説明

MEMSスイッチ

【課題】接触抵抗を低く保つことができ、寿命が長いMEMSスイッチの提供。
【解決手段】本発明に係るMEMSスイッチは、固定電極3又は下部電極5の少なくとも一方はAuで構成され、他方は、Ir、Rh、Os、Ru、Re、Teから選ばれた一つの金属、又は、TiN、ZrN、HfN、VNから選ばれた一つの金属を主成分として構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波回路用のスイッチとして応用が可能なMEMSスイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロ電気機械システム(MEMS:Micro−electro−mechanical System)技術で作製されたアクチュエータを用いて、スイッチを作製する技術に関心が集まっている。これらのスイッチは、特に、携帯電話や自動車電話などをはじめとした高周波向けの用途として、従来用いられている半導体スイッチと比較して低損失でオフ時の高い絶縁特性を備えている。
【0003】
このような高周波向けのスイッチは、可動電極と固定電極とを直接接触させるダイレクトコンタクト型MEMSスイッチ(以下、単に、DC型MEMSスイッチという)と、10GHz以上の高周波のみで使用可能であり、固定電極をごく薄い誘電膜を隔てて接触させるキャパシティブ型の2種類に大別される。なお、現在では、民生用の携帯電話機器はおよそ500MHzから5GHz帯を主として使用しているので、DC型MEMSスイッチの利用価値が高い。
【0004】
このようなMEMSスイッチの可動電極及び固定電極には、一般的にAu(金)が用いられている。Auは、導電性が高く、他の金属に比べて酸化されにくく、変形しやすいため接触面積を多く取ることができるという利点がある。このため、MEMSスイッチなどの微細化されたスイッチにおいても高い導通(接触抵抗が低い状態)を保つことができる。しかしながら、Auは、他の金属に比べて粘着係数が高い。このため、可動電極と固定電極とが粘着するという問題が生じる。
【0005】
このような問題を解決するために、接触電極の材質にRu(ルテニウム)、Rh(ロジウム)又はAuCo(金コバルト)を使用することにより、動作特性に関与しない程度にまで粘着力を低減できる技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−266727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、DC型MEMSスイッチは、実際は、可動電極と固定電極との接点では、よりミクロな融着、破断を繰り返しているため、スイッチとしてON−OFFを繰り返していくうちに、次第にその接点が表面荒れを生じ、ついには接触不良を生じ、MEMSスイッチとしての寿命が低下するという問題が生じていた。
【0007】
そこで、本発明は、接触抵抗を低く保つことができ、寿命が長いDC型MEMSスイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るMEMSスイッチは、基板と、前記基板上に設けられた固定電極と、前記基板上に設けられ、前記固定電極に対向配置された可動電極を有し、前記基板方向に対して屈曲変位することで、前記固定電極と前記可動電極とを直接接触させる梁と、前記梁の屈曲変位を制御する制御手段と、を備え、前記固定電極又は前記可動電極の少なくとも一方はAuで構成され、他方は、Ir、Rh、Os、Ru、Re、Teから選ばれた一つないしは二つ以上の金属を主成分として構成されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るMEMSスイッチは、基板と、前記基板上に設けられた固定電極と、前記基板上に設けられ、前記固定電極に対向配置された可動電極を有し、前記基板方向に対して屈曲変位することで、前記固定電極と前記可動電極とを直接接触させる梁と、前記梁の屈曲変位を制御する制御手段と、を備え、前記固定電極又は前記可動電極の少なくとも一方はAuで構成され、他方は、TiN、ZrN、HfN、VNから選ばれた一つないしは二つ以上の金属を主成分として構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、接触抵抗を低く保つことができ、寿命が長いDC型MEMSスイッチが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために、様々な検討を重ねた結果、DC型MEMSスイッチにおいて接触抵抗を低く保つためには、やはり可動電極と固定電極との接触の際、その接触部が十分に変形して接触面積が大きくなることが必要であること、導電性が高く酸化されにくいこと等を考慮すると、可動電極と固定電極のどちらか一方はAuを用いることが最適であることを見出した。また、寿命を長くするためには、Auと対となる電極が、Auと融着しにくい材料を用いることが必要であることを見出した。
【0012】
融着しにくいとは材料化学的に言い換えると、相互に混じりにくい、すなわち、平衡状態図で言えば双方の金属が固溶しないことである。また、熱力学的に言えば双方の金属の混合熱が正であることである。本発明者は、このようなAuと融着しにくい材料は、Ir(イリジウム)、Rh(ロジウム)、Os(オスミウム)、Ru(ルテニウム)、Re(レニウム)、Tc(テクネチウム)であることを見出した。
【0013】
さらに、本発明者は、Auと融着しにくい材料として、導電性を有する金属材料の窒化物が有効であることを見出した。その中で、TiN(窒化チタン)、ZrN(窒化ジルコニア)、HfN(窒化ハフニウム)、VN(窒化バナジウム)は、接触抵抗が低く、常温で酸化しにくく、Auと融着しにくいため、Auと対となる電極の材料として好適であることを見出した。
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。以下の図面の記載において、同一の部分には同一の符号を付し、重複する記載は省略する。また、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものと異なる。更に、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0015】
図1に本実施形態に係るMEMSスイッチの一例を示す平面図を、図2に図1のA−A線で切った断面図を、それぞれ示す。
【0016】
本実施形態に係るMEMSスイッチは、2つの固定電極を持つシリーズ型MEMSスイッチに用いられるもので、図1、図2に示すように、基板1と、基板1上に設けられたトレンチ2内に配置された固定電極3と基板1上に設けられ、一部が固定電極3に対向配置された梁10とを備えている。
【0017】
梁10は、一端がトレンチ2以外の基板1上に設けられ、他端が基板1の固定電極3に対向配置された下部電極5と、下部電極5上にこの順で積層された圧電膜6、上部電極7及び支持膜8とを備える。
【0018】
下部電極5と、上部電極7には、それぞれ配線12a、12bが接続されている。配線12a、12bには、それぞれ端子13a、13bが設けられている。端子13a、13bは、それぞれ、下部電極5、上部電極7に電圧を印加して、圧電膜6を伸縮自在に駆動させる電圧印加手段の役割を備えている。
【0019】
端子13aから下部電極5に、端子13bから上部電極7にそれぞれ電圧を印加すると逆圧電効果により圧電膜6が歪んで伸縮する。例えば、端子13bの電位を端子13aの電位より高くすることで、逆圧電効果により、圧電膜6は縮み、梁10は基板1側に屈曲変位する。反対に、端子13bの電位を端子13aの電位より低くすることで、逆圧電効果により圧電膜6は伸び、梁10は基板1側と反対方向に屈曲変位する。
【0020】
梁10に設けられた下部電極5は、可動電極として働き、梁10の屈曲変位に対応して、基板1方向に上下に変位する。この変位により下部電極5を固定電極3に直接接触させることで、MEMSスイッチとしてON−OFFが可能となる。
【0021】
