説明

IV型コラーゲンの製造方法

【課題】他のタンパク質の混入がなく、かつ分解や変性のないIV型コラーゲン、並びにその製造方法を提供すること。
【解決手段】レンズカプセルから酵素を使用することなく抽出され、かつ還元条件下においてSDS-PAGEで測定した最低分子量が160〜180kDaであることを特徴とする、レンズカプセル由来IV型コラーゲン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内に存在するIV型コラーゲンと同等の分子量、構造及び機能を有しているIV型コラーゲン、及びその製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、酵素を用いることなく動物組織から抽出されたIV型コラーゲン、並びに酵素を用いることなく動物組織からIV型コラーゲンを抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、動物界に最も広く存在するタンパク質で、動物の全タンパク質の1/3以上を占め、動物の皮膚・腱・骨などの結合組織の主要構成成分である。また、動物の体は多数の細胞から構成されているが、コラーゲンは細胞と細胞の間のマトリクスとして、重要な役割を果たしている。
【0003】
現在までに約20種類もの遺伝的に異なるコラーゲンが発見され、その特性や機能に違いがあることが明らかにされている。種類の異なるコラーゲンは、I型、II型などと呼ばれて区別される。コラーゲン分子の中央にはGly-X-Y(式中、X及びYは任意のアミノ酸を示す)の繰り返しからなる共通のコラーゲンらせん領域が存在し、この領域で3本らせん構造を形成していることが知られている。このコラーゲンらせん領域は、その配列が動物種間において高度に保存されていることから免疫原性が低く、生体との適合性に優れているなどの特徴を有している。
【0004】
今日では動物の様々な組織から各種のコラーゲンが抽出製造され、医療、医薬品、生化学、美容、食品などの各分野で広く利用されている。コラーゲンを抽出する原料により、得られるコラーゲンのタイプが異なってくる。例えば、I型コラーゲンは主に皮膚、腱、骨などに多く含まれており、これらを原料として抽出されている。軟骨などからはII型コラーゲン、血管壁などからはIII 型コラーゲンが得られる。基底膜を構成するIV型コラーゲンは胎盤などから得られる。但し、原料によっては、複数のコラーゲンが混在して抽出される場合もある。
【0005】
コラーゲンの抽出方法として、動物の骨、皮などの材料を酵素処理する方法、例えば、これらの材料を希薄酢酸溶液中でペプシンを作用させる方法が知られている。しかしながら、酵素処理抽出法は、非コラーゲンらせん領域が酵素により切断される。また、組織中に存在するコラーゲン以外のタンパク質が組織より溶出することが考えられる。その結果、コラーゲンが分解及び変性すること及びコラーゲン以外のタンパク質が大量に抽出物に含まれるという問題が挙げられる。高純度のコラーゲンを得るためには、適切な組織を原料に用いて他のコラーゲンの混入を可能な限り排除することが必要である。さらに、コラーゲンの持つ本来の性質や機能を得るためには分解及び変性していないコラーゲンが必須である。
【0006】
IV型コラーゲンはN末端にコラーゲン3本鎖らせん構造であるがシステイン残基を多く含む7Sドメインおよび分子C末端に非コラーゲンらせん領域(NC1ドメイン)を有する。N末端に存在する7Sドメインは7Sドメインと相互作用し、4分子重合体を形成することが可能である。また、C末端のNC1は2分子が重合することが可能である。これらのドメインはIV型コラーゲンが分子間で相互作用するため非常に重要な役割を担っている。また、他のコラーゲンと異なりIV型コラーゲンのコラーゲンらせん領域には21箇所のGly-X-Yの乱れを含むことが知られている。これらの分子的特長から機能ドメインであるNC1ドメイン、7Sドメイン及びコラーゲンらせん領域のすべてを有する分子を変性及び分解させることなく抽出ことが非常に重要である。
【0007】
