MN/CAIXおよび癌予後診断
本明細書は、MNを通常発現するがMN発現が発癌に際して消失または減少する組織に関連する腫瘍性/前腫瘍性疾患を対象脊椎動物において診断する方法を開示する。本発明の予後診断法の対象となる典型的な種類の前腫瘍性/腫瘍性疾患は、胃粘膜、胆のう、胆管、および十二指腸腺の管細胞の前腫瘍性/腫瘍性疾患である。典型的な予後診断法は、罹患した対象に由来する組織試料におけるMN遺伝子発現産物のレベルを、類似の前腫瘍性/腫瘍性組織試料で見られる平均MN遺伝子発現産物レベルと比較することを含む;上記の平均MN遺伝子発現産物レベルは、対象について、より不良な予後診断を示す。本予後診断法において有用なMN遺伝子発現産物は、MNタンパク質、MNポリペプチド、および/またはMN核酸を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝医学の一般的分野および生化学工学、免疫化学、および腫瘍学の分野に属する。詳細には、本発明は、MNタンパク質、MN/CA IXアイソザイム、MN/CA IX、炭酸脱水酵素IX、CA IX、またはMN/G250タンパク質としても現在知られている癌蛋白(oncoprotein)をコードする、MN/CA9、CA9、または炭酸脱水酵素9として知られている癌遺伝子(oncogene)であると考えられている細胞遺伝子である、MN遺伝子に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は患者試料中のMN抗原またはMN遺伝子発現の同定に関するものであり、その同定は、癌の診断的/予後診断的アッセイのため、および癌治療について臨床的判断を行うための、基礎を提供する。さらにより詳細には、本発明は、前腫瘍性/腫瘍性疾患の患者の予後診断の方法に関するものであり、その疾患は、通常MN/CA IXタンパク質を発現するが発癌によってMN/CA IX発現を喪失するかまたはその発現が顕著に減少する組織を冒すものである。胃癌はそのような腫瘍性疾患の典型である。
【背景技術】
【0003】
上記で示したように、MN遺伝子およびタンパク質はいくつかの別名で知られ、その名称はここでは互換的に用いられる。MNタンパク質は亜鉛を結合し、さらに炭酸脱水酵素(CA)活性を有することが見出され、現在は、第9番目の炭酸脱水酵素アイソザイム−MN/CA IXまたはCA IXと考えられている[4]。炭酸脱水酵素命名法によると、ヒトCAアイソザイムは大文字のローマ字と数字とで表記され、一方、その遺伝子は斜体活字およびアラビア数字で記載される。代替的に、「MN」はここでは、文脈によって示される通り、炭酸脱水酵素アイソザイムIX(CA IX)タンパク質/ポリペプチド、または炭酸脱水酵素アイソザイム9(CA9)遺伝子、核酸、cDNA、mRNAなどを称するのに用いられる。
【0004】
MNタンパク質はまた、G250抗原を用いて同定されている。Uemuraら[35]は、「配列解析およびデータベース検索によって、G250抗原は、子宮頸癌(Pastorek et al., 1994)において同定されたヒト腫瘍関連抗原であるMNと同一であることが示された」と述べている。
【0005】
特許文献1(Zavada et al., 1993年9月16日公開)および特許文献2(1995年2月7日発行)は、MN遺伝子およびタンパク質の発見について記載する。MN遺伝子は試験したすべての脊椎動物の染色体DNA中に存在し、その発現は腫瘍原性と強く相関することが見出された。一般的に、腫瘍形成はCA IXタンパク質の異常発現によって示される。たとえば、腫瘍形成は:(1) CA IXタンパク質が、通常はCA IXタンパク質を顕著な程度では発現しない組織中に存在する場合;(2)CA IXタンパク質が、通常はそれを発現する組織に存在しない場合;(3)CA9遺伝子発現が、ある組織中で通常発現されるよりも有意に高いレベル、または有意に低いレベルである場合;または(4)CA IX タンパク質が細胞内の異常な部位で発現されている場合、によって示される。