下部電極5(可動電極)と固定電極3のどちらか一方はAuで構成されていることが好ましい。下部電極5と固定電極3の両方がAuで構成されている場合は、接触抵抗は低く保つことができるものの、ミクロな融着が発生してしまい、MEMSスイッチとしての寿命が短くなるため好ましくない。また、下部電極5及び固定電極3のどちらにもAuを用いない場合は、接触抵抗が高くなるため好ましくない。
【0022】
Auと対となる電極は、Ir、Rh、Os、Ru、Re、Tcから選ばれた一つないしは二つ以上の金属を主成分として構成されていることが好ましい。ここでいう「主成分として構成されている」とは、上記電極内に含まれる上記金属の重量%が、50%以上の場合を示す(以下同様)。なお、上記電極に用いられる材料としては、その他、Pt(白金)、Pd(パラジウム)等が挙げられるがこれらはAuと融着しやすく、MEMSスイッチとしての寿命が短くなるため好ましくない。
【0023】
また、Auと対となる電極は、金属材料の窒化物(TiN、ZrN、HfN、VN)から選ばれた一つないしは二つ以上の金属を主成分として構成されていることが好ましい。その他、金属材料の窒化物として、NbN(窒化ニオブ)、TaN(窒化タンタル)などが挙げられるが、これらはAuと融着しにくいものの接触抵抗が高くなるため好ましくない。
【0024】
基板1は、絶縁性のガラス基板やシリコン(Si)等の半導体基板が好適に用いられる。
【0025】
圧電膜6は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)や酸化亜鉛(ZnO)のウルツ鉱型の結晶、又は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)やチタン酸バリウム(BTO)等のペロブスカイト系強誘電体等が好適に用いられる。
【0026】
上部電極7は、導電性を有する材料で構成されていれば特に限定されない。本実施形態ではAuを用いた場合で説明する。
【0027】
支持膜8は、例えば、ポリSi膜で構成されている。
【0028】
次に、図1及び図2に示すMEMSスイッチの製造方法を説明する。図3から図7は、本実施形態に係るMEMSスイッチの製造方法を説明する工程毎の断面図である。
【0029】
最初に、例えば、絶縁性のガラス基板1に、リソグラフィー及びRIEエッチングにより、端部にテーパーを有するトレンチ2を形成する(図3)。
【0030】
次に、トレンチ2の底部に固定電極3を周知のリストオフプロセスを使用して形成する(図4)。
【0031】
次に、トレンチ2を埋め込むように犠牲層4を成膜する(図5)。犠牲層としては、他の膜材料に対して選択エッチングが可能な無機材料、金属材料、有機材料を使用することが可能であるが、本実施形態では、多結晶シリコンを好適に用いている。
【0032】
次に、周知のCMP技術により、ガラス基板1の表面が露出するまで犠牲層4を平坦化する(図6)。
【0033】
次に、周知のスパッタ法、CVD法等により、ガラス基板1及び犠牲層4上に、下部電極5、圧電膜6、上部電極7、支持膜8を、この順で積層して、周知のリソグラフィー及びエッチングによりパターニングし、梁10を形成する(図7)。
【0034】
最後に、トレンチ2内に形成された犠牲層4を、XeF2を使用した選択エッチングにより除去し、下部電極5及び上部電極7に配線12a、12b、端子13a、13bを接続することで、図1及び図2に示すようなMEMSスイッチが製造される。
【0035】
なお、本発明は、図1及び図2に示すMEMSスイッチには限定されない。例えば、図8に示すように、基板1上にトレンチ2が設けられておらず、基板1上に固定電極3が設けられ、基板1上に、アンカー15を介して固定された梁10を備えたMEMSスイッチでも同様な効果が得られる。
【0036】
次に、本発明について、具体的な実施例を説明する。
【実施例】
【0037】
(実施例1〜6)
図1及び図2に示すMEMSスイッチを、図3から図7に示す製造方法で作製した。この際、固定電極3及び下部電極5に用いられる金属材料を、表1(実施例1〜6)に示すような条件でそれぞれ振って、MEMSスイッチを作製した。その他の条件は下記に示すとおりである。
