説明

IT資産構成管理システム

【課題】IT資産の管理において、既存ソフトウェアに係る既知の依存関係にとどまらず、ソフトウェアの変更、新規開発または新規導入によって他のソフトウェアが受ける影響を予め把握すること、及び、ソフトウェアの変更の履歴を管理して正しい仕様を把握することを容易化する。
【解決手段】コンピュータシステムと、その仕様と、コンピュータシステムにおいて動作しているソフトウェアと、ソフトウェアによって入力または出力されるデータと、ソフトウェアとデータとの依存関係をデータベースシステムに保持し、データベースの検索によって依存関係を明らかにする。また、ソフトウェアのドキュメント類を履歴管理し、バージョン間の差分を検索できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アプリケーションソフトウェアを含むIT資産の仕様、依存関係及び構成を管理する、IT資産構成管理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
IT資産は、数が多く、またハードウェアとソフトウェア、ソフトウェア同士の組み合わせに依存関係があるため、管理が困難であった。ソフトウェアについては依存関係が複雑であり、管理が特に困難であった。
【0003】
IT資産の管理を容易化するための技術として、特許文献1、特許文献2及び特許文献3には、ソフトウェアの依存関係をシステムが管理し、依存関係を充足するようにソフトウェアを変更する技術が各種開示されている。これらの技術によれば、ソフトウェアの変更に当たって、依存関係の管理の一部をシステムに任せることができ、システムが管理している範囲については、依存関係を充足しなくなってしまうような変更を予防することが可能である。しかし、これらの従来技術はいずれも、既存ソフトウェアについての管理であり、依存関係がいかなるものであるかが既知であることを前提としていた。ソフトウェアを変更、新規開発または新規導入しようとする場合に、変更、新規開発または新規導入しようとするソフトウェアにもたらされる依存関係の管理を行うことができず、したがって、当該変更、新規開発または新規導入によって他のソフトウェアが受ける影響を把握することもできなかった。
【0004】
さらに、依存関係を管理する技術によっては、開発過程において変更が加えられてきたソフトウェアについて、その変更の履歴を管理して正しい仕様を把握することも困難であった。変更が加えられたソフトウェアの変更前のバージョンと変更後のバージョンとの間には原則として依存関係がないからである。
【特許文献1】特開2004−158012号公報
【特許文献2】特開2006−178881号公報
【特許文献3】特開2008−186147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、IT資産の管理において、既存のソフトウェアを変更、新規開発または新規導入しようとする場合に、その変更、新規開発または新規導入によって他のソフトウェアが受ける影響を予め把握することが容易でないという問題を解決しようとするものである。合わせて、開発過程において変更が加えられてきたソフトウェアについて、その変更の履歴を管理して正しい仕様を把握することが困難であるという問題を解決しようとするものである。
本発明によれば、ソフトウェアの変更、新規開発または新規導入の要件、範囲等を厳密に設定することができるが、本発明は、さらに、範囲の設定を通じて、企業が行う新規開発を承認する稟議等において決済権者が必ずしも明確でないという問題をも解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に述べる構成により、ソフトウェアの変更、新規開発または新規導入によって他のソフトウェアが受ける影響を予め把握すること、及び、ソフトウェアの変更の履歴を管理して正しい仕様を把握することを容易化する。
【0007】
本発明のIT資産構成管理システムは、2またはそれ以上のコンピュータシステムと、前記コンピュータシステムの仕様と、前記コンピュータシステムにおいて動作しているソフトウェアと、前記ソフトウェアによって入力または出力されるデータとに関する情報を項目として含むIT資産構成情報をデータベースシステムに保持し、前記データベースシステムはソフトウェアをキーとして前記IT資産構成情報の検索を行い得ることを特徴とする。
