LDL受容体に対する抗体
【課題】LDL受容体に対する抗体を提供すること。
【解決手段】本発明は、LDL受容体ペプチド配列の195〜222アミノ酸(配列番号1)に対応するペプチドに結合した、ヒトLDL(低密度リポタンパク質)受容体に対するモノクローナル抗体と、薬物の形態でのその使用と、癌組織、健常組織、または無硬変組織もしくは硬変組織の免疫組織化学分析、ウエスタンブロット、ELISA、またはin vivo定量試験におけるその使用とに関する。
【解決手段】本発明は、LDL受容体ペプチド配列の195〜222アミノ酸(配列番号1)に対応するペプチドに結合した、ヒトLDL(低密度リポタンパク質)受容体に対するモノクローナル抗体と、薬物の形態でのその使用と、癌組織、健常組織、または無硬変組織もしくは硬変組織の免疫組織化学分析、ウエスタンブロット、ELISA、またはin vivo定量試験におけるその使用とに関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトLDL(低密度リポタンパク質)受容体についてのペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合する、ヒトLDL受容体に対して惹起されたモノクローナル抗体と、薬物としてのその使用と、この抗体を含有する医薬組成物と、癌組織、健常組織、もしくは硬変組織の免疫組織化学分析、ウエスタンブロット分析もしくはELISA分析、またはin vivo定量試験におけるその使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
コレステロールは、肝臓、腸、および副腎により合成される脂質であるが、食物によってもまた供給される。コレステロールは、性ホルモンの合成、天然コルチゾンなどのコルチコステロイド、および胆汁成分に関与している。
【0003】
血液に不溶性であることから、γ−コレステロールはリポタンパク質、特にLDL(低密度リポタンパク質)により輸送される。
【0004】
次に、コレステロールは、LDLを認識することができる細胞表面タンパク質であるLDL受容体(LDL−R)によって細胞に侵入する。次に、LDL/LDL−R複合体はエンドサイトーシスによりインターナリゼーションし、LDLはリソソームにより消化され、細胞が使用するためのコレステロールを放出する。
【0005】
コレステロール血症は、血中コレステロール濃度を指す。低コレステロール血症は血中のコレステロール不足を指し、それに対して高コレステロール血症は血中のコレステロール過剰を指す。
【0006】
高コレステロール血症は、LDLとLDL−Rとの結合の欠損が原因で、またはLDLのインターナリゼーションの欠損が原因で起こりうることが実証されている。これらの欠損は、これらの患者の間のLDL−Rの家族性構造変化により起こりうる(Beisiegelら、1981)。
【0007】
さらに、ある種の癌を有する患者が低コレステロール血症を患うことが研究から示された。この低コレステロール血症は、癌細胞によるコレステロールの使用過多の結果である。これらの癌細胞は、自分の生存のために腫瘍性器官の中のLDL受容体(LDL−R)の発現レベルの増加を誘導する(Henrickssonら、1989)。
【0008】
したがって、細胞によるLDL−R発現レベルの増加とある種の癌との間に相関がある。これらの癌には、特に前立腺癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、卵巣癌、結腸癌、肺癌、および胃癌、ならびに白血病がある。
【0009】
さらに、C型肝炎ウイルスのエンドサイトーシスはLDL−Rにより仲介されることが現在知られている。このように、LDL−Rはウイルス受容体として作用することができる。
【0010】
したがって、LDL−Rは、多数の重要な細胞生存メカニズムおよび多数の疾患状態に関与すると思われる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、LDL−Rの研究は、それが関与する疾患状態におけるその組織発現プロファイルを理解するためだけではなく、当該疾患状態の処置のための新しい治療手段の開発および研究にも関する大きな難題のままである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、この必要性を満たすために、本出願人はLDL−Rに感受性と特異性との両方を示すことにより、特に健常組織、腫瘍組織、または硬変組織の免疫組織化学分析、ウエスタンブロット分析およびELISA分析、もしくはin vivo定量試験でのLDL−Rの発現の研究に、または特に癌の治療に使用するための新しい治療ツールの開発にさえも特によく適合する新しいツールを開発しようとした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
したがって、本発明は、ヒトLDL(低密度リポタンパク質)受容体に対して惹起されたモノクローナル抗体に関する。
【0014】
本発明の第1の目的は、ヒトLDL(低密度リポタンパク質)受容体についてのペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合する、ヒトLDL受容体に対して惹起されたモノクローナル抗体に関する。
【0015】
ヒトLDL受容体(LDL−R)は、839アミノ酸からなる膜貫通タンパク質であり、3つの領域、すなわち細胞外領域(1〜768)、膜貫通領域(768〜790)、および細胞質領域(790〜839)を含む。細胞外領域は2つの小領域、すなわちLDL結合小領域(1〜322)とLDL結合領域以外の小領域(322〜768)とに分けられる。
【0016】
本発明による抗体は、LDL−Rペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに特異的に結合するように産生された。このペプチドは、LDL結合領域に存在する。このペプチドは、本発明による抗体に良好な接触性を示すことから、LDL結合領域にこのペプチドが存在することから、そしてこのペプチドの三次元コンホメーションから選択された。このペプチドは、そのアミノ酸組成が原因で免疫原性であるという性質もまた有する。
【0017】
したがって、このペプチドは、LDLの良好な競合物である故にLDL−Rに良好な親和性を示す抗体を産生する目的で、本発明による抗体の標的として選択された。このペプチドは、マウスLDL−Rとも85%の相同性を示し、このことは、ヒトおよびマウスにおいて交差反応する抗体の産生を可能にし、したがって、マウスでの試験(特に毒性試験)およびヒトでの使用の両方を実行する可能性を提供する。
【0018】
この特定のペプチドを選択する他の利点は、残りの説明を概説するうえで明らかとなるであろう。
【0019】
本発明のために、この抗体が結合するペプチドは、LDL−Rのアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに含まれるペプチドに対応することができる。さらに具体的には、用語「ペプチド」は、少なくとも2個のアミノ酸、好ましくは5から35個のアミノ酸、可能性があることには35個を超えるアミノ酸の連結により形成される任意の分子を表すと理解されたい。
【0020】
本発明の目的のために、用語「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」は、同一または独特な特異性を示す抗体分子の調製物を指す。
【0021】
さらに、「抗体」は、任意の抗体全体、および少なくとも1つの免疫グロブリンドメインまたは断片を有する任意のポリペプチド、ペプチド、またはタンパク質および任意の抗体誘導体を意味する。
【0022】
免疫グロブリン分子は、4つのポリペプチド、すなわちそれぞれ50kDaの2つの同一の重(H)鎖と、それぞれ25kDaの2つの同一の軽(L)鎖とからなる。軽鎖は2つのドメイン、すなわち可変ドメインVと定常ドメインCとからなり、これらは相互に独立した空間に折り畳まれている。これらのドメインは、「VL」および「CL」と呼ばれる。重鎖もまた、「VH」と呼ばれる1つのVドメインと、「CH1」から「CH4」と呼ばれる3つまたは4つのCドメインとを有する。各ドメインは、約110個のアミノ酸を有し、類似の構造をもつ。2つの重鎖はジスルフィド結合で結合し、各重鎖はジスルフィド結合により軽鎖ともまた結合している。
【0023】
抗原に対する抗体の特異性を決定する領域は、可変部に保有されるが、定常部は、エフェクター細胞のFc受容体または補体などの分子と相互作用して様々な機能的性質を仲介することができる。
【0024】
このように、用語「免疫グロブリンドメイン」は、以下のドメインの任意の1つを指す:VL、CL、VH、CH1、CH2、CH3、およびCH4。本発明による抗体は、有利にはこれらのドメインを1つまたは複数有し得、上記ドメインの全ての組合せが本発明の範囲内に入る。
【0025】
用語「免疫グロブリン断片」は、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fc断片から選択される断片の1つか、scFvか、またはCDR(相補性決定領域)を指す。
【0026】
パパインによる免疫グロブリンの酵素消化は、「Fab断片」(「抗原結合断片」断片)およびFc断片(結晶性断片)と呼ばれる2つの同一の断片を発生する。Fc断片は、免疫グロブリンのエフェクター機能を支える。
【0027】
ペプシン消化により、2つのFab断片が2つのジスルフィド結合により結合したF(ab’)2断片が発生し、Fc断片は多数のペプチドに開裂する。F(ab’)2断片は、鎖間ジスルフィド結合により結合してF(ab’)2を形成する2つのFab’断片からなる。
【0028】
重鎖および軽鎖の可変領域に関して、配列多様性が等しく分布していないことを理解することができる。実際に可変領域は、一方で「フレームワーク」(FR)領域(FR1からFR4の4つがある)として知られている非常に可変性が限られた領域と、他方で極度に可変性の領域とからなり、これらの極度に可変性の領域は、いわゆる「超可変」領域またはCDRであり、その領域には3つ(CDR1からCDR3)がある。
【0029】
scFv(可変一本鎖断片)は、モノクローナル抗体のVHおよびVL可変ドメインのみからなる断片であり、その構造は2つのドメインの間に位置する柔軟な短いペプチドアームにより安定化されている(Billialdら、1995)。当該断片は細菌により産生されることができる。これらの分子は、特異的な方法で抗原を認識する能力を有する。分子量が小さいことから(29kDa)、これらの分子は比較的低い免疫原性を示し、抗体全体よりも認容性が高い。
【0030】
したがって、本発明による抗体は、有利にはこれらの断片の1つまたは複数を有することがあるが、上記断片の組合せの全てが本発明の範囲内に入る。
【0031】
本発明の特定の一態様によると、本発明による抗体は、少なくとも1つの免疫グロブリンドメインと、少なくとも1つの免疫グロブリン断片、例えばFc断片と、1つまたは複数の可変領域または超可変領域とを有する。
【0032】
最後に、用語「抗体誘導体」は、1つまたは複数のアミノ酸残基の1つまたは複数の突然変異、置換、欠失、および/または付加を含み得る任意の抗体を指す。
【0033】
アミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合する特定の特徴および本明細書下記の性質を有する本発明による抗体は、有利にエフェクター細胞を動員させる。これに関して、「エフェクター細胞」は、抗体が結合した細胞(「標的細胞」)の破壊を引き起こす細胞である。さらに具体的には、エフェクター細胞はその表面にその抗体のFc断片に対する受容体を発現する。さらに、用語「動員」は、本発明による抗体が、標的細胞の破壊を引き起こすことのできる細胞と結合する能力を表す。この破壊は、溶解、すなわち内容物の放出を伴う標的細胞の破壊からなることがある。本発明による抗体が結合することのできるペプチド(「標的ペプチド」)は、LDL(LDL−Rの天然リガンド)の結合領域に位置し、その結果、本発明による抗体はLDLのよい競合物であり、したがって、LDL−Rに対して天然LDL−Rリガンドの親和性に匹敵する親和性を示す。
【0034】
この結合により、本発明による抗体は、本発明によるポリペプチドが結合する細胞、すなわち細胞表面にLDL−Rを発現する細胞(「標的細胞」)の破壊を引き起こすことのできる細胞を動員させる。
【0035】
用語「結合」は、標的ペプチドへのポリペプチドの結合および標的細胞の破壊を引き起こすことのできる細胞の結合を指す。
【0036】
エフェクター細胞は、NK(ナチュラルキラー)細胞であり得る。エフェクター細胞は、マクロファージ、好中球、T4リンパ球、T8リンパ球、または好酸球でもあり得る。これらの細胞は、細胞表面に本発明によるポリペプチドのFc断片に対する受容体を発現する。これらの抗体またはポリペプチドは、その可変断片を介して標的細胞に結合し、その定常断片を介してエフェクター細胞に結合する。標的細胞とエフェクター細胞との間のこの抗体依存的な関係は、ADCC(抗体依存性細胞性細胞傷害作用)型のメカニズムにより標的細胞の溶解を引き起こす。
【0037】
本発明による標的細胞は、有利には腫瘍細胞である。
【0038】
本発明による抗体は、有利には癌細胞(「標的細胞」)を破壊させる。実際に、エフェクター細胞の動員は、本発明による抗体が結合している細胞の破壊を伴う。そのうえ研究は、細胞によるLDL−R発現レベルの増加とある種の癌との間の相関を実証した。実際に、ある種の癌を有する患者が低コレステロール血症を患うことが見出された。この低コレステロール血症は、癌細胞によるコレステロールの過剰利用の結果である。癌細胞は、自分の生存のために腫瘍性器官中のLDL受容体(LDL−R)の発現レベルの増加を誘導する(Henrickssonら、1989)。これらには、特に前立腺癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、卵巣癌、結腸癌、肺癌、および胃癌、ならびに白血病がある。
【0039】
したがって、LDL−Rを過剰発現する癌細胞は、本発明による抗体の好ましい標的であろう。
【0040】
したがって、本発明の目的は、ヒトLDL(低密度リポタンパク質)受容体についてのペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合するヒトLDL受容体に対して惹起されたモノクローナル抗体である。
【0041】
有利には、本発明による抗体の各軽鎖の少なくとも1つのCDR(相補性決定領域)は、以下の配列、すなわち配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号18、配列番号19、配列番号20から選択される配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有する。そして、本発明による抗体の各重鎖の少なくとも1つのCDRは、以下の配列、すなわち配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号21、配列番号22、配列番号23から選択される配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有する。
【0042】
問題のCDRは、CDR1および/またはCDR2および/またはCDR3のCDRである。
【0043】
配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、および配列番号7の配列は、Kabat[Kabatら「Sequences of Proteins of Immunological Interest」、NIH Publication、91〜3242(1991)]により定義される。
【0044】
配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、および配列番号23の配列は、IMGT(International ImMunoGeneTics Database)解析[Lefranc,M.P.ら、Dev.Comp.Immunol.27、55〜77(2003)]により定義される。配列の変動性の分析のみに基づくKabatの定義とは異なり、この定義は、超可変ループの特徴付け[Chothia C.およびLesk A.M.、J.Mol.Biol.196:901〜17(1987)]および抗体構造の結晶解析を考慮し組み合わせている。
【0045】
特に有利には、上記各配列との同一性は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、90%、95%、または99%であり、なおさらに好ましくは100%である。同一率は、比較する2つの配列を整列させ、1つの同一のアミノ酸を有する位置の数を計数し、次にその数を配列中のアミノ酸の総数で割ることにより計算される。どの事象でも、これらの配列の差は、モノクローナル抗体のその標的に対する親和性にも、モノクローナル抗体が免疫エフェクター細胞を動員する能力にも決して影響しない。
【0046】
特に有利には、本発明による抗体の各軽鎖の各CDRは、以下の配列、すなわちそれぞれ配列番号2または配列番号18、配列番号3または配列番号19、配列番号4または配列番号20と少なくとも70%同一のペプチド配列を有する。そして、本発明による抗体の各重鎖の各CDRは、以下の配列、すなわちそれぞれ配列番号5または配列番号21、配列番号6または配列番号22、配列番号7または配列番号23と少なくとも70%同一のペプチド配列を有する。したがって、本発明による抗体の各軽鎖のCDR1領域は、配列番号2の配列または配列番号18の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有し、本発明による抗体の各軽鎖のCDR2領域は、配列番号3の配列または配列番号19の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有し、本発明による抗体の各軽鎖のCDR3領域は、配列番号4の配列または配列番号20の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有し、本発明による抗体の各重鎖のCDR1領域は、配列番号5の配列または配列番号21の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有し、本発明による抗体の各重鎖のCDR2領域は、配列番号6の配列または配列番号22の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有し、本発明による抗体の各重鎖のCDR3領域は、配列番号7の配列または配列番号23の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有する。特に有利には、上記各配列との同一性は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、90%、95%、または99%であり、なおさらに好ましくは100%である。
【0047】
有利には、本発明による抗体の各軽鎖の可変領域は、配列番号8の核酸配列と少なくとも70%同一の核酸配列によりコードされ、本発明による抗体の各重鎖の可変領域は、配列番号9の核酸配列と少なくとも70%同一の核酸配列によりコードされる。
【0048】
特に有利には、上記各配列との同一性は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは95%または99%である。同一率は、比較する2つの配列を整列させること、および1つの同一のヌクレオチドを有する位置の数を計数し、次にその数を配列中のヌクレオチドの総数で割ることにより計算される。遺伝暗号の縮重は、なぜ1つのアミノ酸が、種々のヌクレオチドの複数のトリプレットにコードされることができるかの理由でありうる。いずれにしても、これらの配列の差は、モノクローナル抗体のその標的に対する親和性に決して影響せず、モノクローナル抗体が免疫エフェクター細胞を動員する能力にも影響しない。
【0049】
好ましくは、本発明による抗体の各軽鎖の可変領域は、配列番号8の核酸配列によりコードされ、その各重鎖の可変領域は配列番号9の核酸配列によりコードされる。
【0050】
有利には、本発明による抗体の各軽鎖の可変領域は、配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも70%同一であり、その各重鎖の可変領域は配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも70%同一である。特に有利な方法では、上記各配列との同一性は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは95%または99%である。同一率は、比較する2つの配列を整列させること、および同一のアミノ酸を有する位置の数を計数し、次にその数を配列中のアミノ酸の総数で割ることによって計算される。
【0051】
好ましくは、本発明による抗体の各軽鎖の可変領域は、配列番号10のペプチド配列を有し、本発明による抗体の各重鎖の可変領域は、配列番号11のペプチド配列を有する。配列番号10のペプチド配列は、配列番号8のヌクレオチド配列から推定されるペプチド配列であり、配列番号11のペプチド配列は、配列番号9のヌクレオチド配列から推定されるペプチド配列である。
