説明

GPSサイクルスリップ自動補正装置、GPS受信機、その自動補正方法、そのプログラム、及び記録媒体

【課題】GPS信号の搬送波位相のサイクルスリップを正確かつ経済的に検知し、迅速に補正量を算出して搬送波位相データを補正することにより、高精度の測位・航法を継続的に可能とするGPSサイクルスリップ自動補正手段、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】GPS受信部10で受信したGPS信号の搬送波位相データに対して外部接続したGPSサイクルスリップ自動補正装置20の、MPU21で実行する自動補正プログラムにて1次スプラインフィルタ処理を施し、更新前予測位相データと観測位相データとの比較からサイクルスリップ現象の発生を検知すると共に補正量を算出し、該補正量により搬送波位相データを自動補正する。なお、GPS受信機にGPSサイクルスリップ自動補正装置20そのものを内蔵するように構成しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPSサイクルスリップ自動補正装置、GPS受信機、GPSサイクルスリップ自動補正方法、GPSサイクルスリップ自動補正プログラム及びプログラム記録媒体に関し、特に、GPSR(GPS受信機: Global Positioning System Receiver)による搬送波位相データ計測におけるサイクルスリップ現象の発生の検出とこれに対する補正を可能とするGPSサイクルスリップ自動補正装置に関する。本発明は、GPSRによる測位・航法の分野において好適に適用可能であり、搬送波位相データ計測によりサイクルスリップの補正を経済的かつ正確に行うことができる。
【背景技術】
【0002】
従来のGPS受信機(GPSR)では、搬送波位相の計測時に、障害物などで電波が遮断されて生じる、GPS受信機の瞬時的な位相ロック外れに起因して、搬送波位相データが波長の整数倍(位相表現では、360degの整数倍)飛躍する現象が発生する。これを、サイクルスリップ現象と呼んでいる。
【0003】
一般に、GPSRが計測する他の測距データである擬似距離データのノイズレベルが数センチから数十センチであるのに比べて、搬送波位相データのノイズは3ミリから数ミリ程度であることから、GPSRが出力する搬送波位相データの測位・航法への利用が、測位・航法の高精度化を行う上で重要な鍵となっている。すでに、RTK(Real Time Kinematic)航法としても実際に利用されているが、この場合に、前述のようなサイクルスリップ現象が発生すると、搬送波位相による測位・航法を一旦リセットする必要が生じる。
【0004】
この結果、サイクルスリップの発生によるリセットに伴い、データ処理に不連続を生じてしまうので、GPSRは、搬送波位相のアンビギュイティ(Ambiguity:曖昧さ、つまり整数値バイアス)を最初から解き直さねばならないが、これには、相応の時間を掛けた擬似距離データの蓄積が必要となる。
【0005】
このようなサイクルスリップの検出と補正を高速に行う従来技術として、例えば、特許文献1に示す特開2000−65593号公報「ハイブリッド形航法システムに記載されたものがある。該特許文献1に記載の技術は、GPS受信機と慣性装置とをハイブリッドにして、それぞれで計測された移動速度と位置とを用いて、より正確な移動速度を算出して、サイクルスリップの検出とその補正を正確に行おうとするものである。
【特許文献1】特開2000−65593号公報(第3−4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術では、GPS受信機能のみを活用して、サイクルスリップの発生を正確に検知することが困難であり、例えば、前記特許文献1に記載の技術でも、GPS受信機のみならず慣性装置を併用する構成とする必要があり、移動機器の小型化が困難であり、かつ、コスト低減も困難であり、更には、取得した観測データの補正量の算出に要する計算量が多く、補正を行うまでにかなりの時間を要する。
【0007】
つまり、従来技術における第1の課題は、観測データの補正の有無を認知するために必須である、サイクルスリップの発生を、経済的に、誤り無く正確に検知することが不可能な点にある。
【0008】
第2の課題は、サイクルスリップを正確に検知したとしても、補正量を迅速に正しく計算して、観測データの補正を行い、データの連続性を確保することにより、補正された搬送波位相データを用いて、高精度の測位・航法を継続的に可能にするというGPS測位システムの本質的な課題を解決することができないという点にある。
【0009】
(本発明の目的)
