説明

IgA腎症予防食品添加剤

【課題】 本発明の課題は、IgA腎症患者の血液中のIgAあるいは糖鎖異常型IgAを体内から除去する、IgA腎症予防食品添加剤およびその治療方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、食品による摂取のみでIgA腎症患者血液中のIgA濃度を適正値に調節、維持するIgA腎症予防食品添加剤およびその治療方法を提供する。本発明のIgA腎症予防食品添加剤は、IgAと特異的に結合する「ジャカリン及び/又はジャカリン誘導体」を含有する「ジャックフルーツ種子抽出物」によって構成され、本発明の食品はIgA腎症予防または治療のために好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液、組織液中の免疫グロブリンA(IgA)と結合するジャカリン及び/又はその誘導体を含有する新規なIgA腎症治療用及び/又は予防用食品添加剤およびそれを用いたIgA腎症治療方法に関するものである。本発明は、食品としての摂取によりIgA腎症患者の血液又は組織液からIgAを、強制的かつ選択的に除去または失活させることで、IgAの血液濃度上昇を防ぎ、適正濃度に調節・維持しIgA腎症の発症または悪化を予防する用途に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
現在、日本国内では末期腎不全により人工透析療法を受けている患者の総数が約23万人を超えている。加えて毎年新規に1万人程の慢性腎不全患者が人工透析治療を導入し、その多くの場合は死亡するまで透析治療を維持することが必要となる。こうした人工透析治療の必要な腎不全患者総数は年々増加する一方で、臓器移植治療以外には根治的治療が無いのが現状である。しかしながら、生体組織の移植には、免疫拒絶およびドナー不足などの多くの重要な医学的、社会的な問題があり今後も大幅な進展は望めない。腎不全に至る主な原因疾患としては、糖尿病性腎症、高血圧性腎障害、多発性嚢胞腎などに加え慢性糸球体腎炎が全体の35%以上と特に多く、更に慢性糸球体腎炎の40〜50%はIgA腎症で占められている。
【0003】
IgA腎症とは腎糸球体メサンギウム領域へのIgA(主としてIgA1)と補体C3の顆粒状沈着の病理学的所見を特徴とする疾患であり、発症患者の約50%に血清IgA濃度の高値が認められ、血流中にはIgA型免疫複合体が存在することが報告されている。この状態が長年に渡り続くことでIgAが腎糸球体に沈着し、そのため腎臓機能が消失するとされる(非特許文献1)。
【0004】
IgA腎症は1969年Bergerらにより提唱された疾患概念であるが、その後30年以上を経た現在でも本疾患の成因は不明な点が多い。臨床的にも蛋白尿、血尿以外には臨床症状に乏しく、病気の進行に気づきにくい疾患でもあり、診断方法も腎生検による方法以外は一般的な方法が無いため、その発見が遅れる場合が多い。
【0005】
IgA腎症の発症機序については十分に解明されていないが、報告されている機序としては体内に進入した外来抗原が契機となり主に上気道、消化管系の粘膜下リンパ球や形質細胞で粘膜免疫に関与するIgAが産生され、メサンギウム細胞表面のIgA結合関連レセプターへIgAが高選択的に会合し(非特許文献2)、それに伴う炎症の惹起が提案されている。病理学的には、IgA沈着後の糸球体傷害の主要なメカニズムとして、メサンギウム細胞の増殖およびそれに引き続く細胞外基質蛋白の糸球体内蓄積に起因する硬化性病変であると考えられており、この過程では血小板由来成長因子(PDGF)と形質転換成長因子(TGF−β)の関与も重要と考えられているが詳細は不明である。
【0006】
IgAはIgA1とIgA2と呼ばれる2つのサブタイプに分類され、IgA1はヒンジ部と呼ばれる領域に5つの酸素結合型糖鎖が結合しており、一方、IgA2のヒンジ部には、この酸素結合型糖鎖は存在しないことが知られている。
【0007】
IgA腎症患者の糸球体メサンギウム細胞に沈着しているIgAは、主にIgA1であることが知られている。このIgA1の由来が上気道、消化管系の粘膜下リンパ球あるいは形質細胞で産生されたものか、骨髄で産生されたものなのかに関しては未だ明確な結論がない。しかしながら体内で生産されるIgAのほとんどは粘膜組織のIgA型形質細胞で作られる実態から、IgA腎症患者のIgA1も粘膜下での産生の可能性が高いと考えられている。
