説明

L−アスパラギン酸金属塩の製造方法

【課題】L−アスパラギン酸アンモニウム塩と金属水酸化物とを反応させて析出物の混入や着色のない透明な高品質のL−アスパラギン酸金属塩を製造する。
【解決手段】本発明に係るL−アスパラギン酸金属塩の製造方法は、水性媒体中でL−アスパラギン酸アンモニウムと金属水酸化物とを反応させてL−アスパラギン酸金属塩を製造する製造方法であり、上記反応において、上記L−アスパラギン酸アンモニウム1モルに対して、0.8〜2.2モルの範囲の上記金属水酸化物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はL−アスパラギン酸金属塩の製造方法に関し、詳しくはL−アスパラギン酸アンモニウム塩と金属水酸化物とを反応させて高品質のL−アスパラギン酸金属塩を製造する方法に関する。L−アスパラギン酸金属塩は医薬中間体、界面活性剤、キレート剤の原料などとして有用なものである。
【背景技術】
【0002】
L−アスパラギン酸は、先ずフマル酸とアンモニアとをアスパルターゼ活性を有する酵素含有物の存在下、酵素の活性促進剤として塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マンガンなどの2価金属の化合物(以下、これら化合物を「2価金属化合物」と総称する)を添加し、反応させてL−アスパラギン酸アンモニウムを得、次にこのL−アスパラギン酸アンモニウムに硫酸などの酸を添加してL−アスパラギン酸を晶析、分離することにより合成されており、この合成反応に関しては多数の文献がある。
【0003】
また、マレイン酸とアンモニアとを、マレイン酸イソメラーゼ活性を有する酵素含有物およびアスパルターゼ活性を有する酵素含有物の存在下、酵素の活性促進剤として上記のような2価金属化合物およびメルカプトエタノール、グルタチオン、システィン、ジチオスレイトールなどの−SH基を有する化合物を添加して、反応させてL−アスパラギン酸アンモニウム塩とすることも知られている。しかしながら、これら文献にはL−アスパラギン酸金属塩の製造に関する記載はなく、通常、L−アスパラギン酸金属塩は上記のようにして得られたアスパラギン酸を経由して製造されているのが現状である。つまり、従来公知の方法は、L−アスパラギン酸アンモニウムから一旦上記のようにしてL−アスパラギン酸を結晶として析出させ、このL−アスパラギン酸と金属水酸化物とを反応(中和)させてL−アスパラギン酸金属塩とするというものである。しかし、この方法は、L−アスパラギン酸の析出、ろ過および中和の工程が必要であり、工業的実施に際してはプロセスおよび経済性の面から有利なものということはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来技術に鑑み、本発明者らは、L−アスパラギン酸アンモニウムから直接L−アスパラギン酸金属塩を製造する新規な方法を提供しようとするものである。そして、本発明者らはL−アスパラギン酸アンモニウムから直接L−アルパラギン酸金属塩を製造する方法について検討したところ、単純にL−アスパラギン酸アンモニウムと金属水酸化物とを反応させたのでは、L−アスパラギン酸金属塩が得られるものの、その反応中に前記2価金属の水酸化物などの析出物が生成してL−アスパラギン酸金属塩中に混入したり、あるいはL−アスパラギン酸金属塩が着色するという問題があることが判明した。
【0005】
このような析出物の発生およびそのL−アスパラギン酸金属塩への混入(ひいては純度の低下)、ならびにL−アスパラギン酸金属塩の着色は製品価値を著しく損なうものであり望ましいものではない。また、析出物の発生が著しくなると反応管などの閉塞が発生して反応を停止しなければならない事態となる場合もある。かくして、本発明の目的の一つは、L−アスパラギン酸アンモニウムからL−アスパラギン酸を経由することなく直接L−アスパラギン酸金属塩を製造する新規な方法を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、L−アスパラギン酸アンモニウムと金属水酸化物とから直接L−アスパラギン酸金属塩を製造する際に発生する析出物の生成および着色という問題を解決して、L−アスパラギン酸アンモニウムと金属水酸化物とから高品質のL−アスパラギン酸金属塩を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の問題点について検討したところ、L−アスパラギン酸アンモニウムを酵素含有物の存在下に製造する際にその活性促進剤として添加した前記2価金属化合物の2価金属が水酸化物として反応中に析出し、これが原因となって着色が起こることを究明した。