説明

HIV−1感染症のためのペプチド及び治療法

次式:X1−M−配列番号1又はその誘導体(式中、は、配列番号1のアミノ酸のN末端に結合するタンパク質導入ドメインを有する随意の基を表す。)を提供する。また、当該化合物を含む医薬組成物及び当該化合物を使用した治療方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−1)による感染症及び後天性免疫不全症候群(AIDS)の治療のための化合物、組成物及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ヒトレンチウイルスであるHIV−1は、AIDSの主要原因病原体であり、現在のところ、全世界でおよそ4200万人の人々がこれに感染し、北アメリカでは100万人の人々が感染している。
【0003】
有効な治療計画にかなりの努力が注がれてはいるものの、今のところ入手可能な薬剤は、AIDSを治癒させるのには有効でない。このような薬剤を開発するにあたって、HIV−1生活環のいくつかの段階が治療介入のためのターゲットとして考慮されてきた(H.Mitsuya外,FASEB J.,1991,5,2369−81)。HIV−1生活環による治療介入のために多くのウイルス標的が提案されている。HIV−1感染及びAIDSの治療に見込みのある薬剤標的の一部を示すHIV−1生活環の略図を図1に示す。現在のところ利用可能な治療のほとんどは、逆転写酵素又はHIV−1タンパク質分解酵素を阻害する。近年、新たな作用機序を持つ薬剤であるエンフビルチドが認可された。エンフビルチドは、HIV−1とCD4陽性宿主細胞の膜との融合に関与する当該ウイルスのエンベロープ糖蛋白質41の所定領域に結合し、それによってHIV−1とCD4陽性細胞の膜との融合を阻害するペプチドである(J.P.Lalezari外,「Enfurvirtide,an HIV−1 fusion inhibitor,for drug−resistant HIV infection in North and South America」,N.Engl.J.Med.,2003,348,2175−85)。
【0004】
HIV−1に対する新たな治療計画から、逆転写酵素(RT)を標的にするアジドチミジン(AZT)、ラミブジン(3TC)、ジデオキシイノシン(ddI)、ジデオキシシチジン(ddC)といった抗HIV化合物の組合せとHIV−1プロテアーゼ阻害剤とを併用することで、ウイルス量について、AZT単独(約1ログ減少)と比較して極めて大きな効果が得られる(2〜3ログの減少)ことが示されている。その一例は、AZTと、ddIと、3TCと、リトナビルとの組合せである(A.S.Perelson外,Science,1996,15:1582−86)。
【0005】
表1は、HIV感染及びAIDSの治療のために米国食品医薬品局が現在認可している薬剤を列挙している。
【表1】

【0006】
これらの進展にも拘わらず、依然としてHIV−1感染及びAIDSに対して有効な新規薬剤に対する要望がある。現在利用可能な治療剤を含むこれらの化学物質の組合せを長期間使用すると、特に骨髄に対して毒性となる可能性がある。また、長期にわたる細胞傷害性療法は、キラー細胞活性によって(V.Blazevic外,AIDS Res.Hum.Retroviruses,1995,11,1335−42)及び抑制性因子、特にケモカインのランテス、MIP−1α及びMIP−1βの放出によって(F.Cocchi外,Science,1995,270,1811−1815)、HIVの制御に不可欠なCD8陽性T細胞の抑圧に至る可能性もある。長期にわたる抗レトロウイルス化学療法における別の大きな問題は、部分的な又は完全な抵抗性を持ったHIV突然変異体の発生である(J.M.Lange,AIDS Res.Hum.Retroviruses,1995,10,S77−82)。このような変異は、抗ウイルス療法の必然的な結果であると考えられる。治療による野生型ウイルスの消失と変異体ウイルスの出現のパターンは、CD4陽性T細胞数の同時減少と相まって、少なくともいくつかの化合物によるウイルス変異体の出現がAIDS治療の失敗の主な基礎的要素であることを強く示唆するものである。
【0007】
HIV−1ウイルスは、(i)Gag、Pol及びEnvといった構造タンパク質;(ii)必須トランス作用タンパク質(Tat、Rev);及び(iii)少なくともいくつかの細胞培養系における効率的なウイルス複製にとって必要ではない「補助」タンパク質(Vpr、Vif、Vpu、Nef)を含む、遺伝子産物の3つの主要なクラスをコードする10kbの一本鎖ポジティブセンスRNAゲノムを含む。
【0008】
HIV−1に感染した個人を治療するアプローチの一つは、このような個人に、ヒト細胞内でHIV−1自身が複製する機構に直接的に干渉し、そしてそれを阻害する化合物を投与することである。
【0009】
そのようなタンパク質の1種であるVif(viral infectivity factor:ウイルス感染因子)は、ウマ伝染性貧血ウイルスを除く既知のレンチウイルスの全てで発現している。HIV−1のVifタンパク質は、192個のアミノ酸から構成される23kDaの高塩基性タンパク質である。HIV−1に感染した個人からのウイルスDNAの配列分析から、Vifの翻訳領域は損なわれていないことが明らかになった(P.Sova外,J.Virol.1995,69,2557−64;U.Wieland外,Virology,1994,203,43−51;U.Wieland外,J.Gen.Virol.,1997,78,393−400)。Vifは、細胞の抗ウイルス系の作用を克服することができる能力のため、生体内だけでなく、所定の宿主細胞型においては試験管内においてもウイルスが効率的に複製するのために必要なものである。Vif遺伝子が欠失すると、マカクにおいてサル免疫不全ウイルス(SIV)の複製が劇的に減少し、しかも、SCID−huマウスにおいてHIV−1の複製が劇的に減少する(G.M.Aldrovandi外,J.Virol.,1996,70,1505−11;R.C.Desrosiers外,J.Virol.,1998,72,1431−37)が、これは、Vif遺伝子が生体内におけるレンチウイルスの病因的複製にとって不可欠であることを示している。
【0010】
近年の研究から、生体内におけるHIV−1ウイルスの複製にVifが重要であることの根拠となる機構が解明された(この重要性は、hA3G(APOBEC3G)(CEM15)と呼ばれる宿主タンパク質の抗ウイルス効果と関連がある)。hA3Gはシチジンデアミナーゼファミリーに属し、新たに合成されたウイルスcDNAにおいてGからAへの高頻度変異を誘導する。hA3Gがウイルス粒子にパッケージングされると、逆転写中に当該ウイルスのマイナス鎖cDNAの高頻度変異が生じ、それによって当該ウイルスの複製が阻害され得る。R.S.Harris外,Cell,2003,113,803−09;B.Mangeat外,Nature,2003,424,99−103。hA3Gの抗ウイルス効果と同じく、hA3GのmRNAレベルとHIVウイルス量とCD4細胞数との間には相関関係が認められており、これらは、いずれも、抗レトロウイルス薬その他の治療介入を受けていない患者におけるHIV疾患の進行の予測因子である。さらに、抗ウイルス治療をしていなくても疾患の進行速度が低いHIV感染患者(「長期未発症者」)は、hA3GのmRNAレベルが、HIV未感染の対照者や、hA3TGのmRNAレベルがHIV未感染の対照者よりも有意に低い疾患進行患者よりも有意に高いことが分かった。X.Jin外,J.Virol.,2005,79(17),11513−16。
【0011】
HIV−1複製に対するVifの重要性は、hA3Gによって与えられる宿主防御機構を克服するその役割によるものであると考えられる。Vifは、hA3Gの抗ウイルス活性をユビキチン−プロテアソーム経路による破壊の標的にすることによって当該抗ウイルス活性に対抗する。Vifは、hA3Gと複合体を形成し、hA3Gのユビキチン化を促進し、それによってhA3Gをユビキチン−プロテアソーム経路による分解の標的にする。A.Mehle外,J.Biol.Chem.,2004,279(9),7792−98。B.R.Cullen,J.Virol.2006,80,1067−76。
【0012】
HIV−1に対する宿主細胞防御を逃れる際のVifの効果に関する詳細な分子機構は依然として不明であるが、マルチマーを形成するためのVifの自己会合が重要な役割を果たしている可能性があるとの仮説が立てられており、また、Vifのマルチマー化が当該ウイルスの生活環におけるVifの機能に必要であることが分かっている。S.Yang外,J.Biol.Chem.,2001,276(7),4889−93。Vif集合は単に偶然の集合によるものではなく、Vifの自己会合に作用する特定のドメインがこのタンパク質のC末端、特に、プロリンが豊富な151−164領域に位置し、Vifのマルチマー化に関与していることが実証されている。
【0013】
細胞培養系では、Vif欠損(Vif-)HIV−1は、所定の細胞、例えば、H9T細胞、末梢血単核球細胞及び単球由来マクロファージにおいて感染を確立することができない。そのため、これらの細胞は非許容であると分類されるに至っている。他の細胞では、Vif遺伝子は必要とされない;これらの細胞は、許容と分類されている。この現象を利用して、Yang外は、Vif集合(マルチマー化)が、ウイルス感染力の増進に果たすVifの役割に不可欠であることを実証した。Yang外は、変更1ラウンドウイルス感染力アッセイで様々なVif変異体を試験した。野生型Vif又はその変異体は、非許容H9T−細胞内で発現した。同時に、偽型(VSV外被を有する)HIV−1ウイルスは、それらのゲノム中にVif及びenvがなくても、これらの細胞から生産された。これらの組換えウイルスは、HIV−1末端反復配列のプロモーター駆動CAT遺伝子を含有する発現カセットを内部に持つ標的細胞に感染することができた。そのウイルス感染力が標的細胞内におけるCAT遺伝子発現のレベルによって測定された。野生型Vif遺伝子がVif欠損HIV−1ウイルス生産性非許容H9T細胞内で発現したときに、高レベルのウイルス感染力が観察された。しかしながら、その結合領域を欠失したVif変異体(VifΔ151−164)がVif欠損HIV−1ウイルス生産性非許容H9T細胞内で発現した場合には、そのウイルス感染力は、Vif欠損HIV−1ウイルスと比較してもほとんど変わらなかったが、これは、その欠失がVifタンパク質の機能を大幅に低下させ、非許容T細胞から生じたVif欠損HIV−1ウイルスの感染力を奪回できなくしたことを示唆する。この実験は、Vifタンパク質のマルチマー化がVif機能に必要であることを実証した。S.Yang外,J.Biol.Chem.,2001,276(7),4889−93。また、Vifの走査突然変異解析から、感染力に対する結合領域の重要性、特に161−163の3つの残基(PPL)の重要性も実証された。これらのものは、機能を失うことなく個々に置換できたが、3つの残基全てを置換すると機能が大幅に抑制された。J.H.M.Simon外,J.Virol.,1999,73(4),2675−81。
【0014】
Vifタンパク質のマルチマー化がウイルスの生活環におけるVif機能に必要であるという発見により、これが抗HIV−1療法のための見込まれる新規な標的として提案されるに至った。この仮説を図2A及び2Bに示す。上記研究で示されたように、Vifのマルチマー化は、HIV−1感染細胞におけるVifの作用に必須であると思われる。Vifが細胞質において正常に機能すると、Vifは二量体化し、生じたVifダイマーは、hA3Gをユビキチン化による修飾の標的にする;そして、結果として、hA3Gはプロテオソームによって破壊され、HIVの生活環は中断すると考えられる。つまり、Vifが正常に機能している場合には、そのウイルスは、hA3Gの抗感染機能に打ち勝つ。これに対し、Vif機能が損なわれると(例えば、Vifの二量体化を阻害する薬剤の作用により)、HIV−1は、依然としてCD4に結合してT細胞に侵入することができると考えられるものの、hA3Gは逆転写中にウイルスDNAを過剰変異させ、変異ウイルスDNAを生じさせる。この変異ウイルスDNAは破壊されるか又は染色体DNAに不完全な形態で組み込まれるかのいずれかであろう。この変異DNAが転写された場合には、生じたRNAは機能タンパク質をほとんど又は全くコードしておらず、しかもその細胞によって生産されるHIV−1ウイルスのほとんどは、不完全でかつ非感染性であろう。
【0015】
Yang外は、HIV−1のVifタンパク質に結合するPXPモチーフを含むペプチドを同定した。これらの高プロリンペプチドは、試験管内でVif−Vif相互作用を阻害することが分かった。さらに、HIV−1のVifタンパク質配列の全アミノ酸をカバーするペプチドが調製され、そして161PPLP164ドメインを含有する高プロリンペプチドがVif−Vif相互作用を阻害できることが分かった。この研究から、高プロリンペプチドは、161PPLP164ドメインによって形成されるVifのポリプロリン界面に干渉することを通してVifのマルチマー化をブロックすると結論付けられた。さらに、試験管内でVif−Vif相互作用を阻害するこれらのペプチドは、「非許容」T細胞内でHIV−1の複製を阻害することが分かった。B.Yang外,J.Biol.Chem.,2003,278(8),6596−602。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】J.P.Lalezari外,「Enfurvirtide,an HIV-1 fusion inhibitor,for drug-resistant HIV infection in North and South America」,N.Engl.J.Med.,2003,348,2175-85
