説明

Li蓄電池内での高い安全性と高出力とを兼備する非均質な正電極材料

本発明は、Li電池内で正電極材料として使用される場合に、粒子内で不均等なNi/Al比を有し、優れた電力及び安全性能を可能にする、蓄電池内のカソード材料として使用するためのLiNiCo2±e複合酸化物に関する。更に詳細には、該式において、0.9<a<1.1、0.3≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e=0、0≦f≦0.05且つ0.9<(x+y+z+f)<1.1であり;MはAl、Mg及びTiの群からのいずれか1つ以上の元素からなり;AはS及びCの群からのいずれか1つ以上の元素からなる。該粉末は、D10、D50及びD90を規定する粒径分布を有し、且つ前記x及びzのパラメータは前記粉末の粒径に伴って変化し、且つx1−x2≧0.010及びz2−z1≧0.010のいずれか1つ又はその両方であることを特徴とし;x1及びz1は粒径D90を有する粒子に相応するパラメータであり;且つx2及びz2は粒径D10を有する粒子に相応するパラメータである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子内で不均等なNi/Al比を有し、Li電池内で正電極材料として使用される場合に優れた電力及び安全性能を可能にするLiNiCoAl複合酸化物に関する。
【0002】
リチウム及びリチウムイオン蓄電池は、それらの高いエネルギー密度のために、様々な移動式電子機器、例えば携帯電話、ラップトップ型コンピュータ、デジタルカメラ及びビデオカメラ内で使用することができる。市販のリチウムイオン電池は、典型的には、グラファイトベースのアノード及びLiCoOベースのカソード材料からなる。しかしながら、LiCoOベースのカソード材料は高価であり、且つ、典型的には、約150mAh/gの比較的低い容量を有する。
【0003】
LiCoOベースのカソード材料の代替物は、安価なLiNiOベースのカソード材料を含む。典型的なLiNiOベースのカソード材料は、式LiNi0.8Co0.2を有する組成物を含む。これらの材料は、ニッケルに対してコバルトの費用が高いために、コバルト不含のLiNiOベースのカソード材料よりも比較的高いが、製造は遥かに容易である。それにもかかわらず、LiNiCoOベースのカソード材料は、通常、LiNiO型のカソード材料の構造的安定性が低いので、LiCoOベースのカソード材料と比べて充電状態での安全性が低い。
【0004】
安全性を改善するための方法は、LiNiCoO材料を不活性元素、例えばAl、Mg、Tiでドープして、充電状態で加熱された時の構造を安定化させることである。安全性に関する主な改善の欠点は、不活性元素ドーピングが、電力及びLiNiCoO材料内の可逆容量に対して有害であるという事実である。この材料が産業的に有用であるためには、製造者らは安全性と性能との間の妥協点を見出さなければならず、従って、十分な安全性を得るために必要とされる最も少ない量のAl、Ti及びMgが使用される一方で、一定水準の電力及び容量性能が保持される。かかる生成物、例えば、LiNi0.8Co0.15Al0.05("NCA"生成物とも呼ばれる)又はLiNi0.7Co0.2Ti0.05Mg0.05組成物は、現在、TODA、Honjo−FMC及びNichiaなどの会社によって商品化されている。しかしながら、上記で説明した通り、それらの生成物は典型的には安全性と電気化学的性能との間の妥協が困難であり、従って、中程度の水準の全体性能がもたらされる。
【0005】
市場での大形の電池のための新規の用途(例えば、ハイブリッド車又は据置型電力装置)の出現、及び電力性能における妥協のない、高い安全性の要求を満たす必要性に伴い、これらのNiCoベース材料の合成において、突破口が必要とされることが明らかである。
【0006】
可能な限り均質である製造材料についての懸念が常にあるので、LiNiCo生成物(M=Al、Mn、Ti、Mg…)の従来技術の製造方法は、ドープされた前駆体、例えば、水酸化物(例えば、US6958139号を参照)、炭酸塩、硝酸塩又は酸化物を使用し、それを600℃より高い温度で焼結させる。従って、材料は組成において完全に均質であり、且つ、生じる正電極材料は、中程度の全般的な性能を示す。電池材料に適用される固体化学からの基本を考慮すると、LiCoO材料について、より小さい粒径がより良好な電力性能をもたらすことが公知である(Choiら、J.Power Sources,158(2006)1419内で議論された通り)。