MNタンパク質は、報告されている最初の腫瘍関連炭酸脱水酵素アイソザイムと現在考えられている。炭酸脱水酵素ファミリー(CA)は、下記の式で表される二酸化炭素の可逆的水和−脱水に関与する11種類の触媒活性亜鉛金属酵素を含む。
二酸化炭素の可逆的水和−脱水:
CAはさまざまな生物に幅広く分布する。CAはさまざまな生理的および生物学的過程に関与し、および組織分布、細胞内局在、および生物学的機能に顕著な多様性を示す[1、2、27]。炭酸脱水酵素IX(CA IX)は、最も近年に同定されたアイソザイムのうちの一つである[3、4]。形質転換細胞株およびいくつかのヒト悪性腫瘍におけるCA IXの過剰発現のため、CA IXは腫瘍関連抗原と認められており、さらにヒト癌の発生に関連づけられている[5〜7]。
CA IXは、独自のN末端プロテオグリカン様鎖を有するグリコシル化膜貫通型CAアイソフォームである[4]。トランスフェクション試験によって、CA IXは3T3細胞の形質転換を誘導できることが実証されている[4]。近年の研究は、CA IXは細胞接着に関与するだけでなく、低酸素症において、MNプロモーターの低酸素反応領域(hypoxia-responsive element)へのHIF−1タンパク質の結合を介して誘導され得ることを明らかにしている[8,9]。MN遺伝子の転写は、腎細胞癌細胞においてはフォン・ヒッペル・リンドウ(von Hippel-Lindau)腫瘍抑制遺伝子によって負に調節される[28]。フォン・ヒッペル・リンドウ(von Hippel-Lindau)腫瘍抑制遺伝子のタンパク質産物は、酸素依存性タンパク質分解のためのHIF−1αの標的化を担うユビキチンリガーゼ複合体と相互作用する[29,30]。このように、低レベルの酸素はHIF−1αの安定化に繋がり、次にそれがMNの発現増加に繋がる[9]。癌におけるMNの高発現領域は、多数の癌で報告されているように、腫瘍の低酸素状態と関連しており、および、低酸素条件下での腫瘍細胞のインキュベーションはMN発現の誘導に繋がる[9〜14]。
【0006】
多数の研究が、前癌性および癌性子宮頸部病変の診断/予後診断においてMN特異的モノクローナル抗体(MAb)M75を用いて、MNの診断的/予後診断的な有用性を確認している[6,37,38,39,55]。M75Mabを用いた子宮頸癌の免疫組織化学試験、およびPCRベースの(RT−PCR)腎細胞癌の調査は、MN発現がこれらの癌と密接に関連していることを確認しており、さらにMNが腫瘍バイオマーカーとしての有用性を有することを示唆する[6,36,38]。さまざまな癌(中でも特に子宮頸部、卵巣、子宮内膜、腎臓、膀胱、乳房、結腸直腸、肺、食道、頭部および頸部、および前立腺癌)では、CA IX発現が増加し、さらに一部の腫瘍での微細血管密度および低酸素レベルと関連づけられている[10,11]。
【0007】
MNタンパク質を通常は発現しない組織では、CA IX陽性は肺癌、乳癌、および子宮頸癌といった前腫瘍性/腫瘍性疾患の診断となると考えられている[12〜14]。しかし、これらの癌性組織のうち、より高いMN発現はしばしばより良好な予後を示す。以前の研究は、明細胞RCC[40]、子宮頸癌[39]、結腸直腸腫瘍[7]、および食道癌[52]を含む一部の腫瘍で、CA IX発現と病期および重症度との間に逆相関が存在することを報告している。これらの研究のうち、非RCC関連であった3つは、CA IXの低発現がリンパ節転移および浸潤の深さといった予後不良因子と相関することを見出した。Bretheau et al. 1995 [41]は、Uemura et al.[40]によるとCA IXをより低レベルで発現することが予想される重症度および病期が進行した腫瘍を有するRCC患者の予後不良を報告しした。特許文献3(Bui et al. [42])は、「低」CA IX(≦85%)染色は転移性RCCの患者の生存に関する独立した予後不良因子であることを報告した。
