説明

Li蓄電池内での高い安全性と高出力とを兼備する正電極材料

【課題】Li電池内の正電極材料として使用された場合、優れた電力および安全特性を可能にする、異なるサイズの粒子内で均等ではないNi/M比を有するLiaNixCoyMny'M’z2複合酸化物(前記M’はAl、Mg、Ti、Cr、V、Fe、Gaである)を提供する。
【解決手段】一般式
LiaNixCoyMny'M’z2±ef
を有するリチウム金属酸化物粉末であって、粉末がD10およびD90を規定する粒径分布を有し;且つ、
x1−x2≧0.005または
z2−z1≧0.005のいずれか、または
x1−x2≧0.005とz2−z1≧0.005との両方であり;
前記x1およびz1は、粒径D90を有する粒子に相応するパラメータであり、且つ、前記x2およびz2は、粒径D10を有する粒子に相応するパラメータである、リチウム金属酸化物粉末によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Li電池内の正電極材料として使用された場合、優れた電力および安全特性を可能にする、異なるサイズの粒子内で均等ではないNi/M比を有するLiaNixCoyMny'M’z2複合酸化物(前記M’はAl、Mg、Ti、Cr、V、Fe、Gaである)に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムおよびリチウムイオン蓄電池は、それらの高いエネルギー密度ゆえに、様々な移動式電子機器、例えば携帯電話、ラップトップ型コンピュータ、デジタルカメラおよびビデオカメラ内で使用されることができる。市販のリチウムイオン電池は、典型的には、グラファイトベースのアノードおよびLiCoO2ベースのカソード材料からなる。しかしながら、LiCoO2ベースのカソード材料は高価であり、且つ、典型的には、約150mAh/gの比較的低い容量を有する。
【0003】
LiCoO2ベースのカソード材料の代替物は、LNMCO型のカソード材料を含む。LNMCOは、リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト−酸化物を意味する。その組成は、LiMO2またはLi1+x1-x2 (前記M=NixCoyMny'M’z)である。LNMCOは、LiCoO2と同様の層状結晶構造を有する(空間群r−3m)。LNMCOカソードの利点は、Coに対して組成物Mの原材料の値段が非常に安いことである。LNMCOの調製は、ほとんどの場合、LiCoO2よりも複雑であり、なぜなら、遷移金属カチオンが良好に混合される、特別な前駆体が必要とされるからである。典型的な前駆体は、混合遷移金属の水酸化物、オキシ水酸化物、または炭酸塩である。典型的なLiNMCOベースのカソード材料は、式LiNi0.5Mn0.3Co0.22、LiNi0.6Mn0.2Co0.22またはLi1.050.952 (前記M=Ni1/3Mn1/3Co1/32)を有する組成物を含む。LiCoO2と比較して、LNMCOは、リチウムのバルク拡散速度がより低い傾向があり、それが特定の組成について可能な粒径の最大値を制限することがある。組成に依存して、現実の電池内での充電されたカソードの安全性が問題となることがある。安全事象は、最終的には、酸化された表面と還元された電解質との間の反応によって引き起こされる。従って、安全性の問題は、粒子が高い表面積を有する場合により厳しく、それは粒径が小さい場合である。その結論は、LNMCOのより低い性能は、安全性を低下させる小さな粒径を要件とすることである。
【0004】
安全性を改善するための方法は、LNMCO材料を不活性元素、例えばAl、Mg、Tiでドープして、充電状態で加熱されたときの構造を安定化させることである。安全性に関する主な改善の欠点は、不活性元素ドーピングが、電力およびLNMCO材料内の可逆容量に対して有害であることである。この材料が産業的に有用であるためには、製造者らは安全性と性能との間の妥協点を見出さなければならず、従って、安全性を満たすために必要とされる最も少ない量のAl、TiおよびMgが使用される一方、一定水準の電力および容量性能が保持される。最近では、Ni:Co:Mn=33:33:33を有するLNMCOへの、または他の組成物、例えばLiNi1-x-yMnxCoy2へのMgおよびAlドーピングの影響について、多くの開示がある。かかる組成物がまもなく市販品になるであろうことが、広く予想されている。しかしながら、上記で説明した通り、それらの生成物は典型的には安全性と電気化学的性能との間の妥協が困難であり、従って、中程度の水準の全体性能をみちびくことを欠点としてもつ。