【非特許文献2】A.S.Perelson外,Science,1996,15:1582-86
【非特許文献3】V.Blazevic外,AIDS Res.Hum.Retroviruses,1995,11,1335-42
【非特許文献4】F.Cocchi外,Science,1995,270,1811-1815
【非特許文献5】J.M.Lange,AIDS Res.Hum.Retroviruses,1995,10,S77-82
【非特許文献6】P.Sova外,J.Virol.1995,69,2557-64
【非特許文献7】U.Wieland外,Virology,1994,203,43-51
【非特許文献8】U.Wieland外,J.Gen.Virol.,1997,78,393-400
【非特許文献9】G.M.Aldrovandi外,J.Virol.,1996,70,1505-11
【非特許文献10】R.C.Desrosiers外,J.Virol.,1998,72,1431-37
【非特許文献11】R.S.Harris外,Cell,2003,113,803-09
【非特許文献12】B.Mangeat外,Nature,2003,424,99-103
【非特許文献13】X.Jin外,J.Virol.,2005,79(17),11513-16
【非特許文献14】A.Mehle外,J.Biol.Chem.,2004,279(9),7792-98
【非特許文献15】B.R.Cullen,J.Virol.2006,80,1067-76
【非特許文献16】S.Yang外,J.Biol.Chem.,2001,276(7),4889-93
【非特許文献17】J.H.M.Simon外,J.Virol.,1999,73(4),2675-81
【非特許文献18】B.Yang外,J.Biol.Chem.,2003,278(8),6596-602
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の概要
本発明によれば、Vifのマルチマー化を阻害し、かつ、HIV−1に対して有効な化合物及び組成物であって、HIV−1感染及びAIDSなどの、Vifのマルチマー化がウイルスの複製に必要な疾患又は状態を治療するのに有用な化合物及び組成物が提供される。
【0018】
本発明の一態様としては、次式Iの化合物:
1−M−配列番号1 (I)
又はその誘導体
(式中、
1−M−は、配列番号1のアミノ酸配列のN末端に結合したタンパク質導入ドメインを有する随意の基を表し、ここで、
1はタンパク質導入ドメインを表し;
−M−は、単結合又は該タンパク質導入ドメインと該配列番号1のアミノ酸配列との間に共有結合を形成する随意の結合基を表し;
ただし、該化合物が配列番号1のアミノ酸配列のN末端に直接結合するアミノ酸を含む場合には、該N末端に直接結合するアミノ酸はアスパラギン以外であるものとする。)
を提供する。
【0019】
本発明の特定の実施形態は、式Iに従う化合物が配列番号1のアミノ酸配列のペプチド又は配列番号2のアミノ酸配列のペプチドであるものである。
【0020】
本発明の他の特定の実施形態は、式Iに従う化合物が配列番号3のアミノ酸配列を含むものである。
【0021】
本発明の他の実施形態は、タンパク質導入ドメインが配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33及び配列番号34よりなる群から選択されるアミノ酸配列、好ましくは配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10又は配列番号11のアミノ酸配列、最も好ましくは配列番号4のアミノ酸配列を含む(随意に当該アミノ酸配列からなる)ものである。
【0022】
本発明の別の態様としては、製薬上許容できるキャリヤー及び式Iに従う化合物を含む医薬組成物を提供する。
【0023】
本発明の別の態様としては、ある個体でのウイルスの複製にVifタンパク質のマルチマー化を必要とする疾患又は状態の治療方法であって、そのような治療が必要な個体に、本発明に従う化合物又はその実施形態のいずれかの治療上有効な量を投与することを含むものを提供する。
【0024】
HIV−1感染の治療又は予防方法であって、そのような治療が必要な個体に、本発明に従う化合物又はその実施形態のいずれかの治療上有効な量を投与することを含むものを提供する。
【0025】
後天性免疫不全症候群(AIDS)の治療又は予防方法であって、そのような治療が必要な個体に、本発明に従う化合物又はその実施形態のいずれかの治療上有効な量を投与することを含むものを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図面の簡単な説明
【図1】治療介入のための薬剤標的を表すHIVの生活環を示す概略図である。(1)HIVが免疫系細胞に融合し、そのRNAを放出する;(2)HIVのRNAが逆転写酵素の作用によりDNAに変換される;(3)このウイルスDNAが宿主細胞の核に入り、HIVインテグラーゼの作用により宿主細胞の染色体DNAに組み込まれる;ウイルスRNAが作られ、タンパク質が生産され、そしてウイルス構築のためにHIVプロテアーゼがタンパク質をプロセシングする;(5)細胞からHIVウイルスが出芽し、続けて他の細胞に感染する。
【図2】図2A及び2B:提案されたVifアンタゴニスト作用機序を示す概略図である。Vifが細胞質において正常に機能する場合(図2A):(1)細胞質中でVifが二量体化する(この二量体化はVif機能に不可欠である);(2)VifダイマーがhA3Gをユビキチン化による修飾の標的にする;(3)hA3Gがプロテオソームにより破壊されるので、HIV生活環は中断しない。Vif機能が損なわれている場合(例えば二量体化の阻害により)(図2B):(1)HIV−1がT細胞に結合する;(2)HIVがそのRNAをDNAに変換するときに、hA3GがウイルスDNAを高頻度変異させる;(3)変異ウイルスDNAは破壊され、また、染色体DNAに組み込まれる変異ウイルスDNAは不完全である;(4)変異ウイルスRNAのコピーが作られたときには、高頻度変異のため、生じたRNAは機能タンパク質をほとんど又は全くコードしない;(5)その結果として、生産されたHIV−1ウイルスのほとんどは不完全であり、かつ、非感染性であろう。
【図3】次のアミノ酸配列のペプチド:配列番号36(ペプチドA)、配列番号37(ペプチドB)若しくは配列番号2(ペプチドC)又は未処理対照群の存在下で培養したヒトTリンパ芽球様H9株細胞ペプチド感染HIV−1NL4-3ウイルスの細胞培養上澄中におけるHIV−1p24抗原レベル(ELISAにより測定)のグラフ図である。
【図4A】図4Aは、HIV−1IIIBウイルスを様々な感染効率(MOI)で有するMT−2細胞中における配列番号36のアミノ酸配列のペプチド(50μM)の抗ウイルス活性。ウイルス生産は、逆転写酵素(RT)アッセイを使用して定量した。50μMの配列番号36のアミノ酸配列のペプチド (「P2 50μM」)、50μMの配列番号35のアミノ酸配列のペプチド(「P1 50μM」)、1μMのアジドチミジン(「AZT 1μM」)及び未処理対照群(「ウイルスコントロール」)で処理した感染細胞の培養液についての逆転写酵素アッセイの経時グラフを示している。これらの結果は、0.1の感染効率(図4A)、0.03の感染効率(図4B)、0.01の感染効率(図4C)及び0.003の感染効率(図4D)で実施された細胞感染により行われた実験について示したものである。
【図4B】図4Bは、HIV−1IIIBウイルスを様々な感染効率(MOI)で有するMT−2細胞中における配列番号36のアミノ酸配列のペプチド(50μM)の抗ウイルス活性。ウイルス生産は、逆転写酵素(RT)アッセイを使用して定量した。50μMの配列番号36のアミノ酸配列のペプチド (「P2 50μM」)、50μMの配列番号35のアミノ酸配列のペプチド(「P1 50μM」)、1μMのアジドチミジン(「AZT 1μM」)及び未処理対照群(「ウイルスコントロール」)で処理した感染細胞の培養液についての逆転写酵素アッセイの経時グラフを示している。これらの結果は、0.1の感染効率(図4A)、0.03の感染効率(図4B)、0.01の感染効率(図4C)及び0.003の感染効率(図4D)で実施された細胞感染により行われた実験について示したものである。
【図4C】図4Cは、HIV−1IIIBウイルスを様々な感染効率(MOI)で有するMT−2細胞中における配列番号36のアミノ酸配列のペプチド(50μM)の抗ウイルス活性。ウイルス生産は、逆転写酵素(RT)アッセイを使用して定量した。50μMの配列番号36のアミノ酸配列のペプチド (「P2 50μM」)、50μMの配列番号35のアミノ酸配列のペプチド(「P1 50μM」)、1μMのアジドチミジン(「AZT 1μM」)及び未処理対照群(「ウイルスコントロール」)で処理した感染細胞の培養液についての逆転写酵素アッセイの経時グラフを示している。これらの結果は、0.1の感染効率(図4A)、0.03の感染効率(図4B)、0.01の感染効率(図4C)及び0.003の感染効率(図4D)で実施された細胞感染により行われた実験について示したものである。
【図4D】図4Dは、HIV−1IIIBウイルスを様々な感染効率(MOI)で有するMT−2細胞中における配列番号36のアミノ酸配列のペプチド(50μM)の抗ウイルス活性。ウイルス生産は、逆転写酵素(RT)アッセイを使用して定量した。50μMの配列番号36のアミノ酸配列のペプチド (「P2 50μM」)、50μMの配列番号35のアミノ酸配列のペプチド(「P1 50μM」)、1μMのアジドチミジン(「AZT 1μM」)及び未処理対照群(「ウイルスコントロール」)で処理した感染細胞の培養液についての逆転写酵素アッセイの経時グラフを示している。これらの結果は、0.1の感染効率(図4A)、0.03の感染効率(図4B)、0.01の感染効率(図4C)及び0.003の感染効率(図4D)で実施された細胞感染により行われた実験について示したものである。
【図5A】図5Aは、HIV−1IIIBウイルスを様々な感染効率(MOI)で有するMT−2細胞中における配列番号2のアミノ酸配列のペプチド(50μM)の抗ウイルス活性。ウイルス生産は、逆転写酵素(RT)アッセイを使用して定量した。50μMの配列番号2のアミノ酸配列のペプチド (「P3 50μM」)、1μMのアジドチミジン(「AZT 1μM」)及び未処理対照群(「ウイルスコントロール」)で処理した感染細胞の培養液についての逆転写酵素アッセイの経時グラフを示している。これらの結果は、0.1の感染効率(図5A)、0.03の感染効率(図5B)、0.01の感染効率(図5C)及び0.003の感染効率(図5D)で実施された細胞感染により行われた実験について示したものである。
【図5B】図5Bは、HIV−1IIIBウイルスを様々な感染効率(MOI)で有するMT−2細胞中における配列番号2のアミノ酸配列のペプチド(50μM)の抗ウイルス活性。ウイルス生産は、逆転写酵素(RT)アッセイを使用して定量した。50μMの配列番号2のアミノ酸配列のペプチド (「P3 50μM」)、1μMのアジドチミジン(「AZT 1μM」)及び未処理対照群(「ウイルスコントロール」)で処理した感染細胞の培養液についての逆転写酵素アッセイの経時グラフを示している。これらの結果は、0.1の感染効率(図5A)、0.03の感染効率(図5B)、0.01の感染効率(図5C)及び0.003の感染効率(図5D)で実施された細胞感染により行われた実験について示したものである。
【図5C】図5Cは、HIV−1IIIBウイルスを様々な感染効率(MOI)で有するMT−2細胞中における配列番号2のアミノ酸配列のペプチド(50μM)の抗ウイルス活性。ウイルス生産は、逆転写酵素(RT)アッセイを使用して定量した。50μMの配列番号2のアミノ酸配列のペプチド (「P3 50μM」)、1μMのアジドチミジン(「AZT 1μM」)及び未処理対照群(「ウイルスコントロール」)で処理した感染細胞の培養液についての逆転写酵素アッセイの経時グラフを示している。これらの結果は、0.1の感染効率(図5A)、0.03の感染効率(図5B)、0.01の感染効率(図5C)及び0.003の感染効率(図5D)で実施された細胞感染により行われた実験について示したものである。
【図5D】図5Dは、HIV−1IIIBウイルスを様々な感染効率(MOI)で有するMT−2細胞中における配列番号2のアミノ酸配列のペプチド(50μM)の抗ウイルス活性。ウイルス生産は、逆転写酵素(RT)アッセイを使用して定量した。50μMの配列番号2のアミノ酸配列のペプチド (「P3 50μM」)、1μMのアジドチミジン(「AZT 1μM」)及び未処理対照群(「ウイルスコントロール」)で処理した感染細胞の培養液についての逆転写酵素アッセイの経時グラフを示している。これらの結果は、0.1の感染効率(図5A)、0.03の感染効率(図5B)、0.01の感染効率(図5C)及び0.003の感染効率(図5D)で実施された細胞感染により行われた実験について示したものである。
【図6】FTICタグを付けた配列番号2のアミノ酸配列のペプチドで処理し、次いで2%パラホルムアルデヒドで固定し、0.4%トリトンX−100で透過処理し、そしてDNA選択的染料の4',6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)で染色したH9及びMT−2細胞の取得画像である。細胞核及び配列番号2のアミノ酸配列のタグ付きペプチドに対するDAPI染色及びFITCタグ染色の個々の画像及び画像オーバーレイ(重ね合わせ)は、それぞれ、50μMのOYA−005−FITCで1回処理した後24時間目に撮影した。2つの別個の細胞は、H9細胞及びMT−2細胞の両方を示している。
