)10の上下一対の通電電極11と12との間にセットする。そして、パルス通電加圧焼結装置の真空チャンバー13内を公知の方法で真空雰囲気(1ないし5Paの真空状態)にした後或いはすると同時に通電電極を介してパンチを所定の力で加圧し、上下通電電極、上下パンチ及び焼結型を介して粉末材料に直流パルス焼結電源14からパルス電流を流して下記の条件で焼結を行う。
加圧力 :0MPaないし100MPa
昇温速度 :50度/minないし100度/min
焼結温度 :580℃(853K)ないし820℃(1093K)
焼結時間 :0secないし7.2ksec
パルス電流:1000ないし1500A
焼結後、約250℃(527K)まで徐冷或いは放冷し、気圧を常圧すなわち大気圧に戻し、できた焼結体をパルス通電加圧焼結装置(以下単に焼結装置)から取り出す。
【0010】
上記の焼結工程をクロム(Cr)を含むFeSi2の粉末材料について行ってP型熱電変換材料をつくり、またコバルト(Co)を含むFeSi2の粉末材料について行ってN型熱電変換材料をつくる。
このようにしてできたP型熱電変換材料及びN型熱電変換材料のブロック状すなわち円柱状の焼結体6p、6n(直径20mm、高さ10mmの円柱体)から、図3(A)に示されるように所定の寸法(直径20mm、高さ7mm)のブロックを切り出し、そのブロックからP型熱電変化素子7p及びN型熱電変換素子7nを作成する。
このようにしてできた各熱電変換素子7p及び7nを、図4に示されるように、一対の導体8a及び8bと他の導体8cとの間に挟まれるようにしてそれらに接合し、熱電変換モジュールをつくる。導体8aないし8cの材料は銅板が好ましいが電気抵抗の小さい材料なら他の材料でもよい。また導体と各熱電変換素子7p、7nとを接合する方法としては、この実施例では銀(Ag)製両面テープ9を使用したが、量産品を製造する場合には他の接合方法を使用してもよい。
【0011】
[実施例1]
(1)クロム(Cr)を4.1質量%含むFeSi2の粉末材料を10グラム電子天秤で計り取る。
(2)外径40mm、内径20.6mm、高さ40mmの焼結型、外径20mm、高さ20mmの上下両パンチ及びカーボンペーパーを使用して焼結型内に上記計り取った粉末材料を挿入し、前述のように焼結型のセットをつくる。
(3)この焼結型のセットを前述のように焼結機にセットする。
(4)焼結機の真空チャンバー内の気圧を3.0Paまで下げる。
(5)焼結装置の通電電極を介して焼結型のセットのパンチに35MPaの加重を加えると共に、2.0V、1200Aの電流を流して焼結を開始する。
(6)焼結温度を約800℃(1073K)で1.8キロ秒(ks)間焼結した。
(7)焼結後約250℃(527K)まで徐冷或いは放冷し、気圧を常圧すなわち大気圧に戻し、できた焼結体を焼結装置から取り出す。これによりブロック状すなわち円柱状P型熱電変換材料ができた。このP型熱電変換材料のX線回折の結果を示すと図5に示されるようになる。この結果から明らかなようにβ相が単相で、β相構成面(220)と(311)がはっきりと見られる。
(8)でき上がったP型熱電変換材料から直径20mm、高さ10mmのブロックを切り出し、そのブロックから厚さ直径20mm、高さ7mmのP型熱電変換素子をつくった。
(9)一方、上記と同じ方法でコバルト(Co)を2.4質量%含むFeSi2の粉末材料を10グラムを用いてN型の熱電変換材料をつくり、それから上記と同じ寸法のN型熱電変換素子をつくった。N型熱電変換材料のX線回折の結果は図6に示されるようになる。この結果から明らかなようにβ相が単相で、β相構成面(220)と(311)がはっきりと見られる。
(10)上記のP型熱電変換素子及びN型の熱電変換素子、前述のように、銅板製(板厚2mmの一対の導体及び同じ寸法の他の導体並びに銀製の両面テープを用いて熱電変換モジュールをつくった。
【0012】
[比較例(2段階焼結方法)]
上記実施例1により得られた熱電変換材料の性能を比較するために従来の2段階焼結法で下記の通り熱電変換材料をつくった。
(1)クロム(Cr)を4.1質量%含むFeSi2の粉末材料を10グラム電子天秤で計り取る。
(2)外径40mm、内径20.6mm、高さ40mmの焼結型、外径20mm、高さ20mmの上下両パンチ及びカーボンペーパーを使用して焼結型内に上記計り取った粉末材料を挿入し、前述のように焼結型のセットをつくる。
(3)この焼結型のセットを前述のように焼結機にセットする。
(4)焼結機の真空チャンバー内の気圧を3.0Paまで下げる。
(5)焼結装置の通電電極を介して焼結型のセットのパンチに70MPaの加重を加えると共に、2.5V、1700Aの電流を流して焼結を開始する。
