説明

HLA−Gα1多量体及びその薬学的使用

本発明は、α1多量体及びその使用に関する。本発明はまた、このような多量体を産生する方法、それらを含む薬学的組成物、並びに、臓器/組織拒絶を含む種々の疾患を処置するためのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な多量体及びその薬学的使用に関する。本発明は、より具体的には、HLA−G抗原のα1ポリペプチドの多量体に関する。本発明はまた、このような多量体を産生する方法、それらを含む薬学的組成物、並びに、臓器/組織拒絶を含む種々の疾患を処置するためのその使用に関する。
【0002】
背景
主要組織適合性複合体(MHC)抗原は、3つの主要なクラス、即ちクラスI抗原、クラスII抗原(HLA−DP、HLA−DQ及びHLA−DR)及びクラスIII抗原に分類される。
【0003】
クラスI抗原は、β2ミクログロブリンと会合した3つの球状ドメイン(α1、α2及びα3)を示す、古典的抗原であるHLA−A、HLA−B及びHLA−C、並びに、非古典的抗原HLA−E、HLA−F及びHLA−Gを含む。
【0004】
HLA−Gは、正常なヒト胎盤上皮細胞の絨毛外栄養膜及び角膜によって発現される非古典的HLAクラスI分子である。HLA−G抗原は本質的に、胎盤の細胞栄養層細胞によって発現され、そして胎児を母体の免疫系から防御する免疫調節剤として機能する(母による拒絶がない)。HLA−G遺伝子の配列が記載されており(例えばGeraghty et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1987, 84, 9145-9149 ; Ellis; et al., J. Immunol., 1990, 144, 731-735)、そしてこれは4396個の塩基対を含む。この遺伝子は、8つのエキソン、7つのイントロン及び3’非翻訳末端からなり、これらはそれぞれ以下のドメインに対応する:エキソン1:シグナル配列、エキソン2:α1細胞外ドメイン、エキソン3:α2細胞外ドメイン、エキソン4:α3細胞外ドメイン、エキソン5:膜貫通領域、エキソン6:細胞質ドメインI、エキソン7:細胞質ドメインII(非翻訳)、エキソン8:細胞質ドメインIII(非翻訳)及び3’非翻訳領域。
【0005】
HLA−Gの7つのアイソフォームが同定されており、その中の4つは膜に結合し(HL−G1、HLA−G2、HLA−G3及びHLA−G4)、そして3つは可溶性である(HLA−G5、HLA−G6及びHLA−G7)(例えば、Carosella et al. Immunology Today 1996, vol. 17, p 407参照)。
【0006】
成熟HLA−G1タンパク質アイソフォームは3つの外部ドメイン(α1〜α3)、膜貫通領域及び細胞質ドメインを含む。
【0007】
HLA−G2タンパク質アイソフォームはα2ドメインを含まず、即ちα1及びα3ドメインが直接連結されており、その後に膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインが続く。
【0008】
HLA−G3タンパク質アイソフォームはα2ドメイン及びα3ドメインの両方を欠失しており、即ち、それは膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインに直接連結されたα1ドメインを含む。
【0009】
HLA−G4タンパク質アイソフォームはα3ドメインを欠失しており、即ちそれはα1ドメイン、α2ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを含む。
【0010】
可溶性HLA−Gアイソフォームは全て、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを欠失している。より具体的には、HLA−G5タンパク質アイソフォームは、α1、α2及びα3ドメイン、並びに、イントロン4によってコードされる21アミノ酸残基の外部C末端ペプチド配列(転写物のスプライシング及びRNA成熟後のイントロン4の保持の結果として)を含む。
【0011】
HLA−G6タンパク質アイソフォームは、α2を含まないHLA−G5に対応し、即ち、HLA−G6はα1及びα3ドメイン、並びに、イントロン4によってコードされる21アミノ酸残基の外部C末端ペプチド配列(転写物のスプライシング及びRNA成熟後のイントロン4の保持の結果として)を含む。
【0012】
HLA−G7タンパク質アイソフォームはα1ドメインのみ、並びに、イントロン2によってコードされる2つの追加のC末端アミノ酸残基(転写物のスプライシング及びRNA成熟後のイントロン2の保持の結果として)を含む。
【0013】
これらの全てのアイソフォームが、例えば、Kirszenbaum M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1994, 91, 4209-4213;欧州出願 EP 0 677 582; Kirszenbaum M. et al., Human Immunol., 1995, 43, 237-241; Moreau P. et al., Human Immunol., 1995, 43, 231-236に記載されている。
【0014】