【0052】
本発明による抗体は、本発明の性質を示す任意の修飾された抗体もまた包含し、その抗体では1つまたは複数のアミノ酸が付加、置換、または欠失している。このような付加、置換、または欠失は分子中の任意の位置に位置してもよい。多数のアミノ酸が付加、置換、または欠失している場合に、任意の組合せの付加、置換、または欠失を考慮することができる。標的ペプチドと接触することができる残基の数を増加させるために、本発明による抗体の可変領域の配列にこのような改変を加えることができる。
【0053】
有利には、本発明による抗体は、F(ab’)2断片、Fab’断片、Fab断片、CDR、またはこれらの断片もしくはこの領域の任意の1つの任意の改変型であってもよい(すなわち、それからなってもよい)。
【0054】
本発明による抗体は、有利にはマウス抗体である。このマウス抗体は、有利にはIgG1κ抗体である。このような抗体は、動物、具体的にはマウスに、アミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドまたはLDL結合領域に位置する任意の他のヒトLDL−Rペプチドを免疫することにより産生されることができる。抗体を産生するための方法は、当業者に公知である。LDL−Rのアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに対して惹起されたモノクローナル抗体を産生する特定の一方法によると、LDL−R配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドは、フロイントアジュバントの存在下でBALB/cマウスに腹腔内注射することができる。フロイント不完全アジュバントの存在下で多数回の追加免疫を行う。マウスの免疫反応は、配列番号1のペプチドに対するELISAで血液試料によりモニターする。ハイブリドーマは、免疫されたマウス由来の脾臓細胞をPEG(ポリエチレングリコール)の存在下でマウス骨髄腫細胞と融合させて得る。次に、その細胞を培養し、配列番号1のペプチドに対するその細胞の反応をELISAで試験する。
【0055】
本発明による抗体は、有利にはキメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体である。
【0056】
本発明による抗体は、好ましくはキメラ抗体である。
【0057】
用語「キメラ抗体」は、軽鎖および重鎖の可変領域がその軽鎖および重鎖の定常領域の種とは異なる種に属する抗体を表す。したがって、本発明による抗体は、さらにはマウス可変領域および非マウス種に属する定常領域を有する。この点で、例えば特にヒト、サル、ネズミ科(マウス以外)、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、およびイヌを含む全ての科および種の非マウス哺乳類ならびに鳥類を使用することができる。なおさらに好ましくは、本発明による抗体の各軽鎖および各重鎖の定常領域はヒト定常領域である。本発明のこの好ましい実施形態は、ヒトにおける抗体の免疫原性を減少させることを可能にすることによって、ヒトに投与したときにその抗体の有効性を向上させることもまた可能にする。
【0058】
本発明の好ましい実施形態では、本発明による抗体の各軽鎖の定常領域はκ型領域である。本発明の実施形態には任意のアロタイプ、例えばKm(1)、Km(1,2)、Km(1,2,3)、またはKm(3)が適している。
【0059】
本発明の別の実施形態では、本発明による抗体の各軽鎖の定常領域は、λ型領域である。
【0060】
本発明の特定の一態様では、そして具体的には特に本発明による抗体の各軽鎖および各重鎖の定常領域がヒト領域である場合には、この抗体の各重鎖の定常領域はγ型領域である。この選択肢によれば、この抗体の各重鎖の定常領域はγ1、γ2、またはγ3型領域であり得(この3種類の定常領域は、ヒト補体と結合する特定の性質を有する)、またγ4型領域のことさえある。各重鎖の定常領域がγ型領域である抗体は、IgGクラスに属する。G型免疫グロブリン(IgG)は、相互にジスルフィド結合で結合した2つの重鎖および2つの軽鎖からなるヘテロ二量体である。N末端では、各鎖は抗原(それに対してこの抗体が惹起された)に特異的な(軽鎖については再配列されたV−J遺伝子に、重鎖については再配列されたV−D−J遺伝子によりコードされている)可変領域または可変ドメインからなる。そしてC末端では、各鎖は、軽鎖については単一のCLドメイン、または重鎖については3つのドメイン(CH1、CH2、およびCH3)からなる定常領域からなる。可変ドメインと、重鎖および軽鎖のCH1ドメインおよびCLドメインとが結合するとFab部が形成し、それは非常に柔軟なヒンジ領域によりFc領域に結合している。ヒンジ領域は、各Fabをその抗原標的に結合させるが、その一方で抗体のエフェクター性の仲介因子であるFc領域は、FcγR受容体およびC1qなどのエフェクター分子に接触可能なままである。2つの球状ドメイン(CH2およびCH3)からなるFc領域は、Asn297残基に結合する二分岐型N−グリカンが2つの鎖のそれぞれに存在して、CH2ドメインでグリコシル化されている。
【0061】
抗体の各重鎖の定常領域は好ましくはγ1型領域である。それは、このような抗体が最大数の個体(ヒト)にADCC(抗体依存性細胞性細胞傷害作用)活性を示す能力を発揮するからである。この点で、任意のアロタイプ、例えばG1m(3)、G1m(1,2,17)、G1m(1,17)、またはG1m(1,3)は、本発明の実施に適する。
【0062】
本発明によるキメラ抗体は、当業者に周知の標準的な組換えDNA技法を使用して、さらに具体的には、例えばMorrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851〜55(1984)に記載されているキメラ抗体構築技法(この技法では、非ヒト哺乳動物から得られた抗体の重鎖の定常領域および/または軽鎖の定常領域を、ヒト免疫グロブリンの対応する領域と置換するために組換えDNA技法が使用される)を使用して構築することができる。このような抗体およびその調製は、例えば特許公報EP173494、Neuberger,M.S.ら、Nature312(5995):604〜8(1985)の文献、およびEP125023の文献にもまた記載されている。キメラ抗体を発生させる方法は、当業者に広く利用することができる。例えば、抗体の重鎖および軽鎖は、各鎖についてベクターを使用することにより別々に発現させてもよいし、あるいは単一のベクターに組み込んでもよい。
【0063】
発現ベクターは、抗体の各重鎖または各軽鎖の可変ドメインをコードするマウス核酸配列、および抗体の各重鎖または各軽鎖の定常領域をコードする、好ましくはヒトである核酸配列を宿主細胞に導入して維持するために、それらの配列が挿入されている核酸分子である。発現ベクターは、これらの外来核酸断片の発現に不可欠な配列(プロモーター、ポリアデニル化配列、および選択遺伝子)を有することから、宿主細胞にこれらの外来核酸断片を発現させる。ベクターは、例えばプラスミド、アデノウイルス、レトロウイルス、またはバクテリオファージからなることがあり、宿主細胞は、任意の哺乳動物細胞、例えばSP2/0、YB2/0、IR983F、Namalwaヒト骨髄種、PERC6、CHO細胞系、特にCHO−K−1、CHO−Lec10、CHO−Lec1、CHO−Lec13、CHO Pro−5、CHO dhfr−、Wil−2、Jurkat、Vero、Molt−4、COS−7、293−HEK、BHK、K6H6、NS0、SP2/0−Ag14、およびP3X63Ag8.653であってもよい。
【0064】
本発明によるキメラ抗体のための発現ベクターを構築するために、PCR増幅反応時に適切な合成シグナル配列および制限部位を可変領域に融合させてもよい。次に、可変領域を抗体、好ましくはヒトIgG1の定常領域と組み合わせる。この方法で構築された遺伝子は、2つの別々のベクターを使用して(各鎖について1つ)、プロモーター(例えばRSVプロモーター)の制御下でポリアデニル化部位の上流にクローニングする。これらのベクターには、例えばdhfr遺伝子またはネオマイシン耐性遺伝子などの、当業者に公知の選択遺伝子もまた用意される。
【0065】
本発明によるキメラ抗体は、当業者に周知の方法(例えばリン酸カルシウムを用いた共沈、エレクトロポレーション、マイクロインジェクションなど)を使用して、宿主細胞に軽鎖の発現ベクターおよび重鎖の発現ベクターを同時トランスフェクションすることにより産生することができる。トランスフェクションの終わりに、選択培地、例えば5%透析血清(Invitrogen、参照品番10603−017)、500μg/mL G418(Invitrogen、参照品番10131−027)、および25nMメトトレキサート(Sigma、参照品番M8407)を含有するRPMI培地(Invitrogen、参照品番21875−034)に細胞を入れることができる。耐性のトランスフェクションウェルからの上清は、ヒトIg配列に特異的なELISAアッセイによりキメラ免疫グロブリン(Ig)の存在についてスクリーニングする。最多の抗体を産生するトランスフェクタントを増幅し、その上清は、細胞の生産性を推定し、限界希釈クローニング(40細胞/プレート)についての3つの最良産生細胞を選択するためにもう一度ELISAによりアッセイする。
【0066】
用語「ヒト化抗体」は、非ヒト起源の抗体由来のCDRを有し、抗体分子のその他の部分は1つ(または複数)のヒト抗体由来である抗体を表す。このような抗体は、当業者に周知のCDRグラフティング法により調製することができる[米国特許第5225539号および第6180370号;Jonesら、Nature321(6069):522〜5(1986);Verhoeyenら、Bioassays8(2):74〜8(1988);Riechmannら、Nature332:323〜7(1988);Queen C.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA86(24):10029〜33(1989);Lewis A.P.およびCrowe J.S.、Gene101(2):297〜302(1991);Daugherty B.L.ら、Nucleic Acids Res.19(9):2471〜6(1991);Carterら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:4285(1992);Singerら、J.Immunol.150(7):2844〜57(1993);およびPrestaら、J.Immunol.151:2623(1993)]。ヒト化抗体の産生のためにグラフトさせるヒト可変ドメインの選択は、その抗体の標的に対するその親和性を変えずに、その抗体の免疫原性を減少させるために重要である。ヒト化抗体を産生させる一方法において、マウス抗体の可変ドメインの配列は、ヒト可変領域の公知の配列のライブラリーと比較され、マウス配列に最も近いヒト可変配列は、ヒト化抗体のFR領域として選択される[Riechmannら、Nature332:323〜7(1988);Queen C.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86(24):10029〜33(1989);およびSimsら、J.Immunol.151:2296(1993)]。ヒトFR領域を選択するための別の方法は、各FR領域についてマウス配列に最も近いヒトFR配列を選択するために、マウスFR配列の各小領域(FR1、FR2、FR3、およびFR4)の配列を公知のヒトFR配列のライブラリーと比較することからなる[米国特許公報2003/0040606;Singerら、J.Immunol.150(7):2844〜57(1993);Sato K.ら、Mol.Immunol.31(5):371〜81(1994);およびLeung S.O.ら、Mol.Immunol.32(17〜18):1413〜27(1995)]。別の方法では、特定の重鎖または軽鎖亜群のヒト抗体全てのコンセンサス配列由来の特定のFR領域を使用する[Sato K.ら、Mol.Immunol.31(5):371〜81(1994)]。大部分の場合で、CDRグラフティングは、ヒト化抗体のその標的に対する良好な親和性を保つために、ヒトFRに位置するある主要な残基を突然変異させることにより完了する(Holmes M.A.およびFoote J.J.、Immunol.158(5):2192〜201(1997)]。
【0067】
本発明によるヒト化抗体は、in vitro診断法での使用に、またはin vivo予防法および/または治療法での使用に好ましい。
【0068】
この方法でキメラ化またはヒト化される本発明による抗体は、人体によりよく認容され、少なくともマウス抗体と同様に有効であるという利点を有する。特に有利には、この方法でキメラ化またはヒト化された抗体は、対応するマウス抗体よりも2倍の細胞傷害性である。なおさらに有利には、この方法でキメラ化またはヒト化された抗体は、対応するマウス抗体よりも10倍の、または100倍もの、または好ましくは100倍を超えた大きさの細胞傷害性である。
【0069】
用語「ヒト抗体」は、各領域がヒト抗体に由来する抗体を意味するものとして理解されるべきである。このような抗体は、ヒト抗体遺伝子を有するトランスジェニックマウス由来であってもよいし、ヒト細胞由来であってもよい[Jakobovitsら、Curr.Opin.Biotechnol.6(5):561〜6(1995年10月);Lonberg N.およびHuszar D.、Internal Review of Immunology 13:65〜93(1995);ならびにTomizuka K.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97(2):722〜727(2000)]。
【0070】
本発明による抗体は、有利には毒素と結合している。この毒素は、例えばジフテリア毒素またはリシンである。本発明による抗体と毒素との間の結合は、その毒素の全身放出を阻止するに足るほど強く、標的細胞に毒素を放出させるのに十分なほど不安定でもある。
【0071】
本発明の別の態様では、抗体は放射性同位体と結合している。放射性同位体の存在は、細胞傷害性を実質的に増加させる。2つの同位体、すなわち半減期が比較的長く(8日)、本発明による抗体と結合した腫瘍細胞の周囲約1mmの領域に殺腫瘍効果を有するヨウ素−131(βおよびγ放射体)が主に使用される。ヨウ素−131は、撮像を可能にする利点を有するが、放射線防護措置の遵守を必要とする。半減期がさらに短い(2.5日)イットリウム−90(β放射体)は、5mmの距離で殺腫瘍効果を有する。
【0072】
本発明による抗体は、有利には免疫エフェクター細胞を動員させる。実際に、本発明による抗体は、よいLDL競合物であり、LDL−Rに対するその親和性は天然LDL−Rリガンドの親和性に匹敵する。
【0073】
この抗体は、その良好な特異性および感受性のおかげでADCC(抗体依存性細胞性細胞傷害)反応を仲介するために使用することができるツールである。実際に、本発明による抗体は、例えばキメラ化またはヒト化することによってADCCを誘導するために修飾することができる。本発明による抗体は、免疫エフェクター細胞を動員させる。本発明のために、用語「免疫エフェクター細胞」は、本発明による抗体が結合している細胞(「標的細胞」)の破壊を引き起こす細胞を指すと理解されたい。さらに具体的には、エフェクター細胞は、細胞表面に抗体のFc領域に対する受容体を発現する。例えば、エフェクター細胞はNK(ナチュラルキラー)細胞である。エフェクター細胞は、マクロファージ、好中球、T4リンパ球、T8リンパ球、または好酸球のこともまたある。これらの細胞は、細胞表面に本発明による抗体のFc領域に対する受容体を有する。
【0074】
さらに、用語「動員」は、本発明によるポリペプチドが、標的細胞の破壊を引き起こすことのできる細胞と結合する能力を指す。この破壊は、溶解、すなわち標的細胞の内容物の放出を伴う標的細胞の破壊からなり得る。
【0075】
本発明による抗体は、有利には癌細胞を破壊させる。実際に、本発明による抗体によるエフェクター細胞の動員は、その抗体が結合している細胞(標的細胞)の破壊を伴う。したがって、LDL−Rを過剰発現している癌細胞は、本発明による抗体の好ましい標的であろう。したがって、LDL−Rを過剰発現しないか、限られた程度でしか過剰発現しないことから健常細胞は保たれるので、溶解した細胞はある程度特異的に癌細胞からなるであろう。
【0076】
特定の一実施形態では、この抗体はSP2/0−Ag14マウス細胞系(ATCC CRL 1581)で産生される。
【0077】
本発明による好ましい一抗体は、H12G4ハイブリドーマ(番号I−3487でCNCMに寄託されている)により産生される12G4抗体である。H12G4ハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体の各軽鎖の可変領域は、配列番号8の核酸配列によりコードされ、H12G4ハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体の各重鎖の可変領域は、配列番号9の核酸配列によりコードされる。
【0078】
本発明の特定の一目的は、LDL−Rに結合してエフェクター細胞を動員させるモノクローナル抗体に関する。この抗体は12G4抗体であるか、または12G4抗体の可変部を有する任意のキメラ抗体、ヒト化抗体、もしくはヒト抗体である。
【0079】
本発明の別の目的は、本明細書上記の、本発明による抗体を産生する安定な細胞系に関する。
【0080】
本発明による安定な細胞系は、有利にはSP2/0、YB2/0(ATCC番号CRL−1662でAmerican Type Culture Collectionに寄託されているYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞)、SP2/0−AG14(ATCC CRL−1581)、IR983F、Namalwaヒト骨髄種、PERC6、CHO細胞系、特にCHO−K−1、CHO−Lec10、CHO−Lec1、CHO−Lec13、CHO Pro−5、CHO dhfr−、Wil−2、Jurkat、Vero、Molt−4、COS−7、293−HEK、BHK、K6H6、NS0、SP2/0−Ag14、およびP3X63Ag8.653からなる群から選択される。
【0081】
本発明の別の目的は、Collection Nationale de Cultures de Microorganismes[National Microorganism Culture Collection](CNCM、Institut Pasteur、25 rue du Docteur Roux、F−75724 Paris Cedex 15)にCNCM登録番号I−3487で寄託されたH12G4ハイブリドーマに関する。
【0082】
本発明の別の目的は、本発明による抗体の重鎖の可変領域をコードする配列番号9の配列を有するDNA断片に関する。このDNA断片は、ヒトLDL受容体のペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合するポリペプチドの製造に使用することができ、そのポリペプチドは抗体であってもよい。
【0083】
本発明の別の目的は、本発明による抗体の軽鎖の可変領域をコードする配列番号8の配列を有するDNA断片に関する。同様に、このDNA断片は、ヒトLDL受容体のペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合するポリペプチドの製造に使用することができ、そのポリペプチドは抗体であってもよい。
【0084】
本発明の別の目的は、配列番号9および配列番号8を有する断片から選択される少なくとも1つのDNA断片を含む発現ベクターに関する。
【0085】
本発明の別の目的は、ヒトLDL受容体のペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドからなる。
【0086】
本発明の別の目的は、免疫エフェクター細胞のFcγRIII受容体をin vitroまたはin vivoで活性化するために本発明に従う抗体の使用である。実際に、本発明による抗体がそのFc領域によりFcγRIIIA受容体を活性化する能力から、その抗体を使用することができる。この受容体が「エフェクター細胞」として知られている細胞の表面に発現していることから、このことはかなり関心対象である。この抗体のFc領域の、エフェクター細胞が有するその受容体への結合は、FcγRIIIAの活性化および標的細胞の破壊を引き起こす。エフェクター細胞は、例えばNK(ナチュラルキラー)細胞、マクロファージ、好中球、CD8リンパ球、Tγδリンパ球、NKT細胞、好酸球、好塩基球、またはマスト細胞である。
【0087】
本発明の別の特別な目的は、薬物としての使用を意図した本明細書上記の抗体である。
【0088】
