説明

MHC結合ペプチドを検出するための溶液ベースの方法

結合したテンプレートMHC結合ペプチドを有する少なくとも1種類のMHC単量体または修飾型MHC単量体、過剰量の競合ペプチド、および検出可能な標識で標識されたトレーサーMHC結合ペプチドを、これら3つのペプチド間の競合的結合を可能とするようにインキュベートすることによって、MHC結合ペプチドを同定し、またはMHC単量体もしくは修飾型MHC単量体に対するMHC結合ペプチドの親和性を測定する、溶液ベースの方法。競合ペプチドの少なくとも一部はテンプレートペプチドと交換し、全試料中の検出可能な標識によって生じたシグナルと、競合アッセイ後に単量体のみによって生じたシグナルとの差を得て、単量体に対する競合ペプチドの親和性の計算に用いる。このような方法は、ペプチド発見プログラムに有用であり、かつ、交換単量体を、四量体細胞染色アッセイ法における活性に関してさらに試験することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は一般に、特に免疫アッセイ法によってMHC対立遺伝子に対するペプチドの結合を検出および測定する免疫アッセイ法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
背景情報
クラスI組織適合性三成分複合体は、非共有結合で結合された3つの部分を含む。MHC重鎖と呼ばれる膜貫通タンパク質は、その大半が細胞表面に露出している。MHC重鎖の細胞表面ドメインは、2つの隆起部分と、その間の溝を形成するαらせんの2つのセグメントを含む。短いペプチドは、この2つのαらせん間の溝に非共有結合的に結合し(「はまり込み」)、またβ2ミクログロブリンの分子が、MHC単量体の2つの外部ドメイン側に非共有結合的に結合して三成分複合体を形成する。1種類のMHCサブタイプ重鎖に非共有結合的に結合するペプチドは通常、別のサブタイプには結合しない。しかし、いずれも同じタイプのβ2ミクログロブリンと結合する。MHC分子は合成されて、身体の大半の細胞に提示される。
【0003】
ヒトのMHC分子はHLA分子と呼ばれる。ヒトは主に、HLA-A、HLA-B、およびHLA-Cと命名された、重鎖のみが異なるMHCクラスI分子の3種類の異なるサブタイプを合成する。
【0004】
MHCは、特殊化したT細胞(細胞傷害性T細胞)に協調的に作用して、「非自己」すなわち外来のウイルスタンパク質を身体から除去する。T細胞上の抗原受容体は、結合状態のペプチドと、これに隣接する溝を形成するαらせんの一部のモザイクであるエピトープを認識する。外来タンパク質の切断によってペプチド断片が生じた後、MHC分子によるペプチド断片の提示によって、MHC拘束性細胞傷害性T細胞が、「非自己」すなわち外来のウイルスタンパク質を発現する細胞を調査することが可能となる。機能性のT細胞は、T細胞が特異的である結合状態の抗原性ペプチドを含むMHC分子を認識して、細胞傷害性の免疫応答を示す。
【0005】
ヒトでこのような機能を発揮するために、HLA-A、HLA-B、およびHLA-Cの重鎖は、長さが約8〜約10アミノ酸、場合によっては約8〜約11アミノ酸、または約8〜約12アミノ酸の多数のペプチドと相互作用する。特定のペプチドだけが、単量体のフォールディングを受けて、各HLAサブタイプの重鎖の結合ポケットに結合するが、交差反応するサブタイプも存在する。1995年までに、43種類のHLA-A、89種類のHLA-B、および11種類のHLA-Cの対立遺伝子のそれぞれについて、全コード領域の配列が決定されている(P. Parham et al., Immunology Review 143: 141-180, 1995)。
【0006】
クラスII組織適合性分子は2つの膜貫通ポリペプチドを含む(両ポリペプチドは相互作用して、その外側に、クラスI分子の溝のように、抗原性ペプチドと非共有結合的に結合する溝を形成する)。しかし、クラスII分子に結合した抗原性ペプチドは、細胞がその周囲から回収した抗原に由来する。また、クラスII組織適合性分子に結合するペプチドの長さは15〜約25または約30アミノ酸である。細胞外液から抗原を取り込むように特殊化したマクロファージ、樹状細胞、およびBリンパ球などの細胞だけがクラスII分子を発現する。
【0007】
抗原断片がクラスI MHC拘束性T細胞によって認識されることの発見は、癌やウイルス感染に対する有効なワクチンの開発につながると以前から考えられてきた。HLA-A、HLA-B、またはHLA-Cに結合するペプチドのアミノ酸配列をアルゴリズムで予測するいくつかの取り組みが進んでおり、一部はインターネットで公開されている。例えば、米国特許第6,037,135号には、任意のHLA-A対立遺伝子に対する結合の可能性に関してペプチドをランク付けするマトリックスベースのアルゴリズムについて記載されている。同様に、大半の推定法は一連の対立遺伝子に限られている。したがって推定ペプチドは、全ての患者集団に由来するMHC単量体には結合しない可能性があるので、全般的には有効ではない可能性がある。
【0008】
MHC結合ペプチドを同定する別の方法では、競合ベースの結合アッセイ法を行う。いずれの競合アッセイ法でも、異なるペプチドの結合親和性の比較を行う。しかし、このようなアッセイ法では絶対解離定数は得られない。なぜなら、結果が、使用する標準ペプチドの影響を受けるからである。
【0009】
MHC結合ペプチドの決定に用いられる、さらに別の方法は、例えば、適切なMHC対立遺伝子を発現する細胞から、pH 2〜3における短時間のインキュベーションによって天然の結合ペプチドが「剥ぎ取られた」「T2」細胞を用いる従来型の再構成アッセイ法である。次に、同じMHC対立遺伝子に対する推定MHC結合ペプチドの結合親和性を決定するために、剥ぎ取られたMHC単量体を、推定MHC結合ペプチド、β2ミクログロブリン、および構造依存性のモノクローナル抗体と溶液中で混合する。標識済みの試験結合ペプチドとともに(例えば、標識済みのモノクローナル抗体、または蛍光標識された二次抗体とともに直接)、または同ペプチドなしでインキュベートした細胞間で決定された蛍光強度の差を試験ペプチドの判定に用いることができる。しかしながら、低pHで剥ぎ取られた可溶性のMHC単量体は速やかに凝集するので、ハイスループットアッセイ法における使用は困難であり、かつ実用的でない。
【0010】
今日、ドナー由来の細胞を使用した、細胞介在性免疫を調べる一連のインビトロアッセイ法がある。このアッセイ法は、細胞がドナーに由来する状況を含むが、多くのアッセイ法は、他の供給源(例えばB細胞系列)に由来する抗原提示細胞の供給源を提供する。このようなインビトロアッセイ法には、細胞傷害性Tリンパ球アッセイ法;リンパ球増殖アッセイ法(例えばトリチウム化チミジンの取り込みを追跡する方法);タンパク質キナーゼアッセイ法、イオン輸送アッセイ法、およびリンパ球遊走阻害機能アッセイ法などがある(Hickling, J. K. et al, J. Virol., 61: 3463 (1987);Hengel, H. et al, J. Immunol., 139: 4196 (1987);Thorley-Lawson, D. A. et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84: 5384 (1987);Kadival, G. J. et al, J. Immunol., 139: 2447 (1987);Samuelson, L. E. et al, J. Immunol., 139: 2708 (1987);Cason, J. et al, J. Immunol. Meth., 102: 109 (1987);およびTsein, R. J. et al, Nature, 293: 68 (1982))。これらのアッセイ法には、細胞介在免疫の活性に対する真の特異性を欠く場合があること、同じMHC型のAPCによる抗原のプロセシングおよび提示を必要とすること、反応の進行が緩やかである(数日を要する場合がある)こと、ならびに一部は主観的であり、および/または放射性同位元素の使用を必要とすることといった短所がある。
【0011】
MHCクラスI結合ペプチドを同定する、さらに別の方法では、ストレプトアビジンが結合した4種類のMHC単量体、ビオチンに対する四量体結合部位を有する分子(この分子に蛍光色素、例えばフィコエリトリン(PE)が結合する)の複合体であるMHC四量体の形成を利用する。クラスIの単量体に関しては、β2ミクログロブリンの可溶性サブユニット、推定T細胞エピトープを含むペプチド断片、および対象ペプチド断片の推定MHCサブタイプに対応するMHC重鎖が、宿主細胞でポリペプチドを発現させることで得られる。MHC四量体に含まれる4種類の各単量体は、これらの可溶性サブユニットを、可溶性の単位が、β2ミクログロブリン、ペプチド断片、および対応するMHC重鎖をそれぞれ含む、再構成された単量体への集合を促す条件で再フォールディングさせることで単量体として作られる。MHC四量体は、単量体のビオチン化と、これに続く、ビオチン化された再構成後の単量体と蛍光色素で標識されたストレプトアビジンとの接触によって、単量体から構築される。被験者の末梢血リンパ球(PBL)の試料に含まれるような多様なT細胞集団と接触すると、試料中のT細胞に認識される単量体を含む四量体は、マッチしたT細胞と結合する。反応の内容物を蛍光フローサイトメトリーで解析することで、MHC四量体が結合した状態のT細胞を決定し、定量し、および/または単離する(米国特許第5,635,363号を参照)。この四量体は蛍光部分を含むので、結合状態の四量体を有するT細胞は「染色された」と表現される。
【0012】
MHC四量体アッセイ法で確認されるT細胞によって認識される試験ペプチドがT細胞を活性化して免疫応答を生じるか否かを判定するためには、少なくとも他の1つの試験(いわゆる「機能試験」)が必要である。酵素結合免疫スポット(ELISpot)アッセイ法は、マイクロプレート上へのサイトカインまたはエフェクター分子に特異的なモノクローナル抗体の結合によって、特定のサイトカインまたは他のエフェクター分子を分泌する細胞の検出に応用されている。抗原によって刺激された細胞に、固定化された抗体を接触させる。洗浄して、細胞および任意の非結合物質を除いた後に、同じサイトカインまたは他のエフェクター分子に特異的な標識されたポリクローナル抗体(多くの場合はモノクローナル抗体)をウェルに添加する。洗浄後に、青黒色の沈殿(またはスポット)がサイトカイン局在部位に生じるように、標識抗体に結合する着色剤を添加する。スポットの数を手作業で、または自動ELISpotリーダーシステムで数えることで反応を定量することができる。試験ペプチドによってT細胞が活性化されたことの最終的な確認には、インビボ試験、例えばマウスモデルにおける検討が必要な場合がある。したがって、MHC結合ペプチドの有効性の最終的な確認に至る経路は多額の費用と長い時間を要する。
【0013】
外因性のペプチドが、免疫精製後のHLA分子に結合可能なこともわかっている。ChenおよびParhamは1989年に、ゲル濾過クロマトグラフィーによって、インフルエンザマトリックスペプチドおよびインフルエンザ核タンパク質ペプチドが、それぞれ界面活性剤で可溶化したHLA-A2およびHLA-B37のアフィニティ精製調製物に選択的に結合することを報告した(Nature, 337: 743-745)。後に、RMA-S細胞のような一部の細胞系列が、外因性ペプチドを添加することで安定化可能な空のHLA分子を細胞表面で発現することが報告されている。
【0014】
Smithら(1992 Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 89: 7767-7771)においては、LdをトランスフェクトしたL細胞(線維芽細胞系列の一種)を用いたペプチド交換について報告されており、放射標識されたCMVペプチドのペプチド交換が細胞表面で起こると結論されている。LdクラスI分子は、細胞表面で容易にペプチド交換が可能であり、ペプチド交換の量が、Ld分子の数によって、また結合ペプチドの解離速度によって決まることがわかっている。H-2 Ldによる、細胞表面におけるペプチドリガンド交換は、一般化可能な現象であると結論されている。
【0015】
後にHorigら(1997 Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 94: 13826-13831)は、無細胞インビトロ系において、精製済みの組換え型H-2Kb/ペプチド複合体を用いてペプチドとβ-2mの交換について調べており、競合ペプチドの交換が主に、クラスIの結合溝における当初のペプチドの解離速度に依存すること、ペプチド交換が他の研究者が推定するように外因性のβ-2mの存在によって促進されないこと、またペプチドが特定のエンドサイトーシス区画の一般的条件の5.5〜7.5のpHでクラスI分子に交換可能であると結論している。
【0016】
しかしながら当技術分野では、推定MHCクラスI結合ペプチドを同定する予備的なスクリーニングアッセイ法のために、かつ、HLA-A、HLA-B、もしくはHLA-CなどのMHCクラスIの対立遺伝子に対するペプチド結合を、特にインビトロの溶液ベースのフォーマットで測定するために、新しくかつ適切なシステムおよび方法が依然として求められている。また当技術分野では、溶液中におけるMHC結合ペプチドのMHC結合親和性を決定する方法の開発も求められている。
【0017】
発明の概要
本発明は、溶液ベースの競合ペプチド交換アッセイ法で、MHC重鎖単量体および修飾型MHC単量体に対する結合特性が不明なペプチドの結合親和性を速やかに比較および定量することができるという発見に基づく。また溶液ベースの競合アッセイ法において親和性が既知の第3の標識ペプチドを用いることで、交換反応を、標識ペプチドが試験ペプチドと競合する程度を観察することで測定することができる。このような結合を、MHC重鎖単量体および修飾型MHC単量体に対する結合特性が不明のペプチドの結合親和性を速やかに比較および定量する、溶液ベースの競合ペプチド交換アッセイ法に利用できることが本発明の発見である。
【0018】
したがって1つの態様では、本発明は、テンプレートMHC結合ペプチドに結合した、少なくとも1種類のMHC単量体もしくは修飾型MHC単量体を含む試料、過剰量の第1の競合ペプチド、および検出可能な標識で標識されたトレーサーMHC結合ペプチドを適切な液相条件でインキュベートすることによって、MHC単量体または修飾型MHC単量体に対するMHC結合ペプチドを同定する方法を提供する。テンプレートペプチドは、トレーサーペプチドと比較して、単量体に対して低親和性または中親和性を有するように選択される。溶液中では、第1の競合ペプチド、テンプレートペプチド、およびトレーサーペプチドが、MHC単量体または修飾型MHC単量体に対する結合をめぐって競合する。全試料から得られた検出可能な標識に由来するシグナルの読み値と、インキュベーション後の試料から得られた単量体に由来する読み値を比較することで差を評価する。差が認められれば、第1の競合ペプチドが、単量体に対するMHC結合ペプチドであることがわかる。
【0019】
別の態様では、本発明は、テンプレートMHC結合ペプチドに結合した、少なくとも1種類のMHC単量体または修飾型MHC単量体、モル過剰量の第1の競合ペプチド、および検出可能な標識で標識されたトレーサーMHC結合ペプチドを含む試料を適切な液相条件でインキュベートすることによって、MHC単量体または修飾型MHC単量体に対するMHC結合ペプチドの親和性を測定する方法を提供する。テンプレートペプチドは、トレーサーペプチドと比較して単量体に対する親和性が低い。MHC単量体または修飾型MHC単量体に対する結合をめぐる、第1の競合ペプチド、テンプレートペプチド、およびトレーサーペプチド間の競合後に、第1の競合ペプチドの少なくとも一部はテンプレートペプチドと交換する。全試料における検出可能な標識によって生じたシグナルと、インキュベーション後に試料から得られた単量体のみによって生じたシグナルの差は、単量体に対する第1の競合ペプチドの親和性の存在を示す。
【0020】
さらに別の態様では、本発明は、ペプチド拘束性T細胞受容体(TCR)を提示する細胞に対する結合に関して、交換ペプチドに結合した、MHC単量体または修飾型MHC単量体の機能を測定する方法を提供する。このようなペプチド機能性アッセイ法は、MHC単量体または修飾型MHC単量体との結合をめぐる、第1の競合ペプチド、テンプレートペプチド、およびトレーサーペプチド間の競合を可能とするように、MHC単量体、またはテンプレートMHC結合ペプチドに結合した修飾型MHC単量体、過剰量の第1の競合ペプチド、および第1の検出可能な標識で標識されたトレーサーMHC結合ペプチド(テンプレートペプチドは、トレーサーペプチドと比較して単量体に対する親和性が低い)を含む試料をともに適切な液相条件でインキュベートすることで実施される。単量体の少なくとも一部は、第1の競合ペプチドがテンプレートペプチドと交換して交換単量体を形成する。交換単量体の多量体は、交換単量体と、第2の検出可能な標識で標識された多価体(multivalent entity)との結合によって形成される。次に、多量体中の交換単量体と、細胞のTCRの結合を判定する。ここで結合が確認されれば、交換単量体中の第1の競合ペプチドがTCRに特異的なことが示される。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、MHC単量体または修飾型MHC単量体に対するMHC結合ペプチドの同定に有用なシステムを提供する。本発明のシステムは、テンプレートMHC結合ペプチドに結合した、少なくとも1種類のMHC単量体または修飾型MHC単量体、および検出可能な標識で標識されたトレーサーMHC結合ペプチドを含む(テンプレートペプチドは、トレーサーペプチドと比較して単量体に対する親和性が低い)。本発明のシステムはさらに、このようなシステムの使用のための使用説明書を含む場合がある。
【0022】
本発明の詳細な説明
本明細書で用いる「MHC単量体」および「HLA単量体」という表現は、再生条件において集合能力を維持するか、または適切なMHC結合ペプチド、またはHLA結合ペプチド、およびβ2ミクログロブリン(β-2m)と三成分複合体に集合するクラスIのMHC重鎖を意味する。「MHC単量体」および「HLA単量体」という表現は、三成分複合体を変性条件にさらし、単量体をほどき、かつ、MHC結合ペプチドから、およびβ2ミクログロブリンから解離させることで生じた単量体の変性型についても用いられる。
【0023】
