説明

HIVに対するヒトにおける広範なT細胞応答の生成

本発明は、ウイルスゲノム中に、Gag、Pol、Tat、Vif、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択されるHIVタンパク質、またはその一部、またはその誘導体、あるいは、Gag、Pol、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択されるHIVタンパク質、またはその一部、またはその誘導体の発現のための1つ以上の発現カセットを含む、薬剤またはワクチンとして使用するための組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)、ならびにHIV感染およびAIDSの治療および/または予防のためのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスゲノム中に、薬剤またはワクチンとして使用するための、Gag、Pol、Tat、Vif、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択されるHIVタンパク質、またはその一部、またはその誘導体の発現のための1つ以上の発現カセットを含む、組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)、ならびにHIV感染およびAIDSの治療および/または予防のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因因子である。すべてのレトロウイルスと同様に、このウイルスのゲノムも、Gag、PolおよびEnvタンパク質をコードしている。また、このウイルスゲノムは調節タンパク質、すなわちTatおよびRevと、アクセサリータンパク質、すなわちVpr、Vpx、Vpu、VifおよびNefもコードしている。
【0003】
AIDSの流行が蔓延するのを抑制しようとする公衆衛生的努力にもかかわらず、新規感染数は依然として増加している。世界保健機関は、この世界的な蔓延を、2003年末の時点で感染者数3,780万人と推定した。包括的な予防機構のさらなる改善がなければ、多数の新たなHIV感染が起こり、世界的に、この10年で4,500万人になると予測される(2004 Report on The Global AIDS Epidemic,UNAIDS and WHO)。
【0004】
HIV感染は、部分的に制御することができるが、未だに治癒されない慢性感染疾患である。合併症を予防し、AIDSへの進行を遅延させる有効な手段がある。現状では、HIVに感染したすべての人が、AIDSに進行するとは限らないが、一般に、多数がそうなると考えられている。
【0005】
高活性抗レトロウイルス療法(HAART)と呼ばれる、いくつかの抗レトロウイルス薬の組み合わせは、ウイルス負荷を減少させることにおいて極めて有効であり、T細胞数を向上させることができる。これはHIVの治癒ではなく、HAART中の抑制レベルのHIVを有する人々は、依然としてウイルスを他者に伝染させる可能性がある。しかしながら、HIVレベルが依然として抑制され、CD4数が200よりも大きい場合、生活の質および寿命が著しく向上し、長くなり得るという十分な証拠がある。新規のベクターまたはアジュバント系など、多数の異なるHIVワクチン送達戦略が、現在既に開発され、異なる前臨床設定および臨床試験で評価されている。第III相臨床試験に入った最初のワクチン候補は、アルミニウム中のエンベロープgp120タンパク質に基づいている(Francis et al.,AIDS Res.Hum.Retroviruses 1998;14(Suppl 3)(5):S325−31)。しかしながら、最初の臨床研究の結果は、あまり期待できるものではなかった。
【0006】
HAARTレジメンにおいて使用される薬物は、ウイルス力価を減少させることができるが、抗レトロウイルスレジメンに関していくつかの懸念がある。HAARTに関する1つの主要な問題は、(長期の)副作用およびそれによる患者のコンプライアンスである。患者が服薬を忘れると、薬物耐性が進展し得る。また抗レトロウイルス薬は高価であり、世界の感染者の大多数が、HIVおよびAIDS用の薬剤および治療を利用できない。
【0007】
過去に有用性が試験されたワクチンは、通常、Env等の単一HIVタンパク質に基づいている。しかしながら、そのような単一タンパク質、例えば、Envに対して免疫応答が生成された場合であっても、当該免疫応答が有効でないことが実証された。無効性の1つの理由は、特に、ウイルス中にワクチンによって誘発される免疫応答によって認識されないタンパク質をもたらすEnvタンパク質に関する、HIVの高い変異率である。
【0008】
利用できる有効な予防的治療がないため、有効なワクチンを臨床にもたらすことが依然として必要である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、驚くべきことに、HIV−1タンパク質Gag、Pol、Tat、Vif、Vpu、Vpr、Rev、およびNefを含むMVA系HIVワクチンが、ヒトにおいて、特にHIVに感染している免疫不全のヒトにおいて、これらのHIVタンパク質の最大6つに対するT細胞応答を誘発することができることを発見した。そのようなMVAは、T細胞応答が所望されるエピトープは、免疫優勢エピトープによって、いわば上書きされるように、免疫優勢エピトープを免疫系に提供することが知られているため、この発見は予測され得なかった。さらに、臨床試験中、ワクチン接種したHIV感染者の免疫応答が、1回目の免疫付与を受けてから20週後も依然としてベースラインよりも高いことが認められた。
【0010】
実際には、本発明とは対照的に、免疫細胞に対するHIVワクチンの効果を調査するために、ヒトにおける臨床試験はないが、マウスモデルにおいて、管内データまたは生体内データのいずれかが生成された。
【0011】
実際、動物実験は、モデルがヒトの応答率および応答の大きさを予測しない場合が多いため、人体研究ほど良好でない。より多くのマウスおよびウサギのすべてが、ヒトと同様に、免疫応答性が高くなる。したがって、本発明者らによって得られたデータは、高く評価される必要があり、MVAによる免疫優勢の既知の現象を考慮すると、それらはHIVに感染したヒトから得られたためにそれ程でないことは予測され得なかった。添付の実施例に記載される臨床試験に参加したHIV感染者は、350/μl未満のCD4数を有し、この低い数字に基づくと、臨床試験の参加者に投与されるMVA系ワクチンから成る、8つのHIV−1タンパク質の6つに対するそのような広域T細胞応答は予測しなかったであろう。
【0012】
例えば、第US2006/188961号および第WO03/097675号は、MVA系HIVワクチンについて説明した。しかしながら、これらの文書は、本明細書に記載されるような組換えMVAにおいて適用されるHIV−1タンパク質に対する、広域T細胞応答を明らかにしていない。
【0013】
第EP1921146号および第WO01/47955号は、T細胞応答の誘発のためのCTLエピトープ(Gag、Pol、およびNef、またはGag、Pol、Nef、Vpr、およびVpu)を含むMVA系HIVワクチンについて説明する。しかしながら、これらの文書は、ヒトにおいて得られたデータはもちろん、広域T細胞応答を示すデータを提供していない。
【0014】
第WO2006/123256号は、第WO01/47955号によく似ており、より特異的なCTLエピトープ以外に、第WO01/47955号が説明する内容を超えるものを提供しない。
【0015】
第WO2008/118936号は、Env、Gag、Nef、RT、Tat、およびRevから選択されるHIVタンパク質を含むMVA系HIVワクチンについて説明する。しかし、本文書は、単に動物モデルデータを有するという欠点があり、ヒトに対して合理的に推定され得ない。
【0016】
Greenoughらの(2008),Vaccine.26:6883−6893は、HAART中、したがってHIVに感染している若年成人に投与される、Env、Tat、Rev、Nef、およびRTを含む、組換え体ポックスウイルスHIV−1ワクチンの安全性および免疫原性研究について報告している。しかしながら、著者らは、それらのワクチンの開発が容易に進展しそうにないと報告している。
【0017】
しかしながら、この目的のために、免疫不全の被検体におけるそのような免疫応答はもちろん、8つのHIVタンパク質の6つに対する広域T細胞応答を予測しなかったであろう。特に、管内データも動物モデルも、特にHIV治療の分野において、合理的な成功の期待の基礎を形成することができない。これは、HIVの「実際の」モデル系がヒト、特にHIVに感染したヒトであるからである。
【0018】
所望のHIVタンパク質に対する免疫応答の生成を必ずしももたらさなかった動物実験および複数のCTLエピトープを並べることによって(例えば、第WO01/47955号または第WO2008/118936号)、免疫応答をさらに増殖させる試みに基づいて、免疫不全のヒトにおいて、8つのHIVタンパク質の6つが、免疫系によって認識されることは予測され得なかった。
【0019】
したがって、本発明は、ウイルスゲノム中に、薬剤またはワクチンとして使用するための、Gag、Pol、Tat、Vif、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択される、少なくとも3つのHIVタンパク質、またはその部分、または誘導体の発現のための1つ以上の発現カセットを含む、組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)に関する。
【0020】
一実施形態において、当該組換えMVAは、ウイルスゲノム中に、薬剤またはワクチンとして使用するための、Gag、Pol、Tat、Vif、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択される、少なくとも6つのHIVタンパク質、またはその部分、または誘導体の発現のための1つ以上の発現カセットを含む。
【0021】
別の実施形態において、当該組換えMVAは、ウイルスゲノム中に、薬剤またはワクチンとして使用するための、Gag、Pol、Tat、Vif、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択される、少なくとも8つのHIVタンパク質、またはその部分、または誘導体の発現のための1つ以上の発現カセットを含む。
【0022】
本発明のさらに特定の実施形態において、当該組換えMVAは、ウイルスゲノム中に、薬剤またはワクチンとして使用するための、Gag、Pol、Tat、Vif、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択される、3、4、5、6、7、もしくは8つのHIVタンパク質、またはその部分、または誘導体の発現のための1つ以上の発現カセットを含む。
【0023】
本発明は、ウイルスゲノム中に、薬剤またはワクチンとして使用するための、Gag、Pol、Tat、Vif、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択される、8つのHIVタンパク質、またはその部分、または誘導体、および1つ以上の追加の構造および/または規制HIVタンパク質、またはその部分、または誘導体の発現のための1つ以上の発現カセットを含む、組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)も包含する。
