説明

GaN系発光ダイオード素子

【課題】透光性導電膜と、その上に形成されたパッド電極および絶縁保護膜を有する、信頼性の高いGaN系発光ダイオード素子を提供する。
【解決手段】GaN系発光ダイオード素子10は、透光性導電膜14上に形成されたパッド電極15が、透光性導電膜14に接する第1パッド電極膜15−1と、該第1パッド電極膜上に形成された第2パッド電極膜15−2とを有しており、導電性酸化物膜14上から第1パッド電極膜15−1上にかけて連続するように形成された絶縁保護膜16の一部が、第1パッド電極膜15−1と第2パッド電極膜15−2との間に挟まれていることから、絶縁保護膜16の剥離が発生し難い、信頼性の高いものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子構造の主要部をGaN系半導体で構成したGaN系発光ダイオード素子に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN系半導体は、化学式AlInGa1−a−bN(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦a+b≦1)で表される化合物半導体であり、3族窒化物半導体、窒化物半導体などとも呼ばれる。上記化学式において、3族元素の一部をホウ素(B)、タリウム(Tl)などで置換したもの、また、窒素(N)の一部をリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)などで置換したものも、GaN系半導体に含まれる。
【0003】
図7に、従来のGaN系発光ダイオード素子の断面図を示す。図7に示すGaN系発光ダイオード100は、基板101上に形成されたGaN系半導体層102を有している。GaN系半導体層102は、互いに導電型の異なる第1の層102−1と第2の層102−2とを備えた積層体である。一般的には、第1の層102−1がn型層、第2の層102−2がp型層とされる。部分的に露出した第1の層102−1の表面上には、該第1の層と電気的に接続する下部電極103が形成されている。第2の層102−2上の略全面には、第2の層102−2とオーミック接触する透光性導電膜104が形成されており、該透光性導電膜104上の一部に、上部電極として、該透光性導電膜104と電気的に接続する金属製のパッド電極105が形成されている。透光性導電膜104は、例えば、ITO(インジウム錫酸化物)、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫などからなる導電性酸化物膜、あるいは、透光性を示す程度に薄く形成された金属膜、あるいは、これらの複合体である。透光性導電膜104上の、パッド電極105が形成された領域を除く領域には、絶縁保護膜106が形成されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−244128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図7に示すGaN系発光ダイオード素子100では、絶縁保護膜106のパッド電極105に対する密着性が比較的小さいことから、絶縁保護膜106がパッド電極105の表面を覆った部分にて剥離し易く、信頼性が低下するという問題がある。この問題は、とりわけ、パッド電極105を、表面に酸化膜を形成し難い金属(Au、白金族元素など)で形成した場合や、パッド電極105の膜厚を大きくした場合(例えば、1μm以上とした場合)などに、顕著となる。
【0006】
そこで、本発明は、透光性導電膜と、その上に形成されたパッド電極および絶縁保護膜を有する、信頼性の高いGaN系発光ダイオード素子を提供することを、主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、次の特徴を有するGaN系発光ダイオード素子を提供する。
(1)GaN系半導体層と、該GaN系半導体層上に形成された透光性導電膜と、該透光性導電膜上に形成されたパッド電極および絶縁保護膜と、を有するGaN系発光ダイオード素子であって、前記パッド電極は、前記透光性導電膜に接する第1パッド電極膜と、該
第1パッド電極膜上に形成された第2パッド電極膜とを有しており、前記絶縁保護膜は、前記透光性導電膜上から前記第1パッド電極膜上にかけて連続するように形成されているとともに、その一部が、前記第1パッド電極膜と前記第2パッド電極膜との間に挟まれていることを特徴とする、GaN系発光ダイオード素子。
(2)前記第1パッド電極膜の厚さが前記第2パッド電極膜の厚さよりも小さい、前記(1)に記載のGaN系発光ダイオード素子。
(3)前記第1パッド電極膜の厚さが0.5μm以下である、前記(1)または(2)に記載のGaN系発光ダイオード素子。