【図7】hA3G遺伝子をトランスフェクトし、かつ、VSV−G偽型HIVウイルス(「+Vif、+hA3G」)を感染させたヒト胎児由来腎臓(HEK)293T細胞及びVif陰性VSV−G偽型HIVウイルス(「−Vif,−hA3G」)を感染させたHEK 293T(非hA3G発現)細胞であって、配列番号2のアミノ酸配列のペプチドによる処理を受けたもの(「ペプチドμM」)又はそのような処理を受けていないもの(「ペプチドなし」)から生じたウイルスの培養によるJC53BLレポーター細胞感染性アッセイの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
I.定義
明細書及び添付した請求の範囲において使用するときに、単数形「a」、「an」及び「the」には、文脈が明らかに示さない限り、複数の対象が含まれる。
【0028】
表現「治療する」及び「治療」とは、疾患の発症の遅延及び/又は発症する若しくは発症が見込まれる症状の重症度の低減を生じさせること又はその行為を意味する。これらの用語は、これまでの症状を改善させること、さらなる症状を抑えること及び症状の基礎的代謝原因を改善させること又は同原因を抑えることをさらに包含する。
【0029】
ある個体に対する治療を説明するために使用するときの「有効な量」という表現とは、治療上有用な効果を生じさせる化合物の量をいう。
【0030】
ここで使用するときに、「個体」(治療の対象と同様)とは、ほ乳類、特に非ヒト霊長類、例えば類人猿及びサル、とりわけヒトを意味する。
【0031】
本明細書において、ペプチドは、ペプチド結合で共有結合した2個以上のアミノ酸の鎖を有する有機化合物であると定義される。ペプチドは、構成アミノ酸の数を基準にして言及される場合がある(すなわち、ジペプチドは2個のアミノ酸残基を含み、トリペプチドは3個のアミノ酸残基を含むなど。)。請求項に係る発明で使用するときに、「ペプチド」とは、10,000ダルトン未満、好ましくは5,000ダルトン未満、より好ましくは2,500ダルトン未満の分子量を有する部分をいうものとする。
【0032】
ここで使用するときに、用語「アミノ酸」とは、塩基性アミノ基と酸性カルボキシル基との両方を有する有機化合物を意味する。この用語には、天然アミノ酸(例えば、L−アミノ酸)、修飾アミノ酸及異常アミノ酸(例えば、D−アミノ酸)だけでなく、遊離型又は混合型で生物学的に生じるが通常タンパク質には生じないことが知られているアミノ酸も包含される。この用語には、例えば、Roberts及びVellaccio(1983)「The Peptides」,5:342−429に開示されたような修飾アミノ酸及異常アミノ酸も含まれる。その教示を参照により援用するものとする。天然タンパク質型のアミノ酸としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、チロシン、チロシン、トリプトファン、プロリン及びバリンが挙げられるが、これらに限定されない。天然非タンパク質アミノ酸としては、アルギノコハク酸、シトルリン、システインスルフィン酸、3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン、ホモシステイン、ホモセリン、オルニチン、3−モノヨードチロシン、3,5−ジヨードチロシン、3,5,5'−トリヨードチロニン及び3,3’,5,5’−テトラヨードチロニンが挙げられるが、これらに限定されない。本発明を実施するために使用できる修飾アミノ酸又は異常アミノ酸としては、D−アミノ酸、ヒドロキシリシン、4−ヒドロキシプロリン、N−Cbz保護アミノ酸、2,4−ジアミノ酪酸、ホモアルギニン、ノルロイシン、N−メチルアミノ酪酸、ナフチルアラニン、フェニルグリシン、β−フェニルプロリン、t−ロイシン、4−アミノシクロヘキシルアラニン、N−メチルノルロイシン、3,4−デヒドロプロリン、N,N−ジメチルアミノグリシン、N−メチルアミノグリシン、4−アミノピペリジン−4−カルボン酸、6−アミノカプロン酸、トランス−4−(アミノメチル)シクロヘキサンカルボン酸、2−、3−及び4−(アミノメチル)安息香酸、1−アミノシクロペンタンカルボン酸、1−アミノシクロプロパンカルボン酸及び2−ベンジル−5−アミノペンタン酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
用語「ペプチド結合」とは、第1のアミノ酸のカルボキシル基と第2のアミノ酸のアミノ基との間で水分子が失われることによって形成されたアミド共有結合を意味する。
【0034】
用語「ペプチド骨格」とは、アミノ酸のカルボキシル基とアミノ基とを結合するアミノ酸の原子(通常はα−アミノ酸のα−炭素)と共に、ペプチド結合であるカルボキシアミド基を有するペプチドの原子鎖を意味する。
【0035】
用語「側鎖」とは、ペプチド骨格に結合する基を意味し、典型的にはα−アミノ酸のα−炭素に結合する基をいう。例えば、タンパク新生アミノ酸の側鎖については、メチル(アラニン)、ヒドロキシメチル(セリン)、ベンジル(フェニルアラニン)、メルカプトメチル(システイン)及びカルボキシメチル(アスパラギン酸)が挙げられる。
【0036】
ペプチド鎖を有する化合物に適用されるときの用語「誘導体」とは、ペプチドの側鎖におけるアミノ基、ヒドロキシル基若しくはカルボキシル基又は末端アミノ基若しくは末端カルボキシル基の1個以上が誘導体官能基に変更された化合物を意味する。アミノ基は、アミド(例えばアルキルカルボキシアミド、アセトアミド)、カルバメート(例えば、カルバミン酸アルキル、例えばカルバミン酸メチル又はカルバミン酸t−ブチル)又は尿素として誘導体化できる。ヒドロキシル基は、エステル(例えばアルカノエート、例えばアセテート、プロピオネート又はアレンカルボキシレート、例えばベンゾエート)、カルバメート(例えばカルバミン酸アルキル、例えばカルバミン酸メチル)、カーボネート(例えば炭酸アルキル、例えば炭酸エチル)として誘導体化できる。カルボキシル基は、エステル(例えばアルキルエステル、例えばエチルエステル)又はアミド(例えば第一カルボキシアミド、N−アルキル第二カルボキシアミド又はN,N−ジアルキルカルボキシアミド)として誘導体化できる。当業者であれば、ペプチドの誘導体が親ペプチドの特性を維持することが予想されることが分かるであろう。誘導体基の導入はペプチドの特性を変化させないか、又は誘導体基は生体内で除去される(例えば代謝により)かのいずれかだからである。本発明の好ましい実施形態は、アミノ基、カルボキシル基及びヒドロキシル基の3個以下、好ましくは2個以下、又は1個が誘導体官能基に修飾されているか、或いは全く修飾されていない。また、用語「誘導体」には塩も含まれ、誘導体の塩も含まれる。
【0037】
ペプチドに関連して使用される用語である「末端誘導体」とは、C末端カルボキシレート基若しくはN末端アミノ基又はその両方が誘導体官能基に修飾されたペプチドを意味する。C末端カルボキシル基は、エステル(例えばアルキルエステル、例えばエチルエステル)又はアミド(例えば第一カルボキシアミド、N−アルキル第二カルボキシアミド又はN,N−ジアルキルカルボキシアミド)として誘導体化できる。N末端アミノ基は、エステル(例えばアルキルエステル、例えばエチルエステル)又はアミド(例えば第一カルボキシアミド、N−アルキル第二カルボキシアミド又はN,N−ジアルキルカルボキシアミド)として誘導体化できる。また、C末端カルボキシル基及び/又はN末端アミノ基は、塩の状態であることもできる。
【0038】
用語「単離化合物」とは、所定の化合物であって、混入物、又は当該化合物が自然に分泌される細胞成分、又はその合成に使用された試薬、又はその合成の副産物、を実質的に有しないものを意味する。「単離」及び「混入物を実質的に有しない」は、その調製が技術的に純粋(均質)であることを意味するものではなく、治療に使用できる状態のペプチド又はポリペプチドを準備するのに十分に純粋であることを意味する。
【0039】
用語「タンパク質導入ドメイン」(「細胞透過性ペプチド」ともいう)は、所定のペプチド又はその誘導体であって、細胞膜を横断することができ、かつ、タンパク質導入ドメインと関連のあるペプチド、タンパク質又は分子を細胞の外部から当該細胞の細胞質に当該細胞の細胞質膜を介して輸送する方向に誘導することができるものを示すために使用する。
【0040】
2個のペプチドの連結を指す用語である「結合」とは、2個のペプチドが互いに共有結合することを意味する。この結合は、一方のペプチドのカルボキシル基と他方のペプチドのアミノ基との間のアミド結合の形成により直接、又はこれらのペプチドのそれぞれに対して共有結合を有する結合基を介して達成される。例えば、結合基は、ペプチド鎖、アミノ酸又は少なくとも2個の官能基を有し、かつ、2個のペプチド鎖のそれぞれに共有結合を形成させることのできる任意の基であることができる。
【0041】
用語「HIV−1治療用化合物」とは、HIV感染症の治療や予防のために現在使用されている化合物、HIV感染症の治療又は予防に使用するための治験化合物及び当業者がHIV感染症の治療又は予防に有用であると考える化合物など、HIV感染症の治療又は予防に有用な任意の化合物を意味する。
【0042】
用語「後天性免疫不全症候群の治療用化合物」とは、後天性免疫不全症候群の治療又は予防のために現在使用されている化合物、後天性免疫不全症候群の治療又は予防に使用するための治験化合物及び当業者が後天性免疫不全症候群の治療又は予防に有用であると考える化合物など、後天性免疫不全症候群の治療又は予防に有用な任意の化合物を意味する。
【0043】
2個の化学基のを指す用語である「直接結合」とは、これらの基が共有結合により結合することを意味する(それそれが結合基に結合することにより結合するのではない)。
【0044】
用語「Vifアンタゴニスト」とは、Vifタンパク質、好ましくはVifタンパク質内のマルチマー化ドメインに結合し、それによってVif−Vif相互作用及びVifタンパク質のマルチマー化を阻害する分子を意味する。
【0045】
用語「組織培養感染量50」(又は「TCID50」)とは、多数の感受性組織培養液に接種されたときに、それぞれの培養液の50%を感染させる感染性因子(例えばウイルス)の量を意味する。
【0046】
II.本発明の化合物
本発明の一態様としては、次式Iの化合物:
1−M−配列番号1 (I)
又はその誘導体
(式中、
1−M−は、配列番号1のアミノ酸配列のN末端に結合したタンパク質導入ドメインを有する随意の基を表し、ここで、
1はタンパク質導入ドメインを表し;
−M−は、単結合又は該タンパク質導入ドメインと配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドとの間に共有結合を形成する随意の結合基を表し;
ただし、該化合物が配列番号1のアミノ酸配列のN末端に直接結合するアミノ酸を有する場合には、該N末端に直接結合する該アミノ酸はアスパラギン以外のものであるものとする。)
を提供する。
【0047】
「X1−M−は、随意の基を表す」というときには、式Iは、配列番号1のアミノ酸配列がタンパク質導入ドメインに結合した式X1−M−配列番号1の化合物又はその誘導体だけでなく、タンパク質導入ドメインには結合していない配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド又はその誘導体をも包含するものとする。
【0048】
a.結合基
配列番号1のアミノ酸配列のペプチドがタンパク質導入ドメインに結合する場合には、配列番号1のアミノ酸配列のペプチドとタンパク質導入ドメインとの結合は、単結合又は随意の結合基により形成される。この結合基の目的は、単にタンパク質導入ドメインと配列番号1のアミノ酸配列のペプチドとを共有結合させることに過ぎないので、当業者であれば、様々な方法でこのような結合を達成することができるであろう。基本的に、この結合基は、少なくとも2官能性の任意の部分であることができるが、ただしタンパク質導入ドメインと配列番号1のアミノ酸配列との間で生じた結合は安定であることを条件とする。好適な結合部分としては、2官能性又は多官能性のアルキル、アリール、アラルキル又はペプチド部分、アルキル、アリール又はアラルキルアルデヒドの酸エステル及び無水物、スルフヒドリル又はカルボキシル基、例えばマレイミド安息香酸誘導体、マレイミドプロピオン酸誘導体及びスクシンイミド誘導体が挙げられ、或いは、当該部分は、臭化シアヌル又は塩化シアヌル、カルボニルジイミダゾール、スクシンイミジルエステル又はスルホン酸ハロゲン化物などから誘導できる(Fischer外,米国特許第6,472,507号。その開示の全体を参照によって援用するものとする)。リンカー部分上にある官能基としては、アミノ、ヒドラジノ、ヒドロキシル、チオール、マレイミド、カルボニル及びカルボキシル基を挙げることができる。随意に、当該リンカー基は、十分に不安定であるように選択される(例えば、標的組織中に存在する酵素による酵素分解に対して)ので、配列番号1のアミノ酸配列のペプチドの運搬後に切断され、それによってペプチドが遊離する。代表的な不安定結合は、Low外,米国特許第5,108,921号に記載されている。その開示の全体を参照によって援用するものとする。また、このペプチド−活性剤デリバリーシステムは、活性剤と本発明のペプチドとの間の化学的切断によっても分離し得る。リンカー部分がアミノ酸残基を含む実施形態においては、このような切断は、リンカー部分自体の内部で生じ得る。
【0049】
以下で提供する例は例示を目的とするものであって、包括的であることを目的とするものではない。したがって、以下の例は、−M−基とペプチドとの間の結合がアミド結合である場合を例示するものであるが、当業者であれば、配列番号1のアミノ酸配列の末端NH基と末端(又は他の)カルボキシル基(又はタンパク質導入ドメインの末端若しくは他の−NH−基若しくは任意の他の官能基)の−C(=O)−基との間に結合を形成させることのできる任意の官能基によって形成できることが分かるであろう。
【0050】
結合基によって形成される結合が配列番号1のアミノ酸配列のペプチドのアミノ酸末端とタンパク質導入ドメインのカルボキシル基(例えば末端カルボキシル基)との間にある場合には、任意のアミノ酸(タンパク新生アミノ酸(これに限定されない)を含めたα−アミノ酸(これに限定されない)を含む)又はペプチド鎖が配列番号1のアミノ酸配列のペプチドとタンパク質導入ドメインとの間の結合となることができる。