従来、IV型コラーゲンの抽出には主に胎盤が原料として用いられていた。胎盤にはI型コラーゲンやV型コラーゲンなどのIV型コラーゲン以外のコラーゲンが大量に含まれており、純度の高いIV型コラーゲンを抽出するための原料として最適ではない。また、IV型コラーゲンの抽出はSageらの方法(J. Biol. Chem. 254巻19号、p9893-9900、1979)に準拠する場合が多く、それによるとペプシン加水分解によりコラーゲンを可溶化する方法が用いられている。特開平11-171898号公報にIV型コラーゲン高分子画分の単離に関する記述がある。しかしながら、この単離方法もSageらの方法と同様にペプシン加水分解によりIV型コラーゲンを可溶化し、抽出している。これらの方法では、生体内と同様の機能ドメインを有したIV型コラーゲンを抽出することができない。また、コラーゲンはコラーゲンらせん領域の特性によりコラーゲン分子どうしが結合し凝集し易い特性を有しているため、タンパク質の精製に一般的に用いられているカラムを用いた精製が適用されない。そのため、抽出時に混入するコラーゲン以外のタンパク質や他の種類のコラーゲンを除去することが非常に困難であり、高純度IV型コラーゲンは得られていない。
【0008】
【非特許文献1】J. Biol. Chem. 254巻19号、p9893-9900、1979
【特許文献1】特開平11-171898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来採用されていたIV型コラーゲンの製造方法では、材料が最適でないこと、及び酵素を用いて抽出するため他のタンパク質の混入や分解及び変性したIV型コラーゲンが得られるという問題点があった。すなわち、I型及びV型コラーゲンや材料由来のタンパク質の混入やIV型コラーゲンの両末端に存在する非コラーゲンらせん領域が酵素により分解され、生体内に存在するIV型コラーゲンと同様な性質を有することが困難であった。本発明は、他のタンパク質の混入がなく、かつ分解や変性のないIV型コラーゲン、並びにその製造方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、基底膜成分を豊富に含む組織としてレンズカプセルを見出した。レンズカプセルは眼球内に存在するレンズを覆う膜であり、発生学的に水晶体上皮細胞由来の基底膜と考えられる。レンズカプセルは摘出が容易なこと及び基底膜成分を豊富に含んでいることから、生体内に存在する最も優れたIV型コラーゲン抽出材料である。また、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、この基底膜成分を豊富に含むレンズカプセルより酵素を用いることなくIV型コラーゲンを製造する方法を見出した。更に、塩を用いてIV型コラーゲンを分別・濃縮を行なうことにより他のタンパク質や分解物の除去が可能となった。この方法により得られたIV型コラーゲンは高純度で分解及び変性の少ない良質でかつ高濃度IV型コラーゲンであった。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0011】
即ち、本発明によれば、レンズカプセルから酵素を使用することなく抽出され、かつ還元条件下においてSDS-PAGEで測定した最低分子量が160〜180kDaであることを特徴とする、レンズカプセル由来IV型コラーゲンが提供される。
【0012】
好ましくは、本発明のIV型コラーゲンは、ポリペプチド鎖の片方又は両方の末端に分子間相互作用ドメインを有する。
好ましくは、本発明のIV型コラーゲンは、ポリペプチド鎖の分子内にGly-Xaa-Xbb(式中、Xaa及びXbbはそれぞれ独立に任意のアミノ酸残基を示す)の繰り返し配列を有する。
【0013】
本発明の別の側面によれば、動物のレンズカプセルから酵素を使用することなくコラーゲンを抽出することを特徴とする、本発明のIV型コラーゲンの製造方法が提供される。
【0014】
好ましくは、本発明のIV型コラーゲンの製造方法は、(1)リン酸緩衝液中においてレンズカプセルを攪拌し、沈殿を回収する工程、(2)工程(1)で得た沈殿を酸性水溶液中で攪拌し、IV型コラーゲンを含有する上清を回収する工程、及び(3)工程(2)で得た上清に塩を添加してIV型コラーゲンを沈殿させ、生じた沈殿を回収する工程を少なくとも含む方法である。
【0015】
好ましくは、工程(1)から(3)を低温条件下において行う。