【0008】
また正常型のIgA1には、通常ヒンジ部にシアル酸-ガラクトースβ1−3結合Nアセチルガラクトースの糖鎖が存在するが、IgA腎症患者血液中のIgA1は、その先端分子であるシアル酸が存在しないアシアロ型の割合が高いとされる(非特許文献3)。特にこうした糖鎖異常型のIgA1同士は結合しやすい性質を有していることも報告され、更にはメサンギウム細胞表面レセプターへの高い結合性と、それにより生じる細胞周期への影響も指摘され始めている(非特許文献2))。
【0009】
こうしたIgA1の糖鎖異常に関する知見を利用したIgA腎症の診断方法に関しては、いくつか開発されている。例えば田中、錦戸、比企らによるIgA腎症患者血漿中のIgA1のヒンジ部の糖鎖結合数が非IgA腎症患者血漿中のIgA1より多いことを利用したIgA腎症の診断方法(特許文献1)の発明、比企、田中、錦戸らによるIgA1分子間の結合能の差を検出することによるIgA腎症の診断方法(特開平9−311132)の発明がある。また該公報等における発明の実施例として血清、血液および組織液中からIgA1を分離する材料として、レクチンの一種である「ジャカリン」をアガロースに固定したジャカリン−アガロースを用いており、その分離方法は、Roque−Barreriaらの「ジャカリン」を用いる方法(非特許文献4)に基づいている。しかしながらこれらの発明は、IgA腎症の診断方法およびその診断キットを提供するものであり、食品あるいは薬剤としての摂取によりIgA腎症の予防または治療方法を提供するものではなかった。
【0010】
【特許文献1】特開平10−111291号公報
【特許文献2】特開平9−311132号公報
【0011】
【非特許文献1】Conley, M.E.ら、Journal of Clinical Investigation、66巻、1432頁、1980年
【非特許文献2】Y.Wangら. Clin Exp Immunol, 136巻、168−175頁、2004年
【非特許文献3】Iwase, Hitooら、Journal of Biochemistry、120巻、 92頁、1996年
【非特許文献4】Journal of Immunology、第134巻、1740−1743頁、1985年
【0012】
以上のようにIgA腎症の成因が今なお明確に解明されていない現状では、IgA腎症の予防または治療に関しては特に効果的な方法はないが、抗炎症作用と免疫抑制作用を期する点から主に副腎皮質ステロイド療法が有望と考えられている。しかしながら、蛋白尿が1.0g/日以上の症例でステロイド療法の効果を期待するためには2−3年以上の治療期間が求められ、IgA腎症では治療効果の判断に最低でも10年を要するとされている。加えてステロイド剤には多くの副作用があることも知られている。重篤な副作用として、感染症、消化性潰瘍、糖尿病、精神障害、緑内障、無菌性骨壊死、骨粗鬆症、動脈硬化症、血栓症などがあり、合併症の危険性も大きい。以上から、ステロイド剤以外で副作用の少ないIgA腎症の予防または治療法が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、食品による摂取のみでIgA腎症患者血液中のIgA濃度を適正値に調節、維持する食品添加剤を提供すること及びIgA腎症発症の予防法又は治療法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
IgA腎症に対するIgAの関与については、上述したようにIgAあるいは糖鎖異常型IgA1が、IgA腎症患者血液、組織液中に高濃度で存在することで、腎糸球体に沈着し、それが直接または間接原因となり糸球体腎炎を引き起こすと考えられる。
また本発明者らは、血液中のIgA濃度を調節することで、病気の進行を制御することを目的とする血液浄化用吸着材として、ジャカリン及び/又はその誘導体が水不溶性担体に固定化された材料が好適であることを見いだしている(特願2003−124036「IgA腎症治療のための血液浄化用吸着材」)。しかしながら、血液浄化材料によるIgA濃度の調節方法は、人工透析治療に匹敵する血液循環装置が必要な点、および治療に要する患者の時間的拘束を考慮すると、身体的負担の点からも効率的な方法とは言い難い点が課題であった。
【0015】