(4)前記パッド電極の厚さが1μm以上である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載のGaN系発光ダイオード素子。
(5)素子を平面視したとき、前記第1パッド電極膜の面積が前記第2パッド電極膜の面積よりも小さい、前記(1)〜(4)のいずれかに記載のGaN系発光ダイオード素子。(6)前記パッド電極が、前記透光性導電膜に接する透光性の密着層と、その上に形成された反射層とを有する、前記(1)〜(5)のいずれかに記載のGaN系発光ダイオード素子。
(7)前記第1パッド電極膜が、前記絶縁保護膜に接する密着層と、その下に形成された反射層とを有する、前記(1)〜(6)のいずれかに記載のGaN系発光ダイオード素子。
(8)前記第2パッド電極膜が、前記絶縁保護膜に接する密着層と、その上に形成されたボンディング層とを有する、前記(1)〜(7)のいずれかに記載のGaN系発光ダイオード素子。
(9)前記第1パッド電極膜の直下において前記透光性導電膜の一部が除去され、該第1パッド電極膜の下面の一部が前記GaN系半導体層に接している、前記(1)〜(8)のいずれかに記載のGaN系発光ダイオード素子。
(10)前記第1パッド電極膜が電流拡散のためのアーム部を有する、前記(1)〜(9)のいずれかに記載のGaN系発光ダイオード素子。
(11)前記GaN系半導体層は、n電極が形成されたn型層と、該n型層に積層されたp型層とを含んでおり、前記透光性導電膜は該p型層上に、かつ、該n電極と同一面側に形成されており、前記第1パッド電極膜が帯状に形成されている、前記(1)〜(9)のいずれかに記載のGaN系発光ダイオード素子。
(12)前記n電極と前記n型層とがオーミック接触する領域が帯状とされており、該帯状の領域と前記帯状の第1パッド電極膜とが略平行である、前記(11)に記載のGaN系発光ダイオード素子。
(13)前記透光性導電膜が導電性酸化物膜を含む、前記(1)〜(12)のいずれかに記載のGaN系発光ダイオード素子。
(14)前記透光性導電膜がITO膜を含む、前記(13)に記載のGaN系発光ダイオード素子。
【発明の効果】
【0008】
本発明の好適な実施形態にかかるGaN系発光ダイオード素子は、透光性導電膜上に形成されたパッド電極が、該透光性導電膜に接する第1パッド電極膜と、該第1パッド電極膜上に形成された第2パッド電極膜とを有しており、前記導電性酸化物膜上から前記第1パッド電極膜上にかけて連続するように形成された絶縁保護膜の一部が、前記第1パッド電極膜と前記第2パッド電極膜との間に挟まれていることから、絶縁保護膜の剥離が発生し難い、信頼性の高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係るGaN系発光ダイオード素子の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るGaN系発光ダイオード素子の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るGaN系発光ダイオード素子の構造図であり、図3(a)は平面図、図3(b)は図3(a)のX−X線の位置における断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るGaN系発光ダイオード素子の構造図であり、図4(a)は平面図、図4(b)は図4(a)のX−X線の位置における断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るGaN系発光ダイオード素子の構造図であり、図5(a)は平面図、図5(b)は図5(a)のX−X線の位置における断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るGaN系発光ダイオード素子の断面図である。
【図7】従来のGaN系発光ダイオード素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係るGaN系発光ダイオード素子(以下「GaN系LED」ともいう。)の断面図である。図1に示すGaN系LED10は、基板11上に形成されたGaN系半導体層12を有している。GaN系半導体層12は、互いに導電型の異なる第1の層12−1と第2の層12−2とを備えた積層体である。好ましくは、第1の層12−1をn型層とし、第2の層12−2をp型層とする。発光効率を高くするには、これらの層の接合部に活性層を設けて、ダブルヘテロ構造が構成されるようにする。好ましくは、該活性層の構造を、単一量子井戸構造または多重量子井戸構造とする。部分的に露出した第1の層12−1の表面上には、下部電極13が形成されている。GaN系半導体層12上には、透光性導電膜14が形成されており、透光性導電膜14上には、上部電極であるパッド電極15と、絶縁保護膜16とが形成されている。パッド電極15は、透光性導電膜14に接する第1パッド電極膜15−1と、該第1パッド電極膜上に形成された、第2パッド電極膜15−2とを有している。絶縁保護膜16は、透光性導電膜14上から第1パッド電極膜15−1上にかけて連続するように形成されており、その一部は、第1パッド電極膜15−1と第2パッド電極膜15−2との間に挟まれている。
