説明

MFC/樹脂複合材とその製造方法

【課題】ミクロフィブリル化セルロース(MFC)同士が凝集することなく樹脂中に均一に分散されたMFC/樹脂複合材とその製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂とMFCとから構成されるMFC/樹脂複合材であって、凝集せずに解繊されたMFCが空隙を有するように均一に分散しており、空隙内に樹脂が充填されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MFC/樹脂複合材とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂の補強材としてミクロフィブリル化セルロース(Micro-Fibrillated Cellulose:MFC)を用いたMFC/樹脂複合材が知られている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
このMFC/樹脂複合材では、MFCの補強材としての機能を発揮させるために樹脂中にMFCを均一に分散させることが重要である。すなわち、樹脂を繊維で補強することを考えた場合、一般に繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)が大きいほど補強効果は大きくなる。MFCはその原料となる植物単繊維と比較して2桁ほど大きいアスペクト比を有しているが、MFCが樹脂中で均一に分散せずにMFC同士が凝集した状態で存在すると、MFCが有する高いアスペクト比に由来する樹脂への高い補強効果を発揮させることができない。
【0004】
しかしながら、MFCは樹脂と複合化する工程において凝集し易いため、樹脂中にMFCが均一に分散した複合材を得ることは難しい。これは、以下に説明するように、MFCはナノオーダーの繊維であること、およびMFCを構成する分子が極めて親水性の高いセルロースであることが主な要因となっている。
【0005】
一般にナノファイバーの3大効果として、(1)超比表面積効果、(2)ナノサイズ効果、(3)超分子配列効果が挙げられる。この中で繊維同士の凝集に主として関わるのは、超比表面積効果である。ナノファイバーはその極めて細い直径のために、単位質量当たりの表面積が極めて大きい。大きな表面積は繊維同士の相互作用を強め、繊維表面に極性の高い官能基を有する場合には、繊維同士を凝集し易い状況へ導く。そして、MFCは表面に極性の高いヒドロキシル基を多数有する化学構造を有している。
【0006】
すなわち、MFCは図2に示すように多糖のセルロースから構成されており、セルロースは多数のヒドロキシル基を有している。ヒドロキシル基は極性の高い官能基であり、これを多数有するセルロースから構成されるMFCは非常に極性の高い親水性に富む成分となる。
【0007】
MFCは製造工程上、多量の水分と共存する形で生成される。共存する水分をMFCから除去すると、MFC同士が凝集し、互いに強固な水素結合を形成する。一旦水素結合により結びついたMFC凝集塊を、再度個々の繊維に分離することは極めて難しい。
【0008】
MFCを樹脂と複合化する際には、複合化の過程でMFCと共存する水分を除去することが必要になる。MFCと水分が共存したままでは水分がMFCの非晶領域に浸透し、非晶領域を構成するセルロース分子鎖の結合力を緩めるため、MFC自身の強度が低減される。その結果、樹脂に対する補強効果が弱まることになる。また、複合材中の水分が材料の使用過程で抜けると、材料が収縮し、乾燥に伴う内部応力が発生するなどの問題が発生する。
【0009】
MFCを樹脂と複合化する際には、MFCが樹脂中に分散した状態を保ちながら両者を複合化することが重要な鍵となる。しかしながら、MFCの凝集発生を阻止することは非常に難しい。これは、樹脂の大部分はMFCほどの大きな極性を有しないためである。MFCと樹脂を単純に混合するのみでは、MFC同士の凝集は避けられない。
【0010】
MFC/樹脂複合材の従来技術として、特許文献1では、混練機内にMFC原料の植物繊維と樹脂を同時に投入し、混練機内において植物繊維の解繊を進めながら、生成するMFCと樹脂を複合化することが提案されている。
【0011】
特許文献2では、MFC/樹脂複合シートを作製し、複数枚のMFC/樹脂複合シートを積層成形することによりMFC/樹脂複合材を作製することが提案されている。
【0012】
特許文献3では、MFCと熱可塑性樹脂との混合物を加熱溶融して成形することが提案されている。
【特許文献1】特開2005−42283号公報