以前の研究は、HLA−Gタンパク質が、増殖性Tリンパ球細胞応答、細胞傷害性Tリンパ球が介在する細胞溶解、及びNK細胞が介在する細胞溶解などの同種応答を抑制することができることを示した(Rouas-Freiss N. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 1997, 94, 5249-5254 ; Proc. Natl. Acad. Sci., 1997, 94, 11520-11525; Semin Cancer Biol 1999, vol 9, p. 3)。結果として、HLA−Gに基づいた手順が、同種又は異種臓器/組織移植における移植片拒絶を処置するために提案されている。HLA−Gタンパク質はまた、癌(EP1 054 688)、炎症疾患(EP1 189 627)及びより一般的には免疫関連疾患の処置のために提案されている。また、HLA−Gを特定の細胞又は組織にターゲティングさせるためにHLA−Gタンパク質を特異的リガンドに融合させることも提案されている(WO2007091078)。しかしながら、このようなターゲティング融合体が活性であることを示す結果又は実験データは全く提供されていないことを注記すべきである。
【0015】
HLA−G抗原は、2つのHLA−G分子のα1ドメインのシステイン残基42の間の分子間ジスルフィド架橋の形成の結果としてin vivoにおいて二量体コンフォメーションをとるようである(Apps et al., Eur. J. Immunol. 2007, vol. 37 p. 1924 ; WO2007/011044)。HLA−G二量体のレセプター結合部位は、対応する単量体のレセプター結合部位よりもより近づきやすく、よって二量体は単量体よりも高い親和性及びより遅い解離速度を有すると提唱されている。しかしながら、どのようなコンフォメーションが薬学的目的のために最も有効であるか、どのアイソフォームが最も効率的であるか、又はどのように適切なHLA−G二量体又はオリゴマーが産生され得るかは明らかではない。
【0016】
発明の要約
本発明は、HLA−Gα1ポリペプチドの多量体、それらを含む薬学的組成物、及びその使用に関する。予期せぬことに、本発明は、HLA−Gα1ポリペプチドが、適切に構築された場合に、in vivoにおいて臓器拒絶を効率的に抑制する能力を有する多量体を産生することができることを示す。従って、これらの多量体は、このような疾患並びに他の免疫関連疾患を処置するための非常に価値ある薬物候補を示す。
【0017】
従って、本発明の目的は、HLA−G抗原の少なくとも2つのα1ポリペプチドを含む多量体に存する。
【0018】
以下において考察するように、α1ポリペプチドは、ジスルフィド架橋形成、スペーサー基及び/又は担体を通してなどのこれらに限定されない種々の方法で共に連結され得る。
【0019】
本発明のさらなる目的は、前記に定義したような多量体を産生する方法に存し、前記方法は、多量体化を可能とする条件下においてα1ポリペプチドを混合すること、そして場合により、遊離ポリペプチド(即ち単量体)から多量体を分離することを含む。
【0020】
本発明はまた、配列番号1のポリペプチド、並びに、このようなポリペプチドをコードする単離された核酸、及び対応するベクター及び組換え細胞に関する。
【0021】
本発明のさらなる目的は、前記に定義したような又は前記の方法によって得ることのできる多量体を含む薬学的組成物である。
【0022】
本発明のさらなる目的は、配列番号1のポリペプチドを含む薬学的組成物である。
【0023】
本発明はさらに、臓器又は組織拒絶、炎症疾患又は自己免疫疾患を処置するための前記に定義したような多量体、ポリペプチド又は薬学的組成物に関する。
【0024】
本発明のさらなる目的はまた、臓器/組織拒絶を処置する方法に関し、前記方法は、それを必要とする被験体に、有効量の本発明の多量体、ポリペプチド又は組成物を投与することを含む。より具体的には、前記方法は、組織/臓器移植の前、その最中及び/又はその後に、前記多量体、ポリペプチド又は組成物を被験体に投与することを含む。
【0025】
本発明のさらなる目的は、被験体における移植片に対する寛容を促進する方法であり、前記方法は、それを必要とする被験体に、有効量の前記に定義したような多量体、ポリペプチド又は組成物を投与することを含む。
【0026】
本発明は、任意の哺乳動物被験体、好ましくはヒト被験者に使用し得る。以下においてさらに開示するように、本発明の多量体は、移植後にin vivoにおいて組織拒絶を実質的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】抗体の介在するα1でコーティングされたビーズを含むα1多量体の投与後のマウスにおける移植片生着率。
【図2】α1が直接コーティングされたビーズを含むα1多量体の投与後のマウスにおける移植片生着率。
【図3】α1多量体の投与後のマウスにおける移植片生着率。青色:ビーズのみを含む対照群。オレンジ色:α1が直接コーティングされたビーズを1回注射。黄色:抗体の介在するα1でコーティングされたビーズを1回注射。緑色:α1が直接コーティングされたビーズを2回注射。鮭肉色:抗体の介在するα1でコーティングされたビーズを2回注射。
【図4】心臓移植片生着分析。
【0028】
発明の詳細な説明
本発明は、いくつかのHLA−Gα1ポリペプチドを含む多量体及びその使用に関する。本発明の多量体は、in vivoにおいて移植片拒絶を効果的に抑制することが示された。より具体的には、本発明者らは、驚くべきことに、α1ポリペプチドが、多量体において正しく構築されると、in vivoにおいて免疫寛容を効率的に誘導する能力を有することを見出した。
【0029】
前記において考察したように、HLA−G抗原は、胎児を母体の免疫系から防御する免疫調節剤として機能する。種々のHLA−Gアイソフォームが報告されており、それらは膜に結合しているか又は可溶性かのいずれかである。これらのアイソフォームは、α1、α2及びα3と称される細胞外球状ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインから選択される、明確に異なる機能的ドメインを含む。特定のHLA−Gアイソフォーム(例えば成熟HLA−G1)の生物活性及び作用機序は記述されているが、免疫調節活性に対する、特に可溶形の各ドメインの相対的寄与は詳細に研究されていない。
【0030】
