説明

H7型トリインフルエンザウイルスの検出方法

【課題】H7型トリインフルエンザウイルスの検出方法の提供。
【解決手段】以下の塩基配列(a)及び(b)から成るインナープライマーセット、並びに、以下の塩基配列(c)及び(d)から成るアウタープライマーセット、を備えることを特徴とするオリゴヌクレオチドプライマーセット。
(a)5’−(配列番号49の塩基配列に相補的な塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号50の塩基配列)−3’。
(b)5’−(配列番号52の塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号53の塩基配列に相補的な塩基配列)−3’。
(c)配列番号51の塩基配列。
(d)配列番号57の塩基配列。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、H7型トリインフルエンザウイルスの検出法方法に関し、さらに詳しくは、H7型トリインフルエンザウイルスを検出するためのオリゴヌクレオチドプライマー、当該プライマーを用いたH7型トリインフルエンザウイルスの検出方法、インフルエンザの診断方法及びインフルエンザを診断するためのキットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザは流行性のウイルス性呼吸器感染症であり、乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層が罹患し、しばしば致命的である。現在、トリに感染して問題となっているH5型トリインフルエンザウイルスは、本来ならばヒトに感染しないものである。しかし、1997年に香港でヒトへの感染が確認され、18名の患者のうち6名が死亡するまでの流行となった。それ以降のヒトへの感染は幸い確認されていなかったが、2004年に入ってから、タイやベトナムでヒトへの感染が確認されており、タイでは8名、ベトナムでは16名の死亡者が出ている。
【0003】
高病原性のトリインフルエンザウイルスは、H5型のほかにH7型が存在し、H7型は、その配列によって、ユーラシア型とアメリカ型に大きく2分される。2003年にオランダで流行した際には死亡者が1名報告されており、アメリカでも2003年から2004年にかけてH7型トリインフルエンザウイルスの流行が報告されている。
【0004】
現在、トリインフルエンザウイルスの検出には、ヒトのA型インフルエンザウイルス迅速診断キットが用いられている。しかし、どの亜型のウイルスに感染したかの同定には、分離されたウイルスの抗原解析や遺伝子検査などのさらに詳しい解析を必要としていた。
【0005】
確実な結果が得られるウイルス分離培養による診断は、数日を要するために迅速な診断を行うことができない。ウイルス分離と比較して迅速な診断が可能な方法がいくつかあるが、その中でもRT−PCR法は、他の方法と比較して検出感度が高いとされている。しかし、現在公開されているRT−PCR法では、ウイルスの感染価と比較して高い感度でウイルスを検出することができないとの報告があり、RT−PCR法による検査で陰性となってもトリインフルエンザウイルスへの感染が否定されるわけではない。
【0006】
そこで、迅速かつ高感度にH5型及びH7型トリインフルエンザウイルスを検出できる検査法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1310565号明細書
【特許文献2】公表2004−509648号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Lau LT., et al., Biochem.Biophys. Res. Commun., vol. 313, p.336-342 (2004)
【非特許文献2】Shang S., et al., Biochem.Biophys. Res. Commun., vol. 302, p.377-383 (2003)
【非特許文献3】Collins RA., et al., Biochem.Biophys. Res. Commun., vol. 300, p.507-515 (2003)
【非特許文献4】Lee MS., et al., J. Virol.Methods, vol. 97, p.13-22 (2001)
【非特許文献5】Munch M., et al., Arch.Virol., vol. 146, p.87-97 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、H5型又はH7型トリインフルエンザウイルスに特異的な塩基配列とハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを作製し、LAMP(loop-mediated isothermal amplification)法によりH5型又はH7型トリインフルエンザウイルスに特異的な塩基配列を増幅することで、H5型又はH7型トリインフルエンザウイルスを高感度に検出できることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(8)を提供する。
(1) 配列番号1で示されるH5型トリインフルエンザウイルスのヘマグルチニン塩基配列の、693番〜959番の塩基配列から選ばれた任意の塩基配列、又はそれらと相補的な塩基配列から設計されたオリゴヌクレオチドプライマー。
(2) 以下の(a)〜(c)より選ばれたオリゴヌクレオチドを含む、(1)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)配列番号2〜7で示される塩基配列又はそれらと相補的な塩基配列から選ばれた、少なくとも連続する15塩基を含むオリゴヌクレオチド。
(b)前記(a)に記載のオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうるオリゴヌクレオチド。
(c)前記(a)又は(b)に記載のオリゴヌクレオチドのうち、1ないし数個の塩基が置換、欠失、挿入もしくは付加された塩基配列を含み、プライマー機能を有するオリゴヌクレオチド。
(3) H5型トリインフルエンザウイルスのヘマグルチニンの標的核酸上の3’末端側からF3c、F2c、F1cという塩基配列領域を、5’末端側からB3、B2、B1という塩基配列領域を選択し、それぞれの相補的塩基配列をF3、F2、F1、そしてB3c、B2c、B1cとしたときに、以下の(a)〜(d)から選ばれた塩基配列から成ることを特徴とする(1)〜(2)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)標的核酸のF2領域を3’末端側に有し、5’末端側に標的核酸のF1c領域を有する塩基配列。