【0008】
顕著にMNタンパク質を発現する正常組織はほとんど見つかっていない;それらMNを発現する正常組織は、ヒト胃粘膜および胆のう上皮、および他の一部の消化管の正常組織を含む[45,15,16]。正常大腸の免疫組織化学分析は、近側結腸に中等度のCA IX染色を示し、その反応は遠側でしだいに弱くなった。その染色は、最も高い増殖能力を有する領域である陰窩上皮細胞の基底外側表面に限定されていた。CA IXは粘膜の上部よりも、増殖している陰窩上皮ではるかに豊富であるため、腸上皮細胞の増殖および分化を調節する役割を果たしていると考えられる。細胞増殖は結腸直腸上皮の前癌病変および癌病変で異常に増加し、およびしたがって、結腸直腸腫瘍進行の指標と考えられる[43,44]。興味深いことに、CA9欠損マウスは増殖亢進に関連する胃の過形成を生じ[17]、胃癌の発生および進行におけるCA IXの推定される病態生理学的役割が、胃を起源としない癌で観察される役割と異なるのか疑問を生じさせる。
【0009】
胃癌は全世界的に癌関連死の二番目に多い原因である[22、23]。その低下している発生率にもかかわらず、胃癌は臨床医および癌専門医にとって大きな課題であり続けている。近年、さまざまなグループが、胃癌に繋がる遺伝的および分子的変化を分析している。これらの変化は、特に、増殖因子受容体K-samおよびc-metといった癌遺伝子の過剰発現、APCおよびp53といった特定の腫瘍抑制遺伝子の消失、および、E-カドヘリンおよびカテニンを含む接着分子の変化を含む[22〜26]。近年、炭酸脱水酵素群および特にCA IXへの注目が高まっている[2]。しかし、CA IXを通常において過剰発現する胃粘膜におけるCA IX発現を調べる研究は、胃癌の存在をCA IXのレベル低下またはCA IXの消失と関連づける診断分析のみを提供している。
【0010】
対応する正常組織で豊富であるCA IX発現の消失または低下によって診断される胃癌および関連する癌についての新規なおよび創意に富む予後診断法に繋がる驚くべき知見が本明細書で開示される。驚くべきことに、そのような癌の中で、胃および関連する癌の診断になると考えられるCA IX発現の不在またはその顕著に低下したレベルよりも高いCA IX発現は、特にそのようなより高いCA IX発現がそうした癌の浸潤先端部に見出される場合、そのような癌に関して診断を受けている患者のより不良な予後を示唆することが見出された。胃癌および関連する癌では、CA IXのより高い発現は、特に癌の浸潤先端部で発現される場合、罹患する患者についてより不良な予後を示すという、驚くべき知見が本明細書で開示される。
【特許文献1】国際公開第93/18152号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5,387,676号明細書
【特許文献3】国際公開第03/089659号パンフレット
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、組織の前腫瘍性/腫瘍性疾患に罹患した患者におけるMN/CA9遺伝子発現産物のレベルを定量することを含む予後診断法に関し、ここでそのような前腫瘍性/腫瘍性疾患に関与する正常組織は、CA IXを発現するが、発癌に際してCA IX発現が消失する。MN/CA9遺伝子発現産物のそのようなレベルを定量することは、患者の予後診断を決定するのに有用である。そのような組織は、好ましくは、胃粘膜、胆のう、胆管、十二指腸腺の管細胞、精巣輸出管および精巣網を含む精巣、表層体腔上皮および卵巣網を含む卵巣、毛包の基底細胞、および中枢神経系脈絡叢より成る群から選択される。より好ましくは、前記組織は、胃粘膜、胆のう、胆管または十二指腸腺の管細胞である;さらにより好ましくは、前記組織は、胃粘膜、胆のうまたは胆管である;さらに好ましくは、前記組織は胃粘膜である。
