説明

G−CSFの液体製剤

長期間にわたって安定で、実質的に賦形剤を含まないG−CSFの医薬液体製剤、ならびに、かかる製剤を含むすぐに使える(ready-to-use)シリンジおよび対応するキットが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、安定で、水溶性の、G−CSFの液体製剤であり、該製剤は、実質的に、G−CSFおよび糖アルコール、界面活性剤、pHが約4.1から4.4のバッファー物質、および任意にアミノ酸および/またはグリセロールおよび/または炭水化物および/または保存料からなる。
【背景技術】
【0002】
ここに知られているタンパク質薬用の剤形の多くは、欠点を有している。例えば、ある調製物は、医学的な観点から無害であると容易に分類することができない医薬品の添加剤、または賦形剤を含有する。その起源と物理化学的性質のせいで、ポリマーおよびタンパク質は、医薬品の添加剤としての適性に関して、あるリスクを有する。ヒトまたは動物起源のタンパク質、ならびに細胞培養から得られるタンパク質は、ウイルス混入の潜在的な未解決のリスクを有する。抗原の性質が原因で分析的に検出するのが難しい他のタンパク質様混入も、ヒトにおいて免疫学的反応を引き起こしうる。さらに、一般に、種特異的な性質によって、動物起源のタンパク質は、ヒトにおいて免疫学的反応を引き起こしうる。より遅い時点における、そのようなタンパク質の再適用における長期間の反応も、起こりうる。
【0003】
高分子量を有する化合物の混合物も、問題がある。ポリマーは、高分子量のため、身体に蓄積する可能性があり、よって、生分解がない場合には、長時間身体に残る可能性がある。これは、特に、皮下投与の場合に懸念されることであり、血流を介した除去および分配の際、静脈内投与と比べてさらにより遅い。分子量に依存して、ポリマーは抗原性を有することもできる。さらに、合成用に使用される触媒のせいで、またはモノマーや他のポリマーフラグメントの存在のせいで、ポリマーの純度を確認することは難しい。よって、液体医薬品の剤型におけるポリマーの使用は、可能な限り、特に、皮下投与可能な剤型について、避けられる。
【0004】
さらに、文献から、CHO細胞から得られる糖化G−CSFと比べると、特に糖化されていない形のG−CSFが、酸化および/または凝集のせいで非常に不安定であることが知られている。したがって、糖化されていない形のG−CSFを安定化することは非常に難しく、具体的に選択された基準が、前記分子を安定な剤形に製剤化するのに必要とされる。
【0005】
界面活性剤は局所的な刺激を引き起こしうるので、G−CSFを安定化するための界面活性剤の使用は、医学的な観点から、もっぱら避けられる。pH値が、組織中に存在するpH7.0から7.5の生理的な範囲よりも低いため、非常に低いpH値を有する製剤は、特に皮下投与の場合、患者において局所的な不適合、例えば痛みや局所的な組織刺激を引き起こしうる。
【0006】
最近公開された国際出願WO2005/042024は、EP373679の記載と同様に、実施例に記載されている組成物に従って、組成物を、とりわけ、界面活性剤なしで維持し、非常に低濃度でバッファーを提供することによって、G−CSFの安定な医薬組成物を得る方法が記載されている。その中に開示されている薬剤の許容性については、指摘されていない。
【0007】
欧州特許出願EP1129720には、5から8の範囲のpH値を有するG−CSFの調製物が記載されており、硫黄が、調製物に含まれているG−CSFを安定化すると考えられている。さらに、その中に開示されているG−CSF調製物の許容性については、指摘されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明の根底にある課題は、ここに知られている剤形の上述した欠点を示さない、G−CSF用の液体剤形を提供することである。特に、医薬調製物は、長期間にわたって安定で、生理的に許容されなければならない。特に、患者による自己投与に適しているべきであり、投与部位において、注射または点滴による薬物の自己投与に伴ってよく起こる、望ましくない皮膚の刺激や痛みを避ける能力によって、特徴付けられるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、特許請求の範囲に特徴付けられる実施態様によって解決され、以下の実施態様において説明される。