(b)標的核酸のF3領域を有する塩基配列。
(c)標的核酸のB2領域を3’末端側に有し、5’末端側に標的核酸のB1c領域を有する塩基配列。
(d)標的核酸のB3領域を有する塩基配列。
(4) H5型トリインフルエンザウイルスに特異的な塩基配列を増幅でき、5’末端から3’末端に向かい以下の(a)〜(b)から選ばれた塩基配列から成ることを特徴とする(1)〜(3)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)5’−(配列番号2の塩基配列に相補的な塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号3の塩基配列)−3’。
(b)5’−(配列番号5の塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号6の塩基配列に相補的な塩基配列)−3’。
(5) (1)〜(4)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、H5型トリインフルエンザウイルスの標的核酸領域の増幅反応を行うことを特徴とするH5型トリインフルエンザウイルスの検出方法。
(6) H5型トリインフルエンザウイルスの標的核酸領域の増幅反応がLAMP法であることを特徴とする(5)記載のH5型トリインフルエンザウイルスの検出方法。
(7) (1)〜(4)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてH5型トリインフルエンザウイルスの標的核酸領域の増幅を検出することにより、H5型トリインフルエンザウイルス感染の有無を診断することを特徴とするインフルエンザの診断方法。
(8) インフルエンザを診断するための、(1)〜(4)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを含むことを特徴とするキット。
【0011】
本発明は、また、以下の(9)〜(16)を提供する。
(9) 配列番号1で示されるH5型トリインフルエンザウイルスのヘマグルチニン塩基配列の、19番〜220番の塩基配列から選ばれた任意の塩基配列、又はそれらと相補的な塩基配列から設計されたオリゴヌクレオチドプライマー。
(10) 以下の(a)〜(c)より選ばれたオリゴヌクレオチドを含む、(9)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)配列番号13〜18で示される塩基配列又はそれらと相補的な塩基配列から選ばれた、少なくとも連続する15塩基を含むオリゴヌクレオチド。
(b)前記(a)に記載のオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうるオリゴヌクレオチド。
(c)前記(a)又は(b)に記載のオリゴヌクレオチドのうち、1ないし数個の塩基が置換、欠失、挿入もしくは付加された塩基配列を含み、プライマー機能を有するオリゴヌクレオチド。
(11) H5型トリインフルエンザウイルスのヘマグルチニンの標的核酸上の3’末端側からF3c、F2c、F1cという塩基配列領域を、5’末端側からB3、B2、B1という塩基配列領域を選択し、それぞれの相補的塩基配列をF3、F2、F1、そしてB3c、B2c、B1cとしたときに、以下の(a)〜(d)から選ばれた塩基配列から成ることを特徴とする(9)〜(10)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)標的核酸のF2領域を3’末端側に有し、5’末端側に標的核酸のF1c領域を有する塩基配列。
(b)標的核酸のF3領域を有する塩基配列。
(c)標的核酸のB2領域を3’末端側に有し、5’末端側に標的核酸のB1c領域を有する塩基配列。
(d)標的核酸のB3領域を有する塩基配列。
(12) H5型トリインフルエンザウイルスに特異的な塩基配列を増幅でき、5’末端から3’末端に向かい以下の(a)〜(b)から選ばれた塩基配列から成ることを特徴とする(9)〜(11)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)5’−(配列番号13の塩基配列に相補的な塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号14の塩基配列)−3’。
(b)5’−(配列番号16の塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号17の塩基配列に相補的な塩基配列)−3’。
(13) (9)〜(12)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、H5型トリインフルエンザウイルスの標的核酸領域の増幅反応を行うことを特徴とするH5型トリインフルエンザウイルスの検出方法。
(14) H5型トリインフルエンザウイルスの標的核酸領域の増幅反応がLAMP法であることを特徴とする(13)記載のH5型トリインフルエンザウイルスの検出方法。
(15) (9)〜(12)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてH5型トリインフルエンザウイルスの標的核酸領域の増幅を検出することにより、H5型トリインフルエンザウイルス感染の有無を診断することを特徴とするインフルエンザの診断方法。
(16) インフルエンザを診断するための、(9)〜(12)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを含むことを特徴とするキット。
【0012】
本発明は、また、以下の(17)〜(24)を提供する。
(17) 配列番号1で示されるH5型トリインフルエンザウイルスのヘマグルチニン塩基配列の、114番〜333番の塩基配列から選ばれた任意の塩基配列、又はそれらと相補的な塩基配列から設計されたオリゴヌクレオチドプライマー。
(18) 以下の(a)〜(c)より選ばれたオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする(17)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)配列番号24〜29で示される塩基配列又はそれらと相補的な塩基配列から選ばれた、少なくとも連続する15塩基を含むオリゴヌクレオチド。
(b)前記(a)に記載のオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうるオリゴヌクレオチド。
(c)前記(a)又は(b)に記載のオリゴヌクレオチドのうち、1ないし数個の塩基が置換、欠失、挿入もしくは付加された塩基配列を含み、プライマー機能を有するオリゴヌクレオチド。
(19) H5型トリインフルエンザウイルスのヘマグルチニンの標的核酸上の3’末端側からF3c、F2c、F1cという塩基配列領域を、5’末端側からB3、B2、B1という塩基配列領域を選択し、それぞれの相補的塩基配列をF3、F2、F1、そしてB3c、B2c、B1cとしたときに、以下の(a)〜(d)から選ばれた塩基配列から成ることを特徴とする(17)〜(18)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)標的核酸のF2領域を3’末端側に有し、5’末端側に標的核酸のF1c領域を有する塩基配列。
(b)標的核酸のF3領域を有する塩基配列。
(c)標的核酸のB2領域を3’末端側に有し、5’末端側に標的核酸のB1c領域を有する塩基配列。
(d)標的核酸のB3領域を有する塩基配列。
(20) H5型トリインフルエンザウイルスに特異的な塩基配列を増幅でき、5’末端から3’末端に向かい以下の(a)〜(b)から選ばれた塩基配列から成ることを特徴とする(17)〜(19)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)5’−(配列番号24の塩基配列に相補的な塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号25の塩基配列)−3’。
(b)5’−(配列番号27の塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号28の塩基配列に相補的な塩基配列)−3’。
(21) (17)〜(20)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、H5型トリインフルエンザウイルスの標的核酸領域の増幅反応を行うことを特徴とするH5型トリインフルエンザウイルスの検出方法。
(22) H5型トリインフルエンザウイルスの標的核酸領域の増幅反応がLAMP法であることを特徴とする(21)記載のH5型トリインフルエンザウイルスの検出方法。
(23) (17)〜(20)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてH5型トリインフルエンザウイルスの標的核酸領域の増幅を検出することにより、H5型トリインフルエンザウイルス感染の有無を診断することを特徴とするインフルエンザの診断方法。
(24) インフルエンザを診断するための、(17)〜(20)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを含むことを特徴とするキット。
【0013】
本発明は、また、以下の(25)〜(32)を提供する。
(25) 配列番号1で示されるH5型トリインフルエンザウイルスのヘマグルチニン塩基配列の、874番〜1065番の塩基配列から選ばれた任意の塩基配列、又はそれらと相補的な塩基配列から設計されたオリゴヌクレオチドプライマー。
(26) 以下の(a)〜(c)より選ばれたオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする(25)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)配列番号35〜40で示される塩基配列又はそれらと相補的な塩基配列から選ばれた、少なくとも連続する15塩基を含むオリゴヌクレオチド。
(b)前記(a)に記載のオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうるオリゴヌクレオチド。
(c)前記(a)又は(b)に記載のオリゴヌクレオチドのうち、1ないし数個の塩基が置換、欠失、挿入もしくは付加された塩基配列を含み、プライマー機能を有するオリゴヌクレオチド。
(27) H5型トリインフルエンザウイルスのヘマグルチニンの標的核酸上の3’末端側からF3c、F2c、F1cという塩基配列領域を、5’末端側からB3、B2、B1という塩基配列領域を選択し、それぞれの相補的塩基配列をF3、F2、F1、そしてB3c、B2c、B1cとしたときに、以下の(a)〜(d)から選ばれた塩基配列から成ることを特徴とする(25)〜(26)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)標的核酸のF2領域を3’末端側に有し、5’末端側に標的核酸のF1c領域を有する塩基配列。
(b)標的核酸のF3領域を有する塩基配列。
(c)標的核酸のB2領域を3’末端側に有し、5’末端側に標的核酸のB1c領域を有する塩基配列。
(d)標的核酸のB3領域を有する塩基配列。
(28) H5型トリインフルエンザウイルスに特異的な塩基配列を増幅でき、5’末端から3’末端に向かい以下の(a)〜(b)から選ばれた塩基配列から成ることを特徴とする(25)〜(27)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)5’−(配列番号35の塩基配列に相補的な塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号36の塩基配列)−3’。
(b)5’−(配列番号38の塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号39の塩基配列に相補的な塩基配列)−3’。
(29) (25)〜(28)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、H5型トリインフルエンザウイルスの標的核酸領域の増幅反応を行うことを特徴とするH5型トリインフルエンザウイルスの検出方法。
(30) H5型トリインフルエンザウイルスの標的核酸領域の増幅反応がLAMP法であることを特徴とする(29)記載のH5型トリインフルエンザウイルスの検出方法。
(31) (25)〜(28)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてH5型トリインフルエンザウイルスの標的核酸領域の増幅を検出することにより、H5型トリインフルエンザウイルス感染の有無を診断することを特徴とするインフルエンザの診断方法。
(32) インフルエンザを診断するための、(25)〜(28)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを含むことを特徴とするキット。
【0014】
本発明は、さらに以下の(33)〜(40)を提供する。
(33) 配列番号48で示されるH7型トリインフルエンザウイルスのヘマグルチニン塩基配列の、1016番〜1225番の塩基配列から選ばれた任意の塩基配列、又はそれらと相補的な塩基配列から設計されたオリゴヌクレオチドプライマー。
