説明

HC吸着触媒

【課題】HC成分の浄化効率が高いHC吸着触媒を提供する。
【解決手段】触媒担体10と、触媒担体10に担持される触媒層20と、排気ガスの炭化水素成分を一時的に吸着する吸着層30と、を備えるHC吸着触媒1において、触媒担体10は排気ガスが通過可能な部材で構成され、触媒担体10の排気ガス入口側に吸着層20を、排気ガスの出口側に触媒層30を、それぞれ配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に用いられる内燃機関の排気ガスを浄化するための触媒に関し、より詳細には、HC成分の浄化効率が高いHC吸着触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に自動車等のエンジンの排気系には、排気ガスを浄化するための触媒が配置されている。触媒は、金属やセラミックによるハニカム構造からなる触媒担体が用いられ、触媒担体の表面に触媒が担持されている。
【0003】
従来、触媒担体の温度が低いと触媒が活性化されないため、コールドスタートでは充分な浄化が行われないという問題があった。特に、コールドスタート時には始動性を良くするために燃料濃度の高い混合気が供給されるため、未燃焼の炭化水素(HC)成分が排気ガス中に含まれる割合が多くなる。
【0004】
これに対して、触媒担体に貴金属触媒層とHC吸着材により構成される吸着層とを配置して、低温時は吸着層においてHCを吸着させておき、高温となったときに吸着されたHCを放出して貴金属触媒層により浄化を行うように構成された排ガス浄化用触媒が知られている(特許文献1、参照。)。
【特許文献1】特開2002−320856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の特許文献1のような従来の触媒担体では、ハニカム構造中に排気ガス経路が形成されており、排気ガス中のHC成分の一部は、触媒層に触れることなくそのまま下流へと流れて排出されてしまう。また、HC吸着層に吸着されたHCの一部は、HC吸着層内部や、担体壁内を通過して、そのまま下流へと流れて排出されてしまう。
【0006】
このように、従来の触媒担体では、HC成分のすべてが触媒に接触せず、その一部が未浄化のまま排出されてしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、HC成分の浄化効率が高いHC吸着触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、触媒担体10と、触媒担体10に担持される触媒層20と、排気ガスの炭化水素成分を一時的に吸着する吸着層30と、を備えるHC吸着触媒1において、触媒担体10は排気ガスが通過可能な部材で構成され、触媒担体10の排気ガス入口側に吸着層20を、排気ガスの出口側に触媒層30を、それぞれ配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、排気ガスが触媒担体10を通過する過程で、確実に吸着層20と触媒層30とを通過するので、吸着層20がHC成分を効率よく吸着できると共に、一時的に吸着されたHC成分が触媒層30において効率よく浄化されるので、排気ガス中のHC成分の浄化効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0011】
自動車のエンジンの排気ガス中の一酸化炭素(以下、「CO」と呼ぶ)、酸化窒素化合物(以下、「NOx」と呼ぶ)成分や炭化水素(以下、「HC」と呼ぶ)成分を浄化するために、貴金属元素を主成分とする三元触媒が一般的に用いられている。三元触媒は、適切な温度において排気ガス浄化効率が最も高くなる。そこで、触媒が低温時には吸着材によりHC成分を吸着しておき、触媒が所定温度以上となったときにこの吸着されたHC成分を放出して周囲の触媒と反応することで排気ガスを浄化する、いわゆるHC吸着触媒が開発されている。
【0012】
ところで、従来のHC吸着触媒における触媒担体は、ハニカム構造などにより、通過する排気ガスに対する表面積を拡大して排気ガス浄化効率を向上している。また、触媒は排気ガスと直接触れる必要があるため、吸着材は触媒担体と触媒との間に配置される。このような構造により、排気ガス中のHC成分のうち、一部は吸着材に吸着されないまま排出されてしまう。また、吸着材に吸着されたHC成分のうち、一部は吸着材内部や触媒担体の壁部を通過して、触媒と反応することなく排出されてしまう。
【0013】
そのため、従来のHC吸着触媒は、HC成分の約25%が未浄化のまま排出されるという問題があった。
【0014】