そこで、本発明者は上述の発見に基づいて血液中のIgA濃度調節によりIgA腎症の予防あるいは治療法を、患者の身体的負担を軽減させ尚かつ効果的に提供する目的で鋭意研究を重ねた結果、ジャックフルーツ種子抽出物あるいはその中に含まれるジャカリン及び/又はその誘導体を含有する食品添加剤が好適であることを見いだし、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明はIgA腎症の改善効果を有する食品添加剤であって、ジャカリン及び/又はジャカリン誘導体を主成分とするジャックフルーツの種子の水抽出物である。更には、該ジャカリン及び/又はジャカリン誘導体が、ジャカリンの分子数が1〜10からなるジャカリン複合体であって、その分子量が50〜500KDaであること、及び又は、該ジャカリン及び/又はその誘導体が、ジャカリン複合体の分解物であって、その分子量が15〜50KDaであることを特徴とする。
そして、該ジャックフルーツの種子の水抽出物の形態が粉末状又は水溶液状で、他の食品との混合で経口摂取が可能であることを特徴とする。
さらに本発明は、前記のジャックフルーツの種子の水抽出物をIgA腎症患者に経口投与することによって、該患者の血液及び/又は組織液中からIgAを除去することを特徴とするIgA腎症予防及び/又は治療方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の「ジャックフルーツ種子抽出物」を含有したIgA腎症予防あるいは治療食品は、血中IgA濃度を調節することにより、腎糸球体の炎症を防ぐ効果および炎症の誘発を抑制する効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、下記の実施形態によって限定されるものではなく、その要旨を変更することなく、様々に改変して実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
【0019】
本発明に使用する「ジャカリン」とは桑科の果実であるジャックフルーツ(Artocarpus
heterophyllus:和名「波羅蜜(パラミツ)」)の種子に含まれる植物レクチンの一種であり、抽出・精製して得られるものである。ジャックフルーツはインドやタイが原産で熱帯地方に広く分布し、果実自体は大きい物で40−50Kgに達する物もある。果実は特に限定されるものではないが、おもにジャックフルーツがその名前の由来であることからも、最も多く含まれ、また抽出も容易である。通常、「ジャカリン」はジャックフルーツの種子タンパク質の50%以上を占めているとされる(非特許文献6)。同族植物にはパンノキ、コパラミツなどがあり、これらの種子からの抽出も可能である。
【0020】
「ジャカリン」はIgAの糖鎖を認識するレクチンタンパク質として知られ、その認識糖鎖は1種類に限定されないが、酸素結合型で正常型IgA1の糖鎖構造であるシアル酸ガラクトースβ1−3結合Nアセチルガラクトース、あるいはガラクトースβ1−3Nアセチルガラクトース(異常型糖鎖)が高親和性構造として知られている。(非特許文献7)
【0021】
【非特許文献5】S. Kabirら、Comparative Immunology, Microbiology and Infectious Diseases, 16巻、153頁、1993年
【非特許文献6】S. KabirらJournal of Immunological Methods 212巻、193−211頁、1998年
【0022】
ヒト血清タンパク質の中で酸素結合型の糖鎖、すなわちタンパク質分子中のアミノ酸であるセリンまたはトレオニンの水酸基に結合しているガラクトースβ1−3結合Nアセチルガラクトース糖鎖を持つものは少なく、そのほとんどはアスパラギンのアミノ基に結合するN結合型である。IgA1分子は正常型、異常型の何れも酸素結合型の糖鎖を有しており、「ジャカリン」に特異的に認識され結合すると考えられている。
【0023】
「ジャカリン」は4つのα鎖と呼ばれる分子量約15KDaのサブユニット構造と4つのβ鎖と呼ばれる分子量約2.1KDaから成り立つ分子量約65KDaの糖タンパク質である。本発明における「ジャカリン」は、ジャックフルーツの種子を低温で水抽出し、該抽出物を精製することにより得られるが、この際、ジャックフルーツの種子を細かく粉砕後、水抽出する方法が一般的に用いられるが、必ずしもこれに限定されるものではなく、種子を水溶液中で圧搾する方法等も用いられる。