【0038】
・固定電極3の厚さ200nm
・下部電極5の厚さ200nm
・圧電膜6 c軸配向したAlN(厚さ500nm)
・上部電極7 Au(厚さ200nm)
・支持膜8 ポリSi層(厚さ600nm)
・梁10の長軸(図1中a)の長さ200μm
・梁10の短軸(図1中b)の長さ100μm
以上の条件で作成したMEMSスイッチの初期接触抵抗値及び初期抵抗値が2倍になるまでの寿命をそれぞれ評価した。
【0039】
(比較例1〜6)
図1及び図2に示すMEMSスイッチを、図3から図7に示す製造方法で作製した。この際、固定電極3及び下部電極5に用いられる金属材料を、表1(比較例1〜6)に示すような条件でそれぞれ振って、MEMSスイッチを作成した。その他の条件は実施例1から6と同様とした。
【0040】
以上の条件で作成したMEMSスイッチの初期接触抵抗値及び初期抵抗値が2倍になるまでの寿命をそれぞれ評価した。
【0041】
実施例1から6及び比較例1から6に関する評価結果を表1に示す。
【表1】

【0042】
表1を見ても分かるように、実施例1から6において、固定電極3としてAuを使用し、下部電極5として、Ir、Rh、Os、Ru、Re、Tcを使用したMEMSスイッチにおいては、初期接触抵抗が0.8〜2.8Ωと非常に小さく、かつ、寿命がいずれも10回以上と非常に長いことが確認された。これは、電極同士の初期接触時にAuが変形して広い接触面積が確保されるために接触抵抗が低くなること、さらに、これらの電極同士が、表2に示すような平衡状態図を見ても分かるように固溶状態を作らないこと、また、金属同士の混合熱も、Au−Ir(53KJ/mol)、Au−Rh(31KJ/mol)、Au−Os(77KJ/mol)、Au−Ru(65KJ/mol)、Au−Re(83KJ/mol)、Au−Tc(59KJ/mol)と大きいことなどから上述した効果が得られたものと考えられる。
【0043】
一方、比較例1から3において、固定電極3としてAuを使用し、下部電極5として、Au、Pt、Pdを使用したMEMSスイッチにおいては、初期接触抵抗が0.4〜1.6Ωと非常に小さいものの寿命が実施例に比べて2桁以上も低下することが確認された。これは、Au−Au、Au−Pt、Au−Pdの組み合わせは、表2に示すような平衡状態図において、固溶状態を作りやすく、かつ、これらの混合熱も、Au−Au(0KJ/mol)、Au−Pt(18KJ/mol)、Au−Pd(0KJ/mol)と、非常に小さいため、ミクロな融着を生じやすいためと考えられる。
【表2】

【0044】
また、比較例4から6において、固定電極3としてIrを使用し、下部電極5として、Ir、Pt、Pdを使用したMEMSスイッチにおいては、寿命がいずれも10回以上と非常に長いものの、初期接触抵抗が高い結果が確認された。これは、Ir、Pt、Pd共に硬く変形しにくいため、接触時において広い接触面積が確保することが出来なかったためと考えられる。
【0045】
(実施例7)
図1及び図2に示すMEMSスイッチを、図3から図7に示す製造方法で作製した。この際、固定電極3にAuを用い、下部電極5に、上記実施例1〜6で良好であったIr、Rh、Os、Ru、Re、Tcのうち選択された2つの金属の合金(2元合金:Ir−Rh、Ir−Os、Ir−Ru、Ir−Re、Ir−Tc、Rh−Os、Rh−Ru、Rh−Re、Rh−Tc、Os−Ru、Os−Re、Os−Tc、Re−Tc)、及び、選択された3つの金属の合金(3元合金:Ir−Rh−Os、Ir−Rh−Ru、Ir−Rh−Re、Ir−Rh−Tc、Ir−Os−Ru、Ir−Os−Re、Ir−Os−Tc、Ir−Ru−Re、Ir−Ru−Tc、Ir−Re−Tc、Rh−Os−Ru、Rh−Os−Re、Rh−Os−Tc、Rh−Ru−Re、Rh−Ru−Tc、Rh−Re−Tc、Os−Ru−Re、Os−Ru−Re、Os−Re−Tc、Ru−Re−Tc)について検討を行った。その他の条件は実施例1から6と同様とした。
【0046】