【0011】
透光性導電膜14は、GaN系半導体からなる第2の層12−2とオーミック接触し、かつ、当該GaN系LED10の主発光波長において透光性を有する導電膜である。好適な実施形態では、透光性導電膜14は導電性酸化物膜とされる。特に好ましい導電性酸化物は、インジウム(In)、錫(Sn)および亜鉛(Zn)から選ばれる少なくともひとつの元素を含む。具体的には、ITO(インジウム錫酸化物)、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、IZO(インジウム亜鉛酸化物)などである。透光性導電膜14を導電性酸化物膜とする場合の、その形成方法に限定はなく、従来公知の方法を任意に使用することができる。具体的には、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、レーザアブレーション法、CVD法、スプレー法などが例示される。透光性導電膜14を導電性酸化物膜とする場合には、特許文献1などを参考にして、これを多層膜構造としてもよく、その場合、層毎に異なる方法で形成してもよい。透光性導電膜14は、また、金(Au)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、コバルト(Co)、クロム(Cr)などの金属からなる薄膜であってもよいし、導電性酸化物膜と金属薄膜との積層体であってもよい。
【0012】
パッド電極15を構成する第1パッド電極膜15−1および第2パッド電極膜15−2の材料は、特に限定されるものではなく、通常、電極として用いられる金属を使用することができる。具体的には、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、タングステン(W)、ランタン(La)、銅(Cu)、銀(Ag)、イットリウム(Y)などの単体、または、これらから選ばれるひとつ以上を含む合金が挙げられる。第1パッド電極膜15−1および第2パッド電極膜15−2のそれぞれは、単層膜であってもよいし、多層膜であってもよい。第1パッド電極膜15−1および第2パッド電極膜15−2の形成は、蒸着、スパッタリング、CVDな
ど、金属膜の形成方法として周知の方法を用いて行うことができる。
【0013】
好ましくは、第1パッド電極15−1の少なくとも透光性導電膜14と接する部分を、透光性導電膜14との密着性が良好となる金属で形成するとともに、第2パッド電極15−2の少なくとも表面部分を、ボンディング材料との接合に適した金属で形成する。具体的には、第1パッド電極15−1の透光性導電膜14と接する部分は、Ti、WまたはNiの単体もしくは合金で形成することが好ましく、特に好ましい実施形態では、該部分をTiとWからなる2元合金で形成する。また、第2パッド電極15−2の少なくとも表面部分は、金(Au)、アルミニウム(Al)、錫(Sn)または白金族元素(Pt、Pd、Rh、Ru、Os、Ir)から選ばれる金属の単体、または、該金属を主成分とする合金で形成する。
【0014】
絶縁保護膜16の材料は特に限定されるものではなく、通常、絶縁保護膜として用いられる無機絶縁体を使用することができる。具体的には、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)などの金属の、酸化物、窒化物または酸窒化物が例示される。絶縁保護膜16は多層膜としてもよい。絶縁保護膜16の形成は、蒸着、スパッタリング、CVD、スピンコーティングなど、無機絶縁膜の形成方法として周知の方法を適宜用いて行うことができる。
【0015】
第1パッド電極膜15−1と第2パッド電極膜15−2の膜厚は特に限定されないが、絶縁保護膜17の剥離防止のためには、絶縁保護膜と金属製のパッド電極との接触面積を小さくした方がよいと考えられることから、第1パッド電極膜15−1の厚さを第2パッド電極膜15−2の厚さよりも小さくすることが好ましい。また、第1パッド電極膜15−1の膜厚は、例えば、0.001μm〜5μmとすることができるが、好ましくは0.5μm以下であり、より好ましくは0.3μm以下であり、更に好ましくは0.1μm以下である。第2パッド電極膜15−2の膜厚は、例えば、0.1μm〜20μmとすることができる。ボンディング時に透光性導電膜14やその下のGaN系半導体層12が受ける機械的または熱的なダメージを緩和するには、第1パッド電極膜15−1の厚さと第2パッド電極膜15−2の厚さの合計を、1μm以上とすることが好ましく、2μm以上とすることがより好ましい。好ましい構成例では、第1パッド電極膜15−1の厚さを0.5μm以下とし、第2パッド電極膜15−2の厚さを1μm以上とする。