好ましくは、工程(1)で用いるリン酸緩衝液は、タンパク質分解酵素阻害剤を含むリン酸緩衝液である。
好ましくは、工程(2)で用いる酸性水溶液は、タンパク質分解酵素阻害剤を含む酸性水溶液である。
【0016】
好ましくは、工程(3)において、工程(2)で得た上清に塩を添加した後、遠心分離によりIV型コラーゲンを沈殿させる。
好ましくは、本発明の方法はさらに(4)工程(3)で得た沈殿を酸性水溶液で可溶化した後、酸性水溶液で透析する工程を含む。
【0017】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の方法により製造される、還元条件下においてSDS-PAGEで測定した最低分子量が160〜180kDaであることを特徴とするレンズカプセル由来IV型コラーゲンが提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、最適な材料であるレンズカプセルから酵素を用いることなくIV型コラーゲンを抽出することができるため、IV型コラーゲンを分解、変性させずに製造することができる。従って、本発明によれば、体内に存在するIV型コラーゲンと同様のものをレンズカプセルから抽出することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明のレンズカプセル由来IV型コラーゲンは、レンズカプセルから酵素を使用することなく抽出されたものであり、還元条件下においてSDS-PAGEで測定した最低分子量が160〜180kDaであることを特徴とするものである。
【0020】
本発明における「レンズカプセル」とは、眼球内に存在するレンズの周囲を覆う膜状の構造物であり、発生学的に水晶体上皮細胞由来の基底膜と位置づけられている。
【0021】
本発明における「還元条件」とは、IV型コラーゲンの分子内及び分子間のジスルフィド結合の少なくとも一部が還元されて未架橋の状態になるような条件を意味し、例えば、β-メルカプトエタノール又はジチオスレイトールなどの還元剤とドデシル硫酸ナトリウムとを含む緩衝液を添加後、70℃以上で1分間以上加熱した状態を挙げることができる。
【0022】
本発明のレンズカプセル由来IV型コラーゲンは、好ましくは、ポリペプチド鎖の片方又は両方の末端に分子間相互作用ドメインを有する。本発明における「分子間相互作用ドメイン」とは、ポリペプチドとポリペプチドが物理的に結合するために必要とする、ポリペプチドの領域である。
【0023】
また、本発明のレンズカプセル由来IV型コラーゲンは、好ましくは、ポリペプチド鎖の分子内にGly-Xaa-Xbb(式中、Xaa及びXbbはそれぞれ独立に任意のアミノ酸残基を示す)の繰り返し配列を有する。
【0024】
さらに本発明は、動物のレンズカプセルから酵素を使用することなくコラーゲンを抽出する工程を含む、上記した本発明のIV型コラーゲンの製造方法に関する。本発明のIV型コラーゲンの製造方法は、具体的には、(1)リン酸緩衝液中においてレンズカプセルを攪拌し、沈殿を回収する工程、(2)工程(1)で得た沈殿を酸性水溶液中で攪拌し、IV型コラーゲンを含有する上清を回収する工程、及び(3)工程(2)で得た上清に塩を添加してIV型コラーゲンを沈殿させ、生じた沈殿を回収する工程を少なくとも含むことが好ましい。
【0025】
上記した工程(1)から(3)は低温条件下において行うことができる。本発明における「低温条件」とは好ましくは、4℃以下を意味する。
【0026】
工程(1)で用いるリン酸緩衝液、及び/又は工程(2)で用いる酸性水溶液は、好ましくは、タンパク質分解酵素阻害剤を含む。本発明における「タンパク質分解酵素阻害剤」とは、ペプチド結合加水分解酵素を阻害する物質の総称である。