本明細書で用いる「修飾型MHC単量体」および「修飾型HLA単量体」という表現は、上記のクラスIの単量体を意味するが、後述する修飾が人為的に導入されている。これらの表現は、再生条件において、適切なMHC結合ペプチドまたはHLA結合ペプチド、およびβ2ミクログロブリンとともに三成分複合体に集合する能力、および変性条件で解離する能力を維持するMHC単量体の機能性断片も含む。例えば機能性断片は、クラスI重鎖のα1、α2、α3の各ドメインのみ、またはα1ドメインとα2ドメインのみ(すなわち三成分複合体の形成に関与する細胞表面ドメイン)を含む場合がある。別の態様では、修飾型MHC単量体は、融合タンパク質または「1本鎖」分子に含まれるクラスI重鎖分子、またはこの機能性断片である可能性があり、かつ、単量体の細胞表面ドメインのリンカーとして、検出可能なマーカーとして、または融合タンパク質中のリガンドが反応する第2のリガンドでコーティングされた固相支持体に分子を結合させるリガンドとして機能するアミノ酸配列をさらに含む可能性がある。さらに、「修飾型MHC単量体」と「修飾型HLA単量体」という表現は、複数の種に由来するか、または複数のクラスIのサブクラスに由来する、クラスI重鎖分子のドメインを含むキメラを含むと意図される。例えばキメラは、マウスのβ-2mと、ヒトHLA-A2単量体中のヒトβ-2mとの置換によって作製することができる。
【0024】
単量体の調製
ヒトのクラスIのMHCは第6染色体上に位置し、3つの遺伝子座(HLA-A、HLA-B、およびHLA-C)を有する。最初の2つの遺伝子座は、同種抗原をコードする数多くの対立遺伝子を有する。これらは、44 Kdの重鎖サブユニットと、全ての抗原特異性に共通する12 Kdのβ2ミクログロブリンサブユニットを含むことがわかっている。例えば可溶性のHLA-A2は、ホモ接合性のヒトリンパ芽球細胞系列J-Yの血漿膜を、Turner, M. J. et al., J. Biol. Chem. (1977) 252: 7555-7567に記載された手順でパパインで消化することで精製可能である。パパインが膜貫通領域に近い44 Kdの重鎖を切断すると、α1、α2、α3の各ドメイン、およびβ2ミクログロブリンを含む分子が生じる。
【0025】
MHC単量体は、適切な細胞から単離可能なほか、例えばPaul et al, Fundamental Immunology, 2d Ed., W. E. Paul, ed., Ravens Press N.Y. 1989, Chapters 16-18に記載された手法で組換え的に作製可能であり、また後述するように容易に修飾可能である。
【0026】
本明細書で用いるMHC単量体について用いられる「単離された」という表現は、天然の状態ではない、例えばMHCを通常発現する細胞の細胞膜と結合していない状態のMHCクラスIのMHC糖タンパク質の重鎖を意味する。この表現は、MHC単量体の完全長のサブユニットの鎖、ならびに機能性断片を含む。機能性断片は、抗原結合部位と、適切なT細胞受容体による認識に必要な配列を含む断片である。これは典型的には、完全長の鎖の配列の少なくとも約60〜80%、典型的には90〜95%を含む。本明細書に記載されているように、「単離された」MHCサブユニット成分は、組換え的に作製される場合があるほか、適切な細胞供給源から可溶化された状態の場合がある。
【0027】
天然の状態の「成熟型」MHC糖タンパク質の単量体の長さが、配列中の1つもしくは複数のアミノ酸の欠失、置換、および挿入、または付加のために、ある程度変動することはよく知られている。したがってMHC単量体は、実質的な天然の修飾の対象となるが、その機能を保持する能力を残す。修飾型タンパク質鎖も、当業者に既知の、また後に詳述するさまざまな組換えDNA手法で容易に設計して作製することができる。例えば、このような鎖は、アミノ酸の置換、付加、欠失などにより一次構造レベルで天然の配列とは異なる場合がある。これらの修飾は、最終的な修飾型タンパク質の鎖を得るために、いくつかの組み合わせで使用することができる。
【0028】
一般に、MHC単量体をコードする遺伝子の修飾は、部位特異的変異導入などの、さまざまな周知の手法で容易に達成できる。任意の特定の修飾の作用は、所望の特徴を対象とする適切なアッセイ法の常用のスクリーニングで評価できる。例えば、サブユニットの免疫学的特性の変化を、適切な抗体を用いた競合免疫アッセイ法によって検出できる。修飾が、単量体によるT細胞を活性化する能力に及ぼす作用は、標準的なインビトロ細胞アッセイ法、または実施例に記載された方法で検討することができる。酸化還元状態、または熱安定性、疎水性、タンパク質分解の感受性といった他の特性の修飾、または凝集傾向はいずれも、標準的な手法で調べることができる。
【0029】
本発明は、抗原性ペプチドおよび/またはT細胞受容体に対するサブユニットの親和性を高めること、サブユニットの安定性を高めること、サブユニットの精製および調製を容易にすることなどの、さまざまな目的を念頭において調製されたMHC単量体のアミノ酸配列の修飾を提供する。単量体は、本発明の複合体の治療的使用時における血漿半減期を改変するように、治療効果を改善するように、または重症度もしくは副作用発生を軽減するように修飾することもできる。サブユニットのアミノ酸配列の修飾は通常、天然の対立遺伝子には見いだされない所定のバリアントである。バリアントは典型的には、天然の類似体と同じ生物学的活性(例えばMHC-ペプチド結合)を示す。
【0030】
本発明の挿入的修飾は、1つもしくは複数のアミノ酸残基がMHC単量体中の所定の部位に導入されて既存の残基と置換される修飾である。例えば挿入的修飾は、異種のタンパク質またはポリペプチドと、サブユニットのアミノ末端またはカルボキシル末端との融合の場合がある。
【0031】
他の修飾には、単量体と異種シグナル配列の融合、また当技術分野で周知の免疫グロブリン鎖またはこの断片などの血漿半減期(通常は、>約20時間)が延長されたポリペプチドと単量体の融合などがある。
【0032】
置換的修飾は、少なくとも1残基が除去され、その場所にさまざまな残基が挿入される修飾である。非天然アミノ酸(天然のタンパク質中には通常見い出されないアミノ酸)、ならびに立体配置類似体(アミノ酸またはアミノ酸以外の分子)も本発明における使用に適している。
【0033】
機能または免疫学的性質の実質的な変化は、ポリペプチド骨格の構造(例えばシート構造やらせん構造)の維持に対する作用が異なる置換残基、標的部位における分子の荷電性もしくは疎水性、または側鎖の大きさを選択することで作られる。機能に極めて大きな変化をもたらすと一般に予想される置換は、以下のものである:(a)親水性残基(例えばセリンまたはスレオニン)と疎水性残基(例えばロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、またはアラニン)の相互の置換;(b)システインまたはプロリンと他の任意の残基の相互の置換;(c)電気的に陽性の側鎖を有する残基(例えばリジン、アルギニン、もしくはヒスチジン)と電気的に陰性の残基(例えばグルタミンもしくはアスパラギン)の相互の置換;または(d)大きな側鎖をもつ残基(例えばフェニルアラニン)と側鎖の無い残基(例えばグリジン)の相互の置換。
【0034】
単量体の置換的修飾は、他のタンパク質の機能的に相同な(少なくとも約70%の相同性を有する)ドメインと1つもしくは複数のMHCサブユニットドメインの、常用の方法による置換も含む。この目的に特に好ましいタンパク質は、マウス種などの他の種に由来するドメインである。
【0035】
別のクラスの修飾が欠失的修飾である。欠失は、MHC単量体配列からの1つもしくは複数のアミノ酸残基の除去を特徴とする。典型的には、膜貫通ドメインや細胞質ドメインが欠失される。システインまたは他の不安定な残基の欠失が、例えばMHC複合体の酸化安定性を高める場合に望ましい場合もある。潜在的なタンパク質分解部位(例えばArgArg)の欠失または置換は、塩基性残基の1残基を欠失させることで、または残基をグルタミン酸残基もしくはヒスチジン残基と置換することで達成される。
【0036】
好ましいクラスの置換的修飾または欠失的修飾には、サブユニットの膜貫通領域が関与する修飾などがある。MHC単量体の膜貫通領域は、細胞膜の脂質二重層中に拡がる適切な大きさを有する疎水性または脂溶性の高いドメインである。これらは、MHC分子を細胞膜内に係留すると考えられている。膜貫通ドメインの不活性化、典型的には膜貫通ドメインの水酸化残基の欠失もしくは置換による不活性化は、その細胞または膜脂質の親和性を低下させることにより、またその水溶性を高めることにより、回収および製剤化を速めることになる。あるいは、膜貫通ドメインおよび細胞質側ドメインを欠失させて、潜在的に免疫原性を有するエピトープの導入を避けることができる。膜結合機能の不活性化は、同部位において実質的に親水性のハイドロパシー指標(hydropathy profile)を生じる十分な残基の欠失によって、または同じ結果をもたらす異種残基との置換によって達成される。
【0037】
膜貫通不活性化MHC単量体の主な利点は、同単量体が組換え宿主の培地中に分泌されることである。このバリアントは血液などの体液に可溶性であり、また細胞膜脂質に対する相当の親和性をもたないので、組換え細胞の培養物からの回収を大きく単純化する。典型的には、本発明の修飾型MHC単量体は機能性の膜貫通ドメインをもたず、かつ好ましくは機能性の細胞質側配列をもたない。このような修飾型MHC単量体は本質的に、細胞外ドメインのMHC単量体の有効部分を含む。状況によっては、単量体は、可溶性が有意な影響を受けない限りにおいて、膜貫通領域に由来する配列(最長約10アミノ酸)を含む。
【0038】
例えば膜貫通ドメインは、任意のアミノ酸配列(例えばランダムな配列、またはいずれも親水性のハイドロパシー指標を示す、約5〜50残基のセリン、スレオニン、リジン、アルギニン、グルタミン、アスパラギン酸、および同様の親水性残基の所定の配列)で置換可能である。このような単量体は、欠失型(切断型)単量体と同様に、組換え宿主の培地中に分泌される。
【0039】
糖鎖形成のバリアントは本発明の範囲に含まれる。このようなバリアントは、糖鎖形成(非糖鎖形成)部位を完全に欠くバリアント、および天然型(脱糖鎖形成)部位と比べて少なくとも1か所の糖鎖形成の弱い部位を有するバリアント、ならびに糖鎖形成部位が変化したバリアントを含む。このようなバリアントは、脱糖鎖形成アミノ酸配列および非糖鎖形成アミノ酸配列のバリアント、天然の修飾されていないアミノ酸配列を有する脱糖鎖形成サブユニットおよび非糖鎖形成サブユニットである。例えば、置換的変異導入または欠失的変異導入が、サブユニットのN結合型またはO結合型の糖鎖形成部位を除去するために用いられる(例えば、アスパラギン残基が欠失されたり、リジンやヒスチジンなどの別の塩基性残基と置換されたりする)。あるいは、糖鎖形成認識部位の除去に起因する糖鎖形成を防ぐために、糖鎖形成部位を構成する隣接する残基を、アスパラギン残基が未変化の状態で残る場合であっても置換または欠失させる。加えて、天然の単量体のアミノ酸配列を有する非糖鎖形成MHC単量体を、組換え原核生物細胞培養物中で産生させる。なぜなら原核生物は、糖鎖形成部位をポリペプチドに導入できないからである。
【0040】
糖鎖形成バリアントは、適切な宿主細胞を選択することで、またはインビトロ法によって、利便性を考慮して作製される。例えば酵母は、哺乳類系の糖鎖形成とは大きく異なる糖鎖形成部位を導入する。同様に、異なる種(例えばハムスター、マウス、昆虫、ブタ、ウシ、もしくはヒツジ)の哺乳類細胞、またはMHC源とは異なる組織起源(例えば肺、肝臓、リンパ系、間充織、または表皮)を有する哺乳類細胞が、例えば、哺乳類の糖タンパク質中に典型的に見いだされる、マンノースもしくは比が異なるマンノース、フコース、シアル酸、および他の糖のレベルの上昇を特徴とする、バリアントの糖鎖形成部位を導入する能力に関して日常的にスクリーニングされる。サブユニットのインビトロ処理は典型的には、酵素による加水分解(例えばノイラミニダーゼによる消化)によって行われる。
【0041】
本発明の使用に適切なMHC糖タンパク質は、パパイン処理、3 M KCl処理、および界面活性剤処理による可溶化を含むさまざまな手法で多数の細胞から単離される。例えば、界面活性剤によるクラスIタンパク質の抽出と、続くアフィニティ精製を用いることができる。界面活性剤は後で、透析または選択的結合ビーズを使用することで除去できる。このような分子は、MHC Iを有する任意の細胞から単離することで、例えば標的癌またはウイルス性疾患の個体から得られる。
【0042】
個々の重鎖は、MHC糖タンパク質から、当業者に既知の標準的な手法で容易に単離できる。例えば重鎖は、重鎖のSDS/PAGEおよび電気溶出(electroelution)によってゲルから分離できる(例えばDornmair et al.、前掲、およびHunkapiller et al., Methods in Enzymol. 91: 227-236 (1983)を参照)。MHC I分子に由来する個別のサブユニットも、Gorga et al. J. Biol. Chem. 262:16087-16094 (1987)、およびDornmair et al. Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 54: 409-416 (1989)に記載された手順で、SDS/PAGEに続く電気溶出で単離することができる。当業者であれば、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、またはアフィニティクロマトグラフィーといった他のいくつかの標準的な分子分離法が使用できることを理解するであろう。
【0043】
あるいは、いくつかのクラスIタンパク質のアミノ酸配列が知られており、また遺伝子がクローン化されているので、重鎖単量体を組換え法で発現させることができる。このような手法で、上述したMHC単量体のいくつかの修飾が可能となる。例えば、組換え法は、疎水性の膜貫通ドメインを欠失させるカルボキシ末端切断法である。例えば、システイン残基および/またはリジン残基を分子中に導入することによって、リガンドまたは標識の共役を促すために、カルボキシ末端を任意に選択することもできる。合成遺伝子は典型的には、発現ベクターへの挿入および遺伝子配列の操作を容易にするための制限酵素切断部位を含む。次に、適切な単量体をコードする遺伝子を、大腸菌、酵母、昆虫、または他の適切な細胞などの適切な宿主で発現される発現ベクターに挿入して組換えタンパク質を得る。
【0044】
遺伝子が利用可能であれば配列の操作が可能となるので、第2世代の構築はキメラコンストラクトを含む。クラスI重鎖のα1、α2、α3の各ドメインは典型的には、β2ミクログロブリンを有するクラスIのα3ドメインによって連結されており、同時に発現することで複合体の安定化を図っている。クラスIの遺伝子の膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインを任意選択で含めることもできる。
【0045】
発現ベクターの構築、および適切なDNA配列からの組換え的産生を、当技術分野で周知の方法で実施する。DNAおよびRNAの単離、増幅、およびクローニングについては標準的な手法を用いる。一般に、DNAリガーゼ、DNAポリメラーゼ、制限エンドヌクレアーゼなどが関与する酵素反応は、製造業者の使用説明書に従って行う。このような手法および他のさまざまな手法は一般に、Sambrook et al., Molecular Cloning--A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989に記載された手順で実施される。同文献に記載された手順は、当技術分野で周知であると考えられている。
【0046】
発現は、原核生物または真核生物の系で実施することができる。適切な真核生物の系には、酵母、植物、および誘導プロモーターの制御下にあるショウジョウバエの発現ベクターなどの昆虫の系などがある。極めて頻繁に使用される原核生物は、大腸菌のさまざまな株である。しかしながら、大腸菌のほかに、桿菌、例えば枯草菌(Bacillus subtilis)、さまざまな種のシュードモナス属、または他の細菌株などの微生物株を使用することができる。原核生物の系では、宿主に適合する種に由来する複製部位および制御配列を含むプラスミドベクターを使用する。例えば大腸菌は典型的には、大腸菌種に由来するプラスミドpBR322の誘導体を用いて、Bolivar et al., Gene (1977) 2: 95に記載の手順で形質転換される。このような一般に使用されているプロモーターを含む、転写開始に関与するプロモーター、任意選択でオペレーター、ならびにリボソーム結合部位の配列を含むと本明細書で定義される、一般に使用される原核生物の制御配列には、β-ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)や乳糖(lac)のプロモーター系(Change et al., Nature (1977) 198: 1056)、およびトリプトファン(trp)プロモーター系(Goeddel et al., Nucleic Acids Res. (1980) 8: 4057)、およびラムダ由来のPLプロモーターおよびN遺伝子リボソーム結合部位(Shimatake et al., Nature (1981) 292: 128)などがある。原核生物に適合する任意の利用可能なプロモーター系が使用可能である。
【0047】
真核生物の宿主に有用な発現系は、適切な真核生物遺伝子に由来するプロモーターを含む。酵母に有用なクラスのプロモーターは例えば、3-ホスホグリセリン酸キナーゼを含む解糖系酵素の合成に関与するプロモーターを含む(Hitzeman, et al., J. Biol. Chem. (1980) 255: 2073)。他のプロモーターには例えば、エノラーゼ遺伝子(Holland, M. J. et al. J. Biol. Chem. (1981) 256: 1385)、またはYEp13から得られるLeu2遺伝子(Broach, J. et al., Gene (1978) 8: 121)に由来するプロモーターなどがある。誘導プロモーターの制御下にあるショウジョウバエ発現系を使用することもできる(Invitrogen, San Diego, CA)。
【0048】
適切な哺乳類のプロモーターには、SV40由来の初期および後期のプロモーター(Fiers et al., Nature (1978) 273: 113)、またはポリオーマ、アデノウイルスII、ウシパピローマウイルス、もしくはトリ肉腫ウイルスに由来するプロモーターなどの他のウイルスプロモーターなどがある。適切なウイルスおよび哺乳類のエンハンサーについては上記文献に記載されている。
【0049】