【0008】
前記IT資産構成情報は、ソフトウェアを開発した際に作成されたドキュメント類を含み、前記ドキュメント類は履歴管理されることを特徴とすることができる。
【0009】
前記IT資産構成情報は前記ソフトウェアのバージョン情報を含み、前記ドキュメント類の履歴は前記バージョン情報と関連付けられ、前記データベースシステムは前記ドキュメント類の中から1のコンピュータシステムにおいて動作しているソフトウェアのバージョンと他のコンピュータシステムにおいて動作しているそのソフトウェアのバージョンとの差異を記載した部分を検索することができることを特徴とすることができる。
【0010】
前記IT資産管理情報はソフトウェアとデータとの依存関係を項目として含み、前記データベースシステムは、1のソフトウェアをキーとし、当該ソフトウェアと依存関係のあるデータと依存関係のある他のソフトウェアの検索を行い得ることを特徴とすることができる。
【0011】
本発明は、以下に述べる構成により、企業が行う新規開発を承認する稟議等において決済権者を明確にする。
【0012】
本発明のIT資産構成管理システムは、前記IT資産構成情報に含まれる項目の全部または一部であるアクセス管理項目にアクセス可能者と責任者が設定され、前記責任者の承認を受けた前記アクセス可能者によってのみ前記アクセス管理項目の追加、削除または修正が行い得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のIT資産構成管理システムは、1のソフトウェアをキーとしてIT資産構成情報の検索を行うことが可能であり、この検索の結果によりソフトウェア変更の影響範囲の把握が容易化されるという効果がある。
また、履歴管理され、ソフトウェアのバージョンと関連付けられたドキュメント類の検索を行うことが可能であり、ソフトウェア変更の影響範囲の把握に必要な情報を容易に入手できるという効果がある。
さらに、本発明のIT資産構成管理システムは、ソフトウェアとデータとの依存関係をIT資産管理情報の項目として含むことができる。これを利用して、1のソフトウェアとデータを通じて依存関係を持つ可能性のある他のソフトウェアを検索することができ、検討対象となる他のソフトウェアを絞り込んでソフトウェア変更の影響範囲の把握を容易化するという効果がある。
【0014】
本発明のIT資産構成管理システムは、IT資産構成情報に含まれる項目の全部または一部であるアクセス管理項目にアクセス可能者と責任者が設定されているため、企業が行う新規開発を承認する稟議等において決済権者を責任者として設定して明確化するという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(用語の定義)
実施例の説明に先立ち、共通に用いられる用語について、明確化する。
【0016】
「コンピュータシステム」とは、プログラムを動作させることができる機器を言う。例えば、1台のパーソナルコンピュータがコンピュータシステムに該当する。コンピュータシステム同士をネットワーク経由で接続した場合、サーバとして動作するコンピュータシステムとクライアントとして動作するコンピュータシステムとがあるが、サーバとして動作するものもクライアントとして動作するものも、コンピュータシステムである。
【0017】
「ソフトウェア」とは、所定の処理を行うために用いる1または2以上のプログラムを言う。所定の処理を行うために必要なプログラムの全体が1つのソフトウェアである。1つのソフトウェアは、1つのコンピュータシステムにおいて動作する1つのプログラム、1つのコンピュータシステムにおいて動作する2以上のプログラム、2以上のコンピュータシステムにおいて動作する同一のプログラム、又は、2以上のコンピュータシステムにおいて動作する異なる(2以上の)プログラムのいずれの形態をとることもある。
【0018】
「データベース」とは、項目を関連付けて保存し、項目を検索可能なプログラム及びデータである。
なお、「データベース」は、項目を関連付けて保存し、項目を検索可能であればよく、必ずしもいわゆるデータベースソフトウェアでなくともよい。
【0019】