(34) 以下の(a)〜(c)より選ばれたオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする(33)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)配列番号49〜54で示される塩基配列又はそれらと相補的な塩基配列から選ばれた、少なくとも連続する15塩基を含むオリゴヌクレオチド。
(b)前記(a)に記載のオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうるオリゴヌクレオチド。
(c)前記(a)又は(b)に記載のオリゴヌクレオチドのうち、1ないし数個の塩基が置換、欠失、挿入もしくは付加された塩基配列を含み、プライマー機能を有するオリゴヌクレオチド。
(35) H7型トリインフルエンザウイルスのヘマグルチニンの標的核酸上の3’末端側からF3c、F2c、F1cという塩基配列領域を、5’末端側からB3、B2、B1という塩基配列領域を選択し、それぞれの相補的塩基配列をF3、F2、F1、そしてB3c、B2c、B1cとしたときに、以下の(a)〜(d)から選ばれた塩基配列から成ることを特徴とする(33)〜(34)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)標的核酸のF2領域を3’末端側に有し、5’末端側に標的核酸のF1c領域を有する塩基配列。
(b)標的核酸のF3領域を有する塩基配列。
(c)標的核酸のB2領域を3’末端側に有し、5’末端側に標的核酸のB1c領域を有する塩基配列。
(d)標的核酸のB3領域を有する塩基配列。
(36) H7型トリインフルエンザウイルスに特異的な塩基配列を増幅でき、5’末端から3’末端に向かい以下の(a)〜(b)から選ばれた塩基配列から成ることを特徴とする(33)〜(35)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)5’−(配列番号49の塩基配列に相補的な塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号50の塩基配列)−3’。
(b)5’−(配列番号52の塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号53の塩基配列に相補的な塩基配列)−3’。
(37) (33)〜(36)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、H7型トリインフルエンザウイルスの標的核酸領域の増幅反応を行うことを特徴とするH7型トリインフルエンザウイルスの検出方法。
(38) H7型トリインフルエンザウイルスの標的核酸領域の増幅反応がLAMP法であることを特徴とする(37)記載のH7型トリインフルエンザウイルスの検出方法。
(39) (33)〜(36)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてH7型トリインフルエンザウイルスの標的核酸領域の増幅を検出することにより、H7型トリインフルエンザウイルス感染の有無を診断することを特徴とするインフルエンザの診断方法。
(40) インフルエンザを診断するための、(33)〜(36)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを含むことを特徴とするキット。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、H5型又はH7型トリインフルエンザウイルスに特異的な塩基配列と選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを作製し、LAMP法によりH5型又はH7型トリインフルエンザウイルスに特異的な塩基配列を増幅することで、H5型又はH7型トリインフルエンザウイルスを高感度かつ迅速に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】H5型トリインフルエンザウイルス用プライマーセットの特異性試験の結果を表すグラフである。(a),(b),(c)及び(d)は、それぞれ、プライマーセットA,B,C及びDを用いた場合の結果を表している。NCはネガティブコントロールを、H1はNew Caledoniaを、H3はPanamaを、PCはポジティブコントロール(H5型プラスミドDNA)を表す。
【図2】H5型トリインフルエンザウイルス用プライマーセットの感度試験の結果を表すグラフである。(a),(b),(c)及び(d)は、それぞれ、プライマーセットA,B,C及びDを用いた場合の結果を表している。10〜10は、RNA抽出物の希釈率を表す
【図3】H5型トリインフルエンザウイルス用プライマーセットで増幅した産物の電気泳動の結果を表す図である。レーン1は100bp ladder markerであり、レーン2はLAMP産物のサンプルであり、レーン3はLAMP産物をDdeIで処理したサンプルである。
【図4】H5型トリインフルエンザウイルス用プライマーセットの交差試験の結果を表すグラフである。B-sdはB/Shangdong/07/97を、B-shはB/Shanghai/361/2002を、AIV-H1等はトリインフルエンザウイルスH1等を、それぞれ表す。
【図5】H7型トリインフルエンザウイルス用プライマーセットの反応性確認試験の結果を表すグラフである。250、100、50はRNAの添加量(コピー/アッセイ)を表し、NCは陰性対照を表す。
【図6】H7型トリインフルエンザウイルス用プライマーセットで増幅した産物の電気泳動の結果を表す図である。レーンMは100bp ladder markerであり、レーン1はLAMP産物のサンプルであり、レーン2はLAMP産物をPstIで処理したサンプルである。
【図7】H7型トリインフルエンザウイルス用プライマーセットの交差性試験の結果を表すグラフである。H1及びH3はヒトインフルエンザウイルスH1型及びH3型を表し、B-sdはB/Shangdong/07/97を表し、B-shはB/Shanghai/361/2002を表し、AIV-H1等はトリインフルエンザウイルスH1等を表し、PCは陽性対照を表し、NCは陰性対照を表す。
【図8】様々な株に対するH7型トリインフルエンザウイルス用プライマーセットの反応性の結果を表すグラフである。(a)はA/Netherlands/219/2003を表し、(b)はA/Netherlands/33/2003を表す。10〜10は、RNA抽出物の希釈率を表す。