例えば、Acetyl-Pepstatin、AEBSF、ALLM、ALLN、Amastatin、ε-Amino-n-caproic Acid、Aminopeptidase N Inhibitor、α1-Antichymotrypsin、Antipain、α2-Antiplasmin、α2-Antiplasmin、Antithrombin III、α1-Antitrypsin、p-APMSF、Aprotinin ATBI、Benzamidine、Bestatin、Calpastatin、Calpeptin、Carboxypeptidase Inhibitor、Caspase Inhibitor、Cathepsin Inhibitor、Chymostatin、Chymotrypsin Inhibitor、Cystat、1,5-Dansyl-Glu-Gly-Arg Chloromethyl Ketone、3,4-Dichloroisocoumarin、Diisopropylfluorophosphate、Dipeptidylpeptidase、E-64 Protease Inhibitor、Ecotin、EDTA、EGTA、Elastase Inhibitor、Elastatinal、EST、FUT-175、GGACK、2-Guanidinoethylmercaptosuccinic Acid、HDSF、α-Iodoacetamide、Kininogen、Leupeptin、α2-Macroglobulin、Pepstatin A、Phenylmethylsulfonyl Fluoride、Phosphoramidon、PPACK、Prolyl Endopeptidase Inhibitor、Serine Protease Inhibitor、Tripeptidylpeptidase II Inhibitor、Trypsin Inhibitor及びD-Val-Phe-Lys Chloromethyl Ketoneなどを挙げることができる。
【0027】
以下、本発明によるIV型コラーゲンの製造方法についてさらに詳細に説明する。本発明において原料として使用される眼球としては、ウシ、ブタ等の食肉用の動物、また魚類、両生類等を含む他の脊椎動物の眼球を使用することができる。外科的手法を用いて眼球に付着した肉を取り除き、角膜を取り外す。眼球内部よりレンズを取り出し、レンズに付着したガラス体などの不要部位をほぼ完全に除去する。不要部位除去後、レンズカプセルを冷リン酸緩衝液(PBS)に浸す。リン酸緩衝液(PBS)とは、Potassium Phosphate monobasic 1.54mM、Sodium Chloride (NaCl) 155.17mM、Sodium Phosphate dibasic 2.71mMを含む、pH7.2である緩衝液である。冷PBSは0〜15℃が好ましく、さらに0〜10℃が好ましく、0〜4℃に維持することが最も好ましい。また、冷PBSは、プロテアーゼ阻害剤を含有していることが好ましい。タンパク質分解酵素阻害剤としては、phenylmethylsulfonyl fluoride、N-Ethylmaleimide、EDTA、aprotinin、bestatin、calpain inhibitor、など上記タンパク質分解酵素阻害剤を1種類以上、好ましくは3種類以上、さらに好ましくは5種類以上添加することができる。レンズカプセルを冷PBS中にて攪拌し、レンズカプセルに付着した不要部位を取り除く。その後、レンズカプセルを遠心分離により回収する。遠心分離は100〜20000g、好ましくは1000〜10000g、より好ましくは2000〜8000gで行うことができる。
【0028】
次いで、沈殿したレンズカプセルを、酸性水溶液中で攪拌する。ここで用いる酸性水溶液は、タンパク質分解酵素阻害剤を含むことが好ましい。ここで用いる酸性水溶液としては、pH1.0〜5.0、好ましくはpH2.0〜4.0の酸性水溶液を使用することができる。酸性水溶液は有機酸、又は鉱酸のいずれでもよく、例えば、塩酸、硫酸、酢酸、クエン酸が例示される。酸性水溶液のpHが上記範囲を超えると収量低下を生ずるので好ましくない。タンパク質分解酵素阻害剤としては、上記したタンパク質分解酵素阻害剤から選択される1種類以上、好ましくは3種類以上、さらに好ましくは5種類以上のタンパク質分解酵素阻害剤を使用することができる。レンズカプセルを、酸性水溶液中に加えた後、0〜15℃、好ましくは0〜10℃、より好ましくは0〜4℃で1〜7日間、好ましくは2〜5日間攪拌して酸性水溶液可溶性コラーゲンを抽出する。酸性水溶液に溶解した酸可溶性コラーゲンと残渣の分離は通常物理的な手法により行うことができ、通常は遠心分離が好ましく採用される。残渣に更に酸性水溶液を加え、上記と同様の手法を用いて抽出を繰り返すことができる。
【0029】