「ドキュメント類」とは、ソフトウェアについての説明資料であって、データベースに保持可能なものをいう。例えば、機械可読形式のマニュアル、ソフトウェアのヘルプファイルがドキュメント類に該当する。
【0020】
「履歴管理」とは、ドキュメント類に修正(内容の追加、削除及び変更をいう)が加えられる毎に、修正前のドキュメント類、修正後のドキュメント類及び修正前と修正後との差異のいずれについても出力が可能であるような形態でドキュメント類を保持することをいう。例えば、修正前のドキュメント類と修正後のドキュメント類とを保持し、両ドキュメントの差異を求めるプログラムを持つことが履歴管理に該当する。
【0021】
「依存関係」とは、ソフトウェアとデータとの関係又は2つのソフトウェア相互の関係であって、一方の変更が他方に影響を与え得る関係をいう。ここで「影響を与える」とは「変更を必要にする」ことをいう。例えば、ソフトウェアとデータとの関係においてソフトウェアがデータを入出力する関係、2つのソフトウェア相互の関係において一方が他方の持つ機能をサブルーチンとして利用する場合及びサブルーチンとしては利用しないが同一であるべき処理が2つのソフトウェアに実装されている場合が、依存関係に該当する。
なお、「影響を与え得る関係」であり、「影響を与える関係」ではない。実際に影響を与えるか否かは、変更の具体的内容に依存するものでありすべての場合について予め確定することはできないためである。
【0022】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0023】
(基本の設定)
X社は、世界的に営業活動を展開する会社である。X社は、東京、ニューヨーク及びパリに拠点を有し、各拠点には、図1に示されるコンピュータシステムが設置されている。
【0024】
東京拠点2では、サーバとして動作するコンピュータシステムCS01において、ソフトウェアA2、B1及びC1が動作している。CS01にはクライアントとして動作するコンピュータシステムCS02、CS03及びCS04が接続され、これらのクライアントにおいてソフトウェアA2が動作している。ソフトウェアA2は、サーバ及びクライアントにおいて動作するプログラムの全体からなるソフトウェアであり、ソフトウェアB及びCは、サーバのみにおいて動作するプログラムからなる。
【0025】
ニューヨーク拠点3では、サーバとして動作するコンピュータシステムCS04において、ソフトウェアA2Eが動作している。CS04にはクライアントとして動作するコンピュータシステムCS05及びCS06が接続され、これらのクライアントにおいてソフトウェアA2Eが動作している。ソフトウェアA2Eは、サーバ及びクライアントにおいて動作するプログラムの全体からなるソフトウェアであり、東京拠点において動作するソフトウェアA2に対して英語のローカライゼーションを加えたものである。
【0026】
パリ拠点4では、サーバとして動作するコンピュータシステムCS07において、ソフトウェアA2Fが動作している。CS07にはクライアントとして動作するコンピュータシステムCS08及びCS09が接続され、これらのクライアントにおいてソフトウェアA2Fが動作している。ソフトウェアA2Fは、サーバ及びクライアントにおいて動作するプログラムの全体からなるソフトウェアであり、東京拠点において動作するソフトウェアA2に対してフランス語のローカライゼーションを加えたものである。
【0027】
なお、ここで、ソフトウェアについては、その名称をアルファベット1文字で、機能バージョンを数字1文字で、機能バージョン内のローカライゼーションがある場合にはそれをアルファベット1文字で表わし、これらを結合して示す。例えば「A2」はソフトウェア「A」の機能バージョン「2」を示し、「A2E」はソフトウェア「A」の機能バージョン「2」にローカライゼーション「E」(英語)を加えたものを示す。また、「バージョン」とは、ローカライゼーションのない機能バージョン、及び、機能バージョンとローカライゼーションを結合したもの、例えば「2」及び「2E」をいう。
【0028】
X社は、本社である東京拠点のサーバCS01においてIT資産構成管理システムを動作させている。拠点間ネットワーク1を通じて、各拠点からIT資産構成管理システムにアクセスすることができる。IT資産構成管理システムには、IT資産構成情報として、以下のデータが保持されている。
【0029】
【表1】