【図9】様々な株に対するH7型トリインフルエンザウイルス用プライマーセットの反応性の結果を表すグラフである。(a)はA/mallard/Netherlands/12/00を表し、(b)はA/wigeon/Osaka/1/2001を表す。10〜10は、RNA抽出物の希釈率を表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において使用される試料としては、インフルエンザウイルス感染が疑われる人間又は他の動物の生体由来の検体、例えば、喀痰、気管支肺胞洗浄液、鼻汁、鼻腔吸引液、鼻腔洗浄液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、うがい液、唾液、血液、血清、血漿、髄液、尿、糞便、組織などが挙げられる。また、感染実験などに用いられた細胞やその培養液、あるいは生体由来の検体や培養細胞などから分離したウイルスを含む検体なども試料となりうる。これらの試料は分離、抽出、濃縮、精製などの前処理を行っても良い。
【0018】
このような核酸の増幅は、納富らが開発した、PCR法で不可欠とされる温度制御が不要な新しい核酸増幅法:LAMP法と呼ばれるループ媒介等温増幅法(国際公開第00/28082号パンフレット)で達成される。この方法は、鋳型となるヌクレオチドに自身の3'末端をアニールさせて相補鎖合成の起点とするとともに、このとき形成されるループにアニールするプライマーを組み合わせることにより、等温での相補鎖合成反応を可能とした核酸増幅法である。また、LAMP法は、最低6つの領域を認識する4つのプライマーを使う特異性の高い核酸増幅法である。
【0019】
LAMP法で使用されるオリゴヌクレオチドプライマーは、鋳型核酸の塩基配列の計6領域、すなわち3’末端側からF3c、F2c、F1cという領域と、5’末端側からB3、B2、B1という領域の塩基配列を認識する少なくとも4種類のプライマーであって、各々インナープライマーF及びBとアウタープライマーF及びBと呼ぶ。また、F1c、F2c、F3cの相補配列をそれぞれF1、F2、F3、またB1、B2、B3の相補鎖をB1c、B2c、B3cと呼ぶ。インナープライマーとは、標的塩基配列上の「ある特定のヌクレオチド配列領域」を認識し、かつ合成起点を与える塩基配列を3'末端に有し、同時にこのプライマーを起点とする核酸合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を5’末端に有するオリゴヌクレオチドである。ここで、「F2より選ばれた塩基配列」及び「F1cより選ばれた塩基配列」を含むプライマーをインナープライマーF(以下、FIPと略す)、そして「B2より選ばれた塩基配列」と「B1cより選ばれた塩基配列」を含むプライマーをインナープライマーB(以下、BIPと略す)と呼ぶ。一方、アウタープライマーとは、標的塩基配列上の「インナープライマーが認識する領域よりも3’末端側に存在するある特定のヌクレオチド配列領域」を認識かつ合成起点を与える塩基配列を有するオリゴヌクレオチドである。ここで、「F3より選ばれた塩基配列」を含むプライマーをアウタープライマーF(以下、F3と略す)、「B3より選ばれた塩基配列」を含むプライマーをアウタープライマーB(以下、B3と略す)と呼ぶ。ここで、各プライマーにおけるFとは、標的塩基配列のセンス鎖と相補的に結合し、合成起点を提供するプライマー表示であり、一方Bとは、標的塩基配列のアンチセンス鎖と相補的に結合し、合成起点を提供するプライマー表示である。ここで、プライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドの長さは、10塩基以上、好ましくは15塩基以上で、化学合成あるいは天然のどちらでも良く、各プライマーは単一のオリゴヌクレオチドであってもよく、複数のオリゴヌクレオチドの混合物であってもよい。
【0020】
LAMP法においては、インナープライマーとアウタープライマーに加え、さらにこれとは別のプライマー、すなわちループプライマーを用いる事ができる。ループプライマー(Loop Primer)は、LAMP法による増幅生成物の同一鎖上に生じる相補的配列が互いにアニールしてループを形成するとき、該ループ内の配列に相補的な塩基配列をその3’末端に含むプライマー2種(二本鎖を構成する各々について1つずつ)をいう。このプライマーを用いると、核酸合成の起点が増加し、反応時間の短縮と検出感度の上昇が可能となる(国際公開第02/24902号パンフレット)。
【0021】
オリゴヌクレオチドは、公知の方法により製造することができ、例えば化学的に合成することができる。あるいは、天然の核酸を制限酵素などによって切断し、所望の塩基配列で構成されるように改変し、あるいは連結することも可能である。具体的には、オリゴヌクレオチド合成装置等を用いて合成することができる。また、1ないし数個の塩基が置換、欠失、挿入もしくは付加された塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの合成法も、自体公知の製法を使用することができる。例えば、部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法又はPCR法を単独又は適宜組合せて、かかるオリゴヌクレオチドを合成することが可能である。
【0022】
本明細書における「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」としては、一般に知られたものを選択することができる。ストリンジェントな条件として、例えば、50%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mM クエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハーツ溶液、10%デキストラン硫酸、及び20μg/mlのDNAを含む溶液中、42℃で一晩ハイブリダイゼーションした後、室温で2×SSC・0.1%SDS中で一次洗浄し、次いで、約65℃において0.1×SSC・0.1%SDSで二次洗浄する、という条件があげられる。
【0023】
インフルエンザウイルスはRNAウイルスである。LAMP法は鋳型がRNAの場合には、鋳型がDNAの場合の反応液に逆転写酵素を添加する事で、同様に核酸増幅反応を進めることができる(RT−LAMP法)。
【0024】
本発明者らはH5型トリインフルエンザウイルスに特異的な塩基配列を迅速に増幅できるLAMP法のプライマーの塩基配列とその組み合わせを鋭意研究した結果、H5型トリインフルエンザウイルスのヘマグルチニンの塩基配列(配列番号1で示される塩基配列)から、プライマーセットとして次のA、B、C及びDの4組を選定した。なお、これらのプライマーの配列は、既に報告されている(例えば、特許文献2)、H5型トリインフルエンザウイルスの検出のためのNASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)用のプライマーの配列とは全く異なる。