これに関して、HLA−G抗原の抑制活性は、ILT抑制型レセプターILT2又はILT4に結合することによって媒介されることが記述されている。より具体的には、このような結合はHLA−Gのα3ドメインを通して起こると提唱されている(Shiroishi et al., PNAS 103 (2006) 16412)。Guillard et al. (Molecular Immunology 45 (2008) 419)はまた、NFKBの活性化におけるα1ドメインの役割も示唆している。しかしながら、このような効果はKIR型レセプターへの結合によって媒介され、そしてILT2又はILT4レセプターによって媒介されるHLA−Gの抑制活性とは明確に異なる。
【0031】
本発明者らは今回、多量体中のα1ポリペプチドが、in vivoにおいて移植片拒絶を防御することができることを観察した。これに関して、HLA−Gと相互作用することのできるレセプターは、マウス抑制型レセプターPIRB(ヒトILT−4と相同)である。しかしながら、このレセプターは、HLA−Gのα3ドメインと相互作用することが知られている。同じように、ヒトのin vitroにおける実験においても、この効果は、ILT−2又はILT−4との相互作用に起因するものではない。なぜなら、これらのレセプターはHLA−Gのα3ドメインと相互作用するからである。理論によって固めたくはないが、本発明者らは、得られた予期せぬ結果が、α1多量体と結合しそして免疫寛容を誘導する(in vivoにおいて観察されたように)未知の抑制型レセプターの存在によって、又はα1多量体が、ILTレセプターとのその相互作用を可能とする新規かつ予期せぬ4次構造をとるという事実によって説明され得ると考える。
【0032】
得られた結果は、本発明の多量体が、in vivoにおいて高い免疫調節活性を示し、そしてそれ故、被験体における免疫関連疾患を処置するための、特に望ましくない又は有害な免疫応答を低減させるための効率的な薬物を示すことを示す。得られた結果は、より具体的には、本発明の多量体が、プラセボと比較してin vivoにおいて移植片生着率の100%又はさらにはそれ以上の増加を誘導することができることを示す。
【0033】
従って、本発明の第1の目的は、少なくとも2つのα1ポリペプチドを含む多量体に存する。
【0034】
本発明に関連して、「α1ポリペプチド」という用語は、HLA−G抗原のα1ドメインのアミノ酸配列を含むポリペプチド、又はその機能的フラグメントを示し、そして他の機能的HLA−Gドメインを本質的に欠失している。より好ましくは、α1ポリペプチドは、HLA−G抗原のα1ドメインのアミノ酸配列を含む。本発明の多量体において、全てのα1単量体が同じアミノ酸配列を有することが好ましい。しかしながら、また、異なる配列を有するα1ポリペプチドも、本発明の多量体に存在することが考えられる。
【0035】
より好ましくは、α1ポリペプチドは、HLA−G抗原のα1ドメインのアミノ酸配列又はその機能的フラグメントを含み、そしてHLA−G抗原の機能的α2、α3、TM及び細胞質ドメインを欠失している。
【0036】
HLA−Gのα1ドメインはエキソン2によってコードされ、そして成熟ヒトHLA−Gのアミノ酸1〜90に対応する。従って、α1ドメインのアミノ酸配列を、前記に引用したGeraghty et al.又はEllis et al., J. Immunol., 1990, 144, 731-735の刊行物から直接得ることができる。この配列はまたオンラインでも入手可能である(例えば、HLA−GについてのGenbank番号:ゲノム配列の最初のクローニング:Geraghty et al, PNAS 1987:PubMed ID : 3480534, GeneID: 3135;HLA−G1 cDNAの最初のクローニング:Ellis et al Journal of Immunology 1990. PubMed ID : 2295808を参照)。さらに、HLA−G5、HLA−G6及びHLA−G7の配列も、US5,856,442、US6,291,659、FR2,810,047、又はPaul et al., Hum. Immunol 2000; 61: 1138から入手可能であり、これからα1ドメインの配列を直接得ることができる。
【0037】
さらにより好ましくは、α1ポリペプチドは、HLA−G抗原のα1ドメインのアミノ酸配列又はその機能的フラグメントを含み、そして天然HLA−Gアイソフォームのα1ドメインにフランキングする20未満、より好ましくは15未満、さらに最も好ましくは10又は5未満の追加のアミノ酸を含む。
【0038】
本発明のα1ポリペプチドの具体例は、HLA−G抗原のα1ドメインの配列からなるポリペプチド、又はその機能的フラグメントである。
【0039】
具体的な態様において、α1ポリペプチドは本質的に、成熟HLA−G抗原のアミノ酸1〜90、又はその機能的フラグメントからなる。
【0040】
好ましいα1ポリペプチドの配列は配列番号1に提供され、これは本発明の特定の目的を示す。
【0041】
「機能的フラグメント」は、本発明の多量体として使用した場合にin vivoにおいて移植免疫寛容を誘導する能力を保持したフラグメントを示す。より好ましくは、機能的フラグメントは、α1ドメインの少なくとも20、より好ましくは少なくとも30、40又は50連続したアミノ酸を含む。典型的な態様において、機能的フラグメントは、α1ドメインの少なくとも60連続したアミノ酸を含む。フラグメントの機能性は、実験の章において開示したように確認され得る。特に、機能性は、フラグメントの多量体を調製し、臓器/組織移植前に前記多量体を動物モデルに投与し、そして移植片生着率を確認することによって確認され得る。多量体が、移植片生着期間をプラセボと比較して50%延長する場合、前記フラグメントは機能的と考えられ得る。
【0042】
本発明の具体的な態様において、α1ポリペプチドは配列番号1のポリペプチド、又は配列番号1の少なくとも50連続したアミノ酸を含むその機能的フラグメントである。