表1は、IT資産構成管理システムのデータベースに含まれるコンピュータシステムの情報をまとめたものである。コンピュータシステム毎に、その名称、配置されている拠点、そのシステムがサーバであるかクライアントであるかの区別、そのコンピュータシステムがクライアントである場合には接続するサーバ、そのコンピュータシステムがサーバである場合には接続するクライアント、そのコンピュータシステムの仕様としてのCPU、メモリ並びにOS、及び、そのコンピュータシステムにおいて動作するソフトウェアに関する情報が、データベースに保持される。
【0030】
【表2】

表2は、IT資産構成管理システムのデータベースに含まれるソフトウェアの情報をまとめたものである。ソフトウェアのバージョン毎に、依存関係にあるソフトウェア、依存関係にあるデータ、及び、そのアプリケーションソフトウェアの動作のためにコンピュータシステムに要求される仕様としてのCPU、メモリ並びにOSに関する情報が、データベースに保持される。
ソフトウェアC1は、ソフトウェアA2の機能の一部をサブルーチンとして利用している。
ソフトウェアA2はデータJを出力し、ソフトウェアB1はデータJを入力する。
【0031】
【表3】


表3は、IT資産構成管理システムのデータベースに含まれるドキュメント類の情報をまとめたものである。ソフトウェアのバージョン毎に、そのコンテンツが保持されている。
【0032】
【表4】

表4は、IT資産構成管理システムのデータベースに含まれるアクセス管理の情報をまとめたものである。対象項目毎に、責任者とアクセス可能者に関する情報が、データベースに保持され得る。
ITシステムに関するX社の規則では、2以上の拠点をまたがるソフトウェアの変更または新規導入については東京拠点のCIOの承認を必要とし、1拠点のみに関するシステムの変更または新規導入は各拠点のIT責任者の承認で行うことができるとされている。この規則に従い、ソフトウェアごとに責任者が指定されている。なお、ソフトウェアA2について、A2は東京拠点のみに導入されているが、A2の変更はA2E及びA2Fをも変更することとなり3拠点にまたがるので、CIOが責任者となっている。

また、アクセス可能者は、変更、新規開発または新規導入の必要の都度設定するものであり、通常は設定されていない。
【0033】
(ドキュメント類の履歴管理)
X社は、ソフトウェアA1を東京拠点において使用していた。その後、A1に拡張機能を追加したバージョンA2を開発し、A2をニューヨーク拠点及びパリ拠点においても使用することとした。ニューヨーク拠点及びパリ拠点における使用のためにA2を英語及びフランス語にローカライズしたA2E及びA2Fを開発した。また、X社は東京拠点のみにおいて、ソフトウェアB1及びC1を使用している。以上が、表2に示されるソフトウェアである。
【0034】
【表5】