(プライマーセットA)
FIP19c:5'-ACCATATTCCAACTCACTTTTCATAATTTCATTGCTCCAGAATATGC-3' (配列番号8)
BIP5:5'-CAAACTCCAATGGGGGCATGGTGAGAGGGTGTAT-3' (配列番号9)
F3m6:5'-GGAGTTCTTCTGGACAA-3' (配列番号4)
B3m:5'-GTCGCAAGGACTAATCT-3' (配列番号10)
LF24:5'-GAGTCCCCTTTCTTGACAAT-3' (配列番号11)
LB1:5'-GATAAACTCTAGTATGCCA-3' (配列番号12)
(プライマーセットB)
FIP:5'-GGGCATGTGTAACAGTAACGTTAAACAACTCGACAGAGCA-3' (配列番号19)
BIP:5'-TGGAAAAGACACACAATGGGAACATCCAGCTACACTACAATC-3' (配列番号20)
F3:5'-CAGATTTGCATTGGTTACCA-3' (配列番号15)
B3:5'-CGTCACACATTGGGTTTC-3' (配列番号21)
LF:5'-TTCCATTATTGTGTCAACC-3' (配列番号22)
LB8:5'-CGATCTAGATGGAGTGAAGC-3' (配列番号23)
(プライマーセットC)
FIP:5'-CACATTGGGTTTCCGAGGAGATCTAGATGGAGTGAAGCC-3' (配列番号30)
BIP:5'-TTCATCAATGTGCCGGAATGGGTTGAAATCCCCTGGGTA-3' (配列番号31)
F3:5'-GGAAAAGACACACAATGGG-3' (配列番号26)
B3:5'-GCTCAATAGGTGTTTCAGTT-3' (配列番号32)
LF6:5'-CCAGCTACACTACAATCTCT-3' (配列番号33)
LB6:5'-TCCAGCCAATGACCTCTG-3' (配列番号34)
(プライマーセットD)
FIP:5'-TCGCAAGGACTAATCTGTTTGACATACACCCTCTCACCAT-3' (配列番号41)
BIP:5'-TACCCCTCAAAGAGAGAGAAGATCCTCCCTCTATAAAACCTG-3' (配列番号42)
F3:5'-TCTAGTATGCCATTCCACAA-3' (配列番号37)
B3:5'-ACCATCTACCATTCCCTG-3' (配列番号43)
LF8:5'-TCACATATTTGGGGCATTCC-3' (配列番号44)
LB8:5'-AGAGAGGACTATTTGGAGCT-3' (配列番号45)
【0025】
さらに、本発明者らはH7型トリインフルエンザウイルスに特異的な塩基配列を迅速に増幅できるLAMP法のプライマーの塩基配列とその組み合わせを鋭意研究した結果、H7型トリインフルエンザウイルスのヘマグルチニン塩基配列(配列番号48で示される塩基配列)から、以下のプライマーセットEを選定した。
(プライマーセットE)
22FIP:5'-ACCACCCATCAATCAAACCTTCTATTTGGTGCTATAGCGG-3' (配列番号55)
22BIP:5'-TTCAGGCATCAAAATGCACAAGCCTGTTATTTGATCAATTGCTG-3' (配列番号56)
22F3m:5'-TTCCCGAAATCCCAAA-3' (配列番号51)
22B3:5'-GGTTAGTTTTTTCTATAAGCCG-3' (配列番号57)
22−9LF:5'-CCCATCCATTTTCAATGAAAC-3' (配列番号58)
22−9LB:5'-ACTGCTGCAGATTACAAAAG-3' (配列番号59)
【0026】
核酸合成で使用する酵素は、鎖置換活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素であれば特に限定されない。このような酵素としては、Bst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)、Bca(exo-)DNAポリメラーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント等が挙げられ、好ましくはBstDNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)が挙げられる。
【0027】
RT−LAMP法に用いる逆転写酵素としては、RNAを鋳型としてcDNAを合成する活性を有する酵素であれば特に限定されない。このような酵素としては、AMV、Cloned AMV、MMLVの逆転写酵素、SuperscriptII、ReverTraAce、Thermoscript等が挙げられ、好ましくは、AMV又はClonedAMV逆転写酵素が挙げられる。またBca DNAポリメラーゼのように、逆転写酵素活性とDNAポリメラーゼ活性の両活性を有する酵素を用いると、RT−LAMP反応を1つの酵素で行うことができる。
【0028】
核酸合成で使用する酵素や逆転写酵素は、ウイルスや細菌などから精製されたものでも良く、遺伝子組み換え技術によって作製されたものでも良い。またこれらの酵素はフラグメント化やアミノ酸の置換などの改変をされたものでも良い。
【0029】
LAMP反応後の核酸増幅産物の検出には公知の技術が適用できる。例えば、増幅された塩基配列を特異的に認識する標識オリゴヌクレオチドや蛍光性インターカレーター法(特開2001−242169号公報)を用いて検出することができ、また、反応終了後の反応液をそのままアガロースゲル電気泳動にかけても容易に検出できる。アガロースゲル電気泳動では、LAMP増幅産物は、塩基長の異なる多数のバンドがラダー(はしご)状に検出される。また、LAMP法では核酸の合成により基質が大量に消費され、副産物であるピロリン酸イオンが、共存するマグネシウムイオンと反応してピロリン酸マグネシウムとなり、反応液が肉眼でも確認できる程に白濁する。したがって、この白濁を、反応終了後あるいは反応中の濁度上昇を経時的に光学的に観察できる測定機器、例えば400nmの吸光度変化を通常の分光光度計を用いて確認することで、核酸増幅反応を検出することも可能である(国際公開第01/83817号パンフレット)。
【0030】
本発明のプライマーを用いて核酸増幅の検出を行う際に必要な各種の試薬類は、あらかじめパッケージングしてキット化する事ができる。具体的には、本発明のプライマーあるいはループプライマーとして必要な各種のオリゴヌクレオチド、核酸合成の基質となる4種類のdNTPs、核酸合成を行うDNAポリメラーゼ、逆転写活性を持つ酵素、酵素反応に好適な条件を与える緩衝液や塩類、酵素や鋳型を安定化する保護剤、さらに必要に応じて反応生成物の検出に必要な試薬類がキットとして提供される。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0032】