残渣を分離した酸可溶性コラーゲンを析出し回収する工程で採用される方法としては、塩を加えて塩濃度を上昇させて沈殿させる方法を挙げることができる。加える塩は、ナトリウムやカリウムのいずれかを含み、一般的には、塩化ナトリウムや塩化カリウムなどを用いることかできる。塩濃度は0.1〜3.0M、好ましくは0.25〜2.5M、より好ましくは0.5〜2.0Mである。塩により析出したコラーゲンを例えば遠心分離により回収し、次いで酸性水溶液で溶解する。
【0030】
このコラーゲン溶液を透析チューブに入れ、酸性水溶液で0〜15℃、好ましくは0〜10℃、より好ましくは0〜4℃で1〜5日間、好ましくは2〜3日間攪拌して透析する。透析後、高純度、未変性、未分解のIV型コラーゲンを得ることができる。
【0031】
本発明のレンズカプセル由来IV型コラーゲンは、食品分野、医薬・医療分野、及び美容分野などにおいて利用することができる。本発明のレンズカプセル由来のIV型コラーゲンは、例えば、ゼリー等の菓子の材料、化粧品の成分、薬のカプセル、人工皮膚、骨治療におけるベヒクル、外科用補綴材(縫合糸、ガーゼ等)、細胞培養担体などとして使用することができる。
【0032】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
実施例1
以下のプロトコール(1)〜(16)に従い、原料であるウシ眼球及びブタ眼球から精製高分子IV型コラーゲンをそれぞれ16mg、8mg得た。以下のプロトコールは4℃でおこなった。
【0034】
(1)眼球からハサミを用いて角膜を除き、レンズを眼球内部より取り出す。
(2)レンズに付着する硝子体などの不溶部位をハサミなどで出来る限り取り除く。
(3)冷PBS(phosphate buffered saline)50mlにコンプリート プロテアーゼインヒビターカクテル1錠(ロシュ社)を加え溶解後、レンズカプセルを入れ、2時間攪拌する。
(4)遠心分離(2000g、10分、4℃)し、上清に存在する不要部位を除去する。
(5)沈殿をコンプリート プロテアーゼインヒビターカクテル半錠(ロシュ社)を溶解した0.5M酢酸25mlに懸濁する。
(6)ホモジナイザー(IKA)を用いて細かく破砕する。
(7)細かく破砕したレンズカプセルを3日間攪拌し、IV型コラーゲンの抽出をおこなう。
(8)遠心分離(2000g、10分、4℃)し、上清(酢酸可溶性コラーゲン)と沈殿を分離する。
(9)この攪拌による抽出と遠心分離をもう一度繰り返す。
(10)遠心分離により得られた上清に終濃度1.7M になるように乳鉢で可能な限り結晶をすり潰した NaCl を添加する。
(11)一晩攪拌しコラーゲンを沈殿させる。
(12)遠心分離(5000g、30分、4℃)し、沈殿物を回収する。
(13)沈殿物に0.5M酢酸を加え、十分に溶解する。
(14)コラーゲン酸性水溶液を透析チューブ(三光純薬)に入れ、0.5M酢酸を用いて透析をおこなう。
(15)さらに、2mM塩酸で透析をおこなう。
(16)透析後のコラーゲン溶液を回収し、精製IV型コラーゲン溶液を得る。
【0035】
比較例1
以下のプロトコール(1)〜(8)に従い、原料である胎盤からIV型コラーゲンを得た。以下のプロトコールは4℃でおこなった。
(1)胎盤をハサミで1cm角に細断する
(2)冷PBS(phosphate buffered saline)に胎盤を入れ、攪拌する。
(3)遠心分離(5000g、30分、4℃)し、沈殿を回収する。
(4)沈殿に0.4M酢酸ナトリウムを添加し血液成分がなくなるまで洗浄する。
(5)再度、遠心分離し、沈殿を回収後、0.5Mギ酸で洗浄する。
(6)沈殿を0.5Mギ酸に懸濁後、終濃度420unit/mlのペプシンを添加する。
(7)8〜10℃で16時間、攪拌抽出をおこなう。
(8)酵素処理物を遠心し、上清を回収する。
【0036】
試験例1(分析試験)