しかしながら、安全特性が、幾分、表面積と関連しているので、より小さな粒径がより低い安全性をもたらすことも公知である(例えば、Jiangら、Electrochem.Acta,49 (2004) 2661を参照)。特定の量のNi及びM(Mは例えばAlである)の存在が電力挙動及び安全性の両方の改善において注目されている、LiNiCo系については、不可避の粒径の広がりのために、小さい粒子と大きな粒子との両方について均等な組成が、電力と安全性能との間の妥協点をみちびくことになる。実際に、安全挙動が直接的にM含有率に関係する小さな粒子について、より大きな粒子についてと同一の安全挙動を達成するためには、より高いM濃度が必要とされることがある。他方では、大きな粒子中のニッケル含有率の増加がLiNiCO系の性能を高め得る。
【0007】
本発明はこの課題の解決を提供する。これは蓄電池内のカソード材料として使用されるリチウム金属酸化物粉末を含み、該酸化物粉末は一般式LiNiCo2±eを有し、その際、
0.9<a<1.1、0.3≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02(主としてe=0であるか又は0に近い)、0≦f≦0.05及び0.9<(x+y+z+f)<1.1であり;
MはAl、Mg及びTiの群からのいずれか1つ以上の元素からなり;AはS及びCのいずれか1つ又はその両方からなり;前記粉末はD10、D50及びD90を規定する粒径分布を有し;且つ前記x及びzのパラメータは前記粉末の粒径によって変化し、
x1−x2≧0.010及びz2−z1≧0.010
のいずれか1つ又はその両方を特徴とし;
x1及びz1は粒径D90を有する粒子に相応するパラメータであり;且つx2及びz2は粒径D10を有する粒子に相応するパラメータである。Co含有率に相応する場合、有利には絶対値(y1−y2)は0.010未満、又は更にy1=y2=yである。
【0008】
有利にはx1−x2≧0.030及びz2−z1≧0.030の両方であり;更に有利にはx1−x2≧0.050及びz2−z1≧0.050の両方である。
【0009】
別の有利な実施態様において、前記粉末のNi含有率は粒径の増加に伴って増加し、且つ、前記粉末のM含有率が粒径の増加に伴って減少する。
【0010】
有利な酸化物粉末においてMはAlからなる。別の実施態様において、Aは、S及びCのいずれか1つ又はその両方からなり、f≦0.02を有する。AがCからなり、f≦0.01を有する実施態様も有利である。一実施態様は、一般式LiNi0.80Co0.15Al0.050.01を有する酸化物粉末からなる。
【0011】
WO2005/064715号は、リチウム遷移金属酸化物Li(前記M’はMnNiCo1−x−y、A=Al、Mg又はTiであり、且つA’はさらなるドーパントであり、その際、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z+z’<1、z’<0.02)を含むカソード活物質について記載していることを、ここで言及すべきである。この生成物の組成Mは、粒径に伴って変化する。特に、より小さい粒子は、より大きな粒子よりも、少ないコバルト及び多くのマンガンを含有する。しかしながら、Ni、Al、Mg及びTi含有率は、上述の通り変化しない。
【0012】
本発明は、Li二次電池内での前述の酸化物粉末の使用も対象にする。
【0013】
本発明は、本発明による粉末酸化物の製造方法であって、
− 異なるD10及びD90値を特徴とする異なる粒径分布を有する少なくとも2つのLiNiCo2±e前駆体粉末を提供する工程、その際、より低いD10及びD90値を有する粉末が、より高いD10及びD90値を有する粉末よりも低いNi含有率及び高いM含有率を有する、
− 前記少なくとも2つの前駆体粉末とリチウム前駆体、有利にはリチウム水酸化物とを混合する工程、
− 前記混合物を少なくとも600℃の温度で加熱する工程
を含む、粉末酸化物の製造方法にも関する。
【0014】
有利には、前記前駆体粉末は、アルカリ水酸化物及びキレート剤、有利にはアンモニアの存在下で金属硫酸塩、硝酸塩、塩化物又は炭酸塩の沈殿によって得られる水酸化物又はオキシ水酸化物組成物である。かかる水酸化物又はオキシ水酸化物の沈殿が、層化された複水酸化物又はLDHの形成をもたらすことは周知である。それらのLDHは、水及びアニオンが介在する金属水酸化物の層から作られている。従って、該材料は硫酸塩、硝酸塩、塩化物又は炭酸塩などのアニオンを含有する。従って、該材料中のアニオン含有率は5質量%までの量である。
【0015】
また、有利には前記前駆体粉末のCo含有率は同一である。
【0016】