(6)その加圧力を保って焼結温度を約900℃(1173K)で1.8キロ秒(ks)間焼結した後、加圧力を徐々に35MPaまで下げ、β相単相になる35MPa、約800℃(1073K)、1.8キロ秒の条件で焼結した。
(7)焼結後約250℃(527K)まで徐冷或いは放冷し、気圧を常圧すなわち大気圧に戻し、できた焼結体を焼結装置から取り出す。これによりブロック状すなわち円柱状P型熱電変換材料ができた。このP型熱電変換材料のX線回折の結果を示すと図7に示されるようになる。この結果から明らかなようにβ相が単相で、β相構成面(311)のみが現れるだけである。
(8)でき上がったP型熱電変換材料から直径20mm、高さ10mmのブロックを切り出し、そのブロックから直径mm、高さ7mmのP型熱電変換素子をつくった。
(9)一方、上記と同じ方法でコバルト(Co)を2.4質量%含むFeSi2の粉末材料を10グラムを用いてN型の熱電変換材料をつくり、それから上記と同じ寸法のN型熱電変換素子をつくった。N型熱電変換材料のX線回折の結果は図8に示されるようになる。この結果から明らかなようにβ相が単相で、β相構成面(311)のみが現れるだけである。
(10)上記のP型熱電変換素子及びN型の熱電変換素子、前述のように、銅板製(板厚2mmの一対の導体及び同じ寸法の他の導体並びに銀製の両面テープを用いて熱電変換モジュールをつくった。
【0013】
上記実施例1でつくられた熱電変換モジュールの起電圧と、前記の比較例としての従来の2段階法でつくられた熱電変換材料でつくった熱電変換モジュールの起電圧とを、市販の起電圧測定装置を用いて測定し得た値をプロットして比較すると図9に示されるようになる。実施例1による起電力をプロットしたものは多数の□印で表示され、比較例による起電力をプロットしたものは多数の○印で表示される。この図から明らかなように、従来の方法である2段階焼結法により得られた熱電変換材料のゼーベック係数は0.114mV/Kであるのに対して、本発明の方法による焼結法で得られた熱電変換材料のゼーベック係数は0.318mV/Kとなり、遙かに大きな値となった。
【0014】
[実施例2]
(1)クロム(Cr)を4.1質量%含むFeSi2の粉末材料を10グラム電子天秤で計り取る。
(2)外径40mm、内径20.6mm、高さ40mmの焼結型、外径20mm、高さ20mmの上下両パンチ及びカーボンペーパーを使用して焼結型内に上記計り取った粉末材料を挿入し、前述のように焼結型のセットをつくる。
(3)この焼結型のセットを前述のように焼結機にセットする。
(4)焼結機の真空チャンバー内の気圧を3.0Paまで下げる。
(5)焼結装置の通電電極を介して焼結型のセットのパンチに70MPaの加重を加えると共に、2.5V、1400Aの電流を流して焼結を開始する。
(6)焼結温度を約800℃(1073K)で1.8キロ秒(ks)間焼結した。
(7)焼結後約250℃(527K)まで徐冷或いは放冷し、気圧を常圧すなわち大気圧に戻し、できた焼結体を焼結装置から取り出す。これによりブロック状すなわち円柱状P型熱電変換材料ができた。このP型熱電変換材料のX線回折の結果を示すと図10に示されるようになる。この結果から明らかなようにβ相が単相で、β相構成面(220)と(311)がはっきりと見られる。
(8)でき上がったP型熱電変換材料から実施例1と同じ大きさのブロックを切り出し、そのブロックから実施例1と同じ大きさのP型熱電変換素子をつくった。
(9)一方、上記と同じ方法でコバルト(Co)を2.4質量%含むFeSi2の粉末材料を10グラムを用いてN型の熱電変換材料をつくり、それから上記と同じ寸法のN型熱電変換素子をつくった。N型熱電変換材料のX線回折の結果は図11に示されるようになる。この結果から明らかなようにβ相が単相で、β相構成面(220)と(311)がはっきりと見られる。
(10)上記のP型熱電変換素子及びN型の熱電変換素子、実施例1と同じ銅板製の一対の導体及び同じ寸法の他の導体並びに銀製の両面テープを用いて熱電変換モジュールをつくった。
【0015】
[実施例3]
(1)クロム(Cr)を4.1質量%含むFeSi2の粉末材料を10グラム電子天秤で計り取る。
(2)外径40mm、内径20.6mm、高さ40mmの焼結型、外径20mm、高さ20mmの上下両パンチ及びカーボンペーパーを使用して焼結型内に上記計り取った粉末材料を挿入し、前述のように焼結型のセットをつくる。
(3)この焼結型のセットを前述のように焼結機にセットする。
(4)焼結機の真空チャンバー内の気圧を3.0Paまで下げる。
(5)焼結装置の通電電極を介して焼結型のセットのパンチに70MPaの加重を加えると共に、2.5V、1300Aの電流を流して焼結を開始する。
(6)焼結温度を約750℃(1023K)で1.8キロ秒(ks)間焼結した。