表5は、IT資産構成管理システムのデータベースに含まれるドキュメント類の差分情報をまとめたものである。バージョンのみの違いであるソフトウェアの組み合わせについての一部について、ドキュメント類の差分(旧バージョンから新バージョンへの変更事項)に係る情報が保存されている。
X社は、ソフトウェアA1のドキュメント類をIT資産構成管理システムのデータベースに保持していた。A2の開発後、A2のドキュメント類をデータベースに追加した。その際、IT資産構成管理システムは、A2のドキュメント類について、データベース内に同じ名称のアプリケーションソフトウェア(A)の別のバージョン(A1)のドキュメント類が保持されていることを検出し、これら2つのバージョンのドキュメント類の差分を求めて、表5に示すようにデータベースに保存した。具体的には、A1からA2への差分として、拡張機能のマニュアルが追加されたこと及びヘルプファイルが変更されたことが差分データとして保存された。
【0035】
さらに、X社はA2E及びA2Fのドキュメント類をデータベースに追加した。その際、IT資産構成管理システムは、A2Eのドキュメント類について、データベース内に同じ名称のアプリケーションソフトウェア(A)の別のバージョン(A2)のドキュメント類が保持されていることを検出し、これら2つのバージョンのドキュメント類の差分を求めて、表5に示すようにデータベースに保存した。具体的には、A2からA2Eへの差分として、ヘルプファイル(日本語)が削除されヘルプファイル(英語)が追加されたことが差分データとして保存された。同様に、A2からA2Fへの差分として、ヘルプファイル(日本語)が削除されヘルプファイル(フランス語)が追加されたことが差分データとして保存された。
【0036】
(変更の提案と承認)
X社の東京拠点の社員がソフトウェアA2の機能変更を企画し、東京拠点のIT責任者に提案した。東京拠点のIT責任者は、IT資産構成管理システムのデータベースにアクセスし、A2の責任者が東京拠点のIT責任者自身でなくCIOであることを確認した。東京拠点のIT責任者はこの旨を社員に告げ、社員は改めてCIOに提案した。この提案にはA2のみの変更についてその見積金額が記載されていた。
【0037】
社員からの提案を受けたCIOは、ソフトウェアA2の変更の影響を把握するために、IT資産構成管理システムのデータベースにアクセスした。IT資産構成管理システムが影響可能性範囲を求める手順は、図2に示すとおりである。以下、図2を参照しつつ影響可能性範囲を求める手順について説明する。
【0038】
CIOは、ソフトウェアの指定のステップ11において、ソフトウェアA2を指定する。この指定により、「ソフトウェアA2を変更する場合の影響可能性範囲の特定」がIT資産構成管理システムに指示されることとなる。
IT資産構成管理システムは、ステップ12において、表2に示すデータに基づいて、A2E、A2F及びC1がA2と依存関係あることを検出し、これらのソフトウェアを影響可能性範囲に追加する。
表2に示す通り、ソフトウェアA2には依存関係にあるデータJが存在するので、IT資産構成管理システムは、ステップ13のループ処理を開始する。IT資産構成管理システムは、ステップ14において、「データJと依存関係にあるA2以外のソフトウェア」を検索する。この検索は、表2に示すデータに基づいて実行され、ソフトウェアB1が検索される。ステップ15において、検索の結果としてのA1、A2E、A2F及びB1が影響可能性範囲に追加される。
ソフトウェアA2にはデータJ以外の依存関係にあるデータは存在しないので、ステップ16においてループを抜ける。IT資産構成管理システムは、ステップ17において、影響可能性範囲として、ソフトウェアA1、A2E、A2F、B1及びC1を出力する。
【0039】
CIOは、社員からの提案にはソフトウェアA2の変更のみについて見積金額が記載されていたため、A2E、A2F、B1、C1についても変更が必要となる可能性を指摘して、社員に再検討を指示した。
【0040】
社員が再検討したところ、提案されたA2の変更は、データJの処理及びC1が利用する機能については一切変更がなく、B1及びC1についての変更を必要としないことが判明した。
社員は、A2E及びA2Fについての変更必要範囲を再検討するため、コンピュータシステムCS01において動作しているソフトウェアAのバージョンと他のコンピュータシステムにおいて動作しているそのソフトウェアAのバージョンとの差異を記載した部分をIT資産構成管理システムで検索した。その結果、ドキュメント類の差異として、上述のヘルプファイルの差異のみが検索された。
上記検索結果には機能に係るマニュアルの差分が含まれないことより、A2E及びA2FはA2にローカライゼーションを加えたものであって機能的な差異はないこと、開発作業としては変更後のA2及びヘルプファイルに対するローカライゼーションのみであることがわかる。
社員は、上記開発作業内容及びその見積金額を提案に加えて、CIOに再提案した。
【0041】
【表6】


CIOは、社員からの再提案を承認し、社員をIT資産構成管理システム上のA2、A2E及びA2Fに係る項目のアクセス可能者として設定した。設定後のアクセス管理は表6のとおりである。なお、A2Eについてはニューヨーク拠点のIT責任者が管理責任者であるが、その上位者であるCIOもアクセス可能者を設定できる。
【0042】
【表7】