【0005】
市場での大きな電池のための新規の用途(例えばハイブリッド車または据置型電力装置)の出現、および、電力性能における妥協のない、高い安全性の要求をみたす必要性に伴い、それらのNiMnCoベース材料の合成において、突破口が必要とされることが明らかである。
【0006】
可能な限り均質である製造材料についての懸念が常にあるので、LiaNixCoyMny'M’z2生成物 (M’=Al、Ti、Mg…)の技術水準の製造方法は、ドープされた前駆体、例えば水酸化物(例えばUS6958139号を参照)、炭酸塩、硝酸塩、または酸化物を使用し、それを600℃より高い温度で焼結させる。従って、材料は組成において完全に均質であり、且つ、生じる正電極材料は、中程度の全般的な性能を示す。電池材料に適用される固体化学からの基本を考慮すると、LiCoO2材料について、より小さい粒径がより良好な電力性能をもたらすことは公知である(Choi et al., J.Power Sources,158 (2006) 1419内で議論された通り)。しかしながら、より小さな粒径がより低い安全性をもたらすことも公知であり、なぜなら、安全特性は、幾分、表面積と関連しているからである(例えばJiang et al.,Electrochem.Acta,49 (2004) 2661を参照)。特定の量のNiおよびM’(前記M’は例えばAlである)の存在が、電力挙動および安全性の改善においてそれぞれ注目されるLiNixCoyMny'M’z2系については、小さい粒子と大きな粒子との両方について均等な組成が、電力と安全性能との間の妥協点をみちびくことになる。現実の粉末は異なるサイズを有する粒子分布を有する。しかしながら、全ての粒子の均質な組成は、まったく好ましくない。安全挙動が直接的にM’含有率に関係する小さな粒子について、より大きな粒子についてと同一の安全性能を達成するためには、より高いM’濃度が必要とされることがある。他方、大きな粒子内では、より少ないM’(不活性ドーピング)が必要であるが、しかし、大きな粒子内でのM’の減少が、LiNixCoyMny'M’z2系の性能を高めることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US6958139号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Choi et al., J.Power Sources,158 (2006) 1419
【非特許文献2】Jiang et al.,Electrochem.Acta,49 (2004) 2661
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこの問題の解決を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第一の態様を考慮して、本発明は、蓄電池内でカソード材料として使用するためのリチウム金属酸化物粉末であって、一般式
LiaNixCoyMny'M’z2±ef
[式中、
0.9<a<1.1、0.3≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<y’≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02(ほとんどe≒0、またはeは0に近い)、0≦f≦0.05および0.9<(x+y+y’+z+f)<1.1;
M’はAl、Mg、Ti、Cr、V、FeおよびGaの群からのいずれか1つまたはそれより多くの元素からなる;
AはF、C、Cl、S、Zr、Ba、Y、Ca、B、Sn、Sb、Na、およびZnの群からのいずれか1つまたはそれより多くの元素からなる]
を有し、該粉末はD10およびD90を規定する粒径分布を有し;
且つ、
x1−x2≧0.005またはz2−z1≧0.005のいずれか、またはx1−x2≧0.005とz2−z1≧0.005との両方であり、前記x1およびz1は、粒径D90を有する粒子に相応するパラメータであり、且つ、前記x2およびz2は、粒径D10を有する粒子に相応するパラメータである、
リチウム金属酸化物粉末を提供できる。
【0011】
1つの実施態様においては、x1−x2≧0.010とz2−z1≧0.010との両方、他の実施態様においては、x1−x2≧0.020とz2−z1≧0.020、および他の実施態様においてはx1−x2≧0.030とz2−z1≧0.030との両方である。x1およびx2、z1およびz2の間の差についての条件がより緊縮であるほど、安全性と電気化学性能との両方に及ぼす影響がより顕著である。