従って、本発明の目的は、サイクルスリップの発生を経済的かつ精度良く検知し、同時に、そのサイクルスリップ量を迅速に計算して、観測したGPS搬送波の位相データを補正することにより、GPS受信機の搬送波位相計測に関する信頼性の向上と性能向上とを図ることが可能なGPSサイクルスリップ自動補正装置、GPS受信機、GPSサイクルスリップ自動補正方法、GPSサイクルスリップ自動補正プログラム及びプログラム記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の課題を解決するため、本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正装置、GPS受信機、GPSサイクルスリップ自動補正方法、GPSサイクルスリップ自動補正プログラム及びプログラム記録媒体は、次のような特徴的な構成を採用している。
【0011】
(1)受信したGPS信号の搬送波位相のサイクルスリップを検出して、搬送波位相を補正するGPSサイクルスリップ自動補正装置において、
前記受信したGPS信号に対して1次スプラインフィルタリング処理を施すことによって前記サイクルスリップを検出するとともに搬送波位相を補正するGPSサイクルスリップ自動補正装置。
(2)前記1次スプラインフィルタリング処理として、観測した搬送波位相データと、現在までの受信状況に基づいて予測した予測位相データとの比較結果が予め設定した閾値に収まっているか否かに基づいて、サイクルスリップの発生の有無を検出すると共に、施すべく補正量を算出して、算出した補正量により、観測した搬送波位相データを補正するGPSサイクルスリップ自動補正装置。
(3)GPS信号を受信するGPS受信機において、請求項1または2に記載のGPSサイクルスリップ自動補正装置を外部接続する接続手段を備えて、該GPSサイクルスリップ自動補正装置により、受信したGPS信号の搬送波位相のサイクルスリップの検出と補正を行うGPS受信機。
(4)受信したGPS信号の搬送波位相のサイクルスリップを検出して、搬送波位相を補正するために、前記受信したGPS信号に対して1次スプラインフィルタリング処理を施す自動補正手段を内蔵しているGPS受信機。
(5)前記1次スプラインフィルタリング処理として、観測した搬送波位相データと、現在までの受信状況に基づいて予測した予測位相データとの比較結果が予め設定した閾値に収まっているか否かに基づいて、サイクルスリップの発生の有無を検出すると共に、施すべく補正量を算出して、算出した補正量により、観測した搬送波位相データを補正するGPS受信機。
(6)受信したGPS信号の搬送波位相のサイクルスリップを検出して、搬送波位相を補正するGPSサイクルスリップ自動補正方法において、
前記受信したGPS信号に対して1次スプラインフィルタリング処理を施すことによって前記サイクルスリップを検出するとともに搬送波位相を補正するGPSサイクルスリップ自動補正方法。
(7)前記1次スプラインフィルタリング処理として、観測した搬送波位相データと、現在までの受信状況に基づいて予測した予測位相データとの比較結果が予め設定した閾値に収まっているか否かに基づいて、サイクルスリップの発生の有無を検出すると共に、施すべく補正量を算出して、算出した補正量により、観測した搬送波位相データを補正するGPSサイクルスリップ自動補正方法。
(8)上記(6)または(7)のGPSサイクルスリップ自動補正方法をコンピュータにより実行することが可能なプログラムとして実現するGPSサイクルスリップ自動補正プログラム。
(9)上記(8)のGPSサイクルスリップ自動補正プログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録するプログラム記録媒体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正装置、GPS受信機、GPSサイクルスリップ自動補正方法、GPSサイクルスリップ自動補正プログラム及びプログラム記録媒体によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0013】
すなわち、本発明によれば、サイクルスリップの検知と観測データに対する補正に1次スプラインフィルタを用いることにより、小型化が可能で、かつ、経済的な装置構成が可能になると共に、取得データを瞬時に正確な搬送波位相データに補正することが可能になり、GPS受信機による測位・航法の精度および信頼性を大幅に向上させることができる。その理由は、正確な補正を施した結果として、取得した搬送波位相データを継続的に使用することが可能になるからである。
【0014】