【0016】
素子を平面視したときの、第1パッド電極膜15−1と第2パッド電極膜15−2の形状およびサイズは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。第2パッド電極膜15−2の形状およびサイズは、ボンディングが可能となるように設定する必要がある。ワイヤボンディング用とする場合、第2パッド電極膜15−2は、円形、正方形またはこれらに類した形状とし、直径60μmの円を包含するサイズとすることが望ましい。一方、第1パッド電極膜15−1のサイズは、該第1パッド電極膜と透光性導電膜14との接触抵抗がLEDの駆動電圧に実質的な影響を与えない範囲で、できるだけ小さくすることが好ましい。そのようにすることで、GaN系半導体層12の内部で発生する光を第1パッド電極膜15−1が吸収することによる損失を抑えることができる。従って、好適な実施形態においては、素子を平面視したときの、第1パッド電極膜15−1の面積を、第2パッド電極膜15−2の面積よりも小さくする。
【0017】
図7に示す従来のGaN系LED100と比較した場合、GaN系LED10の第2パッド電極膜15−2は、GaN系LED100のパッド電極105よりも、サイズを小さくできるという利点がある。GaN系LED100では、パッド電極105の上面の一部(縁部)を覆うように絶縁保護膜106を形成することから、ボンディングに使用できるパッド電極上面の領域が狭くなるので、その分だけ、パッド電極105を大きく形成する必
要がある。これに対して、GaN系LED10では、第2パッド電極膜15−2の上面全体をボンディングに使用できることから、そのサイズを必要最小限に抑えることが可能となる。そのため、GaN系LED10では、GaN系LED100に比べて、パッド電極の光吸収による損失を低減することが可能となる。
【0018】
好適な実施形態では、第1パッド電極膜15−1の、透光性導電膜14と接する部分に、透光性導電膜14との密着性が良好な金属からなる透光性の密着層(以下「第1密着層」という。)を設けるとともに、その上に、第1密着層よりも良好な光反射性を有する反射層を形成してもよい。この反射層は、第1パッド電極膜15−1に含まれてもよいし、第2パッド電極膜15−2に含まれてもよい。かかる構成とすることによって、パッド電極15を透光性導電膜14から剥離し難くすると同時に、パッド電極15の光吸収による損失を低減することができる。第1密着層の好ましい材料としては、Ti、WまたはNiの単体、または、このうちのひとつ以上の金属を含む合金が挙げられる。TiとWからなる2元合金は、第1密着層の特に好適な材料である。第1密着層を透光性とするには、その膜厚を十分に薄くすればよく、好ましくは0.01μm以下、より好ましくは0.005μm以下とする。第1密着層には、微小な開口部を多数形成することによって、透光性を与えることもできる。反射層の好適な材料としては、Ag、Al、白金族元素から選ばれる金属の単体、または、該金属を主成分とする合金が例示される。
【0019】
好適な実施形態では、第1パッド電極膜15−1の、絶縁保護膜16と接する部分に、絶縁保護膜16との密着性が良好な金属からなる密着層(以下「第2密着層」という。)を設けるとともに、その下側(GaN系半導体層12側)に、この第2密着層よりも良好な光反射性を有する反射層を設けてもよい。第2密着層の好ましい材料は、前述の第1密着層の好ましい材料と同じである。
【0020】
好適な実施形態では、第2パッド電極膜15−2の、絶縁保護膜16と接する部分に、絶縁保護膜16との密着性が良好な金属からなる密着層(以下「第3密着層」という。)を設けるとともに、その上に、表面層として、該第3密着層よりもボンディング材料との接合に適したボンディング層を設けてもよい。ボンディング層は、例えば、Au層またはAl層である。Au層やAl層には、Auワイヤが強固に接合される。また、Au層には、Auを主要成分として含む共晶ハンダが強固に接合される。ボンディング層は、Sn層やSn合金層であってもよい。Sn層やSn合金層には、Snを主要成分として含む共晶ハンダが強固に接合される。ボンディング層は、白金族元素からなる層であってもよい。白金族元素からなる層の表面には酸化膜が形成され難いので、ハンダが強固に接合される。第3密着層の好ましい材料は、前述の第1密着層の好ましい材料と同じである。
【0021】