実施例1:H5型トリインフルエンザウイルス用プライマーセットの反応性の確認
プライマーの反応性の確認を以下の方法で行った。LAMP法により核酸の増幅を行うための反応溶液の組成は以下の通りである。なお、プライマーの合成はQIAGEN社に依頼し、OPC(逆相カラムカートリッジ)精製したものを使用した。
20mM Tris−HCl pH8.8
10mM KCl
8mM MgSO
1.4mM dNTPs
10mM (NHSO
0.8M Betaine(SIGMA)
0.1% Tween20
1.6μM FIP
1.6μM BIP
0.2μM F3
0.2μM B3
0.8μM LF
0.8μM LB
AMV Reverse Transcriptase 2U(Finnzyme)
Bst DNA polymerase 16U(NEB)
【0033】
上記反応溶液に、H5型プラスミドDNA(HK/213/03;国立感染症研究所から供与)を10コピー加えて、62.5℃で60分間RT−LAMP反応を行った。リアルタイム濁度測定装置LA−320C(栄研化学)を用いて、リアルタイムに反応を検出した。その結果、4つのプライマーセット(プライマーセットA、B、C及びD)について増幅が確認された。
【0034】
さらに、その4セットについて、培養ウイルスであるNew Caledonia(H1N1)及びPanama(H3N2)から抽出したRNAを鋳型に使って特異性試験を行った。図1は、特異性試験の結果を表すグラフである。図1に示したように、いずれのプライマーセットを用いた場合も、H1型及びH3型の増幅は確認されなかった。以上の結果から、いずれのプライマーセットも、H5型に対する特異性が高いことが明らかとなった。
【0035】
次に、培養ウイルスであるVetnam/JP1203/04(H5N1)から抽出したRNAを使って、感度試験を行った。抽出RNAは鋳型量が不明であるため、RNasefreeの滅菌水で10〜10倍希釈したものを鋳型サンプルとして用いた。図2は、感度試験の結果を表すグラフである。プライマーセットAを用いた場合、10倍希釈したサンプルでも増幅が確認されており、最も高感度であることが明らかとなった。
【0036】
実施例2:H5型トリインフルエンザウイルス用プライマーセットで増幅した産物の確認
プライマーセットAで増幅したLAMP産物について、電気泳動及び制限酵素DdeIでの確認を行った。図3は、電気泳動の結果を表す図である。図3のレーン2から明らかなように、LAMP産物特有のラダーパターンが確認された。また、DdeIで処理したサンプル(レーン3)では、消化が確認された。以上の結果から、標的配列が特異的に増幅されていることが明らかとなった。
【0037】
実施例3:H5型トリインフルエンザウイルス用プライマーセットの評価(交差性試験)
ヒトインフルエンザウイルスのA/New Caledonia/20/99(H1N1)、A/Panama/2007/99(H3N2)、B/Shangdong/07/97及びB/Shanghai/361/2002並びにトリインフルエンザウイルスH1〜H15(H5を除く)の合計18種類をサンプルとした。それぞれ、培養ウイルスからQIAampViral RNA Kit(QIAGEN社)を用いてRNAの抽出を行い、5μLの抽出液をRT−LAMP反応(プライマーセットAをプライマーとして用いた)に用いた。
【0038】
図4(a)及び(b)から分かるように、RT−LAMP法ではいずれのサンプルにおいても増幅が認められなかった。したがって、RT−LAMP法は特異性が高いことが明らかとなった。
【0039】
実施例4:H5型トリインフルエンザウイルス用プライマーセットの評価(感度試験)
2004年に山口県で感染が確認されたトリインフルエンザH5型株(CH/Yamaguchi7/04)及び2004年にベトナムで感染が確認されたH5型株(VN/JP1203/04)を鋳型サンプルとして用いた。それぞれ、培養ウイルスから抽出したRNAをRNasefreeの滅菌水で段階希釈(10〜10)を行い、RT−PCR法には10μL、RT−LAMP法(プライマーセットAをプライマーとして用いた)には5μLの希釈液を使用した。
【0040】
RT−PCR法は、国立感染症研究所の感染症情報センターのウェブサイトに掲載されている条件を修正して行った。すなわち、市販のキット(TaKaRa One Step RNA PCR Kit (AMV))を使用し、50℃30分で逆転写反応を行い、94℃で2分間処理した後、94℃1分、45℃1分、72℃1分のサイクルを30回繰り返し、さらに72℃で10分間伸長反応を行い、4℃で保存した。
【0041】
RT−PCR法に用いたプライマー及び反応溶液の組成は以下の通りである。
プライマー(PCR産物の長さ:708bp)
H5 515f: 5'-CATACCCAACAATAAAGAGG-3' (配列番号46)
H5 1220r: 5'-GTGTTCATTTTGTTAATGAT-3' (配列番号47)
反応溶液
RNA抽出液 10μL
10×One Step RNA PCR Buffer 5μL
10mM dNTPs 5μL
25mM MgCl 10μL
RNase Inhibitor 1μL
AMV RTase 1μL
AMV−Optimized Taq 1μL
H5 515f(10μM) 2μL
H5 1220r(10μM) 2μL
RNase Free滅菌水 適宜添加して反応液を50μLに調整
【0042】
RT−PCR法及びRT−LAMP法による増幅の結果を表1にまとめた。表1中、RT−LAMP法の欄には増幅が確認されたサンプルの割合を示した。また、RT−PCRにおける増幅は電気泳動の結果を目視により確認した(表1中、○は増幅が検出できたことを表し、×は増幅が検出できなかったことを表す)。
【0043】
【表1】

【0044】
RT−LAMP法とRT−PCR法とを比較した場合、いずれの株でも、RT−LAMP法の方が10〜100倍感度が高かった。
【0045】
実施例5:H7型トリインフルエンザウイルス用プライマーセットの反応性の確認
プライマーセットEの反応性の確認を以下の方法で行った。LAMP法により核酸の増幅を行うための反応溶液の組成は以下の通りである。なお、プライマーの合成はQIAGEN社に依頼し、OPC(逆相カラムカートリッジ)精製したものを使用した。
20mM Tris−HCl pH8.8
10mM KCl
8mM MgSO
1.4mM dNTPs
10mM (NHSO