又、精製は、一般的には、水抽出物を濾過することによって水不溶物と分離することによってなされるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
このようにして得られるジャックフルーツの種子の抽出・精製物は、ジャカリンを主成分とし、その他、炭水化物、ビタミンA及びビタミンCを含んでいる。
【0024】
こうした「ジャカリン」は1分子でも良いが、その誘導体(「ジャカリン」が約1〜10分子且つ分子量が50〜500KDaで構成される「ジャカリン複合体」及び/又は、該ジャカリン複合体を熱水処理することにより得られる分子量10〜50KDaの「ジャカリン分解物」)であっても良く、またその混合物であっても食品添加剤としての効果に大きな差は見られない。
【0025】
本発明のジャックフルーツの種子の抽出・精製物は、粉末状又は水溶液状で食品添加剤として供給されるが、粉末状は一般的に該抽出・精製物を凍結・乾燥することによって得られる。又、水溶液状は、ジャックフルーツの種子の抽出・精製物そのものか、或いは、上述の粉末を水溶液に溶かすことによって得られる。
【0026】
そして、これらの粉末状又は水溶液状の食品添加剤は、様々な食品に添加されて用いられる。具体的には、例えばキャンディ、チューインガム、ゼリー等の菓子やクッキー、菓子パンなど、あるいはミネラル飲料や乳酸菌飲料、アルコール飲料などの飲料があげられる。
本発明品の「ジャックフルーツ種子抽出物」の投与量としては、成人1日あたり1〜100g好ましくは5〜50g程度であり、「ジャカリン複合体またはジャカリン分解物」換算では、成人1日あたり0.1〜10g、好ましくは0.5〜5g程度である。多く投与した場合の効果は見られるものの、投与量に依存したIgA濃度調節効果は必ずしも期待できないと思われる。また、1日あたりの投与量が少ない場合は、IgA濃度調節効果は期待できない恐れがある。
【0027】
食品に添加、加工する際に用いられるものは、通常医薬品及び食品の分野で使用されるもの等があり、例としては食品成形結合剤としては、白糖、ブドウ糖、ショ糖、デンプン、エチルセルロース、乳糖、カルボキシメチルセルロース、ジェラン、カルボキシメチルジェラン、ジェラン硫酸、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース等があげられる。また界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレングリコールモノ脂肪酸エステル、リン脂質、脂肪酸、エチレングリコール多価アルコール等が好適に用いられる。
【0028】
ところで、本発明によるジャカリン及び/又はジャカリン誘導体を主成分とするジャックフルーツ種子の水抽出物を、IgA腎症患者が摂取することにより、IgA腎症患者の血液中および組織からのIgA濃度上昇が抑制される機序について以下のように考えられる。
(1)消化管内での直接吸着除去効果
血液・体液中の免疫グロブリンA(IgA)は主に腸管上皮細胞で産生され、その後消化管系あるいは血中に分泌される。ジャックフルーツ種子抽出物を食品として摂取することにより、体内で非吸収・非消化性のジャカリン及び/又はその誘導体が、消化管内の腸管上皮部位でIgAと結合し不活性化あるいは不溶化させることで血液中への分泌・吸収を妨げ、最終的に消化管内から体外に便として排出される。その結果、IgAの血液濃度上昇を防ぎ、適正濃度に調節・維持しIgA腎症の発症または悪化を予防する。
(2)循環系内吸収後の間接的効果
一部血液中に吸収されたジャカリン及び/又はその誘導体が血液中のIgAと結合することで、腎糸球体内のメサンギウム細胞表面またはIgA産生部位である腸管上皮細胞表面部分へのIgA結合部位構造が失活する。その結果、血液循環系におけるIgAの組織沈着現象を防ぎ、その後に生じる腎炎症反応の惹起を抑え、結果としてIgA腎症の発症または悪化を予防する。沈着を免れたIgAジャカリン複合体は通常の代謝系(肝臓)により分解・除去される。
【実施例1】
【0029】
以下実施例をもって本発明を詳細に説明するが、以下によって示される方法は、作用確認において用いたものであり、これに限定されるものではない。
【0030】
<IgA腎症予防効果評価に用いるIgA腎症モデル動物>