(7)焼結後約250℃(527K)まで徐冷或いは放冷し、気圧を常圧すなわち大気圧に戻し、できた焼結体を焼結装置から取り出す。これによりブロック状すなわち円柱状P型熱電変換材料ができた。このP型熱電変換材料のX線回折の結果を示すと図12に示されるようになる。この結果から明らかなようにβ相が単相で、β相構成面(220)と(311)がはっきりと見られる。
(8)でき上がったP型熱電変換材料から実施例1と同じ大きさのブロックを切り出し、そのブロックから実施例1と同じ大きさのP型熱電変換素子をつくった。
(9)一方、上記と同じ方法でコバルト(Co)を2.4質量%含むFeSi2の粉末材料を10グラムを用いてN型の熱電変換材料をつくり、それから上記と同じ寸法のN型熱電変換素子をつくった。N型熱電変換材料のX線回折の結果は図13に示されるようになる。この結果から明らかなようにβ相が単相で、β相構成面(220)と(311)がはっきりと見られる。
(10)上記のP型熱電変換素子及びN型の熱電変換素子、実施例1と同じ銅板製の一対の導体及び同じ寸法の他の導体並びに銀製の両面テープを用いて熱電変換モジュールをつくった。
【0016】
上記実施例1でつくられた熱電変換モジュールの起電圧と、実施例2、3でつくられた熱電変換モジュールの起電圧とを、市販の起電圧測定装置を用いて測定し得た値をプロットして比較すると図14に示されるようになる。実施例1による起電力をプロットしたものは多数の△印で表示され、実施例2による起電力をプロットしたものは多数の○印で表示され、実施例3による起電力をプロットしたものは多数の□印で表示される。
上記実施例1いし3及び比較例で得た焼結体である熱電変換材料の密度の測定結果が、示されている。図15は、実施例1による熱電変換材料並びに比較例の2段階焼結法による熱電変換材料の焼結時間(保持時間)に対する相対密度の関係を示す図であり、図16は実施例1ないし3の加圧力に対する相対密度の関係を示す図である。図15からいずれの条件も相対密度90%以上を示していることがわかる。2段階焼結法による焼結体でもP型、N型両方で密度がほぼ100%となっていることがわかる。また、有効なゼーベック係数を示した35MPa、800℃(1073K)、1.8キロ秒の条件の焼結体2段階焼結法で得たものより低い値となっていることがわかる。また、図16から加圧力の増加と共に焼結体の密度が増加している一方で、加圧力を高くしても焼結温度を下げてしまうと密度が著しく低下することもわかる。
以上の結果より、密度が100%に近い焼結体の方が有効なゼーベック係数を得られるが、高い焼結温度、長い保持時間による緻密化では有効なゼーベック係数が得られないことが分かった。
【0017】
上記から、本発明の実施例1ないし3でつくられた熱電変換材料では有効な熱電変換特性を有するβ相のピークが29゜と49゜付近に見られ、有効なゼーベック係数を示すことがわかる。有効なゼーベック係数を示した熱電変換材料とそうでない熱電変換材料を比較すると、前者は29゜付近のβ相のピークには二つのβ相構成面(220)と(311)とがあるが、後者には構成面(311)しかないことがわかる。このことから、β相単相に構成面(220)のピークを得られるようにすることにより、有効なゼーベック係数を示す焼結体が得られ、したがって熱電変換材料が得られることがわかる。なお、実施例2及び3によりつくられた焼結体は実施例1でつくられた焼結体よりも2倍の加圧力になっているのでそれだけ密度も高くなっている。
【0018】
次に、前記実施例1と同じ粉末材料を用いて加圧力を35MPaとして焼結温度、焼結時間を変えた種々の実施例における焼結体のα相及びβ相の有無について調べた結果は次の表1の通りである。
【表1】
上記表においてα+βはα相とβ相の両方が現れていることを示し、βはβ相単相であることを示す。このうちβ は(220)面及び(311)面を有するβ相単相である。
【0019】
図17ないし図18において上記表中のβで示されるβ相単相を有する熱電変換材料のX線回折の結果を示す。これらの熱電変換材料うち600℃、7.2ksの焼結条件で得た熱電変換材料と700℃、7.2ksの焼結条件で得た熱電変換材料では、図17及び図18に示されるように、β相のピークが29゜に見られ、そのβ相のピークには二つのβ相構成面(220)と(311)とがあるがわかる。また、800℃、600sの焼結条件で得た熱電変換材料では、29゜と49゜付近にβ相のピークが見られ、29゜付近のβ相のピークには二つのβ相構成面(220)と(311)とがあることがわかる。