特に、本発明は、安定で、水溶性の、G−CSFの液体製剤に関するものであり、該製剤は、実質的に、G−CSFおよび糖アルコール、約0.04から0.06mg/mlの濃度の界面活性剤、pH値が約4.1から4.4のバッファー物質として、約5から20mMの濃度の酢酸塩からなる。任意に、アミノ酸および/またはグリセロールおよび/または炭水化物および/または保存料を使用することができる。さらに、本発明に従う液体製剤は、医薬的に慣用の賦形剤をさらに含むことができる。しかし、前記および/または他の賦形剤がないことが好ましい。
【0010】
国際出願WO94/14466において、一般に、G−CSFの保存に安定した水溶性医薬調製物が請求されており、該医薬調製物は、異なるバッファー系の使用により、3.5から5、および7から8の範囲のpH値において、安定であると考えられる。しかしながら、リン酸バッファーを使用した液体G−CSF調製物のみが、その保存安定性を試験されており、一方、他のバッファーを使用した個々の実験用調製物は、短時間の機械的ストレス、つまり、濁りの後の、サンプルにおける濁りの発生のみが試験されていた。
【0011】
本発明の範囲内で行われた実験のプロセスにおいて、WO94/14466の実施例において酢酸バッファーを用いて示されているG−CSF溶液、特に10mMの酢酸でpH値が4.5の製剤4が望ましい安定性を有していないことが評価されなければならなかった。なぜなら、G−CSFの凝集体および酸化型の存在に重要な値が判定されたためである。したがって、最初に、すでにEP0373679において示されているように、4.0より大きいpH値が凝集体の形成という結果になること、および、改善された生理的許容性のpH値を有するG−CSFの液体製剤は、他の好ましい酢酸バッファー系を用いて達成できなかったことが評価された。
【0012】
国際出願WO2005/039620において、4.0から4.2のpH値を有する、0.6mg/mlのG−CSF、10mMの酢酸バッファー、0.004%(w/v)のTween80、および5%(w/v)のD−ソルビトールの組成物のG−CSF液体製剤は、機械的ストレス下、およびpH値5.0で0.02%(w/v)Tween20を有するコハク酸バッファーを使用したG−CSF製剤の凍結や解凍の後の、G−CSF製剤の安定性の研究において、比較製剤として使用された。これらの研究によると、酢酸バッファーを使用したG−CSF製剤はより安定ではなかった。それらを候補薬物と考えるのはもちろん、そのような酢酸バッファーの組成物をさらに研究することが賢明であるようには見えなかった。
【0013】
反対に、本発明の範囲内で行われた実験のプロセスにおいて、驚くべきことに、冷蔵庫中および40℃、つまり、体温の範囲内での保存温度における安定性について、pHが4.0よりも大きい、酢酸バッファーを使用したG−CSF製剤の有利な性質、および、市販されている薬物に比べて皮膚刺激があまりおこらないことによる、患者中での驚くほどよい許容性が発見された。
【0014】
特に、本発明の趣旨において、酢酸と酢酸塩を、それぞれバッファー物質として、ポリソルベート80などのような界面活性剤と、それぞれ特定の濃度で、ソルビトール等のような糖アルコールの存在下で混合し、pH値を約4.20.15に調整することによって、G−CSFの安定な液体製剤を得られることが発見された。ここで、G−CSFの安定な液体製剤は、G−CSF分子に、薬物としての適合性のために要求される安定性を与え、よく許容性があり、さらに、薬物を投与した際、注入部位においてよく観察される症状のほぼ完全な予防をもたらす。これは、本発明に従うG−CSF液体製剤を、すぐに使える(ready-to-use)シリンジおよびそれと一緒に提供されるキットの使用、特に家での使用に、最適で有利なものとする。
【0015】
本発明に従う液体製剤は、使用には医学的な観点から問題があるタンパク質様またはポリマー性賦形剤を、好ましくは含まないという利点をさらに有する。実施例において説明した臨床研究によって示されるとおり、それらは、実質的に痛みがない方法において許容性があり適用性があるという利点をさらに有する。さらに、本発明に従うG−CSF液体製剤は、好ましくは、血清アルブミンのような、アミノ酸および/または追加のタンパク質を含まない。一の実施態様において、本発明に従う液体製剤は、メチオニンを含まない。