【0012】
他の実施態様において、粉末のNi含有率は粒径の増加に伴って増加し、且つ、粉末のM’含有率が粒径の増加に伴って減少する。Ni含有率は連続的に増加でき、且つ、M’含有率は連続的に減少でき、粒径に伴って連続的に変化するNi/M’比をもたらす。
【0013】
さらに他の実施態様においては、f=0であり、且つM’はAlからなる。他の実施態様において、Aは、SおよびCのいずれか1つまたは両方からなり、f≦0.02を有する。AがCからなり、f≦0.01を有する実施態様もある。
【0014】
W02005/064715号は、リチウム遷移金属酸化物Liab2 (前記M=AzA’z'M’1-z-z'、前記M’はMnxNiyCo1-x-y、A=Al、MgまたはTiであり、且つ、A’はさらなるドーパントであり、その際、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z+z’<1、z’<0.02) を含むカソード活物質について記載していることを、ここで言及すべきである。この生成物の組成Mは、粒径に伴って変化する。特に、より小さい粒子は、より大きな粒子よりも、少ないコバルトおよび多くのマンガンを含有する。しかしながら、Ni、Al、MgおよびTi含有率は、上述の通り、変化しない。
【0015】
第二の態様を考慮して、本発明は、Li二次電池内での前述の酸化物粉末の使用も提供できる。
【0016】
第三の態様を考慮して、本発明は、本発明による粉末酸化物の製造方法において、以下の段階:
・ D10およびD90を規定する粒径分布を有するM前駆体粉末(前記M=NixCoyMny'M’zf
を提供する段階; その際、x1−x2≧0.005、またはz2−z1≧0.005のいずれか; またはx1−x2≧0.005とz2−z1≧0.005との両方であり; 前記x1およびz1は、粒径D90を有する粒子のxおよびzの値であり、且つ、前記x2およびz2は粒径D10を有する粒子のxおよびzの値である、
・ M前駆体粉末をリチウム前駆体、好ましくは炭酸リチウムと混合する段階、および
・ 該混合物を少なくとも800℃の温度で加熱する段階
を含む製造方法も提供できる。
【0017】
M前駆体粉末を提供する段階は、以下の段階:
・ 異なるD10およびD90値を特徴とする異なる粒径分布を有する、少なくとも2つのM前駆体粉末を提供する段階、その際、より低いD10およびD90値を有するM前駆体粉末が、より高いD10およびD90値を有するM前駆体粉末よりも低いNi含有率および高いMn含有率のいずれか1つまたは両方を有する; および
・ 少なくとも2つのM前駆体粉末を混合する段階
を含むことがある。
【0018】
1つの実施態様において、少なくとも2つのM前駆体粉末を、リチウム前駆体と混合した後、該混合物を少なくとも800℃の温度で加熱する。
【0019】
前駆体粉末によって、それらの粉末が、例えばいくつかの実施態様において提供される、LiaNixCoyMny'M’z2±efリチウム遷移金属酸化物の前駆体: アルカリ水酸化物およびキレート剤、好ましくはアンモニア存在中での金属硫酸塩、硝酸塩、塩化物または炭酸塩の沈殿によって得られる水酸化物またはオキシ水酸化物組成物であることが理解される。
【0020】
1つの実施態様において、より低いD10およびD90値を有するM前駆体粉末のCo含有率と、より高いD10およびD90値を有するM前駆体粉末のCo含有率との間の差は、M前駆体粉末のNi含有率およびM’含有率の両方の間の差よりも小さい。より低いD10およびD90値を有するM前駆体粉末のMn含有率と、より高いD10およびD90値を有するM前駆体粉末のMn含有率との間の差も、M前駆体粉末のNi含有率およびM’含有率の両方の間の差よりも小さい。
【0021】
本発明は、Li電池内の正電極として使用するための、式LiaNixCoyMny'M’z2を有し、且つ一定のコバルトおよび/またはマンガン含有率について粒子中で均質ではないニッケル−M比を有する粉末を提供できる。xおよびzのパラメータは、粉末の粒径に伴って変化でき、x1−x2≧0.005およびz2−z1≧0.005のいずれか1つまたは両方が有効であることができ、その際、前記x1およびz1は、粉末の粒径D90を有する粒子に相応するパラメータであり、且つ、前記x2およびz2は、粒径D10を有する粒子に相応するパラメータである。
【0022】