本発明の効果を検証するため、IgA腎症モデル(HIGA)マウス(日本SLCマウス社)を用いた。HIGAマウスはddyマウス系の高濃度IgAが特徴のマウスでIgA腎症のモデル動物として知られ、IgA腎症研究に多く用いられている(例えば、Kidney Int, 50巻,1946−1957頁、1995年)。
【0031】
<IgA腎症モデルマウス血中IgA濃度測定方法>
IgA腎症モデルマウス血清中のIgA濃度は、ELISA法を用いて定量した。1次抗体原液にGoat anti−mouse IgA (フナコシ社製)、また2次抗体原液にGoat anti−mouse IgA HRP conjugated(フナコシ社製)を用い、濃度決定のための標準溶液にはHuman serum Calibrator(IgA)(フナコシ社製)を用い、250ng/ml−7ng/mlの範囲で7サンプル調製し用いた。1次抗体溶液として抗体原液0.1mlを0.05M NaCO−HCl緩衝液(pH9.6)10mlに溶解し希釈した後、96穴ELISAイムノプレート(ナルジェン ヌンク社製)に0.1mlずつ添加し90分静置する。その後溶液を除去し、0.14M NaCl、0.05% Tween20を含む0.05M Tris−HCl(pH8)緩衝液で洗浄し、自然乾燥させ測定用ELISAプレートとした。
測定するマウス血清試料は0.14M NaCl、1% ウシ血清アルブミン(BSA)を含む0.05M Tris−HCl(pH8)緩衝液を用いて1/20000に希釈し、測定用プレートの穴に0.1ml加え、60分間浸透させる。同時に別な穴に7種類の標準溶液をそれぞれ加える。攪拌後、溶液を除去し0.14M NaCl、0.05% Tween20を含む0.05M Tris−HCl(pH8)緩衝液で数回洗浄し、次に1/100希釈した2次抗体溶液を0.2mlずつ穴に加え更に60分間浸透させる。2次抗体溶液を除去し、洗浄後、クエン酸緩衝液12mlに対しOPD錠(和光純薬社製)を1錠およびHを0.005ml加えた溶液を、0.1mlずつ穴に加え10分間静置して発色させた後、更に1N硫酸水溶液を0.1mlずつ穴に加え発色を停止させ、450nmでの吸光度をプレートリーダー(バイオラッド社製)にて測定し、標準試料から作製した校正曲線に照らして濃度を算出した。
【0032】
<IgA腎症モデルマウス血中アルブミン濃度測定方法>
IgA腎症モデルマウス血清中のアルブミン濃度は、ELISA法(市販のキット:Exocell社製)を用いて定量した。1次抗体原液にRabbit anti−mouse Albumin(フナコシ社製)、2次抗体原液anti−rabbit HRP conjugate(フナコシ社製)を用い、濃度決定のための標準溶液にはHuman serum Calibrator(IgA)(フナコシ社製)を用いキットマニュアルに従い測定した。
【0033】
<組織標本のIgA染色方法>
本発明品による予防効果を評価するため、用いたHIGAマウスの腎糸球体組織切片および腸管上皮組織を作製し、蛍光免疫染色を用いIgA沈着状況を確認した。免疫染色方法は公知の方法により行った。染色には1次抗体としてmouse anti−human IgA、2次抗体にmouse anti−human IgA FITC conjugatedを用いた。FITCによる蛍光が検出された箇所ではIgAが存在していることを表している。また、1次抗体処理無しの2次抗体染色(コントロール)から、IgA以外の部分では検出されないことを確認した。
【実施例2】
【0034】
<「ジャカリン複合体」および「ジャカリン分解物」の調製方法>
ジャックフルーツの種子(種子1つの大きさが、長軸方向3.5cm、短軸方向2cm)を果肉から分離し、種子を覆う皮の部分を除き、フードプロセッサー等で細かく粉砕する。100mMトリス−塩酸緩衝溶液(pH7)を加えて、4℃で24時間撹拌しジャカリン粗精製溶液を得る。不溶部分を濾過により除き、次に遠心分離(3000rpm、30分)し、上澄み部分のみを回収した。更に孔サイズ0.22マイクロメートルのメンブレンフィルター(ミリポア社製)で濾過し、溶液を再生セルロース系透析膜からなるチューブにいれ(除去分子量6000以下:スペクトラポア社製)、脱イオン水に対して48時間以上透析を行い、その後凍結乾燥して「ジャカリン複合体」を得た。
【0035】