発現系は、当技術分野で周知の標準的な連結法および制限法で、MHC配列に使用可能に連結された前述の制御エレメントから標準的な方法で構築される。単離されたプラスミド、DNA配列、または合成オリゴヌクレオチドを切断し、末端を処理し、再び連結して所望の形状とする。
【0050】
当技術分野で一般に知られている条件で、また市販の制限酵素について製造業者によって特定された個々の条件を用いて、適切な制限酵素(群)で処理することで部位特異的DNA切断を行う。一般に約1μgのプラスミドまたはDNA 配列を、約20μlの緩衝液に溶解した1単位の酵素によって切断する。過剰量の制限酵素を使用することで、DNA基質を確実に完全に切断することができる。個々のインキュベーション後に、フェノール/クロロホルム抽出でタンパク質を除き、続いてエーテル抽出を行い、また水性画分を対象にエタノール沈殿法と、これに続いてSephadex G-50スピンカラムを通すことで核酸を回収することができる。望ましいならば、切断済み断片の長さによる分離を実施することができる。
【0051】
制限酵素で切断された断片を、4種類のデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)の存在下で大腸菌DNAポリメラーゼIの大断片(クレノー(Klenow))で処理することで平滑末端化することができる。クレノー処理後に、混合物をフェノール/クロロホルムで抽出してエタノールで沈殿させ、次にSephadex G-50スピンカラムを通す。
【0052】
合成オリゴヌクレオチドは、市販の自動化オリゴヌクレオチド合成装置で作製する。しかし本発明のタンパク質の場合は、利便性を考慮して合成遺伝子を使用する。遺伝子を設計する際には、コード配列の一部を、類似体をコードする部分と置換するために、遺伝子の容易な操作を可能とする制限酵素切断部位を含めることができる。
【0053】
プラスミド構築時の連結の正しさは、E. coli Genetic Stock Center, CGSC #6135から入手した大腸菌株MM294、または他の適切な宿主を最初に、連結混合物で形質転換することで確認できる。良好な形質転換体は、アンピシリン耐性、テトラサイクリン耐性、もしくは他の抗生物質耐性によって、または当技術分野で理解されるプラスミド構築の様式次第では他のマーカーを使用することで選択できる。次に、形質転換体に由来するプラスミドを、任意選択でクロラムフェニコール増幅を行うことで調製する。単離されたDNAを制限酵素を使用することで、および/または、Sanger, F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1977) 74: 5463、さらにMessing et al., Nucleic Acids Res. (1981) 9: 309に記載されたジデオキシ法配列決定、またはMaxam, et al., Methods in Enzymology(1980)65: 499に記載された方法で解析する。
【0054】
次に、タンパク質を産生させるために、構築されたベクターで適切な宿主を形質転換する。使用する宿主細胞に依存して、対象細胞に適切な標準的な手法で形質転換を行う。Cohen, S. N., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1972) 69: 2110に記載された塩化カルシウムを使用するカルシウム処理、またはManiatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (1982) Cold Spring Harbor Press, p.254に記載されたRbCl法を、原核生物、または実質的な細胞壁障壁を含む他の細胞に使用する。このような細胞壁のない哺乳類細胞の場合、Graham and van der Eb, Virology (1978) 52: 546に記載されたリン酸カルシウム沈殿法、またはエレクトロポレーションが望ましい。酵母の形質転換は、Van Solingen, P., et al., J. Bacter. (1977) 130: 946、およびHsiao, C. L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1979) 76: 3829に記載された方法で実施する。
【0055】
次に形質転換細胞を、MHC配列の発現に適した条件で培養し、組換え的に産生されたタンパク質を培養物から回収する。
【0056】
MHC結合ペプチド
抗原提示細胞(APC)の表面におけるMHC糖タンパク質による抗原の提示は、抗原性タンパク質が加水分解を受けて、より小さなペプチド単位を生じた後に起こると考えられている。抗原性タンパク質内部の、このような短いセグメントの位置は実験で決定することができる。このようなMHC結合ペプチドの長さは、約8〜約10残基、場合によっては約8〜約11残基、または約8〜約12残基であり、アグリトープ(MHC分子によって認識される)と、エピトープ(T細胞表面のT細胞受容体によって認識される)の両方を含むと考えられている。エピトープは、抗原特異的なT細胞受容体によって認識される、長さが約8〜約10残基、場合によっては約8〜約11残基、または約8〜約12残基の直線状の配列である。アグリトープは、ペプチドとMHC糖タンパク質の結合に関与する連続的または非連続的な配列である。本発明は、推定MHC結合ペプチドを評価して、このような断片がMHC単量体または修飾型MHC単量体とともに三成分複合体中に取り込まれるか否かを判定するためのシステム、キット、およびアッセイ法を提供する。
【0057】
したがって本発明は、診断アッセイ法、ワクチン、および他の治療法に使用される候補ペプチドのスクリーニングに用いられるスクリーニング法を提供する。本発明の方法で使用される推定MHC結合ペプチドは、当技術分野で周知の任意の方法で作製可能であり、最も簡便な方法は、長さが8〜12アミノ酸の断片のペプチド合成である。
【0058】
本発明の液相アッセイ法を指して本明細書で用いる、「ペプチド交換」および「交換ペプチド」という表現は、3つのペプチドが溶液中でMHC単量体または修飾型MHC単量体の結合ポケットへの結合をめぐって競合する競合アッセイ法を意味する。競合アッセイ法の開始時における3つのペプチドは、(1)MHC結合ペプチド(本明細書では「テンプレートペプチド」と呼ばれ、単量体の結合ポケットに特異的で、当初は同ポケットに結合した状態のペプチド)、(2)親和性および/または特異性が不明の、当初は非結合状態の試験ペプチドもしくは推定MHC結合ペプチド(本明細書では「競合ペプチドと呼ばれる)、ならびに(3)検出可能に標識されており、結合ポケットに特異的で、かつ同ポケットに対して「テンプレートペプチド」より高い親和性を有する、当初は非結合状態の「トレーサーペプチド」である(図1A参照)。テンプレートペプチドは、結合ポケットに対する親和性が低いものが選択される。こうすることでMHCの三成分複合体から容易に解離し、溶液中で競合ペプチドまたはトレーサーペプチドのいずれかと置換される。結合ポケットをめぐって競合ペプチドが良好に競合することは、競合ペプチドが結合ポケットに対して、テンプレートペプチド、または検出可能に標識されたトレーサーペプチドのいずれと比較しても高い親和性を有することを意味する。同様に、結合ポケットに対してトレーサーペプチドが良好に競合することは、トレーサーペプチドが結合ポケットに対して、テンプレートペプチドと競合ペプチドの双方より高い親和性を有することを意味する。したがって、トレーサーペプチドおよびテンプレートペプチドは、本発明の競合アッセイ法で良好な、任意の競合ペプチドに対する最小の親和性を確立するように選択することができる。というのは競合ペプチドは、競合ペプチドの親和性が、アッセイ法の条件で、結合ポケットに対する結合に対して良好に競合するのに十分な場合にのみ、「交換された」ペプチドとなるからである。テンプレートペプチドが置換された(すなわち高親和性の競合ペプチドと交換された)単量体は、本明細書は単に「交換単量体」と呼ばれる。テンプレートペプチドがトレーサーペプチドと置換された(交換された)単量体は、本明細書で簡便に「トレーサー単量体」と呼ばれる。
【0059】
個々の親和性に加えて、アッセイ法の対象となる溶液中の競合ペプチドおよびトレーサーペプチドの濃度も、液体アッセイ法の条件を決定する上で重要である。競合ペプチドをモル過剰で提供することで、最適な結合の機会が生まれる(約100倍モル過剰が好ましい過剰量である)。これとは対照的に、トレーサーペプチドの濃度は例えば、わずか約0.5〜1倍モル過剰程度とする。トレーサーペプチドと、所望の特異性を有する競合ペプチドの濃度も重要である。本発明のアッセイ法で使用されるトレーサーペプチドの濃度は、仮に競合ペプチドがテンプレートペプチドを置換しない場合、またはテンプレートペプチドのわずかな部分とのみ置換する場合は、テンプレートペプチドと競合ペプチドのペプチド交換を可能とするために十分低く、また選択されたアッセイ法の条件では検出可能とする程度には十分高くする必要がある。競合ペプチドの濃度は、アッセイ法中は、適切なペプチド交換を可能とするために100倍モル過剰とすべきである。
【0060】
本発明の競合アッセイ法において、競合ペプチドがテンプレートペプチドと置換する規模は、インキュベーション溶液中で競合ペプチドの非存在下でトレーサーペプチド上の標識によって生じたシグナルの総量を、競合ペプチドの存在下で、インキュベーション期間後に溶液から分離可能な、単量体(すなわちトレーサー単量体と交換単量体の両方)のみによって、トレーサーペプチド上の標識によって生じたシグナルの量と比較することで簡便に評価される。単量体を洗浄し、当技術分野で周知の任意の手段でインキュベーション溶液から分離した後に、「単量体のみ」のシグナルの読み値が得られる。ペプチド交換および第1のシグナル検出が溶液中で生じる一方で、インキュベーション溶液から得られた単量体は、当技術分野で周知の手法で、また実施例に説明された手法で、「単量体のみ」のシグナルの読み値を得る前に、固相支持体に結合させておくことが可能である。例えば、図1Bに示したフローチャートは、2本のチューブを使用するアッセイ法の構成を示す。1本は、100%の全交換の尺度の決定用に競合ペプチドが存在しないもの(単量体上のテンプレートペプチドMart1 26-35と見かけ上全てが交換するHBVc-FITCトレーサーペプチドのみが試験内に存在するもの)で、もう1本は、100%のチューブとの比較時に交換の程度の測定を可能とするために競合ペプチドを含む。
【0061】
好ましくは単量体は、例えば本明細書に記載されたようにビオチン化されており、またマイクロタイタープレートのアビジンコーティング済みのウェルと、またはビーズと結合する。この後に、「単量体のみ」のシグナルの読み値を得る。次に従来の蛍光リーダーで、トレーサー単量体となる、競合アッセイ法で使用される単量体の占める割合(%)、および交換単量体となる割合(%)を正確に決定することができる。こうした決定から、競合ペプチドと置換すなわち「交換」されなかったテンプレートペプチドの割合(%)、および単量体結合ポケットに対する競合ペプチドの親和性を、実施例に例示された手順で数学的に決定することができる。
【0062】
本発明の溶液ベースの競合アッセイ法を、テンプレート単量体としてHLA-A*0201単量体を用いて説明するが、以下の条件を考慮することで、任意のMHCクラスIの単量体をテンプレート単量体として選択することができる。本発明の競合で使用する適切な「トレーサーペプチド」を選択するためには、トレーサーペプチドが(競合ペプチドが存在しない)溶液中で実施される単純な競合アッセイ法でテンプレートペプチドの少なくとも90%を置換するために、選択されたMHCクラスIの単量体中の単量体ポケットに対する十分な親和性を必要とすることが判明している。したがって当業者は、本発明の競合アッセイ法における競合ペプチドとして使用される、対象となる任意の推定MHC結合ペプチドの親和性の検討に使用されるテンプレート単量体(テンプレートペプチドを含む)とトレーサーペプチドの適切な組み合わせを選択することができる。一般にトレーサーペプチドは、単量体結合ポケットに対する親和性が比較的高いものが選択され、また単量体結合ポケットに対して比較的低親和性〜中親和性のテンプレートペプチドが選択される。
【0063】
競合ペプチドの親和性に依存して、以下の状況に遭遇する場合がある。
【0064】
[A]HLA-A*0201ペプチド結合体でないもの
競合ペプチドがHLA-A*0201結合体でない場合、ペプチド交換後に得られる単量体は、蛍光ラベルで完全に標識されているはずである。
【0065】
[B]低親和性のHLA-A*0201ペプチド結合体
単量体に対する競合ペプチドが低親和性の場合、ペプチド交換後に得られる単量体は、蛍光ペプチドを有する単量体と、競合ペプチドを有する単量体の混合物である。
【0066】
[C]中親和性のHLA-A*0201ペプチド結合体
単量体に対する競合ペプチドが中親和性の場合、ペプチド交換後に得られる単量体に由来する低レベルの蛍光が検出される。
【0067】
[D]高親和性のHLA-A*0201ペプチド結合体
ペプチドは、蛍光が検出されないか、または交換単量体上に少ない場合に、HLA-A*0201に対して強い親和性の結合能力を有するとみなされる。これらの4つの結果を図3に示す。
【0068】
4種類の異なるペプチド(図2のHIVgag、HIVpol、HPV16-E7、CMVpp65)について測定された親和性を元に、以下の3つのクラスのペプチド親和性を定義した:
高親和性(10-6 Mより大きい)
中親和性(10-5〜10-6 Mの間)
低親和性(10-5 M未満)
【0069】
したがって1つの態様では、本発明は、少なくとも1種類のMHC単量体、またはテンプレートMHC結合ペプチドに結合した修飾型MHC単量体、過剰量の非結合状態の第1の競合ペプチド、および検出可能な標識で標識された非結合状態のトレーサーMHC結合ペプチドを含む試料を適切な液相条件でインキュベートすることで、MHC単量体または修飾型MHC単量体に対するMHC結合ペプチドを同定する方法を提供する。テンプレートペプチドは、単量体に対するトレーサーペプチドの親和性と比較して低親和性〜中親和性のものを選択する。トレーサーペプチドとテンプレートペプチドのいずれも、アッセイ法で使用される単量体に対する特異性を考慮して選択する。溶液中では、第1の競合ペプチド、テンプレートペプチド、およびトレーサーペプチドが、MHC単量体または修飾型MHC単量体に対する結合をめぐって競合する。
【0070】
本発明のペプチド交換アッセイ法は、全体としてインキュベーション溶液の内容物によって生じたシグナル、またインキュベーション溶液から分離後の単量体のみによって生じたシグナルを定量的および個別に検出することで、単量体に対する競合ペプチドの親和性を決定するためにも使用できる。競合ペプチドの親和性の数値計算について実施例に示す。
【0071】
別の態様では、本発明は、少なくとも1種類のMHC単量体、またはテンプレートMHC結合ペプチドに結合した修飾型MHC単量体、モル過剰量の第1の競合ペプチド、および検出可能な標識で標識されたトレーサーMHC結合ペプチドを含む試料を適切な液相条件でインキュベートすることで、MHC単量体または修飾型MHC単量体に対するMHC結合ペプチドの親和性を測定する方法を提供する。テンプレートペプチドは、トレーサーペプチドより単量体に対する親和性が低い。MHC単量体または修飾型MHC単量体に対する結合をめぐる、第1の競合ペプチド、テンプレートペプチド、およびトレーサーペプチドの競合後に、第1の競合ペプチドの少なくとも一部(または、多い場合は全体)がテンプレートペプチドと交換する。
【0072】
さらに別の態様では、本発明は、ペプチド拘束性T細胞受容体(TCR)を提示する細胞に対する結合に関する、交換ペプチドに結合したMHC単量体または修飾型MHC単量体の機能を測定する方法を提供する。このペプチド機能性アッセイ法は、MHC単量体または修飾型MHC単量体に対する結合に対する第1の競合ペプチド、テンプレートペプチド、およびトレーサーペプチド間の競合を可能とするように、以下を含む試料を適切な液相条件でインキュベートすることで実施する:テンプレートMHC結合ペプチドに結合したMHC単量体または修飾型MHC単量体、過剰量の第1の競合ペプチド、および第1の検出可能な標識で標識されたトレーサーMHC結合ペプチド(テンプレートペプチドは、トレーサーペプチドと比較して単量体に対する親和性が低い)。単量体の少なくとも一部については、第1の競合ペプチドがテンプレートペプチドと交換して交換単量体を形成する。交換単量体の多量体は、交換単量体と、第2の検出可能な標識で標識された多価体の結合によって形成され、また多量体中の交換単量体と細胞のTCRの結合を次に決定する(結合は、交換単量体中の第1の競合ペプチドがTCRに特異的であることを意味する)。例えば、TCRが特異的な場合、
【0073】
単量体をビオチン化することで四量体または他の多量体の形成が容易になることが現時点では好ましい。交換単量体の多量体は好ましくは、多価コアに標識単量体を結合させるために使用可能な部分で標識する。例えば、アッセイ法に使用される単量体がビオチンで標識可能ならば、細胞表面やリポソームなどのアビジン化された多価体と単量体の結合によって多量体の形成が可能となる。好ましくは、多量体は、ストレプトアビジンまたはアビジンに対するビオチン化交換単量体の結合と、PEで検出可能に標識された四量体の形成によって形成される。TCRを有する細胞の、四量体による「染色」は後に、実施例で説明するフローサイトメトリーで容易に判定される。
【0074】
さらに別の態様では、本発明は、MHC単量体または修飾型MHC単量体に対するMHC結合ペプチドの同定に有用なシステムを提供する。本発明のシステムは、テンプレートMHC結合ペプチドに結合した少なくとも1種類のMHC単量体または修飾型MHC単量体、および検出可能な標識で標識されたトレーサーMHC結合ペプチドを含む(テンプレートペプチドの単量体に対する親和性は、トレーサーペプチドより低い)。本発明のシステムはさらに、同システムの使用に関する使用説明書を含む場合がある。
【0075】
本発明のペプチド交換アッセイ法で用いられる適切な液相条件は例えば、試料を約2〜6時間、または好ましくは15〜20時間(または一晩)、室温(約21℃)でインキュベートする段階を含む。インキュベーション溶液のpHは好ましくは、単量体の変性を避けるために十分高い範囲(例えば約pH 8.0)に維持する。
【0076】