これは、LiaNixCoyMny'M’z2材料が、より大きい粒子における高電力のための高いニッケル含有率と、より小さい粒子における高い安全性のための高い安定化金属M’、例えばアルミニウム含有率とを、同時に達成するように仕上げられるための要求を満たすことになる。従って、結果として、それぞれの種の相対的な含有率は、粒径に強く相関している。CoおよびMn含有率を、どんな粒径でも一定に保つことができ、例えば、これが、LiNiO2型材料の層状の特徴を維持することによって、合成を容易にすることに貢献する。
【0023】
先行技術および現在のLiaNixCoyMny'M’z2材料と比較して、本発明の利点は:
・ 大きな粒子は、電力性能を制限することが知られているにもかかわらず、大きな粒子内でNi含有率およびM’含有率が最適化された(それぞれ増加および減少)時の、改善された電力性能
・ 小さい粒径は、安全性に有害であることが知られているにもかかわらず、微細な粒子内でNiおよびM’含有率が最適化された(それぞれ減少および増加)時の、改善された安全性能
である。
【0024】
1つの実施態様において、NiおよびM’(好ましくはAl)濃度は、粒径の増加に伴って、それぞれ連続的な増加および減少に従うはずである。
【0025】
さらに他の実施態様において、NiおよびAlは、それぞれの単独粒子内で、均質に分布して、機械的応力を避けるはずである一方、蓄電池内で該粉末が使用される場合、Liをインターカレーション/脱インターカレーションする。
【0026】
他の実施態様において、リチウム挿入型電極の製造において、粒子中で均等ではないNi/Al比を有するLiaNixCoyMny'M’z2±ef材料を、該粉末と導電性炭素を有する添加剤とを混合させることによって使用することが開示される。相応する電極混合物も特許請求される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】異なるサイズの球状粒子を示す本発明による材料のSEM像。
【図2】本発明による材料中での、粒径(D50)の関数としてのNiおよびAl含有率(mol%)の変化。このグラフは、Ni/Al比が粒径に伴って連続的に変化することを明らかに示す。
【図3】本発明による材料の粒子断面上でのEDSによるNi、CoおよびAlのマッピング。この測定は、単一の粒子内での種の均質な分布を明らかに示す。
【図4】異なるレートでの本発明の材料の定電流放電曲線(右から左に: C/10、C/5、C/2、1C、2Cおよび3C)。これは、この材料の優れた容量および電力特性を示す。
【図5】技術水準の材料中での、SEM粒径の関数としてのNiおよびAl含有率(mol%)の変化。この測定は、Ni/Al比がどんな粒径でも一定であることを明らかに示す。
【図6】サイズに依存する試料(1)およびサイズに依存しない試料(2)についてのXRDパターン。
【図7】異なるレートでの技術水準の材料の定電流放電曲線(右から左に: C/10、C/5、C/2、1C、2Cおよび3C)。これは、技術水準の材料の低い容量および電力特性を示す。
【実施例】
【0028】
本発明を以下の実施例においてさらに説明する。
【0029】
実施例1:
第一の段階において、モル組成39.9:35.2:12.8:12.2を有する複合Ni−Mn−Co−Al(またはNMCA)水酸化物前駆体を、Ni、Mn、CoおよびAl硫酸塩から、NaOHおよびアンモニアの存在中で沈殿させる。得られるNMCA水酸化物は、球状の形状を有し、且つ、レーザー粒度分析から測定された平均粒径は、D50=5.4μm付近を中心としている(D10=3.4μm、D90=8.9μm)。
【0030】
第二の段階において、モル組成42.3:35.7:13.7:8.3を有するNMCA水酸化物前駆体を、Ni、Mn、CoおよびAl硫酸塩から、NaOHおよびアンモニアの存在中で沈殿させる。得られるNMCA水酸化物は、球状の形状を示し、且つ、レーザー粒度分析から測定された平均粒径は、D50=9.3μm付近を中心としている(D10=5.0μm、D90=16.5μm)。
【0031】
第三の段階において、モル組成44.3:35.8:13.8:6.0を有するNMCA水酸化物前駆体を、Ni、Mn、CoおよびAl硫酸塩から、NaOHおよびアンモニアの存在中で沈殿させる。得られるNMCA水酸化物は、球状の形状を示し、且つ、レーザー粒度分析から測定された平均粒径は、D50=15.5μm付近を中心としている(D10=11.1μm、D90=21.7μm)。
【0032】