さらに、本発明者らは、L−アスパラギン酸アンモニウムと金属水酸化物との反応をキレート剤の共存下、あるいはL−アスパラギン酸アンモニウムと金属水酸化物とのモル比を特定の範囲に調整することにより上記問題点を解決できることを知り、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、水性媒体中でL−アスパラギン酸アンモニウムと金属水酸化物とを反応させることを特徴とするL−アスパラギン酸金属塩の製造方
法である。
【0009】
また、本発明は、上記方法において、キレート剤を共存させることを特徴とするL−アスパラギン酸金属塩の製造方法である。
【0010】
また、本発明は、上記方法において、L−アスパラギン酸アンモニウム1モルに対し0.8〜2.2モルの範囲の金属水酸化物を用いることを特徴とするL−アスパラギン酸金属塩の製造方法である。
【0011】
また、本発明は、上記方法において、キレート剤を共存させ、かつL−アスパラギン酸アンモニウム1モルに対し0.8〜3.5モルの範囲の金属水酸化物を用いることを特徴とするL−アスパラギン酸金属塩の製造方法である。
【0012】
また、本発明は、(1)マレイン酸またはフマル酸とアンモニアとを反応させてL−アスパラギン酸アンモニウム塩を製造し、次いで(2)工程(1)で得られたL−アスパラギン酸アンモニウム塩を金属水酸化物と水性媒体中で反応させてL−アスパラギン酸金属塩を製造するに当り、工程(2)で回収したアンモニアを工程(1)に循環して再使用することを特徴とするL−アスパラギン酸金属塩の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、析出物のない、透明なL−アスパラギン酸金属塩の水溶液をL−アスパラギン酸アンモニウム塩から直接製造することができる。
【0014】
本発明の方法によって得られるL−アスパラギン酸金属塩は、析出物の混入や着色がなく高品質なものであり、各種用途に好適に使用することができる。
【0015】
本発明の方法によれば、反応によって生成するアンモニアを回収して循環、再使用することができるので経済的に有利にL−アスパラギン酸金属塩を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明で用いるL−アスパラギン酸アンモニウム塩は従来公知の方法により容易に調製することができる。例えば、フマル酸とアンモニアとをアスパルターゼ活性を有する酵素含有物の存在下に反応させるか、あるいはマレイン酸とアンモニアとをマレイン酸イソメラーゼ活性を有する酵素含有物およびアスパルターゼ活性を有する酵素含有物の存在下に反応させればよい。アンモニアは、通常、フマル酸またはマレイン酸に対して1〜3倍モルの割合で用いられる。上記反応の際には、酵素含有物の活性促進剤として塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マンガンなどの2価金属化合物の少なくとも1種を添加する。なお、フマル酸とアンモニアとの反応の場合、アンモニアはフマル酸アンモニウムとして供給してもよい。このようにして得られるL−アスパラギン酸アンモニウム塩中には上記活性促進剤がそのまま残存しているので、L−アスパラギン酸アンモニウム中の2価金属化合物の量はそれを反応時に活性促進剤として使用した量と同じである。通常、不純物として0.05〜1モル%程度(対L−アスパラギン酸アンモニウム)の上記2価金属化合物が含まれている。
【0017】
本発明の方法によれば、水性媒体中でL−アスパラギン酸アンモニウムと金属水酸化物とを反応させてL−アスパラギン酸金属塩を製造する。
【0018】
上記金属水酸化物としては、通常、アルカリ金属の水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが用途(すなわち、目的生成物)に応じて適宜選択して用いられる。これらのうち、水酸化ナトリウムが特に好適に用いられる。上記水性媒体としては、通常、水が用いられる。