本発明のGaN系LEDは、第1パッド電極膜の直下において透光性導電膜の一部を除去し、第1パッド電極膜の下面の一部がGaN系半導体層に接するように構成したものであってもよい。図2はそのように構成したGaN系LEDの一例を示す断面図であり、この図に示すGaN系LED20では、パッド電極25を構成する第1パッド電極膜25−1の直下において、透光性導電膜24が部分的に除去されており、その透光性導電膜24が除去された部分では、第1パッド電極膜25−1の下面が、GaN系半導体層22の第2の層22−2に接している。GaN系LED20において、第1パッド電極膜25−1と第2の層22−2との接触抵抗が、透光性導電膜24と第2の層22−2との接触抵抗よりも高くなるように、第1パッド電極膜25−1の材料を選択すると、LEDの発光効率を改善することができる。そのようにすると、第1パッド電極膜25−1から第2の層22−2に直接電流が供給されないために、第1パッド電極膜25−1の直下での発光が抑制されるが、第1パッド電極膜25−1の直下での発光の多くの部分は、第1パッド電極膜25−1に吸収されて損失となることから、この発光を抑制した方が、損失を低減できるからである。同様の効果は、第1パッド電極膜25−1と第2の層22−2との間に絶
縁体を介在させることによっても得ることができる。
【0022】
本発明のGaN系LEDは、第1パッド電極膜が電流拡散のためのアーム部を有していてもよい。そのように構成したGaN系LEDの構造例を図3に示す。図3(a)は平面図、図3(b)は図3(a)のX−X線の位置における断面図である。この図に示すGaN系LED30は、基板31上に形成されたGaN系半導体層32を有している。GaN系半導体層32は、互いに導電型の異なる第1の層32−1と第2の層32−2とを備えた積層体である。第1の層32−1と第2の層32−2は、いずれ一方の層がn型層であり、他方の層がp型層であればよい。基板31は導電性を有しており、その裏面上に下部電極33が形成されている。GaN系半導体層32上には、透光性導電膜34が形成されており、透光性導電膜34上には、上部電極であるパッド電極35と、絶縁保護膜36とが形成されている。ただし、図3(a)では絶縁保護膜36の図示を省略している。パッド電極35は、透光性導電膜34に接する第1パッド電極膜35−1と、該第1パッド電極膜上に形成された、第2パッド電極膜35−2とを有している。絶縁保護膜36は、透光性導電膜34上から第1パッド電極膜35−1上にかけて連続するように形成されており、その一部は、第1パッド電極膜35−1と第2パッド電極膜35−2との間に挟まれている。図3(a)に示すように、第1パッド電極膜35−1は、第2パッド電極35−2の下になった部分から伸びるアーム部35−1aを4つ有している(破線は、第2パッド電極膜35−2の下に隠れた第1パッド電極膜35−1の輪郭線を示している)。このアーム部35−1aによって、パッド電極35に供給される電流がLEDの面方向(GaN系半導体層32の層方向)に広げられるので、GaN系半導体層32内で均一な発光が生じる。
【0023】
第1パッド電極膜に設けるアーム部は、電流拡散を促進し得るものであればよく、その形状は特に限定されない。このアーム部は、曲線状であってもよいし、分岐を有するものであってもよい。第2パッド電極膜の下になった部分から、複数のアーム部が伸びている場合、途中で結合したり、あるいは、交差しているアーム部があってもよい。また、GaN系LED30では、4本のアーム部35−1aが第2パッド電極膜35−2の下で結合し、一体となっているが、かかる構成は必須ではない。言い換えれば、第1パッド電極膜は、離間した複数の金属膜の集合体であってもよい。
【0024】
本発明のGaN系LEDは、GaN系半導体層が、n電極が形成されたn型層と、該n型層に積層されたp型層とを含んでおり、透光性導電膜がp型層上に、かつ、n電極と同一面側に形成されており、第1パッド電極膜が帯状に形成されたものであってもよい。そのように構成したGaN系LEDの構造例を図4に示す。図4(a)は平面図、図4(b)は図4(a)のX−X線の位置における断面図である。この図に示すGaN系LED40は、基板41上に形成されたGaN系半導体層42を有している。GaN系半導体層42は、n型層である第1の層42−1と、p型層である第2の層42−2とを備えた積層体である。部分的に露出した第1の層42−1の表面上には、n電極である下部電極43が形成されている。第2の層42−2上には透光性導電膜44が形成されており、透光性導電膜44上には、上部電極であるパッド電極45と、絶縁保護膜46とが形成されている。ただし、図4(a)では絶縁保護膜46の図示を省略している。パッド電極45は、透光性導電膜44に接する第1パッド電極膜45−1と、該第1パッド電極膜上に形成された、第2パッド電極膜45−2とを有している。絶縁保護膜46は、透光性導電膜44上から第1パッド電極膜45−1上にかけて連続するように形成されており、その一部は、第1パッド電極膜45−1と第2パッド電極膜45−2との間に挟まれている。図4(a)に示すように、第1パッド電極膜45−1は帯状(曲がった帯状)に形成されている(破線は、第2パッド電極膜45−2の下に隠れた第1パッド電極膜45−1の輪郭線を示している)。それによって、パッド電極45に供給される電流が、第1パッド電極膜45−1の伸長方向に広げられるので、GaN系半導体層42内で均一な発光が生じる。また