【0051】
配列番号1のアミノ酸配列のN末端とタンパク質導入ドメインのカルボキシル基とを結合させるための安定な結合基−M−の例としては、
−NH−CH(R)−C(=O)−(式中、Rはタンパク質新生アミノ酸の側鎖である);
ペプチド鎖;及び
−NH−Xm−C(=O)−
(式中、
mは1以上、好ましくは1〜3であり、
それぞれの−X−は、直鎖、分岐又は環状の脂肪族炭化水素であって、1個以上のメチレン基が−O−又は−S−で置換されていてよく、かつ、1個以上のメチン基がNで置換されていてよいもの;−CH2CH2(OCH2CH2n−(式中、nは1以上である);及び芳香族環又は複素環式芳香族環よりなる群から選択される。)
が挙げられる。
【0052】
結合基によって形成される結合が配列番号1のアミノ酸配列のペプチドのアミノ酸末端とタンパク質導入ドメインのアミノ基(例えば末端アミノ基)との間にある場合には、当該2個のペプチド基間の結合は、例えば尿素(この場合、−M−は−C(=O)−である)又は任意のジカルボン酸残基(例えば−M−は−C(=O)−(C1〜C6)アルキレン−C(=O)−である)であることができる。
【0053】
配列番号1のアミノ酸配列のN末端とタンパク質導入ドメインのアミノ基とを結合させるための安定な結合基−M−の例としては、
−C(=O)−(すなわち尿素);
−C(=O)−Pep1−NH−C(=O)−NH−Pep2−C(=O)−(式中、−NH−Pep1−C(=O)−及び−NH−Pep2−C(=O)−は、それぞれ、アミノ酸又はペプチド鎖のいずれかであって、それらのアミノ末端(又はアミノ酸の場合にはα−アミノ基)を介して尿素結合−NH−C(=O)−NH−により結合したものを表す。);及び
−C(=O)−Xm−C(=O)−
(式中、
mは1以上、好ましくは1〜3であり、
それぞれの−X−は、直鎖、分岐又は環状の脂肪族炭化水素であって、1個以上のメチレン基が−O−又は−S−で置換されていてよく、かつ、1個以上のメチン基がNで置換されていてよいもの;−CH2CH2(OCH2CH2n−(式中、nは1以上である);及び芳香族環又は複素環式芳香族環よりなる群から選択される。)
が挙げられる。
【0054】
−M−基は、タンパク質導入ドメインと配列番号1のアミノ酸配列とを「結合させる」ものであるが、この用語の使用は、式Iの化合物を合成する方法に関していかなる限定も暗示するものではない。つまり、タンパク質導入ドメインと配列番号1のアミノ酸配列のペプチドとを別々に合成し、次いで互いに連結させる必要はない。むしろ、この用語は、単に、式Iの化合物におけるタンパク質導入ドメインと、配列番号1のアミノ酸配列と、結合基−M−との間の構造的な結合部分を説明するものに過ぎない。
【0055】
b.タンパク質導入ドメイン
タンパク質導入ドメインは、細胞膜を横断することができ、かつ、タンパク質導入ドメインと関連のあるペプチド、タンパク質又は分子の、所定の細胞の外部から該細胞の細胞質への該細胞の細胞質膜を介した輸送を誘導することのできるペプチドである。
【0056】
HIVのTATタンパク質、ショウジョウバエ由来のアンテナペディアタンパク質及び単純ヘルペスウイルス由来のVP22タンパク質などのいくつかの天然型タンパク質は、容易に細胞に入ることができた。このようなタンパク質の細胞侵入の機構は完全には理解されていないものの、このようなタンパク質中の比較的短い配列(タンパク質導入配列又は膜融合配列)が細胞侵入を容易にする役割を果たすことが分かっている。容易な細胞侵入を促進させる特性は、上記ペプチド配列が別の分子に結合する場合であっても保持される。結果として、このような配列への結合を使用して他の分子が細胞に送達されるのを容易にすることができる。
【0057】
タンパク質導入ドメインは、かなり興味深い研究対象である。というのは、当該ドメインは、他の化合物への結合により、当該結合化合物を細胞に輸送するのを容易にするからである。そのため、かなりの刊行物が発行されている。例えば、「Handbook of Cell−Penetrating Peptides」,Ulo Langel(編集者)(CRC Press,第2版,2006)、「Cell−Penetrating Peptides: Process and Applications」,Ulo Langel(編集者)(CRC Press,第1版,2002);E.L.Snyder外,「Cell−penetrating Peptides in Drug Delivery」,Pharm.Res.,2004,21(3),389−93、A.J.M.Beerens外,「Protein Transduction Domains and their utility in Gene Therapy」,Current Gene Therapy,2003,3(5),486−94;F.Hudecz外,「Medium−sized peptides as built in carriers for biologically active compounds」,Med.Res.Rev.,2005,25(6),679−736。
【0058】
タンパク質導入ドメインに導入できる又は当該ドメインとして使用できるアミノ酸配列の例は表2に示すものである。
【表2−1】

【表2−2】

【表2−3】

【0059】
c.本発明の化合物の特定の実施形態及び好ましい実施形態
本発明の化合物の好ましい実施形態は、−M−が単結合、アミノ酸又はペプチドからなるものである。−M−がアミノ酸からなる場合には、当該アミノ酸は、好ましくはグリシンである。−M−がペプチドからなる場合には、当該ペプチドは、好ましくはそのC末端を介して配列番号1のアミノ酸配列のペプチドのアミノ末端に結合し、かつ、そのN末端を介してタンパク質導入ドメインのC末端に結合する。また、当該ペプチドは、好ましくは10個以下のアミノ酸残基からなる。
【0060】
いくつかの実施形態では、式Iの化合物は、配列番号3のアミノ酸配列を含む。
【0061】
いくつかの実施形態では、タンパク質導入ドメインは、そのC末端で−M−に直接結合する。
【0062】
いくつかの実施形態では、タンパク質導入ドメインは、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33及び配列番号34よりなる群から選択されるアミノ酸配列、好ましくは配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10又は配列番号11のアミノ酸配列、最も好ましくは配列番号4のアミノ酸配列を含む(随意に当該アミノ酸配列からなる)。
【0063】
特定の実施形態では、式Iの化合物は、配列番号1、配列番号2、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71、配列番号72及び配列番号73よりなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドである。
【0064】
特定の実施形態では、式Iの化合物は、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドである。
【0065】
別の好ましい実施形態では、式Iの化合物は配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドである。
【0066】
他の好ましい実施形態では、式Iの化合物又はその実施形態いずれかは単離化合物である。他の好ましい実施形態では、式Iの化合物及び当該化合物を含有する組成物(医薬組成物を含む)は、製薬上許容できない混入物を実質的に有しない。製薬上許容できない混入物とは、所定の化合物であって、ごくわずかの量を超えて存在すると、当該化合物をヒトへの治療投与のための医薬品として使用するのを不適当なものにするであろう化合物のことである。
【0067】
III.本発明の化合物の調製
本発明の化合物は、ペプチド及び有機合成の当業者に周知の方法によって調製できる。
【0068】
本発明のペプチドは、組換えペプチド又は合成ペプチドであることができる。また、これらのものは、例えば、固相合成法を使用して化学的に合成することもできる。タンパク質導入ドメインは、天然ペプチド又は合成ペプチドであることができ、天然源からの単離による製造又は合成が可能である。
【0069】
本発明のペプチドは、ペプチド合成法を使用して新規合成できる。このような方法では、当該ペプチド鎖は、成長しつつあるペプチド鎖に構成アミノ酸を所望の配列で付加する一連のカップリング反応により調製される。様々なN保護基、例えば、カルボベンジルオキシ基又はt−ブチルオキシカルボニル基;様々なカップリング試薬、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド又はカルボニルジイミダゾール;様々な活性エステル、例えば、N−ヒドロキシフタルイミドのエステル又はN−ヒドロキシスクシンイミドのエステル;及び様々な切断試薬、例えば、トリフルオル酢酸(TFA)、ジオキサン中HCl、硼素トリス(トリフルオルアセテート)及び臭化シアンの使用;並びに、中間体の単離及び精製を伴う溶液状態での反応は、当業者に周知の方法である。この反応は、溶液の状態のペプチド又は固相担体に結合したペプチドのいずれかで実施できる。固相方法では、ペプチドは、合成の完了後に固相担体から遊離される。
【0070】
好ましいペプチド合成法は、メリフィールド固相手順に従う。メリフィールド,J.Am.Chem.Soc.,1963,85,2149−54及びScience,1965,50,178−85を参照されたい。固相合成手順に関する追加の情報は、次の学術論文を参照することにより得ることができる:Solid Phase Peptide Synthesis:A Practical Approach,E.Atherton及びR.C.Sheppard(Oxford University Press,1989、Solid Phase Peptide Synthesis,J.M.Stewart及びJ.D.Young(第2版,Pierce Chemical Company,Rockford,1984)、及びR.Merrifield,Advances in Enzymology 32:221−296のレビューの章,F.F.Nold著(Interscience Publishers,New York,1969)及びB.W.Erickson及びR.Merrifield The Proteins,第2巻,pp.255以下参照,Neurath及びHill著(Academic Press,New York,1976)。
【0071】
溶液法によるペプチドの合成は、The Protein,第11巻,Neurath外著(第3版,Academic Press 1976)に記載されている。ペプチド合成に関する他の一般参照としては、Peptide Synthetic Protocols,M.W.Pennington及びBen M.Dunn著(Humana Press 1994)、Principles of Peptide Synthesis,Miklos Bodanszky(第2版,Springer−Verlag,1993)及びChemical Approaches to the Synthesis of Peptides and Proteins,Paul Lloyd−Williams、F.Albericio、E.Giralt(CRC Press 1997)及びSynthetic Peptides:A User’s Guide,G.Grant著(Oxford University Press,2002)が挙げられる。
【0072】
リンカーの−M−がペプチド鎖以外のものである式Iの化合物は、例えば、タンパク質導入ドメインと好適な結合分子とを、当該化合物の正確な性質によって変わってくる方法(ただし、これは当業者には明らかであろう)を使用してカップリングさせることによって調製できる。例えば、Protective Groups in Organic Synthesis,T.W.Greene及びP.G.M.Wuts(第3版,Wiley1999)に記載されるように、好適な保護基方法を採用してカップリング部位の所望の選択を実現することができる。
【0073】
或いは、ペプチドは、そのペプチドをコードする核酸を好適なベクターに結合させ、得られたベクターを好適な宿主細胞に挿入し、得られた宿主細胞により生成されたペプチドを回収し、そして回収されたポリペプチドを精製することを含む組換えDNA技術を使用して調製できる。組換えDNA技術は、当業者には周知である。組換え分子をクローニングし及び発現させる一般的な方法は、Molecular Cloning,Maniatis(Cold Spring Harbor Laboratories,1982)、Molecular Cloning,Sambrook(Cold Spring Harbor Laboratories,第2版,1989)及びCurrent Protocols in Molecular Biology,Ausubel(Wiley and Sons,1987)に記載されている。
【0074】
所望のペプチドをコードする核酸は、1個以上の調節領域に機能的に連結されていてよい。調節領域としては、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、翻訳開始シグナル(コザック領域)、終止コドン、ペプチド切断部位及びエンハンサーが挙げられる。使用される調節配列は、これらが投与される脊椎動物の細胞内において機能的でなければならない。好適な1つの調節領域又は複数の調節領域を選択することは日常的な事項であり、当業者の技術常識である。
【0075】