また、サイクルスリップ自動補正用の自動補正プログラムを提供することにより、該GPSサイクルスリップ自動補正プログラムをMPU(Micro Processing Unit)に組み込んで実行することにより、経済的かつ融通性に富むGPSサイクルスリップ自動補正装置あるいはGPS受信機を提供することも可能であり、カーナビや携帯電話機などの小型の移動機器にも好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正装置、GPS受信機、GPSサイクルスリップ自動補正方法、GPSサイクルスリップ自動補正プログラム及びプログラム記録媒体の好適な実施例について添付図を参照して説明する。なお、以下の実施例の説明においては、本発明によるGPS受信機の具体的な構成例やGPSサイクルスリップ自動補正方法及び該GPSサイクルスリップ自動補正方法をコンピュータにより実行可能なGPSサイクルスリップ自動補正プログラムについて、図面を参照しながら詳細に説明する。斯かる説明により、本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正装置の具体的な実施例や、さらには、該GPSサイクルスリップ自動補正プログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録したプログラム記録媒体の実施例についても、容易に想到することができるので、これらの発明に関する具体的な実施例についての説明は割愛する。
【0016】
(本発明の最良の形態)
搬送波位相データのサイクルスリップ現象の発生を瞬時に検出して、短時間で、測位システムに用いるGPS衛星/GPS受信機の距離の変化を直線的な変化として十分な精度で近似できる技術として、GPS受信機の搬送波位相計測回路が出力する観測データ(搬送波位相データ)に対して1次スプラインフィルタを適用することにより、更新前の予測データと取得した観測データとの比較から、サイクルスリップ現象の発生を瞬時に検知すると共に、サイクルスリップによるデータの飛躍量が量子化されていることを利用して、補正量を瞬時に算出して、該補正量を観測した実際の搬送波位相データに加える補間処理を施すことにより、正確に補正した搬送波位相データを出力するように構成する。
【0017】
ここで、本実施例におけるGPS受信機(GPSR)とは、このようなアルゴリズムを実現する自動補正機能例えばGPSサイクルスリップ自動補正プログラムを搭載したMPU(Micro Processing Unit)部分を装備したGPS受信機である。
【0018】
もしくは、本実施例におけるGPS受信機(GPSR)とは、このようなアルゴリズムを実現するGPSサイクルスリップ自動補正プログラムを搭載したMPU(Micro Processing Unit)部分を有するGPSサイクルスリップ自動補正装置を既存のGPSRに外部接続した形態からなるGPS受信機である。あるいは、該GPSサイクルスリップ自動補正装置を内蔵したGPS受信機として構成しても良い。
【0019】
また、本実施例のアルゴリズムとして適用する1次スプラインフィルタ(linear_spline
filter)とは、有限要素法における定義域全体を最も単純に1つの区分多項式により近似することにより、取得した搬送波位相データを線形補間して出力するフィルタであり、計算処理負荷が軽く高速化を図ることができる。一般に、スプラインフィルタは、ガウシアンフィルタよりも鋭い遮断特性を示し、データ始点あるいはデータ終点領域における変形の発生を抑えることができる他、測定データに含まれる周期の長いうねり成分に対する追随性も良いことが知られており、より正確にサイクルスリップの発生を検出して補正を行うことができる。
【0020】
本実施例におけるGPSRでは、受信した搬送波位相データを読み込んで、これに対して、前述の1次スプラインフィルタリングアルゴリズムを適用したGPSサイクルスリップ自動補正プログラムを動作させることにより、搬送波位相データの補正計算を実施し、適切に補正した搬送波位相データを継続的に出力することを可能にし、もって、GPS受信機による測位・航法の精度および信頼性が向上させようとするものである。
【0021】
すなわち、本実施例におけるGPSRでは、受信した搬送波位相データを読み込み、該搬送波位相データの取得前の挙動に基づいて1次スプラインフィルタが推定した予測値と、実際の搬送波位相データとの比較を行い、予め設定した閾値を超えているか否かにより、両者の差異が観測ノイズレベル及びフィルタの推定精度に比べて有意であるか否かを判定し、差異が有意であると判定されたものについては、サイクルスリップが発生したものと判定し、搬送波位相データの飛躍量に関する量子化条件から、サイクルスリップによる搬送波位相データの飛躍量を決定し、該飛躍量を用いて、搬送波位相データのアンビギュイティの値を補正して更新する。