、GaN系LED40では、帯状の第1パッド電極膜45−1の長手方向のいずれの位置においても、下部電極43との間隔が略等しくされているので、下部電極43とパッド電極45との間を流れる電流が特定の経路に集中する問題が抑制されている。
【0025】
好適な実施形態においては、更に、n電極とn型層とがオーミック接触する領域が帯状となるように、かつ、該帯状の領域と、帯状の第1パッド電極膜とが略平行となるように構成してもよい。そのように構成したGaN系LEDの構造例を図5に示す。図5(a)は平面図、図5(b)は図5(a)のX−X線の位置における断面図である。この図に示すGaN系LED50は、基板51上に形成されたGaN系半導体層52を有している。GaN系半導体層52は、n型層である第1の層52−1と、p型層である第2の層52−2とを備えた積層体である。部分的に露出した第1の層52−1の表面上には、n電極である下部電極53が形成されている。下部電極53は、第1の層52−1に接する第1下部電極膜53−1と、その上に形成された第2下部電極膜53−2とを有している。第1下部電極膜53−1は、第1の層52−1とオーミック接触している。第2の層52−2上には透光性導電膜54が形成されており、透光性導電膜54上には、上部電極であるパッド電極55と、絶縁保護膜56とが形成されている。ただし、図5(a)では絶縁保護膜56の図示を省略している。パッド電極55は、透光性導電膜54に接する第1パッド電極膜55−1と、該第1パッド電極膜上に形成された、第2パッド電極膜55−2とを有している。絶縁保護膜56は、透光性導電膜54上から第1パッド電極膜55−1上にかけて連続するように形成されており、その一部は、第1パッド電極膜55−1と第2パッド電極膜55−2との間に挟まれている。図5(a)に示すように、第1下部電極53−1は帯状(直線的な帯状)に形成されており(破線は、第2下部電極膜53−2の下に隠れた第1下部電極膜53−1の輪郭線を示している)、また、第1パッド電極膜55−1も帯状(直線的な帯状)に形成されている(破線は、第2パッド電極膜55−2の下に隠れた第1パッド電極膜55−1の輪郭線を示している)。下部電極53に供給される電流が、第1下部電極膜53−1の伸長方向に広げられ、また、パッド電極54に供給される電流が第1パッド電極膜55−1の伸長方向に広げられるので、GaN系半導体層52内で均一な発光が生じる。また、GaN系LED50では、帯状の第1下部電極膜53−1および第1パッド電極膜55−1が略平行であるために、下部電極53とパッド電極55との間を流れる電流が特定の経路に集中する問題が抑制されている。
【0026】
図1に示すGaN系LED10を製造するにあたり、基板11上にGaN系半導体層12を形成する方法としては、基板11上にMOVPE法などの気相成長法によってGaN系半導体結晶を成長させて、GaN系半導体層12を形成する方法が挙げられる。この方法を用いる場合の基板11としては、サファイア、スピネル、SiC、Si、GaN、GaAs、ZnO、ZrB、TiBなどからなる結晶基板が好適に例示される。他の方法として、基板11とは異なる結晶基板上にGaN系半導体層12をMOVPE法などの方法により形成したうえで、ウェハボンディングの技術により、このGaN系半導体層12を基板11に接合させる方法が挙げられる。その場合、ウェハ同士を直接接合する方法と、接着剤を用いて接合する方法の、いずれを用いることもできる。接合後、GaN系半導体層12の形成に用いた結晶基板を、レーザリフトオフ、研磨、エッチングなどの方法により除去する。更に他の方法では、基板11を、GaN系半導体層12上に電解メッキまたは無電解メッキにより堆積する。この方法は、基板11を金属材料で形成する場合に適用が可能である。
【実施例】
【0027】
実施例として作製したGaN系LEDの断面図を図6に示す。GaN系LED60は、サファイア基板61の上に、GaNバッファ層(図示せず)、不純物無添加のGaN層62a、SiドープGaNからなるn型コンタクト層62b、InGaN/GaN多重量子井戸からなる活性層62c、MgドープAlGaNからなるp型クラッド層62d、Mgド