【0012】
第一の予後診断法は、患者から採取された組織試料中のMN/CA9遺伝子発現産物のレベルを定量すること、およびそのレベルを、同一の疾患に罹患した患者に由来する比較可能な組織試料中のMN/CA9遺伝子発現産物のレベルと比較することを含む。第二の予後診断法は、前記患者の前記前腫瘍性/腫瘍性疾患の浸潤先端部に由来する組織試料を分析すること、およびMN/CA9遺伝子発現レベルを前記組織中で通常見出されるレベルと比較することを含む。臨床転帰を予測することに加えて、本発明の方法はまた、治療方針の中でも特に、アジュバント療法および/またはCA IXを標的とする療法を必要とする高リスク患者を特定する。
【0013】
一態様では、本発明は対象脊椎動物、好ましくは哺乳類を冒す前腫瘍性/腫瘍性疾患を予後診断する方法に関し、ここで前記疾患は、通常はMN/CA IXタンパク質を発現するが発癌に際してMN/CA IX発現が消失または顕著に低下する組織を冒すものであり、該方法は:
(a)前記脊椎動物から採取した前腫瘍性/腫瘍性組織を含む試料中のMN/CA9遺伝子発現産物を検出し、
(b)前記試料中の前記MN/CA9遺伝子発現産物のレベルを定量し、
(c)工程(b)のMN/CA9遺伝子発現産物のレベルを、対象脊椎動物と同一の前腫瘍性/腫瘍性疾患に罹患した脊椎動物から採取した比較可能な試料中のMN/CA9遺伝子発現産物の平均レベルと比較し、さらに
(d)工程(b)のMN/CA9遺伝子発現産物のレベルが前記比較可能な試料中のMN/CA9遺伝子発現産物の平均レベルよりも高い場合、前記対象脊椎動物がより不良な予後を有すると判定する;工程を含み、
前記MN/CA IXタンパク質は下記より成る群から選択されるヌクレオチド配列によってコードされる:
(1)配列番号1のコード領域;
(2)配列番号1のコード領域の相補鎖と、42℃にて50%ホルムアミドのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列;および
(3)遺伝コードの縮重のために、配列番号1のコード領域または(2)のヌクレオチド配列とはコドン配列が異なるヌクレオチド配列。
【0014】
本発明の方法に基づき、前記MN/CA9遺伝子発現産物を検出工程(a)において検出するために使用が好ましいアッセイは、前記MN/CA9遺伝子発現産物がMN/CA IXタンパク質またはMN/CA IXポリペプチドを含み、および前記アッセイがウェスタンブロット、酵素結合免疫吸着アッセイ、ラジオイムノアッセイ、競合イムノアッセイ、二抗体サンドイッチアッセイ、免疫組織化学染色アッセイ、凝集アッセイ、蛍光イムノアッセイ、およびサイトフルオロメトリー(cytofluorometry)より成る群から選択されるものである。より好ましくは、前記MN/CA9遺伝子発現産物検出工程は(a)免疫組織化学染色によるものであり、および前記定量工程は(b)免疫反応性細胞の割合および/または免疫反応性細胞の免疫染色の強度の測定を含み、好ましくは免疫反応性細胞の前記割合および免疫反応性細胞の免疫染色の前記強度の加算または乗算を含む。さらにより好ましくは、前記検出工程は、(a)受託番号ATCC HB11128を有するハイブリドーマVU−M75によって分泌されるMN特異的M75モノクローナル抗体の使用を含む。
【0015】