【0024】
好適な実施形態において、本発明は、ウイルスゲノム中に、薬剤またはワクチンとして使用するための、HIVタンパク質Gag、Pol、Tat、Vif、Vpu、Vpr、Rev、およびNef、または当該タンパク質の部分、または誘導体の発現のための1つ以上の発現カセットを含む、組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)に関する。
【0025】
さらなる好適な実施形態において、本発明は、ウイルスゲノム中に、薬剤またはワクチンとして使用するための、HIVタンパク質Gag、Pol、Vpu、Vpr、Rev、およびNef、または当該タンパク質の部分、または誘導体の発現のための1つ以上の発現カセットを含む、組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)に関する。
【0026】
特定の好適な実施形態において、本発明は、ウイルスゲノム中に、ヒト被検体において、Gag、Pol、Vpr、Vpu、Rev、およびNefから選択される、HIVタンパク質の少なくとも3つに対してT細胞応答を誘発する際に使用するための、HIVタンパク質Gag、Pol、Tat、Vif、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択される、少なくとも6つのHIVタンパク質、または当該タンパク質の部分、またはその誘導体を発現するための1つ以上の発現カセットを含む、組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)に関する。
【0027】
別の特定の好適な実施形態において、本発明は、ウイルスゲノム中に、ヒト被検体において、Gag、Pol、Vpr、Vpu、Rev、およびNefから選択される、HIVタンパク質の少なくとも3つに対してT細胞応答を誘発する際に使用するための、Gag、Pol、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択される、少なくとも6つのHIVタンパク質、またはその部分、または当該タンパク質の誘導体を発現するための1つ以上の発現カセットを含む、組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)に関する。
【0028】
さらなる特定の好適な実施形態において、本発明は、ヒト被検体において、Gag、Pol、Vpr、Vpu、Rev、およびNefから選択される、HIVタンパク質の少なくとも3つに対してT細胞応答を誘発する際に使用するための、Gag、Pol、Tat、Vif、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択される、少なくとも8つのHIVタンパク質、またはその部分、または当該タンパク質の誘導体を発現するための1つ以上の発現カセットを、ウイルスゲノム中に含む、組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)に関する。
【0029】
本発明は、本明細書に定義される組換えMVAを含む薬学的またはワクチン組成物、特に、ウイルスゲノム中に、Gag、Pol、Tat、Vif、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択される、少なくとも6つのHIVタンパク質、その部分または当該タンパク質の誘導体を発現するための1つ以上の発現カセットを含む、組換えMVAも提供する。
【0030】
より好ましくは、本発明の薬学的またはワクチン組成物は、ウイルスゲノム中に、Gag、Pol、Tat、Vif、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択される、少なくとも8つのHIVタンパク質、またはその部分、または当該タンパク質の誘導体を発現するための、1つ以上の発現カセットを含む、組換えMVAを含む。
【0031】
さらなる好適な実施形態において、組成物は、ウイルスゲノム中に、Gag、Pol、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択される、少なくとも6つのHIVタンパク質、またはその部分、または当該タンパク質の誘導体を発現するための、1つ以上の発現カセットを含む、組換えMVA。
【0032】
好適な実施形態において、薬学的またはワクチン組成物に含まれるMVAは、当該薬学的またはワクチン組成物中に約2x10 TCID50/mlの用量である。
【0033】
別の好適な実施形態において、薬学的またはワクチン組成物に含まれるMVAは、3つの時間間隔で投与するために調製される。3つの時間間隔は、好ましくは、0、4、および12週目である。
【0034】
本発明に記載の組換えMVAを用いて、ここでは、多数のHIVタンパク質を発現することが可能である。これらの多数のタンパク質は、広範な免疫応答を誘発することができる。したがって、異なるHIV分離体に対して有効な防御免疫応答が生成される可能性が高まる。
【0035】
本発明に記載の修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)は、ヒトならびにマウスおよび非ヒト霊長類等のいくつかの動物種において使用するために適している。MVAは、例外的に安全であることが知られている。
【0036】
本明細書で使用する「被検体」という用語は、特に、ヒト被検体を表す。本明細書で参照される時、ヒト被検体は、例えば、HIV感染に起因して、免疫付与される場合があり、すなわち、ヒト被検体は、HIV、例えばHIV−1に感染している。本明細書で参照されるヒト被検体は、それが350/μl未満のCD4細胞数を有することを特徴とし得る。
【0037】
本明細書で使用される時、「免疫不全の」は、免疫系が感染疾患を防御またはそれに対抗する能力が不全であるか、または全く存在しない状態である。
【0038】
MVAは、ワクシニアウイルスのアンカラ株(CVA)がニワトリ胚線維芽細胞上を長期間、連続して通過することによって生成された(検討する場合は、Mayr,A.,Hochstein−Mintzel,V.and Stickl,H.[1975]Infection 3,6−14;Swiss Patent No.568,392を参照)。ブタペスト条約の要件に準拠して寄託され、本発明に記載の組換え体ウイルスの生成に有用である、MVAウイルス株の実施例は、欧州細胞カルチャーコレクション(ECACC、ソールズベリー(UK))において、1994年1月27日に寄託番号第ECACC94012707号で寄託された株MVA572、2000年12月7日に第ECACC00120707号で寄託されたMVA575、および2000年8月30日に番号第00083008号で、ECACCにおいて寄託されたMVA−BNである。
【0039】
ワクチン開発におけるその使用に関する、MVA株のいくつかの優れた特性は、広範な臨床試験において照明された(Mayrら、Zbl.Bakt.Hyg.I,Abt.Org.B 167,375−390[1987])。リスクの高い患者を含む、120,000人を超えるヒトにおいて行われたこれらの研究中に、副作用は見られなかった(Sticklら、Dtsch.med.Wschr.99,2386−2392[1974])。
【0040】
MVAは、哺乳類細胞におけるウイルス複製周期の後期に遮断されることがさらに分かった(Sutter,G.and Moss,B.,Proc.Natl.Acd.Sci.USA89,10847−10851[1992])。したがって、MVAは、そのDNAを完全に複製し、早期、中期、および後期遺伝子生成物を合成するが、感染細胞から放出され得る成熟感染性ビリオンを組み立てることはできない。この理由で、すなわち、その複製制限された性質のために、MVAは、遺伝子発現ベクターとして機能する。
【0041】
したがって、本発明の一実施形態において、組換えMVAは、MVA株のMVA575、MVA572、およびMVA−BNから選択される。
【0042】
好適な実施形態において、本発明の組換えMVAウイルスは、ヒトおよび非ヒト霊長類において複製能力がない。ヒトおよび/非ヒト霊長類において「複製能力がない」MVAウイルスという用語、ならびにヒトおよび/または非ヒト霊長類において「感染子孫ウイルスに対して複製されることができない」ウイルスの同義語は、いずれも好ましくは、当該ウイルスでワクチン接種されたヒトおよび/または非ヒト霊長類の細胞において、全く複製しないMVAウイルスを表す。しかしながら、組換えMVAウイルスが投与される、ヒトおよび/または非ヒト霊長類の免疫系によって制御される、わずかな残留複製活性を示す、それらのウイルスも本出願の範囲内である。
【0043】
一実施形態において、複製能力がない組換えMVAウイルスは、ウイルスがワクチンとして使用される、ヒトおよび/または非ヒト霊長類の細胞に感染することができるウイルスであってもよい。「細胞に感染することができる」ウイルスは、ウイルスまたは少なくともウイルスゲノムが、宿主細胞に組み込まれる程度に宿主細胞と相互作用することができる、ウイルスである。本発明に従って使用されるウイルスは、ワクチン接種したヒトおよび/または非ヒト霊長類の細胞に感染することができ、それは、ワクチン接種したヒトおよび/または非ヒト霊長類の細胞において、感染子孫ウイルスに対して複製されることができない。
【0044】
本発明に従って、第1の動物種の細胞に感染することができるが、当該細胞において、感染子孫ウイルスに対して複製されることができないウイルスは、第2の動物種において異なる動作をし得ることが理解される。例えば、MVA−BNおよびその誘導体(以下を参照)は、ヒトの細胞に感染することができるが、ヒト細胞において、感染子孫ウイルスに対して複製されることができないウイルスである。しかしながら、同一のウイルスは、ニワトリにおいて効率的に複製され、すなわち、ニワトリにおいて、MVA−BNは、細胞に感染することも、それらの細胞において感染子孫ウイルスに対して複製されることもできるウイルスである。
【0045】
ヒトにおいて複製されることができるか、または複製されることができないかを予測するのを可能にする適切な試験は、第WO02/42480号において開示され(参照により本明細書に組み込まれる)重度に免疫不全のAGR129マウス株を使用する。さらに、AGR129マウスの代わりに、成熟BおよびT細胞を生成することができず、そのため重度に免疫不全であり、複製ウイルスに非常に感染しやすい、あらゆる他のマウス株を使用することができる。本マウスモデルにおいて得られる結果は、伝えられるところによると、ヒトを示すため、本出願に従って、当該マウスモデルにおいて複製能力がないウイルスは、「ヒトにおいて複製能力がない」ウイルスであると見なされる。
【0046】
他の実施形態において、本発明に従うウイルスは、好ましくは、少なくとも1つの動物種の少なくとも1つの細胞型において複製されることができる。したがって、ワクチン接種および/または治療される動物に投与する前に、ウイルスを増殖させることができる。実施例として、CEF(ニワトリ胚線維芽細胞)細胞中で増殖することができるが、ヒトにおいて、感染子孫ウイルスに対して複製されることができない、MVA−BNを参照する。
【0047】