本発明は、Li電池内の正電極として使用するための、式LiNiCoを有し、且つ一定のコバルト含有率について粒子中で均質ではないニッケル−M比を有する材料を対象にする。これは、LiNiCo材料が、より大きい粒子における高電力のための高いニッケル含有率と、より小さい粒子における高い安全性のためのアルミニウムなどの高い安定化金属含有率とを、同時に達成するように製造される要求を満たすことになる。従って、結果として、それぞれの種の相対的な含有率は、粒径に強く相関している。Co含有率はいかなる粒径でも一定に保つことができて、これが、LiNiO型材料の層状の特徴を維持することによって、合成を容易にすることに貢献する。
【0017】
先行技術及び現在のLiNiCo材料と比較して、本発明の利点は以下のものである:
− これらの大きな粒子が電力性能を制限することが知られているにもかかわらず、大きな粒子内でNi含有率及びM含有率が最適化された(それぞれ増加及び減少)時の、改善された電力性能
− これらの小さい径の粒子は、安全性に有害であることが知られているにもかかわらず、微細な粒子内でNi及びM含有率が最適化された(それぞれ減少及び増加)時の、改善された安全性能。
【0018】
その上、電池内の制御された量のCの存在がその安全性をも高めている。
【0019】
有利には、Ni及びM(有利にはAl)濃度は、粒径の増加に伴って、それぞれ連続的な増加及び減少に従うべきである。
【0020】
有利には、粒径に伴うNi及びM(有利にはAl)の依存性(モル%での)は、線形傾向モル%のNi=s.D+t1、及びモル%のM=u.D+t2(DはSEM像から測定された粒径であり、s>0又はAbs(s)>0.1、有利には>0.4、及び更に有利には>0.6;及び/又はAbs(u)>0.05、有利には>0.4、更に有利には>0.6である)に従うべきである。
【0021】
有利な実施態様において、Ni及びAlは、機械的応力を避けるために各単独粒子内で均質に分布されるべきであるが、蓄電池内で該粉末が使用される場合、Liをインターカレーション/脱インターカレーションする。
【0022】
別の実施態様において、リチウム挿入型電極の製造において、粒子中で均等ではないNi/Al比を有するLiNiCo材料を、前記粉末と導電性炭素を有する添加剤とを混合させることによって使用することが開示される。相応する電極混合物も特許請求される。
【0023】
本発明を以下の図によって説明する:
図1:異なるサイズの球状粒子を示す本発明による材料のSEM像。
【0024】
図2:本発明による材料中でのEDSによって測定された粒径の関数としてのNi及びAl含有率(モル%)の変化。この測定は、明らかに、Ni/Al比が粒径に伴って連続的に変化することを示す。
【0025】
図3:本発明による材料の粒子断面上でのEDSによるNi、Co及びAlのマッピング。この測定は、単一の粒子内での種の均質な分布を明らかに示す。
【0026】
図4:異なるレートでの本発明の材料の定電流放電曲線(C/10(右)、C(中央)及び2C(左))。これは、この材料の優れた容量及び電力特性を示す。
【0027】
図5:異なるサイズの球状粒子を示す従来技術の材料のSEM像。
【0028】
図6:従来技術の材料におけるEDSによって測定された粒径の関数としてのNi及びAl含有率(モル%)の変化。この測定は、明らかに、Ni/Al比がいかなる粒径でも一定であることを示す。
【0029】
図7:異なるレートでの従来技術の材料の定電流放電曲線(C/10(右)、C(中央)及び2C(左))。これは、従来技術の材料の低い容量及び電力特性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は異なるサイズの球状粒子を示す本発明による材料のSEM像である。
【図2】図2は本発明による材料中でのEDSによって測定された粒径の関数としてのNi及びAl含有率(モル%)の変化を示す。
【図3】図3は本発明による材料の粒子断面上でのEDSによるNi、Co及びAlのマッピングを示す。
【図4】図4は異なるレートでの本発明の材料の定電流放電曲線を示す。
【図5】図5は異なるサイズの球状粒子を示す従来技術の材料のSEM像を示す。
【図6】図6は従来技術の材料におけるEDSによって測定された粒径の関数としてのNi及びAl含有率(モル%)の変化を示す。
【図7】図7は異なるレートでの従来技術の材料の定電流放電曲線を示す。
【0031】
本発明を以下の実施例において更に説明する。
【0032】
実施例1:
第1工程において、モル組成77.5:15:7.5(Ni+Al=85)を有するNCA水酸化物前駆体を、NaOH及びアンモニアの存在下でNi、Co及びAl硫酸塩から沈殿させる。得られるNCA水酸化物は、球状の形状を有し、且つ、レーザー粒度分析から測定された平均粒径は、D50=3.9μm付近を中心としている(D10=0.6μm、D90=6.5μm)。NCA水酸化物は2.31質量%の硫酸塩も含有する。
【0033】
第2工程において、モル組成80:15:5(Ni+Al=85)を有するNCA水酸化物前駆体を、NaOH及びアンモニアの存在下でNi、Co及びAl硫酸塩から沈殿させる。得られるNCA水酸化物は、球状の形状を示し、且つレーザー粒度分析から測定された平均粒径は、D50=6.3μm付近を中心としている(D10=3.9μm、D90=8.9μm)。NCA水酸化物は1.95質量%の硫酸塩も含有する。
【0034】
第3工程において、モル組成82:15:3(Ni+Al=85)を有するNCA水酸化物前駆体を、NaOH及びアンモニアの存在下でNi、Co及びAl硫酸塩から沈殿させる。得られるNCA水酸化物は、球状の形状を示し、且つレーザー粒度分析から測定された平均粒径は、D50=9.4μm付近を中心としている(D10=6.8μm、D90=12.8μm)。NCA水酸化物は1.77質量%の硫酸塩も含有する。
【0035】
最後の工程において、上記で合成された3種の水酸化物前駆体粉末を0.3:0.3:0.4の比で混合し、そしてLi/(Ni+Co+Al)=1.02になるようにLiOHと混合する。次に、該混合物を、管状炉内で酸素流下で750℃で20時間加熱する。ICP AESから導き出される、得られたLiNiCoAl粉末の全般的な組成は、Ni:Co:Al=80:15:5である。3種の前駆体中の硫酸塩の存在のために、得られた粉末は約0.7質量%の硫黄を含有する。水酸化物前駆体に加えて、LiOHは幾らかのLiCOをも含有し、これは約0.15質量%の炭素を含有する粉末をもたらす。従って粉末の全般的な組成はLiNiCoAlとして記載でき、この例ではAは混合物S1.00.5を表し、fは約0.02に等しい。
【0036】
焼成後の生成物の粒径分布は、レーザー回折式粒度分析によって測定され、D10=1.5μm、D50=7.6μm、D90=20.2μmを有するpsdを示す。
【0037】
FEG−SEM及びEDS分析を、実施例1に従って製造されたLiNiCoAl材料について実施する(図1参照)。種々の粒子について実施されたEDS分析は、最終生成物の化学組成(Ni/Co/Al)が、その粒径の関数として変化していることを明らかに示す(表1a及び図2を参照)。
【表1】

【0038】
D10及びD90についての値が表1bの通りであるはずであると結論付けることができる:
【表2】

【0039】
図2から導き出される通り、Ni(及びAl)含有率(モル%)とSEM像(D)から測定された粒径との間には非常に良好な相関があり、線形傾向(モル%のNi=s.D+t1及びモル%のAl=u.D+t2)は以下の通りである:
− Niについて:Ni(モル%)=0.71.D+73.5
− Alについて:Al(モル%)=−0.71.D+11.4。
【0040】
更に、単一の粒子の断面におけるEDS分析(図3参照)は、粒子内のNi/Co/Al分布が完全に均質であり、組成勾配がないことを明らかに示す。これは、Liデインターカレーション/インターカレーションの間の循環時に生じ得る応力を最小化することによって、最適化された電気化学性能を可能にする。
【0041】
XRDパターンは、それぞれ0.1003及び0.1314(°2θで)に等しい(003)及び(110)ラインについてのFullprofプログラムによってXRDプロファイル解析から導き出されるFWHM(半値幅)を有するNCAに相応する単一相材料を示す。予想される通り、高い合成温度にもかかわらず、広いXRDラインは、わずかに異なる組成を有する粒子が粉末内に共存している事実のために、全般的な組成からの幾らかのわずかなずれの共存を示している。XRD(全パターンマッチング解析)から計算された六方晶の格子パラメータは、a=2.846(2)Å及び=14.174(8)Åである。
【0042】
実施例1のNCA粉末を、5質量%のカーボンブラック及び5%のPVDFと共に、N−メチルピロリドン(NMP)中へと混合することによってスラリーを調製し、且つ集電極としてのAl箔上に堆積させる。90質量%の活物質を含有する得られる電極を、14mg/cmの活物質を有するコイン型電池の製造に使用する。負電極は金属Li製である。コイン型電池を、3.0と4.3Vとの間でLi+/Liに対してLiPF6ベースの電解質中で循環させる。図4は、高い可逆容量が循環時に得られ、放電レートC/10(10時間での完全放電)で186mAh/gの可逆容量を有することを示す。容量の90%が、放電レートC(1時間での完全放電)で、167mAh/gを有して保持され、且つ、86%が、放電レート2C(1/2時間での完全放電)で、160mAh/gを有して得られる。