本発明の特定の一態様では、使用される抗体はヒトLDL受容体に結合され、エフェクター細胞を動員させる。この細胞傷害性抗体は、有利にはLDL受容体の細胞外領域の全てまたは一部に結合することができ、すなわちこの抗体はLDL結合領域(アミノ酸1〜322に対応する)またはLDL結合領域以外の領域(LDL−Rのアミノ酸322〜768に対応する)に結合することができる。この点に関して、LDL受容体のペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合する、本発明による抗体は、本発明のこの態様の特定の一実施形態である。
【0089】
さらに具体的には、本発明の一目的は、薬物の製造への本明細書上記の抗体の使用である。この細胞傷害性抗体は、有利にはヒトLDL受容体の細胞外領域の全てまたは一部に結合することができ、すなわちこの抗体はLDL結合領域(アミノ酸1〜322に対応する)またはLDL結合領域以外の領域(LDL−Rのアミノ酸322〜768に対応する)に結合することができる。この点に関して、ヒトLDL受容体のペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合する、本発明による抗体は、本発明のこの目的の特定の一実施形態である。
【0090】
本発明の別の目的は、癌の治療を意図した薬物の製造における、本明細書上記の抗体、すなわちLDL受容体の細胞外領域の全てまたは一部、有利にはアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合する能力を有する抗体の使用である。実際に、本発明による抗体は、特異的にLDL−Rを標的にする。この点に関して、本発明による抗体は、この受容体に結合すると、特異的には標的癌細胞に対するADCCにより標的癌細胞に溶解反応を引き起こし、その溶解を可能にする。したがって、LDL−Rを過剰発現しないか、限られた程度でしか発現しないことから健常細胞は保たれるので、溶解した細胞はある程度特異的に癌細胞からなるであろう。
【0091】
有利には、本発明による抗体を使用して治療される癌は、対応する健常細胞に比べてLDL受容体が癌細胞表面に過剰発現している癌である。
【0092】
特に有利には、治療される癌は、前立腺癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、胃癌、卵巣癌、結腸癌、もしくは肺癌、または白血病であり、これらの癌では、癌細胞膜表面でのLDL受容体の密度増加が観察される。標的癌細胞はADCC反応の間に動員されたエフェクター細胞により溶解されることができるが、LDL−Rを過剰発現しないことから健常細胞は保たれる。
【0093】
特に有利には、本発明による抗体は、急性骨髄性白血病、急性単球性白血病、骨髄性単球性白血病、急性転化した慢性骨髄性白血病、リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、ならびに類表皮子宮頸癌、子宮内膜腺癌、胃癌、肝細胞癌、絨毛癌、および脳腫瘍などの固形腫瘍を含む癌の治療を意図した薬物の調製に使用される。
【0094】
本発明の別の目的は、本明細書上記の本発明による抗体と、薬学的に許容できる賦形剤および/または担体とを含む医薬組成物に関する。この医薬組成物の目的は、癌細胞、具体的にはLDL−Rを過剰発現する癌細胞を標的にすることである。健常細胞により発現される受容体の量よりも多量のLDL受容体をこれらの癌細胞が細胞表面に発現することから、このように調製された薬物は、癌細胞により優先的に結合されるであろう。
【0095】
賦形剤は、医薬用途に適合性で、当業者に公知の食塩水、等張溶液、または緩衝溶液などの任意の溶液、および任意の懸濁液、ゲル、または粉末などである。本発明による組成物は、分散剤、可溶化剤、安定化剤、界面活性剤、保存料などから選択される1つまたは複数の薬剤または担体もまた含有してもよい。本発明による組成物は、他の薬剤または活性成分もまた含んでもよい。
【0096】
さらに、この組成物は、異なる方法で、異なる剤形で投与することができる。投与は、この種の治療アプローチについての任意の従来の経路、例えば具体的には特に静脈内注射、皮内注射、腫瘍内注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射、または動脈内注射などを含む全身経路からなっていてもよい。例えば、腫瘍内注射または腫瘍近くまたは腫瘍を潅注する領域での注射を参照することができる。
【0097】
薬用量は、投与回数、他の活性成分との関連、疾患状態の進行段階などに応じて変化することがある。
【0098】
本発明の別の目的は、癌組織、健常組織、もしくは硬変組織の免疫組織化学分析、またはウエスタンブロット分析もしくはELISA分析、またはin vivo定量試験における本発明による抗体の使用である。
【0099】
本発明の別の態様および利点を以下の実施例に記載するが、この実施例は例示であり、本発明の範囲を限定するものではないとみなさなければならない。
【実施例】
【0100】
実施例1:ヒトLDL受容体配列(配列番号1)のアミノ酸195〜222の配列に対応するペプチドに対して惹起されたモノクローナル抗体の産生、選択、および特徴付け
適切なペプチド配列の選択
LDL結合領域に位置する配列番号1の配列(ヒトLDL受容体配列のアミノ酸195〜222に対応する)に対応するペプチド断片を合成した。システイン残基のチオール基の酸化事象でのジスルフィド結合の形成を避けるために、(システイン残基をセリン残基に置換することによって)選択した配列番号1の配列を修飾した。対応する配列は、配列番号17の配列である。
ペプチド合成
ペプチドは、0.5mmol MBHA樹脂でBoc/Bzl法を使用して、ABI 433 Aモデル自動合成装置(Applied Biosystems Inc.、カリフォルニア州、米国)を用いた固相合成法により合成した。
質量分析
分子質量は、イオン−エレクトロスプレー質量分析により測定した。エレクトロスプレースペクトルは、イオンスプレー(ネブライザー補助エレクトロスプレー)源(Sciex、トロント、カナダ)を備えるイオン−エレクトロスプレーシングル四重極質量分析器でAPIシステム(Perkin−Elmer−Sciex)を使用して得た。
モノクローナル抗体の産生
配列番号1の配列に対応するペプチドに対して惹起されたモノクローナル抗体は、配列番号17に対応するペプチドの腹腔内注射により雄性BALB/cマウスを免疫することにより産生した。このペプチドは、等体積のフロイント完全アジュバントを用いて予め乳化させておいた。
【0101】
次に、フロイント不完全アジュバントの存在下で2週間毎に3回の注射を行った。最後の注射の4日後に動物の脾臓を除去し、次に細胞を単離し、ポリエチレングリコールなどの融合剤の存在下でSp2/0−Ag14マウス骨髄腫細胞と融合させた。次に、未融合の悪性細胞の増殖を阻害する選択培地(HAT培地)の中で融合細胞をインキュベートした。
【0102】
ハイブリドーマのモノクローナル性を調べるために、限界希釈によるサブクローニングを繰り返して行った。これらのサブクローニングの終わりに、配列番号1に対応するペプチドに対して惹起された抗体を産生する「H12G4」と呼ばれるハイブリドーマを選択した。このハイブリドーマは、サブクラス1のIgGクラスのメンバーである。
【0103】
所望の特異性、すなわち配列番号1に対応するペプチドに対する特異性を有するモノクローナル抗体の分泌について、ハイブリドーマH12G4により産生される抗体をELISAで試験した。
【0104】
プリスタンの注射を前もって受けた雄性BALB/cマウスから腹水を得て、そのマウスにH12G4ハイブリドーマの2×106細胞を注射した。
【0105】
27%硫酸アンモニウムを用いた沈殿によりモノクローナル抗体を単離し、次にプロテインAゲル(HiTrapプロテインA HPカラム、Amersham Bioscience、ウプサラ、スウェーデン)を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。保持されなかったタンパク質は、緩衝食塩水(PBS:50mmol/Lリン酸塩、pH7.2、150mmol/L NaCl)で洗い流した。配列番号1の配列に対応するペプチドに対して惹起された抗体に特異的なモノクローナルIgG免疫グロブリンの溶出は、0.2Mグリシン(pH2.8)を使用して行った。精製した抗体は直ちに10mmol/L PBSで透析し、凍結乾燥により濃縮し、次に−20℃で一定分量の0.5〜1mg±1%BSAに入れて保存した。
【0106】
これらの抗体を以後「抗LDL−R 12G4」抗体と呼ぶ。
ウエスタンブロット分析(図9)
抗LDL−R 12G4抗体は、ウエスタンブロット法により試験した。MDA−MB−231細胞の総タンパク質の抽出物をSDS−PAGEゲル(10%)で変性剤電気泳動に供し、次にニトロセルロース膜に移し、抗LDL−R 12G4抗体と反応させた。免疫反応性タンパク質は、ペルオキシダーゼ複合抗IgGモノクローナル抗体(Chemicon)を使用して可視化した。反応物の展色は化学ルミネセンス(Amersham Biosciences)により行った。
アイソタイプ分類
ハイブリドーマのアイソタイプ分類は、SBA Clonotyping System/HRPキット(SouthernBiotech)およびIsostrip Mouse Monoclonal Antibody Isotyping Test(Roche参照品番1493027)を使用してELISAで行った。
実施例2:癌細胞系におけるLDL−R発現レベルのスクリーニング
標識LDLの結合を研究することにより、LDL−Rの発現について以下の癌細胞系をスクリーニングした:HepG2、HeLa、MCF−7、Jurkat、Ramos、HuH7、およびHek293(図1および2)。この目的のために、超遠心分離によりLDL(密度=1.03〜1.053g/mL)を調製し、それをpH7.4のPBS緩衝液中で透析し、変性条件下のSDS−PAGEにより確認し、次に蛍光色素1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−テトラメチル−インドカルボシアニド(Dil)で標識した。LDL−Dilを終濃度0、10、および100μg/mLで細胞上で4℃で3時間インキュベートした。PBSで洗浄後に、FACS(蛍光標示式細胞分取)サイトフルオロメトリーにより結合を分析した。すなわち、所与の細胞集団中の各細胞の蛍光をFACScalibur装置(Becton Dickinson)を用いたフローサイトメトリーにより個別に測定した。測定したパラメーターは、FSC(Forward Scatter)、SSC(Side Scatter)、および488nmのアルゴンレーザを用いた励起後に波長530nmで発光した蛍光であった。結果を蛍光細胞の率で表した(図1)。
【0107】
図1に示した結果は、HepG2およびHeLa細胞がLDL−Rを最も強く発現することを示す。
【0108】
さらに、いくつかの乳癌細胞系を入手することができた:MCF7−ras、MDA−MB−435、およびMDA−MB−231。これらのヒト癌細胞系でのLDL−Rの発現は、この細胞系の標識LDLの結合を研究することにより検出した。この目的のために、LDL(d=1.03〜1.053)を超遠心分離により調製し、pH7.4のPBS緩衝液中で透析し、変性条件下のSDS−PAGEにより確認し、次に蛍光色素1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−テトラメチル−インドカルボシアニド(Dil)で標識した。LDL−Dilを終濃度6.25、12.5、25、50、および100μg/mLで細胞上で4℃で3時間インキュベートした。PBSで洗浄後に、結合をサイトフルオロメトリー(FACS)により分析し、結果を蛍光細胞の率で表した。
【0109】
このように、各細胞系をそのLDL−R発現レベルについて試験した(図2):MCF7−rasおよびMDA−MB−435細胞は、HepG2細胞の半分に等しいLDL−R発現レベルを有した。MDA−MB−231細胞は、高レベルでLDL−Rを発現する均一集団に相当した。
実施例3:実施例1で選択された配列番号1の配列に対応するペプチドに対して惹起されたモノクローナル抗体のin vitro機能試験
配列番号1の配列に対応するペプチドに対して惹起されたモノクローナル抗体の機能性は、細胞レベル(A549細胞およびMDA−MB−231細胞)でLDL−Rへの抗体の結合を研究すること;C2C12(マウス)、CHO−K1(ハムスター)、およびYB2/0(ラット)細胞上のLDL−Rとのこれらの抗体の交差反応性を研究すること;A549細胞のLDL受容体に対するこれらの抗体とLDLとの間の競合を研究すること;それらのインターナリゼーション動態を研究すること;ならびにこれらの抗体のアポトーシス促進性を研究することにより評価した。
A549細胞のLDL受容体への抗LDL−R 12G4抗体の結合の研究
LDL−Rへの抗LDL−R 12G4抗体の結合は、LPDS(リポタンパク質欠乏血清)の存在下で24時間増殖させたA549細胞の標識をフローサイトメトリー(FACS)で定量することにより評価した。この試験を行うために、抗LDL−R 12G4抗体を終濃度1、3、10、30、および100μg/mLで4℃で3時間インキュベートした。抗LDL−R 12G4抗体と同条件下で調製およびインキュベートした市販の1C6(抗SREBP2、IgG1、ATCC−LGC Promochem CRL−2224)およびC7(抗LDL−R、IgG2b、ATCC CRL−1691)抗体をそれぞれ陰性対照抗体および陽性対照抗体として使用した。抗IgG−PE二次抗体を使用して結合の検出を行った。結果を蛍光細胞の率(図4A)および平均蛍光(図4B)で表した。
【0110】
抗LDL−R 12G4抗体およびC7対照抗体は、A549細胞のLDL受容体を認識した。
MDA−MB−231細胞のLDL受容体への抗LDL−R 12G4抗体の結合の研究
MDA−MB−231細胞のLDL受容体への抗LDL−R 12G4抗体の結合は、A549細胞のLDL受容体への抗LDL−R 12G4抗体の結合の研究について説明したものと同じプロトコールに従って、LPDSの存在下で24時間増殖したMDA−MB−231細胞の標識をフローサイトメトリー(FACS)により定量することにより評価した。この試験を行うために、抗LDL−R 12G4抗体を終濃度1、3、10、30、および100μg/mLで4℃で3時間インキュベートした。抗LDL−R 12G4抗体と同条件下で調製およびインキュベートした市販の1C6(抗SREBP2、IgG1)抗体およびC7(抗LDL−R、IgG2b)抗体をそれぞれ陰性対照抗体および陽性対照抗体として使用した。結合の検出は抗IgG−PE抗体を使用して行った。結果を蛍光細胞の率(図5A)および平均蛍光(図5B)で表した。
【0111】
低抗体濃度(1〜3μg/mL)で、C7対照抗体は、抗LDL−R 12G4抗体よりも有意にMDA−MB−231細胞のLDL受容体に結合した。他方では高濃度(10〜100μg/mL)で、抗LDL−R 12G4抗体はC7抗体よりも有意にLDL−Rを認識した。
C2C12細胞、CHO−K1細胞、およびYB2/0細胞のLDL受容体への抗LDL−R 12G4抗体の交差反応性の研究
抗LDL−R抗体の交差反応性は、マウス(C2C12細胞)、ラット(YB2/0細胞)、およびハムスター(CHO−K1細胞)で試験した。前もってLPDS条件下で24時間培養しておいたC2C12細胞、CHO−K1細胞、およびYB2/0細胞を用いて、抗LDL−R 12G4抗体を終濃度30μg/mLで4℃で3時間インキュベートした。市販の1C6(抗SREBP2、IgG)抗体およびC7(抗LDL−R、IgG2b)抗体をそれぞれ陰性対照抗体および陽性対照抗体として使用した。結合の検出は、抗IgG PE抗体を使用して行った。結果を蛍光細胞の率(図6A)および平均蛍光(図6B)で表した。
【0112】
抗LDL−R 12G4抗体だけがマウス、ラット、ハムスターと交差反応した。C7抗体はマウスともハムスターとも交差反応しなかったが、ラットとは非常にわずかな程度の交差反応性を実際に示した。
A549細胞上の抗LDL−R 12G4抗体とLDLとの競合の研究
LDLと抗LDL−R 12G4抗体との競合は、A549細胞に対して、増加する濃度の未標識LDL(抗体濃度の1、4、および16倍をnMで表したもの)と競合している抗LDL−R 12G4抗体(30μg/mL)の結合を4℃で3時間試験することにより研究した。結合の検出は、抗IgG−PE抗体を使用して行った。次に、LDL−Rへの抗体の結合をFACSにより分析し、その結果を平均蛍光で表した(図7)。
【0113】
抗体とLDLとの競合のこの試験は、A549細胞のLDL受容体へのC7抗体の結合が、培地への生理学的濃度のLDLの添加により減少しなかったことを実証することを可能にした。これは、C7抗体がLDLと同じ部位に結合しないことを意味する。他方では、抗LDL−R 12G4抗体は、LDLの存在下でLDL−Rとあまりよく結合しない(LDLの不在下で蛍光平均55、16倍過剰のLDLと一緒では蛍光平均20であり、結合の60%の減少)。これらの結果は、抗LDL−R 12G4抗体の結合部位がLDLの結合部位と同じであることを示唆している。
抗LDL−R 12G4抗体のインターナリゼーション動態
抗LDL−R 12G4抗体のインターナリゼーション動態は、ローダミン(NHS−ローダミン、Pierce、参照品番46102)で標識した抗体(30μg/mL)をA549細胞上で37℃でインキュベーションしたときに24時間にわたり研究した。ローダミン標識C7対照抗体(30μg/mL)およびLDL−Dil(30μg/mL)のインターナリゼーション動態を並行して研究した。2、4、6、および24時間のインキュベーションの後で、結合しているがインターナリゼーションしていない抗体/LDL−Dilは、硫酸デキストランを用いて離し、蛍光定量法により定量した。次に、A549細胞をソーダ(0.1N)で溶解させ、次にインターナリゼーションした抗体の量を蛍光定量法により定量した。インターナリゼーション率は以下の式により計算した:インターナリゼーションした抗体の蛍光/(インターナリゼーションした抗体の蛍光+結合しているがインターナリゼーションしていない抗体の蛍光)。
【0114】
抗LDL−R 12G4抗体のインターナリゼーション動態は、LDLの動態(4時間後に60%のインターナリゼーションとなって最も迅速な動態)と、少し低速でインターナリゼーションしたC7の動態との間の中程度であった(図8)。LDLと同様に、抗体のインターナリゼーション動態は二相性で、最初の4から6時間に急速にインターナリゼーションした。6時間のインキュベーション後に、試験した3つの抗体は同じインターナリゼーション速度を示し、24時間後には60%程度でインターナリゼーションのプラトーとなった。
抗LDL−R 12G4抗体のアポトーシス促進性の研究
抗LDL−R 12G4抗体の存在下および不在下でのA549細胞の増殖は、FITC−アネキシンV(初期にアポトーシス細胞のホスファチジルセリンに結合する)およびヨウ化プロピジウム(PI、細胞膜が損傷した壊死細胞だけを標識する)を用いた二重標識によりフローサイトメトリー(FACS)で研究した。この試験を行うために、抗LDL−R 12G4抗体を終濃度30μg/mLで37℃で16時間(ADCC試験の時間)インキュベートした。抗LDL−R 12G4抗体と同じ条件下で調製およびインキュベートした市販の1C6(抗SREBP2、IgG1)およびC7(抗LDL−R、IgG2b)抗体を参照として使用した。抗体不在の細胞からなる陰性対照およびカンプトテシンとインキュベートした細胞からなる陽性対照を並行して調製した。
【0115】
抗LDL−R 12G4抗体は、16時間のインキュベーション後にA549細胞に強いアポトーシス促進作用を示さなかった。
実施例4:in vivo研究
選択した動物モデルは、ヌードマウスへのヒト腫瘍組織の異種移植からなるモデルであった。腫瘍細胞の異種移植片を皮下に埋め込んだ。
異種移植片のためのヒト癌細胞系の選択
− LDL−Rの発現についての細胞系のスクリーニング
以下のいくつかの乳癌細胞系を利用することができた:MCF7−ras、MDA−MB−435、およびMDA−MB−231。本発明者らの研究について、埋め込む細胞系の選択はLDL−R発現レベルに依存した。これらのヒト癌細胞系でのLDL−Rの発現は、標識LDLのこの細胞系への結合を研究することによって検出した。この目的のために、LDL(d=1.03〜1.053g/mL)を超遠心分離により調製し、それをpH7.4のPBS緩衝液中で透析し、変性条件下でSDS−PAGEにより確認し、次に蛍光色素1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−テトラメチル−インドカルボシアニド(Dil)で標識した。LDL−Dilを終濃度6.25、12.5、25、50、および100μg/mLで細胞上で4℃で3時間インキュベートした。PBSで洗浄後に、サイトフルオロメトリー(FACS)により結合を分析し、結果を蛍光細胞の率で表した。
【0116】
したがって、各細胞系をそのLDL−R発現レベルについて試験した(図2および3):MCF7−rasおよびMDA−MB−435細胞は、HepG2細胞の半分に等しいLDL−R発現レベルを有した。MDA−MB−231細胞は、高レベルでLDL−Rを発現する均一集団に相当した。これらの結果を考慮して、埋め込む細胞系としてMDA−MB−231細胞を選択した。