本発明のペプチド交換アッセイ法には、いくつかの有用な点がある。溶液ベースの競合アッセイ法において、親和性が既知の第3の標識ペプチドを用いて、標識ペプチドが試験ペプチドと競合する程度を観察することで交換反応を測定できる。したがって本発明は、任意の対立遺伝子に対する良好な結合エピトープを同定して、親和性をフォールディング率に相関させるために、また親和性を産物の安定性に相関させるために設計されている、「エピトープスクリーニングアッセイ法」として一般に知られるエピトープ発見プログラムに有用である。また、標準的な対立遺伝子の単量体を本発明の方法で使用することで、単量体および四量体を速やかに、かつ費用対効果において優れた方法で作ることができる。
【0077】
以下の実施例は、説明目的で示すものであり、本発明を制限する意図はない。
【0078】
実施例1
この実施例では、ペプチド交換アッセイ法用のテンプレート単量体として使用される単量体/ペプチドの組み合わせの選択について説明する。実験は、HLA A*0201および一連の公知ペプチドを用いて実施した。実験室における過去の実験から、黒色腫細胞に由来するペプチドMart-1 27-35(Kawakami et al., 1994a Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 91: 3515-3519)、ならびにペプチドMart-1 26-35(Kawakami et al., 1994b J. Exp. Med. 180: 347-352)が、単量体テンプレートを作製する際の優れた候補となる可能性があることがわかっている。それぞれのアミノ酸配列がAAGIGILTVとEAAGIGILTVであるいずれのペプチドとも、HLA-A*0201分子に対する低親和性および中親和性のペプチドであることが報告されている(Valmori et al. 1998 (1998) J. Immunol. 161: 6956-6962; Kuhns et al., 1999 J. Biol. Chem. 274 (51): 36422-36427; Men et al., 1999 J. Immunol. 162: 3566-3573)。
【0079】
FITC分子で標識した、天然の状態で3位にリジンを有するHIVpolペプチド(Tsomides et al., 1991 Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 88: 11276-11280)についても検討されており、標識ペプチドがHLA-A*0201重鎖と良好にフォールディングすることが判明している。HBVcore-FITCペプチドおよびHIVpol-FITCペプチドは、ペプチド交換のモニタリングのために使用した。
【0080】
材料および方法
試薬
精製化学製品は、特に明記しない限りにおいてMerck and Carlo Erba社から入手した。ビオチン化BSAならびにアビジンは、Immunotech社のImmunoanalysis製造サービスから入手した。LUMITRAC-600(登録商標) 白色96ウェルマイクロタイタープレートはGreiner社から入手した([PN: 655074 LUMITRAC(登録商標) 600)。
【0081】
アビジンコーティングを施した96ウェルマイクロタイタープレートの調製
白色96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルを、200μlの10μg/mlビオチン化BSA溶液(溶媒PBS)でコーティングし、プレートを室温(20〜25℃)で16時間(一晩)インキュベートした。このプレートを洗浄し、200μl/ウェルのアビジン溶液(10μg/ml)を添加した。プレートを室温(20〜25℃)で16時間(一晩)インキュベートした。プレートを洗浄し、ブロッキング・乾燥用溶液を添加した。プレートを室温(20〜25℃)で16時間(一晩)インキュベートした。次に溶液を除去し、プレートを軽くたたいてペーパータオル上に裏返して置いた。プレートを専用の乾燥室で24時間、静置した。プレートは使用するまで、個別にセルフロックバッグ内に置いた。白色プレートは、高タンパク質結合能[600 ng/cm2]をもつように設計してある。したがって、アビジンでコーティングされたプレートは、ビオチン化された単量体を捕捉し、1時間以内に平衡化する。アビジン-ビオチン反応のKdは極めて高い(〜約10-14 M)ことが周知である。
【0082】
溶液中におけるペプチド交換法
ペプチドHBc 18-27(FLPSDC(FITC)FPSV(Phe-Leu-Pro-Ser-Asp-Cys-Phe-Pro-Ser-Val)(Van der Burg et al., 1995, 1996)をトレーサーペプチドとして選択し、さまざまな濃度の競合ペプチドを使用した(所望のペプチド特異性の検討対象となる)。四量体が交換後に作られる大半の場合において、競合ペプチドを100倍モル過剰で添加した。本発明のペプチド交換反応を、溶液(10 mM Tris、150 mM NaCl、0.5 mM EDTA;0.1% NaN3、0.2% BSA;pH 8.0)中で単量体およびペプチドを用いて実施した。この混合物を21℃(制御温度)で一晩(15〜20時間)、暗条件で攪拌しながらインキュベートした。アリコートを分取してペプチド交換率の決定に使用した。残りの試料については、後述するようにSA-PEと四量体を形成させた。
【0083】
ペプチド交換率の測定
ペプチド交換率の測定を以下の手順で行った。200μl/ウェルの標準蛍光単量体HBVc-FITC、および交換反応後の単量体を含む試料(0.25μg/ml)(Tris 10 mM、NaCl 150 mM、EDTA 0.5mM、NaN3 0.1%、BSA 0.2%;pH 8.0で希釈)を、アビジンでコーティングされたプレートに添加し、暗条件でオービタルシェイカーで1時間、室温でインキュベートした。全蛍光を読みとった後に、単量体を自動洗浄機(SLT, Salzburg, Austria)で、0.05 % Tween 80を含む300μlの9 g/l NaCl溶液によって3回洗浄して非結合成分を除去した。200μl/ウェルのTris 10 mM、NaCl 150 mM、EDTA 0.5mM、NaN3 0.1%、BSA 0.2%;pH 8.0を添加した。結合状態の蛍光を、Perkin Elmer LS-50Bフルオロメーターで読みとった(パラメータは、励起波長=495 nm;放射波長=525 nm;放射フィルター=515 nm;帯域(励起、放射)=10, 15 nm;率0.5秒/ウェル)。
【0084】
単量体濃度の測定
蛍光アッセイ法の手順を以下に示す。200μl/ウェルの標準単量体HBVc-FITCと、0.25μg/mlの単量体を含む試料(Tris 10 mM、NaCl 150 mM、EDTA 0.5 mM、NaN3 0.1%、BSA 0.2%;pH 8.0で希釈)を、アビジンでコーティングされたプレートに添加し、オービタルシェイカーで暗条件で室温で1時間インキュベートした。プレートを自動洗浄機(SLT, Salzburg, Austria)で、300μlの9 g/l NaCl溶液(0.05 % Tween 80を含む)で3回洗浄した。200μl/ウェルの2μg/mlの、フィコエリトリンを結合した抗β2ミクログロブリンB1G6 mAb(Tris 10 mM、NaCl 150 mM、EDTA 0.5 mM、NaN3 0.1%、BSA 0.2%;pH 8.0で希釈)を添加し、室温で2時間、オービタルシェイカーで暗条件でインキュベートした。プレートを上記手順で3回洗浄し、ウェルに200μlのTris 10 mM、NaCl 150 mM、EDTA 0.5 mM、NaN3 0.1 %、BSA 0.2%; pH 8.0を加えた。単量体に結合した状態のPE蛍光をPerkin Elmer LS-50Bフルオロメーターで測定した(使用パラメータは、励起波長=488 nm;放射波長=575 nm;放射フィルター=515 nm;帯域(励起、吸収)=5, 8 nm;0.5秒/ウェル)。
【0085】
交換単量体の四量体形成
交換単量体ならびに対照単量体を、SA-PEを用いて四量体化した(比は0.25)(全体が参照として本明細書に組み入れられる米国特許第5,635,363号に記載された手順で実施)。10 mM Tris、150 mM NaCl、0.5 mM EDTA;0.1 % NaN3、0.2% BSAにおいて200μg/mlの単量体とした交換単量体を、SA-PEの溶液と混合した。単量体の最終濃度は100μg/mlとした。試料をホモジナイズ後に、室温で15分間インキュベートした。次に試料を4℃で暗条件でインキュベートした。
【0086】
フローサイトメトリーアッセイ法
対照細胞の染色を以下の染色法で行った。1回の試験あたり約5×105個の細胞を10μlの四量体(1μg/試験)で、4〜8℃で30分間、暗条件で細胞をインキュベートすることで染色した。細胞を4 mlの1×PBS、0.1% NaN3、0.2% BSAで洗浄後、細胞を1200 rpmで5分間遠心後に上清を捨てた。細胞を0.5 mlの1×PBS 0.5% FAに再懸濁した。試料をEPICS XL 血球計算器(Beckman Coulter, Inc., Fullerton, CA)上に得た。
【0087】
テンプレートとしての単量体HLA-A*0201(A245V)/Mart-1 27-35またはMart-1 26-35の選択、およびトレーサーペプチドHBVc-FITCまたはHIVpol-FITCの選択
単量体HLA-A*0201(A245V)がペプチドMart-1 27-35またはMart-1 26-35のどちらとフォールディングしたか、テンプレート単量体として使用可能か否か、また蛍光トレーサー分子を受容可能か否かを判定するために、単量体Mart-1 27-35を溶液中で、蛍光ペプチド、HBVc-FITCおよびHIVpol-FITC(いずれもHLA-A*0201の重鎖と良好にフォールディングする)の存在下でインキュベートした。
【0088】
HBc 18-27-FITC(FLPSDC(FITC)FPSV)(Van der Burg, et al., 1995 Human Immunol. 44 189-198; and Van der Burg et al. 1996 J. Immunol. 156: 3308)は、蛍光色素FITCによる標識用に、システインと交換されたチロシンを6位に有する。
【0089】
ペプチドの標識にFITC分子を選択した理由は、FITCがPE分子より小さい分子(MW 389ダルトン)であるためであり、またペプチドと容易にカップリング可能なためであり、また大きさが小さいことで、フォールディング反応中におけるFITC分子と重鎖間の立体障害を避けられるからである。最も重要な点は、FITC分子の収率が、Alexa色素や他の色素などの検討済みの他の蛍光色素と比較して極めて高いことである。
【0090】
単量体と蛍光ペプチドを混合し、溶液中で2時間および4時間インキュベートすることでペプチド交換を可能とした。次に単量体を、上記手順で調製したアビジンプレートに添加し、1時間のインキュベーション後にプレートを洗浄し、結合状態の蛍光を検出した。図4に示すように、両蛍光ペプチドとも単量体Mart-1 27-35と実質的に結合していた。
【0091】
4時間後に、HIVpol-FITCペプチド(交換率は約70%)と比較して、HBVc-FITCペプチドが約90%交換したことは重要であった。この結果は、交換条件のより詳細な検討を可能とし、またこの方法でペプチド交換率を測定可能なことを示唆していた。HBVc-FITCペプチドを、その高い交換率(約90%)を元に、競合アッセイ法におけるトレーサーペプチドとして使用するために選択した。
【0092】
交換単量体の完全性の決定
以上の結果から、単量体がペプチド交換後に完全な状態で維持されることがわかった。しかし、これを検証するために、蛍光-交換単量体をSuperdex(登録商標) 75カラムにロードし、溶出液を分画した。280 nmにおける吸光度を記録した。クロマトグラフィープロファイルを図4に示す。
【0093】
Superdex(登録商標) 75における単量体の典型的な溶出時間範囲(26.5分)に対応するピークが認められた。この主要ピークは、過剰なペプチドに対応する。このデータから、単量体がペプチド交換中および交換後に結合状態のままであることが明瞭にわかる。
【0094】
交換の最適化
溶液ペプチド交換に関して、さまざまな濃度のHBVc-FITCペプチドとHIVpol-FITCペプチドを用いて、動的交換実験を実施した。実験は、単量体Mart-1 27-35および26-35、ならびに単量体HIVpolおよびCMVpp65を対象に実施した。HIVpolペプチドおよびCMVpp65ペプチドは、中〜高親和性のペプチドであることが知られている。HIVpol単量体およびCMVpp65単量体を、単量体Mart-1 27-35および26-35の、本発明の交換アッセイ法におけるテンプレート単量体としての使用を支持するためにアッセイ法に含めた。
【0095】
交換アッセイ法の結果(図5A〜D)から、HIVpol単量体およびCMVpp65単量体をテンプレートとして使用した時は交換率(%)が低いことがわかった(それぞれ図5Bと5C)。これとは対照的に、交換率は、単量体Mart-1 26-35およびMart-1 27-35の使用時には、他の2つの単量体と比較して高くかつ速かった(それぞれ図5Aと図5D)。
【0096】
4時間後、HLA-A*0201(A245V)/Mart-1 27-35またはMart-1 26-35の両単量体との交換用の溶媒中におけるトレーサーペプチドHBVc-FITCの濃度が200 nMの時に、約90%のペプチドが交換しされた。HIVpol単量体およびCMVpp65単量体上におけるHBVc-FITCトレーサーペプチドの交換は、Mart-1単量体上で認められる交換とは全く異なっていた。単量体HIVpol上におけるHBVc-FITCペプチドに関して得られた最大交換率(%)は40%であった。120時間のインキュベーション後に200 nMの濃度のHBVc-FITCに関して得られた値は、むしろ外れ値である。CMVpp65単量体では、HIVpol単量体と比べて良好な交換(120時間後に約80%)が可能であった。以上の結果から、単量体Mart-1 27-35および単量体Mart-1 26-35の選択が、ペプチド交換アッセイ法用のテンプレート単量体として使用可能なことが確認された。
【0097】
しかしながら、過去の経験と施設内安定性データを元に、単量体Mart-1 26-35を、テンプレート単量体として使用することを選択した。なぜなら、ペプチドMart-1 26-35をテンプレート単量体中のテンプレートペプチドとして使用した時に、ペプチドMart-1 26-35はペプチドMart-1 27-35と比べて良好にフォールディングするからであり、フォールディングおよび精製後の最終的な単量体収率が良好であり、また単量体の安定性が良好なためである。ペプチドMart-1 27-35の親和性がペプチドMart-1 26-35の中親和性と比較して低いことが、ペプチドMart-1 26-35が良好にフォールディングする理由を説明することが明らかとなった。
【0098】
以上の結果から、トレーサーペプチドとしての使用に最適であると選択された蛍光ペプチドはペプチドHBVc-FITCであった。なぜなら同ペプチドは、フォールディングしたHLA-A*0201重鎖に対する結合親和性が十分高く、単量体上におけるテンプレートペプチド(Mart1 26-35)との交換を可能とし、また競合ペプチドがテンプレート単量体に結合しない場合に検出可能だからである。
【0099】
ペプチド交換のレベルの定量
ペプチド交換の定量を、上記手順で調製したアビジン化された96ウェルマイクロタイタープレートで実施した。HLA-A*0201/HBVc-FITC単量体を標準として使用した。単量体HLA-A*0201/HBVc-FITCを2倍ずつ段階希釈し、交換単量体と同時に処理した。
【0100】
過去の実験では、単量体HLA-A*021/Mart-1 27-35およびMart-1 26-35が、0.5×のHBVc-FITCペプチドと85%以上交換し、この理由が、競合ペプチドの非存在下における交換単量体のFITCシグナルが、HBVc-FITCペプチドと共に(ペプチド交換によるのではなく)直接フォールディングした同濃度の単量体を用いて得られたシグナルに似たシグナルを生じたためであることがわかっている。
【0101】
交換を定量するために、各試験用に2つの異なるチューブを対象とした。1本のチューブには、単量体Mart-1 26-35と、100倍モル過剰の競合ペプチド(所望の特異性をもつペプチド)と、0.5倍モル過剰のHBVc-FITCトレーサーペプチドを含んだ。第2のチューブは、競合ペプチドを含めず、HBVc-FITCトレーサーペプチドおよび単量体のみを含めて平行処理した。HBVc-FITCトレーサーペプチドと交換したトレーサーペプチドが100%の値を示し、単量体上のテンプレートペプチド(Mart-1 26-35)とほぼ実質的に全て交換することがわかっているため、第2のチューブは交換の正確な測定を可能とする。したがって、交換後における単量体のみの場合の残りの蛍光は、HLA-A*0201/HBVc-FITCの標準曲線から交換単量体の濃度の計算を可能とし、また最終的には、トレーサーペプチドのみを含むチューブに関して得られた100%値と比較時の交換単量体の収率の計算を可能とする。交換の計算に使用した方法の一例を表1に示す。単量体HBVc-FITCを使用した時の典型的な標準曲線を図6Aに示す。ダイヤ型(◆)は全蛍光を示し、かつ四角(■)は結合状態の蛍光を示す。
【0102】
B/T比(%)が、0.25μg/mlの単量体HBVc-FITCまで安定なことを強調することは重要である。この結果は、同濃度以上では、固相が飽和し始めることを意味する。これらの条件では、0.25μg/mlの単量体まで、直線状の用量反応曲線が得られた。非特異的なバックグラウンド+3標準偏差に等しいシグナルを生じる単量体HLA-A*0201/HBVc-FITCの最小濃度として定義される検出限界は、わずか0.00278μg/ml(2.78 ng/ml)であった。この値は、3つの異なるロットのプレートを対象に、別の日に実施された6回の異なるアッセイ法から得られたデータから計算された。
【0103】
別の試料を0.25μg/mlの単量体となるように希釈した。結果をプロットし、結合状態−非特異的結合(MFI-NSB)に対応する直線回帰の方程式を得た。これらの計算から、試料中の単量体の濃度を算出した。値は、標準曲線から0.25μg/mlについて得られた値のB/T比(%)で補正した。最後に、交換率(%)を、競合分子を含まない試料を対象に得られた値を100%値として用いることで計算した。この実験では、ペプチドHIVpolは87.21%が交換した。
【0104】
HIVpolペプチド使用時のペプチド交換の定量の一例を表1に示す。
(表1)交換の定量