【0043】
HLA−G抗原の天然変異体が、多型の結果として存在し、これも本出願に含まれることを理解すべきである。また、特定の(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、最も好ましくは1、2、3、4又は5個)のアミノ酸の置換又は挿入を含む前記配列の変異体も本発明に含まれる。
【0044】
本発明のα1ポリペプチドは、組換え技術、酵素技術又は人工合成などの、当技術分野においてそれ自体公知の技術によって産生され得る。好ましい態様において、α1ポリペプチドは、公知の化学反応及び合成装置を使用する人工合成によって作製される。α1ポリペプチドは、天然アミノ酸、又は非天然もしくは改変されたアミノ酸残基のいずれかを含み得る。それらはL及び/又はDコンフォメーションであり得る。ポリペプチドは、アミン結合及び/又は改変されたペプチド模倣結合のいずれかを含み得る。また、前記ポリペプチドを、例えば外側の機能の化学的又は物理的改変を通して、最終的に保護及び/又は修飾し得る。
【0045】
前記に示したように、本発明は、α1ポリペプチドの多量体に関する。
【0046】
本発明の関連内で、「多量体」という用語は、共に会合した、前記に定義したような少なくとも2つのα1ポリペプチド(単量体)を含む分子(又は組成物又は産物)を示す。従って、多量体という用語は、二量体、並びに、3、4、5、6、7又はさらにはそれ以上のα1単量体を含む分子を含む。本発明の多量体は、100、500、1000又はさらにはそれ以上のα1単量体を含み得る。さらに、本発明の多量体は、前記の少なくとも2つのα1ポリペプチドに加えて、他の単量体も含み得る。特に、本発明の多量体は、少なくとも2つのα1単量体及びヘテロ単量体を含み得る。具体的な態様において、本発明の多量体は、α1ポリペプチドのみを含む。
【0047】
本発明の多量体の具体例は二量体である。これに関して、具体的な態様において、本発明はα1二量体に関する。
【0048】
本発明の多量体内の種々の単量体は、ジスルフィド架橋形成(特に二量体について)を通して、あるいはスペーサー基及び/又は担体を通してなどであるがこれらに限定されない、種々の様式で共に連結され得る。好ましい態様において、α1ポリペプチドは、共有結合的に又は親和性相互作用を通して連結されている。
【0049】
特定の態様において、本発明は、ジスルフィド架橋を通して連結された2つのα1ポリペプチドを含むα1二量体に関する。より具体的には、2つのα1ポリペプチドは、ヒトHLA−G抗原のアミノ酸42位のシステイン残基間のジスルフィド架橋を通して連結されている。
【0050】
さらなる特定の態様において、α1ポリペプチド(又は単量体)はスペーサー又は担体を通して連結されている。特定の態様において、単量体は担体に連結され、それによって多量体を産生する。担体は種々の性質であり得る。それは好ましくは生物適合性であり、最も好ましくは生物学的に不活性である。担体は、分子、例えばタンパク質、例えばアルブミン(例えばヒト血清アルブミン)、又は不活性固体担体、例えばビーズであり得る。ビーズは、ガラス、金属、ポリマー、サンゴなどの任意の生物適合性材料からなり得る(又はそれで覆われ得る)。特定の態様において、担体は、50μm以下、より好ましくは10μm以下、典型的には5μm又はそれ以下の平均直径を有するビーズである。単量体は、親和性相互作用又は官能基の使用などの、種々のタイプのカップリング反応を通して担体に連結され得る。親和性相互作用は、担体を、α1ポリペプチドに結合するリガンド(例えば抗体又はそのフラグメント)でコーティングすることによって得ることができる。親和性相互作用はまた、α1ポリペプチドに及び担体に、それぞれ結合対のメンバー(例えばアビジン及びビオチン)を加えることによっても得ることができる。カップリングはまた、マレイミドなどの二官能基を通しても得ることができる。さらに、多量体は、担体に連結されそしてさらに分子間ジスルフィド架橋形成している、単量体を含み得ることを注記すべきである。
【0051】
特定の態様において、本発明の多量体は、担体に連結した2つ以上のα1ポリペプチドを含む分子である。
【0052】
本発明の多量体は、種々の技術によって産生され得る。前記に考察したように、単量体を、共有結合(例えばジスルフィド架橋、二官能基など)又は親和性反応などの、種々のカップリング技術を通して共にカップリングさせ得る。
【0053】
ジスルフィド結合を通しての多量体の産生のために、外側のSH基を含むα1ポリペプチドを、溶液中で、ジスルフィド結合の形成を可能とする条件下で接触させ、そして好ましくは、二量体又は多量体を分離する。多量体を、例えばその分子量に基づいて、例えばゲル電気泳動(例えばPAGE)によって単量体から分離し得る。また、アリコート試料における多量体の適切な形成を、このような方法を使用して確認することにより、溶液中に存在する多量体の相対量を測定し得、そして必要であれば、反応条件を調整し得る。ジスルフィド結合の形成を可能とする条件としては、例えば、10〜30℃の温度で2〜24時間が挙げられる。
【0054】
担体の使用を通しての多量体の産生のために、単量体を、典型的には、担体の存在下において、担体上への単量体の付着を可能とする条件下においてインキュベーションし、そして好ましくは多量体を分離する。担体は、例えば固体担体、例えばビーズ、好ましくはマイクロビーズであり得る。担体はまた、タンパク質、例えば血清アルブミンであり得る。単量体と担体との間の相互作用を促進させるために、担体を、単量体と相互作用することのできる反応基を含むように官能基化し得る。一例として、担体を、α1ポリペプチドのリガンド、例えば抗体又はそのフラグメント(例えばFabフラグメント、CDRフラグメント、ScFvなど)又は化学的カップリング試薬(例えばマレイミド)でコーティングし得る。あるいは、担体を、α1ポリペプチドのリガンドと結合することのできる反応物によって官能基化し得る。一例として、担体を抗ヒトIgG Fcフラグメントでコーティングし得、そしてリガンドは、HLA−G1抗原に対して作られるヒトポリクローナルIgGであり得る。このような場合、ビーズへの単量体の適切な会合を可能とするために、単量体、担体及びリガンドを一緒にインキュベーションし得る。