ープGaNからなるp型コンタクト層62eを、この順に積層した構成を有している。部分的に露出したn型コンタクト層62aの表面には、第1下部電極膜63−1と第2下部電極膜63−2とからなる下部電極63が形成されている。p型コンタクト層62e上には、その略全面を覆うように、ITO(インジウム錫酸化物)からなる透光性導電膜64が形成されている。透光性導電膜64上の一部には、パッド電極65と、酸化ケイ素からなる絶縁保護膜66が形成されている。パッド電極65は、第1パッド電極膜65−1と、第2パッド電極膜65−2とから構成されている。絶縁保護膜66は、透光性導電膜64上から第1パッド電極膜65−1上にかけて連続するように形成されており、その一部は、第1パッド電極膜65−1と第2パッド電極膜65−2との間に挟まれている。絶縁保護膜66は、活性層62cの端面やn型コンタクト層62bの露出面も覆うように形成されており、その一部は第1下部電極膜63−1上に達していて、第1下部電極膜63−1と第2下部電極膜63−2との間に挟まれている。
【0028】
GaN系LED60を次のようにして作製した。
(GaN系半導体層の形成)
直径2インチ、厚さ400μmのC面サファイア基板61を準備し、その表面上に、通常のMOVPE法を用いて、GaN低温バッファ層を20nm、GaN層62aを1.5μm、n型コンタクト層62bを2μm、活性層62cを72nm(障壁層10nm+井戸層3nm+障壁層10nm+井戸層3nm+障壁層10nm+井戸層3nm+障壁層10nm+井戸層3nm+障壁層20nm)、p型クラッド層62dを50nm、p型コンタクト層62eを100nmの膜厚で、この順に成長させて積層し、ウェハを作製した。得られたウェハを、窒素雰囲気中、700℃にてアニールし、p型クラッド層62dおよびp型コンタクト層62eを低抵抗化した。
【0029】
(透光性導電膜の形成)
電子ビーム蒸着法を用いて、p型コンタクト層62e上に透光性導電膜64とするためのITO膜を400nmの膜厚で形成した。形成後、エッチングにより不要部分を除去することにより、このITO膜を所定形状にパターニングした。
【0030】
(電極の形成)
透光性導電膜64を形成したウェハの表面に所定形状のマスクを形成し、マスクの上からエッチングを行って、n型コンタクト層62bの一部を露出させた。次に、露出したn型コンタクト層62bの表面上および透光性導電膜64上に、厚さ100nmのTiW層と厚さ100nmのAu層と厚さ30nmのTi層をこの順に形成して積層し、第1下部電極膜63−1と第1パッド電極膜65−1とを同時に形成した。これらの電極膜は、リフトオフ法によって、直径90μmの円形に成形した。TiW層の成膜に用いた方法はRFスパッタ法で、ターゲットには三菱マテリアル株式会社製のTi−Wターゲット(品名:W−10wt%Tiターゲット)を用い、スパッタガスにはアルゴン(Ar)を用いた。Au層とTi層の形成は電子ビーム蒸着法により行ったが、スパッタリング法を用いることも可能である。次に、プラズマCVD法を用いて、GaN系半導体層62を形成した側のウェハ表面全体を覆うように、酸化ケイ素からなる膜厚200nmの絶縁保護膜66を形成した。次に、絶縁保護膜66上に所定形状のマスクを形成したうえで、テトラフルオロメタン(CF4)をエッチングガスに用いた反応性イオンエッチング(RIE)を行って絶縁保護膜66の一部を除去し、第1下部電極膜63−1上および第1パッド電極膜65−1上に直径70μmの円形の開口部を形成した。このRIE工程では、これらの電極膜の最上層として形成したTi層をも除去し、Ti層の下に形成したAu層を上記円形の開口部に露出させた。次に、第1下部電極膜63−1上および第1パッド電極膜65−1上に、Au層とで絶縁保護膜66の一部を挟むようにして、膜厚30nmのTi層と膜厚1.5μmのAu層をこの順に形成して積層し、第2下部電極膜63−2と第2パッド電極膜65−2とを形成した。Ti層とAu層の形成には電子ビーム蒸着法を用いたが、ス
パッタリング法を用いることも可能である。
【0031】
(ウェハの分割)
電極形成の後、サファイア基板61の裏面を研削および研磨して、その厚さを80μmまで落としたうえ、通常のスクライビング法を用いてウェハを分割し、350μm角のチップ状のGaN系LED60を得た。
【0032】
本発明は、上記実施例や、その他本明細書に明示的に示した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0033】
(その他の発明の開示)
本発明者等は、ITO膜に接するTiW層を有するパッド電極が、ITO膜に対して極めて良好な密着性を示すことを見い出したことから、更に、次の発明を開示する。
(1a)導電性酸化物膜と、該導電性酸化物膜上に形成されたパッド電極とを備える半導体素子において、該パッド電極が該導電性酸化物膜に接するTiW層を有することを特徴とする、半導体素子。
