説明

He−Neガスレーザ装置

【課題】簡易な構成でレーザ管からのHeガスの透過・散逸を防止する。
【解決手段】ガラスで構成されたレーザ管にHe−Neガスが封入されてなる発振器を有するHe−Neガスレーザ装置において、発振器(リングレーザ発振器)10をHeガス非透過性の気密筐体61に収納し、気密筐体61内部の発振器10を取り囲む空間にレーザ管(ブロック11内の通路12)に封入されたHe−NeガスのHe分圧と等しい分圧を有するHeガスを成分に持つ混合気体を充填する。Heガスの透過自体が発生しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はガラスで構成されたレーザ管にHe−Neガス(ヘリウム−ネオンガス)が封入されてなる発振器を有するHe−Neガスレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
He−Neガスレーザ装置においてはHeガスの物質透過性が高いため、He−Neガスを封入するレーザ管構成部品の各接合部を十分気密に作製しても、経時的にHe−Neガス中のHeガスがレーザ管を構成するガラス材料自体を徐々に透過して外部に散逸するため、発振器の性能が低下し、長寿命を実現することができないといった欠点がある。
【0003】
図2はこのような発振器の一例として、リングレーザジャイロのリングレーザ発振器の構成を示したものである。この例ではレーザ管はガラス製のブロック11内に三角形の通路12が形成されて構成されており、三角形の各頂点にミラー13〜15がそれぞれ配置され、これらミラー13〜15により三角形のリング状光路が構成されている。ブロック11にはレーザ光を発振させるためのアノード16,17及びカソード18が取り付けられている。
【0004】
このリングレーザ発振器10では温度要因等によるリング状光路の光路長変化を補償して一定に維持するためにミラーアクチュエータ20を備えており、3つのミラー13〜15のうち、ミラー14はミラーアクチュエータ20に保持されて可動ミラーとされている。
【0005】
図3はミラーアクチュエータ20の構成を示したものであり、ミラーアクチュエータ20は圧電アクチュエータ21と可動ミラー14を保持したミラー保持体22とがねじ23で連結一体化されて構成されている。図3中、24はスペーサを示し、25はミラー保持体22に保持されたナットを示す。
【0006】
ミラー保持体22は円筒状固定部22aとその軸心位置に位置する柱状可動部22bとがダイアフラム22cを介して連結一体化された構造とされ、ガラス製とされる。柱状可動部22bには可動ミラー14が配置されている。
【0007】
圧電アクチュエータ21は2枚の円板状圧電素子21a,21bを円板状電極21cを介して重ね、さらに2枚の円板状圧電素子21a,21bの外側にそれぞれリング状電極21d,21eを重ねて接合一体化することによって構成されており、電極21cと電極21d,21eとの間に直流電圧を印加すると、圧電素子21a,21bの中心部が法線方向に変位し、これにより可動ミラー14が変位して図2におけるリング状光路の光路長が制御されるものとなっている。
【0008】
上記のような構成を有するリングレーザ発振器10においては、レーザ管を構成するブロック11の構成材料には例えば熱膨張係数が小さく、かつHeガスの非透過性も優れたガラスであるゼロデュア(登録商標)が用いられ、ミラー保持体22の構成材料にも同様にゼロデュアが用いられる。
【0009】
しかるに、ブロック11は図2に示す通り、比較的厚みがあるため、Heガスの非透過性に優れたゼロデュアを構成材料として用いることによりHeガスの透過を抑えることができるものの、ミラー保持体22にはガラスの薄肉部であるダイアフラム22cがあり、このダイアフラム22cはブロック11の内部空間(通路12)と外部との境界で封止機能を兼ねているため、ダイアフラム22cをゼロデュアで構成したとしても、このダイアフラム22cをHeガスが図2及び3中に矢印Aで示したように透過して散逸することを抑えることはできない。
【0010】
さらに、リングレーザジャイロの小型化を図る場合、ダイアフラム22cもさらに薄くする必要があり、Heガスの透過・散逸に対する対策が必要になる。
【0011】
一方、一般的なガスレーザの分野においてはレーザ管からのガスの漏出に対し、減圧した分のガスを補給することが行われている。図4はそのようなガスを補給する手段を備えた特許文献1に記載されているガスレーザ装置の構成を示したものであり、図5は特許文献2に記載されているレーザ発振器の構成を示したものである。