【0105】
しかしながら、トレーサーペプチドのみとインキュベートした試料中の単量体の濃度が、予想された0.25μg/mlではなかったことは重要である。予想が外れたことは、単量体の一部が解離しているか、または単量体が完全には交換していないかのいずれかを意味する。
【0106】
実施例2
交換中に何が生じたかについて詳しく理解するために、重鎖とβ2ミクログロブリンの相互作用の境界の外側に位置するエピトープを認識する抗β2ミクログロブリンモノクローナル抗体B1G6にPEを結合させ、交換単量体の正確な定量、ならびに、生じた単量体の解離量に関するヒントを得るために用いた。
【0107】
単量体の解離レベルの測定と全単量体の定量
図7に示した免疫測定アッセイ法では、単量体は当初、アビジンコーティングされたプレートに、重鎖のC末端に作り込まれたビオチンタグを介して結合した状態にある。プレートを洗浄後、B1G6 mAbを添加して、単量体中の重鎖と結合した状態のβ2ミクログロブリンの結合を可能とした。この免疫測定アッセイ法は2段階で実施した。第1段階では、コーティング目的で単量体をインキュベートする。次に、洗浄して非結合成分(特に遊離のβ2ミクログロブリン)を除去した後に、第2段階として、B1G6-PEとインキュベートして、結合状態の単量体を明らかにする。このような手順で、単量体濃度の推定時に生じる可能性のある、遊離のβ2ミクログロブリンと抗体の干渉を避けることができる。
【0108】
免疫測定アッセイ法では、抗β2ミクログロブリンB1G6 mAbにPEを結合させた。このアッセイ法に使用する前に数回の実験を行い、単量体アッセイ法に使用する抗体を以下のように検証した。B1G6-PEの最適濃度と、標準曲線のダイナミックレンジを決定するために、段階的に2倍ずつ希釈したHLA-A*0201/HBVc-FITC単量体、ならびに段階的に2倍ずつ希釈したB1G6-PEを、「材料および方法」の項に記載されたプロトコルで検討した。結果を図8に示す。得られた用量反応曲線は、単量体HLA-A*0201/HBVc-FITCでコーティングされたプレートの場合、1μg/mlでプラトーに達し、シグナルは抗β-2m mAbの添加量が1μg/ml未満で飽和した。1μg/ml、2μg/ml、および4μg/mlの抗β-2m mAbで得られたシグナルが、0.5μg/mlの抗体(Ab)使用時に得られたシグナルと比較して大きいことは重要である。同抗体が二価性の性質をもつことは、この現象を容易に説明する。抗体B1G6の濃度は単量体の濃度より低く、同抗体の2か所の結合部位は2つのβ-2mと結合していた。
【0109】
しかし、抗体が過剰な場合は、抗体の1か所の結合部位のみが1つのβ-2mと結合し、プレートに結合する抗体の数が増え、結果としてシグナルが強化された。この結果は、0.5μg/mlおよび1μg/mlの抗β-2m mAb、ならびに0.5μg/mlの単量体(それぞれ180 MFIと321 MFI)で得られたシグナルを比較した際に明らかであった。
【0110】
総合すると以上のデータは、1〜2μg/mlのB1G6-PE mAbを使用することで単量体の解離の検討が可能なことを示唆している(標準曲線のダイナミックレンジは、単量体濃度として0.25μg/ml〜0μg/ml)。
【0111】
両蛍光色素とも488 nmで励起するにもかかわらず、PEシグナルにFITCシグナルが混入しないことを強調することは重要である。なぜならFITCの放射は525 nmで記録され、またPEシグナルの放射は575 nmで記録されたからである。この局面は、HBVc-FITC単量体を励起して、放射を575 nmで記録することで検証した。得られた結果から、使用条件ではシグナルが全く得られないか、またはバックグラウンドと同等のシグナルのみが得られたことがわかった。
【0112】
このアッセイ法を設計する上で考慮が必要な別の点は、ODによって280 nmで測定された単量体濃度と、B1G6アッセイ法で得られた単量体濃度が相関することである。なぜなら2つのアッセイ法はわずかに異なるからである。B1G6アッセイ法は、単量体の解離または完全性、および抗体が認識するエピトープの単量体に依存する。これとは対照的に、単量体濃度がODで測定される場合は、単量体の状態を知ることは不可能である。なぜなら、単量体の解離の有無に限らずODは同じだからである。
【0113】
この点を検証するために、異なる単量体の濃度を本発明のアッセイ法で、かつ280 nmのOD値によって決定した。また単量体を、異なる2種類の単量体(単量体HLA-A*0201/HBVc-FITCおよび単量体HLA-A*0201/Mart-1 26-35L)について定量し、標準的な検量線を得た。表2に示した結果から、2つの方法(抗B1G6-PEに曝露した単量体でコーティングしたアビジンプレートを対象とした方法と、280 nmのODを測定する方法)で測定したCVが、単量体26-35Lに関して検討した試料では、単量体HBVc-FITCに関して得られた値と比較して均一性が高く、かつ重要性が低いことがわかる(それぞれ280 nmのODについて比較)。これら2種類の単量体に関して得られた濃度の値の比較(図9)では高い相関(R2=1)が認められるが、最適な相関には至らない(プロット上の対角線から判断)。線形方程式の使用により、全ての単量体が抗体によって同等に認識されることが示唆される。ただし1 mgの任意の単量体を、単量体26-35Lを標準として用いて計算した時は、HBVc-FITC単量体を標準として用いた計算した時とは差(1-0.93=0.07 mg)が認められた。言い換えると、HBVc-FITC単量体を標準として使用する場合の決定には7%の誤差があることになる。
(表2)ELISAおよびODによる種々の単量体の濃度の定量