【0022】
(構成の説明)
図1は、本発明によるGPS受信機の構成の一実施例を示す構成概念図である。図1に例示するように、本実施例によるGPS受信機1は、既存のGPS受信機と全く同様の構成のGPS受信部10に対して、本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正装置20を外部接続して構成する例を示している。従って、GPS受信部10は、方式のバリエーションは兎も角、従来のGPS受信機と同様の回路ブロックを備えている。
【0023】
すなわち、GPS受信機10では、受信部11にて、GPS信号を受信し、周波数変換(down convert)して復調部12へ出力し、復調部12にて、原振・シンセサイザ14からの信号によって搬送波をロックして相関器・位相カウンタ13とGPSサイクルスリップ自動補正装置20とに出力する。相関器・位相カウンタ13では、まず、相関器にて、拡散符号のレプリカとの相関を計算して、拡散符号をロックして、航法信号を復調して、位相カウンタにて、拡散符号のロックを保持するための時間差、搬送波のロックを保持するための位相差をそれぞれ計測して、バイアス擬似距離と搬送波位相とを出力する。
【0024】
一方、GPS受信機10に外部接続するGPSサイクルスリップ自動補正装置20は、1次スプラインフィルタ機能を有するGPSサイクルスリップ自動補正プログラムを格納して、該GPSサイクルスリップ自動補正プログラムを実行するMPU21を少なくとも内蔵している。すなわち、GPS受信機10の復調部12からの搬送波と相関器・位相カウンタ13からの搬送波位相データ及び今までの挙動を示すデータとを入力として、MPU21にてGPSサイクルスリップ自動補正プログラムを実行することにより、搬送波位相データに対してスプラインフィルタリング処理を施してサイクルスリップの有無を自動検出すると共に、サイクルスリップが検出された場合には、搬送波位相データを自動的に補正して、補正結果を外部に出力する。また、GPSサイクルスリップ自動補正プログラムによる演算結果は、原振・シンセサイザ14にも出力され、次の受信搬送波のロックのために用いられる。
【0025】
つまり、図1に例示するGPSサイクルスリップ自動補正装置20では、GPS受信部10の動作を制御する各種のデータの生成に係わるソフトウェアを動作させるが、このソフトウェアの一部にGPSサイクルスリップ自動補正プログラムとして1次スプラインフィルタ処理を組み込んで、搬送波位相データに対する自動サイクルスリップ補正機能を持たせることができる。すなわち、MPU21に1次スプラインフィルタリングアルゴリズムを実行するGPSサイクルスリップ自動補正プログラムを格納し、GPS受信機10から出力される搬送波位相データを1次スプラインフィルタによって補間処理して出力する。
【0026】
(1次スプラインフィルタの動作)
次に、本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正プログラムに適用する1次スプラインフィルタのアルゴリズムについて、図2−図7に示すフローチャートを参照して説明する。ここに、図2は、本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正プログラムに適用する1次スプラインフィルタの動作の一例を説明するためのフローチャートであり、図3は、本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正プログラムの初期設定処理の一例を説明するためのフローチャートである。また、図4は、本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正プログラムの1次スプラインフィルタ動作としてデータ観測時刻まで伝搬させる観測時刻伝搬処理の一例を説明するためのフローチャートである。また、図5は、本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正プログラムにおいてサイクルスリップ発生の有無を判定するサイクルスリップ判定処理の一例を説明するためのフローチャートであり、図6は、本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正プログラムにおいてサイクルスリップによる搬送波位相データの補正を行うサイクルスリップ補正処理の一例を説明するためのフローチャートである。また、図7は、本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正プログラムにおける1次スプラインフィルタリング状態の更新を行うスプラインフィルタ状態更新処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【0027】