− 異種移植片についての埋め込む細胞数の決定
ヌードマウスに埋め込む細胞数の関数としての腫瘍の発病速度を研究した。この研究は、0.5×106、106、2×106、および5×106細胞の埋め込みに集中した。
− MDA−MB−231細胞のLDL受容体への抗LDL−R 12G4抗体の結合
LDL−Rへの抗LDL−R 12G4抗体の結合は、MDA−MB−231細胞を用いて、HepG2細胞のLDL受容体への抗LDL−R 12G4抗体の結合の研究(実施例2)と同じプロトコールにより研究したが、抗体が直接標識されていないので間接的に研究した。抗体をMDA−MB−231細胞上で4℃で3時間インキュベートし、次にFACS分析のためにFITC複合抗IgGモノクローナル抗体を用いて検出した。結果を蛍光細胞の率で表現した。
− MDA−MB−231細胞での抗LDL−R 12G4抗体とLDLの競合の研究
LDLと抗LDL−R 12G4抗体との競合は、MDA−MB−231細胞に対して、増加する濃度(6.25、12.5、25、50、および80μg/mL)の抗LDL−R 12G4抗体と競合しているDil標識LDL(12.5μg/mL)の結合を、4℃で3時間試験することによって研究した。次に、LDL−Rへの抗体の結合をFACSにより分析し、その結果を蛍光細胞の率で表した。
in vivoプロトコール
抗LDL−R 12G4抗体でマウスを処置するために選択したアプローチは、細胞系および抗体を同時に注射することからなった(Winn試験)。このアプローチは、抗体が腫瘍の形成を阻止する能力を評価することを可能にした。
【0117】
第1群(対照群)は、LDL−Rを認識しない抗LDL−R 12G4(IgG1)抗体と同じアイソタイプの対照抗体200μLに取り込んだ106個のMDA−MB−231細胞が埋め込まれ、細胞の埋込み後にその後の処置を行わなかったヌードマウス5匹からなった。
【0118】
第2群は、抗LDL−R 12G4抗体200μLに取り込んだ106個のMDA−MB−231細胞が埋め込まれ、細胞の埋込み後にその後の処置を行わなかったヌードマウス5匹からなった。
【0119】
MDA−MB−231細胞および抗LDL−R 12G4抗体の同時埋込み後に、ヌードマウスを抗LDL−R 12G4抗体で4週間の試験中に週に2回処置することからなるWinn試験の「修正」アプローチもまた実行した(第3群)。第3群は、抗LDL−R 12G4抗体200μLに取り込んだ106個のMDA−MB−231細胞を埋め込み、週に2回抗LDL−R 12G4抗体500μgで腹腔内処置した(細胞の埋込みの3から4時間後に最初の500μg処置を適用した)5匹のヌードマウスからなった。
【0120】
マウスを毎日調べ、体重増加および腫瘍のサイズを週に3回測定した。4週間のプロトコールの終わりに、マウスを犠牲にし、肝臓、心臓、腎臓、および脾臓を回収し、各群5匹のマウスのそれぞれについて−80℃で凍結した。マウスの血清もまた収集し、凍結した。
実施例5:治療の実現可能性の研究
治療の実現可能性の研究目標は、種々の種類の癌において癌組織でのLDL−Rの過剰発現を健常組織と比較して検出することであった。この目的のために、肝細胞癌のウエスタンブロット(WB)分析を行った。
【0121】
アルコール誘導性肝硬変(患者3人)と共に、またはC型肝炎ウイルス感染により起こった肝硬変(患者15人)と共に発生した肝細胞癌(HCC)を有する患者から得た組織を使用してウエスタンブロット分析を行った。各患者について2つの組織試料を用意した:(i)硬変領域であるが非腫瘍領域から採取した試料、および(ii)同患者から得た、腫瘍組織から採取した試料(最低70%の腫瘍性肝細胞を有する)。
【0122】
ウサギポリクローナル抗LDL−R抗体(Research Diagnostics Inc.)を使用して、これらの組織にウエスタンブロット型の分析を行った。成熟型LDL−Rに対応する160kDaのバンドを硬変組織および癌組織の両方で観察した。このバンドに加えて、未成熟(非グリコシル化)型LDL−Rに対応する120kDaのバンドもまた存在した。
【0123】
アクチンに対して基準化した、成熟LDL−Rに対応するバンドの定量は、以下の検出を可能にした。
− アルコール誘導性肝硬変と共に発生したHCCを有する患者3人およびC型肝炎ウイルス感染により起こった肝硬変と共に発生したHCCを有する患者15人のうち2人の健常組織におけるLDL−Rの過剰発現。
− C型肝炎ウイルス感染により起こった肝硬変と共に発生したHCCを有する患者15人のうち7人の癌組織でのLDL−Rの過剰発現(これらの患者の間の過剰発現レベルは2から14倍であった)。
− C型肝炎ウイルス感染により起こった肝硬変と共に発生したHCCを有する患者6人は、LDL−R発現に関して全く差を示さなかった。
実施例6:抗体の特異性の研究
10%ホルモール中で固定した54個の異なる正常ヒト組織に対応する108個のスポットを有する正常ヒト組織マイクロアレイスライドを用いて免疫組織化学研究を行った。C7抗体を1/10(10μg/mL)に希釈し、抗LDL−R 12G4を1/50(2μg/mL)に希釈した。抗原を用いた再活性化は、マイクロ波(750ワットで5分間3回、10mMクエン酸緩衝液(pH6)中)を使用して行った。
【0124】
標識の不在は、採用した抗体に関係なく造血系(扁桃、脾臓、およびリンパ節)、筋組織(心臓および横紋骨格筋)、皮膚、および乳房組織で観察された。中枢神経系(大脳皮質、小脳、中心核、海馬、および脊髄)、副腎(皮質および髄質)、肝臓、および胆嚢を2つの抗体で標識した。抗LDL−R 12G4抗体およびC7抗体は、精巣、結腸、および膵臓を標識し、後者の2つの器官については抗LDL−R 12G4抗体を用いた方がよく標識した。抗LDL−R 12G4抗体だけが、胃粘膜、頬粘膜および子宮頸膣部粘膜の基底細胞層、ならびに様々な尿細管を標識した。
【0125】
これらの結果は、副腎、肝臓、中枢神経系、精巣、および腎臓がLDL−Rを強く発現する組織として記載されていることから、LDL−Rの組織分布に関する文献と一致するものである。抗LDL−R 12G4抗体およびC7抗体は、等しい強度の標識を生じるが、抗LDL−R 12G4抗体の方がやや大きい強度を有する。その良好な感受性およびその特異性により、抗LDL−R 12G4抗体を乳腺癌の免疫組織化学分析のために選択した。
乳腺癌の免疫組織化学分析
LDL−Rの発現を34個の乳腺癌および隣接する非腫瘍組織に関して抗LDL−R 12G4抗体を用いて免疫組織化学的に研究した。
【0126】
標識の強度は強く、標識を観察(試料の65%)した各回で、腫瘍細胞だけが標識され、癌細胞にLDL−Rが過剰発現していることが示された。
実施例7:抗LDL−R 12G4抗体の可変領域の増幅および配列決定
1.VHおよびVκ領域の増幅
IgG1κ型の免疫グロブリンを産生するマウス12G4ハイブリドーマの総RNAを抽出した(Macherey−Nagel Nucleospin RNAキット、参照品番740609.250)。12G4抗体の軽鎖(Vκ)および重鎖(VH)の可変ドメインは、5’RACE(cDNA末端の迅速増幅)技法(Invitrogen 5’RACEキット、参照品番18374.041)を使用して、軽鎖についてはマウス定常κ領域(Cκ)に、また重鎖についてはマウスG1領域にアンカーすることによって増幅した。
【0127】
簡潔には、マウス定常領域Cκ領域またはG1領域の5’領域に位置するプライマーを使用して初回の逆転写期をまず行った。次に、ポリdC配列を認識する5’プライマーおよび逆転写プライマーの5’末端でマウス定常Cκ領域またはG1領域に位置する3’プライマーを使用してVκ領域およびVH領域の増幅前に合成したcDNAの3’末端にポリdC配列を付加した。増幅の特異性を改善するために、初回PCRの3’プライマーの5’末端に位置する3’プライマーを使用して、PCR VH産物について第2の「半ネステッド」PCRを行った。
【0128】
これらの様々な段階に使用したプライマーを以下に列挙する:
1)逆転写プライマー
a.マウスκ特異的アンチセンスプライマー
5'-ACT GCC ATC AAT CTT CCA CTT GAC-3'(配列番号12)
b.マウスG1特異的アンチセンスプライマー
5'-CTGGACAGGGATCCAGAGTTCCA-3'(配列番号13)
2)5’RACE PCRプライマー
a.マウスκ特異的アンチセンスプライマー
5'-TTGTTCAAGAAGCACACGACTGAGGCAC-3'(配列番号14)
b.マウスG1特異的アンチセンスプライマー
第1PCRプライマー:
5'-TGTCACTGGCTCAGGGAAATAGCCCTTGAC-3'(配列番号15)
「半ネステッド」PCRプライマー:
5'-CACCATGGAGTTAGTTTGGGCAGCAGATCCA-3'(配列番号16)
2.VH領域およびVκ領域の配列の決定
増幅後に、12G4抗体のVκ配列およびVH配列をpCR4−TOPOプラスミド(TOPO−TA−Cloning Kit for Sequencing、Invitrogen、参照品番45−0030)にクローニングした。少なくとも3つの組換えコロニーからのプラスミドを精製し、M13−uniおよびM13−revユニバーサルプライマーを使用してそれらの挿入物を配列決定した。
【0129】
12G4マウス抗体のVκ領域のヌクレオチド配列を配列番号8の配列に示す、推定されるペプチド配列は配列番号10の配列である。Vκ遺伝子はVκ8亜群に属する(Almagro J.C.ら、Immunogenetics 1998、47:355〜363)。Kabat[Kabatら「Sequences of Proteins of Immunological Interest」NIH Publication、91〜3242(1991)]に従い定義されたマウス12G4抗体のVκ領域のCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ配列番号2、配列番号3、および配列番号4の配列に示す。IMGT(International ImMunoGeneTics Database)分析[Lefranc, M.P.ら、Dev. Comp. Immunol. 27、55〜77(2003)]に従い定義されたマウス12G4抗体のVκ領域のCDR1−IMGT、CDR2−IMGT、およびCDR3−IMGT配列は、それぞれ配列番号18、配列番号19、および配列番号20の配列に示す。配列の変動性の分析のみに基づくKabatの定義とは異なり、この定義は、超可変ループの特徴付け[Chothia C.およびLesk A.M.、J.Mol.Biol.196:901〜17(1987)]および抗体構造の結晶解析を考慮し組み合わせている。
【0130】
12G4のVH領域のヌクレオチド配列は配列番号9の配列であり、推定されるペプチド配列は配列番号11の配列である。VH遺伝子はVH9亜群に属する(Honjo T.およびMatsuda F.「Immunoglobulin genes」Honjo T.およびAlt F.W.編、Academic Press、ロンドン、1996、145〜171頁)。Kabat(Kabatら「Sequences of Proteins of Immunological Interest」NIH Publication、91〜3242(1991)]に従い定義されたマウス12G4抗体のVH領域のCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ配列番号5、配列番号6、および配列番号7の配列に示す。IMGT(International ImMunoGeneTics Database)分析[Lefranc,M.P.ら、Dev.Comp.Immunol.27、55〜77(2003)]に従い定義されたマウス12G4抗体のVH領域のCDR1−IMGT、CDR2−IMGT、およびCDR3−IMGT配列は、それぞれ配列番号21、配列番号22、および配列番号23に示す。配列の変動性の分析のみに基づくKabatの定義とは異なり、この定義は、超可変ループの特徴付け[Chothia C.およびLesk A.M.、J.Mol.Biol.196:901〜17(1987)]および抗体構造の結晶解析を考慮し組み合わせている。
【0131】
【表1】
【0132】
【表2】
【0133】
【表3】
【0134】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】癌細胞系でのLDL−Rの発現レベルのスクリーニング(結果は任意の蛍光単位で表す)。
【図2】HepG2細胞へのLDL−Dilの結合(結果は蛍光細胞の率で表す)。
【図3】LDL−Rの発現についての乳癌細胞系のスクリーニング(結果は蛍光細胞の率で表す)。
【図4A】A549細胞への抗LDL−R 12G4抗体の結合(結果は蛍光細胞の率で表す)。抗LDL−R 12G4抗体はH12G4ハイブリドーマにより産生され、LDL受容体配列でのアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに対して惹起される。
【図4B】A549細胞への抗LDL−R 12G4抗体の結合(結果は平均蛍光で表す)。
【図5A】MDA−MB−231細胞への抗LDL−R 12G4抗体の結合(結果は蛍光細胞の率で表す)。
【図5B】MDA−MB−231細胞への抗LDL−R 12G4抗体の結合(結果は平均蛍光で表す)。
【図6A】C2C12細胞、CHO−K1細胞、およびYB2/0細胞での抗LDL−R 12G4抗体の交差反応性(結果は蛍光細胞の率で表す)。
【図6B】C2C12細胞、CHO−K1細胞、およびYB2/0細胞での抗LDL−R 12G4抗体の交差反応性(結果は平均蛍光で表す)。
【図7】A549細胞での抗LDL−R 12G4抗体とLDLとの競合(結果は平均蛍光で表す)。
【図8】A549細胞での抗LDL−R 12G4抗体のインターナリゼーション動態をLDLと共に示す(結果はインターナリゼーションの率で表す)。
【図9】ウエスタンブロットを用いた12G4抗体の特徴付け。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトLDL(低密度リポタンパク質)受容体についてのペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合する、ヒトLDL受容体に対して惹起されたモノクローナル抗体と、薬物としてのその使用と、この抗体を含有する医薬組成物と、癌組織、健常組織、もしくは硬変組織の免疫組織化学分析、ウエスタンブロット分析もしくはELISA分析、またはin vivo定量試験におけるその使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
コレステロールは、肝臓、腸、および副腎により合成される脂質であるが、食物によってもまた供給される。コレステロールは、性ホルモンの合成、天然コルチゾンなどのコルチコステロイド、および胆汁成分に関与している。
【0003】
血液に不溶性であることから、γ−コレステロールはリポタンパク質、特にLDL(低密度リポタンパク質)により輸送される。
【0004】
次に、コレステロールは、LDLを認識することができる細胞表面タンパク質であるLDL受容体(LDL−R)によって細胞に侵入する。次に、LDL/LDL−R複合体はエンドサイトーシスによりインターナリゼーションし、LDLはリソソームにより消化され、細胞が使用するためのコレステロールを放出する。
【0005】
コレステロール血症は、血中コレステロール濃度を指す。低コレステロール血症は血中のコレステロール不足を指し、それに対して高コレステロール血症は血中のコレステロール過剰を指す。
【0006】
高コレステロール血症は、LDLとLDL−Rとの結合の欠損が原因で、またはLDLのインターナリゼーションの欠損が原因で起こりうることが実証されている。これらの欠損は、これらの患者の間のLDL−Rの家族性構造変化により起こりうる(Beisiegelら、1981)。
【0007】
さらに、ある種の癌を有する患者が低コレステロール血症を患うことが研究から示された。この低コレステロール血症は、癌細胞によるコレステロールの使用過多の結果である。これらの癌細胞は、自分の生存のために腫瘍性器官の中のLDL受容体(LDL−R)の発現レベルの増加を誘導する(Henrickssonら、1989)。
【0008】
したがって、細胞によるLDL−R発現レベルの増加とある種の癌との間に相関がある。これらの癌には、特に前立腺癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、卵巣癌、結腸癌、肺癌、および胃癌、ならびに白血病がある。
【0009】
さらに、C型肝炎ウイルスのエンドサイトーシスはLDL−Rにより仲介されることが現在知られている。このように、LDL−Rはウイルス受容体として作用することができる。
【0010】
したがって、LDL−Rは、多数の重要な細胞生存メカニズムおよび多数の疾患状態に関与すると思われる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、LDL−Rの研究は、それが関与する疾患状態におけるその組織発現プロファイルを理解するためだけではなく、当該疾患状態の処置のための新しい治療手段の開発および研究にも関する大きな難題のままである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、この必要性を満たすために、本出願人はLDL−Rに感受性と特異性との両方を示すことにより、特に健常組織、腫瘍組織、または硬変組織の免疫組織化学分析、ウエスタンブロット分析およびELISA分析、もしくはin vivo定量試験でのLDL−Rの発現の研究に、または特に癌の治療に使用するための新しい治療ツールの開発にさえも特によく適合する新しいツールを開発しようとした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
したがって、本発明は、ヒトLDL(低密度リポタンパク質)受容体に対して惹起されたモノクローナル抗体に関する。
【0014】
本発明の第1の目的は、ヒトLDL(低密度リポタンパク質)受容体についてのペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合する、ヒトLDL受容体に対して惹起されたモノクローナル抗体に関する。
【0015】
ヒトLDL受容体(LDL−R)は、839アミノ酸からなる膜貫通タンパク質であり、3つの領域、すなわち細胞外領域(1〜768)、膜貫通領域(768〜790)、および細胞質領域(790〜839)を含む。細胞外領域は2つの小領域、すなわちLDL結合小領域(1〜322)とLDL結合領域以外の小領域(322〜768)とに分けられる。
【0016】
本発明による抗体は、LDL−Rペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに特異的に結合するように産生された。このペプチドは、LDL結合領域に存在する。このペプチドは、本発明による抗体に良好な接触性を示すことから、LDL結合領域にこのペプチドが存在することから、そしてこのペプチドの三次元コンホメーションから選択された。このペプチドは、そのアミノ酸組成が原因で免疫原性であるという性質もまた有する。
【0017】
したがって、このペプチドは、LDLの良好な競合物である故にLDL−Rに良好な親和性を示す抗体を産生する目的で、本発明による抗体の標的として選択された。このペプチドは、マウスLDL−Rとも85%の相同性を示し、このことは、ヒトおよびマウスにおいて交差反応する抗体の産生を可能にし、したがって、マウスでの試験(特に毒性試験)およびヒトでの使用の両方を実行する可能性を提供する。
【0018】
この特定のペプチドを選択する他の利点は、残りの説明を概説するうえで明らかとなるであろう。
【0019】
本発明のために、この抗体が結合するペプチドは、LDL−Rのアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに含まれるペプチドに対応することができる。さらに具体的には、用語「ペプチド」は、少なくとも2個のアミノ酸、好ましくは5から35個のアミノ酸、可能性があることには35個を超えるアミノ酸の連結により形成される任意の分子を表すと理解されたい。
【0020】
本発明の目的のために、用語「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」は、同一または独特な特異性を示す抗体分子の調製物を指す。
【0021】
さらに、「抗体」は、任意の抗体全体、および少なくとも1つの免疫グロブリンドメインまたは断片を有する任意のポリペプチド、ペプチド、またはタンパク質および任意の抗体誘導体を意味する。
【0022】
免疫グロブリン分子は、4つのポリペプチド、すなわちそれぞれ50kDaの2つの同一の重(H)鎖と、それぞれ25kDaの2つの同一の軽(L)鎖とからなる。軽鎖は2つのドメイン、すなわち可変ドメインVと定常ドメインCとからなり、これらは相互に独立した空間に折り畳まれている。これらのドメインは、「VL」および「CL」と呼ばれる。重鎖もまた、「VH」と呼ばれる1つのVドメインと、「CH1」から「CH4」と呼ばれる3つまたは4つのCドメインとを有する。各ドメインは、約110個のアミノ酸を有し、類似の構造をもつ。2つの重鎖はジスルフィド結合で結合し、各重鎖はジスルフィド結合により軽鎖ともまた結合している。