【0012】
図4ではHeガスが封入された密閉容器31と、密閉容器31内より圧力が高いHeガスが封入された容器(補給容器)32とが石英ガラス製のHe透過壁33を介して接続されており、He透過壁33を電熱線34で加熱してHeガスの透過量を増大させることによりHeガスを容器32から密閉容器31に補給するものとなっている。
【0013】
電熱線34への電流は密閉容器31内の抵抗線35の抵抗値と、Heガスが封入された基準抵抗管36内に設けられた抵抗線37の抵抗値とを抵抗比較器38で比較し、その抵抗比較器38の出力を増幅器39で増幅することによって生成される。
【0014】
即ち、密閉容器31内のHeガスが漏出し、ガス圧が低下すると、抵抗線35の温度が上昇してその抵抗値が増大することにより抵抗比較器38から出力が送出され、これにより電熱線34に電流が流れるものとなっている。Heガスが容器32から密閉容器31に補給され、そのガス圧が増大すると、抵抗比較器38の出力は消滅し、電熱線34への電流が遮断され、これにより密閉容器31内のHeガス圧をほぼ一定値に保持することができるものとなっている。
【0015】
図5に示したレーザ発振器は発振器本体41の周囲に外箱42を設け、外箱42と発振器本体41間の空間43を発振器本体41内部のガス圧より低圧として、発振器本体41内への外気の侵入を防止し、かつ発振器本体41内からのガス44の漏出によるガス圧の低下を防止することができるようにしたものである。
【0016】
発振器本体41内のガス圧低下を圧力検知器45で検知すると、電磁弁46を操作してガスボンベ47からガスを発振器本体41内に注入し、発振器本体41内のガス圧を一定に保つものとなっている。図5中、48は放電管を示す。部分透過鏡49と全反射鏡51間で増幅されたレーザ光は部分透過鏡49からウインドウ52を通って放出されるものとなっている。なお、図5中、53は冷却器、54は送風機を示す。また、55は外箱42と発振器本体41間の空間43の圧力を検知する圧力検知器を示し、56は空間43のガスを外部に排出する排気ポンプを示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開昭51−44491号公報
【特許文献2】特開昭59−213186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述したように、レーザ管からのガスの漏出に対し、ガスを補給することが従来行われており、ガスを補給するために、
(1)レーザ管のガス圧低下を検出する手段
(2)レーザ管へガスを補給する手段
(3)ガスの補給手段を制御する手段
といった3つの手段を備えることが必要であった。
【0019】
(1)の手段は図4では抵抗線35であり、図5では圧力検知器45である。(2)の手段は図4では容器32、He透過壁33、電熱線34であり、図5ではガスボンベ47である。また、(3)の手段は図4では基準抵抗管36、抵抗比較器38であり、図5では電磁弁46である。
【0020】
しかるに、このような(1)〜(3)の手段を具備する構成は、その分構成が複雑となり、また装置が大型化し、装置の小型化を図る上で大きな阻害要因となっていた。
【0021】
この発明の目的はこの問題に鑑み、ガス圧低下を検出する手段やガスを補給・制御する手段を用いることなく、レーザ管からのHeガスの透過・散逸を防止することができるようにしたHe−Neガスレーザ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
請求項1の発明によれば、ガラスで構成されたレーザ管にHe−Neガスが封入されてなる発振器を有するHe−Neガスレーザ装置において、発振器はHeガス非透過性の気密筐体に収納され、気密筐体内部の発振器を取り囲む空間にはレーザ管に封入されたHe−NeガスのHe分圧と等しい圧力を有するHeガスが充填される。
【0023】
請求項2の発明によれば、ガラスで構成されたレーザ管にHe−Neガスが封入されてなる発振器を有するHe−Neガスレーザ装置において、発振器はHeガス非透過性の気密筐体に収納され、気密筐体内部の発振器を取り囲む空間にはレーザ管に封入されたHe−NeガスのHe分圧と等しい分圧を有するHeガスを成分に持つ混合気体が充填される。
【0024】
請求項3の発明では請求項2の発明において、気密筐体内部に充填された混合気体は気密筐体の外部の大気圧と等しい総圧力を有する。
【0025】