そこで本願は、以下に説明するような特徴的な構造によって、HC成分の浄化効率を高めることのできるHC吸着触媒を構成した。
【0015】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態のHC吸着触媒1の構成を示す説明図である。
【0016】
HC吸着触媒1は、触媒担体10と、吸着層20と、触媒層30とによって構成される。
【0017】
触媒担体10は、排気ガスが通過可能な材質で構成される壁部11と、前記壁部11によって排気ガス流れ方向に形成されるガス流路12と、排気ガスを流通不可能な材質で構成され、ガス流路12の入口側及び出口側を交互に目封じする封止部13とにより構成される。
【0018】
なお、壁部11は、例えば多孔質のセラミックスや、金属ワイヤーや繊維質によるメッシュ構造等によって構成され、排気ガスが通過可能に構成される。
【0019】
また、触媒担体10は、ガスの流れ方向に対して直角の断面がハニカム構造を有し、複数の壁部11により複数のガス流路12が構成される。
【0020】
吸着層20は、触媒担体10の壁部11のうち、排気ガスの入口側に連通する面に密着して配置される。吸着層20は、多孔質のHC吸着材(例えば、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物を主成分とするゼオライト)によって構成される。
【0021】
吸着層20は、このHC吸着材によってHC成分を一時的に吸着する。具体的には、吸着層20は、低温では通過する排気ガスの炭化水素(HC)成分を吸着し、所定温度以上に上昇したときに、吸着したHC成分を分離する。
【0022】
触媒層30は、触媒担体10の壁部11のうち、排気ガスの出口側に連通する面に密着して配置される。触媒層30は、プラチナ、パラジウム、ロジウム等の貴金属を含む三元触媒によって構成される。触媒層30は、通過する排気ガス中のCO、HC成分、及びNOx成分を、無害な水、二酸化炭素、窒素に酸化又は還元させる反応を促進する。
【0023】
このように構成されたHC吸着触媒1では、入口側から導入された排気ガスは、吸着層20、壁部11、触媒層30の順に通過して、出口側へと排出される。
【0024】
このとき、エンジン始動時など触媒担体10が十分に加熱されていない場合には、吸着層20は、排気ガス中のHC成分を吸着する。排気ガスは、触媒担体10を通過する過程で確実に吸着層20を経由するので、HC成分の吸着効率が高まる。
【0025】
また、排気ガスにより触媒担体10が十分に加熱され、吸着層20の温度が所定温度以上となると、吸着層20に吸着されたHC成分が吸着層20から分離する。このとき、分離されたHC成分は、排気ガスの排圧によって確実に触媒層30を経由するので、触媒層30においてHC成分の酸化反応が促進されて、浄化されたガスとして大気中に排出される。
【0026】
以上のような構成によって、本発明の第1の実施の形態は、排気ガスが確実に吸着層20と触媒層30とを通過するので、吸着層20が、HC成分を効率よく吸着できると共に、一時的に吸着されたHC成分が触媒層30において効率よく浄化されるので、排気ガス中のHC成分の浄化効率を高めることができる。
【0027】
<第2実施形態>
前述の第1の実施の形態では、触媒担体10において、排気ガス入口側に吸着層20を、排気ガス出口側に触媒層30を配置した。
【0028】
これに対して、第2の実施の形態では、壁部11の排気ガス入口側に第1の吸着層20aと第1の触媒層30aとをガスの流れ方向に積層して配置し、壁部11の排気ガス出口側に第2の吸着層20bと第2の触媒層30bとをガスの流れ方向に積層して配置した。
【0029】
図2は、本発明の第2の実施の形態の触媒担体10の説明図である。なお、第1の実施の形態と同一の構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0030】
図2に示すように、触媒担体10の壁部11のうち、排気ガスの入口側に連通する面には第1の触媒層30aが密着して配置され、この第1の触媒層30aの外側に第1の吸着層20aが配置される。また、触媒担体10の壁部11のうち、排気ガスの出口側に連通する面には、第2の吸着層20bが密着して配置され、この第2の吸着層20bの外側に触媒層30bが配置される。
【0031】
このように構成されたHC吸着触媒1では、入口側から導入された排気ガスは、第1の吸着層20a、第1の触媒層30a、壁部11、第2の吸着層20b、第2の触媒層30bの順に通過して、出口側へと排出される。
【0032】