(2a)前記TiW層の厚さが0.001μm〜1μmである、前記(1a)に記載の半導体素子。
(3a)前記TiW層が、W−Tiターゲットを用いたスパッタリング法により形成されたものである、前記(1a)または(2a)に記載の半導体素子。
(4a)前記W−TiターゲットのTi含有量が90wt%である、前記(3a)に記載の半導体素子。
(5a)前記パッド電極が前記TiW層上に積層された金属層を有する前記(1a)〜(4a)のいずれかに記載の半導体素子。
(6a)前記パッド電極が、前記TiW層上に表面層として積層された、Au層、Al層、Sn層、Sn合金層または白金族元素層を有する、前記(5a)に記載の半導体素子。(7a)発光素子である、前記(1a)〜(6a)のいずれかに記載の半導体素子。
(8a)前記TiW層が透光性を示す厚さに形成されるとともに、前記パッド電極が、該TiW層上に形成された、該TiW層よりも光反射性に優れた金属層を有する、前記(7a)に記載の半導体素子。
(9a)前記光反射性に優れた金属層が、Ag、Alまたは白金族元素から選ばれる金属、または、該金属を主成分とする合金で形成されている、前記(8a)に記載の半導体素子。
(10a)前記導電性酸化物膜が非晶質である、前記(7a)〜(9a)のいずれかに記載の半導体素子。
(11a)前記導電性酸化物膜が多結晶質であるとともに、研磨により平坦化された表面を有しており、前記パッド電極が該平坦化された表面上に形成されている、前記(7a)〜(10a)のいずれかに記載の半導体素子。
(12a)前記導電性酸化物膜がITO膜である、前記(1a)〜(11a)のいずれかに記載の半導体素子。
(13a)前記導電性酸化物膜がGaN系半導体層上に形成されている、前記(1a)〜(12a)のいずれかに記載の半導体素子。
(14a)前記GaN系半導体層は、オーミック電極が形成されたn型層と、該n型層に積層されたp型層とを含んでおり、前記導電性酸化物膜が該p型層上に、かつ、該オーミック電極と同一面側に形成されており、該オーミック電極と前記パッド電極の断面構造が同一である、前記(13a)に記載の半導体素子。
なお、上記(1a)〜(14a)の発明にいうTiW層とは、実質的にチタン(Ti)とタングステン(W)のみからなる合金(ただし、発明の効果に影響しない限度で不純物を含有するものを含む)で形成された層をいう。
【符号の説明】
【0034】
10、20、30、40、50、60 GaN系発光ダイオード素子
11、21、31、41、51、61 基板
12、22、32、42、52、62 GaN系半導体層
13、23、33、43、53、63 下部電極
14、24、34、44、54、64 透光性導電膜
15、25、35、45、55、65 パッド電極
16、26、36、46、56、66 絶縁保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n電極が形成されたn型層と該n型層に積層されたp型層とを含むGaN系半導体積層体と、該p型層上に形成された透光性導電膜と、該透光性導電膜上に形成されたパッド電極とを有し、該n電極と該透光性導電膜とが同一面側に配置されたGaN系発光ダイオード素子であって、
前記パッド電極と前記透光性導電膜とが接する領域を第1領域としたとき、該第1領域が絶縁膜によって帯状に制限されており、
前記n電極と前記n型層とがオーミック接触する領域を第2領域としたとき、該第2領域が絶縁膜によって帯状に制限されており、
該第1領域と該第2領域とが略平行である、GaN系発光ダイオード素子。
【請求項2】
n電極が形成されたn型層と該n型層に積層されたp型層とを含むGaN系半導体積層体と、該p型層に接続された電極とを有し、該n電極と該p型層に接続された電極とが同一面側に配置されたGaN系発光ダイオード素子であって、
前記n電極は前記n型層に接する第1n電極膜と、その上に形成された第2n電極膜とを有しており、
前記n型層と前記第2n電極膜との間に絶縁膜が、前記第2n電極膜の一部と重なるように設けられている、GaN系発光ダイオード素子。
【請求項3】
前記絶縁膜によって前記n型層と前記n電極とが接触する領域の形状が制限された、請求項2に記載のGaN系発光ダイオード素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−191232(P2012−191232A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−128434(P2012−128434)
【出願日】平成24年6月5日(2012.6.5)
【分割の表示】特願2007−14370(P2007−14370)の分割
【原出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】