【0016】
生化学実験および臨床研究において、特定の濃度範囲でのバッファー物質の選択と糖アルコールの存在によって、一方では、約0.04から0.06mg/mlの少量の界面活性剤が、G−CSFの安定化に十分であること、および、他方では、患者において皮膚刺激やその他不適合を引き起こさないことが判明したことは、さらに有利である。これは、皮下適用を意図する、そのような液体剤形に特に有利である。また、本発明に従う測定方法によって、特に、不安定な、糖化されていないG−CSF分子が、医薬組成物にとって十分に安定化される。要するに、賦形剤の標的とされた選択は、非常に許容性のいいG−CSF含有液体剤形を提供する。ここで、該G−CSF含有液体剤形は、タンパク質の安定性という点に関して高品質な調製物であり、特に、すぐに使える(ready-to-use)注射または点滴溶液として適している。
【0017】
本発明に従う液体製剤において、0.05から0.06mg/mlの範囲の界面活性剤の量、特に好ましくは約0.06mg/mlが使用される。使用される界面活性剤は、好ましくはポリソルベート、特に好ましくはTween80としても知られるポリソルベート80である。
【0018】
本発明に従うG−CSF含有剤形は、治療効果を達成するのに十分な量の薬剤を含む。通常、0.01から5mg/mlの薬剤濃度が使用され、好ましくは0.1から1mg/ml、0.3から0.8mg/ml、および特に好ましくは約0.6mg/mlの濃度が使用される。特に、皮下適用の場合、0.3mg/0.5mlおよび0.48mg/0.8mlの投与量が特に好ましいことがわかった。
【0019】
本発明に従うと、バッファー物質として酢酸が採用される。本発明に従う液体製剤の調製において、バッファー物質は、その遊離酸のかたちで提供される。溶液の望ましいpH値は、例えば、水酸化アルカリ、水酸化アルカリ土類(earth alkali hydroxides)、または水酸化アンモニウムなどの塩基の添加により調整される。この目的のためには、水酸化ナトリウムの使用が好ましい。
【0020】
すぐに使える(ready-to-use)液体剤形におけるバッファー物質酢酸の濃度は、約5から20mMol/lにわたる。単純化のために、前記酸のアニオン濃度、すなわち酢酸塩を以下において参照する。酢酸塩という用語は、解離していない酢酸も含むことが意図されている。好ましくは、次のバッファー濃度とpH値が採用される:7.5から15mMol、特に好ましくは10mMol酢酸塩およびpH4.1から4.4;好ましくはpH4.15から4.3;および特にpH4.2。
【0021】
本発明に従う液体製剤において使用されるG−CSFは、基本的に、組換え法により製造されるすべてのG−CSF分子、およびそのバリエーションに関する。本発明に従うG−CSFまたはG−CSF変異体は、G−CSFのすべての天然に生じる変異体、ならびにそれらに由来するG−CSFタンパク質、および組換えDNA技術により修飾されるG−CSFタンパク質、特に、G−CSFタンパク質のほかに他のタンパク質配列も含む融合タンパク質を含む。この趣旨において、特に好ましくは、−1位にN末Met残基を有するG−CSF変異タンパク質であり、該タンパク質は原核細胞における発現によって生成される。WO91/11520にしたがって生成することができる組換えメチオニンフリーG−CSF変異体も適している。「G−CSF変異体」という用語は、一または複数のアミノ酸を欠失または他のアミノ酸により置換されてもよく、G−CSFの実質的な特徴が大部分維持されている、G−CSF分子を意味すると理解される。適したG−CSF変異タンパク質は、例えば、EP0456200に記載されている。特に好ましくは、本発明に従う液体製剤中に存在するG−CSFは、糖化されていない。
【0022】