【0019】
本発明の方法を実施する際の反応条件については特に制限はなく適宜決定することができる。反応温度に関しては、通常、70〜130℃の範囲の温度で反応を行うが、特に90〜110℃の範囲の温度で行うのがよい。反応温度が低すぎると、生成するアンモニアを効率よく除去、回収できなくなり、反応速度も低下する。一方、反応温度が高すぎると、アスパラギン酸が変質する場合もあり好ましくない。反応圧力は減圧、加圧あるいは常圧のいずれでもよいが、通常、常圧で反応を行う。水性媒体中のL−アスパラギン酸アンモニウムの濃度についても特に制限はなく、原料L−アスパラギン酸アンモニウムや生成L−アスパラギン酸金属塩などの析出が起こらず、また生産性が著しく低下しないような濃度で反応を行えばよい。通常、5〜50重量%の範囲の濃度で反応を行うが、特に15〜35重量%の範囲の濃度で行うのがよい。
【0020】
本発明の一つの方法によれば、上記のL−アスパラギン酸アンモニウムと金属水酸化物との反応をキレート剤の共存下に行う。これにより2価金属の水酸化物の析出や着色を効果的に防止することができる。
【0021】
上記キレート剤としては、水溶性かつ前記2価金属とキレート結合を形成し得るものであれば、いずれも使用することができる。その代表例としては、EDTA(エチレンジアミン4酢酸)、NTA(ニトリロ3酢酸)、イミノジ酢酸、ヒドロキシエチレンジアミン酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ジグリコール酸、ヒドロキシイミノジコハク酸、カルボキシメチルイミノコハク酸、オキシジコハク酸、クエン酸、イミノジコハク酸、アクリル酸ポリマー、アクリル酸−マレイン酸コポリマーなどを挙げることができる。キレート剤の使用量は、L−アスパラギン酸アンモニウム中に含まれる2価金属化合物の0.5〜20倍モル、好ましくは1〜20倍モルである。キレート剤の使用量が少なすぎると2価金属の水酸化物の析出防止効果が十分でなく、一方多すぎると製品純度が低下して品質に問題が生
じるし、また経済的にも不利である。
【0022】
上記キレート剤を使用する場合、キレート剤を含有したL−アスパラギン酸金属塩が得られるが、用途によってはこのまま使用することができる。例えば、L−アスパラギン酸金属塩の用途の一つとして洗剤用ビルダーの製造が挙げられるが、前記のキレート剤も一般に洗剤用ビルダーとして使用できるものであるから、本発明の方法によって得られるキレート剤含有L−アスパラギン酸金属塩はそのまま洗剤用ビルダー製造用の原料として使用することができる。例えば、(ヒドロキシ)イミノジコハク酸(金属塩)は、現在洗剤用ビルダーとして有望と考えられているものであり、またアスパラギン酸金属塩とエポキシコハク酸またはマレイン酸の金属塩との反応により容易に得られるものであるから、上記キレート剤として使用するのが好都合な化合物の一つとして挙げることができる。なお、使用するキレート剤はアスパラギン酸金属塩の用途に応じて適宜選択
することができる。
【0023】
この方法において、金属水酸化物の使用量については特に制限はないが、通常、L−アスパラギン酸アンモニウム1モルに対し0.8〜2.2モルの範囲で用いられる。
【0024】
本発明の他の方法によれば、前記のL−アスパラギン酸アンモニウムと金属水酸化物との反応をL−アスパラギン酸アンモニウム1モルに対し0.8〜2.2モル、好ましくは1〜2モルの金属水酸化物を用いて行う。これにより2価金属の水酸化物の析出や着色を効果的に防止することができる。L−アスパラギン酸アンモニウム塩1モルに対する金属水酸化物の使用量が0.8モルより少なかったり、あるいは2.2モルより多すぎると2価金属の水酸化物の析出や着色を効果的に防止できなくなる。
【0025】
また、本発明の他の方法によれば、前記のL−アスパラギン酸アンモニウムと金属水酸化物との反応をキレート剤の共存下、かつL−アスパラギン酸アンモニウム1モルに対し0.8〜3.5モル、好ましくは1〜3.2モルの金属水酸化物を用いて行う。これにより2価金属の水酸化物の析出および着色を一段と効果的に防止でき、高品質のL−アスパラギン酸金属塩を製造することができる。L−アスパラギン酸アンモニウム1モルに対する金属水酸化物の使用量が0.8モルより少なかったり、あるいは3.5モルより多すぎると2価金属の水酸化物の析出や着色を効果的に防止できなくな