本発明に記載されるウイルスの「誘導体」または「変異体」という用語は、親ウイルスと同一の特徴的特性を示すが、そのゲノムの1つ以上の部分において差異を示す、子孫ウイルスを表す。「誘導体」、もしくは「MVAの変異体」または「MVA−BN」という用語は、MVAと比較して、同一の機能的特徴を有するウイルスを説明する。例えば、MVA−BNの誘導体/変異体は、MVA−BNの特徴的特性、好ましくは、寄託番号第00083008号でECACCにおいて寄託されるようなMVA−BNを有する。MVA−BN、またはその変異体のこれらの特徴の1つは、その減衰であり、それぞれヒトケラチノサイト細胞株HaCaT、ヒト胚腎臓細胞株293、ヒト骨骨肉種細胞株143B、およびヒト子宮頸部腺癌細胞株HeLa等のヒト細胞株において、生殖複製の能力を有しない。
【0048】
追加および代替として、MVA−BNおよび誘導体は、成熟BおよびT細胞を産生することができない、マウスモデルにおいて複製することができないという特性を有し、および/またはDNAプライム/ワクシニアウイルスブーストレジームと比較した場合、ワクシニアウイルスプライム/ワクシニアウイルスブーストレジームにおいて、少なくとも同一レベルの特異的免疫応答を誘発する能力を有する。
【0049】
第WO02/42480号に開示されるように、「アッセイ1」および「アッセイ2」の1つまたは2つにおいて測定されるようなCTL応答が、DNA−プライム/ワクシニアウイルスブーストレジームと比較して、ワクシニアウイルスプライム/ワクシニアウイルスブーストレジームにおいて、少なくとも実質的に同一である場合、ワクシニアウイルス、特にMVA株は、ワクシニアウイルスプライム/ワクシニアウイルスブーストレジームにおいて、少なくとも実質的に同一レベルの免疫性を誘発すると見なされる。
【0050】
本発明に従って使用されるウイルスは、モノクローナル抗体等のクローン精製ウイルスであり得る。
【0051】
本発明に従って使用されるウイルスは、血清中に含有される薬剤に感染するリスクを減少させるように、無血清状態で産生/通過されたウイルスであり得る。
【0052】
本発明に従うMVAは、10〜10 TCID50/mlの濃度範囲内、好ましくは、例えば10〜5x10 TCID50/mlの濃度範囲内、より好ましくは、例えば10〜10 TCID50/mlまたは10〜10 TCID50/mlの濃度範囲内、さらにより好ましくは、例えば10〜10 TCID50/mlの濃度範囲内、および最も好ましくは、2x10 TCID50/mlの濃度で投与される。実際の濃度は、ウイルスおよびワクチン接種される動物種の型に依存する。MVA−BNの場合、ヒトに対する典型的なワクチン接種用量は、5x10 TCID50〜5x10 TCID50、例えば、約1または2x10 TCID50を含み、皮下的に投与される。
【0053】
本発明の好適な実施形態において、本明細書に記載される組換えMVAは、本発明の使用および方法に適用される場合、少なくとも3回投与される。
【0054】
本発明の別の好適な実施形態において、組換えMVAは、本発明の使用および方法において適用される場合、0、4、および12週目に投与される。
【0055】
上に定義されるような組換えMVAの単回投与、特に株MVA−BNおよびその誘導体を用いて、免疫応答を誘発することが可能である。通常、本発明に従うMVA、特にMVA−BN、およびその誘導体を、同種プライムブーストレジームにおいて使用してもよく、すなわち、組換えMVAを1回目のワクチン接種に使用し、1回目のワクチン接種において使用されるものと同一または関連する組換えMVAの投与によって、1回目のワクチン接種において生成される免疫応答を上昇させることが可能である。本発明に従う組換えMVA、特にMVA−BN、およびその誘導体は、ワクチン接種の1回以上が、上に定義されるようなMVAを用いて行われ、ワクチン接種の1回以上が、別の型のワクチン、例えば、別のウイルスワクチン、タンパク質または核酸ワクチンで行われる、異種プライムブーストレジームにおいて使用されてもよい。
【0056】
投与モードは、静脈内、筋肉内、皮膚内、鼻腔内、または皮下であってもよい。静脈内、筋肉内、または特に皮下投与が好ましい。しかしながら、乱切等のいずれかの他の投与モードが使用されてもよい。
【0057】
本出願の文脈で使用する「HIV」という用語は、HIV−1およびHIV−2を含むHIVのあらゆる種、およびHIV−1クレードA、B、またはC等の対応するクレードを表す。実施例には、クレードBの株等のHIV−1株が挙げられる。
【0058】
本発明の一実施形態に従って、発現カセットによってコードされるHIVタンパク質は、HIV−1タンパク質である。
【0059】
本出願で使用する「HIVタンパク質の部分」という用語は、対応する全長HIVタンパク質の少なくとも10の連続アミノ酸、例えば、当該全長タンパク質の少なくとも20、30、または40アミノ酸を含む、ペプチドまたはタンパク質を表す。一例として、GenBankデータベースに開示されているさまざまなHIV配列、特にGenBankアクセッション番号K03455を持つHIV−1分離株HXB2Rの配列が挙げられるが、本発明はこの態様に限定されるわけではない。
【0060】
本明細書で使用する「HIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体」という用語は、対応する天然HIVタンパク質と比較して変化したアミノ酸配列を持つHIVタンパク質を表す。変化したアミノ酸配列は、HIVタンパク質の配列の1種以上のアミノ酸が置換もしくは挿入されているか、または欠失している、およびしたがって変異している配列であってもよい。より具体的に、「HIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体」は、タンパク質誘導体のアミノ酸配列が、既知のHIV分離株のそれぞれのHIVタンパク質のアミノ酸配列と比較される場合、少なくとも50%、例えば、少なくとも60%、65%、70%、75%、あるいは少なくとも80%または85%、もしくは少なくとも90%、95%、98%、または99%の同一性を示す、アミノ酸配列である。アミノ酸配列は、その相同性/同一性がたった1つのHIV分離株の対応するタンパク質について見いだされるに過ぎない場合でも、他の分離株の対応するタンパク質にはそれより低い相同性を示すものがあるかもしれないという事実とは関わりなく、上記の配列相同性または同一性を持つものと見なされる。例えば、融合タンパク質中のVpr誘導体が、あるHIV分離株のVpr配列には95%の相同性を示すが、他のHIV分離株(のすべて)には50〜70%の相同性しか示さない場合、当該Vpr誘導体の相同性は少なくとも90%であると見なされる。特に、「HIVタンパク質の誘導体」という用語は、HIV−1分離株HXB2R(GenBank悪セッション番号K03455)中のそれぞれのHIVタンパク質に少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%または90%、95%、98%、もしくは99%の相同性を示すアミノ酸配列を表す。
【0061】
HIVタンパク質の誘導体およびHIVタンパク質の部分は、完全活性、低下活性、無活性、またはトランスドミナント活性を持つことができる。例えば、本発明に従う組換えMVAは、HIVの調節および/またはアクセサリータンパク質を発現する。これらのタンパク質は、望ましくない副作用を持ち得る、生物活性を有する。そのため、組換えMVAから発現された1つ以上のHIVタンパク質が、野生型タンパク質と比較して、低下した活性を有し得ることは、本発明の範囲内である。
【0062】
あるHIVタンパク質の生物活性が低下しているかどうかを判定するための試験は、当業者に知られている。
【0063】
生体内でのウイルス複製に不可欠なVifタンパク質の分子機序はまだ分かっていないが、Vifは強い自己会合傾向を持っている。この多量体化は、ウイルスの生活環におけるVifの機能にとって重要であることが示されている(Yang S.ら、J Biol Chem 2001;276:4889−4893)。追加として、vifは、ウイルス核タンパク複合体と特異的に関連付けられることが示され、これは機能的に重要であるかもしれない(Khan M.A.ら、J Virol.2001:75(16):7252−65)。したがって、低下した活性を持つvifタンパク質は、多量体化および/または核タンパク質複合体への会合の減少を示す。
【0064】
Vprタンパク質はウイルスの生活環に重要な役割を果たす。Vprはウイルスのプレインテグレーション複合体の核内移行を調節し、マクロファージなどの非分裂細胞の感染を促進する(Agostiniら、AIDS Res Hum Retroviruses 2002;18(4):283−8)。また、それはLTRとの相互作用によって媒介されるトランス活性化活性も持っている(Vanitharani R.ら、Virology 2001;289(2):334−42)。したがって、低下した活性を持つVprは、トランス活性化および/またはウイルスプレインテグレーション複合体との相互作用の減少を示すか、またはトランス活性化および/またはウイルスプレインテグレーション複合体との相互作用を全く示さない。
【0065】
Vprに対して高い相同性を持つVpxも、非分裂細胞における効率のよいウイルスの複製にとって重要である。Vpxは、gag前駆体ポリタンパク質のp6ドメインとの相互作用によって、ウイルス粒子にパッケージングされる。Vprと同様に、Vpxも核内へのプレインテグレーション複合体の輸送に関与する(Mahalingamら、J.Virol 2001;75(1):362−74)。したがって、低下した活性を持つVpxは、gag前駆体を介してプレインテグレーション複合体に会合する能力が減少している。
【0066】
Vpuタンパク質はCD4の細胞質尾部と相互作用することが知られており、CD4分解を引き起こす(Bourら、Virology 1995;69(3):1510−20)。したがって、低下した活性を持つVpuは、CD4分解を誘発する能力が低下している。
【0067】
詳しく特徴づけられているTatタンパク質の関連する生物活性は、トランス活性化応答要素(TAR)との相互作用を介した転写のトランス活性化である。TatはTAR以外のHIV配列を欠く異種プロモーターをトランス活性化できることが実証されている(Han P.ら、Nucleic Acid Res 1991;19(25):7225−9)。したがって、低下した活性を持つTatタンパク質は、TAR要素を介したプロモーターのトランス活性化の減少を示す。本発明に従って、トランスドミナントTatを使用することも可能である。トランスドミナントTatは、以下の置換を行うことによって得られ得る:22(Cys>Gly)および37(Cys>Ser)。
【0068】
Nefタンパク質は、CD4の細胞表面ダウンレギュレーションを誘発することから、疾患進行の原因となるウイルス複製にとって不可欠である(Lou Tら、J Biomed Sci 1997;4(4):132)。このダウンレギュレーションは、CD4とNefの間の直接的相互作用によって開始される(Preusser A.ら、Biochem Biophys Res Commun 2002;292(3):734−40)。したがって、低下した機能を持つNefタンパク質は、CD4との相互作用の減少を示す。実施例には、アミノ末端で切断されるNefタンパク質、例えば、19N末端アミノ酸が欠失しているタンパク質が挙げられる。本発明に従って、特に19N末端アミノ酸が欠失している、切断Nefを使用することも可能である。