許容性のいい非経口の剤形を調製するために、薬剤の浸透性の性質および安定化のために採用された賦形剤の浸透性の性質を用いて等張が達成できる場合を除いて、等張化(isotonizing)賦形剤を混合することが適切である。この目的を達成するために、特に、イオン化しない、許容性のいい賦形剤、例えば、マンニトール、グリセロール、または他の糖アルコール等が採用される。G−CSFの場合、ソルビトールの使用が好ましく、これは、本発明に従う液体製剤の許容性に特に有利である。好ましくは、糖アルコールは、液体製剤中に約2.5から7.5%(w/v)にわたる濃度で、特に好ましくは約5%(w/v)の濃度で存在する。
【0023】
等張性を調整するための塩の混合物は、塩またはイオンの高い濃度がG−CSFの凝集体形成を増強するので、有利ではない。したがって、塩は、有利には少量で混合される。バッファー濃度は、pH安定化効果が達成されるが、イオン強度はできるだけ低いレベルで維持されるような方法で測定される。好ましくは、バッファー濃度は、20mMolまでの範囲内であり、特に好ましくは、15mMolよりも低い。
【0024】
さらに、すぐに使える(ready-to-use)注射溶液は、さらに、通常の賦形剤または添加剤を含んでもよい。例えばグルタチオン、アスコルビン酸、もしくは類似の物質などの抗酸化剤、例えば尿素などのカオトロピック賦形剤、または、例えばメチオニン、アルギニン、リジン、オルニチンなどのアミノ酸を混合することができる。
【0025】
特に好ましい実施態様において、本発明に従うG−CSFの水溶性液体製剤は、注射または点滴溶液の形で調製され、実質的に、約0.6mg/mlの濃度のヒトの糖化されていないメチオニルG−CSF、および約5%(w/v)の濃度のソルビトール、約0.06mg/mlの濃度のポリソルベート80、および約4.2のpH値におけるバッファー物質として約10mMの濃度の酢酸塩からなる。
【0026】
他の点において、および同じ投与強度(dosage strength)を用いて、本発明に従うG−CSFの液体製剤は、Neupogenの製品情報、特に、投与量、投与、および医療適用に関する製品情報に従って使用することができる。なぜなら、E. coli K12の実験室株中で産生されるフィルグラスチムのような、高度に精製された、糖化されていないG−CSFタンパク質の使用も、本発明に従う液体製剤において好ましいためである。
【0027】
本発明に従う液体製剤は、例えば、癌等のG−CSFの投与によって治療可能であることが知られている病気の治療用の薬物として、細胞傷害性の化学療法による有害な副作用の治療用の薬物として、末梢血前駆細胞の動員を必要とする病気、重症慢性好中球減少症(SCN)やHIV感染等の病気の付随的な治療用の薬物として、有利に使用される。したがって、本発明は、特に、上記G−CSF液体製剤の一つを含む薬物に関する。
【0028】
一の実施態様において、本発明に従うG−CSF組成物は、中枢神経系の障害のような神経系の適応症の治療用薬物の調製物を意図するものであり、例えば急性脳血管障害の後で、例えば急速投与の形で、早期に投与することにより重篤な二次性障害を軽減するまたは防ぐことができる。他の点において、G−CSFの長期間の連続した投与が望ましい場合には、本発明に従う液体製剤は、薬物、好ましくは、例えば先に充填したシリンジを用いた注射による、または点滴による、皮下または静脈内投与用の薬物として意図される。
【0029】
すでに上述したように、本発明に従うG−CSFの液体製剤は、長期間にわたって安定であり、基本的に、任意の適した容器中に保存することができる。よって、本発明は、上記または実施例に記載したG−CSFの液体製剤の一つを含む容器に関する。好ましくは、容器の、液体製剤と接触する少なくとも一つの表面が、ポリテトラフルオロエチレンまたはエチレン―テトラフルオロエチレン(ETFE)からなる材料で被覆される。一般的には、容器は、通常、バイアル、シリンジ、アンプル、カプール(carpoule)、もしくは点滴コンテナのような保存および/または液体薬物の投与が意図されるコンテナである。ここで、本発明に従うG−CSFの液体製剤は、特に、すぐに使える(ready-to-use)シリンジおよびアンプルでの使用に有利である。好ましい実施態様において、液体製剤は、シリンジまたはアンプル中に、G−CSFの濃度に関して、0.5ml中0.3mg、または0.8ml中0.48mgで存在する。
【0030】
本発明に従うG−CSFの液体製剤の投与前に、さらなる賦形剤を混合すること、またはろ過、混合等のようなさらなる準備処置をとることが有利に省略することができるので、本発明に従うG−CSF液体薬物を、すぐに投与することができるように、例えばキット中で、調製することができる。