【表8】

【表9】


【表10】


(変更の実行)
CIOの承認を得た社員は、ソフトウェアA2を変更したソフトウェアA3及びA3をローカライズしたA3E並びにA3Fの開発を完了し、アクセス可能者としてIT資産構成管理システムのデータベースにA3、A3E及びA3Fの情報を追加した。追加後の情報は、表7、表8、表9及び表10のとおりである。
なお、社員はA3でなくA2に係るアクセス可能者であるが、IT資産構成システムのアクセス管理はソフトウェアの変更を想定しているので、社員はA2を変更した上位バージョンA3についての情報の追加も可能である。
また、社員は、ソフトウェアA3、A3E及びA3Fを表1Aの通りにインストールした。
【0043】
(効果)
本実施例により、以下の効果が得られる。
本実施例において、ソフトウェアAのドキュメント類が履歴管理されバージョン間の差分が検索されるため、A2E及びA2FがA2をローカライズしたものであり機能の拡張が行われていないことが容易に把握できた。IT資産構成管理システムの効果としては、より一般的に、アプリケーションについて動作しているバージョンの正確な仕様及び他のバージョンとの差分が容易に把握できる。
本実施例において、ソフトウェアA2を変更することの影響可能性範囲がIT資産管理システムを用いて容易に把握でき、実際に影響するソフトウェアを把握することが容易になった。この結果、影響される範囲まで正しく変更することができ、そのための費用見積も容易になる。
本実施例において、提案者である東京拠点の社員をアクセス可能者として設定し、他の者にはIT資産構成管理システムのデータベースのA2、A2E及びA2Fに係る情報の変更を認めていない。このため、データベースの情報が正しい状態に保たれ、IT資産の正しい運用を行うことができる。
【実施例2】
【0044】
本実施例は、基本の設定及びドキュメント類の履歴管理については実施例1と同様である。
【0045】
(変更の検討)
実施例1による変更の後、X社の経理部門の社員がソフトウェアA3と類似の機能を持ったソフトウェアDが市販されており、A3をDに置換することで運用経費が抑制され得ることに気づいた。
社員は、A3の機能について詳細に検討するため、ソフトウェアAのドキュメント類の履歴を検索し、A1とA3との差分及びA2とA3との差分を出力した。
この結果、拡張機能が追加され、変更機能に係る変更が行われたことがわかった。
【0046】
市販のソフトウェアDの仕様を調査したところ、変更機能には対応しているが、拡張機能を有していないことがわかった。拡張機能はX社内で頻繁に用いられており、その効果が高いものであった。
社員は、A3を市販ソフトウェアDに置換することが総合的に見て損失であると考え、Dへの置換を行わないこととした。
【0047】
(効果)
本実施例により、以下の効果が得られる。
本実施例において、ソフトウェアAのドキュメント類が履歴管理されバージョン間の差分が検索されるため、A1からA3にわたって行われた機能の拡張及び変更が容易に把握できた。このように、ソフトウェアの置換に際して、絶対的に必要とされる機能を正確に把握できるという効果が得られる。
【実施例3】
【0048】
本実施例も、基本の設定及びドキュメント類の履歴管理については実施例1と同様である。
【0049】
(変更の検討)
パリ拠点がベルリンに支社を構えることとなった。パリ拠点のIT責任者は、ソフトウェアA2のドイツ語へのローカライゼーションが必要であると考えた。
パリ拠点のIT責任者は、A2Fの拡張としてドイツ語へのローカライゼーションを行うこととし、IT資産構成管理システムのデータベースにアクセスし、A2Fの責任者がパリ拠点のIT責任者自身であることを確認した。
【0050】
(変更の実行)
パリ拠点のIT責任者は、自らの責任において、ドイツ語へのローカライゼーションを行ったバージョンA2Gを開発し、IT資産構成管理システムのデータベースにA2Gの情報を追加した。
【0051】
(効果)
本実施例により、以下の効果が得られる。
本実施例において、ソフトウェアA2Fの責任者がパリ拠点のIT責任者であることが容易に把握できた。これにより、拠点等の部門内で処理可能な開発については、部門内で決済することができ、迅速な処理が可能となるという効果が得られる。
【実施例4】
【0052】
本実施例は、基本の設定、ドキュメント類の履歴管理及び変更の提案と承認については原則として実施例1と同様である。IT資産構成管理システムのデータベースのアクセス管理に関する情報を追加して、変更の実行に当たって、安全性を強化するものである。以下、実施例1との相違点について述べる。
【0053】
【表11】


(変更の検討における実施例1との相違点)

CIOは、社員をIT資産構成管理システム上のA2、A2E及びA2Fに係る項目のアクセス可能者として設定するに当たり、合わせてシステムキーを設定する。設定後のアクセス管理は表11のとおりである。

【0054】

(変更の実行における実施例1との相違点)

ソフトウェアA3、A3E及びA3Fの開発に当たり、インストーラも開発されるが、インストーラは、インストール時に入力を求めるシステムキーの値として、(予め定められた固定値でなくて)IT資産構成管理システムのデータベースにアクセスして得られる値を使用するように作成される。
社員は、A3、A3E及びA3Fをインストールする際に、IT資産構成管理システムのデータベースにアクセスしてシステムキーの値を知り、それを入力する。

【0055】

(効果)

本実施例によれば、アクセス可能者とされた社員以外の者はシステムキーの値を知ることができず、インストールをすることができない。アクセス可能者以外の者が誤ってA3をインストールしてしまうことによるシステム運用の事故を防止することができる。