本発明の好ましい一実施形態では、MN/CA9遺伝子発現産物はCA IX抗原であり、およびCA IX抗原は、前腫瘍性/腫瘍性脊椎動物試料、好ましくは哺乳類試料、より好ましくはヒト試料において定量される。そのような前腫瘍性/腫瘍性試料は、試料のうち特に、組織標本、組織抽出物、細胞、細胞溶解物および細胞抽出物であってよい。組織標本はさまざまに保存することができ、たとえば、標本は、新鮮、凍結、またはホルマリン、アルコールまたはアセトンまたは他の方法で固定および/またはパラフィン包埋および脱パラフィンされる。好ましい組織試料は、ホルマリン固定、パラフィン包埋組織試料または凍結組織試料である。好ましい一実施形態では、疾患は胃癌であり、および試料は胃癌の浸潤先端部から採取される。好ましくは、前記試料は、前記前腫瘍性/腫瘍性疾患、好ましくは腫瘍性疾患の浸潤先端部から採取され、および比較工程(c)で用いられる前記比較可能な試料は、類似の浸潤先端部試料である。
【0016】
対象脊椎動物が罹患する前腫瘍性/腫瘍性疾患の予後診断である典型的および好ましい方法であって、前記疾患は、通常はMN/CA IXタンパク質を発現するが発癌に際してMN/CA IX発現が消失または顕著に低下する組織を冒すものであり、該方法は:
(a)前記脊椎動物から採取した前腫瘍性/腫瘍性組織を含む試料中のMN/CA9遺伝子発現産物を検出し、該検出は試料中のMN/CA IXタンパク質を検出するためのMN/CA IX特異的抗体を用いた免疫組織化学染色を含む;
(b)前記試料中の前記MN/CA9遺伝子発現産物のレベルを定量し、該定量は下記の工程を含む:
(b1)免疫反応性細胞の割合に下記の値を割り当てて、免疫反応性細胞の割合を判定する
免疫反応性細胞無しの場合には値0、
免疫反応性細胞が10%未満の場合には値1、
免疫反応性細胞が11%ないし50%の場合には値2、または
免疫反応性細胞が50%を超える場合には値3;
(b2)MN/CA IX免疫染色の強度に下記の値を割り当てて、免疫反応性細胞の免疫染色の強度を判定する
陰性対照と等しい染色には値0、
弱い染色には値1、
中等度の染色には値2、または
強い染色には値3;および
(b3)工程(b1)で求められる免疫反応性細胞の割合の値、および工程(b2)で求められる免疫染色の強度の値を加算して、免疫反応性スコアを得る;
(c)工程(b1)から(b3)での対象脊椎動物に由来する試料の免疫反応性スコアの判定と同様に、比較可能な試料の免疫反応性スコアを判定し、さらに前記比較可能な試料からの前記免疫反応性スコアを平均することを含めて、工程(b)で求められる免疫反応性スコアを対象脊椎動物と同一の前腫瘍性/腫瘍性疾患に罹患した脊椎動物から採取した比較可能な試料における平均免疫反応性スコアと比較し;さらに
(d)工程(b1)から(b3)で判定された試料の前記免疫反応性スコアが、工程(c)で求められる前記比較可能な試料の平均免疫反応性スコアを上回る場合、前記対象脊椎動物の予後診断がより不良であると判定する;工程を含み
ここで前記MN/CA IXタンパク質は下記より成る群から選択されるヌクレオチド配列によってコードされる:
(2)配列番号1のコード領域;
(2)配列番号1のコード領域の相補鎖と、42℃にて50%ホルムアミドのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列;および
(3)遺伝コードの縮重のために、配列番号1のコード領域または(2)のヌクレオチド配列とはコドン配列が異なるヌクレオチド配列。
【0017】