「ジャカリン分解物」は、上述の方法で作成した「ジャカリン複合体」1gに対し、水を100ml加え5分間沸騰処理した後、急冷し凍結乾燥することで得られた。
以上のようにして得られた「ジャカリン複合体」および「ジャカリン分解物」の分子量は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いて確認した。方法は公知の方法で行った。泳動材料条件として、「ジャカリン複合体」に対しては7.5%(w/w)ポリアクリルアミドゲル(バイオラット社製)を用いて行い、「ジャカリン分解物」に対しては15%(w/w)ポリアクリルアミドゲル(バイオラット社製)を用いて行った。タンパク質バンドはクマシーブリリアントブルー(和光純薬)による染色で検出し、分子量マーカー(バイオラット社製)からの相対移動度より「ジャカリン複合体」および「ジャカリン熱分解物」の分子量を算出した。その結果、「ジャカリン複合体」は「ジャカリン」分子数が1〜10からなり、その分子量が50〜500KDa、「ジャカリン分解物」は「ジャカリン複合体」に加え、15〜50KDaの「ジャカリン」由来分解分子を含む混合物であった。
【実施例3】
【0036】
<「ジャックフルーツ種子抽出物」の調製>
ジャックフルーツの種子(種子1つの大きさが、長軸方向3.5cm、短軸方向2cm)を果肉から分離し、種子を覆う皮の部分を除き、脱イオン水を少量加えて、フードプロセッサー等で細かく粉砕する。その後凍結乾燥して「ジャックフルーツ種子」粉末を得た。種子1gより350mgの乾燥粉末が得られた。「ジャックフルーツ種子」粉末200mgに対し、脱イオン水を100ml加え、10分間攪拌した後、孔サイズ0.22マイクロメートルのメンブレンフィルターで濾過し、再度凍結乾燥し「ジャックフルーツ種子抽出物」を得た。「ジャックフルーツ種子」粉末1gよりおよそ300mgの粉末が得られた。以上より、ジャックフルーツ種子は水分約65%、水抽出物約10%および水不溶物25%の組成であることがわかった。「ジャカリン」および「ジャカリン複合体」はこの水抽出物の主成分であり、「ジャックフルーツ種子抽出物」中の他の成分には、炭水化物、ビタミンAおよびビタミンCが含まれる。
【実施例4】
【0037】
<「ジャカリン分解物」含有「ジャックフルーツ種子抽出物」の調製>
「ジャックフルーツ種子」粉末200mgに対し、脱イオン水を100ml加え、100℃に加熱し10分間攪拌した後、4℃に急冷し、孔サイズ0.22マイクロメートルのメンブレンフィルターで濾過し凍結乾燥し「ジャカリン分解物」含有「ジャックフルーツ種子抽出物」を得た。「ジャックフルーツ種子」粉末1gよりおよそ250mgの粉末が得られた。
【実施例5】
【0038】
(1)粉末状の通常のマウス用飼料100gに対し「ジャックフルーツ種子抽出物」粉末1gを加え混合後、脱イオン水を10ml加え更に混合し、圧縮成型器を用いて円柱状の固形マウス用飼料形状を作成し、クリーンベンチ内にて無菌的に自然乾燥させる。以上のようにして作成した「ジャックフルーツ種子抽出物」配合飼料を、11週齢目のHIGAマウス12匹に対し、最大21週齢目まで飼料を投与した(飼料投与群)。なお飼料投与群への飲料水は、「ジャックフルーツ種子抽出物」を含まない水道水を用いた。
【0039】
(2)脱イオン水100mlに対し「ジャックフルーツ種子抽出物」粉末1gを加え室温で混合後、ペーパーフィルターで不要物を濾去した溶液を、更に0.45マイクロメートルのフィルターを用いて濾過し、HIGAマウス用飲料水とした。以上のようにして作成した「ジャックフルーツ種子抽出物」配合飲料水を、11週齢目のHIGAマウス12匹に対し、最大21週齢目まで飼料を投与した(飲料水投与群)。なお飲料水投与群への飼料は、「ジャックフルーツ種子抽出物」を含まない通常のマウス用飼料を用いた
【0040】
(3)対照群として、通常のマウス用飼料および水道水を11週齢目のHIGAマウス12匹に対し、最大21週齢目まで飼料を投与した(コントロール群)。
評価項目として、各群におけるHIGAマウスの平均体重、1日あたりの飼料摂取量および飲料水の摂取量を毎日測定した。また各HIGAマウスの尻尾より週に一度採血し(12週齢から採血開始)、血清IgA濃度および血清アルブミン濃度を測定した。更に4週間ごとに、3匹ずつ犠牲死させ腎糸球体および腸管上皮組織の組織切片を作成し、IgA免疫染色を行いIgAの組織沈着挙動を観察した。