最後の段階において、上記で合成された3つの水酸化物前駆体粉末を0.4:0.3:0.3の比で混合し、そしてLi/(Ni+Co+Mn+Al)=1.075になるようにLi2CO3と混合する。その後、該混合物を、管状炉内、酸素フロー下で、980℃で10時間加熱する。ICPから導出される、得られたLiaNixCoyMny'Alz2粉末の全般的な組成は、Ni:Mn:Co:Al=42.1:35.8:13.8:8.3である。
【0033】
焼成後の生成物の粒径分布を、レーザー回折式粒度分析によって測定し、D10=5.2μm、D50=9.1μm、D90=15.5μmを有するPSDを示す。
【0034】
FEG−SEM、およびサイズ対組成の分析を、実施例1に従って製造されたLiNixCoyMny'Alz2材料について実施する(図1参照)。以下の実験は、最終的な粉末が、前駆体の、サイズに依存する組成の大部分を保持していることを立証する。最終的な粉末の種々のフラクションの組成を、ICPによって測定する。(種々の粒径を有する)種々のフラクションを、溶出によって得る。溶出実験において、粉末を、液体の緩慢な上向きの流れの中で沈下させることによって、分離する。従って、小さい粒子がオーバーフローに速く達し、大きな粒子はその後である。異なるフラクションの粒径を、レーザー回折式粒度分析を使用して測定する。これは、最終生成物の化学組成(Ni:Mn:Co:Al)が、その粒径の関数として変化していることを明らかに示す(表1aおよび図2を参照)。
【0035】
【表1】

【0036】
D10およびD90についての値が表1bの通りであるはずであると結論付けることができる
【表2】

【0037】
図2から導出される通り、Ni含有率およびAl含有率(mol%)と、レーザー粒度分析から測定された粒径との間には非常に良好な相関があり、線形傾向(mol%のNi=s.D+t1およびモル%のAl=u.D+t2)は、
・ Niについて: Ni(mol%)=0.32.D+39.2
・ Alについて: Al(mol%)=−0.46.D+12.6
である。
【0038】
本発明の実施態様において、粒径に伴う(mol%での)NiおよびM’(好ましくはAl)の依存性は、線形傾向 mol%のNi=s.D+t1、およびmol%のM’=u.D+t2に従い、前記DはSEM像から測定された粒径であり、s>0またはAbs(s)>0.1、好ましくは>0.2、およびより好ましくは>0.3; および/またはAbs(u)>0.1、好ましくは>0.2、およびより好ましくは>0.3である。
【0039】
さらには、単一の粒子の断面におけるEDS分析(図3参照)は、粒子内のNi/Mn/Co/Al分布が完全に均質であり、組成勾配がないことを明らかに示す。これは、Li脱インターカレーション/インターカレーションの間のサイクリングで生じ得る応力を最小化することによって、最適化された電気化学性能を可能にする。
【0040】
XRDパターンは、NMCAに相応する単一相材料を示す。リートベルト解析のソフトウェアTopasの使用により、X線による微結晶のサイズを得ることが可能である。微結晶のサイズは、ピークの広がりと関連している。大きなサイズは狭いピークを意味する。試料がサイズに依存する組成を有する場合、平均組成の位置の辺りにピーク位置の分布がある。結果として、サイズに依存する組成のもののリートベルト解析は、固定された(即ち、サイズに依存しない)組成のものよりも、小さいサイズを有している。実施例1の組成のもののリートベルト解析は、微結晶サイズ134nmという結果となる。この値は、比較的低く、且つ、わずかに異なる組成を有する粒子が粉末内に共存している事実のために、(高い合成温度にかかわらず)全般的な組成からのいくらかのわずかなずれの共存を示している。XRD(全パターンマッチング解析)から計算された六方晶の格子パラメータは、a=2.864(1)Åおよび=14.264(8)Åである。
【0041】
実施例1のNMCA粉末を、5質量%のカーボンブラックおよび5%のPVDFと共に、N−メチルピロリドン(NMP)中へと混合することによって、スラリーを調製し、且つ、集電極としてのAl箔上に堆積させる。90質量%の活物質を含有する、得られる電極を、約14mg/cm2の活物質を有するコインセルの製造に使用する。電解質としては、LiPF6ベースの電解質を使用する。負電極は金属Li製である。コインセルの容量およびレート性能を、3.0と4.3Vの間で、Li+/Liに対して試験し、次に、4.5〜3.0Vで安定性試験をする。図4は、サイクリングにて、高い可逆容量が得られ、放電レートC/10(サイクル1: 10時間での完全放電)で、143mAhの可逆容量を有することを示す。図において、電圧は、6回の連続したサイクルの間のカソード容量に対して示され、サイクルの放電容量は右から左に、サイクル1からサイクル6について示されている。容量の90%が、放電レートC(サイクル4: 1時間での完全放電)で、129mAh/gを有して保持され、且つ、85%が、放電レート2C(サイクル5: 1/2時間での完全放電)で、121mAh/gを有して得られる。