【特許文献2】特開2003−201695号公報
【特許文献3】特開2006−312281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1の方法では、MFCの含有率が高くなると、混練物の粘度が過剰に高くなり混練不可能な状態になると推測され、MFCの含有率が低い場合でないと適用が困難である。
【0014】
また、特許文献2の方法では、MFC/樹脂複合シート間の層間剥離によりMFC/樹脂複合材が破壊するため、MFCの補強効果が完全に発揮されない。
【0015】
また、特許文献3には、MFCと熱可塑性樹脂を具体的にどのように複合化するかについての記載はなく、さらに、特許文献3に記載されている方法でMFCを樹脂中に均一に分散させることは困難である。
【0016】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、MFC同士が凝集することなく樹脂中に均一に分散されたMFC/樹脂複合材とその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0018】
第1に、本発明のMFC/樹脂複合材は、樹脂とミクロフィブリル化セルロース(MFC)とから構成されるMFC/樹脂複合材であって、凝集せずに解繊されたMFCが空隙を有するように均一に分散しており、空隙内に樹脂が充填されていることを特徴とする。
【0019】
第2に、上記第1のMFC/樹脂複合材において、樹脂は植物由来樹脂であることを特徴とする。
【0020】
第3に、上記第1または第2のMFC/樹脂複合材において、樹脂は熱可塑性樹脂であることを特徴とする。
【0021】
第4に、上記第1ないし第3のいずれかのMFC/樹脂複合材において、MFCは、その構成成分であるセルロースに疎水性の官能基を導入したものであることを特徴とする。
【0022】
第5に、上記第4のMFC/樹脂複合材において、MFCは、その構成成分であるセルロースをアセチル化処理したものであることを特徴とする。
【0023】
第6に、本発明のMFC/樹脂複合材の製造方法は、水分含有ミクロフィブリル化セルロース(MFC)を凍結乾燥した後、この凍結乾燥物に樹脂を含浸することを特徴とする。
【0024】
第7に、上記第6のMFC/樹脂複合材の製造方法において、水分含有MFCを型枠内に投入し、型枠内の水分含有MFCを加圧圧縮することにより、水分含有MFCから水分を圧搾除去して予備脱水を行い、次いでこの予備脱水した水分含有MFCを凍結乾燥することを特徴とする。
【0025】
第8に、上記第7のMFC/樹脂複合材の製造方法において、水分含有MFCの固形分濃度が20質量%以上となるように予備脱水することを特徴とする。
【0026】
第9に、上記第6ないし第8のいずれかのMFC/樹脂複合材の製造方法において、MFCは、その構成成分であるセルロースに疎水性の官能基を導入したものであることを特徴とする。
【0027】
第10に、上記第9のMFC/樹脂複合材の製造方法において、MFCは、その構成成分であるセルロースをアセチル化処理したものであることを特徴とする。
【0028】
第11に、上記第6ないし第10のいずれかのMFC/樹脂複合材の製造方法において、凍結乾燥物に溶融状態の熱可塑性樹脂を含浸することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
上記第1の発明によれば、凝集せずに解繊されたMFCが空隙を有するように均一に分散しており、その空隙内に樹脂が充填された構造を有している。そのため、MFCが有する高いアスペクト比に由来するMFCの補強材としての機能が発現され、樹脂単独の場合に比較して強度などの諸物性を大幅に向上させることができる。
【0030】
上記第2の発明によれば、上記第1の発明の効果に加え、植物由来樹脂を用いることでMFC/樹脂複合材全体として環境調和型の材料となり、石油系資源の節減や地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の発生抑制を達成することができる。また、植物由来樹脂が生分解性を有するものである場合には、植物繊維であるMFCとの複合材も生分解性の高い材料となる。
【0031】
上記第3の発明によれば、上記第1および第2の発明の効果に加え、加熱溶融や溶剤への溶解などにより樹脂を流動状態として、水分含有MFCの凍結乾燥物の空隙に含浸することによりMFC/樹脂複合材を容易に製造することができる。
【0032】
上記第4の発明によれば、上記第1ないし第3の発明の効果に加え、セルロースに疎水性の官能基を導入することで、MFCと樹脂との接着性が向上し、曲げ弾性、曲げ強さ、衝撃強度などの諸物性を向上させることができる。