【0114】
アッセイ法の限界をふまえ、2種類の試料の単量体の濃度を表3のように再計算した。典型的な標準曲線を図10に示す。
(表3)交換単量体の濃度

【0115】
類似の単量体濃度が両試料について認められたが、予想された0.25μg/mlではなかった。HBVc-FITC単量体に関して得られた濃度とB1G6-PEアッセイ法の比較からは、近い値が得られた(表4に要約)。(平均:0.189±0.007、%CV=3.73、n=3)。これらの結果は、単量体の一部がインキュベーション中に解離したことを示唆する。
(表4)HBVc-FITC単量体を使用した方法とB1G6-PE mAbアッセイ法で明らかにされた単量体濃度

【0116】
この方法で、ペプチド交換実験における交換率(%)を計算した。
【0117】
実施例3
ペプチド交換と細胞染色
本発明のペプチド交換法の適用の1つは、全体の単量体のフォールディング過程を経ることなしに、新しい特異性を有する四量体を生成させることである。T細胞の染色に交換単量体を使用するMHC四量体アッセイ法の有用性を確認するために、交換ペプチドではなく直接フォールディングしたペプチドを含む単量体の染色パターンを比較した。比較を行うために、特異的な細胞系列が入手可能な3種類の異なるペプチドを選択した。
【0118】
本研究に使用した細胞の説明
Mart 1に特異的な細胞系列
JurkatPl/1 CD8クローン5.2
JurkatPl/1 CD8クローン5.2は、CD3+、CD4+、CD8+、Vb6.7+である。TCRはMelan A「野生型」ペプチド(AAGIGILTV)(Mart-1 27-35)を認識するが、十量体(EAAGIGILTV)(Mart-1 26-35)、および変異型ペプチド26-35 L(文献では27Lとも呼ばれる)(ELAGIGILTV)が良好に認識される。同じ種類の細胞をCD8なしで調製した。CD8-細胞(JurkatP1/1と呼ばれる)は、Melan A「野生型」ペプチド(AAGIGILTV)を極めて低い親和性で認識し、またフローサイトメトリーではほとんど検出できない。Mart-1ペプチドの27-35、26-35、および26-35L拘束性のHLA-A*0201に特異的なJurkat1.1細胞クローン5.2を選択した。なぜなら、この細胞系列は、ペプチド交換の機能性のレベルの定量に使用可能だからである。
【0119】
RBL HIVpol:クローン80210(Molecular Immunology Group, John Radcliff Hospital, Oxford, England)は、マウスのTCRζ鎖と融合されたヒトTCRのα鎖およびβ鎖のツーハイブリッドコンストラクトがそれぞれトランスフェクトされたラットの好塩基球性白血病細胞系列(RBL)である(方法は最初にEngel et al. (1992) Science 256: 1318に記載)。この構成は、CD3複合体を必要とすることなくTCRの発現を可能とし、またTCRとの結合後にシグナル伝達の直接測定が可能となる。ζ鎖は、細胞表面で発現される二量体を形成する。同系列は、α-αとβ-βのホモダイマーに加えてα-βのヘテロダイマーを発現する。この細胞系列では、CD3の発現もCD8の発現も見られない。同系列は接着性であり、刺激を受けると脱顆粒化する(細胞数測定時には、抗TCR試薬とのインキュベーション時に散乱の変化が認められる)。RBL 80210細胞は、HLA-A*0201/HIVpolペプチド複合体を認識する特異的なTCRを発現する。
【0120】
ハイブリドーマ細胞CMVpp65(N9V2.3と命名、Laboratoire Immunite Cellulaire Antivirale, Institut Pasteur, Paris, France)は、サイトメガロウイルスの主要外被タンパク質pp65の免疫優性ペプチド(N9V)を認識するマウスのハイブリドーマである。A2/pp65四量体に対して100%陽性のT細胞系列を、フロインドアジュバントとともにN9Vペプチドを接種したトランスジェニックHHDマウスから得た。この系列をBW5147 T細胞ハイブリドーマと融合させた。反応性のT細胞を得るために使用したマウスは、HLA A2を、α1ドメインおよびα2ドメインがヒトA2分子であり、α3ドメインと膜側および細胞質側がマウスのH2D bであり、ヒトβ2ミクログロブリン(β-2m)に連結された単鎖として発現する。これらのマウスは、マウスのH2 D-b座位、ならびにマウスのβ-2m座位がノックアウトされている(Pascaolo S., et al. (1997) J Exp Med 185 (12): 2043)。T細胞ハイブリドーマN9Vは、複合体HLA-A*0201/CMVpp65を認識する特異的なTCRを発現する。
【0121】
ハイブリドーマ細胞BW-HIVgag(HIVgag)(Laboratoire Immunite Cellulaire Antivirale, Institut Pasteur, Paris, France)は、HIV Gagの免疫優性ペプチドを認識するマウスのハイブリドーマである。A2/HIVgag四量体が100%陽性であるT細胞系列を、フロイントアジュバント(Freund's adjuvant)とともにHIVgagペプチドを接種したトランスジェニックHHDマウスから得た。この系列をBW5147 T細胞ハイブリドーマと融合させた。反応性のT細胞を得るために使用したマウスは、HLA A2を、α1ドメインおよびα2ドメインがヒトA2分子であり、α3ドメインと膜部分および細胞質部分がマウスのH2D bであり、ヒトβ-2mに連結された単鎖として発現する。これらのマウスは、マウスのH2 D-b座位、ならびにマウスβ-2m座位がノックアウトされている(Pascaolo S., et al.、上記)。T細胞ハイブリドーマGagは、複合体HLA-A*0201/HIVgagを認識する特異的なTCRを発現する。
【0122】
これらの細胞は、交換ペプチドを含む単量体が、MHCクラスIの四量体中に添加された場合に、かつ、同じ特異的なペプチドと直接フォールディングした対照単量体を含む四量体の場合と同様に、適切に染色されるか否かを判定するために使用された。加えて、交換四量体によるJurkat1.1細胞クローン5.2の染色が、交換のレベルの指標となるはずであることが予想された。
【0123】
所望のペプチド特異性の濃度
発明者らが得た過去の結果から、100倍モル過剰が全交換に至るのに十分なことがわかっている。この結果を確認するために、HIVpolペプチドをモデルとして使用した。3つの異なるモル過剰濃度(100×、250×、および500×)のHIVpolペプチドを、トレーサーとしての0.5倍モル過剰のHBVc-FITCの存在下で、単量体26-25と交換させた。インキュベーション後に、交換のレベルならびに単量体の濃度を上述の手順で測定した。交換単量体は四量体を形成しており、またJurkat1.1細胞クローン5.2およびRBL 80210 HIVpol細胞系列を対象に検討を行った。結果を図11、図12、および図13に示す。
【0124】
同様の染色が、HIVpolペプチドの濃度に依存することなく認められ、100倍モル過剰のペプチドが、単量体上におけるMart-1 26-35ペプチドの交換、およびHBVc-FITCペプチドとの適切な競合に十分なことが示唆された。シグナル(MFI)は、対照四量体について得られたシグナルに非常に近く、また100%の細胞が、交換ペプチドを含む四量体で染色された。Jurkat細胞を、交換ペプチドを含む四量体とインキュベートしても染色は認められなかったことから、単量体上の当初の全てのMart-1 26-35ペプチドが、HIVpolペプチドと置換されたことがわかる。
(表5)交換率(%)