【0042】
念のため、サイクルの放電レートを以下に列記する:
・ サイクル1: C/10(図4の右から1番目)
・ サイクル2: C/5
・ サイクル3: C/2
・ サイクル4: 1C
・ サイクル5: 2C
・ サイクル6: 3C(図4の一番左)。
【0043】
実施例2(反例):
第一の段階において、モル組成41.8:35.7:14.1:8.4を有するNMCA水酸化物材料を、Ni、Mn、CoおよびAl硫酸塩から、NaOHおよびアンモニアの存在中で沈殿させる。レーザー粒度分析から測定された平均粒径は、D50=8.5μm付近を中心としている(D10=2.0μm、D90=18.0μm)。
【0044】
第二の段階において、該水酸化物を、Li/(Ni+Mn+Co+Al)=1.075になるように、Li2CO3と混合する。その後、該混合物を、チャンバー炉内、周囲空気下で、980℃で10時間加熱する。ICPから導出される、得られたLiaNixCoyAlz2粉末の組成は、Ni:Mn:Co:Al=42.1:34.5:14.2:9.2である。
【0045】
焼成後の生成物からの粒径分布を、レーザー回折式粒度分析によって測定し、D10=2.4μm、D50=7.8μm、D90=20.1μmを有するPSDが得られる。反例の生成物において実施されたEDS分析は、組成が本質的に粒径に伴って変化しないことを示す(図5および表2参照)。EDSを使用して測定されたモル濃度は、絶対値としてみなすことができず、且つ、それらはICPのデータからわずかに異なり得ることに留意しなければならない。しかしながら、EDSは、異なる粒径の間のモル濃度の相対的な比較を可能にする。
【0046】
【表3】

【0047】
D10およびD90の値に相応する粒子についての数値は、表2内のものに相応する。
【0048】
図5から導出できる通り、Ni含有率およびAl含有率(mol%)と、SEM像(D)から測定された粒径との間に相関はない。これにもかかわらず、傾向が計算される場合は、以下の通りである:
・ Niについて: Ni(mol%)=−0.0575.D+46.717
・ Alについて: Al(mol%)=−0.016.D+5.4376
式中のsおよびuの要素(mol%=s(またはu).D+t1(またはt2))が0に近いことが、Ni含有率およびAl含有率が粉末中で一定であることを立証する。
【0049】
XRDパターンは、NMCAに相応する単一相材料を示す。リートベルト解析のソフトウェアTopasの使用により、X線による微結晶の大きさを得ることが可能である。実施例2の組成のもののリートベルト解析は、微結晶サイズ148nmという結果となる。この値は、実施例1に記載された、サイズに依存する組成を有する試料について得られたものより著しく大きく、このことは、実施例2がより狭いX線ピークを有することを実証する。予想通り、実施例1とは対照的に、高温で合成された生成物について、狭いXRDラインが典型的であり、Ni、CoおよびAl成分が粉末内で均質に分布していることを示唆する。XRDから計算される六方晶の格子パラメータは、a=2.863(4)Åおよびc=14.247(1)Åである。それらは、実施例1において得られた生成物からのものと等価であるとみなされ、差は、格子パラメータ解析の誤差範囲内である。図6は、選択されたピーク(003、110および018)の形状を比較する。サイズに依存する組成を有さない試料を、線2によって表し、サイズに依存する組成を有する試料を、線1によって表す。図は、サイズに依存する組成を有さない試料から得られる、より狭いピークを明らかに示す。サイズに依存する組成を有さない試料は、より低いFWHMを示し、且つ、018および110ピークについて、Kα1とKα2との二重線へと分離しているのがわかり、それは、サイズに依存する試料においては認識されない。
【0050】