【0033】
上記第5の発明によれば、上記第4の発明の効果に加え、セルロースをアセチル化処理することで、MFCと樹脂粒子との接着性が向上し、曲げ弾性、曲げ強さ、衝撃強度などの諸物性を大幅に向上させることができる。
【0034】
上記第6の発明によれば、MFCと共存する水分を液体の状態を介さずに昇華させて除去しているので、MFC同士の凝集が発生せず、解繊されたMFCが空隙を有するように均一に分散した構造を形成することができる。そのため、この空隙に樹脂を充填した本発明により得られるMFC/樹脂複合材は、MFCが有する高いアスペクト比に由来するMFCの補強材としての機能が発現され、樹脂単独の場合に比較して強度などの諸物性を大幅に向上させることができる。
【0035】
上記第7の発明によれば、上記第6の発明の効果に加え、予備脱水により水分含有MFCの固形分濃度を高めることで、後工程での水分含有MFCの取り扱いが容易になり、保形性も得ることができる。また、加圧圧縮により、脱水と同時に、水分含有MFCを型枠に対応した所定形状とすることができる。
【0036】
上記第8の発明によれば、上記第7の発明の効果に加え、予備脱水により水分含有MFCの固形分濃度を20質量%以上に高めることで、後工程での水分含有MFCの取り扱いが特に容易になり、良好な保形性も得ることができる。
【0037】
上記第9の発明によれば、上記第6ないし第8の発明の効果に加え、セルロースに疎水性の官能基を導入することで、凍結乾燥時においてMFCと共存する水分の除去が容易となり、乾燥時間の短縮が可能となる。さらに、後工程においてMFCウェブ構造体(後述)に樹脂を含浸させてMFC/樹脂複合材を作製する際に、MFCと樹脂間の接着性が向上し、曲げ弾性、曲げ強さ、衝撃強度などの諸物性を向上させることができる。
【0038】
上記第10の発明によれば、上記第9の発明の効果に加え、セルロースをアセチル化処理することで、凍結乾燥時においてMFCと共存する水分の除去が容易となり、乾燥時間の大幅な短縮が可能となる。さらに、後工程においてMFCウェブ構造体に樹脂を含浸させてMFC/樹脂複合材を作製する際に、MFCと樹脂間の接着性が向上し、曲げ弾性、曲げ強さ、衝撃強度などの諸物性を大幅に向上させることができる。
【0039】
上記第11の発明によれば、上記第6ないし第10の発明の効果に加え、MFCの凍結乾燥物に樹脂を含浸する工程において、樹脂と共存する水や溶剤を除去する乾燥工程を要することなくMFC/樹脂複合材を得ることができ、工程を簡略化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0041】
本発明のMFC/樹脂複合材は、凝集せずに解繊されたMFCが空隙を有するように均一に分散しており、空隙内に樹脂が充填されている。
【0042】
ここで、「凝集せずに解繊されたMFC」とは、ナノファイバーであるMFCが水素結合による凝集塊を形成していない状態のことであり、「均一に分散」しているとは、解繊されたMFCが、個々のMFC間に空隙を有するようにバルク全体として疎密なく均一に分散している状態のことである。
【0043】
このように凝集せずに解繊されたMFCが空隙を有するように均一に分散した構造体は、図1の概念図に示されるように、MFCが全体として繊維ウェブを形成している(以下、「MFCウェブ構造体」という)。
【0044】
MFCウェブ構造体中の空隙含有率(体積比率)は、製造時の調整により50〜75%とすることが好ましい。空隙含有率が小さ過ぎると、MFCの凝集が発生する傾向が大きくなる。
【0045】
このようなMFCウェブ構造体は、凍結乾燥を利用することで得ることができる(図1)。以下、本発明のMFC/樹脂複合材の製造方法を説明する。
【0046】
まず第1の工程として、水分含有MFCを凍結乾燥してMFCウェブ構造体を作製する。
【0047】
原料の水分含有MFCは、市販されているものを用いることができるが、たとえば、セリッシュ KY−100G(ダイセル工業(株)製、固形分10質量%)を用いることができる。
【0048】
MFCは、化学修飾することにより、その構成成分であるセルロースに疎水性の官能基を導入したものであってもよい。このような化学修飾の好適な具体例としては、アセチル化処理を挙げることができる。
【0049】