る。
【0026】
上記本発明の方法によれば、L−アスパラギン酸アンモニウムと金属水酸化物との反応の結果、目的とするL−アスパラギン酸金属塩のほかに、アンモニアが生成する。そこで、このアンモニアを回収してL−アスパラギン酸アンモニウム製造用の原料として再使用することにより、L−アスパラギン酸金属塩の製造コストを低減させることができる。
【0027】
かくして、本発明の他の方法によれば、マレイン酸またはフマル酸とアンモニアとを反応させてL−アスパラギン酸アンモニウム塩を製造し(工程(1))、次いで得られたL−アスパラギン酸アンモニウム塩を金属水酸化物と水性媒体中で反応させてL−アスパラギン酸金属塩を製造(工程(2))するに当り、工程(2)で回収したアンモニアを工程(1)に循環して再使用する。
【0028】
工程(1)は前記のとおり従来公知の方法にしたがって実施することができる。工程(2)では、アンモニアは、通常、アンモニア水として回収されるが、このアンモニア水はそのまま工程(1)に循環しても、あるいは必要に応じて、アンモニアを分離し工程(1)に循環して再使用してもよい。
【0029】
本発明の方法は、バッチ式および連続式のいずれの方式によって行ってもよい。
【0030】
本発明の方法によって得られるL−アスパラギン酸金属塩の水溶液はそのまま所望の用途、例えば他の化合物との反応に使用してもよいし、あるいはこの水溶液から析出させてL−アスパラギン酸金属塩の結晶として使用してもよい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、使用した装置の概略および生成物などの分析法は次のとおりである。
【0032】
装置
マントルヒータを装着した内容積1リットルの反応釜を備えたオルダーショー(Older−Show)蒸留塔(10段)の上部からL−アスパラギン酸アンモニウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とをそれぞれ所定の濃度および比率で混合、撹拌しながら投入し、蒸留塔上部から生成アンモニア水を取り出し、一方反応釜の下部からはL−アスパラギン酸アルカリ金属塩の水溶液を取り出した。反応釜には液面計が装着してあり、反応釜の液量を一定に保ち連続的にL−アスパラギン酸アルカリ金属塩水溶液を回収することができる。
【0033】
分析
アスパラギン酸アルカリ金属塩濃度は高速液体クロマトグラフィーにより、また回収されたアンモニア濃度は硫酸による滴定、あるいはイオン電極法により測定した。
【0034】
合成例1
5リットルのジャーファーメンターに、水1リットル当りフマル酸20g、リン酸1カリウム1g、硫酸マグネシウム7水塩0.5g、酵母エキス20gおよびコーンスティープリカー20gを溶解し、pHをアンモニアで6.8に調節した培地3リットルを仕込み減菌した後、別に500ml振とうフラスコに同上の培地50mlを入れて培養しておいたエッシェリヒア・コリ(ATCC11303)を接種し、37℃で通気撹拌培養した。培地中のフマル酸が消失した時点で、菌体培養液に酢酸を加え、pHを約5にして45℃で1時間放置した後、培養液を遠心分離にかけ菌体を分離した。
【0035】
分離した菌体を50mMのリン酸緩衝液5リットルに懸濁したなかに、イオン交換樹脂デュオライトA−7(米国ダイヤモンドシャムロックケミカル)1.5Lを添加し、4℃で24時間撹拌を行い、イオン交換樹脂に菌体中の酵素を吸着させた。イオン交換樹脂1リットル当り14.5gのアスパルターゼを含む酵素タンパクが吸着された。この酵素を吸着させたイオン交換樹脂1.5リットルを全容2リットルの円筒型カラムに充填し、カラム全体を発泡ポリスチレンの保温剤で覆って保温した。
【0036】
このカラムに1リットル中にフマル酸200gと硫酸マグネシウム7水塩0.2gとを含有するフマル酸アンモニウム水溶液(pH8.3)を基質媒体として1.5リットル/Hrの速度で流通させた。反応温度はカラムの直前に30℃の恒温槽を設置し、カラムに流入する基質媒体の温度を30℃になるようにした。この条件で反応を行い、ほぼ100%の転化率で安定してL−アスパラギン酸アンモニウムを得た。このL−アスパラギン酸アンモニウム水溶液1リットル中の硫酸マグネシウムの量は0.2gである。
【0037】
実施例1