まず、図2のフローチャートを用いて、本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正プログラムの全体の流れの一例について説明する。最初に、1次スプラインフィルタ処理に使用するパラメータを初期設定する(ステップS1)。その後、1次スプラインフィルタの微分方程式を数値積分することにより解いて、データ観測時刻まで伝搬させる処理を行う(ステップS2)。
【0028】
次に、1次スプラインフィルタの状態更新前の搬送波位相データの予測値と、実際に得られた搬送波位相データとから、実測搬送波位相データが基準誤差の範囲内に収まっているか否かを判定することにより、サイクルスリップの発生の有無を判定する(ステップS3)。サイクルスリップが発生していると判定した場合は(ステップS4のYES)、サイクルスリップによる搬送波位相データのアンビグイティを補正し(ステップS5)、一方、サイクルスリップが発生していないと判定した場合は(ステップS4のNO)、搬送波位相データの補正処理をスキップする。しかる後、次の観測データの1次スプラインフィルタ処理に備えるために、1次スプラインフィルタリングの状態を更新する(ステップS6)。しかる後、ステップS2の観測時刻への伝搬処理に復帰し、次の観測データに対するサイクルスリップの判定・補正処理へ移行する。
【0029】
次に、図2で説明した各ステップの処理について、図3−図7のフローチャートを用いて、その一例を更に詳細に説明する。まず、図3のフローチャートに示す初期設定処理について説明する。
【0030】
図3の初期設定処理において、まず、搬送波位相データのアンビギュイティ(ambiguity)を示す変数「A」を0に初期設定する(ステップS11)。次に、搬送波位相(位相変化率)のアプリオリ推定における期待値(予測値)を、変数「x」に設定する(ステップS12)。次に、1次スプラインフィルタの共分散行列のアプリオリ推定における共分散値を、変数「S」に設定する(ステップS13)。次に、実際に観測される搬送波位相データに含まれる観測ノイズの共分散値を、変数「R」に設定する(ステップS14)。
【0031】
更に、搬送波位相データの飛躍量(補正量)を量子化するために用いる量子化単位(「2π」が1波長に相当)を、変数「T」に設定する(ステップS15)。最後に、サイクルスリップの発生の有無を判定する際の安全係数を、ユーザが任意に定義して、変数「k」に設定する(ステップS16)。
【0032】
次に、図4のフローチャートに示す1次スプラインフィルタの観測時刻伝搬処理について説明する。まず、次の式1に示す2つの微分方程式を、数値積分を用いて解く(ステップS21)。
【0033】
【数1】

【0034】
この結果を、搬送波位相データの観測時刻tまで伝搬させることにより、次の式2に示す搬送波位相値x(t)と共分散値S(t)との双方の観測時刻tにおける数値を算出する(ステップS22)。これにより、観測した搬送波位相データに関するサイクルスリップの発生の有無と補正量の算出とを迅速に行うことを可能としている。
【0035】
【数2】

【0036】
次に、図5のフローチャートに示す1次スプラインフィルタにおけるサイクルスリップ判定処理について説明する。まず、サイクルスリップ判定用の基準誤差σを、次の式3を用いて算出する(ステップS31)。
【0037】
【数3】

【0038】
次に、図4の観測時刻伝搬処理にて算出した結果を次の式4に適用して、1次スプラインフィルタの状態更新前における観測残差Resを算出する(ステップS32)。
【0039】
【数4】

【0040】
ここで、式3で求めた基準誤差σとユーザが定義した安全係数kとの積と、観測残差Resの絶対値とを比較して、前者の値が後者以上の値であれば(ステップS33のYES)、サイクルスリップは発生していないものと判定して、その旨を出力し(ステップS34)、逆に、前者の値が後者よりも小さい値であれば(ステップS33のNO)、サイクルスリップが発生しているものと判定して、その旨を出力する(ステップS35)。
【0041】
次に、図6のフローチャートに示す1次スプラインフィルタにおけるサイクルスリップ補正処理について説明する。まず、図5のサイクルスリップ判定処理にて算出した観測残差Resを、量子化単位Tで除算した結果を整数化(量子化)して、変数mに設定する(ステップS51)。しかる後、変数mの量子化数値に量子化単位Tを乗算して、観測データを補正すべき補正量(m・T)を算出して、観測した搬送波位相データのアンビグイティAから減算することにより、補正後の搬送波位相データのアンビギュイティAを求める(ステップS52)。この処理により、サイクルスリップ発生時でも、1次スプラインフィルタによる補間処理により瞬時にほぼ正確なアンビギュイティAを出力することができ、観測データの連続性を確保することができる。