別の好ましい一実施形態では、本発明の方法に基づき、前記MN/CA9遺伝子発現産物検出工程(a)において使用が好ましいアッセイは、核酸ベースのアッセイであり、ここで前記MN/CA9遺伝子発現産物は、MN/CA IXタンパク質またはMN/CA IXポリペプチドをコードするmRNA、または、MN/CA IXタンパク質またはMN/CA IXポリペプチドをコードするmRNAと相補的なcDNAを含む。好ましくは、前記検出工程(a)は、PCR、RT−PCR、リアルタイムPCRによるか、または定量的リアルタイムRT−PCRによる。
【0018】
好ましくは、本発明の予後診断法にしたがってMN/CA9遺伝子発現産物について試験される前腫瘍性/腫瘍性疾患は、組織の細胞の40%以上が、前記前腫瘍性/腫瘍性疾患に冒されていない場合にMN/CA IXタンパク質を発現する組織が罹患する疾患である。好ましくは対象脊椎動物が罹患する前記前腫瘍性/腫瘍性疾患は、粘膜、胆のう、胆管、十二指腸腺の管細胞、精巣輸出管および精巣網を含む精巣、表層体腔上皮および卵巣網を含む卵巣、毛包の基底細胞、および中枢神経系脈絡叢の前腫瘍性/腫瘍性疾患より成る群から選択される。より好ましくは、前記前腫瘍性/腫瘍性疾患は、胃粘膜、胆のう、胆管、および十二指腸腺の管細胞の前腫瘍性/腫瘍性疾患より成る群から選択される。好ましくは、前記脊椎動物は哺乳類、より好ましくはヒトである。さらにより好ましくは、脊椎動物はヒト患者であり、および前記前腫瘍性/腫瘍性疾患は、胃粘膜、胆のう、胆管および十二指腸腺の管細胞の腫瘍性疾患より成る群から選択される。非常に好ましくは、前記腫瘍性疾患は胃癌であり、および前記試料は前記胃癌の浸潤先端部から採取される。好ましくは、前記腫瘍性疾患は腫瘍であり、および前記試料は、前記腫瘍から、および/または前記腫瘍に由来する転移性病変から採取される。
【0019】
本発明に記載の好ましい予後診断法は、より不良な予後が、生存時間の短縮、前記前腫瘍性/腫瘍性疾患の再発のリスク増大、または、治療への反応の低下または不応性について測定されるものである。さらに好ましい方法は、前記疾患が腫瘍性であり、および、一つの腫瘍、または一つの腫瘍およびその腫瘍に由来する一つ以上の転移性病変を含み、および、より不良な予後が、その腫瘍またはその腫瘍および前記一つ以上の転移性病変の外科的除去後の、生存時間の短縮、前記腫瘍性疾患の再発のリスク増大、または、治療への反応の低下または不応性について測定されるものである。好ましくは、前記予後診断法は、前記脊椎動物が罹患する前記前腫瘍性/腫瘍性疾患のための治療の選択における補助として用いられる。典型的な治療は、化学療法、放射線、および/または外科手術を含む。
【0020】
別の一態様では、本発明は対象脊椎動物が罹患する前腫瘍性/腫瘍性疾患の予後診断の方法に関し、ここで前記疾患は、細胞の40%以上が通常はMN/CA IXタンパク質を発現するが発癌に際してMN/CA IXが消失するかまたはMN/CA IXを顕著に低下したレベルで発現する組織を冒すものであり、該方法は:
(a)前記前腫瘍性/腫瘍性疾患の浸潤先端部から組織試料を採取し;
(b)前記浸潤先端部試料において、MN/CA9遺伝子発現産物が、存在しないかまたは、前記組織が前記疾患に冒されていない場合に前記組織中で通常発現される前記MN/CA9遺伝子発現産物のレベルよりも顕著に低下したレベルであるかどうかを検出し;
(c) 前記MN/CA9遺伝子発現産物が前記浸潤先端部試料中に存在しないかまたは顕著に低下したレベルである場合ではないときに、前記浸潤先端部試料中に前記MN/CA9遺伝子発現産物が存在しないかまたは顕著に低下したレベルである場合よりも対象脊椎動物は予後が悪いと結論付ける;工程を含む。
【0021】
本明細書で開示される本発明の態様は下記により詳細に記載される。
【参考文献】
【0022】
略語
下記の略語が本明細書で用いられる:
aa− アミノ酸
ATCC− American Type Culture Collection (アメリカンタイプカルチャーコレクション)
AZA− アザデオキシシチジン