その結果、実施例1から6の結果と同様に、初期接触抵抗が非常に小さく(1.3〜3.8 Ω)、かつ、寿命がいずれも10回以上と非常に長いことが確認された。
【0047】
(実施例8〜10)
図1及び図2に示すMEMSスイッチを、図3から図7に示す製造方法で作製した。この際、固定電極3にAuを用い、下部電極5に上記実施例1〜6で良好であった金属のうちIrと、上記比較例で最も結果が悪かったAuとの2元合金を用いた。この2元合金は、IrとAuとの混合比(重量比以下同様)を3:1(実施例8)、2:1(実施例9)、1:1(実施例10)と変化させてそれぞれ作製した。これらの2元合金を下部電極5としてそれぞれMEMSスイッチを作製した。その他の条件は実施例1から6と同様とした。
【0048】
以上の条件で作成したMEMSスイッチの初期接触抵抗値及び初期抵抗値が2倍になるまでの寿命をそれぞれ評価した。
【0049】
(比較例7〜8)
実施例8〜10と同様に、固定電極3にAuを用い、下部電極にIrとAuとの2元合金を作製した。この2元合金は、IrとAuとの混合比を1:2(比較例7)、1:3(比較例8)と変化させてそれぞれ作製した。これらの2元合金を下部電極5としてそれぞれMEMSスイッチを作製した。その他の条件は実施例1から6と同様とした。
【0050】
以上の条件で作成したそれぞれのMEMSスイッチの初期接触抵抗値及び初期抵抗値が2倍になるまでの寿命をそれぞれ評価した。
【0051】
以上の実施例8から10及び比較例7から8に関する評価結果を表3に示す。
【表3】

【0052】
表3を見ても分かるように、下部電極のIrとAuとの混合比が3:1、2:1、1:1のとき、すなわち下部電極内に含まれるIrの重量%が50%以上の時は、実施例1から6と同様に、初期接触抵抗が非常に小さく、かつ、寿命がいずれも10回以上と非常に長いことが確認された。なお、下部電極内に含まれるIrの重量%が50%未満の場合(比較例7、8)は、寿命が一桁程度低下した。
【0053】
(実施例11〜13)
図1及び図2に示すMEMSスイッチを、図3から図7に示す製造方法で作製した。この際、固定電極3にAuを用い、下部電極5に上記実施例1〜6で良好であった金属のうちRhと、上記比較例で最も結果が悪かったAuとの2元合金を用いた。この2元合金は、RhとAuとの混合比を3:1(実施例11)、2:1(実施例12)、1:1(実施例13)と変化させてそれぞれ作製した。これらの2元合金を下部電極5としてそれぞれMEMSスイッチを作製した。その他の条件は実施例1から6と同様とした。
【0054】
以上の条件で作成したMEMSスイッチの初期接触抵抗値及び初期抵抗値が2倍になるまでの寿命をそれぞれ評価した。
【0055】
(比較例9〜10)
実施例11〜13と同様に、固定電極3にAuを用い、下部電極にRhとAuとの2元合金を作製した。この2元合金は、RhとAuとの混合比を1:2(比較例9)、1:3(比較例10)と変化させてそれぞれ作製した。これらの2元合金を下部電極5としてそれぞれMEMSスイッチを作製した。その他の条件は実施例1から6と同様とした。
【0056】
以上の条件で作成したそれぞれのMEMSスイッチの初期接触抵抗値及び初期抵抗値が2倍になるまでの寿命をそれぞれ評価した。
【0057】
以上の実施例11から13及び比較例9から10に関する評価結果を表4に示す。
【表4】

【0058】
表4を見ても分かるように、下部電極のRhとAuとの混合比が3:1、2:1、1:1のとき、すなわち下部電極内に含まれるRhの重量%が50%以上の時は、実施例1から6と同様に、初期接触抵抗が非常に小さく、かつ、寿命がいずれも10回以上と非常に長いことが確認された。なお、下部電極内に含まれるRhの重量%が50%未満の場合(比較例9、10)は、寿命が一桁程度低下した。
【0059】
(実施例14〜16)