【0031】
よって、医師、薬剤師にとって、および特に患者にとって、特に有利な実施態様において、本発明は、一または複数の上記容器を、好ましくは保存および/または投与用の説明書とともに含む、G−CSFの非経口投与用のキットに関する。普通、5から30μg/kg体重の投与量でG−CSF投与が提供されるが、ここで、医療適用および病気のステージによって、より多いまたはより少ない投与量が指示されうる。
【0032】
好ましくは、5つのシリンジまたはアンプルが、本発明に従うキット中に提供され、例えば、一日の投与が1週間続くことが意図されている場合、7つのシリンジまたはアンプルのように、随意に、より多く提供される。
【0033】
安全な取扱いを理由に、本発明に従うキットは、有利に、それぞれ、シリンジ用のならびに注射および/または点滴針用の安全区画を有する。ここで、針用の排出補助器具(discharge aids)および準備されたまたは先に合わせたシーリングキャップも考慮される。
【0034】
実施例に記載したとおり、本発明に従うG−CSF液体製剤は、長期間にわたって、特に約5℃、好ましくは少なくとも4週間以上、安定である。したがって、本発明に従う液体製剤、容器、およびキットは、通常の冷蔵庫中で有利に保存することができる。
【0035】
本発明から生じるこれらのおよびさらなる実施態様は、特許請求の範囲によって包含される。
【0036】
上記のおよび以下に記載された先行技術文献の開示は、ここで、特に、G−CSFの組換え産物、バッファー、シリンジ、およびキットに関して、本出願中に参照により取り込まれる。これらのおよびさらなる実施態様は、開示され、当業者に明らかであり、本発明の記述および実施例により包含される。上記賦形剤のひとつについて、ならびに本発明に従って使用することができる電子的手段についてのさらなる文献は、先行技術から、例えば、電子的手段を使用した公共の図書館から、取得することができる。また、例えば「PubMed」(http://www.pubmed.gov)のような、さらなる公共のデータベースは、インターネットを経由して容易に利用可能である。
【0037】
本発明を実施するための技術は、当業者に知られており、関連する文献から取得することができる。例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual, 2nd Ed., ed. by Sambrook, Fritsch and Maniatis (Cold Spring Harbor Laboratory Press: 1989); Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology (Mayer and Walker, eds., Academic Press, London, 1987); Handbook Of Experimental Immunology, Volumes I-IV (D. M. Weir and C. C. Blackwell, eds., 1986)参照。
【実施例】
【0038】
実施例
以下において、本発明は、好ましい実施態様を用いてさらに説明されるが、かかる実施態様は、本発明の目的を制限することを決して意図するものではない。
【0039】
実施例1:液体G−CSF製剤の調製
実施例において使用するG−CSFの溶液は、注射のために上記の賦形剤を水中に溶解し、指示された量のG−CSFを添加し、そして必要であれば、少量のバッファー化合物を用いてpH値を望ましい値に正確に調整することにより調製された。
【0040】
本発明に従ってG−CSF製剤を調製する際、酢酸バッファーを調製するために、最初に酢酸を提供し、続いてNaOH溶液を用いてpH値を調製する必要があることに注意すべきである。それは、前に行った実験プロセスにおいて、酢酸ナトリウムを使用し続いてHClを用いてpH値を調整することは、おそらく増大したイオン濃度のせいで、タンパク質凝集体を形成させうることが明らかとなったからである。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