【0043】
材料の安全性を測定するために、DSC(示差走査熱量測定)測定を、NETZSCH熱量計を使用して5℃/分のランプを室温から350℃まで加熱しながら未洗浄の充電正電極(ガルバノスタティックモードでC/2で充電後4.1V/Li+1時間の定電流)で実施する。加熱時に電極材料の発熱性分解によって放出された全エネルギーは1000J/gである。
【0044】
実施例2(反例):
第1工程において、モル組成80:15:5を有するNCA水酸化物材料を、NaOH及びアンモニアの存在下でNi、Co及びAl硫酸塩から沈殿させる。レーザー粒度分析から測定された平均粒径は、D50=6.1μm付近を中心としている(D10=3.1μm、D90=10.0μm)。NCA水酸化物は1.80質量%の硫酸塩も含有する。
【0045】
第2工程において、該水酸化物を、Li/(Ni+Co+Al)=1.02になるように、LiOHと混合する。次に、該混合物を、管状炉内で酸素流下で750℃で20時間加熱する。ICP AESから導き出される、得られたLiNiCoAl粉末の組成は、Ni:Co:Al=80:15:5である。前駆体中の硫酸塩の存在のために、得られた粉末は約0.6質量%の硫黄を含有する。水酸化物前駆体に加えて、LiOHは幾らかのLiCOをも含有し、これは約0.38質量%の炭素を含有する粉末をもたらす。従って粉末の全体組成はLiNiCoAlとして記載でき、この例ではAは混合物S0.81.2を表し、fは約0.027に等しい。
【0046】
焼成後の生成物からの粒径分布を、レーザー回折式粒度分析によって測定し、D10=1.4μm、D50=7.4μm、D90=18.1μmを有するpsdが得られ、これは実施例1の生成物のpsdに等しいと考えられる。反例の生成物において実施されたEDS分析は、組成が実質的に粒径に伴って変化しないことを示す(図5及び表2を参照のこと)。
【表3】

【0047】
D10及びD90の値に相応する粒子についての数値は、表2内のものに相応する。
【0048】
図6から導き出せる通り、Ni含有率及びAl含有率(モル%)と、SEM像(D)から測定された粒径との間に相関はない。実際に計算された傾向は以下の通りである:
− Niについて:Ni(モル%)=−0.07.D+80.5
− Alについて:Al(モル%)=0.03.D+4.9。
【0049】
式中のa及びbの要素(モル%=s(又はu).D+t1(又はt2))が0に近いことが、Ni含有率及びAl含有率が粉末中で一定であることを立証する。
【0050】
XRDパターンは、それぞれ0.082及び0.1081(°2θで)に等しい(003)及び(110)ラインについてのFullprofプログラムによってXRDプロファイル解析から導き出されるFWHMを有するNCAに相応する単一相材料を示す。予想通り、実施例1とは対照的に、高温で合成された生成物について、狭いXRDラインが典型的であり、Ni、Co及びAl成分が粉末内で均質に分布していることを示唆する。XRDから計算される六方晶の格子パラメータは、a=2.844(1)Å及びc=14.172(4)Åである。それらは、実施例1において得られた生成物からのものと等価であるとみなされ、差は、格子パラメータ解析の誤差範囲内である。
【0051】
実施例2によって得られたNCA粉末を、5質量%のカーボンブラック及び5%のPVDFと共に、N−メチルピロリドン(NMP)中へと混合することによって、スラリーを調製し、且つ集電極としてのAl箔上に堆積させる。90質量%の活物質を含有する得られる電極を、14mg/cmの活物質を有するコイン型電池の製造に使用する。負電極は金属Li製である。コイン型電池を、3.0と4.3Vとの間でLi+/Liに対してLiPF6ベースの電解質中で循環させる。図7は、循環時に得られる可逆容量が、放電レートC/10で176mAh/gだけの可逆容量を有することを示す。容量の87%だけが放電レートCで154mAh/gを有して保持され、且つ83%が放電レート2Cで146mAh/gを有して得られ、即ち、高いレートでは、本発明による生成物よりも10%少ない容量である。これは、NCA材料の電力特性に関して、従来技術の材料と比較した本発明の利点を明らかに強調している。
【0052】