実施例2によって得られたLNMCA粉末を、5質量%のカーボンブラックおよび5%のPVDFと共に、N−メチルピロリドン(NMP)中へと混合することによって、スラリーを調製し、且つ、集電極としてのAl箔上に堆積させる。90質量%の活物質を含有する、得られる電極を、約14mg/cm2の活物質を有するコインセルの製造に使用する。電解質としては、LiPF6ベースの電解質を使用する。負電極は金属Li製である。コインセルの容量およびレート性能を、3.0と4.3Vとの間で、Li+/Liに対して試験し、次に、4.5〜3.0Vで安定性試験をする。図7(図4の通りのデータの説明を有する)は、サイクリングで得られる可逆容量が、放電レートC/10で135mAh/gだけの可逆容量を有することを示す。容量の87%だけが、放電レートCで、118mAh/gを有して保持され、且つ、82%が、放電レート2Cで、111mAh/gを有して得られ、即ち、高いレートでは、本発明による生成物よりも、8%少ない容量である。これは、NMCA材料の電力特性に関して、技術水準の材料と比較した本発明の利点を明らかに強調している。
【0051】
実施例3:
5LiNi0.47Mn0.38Co0.15Alx2化合物を、Alの異なるモル組成(x=0%、1.5%、3%、5%および10%)で調製し、且つ、DSC(示差走査熱量測定)を使用して測定し、安全性能におけるAl含有率の良い影響を説明した。約3.3mgの活物質を含有する小さい電極を打ち抜き、コインセルに組み立てる。コインセルを、C/10の充電レートを使用して4.3Vに充電し、次に、少なくとも1時間、一定の電圧ソーク(voltage soak)をする。コインセルの取り外し後、電極をDMC中で繰り返し洗浄して、残っている電解質を除去する。DMCの蒸発後、電極をステンレス鋼缶内に浸漬させ、そしてPVDFに基づく電解質約1.2mgを添加し、次に、セルを気密封止(クリンピング)する。DSC測定を、TA instrumentのDSC Q10装置を使用して実施する。DSCスキャンを50〜350℃で、加熱速度5K/分を使用して実施する。DSCセルおよびクリンピング装置も、TAによって提供された。
【0052】
加熱において、電極材料の発熱性分解によって放出された全エネルギーを、表3に示す。
【0053】
【表4】

【0054】
表3からわかる通り、Al含有率の増加に伴い、放出される全エネルギーは減少し、且つ、最大熱流の温度は上昇する。特に充分に高いアルミ含有率〜10%にいくと、安全性能における利得はより低いAl含有率と比較してかなりのものである。これは、サイズに依存するAl組成を有することの利点を明らかに説明し、従って、本質的にあまり安全ではないとして知られる小さい粒子が、より高いAl含有率からの利益を得ることを証明する。さらには、それらのデータは、Al含有率が充分に高くなければならず、且つ、大きなD90粒子と小さなD10粒子との間のAl含有率の差が、安全性能における最大の利得を得るために、充分に大きくなければならないことを示す。
【0055】
本発明の特定の実施例および/または詳細が上記に示され且つ記載されて、本発明の原理の応用を説明した一方、この発明は、かかる原理から逸脱せずに、特許請求の範囲においてより完全に記載される通りに、または、そうでなければ当業者によって公知の通りに(任意且つ全ての等価物を含む)、具体化されることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池内でカソード材料として使用するためのリチウム金属酸化物粉末であって、一般式
LiaNixCoyMny'M’z2±ef
[式中、
0.9<a<1.1、0.3≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<y’≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05および0.9<(x+y+y’+z+f)<1.1;
M’はAl、Mg、Ti、Cr、V、FeおよびGaの群からのいずれか1つまたはそれより多くの元素からなる;
AはF、C、Cl、S、Zr、Ba、Y、Ca、B、Sn、Sb、Na、およびZnの群からのいずれか1つまたはそれより多くの元素からなる]
を有し、該粉末はD10およびD90を規定する粒径分布を有し;
且つ、
x1−x2≧0.005または
z2−z1≧0.005のいずれか、または
x1−x2≧0.005とz2−z1≧0.005との両方であり;
前記x1およびz1は、粒径D90を有する粒子に相応するパラメータであり、且つ、前記x2およびz2は、粒径D10を有する粒子に相応するパラメータである、
リチウム金属酸化物粉末。
【請求項2】
x1−x2≧0.020とz2−z1≧0.020との両方、且つ、好ましくはx1−x2≧0.030とz2−z1≧0.030との両方を特徴とする、請求項1に記載の酸化物粉末。