【0055】
さらなる態様において、交差反応基(例えばアビジン及びビオチン)を含むように担体及び単量体を修飾し得る。このような場合、担体及び単量体のインキュベーションは、担体上での多量体化を引き起こす。
【0056】
形成される多量体(即ち担体とα1ポリペプチドとの間の複合体)を、遠心分離、沈降、電磁気分離などを含む当技術分野においてそれ自体公知の種々の技術を使用して単離することができる。
【0057】
本発明の多量体の具体例は:
−ジスルフィド架橋を通して連結された配列番号1のα1ポリペプチドの二量体;
−マイクロビーズなどの担体に連結された配列番号1のα1ポリペプチドの多量体;及び
−前記に開示したような方法によって得られた配列番号1のα1ポリペプチドの多量体である。
【0058】
実施例に記載したように、これらの多量体は、in vivoにおいて移植免疫寛容を促進することができる。
【0059】
さらに、配列番号1のポリペプチド並びに配列番号1のポリペプチドをコードする核酸分子も、本発明の具体的な目的を示す。本発明は実際に、配列番号1のポリペプチドが、移植片拒絶を処置するためのin vivoにおける実質的な活性を有し、そしてこれを非常に活性な多量体を調製するために使用し得ることを示す。
【0060】
コードする核酸は、例えば、一本鎖又は二本鎖のRNA又はDNAであり得る。それは、遺伝子工学、化学合成又は酵素合成などの当技術分野においてそれ自体公知の技術によって産生され得る。特定の態様において、核酸はさらに、前記ポリペプチドをコードする配列に作動可能に連結された、分泌のためのペプチドをコードする配列を含む。結果として、このような核酸の発現により、選択された宿主細胞によるポリペプチドの分泌がなされる。分泌を可能とするペプチドは、種々の起源に由来し得、例えばヒト又は哺乳動物遺伝子、例えばB2M、インターロイキン、HLA−Gなどに由来し得る。
【0061】
本発明のさらなる目的はまた、前記に定義したような核酸を含むベクターに存する。ベクターは、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルスベクター、人工染色体などのクローニングベクター及び/又は発現ベクターであり得る。このようなベクターの具体例としては、pFUSEプラスミド、pUCプラスミド、pcDNAプラスミド、pBRプラスミド、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、ラムダファージベクターなどが挙げられる。
【0062】
ベクターは、プロモーター、終結因子、複製起点などの調節配列を含み得る。ベクターを使用して、本発明のポリペプチドをin vitroにおいて組換え技術によって、又は直接的にin vivoにおいて遺伝子療法アプローチにおいて産生し得る。
【0063】
本発明のさらなる目的は、前記に定義したような核酸又はベクターを含む組換え宿主細胞である。宿主細胞は、原核生物又は真核生物であり得る。原核宿主細胞の例としては、任意の細菌、例えばE.coliが挙げられる。真核細胞の例としては、酵母、真菌、哺乳動物細胞、植物細胞又は昆虫細胞が挙げられる。本発明の組換え細胞は、トランスフェクション、リポフェクション、電気穿孔法、プロトプラスト形質転換などの当技術分野においてそれ自体公知の形質転換技術によって調製され得る。これらの細胞を、任意の適切な培養培地中において維持及び培養し得る。
【0064】
本発明の組換え細胞を使用して、例えば、本発明のポリペプチドをin vitroもしくはex vivoにおいて産生し得るか、又は細胞療法産物としてin vivoにおいてポリペプチドを産生し得る。
【0065】
これに関して、本発明の目的はまた、配列番号1のポリペプチドを産生する方法に存し、前記方法は、本発明の組換え宿主細胞を、核酸分子の発現を可能とする条件下において培養し、そして産生されたポリペプチドを回収することを含む。前記ポリペプチドを、遠心分離、ろ過、クロマトグラフィー技術などの当技術分野においてそれ自体公知の技術を使用して回収及び/又は精製し得る。
【0066】
本発明のさらなる目的は、前記に定義したような多量体又は前記に開示したような方法によって得ることのできる多量体と、好ましくは薬学的に許容される賦形剤又は担体とを含む薬学的組成物である。
【0067】
本発明のさらなる目的は、配列番号1のポリペプチドと、好ましくは薬学的に許容される賦形剤又は担体とを含む薬学的組成物である。
【0068】
適切な賦形剤又は担体としては、緩衝剤、安定化剤、希釈剤、塩、保存剤、乳化剤、甘味剤などの任意の薬学的に許容されるビヒクルを含む。賦形剤は、典型的には、公知の技術に従って調製され得る、等張の水溶液又は非水性溶液を含む。適切な溶液としては、リン酸緩衝溶液、塩化溶液、リンガー液などの緩衝化された溶質を含む。薬学的調製物は、典型的には、注射用組成物、好ましくは液体の注射用組成物の剤形であるが、錠剤、カプセル剤(gelules)、カプセル剤、シロップ剤などの他の剤形も考えられ得る。本発明の組成物は、全身、非経口、経口、直腸、鼻腔又は膣経路によるなどの多くの異なる経路によって投与され得る。それらは好ましくは、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、又は皮下注射などの注射によって投与される。経皮投与も考えられる。具体的な投与量は、病的状態、被験体、処置期間、他の活性成分の存在などに依存して、当業者によって調整され得る。典型的には、前記組成物は、10ngから100mg、より好ましくは1μgから50mg、さらにより好ましくは100μgから50mgの単位投与量の多量体を含む。本発明の組成物は、好ましくは、有効量で、即ち、時間をかけて、疾患の進行を少なくとも低減又は防止するに十分である量で投与される。これに関して、本発明の組成物は、好ましくは、被験体における有害又は望ましくない免疫応答の低減を可能とする量で使用される。