0.8M Betaine(SIGMA)
0.1% Tween20
1.6μM FIP
1.6μM BIP
0.2μM F3
0.2μM B3
0.8μM LF
0.8μM LB
AMV Reverse Transcriptase 2U(Finnzyme)
Bst DNA polymerase 16U(NEB)
【0046】
A/Netherlands/219/2003(H7N7)(オランダで死亡例が出た際に分離された株)の塩基配列(配列番号48に示す塩基配列を含む断片)をクローニングベクターに組み込み、転写反応によりRNAを調製した。調製したRNAを250、100又は50コピー/アッセイとなるように上記反応溶液に加え、62.5℃で35分間、リアルタイム濁度測定装置LA−200(テラメックス)を用いて、増幅反応及び検出を行った。
【0047】
RNAの添加量が250、100及び50コピー/アッセイの場合並びに陰性対照のリアルタイム検出の結果を図5に示した。この結果より50コピー/アッセイまで検出されることが分かった。
【0048】
実施例6:H7型トリインフルエンザウイルス用プライマーセットで増幅した産物の確認
プライマーセットEで増幅したLAMP産物について、電気泳動及び制限酵素PstIでの確認を行った。図6は、電気泳動の結果を表す図である。Mは100bpのラダーマーカーを表し、レーン1は未処理のLAMP産物のサンプルであり、レーン2はLAMP産物をPstIで消化したサンプルである。図6のレーン1から明らかなように、LAMP産物特有のラダーパターンが確認された。また、PstIで処理したサンプル(レーン2)では、消化が確認された。以上の結果から、標的配列が特異的に増幅されていることが明らかとなった。
【0049】
実施例7:H7型トリインフルエンザウイルス用プライマーセットの評価(交差性試験)
ヒトインフルエンザウイルスのA/New Caledonia/20/99(H1N1)、A/Panama/2007/99(H3N2)、B/Shangdong/07/97及びB/Shanghai/361/2002並びにトリインフルエンザウイルスH1〜H15(H7を除く)の合計18種類をサンプルとし、プライマーの特異性を調べた。それぞれ、培養ウイルスからQIAampViral RNA Kit(QIAGEN社)を用いてRNAの抽出を行い、100倍希釈した抽出RNAをRT−LAMP反応に用いた。なお、陽性対照(PC)には実施例5で調製したRNAを用い、陰性対照には蒸留水を用いた。
【0050】
図7から分かるように、いずれのサンプルにおいても増幅が認められなかった。したがって、本発明のプライマーセットは特異性が高いことが明らかとなった。
【0051】
実施例8:H7型トリインフルエンザウイルス用プライマーセットの評価(様々な株に対する反応性)
4種類のH7型トリインフルエンザウイルスゲノムを鋳型サンプルとして用いて、各ウイルスに対する感度を調べた。それぞれ、培養ウイルスから抽出したRNAをRNase freeの滅菌水で段階希釈(10〜10)を行い、5μLの希釈液を使用した。
【0052】
各ウイルスゲノムを鋳型サンプルとした場合のリアルタイム検出の結果を図8及び9に示す。A/Netherlands/219/2003(H7N7)及びA/Netherlands/33/2003(H7N7)については、10希釈まで検出でき(図8を参照)、A/mallard/Netherlands/12/00(H7N3)及びA/wigeon/Osaka/1/2001(H7N7)については、10希釈まで検出できた(図9を参照)。以上より本発明のプライマーセットは、上記4種類の株に反応することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、H5型又はH7型トリインフルエンザウイルスを高感度かつ迅速に検出することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の塩基配列(a)及び(b)から成るインナープライマーセット、並びに、以下の塩基配列(c)及び(d)から成るアウタープライマーセット、を備えることを特徴とするオリゴヌクレオチドプライマーセット。
(a)5’−(配列番号49の塩基配列に相補的な塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号50の塩基配列)−3’。
(b)5’−(配列番号52の塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号53の塩基配列に相補的な塩基配列)−3’。
(c)配列番号51の塩基配列。
(d)配列番号57の塩基配列。
【請求項2】
(i)配列番号55及び配列番号56の塩基配列から成るインナープライマーセット、並びに、(ii)配列番号51及び配列番号57の塩基配列から成るアウタープライマーセット、を備えることを特徴とするオリゴヌクレオチドプライマーセット。
【請求項3】
(i)配列番号55及び配列番号56の塩基配列から成るインナープライマーセット、(ii)配列番号51及び配列番号57の塩基配列から成るアウタープライマーセット、並びに、(iii)配列番号58及び配列番号59の塩基配列から成るループプライマーセット、を備えることを特徴とするオリゴヌクレオチドプライマーセット。
【請求項4】
請求項1〜3記載のオリゴヌクレオチドプライマーセットを用いて、H7型トリインフルエンザウイルスの標的核酸領域の増幅反応を行い、該増幅反応がLAMP法であることを特徴とするH7型トリインフルエンザウイルスの検出方法。
【請求項5】
請求項1〜3記載のオリゴヌクレオチドプライマーセットを用いてH7型トリインフルエンザウイルスの標的核酸領域の増幅を検出することにより、H7型トリインフルエンザウイルス感染の有無を判断することを特徴とするインフルエンザの判断方法。
【請求項6】
インフルエンザを診断するための、請求項1〜3記載のオリゴヌクレオチドプライマーセットを含むことを特徴とするキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−167207(P2011−167207A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125507(P2011−125507)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【分割の表示】特願2006−543218(P2006−543218)の分割
【原出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000120456)栄研化学株式会社 (67)
【出願人】(591222245)国立感染症研究所長 (48)
【Fターム(参考)】