本発明の化合物の合成に使用できるプロモーターとしては、構成的プロモーターと調節(誘導)プロモーターの両方が挙げられる。これらのプロモーターは、宿主に応じて原核生物型又は真核生物型であることができる。本発明の実施に有用な原核生物型(バクテリオファージを含む)プロモーターには、lac、T3、T7、ラムダPr’Pl’及びtrpプロモーターがある。本発明の実施に有用な真核生物型(ウイルスを含む)プロモーターには、遍在性プロモーター(例えばHPRT、ビメンチン、アクチン、チューブリン)、中間径フィラメントプロモーター(例えばデスミン、神経フィラメント、ケラチン、GFAP)、治療遺伝子プロモーター(例えばMDR型、CFTR、第VIII因子)、組織特異的プロモーター(例えば平滑筋細胞におけるアクチンプロモーター)、刺激に応答するプロモーター(例えば、ステロイドホルモン受容体、レチノイン酸受容体)、テトラサイクリン制御転写調節物質、サイトメガロウイルス前初期、レトロウイルスLTR、メタロチオネイン、SV−40、E1a及びMLPプロモーターがある。テトラサイクリン制御転写調節物質プロモーター及びCMVプロモーターは、WO96/01313号、米国特許第5,168,062号及び米国特許第5,385,839号に記載されている。これらの特許文献の全開示を参照によりここに含めるものとする。
【0076】
本発明で使用できるポリアデニル化シグナルの例としては、SV40ポリアデニル化シグナル及びLTRポリアデニル化シグナルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
本発明の化合物は、化学合成によって調製されるか組換えDNA技術によって調製されるかを問わず、既知の技術、例えば分取HPLCを使用して精製できる。次いで、当該化合物について、ここで説明するアッセイ法に従って生物活性をアッセイすることができるだけでなく、当業者に周知の方法によってアッセイすることもできる。
【0078】
IV.本発明の化合物の生物学的評価
Vif又はVif結合体に結合し、かつ、Vifタンパク質のマルチマー化を阻害する分子は、Vif−Vif結合アッセイを使用して検定できる。具体的に言うと、Vif−Vif結合アッセイは、(1)Vif又はVif含有ペプチドをカラム又はビーズに結合させ;(2)該Vif又はVif含有ペプチドが結合したカラム又はビーズ上に、試験分子とマルチマー化ドメインを含有する標識Vif又はその断片とをアプライし;(3)該カラム又はビーズを洗浄し、そして該カラム又はビーズから該標識Vif又はその断片を分離させ;そして、(4)該カラム又はビーズに結合した標識Vif又はその断片の量を測定し、比較して該試験分子の拮抗作用活性を決定する段階を含む。「標識Vif又はその断片」とは、放射標識Vif、化学標識Vif又は蛍光標識Vifをいうが、これらに限定されない。スクリーニングは、好ましくは35S標識Vifを使用して行われる。
【0079】
化合物のVif機能阻害有効性は、細胞hA3GレベルのVif仲介低下を阻害することに該化合物が有効かどうかを検定することによって決定できる。好適な細胞、例えばH9細胞、HEK 293T細胞又はMT−2細胞に、高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)を結合したhA3Gを含む遺伝子構築物をトランスフェクトし、ウイルスを感染させ、そして、EGFP−hA3G蛍光の存在を、蛍光顕微鏡又はELISAプレート読み取り装置による蛍光検出を使用して監視する。それによって、化合物がウイルス感染によるhA3GレベルのVif仲介低下を減ずることの有効性を測定できる。
【0080】
また、化合物のVif機能阻害有効性は、ウイルス粒子中のhA3Gを定量することで決定することもできる。hA3Gを発現するウイルス感染細胞から放出されたウイルス粒子は、Vif機能が阻害されている場合には高レベルのhA3Gを有する一方で、機能を有するVifは、hA3Gの破壊をもたらし、また、Vifがウイルス粒子に取り込まれるのをブロックする。そのため、Vif機能をブロックする効果のある薬剤は、ウイルス粒子中におけるhA3Gレベルを高くするであろう。細胞から放出されたウイルス粒子について、ウイルス粒子のドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を行い、得られたゲルをウエスタンブロットし、そして該ブロットをhA3G抗体で探索することによりそれらのhA3G含有量を定量できる。これらのブロットをp24のような別のウイルスタンパク質に対する抗体でも探索する場合には、hA3Gの測定存在量を正規化してウイルス量の変動を明らかにすることができる(すなわち単位ウイルス量により表される)。
【0081】
Vifに結合するものとして同定された化合物について、例えばここで説明するような当業者に周知の試験管内及び生体内抗ウイルスアッセイで活性を試験することができる。次の例は、所定の化合物についてHIV−1に対する有効性を評価するための例示の手順を説明するものである。
【0082】
まず、治療化合物が培養細胞中におけるHIV−1複製に及ぼす影響を決定することができる。これは、造血細胞(例えば、MT−2T細胞リンパ腫細胞、第一末梢血単核球細胞(PBMC)、単離マクロファージ、単離CD4陽性T細胞又は培養H9ヒトT細胞)に、HIV−1を、細胞に試験管内で急性感染させるための当該技術分野において周知の力価(例えば104.5TCID50/mL)を使用して急性感染させることにより実施できる。次いで、これらの細胞を様々な量の1種の試験化合物の存在下で培養する。次いで、培養液を、HIV−1生産についてアッセイする(例えば、逆転写酵素アッセイを使用して逆転写酵素のレベルを測定することにより又は市販のELISAアッセイを使用してp24抗原を測定することにより)。未処理対照群で観察されたウイルスレベルと比較したレベルの低下は、その試験化合物がHIV−1感染の治療に試験管内で有効であることを示す。
【0083】
ヒトで試験する前に、好ましくは、試験化合物をHIV−1感染の動物モデルで試験する。このようなモデルの一つにおいては、本発明の化合物をHIV−1のための遺伝子導入マウス、例えば、gag及びpol遺伝子欠失HIV−1プロウイルスゲノムの7.4kbを含む分子クローンpNL4−3を組み込んだマウスに投与する(P.Dickie外,Virology,1991,185,109−119)。このマウスから得られた皮膚生検について、RT−PCR(逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応)によってHIV−1遺伝子の発現を試験し又は免疫染色法によってHIV−1抗原の発現、例えばgp120若しくはNEFの発現を試験する。さらに、当該マウスについて、HIV−1遺伝子導入マウスにおいて通常観察される悪液質及び成長遅延が低減するかどうか試験する(R.R.Franks外,Pediatric Res.,1995,37,56−63)。
【0084】
また、本発明の化合物の有効性は、SIV感染アカゲザル(N.L.Letrin外,J.AIDS,1990,3,1023−40)、特に、実験的に感染したサルにおいてヒトAIDSに非常に類似する症候群を引き起こすSIVmac251に感染したアカゲザルで決定することもできる(H.Kestler外,Science,1990,248,1109−12)。特に、サルに、無細胞SIVmac251、例えば104.5TCID50/mLの力価のウイルスを感染させることができる。感染を、PBMCにおけるSIVのp27抗原の出現により監視する。本発明の化合物の有用性は、正常の体重増加、PBMCにおけるSIV力価の減少及びCD4陽性T細胞の増加によって特徴付けられる。
【0085】
HIV感染ヒト細胞について生体内での化合物の有効性を決定するために、中空繊維アッセイを使用することもできる。HIV感染ヒト細胞を、SCIDマウスのような実験動物に移植された中空繊維内で成長させ、そして当該細胞からの感染の広がりを、PCR、フローサイトメトリー、p24又は逆転写酵素といったエンドポイントを使用して監視する。例えば、B.Taggart外,Antiviral Res.,2004,63(1),1−6を参照されたい。
【0086】
ヒト患者では、化合物による治療の有効性は、HIV−1感染症及びHIV−1関連疾患の様々なパラメーターを測定することによって決定できる。特に、ウイルス量の変化は、定量RT−PCRを使用した血漿のHIV−1RNAの定量分析によって(B.Van Gemen外,J.Virol.Methods,1994,49,157−68;Y.H.Chen外,AIDS,1992,6,533−39)又は単離PBMCからのウイルス生産についてのアッセイによって決定できる。PBMCからのウイルス生産は、患者からのPBMCとH9細胞とを同時に培養し、その後p24抗原レベルについてELISAアッセイを使用してHIV−1の力価を測定することによって決定できる(M.Popovic外,Science,1984,204,497−500)。血漿HIV−1レベル及びエイズの進行の別の指標は、炎症性サイトカイン、例えば、IL−6、IL−8及びTNFαの生産である;したがって、本発明の化合物の有効性は、これらのサイトカインのいずれか又は全ての血清レベルの減少についてのELISA試験により評価できる。また、治療の効果は、CD4陽性T細胞レベルの変化、体重の変化又はHIV感染若しくはAIDS若しくはエイズ関連症候群(ARC)に関連のある任意の他の身体状態の変化を評価することによって実証することもできる。
【0087】
V.本発明の化合物の塩
ペプチド鎖は、典型的には酸性基又は塩基性基(例えばアミン基又はカルボキシル基)を含有するが、このような基は、必ずしも遊離塩基の形態である必要はない。ペプチドである化合物やペプチド鎖を含有する化合物に言及する場合には、当該言及には、ペプチドの塩の形態が含まれるものとする。したがって、式Iの化合物の塩及びその誘導体は、本発明の範囲内にある。好ましい塩は製薬上許容できる塩である。
【0088】
用語「塩」は、本発明の化合物である遊離酸又は遊離塩基の付加塩を包含する。用語「製薬上許容できる塩」とは、薬学的応用において有用性を与える範囲内で毒性プロフィールを有する塩をいう。製薬上許容できない塩は、例えば、本発明の化合物の合成、精製又は調合過程における有用性のような、本発明の実施の際に有用性を有する、高い結晶化度といった特性を有することができる。
【0089】
好適な製薬上許容できる酸付加塩は、無機酸又は有機酸から調製できる。無機酸の例としては、塩酸、臭化水素酸、沃化水素酸、硝酸、炭酸、硫酸及び燐酸が挙げられる。好適な有機酸は、脂肪族、脂環式、芳香族、芳香脂肪族、複素環式、カルボン酸及びスルホン酸類の有機酸から選択でき、その例としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、4−ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボニン酸(パモン酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、トリフルオルメタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、スルファニル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、ステアリン酸、アルギン酸、β−ヒドロキシ酪酸、サリチル酸、ガラクタル酸及びガラクツロン酸が挙げられる。製薬上許容できない酸付加塩の例としては、例えば、過塩素酸塩及びテトラフルオロホウ酸塩が挙げられる。
【0090】
本発明の化合物の好適な製薬上許容できる塩基付加塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及び遷移金属塩などの金属塩、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩及び亜鉛塩などが挙げられる。また、製薬上許容できる塩基付加塩としては、例えば、N,N'−ジベンジルエチレンジアミン、クロルプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N−メチルグルカミン)及びプロカインなどの塩基性アミンから作られた有機塩も挙げられる。製薬上許容できない塩基付加塩の例としては、リチウム塩及びシアン酸塩が挙げられる。これらの塩の全ては、好適な酸又は塩基と式Iに従う化合物とを反応させることによって式Iに従う対応化合物から製造できる。
【0091】
VI.医薬組成物
本発明の化合物は、製薬上許容できるキャリヤーと共に医薬組成物の形態で投与できる。このような処方物中における有効成分は、0.1〜99.99重量%を占めることができる。「製薬上許容できるキャリヤー」とは、処方物の他の成分と相溶性があり、かつ、受容者にとって有害ではない任意のキャリヤー、希釈剤又は賦形剤を意味する。
【0092】
活性剤は、好ましくは、選択した投与経路及び標準的な薬務を基準にして選択された製薬上許容できるキャリヤーと共に投与される。この活性剤は、医薬品の分野における標準的な方法に従って所定の剤形に処方できる。Alphonso Gennaro著,Remington’s Pharmaceutical Sciences,第18版(1990)、Mack Publishing Co.,米国ペンシルバニア州イーストンを参照されたい。好適な剤形は、例えば、錠剤、カプセル剤、溶液、点滴製剤、トローチ、坐剤又は懸濁液を含むことができる。
【0093】
非経口投与については、活性剤は、好適なキャリヤー又は希釈剤、例えば、水、オイル(特に植物油)、エタノール、食塩水、水性デキストロース(グルコース)及び同類の糖溶液、グリセリン又はプロピレングリコール若しくはポリエチレングリコールなどのグリコールと混合できる。非経口投与用の溶液は、好ましくは活性剤の水溶性塩を含有する。また、分解防止剤、酸化防止剤及び防腐剤を添加することもできる。好適な酸化防止剤としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸、クエン酸及びその塩並びにナトリウムEDTAが挙げられる。好適な防腐剤としては、塩化ベンザルコニウム、メチルパラベン又はプロピルパラベン及びクロルブタノールが挙げられる。非経口投与用の組成物は、水溶液又は非水性溶液、分散液、懸濁液又はエマルジョンの形態をとることができる。