【0069】
前記したように、本発明の多量体は強力な免疫調節活性を有し、そしてこれを使用して、異常な又は望ましくない免疫応答を伴う多種多様な疾患状態を処置し得る。より具体的には、本発明の多量体は、特に、臓器又は組織拒絶、炎症疾患又は自己免疫疾患などの免疫関連疾患を処置するのに適切である。
【0070】
実験の章で開示したように、本発明の多量体は、in vivoにおいて同種移植片拒絶を実質的に抑制することができる。
【0071】
従って、本発明の目的は、移植片拒絶を処置するための前記に開示したような多量体、ポリペプチド又は組成物に存する。
【0072】
本発明のさらなる目的は、被験体における移植片拒絶を処置する方法に存し、前記方法は、それを必要とする被験体に、有効量の前記に開示したような組成物を投与することを含む。
【0073】
処置するという用語は、例えば、受ける被験体における移植免疫寛容の促進を示す。処置は、移植前、移植の最中及び/又は移植後に実施され得、そして既存の免疫抑制剤の代替療法として、又は実際の免疫抑制剤との併用療法として使用され得る。本発明は、同種、半同種又はさらには異種移植に適用可能であり、そして固体組織、液体組織又は細胞(心臓、皮膚、腎臓、肝臓、肺、肝臓−腎臓などを含む)を含むがそれらに限定されない、任意のタイプの移植臓器又は組織のために使用され得る。
【0074】
本発明のさらなる目的は、被験体に臓器又は組織を移植するための改善された方法であり、前記改善は、移植前、移植の最中及び/又は移植後に、有効量の前記に開示したような組成物を被験体に投与することを含む。
【0075】
本発明のさらなる目的は、被験体における移植免疫寛容を促進するための方法であり、前記方法は、移植前、移植の最中及び/又は移植後に、有効量の前記に開示したような組成物を被験体に投与することを含む。
【0076】
本発明のさらなる目的は、被験体における移植片拒絶を低減させるための方法であり、前記方法は、移植前、移植の最中及び/又は移植後に、有効量の前記に開示したような組成物を被験体に投与することを含む。
【0077】
好ましい態様において、前記組成物は、被験体に少なくとも2回投与される。実際に、本出願において示される結果は、反復投与により、さらに増加した利点が得られる、例えばin vivoにおいてさらに有意に増加した移植免疫寛容が得られることを実証する。
【0078】
本発明は、特に、心拒絶を処置するのに、即ち、心臓移植に対する寛容を高めるのに適している。特に、提示された結果は、本発明のα1多量体が、in vivoにおいて心移植片生着期間を用量応答的に効果的に延長することを示す。処置は、250倍低い用量で使用しても、リファレンス化合物であるタクロリムスと同じくらい効果的である。さらに、心移植片拒絶は、タクロリムスによる処置の9日後から始まるが、それは、本発明のα1多量体での処置から11日後まで遅延される。従って、本発明は、心同種移植片の移植を増加させるための実質的に改善された方法を提供する。
【0079】
本発明のさらなる目的は、自己免疫疾患を処置するための前記に開示したような多量体、ポリペプチド又は組成物に存する。本発明はまた、被験体における自己免疫疾患を処置する方法に存し、前記方法は、それを必要とする被験体に、有効量の前記に開示した組成物を投与することを含む。自己免疫疾患は関節リウマチ、クローン病又は多発性硬化症であり得る。このような疾患状態において、本発明は、病態に関与する有害な免疫応答を低減することを可能とする。
【0080】
本発明の別の目的は、炎症疾患を処置するための前記に開示したような多量体、ポリペプチド又は組成物に存する。
【0081】
本発明のさらなる目的は、被験体における炎症疾患を処置する方法に存し、前記方法は、それを必要とする被験体に、有効量の前記に開示したような組成物を投与することを含む。
【0082】
実際に投与される前記組成物の量は、処置しようとする状態又は状態群、投与する正にその組成物、個々の患者の年齢、体重及び応答、患者の症状の重度、及び選択する投与経路を含む関連する環境の観点から、医師によって決定及び適合されることを理解すべきである。それ故、前記の投与量範囲は、本明細書における教義のための一般的な指針及びサポートを提供することを趣旨としているが、本発明の範囲を制限する意図はない。
【0083】
本発明のさらなる局面及び利点が以下の実施例において開示され、これは説明として捉えられるべきであり、本出願の範囲を制限するものと捉えるべきではない。
【0084】
実施例
実施例1:α1ポリペプチドの調製
配列番号1のα1ポリペプチドをペプチド合成装置を使用して合成した。
【0085】
実施例2:ジスルフィド結合を通したα1二量体
α1ポリペプチドを、ジチオトレイトールを含む試料緩衝液(「還元性」)又はジチオトレイトールを含まない試料緩衝液(「非還元性」)と共に煮沸しながらインキュベーションし、ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動し、そしてHybond ECLニトロセルロース膜に転写する。PBS 1×中の無脂肪ミルクと共にインキュベーションした後、膜を、抗HLA−Gポリクローナル抗体と共に一晩インキュベーションし、そしてセイヨウワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートさせたヤギ抗マウス二次抗体を使用して明らかとする。膜をECL検出システム(Amersham Pharmacia Biosciences)を用いて明らかとする。
【0086】
上記の条件下において、α1ポリペプチドは二量体を形成し、これを例えば電気泳動によって同定することができる。