【0069】
Revの関連する機能は、ウイルスRNAのRev応答要素(RRE)との相互作用によって開始される転写後トランス活性化である(Iwaiら、1992;Nuceic Acids Res 1992;20(24):6465−72)。したがって、低下した活性を持つRevは、RREとの相互作用の減少を示す。
【0070】
本発明の一実施形態に従って、HIVタンパク質の1つ以上は、個々のタンパク質として発現される。
【0071】
さらなる実施形態に従って、HIVタンパク質の2つ以上が、融合タンパク質として発現される。好ましくは、HIVアクセサリー/調節タンパク質の2つ以上が、融合タンパク質として発現される。
【0072】
本文脈において、第WO03/097675号が参照され、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0073】
例として、本発明に従う組換えMVA、例えば、MVA−BNおよびその誘導体は、(i)Vif−Vpu−Vpr−Revを、融合タンパク質として、この順序または異なる順序で発現する場合があり、Vif、Vpu、Vpr、およびRevは、全長タンパク質、あるいは全長タンパク質の部分または誘導体を代表し(上の定義を参照)、(ii)Nefあるいはその部分または誘導体、特にN末端アミノ酸が欠失しているNefタンパク質(すなわち、N−末端切断Nef)、例えば、最初の19アミノ酸、(iii)Tatあるいはその部分または誘導体、特にトランスドミナントTat、および(iv)GagおよびPolは、全長タンパク質、あるいは全長タンパク質の部分または誘導体を代表し、例示される順序または逆順序(Pol−Gag)で配置される、Gag−Pol融合タンパク質が挙げられる。
【0074】
そこからHIVタンパク質が発現される発現カセットの数は、重要ではない。実施例として、HIVタンパク質は、2〜5つの発現カセットから発現され得る。第1の発現カセットは、Vif−Vpu−Vpr−Revを、融合タンパク質として、この順序または異なる順序で発現する場合があり、Vif、Vpu、Vpr、およびRevは、全長タンパク質、あるいは全長タンパク質の部分または誘導体を代表し(上の定義を参照)、第2の発現カセットは、Nefあるいはその部分または誘導体、特にN−末端アミノ酸が欠失しているNefタンパク質、例えば、最初の19アミノ酸を発現する場合があり、第3の発現カセットは、Tatあるいはその部分または誘導体、特にトランスドミナントTatを発現する場合があり、第4の発現カセットは、Gag−Pol融合タンパク質を発現する場合があり、GagおよびPolは、全長タンパク質、もしくは全長タンパク質の部分または誘導体を代表し、例示される順序または逆順序(Pol−Gag)で配置される。好ましくは、Gag−Pol融合タンパク質をコードする発現カセット、およびTatをコードする発現カセットは、同一の挿入部位に挿入される。
【0075】
異種核酸配列の発現は、好ましくは、ポックスウイルスプロモーターの転写制御下であるが、この限りではない。適切なポックスウイルスプロモーターの例は、牛痘ATIプロモーターである(第WO03/097844号を参照)。各発現カセットの発現が異なるプロモーターによって制御されることは可能である。代替として、すべての発現カセットが、同一のプロモーターの複製によって制御されることも可能である。例として、本発明は、すべてのHIV発現カセット、例えば、上に例示される4つの発現カセットが、第WO03/097844号に定義されるような牛痘ATIプロモーターまたはその誘導体によって制御される、組換え体ウイルスに関する。
【0076】
MVA−BNおよびその誘導体等の本発明に従う組換えMVAにおいて、発現カセットは、ウイルスゲノムの1〜10の挿入部位に挿入されてもよい。
【0077】
HIVタンパク質もしくはその部分または誘導体を発現するための組換えMVA、特にMVA−BNおよびその変異体は、すべての発現カセットが同一の挿入部位に挿入されない場合に容易に得ることができることが予期せず分かった。したがって、異なる発現カセットは、ウイルスゲノムの1〜5、2〜8、3〜5、または3つの挿入部位に挿入されてもよい。
【0078】
異種核酸配列の挿入は、ウイルスゲノムの必須でない領域に行われてもよい。本発明の別の実施形態に従って、異種核酸配列は、MVAゲノムの自然発生する欠失部位に挿入される(第PCT/EP96/02926号に開示される)。さらなる代替に従って、異種配列は、ポックスウイルスゲノムの遺伝子間領域に挿入されてもよい(第WO03/097845号を参照)。異種配列をポックスウイルスゲノムに挿入する方法は、当業者に知られている。例として、発現カセットは、MVAゲノム、特にMVA−BNのゲノムおよびその誘導体の遺伝子間領域IGR07/08、IGR I4L/I5L、およびIGR136/137の1つ以上に挿入されてもよい。
【0079】
本発明の好適な実施形態に従って、組換えMVAは、MVA−BNまたはその誘導体であり、以下の発現カセットは、以下の挿入部位に挿入される。(i)Vif−Vpu−Vpr−Revを、融合タンパク質として、この順序または異なる順序で発現する発現カセットであって、Vif、Vpu、Vpr、およびRevは、全長タンパク質、もしくは全長タンパク質の部分または誘導体を代表する(上の定義を参照)発現カセットは、遺伝子間領域IGR07/08に挿入され、(ii)Nefもしくはその部分または誘導体を発現する第2の発現カセット、特にN−末端アミノ酸が欠失しているNefタンパク質、例えば最初の19アミノ酸は、IGRI4L/I5Lに挿入され、(iii)Tatもしくはその部分または誘導体、特にトランスドミナントTatを発現する第3の発現カセット、ならびにGagおよびPolが全長タンパク質を代表する、Gag−Pol融合タンパク質を発現する第4の発現カセットは、IGR136/137に挿入される。この例において、第3および第4の発現カセットは、同一の統合部位に挿入され、2つの発現カセットは、両方の可能な順序で配置され得る。IGRの付番については、第WO03/097845号を参照する。一方のIGR I4L/I5Lおよび他方のIGR 136/137、IGR 07/08は、2つの異なる付番方式に属することを考慮すべきであり、これらは第WO03/097845号に説明される。
【0080】
最も好ましくは、本発明の組換えMVAは、ウイルスゲノム中に、
(i)融合タンパク質としてVif−Vpu−Vpr−Revを発現し、遺伝子間領域IGR07/08に挿入される、第1の発現カセットと、
(ii)最初の19N末端アミノ酸が欠失しているNefタンパク質を発現し、IGRI4L/I5Lに挿入される、第2の発現カセットと、
(iii)いずれもIGR136/137に挿入される、トランスドミナントTatを発現する第3の発現カセットおよびGag−Pol融合タンパク質を発現する第4の発現カセット、
を含む、組換えMVAである。
【0081】
本発明に従う組換え体ウイルスは、防御免疫応答を誘発し得る。「防御免疫応答」という用語は、ワクチン接種した被検体が、それに対してワクチン接種が行われた病原体による感染を、何らかの方法で制御することができることを意味する。通常、「防御免疫応答」を生じた動物は、ワクチン接種を受けていない被検体よりも軽度の臨床症状を生じ、疾患の進行は減速する。
【0082】
本発明は、上に定義されるような組換えMVAを含む、さらに薬学的組成物またはワクチン、および随意に薬学的に許容される担体、希釈剤、アジュバント、および/または添加剤に関する。
【0083】
ポックスウイルス製剤を調製するための多数の方法、ならびに保管モードは、熟練者に知られている。本文脈において、第WO03053463号が参照される。
【0084】
補助物質の非限定例は、水、生理食塩水、グリセロール、エタノール、湿潤剤、または乳化剤、pH緩衝物質、保存剤、安定剤等である。適切な担体は、通常、大きく代謝の遅い分子、例えば、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、高分子アミノ酸、アミノ酸共重合体、脂質会合体等から成る群から選択される。
【0085】
ワクチンを調製する場合、本発明に従う組換えMVAウイルスは、生理学的に許容される形態に変換される。これは、天然痘の予防接種に用いられるポックスウイルスワクチン(Stickl,H.ら[1974]Dtsch.med.Wschr.99,2386−2392に記載されているもの)を調製する際の経験に基づいて行うことができる。例えば、精製ウイルスは、5×10 TCID50/mlの力価で10mMトリス、140mM NaCl(pH7.4)中に製剤化して、−80℃で保存する。
【0086】
一実施形態において、ワクチン注射剤を精製するために、本発明に記載のMVAウイルスを使用する。例えば、2%ペプトンおよび1%ヒトアルブミンの存在下で、リン酸緩衝食塩水(PBS)100mL中のウイルス粒子約10〜約10個を、アンプル(好ましくはガラスアンプル)中で凍結乾燥する。別の非限定例において、ワクチン注射剤は、製剤中のウイルスの段階的な凍結乾燥によって生成する。ある実施形態において、この製剤は、例えばマンニトール、デキストラン、糖、グリシン、ラクトースもしくはポリビニルピロリドンなどの追加の添加剤、または、生体内投与に適した酸化防止剤もしくは不活性ガス、安定剤または組換えタンパク質(例えばヒト血清アルブミン)などの他の酸を含むことができる。その場合、このガラスアンプルを封印して、4℃〜室温で数ヶ月間保存することができる。しかしながら、即時の必要がない限り、アンプルは−20℃未満の温度で保存することが好ましい。
【0087】
ワクチン接種または治療を行うには、凍結乾燥物を0.1〜0.5mlの水性溶液、好ましくは生理食塩水またはトリス緩衝液に溶解し、それを全身的または局所的に、すなわち非経口投与、皮下投与、筋肉内投与、または当業者に知られる他の任意の投与経路のいずれかによって、投与されてもよい。当業者であれば、投与様式、投与量および投与回数を、既知の方法で最適化することができる。しかしながら、最も一般的に、患者は、1回目のワクチン接種から約1ヶ月〜6週間後に2回目のワクチン接種を受ける。3回目およびそれ以降の接種は、前回の接種から好ましくは4〜12週間後に行うことができる。
【0088】
驚くべきことに、本発明の組換えMVAを用いて、強力な抗原特異的T細胞応答は、組換え技術によって発現されたHIVタンパク質の1つ以上に対して、誘発され得ることが分かった。既に前述のとおり、認められた免疫優勢と呼ばれる現象を考慮すると、これは予期せぬ結果であり、それによって宿主免疫系は、指定の免疫原中の多数の可能なエピトープのいくつかに対してのみに応答する。MVAベクターに関して、以前の研究は、非組換えベクターエピトープの免疫優勢が、組換え抗原に対する強力なCD8 T細胞応答の誘発を阻止することを示した(Smithら、Immunodominance of poxviral−specific CTL in a human trial of recombinant−modified vaccinia Ankara.J.Immunol.175:8431−8437,2005.)。ワクチン駆動型T細胞応答は、主にポックスウイルスエピトープに対して配向されることを立証した。対照的に、本発明の組換えMVAの使用は、強力かつ広域のT細胞応答をもたらし、組換えHIVタンパク質を増殖させた。さらに、免疫応答は、応答を誘発したすべてのHIVタンパク質に対して1回目の免疫付与を受けてから20週間後も、依然としてベースラインよりも高かった。これは、天然痘に対する早期ワクチン接種および抗体中和の進行に起因する、骨格ウイルスベクターに対する潜在的な既存の免疫を考慮すると、さらに予期せぬ結果である。