【0042】
次に、図7のフローチャートに示す1次スプラインフィルタにおけるスプラインフィルタ状態更新処理について説明する。まず、搬送波位相データの期待値x(i)を、次の式5に示すように、図4の観測時刻伝搬処理において算出された共分散相関に従って更新する(ステップS61)。
【0043】
【数5】

【0044】
次に、共分散行列Sを、次の式6を用いて更新し、次の観測データに関するサイクルスリップ判定用の準備を完了する(ステップS62)。
【0045】
【数6】

【0046】
以上のように、GPSサイクルスリップ自動補正装置20に搭載のMPU21は、1次スプラインフィルタ処理を含むGPSサイクルスリップ自動補正プログラムを実行させて、GPS受信部10から読み込んだ搬送波位相データについて、該搬送波位相データ取得前の挙動に基づいたアプリオリ推定の予測値と比較を行い、両者の差異が、観測ノイズレベル及び1次スプラインフィルタの推定精度に比べて、有意であるか否かを判定し、差異が有意であると判定されたものについては、取得した該搬送波位相データの飛躍量に関する量子化条件から飛躍量を決定し、該搬送波位相データのアンビギュイティAの値を補正することにより、データの連続性を確保し、高精度の測位・航法を継続的に実施することが可能である。
【0047】
また、本実施例に示すように、サイクルスリップの検知及び補正に用いる手段としては、GPS受信部で受信した搬送波データに関する1次スプラインフィルタ処理を行うGPSサイクルスリップ自動補正装置20のみを装備すればよく、従来技術のように、他の手段(例えば、前記特許文献1に記載のような慣性装置やジャイロなど)を別途装備する必要はなく、経済的に、誤り無く正確にサイクルスリップの発生を検知することができる。
【0048】
(本発明の他の実施例)
更には、前述したように、1次スプラインフィルタリングアルゴリズムを含むGPSサイクルスリップ自動補正プログラムを、GPS受信機そのもののソフトウェアとして内蔵するか、図1に例示のように該GPSサイクルスリップ自動補正プログラムを装備したGPSサイクルスリップ自動補正装置20を従来のGPS受信機に外部接続して構成するか、あるいは、該GPSサイクルスリップ自動補正装置20そのものをGPS受信機に内蔵させて構成するか、あるいは、1次スプラインフィルタ処理アルゴリズムをプログラム論理ではなく、ゲートアレイ論理などのワイヤードロジックで構成するか、など、補正後の搬送波位相データを出力するまでのGPS受信機の回路構成に関しては、種々のバリエーションを採用することが可能である。
本発明の本質は、観測した搬送波位相データに対して、1次スプラインフィルタを利用したサイクルスリップの検知及び補正機構を適用する手段を備えていることである。
【0049】
なお、本発明は、例えば、GPS受信機能を有する、カーナビや携帯電話機などを含む各種の小型の移動用機器に好適に適用することが可能であり、一例として斯かる移動用機器に内蔵されたソフトウェアに本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正プログラムを組み込むことにより、GPS信号のサイクルスリップに対する迅速かつ正確な自動補正を経済的に実現することができる。
【0050】
以上、本発明の好適実施例の構成を説明した。しかし、斯かる実施例は、本発明の単なる例示に過ぎず、何ら本発明を限定するものではないことに留意されたい。本発明の要旨を逸脱することなく、特定用途に応じて種々の変形変更が可能であることが、当業者には容易に理解できよう。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明によるGPS受信機の構成の一実施例を示す構成概念図である。