上記実施例1で得られたIV型コラーゲンをソディウムドデシルサルフェイト-ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)(図1の左図)及びアミノ酸分析にかけた。SDS-PAGEにおいて還元条件下(2xLaemmli sample buffer、62.5mM Tris-HCl, pH6.8, 2% SDS, 12.5% glycerol, 0.01% Bromophenol Blue, 10% 2-mercaptoethanolを等量混合後、90℃で5分間加熱)において150〜180kDaのバンド及びこれらが2分子以上架橋した分子量を示し、非還元条件下(2xNative sample buffer、62.5mM Tris-HCl, pH6.8, 2% SDS, 40.0% glycerol, 0.01% Bromophenol Blueを等量混合後、90℃で5分間加熱)においてはほとんど電気泳動されなかった。IV型コラーゲン以外のコラーゲンや他のタンパク質の混入は観察されなかった。また、比較例1で得られたIV型コラーゲンもSDS-PAGEで分析した(図1の右図)。
【0037】
上記した通り、実施例1(本発明)においては、比較例1の方法と比べて、高分子量のコラーゲンを得ることができた。さらに、塩分別によりこれは、実施例1の方法においては、レンズカプセルより酵素を用いずIV型コラーゲンを抽出することができた。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、実施例1及び比較例1で精製したIV型コラーゲンをSDS-PAGEで分析した結果を示す。左図における左のレーンはブタ眼球から精製したIV型コラーゲンを示し、右のレーンはウシ眼球から精製したIV型コラーゲンを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズカプセルから酵素を使用することなく抽出され、かつ還元条件下においてSDS-PAGEで測定した最低分子量が160〜180kDaであることを特徴とする、レンズカプセル由来IV型コラーゲン。
【請求項2】
ポリペプチド鎖の片方又は両方の末端に分子間相互作用ドメインを有する、請求項1に記載のIV型コラーゲン。
【請求項3】
ポリペプチド鎖の分子内にGly-Xaa-Xbb(式中、Xaa及びXbbはそれぞれ独立に任意のアミノ酸残基を示す)の繰り返し配列を有する、請求項1又は2に記載のIV型コラーゲン。
【請求項4】
動物のレンズカプセルから酵素を使用することなくコラーゲンを抽出することを特徴とする、請求項1から3の何れかに記載のIV型コラーゲンの製造方法。
【請求項5】
(1)リン酸緩衝液中においてレンズカプセルを攪拌し、沈殿を回収する工程、(2)工程(1)で得た沈殿を酸性水溶液中で攪拌し、IV型コラーゲンを含有する上清を回収する工程、及び(3)工程(2)で得た上清に塩を添加してIV型コラーゲンを沈殿させ、生じた沈殿を回収する工程を少なくとも含む、請求項1から3の何れかに記載のIV型コラーゲンの製造方法。
【請求項6】
工程(1)から(3)を低温条件下において行う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程(1)で用いるリン酸緩衝液が、タンパク質分解酵素阻害剤を含むリン酸緩衝液である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
工程(2)で用いる酸性水溶液が、タンパク質分解酵素阻害剤を含む酸性水溶液である、請求項5から7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
工程(3)において、工程(2)で得た上清に塩を添加した後、遠心分離によりIV型コラーゲンを沈殿させる、請求項5から8の何れかに記載の方法。
【請求項10】
さらに(4)工程(3)で得た沈殿を酸性水溶液で可溶化した後、酸性水溶液で透析する工程を含む、請求項5から9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
請求項4から10の何れかに記載の方法により製造される、還元条件下においてSDS-PAGEで測定した最低分子量が160〜180kDaであることを特徴とするレンズカプセル由来IV型コラーゲン。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−261966(P2007−261966A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86795(P2006−86795)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】