【0089】
したがって、本発明は、さらに、ヒト患者において、少なくとも3つ、好ましくは少なくとも4つ、少なくとも5つ、もしくは6つのHIVタンパク質に対するT細胞応答を誘発するために、上に定義されるような組換えMVA、または上に定義されるような組換えMVAを含む薬学的組成物もしくはワクチンに関し、タンパク質は、HIV Gag、Pol、Vpr、Vpu、Rev、およびNefから選択される。
【0090】
本発明は、ヒト患者において、1つ以上のHIVタンパク質に対して、特に3、4、5、6つ、またはそれ以上のHIVタンパク質に対して、好ましくは少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、または少なくとも6つのHIVタンパク質に対して、T細胞応答を誘発するための薬剤を調製するために、上に定義されるような組換えMVA、または上に定義されるような組換えMVAを含む薬学的組成物またはワクチンの使用にも関し、タンパク質は、HIV Gag、Pol、Vpr、Vpu、Rev、およびNefから選択される。
【0091】
同様に、本発明は、ヒト被検体において、Gag、Pol、Vpr、Vpu、Rev、およびNefから選択されるHIVタンパク質の少なくとも3つに対してT細胞応答を誘発するための方法にも関し、上に定義されるような組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)を投与することを含む。
【0092】
投与される組換えMVAは、好ましくは、それが所望の効果、すなわち、ヒト被検体において、Gag、Pol、Vpr、Vpu、Rev、およびNefから選択されるHIVタンパク質の少なくとも3つ、好ましくは少なくとも4つ、より好ましくは少なくとも5つ、さらにより好ましくは少なくとも6つに対するT細胞応答を誘発するために有効な量である。
【0093】
特定の好適な実施形態において、本発明は、上に定義されるような組換えMVAに関し、MVAは、ヒト被検体において、Gag、Pol、Vpr、Vpu、Rev、およびNefから選択されるHIV−1タンパク質の少なくとも4つに対してT細胞応答を誘発する。
【0094】
より特定の好適な実施形態において、本発明は、上に定義されるような組換えMVAに関し、MVAは、ヒト被検体において、Gag、Pol、Vpr、Vpu、Rev、およびNefから選択されるHIV−1タンパク質の少なくとも5つに対するT細胞応答を誘発する。
【0095】
さらにより特定の好適な実施形態において、本発明は、上に定義されるような組換えMVAに関し、MVAは、ヒト被検体において、Gag、Pol、Vpr、Vpu、Rev、およびNefから選択されるHIV−1タンパク質の少なくとも6つに対するT細胞応答を誘発する。
【0096】
好適な実施形態において、本明細書において定義されるようなMVAが、Gag、Pol、Vpr、Vpu、Rev、およびNefから選択されるタンパク質に対してT細胞応答を誘発するHIV−1タンパク質には、Gag、Pol、およびNefが含まれる。
【0097】
好適な実施形態において、当該少なくとも3つのHIVタンパク質は、Gag、Pol、およびNefである。別の好適な実施形態において、当該3つのHIVタンパク質の1つは、Gag、Pol、Nef、切断されたNef、Vpr、Vpu、およびRefから成る群から選択されるものである。
【0098】
本発明は、さらに、HIV感染および/またはAIDSの治療および/または予防のための、上に定義されるような組換えMVA、もしくは上に定義されるような組換えMVAを含む薬学的組成物またはワクチンに関する。
【0099】
本発明は、HIV感染および/またはAIDSの治療および/または予防のための薬剤を調製するための、上に定義されるような組換えMVA、もしくは上に定義されるような組換えMVAを含む薬学的組成物またはワクチンの使用にも関する。
【0100】
「HIV感染および/またはAIDSの予防」という用語は、組換えMVAが、あらゆる条件下、あらゆる被検体においてHIV感染および/またはAIDSを予防することを意味しないことが指摘される。反対に、本用語は、この予防効果がむしろ低い場合であっても、あらゆる統計的に有意な予防効果を網羅する。
【0101】
さらに好適な実施形態において、組換えMVAは、10〜5x10 TCID50/mlの用量、好ましくは2x10 TCID50/mlの用量で投与される。
【0102】
別の好適な実施形態において、組換えMVAは、静脈内、筋肉内、または皮下的に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】8つのHIVタンパク質Gag、Pol、Tat、Vif、Vpu、Vpr、Rev、およびNefを発現する、MVA−BN(登録商標)−MAG構成物(MVA−mBN120B)。
【図2】HIV特異的T細胞応答率。n(応答者である被検体の数)から計算され、群サイズN=15に基づく応答率。RT=逆転写酵素、CTL=細胞毒性Tリンパ球、HTL=ヘルパーTリンパ球。
【図3A】指示されるHIV−1タンパク質の中央SFU/1x10PBMC。矢印はワクチン接種を示す。
【図3B】指示されるHIV−1タンパク質の中央SFU/1x10PBMC。矢印はワクチン接種を示す。
【図3C】指示されるHIV−1タンパク質の中央SFU/1x10PBMC。矢印はワクチン接種を示す。
【図3D】指示されるHIV−1タンパク質の中央SFU/1x10PBMC。矢印はワクチン接種を示す。
【実施例】
【0104】
以下の実施例は、本発明をさらに説明する。提供される実施例は、いかなる方法においても、本発明によって提供される技術の適用性を本実施例に限定する方法で解釈され得ないことは、当業者によって十分に理解されるであろう。
【実施例1】
【0105】
ウイルスゲノム中に、切断されたnef遺伝子、gag−pol融合遺伝子、トランスドミナントTat遺伝子、およびVif−Vpr−Vpu−Rev遺伝子を含む、組換えMVA−BNの、それぞれATIプロモーターの制御下での生成
【0106】
MVAベクター、mBN87は、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,501,127号に記載されるように生成した。つまり、gag−pol融合遺伝子は、HXB2感染細胞のDNAからのPCRによって得た。nef遺伝子をMVA−nef(LAI)のDNAからのPCRによって増殖させて、切断バージョンを得た。最初の19アミノ酸を欠失させてNef切断をもたらした。vifおよびvpu遺伝子は、一次分離体MvP−899のHIV RNAからのRT−PCRによって生成したが、vpr、rev、およびtat遺伝子は、HXB2の配列に基づくオリゴアニーリングによって合成した。タンパク質Tat変異は、Tatにおいて、重要なエピトープには局在しないが、トランス活性化能の喪失をもたらす、2つの変異を誘発することによって形成した。変異は、以下の置換基:22(Cys>Gly)および37(Cys>Ser)である。DNA構成体は、組換えベクターにクローン化した。
【0107】
5回のプラーク精製後、外来DNA(切断nef遺伝子、gag−pol融合遺伝子、トランスドミナントtat遺伝子、およびvif−vpr−vpu−rev融合遺伝子)の挿入および野生型ウイルスの非存在は、PCRによって確認した。得られる組換えウイルスクローンは、mBN87Aと命名した。非選択的条件下で5回プラーク精製した後、選択カセットを欠いている組換えウイルスMVA−mBN87Bを分離することができた。組換えベクターの識別は、標準方法によって確認した。
【0108】
MVA−mBN87Bにおいて、vif−vpr−vpu−rev遺伝子は、末端に終止コドンを持たず、31の非特異的アミノ酸の追加をもたらす。したがって、新しい組換えウイルスMVA−mBN120Bをクローン化することによって、終止コドンを融合遺伝子に追加した。本構成体(図1も参照)は、マウスの前臨床研究およびヒトの臨床研究で使用した。
【実施例2】
【0109】
マウスの前臨床研究
MVA−mBN120Bが、成体非遺伝子導入マウス(BALB/c)において、HIV特異的細胞免疫応答を付載することができるか否かを調査した。最も有望なエピトープを選択し、各タンパク質に対して、2つのCD4および2つのCD8 T細胞エピトープを合成した。
【0110】
0日目および21日目に、500μlのTBS(1群)を対照項目として、または約4x10 TCID50 MVA−mBN120B(2群)のいずれかをマウスに皮下投与(s.c.)した。35日目に、眼窩後穿孔によって、すべての動物から血液試料を採取し、可能性のある今後の分析のために、血清に処理した。血液試料の採取に続いて、頸椎脱臼によって動物を犠牲死させ、IFNγ−ELISpotアッセイを使用して、ワクチン挿入物中でコードされるHIV特異的ペプチドを用いて脾臓細胞を再刺激することによって、細胞免疫応答を後に分析するために脾臓を壊死させた。
【0111】
HIVタンパク質特異的細胞免疫応答は、特異的ペプチドを用いる脾臓細胞の再刺激、およびELISpotアッセイによる脾臓細胞からのIFNγ放出の後次検出によって決定した。ペプチドは、以下のように、ペプチド名、T細胞制限、およびペプチド配列を示す。
Nef−1 CD4 FHHVARELHPEYFKNC(配列番号1)
Nef−2 CD4 DPEREVLEWRFDSRLA(配列番号2)
Nef−3 CD8 HTQGYFDP(配列番号3)
Nef−4 CD8 RYPLTFGWC(配列番号4)
Gag−1 CD4 IYKRWIILGLNK(配列番号5)
Gag−2 CD4 GLNKIVRMYSPT(配列番号6)
Gag−3 CD8 AMQMLKETI(配列番号7)
Gag−4 CD8 EIYKRWIIL(配列番号8)
Pol−1 CD4 VQNANPDCK(配列番号9)
Pol−2 CD4 TIKIGGQLK(配列番号10)
Pol−3 CD8 IFQSSMTKI(配列番号11)
Pol−4 CD8 QPDKSESEL(配列番号12)
Tat−1 CD4 FITKALGISYGRK(配列番号13)
Tat−2 CD4 RQRRRAHQN(配列番号14)
Tat−3 CD8 QPKTAGTNC(配列番号15)
Tat−4 CD8 SFITKALGI(配列番号16)
Vif−1 CD4 KKAKGWMYK(配列番号17)
Vif−2 CD4 RCEYQAGHN(配列番号18)
Vif−3 CD8 QYLALAALI(配列番号19)
Vif−4 CD8 AGHNKVGSL(配列番号20)
Vpu−1 CD4 KPQKTKGHR(配列番号21)
Vpu−2 CD4 WAGVEAIIR(配列番号22)
Vpu−3 CD8 TYGDTWAGV(配列番号23)
Vpu−4 CD8 AGVEAIIRI(配列番号24)
Vpr−1 CD4 IVLIEYRKI(配列番号25)
Vpr−2 CD4 EEALAALVD(配列番号26)
Vpr−3 CD8 TQPIPIVAI(配列番号27)
Vpr−4 CD8 VLIEYRKIL(配列番号28)
Rev−1 CD4 RQARRNRRR(配列番号29)
Rev−2 CD4 SPQILVESP(配列番号30)
Rev−3 CD8 SGDSDEELI(配列番号31)
Rev−4 CD8 LPPLERLTL(配列番号32)
【0112】