アセチル化処理などによりセルロースに疎水性の官能基を導入することで、凍結乾燥時においてMFCと共存する水分の除去が容易となり、乾燥時間の大幅な短縮が可能となる。さらに、後工程においてMFCウェブ構造体に熱可塑性樹脂などの樹脂を含浸させてMFC/樹脂複合材を作製する際に、MFCと樹脂間の接着性が向上し、曲げ弾性、曲げ強さ、衝撃強度などの諸物性を向上させることができる。これは、疎水性の官能基をMFCに導入することによりMFCの疎水性が高まり、疎水性の熱可塑性樹脂に対する親和性が向上することによるものと考えられる。
【0050】
MFCのアセチル化処理は、たとえば次の方法で行うことができる。原料の水分含有MFC(セリッシュ KY−100G)をMFC濃度が1質量%となるように多量の無水酢酸中に投入する。この溶液をホモジナイザーにより攪拌し、MFCを無水酢酸中に分散させる。次いで温度120℃で12時間処理することにより、MFCの構成成分であるセルロースをアセチル化する。アセチル化を完了した後、溶液を濾過し、その後、多量の水を濾過残渣に加えて攪拌し、濾過する処理を数回行うことにより、アセチル化MFCの水洗を行う。
【0051】
原料の水分含有MFCは、予め予備脱水して固形分濃度を高めた後、液体窒素に浸漬することにより凍結させ、その後凍結乾燥器により水分を除去する。これにより、内部に空隙を有するMFCウェブ構造体が得られる。
【0052】
本発明では、MFCと共存する水分を液体の状態を介さずに昇華させて除去しているので、水分含有MFC中において水分を含有する部分が水分の昇華によりそのまま空隙となり、図1上側のフローに示すように、MFC同士の凝集は発生せずにMFCウェブ構造体が得られる。これに対して通常の乾燥では、図1下側のフローに示すように、MFC同士が凝集して凝集塊が発生し、MFC凝集塊には空隙がほとんど存在しなくなるため樹脂を含浸できなくなる。
【0053】
MFCウェブ構造体は、具体的には次の方法で得ることができる。図3に示すように、原料の水分含有MFCを、水分が抜ける多孔質鉄板1上に配設した所定の型枠2内に投入した後、その上から上蓋3を被せて密閉容器とし、上方から上蓋3を押圧して密閉容器内の水分含有MFCに圧力(最大1.0MPa)を負荷して加圧圧縮することにより、多孔質鉄板1から水分を外部に押し出して水分を圧搾除去しMFC共存水分の予備脱水を行う。
【0054】
水分含有MFCの予備脱水は、加圧圧縮により水分含有MFCを型枠2に対応した所定形状とすると共に、水分含有MFCの固形分が好ましくは20質量%以上、より好ましくは30〜40質量%となるように行う。予備脱水により水分含有MFCの固形分を20質量%以上とすることで、後工程の取り扱いが容易になり、保形性も得ることができる。水分含有MFCの固形分が高くなり過ぎると、凍結乾燥工程においてMFC間の距離が接近し過ぎるために、MFCの凝集が発生し易い傾向がある。
【0055】
以上のようにして、固形分が20質量%以上となるまで予備脱水した所定形状のMFC塊を得た後、このMFC塊を液体窒素に浸漬することにより凍結させ、その後、凍結乾燥器により凍結乾燥する。凍結乾燥器は、市販のものを用いることができる。
【0056】
次いで第2の工程として、凍結乾燥により得られた内部に空隙を有するMFCウェブ構造体に樹脂を含浸する。具体的には、含浸絞り装置を用いてマット状のMFCウェブ構造体に樹脂を含浸させることにより、樹脂中にMFCが均一に分散したMFC/樹脂複合材を得ることができる。
【0057】
好ましい一態様では、加熱により溶融状態とした熱可塑性樹脂をMFCウェブ構造体に含浸する。このようにすることで、樹脂と共存する水や溶剤を除去する乾燥工程を要することなく、工程を簡略化することができる。
【0058】
使用する樹脂の種類は、特に制限はないが、植物由来樹脂を用いた場合、MFC/樹脂複合材全体として環境調和型の材料となる。植物由来樹脂を用いることで、石油系樹脂を用いた場合と比較してMFC/樹脂複合材の製造に要する石油系資源の量を低減することができるため、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の発生抑制に繋がると共に、枯渇が懸念されている石油系資源を節減する効果も期待できる。
【0059】
植物由来樹脂の具体例としては、ポリ乳酸(Poly Lactic Acid:以下、PLA)、ポリブチレンサクシネート、デンプン系樹脂などが挙げられる。特に、植物由来樹脂がPLAのように生分解性を有するものであれば、植物繊維であるMFCとの複合材も生分解性の高い材料となる。
【0060】
植物由来樹脂の他、樹脂として合成樹脂を用いることができ、その具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0061】