続いて溶液は、0.2μmの細孔幅を有する適した滅菌メンブレンフィルターを通してろ過され、加水分解クラス1の滅菌ガラス注射バイアル中に満たされ、滅菌テフロン(登録商標)加工(teflonized)ゴムプラグで密封される。充填は、好ましくは、窒素雰囲気下で行われる。
【0044】
実施例2:本発明のG−CSF製剤の生化学的安定性
G−CSFの実験調製物は、光を排除して、規定された保存温度において、密封され、圧着されたバイアル中に保存され、続いてタンパク質の純度ならびに酸化型、凝集体およびダイマーの出現が、UV分光測定法、C4およびC18固定相を用いる逆相HPLC、またはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC HPLC)、等電点電気泳動、チオール還元条件下および非還元条件下SDS−PAGEとそれに続く銀染色ならびにウエスタン免疫ブロット法などのような、標準的な方法を用いて、テストされる。上記技術についての参考として、例えば、WO94/14466の実施例があり、この開示は参照によりここに組み込まれる。
【0045】
実施例1の表1に記載されているように、G−CSFの液体製剤の、その長期間安定性をテストした。界面活性剤の含有量が多い製剤は実質的により悪い長期間安定性を示すので、界面活性剤含有量が>0.006%の製剤については、0.008%の製剤のみを例により示した。実験組成物中のG−CSFの生化学的安定性に関する実験において、0.008%に至るまでおよび0.008%を含めた含有量より高い界面活性剤濃度の使用により、大量のG−CSFの酸化型の凝集体が観察されうることがわかった。したがって、本発明の範囲内で行われた実験において、国際出願WO94/14466の記載とは対照的に、界面活性剤が高濃度の任意の場合ではなく、より低い界面活性剤濃度は、溶液中のG−CSFの酸化プロファイルに負に影響を与えると評価された。
【0046】
さらに、表1に記載されたような本発明のG−CSF製剤は、酸化種の相対含有量が1%よりも低いことで特徴付けられることが解明された。一方、この閾値は、0.008%およびそれより多い界面活性剤を有する参照試料中では上回り、これは、このような溶液は、候補薬物としては考えられないという結論を導く。
【0047】
実験組成物中のG−CSFの生化学的安定性のさらなる実験は、本発明に従った製剤が、アミノ酸および/または抗酸化剤等のような賦形剤のさらなる混合を必要とせずに、実質的にG−CSFの凝集体および酸化の両方を防ぐことができることを明らかにした。
【0048】
実施例3:G−CSF製剤の許容性
本発明に従った液体製剤の一つが、3つのフェーズ3臨床研究において、ガン患者でテストされ、とりわけ、注射部位の近傍における患者の反応が試験された。ここで、注射部位において起こる腫脹、発赤、皮膚出血、圧力に対する敏感性、および他の症状の試験が行われた。臨床試験のために、本発明のG−CSF製剤は、表1中の実験調製物IIa(XM02)の表示(indications)に従って選択され、一日あたり5μg/kg体重の投与量で処理された。
【0049】
これらの実験の過程において、幸運にも、全数356人の患者のうちたった一人の患者が、望ましくない反応を報告したこと、つまりたった0.3%の場合であることがわかった。市販のG−CSF製剤のNeupogenを用いて行った対照実験において、本発明のG−CSF製剤が、患者中の注射部位における副作用に関する4要素によって、改善された許容性を示すことを明らかにすることができた。これらの結果を、下記の表にまとめる。
【0050】
【表3】

【0051】
上記試験は、酢酸と酢酸塩をそれぞれバッファー物質として、およびポリソルベート80等の界面活性剤をそれぞれ特定の濃度で、ソルビトール等のような糖アルコールの存在下で混合し、pH値を約4.20.15に調整することによって、G−CSFの安定な液体製剤が得られる、という結果となった。これは、G−CSF分子に、薬物としての適合性のために要求される安定性を与え、よく許容性があり、さらに、薬物を投与した際、注入部位においてよく観察される症状のほぼ完全な予防をもたらす。これは、本発明に従うG−CSF液体製剤およびそれと一緒に提供されるキットを、それぞれ、すぐに使える(ready-to-use)シリンジおよびそれと一緒に提供されるキットの使用、特に家での使用に、最適で有利なものとする。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