合成例1で得られたL−アスパラギン酸アンモニウム水溶液(23.8重量%)中の硫酸マグネシウムに対しキレート剤として1.5倍モルのヒドロキシイミノジコハク酸(HIDS)を添加したL−アスパラギン酸アンモニウム水溶液(23.8重量%)および水酸化ナトリウム水溶液(48重量%)をそれぞれ500g/hrおよび121g/hrの速度(水酸化ナトリウム/L−アスパラギン酸アンモニウム(モル比)=1.83/1)で蒸留塔上部から供給し、反応釜内温100〜103℃、蒸留塔上部蒸気温度94〜97℃で連続運転したところ、蒸留塔上部からアンモニア濃度約15重量%のアンモニア水を98g/hr、反応釜下部からL−アスパラギン酸ナトリウム水溶液(濃度:L−アスパラギン酸ジナトリウム換算で26.4重量%)を540g/hrの割合で得た。得られたL−アスパラギン酸ナトリウム水溶液中には析出物はなく、無色透明であった。また、残存するアンモニアも20ppm未満で臭気を帯びていなかった。
【0038】
実施例2
実施例1において、HIDSの添加量を3倍モルに、また水酸化ナトリウム水溶液の供給速度を127g/hrに変更した(水酸化ナトリウム/L−アスパラギン酸アンモニウム(モル比)=1.92/1)以外は実施例1と同様に連続反応を行い、アンモニア濃度約15重量%のアンモニア水を99g/hr、L−アスパラギン酸ナトリウム水溶液(濃度:L−アスパラギン酸ジナトリウム換算で26.2重量%)を522g/hrの割合で得た。得られたL−アスパラギン酸ナトリウム水溶液中には析出物はなく、無色透明であった。また、残存するアンモニアも20ppm以下で臭気を帯びていなかった。
【0039】
実施例3
実施例1において、キレート剤としてイミノジコハク酸を2価金属化合物に対して6倍モル添加し、またL−アスパラギン酸アンモニウム水溶液および水酸化ナトリウム水溶液の供給速度をそれぞれ450g/hrおよび139g/hrに変更した(水酸化ナトリウム/L−アスパラギン酸アンモニウム(モル比)=2.34/1)以外は実施例1と同様に連続反応を行い、アンモニア濃度約15重量%のアンモニア水を85g/hr、L−アスパラギン酸ナトリウム水溶液(濃度:L−アスパラギン酸ジナトリウム換算で25重量%)を506g/hrの割合で得た。得られたL−アスパラギン酸ナトリウム水溶液中には析出物はなく、無色透明であった。また、残存するアンモニアも20ppm以下で臭気を帯びていなかった。
【0040】
実施例4
実施例1において、HIDSの添加量を12倍モルに、またL−アスパラギン酸アンモニウム水溶液および水酸化ナトリウム水溶液の供給速度をそれぞれ400g/hrおよび169g/hrに変更した(水酸化ナトリウム/L−アスパラギン酸アンモニウム(モル比)=3.2/1)以外は実施例1と同様に連続反応を行い、アンモニア濃度約15重量%のアンモニア水を76g/hr、L−アスパラギン酸ナトリウム水溶液(濃度:L−アスパラギン酸ジナトリウム塩換算で22重量%)を511g/hrの割合で得た。得られたL−アスパラギン酸ナトリウム水溶液中には析出物はなく、無色透明であった。また、残存するアンモニアも20ppm以下で臭気を帯びていなかった。
【0041】
実施例5
合成例1で得られたL−アスパラギン酸アンモニウム水溶液(23.8重量%)および水酸化ナトリウム水溶液(48重量%)をそれぞれ473g/hrおよび115g/hrの速度(水酸化ナトリウム/L−アスパラギン酸アンモニウム塩(モル比)=1.84/1)で蒸留塔上部から供給し、反応釜内温100〜103℃、蒸留塔上部蒸気温度94〜97℃で連続運転したところ、蒸留塔上部からアンモニア濃度約15重量%のアンモニア水を81g/hr、反応釜下部からL−アスパラギン酸ナトリウム水溶液(濃度:L−アスパラギン酸ジナトリウム塩換算で25.4重量%)を524g/hrの割合で得た。得られたL−アスパラギン酸ナトリウム水溶液中には析出物はなく、無色透明であった。また、残存するアンモニアも20ppm未満で臭気を帯びていなかった。
【0042】
実施例6
実施例5において、L−アスパラギン酸アンモニウム水溶液および水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ473g/hrおよび68g/hrの速度(水酸化ナトリウム/L−アスパラギン酸アンモニウム(モル比)=1.1/1)で供給した以外は実施例5と同様に連続運転を行い、アンモニア濃度約15重量%のアンモニア水を80g/hr、L−アスパラギン酸ナトリウム水溶液(濃度:アスパラギン酸ジナトリウム塩換算で27.5重量%)475g/hrの割合で得た。得られたL−アスパラギン酸ナトリウム水溶液中には析出物はなく、無色透明であった。また、残存するアンモニアも20ppm未満で臭気を帯びていなかった。