【0023】
抗原に対する抗体の特異性を決定する領域は、可変部に保有されるが、定常部は、エフェクター細胞のFc受容体または補体などの分子と相互作用して様々な機能的性質を仲介することができる。
【0024】
このように、用語「免疫グロブリンドメイン」は、以下のドメインの任意の1つを指す:VL、CL、VH、CH1、CH2、CH3、およびCH4。本発明による抗体は、有利にはこれらのドメインを1つまたは複数有し得、上記ドメインの全ての組合せが本発明の範囲内に入る。
【0025】
用語「免疫グロブリン断片」は、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fc断片から選択される断片の1つか、scFvか、またはCDR(相補性決定領域)を指す。
【0026】
パパインによる免疫グロブリンの酵素消化は、「Fab断片」(「抗原結合断片」断片)およびFc断片(結晶性断片)と呼ばれる2つの同一の断片を発生する。Fc断片は、免疫グロブリンのエフェクター機能を支える。
【0027】
ペプシン消化により、2つのFab断片が2つのジスルフィド結合により結合したF(ab’)2断片が発生し、Fc断片は多数のペプチドに開裂する。F(ab’)2断片は、鎖間ジスルフィド結合により結合してF(ab’)2を形成する2つのFab’断片からなる。
【0028】
重鎖および軽鎖の可変領域に関して、配列多様性が等しく分布していないことを理解することができる。実際に可変領域は、一方で「フレームワーク」(FR)領域(FR1からFR4の4つがある)として知られている非常に可変性が限られた領域と、他方で極度に可変性の領域とからなり、これらの極度に可変性の領域は、いわゆる「超可変」領域またはCDRであり、その領域には3つ(CDR1からCDR3)がある。
【0029】
scFv(可変一本鎖断片)は、モノクローナル抗体のVHおよびVL可変ドメインのみからなる断片であり、その構造は2つのドメインの間に位置する柔軟な短いペプチドアームにより安定化されている(Billialdら、1995)。当該断片は細菌により産生されることができる。これらの分子は、特異的な方法で抗原を認識する能力を有する。分子量が小さいことから(29kDa)、これらの分子は比較的低い免疫原性を示し、抗体全体よりも認容性が高い。
【0030】
したがって、本発明による抗体は、有利にはこれらの断片の1つまたは複数を有することがあるが、上記断片の組合せの全てが本発明の範囲内に入る。
【0031】
本発明の特定の一態様によると、本発明による抗体は、少なくとも1つの免疫グロブリンドメインと、少なくとも1つの免疫グロブリン断片、例えばFc断片と、1つまたは複数の可変領域または超可変領域とを有する。
【0032】
最後に、用語「抗体誘導体」は、1つまたは複数のアミノ酸残基の1つまたは複数の突然変異、置換、欠失、および/または付加を含み得る任意の抗体を指す。
【0033】
アミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合する特定の特徴および本明細書下記の性質を有する本発明による抗体は、有利にエフェクター細胞を動員させる。これに関して、「エフェクター細胞」は、抗体が結合した細胞(「標的細胞」)の破壊を引き起こす細胞である。さらに具体的には、エフェクター細胞はその表面にその抗体のFc断片に対する受容体を発現する。さらに、用語「動員」は、本発明による抗体が、標的細胞の破壊を引き起こすことのできる細胞と結合する能力を表す。この破壊は、溶解、すなわち内容物の放出を伴う標的細胞の破壊からなることがある。本発明による抗体が結合することのできるペプチド(「標的ペプチド」)は、LDL(LDL−Rの天然リガンド)の結合領域に位置し、その結果、本発明による抗体はLDLのよい競合物であり、したがって、LDL−Rに対して天然LDL−Rリガンドの親和性に匹敵する親和性を示す。
【0034】
この結合により、本発明による抗体は、本発明によるポリペプチドが結合する細胞、すなわち細胞表面にLDL−Rを発現する細胞(「標的細胞」)の破壊を引き起こすことのできる細胞を動員させる。
【0035】
用語「結合」は、標的ペプチドへのポリペプチドの結合および標的細胞の破壊を引き起こすことのできる細胞の結合を指す。
【0036】
エフェクター細胞は、NK(ナチュラルキラー)細胞であり得る。エフェクター細胞は、マクロファージ、好中球、T4リンパ球、T8リンパ球、または好酸球でもあり得る。これらの細胞は、細胞表面に本発明によるポリペプチドのFc断片に対する受容体を発現する。これらの抗体またはポリペプチドは、その可変断片を介して標的細胞に結合し、その定常断片を介してエフェクター細胞に結合する。標的細胞とエフェクター細胞との間のこの抗体依存的な関係は、ADCC(抗体依存性細胞性細胞傷害作用)型のメカニズムにより標的細胞の溶解を引き起こす。
【0037】
本発明による標的細胞は、有利には腫瘍細胞である。
【0038】
本発明による抗体は、有利には癌細胞(「標的細胞」)を破壊させる。実際に、エフェクター細胞の動員は、本発明による抗体が結合している細胞の破壊を伴う。そのうえ研究は、細胞によるLDL−R発現レベルの増加とある種の癌との間の相関を実証した。実際に、ある種の癌を有する患者が低コレステロール血症を患うことが見出された。この低コレステロール血症は、癌細胞によるコレステロールの過剰利用の結果である。癌細胞は、自分の生存のために腫瘍性器官中のLDL受容体(LDL−R)の発現レベルの増加を誘導する(Henrickssonら、1989)。これらには、特に前立腺癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、卵巣癌、結腸癌、肺癌、および胃癌、ならびに白血病がある。
【0039】
したがって、LDL−Rを過剰発現する癌細胞は、本発明による抗体の好ましい標的であろう。
【0040】
したがって、本発明の目的は、ヒトLDL(低密度リポタンパク質)受容体についてのペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合するヒトLDL受容体に対して惹起されたモノクローナル抗体である。
【0041】
有利には、本発明による抗体の各軽鎖の少なくとも1つのCDR(相補性決定領域)は、以下の配列、すなわち配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号18、配列番号19、配列番号20から選択される配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有する。そして、本発明による抗体の各重鎖の少なくとも1つのCDRは、以下の配列、すなわち配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号21、配列番号22、配列番号23から選択される配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有する。
【0042】
問題のCDRは、CDR1および/またはCDR2および/またはCDR3のCDRである。
【0043】
配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、および配列番号7の配列は、Kabat[Kabatら「Sequences of Proteins of Immunological Interest」、NIH Publication、91〜3242(1991)]により定義される。
【0044】
配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、および配列番号23の配列は、IMGT(International ImMunoGeneTics Database)解析[Lefranc,M.P.ら、Dev.Comp.Immunol.27、55〜77(2003)]により定義される。配列の変動性の分析のみに基づくKabatの定義とは異なり、この定義は、超可変ループの特徴付け[Chothia C.およびLesk A.M.、J.Mol.Biol.196:901〜17(1987)]および抗体構造の結晶解析を考慮し組み合わせている。
【0045】
特に有利には、上記各配列との同一性は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、90%、95%、または99%であり、なおさらに好ましくは100%である。同一率は、比較する2つの配列を整列させ、1つの同一のアミノ酸を有する位置の数を計数し、次にその数を配列中のアミノ酸の総数で割ることにより計算される。どの事象でも、これらの配列の差は、モノクローナル抗体のその標的に対する親和性にも、モノクローナル抗体が免疫エフェクター細胞を動員する能力にも決して影響しない。
【0046】
特に有利には、本発明による抗体の各軽鎖の各CDRは、以下の配列、すなわちそれぞれ配列番号2または配列番号18、配列番号3または配列番号19、配列番号4または配列番号20と少なくとも70%同一のペプチド配列を有する。そして、本発明による抗体の各重鎖の各CDRは、以下の配列、すなわちそれぞれ配列番号5または配列番号21、配列番号6または配列番号22、配列番号7または配列番号23と少なくとも70%同一のペプチド配列を有する。したがって、本発明による抗体の各軽鎖のCDR1領域は、配列番号2の配列または配列番号18の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有し、本発明による抗体の各軽鎖のCDR2領域は、配列番号3の配列または配列番号19の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有し、本発明による抗体の各軽鎖のCDR3領域は、配列番号4の配列または配列番号20の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有し、本発明による抗体の各重鎖のCDR1領域は、配列番号5の配列または配列番号21の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有し、本発明による抗体の各重鎖のCDR2領域は、配列番号6の配列または配列番号22の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有し、本発明による抗体の各重鎖のCDR3領域は、配列番号7の配列または配列番号23の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有する。特に有利には、上記各配列との同一性は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、90%、95%、または99%であり、なおさらに好ましくは100%である。
【0047】
有利には、本発明による抗体の各軽鎖の可変領域は、配列番号8の核酸配列と少なくとも70%同一の核酸配列によりコードされ、本発明による抗体の各重鎖の可変領域は、配列番号9の核酸配列と少なくとも70%同一の核酸配列によりコードされる。
【0048】
特に有利には、上記各配列との同一性は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは95%または99%である。同一率は、比較する2つの配列を整列させること、および1つの同一のヌクレオチドを有する位置の数を計数し、次にその数を配列中のヌクレオチドの総数で割ることにより計算される。遺伝暗号の縮重は、なぜ1つのアミノ酸が、種々のヌクレオチドの複数のトリプレットにコードされることができるかの理由でありうる。いずれにしても、これらの配列の差は、モノクローナル抗体のその標的に対する親和性に決して影響せず、モノクローナル抗体が免疫エフェクター細胞を動員する能力にも影響しない。
【0049】
好ましくは、本発明による抗体の各軽鎖の可変領域は、配列番号8の核酸配列によりコードされ、その各重鎖の可変領域は配列番号9の核酸配列によりコードされる。
【0050】
有利には、本発明による抗体の各軽鎖の可変領域は、配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも70%同一であり、その各重鎖の可変領域は配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも70%同一である。特に有利な方法では、上記各配列との同一性は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは95%または99%である。同一率は、比較する2つの配列を整列させること、および同一のアミノ酸を有する位置の数を計数し、次にその数を配列中のアミノ酸の総数で割ることによって計算される。
【0051】
好ましくは、本発明による抗体の各軽鎖の可変領域は、配列番号10のペプチド配列を有し、本発明による抗体の各重鎖の可変領域は、配列番号11のペプチド配列を有する。配列番号10のペプチド配列は、配列番号8のヌクレオチド配列から推定されるペプチド配列であり、配列番号11のペプチド配列は、配列番号9のヌクレオチド配列から推定されるペプチド配列である。
【0052】
本発明による抗体は、本発明の性質を示す任意の修飾された抗体もまた包含し、その抗体では1つまたは複数のアミノ酸が付加、置換、または欠失している。このような付加、置換、または欠失は分子中の任意の位置に位置してもよい。多数のアミノ酸が付加、置換、または欠失している場合に、任意の組合せの付加、置換、または欠失を考慮することができる。標的ペプチドと接触することができる残基の数を増加させるために、本発明による抗体の可変領域の配列にこのような改変を加えることができる。
【0053】
有利には、本発明による抗体は、F(ab’)2断片、Fab’断片、Fab断片、CDR、またはこれらの断片もしくはこの領域の任意の1つの任意の改変型であってもよい(すなわち、それからなってもよい)。
【0054】
本発明による抗体は、有利にはマウス抗体である。このマウス抗体は、有利にはIgG1κ抗体である。このような抗体は、動物、具体的にはマウスに、アミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドまたはLDL結合領域に位置する任意の他のヒトLDL−Rペプチドを免疫することにより産生されることができる。抗体を産生するための方法は、当業者に公知である。LDL−Rのアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに対して惹起されたモノクローナル抗体を産生する特定の一方法によると、LDL−R配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドは、フロイントアジュバントの存在下でBALB/cマウスに腹腔内注射することができる。フロイント不完全アジュバントの存在下で多数回の追加免疫を行う。マウスの免疫反応は、配列番号1のペプチドに対するELISAで血液試料によりモニターする。ハイブリドーマは、免疫されたマウス由来の脾臓細胞をPEG(ポリエチレングリコール)の存在下でマウス骨髄腫細胞と融合させて得る。次に、その細胞を培養し、配列番号1のペプチドに対するその細胞の反応をELISAで試験する。
【0055】
本発明による抗体は、有利にはキメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体である。
【0056】
本発明による抗体は、好ましくはキメラ抗体である。
【0057】
用語「キメラ抗体」は、軽鎖および重鎖の可変領域がその軽鎖および重鎖の定常領域の種とは異なる種に属する抗体を表す。したがって、本発明による抗体は、さらにはマウス可変領域および非マウス種に属する定常領域を有する。この点で、例えば特にヒト、サル、ネズミ科(マウス以外)、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、およびイヌを含む全ての科および種の非マウス哺乳類ならびに鳥類を使用することができる。なおさらに好ましくは、本発明による抗体の各軽鎖および各重鎖の定常領域はヒト定常領域である。本発明のこの好ましい実施形態は、ヒトにおける抗体の免疫原性を減少させることを可能にすることによって、ヒトに投与したときにその抗体の有効性を向上させることもまた可能にする。
【0058】
本発明の好ましい実施形態では、本発明による抗体の各軽鎖の定常領域はκ型領域である。本発明の実施形態には任意のアロタイプ、例えばKm(1)、Km(1,2)、Km(1,2,3)、またはKm(3)が適している。
【0059】
本発明の別の実施形態では、本発明による抗体の各軽鎖の定常領域は、λ型領域である。
【0060】
本発明の特定の一態様では、そして具体的には特に本発明による抗体の各軽鎖および各重鎖の定常領域がヒト領域である場合には、この抗体の各重鎖の定常領域はγ型領域である。この選択肢によれば、この抗体の各重鎖の定常領域はγ1、γ2、またはγ3型領域であり得(この3種類の定常領域は、ヒト補体と結合する特定の性質を有する)、またγ4型領域のことさえある。各重鎖の定常領域がγ型領域である抗体は、IgGクラスに属する。G型免疫グロブリン(IgG)は、相互にジスルフィド結合で結合した2つの重鎖および2つの軽鎖からなるヘテロ二量体である。N末端では、各鎖は抗原(それに対してこの抗体が惹起された)に特異的な(軽鎖については再配列されたV−J遺伝子に、重鎖については再配列されたV−D−J遺伝子によりコードされている)可変領域または可変ドメインからなる。そしてC末端では、各鎖は、軽鎖については単一のCLドメイン、または重鎖については3つのドメイン(CH1、CH2、およびCH3)からなる定常領域からなる。可変ドメインと、重鎖および軽鎖のCH1ドメインおよびCLドメインとが結合するとFab部が形成し、それは非常に柔軟なヒンジ領域によりFc領域に結合している。ヒンジ領域は、各Fabをその抗原標的に結合させるが、その一方で抗体のエフェクター性の仲介因子であるFc領域は、FcγR受容体およびC1qなどのエフェクター分子に接触可能なままである。2つの球状ドメイン(CH2およびCH3)からなるFc領域は、Asn297残基に結合する二分岐型N−グリカンが2つの鎖のそれぞれに存在して、CH2ドメインでグリコシル化されている。
【0061】
抗体の各重鎖の定常領域は好ましくはγ1型領域である。それは、このような抗体が最大数の個体(ヒト)にADCC(抗体依存性細胞性細胞傷害作用)活性を示す能力を発揮するからである。この点で、任意のアロタイプ、例えばG1m(3)、G1m(1,2,17)、G1m(1,17)、またはG1m(1,3)は、本発明の実施に適する。
【0062】
本発明によるキメラ抗体は、当業者に周知の標準的な組換えDNA技法を使用して、さらに具体的には、例えばMorrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851〜55(1984)に記載されているキメラ抗体構築技法(この技法では、非ヒト哺乳動物から得られた抗体の重鎖の定常領域および/または軽鎖の定常領域を、ヒト免疫グロブリンの対応する領域と置換するために組換えDNA技法が使用される)を使用して構築することができる。このような抗体およびその調製は、例えば特許公報EP173494、Neuberger,M.S.ら、Nature312(5995):604〜8(1985)の文献、およびEP125023の文献にもまた記載されている。キメラ抗体を発生させる方法は、当業者に広く利用することができる。例えば、抗体の重鎖および軽鎖は、各鎖についてベクターを使用することにより別々に発現させてもよいし、あるいは単一のベクターに組み込んでもよい。
【0063】
発現ベクターは、抗体の各重鎖または各軽鎖の可変ドメインをコードするマウス核酸配列、および抗体の各重鎖または各軽鎖の定常領域をコードする、好ましくはヒトである核酸配列を宿主細胞に導入して維持するために、それらの配列が挿入されている核酸分子である。発現ベクターは、これらの外来核酸断片の発現に不可欠な配列(プロモーター、ポリアデニル化配列、および選択遺伝子)を有することから、宿主細胞にこれらの外来核酸断片を発現させる。ベクターは、例えばプラスミド、アデノウイルス、レトロウイルス、またはバクテリオファージからなることがあり、宿主細胞は、任意の哺乳動物細胞、例えばSP2/0、YB2/0、IR983F、Namalwaヒト骨髄種、PERC6、CHO細胞系、特にCHO−K−1、CHO−Lec10、CHO−Lec1、CHO−Lec13、CHO Pro−5、CHO dhfr−、Wil−2、Jurkat、Vero、Molt−4、COS−7、293−HEK、BHK、K6H6、NS0、SP2/0−Ag14、およびP3X63Ag8.653であってもよい。
【0064】