DSC測定を、NETZSCH熱量計を使用して5℃/分のランプを室温から350℃まで加熱しながら未洗浄の充電正電極(ガルバノスタティックモードでC/2で充電後4.1V/Li+1時間の定電流)で実施した。加熱時に電極材料の発熱性分解によって放出された全エネルギーは1200J/gであり、これは本発明による材料のエネルギーよりも20%高い。これは、NCA材料の安全特性に関して、従来技術の材料と比較した本発明の利点を明らかに強調している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池内でカソード材料として使用するためのリチウム金属酸化物粉末であって、一般式LiNiCo2±e
(式中、0.9<a<1.1、0.3≦x≦0.9、0<y≦0.4、0<z≦0.35、e<0.02、0≦f≦0.05及び0.9<(x+y+z+f)<1.1;
MはAl、Mg、及びTiの群からのいずれか1つ以上の元素からなり;AはS及びCのいずれか1つ又はその両方からなる)
を有し;前記粉末はD10、D50及びD90を規定する粒径分布を有し;且つ前記x及びzパラメータは前記粉末の粒径に伴って変化し、
x1−x2≧0.010及び
z2−z1≧0.010のいずれか1つ又はその両方であり;
前記x1及びz1は、粒径D90を有する粒子に相応するパラメータであり;且つ前記x2及びz2は、粒径D10を有する粒子に相応するパラメータであることを特徴とする、前記リチウム金属酸化物粉末。
【請求項2】
x1−x2≧0.030とz2−z1≧0.030との両方、有利にはx1−x2≧0.050とz2−z1≧0.050との両方を特徴とする、請求項1に記載の酸化物粉末。
【請求項3】
前記粉末のNi含有率が粒径の増加に伴って増加し、且つ前記粉末のM含有率が粒径の増加に伴って減少することを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸化物粉末。
【請求項4】
AがS及びCからなり、f≦0.02であり、且つMがAlからなることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の酸化物粉末。
【請求項5】
AがCからなり、f≦0.01であり、且つMがAlからなることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の酸化物粉末。
【請求項6】
一般式LiNi0.80Co0.15Al0.050.01を有する請求項5に記載の酸化物粉末。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の粉末の、リチウム二次電池内での使用。
【請求項8】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の粉末の製造方法であって、
− 異なるD10及びD90値を特徴とする異なる粒径分布を有する少なくとも2つのLiNiCo2±e前駆体粉末を提供する工程、その際、より低いD10及びD90値を有する粉末が、より高いD10及びD90値を有する粉末よりも低いNi含有率及び高いM含有率を有する、
− 前記少なくとも2つの前駆体粉末とリチウム前駆体、有利にはリチウム水酸化物とを混合する工程、
− 前記混合物を少なくとも600℃の温度で加熱する工程
を含む、前記粉末の製造方法。
【請求項9】
前記前駆体粉末が、アルカリ水酸化物及びキレート剤、有利にはアンモニアの存在下で金属硫酸塩、硝酸塩、塩化物又は炭酸塩の沈殿によって得られる水酸化物又はオキシ水酸化物組成物である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記前駆体粉末のCo含有率が同一である、請求項8又は9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−518871(P2012−518871A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550447(P2011−550447)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/000545
【国際公開番号】WO2010/094394
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(509126003)ユミコア ソシエテ アノニム (23)
【氏名又は名称原語表記】Umicore S.A.
【住所又は居所原語表記】Rue du Marais 31, B−1000 Brussels, Belgium
【Fターム(参考)】