【0043】
実施例7
実施例1において、キレート剤としてHIDSの代わりに2倍モルのEDTAを用いた以外は実施例1と同様に反応を行った。蒸留塔上部からアンモニア濃度約15重量%のアンモニア水を97g/hr、反応釜下部からL−アスパラギン酸ナトリウム水溶液(濃度:L−アスパラギン酸ジナトリウム換算で26.4重量%)を540g/hrの割合で得た。得られたL−アスパラギン酸ナトリウム水溶液中には析出物はなく、無色透明であった。また、残存するアンモニアも20ppm未満で臭気を帯びていなかった。
【0044】
実施例8
実施例5で蒸留塔上部から回収したアンモニア濃度15重量%のアンモニア水660g、フマル酸400g、硫酸マグネシウム7水塩0.5gおよび蒸留水800mlからなる液を上記アンモニア水でpH8.5に調整した後、蒸留水を追加して2リットルの水溶液とした。合成例1に記載の酵素を吸着したイオン交換樹脂1.5リットルを充填した円筒カラムに上記水溶液を基質媒体として、1.5リットル/hrの速度で、カラム入口の温度が30℃になるように流通させた。ほぼ100%の転化率でL−アスパラギン酸アンモニウムが得られ、合成例1と同様の結果を得た。
【0045】
比較例1
実施例5において、L−アスパラギン酸アンモニウム水溶液および水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ473g/hrおよび35g/hrの速度(水酸化ナトリウム/L−アスパラギン酸アンモニウム(モル比)=0.56/1)で供給した以外は実施例5と同様に連続運転を行った。アンモニア濃度約15重量%のアンモニア水は60g/hrしか得られずアンモニア回収率は約70%にとどまった。また、残存するアンモニアは200ppmに達し臭気の点でも問題があった。
【0046】
比較例2
実施例5において、L−アスパラギン酸アンモニウム水溶液および水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ400g/hrおよび169g/hrの速度(水酸化ナトリウム/L−アスパラギン酸アンモニウム塩(モル比)=3.2/1)で供給した以外は実施例5と同様に連続運転を行い、アンモニア濃度約15重量%のアンモニア水を90g/hr、L−アスパラギン酸ナトリウム水溶液(濃度:L−アスパラギン酸ジナトリウム換算で22.5重量%)497g/hrの割合で得た。しかし、回収液は初期は無色透明であったが30分後には白濁がみられるようになり、更に実験を続けたところ蒸留塔下部に閉塞が起こり実験を中止するに至った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中でL−アスパラギン酸アンモニウムと金属水酸化物とを反応させてL−アスパラギン酸金属塩を製造するL−アスパラギン酸金属塩の製造方法であって、
上記反応において、上記L−アスパラギン酸アンモニウム1モルに対して、0.8〜2.2モルの範囲の上記金属水酸化物を用いることを特徴とするL−アスパラギン酸金属塩の製造方法。
【請求項2】
上記L−アスパラギン酸アンモニウムを、マレイン酸またはフマル酸と、アンモニアとを反応させて製造することを特徴とする請求項1に記載のL−アスパラギン酸金属塩の製造方法。
【請求項3】
上記L−アスパラギン酸金属塩の製造において発生するアンモニアを、上記L−アスパラギン酸アンモニウムの製造に循環し、再使用することを特徴とする請求項2に記載のL−アスパラギン酸金属塩の製造方法。

【公開番号】特開2007−238623(P2007−238623A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120285(P2007−120285)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【分割の表示】特願平8−236278の分割
【原出願日】平成8年9月6日(1996.9.6)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】