MFC/樹脂複合材におけるMFCと樹脂の配合比率は、原料として使用する水分含有MFCの固形分や、水分含有MFCの予備脱水時における水分の圧搾処理の程度によって調整することができる。すなわち、MFCの固形分濃度を下げ、水分の圧搾度合いを大きくすることにより、空隙比率の大きいMFCウェブ構造体を得ることができ、これにより樹脂含有率の低いMFC/樹脂複合材を得ることができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>
市販の水分含有MFC(セリッシュ KY−100G ダイセル工業(株)製、固形分10質量%)を、底部に多孔質鉄板を配設した100mm角の型枠内に投入し、その上から上蓋を被せて密閉容器とした後、上部から圧縮荷重0.5MPaを加え、水分を圧搾除去することにより予備脱水を行い、固形分21質量%のマット状の水分含有MFCを得た。
【0063】
このマット状の水分含有MFCを液体窒素に浸漬させることにより凍結した。次いでこの凍結物を凍結乾燥器に入れ、温度20℃の真空下にて凍結乾燥して凍結物中の共存水分を完全に除去した。これにより、凍結乾燥物として、内部に空隙を有するマット状のMFCウェブ構造体を得た。
【0064】
このMFCウェブ構造体を、温度180℃にて溶融させたPLA(LACEA H−100 三井化学(株)製)を槽内に収容した樹脂含浸機を通過させ、MFCウェブ構造体中の空隙部にPLAを含浸した。
【0065】
樹脂含浸機を通過した含浸物を冷却することにより、組成比がMFC30質量%、PLA70質量%の厚さ約3mmのMFC/PLA複合材を得た。
【0066】
得られたMFC/PLA複合材について、曲げ弾性率、曲げ強さ、アイゾット衝撃値をASTM規格に準拠した試験により測定した。その結果を表1に示す。
<実施例2>
市販の水分含有MFC(セリッシュ KY−100G ダイセル工業(株)製、固形分10質量%)を、MFC濃度が1質量%となるように多量の無水酢酸中に添加し、この溶液をホモジナイザーにより10分間攪拌し、MFCを無水酢酸中に分散した。その後、温度120℃で12時間処理することにより、セルロースをアセチル化した。アセチル化を完了した後、溶液を濾過し、さらに濾過残渣に多量の水を加えて攪拌、濾過する操作を数回行うことによりアセチル化MFCを水洗した。
【0067】
得られたアセチル化MFCを用い、実施例1と同様の手順により、組成比がMFC30質量%、PLA70質量%の厚さ約3mmのMFC/PLA複合材を得た。
【0068】
得られたMFC/PLA複合材について、曲げ弾性率、曲げ強さ、アイゾット衝撃値をASTM規格に準拠した試験により測定した。その結果を表1に示す。
<比較例1>
PLA(LACEA H−100 三井化学(株)製)をステンレス型枠内に配置し、圧縮成形機(ASFV−25 (株)神藤金属工業所製)を用いて真空下で圧縮成形を行った。成形条件は温度180℃、圧力1MPa、時間10分とし、ステンレス型枠内を充填するために必要なサンプル量の1.1倍の樹脂ペレットを圧縮成形した。
【0069】
得られた成形体から試験片を切り出し、曲げ弾性率、曲げ強さ、アイゾット衝撃値をASTM規格に準拠した試験により測定した。その結果を表1に示す。
<比較例2>
予備脱水後の水分含有MFCを凍結乾燥せずに、通常の温風乾燥器を用いて乾燥した以外は実施例1と同様にしてMFC/PLA複合材の作製を試みた。
<比較例3>
図4に示すように8セグメントからなる二軸混練押出機において、セグメント1に水分含有MFC(セリッシュ KY−100G ダイセル工業(株)製、固形分10質量%)300gと母材樹脂としてPLA(LACEA H−100 三井化学(株)製)を700g投入して混練を行った。MFCと共存する水分を水蒸気としてセグメント3,4から除去した。
【0070】
混練は、温度180℃、送り速度3.7kg/hr、スクリュー回転速度100rpmの条件で行った。
【0071】
混練処理したコンパウンドをペレタイザーにて裁断し、長さ5mmのペレットを得た。得られたペレットを温度105℃のオーブン(PV−220 エスペック(株)製)で恒量に達するまで乾燥した。
【0072】
得られたコンパウンドを比較例1と同様の方法で成形した。成形体から試験片を切り出し、曲げ弾性率、曲げ強さ、アイゾット衝撃値をASTM規格に準拠した試験により測定した。その結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