請求項4の発明では請求項2又は3の発明において、混合気体はHeガスとNガスとを成分とする混合気体とされる。
【0026】
請求項5の発明では請求項1乃至4の何れかの発明において、発振器はガラスの薄肉部でなるダイアフラムに支持された光路長制御用可動ミラーを具備するリングレーザ発振器とされる。
【発明の効果】
【0027】
この発明では、発振器を気密筐体に収納して、その気密筐体にHeガスを充填し、発振器内外のHeガス圧を等しくする構成を採用したことにより、Heガスの透過自体が発生しないものとしている。よって、この発明によれば、長期に安定して動作するHe−Neガスレーザ装置を実現することができ、He−Neガスレーザ装置の長寿命化を図ることができる。
【0028】
また、Heガスを補給する従来例のように、ガス圧低下を検出する手段やガスを補給・制御する手段はこの発明では不要であり、よって構成の簡易化を図ることができ、その点でHe−Neガスレーザ装置の小型化を図ることが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の一実施例を説明するための図。
【図2】リングレーザジャイロのリングレーザ発振器の構成を示す図。
【図3】図2におけるミラーアクチュエータの構成を示す図。
【図4】ガスレーザ装置の従来構成の一例を示す図。
【図5】ガスレーザ装置(レーザ発振器)の従来構成の他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
この発明の実施形態を図面を参照して実施例により説明する。
【0031】
図1はリングレーザジャイロのリングレーザ発振器に、この発明を適用した実施例を示したものである。リングレーザ発振器10の構成は図2に示したリングレーザ発振器10の構成と同じであり、その詳細な説明は省略する。
【0032】
この例ではリングレーザ発振器10はHeガス非透過性の気密筐体61に収納され、気密筐体61内部のリングレーザ発振器10を取り囲む空間にはHeガスとNガス(窒素ガス)とを成分とする混合気体が充填される。混合気体中のHeガスの分圧はリングレーザ発振器10においてブロック11内に三角形の通路12として構成されているレーザ管に封入されているHe−NeガスのHe分圧と等しくされ、これによりこの例ではブロック11やミラーアクチュエータ20のミラー保持体22(図3参照)を構成するガラスをHeガスが透過する現象自体が発生しないようにしている。
【0033】
Heガスの透過は通常の漏れのようにレーザ管構成部品の接合部に隙間があることにより発生するわけではなく、ガラス材料自体をHeガスが透過するものであり、Heガス以外の他の気体は透過できない。そのため、Heガスの透過に関係するのは全体のガス圧ではなく、その中のHeの分圧である。そこで、リングレーザ発振器10内部のHe分圧と、リングレーザ発振器10の外部である気密筐体61内部のHe分圧とを等しくすることにより、Heガスとしては圧力差が無くなるため、Heガスの透過は発生しないものとなる。
【0034】
気密筐体61はステンレス等の金属製とされ、気密筐体61内部に充填されるHeガスとNガスとよりなる混合気体の総圧力はこの例では気密筐体61の外部の大気圧と等しくされる。
【0035】
気密筐体61内部への混合気体の充填は気密筐体61内部を一旦真空にし、その後、所定の分圧となるまでHeガスを充填し、その後、大気圧となるまでNガスを充填すればよい。気密筐体61にはこのためにフランジ付配管62が溶接されて取り付けられている。
【0036】
フランジ付配管62はこの例では配管コネクタ63によりNボンベ64、Heボンベ65及び真空ポンプ66が接続された配管67と接続されている。図1中、71〜73はバルブを示し、74は圧力計を示す。フランジ付配管62は気密筐体61内部への混合気体の充填が完了した後、封じ切られる。
【0037】
フランジ付配管62の封じ切りは工具を用い、配管を圧着する(押しつぶす)ことによって行われる。図1は配管が封じ切られた状態を示しており、封じ切り部62aは封じ切り後、二点鎖線で示したように切断されて不要部分が分離除去される。なお、気密筐体61には上述したフランジ付配管62に加え、気密コネクタ75,76の一方が溶接されて取り付けられている。リングレーザジャイロに対する電源の供給、信号の入出力は図1では詳細な接続の図示を省略しているが、この気密コネクタ75,76を介して行われる。
【0038】
以上説明したように、この例によれば従来のようにHeガスの漏出に対し、Heガスを補給するのではなく、リングレーザ発振器内部とリングレーザ発振器外部である気密筐体内部のHe分圧を等しくすることで、リングレーザ発振器からのHeガスの透過自体が発生しないようにしている。