【0125】
以上の結果からわかるように、交換率(%)は85%を上回り、またB1G6-PE mAbの使用を元に計算された総単量体の濃度は、HBVc-FITC単量体標準曲線を元に計算された濃度に極めて近い値であった(それぞれ0.18と0.179)。3つの交換の平均±SDは90.30±2.80であり、%CVは3.10であった。B1G6アッセイ法を元に計算された単量体の濃度は、全ての試料について同等であり、%CVは3.15であった(表6)。
(表6)B1G6アッセイ法で測定された単量体濃度

【0126】
交換に対するHBVc-FITCペプチドの寄与
単量体の安定化に対するHBVc-FITCペプチドの寄与と、同ペプチドが交換中に果たす役割を深く理解するために、単量体Mart-1 26-35を、さまざまな濃度の競合ペプチドHIVpolとともに、かつトレーサーペプチドの有無いずれかの条件でインキュベートした。インキュベーション後に、単量体は四量体を形成しており、Jurkat1.1細胞クローン5.2およびRBL 80210細胞の染色を検討した。トレーサーを含むチューブについてのみ交換を定量した。両試料を対象としたB1G6アッセイ法を元に、総単量体を計算した。フローサイトメトリーの結果を図13Aおよび図13Bに示す。
【0127】
トレーサーの非存在下で、1倍モル過剰の競合ペプチドを用いて交換単量体から作られた四量体は、RBL 80210細胞を極めて良好に染色し、Jurkat細胞を染色しなかった。この結果から、内因性のペプチドMart-1 26-35の大半が交換したことがわかる。実際に、B1G6-PE試験で測定された単量体濃度は、トレーサーの存在下で得られた濃度と同等であった。これとは対照的に、単量体から作られた四量体は、1倍モル過剰のHIVpolペプチドと交換し、またHBVc-FITCペプチドの存在下では対照の6.57%のみを染色した。この結果から、全単量体の一部のみが所望の特異性を示すことがわかる。総合すると、以上の結果から、内因性のペプチドがペプチド交換アッセイ法で置換可能なこと、また真の競合が生じていることが明瞭にわかる。染色された細胞の比率(%)は、競合ペプチド濃度の上昇に伴い場合に上昇した。染色を50倍モル過剰の競合ペプチドおよびトレーサーと交換した四量体を対象に実施した際に、対照四量体について得られた結果と同様の結果が得られたことが強調されたことは興味深い。このデータから、発明者らの得た図14の結果が確認され、HIVpolペプチドと比較して低親和性または中親和性のテンプレートペプチドをペプチド交換に使用可能なことが示唆される。
【0128】
生化学的試験で得られたデータとの比較から、単量体のみ(トレーサーも競合ペプチドも含まない)の場合は速やかに解離することが判明し、このため、トレーサーペプチドと競合ペプチドのいずれもが単量体を安定化させることが示唆される。
(表7)交換の定量

(表8)B1G6-PEアッセイ法による単量体の定量

(表9)トレーサーの存在下または非存在下における単量体濃度のまとめ

【0129】
興味深いことに、フローデータにおける対照の占める割合(%)と交換単量体の割合(%)をプロットしたところ、良好な相関が認められた(図15)。
【0130】
他の特異性からのペプチドの交換
上述のペプチド交換実験は、ペプチドHIV/Pol、CMVpp65、HIVgag、およびEBVbmlf1を対象に実施した。インキュベーション後に、交換したペプチドの占める割合(%)、および単量体の濃度を測定した。対照単量体および交換単量体はSA-PEと四量体を形成しており、細胞の染色に使用された。
【0131】
N9V(CMV)およびGagハイブリドーマのTcR発現と比較して、Jurkat1.1クローン5.2およびRBL 80210細胞上において高いTcR発現が認められた。対照四量体は、個々の細胞系列を特異的に染色した。陰性対照としてSA-PEのみを添加した。
【0132】
Jurkat1.1細胞クローン5.2を任意の交換四量体で染色した場合に染色が認められなかったことから、全てが交換されたことがわかる。個々の場合において、交換四量体で特異的に染色された集団は、単量体のペプチド特異性と相関していた。しかしながら、交換四量体は個々の細胞を適切かつ特異的に染色したが(100%の細胞)、MFIのわずかな減少が認められた(表10参照)。
(表10)異なる四量体および異なる細胞系列について得られたMFIのまとめ

(Δ=MFI交換四量体/MFI対照四量体)
【0133】
主要な差は、四量体HIVgagおよびCMVpp65について認められた。この差は、これらの細胞が、細胞表面で発現し、Jurkat細胞およびRBL 80210細胞と比較して、低レベルのTCRを生じる(シグナルは第2のディケード(decade)で得られた)という事実によって説明可能であり、かつ、単量体濃度のわずかな差が、最終的なMFIに影響を及ぼした可能性がある。このような差は、HIVpolの場合は有意では無かった。この結果は、単量体の解離が、CD8+ T細胞リンパ球の場合のように、細胞が高レベルのTCRを発現する場合にそれほど大きいものではないことを意味する。
【0134】
交換の定量から、全単量体が85%を超えて交換することがわかった(表10)。全単量体の濃度の測定から、単量体の有意な部分が解離することが判明した(表12)。10μg/mlの遊離のβ2ミクログロブリンを添加しても、交換のレベルおよび単量体の最終濃度に改善は認められなかった。
【0135】
以上の結果は、フローサイトメトリーで観察された差を、ある程度は説明することができる。しかし、トレーサーペプチドのみを含む試料(n=4)を対象にHBVc-FITCに関して計算された、かつ全試料(n=8)を対象にB1G6 mAbに関して計算された単量体の濃度の比較の結果、2つの値に17%の差が認められた(表13参照)。
【0136】
以上の実験から、ペプチドが良好に交換され、100%の細胞を染色したことがわかる。それでも、解離の影響を適切に理解するために、単量体の解離をシミュレートした実験を実施した。この例では、単量体の一部が解離するとき、解離後の一部は細胞を染色できなくなるが、解離したフラクションは四量体中のストレプトアビジン-PEと結合する。したがって、0%、10%、20%、30%、および40%の単量体の解離を考慮すると、異なる濃度のCMVpp65が四量体を形成していたことになる。SA-PEの濃度は一定であった。結果を表14に示す(結果は対照に対する割合(%)で示す)。単量体の10%のフラクションが利用できない場合に、この四量体についてシグナルが安定であることが観察された。しかし、単量体が20%のレベルで解離していたとき、総シグナルの20%が失われた。以上のデータは、同等の直接フォールディングした単量体に関して得られた染色プロファイルと同様に、四量体形成が同じ染色プロファイルを生じる前に、単量体濃度の再計算が必要なことを示唆している。
【0137】
少なくとも100倍モル過剰の競合ペプチドを対象に実施した全ての交換実験の全体から、ペプチドが89.45%±3.07で交換したことがわかる(%CV=3.44、n=9)。この統計的結果は、ペプチド交換プロトコルが再現性および精度に優れていることを示している。
【0138】
(表11)ペプチド交換の決定
HIVpol競合ペプチド使用時