実施例1,2のMFC/PLA複合材は、凝集せずに解繊されたMFCが空隙を有するように均一に分散しており、空隙内に樹脂が充填されていた。また表1に示すように、曲げ弾性率、曲げ強さ、耐衝撃性の全てにおいて、比較例1のPLA単体と比較して物性が大きく向上した。特にMFCをアセチル化処理した実施例2では強度の向上効果が大きかった。これはMFCの疎水化によりPLAとの界面接着力が向上したことによるものと考えられる。
【0074】
さらに表1に示すように、MFCをアセチル化処理した実施例2では、凍結乾燥に要する時間を大幅に短縮することができた。これはMFC表面のヒドロキシル基を疎水性のアセチル基に置換したことにより、MFCから水分が放散し易くなったことによるものと考えられる。
【0075】
このように、凍結乾燥を利用したMFC/PLA複合材の製造工程を適用することにより、機械的強度に優れたMFC/PLA複合材を作製することができた。
【0076】
一方、比較例2ではMFC/PLA複合材を得ることができなかった。これは、マット状の水分含有MFCの乾燥時に水分の除去に伴ってMFC同士が引き合って凝集し、乾燥終了時点においてMFCマットはPLAの含浸が可能な空隙をほとんど有しない状態となったためである。
【0077】
また、比較例3のMFC/PLA複合材は、PLA中にMFCの凝集塊が散在していた。PLA単体と比較して曲げ弾性率の向上は認められたが、曲げ強度と耐衝撃性はむしろ低下した。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】水分含有MFCの凍結乾燥を利用した本発明の製造工程の場合と、水分含有MFCを通常乾燥した場合におけるMFCの微細構造を説明する図である。
【図2】MFCの分子構造を示した図である。
【図3】水分含有MFCを予備乾燥するための装置の概略構成を示した断面図である。
【図4】比較例3において使用した二軸混練押出機の概略構成を示した図である。
【符号の説明】
【0079】
1 多孔質鉄板
2 型枠
3 上蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂とミクロフィブリル化セルロース(MFC)とから構成されるMFC/樹脂複合材であって、凝集せずに解繊されたMFCが空隙を有するように均一に分散しており、空隙内に樹脂が充填されていることを特徴とするMFC/樹脂複合材。
【請求項2】
樹脂は植物由来樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のMFC/樹脂複合材。
【請求項3】
樹脂は熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載のMFC/樹脂複合材。
【請求項4】
MFCは、その構成成分であるセルロースに疎水性の官能基を導入したものであることを特徴とする請求項1ないし3いずれか一項に記載のMFC/樹脂複合材。
【請求項5】
MFCは、その構成成分であるセルロースをアセチル化処理したものであることを特徴とする請求項4に記載のMFC/樹脂複合材。
【請求項6】
水分含有ミクロフィブリル化セルロース(MFC)を凍結乾燥した後、この凍結乾燥物に樹脂を含浸することを特徴とするMFC/樹脂複合材の製造方法。
【請求項7】
水分含有MFCを型枠内に投入し、型枠内の水分含有MFCを加圧圧縮することにより、水分含有MFCから水分を圧搾除去して予備脱水を行い、次いでこの予備脱水した水分含有MFCを凍結乾燥することを特徴とする請求項6に記載のMFC/樹脂複合材の製造方法。
【請求項8】
水分含有MFCの固形分濃度が20質量%以上となるように予備脱水することを特徴とする請求項7に記載のMFC/樹脂複合材の製造方法。
【請求項9】
MFCは、その構成成分であるセルロースに疎水性の官能基を導入したものであることを特徴とする請求項6ないし8いずれか一項に記載のMFC/樹脂複合材の製造方法。
【請求項10】
MFCは、その構成成分であるセルロースをアセチル化処理したものであることを特徴とする請求項9に記載のMFC/樹脂複合材の製造方法。
【請求項11】
凍結乾燥物に溶融状態の熱可塑性樹脂を含浸することを特徴とする請求項6ないし10いずれか一項に記載のMFC/樹脂複合材の製造方法。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−107156(P2009−107156A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279660(P2007−279660)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】