つまり、500μgの各ペプチドを含有するアリコートは、最初に少量のジメチルスルホキシド中に溶解し、続いてRPMI媒体でさらに希釈することによって、1mg/mlのストック溶液を得た(ペプチド#4、14、20、および21の完全再構成を保証するには、追加で容量5〜25μlの酢酸が必要であり、ペプチド#20、22、23、および24の完全再構成を保証するには、追加で5〜25μlが必要であった)。
【0113】
脾臓均質化は、「Sam03」プログラムを使用して、ディスポミック管内で行った。均質化に続いて、細胞懸濁液を50ml管に写し、遠心分離して、赤血球を赤血球溶解緩衝液で5分間溶解した。2回の洗浄ステップに続いて、小アリコートの細胞懸濁液をトリパンブルーと混合し、血球計算盤(Madaus製)を用いて手動計数することによって細胞濃度を計算した。細胞密度は、個々の脾臓細胞懸濁液に対して調整した。細胞をELISpotプレート(抗IFN−γ抗体でプレコートされた)に載せた後、ペプチドを最終濃度2.5μg/mlで添加した。水平に配向されたELISpotプレート上で、水平に載置される異なるマウスからの脾臓細胞、および垂直に開始される異なる刺激を用いて、脾臓細胞2.5x10個/ウェルの重複培養を行った(すなわち、それぞれペプチド#1−8、9−16、17−24、25−32を用いるプレート1+5、2+6、3+7、4+8被膜刺激)。プレート5および10上で、最終濃度0.5μgのコンカナバリンA(ConA)および0.5μg/mlブドウ球菌腸毒素B(SEB)を陽性対照として、または培地対照を陰性対照として用いるインキュベーションは、それぞれ列番号B、E、またはHにおいて行った。19時間の一晩のインキュベーションに続いて、サプライヤーによって推奨されるように、ELISpotプレートを開発した。
【0114】
【表1】

n.a. = 該当なし
【0115】
HIV特異的細胞応答を開始することができる、3つのペプチドを識別した。これらのペプチドから、H2−Kd制限されるCD8 T細胞特異的ペプチド「Gag−CD8−1」を用いる刺激に続いて、最高のIFN1応答を決定した。このペプチドは、頻繁に文献に引用されているため、これは驚くことではない(例えば、Liuら、Vaccine,2006,24,ページ3332)。第2のGag特異的CD8 T細胞制限されるペプチド「Gag−CD8−2」は、すべてのマウスにおいて、良好な特異的IFN1放出を誘発することもできた。このペプチドは、今のところShinodaらによって、長いペプチドの文脈において、特異的なCTL応答を誘発することが説明されているに過ぎない(Vaccine,2004,22,ページ3676)。しかしながら、文献に記載されている長いペプチドは、CD8 T細胞エピトープのみならず、追加の予測可能な(およびしたがって潜在的な)CD8およびCD4 T細胞エピトープを含有する。したがって、最初に、「Gag−CD8−2」が、特異的IFN1放出を誘発することができることを示す。エピトープ予測に基づいて、「Gag−CD8−2」は、H2−Dd制限されるCD8 T細胞エピトープである。第3の応答性ペプチド「Nef−CD4−2」は、BALB/cマウスの大部分において、特異的なIFN1の放出を誘発することができた。このペプチドは、Mitchelらによって(AIDS Research and Human Retroviruses,1992,8,ページ469)、それに対する増殖応答および細胞溶解活性を決定することができるペプチドとして説明されている。エピトープの予測から、このペプチドは、主にCD4 T細胞に制限されるとして識別された(PredBALB/Cデータベースにおいて、I−Ed分子の場合スコア9.6、およびIAd分子の場合9.1が識別されたが、CD8 T細胞制限されるH2d分子のスコアは、7.9未満であった)。驚くべきことに、公開済みの文献に基づいて選択された3つの応答性ペプチド以外のペプチド、例えば、「Nef−CD4−1」または「Tat−CD8−1」は、特異的なIFN1放出を誘発できることが認められなかった。この矛盾の理由は不明である。
【0116】
要するに、MVA−mBN120Bを用いるBALB/cマウスにおける免疫原性研究は、HIV−多抗原MVA構成体が免疫原性であることが立証されただけでなく、免疫応答が、組換えMVA生成物においてコードされる少なくとも2つのタンパク質に対して配向されること(すなわち、NefおよびGag特異的応答が検出された)、CD8 T細胞制限される免疫応答が、単一のCD8 T細胞分子に限定されないこと(H2−KdおよびH2−Dd応答の両方が誘発されるため)、およびCD8およびCD4 T細胞制限される応答の両方が、MVA−構成体によって誘発されたことも明らかとなった。さらに、これらの結果は、少なくともNef−遺伝子およびGag−遺伝子が、生体内でベクターから発現されることを示す。
【実施例3】
【0117】
ヒトの臨床研究
第I相研究において、HIV−1クレードBサブグループ(gag−pol融合、vpr、vpu、vif、rev、tat、およびnefを含む)から9つの遺伝子の8つを発現する、組換えMVA−BN(登録商標)ワクチンの安全性、応答原性、および免疫原性を、15名のHIV−1感染被検体において評価した。この安全性試験は、応答型および非応答型の局所性および全身性の譜作用応答の分析を包含した。さらに、ベクターに対する細胞性および血液性免疫応答を評価した。また収集した標本を使用して、異なるHIV抗原に対する広域細胞媒介応答を誘発するように、そのような相同性プライムブーストワクチンアプローチの可能性を確立するために、研究ワクチンMVA−mBN120Bによって誘発される、HIV特異的免疫応答を特異的に分析するアッセイも開発した。
【0118】
この第I相試験において、HAART(高活性抗レトロウイルス療法)において安定している、CD4数が350/μlを超える15名のHIV−1感染患者は、0、4、および12週目に2x10 MVA−BN(登録商標)−MAGのワクチン接種を3回受けた。応答型副作用(AE)は日誌カードに記録し、非応答型AEと心臓兆候および症状は、20週目のフォローアップ訪問まで、研究を通して記録した。患者の血清HIウイルス負荷およびCD4数等の疾患特異的パラメータを決定した。ワクシニア特異的血液免疫応答は、ELISAにより測定され、HIV−1挿入ならびにワクシニアに対する細胞免疫応答は、インターフェロン−γ(IFN−γ)ELISPOTアッセイによって、(HIV応答を誘発するための)刺激剤として、11個のアミノ酸重複を有する15−merペプチド、およびMVA−BN(登録商標)を、バッチ分析においてそれぞれ1(ワクシニア応答を誘発するための)の感染の多重度で使用して評価した。
【0119】
研究は、CD4数が350細胞/μlを超えるHIV感染被検体において、組換えMVA HIV多抗原ワクチンの安全性および応答原性を評価するために行われる、単一中心、非盲検の第I相研究であった。
【0120】
被検体は、0日目、ならびに4週間および12週間後に、2x108 組織培養感染用量50(TCID50)MVA−mBN120Bの用量で、免疫付与を受けた。ワクチンは、皮下投与された。
【0121】
研究は、最長3週間のスクリーニング期間と、最長20週間の活動研究期間(12週間のプライム相および8週間のブースト相)とで構成される。被検体当たりの研究の総期間は、最長23週間であった。
【0122】
適格な被検体は、訪問1で開始する活動研究相に入った。訪問1において、すべての被検体は、皮下投与される1回目のMVA−BN120Bワクチン接種を受けた。4週間後の訪問3において、すべての被検体は、2回目のワクチン接種を受け、(訪問1から)12週間後の訪問5において、3回目のワクチン接種を受けた。各免疫付与は、それぞれ1回の投与当たり1x10 TCID50の用量で、2回のMVA−mBN120Bの投与で構成された。ワクチンは、0.5mlのMVA−mBN120Bを、各腕の三角筋領域に注入することによって、皮下投与された。被検体は、1回目は0週目、4週間後に1回、および12週間後に1回の3回の免疫付与を受けた。ワクチン接種中または後に起こったあらゆる副作用(AE)を記録した。
【0123】
以下の手順および調査は、それぞれの予定された訪問時に行った。凍結保存末梢血単核細胞(PBMC)において、インターフェロン−γ(IFN−γ)生成細胞の定量的管内決定に使用される、酵素結合免疫スポット(ELISPOT)アッセイは、生きたワクシニアウイルス(VV):修飾ワクシニアウイルスアンカラ−Bavarian Nordic(MVA−BN(登録商標))またはワクシニアウイルス−ウエスタンリザーブ(VV−WR)を用いる刺激後に行った。
【0124】
つまり、96ウェルフィルタープレート(HTSプレート、Millipore)は、捕捉抗体(製造者の指示に従って、IFN−γに対する(BD Biosciences、IFN−γ ELISPOT対)を用いて、4℃で一晩コーティングした。続いて、蘇生したPBMCを、1のMOIにおいて、MVA−BN(登録商標)と組み合わせて、200,000細胞/200μl最終用量の濃度でウェルに添加した。インキュベーション期間後(37℃/5% CO2で一晩)、ウェルを洗浄し、PBS/9%FCS中のビオチン標識された検出抗体を添加した。PBS/0.05% Tween20で洗浄した後、ストレプトアビジン結合した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP、BD Biosciences)をウェルに添加し、続いて洗浄ステップおよび沈殿物質(AEC、3−アミノ−9−エチルカルバゾール、BD Biosciences)の添加を行った。サイトカイン生成細胞の数は、CTL S5マイクロアナライザーを使用して、スポットを計数することにより決定した。報告される値は、バックグラウンド補正され、1x106 PBMCに標準化した。
【0125】
ワクシニア特異的細胞応答を評価するために、1のMOIにおいて、細胞を生きたMVA−BN(登録商標)で刺激した。
【0126】
HIV特異的細胞応答を評価するために、細胞をペプチドプール(11アミノ酸重複を持つ15−mer)を用いて、ペプチド当たり5μg/mlの最終濃度で刺激した。
【0127】
15のペプチドプールが刺激に使用され、表2に表される。
【表2】

【0128】
高性能液体クロマトグラフィによって確認されるように、ペプチドを90%を超える純度で合成した(Metabion,Martinsried,Germany and Proimmune,UK)。
【0129】
ベクターまたはHIV−MAG特異的シグナルは、バックグラウンド補正後、1x106細胞当たり少なくとも50SFUの頻度で定義した(SFU/1x106非刺激細胞の控除/バックグラウンドの2倍以上)。バックグラウンド補正後のSFU/1x106細胞の数を報告した。
【0130】
ベクターまたはHIV−MAG特異的T細胞応答は、ベースラインにおいてシグナルを持たない被検体におけるシグナルの発生、またはベースラインにおいてシグナルを持つ被検体における、ベースライン値を超える少なくとも1.7倍の相対増加のいずれかとして定義された。
【0131】
1回以上のポストベースライン訪問において応答を示した被検体は、応答者として分類した。
【0132】
特異的なシグナルは、バックグラウンド(非刺激)ウェルにおけるスポット形成細胞の数を、対応する実験(刺激)ウェルにおいて出現するものから控除することによって定義した(各被検体、訪問、および刺激条件に対して)。50個未満のスポット形成単位(SFU)の特異的シグナルは、応答を計算するためにゼロに戻した。