【0041】
<結果>
11週齢から21週齢までの6匹の平均体重の推移を図1に示した(○:コントロール群、□:飼料投与群、▲:飲料水投与群)。コントロール群で体重増加の傾向が、他の「ジャックフルーツ種子抽出物」投与群と比較すると若干異なった。「ジャックフルーツ種子抽出物」投与群間では体重の推移はほぼ同等傾向であり、また投与期間を通じて各群とも平均5〜6gの増加が見られた。
【0042】
飼料摂取量の推移を図2に示す(○:コントロール群、□:飼料投与群、▲:飲料水投与群)。飼料摂取に関しては「ジャックフルーツ種子抽出物」配合飼料投与群の摂取量が他の群よりも多いものの投与時間あるいは体重増加との関連は見られない。全ての群において1日あたり平均4〜8gの飼料を摂取した。「ジャックフルーツ種子抽出物」配合飼料投与群では一日あたり、約4〜8mgの「ジャカリン」あるいは「ジャカリン誘導体」を摂取したことになる。HIGAマウスの平均体重が30〜40gであることを考慮すると、成人あたり体重で換算すると、4〜10g程度の摂取に相当すると考えられる。
【0043】
飲料水摂取量の推移を図3に示す(○:コントロール群、□:飼料投与群、▲:飲料水投与群)。飲料水摂取に関しては全ての群において1日あたり平均4〜8gの飲料水を摂取し、「ジャックフルーツ種子抽出物」配合飲料水投与群では一日あたり、約4〜8mgの「ジャカリン」あるいは「ジャカリン誘導体」を摂取したことになる。HIGAマウスの平均体重が30〜40gであることを考慮すると、成人あたり体重で換算すると、4〜10g程度の摂取に相当すると考えられる。
【0044】
各群のHIGAマウスの血液中の平均血清IgA濃度の推移を図4に示した(○:コントロール群、□:飼料投与群、▲:飲料水投与群)。各週での濃度測定値を12週齢での血清濃度で除し、投与開始1週後からの血清濃度増加率(血清IgA濃度/12週齢での血清IgA濃度)として評価した。即ち、投与後1週目が1として規格化した。各群における12週齢での血清IgA濃度は、コントロール群で1.14±0.57mg/ml、飼料投与群で2.36±0.54mg/mlそして飲料水投与群で1.87±0.43mg/mlであった。「ジャックフルーツ種子抽出物」配合飼料および「ジャックフルーツ種子抽出物」飲料水投与群とも、コントロール群と比較すると、明らかに投与開始後2週間程度で血清IgA濃度の増加を抑制する効果が見られた。
【0045】
各群のHIGAマウスの血液中の平均血清アルブミン濃度の推移を図5に示した(○:コントロール群、□:飼料投与群、▲:飲料水投与群)。各週での濃度測定値を12週齢での血清濃度で除し、投与開始1週後からの血清濃度増加率(血清アルブミン濃度/12週齢での血清アルブミン濃度)として評価した。即ち、投与後1週目が1として規格化した。各群における12週齢での血清アルブミン濃度は、コントロール群で0.578±0.01mg/ml、飼料投与群で0.574±0.01mg/mlそして飲料水投与群で0.564±0.02mg/mlであった。「ジャックフルーツ種子抽出物」配合飼料、「ジャックフルーツ種子抽出物」飲料水投与群およびコントロール群における有意の差は見られない。即ち、IgA腎症予防食品投与においては血清アルブミン濃度変化に対する影響はない。
【0046】
HIGAマウスの腎糸球体組織の組織IgA染色像を図6に示した。図6−1にコントロール群の投与開始から4週目(15週齢)、図6−2にコントロール群の投与開始から8週目(19週齢)の腎糸球体組織を示す(観察倍率400倍)。IgA染色部分がメサンギウム領域内で週齢を経るに従い増加しているのが観察され、IgA沈着現象が生じていることがわかる。図6−3には「ジャックフルーツ種子抽出物」配合飼料投与開始から4週目(15週齢)、図6−4に「ジャックフルーツ種子抽出物」配合飼料投与開始から8週目(19週齢)の腎糸球体組織を示す(観察倍率400倍)。コントロール群に比較して、8週目の沈着量が抑制されているのが観察された。
【0047】
HIGAマウスの腸管上皮組織の組織IgA染色像を図7に示した。図7−1にコントロール群の投与開始4週目(15週齢)、図7−2にコントロール群の投与開始後12週目(23週齢)の腸管上皮組織を示す(観察倍率400倍)。IgA染色部分が上皮絨毛組織内のリンパ系細胞周辺で顕著に観察され、週齢を経るに従いIgA産生・蓄積が増加しているのが観察された。図7−3には「ジャックフルーツ種子抽出物」配合飼料投与開始から4週目(15週齢)、図7−4に「ジャックフルーツ種子抽出物」配合飼料投与開始から12週目(23週齢)の腸管上皮組織を示す(観察倍率400倍)。コントロール群に比較して、12週目の検出量が抑制されていることが観察された。