G−CSFの水溶性液体製剤を含む薬物であって、実質的にG−CSFと糖アルコール、0.04から0.06mg/mlの濃度の界面活性剤、pH値が4.1から4.4のバッファー物質として5から20mMの濃度の酢酸塩、および任意に、アミノ酸および/またはグリセロールおよび/または炭水化物および/または保存料からなる、該薬物。
【請求項2】
G−CSFが糖化されていない、請求項1に記載の薬物。
【請求項3】
G−CSFが0.6mg/mlの濃度で存在する、請求項1または2に記載の薬物。
【請求項4】
界面活性剤がポリソルベートである、請求項1から3のいずれか1項に記載の薬物。
【請求項5】
糖アルコールがソルビトールである、請求項1から4のいずれか1項に記載の薬物。
【請求項6】
糖アルコールが5%(w/v)の濃度で存在する、請求項1から5のいずれか1項に記載の薬物。
【請求項7】
酢酸塩が約10mMの濃度で存在する、請求項1から6のいずれか1項に記載の薬物。
【請求項8】
アミノ酸および/または追加のタンパク質を実質的に含まない、請求項1から7のいずれか1項に記載の薬物。
【請求項9】
注射溶液または点滴溶液である、請求項1から8のいずれか1項に記載の薬物。
【請求項10】
注射溶液または点滴溶液としての、G−CSF水溶性液体製剤を含む薬物であって、0.6mg/mlの濃度のヒトの糖化されていないメチオニルG−CSF、5%(w/v)の濃度のソルビトール、0.06mg/mlの濃度のポリソルベート80、およびpH値が4.20.15のバッファー物質として約10mMの濃度の酢酸塩からなる、該薬物。
【請求項11】
ガン、重症慢性好中球減少症(SCN)、HIV感染、中枢神経系の障害、細胞傷害性の化学療法による有害な副作用の治療用、または末梢血前駆細胞の動員を必要とする病気の付随的な治療用の薬物であって、請求項1から10のいずれか1項に記載の薬物。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか1項に記載の薬物を含む、液体薬物の投与用容器。
【請求項13】
液体製剤と接触する前記容器の少なくとも一の表面が、シリコン、またはポリテトラフルオロエチレン、またはエチレン―テトラフルオロエチレン(ETFE)コポリマーからなる材料によって被覆されている、請求項12に記載の容器。
【請求項14】
シリンジ、アンプル、カプール(carpoule)、もしくは点滴コンテナである、請求項12または13に記載の容器。
【請求項15】
液体製剤が、G−CSFの濃度に関して、0.5ml中0.3mg、または0.8ml中0.48mgの濃度で存在する、請求項14に記載のシリンジまたはアンプル。
【請求項16】
請求項12から15のいずれか1項に記載の容器、ならびに保存および/または投与のための説明書を含む、G−CSFの非経口投与用キット。
【請求項17】
G−CSFの投与が、5から30μg/kg体重の投与量で提供される、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
前記キットにおいて5つのシリンジまたはアンプルが提供される、請求項16または17に記載のキット。
【請求項19】
それぞれ、シリンジ用のならびに注射および/または点滴針用の安全区画を有する、請求項16から18のいずれか1項に記載のキット。
【請求項20】
5℃での保存が意図される、請求項16から19のいずれか1項に記載のキット。


【公表番号】特表2010−536906(P2010−536906A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522242(P2010−522242)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【国際出願番号】PCT/EP2008/007012
【国際公開番号】WO2009/027076
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(510048820)バイオジェネリクス アーゲー (2)
【Fターム(参考)】