【0094】
経口投与にあたって、活性剤は、錠剤、カプセル剤、丸剤、粉剤、顆粒剤その他の好適な経口剤形を製造するための1種以上の固形不活性成分と混合できる。例えば、活性剤は、少なくとも1種の賦形剤、例えば、充填剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、溶解遅延剤、吸収促進剤、浸潤剤、吸収剤又は潤滑剤と混合できる。錠剤の一具体例によれば、活性剤をカルボキシメチルセルロースカルシウム、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール及びデンプンと混合させ、続いて、従来の打錠方法によって錠剤に成形することができる。
【0095】
当該組成物は、好ましくは、単位剤形であってそれぞれの剤形が剤形1単位当たり約1〜約500mg、さらに典型的には、約10〜約100mgの活性剤を含有するもので処方される。用語「単位剤形」とは、ヒト患者及び他のほ乳類のために一単位の投与量として好適な物理的に分離した複数の単位であって、それぞれの単位が、所望の治療効果を生じさせるように算出された所定量の活性材料を好適な製剤賦形剤と共に含有するものをいう。
【0096】
また、本発明の医薬組成物は、その中の有効成分の持続放出又は制御放出を与えるように、例えば、所望の放出特性を与えるために様々な割合のヒドロプロピルメチルセルロース、他の重合体マトリックス、ゲル、透過性膜、浸透圧系、多層被覆、微小粒子、リポソーム及び/又はミクロスフェアを使用して処方することもできる。
【0097】
一般に、放出制御製剤とは、所望期間にわたって一定の薬理活性を維持するのに必要な速度で有効成分を放出することができる医薬組成物のことである。このような剤形は、所定の期間中身体に薬剤を供給し、それによって従来の非放出制御製剤よりも長い期間にわたって薬剤レベルを治療範囲内に維持する。
【0098】
米国特許第5,674,533号には、モギステイン(強力な末梢性鎮咳薬)を投与するための液体剤形としての放出制御医薬組成物が開示されている。米国特許第5,059,595号には、器質性精神障害の治療のために胃耐性錠剤を使用することにより活性剤を制御放出させることが記載されている。米国特許第5,591,767号には、ケトロラック(強力な鎮痛作用を有する非ステロイド系抗炎症剤)の制御投与用の液体貯留経皮貼布が記載されている。米国特許第5,120,548号には、膨潤性重合体から構成される制御放出薬剤送達装置が開示されている。米国特許第5,073,543号には、ガングリオシド−リポソームビヒクルによって封入された栄養素を含有する放出制御製剤が記載されている。米国特許第5,639,476号には、親水性アクリル系重合体の水性分散液から得られる被覆を有する安定な固形物制御放出製剤が開示されている。生分解性微小粒子は、放出制御製剤に使用するためのものとして知られている。米国特許第5,354,566号には、有効成分を含有する放出制御粉末が開示されている。米国特許第5,733,566号には、抗寄生虫組成物を放出する高分子微小粒子を使用することが記載されている。
【0099】
有効成分の制御放出は、様々な誘導因子、例えばpH、温度、酵素、水若しくは他の生理的条件又は化合物によって刺激できる。様々な薬剤放出機構が存在する。例えば、一実施形態では、患者への投与後に制御放出成分が膨張し、有効成分を放出する程度に十分に大きな多孔質の間隙を形成することができる。本発明において、用語「制御放出成分」は、医薬組成物中の有効成分の制御放出を容易にする1種以上の化合物、例えば、重合体、重合体マトリックス、ゲル、透過性膜、リポソーム及び/又はミクロスフェアであると定義される。別の実施形態では、制御放出成分は生分解性であり、これは、体内の水性環境、pH、温度又は酵素にさらされることによって誘導される。別の実施形態では、室温では固体のゾルゲルマトリックスに有効成分を取り込んだゾルゲルが使用できる。このマトリックスをゾルゲルマトリックスのゲル形成を誘導するのに十分に高い体温を有する患者、好ましくは哺乳動物に埋め込み、それによって有効成分が該患者に放出される。
【0100】
鼻腔内投与や吸入による投与に好適な本発明の化合物の組成物が特に興味深い。
【0101】
本発明の化合物は、概して乾燥粉末として(そのもの又は混合物のいずれか、例えば、無水物又は一水和物、好ましくは一水和物としてのラクトース、マンニトール、デキストラン、グルコース、マルトース、ソルビトール、キシリトール、フルクトース、スクロース若しくはトレハロースとの乾燥ブレンドで又は混合成分粒子、例えばリン脂質と混合された混合成分粒子として)乾燥粉末吸入器から、或いはエアゾールスプレーとして、加圧された容器、ポンプ、スプレー、噴霧器(好ましくは電気流体力学を使用して霧状ミストを生じさせる噴霧器)から、或いはジクロロフルオロメタンなどの好適な推進剤を使用して若しくはそれを使用しないで噴霧剤として、鼻腔内投与又は吸入による投与をすることができる。
【0102】
加圧容器、ポンプ、スプレー、噴霧器又は噴霧剤は、例えば、エタノール(随意に、水性エタノール)やそれに代わる活性化合物の分散、溶解若しくは延長放出用の好適な試剤、溶媒としての推進剤及びソルビタントレオレエートやオリゴ乳酸などの随意の界面活性剤を含む活性化合物の溶液又は懸濁液を含有する。
【0103】
乾燥粉末又は懸濁液処方物に使用する前に、薬剤生成物を吸入による送達に好適なサイズにまで微粉化する(典型的には5ミクロン未満)。これは、好適な粉末化方法、例えばスパイラルジェット磨砕、流動床ジェット磨砕、ナノ粒子を形成させるための超臨界流体処理、高圧ホモジナイズ法又は噴霧乾燥などにより達成できる。
【0104】
電気流体力学を使用して霧状ミストを生じさせる噴霧器に使用するのに好適な溶液処方物は、1回の作動当たり本発明の化合物を1μg〜20mg含有し、作動容量は1μL〜100μLまで変更できる。典型的な処方物は、本発明の化合物、プロピレングリコール、滅菌水、エタノール及び塩化ナトリウムを含むことができる。プロピレングリコールの代わりに使用できる別の溶媒としては、グリセリン及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0105】
吸入器又は注入器に使用するためのカプセル剤、ブリスター及び薬包(例えば、ゼラチン又はHPMCから作られたもの)は、式(I)のニコチンアミド誘導体と、ラクトースやデンプンなどの好適な粉末原料と、L−ロイシン、マンニトール又はステアリン酸マグネシウムといった性能調節剤との粉末混合物を含有するように処方できる。
【0106】
吸入/鼻腔内投与のための処方物は、即時放出型及び/又は放出調節型となるように処方できる。放出調節性処方物としては、遅延放出型、持続放出型、パルス放出型、制御二段階放出型、標的放出型及びプログラム放出型が挙げられる。持続放出型又は制御放出型は、例えばポリ(D,L−乳酸−コ−グリコール酸)を使用することによって得ることができる。
【0107】
VII.本発明の化合物を使用した治療方法
本発明の化合物はVifのマルチマー化を阻害するので、レンチウイルス感染を伴う病気及び疾患だけでなく、Vifのマルチマー化に関連する他の疾患の治療や予防に使用できる。その方法は、ここで説明した化合物又は該化合物を含む医薬組成物の有効量を、そのような治療又は予防が必要な個体に投与することを含む。そのような治療が必要な個体とは、レンチウイルスに感染している個体又はVifのマルチマー化に関連する疾患に罹患している個体のことである。そのような予防が必要な個体とは、当該ウイルスに実際にさらされている又はさらされるおそれがあるため、ウイルスに感染するリスクのある個体のことである。
【0108】
特定の実施形態では、当該化合物は、(1)レンチウイルス、特にHIV−1に関連する病気、疾患若しくは状態;又は(2)試験管内(若しくは生体内)アッセイによりVifアンタゴニスト投与の効用が示された病気、疾患又は状態において、治療のために(予防を含む)投与される。HIV−1の存在は、当該技術分野において標準的な任意の手段によって、例えば患者の血液試料を得て、そして当該試料についてHIV−1の存在を検定することによって容易に検出できる。
【0109】
予防は、HIVウイルスに短期間さらされたことが分かった又はそれが疑われた後の、以前には未感染の個体に必要である。このようなペプチドの予防的使用の例としては、母親から乳幼児へのウイルス感染の予防及びHIV感染の可能性がある他の状況、例えば労働者がHIVを含む血液製剤にさらされる医療現場での事故の予防が挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
特定の疾患又は状態の治療に有効な本発明の治療剤の量は、当該疾患又は状態の性質に依存し、標準的な臨床技術によって決定される。さらに、試験管内アッセイを適宜使用して最適な投与量の範囲を特定するのに役立ててもよい。また、処方物に使用されるべき正確な投与量も投与経路及び病気、疾患又は状態の重症度に依存し、医師の判断及び各患者の事情に従って決定される。
【0111】
また、薬剤の組合せを投与することによるHIV−1感染症及び/又はAIDSの治療方法又は予防方法も提供する。この方法は、そのような治療又は予防が必要な個体に、ここで説明した化合物又は該化合物を含む医薬組成物の有効量を逆転写酵素阻害剤、HIV−1プロテアーゼ阻害剤又は融合阻害剤(以下、まとめて「従来のHIV薬剤」という。)よりなる群から選択される1種以上の化合物と共に投与することを含む。
【0112】
販売されている従来のHIV−1薬剤について、好適な投与量及び投与手順は、製造業者が推奨するものであり、例えばPhysician’s Desk Reference,第60版(Thomson Healthcare,2006)に公開されている。その開示の全体を参照によって援用する。販売されている薬剤及び治験用化学療法剤の両方について、好適な投与量は、この文献において、当該化合物の臨床試験の報告として言及され、公開されている。当業者であれば、任意の特定の兆候にとって好適な投与量及び投与手順を決定するに際してこのような情報源を参照するであろう。このような確立したプロコールは、従来のHIV薬剤を式Iの化合物とは別の組成物で投与している場合には特に好ましい。したがって、特定の実施形態では、従来のHIV薬剤の投与の投与量、処方、投与経路及び投与計画は、当該薬剤に関する既知のプロトコールに従って実施される。しかしながら、HIV−1薬剤と本発明の化合物とを併用することの見込まれる利点は、これらの化合物を別々に使用した場合に見込まれるよりも少ない投与量でこれらの化合物のいずれか又は両方を使用することが可能になる場合があることである。
【0113】
VIII.本発明の化合物の投与
当該化合物は、経口投与、直腸内投与、肺内投与、舌下投与及び非経口投与を含めた任意の経路で投与できる。非経口投与としては、例えば、静脈内投与、筋肉内投与、動脈内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、膣内投与、嚢内投与(例えば、膀胱に)、皮内投与、経皮投与、局所投与又は皮下投与が挙げられる。典型的には、1日当たり少なくとも1回、典型的には1日当たり1回、2回、3回又は4回、薬剤の一定の存在を維持してウイルスを抑制し、かつ、耐性発現の機会を減らすために昼夜を通して等間隔で所定の投与量を与えて治療を施す。
【0114】
本発明の1種以上の化合物は、同一の若しくは異なる経路で又は治療中の様々な時点で同時に投与できる。また、本発明の化合物は、従来のHIV薬剤と組み合わせて処方することもできる。このような組合せで使用する場合に、本発明の化合物及び従来のHIV薬剤は、同一の若しくは異なる経路で又は治療中の様々な時点で同時に投与できる。選択した従来のHIV薬剤の投与量は、使用される特定の化合物と、投与の経路及び頻度に依存するであろう。典型的には、従来のHIV薬剤による治療も1日当たり少なくとも1回、典型的には1日当たり1回、2回、3回又は4回行われ、この場合、必ずしも本発明の化合物と同じスケジュールに従う必要はないが、昼夜を通して等間隔で所定の投与量が与えられるであろう。
【0115】
治療は、必要に応じてある程度長い期間にわたり実施できる。典型的には、感染を繰り返す間には治療が無期限に続行されるものと考えられるが、ただし、例えばウイルスによる耐性の発現のため当該化合物がもはや薬効を生じない場合には、中断を指示することができるであろうと考えられる。治療にあたる医師であれば、患者の反応に基づいて治療を増やし、減らし又は中断する方法が分かるであろう。
【0116】
細胞増殖性疾患の治療について治療効果を得るための本発明に従う化合物の具体的な投与量は、勿論、患者の身長、体重、年齢及び性別、病気の性質及び段階、病気の攻撃性並びに化合物の投与経路を含めた個々の患者の特定の状況によって決定されるであろう。
【0117】
例えば、約0.02〜約50mg/kg/日、より好ましくは約0.1〜約10mg/kg/日の1日投与量を使用できる。また、これよりも多い又は少ない投与量も想定される。場合によっては、これらの範囲外の投与量を使用する必要があるかもしれないからである。この1日投与量は分割できる。例えば、1日の投与につき2〜4回に等しく分割できる。静脈内投与について好適な投与量の範囲は、概して体重1kg当たり約20〜500マイクログラムである。
【0118】
鼻腔内又は吸入投与にとって好適な投与量範囲は、概して、約0.01pg/kg体重〜1mg/kg体重である。乾燥粉末吸入器及び噴霧器の場合には、投与単位は、定量を供給するバルブにより決定される。単位は、本発明に従い、典型的には定量又は適当量を供給する「ひと吹き」を投与するようにアレンジされる。1日投与量は、その日を通して単回投与で又は分割投与として投与できる。