なお、上記実施例はパルス通電加圧焼結法によりFeSi2系粉末材料を焼結したが、パルス通電加圧焼結法の他にホットプレス法で焼結してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明による熱電変化材料は熱電変換素子の製造分野に利用可能であり、熱電変換素子は熱を利用したクリーンエネルギー発電の分野に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(A)は本発明の方法を実施するために焼結型内への粉末材料の装填を示す図であり、(B)は焼結型の内面に筒状に配置されるカーボンペーパーの斜視図である。
【図2】パルス通電加圧焼結法で焼結を行う概念図である。
【図3】焼結体から熱電変換素子をつくるブロックを切り出す方法を説明する図である。
【図4】本発明の熱電変換材料でつくられた熱電変換素子を用いて熱電変換モジュールをつくる方法を示す説明図である。
【図5】(A)は35MPa、約800℃(1073K)、1.8ksで焼結したP型FeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図6】(A)は35MPa、約800℃(1073K)、1.8ksで焼結したN型FeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図7】(A)は2段階焼結でつくったP型FeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図8】(A)は2段階焼結でつくったN型FeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図9】本発明によりつくられた熱電変換材料のゼーベック係数と従来の2段階焼結法でつくった熱電変換材料のゼーベック係数の比較を表す図である。
【図10】(A)は70MPa、約800℃(1073K)、1.8ksで焼結したP型FeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図11】(A)は70MPa、約800℃(1073K)、1.8ksで焼結したN型FeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図12】(A)70MPa、750℃(1023K)、1.8ksで焼結したP型FeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図13】(A)70MPa、750℃(1023K)、1.8ksで焼結したN型FeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図14】本発明の実施例1ないし3によりつくられた熱電変換材料のゼーベック係数比較を表す図である。
【図15】従来の2段階焼結法により得た焼結体の相対密度と本発明の実施例1により得た焼結体の相対密度との比較を示す図である。
【図16】本発明の実施例2及び3により得た焼結体の相対密度との比較を示す図である。
【図17】(A)は35MPa、約600℃(873K)、7.2ksで焼結したFeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図18】(A)は35MPa、約700℃(973K)、7.2ksで焼結したFeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【図19】(A)35MPa、約800℃(1073K)、600sで焼結したFeSi2のX線回折の結果を示す図で、(B)はその一部の横軸方向の拡大図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量のクロム(Cr)又はコバルト(Co)を含むFeSi2系熱電変換材料であって、(220)面及び(311)面を有するβ相単相の結晶構造を備えることを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
請求項1に記載のFeSi2系熱電変換材料であって、クロムを0.1ないし8質量%含むP型熱電変換材料。
【請求項3】
請求項1に記載のFeSi2系熱電変換材料であって、コバルトを0.1ないし5質量%含むN型熱電変換材料。
【請求項4】
所定量のクロム(Cr)又はコバルト(Co)を有しかつ平均粒径1μmないし20μmを有するFeSi2の粉末材料を焼結してFeSi2系熱電変換材料を製造する方法において、前記粉末材料の焼結を、焼結によりできた焼結体が(220)面及び(311)面を有するβ相単相の結晶構造を有するように、行うことを特徴とするFeSi2系熱電変換材料の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のFeSi2系熱電変換材料の製造方法において、