【0039】
つまり、この例ではガス圧の平衡状態を利用して常時、自動的にリングレーザ発振器内部のHeガス圧が維持されるように構成されており、従来、ガスを補給するために必要であったガス圧低下を検出する手段やガスを補給・制御する手段は一切不要となる。よって、小型化を図ることが可能となり、小型でHeガスが透過・散逸することなく、安定して長寿命に動作するリングレーザ発振器を実現することができる。
【0040】
また、従来のリングレーザ発振器においてはレーザ管を構成するブロックに、Heガスの非透過性に優れた高価なガラスであるゼロデュアを用いていたが、ゼロデュアに替え、例えばパイレックス(登録商標)のようなHeガスの透過性が比較的高い安価なガラスを用いても、安定して長寿命に動作するリングレーザ発振器を実現することができる。
【0041】
なお、この例ではHeガスとNガスとを成分とする混合気体を気密筐体内に充填しているが、例えばリングレーザ発振器に封入されているHe−NeガスのHe分圧と等しい圧力を有するHeガスのみを充填するようにしてもよく、この場合においても同様にレーザ発振器からのHeガスの透過・散逸を防止することができる。
【0042】
但し、上述した例のように、気密筐体内に混合気体を充填し、混合気体の総圧力を気密筐体外部の大気圧と等しくすれば、気密筐体の強度等に対する特別な配慮は不要となり、その点で気密筐体の作製が容易となる。
【0043】
以上、リングレーザジャイロのリングレーザ発振器を例にこの発明の実施例を説明したが、この発明はガラスで構成されたレーザ管にHe−Neガスが封入されてなる発振器を有する各種He−Neガスレーザ装置に適用することができる。
【0044】
なお、このようなHe−Neガスレーザ装置において、レーザ管構成部品の各接合部を十分気密に作製しても、Heガスがレーザ管を構成するガラス材料自体を透過して散逸することを解決課題としているのであって、つまりレーザ管構成部品の各接合部は十分気密に作製されなければならず、気密筐体内に例えばHeガスとNガスとを成分とする混合気体を充填したとしてもNガスがレーザ管内に侵入することはない。
【符号の説明】
【0045】
10 リングレーザ発振器 11 ブロック
12 通路 14 可動ミラー
20 ミラーアクチュエータ 22 ミラー保持体
22c ダイアフラム 61 気密筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスで構成されたレーザ管にHe−Neガスが封入されてなる発振器を有するHe−Neガスレーザ装置において、
前記発振器はHeガス非透過性の気密筐体に収納され、
前記気密筐体内部の前記発振器を取り囲む空間には前記レーザ管に封入されたHe−NeガスのHe分圧と等しい圧力を有するHeガスが充填されていることを特徴とするHe−Neガスレーザ装置。
【請求項2】
ガラスで構成されたレーザ管にHe−Neガスが封入されてなる発振器を有するHe−Neガスレーザ装置において、
前記発振器はHeガス非透過性の気密筐体に収納され、
前記気密筐体内部の前記発振器を取り囲む空間には前記レーザ管に封入されたHe−NeガスのHe分圧と等しい分圧を有するHeガスを成分に持つ混合気体が充填されていることを特徴とするHe−Neガスレーザ装置。
【請求項3】
請求項2記載のHe−Neガスレーザ装置において、
前記気密筐体内部に充填された前記混合気体は前記気密筐体の外部の大気圧と等しい総圧力を有することを特徴とするHe−Neガスレーザ装置。
【請求項4】
請求項2又は3記載のHe−Neガスレーザ装置において、
前記混合気体はHeガスとNガスとを成分とする混合気体であることを特徴とするHe−Neガスレーザ装置。
【請求項5】
請求項1乃至4記載の何れかのHe−Neガスレーザ装置において、
前記発振器はガラスの薄肉部でなるダイアフラムに支持された光路長制御用可動ミラーを具備するリングレーザ発振器であることを特徴とするHe−Neガスレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−233723(P2011−233723A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102928(P2010−102928)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】