このとき、エンジン始動時など触媒担体10が十分に加熱されていない場合には、まず第1の吸着層20aにおいて排気ガス中のHC成分を吸着する。また、第1の吸着層20aに吸着されず、第1の触媒層30aにおいて反応しなかったHC成分は、第2の吸着層20bに吸着される。このように、排気ガスは、触媒担体10を通過する過程で第1の吸着層20a及び第2の吸着層20bを確実に経由するので、HC成分の吸着効率が高まる。
【0033】
また、排気ガスにより触媒担体10が十分に加熱され、第1の吸着層20a及び第2の吸着層20bの温度が所定温度以上となると、第1の吸着層20a及び第2の吸着層20bに吸着されたHC成分が分離する。このとき、分離されたHC成分は、排気ガスと共に確実に第1の触媒層30a及び第2の触媒層30bを経由するので、触媒層30においてHC成分の酸化反応が促進されて、浄化されたガスとして大気中に排出される。
【0034】
本発明の第2の実施の形態では、このように構成することによって、前述の第1の実施の形態と同様に、排気ガスが確実に第1の吸着層20a及び第2の吸着層20bと第1の触媒層30a及び第2の触媒層30bとを通過するので、吸着層20に吸着されたHC成分が触媒層30においてHC成分の酸化・還元反応が促進され、排気ガス中のHC成分の浄化効率が高まる。
【0035】
特に、第2の実施の形態では、排気ガスの入口側に第1の吸着層20aと第1の触媒層30aとを配置したので、低温時にも、排気ガス入口側の第1の触媒層30aは、第2の触媒層30bよりも先に反応熱によって昇温する。また、触媒層30が2層あるので、これらの反応熱によって昇温する。これにより、第1の触媒層30a及び第2の触媒層30bの昇温を早めることができるので、第1の触媒層30a及び第2の触媒層30bをより早く活性化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施の形態のHC吸着触媒の説明図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態のHC吸着触媒の説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1 HC吸着触媒
10 触媒担体
11 壁部
12 ガス流路
13 封止部
20 吸着層
30 触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒担体と、前記触媒担体に担持される触媒層と、排気ガスの炭化水素成分を一時的に吸着する吸着層と、を備えるHC吸着触媒において、
前記触媒担体は排気ガスが通過可能な部材で構成され、
前記触媒担体の排気ガス入口側に前記吸着層を、排気ガスの出口側に前記触媒層を、それぞれ配置したことを特徴とするHC吸着触媒。
【請求項2】
前記触媒担体は、排気ガスが通過可能な複数の壁部と、前記壁部によって形成されるガス流路と、前記ガス流路を、前記壁部で仕切られる入口側と出口側とを交互に目封じする封止部とによって構成され、
前記吸着層は、前記壁部の排気ガスの入口側に連通する側に配置され、前記触媒層は、前記壁部の排気ガスの出口側に連通する側に配置されることを特徴とする請求項1に記載のHC吸着触媒。
【請求項3】
触媒担体と、前記触媒担体に担持される触媒層と、排気ガスの炭化水素成分を一時的に吸着する吸着層と、を備えるHC吸着触媒において、
前記触媒担体は排気ガスが通過可能な部材で構成され、
前記触媒担体の排気ガス入口側と排気ガスの出口側とに、それぞれ前記触媒層及び前記吸着層を配置したことを特徴とするHC吸着触媒。
【請求項4】
前記触媒担体は、排気ガスが通過可能な複数の壁部と、前記壁部によって形成される排気ガス流路と、前記ガス流路を、前記壁部で仕切られる入口側と出口側とを交互に目封じする封止部とによって構成され、
前記吸着層は、前記壁部の排気ガスの入口側に連通する側に配置される第1の吸着層と、前記壁部の排気ガスの出口側に連通する側に配置される第2の吸着層とからなり、
前記触媒層は、前記壁部の排気ガスの入口側に連通する側に配置される第1の触媒層と、前記壁部の排気ガスの出口側に連通する側に配置される第2の触媒層とからなり、
前記第1の吸着層及び前記第1の触媒層と、前記第2の吸着層及び前記第2の触媒層とが、排気ガス流れ方向に積層されていることを特徴とする請求項3に記載のHC吸着触媒。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−268978(P2009−268978A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122195(P2008−122195)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】