本発明によるキメラ抗体のための発現ベクターを構築するために、PCR増幅反応時に適切な合成シグナル配列および制限部位を可変領域に融合させてもよい。次に、可変領域を抗体、好ましくはヒトIgG1の定常領域と組み合わせる。この方法で構築された遺伝子は、2つの別々のベクターを使用して(各鎖について1つ)、プロモーター(例えばRSVプロモーター)の制御下でポリアデニル化部位の上流にクローニングする。これらのベクターには、例えばdhfr遺伝子またはネオマイシン耐性遺伝子などの、当業者に公知の選択遺伝子もまた用意される。
【0065】
本発明によるキメラ抗体は、当業者に周知の方法(例えばリン酸カルシウムを用いた共沈、エレクトロポレーション、マイクロインジェクションなど)を使用して、宿主細胞に軽鎖の発現ベクターおよび重鎖の発現ベクターを同時トランスフェクションすることにより産生することができる。トランスフェクションの終わりに、選択培地、例えば5%透析血清(Invitrogen、参照品番10603−017)、500μg/mL G418(Invitrogen、参照品番10131−027)、および25nMメトトレキサート(Sigma、参照品番M8407)を含有するRPMI培地(Invitrogen、参照品番21875−034)に細胞を入れることができる。耐性のトランスフェクションウェルからの上清は、ヒトIg配列に特異的なELISAアッセイによりキメラ免疫グロブリン(Ig)の存在についてスクリーニングする。最多の抗体を産生するトランスフェクタントを増幅し、その上清は、細胞の生産性を推定し、限界希釈クローニング(40細胞/プレート)についての3つの最良産生細胞を選択するためにもう一度ELISAによりアッセイする。
【0066】
用語「ヒト化抗体」は、非ヒト起源の抗体由来のCDRを有し、抗体分子のその他の部分は1つ(または複数)のヒト抗体由来である抗体を表す。このような抗体は、当業者に周知のCDRグラフティング法により調製することができる[米国特許第5225539号および第6180370号;Jonesら、Nature321(6069):522〜5(1986);Verhoeyenら、Bioassays8(2):74〜8(1988);Riechmannら、Nature332:323〜7(1988);Queen C.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA86(24):10029〜33(1989);Lewis A.P.およびCrowe J.S.、Gene101(2):297〜302(1991);Daugherty B.L.ら、Nucleic Acids Res.19(9):2471〜6(1991);Carterら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:4285(1992);Singerら、J.Immunol.150(7):2844〜57(1993);およびPrestaら、J.Immunol.151:2623(1993)]。ヒト化抗体の産生のためにグラフトさせるヒト可変ドメインの選択は、その抗体の標的に対するその親和性を変えずに、その抗体の免疫原性を減少させるために重要である。ヒト化抗体を産生させる一方法において、マウス抗体の可変ドメインの配列は、ヒト可変領域の公知の配列のライブラリーと比較され、マウス配列に最も近いヒト可変配列は、ヒト化抗体のFR領域として選択される[Riechmannら、Nature332:323〜7(1988);Queen C.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86(24):10029〜33(1989);およびSimsら、J.Immunol.151:2296(1993)]。ヒトFR領域を選択するための別の方法は、各FR領域についてマウス配列に最も近いヒトFR配列を選択するために、マウスFR配列の各小領域(FR1、FR2、FR3、およびFR4)の配列を公知のヒトFR配列のライブラリーと比較することからなる[米国特許公報2003/0040606;Singerら、J.Immunol.150(7):2844〜57(1993);Sato K.ら、Mol.Immunol.31(5):371〜81(1994);およびLeung S.O.ら、Mol.Immunol.32(17〜18):1413〜27(1995)]。別の方法では、特定の重鎖または軽鎖亜群のヒト抗体全てのコンセンサス配列由来の特定のFR領域を使用する[Sato K.ら、Mol.Immunol.31(5):371〜81(1994)]。大部分の場合で、CDRグラフティングは、ヒト化抗体のその標的に対する良好な親和性を保つために、ヒトFRに位置するある主要な残基を突然変異させることにより完了する(Holmes M.A.およびFoote J.J.、Immunol.158(5):2192〜201(1997)]。
【0067】
本発明によるヒト化抗体は、in vitro診断法での使用に、またはin vivo予防法および/または治療法での使用に好ましい。
【0068】
この方法でキメラ化またはヒト化される本発明による抗体は、人体によりよく認容され、少なくともマウス抗体と同様に有効であるという利点を有する。特に有利には、この方法でキメラ化またはヒト化された抗体は、対応するマウス抗体よりも2倍の細胞傷害性である。なおさらに有利には、この方法でキメラ化またはヒト化された抗体は、対応するマウス抗体よりも10倍の、または100倍もの、または好ましくは100倍を超えた大きさの細胞傷害性である。
【0069】
用語「ヒト抗体」は、各領域がヒト抗体に由来する抗体を意味するものとして理解されるべきである。このような抗体は、ヒト抗体遺伝子を有するトランスジェニックマウス由来であってもよいし、ヒト細胞由来であってもよい[Jakobovitsら、Curr.Opin.Biotechnol.6(5):561〜6(1995年10月);Lonberg N.およびHuszar D.、Internal Review of Immunology 13:65〜93(1995);ならびにTomizuka K.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97(2):722〜727(2000)]。
【0070】
本発明による抗体は、有利には毒素と結合している。この毒素は、例えばジフテリア毒素またはリシンである。本発明による抗体と毒素との間の結合は、その毒素の全身放出を阻止するに足るほど強く、標的細胞に毒素を放出させるのに十分なほど不安定でもある。
【0071】
本発明の別の態様では、抗体は放射性同位体と結合している。放射性同位体の存在は、細胞傷害性を実質的に増加させる。2つの同位体、すなわち半減期が比較的長く(8日)、本発明による抗体と結合した腫瘍細胞の周囲約1mmの領域に殺腫瘍効果を有するヨウ素−131(βおよびγ放射体)が主に使用される。ヨウ素−131は、撮像を可能にする利点を有するが、放射線防護措置の遵守を必要とする。半減期がさらに短い(2.5日)イットリウム−90(β放射体)は、5mmの距離で殺腫瘍効果を有する。
【0072】
本発明による抗体は、有利には免疫エフェクター細胞を動員させる。実際に、本発明による抗体は、よいLDL競合物であり、LDL−Rに対するその親和性は天然LDL−Rリガンドの親和性に匹敵する。
【0073】
この抗体は、その良好な特異性および感受性のおかげでADCC(抗体依存性細胞性細胞傷害)反応を仲介するために使用することができるツールである。実際に、本発明による抗体は、例えばキメラ化またはヒト化することによってADCCを誘導するために修飾することができる。本発明による抗体は、免疫エフェクター細胞を動員させる。本発明のために、用語「免疫エフェクター細胞」は、本発明による抗体が結合している細胞(「標的細胞」)の破壊を引き起こす細胞を指すと理解されたい。さらに具体的には、エフェクター細胞は、細胞表面に抗体のFc領域に対する受容体を発現する。例えば、エフェクター細胞はNK(ナチュラルキラー)細胞である。エフェクター細胞は、マクロファージ、好中球、T4リンパ球、T8リンパ球、または好酸球のこともまたある。これらの細胞は、細胞表面に本発明による抗体のFc領域に対する受容体を有する。
【0074】
さらに、用語「動員」は、本発明によるポリペプチドが、標的細胞の破壊を引き起こすことのできる細胞と結合する能力を指す。この破壊は、溶解、すなわち標的細胞の内容物の放出を伴う標的細胞の破壊からなり得る。
【0075】
本発明による抗体は、有利には癌細胞を破壊させる。実際に、本発明による抗体によるエフェクター細胞の動員は、その抗体が結合している細胞(標的細胞)の破壊を伴う。したがって、LDL−Rを過剰発現している癌細胞は、本発明による抗体の好ましい標的であろう。したがって、LDL−Rを過剰発現しないか、限られた程度でしか過剰発現しないことから健常細胞は保たれるので、溶解した細胞はある程度特異的に癌細胞からなるであろう。
【0076】
特定の一実施形態では、この抗体はSP2/0−Ag14マウス細胞系(ATCC CRL 1581)で産生される。
【0077】
本発明による好ましい一抗体は、H12G4ハイブリドーマ(番号I−3487でCNCMに寄託されている)により産生される12G4抗体である。H12G4ハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体の各軽鎖の可変領域は、配列番号8の核酸配列によりコードされ、H12G4ハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体の各重鎖の可変領域は、配列番号9の核酸配列によりコードされる。
【0078】
本発明の特定の一目的は、LDL−Rに結合してエフェクター細胞を動員させるモノクローナル抗体に関する。この抗体は12G4抗体であるか、または12G4抗体の可変部を有する任意のキメラ抗体、ヒト化抗体、もしくはヒト抗体である。
【0079】
本発明の別の目的は、本明細書上記の、本発明による抗体を産生する安定な細胞系に関する。
【0080】
本発明による安定な細胞系は、有利にはSP2/0、YB2/0(ATCC番号CRL−1662でAmerican Type Culture Collectionに寄託されているYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞)、SP2/0−AG14(ATCC CRL−1581)、IR983F、Namalwaヒト骨髄種、PERC6、CHO細胞系、特にCHO−K−1、CHO−Lec10、CHO−Lec1、CHO−Lec13、CHO Pro−5、CHO dhfr−、Wil−2、Jurkat、Vero、Molt−4、COS−7、293−HEK、BHK、K6H6、NS0、SP2/0−Ag14、およびP3X63Ag8.653からなる群から選択される。
【0081】
本発明の別の目的は、Collection Nationale de Cultures de Microorganismes[National Microorganism Culture Collection](CNCM、Institut Pasteur、25 rue du Docteur Roux、F−75724 Paris Cedex 15)にCNCM登録番号I−3487で寄託されたH12G4ハイブリドーマに関する。
【0082】
本発明の別の目的は、本発明による抗体の重鎖の可変領域をコードする配列番号9の配列を有するDNA断片に関する。このDNA断片は、ヒトLDL受容体のペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合するポリペプチドの製造に使用することができ、そのポリペプチドは抗体であってもよい。
【0083】
本発明の別の目的は、本発明による抗体の軽鎖の可変領域をコードする配列番号8の配列を有するDNA断片に関する。同様に、このDNA断片は、ヒトLDL受容体のペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合するポリペプチドの製造に使用することができ、そのポリペプチドは抗体であってもよい。
【0084】
本発明の別の目的は、配列番号9および配列番号8を有する断片から選択される少なくとも1つのDNA断片を含む発現ベクターに関する。
【0085】
本発明の別の目的は、ヒトLDL受容体のペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドからなる。
【0086】
本発明の別の目的は、免疫エフェクター細胞のFcγRIII受容体をin vitroまたはin vivoで活性化するために本発明に従う抗体の使用である。実際に、本発明による抗体がそのFc領域によりFcγRIIIA受容体を活性化する能力から、その抗体を使用することができる。この受容体が「エフェクター細胞」として知られている細胞の表面に発現していることから、このことはかなり関心対象である。この抗体のFc領域の、エフェクター細胞が有するその受容体への結合は、FcγRIIIAの活性化および標的細胞の破壊を引き起こす。エフェクター細胞は、例えばNK(ナチュラルキラー)細胞、マクロファージ、好中球、CD8リンパ球、Tγδリンパ球、NKT細胞、好酸球、好塩基球、またはマスト細胞である。
【0087】
本発明の別の特別な目的は、薬物としての使用を意図した本明細書上記の抗体である。
【0088】
本発明の特定の一態様では、使用される抗体はヒトLDL受容体に結合され、エフェクター細胞を動員させる。この細胞傷害性抗体は、有利にはLDL受容体の細胞外領域の全てまたは一部に結合することができ、すなわちこの抗体はLDL結合領域(アミノ酸1〜322に対応する)またはLDL結合領域以外の領域(LDL−Rのアミノ酸322〜768に対応する)に結合することができる。この点に関して、LDL受容体のペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合する、本発明による抗体は、本発明のこの態様の特定の一実施形態である。
【0089】
さらに具体的には、本発明の一目的は、薬物の製造への本明細書上記の抗体の使用である。この細胞傷害性抗体は、有利にはヒトLDL受容体の細胞外領域の全てまたは一部に結合することができ、すなわちこの抗体はLDL結合領域(アミノ酸1〜322に対応する)またはLDL結合領域以外の領域(LDL−Rのアミノ酸322〜768に対応する)に結合することができる。この点に関して、ヒトLDL受容体のペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合する、本発明による抗体は、本発明のこの目的の特定の一実施形態である。
【0090】
本発明の別の目的は、癌の治療を意図した薬物の製造における、本明細書上記の抗体、すなわちLDL受容体の細胞外領域の全てまたは一部、有利にはアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合する能力を有する抗体の使用である。実際に、本発明による抗体は、特異的にLDL−Rを標的にする。この点に関して、本発明による抗体は、この受容体に結合すると、特異的には標的癌細胞に対するADCCにより標的癌細胞に溶解反応を引き起こし、その溶解を可能にする。したがって、LDL−Rを過剰発現しないか、限られた程度でしか発現しないことから健常細胞は保たれるので、溶解した細胞はある程度特異的に癌細胞からなるであろう。
【0091】
有利には、本発明による抗体を使用して治療される癌は、対応する健常細胞に比べてLDL受容体が癌細胞表面に過剰発現している癌である。
【0092】
特に有利には、治療される癌は、前立腺癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、胃癌、卵巣癌、結腸癌、もしくは肺癌、または白血病であり、これらの癌では、癌細胞膜表面でのLDL受容体の密度増加が観察される。標的癌細胞はADCC反応の間に動員されたエフェクター細胞により溶解されることができるが、LDL−Rを過剰発現しないことから健常細胞は保たれる。
【0093】
特に有利には、本発明による抗体は、急性骨髄性白血病、急性単球性白血病、骨髄性単球性白血病、急性転化した慢性骨髄性白血病、リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、ならびに類表皮子宮頸癌、子宮内膜腺癌、胃癌、肝細胞癌、絨毛癌、および脳腫瘍などの固形腫瘍を含む癌の治療を意図した薬物の調製に使用される。
【0094】
本発明の別の目的は、本明細書上記の本発明による抗体と、薬学的に許容できる賦形剤および/または担体とを含む医薬組成物に関する。この医薬組成物の目的は、癌細胞、具体的にはLDL−Rを過剰発現する癌細胞を標的にすることである。健常細胞により発現される受容体の量よりも多量のLDL受容体をこれらの癌細胞が細胞表面に発現することから、このように調製された薬物は、癌細胞により優先的に結合されるであろう。
【0095】
賦形剤は、医薬用途に適合性で、当業者に公知の食塩水、等張溶液、または緩衝溶液などの任意の溶液、および任意の懸濁液、ゲル、または粉末などである。本発明による組成物は、分散剤、可溶化剤、安定化剤、界面活性剤、保存料などから選択される1つまたは複数の薬剤または担体もまた含有してもよい。本発明による組成物は、他の薬剤または活性成分もまた含んでもよい。
【0096】
さらに、この組成物は、異なる方法で、異なる剤形で投与することができる。投与は、この種の治療アプローチについての任意の従来の経路、例えば具体的には特に静脈内注射、皮内注射、腫瘍内注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射、または動脈内注射などを含む全身経路からなっていてもよい。例えば、腫瘍内注射または腫瘍近くまたは腫瘍を潅注する領域での注射を参照することができる。
【0097】
薬用量は、投与回数、他の活性成分との関連、疾患状態の進行段階などに応じて変化することがある。
【0098】
本発明の別の目的は、癌組織、健常組織、もしくは硬変組織の免疫組織化学分析、またはウエスタンブロット分析もしくはELISA分析、またはin vivo定量試験における本発明による抗体の使用である。
【0099】
本発明の別の態様および利点を以下の実施例に記載するが、この実施例は例示であり、本発明の範囲を限定するものではないとみなさなければならない。
【実施例】
【0100】
実施例1:ヒトLDL受容体配列(配列番号1)のアミノ酸195〜222の配列に対応するペプチドに対して惹起されたモノクローナル抗体の産生、選択、および特徴付け
適切なペプチド配列の選択
LDL結合領域に位置する配列番号1の配列(ヒトLDL受容体配列のアミノ酸195〜222に対応する)に対応するペプチド断片を合成した。システイン残基のチオール基の酸化事象でのジスルフィド結合の形成を避けるために、(システイン残基をセリン残基に置換することによって)選択した配列番号1の配列を修飾した。対応する配列は、配列番号17の配列である。
ペプチド合成
ペプチドは、0.5mmol MBHA樹脂でBoc/Bzl法を使用して、ABI 433 Aモデル自動合成装置(Applied Biosystems Inc.、カリフォルニア州、米国)を用いた固相合成法により合成した。
質量分析
分子質量は、イオン−エレクトロスプレー質量分析により測定した。エレクトロスプレースペクトルは、イオンスプレー(ネブライザー補助エレクトロスプレー)源(Sciex、トロント、カナダ)を備えるイオン−エレクトロスプレーシングル四重極質量分析器でAPIシステム(Perkin−Elmer−Sciex)を使用して得た。
モノクローナル抗体の産生
配列番号1の配列に対応するペプチドに対して惹起されたモノクローナル抗体は、配列番号17に対応するペプチドの腹腔内注射により雄性BALB/cマウスを免疫することにより産生した。このペプチドは、等体積のフロイント完全アジュバントを用いて予め乳化させておいた。
【0101】
次に、フロイント不完全アジュバントの存在下で2週間毎に3回の注射を行った。最後の注射の4日後に動物の脾臓を除去し、次に細胞を単離し、ポリエチレングリコールなどの融合剤の存在下でSp2/0−Ag14マウス骨髄腫細胞と融合させた。次に、未融合の悪性細胞の増殖を阻害する選択培地(HAT培地)の中で融合細胞をインキュベートした。
【0102】
ハイブリドーマのモノクローナル性を調べるために、限界希釈によるサブクローニングを繰り返して行った。これらのサブクローニングの終わりに、配列番号1に対応するペプチドに対して惹起された抗体を産生する「H12G4」と呼ばれるハイブリドーマを選択した。このハイブリドーマは、サブクラス1のIgGクラスのメンバーである。
【0103】
所望の特異性、すなわち配列番号1に対応するペプチドに対する特異性を有するモノクローナル抗体の分泌について、ハイブリドーマH12G4により産生される抗体をELISAで試験した。
【0104】
プリスタンの注射を前もって受けた雄性BALB/cマウスから腹水を得て、そのマウスにH12G4ハイブリドーマの2×106細胞を注射した。
【0105】
27%硫酸アンモニウムを用いた沈殿によりモノクローナル抗体を単離し、次にプロテインAゲル(HiTrapプロテインA HPカラム、Amersham Bioscience、ウプサラ、スウェーデン)を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。保持されなかったタンパク質は、緩衝食塩水(PBS:50mmol/Lリン酸塩、pH7.2、150mmol/L NaCl)で洗い流した。配列番号1の配列に対応するペプチドに対して惹起された抗体に特異的なモノクローナルIgG免疫グロブリンの溶出は、0.2Mグリシン(pH2.8)を使用して行った。精製した抗体は直ちに10mmol/L PBSで透析し、凍結乾燥により濃縮し、次に−20℃で一定分量の0.5〜1mg±1%BSAに入れて保存した。