【請求項3】
粉末のNi含有率が、粒径の増加に伴って増加し、且つ、粉末のM’含有率が、粒径の増加に伴って減少することを特徴とする、請求項1または2に記載の酸化物粉末。
【請求項4】
AがSおよびCからなり、f≦0.02であり、且つ、M’がAlからなることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の酸化物粉末。
【請求項5】
AがCからなり、f≦0.01であり、且つ、M’がAlからなることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の酸化物粉末。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の粉末の、リチウム二次電池内での使用。
【請求項7】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の粉末の製造方法であって、以下の段階:
・ D10およびD90を規定する粒径分布を有するM前駆体粉末(前記M=NixCoyMny'M’zf)を提供する段階; その際、x1−x2≧0.005、またはz2−z1≧0.005のいずれか; またはx1−x2≧0.005とz2−z1≧0.005との両方であり; 前記x1およびz1は、粒径D90を有する粒子のxおよびzの値であり、且つ、前記x2およびz2は粒径D10を有する粒子のxおよびzの値である、
・ M前駆体粉末をリチウム前駆体、好ましくは炭酸リチウムと混合する段階、および
・ 該混合物を少なくとも800℃の温度で加熱する段階
を含む製造方法。
【請求項8】
M前駆体粉末を提供する段階が、以下の段階:
・ 異なるD10およびD90値を特徴とする異なる粒径分布を有する、少なくとも2つのM前駆体粉末を提供する段階、その際、より低いD10およびD90値を有するM前駆体粉末が、より高いD10およびD90値を有するM前駆体粉末よりも低いNi含有率および高いMn含有率のいずれか1つまたは両方を有する; および
・ 少なくとも2つのM前駆体粉末を混合する段階
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも2つのM前駆体粉末を、リチウム前駆体と混合した後、該混合物を少なくとも800℃の温度で加熱する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
M前駆体粉末が、アルカリ水酸化物およびキレート剤、好ましくはアンモニアの存在中での、金属硫酸塩、硝酸塩、塩化物または炭酸塩の沈殿によって得られる水酸化物またはオキシ水酸化物組成物である、請求項7から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
異なるD10およびD90値を特徴とする、異なる粒径分布を有する少なくとも2つのM前駆体粉末を提供する段階において、より低いD10およびD90値を有する粉末のNi含有率が、より高いD10およびD90値を有する粉末のNi含有率よりも低く、且つ、より低いD10およびD90値を有する粉末のM’含有率が、より高いD10およびD90値を有する粉末のM’含有率よりも高い、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
より低いD10およびD90値を有するM前駆体粉末のCo含有率と、より高いD10およびD90値を有するM前駆体粉末のCo含有率との間の差が、M前駆体粉末のNi含有率およびM’含有率のそれぞれのものの間の差よりも小さく、且つ、より低いD10およびD90値を有するM前駆体粉末のMn含有率と、より高いD10およびD90値を有するM前駆体粉末のMn含有率との間の差が、M前駆体粉末のNiおよびM’含有率のそれぞれのものの間の差よりも小さい、請求項8に記載の方法。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−43794(P2012−43794A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−178388(P2011−178388)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(509126003)ユミコア ソシエテ アノニム (23)
【氏名又は名称原語表記】Umicore S.A.
【住所又は居所原語表記】Rue du Marais 31, B−1000 Brussels, Belgium
【Fターム(参考)】