【0119】
坐剤は、一般に、0.5重量%〜10重量%の範囲の有効成分を含有する;経口処方物は、好ましくは10%〜95%の有効成分を含有する。
【0120】
有効量は、試験管内モデル試験系又は動物モデル試験系から得られた用量反応曲線から推定できる。
【0121】
また、本発明は、本発明の医薬組成物の成分のうち1種以上が充填された1個以上の容器を含む医薬パック又は医薬キットも提供する。随意に、このような容器には、医薬品又は生物製品の製造、使用又は販売を規制する政府機関によって規定された形式の通知が添付され、この通知は、ヒトへの投与のための製造、使用又は販売に関する機関による認可を示す。
【実施例】
【0122】

次の例は本発明を例示するために提供するものであり、本発明を限定するものではない。
【0123】
例1〜39.本発明の例示化合物
表3に示すペプチドは、本発明の範囲内にある化合物の例示である。
【表3−1】

【表3−2】

【0124】
例40.タンパク質発現及び試験管内結合アッセイ
Vifに結合する化合物は、例えば、試験管内結合アッセイを使用して同定できる。このアッセイは、米国特許第6,653,443号に記載されたとおりに実施できる。基本的に次のとおりである。
Vif遺伝子を有する又は有しないベクターpGEXでBL21コンピテント細胞(ノバゲン社,米国ウィスコンシン州マジソン)を形質転換させる。37℃でおよそ0.6のODまで増殖させた後に、GST又はGST−Vifタンパク質の発現を0.4mMのイソプロピルチオ−β−D−ガラクトシド(IPTG)により誘導する。これらの細菌細胞を、溶解緩衝液(1%のTriton−X−100、0.1mg/mLのリゾチーム、2mMのEDTA、1mMのPMSF、2μg/mLのロイペプチン及び1μg/mLのアプロチニン)を添加し、その後超音波処理により溶解させる。この試料を12000gで10分間にわたり4℃でペレット化させ、その上澄みをグルタチオン結合アガロースビーズ(シグマ社,米国ミズーリ州セントルイス)カラムに加える。バッチ結合後に、そのマトリックスを3回、各回毎に10ベッド容量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を添加することによって洗浄する。次いで、GST又はGST−Vifが結合したアガロースビーズを分注し、そして−20℃で保存した。
逆に、35S−標識Vifは、SPT3キット(ノバゲン社,米国ウィスコンシン州マジソン)を利用して合成する。製造業者が提供するプロトコールに従う。試験管内で翻訳した後に、RNアーゼA(0.2mg/mL)を添加して反応を停止させ、tRNAと試験管内で翻訳したmRNAとを除去する。トリクロル酢酸(TCA)不溶性放射活性アミノ酸をシンチレーションカクテルの存在下で定量した。
GSTプルダウンアッセイについては、GST又はGST−Vif結合ビーズスラリーと35S−標識Vifとを結合用緩衝液[150mMのNaCl、20mMのトリス−HCl(pH7.5)、0.1%のTriton−X−100]中で混合させる。4℃で1時間の結合後に、この混合物を3000gで1分間遠心分離し、そしてビーズを結合用緩衝液で3回洗浄する。この35S−標識Vifタンパク質を、SDS含有添加液を添加し、そして95℃で5分間加熱することによってビーズから分離させる。次いで、これらの試料をSDS−PAGEゲル(米国カリフォルニア州ハーキュリーズのバイオ・ラド社が製造する15%のトリス−HCl既製ゲル)で電気泳動する。固定用緩衝液(10%酢酸、10%メタノール)で処理し、次いで増幅(アマシャム・ファルマシア社,米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)した後、これらのゲルを乾燥させ、そしてX線フィルムに暴露し又は蛍光体画像を使用して定量分析した(モレキュラー・ダイナミクス社,米国カリフォルニア州サニービュー)。
Vif−Vif結合アッセイをGSTプルダウンアッセイと同様に実施したが、ただし、GST又はGST−Vif結合ビーズスラリーと35S−標識Vif及び試験ペプチド又は試験分子とを結合用緩衝液中で混合させた。これらの結果をGSTプルダウンアッセイからの結果(これを100%と表す)と比較する。
【0125】
例41.配列番号1のアミノ酸配列のペプチドがウイルス感染を阻害するのに必要な最低限の配列を有することの実証
配列番号36のアミノ酸配列のペプチドの様々な切断型アナログを調製してウイルス感染を阻害するのに必要な最低限のペプチドを決定した。これらの化合物を、PBMCにHIV−1NL4-3ウイルスを感染させた(MOI:0.1)ウイルス感染力アッセイで試験した。ウイルス生産量をp24GagELISA(Zeptometrics)を使用して細胞培養液中のHIV−1p24抗原レベルを検出することによって監視した。これらの実験の結果を表4にまとめる。
【0126】
【表4】

【0127】
配列番号2のアミノ酸配列のペプチドは、2596のM.W.と、12.39という塩基性の等電点(pI)と、約1mg/mLの溶解度とを有していた。
【0128】
例42.配列番号2のアミノ酸配列のペプチドがヒトTリンパ芽球様H9株細胞においてHIV−1NL4-3ウイルスを阻害することの実証
ウイルス感染力アッセイを、配列番号2及び配列番号36のアミノ酸配列のペプチド並びに配列番号35のアミノ酸配列の対照ペプチドの存在下又は非存在下で、H9細胞内でHIV−1NL4-3ウイルスを使用し、HIV−1p24抗原を検量することにより実行した。この手順は、基本的に、次の方法について記載されているB.Yang外,J.Biol.Chem.,2003,278(8),6596−602に記載されたとおりに実行した。H9細胞(1×106)とHIV−1NL4-3ウイルスとを0.01の感染効率で混合させた。37℃で5時間インキュベートした後に、過剰のウイルスを除去し、そして細胞を、50μM濃度のペプチドを有する又は有しないRPMI1640培地+10%ウシ胎仔血清の存在下で培養した。3〜4日毎に、上澄みを集め、補給した。これらのペプチドがウイルス感染力に及ぼす影響を、細胞培養液の上澄み中におけるHIV−1p24抗原レベルをELISAにより検出することによって監視した。
これらの実験の結果を図3に示す。配列番号2のアミノ酸配列のペプチド及び配列番号36のアミノ酸配列のペプチドは、両方とも、未処理細胞又は配列番号35のアミノ酸配列の対照ペプチドで処理した細胞と比較して、ウイルスの複製を阻害した。
【0129】
例44.MT−2細胞での低感染効率急性感染(MOI)アッセイにおける本発明の化合物の評価手順
MT−2細胞及び研究室適応HIV−1IIIB株を、米国メリーランド州ロックビルのAIDS Research and Reference Reagent Programから得た。
96ウェルマイクロタイタープレート中で次の標準的なプロトコールを使用してMT−2細胞に感染させた。既知濃度の試験化合物又はコントロール(ネガティブコントロールとして水又はポジティブコントロールとしてAZT )の溶液(50μL)を1ウェル当たり2.5×103個細胞の密度で蒔かれたMT−2細胞(50μL)に三通り添加した。これらウェルにHIV−1IIIBウイルスを100μLの容量で0.10、0.032、0.01及び0.0032μL/ウェルのMOIで添加した。感染したMT−2細胞でのウイルス複製を逆転写酵素アッセイによって毎日監視した。試験化合物(又はコントロール化合物)を、一日おきに、除去した上澄みの容量に相当する容量で同じ既知濃度で補充して逆転写酵素アッセイを行った。これは、この試験を通してウェル内の化合物濃度を合理的に一定に維持することを目的とするものである。培養液を、培養液の1:5分割を実施することによって8日目及び14日目に継代培養して細胞を対数増殖期に維持する。この継代培養は、ウェルの容量の20%(細胞及び培地)を、新鮮な組織培養培地を試験化合物(又はコントロール)の新たな試料と共に含有するウェルに移すことを伴うものであった。
ウイルス複製を評価するための逆転写酵素活性アッセイを、放射活性取り込み重合アッセイを使用して、基本的に次のとおりに実施した。トリチウム化チミジンホスフェートをパーキンエルマー社から1Ci/mLで購入し、酵素反応につき1μLを使用した。ポリ(rA)及びオリゴ(dT)を、−20℃で維持された原液から、それぞれ0.5mg/mL及び1.7単位/mLの濃度で調製した。逆転写酵素反応緩衝液を毎日新たに調製した。これは、1MのEGTA(125μL)、脱イオン水(125μL)、20%のTritonX−100(125μL)、トリス(pH7.4)(50μL)、DTT(50μL)及びMgCl2(1M,40μL)からなる。それぞれの反応のために、トリチウム化チミジンホスフェート(1μL)と、脱イオン水(4μL)と、ポリ(rA)及び オリゴ(dT)溶液(2.5μL)と、反応緩衝液(2.5μL)とを混合した。得られた反応混合物(10μL)を丸底マイクロタイタープレートに置き、そしてウイルスを含有する上澄み(15μL)を添加し、混合した。このプレートを加湿インキュベーター内において37℃で90分間インキュベートし、次いで反応体積の10μLを適当なプレートフォーマット内のDEAEろ過マット上にスポットし、5%リン酸ナトリウム緩衝液中で5分間にわたり5回洗浄し、蒸留水中で1分間にわたり2回洗浄し、70%エタノール中で1分間にわたり2回洗浄し、次いで風乾させた。乾燥したろ過マットをプラスチック製のスリーブ内に置き、Opti−Fluor(商標)O(液体シンチレーションカクテル,パーキンエルマー社)を各スリーブに添加した。取り込まれた放射活性を液体シンチレーションカウンター(Wallac1450Microbeta(商標)Trilux)で測定した。
【0130】
上記実験を次のペプチドを使用して行った:
(1)Tyr Gly Arg Lys Lys Arg Arg Gln Arg Arg Arg Gly Asp Leu Gly Glu Gln His Phe Lys Gly Leu Val Leu(配列番号35)。
(2)Tyr Gly Arg Lys Lys Arg Arg Gln Arg Arg Arg Gly Ser Asn Gln Gly Gly Ser Pro Leu Pro Arg Ser Val(配列番号36)。
(3)Tyr Gly Arg Lys Lys Arg Arg Gln Arg Arg Arg Gly Gln Gly Gly Ser Pro Leu Pro Arg Ser Val(配列番号2)。
【0131】
これらの実験の結果を、図4A〜4D(配列番号35のアミノ酸配列のペプチドと配列番号36のアミノ酸配列のペプチドとの比較)及び図5A〜5D(配列番号2のアミノ酸配列のペプチドについての結果を示す)に示している。示したデータの他に、溶媒のコントロール(試験化合物の溶液ではなく水による細胞の偽処理)及び細胞コントロール(ウイルス感染していないMT−2細胞)を他の実験と平行して実施した。
【0132】
高いMOI(0.1)(図4A及び5A)では、コントロールペプチド(配列番号35の配列)はウイルス生産を阻害しなかったのに対し、配列番号36のアミノ酸配列のペプチドは、およそ4〜5日間ウイルス生産の開始を遅延させた。配列番号2のアミノ酸配列のペプチドは、配列番号36のアミノ酸配列のペプチドと同様の効果を有し、約5〜6日間ウイルス生産の開始を遅延させることが分かった。
【0133】
中程度に高いMOI(0.03)(図4B及び5B)では、配列番号36のアミノ酸配列のペプチドでMOI(0.1)の場合と同様の効果が見られ、約2〜3日間ウイルス生産の開始を遅延させた。配列番号2のアミノ酸配列のペプチドは、約3〜4日間ウイルス生産の開始を遅延させたが、およそ11日目でピークに達した後15日まで抑制が回復しなかった。コントロールペプチド(配列番号35の配列)は、ウイルス生産を阻害しなかった。
【0134】
中程度に低いMOI(0.01)(図4C及び5C)では、結果は、MOI(0.03)で観察された結果と同様であった。配列番号36のアミノ酸配列のペプチドは、およそ3〜4日間ウイルス生産の開始を遅延させたのに対し、配列番号2のアミノ酸配列のペプチドは、およそ5〜6日間ウイルス生産の開始を遅延させ、かつ、約11日目でピークに達した後15〜16日で抑制を回復した。コントロールペプチド(配列番号35の配列)は、ウイルス生産を阻害しなかった。
【0135】
試験した最も低いMOI(0.003)(図4D及び5D)では、配列番号36のアミノ酸配列のペプチドは、ウイルス生産に何らかの影響を及ぼすようには思われなかった:このペプチドに関する結果は、ウイルスコントロール及び溶媒コントロールについての結果をたどるように思われた(データは示さない)。コントロールペプチド(配列番号35の配列)は、未処理細胞に対してウイルス生産をいくらか向上させるように思われた。配列番号2のアミノ酸配列のペプチドは、ウイルスコントロール試料と比較して有意な保護を与え、およそ7〜8日間ウイルス生産の開始を遅延させた。
【0136】
これらの結果から、配列番号36のアミノ酸配列のペプチドはウイルス生産の阻害の点で活性であり、配列番号2のアミノ酸配列のペプチドは、試験した最も高いMOI(この場合、配列番号2のアミノ酸配列のペプチドと配列番号36のアミノ酸配列のペプチドの活性は匹敵していた)を除けば、それよりも際だって効果的であったことが示された。
【0137】