【0133】
陽性の特異的応答は、ベースライン(V1)において、以前はアッセイカットオフ未満であった被検体において、1x106PBMC当たり50SFUのアッセイカットオフに等しいか、またはそれを超える陽性の特異的シグナルの出現がある場合、またはアッセイカットオフ値に等しいか、またはそれを超えるベースライン(V1)シグナルを持つ被検体のベースライン(V1)シグナルから、少なくとも1.7倍のSFU数の上昇がある場合のいずれかに定義した。そうでなければ、それぞれのポストベースラインまたはベースライン値のいずれかが欠失していた場合を除いて、応答を負として定義し、次に応答状態を欠失として定義した。
【0134】
被検体は、複数のポストベースライン訪問に渡って、複数の応答を持ち得たが、1つの応答のみが、特異的な応答者として考慮される必要があった。
【0135】
HIVペプチド刺激は、すべての被検体に対して3つのレベルで、ならびに応答者のみに別個の分析で、刺激プール別(1−15)、タンパク質/ポリタンパク質別(gag、pol、nef、tat、vif、混合)、およびワクチン別(すなわち、すべてのHIVタンパク質を含む)に分析した。
【0136】
記述統計は、刺激状態(HIV−MAGペプチドおよび生きたMVA−BN(登録商標)による刺激を含む)によって、すべての試料採取時に得られ、観察回数、算術平均、および標準偏差(SD)、SFUの数の中間値および範囲を含む。これは、すべての被検体に行い、分析の3つのレベルすべてにおいて、応答者のみに別個の分析を行った(すなわち、プールレベルの応答者、タンパク質/ポリタンパク質レベルの応答者、およびワクチンレベルの応答者に対して)。
【0137】
95%クロッパー−ピアソン信頼区間に沿って、陽性の特異的応答者(応答者率)の数およびパーセンテージを、各プール、各タンパク質/ポリタンパク質、および全体HIV−MAGワクチン、ならびにMVA−BN(登録商標)に対して一覧にした。パーセンテージは、特定の分析に含まれる被検体の数に基づいて計算した。被検体は、応答者と見なされるには、タンパク質/ポリタンパク質およびワクチンレベルにおいて、1つのポールに応答すればよい。1つのみに刺激条件(MVA−BN(登録商標)による刺激)を使用して試験した、ベクター特異的応答者率に対しても同様であった。
【0138】
HIV特異的応答の幅は、1つ以上、2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、および6つのタンパク質/ポリタンパク質に対して応答を持つ被検体の数、以下のカテゴリーを使用して、被検体のタンパク質/ポリタンパク質応答の累積描写によって表した。
【0139】
ELISPOTによって決定されるようなワクチン接種に先立って、被検体の87%が、gagに対して、60%がnefに対して、53%がCTLエピトープに対して、40%が混合タンパク質およびHTLエピトープに対して、33%がpolに対して、7%のみがtatおよびvifに対して細胞免疫応答を生じた。
【0140】
各ペプチドプール、タンパク質/ポリタンパク質、およびHIVワクチン(HIV−MAG)の応答者率は、表3に要約され、応答が検出された時点も明らかにする。応答者を定義するための単一の応答の使用は、SAPにおいて定義され、応答を審査するための高感度方法であるが、この方法は、より高い偽陽性率の傾向があり得る。この理由で、より厳密性の高い応答者の定義を使用して補足分析を行ったところ、2つの応答を応答者として定義する必要がある。
【0141】
図2にも示されるように、新しい応答またはベースライン値よりも増加した応答が、ワクチン−ベクター内でコードされるMVA−BN(登録商標)、HIVタンパク質に対して高く、被検体の87%(13/15)が応答したことを暗示する。より厳密性の高い応答者の定義を使用する場合でも、被検体の80%が、HIV成分に対する応答者であった。最高比率の被検体がgagに応答した(73%、11/15、図2を参照)。gag内で、p24は、p17(20%)よりも高い応答者率をもたらした(2つのgag−pプール24に対してそれぞれ40%および47%)。より厳密性の高い応答者の定義を使用する場合でも、被検体の60%がgagに応答した。polおよび混合タンパク質プールに対する応答者率は類似し(53%、8/15、図2も参照)、pol内で、プロテアーゼおよびRTは、最高かつ等しい応答者率(27%)を有し、20%の応答者率を持つインテグラーゼが続いた。混合プールは、複数のタンパク質からのペプチドを含有するため、最も免疫原性の高いペプチドを決定することができなかった。より厳密性の高い応答者率の定義を使用する場合でも、依然として、pol(33%)および混合(40%)の両方に対して高い応答者率をもたらした。Nef応答者率は、40%であり(6/15、図2を参照)、プール4に対する応答は最高であった(27%)。より厳密性の高い応答者率の定義を使用すると、Nef応答は、27%であった。計7名の被検体(46.7%)および1名の被検体(6.7%)が、HTLおよびCTLポリトープペプチドに対して応答し、TatおよびVifの両方に対する応答者は検出されなかった。
【0142】
【表3】


【0143】
HIV特異的T細胞応答の幅は、被検体が新規または増加したT細胞応答を生じたタンパク質/ポリタンパク質の数を表す。表4は、HIVタンパク質に対する応答の幅を示す。ワクチン付与は、大部分の被検体において、いくつかのタンパク質に対する応答の生成をもたらした。gag、pol、tat、vif、nef、および混合(p2p7、vpr、erv)を含む、最大4つの異なるタンパク質/ポリタンパク質に対する応答は、表4に示される。すべての被検体の66.7%が、少なくとも2つのタンパク質/ポリタンパク質に対して、46.7% が少なくとも3つのタンパク質/ポリタンパク質に対して応答した。
【0144】
【表4】

N=指定群の被検体数、R+=上述されるいずれかのタンパク質に対して応答した被検体の数、%=Nに基づくパーセンテージ、95% CI=クロッパー−ピアソン信頼区間、下限および上限
【0145】
15名の被検体すべてが3回のワクチン接種を受け、研究の終了までフォローアップされた。重篤なAEは報告されず、関連AEのために離脱した研究被検体はいなかった。すべての被検体は、あるグレード3の事象(注入部位の疼痛)を伴う、全身応答(主に吐き気)および局所応答(主に硬化)を報告した。したがって、MVA−BN(登録商標)−MAGの投与は、HIV−1に感染した被検体において良好な耐容性を示した。
【0146】
すべての被検体がワクシニアに応答した。図4A〜Dは、指定のHIV−1タンパク質の中央値SFU/1x10 PBMCを立証した。結果は、以下のように要約され得る。
【0147】
Gag応答者(11/15被検体):437 SFU/1x10 PBMCの中央値ピークは、3回目の免疫付与から1週間後の13週目。
【0148】
Pol応答者(8/15被検体):80 SFU/1x10 PBMCの中央値ピークは、3回目の免疫付与から1週間後の13週目。
【0149】
Nef応答者(6/15被検体):276 SFU/1x10 PBMCの中央値ピークは、2回目の免疫付与から8週間後の12週目。
【0150】
混合プール(p2p7、vpr、rev)応答者(8/15被検体):65 SFU/1x106 PBMCの中央値ピークは、2回目の免疫付与から8週間後の12週目。
【0151】
Gag、pol、nef、および混合応答性IFN−γ分泌PBMCは、1回目の免疫付与から20週後も、ベースラインより高いままであった。
【0152】
ワクシニア特異的応答者の中央SFU値は、2回目の免疫付与から8週間後の12週目にピークの350 SFU/1x10 PBMCに到達し、3回目のワクチン接種後にさらに増加しなかった。HIV応答に関して観察されるように、ワクシニア応答性IFN−γ分泌PBMCの数は、1回目の免疫付与から20週後も、ベースラインより高いままであった。抗ワクシニア抗体血清変換率は、5週目(2回目のワクチン付与から1週間後)に100.0%に到達し、研究期間中は100%のままであった。ELISA GMTは、1回目のワクチン接種から1週間後にわずかな増加および強力なブースター応答を呈した。ワクシニア特異的抗体の力価は、3回目の免疫付与から1週間後にピークの876に到達し、1回目の免疫付与から20週後も、ベースラインよりはるかに高いままであった。
【0153】
MVA−BN(登録商標)−MAG HIVワクチン候補は、HIV−1に感染した被検体において良好な耐容性を示した。HIV特異的T細胞応答率は、86.7%であり、ワクシニア特異的応答率は、100%であった。プール中の4つのHIVタンパク質/ポリタンパク質(gag、pol、nef、および混合[p2p7−vpr−rev])に対する広域細胞免疫応答が認められ、全被検体の66.7%が少なくとも2つ、46.7%が少なくとも3つのHIV−1タンパク質/ポリタンパク質に応答した。T細胞応答の中央値は、応答を誘発したすべてのHIVタンパク質に対して、第1回の免疫付与から20週間後も、依然としてベースラインより高かった。これは、ワクシニア特異的T細胞応答についても当てはまる。したがって、MVA−BN(登録商標)−MAGワクチンは、複数のHIV−1タンパク質、およびワクシニアに対する広域免疫応答を誘発することができ、応答は、第1回の免疫付与を受けてから20週間後も、依然としてベースラインよりも高かった。
【0154】
本発明は、以下の項目も含む。
【0155】
1.ウイルスゲノム中に、薬剤またはワクチンとして使用するための、Gag、Pol、Tat、Vif、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択される、少なくとも3つのHIVタンパク質、および当該タンパク質の部分または誘導体を発現するための1つ以上の発現カセットを含む、組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)。
【0156】
2.ウイルスゲノム中に、Gag、Pol、Tat、Vif、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択される、少なくとも6つのHIVタンパク質、および当該タンパク質の部分または誘導体を発現するための1つ以上の発現カセットを含む、項目1に記載の組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)。
【0157】
3.HIVタンパク質の部分が、対応する全長タンパク質の少なくとも10個の連続アミノ酸を含むタンパク質である、項目1または2に記載の組換えMVA。
【0158】
4.HIVタンパク質の誘導体が、前記HIV−1分離体HXB2R(GeneBank悪セッション番号K03455)において、前記それぞれのHIVタンパク質に対して少なくとも50%の相同性を示す、アミノ酸配列である、前記項目のいずれか1項に記載の組換えMVA。
【0159】
5.前記MVAゲノムは、Vif、Vpu、Vpr、およびRevを含む融合タンパク質をコードする発現カセット、Nefをコードする発現カセット、Gag−Pol融合タンパク質をコードする発現カセット、およびTatをコードする発現カセットを含む、前記項目のいずれか1項に記載の組換えMVA。
【0160】
6.Nefが、N末端切断Nefであり、かつ/またはTatがトランスドミナントTatである、前記項目のいずれか1項に記載の組換えMVA。
【0161】
7.ウイルスゲノム中に、