焼結を、
加圧力 :0MPaないし100MPa
昇温速度 :50度/minないし100度/min
焼結温度 :580℃(853K)ないし820℃(1093K)
焼結時間 :0secないし7.2ksec
で行うことを特徴とするFeSi2系熱電変換材料の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のFeSi2系熱電変換材料の製造方法であって、焼結温度が750℃(1023K)ないし800℃(1073K)である製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のFeSi2系熱電変換材料の製造方法であって、加圧力が35MPaないし70MPaである製造方法。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれかに記載のFeSi2系熱電変換材料の製造方法であって、焼結時間が600secないし1.8ksecである製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のFeSi2系のP型熱電変換材料から作られたP型熱電変換素子と、請求項1又は3に記載のFeSi2系のP型熱電変換材料から作られたN型熱電変換素子と、を備える熱電変換モジュール。
【請求項1】
所定量のクロム(Cr)又はコバルト(Co)を含むFeSi2系熱電変換材料であって、(220)面及び(311)面を有するβ相単相の結晶構造を備えることを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
請求項1に記載のFeSi2系熱電変換材料であって、クロムを0.1ないし8質量%含むP型熱電変換材料。
【請求項3】
請求項1に記載のFeSi2系熱電変換材料であって、コバルトを0.1ないし5質量%含むN型熱電変換材料。
【請求項4】
所定量のクロム(Cr)又はコバルト(Co)を有しかつ平均粒径1μmないし20μmを有するFeSi2の粉末材料を焼結してFeSi2系熱電変換材料を製造する方法において、前記粉末材料の焼結を、焼結によりできた焼結体が(220)面及び(311)面を有するβ相単相の結晶構造を有するように、行うことを特徴とするFeSi2系熱電変換材料の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のFeSi2系熱電変換材料の製造方法において、
焼結を、
加圧力 :0MPaないし100MPa
昇温速度 :50度/minないし100度/min
焼結温度 :580℃(853K)ないし820℃(1093K)
焼結時間 :0secないし7.2ksec
で行うことを特徴とするFeSi2系熱電変換材料の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のFeSi2系熱電変換材料の製造方法であって、焼結温度が750℃(1023K)ないし800℃(1073K)である製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のFeSi2系熱電変換材料の製造方法であって、加圧力が35MPaないし70MPaである製造方法。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれかに記載のFeSi2系熱電変換材料の製造方法であって、焼結時間が600secないし1.8ksecである製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のFeSi2系のP型熱電変換材料から作られたP型熱電変換素子と、請求項1又は3に記載のFeSi2系のP型熱電変換材料から作られたN型熱電変換素子と、を備える熱電変換モジュール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2007−324500(P2007−324500A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155578(P2006−155578)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(505301941)SPSシンテックス株式会社 (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(505301941)SPSシンテックス株式会社 (10)
【Fターム(参考)】
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