また、これらの結果は、特に0.03及び0.01のMOIでの配列番号2のアミノ酸配列ペプチドの曲線間で、配列番号36のアミノ酸配列のペプチドと比較して定性的な差異が観察された点でも注目に値する。上記のように、配列番号36のアミノ酸配列のペプチドは、逆転写酵素レベルで判断したときに、ウイルス複製の発現を遅延させる点では効果的であったが、ウイルス複製の発現後には、実験期間にわたり逆転写酵素レベルの上昇が観察された。これに対し、配列番号2のアミノ酸配列のペプチドも、初期にウイルスレベルの上昇の遅延を示したが、その後ウイルスレベルはピークに達し、そして抑制が回復した。この結果は、配列番号1のアミノ酸配列を含む化合物(例えば配列番号2のアミノ酸配列のペプチド)においてVif結合配列を切り詰めると、配列番号76のアミノ酸配列を含む化合物(例えば配列番号36のアミノ酸配列のペプチド)よりもウイルスの複製を抑制する点でさらに効果的であることを示唆するものである。特に、これらの結果は、配列番号1のアミノ酸配列を含む化合物、例えば配列番号2のアミノ酸配列のペプチドが、配列番号76のアミノ酸配列を含む化合物、例えば配列番号36のアミノ酸配列のペプチドよりもウイルス耐性の発現に対する感受性が少ないという点で、特に有利であることを示している。
【0138】
例45.配列番号2のアミノ酸配列のペプチドが細胞に入ることの実証
配列番号2のアミノ酸配列のペプチドをC末端フルオレセインイソチオシアネート(FTIC)タグと共に合成した。このFITCタグは、生細胞の蛍光顕微鏡観察により当該ペプチドの細胞取り込み及び細胞内局在を評価することを可能にする。H9細胞及びMT−2細胞の培養細胞をアメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(ATCC)が推奨する培地中で増殖させ、そしてそれぞれの培養液を培養液中で配列番号2のアミノ酸配列のFTICタグ付きペプチドにより1回処理した。次いで、これらの細胞を培養皿中で倒立蛍光顕微鏡により様々な時点で写真撮影した。それらの画像は、細胞内の蛍光がFITCタグ付きペプチド処理の5分後に検出され、また、FITCタグ付きペプチドの細胞内局在が全ての細胞で30分以内に明確になったように、FITCタグ付きペプチドの細胞への迅速な取り込みを示した。細胞内での分布は、細胞質において点状及び拡散した状態であったが、細胞核内ではFITCタグ付きペプチドは、ほとんど又は全く観察されなかった。この分布は24〜28時間継続したが、処理後72時間で50%以上減少した。
【0139】
核の位置を強調するために、H9細胞及びMT−2細胞を、上記のとおり、配列番号2のアミノ酸配列のFITCタグ付きペプチドで処理し、2%パラホルムアルデヒドで固定し、0.4%トリトンX−100で透過処理し、そしてDNA選択的染料の4'、6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)で染色した。この実験の結果を図6に示す。図6は、FITCタグ付きペプチドによる1回の処理の24時間後にそれぞれ撮影した、細胞核及び配列番号2のアミノ酸配列のタグ付きペプチドに対するDAPI及びFITCタグ染色の個々の画像及び画像オーバーレイ(組合せ)を示す。これらの結果は、配列番号2のアミノ酸配列のFITCタグ付きペプチドが細胞に入り、細胞質に局在しているものの、核には存在していなかったことを示す。
【0140】
例46.配列番号2のアミノ酸配列のペプチドがVif/hAG3仮定機構により特異的に作用することの実証
HEK293T細胞(hA3Gを発現しない)及びhA3GのcDNAをトランスフェクトしたHEK293T細胞に、プロウイルスDNA又はVSV−GのcDNAで偽型化されたΔVifウイルスDNA(envを欠失)のいずれかをトランスフェクトし、そしてウイルス粒子を生産させた。この方法では、Vifを有するウイルスとVifを有しないウイルスとの両方が生産できた。これは、ΔVifウイルスがVifコード配列内に終止コドンを有し、Vif発現が阻害されるからである。
これらの細胞を、感染前の2時間、感染後の10時間及び感染後の24時間、未処理のまま放置するか又は配列番号2のアミノ酸配列のペプチドで処理した。同時感染後48時間で細胞培養液の上澄みを集め、そしてろ過してウイルス粒子を得た。各ウイルスストックのp24(Gag)含有量をELISA(Zeptometrix)で評価し、そして、これらのウイルスストックを10ngのp24に基準化してから次の段階、すなわち、96ウェルプレート内でのJC53BLレポーター細胞の感染を行った。
HeLa−CD4/CCR5(JC53)株細胞は、CD4及びCCR5の両方の表面レベルを比較的高く発現し、R5HIV−1単離体及びX4HIV−1単離体の両方による感染に対して感受性がある。HIV−1プロモーターの調節下でβ−ガラクトシダーゼ及びルシフェラーゼを発現するJC53BL細胞を使用する、HIV−1による感染についてのレポーター遺伝子アッセイが開発されている。X.Wei外,Antimicrob.Agents Chemother.,2002,46(6),1896−1905。
そのため、JC53BLレポーターアッセイを使用して当該細胞のそれぞれが生産したウイルスの感染力を測定することができる。感染を細胞溶解及びルシフェラーゼ基質(プロメガ社)添加前の48時間に開始させた。生じた発光をビクター3プレートリーダー(パーキンエルマー社)で測定した。発光レベルは、各条件下で生産されたウイルスの感染力と相互に関連があった。
【0141】
図7は、hA3G遺伝子をトランスフェクトし、かつ、Vif陽性ウイルスを感染させたHEK293T細胞(「+Vif,+hA3G」)及びVif陰性ウイルスを感染させたHEK293T(非hA3G発現)細胞(「−Vif,−hA3G」)から生成されたウイルスの培養液によるJC53BLレポーター細胞感染性アッセイの結果を示している。配列番号2のアミノ酸配列のペプチドによる処理を行わない場合には、hA3G遺伝子をトランスフェクトし、かつ、Vif陽性ウイルスを感染させたHEK293T細胞(「+Vif,+hA3G」)から生成されたウイルスは、感染性のウイルスを生産した。これは、hA3GのVif−仲介破壊がhA3Gの保護効果に打ち勝つためである。同様に、Vif陰性ウイルス(「−Vif,−hA3G」)を感染させた非hA3G発現HEK293T細胞から生成されたウイルスも感染性ウイルスを生産する。これは、hA3Gの保護効果が存在しないためである。配列番号2のアミノ酸配列のペプチドによる処理の場合には、Vif陽性ウイルスを感染させたhA3G発現細胞が生産するウイルスについて感染性が生じた。Vif陰性ウイルスを感染させた非hA3G発現細胞によって生産されたウイルスの感染性については、何の影響も観察されなかった。これは、Vifの抑制によって仲介される配列番号2のアミノ酸配列のペプチドの抗ウイルス効果と一致する。Vifの抑制によってhA3Gの保護効果が回復するからである。hA3Gは、ウイルスDNAを過剰変異させ、それによってウイルス生産が少なくなり及び/又は不完全な(すなわち感染力の低い)ウイルスが生産される。感染力の低下は、Vif陰性ウイルスを感染させた非hA3G発現細胞では観察されないが、これは、このペプチドが、Vif及び/又はhA3Gを必要としないウイルス生活環におけるいずれのプロセスも妨害しないことを示唆する。
【0142】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び公開された特許出願などの全ての文献は、参照により援用される。本発明は、本発明の精神又は本質的属性から逸脱することなく、他の特定の形態で具現化できるため、本発明の範囲の基準としては、本明細書ではなく添付した請求の範囲を参照すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式Iの化合物:
1−M−配列番号1 (I)
又はその誘導体
(式中、
1−M−は、配列番号1のアミノ酸配列のN末端に結合したタンパク質導入ドメインを有する随意の基を表し、ここで、
1はタンパク質導入ドメインを表し;
−M−は、単結合又は該タンパク質導入ドメインと該配列番号1のアミノ酸配列との間に共有結合を形成する随意の結合基を表し;
ただし、該化合物が配列番号1のアミノ酸配列のN末端に直接結合するアミノ酸を含む場合には、該N末端に直接結合する該アミノ酸はアスパラギン以外のものであるものとする。)。
【請求項2】
−M−が単結合、アミノ酸又はペプチドからなる、請求項1に記載の化合物又は誘導体。
【請求項3】
式Iの化合物が配列番号3のアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の化合物又は誘導体。
【請求項4】
前記タンパク質導入ドメインがそのC末端で−M−に直接結合している、請求項1に記載の化合物又は誘導体。
【請求項5】
前記タンパク質導入ドメインが、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33及び配列番号34よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の化合物又は誘導体。
【請求項6】
−M−がアミノ酸又はペプチドからなる、請求項5に記載の化合物又は誘導体。
【請求項7】
−M−が単結合からなる、請求項5に記載の化合物又は誘導体。
【請求項8】
前記タンパク質導入ドメインが配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10及び配列番号11よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項5に記載の化合物又は誘導体。
【請求項9】
−M−がアミノ酸又はペプチドからなる、請求項8に記載の化合物又は誘導体。
【請求項10】
−M−が単結合からなる、請求項8に記載の化合物又は誘導体。
【請求項11】
前記タンパク質導入ドメインが配列番号4のアミノ酸配列を含む、請求項8に記載の化合物又は誘導体。
【請求項12】
−M−がアミノ酸又はペプチドからなる、請求項10に記載の化合物又は誘導体。
【請求項13】
式Iの化合物が、配列番号1、配列番号2、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71、配列番号72及び配列番号73よりなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1に記載の化合物又は誘導体。
【請求項14】
式Iの化合物が配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項13に記載の化合物又は誘導体。
【請求項15】
式Iの化合物が配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1に記載の化合物又は誘導体。
【請求項16】
製薬上許容できるキャリヤー及び請求項1に記載の化合物又は誘導体を含む医薬組成物。
【請求項17】
ある個体においてウイルス複製にVifタンパク質のマルチマー化が必要な疾患又は状態を治療する方法であって、当該治療が必要な個体に、請求項1に記載の化合物又は誘導体の治療上有効な量を投与することを含む、前記方法。
【請求項18】
HIV−1感染の治療又は予防方法であって、当該治療が必要な個体に、請求項1に記載の化合物又は誘導体の治療上有効な量を投与することを含む、前記方法。
【請求項19】
請求項1に記載の化合物又は誘導体の他に、少なくとも1種の他のHIV−1治療用化合物を投与することをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1種の他のHIV−1治療用化合物がプロテアーゼ阻害剤、逆転写酵素阻害剤及び融合阻害剤よりなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項1に記載の化合物又は誘導体が配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチド又はその誘導体である、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
後天性免疫不全症候群の治療方法であって、当該治療が必要な個体に、請求項1に記載の化合物又は誘導体の治療上有効な量を投与することを含む、前記方法。
【請求項23】
請求項1に記載の化合物又は誘導体の他に、少なくとも1種の他の後天性免疫不全症候群の治療用化合物を投与することをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記少なくとも1種の他の後天性免疫不全症候群の治療用化合物がプロテアーゼ阻害剤、逆転写酵素阻害剤及び融合阻害剤よりなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項1に記載の化合物又は誘導体が配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチド又はその誘導体である、請求項22に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図7】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−511706(P2010−511706A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540249(P2009−540249)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【国際出願番号】PCT/US2007/024790
【国際公開番号】WO2008/070049
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(597177242)トーマス・ジェファーソン・ユニバーシティ (12)
【氏名又は名称原語表記】Thomas Jefferson University
【出願人】(509160535)オヤジェン・インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】OYAGEN INC.
【住所又は居所原語表記】601 Elmwood Avenue,Rochester,NY 14625 U.S.A.
【Fターム(参考)】