【図2】本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正プログラムに適用する1次スプラインフィルタの動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【図3】本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正プログラムの初期設定処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正プログラムの1次スプラインフィルタ動作としてデータ観測時刻まで伝搬させる観測時刻伝搬処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正プログラムにおいてサイクルスリップ発生の有無を判定するサイクルスリップ判定処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正プログラムにおいてサイクルスリップによる搬送波位相データの補正を行うサイクルスリップ補正処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【図7】本発明によるGPSサイクルスリップ自動補正プログラムにおける1次スプラインフィルタリング状態の更新を行うスプラインフィルタ状態更新処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0052】
1 GPS受信機
10 GPS受信部
11 受信部
12 復調部
13 相関器・位相カウンタ
14 原振・シンセサイザ
20 GPSサイクルスリップ自動補正装置
21 MPU(Micro Processing Unit)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信したGPS信号の搬波位相のサイクルスリップを検出して、搬送波位相を補正するGPSサイクルスリップ自動補正装置において、
前記受信したGPS信号に対して1次スプラインフィルタリング処理を施すことによって前記サイクルスリップを検出するとともに搬送波位相を補正することを特徴とするGPSサイクルスリップ自動補正装置。
【請求項2】
前記1次スプラインフィルタリング処理として、観測した搬送波位相データと、現在までの受信状況に基づいて予測した予測位相データとの比較結果が予め設定した閾値に収まっているか否かに基づいて、サイクルスリップの発生の有無を検出すると共に、施すべく補正量を算出して、算出した補正量により、観測した搬送波位相データを補正することを特徴とするGPSサイクルスリップ自動補正装置。
【請求項3】
GPS信号を受信するGPS受信機において、請求項1または2に記載のGPSサイクルスリップ自動補正装置を外部接続する接続手段を備えて、該GPSサイクルスリップ自動補正装置により、受信したGPS信号の搬送波位相のサイクルスリップの検出と補正を行うことを特徴とするGPS受信機。
【請求項4】
受信したGPS信号の搬送波位相のサイクルスリップを検出して、搬送波位相を補正するために、前記受信したGPS信号に対して1次スプラインフィルタリング処理を施す自動補正手段を内蔵していることを特徴とするGPS受信機。
【請求項5】
前記1次スプラインフィルタリング処理として、観測した搬送波位相データと、現在までの受信状況に基づいて予測した予測位相データとの比較結果が予め設定した閾値に収まっているか否かに基づいて、サイクルスリップの発生の有無を検出すると共に、施すべく補正量を算出して、算出した補正量により、観測した搬送波位相データを補正することを特徴とするGPS受信機。
【請求項6】
受信したGPS信号の搬送波位相のサイクルスリップを検出して、搬送波位相を補正するGPSサイクルスリップ自動補正方法において、
前記受信したGPS信号に対して1次スプラインフィルタリング処理を施すことによって前記サイクルスリップを検出するとともに搬送波位相を補正することを特徴とするGPSサイクルスリップ自動補正方法。
【請求項7】
前記1次スプラインフィルタリング処理として、観測した搬送波位相データと、現在までの受信状況に基づいて予測した予測位相データとの比較結果が予め設定した閾値に収まっているか否かに基づいて、サイクルスリップの発生の有無を検出すると共に、施すべく補正量を算出して、算出した補正量により、観測した搬送波位相データを補正することを特徴とするGPSサイクルスリップ自動補正方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載のGPSサイクルスリップ自動補正方法をコンピュータにより実行することが可能なプログラムとして実現することを特徴とするGPSサイクルスリップ自動補正プログラム。
【請求項9】
請求項8に記載のGPSサイクルスリップ自動補正プログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録することを特徴とするプログラム記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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