【0087】
実施例3:担体を使用するα1多量体の産生
硫酸ラテックスビーズ(4%w/v 5μm、Invitrogen)を担体として使用した。それらを、α1単量体で、直接的に、又は間接的に、即ち抗HLA−G抗体4H84(0.5mg/ml、BD Pharmingen)を使用してのいずれかでコーティングする。
【0088】
間接的なコーティングでは、10個の硫酸ラテックスビーズを、20μg/mlの精製抗ヒトHLA−G抗体と共に37℃で2時間かけてインキュベーションし、その後、BSA(2mg/ml)と共に2時間インキュベーションした。洗浄後、ビーズを、1μg/mlのHLA−G α1ペプチド(90mer、実施例1のように産生)と共に4℃で16時間かけてインキュベーションした。
【0089】
HLA−Gペプチドで直接コーティングされたビーズを生成するために、10個の硫酸ラテックスビーズを、1μg/mlのHLA−G α1ペプチドで4℃で16時間かけてコーティングし、その後、BSA(2mg/ml)と共に2時間インキュベーションした。
【0090】
全てのビーズを、その後、1×PBSによって2回洗浄した。5×10個の硫酸ラテックスビーズのために、5mlのHLA−G α1ペプチド(1μg/ml)を使用した。
【0091】
本発明のこのような多量体を使用して、in vivoにおいて移植免疫寛容を誘導又は高めた(実施例4参照)。
【0092】
実施例4:同種皮膚移植に対するα1多量体の効果
本発明のα1多量体の生物活性を評価するために、いくつかの研究をin vivoにおいて実施した。
【0093】
病原体を含まない特定のC57BL/6(H−2b)マウス(8〜10週令)を、全研究を通じて、皮膚移植レシピエントとして使用した。レシピエントマウスは、α1にカップリングしたビーズを受けた。ドナー皮膚は、MHCクラスIIの異なるB6.CH−2bm12(bm12、H−2b)マウスからのものであった。同種皮膚移植は標準的な方法によって実施された。簡潔に言うと、ドナーマウス(12〜14週令)の尾からの皮膚(1.0cm)を、レシピエントの麻酔したマウスの側腹部に移植した。移植片をガーゼ及び絆創膏で覆い、これを10日目に除去した。移植片を拒絶まで(移植組織の80%が壊死となり、そしてサイズが減少したとして定義される)毎日スコアリングした。全ての皮膚移植生着データを、カプラン・マイヤー生存分析によって試験した。
【0094】
第1シリーズの実験において、実施例3に開示したように調製したα1ペプチドでコーティングされた硫酸ラテックスビーズ(5×10個)を、皮膚移植の前日に腹腔内注射した。陰性対照として、α1ポリペプチドではなく1×PBS又はHeLa陰性対照を使用したこと以外は同じ方法で、硫酸ラテックスビーズを調製した。
【0095】
これらの実験の結果を図1及び2に示す。それらは、本発明のα1多量体が、in vivoにおいて移植免疫寛容を実質的に改善することができたことを示す。特に、それらは、前記多量体が、平均生着率を実質的に改善することができることを示し、これは非常に驚くべきことである。より具体的には、平均生着期間は非処置マウスにおいては22日間であるが、処置マウスにおいては25日間である。また、間接的な抗体の介在するコーティングによって調製された多量体で処置されたマウスは、直接的にコーティングされたビーズと比較して、4日間という増加した平均の移植片生着期間を示した。
【0096】
モデルにおける移植片生着期間の1日1日は、ヒト被験者における少なくとも約1カ月間の移植片生着期間に相当し、よって本発明の組成物は、ヒト被験者においては少なくとも数ヶ月間、移植片生着期間を改善すると考えられている。
【0097】
それ故、これらの結果は、同種移植(B6.CH−2bm12(bm12、H−2b))の前にα1多量体を用いて1回処置されたマウス(C57BL/6(H2B))が、増加した移植片生着期間を示すことを示す。
【0098】
in vivoで野生型マウスにおいて実施された追加的な研究は、本発明の多量体の2回の注射(移植の24時間前及びその後は移植から10日後)が、1回の投与と比較して、移植片生着期間を6日間増加させたことを示した。図3において、これらの追加の実験の結果が提示され、そしてこれは、移植片生着率の100%を超える増加をもたらす、非常に強力かつ驚くべき移植免疫寛容効果を実証する。
【0099】
それ故、これらの結果は明瞭に、移植片生着率を改善するための治療産物としてのα1多量体の特許請求された使用を説明及び支持する。
【0100】
実施例5:心同種移植における拒絶の予防におけるα1多量体の効力
5.1 材料及び方法
動物
雄BALB/c(H−2)マウス(体重22〜24g)はドナーとして用い、そして雄C57BL/6(H−2)マウス(体重24〜27g)はレシピエントとして用いた。全てのマウスを、Charles River Canada (St. Constant, QC)から購入した。マウスを明/暗のコントロールされたサイクルで飼育し、そして水及びマウス固形飼料に自由に近づけるようにした。
【0101】
マウスにおける心移植
異所性心移植片を、Chen, H. et al., (The Journal of Immunology, 1996; 157:4297-4308)に記載のように腹腔内に配置した。簡潔に言うと、ドナー及びレシピエントマウスを、65mg/kgのペントバルビタールの腹腔内注射により麻酔した。大静脈及び肺静脈の結紮の前に冷食塩水を用いて下大静脈を灌流することによってドナー心臓を4℃まで冷却し、そしてドナー肺動脈及び大動脈を吻合術のために開いたままにした。移植片を4℃の食塩水で20分未満の間、保存した。レシピエントの腎臓内大静脈及び大動脈を露出させた後、ドナー肺動脈からレシピエント大静脈への及びドナー大動脈からレシピエント大動脈への端側の微小血管吻合術を、11−0のナイロン縫合糸(AROSurgical, Newport Beach, CA)を使用して実施した。心活性を、腹部触診によって毎日評価した。拒絶時は、心収縮を触知できる最後の日として定義され、そしてそれは開腹手術後に確認された。