【0106】
これらの抗体を以後「抗LDL−R 12G4」抗体と呼ぶ。
ウエスタンブロット分析(図9)
抗LDL−R 12G4抗体は、ウエスタンブロット法により試験した。MDA−MB−231細胞の総タンパク質の抽出物をSDS−PAGEゲル(10%)で変性剤電気泳動に供し、次にニトロセルロース膜に移し、抗LDL−R 12G4抗体と反応させた。免疫反応性タンパク質は、ペルオキシダーゼ複合抗IgGモノクローナル抗体(Chemicon)を使用して可視化した。反応物の展色は化学ルミネセンス(Amersham Biosciences)により行った。
アイソタイプ分類
ハイブリドーマのアイソタイプ分類は、SBA Clonotyping System/HRPキット(SouthernBiotech)およびIsostrip Mouse Monoclonal Antibody Isotyping Test(Roche参照品番1493027)を使用してELISAで行った。
実施例2:癌細胞系におけるLDL−R発現レベルのスクリーニング
標識LDLの結合を研究することにより、LDL−Rの発現について以下の癌細胞系をスクリーニングした:HepG2、HeLa、MCF−7、Jurkat、Ramos、HuH7、およびHek293(図1および2)。この目的のために、超遠心分離によりLDL(密度=1.03〜1.053g/mL)を調製し、それをpH7.4のPBS緩衝液中で透析し、変性条件下のSDS−PAGEにより確認し、次に蛍光色素1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−テトラメチル−インドカルボシアニド(Dil)で標識した。LDL−Dilを終濃度0、10、および100μg/mLで細胞上で4℃で3時間インキュベートした。PBSで洗浄後に、FACS(蛍光標示式細胞分取)サイトフルオロメトリーにより結合を分析した。すなわち、所与の細胞集団中の各細胞の蛍光をFACScalibur装置(Becton Dickinson)を用いたフローサイトメトリーにより個別に測定した。測定したパラメーターは、FSC(Forward Scatter)、SSC(Side Scatter)、および488nmのアルゴンレーザを用いた励起後に波長530nmで発光した蛍光であった。結果を蛍光細胞の率で表した(図1)。
【0107】
図1に示した結果は、HepG2およびHeLa細胞がLDL−Rを最も強く発現することを示す。
【0108】
さらに、いくつかの乳癌細胞系を入手することができた:MCF7−ras、MDA−MB−435、およびMDA−MB−231。これらのヒト癌細胞系でのLDL−Rの発現は、この細胞系の標識LDLの結合を研究することにより検出した。この目的のために、LDL(d=1.03〜1.053)を超遠心分離により調製し、pH7.4のPBS緩衝液中で透析し、変性条件下のSDS−PAGEにより確認し、次に蛍光色素1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−テトラメチル−インドカルボシアニド(Dil)で標識した。LDL−Dilを終濃度6.25、12.5、25、50、および100μg/mLで細胞上で4℃で3時間インキュベートした。PBSで洗浄後に、結合をサイトフルオロメトリー(FACS)により分析し、結果を蛍光細胞の率で表した。
【0109】
このように、各細胞系をそのLDL−R発現レベルについて試験した(図2):MCF7−rasおよびMDA−MB−435細胞は、HepG2細胞の半分に等しいLDL−R発現レベルを有した。MDA−MB−231細胞は、高レベルでLDL−Rを発現する均一集団に相当した。
実施例3:実施例1で選択された配列番号1の配列に対応するペプチドに対して惹起されたモノクローナル抗体のin vitro機能試験
配列番号1の配列に対応するペプチドに対して惹起されたモノクローナル抗体の機能性は、細胞レベル(A549細胞およびMDA−MB−231細胞)でLDL−Rへの抗体の結合を研究すること;C2C12(マウス)、CHO−K1(ハムスター)、およびYB2/0(ラット)細胞上のLDL−Rとのこれらの抗体の交差反応性を研究すること;A549細胞のLDL受容体に対するこれらの抗体とLDLとの間の競合を研究すること;それらのインターナリゼーション動態を研究すること;ならびにこれらの抗体のアポトーシス促進性を研究することにより評価した。
A549細胞のLDL受容体への抗LDL−R 12G4抗体の結合の研究
LDL−Rへの抗LDL−R 12G4抗体の結合は、LPDS(リポタンパク質欠乏血清)の存在下で24時間増殖させたA549細胞の標識をフローサイトメトリー(FACS)で定量することにより評価した。この試験を行うために、抗LDL−R 12G4抗体を終濃度1、3、10、30、および100μg/mLで4℃で3時間インキュベートした。抗LDL−R 12G4抗体と同条件下で調製およびインキュベートした市販の1C6(抗SREBP2、IgG1、ATCC−LGC Promochem CRL−2224)およびC7(抗LDL−R、IgG2b、ATCC CRL−1691)抗体をそれぞれ陰性対照抗体および陽性対照抗体として使用した。抗IgG−PE二次抗体を使用して結合の検出を行った。結果を蛍光細胞の率(図4A)および平均蛍光(図4B)で表した。
【0110】
抗LDL−R 12G4抗体およびC7対照抗体は、A549細胞のLDL受容体を認識した。
MDA−MB−231細胞のLDL受容体への抗LDL−R 12G4抗体の結合の研究
MDA−MB−231細胞のLDL受容体への抗LDL−R 12G4抗体の結合は、A549細胞のLDL受容体への抗LDL−R 12G4抗体の結合の研究について説明したものと同じプロトコールに従って、LPDSの存在下で24時間増殖したMDA−MB−231細胞の標識をフローサイトメトリー(FACS)により定量することにより評価した。この試験を行うために、抗LDL−R 12G4抗体を終濃度1、3、10、30、および100μg/mLで4℃で3時間インキュベートした。抗LDL−R 12G4抗体と同条件下で調製およびインキュベートした市販の1C6(抗SREBP2、IgG1)抗体およびC7(抗LDL−R、IgG2b)抗体をそれぞれ陰性対照抗体および陽性対照抗体として使用した。結合の検出は抗IgG−PE抗体を使用して行った。結果を蛍光細胞の率(図5A)および平均蛍光(図5B)で表した。
【0111】
低抗体濃度(1〜3μg/mL)で、C7対照抗体は、抗LDL−R 12G4抗体よりも有意にMDA−MB−231細胞のLDL受容体に結合した。他方では高濃度(10〜100μg/mL)で、抗LDL−R 12G4抗体はC7抗体よりも有意にLDL−Rを認識した。
C2C12細胞、CHO−K1細胞、およびYB2/0細胞のLDL受容体への抗LDL−R 12G4抗体の交差反応性の研究
抗LDL−R抗体の交差反応性は、マウス(C2C12細胞)、ラット(YB2/0細胞)、およびハムスター(CHO−K1細胞)で試験した。前もってLPDS条件下で24時間培養しておいたC2C12細胞、CHO−K1細胞、およびYB2/0細胞を用いて、抗LDL−R 12G4抗体を終濃度30μg/mLで4℃で3時間インキュベートした。市販の1C6(抗SREBP2、IgG)抗体およびC7(抗LDL−R、IgG2b)抗体をそれぞれ陰性対照抗体および陽性対照抗体として使用した。結合の検出は、抗IgG PE抗体を使用して行った。結果を蛍光細胞の率(図6A)および平均蛍光(図6B)で表した。
【0112】
抗LDL−R 12G4抗体だけがマウス、ラット、ハムスターと交差反応した。C7抗体はマウスともハムスターとも交差反応しなかったが、ラットとは非常にわずかな程度の交差反応性を実際に示した。
A549細胞上の抗LDL−R 12G4抗体とLDLとの競合の研究
LDLと抗LDL−R 12G4抗体との競合は、A549細胞に対して、増加する濃度の未標識LDL(抗体濃度の1、4、および16倍をnMで表したもの)と競合している抗LDL−R 12G4抗体(30μg/mL)の結合を4℃で3時間試験することにより研究した。結合の検出は、抗IgG−PE抗体を使用して行った。次に、LDL−Rへの抗体の結合をFACSにより分析し、その結果を平均蛍光で表した(図7)。
【0113】
抗体とLDLとの競合のこの試験は、A549細胞のLDL受容体へのC7抗体の結合が、培地への生理学的濃度のLDLの添加により減少しなかったことを実証することを可能にした。これは、C7抗体がLDLと同じ部位に結合しないことを意味する。他方では、抗LDL−R 12G4抗体は、LDLの存在下でLDL−Rとあまりよく結合しない(LDLの不在下で蛍光平均55、16倍過剰のLDLと一緒では蛍光平均20であり、結合の60%の減少)。これらの結果は、抗LDL−R 12G4抗体の結合部位がLDLの結合部位と同じであることを示唆している。
抗LDL−R 12G4抗体のインターナリゼーション動態
抗LDL−R 12G4抗体のインターナリゼーション動態は、ローダミン(NHS−ローダミン、Pierce、参照品番46102)で標識した抗体(30μg/mL)をA549細胞上で37℃でインキュベーションしたときに24時間にわたり研究した。ローダミン標識C7対照抗体(30μg/mL)およびLDL−Dil(30μg/mL)のインターナリゼーション動態を並行して研究した。2、4、6、および24時間のインキュベーションの後で、結合しているがインターナリゼーションしていない抗体/LDL−Dilは、硫酸デキストランを用いて離し、蛍光定量法により定量した。次に、A549細胞をソーダ(0.1N)で溶解させ、次にインターナリゼーションした抗体の量を蛍光定量法により定量した。インターナリゼーション率は以下の式により計算した:インターナリゼーションした抗体の蛍光/(インターナリゼーションした抗体の蛍光+結合しているがインターナリゼーションしていない抗体の蛍光)。
【0114】
抗LDL−R 12G4抗体のインターナリゼーション動態は、LDLの動態(4時間後に60%のインターナリゼーションとなって最も迅速な動態)と、少し低速でインターナリゼーションしたC7の動態との間の中程度であった(図8)。LDLと同様に、抗体のインターナリゼーション動態は二相性で、最初の4から6時間に急速にインターナリゼーションした。6時間のインキュベーション後に、試験した3つの抗体は同じインターナリゼーション速度を示し、24時間後には60%程度でインターナリゼーションのプラトーとなった。
抗LDL−R 12G4抗体のアポトーシス促進性の研究
抗LDL−R 12G4抗体の存在下および不在下でのA549細胞の増殖は、FITC−アネキシンV(初期にアポトーシス細胞のホスファチジルセリンに結合する)およびヨウ化プロピジウム(PI、細胞膜が損傷した壊死細胞だけを標識する)を用いた二重標識によりフローサイトメトリー(FACS)で研究した。この試験を行うために、抗LDL−R 12G4抗体を終濃度30μg/mLで37℃で16時間(ADCC試験の時間)インキュベートした。抗LDL−R 12G4抗体と同じ条件下で調製およびインキュベートした市販の1C6(抗SREBP2、IgG1)およびC7(抗LDL−R、IgG2b)抗体を参照として使用した。抗体不在の細胞からなる陰性対照およびカンプトテシンとインキュベートした細胞からなる陽性対照を並行して調製した。
【0115】
抗LDL−R 12G4抗体は、16時間のインキュベーション後にA549細胞に強いアポトーシス促進作用を示さなかった。
実施例4:in vivo研究
選択した動物モデルは、ヌードマウスへのヒト腫瘍組織の異種移植からなるモデルであった。腫瘍細胞の異種移植片を皮下に埋め込んだ。
異種移植片のためのヒト癌細胞系の選択
− LDL−Rの発現についての細胞系のスクリーニング
以下のいくつかの乳癌細胞系を利用することができた:MCF7−ras、MDA−MB−435、およびMDA−MB−231。本発明者らの研究について、埋め込む細胞系の選択はLDL−R発現レベルに依存した。これらのヒト癌細胞系でのLDL−Rの発現は、標識LDLのこの細胞系への結合を研究することによって検出した。この目的のために、LDL(d=1.03〜1.053g/mL)を超遠心分離により調製し、それをpH7.4のPBS緩衝液中で透析し、変性条件下でSDS−PAGEにより確認し、次に蛍光色素1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−テトラメチル−インドカルボシアニド(Dil)で標識した。LDL−Dilを終濃度6.25、12.5、25、50、および100μg/mLで細胞上で4℃で3時間インキュベートした。PBSで洗浄後に、サイトフルオロメトリー(FACS)により結合を分析し、結果を蛍光細胞の率で表した。
【0116】
したがって、各細胞系をそのLDL−R発現レベルについて試験した(図2および3):MCF7−rasおよびMDA−MB−435細胞は、HepG2細胞の半分に等しいLDL−R発現レベルを有した。MDA−MB−231細胞は、高レベルでLDL−Rを発現する均一集団に相当した。これらの結果を考慮して、埋め込む細胞系としてMDA−MB−231細胞を選択した。
− 異種移植片についての埋め込む細胞数の決定
ヌードマウスに埋め込む細胞数の関数としての腫瘍の発病速度を研究した。この研究は、0.5×106、106、2×106、および5×106細胞の埋め込みに集中した。
− MDA−MB−231細胞のLDL受容体への抗LDL−R 12G4抗体の結合
LDL−Rへの抗LDL−R 12G4抗体の結合は、MDA−MB−231細胞を用いて、HepG2細胞のLDL受容体への抗LDL−R 12G4抗体の結合の研究(実施例2)と同じプロトコールにより研究したが、抗体が直接標識されていないので間接的に研究した。抗体をMDA−MB−231細胞上で4℃で3時間インキュベートし、次にFACS分析のためにFITC複合抗IgGモノクローナル抗体を用いて検出した。結果を蛍光細胞の率で表現した。
− MDA−MB−231細胞での抗LDL−R 12G4抗体とLDLの競合の研究
LDLと抗LDL−R 12G4抗体との競合は、MDA−MB−231細胞に対して、増加する濃度(6.25、12.5、25、50、および80μg/mL)の抗LDL−R 12G4抗体と競合しているDil標識LDL(12.5μg/mL)の結合を、4℃で3時間試験することによって研究した。次に、LDL−Rへの抗体の結合をFACSにより分析し、その結果を蛍光細胞の率で表した。
in vivoプロトコール
抗LDL−R 12G4抗体でマウスを処置するために選択したアプローチは、細胞系および抗体を同時に注射することからなった(Winn試験)。このアプローチは、抗体が腫瘍の形成を阻止する能力を評価することを可能にした。
【0117】
第1群(対照群)は、LDL−Rを認識しない抗LDL−R 12G4(IgG1)抗体と同じアイソタイプの対照抗体200μLに取り込んだ106個のMDA−MB−231細胞が埋め込まれ、細胞の埋込み後にその後の処置を行わなかったヌードマウス5匹からなった。
【0118】
第2群は、抗LDL−R 12G4抗体200μLに取り込んだ106個のMDA−MB−231細胞が埋め込まれ、細胞の埋込み後にその後の処置を行わなかったヌードマウス5匹からなった。
【0119】
MDA−MB−231細胞および抗LDL−R 12G4抗体の同時埋込み後に、ヌードマウスを抗LDL−R 12G4抗体で4週間の試験中に週に2回処置することからなるWinn試験の「修正」アプローチもまた実行した(第3群)。第3群は、抗LDL−R 12G4抗体200μLに取り込んだ106個のMDA−MB−231細胞を埋め込み、週に2回抗LDL−R 12G4抗体500μgで腹腔内処置した(細胞の埋込みの3から4時間後に最初の500μg処置を適用した)5匹のヌードマウスからなった。
【0120】
マウスを毎日調べ、体重増加および腫瘍のサイズを週に3回測定した。4週間のプロトコールの終わりに、マウスを犠牲にし、肝臓、心臓、腎臓、および脾臓を回収し、各群5匹のマウスのそれぞれについて−80℃で凍結した。マウスの血清もまた収集し、凍結した。
実施例5:治療の実現可能性の研究
治療の実現可能性の研究目標は、種々の種類の癌において癌組織でのLDL−Rの過剰発現を健常組織と比較して検出することであった。この目的のために、肝細胞癌のウエスタンブロット(WB)分析を行った。
【0121】
アルコール誘導性肝硬変(患者3人)と共に、またはC型肝炎ウイルス感染により起こった肝硬変(患者15人)と共に発生した肝細胞癌(HCC)を有する患者から得た組織を使用してウエスタンブロット分析を行った。各患者について2つの組織試料を用意した:(i)硬変領域であるが非腫瘍領域から採取した試料、および(ii)同患者から得た、腫瘍組織から採取した試料(最低70%の腫瘍性肝細胞を有する)。
【0122】
ウサギポリクローナル抗LDL−R抗体(Research Diagnostics Inc.)を使用して、これらの組織にウエスタンブロット型の分析を行った。成熟型LDL−Rに対応する160kDaのバンドを硬変組織および癌組織の両方で観察した。このバンドに加えて、未成熟(非グリコシル化)型LDL−Rに対応する120kDaのバンドもまた存在した。
【0123】
アクチンに対して基準化した、成熟LDL−Rに対応するバンドの定量は、以下の検出を可能にした。
− アルコール誘導性肝硬変と共に発生したHCCを有する患者3人およびC型肝炎ウイルス感染により起こった肝硬変と共に発生したHCCを有する患者15人のうち2人の健常組織におけるLDL−Rの過剰発現。
− C型肝炎ウイルス感染により起こった肝硬変と共に発生したHCCを有する患者15人のうち7人の癌組織でのLDL−Rの過剰発現(これらの患者の間の過剰発現レベルは2から14倍であった)。
− C型肝炎ウイルス感染により起こった肝硬変と共に発生したHCCを有する患者6人は、LDL−R発現に関して全く差を示さなかった。
実施例6:抗体の特異性の研究
10%ホルモール中で固定した54個の異なる正常ヒト組織に対応する108個のスポットを有する正常ヒト組織マイクロアレイスライドを用いて免疫組織化学研究を行った。C7抗体を1/10(10μg/mL)に希釈し、抗LDL−R 12G4を1/50(2μg/mL)に希釈した。抗原を用いた再活性化は、マイクロ波(750ワットで5分間3回、10mMクエン酸緩衝液(pH6)中)を使用して行った。
【0124】
標識の不在は、採用した抗体に関係なく造血系(扁桃、脾臓、およびリンパ節)、筋組織(心臓および横紋骨格筋)、皮膚、および乳房組織で観察された。中枢神経系(大脳皮質、小脳、中心核、海馬、および脊髄)、副腎(皮質および髄質)、肝臓、および胆嚢を2つの抗体で標識した。抗LDL−R 12G4抗体およびC7抗体は、精巣、結腸、および膵臓を標識し、後者の2つの器官については抗LDL−R 12G4抗体を用いた方がよく標識した。抗LDL−R 12G4抗体だけが、胃粘膜、頬粘膜および子宮頸膣部粘膜の基底細胞層、ならびに様々な尿細管を標識した。
【0125】
これらの結果は、副腎、肝臓、中枢神経系、精巣、および腎臓がLDL−Rを強く発現する組織として記載されていることから、LDL−Rの組織分布に関する文献と一致するものである。抗LDL−R 12G4抗体およびC7抗体は、等しい強度の標識を生じるが、抗LDL−R 12G4抗体の方がやや大きい強度を有する。その良好な感受性およびその特異性により、抗LDL−R 12G4抗体を乳腺癌の免疫組織化学分析のために選択した。
乳腺癌の免疫組織化学分析
LDL−Rの発現を34個の乳腺癌および隣接する非腫瘍組織に関して抗LDL−R 12G4抗体を用いて免疫組織化学的に研究した。
【0126】
標識の強度は強く、標識を観察(試料の65%)した各回で、腫瘍細胞だけが標識され、癌細胞にLDL−Rが過剰発現していることが示された。
実施例7:抗LDL−R 12G4抗体の可変領域の増幅および配列決定
1.VHおよびVκ領域の増幅
IgG1κ型の免疫グロブリンを産生するマウス12G4ハイブリドーマの総RNAを抽出した(Macherey−Nagel Nucleospin RNAキット、参照品番740609.250)。12G4抗体の軽鎖(Vκ)および重鎖(VH)の可変ドメインは、5’RACE(cDNA末端の迅速増幅)技法(Invitrogen 5’RACEキット、参照品番18374.041)を使用して、軽鎖についてはマウス定常κ領域(Cκ)に、また重鎖についてはマウスG1領域にアンカーすることによって増幅した。
【0127】
簡潔には、マウス定常領域Cκ領域またはG1領域の5’領域に位置するプライマーを使用して初回の逆転写期をまず行った。次に、ポリdC配列を認識する5’プライマーおよび逆転写プライマーの5’末端でマウス定常Cκ領域またはG1領域に位置する3’プライマーを使用してVκ領域およびVH領域の増幅前に合成したcDNAの3’末端にポリdC配列を付加した。増幅の特異性を改善するために、初回PCRの3’プライマーの5’末端に位置する3’プライマーを使用して、PCR VH産物について第2の「半ネステッド」PCRを行った。
【0128】
これらの様々な段階に使用したプライマーを以下に列挙する:
1)逆転写プライマー
a.マウスκ特異的アンチセンスプライマー
5'-ACT GCC ATC AAT CTT CCA CTT GAC-3'(配列番号12)
b.マウスG1特異的アンチセンスプライマー
5'-CTGGACAGGGATCCAGAGTTCCA-3'(配列番号13)
2)5’RACE PCRプライマー
a.マウスκ特異的アンチセンスプライマー
5'-TTGTTCAAGAAGCACACGACTGAGGCAC-3'(配列番号14)
b.マウスG1特異的アンチセンスプライマー
第1PCRプライマー:
5'-TGTCACTGGCTCAGGGAAATAGCCCTTGAC-3'(配列番号15)
「半ネステッド」PCRプライマー:
5'-CACCATGGAGTTAGTTTGGGCAGCAGATCCA-3'(配列番号16)
2.VH領域およびVκ領域の配列の決定
増幅後に、12G4抗体のVκ配列およびVH配列をpCR4−TOPOプラスミド(TOPO−TA−Cloning Kit for Sequencing、Invitrogen、参照品番45−0030)にクローニングした。少なくとも3つの組換えコロニーからのプラスミドを精製し、M13−uniおよびM13−revユニバーサルプライマーを使用してそれらの挿入物を配列決定した。
【0129】
12G4マウス抗体のVκ領域のヌクレオチド配列を配列番号8の配列に示す、推定されるペプチド配列は配列番号10の配列である。Vκ遺伝子はVκ8亜群に属する(Almagro J.C.ら、Immunogenetics 1998、47:355〜363)。Kabat[Kabatら「Sequences of Proteins of Immunological Interest」NIH Publication、91〜3242(1991)]に従い定義されたマウス12G4抗体のVκ領域のCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ配列番号2、配列番号3、および配列番号4の配列に示す。IMGT(International ImMunoGeneTics Database)分析[Lefranc, M.P.ら、Dev. Comp. Immunol. 27、55〜77(2003)]に従い定義されたマウス12G4抗体のVκ領域のCDR1−IMGT、CDR2−IMGT、およびCDR3−IMGT配列は、それぞれ配列番号18、配列番号19、および配列番号20の配列に示す。配列の変動性の分析のみに基づくKabatの定義とは異なり、この定義は、超可変ループの特徴付け[Chothia C.およびLesk A.M.、J.Mol.Biol.196:901〜17(1987)]および抗体構造の結晶解析を考慮し組み合わせている。
【0130】
12G4のVH領域のヌクレオチド配列は配列番号9の配列であり、推定されるペプチド配列は配列番号11の配列である。VH遺伝子はVH9亜群に属する(Honjo T.およびMatsuda F.「Immunoglobulin genes」Honjo T.およびAlt F.W.編、Academic Press、ロンドン、1996、145〜171頁)。Kabat(Kabatら「Sequences of Proteins of Immunological Interest」NIH Publication、91〜3242(1991)]に従い定義されたマウス12G4抗体のVH領域のCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ配列番号5、配列番号6、および配列番号7の配列に示す。IMGT(International ImMunoGeneTics Database)分析[Lefranc,M.P.ら、Dev.Comp.Immunol.27、55〜77(2003)]に従い定義されたマウス12G4抗体のVH領域のCDR1−IMGT、CDR2−IMGT、およびCDR3−IMGT配列は、それぞれ配列番号21、配列番号22、および配列番号23に示す。配列の変動性の分析のみに基づくKabatの定義とは異なり、この定義は、超可変ループの特徴付け[Chothia C.およびLesk A.M.、J.Mol.Biol.196:901〜17(1987)]および抗体構造の結晶解析を考慮し組み合わせている。
【0131】
【表1】
【0132】
【表2】
【0133】
【表3】
【0134】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】癌細胞系でのLDL−Rの発現レベルのスクリーニング(結果は任意の蛍光単位で表す)。
【図2】HepG2細胞へのLDL−Dilの結合(結果は蛍光細胞の率で表す)。
【図3】LDL−Rの発現についての乳癌細胞系のスクリーニング(結果は蛍光細胞の率で表す)。
【図4A】A549細胞への抗LDL−R 12G4抗体の結合(結果は蛍光細胞の率で表す)。抗LDL−R 12G4抗体はH12G4ハイブリドーマにより産生され、LDL受容体配列でのアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに対して惹起される。
【図4B】A549細胞への抗LDL−R 12G4抗体の結合(結果は平均蛍光で表す)。
【図5A】MDA−MB−231細胞への抗LDL−R 12G4抗体の結合(結果は蛍光細胞の率で表す)。
【図5B】MDA−MB−231細胞への抗LDL−R 12G4抗体の結合(結果は平均蛍光で表す)。
【図6A】C2C12細胞、CHO−K1細胞、およびYB2/0細胞での抗LDL−R 12G4抗体の交差反応性(結果は蛍光細胞の率で表す)。
【図6B】C2C12細胞、CHO−K1細胞、およびYB2/0細胞での抗LDL−R 12G4抗体の交差反応性(結果は平均蛍光で表す)。
【図7】A549細胞での抗LDL−R 12G4抗体とLDLとの競合(結果は平均蛍光で表す)。
【図8】A549細胞での抗LDL−R 12G4抗体のインターナリゼーション動態をLDLと共に示す(結果はインターナリゼーションの率で表す)。
【図9】ウエスタンブロットを用いた12G4抗体の特徴付け。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトLDL(低密度リポタンパク質)受容体についてのペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合する、ヒトLDL受容体に対して惹起されたモノクローナル抗体。
【請求項2】
各軽鎖の少なくとも1つのCDR(相補性決定領域)が、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号18、配列番号19、および配列番号20の配列から選択される配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有すること、ならびに各重鎖の少なくとも1つのCDRが、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号21、配列番号22、および配列番号23の配列から選択される配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有することを特徴とする、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
各軽鎖の各CDRが、それぞれ配列番号2もしくは配列番号18、配列番号3もしくは配列番号19、または配列番号4もしくは配列番号20の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有すること、および各重鎖の各CDRが、それぞれ配列番号5もしくは配列番号21、配列番号6もしくは配列番号22、または配列番号7もしくは配列番号23の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
各軽鎖の可変領域が、配列番号8の核酸配列と少なくとも70%同一の核酸配列によりコードされること、および各重鎖の可変領域が、配列番号9の核酸配列と少なくとも70%同一の核酸配列によりコードされることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項5】
前記各軽鎖の可変領域が、配列番号8の核酸配列によりコードされること、および前記各重鎖の可変領域が配列番号9の核酸配列によりコードされることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項6】
F(ab’)2断片、Fab’断片、Fab断片、CDR、またはこれらの断片もしくはこの領域のうち任意の1つの任意の改変型であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項7】
マウスであることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項8】
キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項9】
毒素と結合していることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項10】
免疫エフェクター細胞を動員させることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項11】
癌細胞を破壊させることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項12】
SP2/0−AG14マウス細胞系で産生されることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項13】
H12G4ハイブリドーマ(番号I−3487でCNCMに寄託されている)により産生されることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項14】
請求項1から11のいずれか一項に記載の抗体を産生する安定な細胞系。
【請求項15】
SP2/0−AG14、YB2/0、IR983F、Namalwaヒト骨髄腫、PERC6、CHO細胞系、特にCHO−K−1、CHO−Lec10、CHO−Lec1、CHO−Lec13、CHO Pro−5、CHO dhfr−、Wil−2、Jurkat、Vero、Molt−4、COS−7、293−HEK、BHK、K6H6、NS0、SP2/0−Ag14、およびP3X63Ag8.653からなる群から選択される、請求項14に記載の安定な細胞系。
【請求項16】
Collection Nationale de Cultures de Microorganismes[National Microorganism Culture Collection](CNCM)にCNCM登録番号I−3487で寄託されているH12G4ハイブリドーマ。
【請求項17】
請求項1から13のいずれか一項に記載の抗体の重鎖の可変領域をコードしている、配列番号9の配列を有するDNA断片。
【請求項18】
請求項1から13のいずれか一項に記載の抗体の軽鎖の可変領域をコードしている、配列番号8の配列を有するDNA断片。
【請求項19】
配列番号9および配列番号8の配列を有する断片から選択される少なくとも1つのDNA断片を含む発現ベクター。
【請求項20】
ヒトLDL受容体のペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチド。
【請求項21】
免疫エフェクター細胞のFcγRIII受容体をin vitroで活性化させるための、請求項1から13のいずれか一項に記載の抗体の使用。
【請求項22】
薬物の製造における、請求項1から13のいずれか一項に記載の抗体の使用。
【請求項23】
癌の治療を意図した薬物の製造における、請求項22に記載の抗体の使用。
【請求項24】
治療される癌が、前記癌の細胞表面に前記LDL受容体が過剰発現している癌であることを特徴とする、請求項22または23のいずれかに記載の使用。
【請求項25】
前記癌が、前立腺癌、膵臓癌、肝臓癌、乳癌、胃癌、卵巣癌、結腸癌、もしくは肺癌、または白血病であることを特徴とする、請求項22から24のいずれか一項に記載の使用。
【請求項26】
急性骨髄性白血病、急性単球性白血病、骨髄性単球性白血病、急性転化した慢性骨髄性白血病、リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、ならびに類表皮子宮頸癌、子宮内膜腺癌、胃癌、肝細胞癌、絨毛癌、および脳腫瘍などの固形腫瘍を含む癌の治療を意図した薬物の調製における、請求項22から24のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
請求項1から13のいずれか一項に記載の抗体と、薬学的に許容できる賦形剤および/または担体とを含む医薬組成物。
【請求項28】
癌組織、健常組織、もしくは硬変組織の免疫組織化学分析、ウエスタンブロット分析もしくはELISA分析、またはin vivo定量試験における、請求項1から13のいずれか一項に記載の抗体の使用。
【請求項1】
ヒトLDL(低密度リポタンパク質)受容体についてのペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチドに結合する、ヒトLDL受容体に対して惹起されたモノクローナル抗体。
【請求項2】
各軽鎖の少なくとも1つのCDR(相補性決定領域)が、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号18、配列番号19、および配列番号20の配列から選択される配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有すること、ならびに各重鎖の少なくとも1つのCDRが、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号21、配列番号22、および配列番号23の配列から選択される配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有することを特徴とする、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
各軽鎖の各CDRが、それぞれ配列番号2もしくは配列番号18、配列番号3もしくは配列番号19、または配列番号4もしくは配列番号20の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有すること、および各重鎖の各CDRが、それぞれ配列番号5もしくは配列番号21、配列番号6もしくは配列番号22、または配列番号7もしくは配列番号23の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
各軽鎖の可変領域が、配列番号8の核酸配列と少なくとも70%同一の核酸配列によりコードされること、および各重鎖の可変領域が、配列番号9の核酸配列と少なくとも70%同一の核酸配列によりコードされることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項5】
前記各軽鎖の可変領域が、配列番号8の核酸配列によりコードされること、および前記各重鎖の可変領域が配列番号9の核酸配列によりコードされることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項6】
F(ab’)2断片、Fab’断片、Fab断片、CDR、またはこれらの断片もしくはこの領域のうち任意の1つの任意の改変型であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項7】
マウスであることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項8】
キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項9】
毒素と結合していることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項10】
免疫エフェクター細胞を動員させることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項11】
癌細胞を破壊させることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項12】
SP2/0−AG14マウス細胞系で産生されることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項13】
H12G4ハイブリドーマ(番号I−3487でCNCMに寄託されている)により産生されることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項14】
請求項1から11のいずれか一項に記載の抗体を産生する安定な細胞系。
【請求項15】
SP2/0−AG14、YB2/0、IR983F、Namalwaヒト骨髄腫、PERC6、CHO細胞系、特にCHO−K−1、CHO−Lec10、CHO−Lec1、CHO−Lec13、CHO Pro−5、CHO dhfr−、Wil−2、Jurkat、Vero、Molt−4、COS−7、293−HEK、BHK、K6H6、NS0、SP2/0−Ag14、およびP3X63Ag8.653からなる群から選択される、請求項14に記載の安定な細胞系。
【請求項16】
Collection Nationale de Cultures de Microorganismes[National Microorganism Culture Collection](CNCM)にCNCM登録番号I−3487で寄託されているH12G4ハイブリドーマ。
【請求項17】
請求項1から13のいずれか一項に記載の抗体の重鎖の可変領域をコードしている、配列番号9の配列を有するDNA断片。
【請求項18】
請求項1から13のいずれか一項に記載の抗体の軽鎖の可変領域をコードしている、配列番号8の配列を有するDNA断片。
【請求項19】
配列番号9および配列番号8の配列を有する断片から選択される少なくとも1つのDNA断片を含む発現ベクター。
【請求項20】
ヒトLDL受容体のペプチド配列のアミノ酸195〜222(配列番号1)に対応するペプチド。
【請求項21】
免疫エフェクター細胞のFcγRIII受容体をin vitroで活性化させるための、請求項1から13のいずれか一項に記載の抗体の使用。
【請求項22】
薬物の製造における、請求項1から13のいずれか一項に記載の抗体の使用。
【請求項23】
癌の治療を意図した薬物の製造における、請求項22に記載の抗体の使用。
【請求項24】
治療される癌が、前記癌の細胞表面に前記LDL受容体が過剰発現している癌であることを特徴とする、請求項22または23のいずれかに記載の使用。
【請求項25】
前記癌が、前立腺癌、膵臓癌、肝臓癌、乳癌、胃癌、卵巣癌、結腸癌、もしくは肺癌、または白血病であることを特徴とする、請求項22から24のいずれか一項に記載の使用。
【請求項26】
急性骨髄性白血病、急性単球性白血病、骨髄性単球性白血病、急性転化した慢性骨髄性白血病、リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、ならびに類表皮子宮頸癌、子宮内膜腺癌、胃癌、肝細胞癌、絨毛癌、および脳腫瘍などの固形腫瘍を含む癌の治療を意図した薬物の調製における、請求項22から24のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
請求項1から13のいずれか一項に記載の抗体と、薬学的に許容できる賦形剤および/または担体とを含む医薬組成物。
【請求項28】
癌組織、健常組織、もしくは硬変組織の免疫組織化学分析、ウエスタンブロット分析もしくはELISA分析、またはin vivo定量試験における、請求項1から13のいずれか一項に記載の抗体の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2009−502188(P2009−502188A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524538(P2008−524538)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【国際出願番号】PCT/FR2006/001806
【国際公開番号】WO2007/014991
【国際公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(508034967)エルエフビー ビオテクノロジ (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【国際出願番号】PCT/FR2006/001806
【国際公開番号】WO2007/014991
【国際公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(508034967)エルエフビー ビオテクノロジ (3)
【Fターム(参考)】
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