図1及び図2に示すMEMSスイッチを、図3から図7に示す製造方法で作製した。この際、固定電極3にAuを用い、下部電極5に上記実施例1〜6で良好であった金属のうちOsと、上記比較例で最も結果が悪かったAuとの2元合金を用いた。この2元合金は、OsとAuとの混合比を3:1(実施例14)、2:1(実施例15)、1:1(実施例16)と変化させてそれぞれ作製した。これらの2元合金を下部電極5としてそれぞれMEMSスイッチを作製した。その他の条件は実施例1から6と同様とした。
【0060】
以上の条件で作成したMEMSスイッチの初期接触抵抗値及び初期抵抗値が2倍になるまでの寿命をそれぞれ評価した。
【0061】
(比較例11〜12)
実施例14〜16と同様に、固定電極3にAuを用い、下部電極にOsとAuとの2元合金を作製した。この2元合金は、OsとAuとの混合比を1:2(比較例11)、1:3(比較例12)と変化させてそれぞれ作製した。これらの2元合金を下部電極5としてそれぞれMEMSスイッチを作製した。その他の条件は実施例1から6と同様とした。
【0062】
以上の条件で作成したそれぞれのMEMSスイッチの初期接触抵抗値及び初期抵抗値が2倍になるまでの寿命をそれぞれ評価した。
【0063】
以上の実施例14から16及び比較例11から12に関する評価結果を表5に示す。
【表5】

【0064】
表5を見ても分かるように、下部電極のOSとAuとの混合比が3:1、2:1、1:1のとき、すなわち下部電極内に含まれるOSの重量%が50%以上の時は、実施例1から6と同様に、初期接触抵抗が非常に小さく、かつ、寿命がいずれも10回以上と非常に長いことが確認された。なお、下部電極内に含まれるOsの重量%が50%未満の場合(比較例11、12)は、寿命が一桁程度低下した。
【0065】
(実施例17〜19)
図1及び図2に示すMEMSスイッチを、図3から図7に示す製造方法で作製した。この際、固定電極3にAuを用い、下部電極5に上記実施例1〜6で良好であった金属のうちRuと、上記比較例で最も結果が悪かったAuとの2元合金を用いた。この2元合金は、RuとAuとの混合比を3:1(実施例17)、2:1(実施例18)、1:1(実施例19)と変化させてそれぞれ作製した。これらの2元合金を下部電極5としてそれぞれMEMSスイッチを作製した。その他の条件は実施例1から6と同様とした。
【0066】
以上の条件で作成したMEMSスイッチの初期接触抵抗値及び初期抵抗値が2倍になるまでの寿命をそれぞれ評価した。
【0067】
(比較例13〜14)
実施例17〜19と同様に、固定電極3にAuを用い、下部電極にRuとAuとの2元合金を作製した。この2元合金は、RuとAuとの混合比を1:2(比較例13)、1:3(比較例14)と変化させてそれぞれ作製した。これらの2元合金を下部電極5としてそれぞれMEMSスイッチを作製した。その他の条件は実施例1から6と同様とした。
【0068】
以上の条件で作成したそれぞれのMEMSスイッチの初期接触抵抗値及び初期抵抗値が2倍になるまでの寿命をそれぞれ評価した。
【0069】
以上の実施例17から19及び比較例13から14に関する評価結果を表6に示す。
【表6】

【0070】
表6を見ても分かるように、下部電極のRuとAuとの混合比が3:1、2:1、1:1のとき、すなわち下部電極内に含まれるRuの重量%が50%以上の時は、実施例1から6と同様に、初期接触抵抗が非常に小さく、かつ、寿命がいずれも10回以上と非常に長いことが確認された。なお、下部電極内に含まれるRuの重量%が50%未満の場合(比較例13、14)は、寿命が一桁以上程度低下した。
【0071】
(実施例20〜22)
図1及び図2に示すMEMSスイッチを、図3から図7に示す製造方法で作製した。この際、固定電極3にAuを用い、下部電極5に上記実施例1〜6で良好であった金属のうちReと、上記比較例で最も結果が悪かったAuとの2元合金を用いた。この2元合金は、ReとAuとの混合比を3:1(実施例20)、2:1(実施例21)、1:1(実施例22)と変化させてそれぞれ作製した。これらの2元合金を下部電極5としてそれぞれMEMSスイッチを作製した。その他の条件は実施例1から6と同様とした。
【0072】
以上の条件で作成したMEMSスイッチの初期接触抵抗値及び初期抵抗値が2倍になるまでの寿命をそれぞれ評価した。