(i)遺伝子間領域IGR07/08に挿入される融合タンパク質として、Vif−Vpu−Vpr−Revを発現する、第1の発現カセットと、
(ii)最初の19N−末端アミノ酸が欠失され、遺伝子間領域IGRI4L/I5Lに挿入されるNefタンパク質を発現する、第2の発現カセットと、
(iii)IGR136/137に挿入される、トランスドミナントTatを発現する第3の発現カセットと、Gag−Pol融合タンパク質を発現する第4の発現カセット、
を含む、前記項目のいずれか1項に記載の組換えMVA。
【0162】
8.項目1〜7のいずれか1項に記載の組換えMVA、および薬学的に許容される担体、希釈剤、アジュバント、および/または添加剤を任意に含む、薬学的組成物またはワクチン。
【0163】
9.ヒト患者において、HIV Gag、Pol、Vpr、Vpu、Rev、およびNefから選択される、少なくとも3つのHIVタンパク質に対してT細胞応答を誘発するための、項目1〜7のいずれか1項に記載の組換えMVA、もしくは項目8に記載の薬学的組成物またはワクチン。
【0164】
10.ヒト患者において、HIV Gag、Pol、Vpr、Vpu、Rev、およびNefから選択される、少なくとも3つのHIVタンパク質に対してT細胞応答を誘発するために、薬剤を調製するための、項目1〜7のいずれか1項に記載の組換えMVA、もしくは項目8に記載の薬学的組成物またはワクチンの使用。
【0165】
11.項目9に記載の組換えMVA、薬学的組成物、またはワクチン、もしくは前記HIVタンパク質がGag、Pol、およびNefである、項目10に記載の使用。
【0166】
12.項目9に記載の組換えMVA、薬学的組成物、またはワクチン、もしくはGag、Pol、Vpr、Vpu、Rev、およびNefから選択される前記HIVタンパク質の少なくとも4つに対するT細胞応答を誘発するための、項目10に記載の使用。
【0167】
13.項目9〜12のいずれか1項に記載の組換えMVA、薬学的組成物、またはワクチン、もしくは前記HIVタンパク質Gag、Pol、Vpr、Vpu、Rev、およびNefに対するT細胞応答を誘発するための、項目10または12に記載の使用。
【0168】
14.HIV感染および/またはAIDSの治療および/または予防のための項目1〜7のいずれか1項に記載の組換えMVA、もしくは項目8に記載の薬学的組成物またはワクチンの使用。
【0169】
15.HIV感染および/またはAIDSの治療および/または予防のための薬剤を調製するための、項目1〜7のいずれか1項に記載の組換えMVA、もしくは項目8に記載の薬学的組成物またはワクチンの使用。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト被検体においてGag、Pol、Vpr、Vpu、Rev、およびNefから選択されるHIVタンパク質の少なくとも3つに対するT細胞応答を誘発する際に使用するために、ウイルスゲノム中に、Gag、Pol、Tat、Vif、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択される、少なくとも6つのHIVタンパク質、または対応する全長タンパク質の少なくとも10個の連続アミノ酸を含むその一部、または前記タンパク質の誘導体の発現のための1つ以上の発現カセットを含み、HIVタンパク質の前記アミノ酸配列の誘導体は、既知のHIV分離株中の前記それぞれのHIVタンパク質の前記アミノ酸配列に対して、少なくとも50%の相同性を示すアミノ酸配列である、組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)。
【請求項2】
前記ウイルスゲノムが、Gag、Pol、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択される少なくとも6つのHIVタンパク質、またはその一部、または前記タンパク質の誘導体の発現のための1つ以上の発現カセットを含む、請求項1に記載の組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)。
【請求項3】
前記ウイルスゲノムは、Gag、Pol、Tat、Vif、Vpu、Vpr、Rev、およびNefから選択される少なくとも8つのHIVタンパク質、またはその一部、または前記タンパク質の誘導体の発現のための1つ以上の発現カセットを含む、請求項1または2に記載の組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)。
【請求項4】
ヒト被検体において、Gag、Pol、Vpr、Vpu、Rev、およびNefから選択される前記HIVタンパク質の少なくとも3つに対してT細胞応答を誘発するための薬剤またはワクチンの調製のための、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)の使用。
【請求項5】
ヒト被検体において、Gag、Pol、Vpr、Vpu、Rev、およびNefから選択される前記HIVタンパク質の少なくとも3つに対してT細胞応答を誘発するための方法であって、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)を投与することを含む、方法。
【請求項6】
前記MVAが、前記ヒト被検体において、前記HIV−1タンパク質の少なくとも4つに対してT細胞応答を誘発する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)、請求項4に記載の使用、または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記MVAが、前記ヒト被検体において、前記HIV−1タンパク質の少なくとも5つに対するT細胞応答を誘発する、請求項1〜3および6のいずれか1項に記載の組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)、請求項4もしくは6に記載の使用、または請求項5もしくは6に記載の方法。
【請求項8】
前記MVAが、前記ヒト被検体において、前記HIV−1タンパク質の少なくとも6つに対するT細胞応答を誘発する、請求項1〜3、6および7のいずれか1項に記載の組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)、請求項4、6および7のいずれか1項に記載の使用、または請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ヒト被検体において、MVAがT細胞応答を誘発する前記HIV−1タンパク質が、Gag、Pol、およびNefを含む、請求項1〜3および6〜8のいずれか1項に記載の組換え修飾ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)、請求項4および6〜8のいずれか1項に記載の使用、または請求項5〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記被検体が、免疫不全である、請求項1〜3および6〜9のいずれか1項に記載の組換えMVA、請求項4および6〜9のいずれか1項に記載の使用、または請求項5〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記被検体が、HIV−1に感染している、請求項1〜3および6〜10のいずれか1項に記載の組換えMVA、請求項4および6〜10のいずれか1項に記載の使用、または請求項5〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記被検体が、350/μl未満のCD4細胞数を有する、請求項1〜3および6〜11のいずれか1項に記載の組換えMVA、請求項4および6〜11のいずれか1項に記載の使用、または請求項5〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記MVAゲノムは、Vif、Vpu、Vpr、およびRevを含む融合タンパク質をコードする発現カセットと、Nefをコードする発現カセットと、Gag−Pol融合タンパク質をコードする発現カセットと、Tatをコードする発現カセット、を含む、前記の請求項のいずれか1項に記載の組換えMVA、使用、または方法。
【請求項14】
Nefは、N末端が切断されたNefであり、かつ/または、Tatは、トランスドミナントTatである、前記の請求項のいずれか1項に記載の組換えMVA、使用、または方法。
【請求項15】
ウイルスゲノム中に、
(i)融合タンパク質としてVif−Vpu−Vpr−Revを発現し、遺伝子間領域IGR07/08に挿入される、第1の発現カセットと、
(ii)最初の19N末端アミノ酸が欠失しているNefタンパク質を発現し、IGRI4L/I5Lに挿入される、第2の発現カセットと、
(iii)IGR136/137に挿入される、トランスドミナントTatを発現する第3の発現カセットおよびGag−Pol融合タンパク質を発現する第4の発現カセット、
を含む、前記の請求項のいずれか1項に記載の組換えMVA、使用、または方法。
【請求項16】
任意に、薬学的に許容される担体、希釈剤、アジュバント、および/または添加剤と一緒に投与される、前記の請求項のいずれか1項に記載の組換えMVA。
【請求項17】
HIV感染および/またはAIDSの治療および/または予防において使用するための、前記の請求項のいずれか1項に記載の組換えMVA、使用、または方法。
【請求項18】
HIV感染および/またはAIDSの治療および/または予防のための薬剤を調製するための、前記の請求項のいずれか1項に記載の組換えMVAの使用、使用、または方法。
【請求項19】
用量10〜10TCID50/mlの前記組換えMVAが、前記ヒト被検体に投与される、前記の請求項のいずれか1項に記載の組換えMVA、使用、または方法。
【請求項20】
用量10〜10TCID50/mlの前記組換えMVAが、前記ヒト被検体に投与される、前記の請求項のいずれか1項に記載の組換えMVA、使用、または方法。
【請求項21】
用量2x10TCID50/mlの前記組換えMVAが、前記ヒト被検体に投与される、前記の請求項のいずれか1項に記載の組換えMVA、使用、または方法。
【請求項22】
前記組換えMVAが、少なくとも3回投与される、前記の請求項のいずれか1項に記載の組換えMVA、使用、または方法。
【請求項23】
前記組換え体MVAが、0、4、および12週目に投与される、組換えMVA、使用、または方法。
【請求項24】
前記組換え体MVAが、MVA−BNである、前記の請求項のいずれか1項に記載の組換えMVA、使用、または方法。
【請求項25】
前記の請求項のいずれか1項に定義される組換えMVAを含む薬学的組成物またはワクチン組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【公表番号】特表2013−507107(P2013−507107A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532489(P2012−532489)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006114
【国際公開番号】WO2011/042180
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(509296443)バヴァリアン・ノルディック・アクティーゼルスカブ (9)
【Fターム(参考)】