【0048】
HIGAマウスに対する「ジャックフルーツ種子抽出物」配合飼料および配合飲料水としての投与形態の差に関する以上の結果から、飼料および飲料水摂取量に関しての有意差は見られず、血中IgA濃度を低下させる効果に関しては、「ジャックフルーツ種子抽出物」投与群血清中でのIgA濃度の増加率が、コントロール群に比較して明らかに抑制した。血中アルブミン濃度の変化に関しては各群間での差は見られず、即ちIgA濃度にのみ効果を示した。組織中のIgA沈着および産生・蓄積等に関しても、コントロール群に比較して投与群では明らかに抑制効果を示した。以上の結果から、本発明品である「ジャックフルーツ種子抽出物」配合食品(飼料あるいは飲料水)は、経口投与することのみで血中IgA濃度を選択的に低下させ、組織にIgAが沈着するのを防ぐ、IgA腎症予防効果あるいは治療効果が認められると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】HIGAマウスの体重変化の推移(○:コントロール群平均、□:飼料投与群、▲:飲料水投与群)を示す図である。
【図2】HIGAマウスの飼料摂取量の推移(○:コントロール群平均、□:飼料投与群、▲:飲料水投与群)を示す図である。
【図3】HIGAマウスの飲料水摂取量の推移(○:コントロール群平均、□:飼料投与群、▲:飲料水投与群)を示す図である。
【図4】HIGAマウスの血液中のIgA濃度(○:コントロール群平均、□:飼料投与群、▲:飲料水投与群)を示す図である。
【図5】HIGAマウスの血清アルブミン濃度(○:コントロール群平均、□:飼料投与群、▲:飲料水投与群)を示す図である。
【図6】HIGAマウスの腎糸球体組織の組織IgA染色像を示す図である。
【図7】HIGAマウスの腸管上皮組織の組織IgA染色像を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IgA腎症患者用の治療用及び/又は予防用食品添加剤であって、ジャカリン及び/又はジャカリン誘導体を主成分とするジャックフルーツ種子の水抽出物。
【請求項2】
前記ジャカリン及び/又はジャカリン誘導体が、ジャカリンの分子数が1〜10からなるジャカリン複合体であって、その分子量が50〜500KDaであることを特徴とする請求項1に記載のジャックフルーツ種子の水抽出物。
【請求項3】
前記ジャカリン及び/又はジャカリン誘導体が、ジャカリン複合体の熱水分解物であって、その分子量が15〜50KDaであることを特徴とする請求項1に記載のジャックフルーツ種子の水抽出物。
【請求項4】
前記ジャカリン及び/又はジャカリン誘導体を主成分とするジャックフルーツ種子の水抽出物の形態が粉末状であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のジャックフルーツ種子の水抽出物。
【請求項5】
前記ジャカリン及び/又はジャカリン誘導体を主成分とするジャックフルーツ種子の水抽出物の形態が水溶液状であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のジャックフルーツ種子の水抽出物。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れかに記載のジャックフルーツ種子の水抽出物を、IgA腎症患者に経口投与することによって、該患者の血液及び/又は組織液中からIgAを除去することを特徴とするIgA腎症予防方法及び/又は治療方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−83104(P2006−83104A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270140(P2004−270140)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(802000042)株式会社三重ティーエルオー (20)
【Fターム(参考)】