【0073】
(比較例15〜16)
実施例20〜22と同様に、固定電極3にAuを用い、下部電極にReとAuとの2元合金を作製した。この2元合金は、ReとAuとの混合比を1:2(比較例15)、1:3(比較例16)と変化させてそれぞれ作製した。これらの2元合金を下部電極5としてそれぞれMEMSスイッチを作製した。その他の条件は実施例1から6と同様とした。
【0074】
以上の条件で作成したそれぞれのMEMSスイッチの初期接触抵抗値及び初期抵抗値が2倍になるまでの寿命をそれぞれ評価した。
【0075】
以上の実施例20から22及び比較例15から16に関する評価結果を表7に示す。
【表7】

【0076】
表7を見ても分かるように、下部電極のReとAuとの混合比が3:1、2:1、1:1のとき、すなわち下部電極内に含まれるReの重量%が50%以上の時は、実施例1から6と同様に、初期接触抵抗が非常に小さく、かつ、寿命がいずれも10回以上と非常に長いことが確認された。なお、下部電極内に含まれるReの重量%が50%未満の場合(比較例15、16)は、寿命が一桁以上程度低下した。
【0077】
(実施例23〜25)
図1及び図2に示すMEMSスイッチを、図3から図7に示す製造方法で作製した。この際、固定電極3にAuを用い、下部電極5に上記実施例1〜6で良好であった金属のうちTcと、上記比較例で最も結果が悪かったAuとの2元合金を用いた。この2元合金は、TcとAuとの混合比を3:1(実施例23)、2:1(実施例24)、1:1(実施例25)と変化させてそれぞれ作製した。これらの2元合金を下部電極5としてそれぞれMEMSスイッチを作製した。その他の条件は実施例1から6と同様とした。
【0078】
以上の条件で作成したMEMSスイッチの初期接触抵抗値及び初期抵抗値が2倍になるまでの寿命をそれぞれ評価した。
【0079】
(比較例17〜18)
実施例23〜25と同様に、固定電極3にAuを用い、下部電極にTcとAuとの2元合金を作製した。この2元合金は、TcとAuとの混合比を1:2(比較例17)、1:3(比較例18)と変化させてそれぞれ作製した。これらの2元合金を下部電極5としてそれぞれMEMSスイッチを作製した。その他の条件は実施例1から6と同様とした。
【0080】
以上の条件で作成したそれぞれのMEMSスイッチの初期接触抵抗値及び初期抵抗値が2倍になるまでの寿命をそれぞれ評価した。
【0081】
以上の実施例23から25及び比較例17から18に関する評価結果を表8に示す。
【表8】

【0082】
表8を見ても分かるように、下部電極のTcとAuとの混合比が3:1、2:1、1:1のとき、すなわち下部電極内に含まれるTcの重量%が50%以上の時は、実施例1から6と同様に、初期接触抵抗が非常に小さく、かつ、寿命がいずれも10回以上と非常に長いことが確認された。なお、下部電極内に含まれるTcの重量%が50%未満の場合(比較例17、18)は、寿命が一桁以上程度低下した。
【0083】
(実施例26〜29)
図1及び図2に示すMEMSスイッチを、図3から図7に示す製造方法で作製した。この際、固定電極3及び下部電極5に用いられる金属材料を、表2(実施例26〜29)に示すような条件でそれぞれ振って、MEMSスイッチを作成した。その他の条件は実施例1から6と同様とした。
【0084】
以上の条件で作成したMEMSスイッチの初期接触抵抗値及び初期抵抗値が2倍になるまでの寿命をそれぞれ評価した。
【0085】
(比較例19〜20)
図1及び図2に示すMEMSスイッチを、図3から図7に示す製造方法で作製した。この際、固定電極3及び下部電極5に用いられる金属材料を、表2(比較例19〜20)に示すような条件でそれぞれ振って、MEMSスイッチを作成した。その他の条件は実施例1から6と同様とした。
【0086】
以上の条件で作成したMEMSスイッチの初期接触抵抗値及び初期抵抗値が2倍になるまでの寿命をそれぞれ評価した。
【0087】
以上の実施例26から29及び比較例19から20に関する評価結果を表9に示す。
【表9】

【0088】