また、A3の開発完了後であってもCIOはシステムキーの値を変更できるので、必要であればアクセス可能者とされた社員によるインストールを事後的に禁止することも可能になる。

【0056】

(実施例の拡張)

本発明の実施形態は上記実施例に限定されるものではなく、上記実施例を拡張した他の実施形態も可能である。以下に、かかる拡張の例を示す。

実施例1において、ソフトウェアA2を変更しているが、これに替えて、新規にソフトウェア(「D1」とする)を開発または導入することとしてもよい。この場合、表2に示されたソフトウェアの情報にD1に係るものを追加し、D1の設計等に基づいて依存関係にあるソフトウェア及び依存関係にあるデータを設定する。これによって、D1の開発または導入の影響可能範囲を特定し、実施例1と同様の効果を得ることができる。

変更の承認において、稟議システムを用いて起案及び決済を行うこととし、稟議システムがIT資産構成管理システムのデータベースを参照し、アクセス可能者による起案のみを処理するようにしてアクセス可能者の設定と稟議を対応させ、誤った稟議が行われることを防止することとしてもよい。

表2に示されたソフトウェアに係る情報として、その開発・運用等に要した費用を保持し、ソフトウェアの費用対効果の測定に活用することとしてもよい。

実施例1において、ソフトウェアの影響可能範囲を特定しているが、これに加えてハードウェアの影響可能範囲を特定してもよい。具体的には、ソフトウェアA3が動作する各コンピュータシステムの仕様が、A3の要求仕様を満たしていない場合を検出することによってハードウェアの影響可能範囲を特定することができる。

【産業上の利用可能性】
【0057】

本発明のIT資産構成管理システムは、IT資産の管理を容易にし、ITガバナンスに資するという利点があるため、IT資産を持つ幅広い産業において利用することが期待される。

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】IT資産全体のシステム構成図である。(実施例1)
【図2】ソフトウェアの影響可能性範囲を特定する処理を示した図である。(実施例1)
【符号の説明】
【0059】
1 拠点間ネットワーク
11 ソフトウェアの指定のステップ
12 依存関係にあるソフトウェアを検索し、影響可能範囲に追加するステップ
14 依存関係にあるデータと依存関係にあるソフトウェアを検索するステップ
15 検索されたソフトウェアを影響可能性範囲に追加するステップ
17 影響可能性範囲を出力するステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2またはそれ以上のコンピュータシステムと、前記コンピュータシステムの仕様と、前記コンピュータシステムにおいて動作しているソフトウェアと、前記ソフトウェアによって入力または出力されるデータとに関する情報を項目として含むIT資産構成情報をデータベースシステムに保持し、前記データベースシステムはソフトウェアをキーとして前記IT資産構成情報の検索を行い得ることを特徴とする、IT資産構成管理システム。
【請求項2】
前記IT資産構成情報はソフトウェアを開発した際に作成されたドキュメント類を含み、前記ドキュメント類は履歴管理されることを特徴とする、請求項1に記載のIT資産構成管理システム。
【請求項3】
前記IT資産構成情報は前記ソフトウェアのバージョン情報を含み、前記ドキュメント類の履歴は前記バージョン情報と関連付けられ、前記データベースシステムは前記ドキュメント類の中から1のコンピュータシステムにおいて動作しているソフトウェアのバージョンと他のコンピュータシステムにおいて動作している同一名称のソフトウェアのバージョンとの差異を記載した部分を検索することができることを特徴とする、請求項2に記載のIT資産構成管理システム。
【請求項4】
前記IT資産管理情報はソフトウェアとデータとの依存関係を項目として含み、前記データベースシステムは、1のソフトウェアをキーとし、当該ソフトウェアと依存関係のあるデータと依存関係のある他のソフトウェアの検索を行い得ることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のIT資産構成管理システム。
【請求項5】
前記IT資産構成情報に含まれる項目の全部または一部であるアクセス管理項目にアクセス可能者と責任者が設定され、前記責任者の承認を受けた前記アクセス可能者によってのみ前記アクセス管理項目の追加、削除または修正が行い得ることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のIT資産構成管理システム。

【図1】
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【図2】
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