CMVpp65競合ペプチド使用時

HIVgag競合ペプチド使用時

EBV Bmlf-1競合ペプチド使用時

【0139】
(表12)全単量体の定量

【0140】
(表13)HBVC-FITCアッセイ法およびB1G6-PEアッセイ法について計算された単量体濃度の比較

【0141】
(表14)フローサイトメトリーの結果

【0142】
実施例4
HLA-A*0201/CMV陽性ドナーに由来するPBMCの、交換単量体およびフォールディングした単量体から作られた四量体による染色
HLA-A*0201/CMVpp65 N9V陽性の健康なドナーが同定されたことで、CMVpp65 N9Vペプチドと交換した単量体26-35から作られた四量体の検討、およびN9Vペプチドでフォールディングした単量体から作られた四量体との染色プロファイルの比較が可能となった。染色の結果から、これらの細胞の染色に使用された単量体が90.38%交換していたことがわかった。この実験で発明者らは、四量体HLA-A*0201/Mart-1 26-35Lを陰性対照として使用した。染色は、抗CD3-PC5/CD8-FITC、およびSA-PEを有する異なる四量体を使用する3重免疫染色とした。解析は、CD3陽性細胞とCD8陽性細胞を組み合わせたリンパ球ゲート(FSC/SSC)に位置する現象を考慮して実施した。
【0143】
本発明を、上記の実施例を参照して説明したが、変形および変更は、本発明の意図および範囲に含まれることが理解される。したがって本発明は、特許請求の範囲のみによって制限される。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1A】本発明の溶液ベースのペプチド交換の説明。
【図1B】本発明の溶液ベースのペプチド交換で用いられる手順を説明するフローチャート。
【図2】HLAペプチド結合体の親和性の程度を評価するための規模の説明。
【図3】HBVc-FITCペプチドおよびHIVpol-FITCペプチドと交換された単量体HLA-A*0201(A245V)/Mart-1 27-35の結合を示すグラフ。
【図4】図4の交換単量体のクロマトグラフプロファイルのグラフ。
【図5A】異なる単量体と異なる濃度のFITCペプチドHBcおよびHIVpolの交換を示すグラフ。単量体HLA-A*0201/CMVpp65を示す。
【図5B】異なる単量体と異なる濃度のFITCペプチドHBcおよびHIVpolの交換を示すグラフ。単量体HLA-A*0201/HIVpolを示す。
【図5C】異なる単量体と異なる濃度のFITCペプチドHBcおよびHIVpolの交換を示すグラフ。単量体HLA-A*0201/Mart-1 27-35を示す。
【図5D】異なる単量体と異なる濃度のFITCペプチドHBcおよびHIVpolの交換を示すグラフ。単量体HLA-A*0201/Mart-1 26-35を示す。
【図6A】単量体HBVc-FITCの用量反応曲線を示すグラフ。
【図6B】図7Aに示した単量体の濃度の関数としてのB/T比(%)を示すグラフ。
【図7】B1G6アッセイ法の略図。
【図8】さまざまな濃度の単量体の存在下における、B1G6アッセイ法の抗体の用量反応曲線のグラフ。
【図9】2つの異なる単量体を標準として用いて決定された、計算された単量体濃度間の相関を示すグラフ。
【図10】B1G6-PE mAbおよび単量体HLA-A*0201/HBVc-FITCを用いて得られた標準曲線を示すグラフ。
【図11】SA-PEのみ、および個々の正の対照と四量体を形成した時の、試験ペプチドを含む単量体による細胞系列の染色。
【図12】さまざまな量の過剰なペプチドが、交換四量体および対照四量体によるJurkat細胞の染色に及ぼす影響。
【図13】さまざまな量の過剰なペプチドが、交換四量体および対照四量体によるRBL 80210細胞の染色に及ぼす影響。
【図14A】ペプチドの安定化に対するトレーサーペプチドの寄与、およびHIV/PolペプチドによるMart1 26-35交換単量体によるRBL 80210細胞の染色のフローサイトメトリーで得られた結果に及ぼす影響。
【図14B】ペプチドの安定化に対するトレーサーペプチドの寄与、およびHIV/PolペプチドによるMart1 26-35交換単量体によるJurkat細胞の染色のフローサイトメトリーで得られた結果に及ぼす影響。
【図15】交換率(%)と、フローサイトメトリーで得られた対照の占める割合(%)が相関することを示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、MHC単量体または修飾型MHC単量体に対するMHC結合ペプチドを同定する方法:
a)MHC単量体または修飾型MHC単量体との結合に関する、第1の競合ペプチド、テンプレートペプチド、およびトレーサーペプチドの間の競合を可能とするように、
テンプレートMHC結合ペプチドに結合した、少なくとも1つのMHC単量体または修飾型MHC単量体、
過剰量の第1の競合ペプチド、および
検出可能な標識で標識されたトレーサーMHC結合ペプチド
を含む試料を適切な液相条件でインキュベートする段階であって、テンプレートペプチドはトレーサーペプチドと比較して、単量体に対してより低い親和性または中程度の親和性を有する、段階;ならびに
b)試料中の検出可能な標識によって生じたシグナルと、インキュベーション後に試料から得られた単量体のみによって生じたシグナルとの差を決定する段階であって、その差が、第1の競合ペプチドが単量体に対するMHC結合ペプチドであることを示す、段階。
【請求項2】
第1の競合ペプチドの過剰が約100倍モル過剰である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第1の競合ペプチドの非存在下で実施される平行競合アッセイ法で、トレーサーペプチドが少なくとも90%のテンプレートペプチドと置換する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
適切な液相条件が、試料を約2〜20時間インキュベートする段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
適切な液相条件が、試料を約21℃でインキュベートする段階をさらに含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
検出可能な標識がフルオロフォアである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
試料中の単量体のみによって生じたシグナルの決定に先立ち、単量体を固相支持体に結合させる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
MHC単量体または修飾型MHC単量体をビオチン化し、かつ、単量体をビオチン/アビジン、またはストレプトアビジン連結を介して固相支持体に結合させる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
フルオロフォアがフルオレセイン(FITC)である、請求項6記載の方法。
【請求項10】
単量体が、β2ミクログロブリンをさらに含む三成分複合体中にある、請求項1記載の方法。
【請求項11】
差がシグナルの減少であり、かつ単量体に対する第1の競合ペプチドの結合が、この減少の量に比例する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
単量体がHLAクラスIである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
単量体がHLA-A*020/Mart-1 26-35である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
トレーサーペプチドがHBc 18-27である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
単量体が、b)の試料から細胞数測定によって得られる、請求項12記載の方法。
【請求項16】
異なる競合ペプチドを使用する点を除いて繰り返される、請求項1記載の方法。
【請求項17】
決定する段階が、蛍光をハイスループットスキャニングを使用して読みとる段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項18】
単量体がHLAクラスIであり、かつ単量体がβ2ミクログロブリンとさらに結合する、請求項1記載の方法。
【請求項19】
単量体がHLAサブクラスA、B、またはCである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
第1の競合ペプチドが約8〜約12アミノ酸を含む、請求項18記載の方法。
【請求項21】
単量体がアッセイ法の間、フォールディングした状態で保たれる、請求項20記載の方法。
【請求項22】
トレーサーペプチドが約8〜約12アミノ酸を含み、かつ、ペプチド交換が単量体のアンフォールディングまたは変性を伴わずに起こる、請求項20記載の方法。
【請求項23】
第1の競合ペプチドおよび単量体を含む三成分複合体の再構成の間に、単量体の結合ポケットへとフォールディングした場合に、交換される競合ペプチドの親和性が、第1の競合ペプチドの親和性と実質的に等しい、請求項1記載の方法。
【請求項24】
修飾型MHC単量体が、MHC単量体の細胞表面ドメインを含むが、MHC単量体の他のドメインを含まない、請求項1記載の方法。
【請求項25】
単量体の対立遺伝子が既知であり、かつ決定する段階が、第1の競合ペプチドが単量体の対立遺伝子に対し特異的であるか否かを示す、請求項1記載の方法。
【請求項26】
以下の段階を含む、MHC単量体または修飾型MHC単量体に対するMHC結合ペプチドの相対的な親和性を測定する方法:
a)MHC単量体または修飾型MHC単量体との結合に関する、第1の競合ペプチド、テンプレートペプチド、およびトレーサーペプチドの間の競合を可能とするように、
テンプレートMHC結合ペプチドに結合した、少なくとも1つのMHC単量体または修飾型MHC単量体、
過剰量の第1の競合ペプチド、および
検出可能な標識で標識されたトレーサーMHC結合ペプチド
を含む試料を、適切な液相条件でインキュベートする段階であって、テンプレートペプチドは、トレーサーペプチドよりも単量体に対する親和性が低く、かつ第1の競合ペプチドの少なくとも一部はテンプレートペプチドと交換する、段階;ならびに
b)全試料における検出可能な標識によって生じたシグナルと、インキュベーション後に試料から得られた単量体のみによって生じたシグナルとの差を決定する段階であって、その差は、単量体に対する第1の競合ペプチドの親和性を示す、段階。
【請求項27】
第1の競合ペプチドの過剰が約100倍モル過剰である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
第1の競合ペプチドの非存在下で実施される競合ペプチド交換アッセイ法で、トレーサーペプチドが、少なくとも90%のテンプレートペプチドと置換する、請求項26記載の方法。
【請求項29】
適切な液相条件が、試料を約2〜約6時間インキュベートする段階を含む、請求項26記載の方法。
【請求項30】
適切な液相条件が、試料を約21℃でインキュベートする段階をさらに含む、請求項26記載の方法。
【請求項31】
検出可能な標識がフルオロフォアである、請求項26記載の方法。
【請求項32】
試料中の単量体のみによって生じるシグナルを決定する前に、単量体を固相支持体に結合させる、請求項31記載の方法。
【請求項33】
MHC単量体または修飾型MHC単量体をビオチン化し、かつ単量体をビオチン/アビジンまたはストレプトアビジン連結を介して固相支持体に結合させる、請求項32記載の方法。
【請求項34】
フルオロフォアがフルオレセイン(FITC)である、請求項31記載の方法。
【請求項35】
単量体が、β2ミクログロブリンをさらに含む三成分複合体中にある、請求項26記載の方法。
【請求項36】
差がシグナルの減少であり、かつ単量体に対する第1の競合ペプチドの結合が、この減少の量に比例する、請求項26記載の方法。
【請求項37】
単量体がHLAクラスIである、請求項26記載の方法。
【請求項38】
単量体がHLA-A*020/Mart-1 27-35である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
b)の試料から、細胞数測定によって単量体を得る段階をさらに含む、請求項26記載の方法。
【請求項40】
異なる競合ペプチドを使用する点を除いて繰り返される、請求項26記載の方法。
【請求項41】
トレーサーペプチドがHBc 18-27である、請求項40記載の方法。
【請求項42】
決定する段階が、ハイスループットスキャニングで蛍光を読みとる段階を含む、請求項26記載の方法。
【請求項43】
単量体がHLAクラスIであり、かつ単量体がβ2ミクログロブリンとさらに結合する、請求項26記載の方法。
【請求項44】
単量体がHLAサブクラスA、B、またはCである、請求項43記載の方法。
【請求項45】
第1の競合ペプチドが約8〜約12アミノ酸を含む、請求項43記載の方法。
【請求項46】
ペプチド交換が、単量体のアンフォールディングまたは変性を伴わずに起こる、請求項45記載の方法。
【請求項47】
トレーサーペプチドが約8〜約12アミノ酸を含み、かつペプチド交換が、単量体のアンフォールディングまたは変性を伴わずに起こる、請求項45記載の方法。
【請求項48】
第1の競合ペプチドおよび単量体を含む三成分複合体の再構成の間に、単量体の結合ポケットへとフォールディングした場合に、交換される競合ペプチドの親和性が、第1の競合ペプチドの親和性と実質的に等しい、請求項26記載の方法。
【請求項49】
修飾型MHC単量体がMHC単量体の細胞表面ドメインを含むが、MHC単量体の他のドメインを含まない、請求項26記載の方法。
【請求項50】
単量体の対立遺伝子が既知であり、かつ決定する段階が、第1の競合ペプチドが単量体の対立遺伝子に特異的であるか否かを示す、請求項26記載の方法。
【請求項51】
以下の段階を含む、ペプチド拘束性T細胞受容体(TCR)を提示する細胞を染色するために、交換ペプチドに結合したMHC単量体または修飾型MHC単量体の機能を測定する方法:
a)MHC単量体または修飾型MHC単量体に対する結合に関する、第1の競合ペプチド、テンプレートペプチド、およびトレーサーペプチド間の競合を可能とするように、
テンプレートMHC結合ペプチドに結合したMHC単量体、もしくは修飾型MHC単量体、
過剰量の第1の競合ペプチド、
および
第1の検出可能な標識で標識されたトレーサーMHC結合ペプチド
を含む試料を、適切な液相条件でインキュベートする段階であって、テンプレートペプチドは、トレーサーペプチドよりも単量体に対する親和性が低く、かつ、単量体の少なくとも一部において、第1の競合ペプチドがテンプレートペプチドと交換して交換単量体を生じる、段階;
b)交換単量体と、第2の検出可能な標識で標識された多価体(multivalent entity)を結合させることで、a)で得られた交換単量体の多量体を形成させる段階;ならびに
c)多量体中の交換単量体と、細胞のTCRとの結合を評価する段階であって、結合は、交換単量体中の第1の競合ペプチドがTCRに特異的であることを示す、段階。
【請求項52】
MHC単量体または修飾型MHC単量体をビオチン化し、かつ多価体がストレプトアビジンまたはアビジンである、請求項51記載の方法。
【請求項53】
第1の検出可能な標識がFITCであり、かつ第2の検出可能な標識がPEである、請求項51記載の方法。
【請求項54】
過剰が約100倍モル過剰である、請求項51記載の方法。
【請求項55】
第1の競合ペプチドの非存在下で実施される競合ペプチド交換アッセイ法において、トレーサーペプチドが少なくとも90%のテンプレートペプチドと置換する、請求項51記載の方法。
【請求項56】
適切な液相条件が、試料を約6〜約20時間インキュベートする段階を含む、請求項51記載の方法。
【請求項57】
適切な液相条件が、試料を約21℃でインキュベートする段階をさらに含む、請求項56記載の方法。
【請求項58】
単量体が、β2ミクログロブリンをさらに含む三成分複合体である、請求項51記載の方法。
【請求項59】
単量体がHLAクラスIである、請求項51記載の方法。
【請求項60】
単量体がHLA-A*020である、請求項59記載の方法。
【請求項61】
テンプレートペプチドがMart-1 26-35である、請求項60記載の方法。
【請求項62】
トレーサーペプチドがHBc 18-27である、請求項61記載の方法。
【請求項63】
決定する段階が、細胞の蛍光をハイスループットスキャニングによって読みとる段階を含む、請求項51記載の方法。
【請求項64】
単量体がHLAクラスIであり、かつ単量体がβ2ミクログロブリンをさらに含む、請求項51記載の方法。
【請求項65】
単量体がHLAのサブクラスA、B、またはCである、請求項64記載の方法。
【請求項66】
第1の競合ペプチドが約8〜約12アミノ酸を含む、請求項51記載の方法。
【請求項67】
トレーサーペプチドが約8〜約12アミノ酸を含み、かつペプチド交換が、単量体のアンフォールディングまたは変性を伴わずに起こる、請求項66記載の方法。
【請求項68】
ペプチド交換が、単量体のアンフォールディングまたは変性を伴わずに起こる、請求項51記載の方法。
【請求項69】
交換単量体の多量体とTCRとの結合が、単量体から調製された多量体の結合と実質的に等しく、ここで第1の競合ペプチドは、三成分複合体の再構成中に単量体の結合ポケットへとフォールディングする、請求項51記載の方法。
【請求項70】
修飾型MHC単量体が、MHC単量体の細胞表面ドメインを含むが、MHC単量体の他のドメインを含まない、請求項51記載の方法。
【請求項71】
TCRのペプチド特異性が既知であり、かつ多量体中における単量体のTCRへの結合が、交換単量体がTCRのペプチド特異性に合致することを示す、請求項51記載の方法。
【請求項72】
第1の競合ペプチドの代わりに異なる競合ペプチドを使用することを除いて繰り返される、請求項51記載の方法。
【請求項73】
以下を含む、MHC単量体または修飾型MHC単量体に対するMHC結合ペプチドを同定するためのシステムであって、テンプレートペプチドはトレーサーペプチドよりも単量体に対する親和性が低い、システム:
a)テンプレートMHC結合ペプチドに結合した、少なくとも1つのMHC単量体または修飾型MHC単量体、
b)検出可能な標識で標識されたトレーサーMHC結合ペプチド。
【請求項74】
システムの使用に関する使用説明書をさらに含む、請求項73のシステム。
【請求項75】
単量体がHLA-A*020であり、かつテンプレートペプチドがMart-1 26-35である、請求項73のシステム。
【請求項76】
トレーサーペプチドがHBc 18-27である、請求項73のシステム。
【請求項77】
検出可能な標識がFITCである、請求項73記載のシステム。
【請求項78】
アビジン化された固相支持体への結合のために単量体がビオチン化されている、請求項73記載のシステム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【公表番号】特表2007−511760(P2007−511760A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539448(P2006−539448)
【出願日】平成16年2月18日(2004.2.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/004910
【国際公開番号】WO2005/047902
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(504346307)ベックマン コールター インコーポレーティッド (5)
【Fターム(参考)】