表9を見ても分かるように、実施例26から29において、固定電極3としてAuを使用し、下部電極5として、TiN、ZrN、HfN、VNを使用したMEMSスイッチにおいては、初期接触抵抗が2.0〜6.1と非常に小さく、かつ、寿命がいずれも10回以上と非常に長いことが確認された。これは、初期接触時にAuが変形して広い接触面積が確保されるために接触抵抗が低くなること、更に、これらの金属窒化物がAuと融着を生じないことなどから上述した効果が得られたものと考えられる。
【0089】
一方、比較例19、20において、固定電極3としてAuを使用し、下部電極5として、NdN、TaNを使用したMEMSスイッチにおいては、寿命はいずれも10回以上と非常に長いものの、初期接触抵抗が15Ω以上と非常に高い結果が確認された。これは、NbN、TaNの比抵抗値が大きいためと考えられる。
【0090】
(その他の実施例及び比較例)
上記実施例26〜29で良好であったTiN、ZrN、HfN、VNを用いて、これらのうち選択された2つの金属の合金、3つの合金、及び上記4金属それぞれとAuとの混合比を振った検討でも、いずれも同様な結果が得られた。
【0091】
なお、上述した実施例及び比較例では、固定電極にAuを用い、下部電極に上述したその他の金属及び金属窒化物を用いる例で説明しているが、本発明はこれに限定されることがなく、下部電極にAu、固定電極に上述したその他の金属及び金属窒化物を用いても同様な効果が得られるのは言うまでも無い。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本実施形態に係るMEMSスイッチの一例を示す平面図。
【図2】図1のA−A線で切った断面図。
【図3】本実施形態に係るMEMSスイッチの製造方法を説明する工程毎の断面図。
【図4】本実施形態に係るMEMSスイッチの製造方法を説明する工程毎の断面図。
【図5】本実施形態に係るMEMSスイッチの製造方法を説明する工程毎の断面図。
【図6】本実施形態に係るMEMSスイッチの製造方法を説明する工程毎の断面図。
【図7】本実施形態に係るMEMSスイッチの製造方法を説明する工程毎の断面図。
【図8】本実施形態に係るMEMSスイッチの他の一例を示す平面図。
【符号の説明】
【0093】
1 基板
2 トレンチ
3 固定電極
4 犠牲層
5 下部電極(可動電極)
6 圧電膜
7 上部電極
8 支持膜
10 梁
12a 配線
12b 配線
13a 端子
13b 端子
15 アンカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた固定電極と、
前記基板上に設けられ、前記固定電極に対向配置された可動電極を有し、前記基板方向に対して屈曲変位することで、前記固定電極と前記可動電極とを直接接触させる梁と、
前記梁の屈曲変位を制御する制御手段と、を備え、
前記固定電極又は前記可動電極の少なくとも一方はAuで構成され、他方は、Ir、Rh、Os、Ru、Re、Teから選ばれた一つないしは二つ以上の金属を主成分として構成されていることを特徴とするMEMSスイッチ。
【請求項2】
基板と、
前記基板上に設けられた固定電極と、
前記基板上に設けられ、前記固定電極に対向配置された可動電極を有し、前記基板方向に対して屈曲変位することで、前記固定電極と前記可動電極とを直接接触させる梁と、
前記梁の屈曲変位を制御する制御手段と、を備え、
前記固定電極又は前記可動電極の少なくとも一方はAuで構成され、他方は、TiN、ZrN、HfN、VNから選ばれた一つないしは二つ以上の金属を主成分として構成されていることを特徴とするMEMSスイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−53077(P2008−53077A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228748(P2006−228748)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】