【0102】
免疫抑制剤
ジスルフィド架橋を通して連結されたα1二量体をPBS中で150μg/mlの最終濃度まで希釈し、そしてそれを皮下投与した。FK506(タクロリムス)処置群には5mg/kgのFK506が1日1回経口投与された。ナイーブ対照マウスはPBSのみを受けた。
【0103】
実験計画
・1群 ナイーブ対照 N=6
処置前にPBSを皮下投与し、その後、1週間に1回
・2群 HLA−Gの低用量 N=6
処置前に15μg/マウスを皮下投与し、その後、1週間に1回
・3群 HLA−Gの低用量 N=3
処置日に15μg/マウスを皮下投与し、その後、隔日に
・4群 HLA−Gの低用量 N=3
処置の24時間前、処置日に、15μg/マウスを皮下投与し、その後、隔日に
・5群 FK506 N=6
処置日に5mg/kgのFK506を経口投与、その後、手術から14日目まで1日1回
・6群 HLA−Gの中用量 N=6
処置前に30μg/マウスを皮下投与し、その後、1週間に1回
・7群 HLA−Gの高用量 N=6
処置前に60μg/マウスを皮下投与し、その後、1週間に1回
【0104】
統計分析
心同種移植片生着データの統計分析を、SPSSソフトウェア(バージョン13.0)でカプラン・マイヤー生存分析(KMSA)[対比較(ログランク)]を使用することによって実施した。結果はp<0.05で有意と判断された。
【0105】
5.2 結果
心移植片生着データを、以下の図4及び表1に要約する。
【0106】
これらの結果は、α1二量体が、用量に関連した様式で、マウス同種移植片生着期間を有意に延長することを示す。処置は長時間持続性である。なぜなら、週1回の注射が移植片生着を維持するからである。さらに、移植片拒絶はα1による処置から11日後にようやく始まり、これはリファレンス化合物であるタクロリムスを用いての処置よりも優れている。
【0107】
それ故、これらの結果は明瞭に、心移植片拒絶の予防における本発明のα1多量体の効力を示す。
【0108】
【表1】

【0109】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLA−G抗原の少なくとも2つのα1ポリペプチドを含む多量体であって、前記の少なくとも2つのα1ポリペプチドの各々は、HLA−G抗原のα1ドメインのアミノ酸配列又はその機能的フラグメントを含み、そして他の機能的HLA−Gドメインを本質的に欠失している、前記多量体。
【請求項2】
前記の少なくとも2つのα1ポリペプチドがジスルフィド架橋を通して連結されている、請求項1記載の多量体。
【請求項3】
前記の少なくとも2つのα1ポリペプチドが担体又はスペーサー基を通して連結されている、請求項1記載の多量体。
【請求項4】
少なくとも3つのα1ポリペプチド、好ましくは少なくとも4、5、6又は7つのα1ポリペプチドを含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の多量体。
【請求項5】
前記のα1ポリペプチドが、HLA−G抗原のα1ドメインのアミノ酸配列又はその機能的フラグメントを含み、そしてHLA−G抗原の機能的α2、α3、TM及び細胞質ドメインを欠失している、請求項1〜4のいずれか1項記載の多量体。
【請求項6】
前記のα1ポリペプチドが、成熟HLA−G抗原のアミノ酸1〜90、又は少なくとも50アミノ酸を含むその機能的フラグメントから本質的になる、請求項1〜5のいずれか1項記載の多量体。
【請求項7】
前記のα1ポリペプチドが、配列番号1のポリペプチド、又は配列番号1の少なくとも50連続したアミノ酸を含むその機能的フラグメントである、請求項1〜6のいずれか1項記載の多量体。
【請求項8】
前記担体が、ヒト血清アルブミンなどのポリペプチド又はビーズである、請求項3記載の多量体。
【請求項9】
α1ポリペプチドの二量体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の多量体を産生する方法であって、前記方法が、その多量体化を可能とする条件下においてα1ポリペプチドを混合すること、および多量体を回収することを含む、方法。
【請求項11】
前記ポリペプチドを、担体、好ましくはマイクロビーズ又はヒト血清アルブミンの存在下において混合し、そして多量体を分離する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
担体が、α1ポリペプチドに結合する親和性試薬でコーティングされたマイクロビーズである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか1項記載の多量体又は請求項10〜12のいずれか1項記載の方法によって得ることのできる多量体を含む薬学的組成物。
【請求項14】
臓器又は組織の拒絶を処置するための請求項13記載の薬学的組成物。
【請求項15】
炎症疾患又は自己免疫疾患を処置するための請求項13記載の薬学的組成物。
【請求項16】
配列番号1のポリペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−530106(P2012−530106A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515481(P2012−515481)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058490
【国際公開番号】WO2010/146094
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(511110577)エイチエルエイ−ジー・テクノロジーズ (3)
【氏名又は名称原語表記】HLA−G TECHNOLOGIES
【Fターム(参考)】