bp− 塩基対
BRL− Bethesda Research Laboratories
CA− 炭酸脱水酵素
℃− 摂氏
CDR− 相補性決定領域
DMEM− ダルベッコ改変イーグル培地
DMSO− ジメチルスルホキシド
ds− 二本鎖
DTT− ジチオスレイトール
EDTA− エチレンジアミン四酢酸
FCS− ウシ胎児血清
FITC− フルオレセインイソチオシアネート
HRP− ホースラディッシュペルオキシダーゼ
IC− 細胞内
IRS− 免疫反応性スコア
kb− キロ塩基
kbp− キロ塩基対
kdまたはkDa−キロダルトン
LTR− 長い末端反復
M− モル濃度
MAb− モノクローナル抗体
ME− メルカプトエタノール
min.− 分
mg− ミリグラム
ml− ミリリットル
mM− ミリモル濃度
MMLV− Moloneyマウス白血病ウイルス
mmol− ミリモル
N− 非腫瘍性胃粘膜
ng− ナノグラム
nm− ナノメートル
nM− ナノモル濃度
nt− ヌクレオチド
ORF− オープンリーディングフレーム
PCR− ポリメラーゼ連鎖反応
PG− プロテオグリカン
pI− 等電点
pmol− ピコモル
RCC− 腎細胞癌
RNP− RNアーゼ保護アッセイ
RT−PCR−逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
SDS− ドデシル硫酸ナトリウム
SP− シグナルペプチド
SSP− 標準生理食塩水リン酸エチレンジアミン四酢酸
T− 胃腫瘍
TM− 膜貫通
Tris− トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン
U− 単位
μg− マイクログラム
μl− マイクロリットル
μM− マイクロモル濃度
細胞株
AGS−ヒト胃癌細胞株;胃腺癌[American Type Culture Collection (ATCC), Rockville, MD]
HeLa細胞−ヒト子宮頸癌細胞株;上皮腺癌[American Type Culture Collection (ATCC), Rockville, MD]
MKN45−ヒト胃癌細胞株;低分化型腺癌[Riken Cell Bank, Tsukuba, Japan]
MKN28−ヒト胃癌細胞株;中等度分化型管状腺癌[Riken Cell Bank, Tsukuba, Japan]
N87−ヒト胃癌細胞株;胃癌由来、1976年A.Gazdarによって肝転移部から[American Type Culture Collection (ATCC), Rockville, MD]
ヌクレオチドおよびアミノ酸配列記号
下記の記号はここでヌクレオチドを表すのに用いられる:
塩基
記号 意味
A アデニン
C シトシン
G グアニン
T チミン
U ウラシル
I イノシン
M AまたはC
R AまたはG
W AまたはT/U
S CまたはG
Y CまたはT/U
K GまたはT/U
V AまたはCまたはG
H AまたはCまたはT/U
D AまたはGまたはT/U
B CまたはGまたはT/U
N/X AまたはCまたはGまたはT/U
【0023】
主要なアミノ酸は二十種類あり、そのそれぞれが、三個の隣接するヌクレオチドの異なる配列(トリプレットコードすなわちコドン)によって特定され、またアミノ酸は特定の順序で互いに結合して特徴的なタンパク質を形成する。三文字または一文字の慣習を用いてここではたとえば図1のように下記の通り前記アミノ酸を特定する:
アミノ酸名 三文字略号 一文字略号
アラニン Ala A
アルギニン Arg R
アスパラギン Asn N
アスパラギン酸 Asp D
システイン Cys C
グルタミン酸 Glu E
グルタミン Gln Q
グリシン Gly G
ヒスチジン His H
イソロイシン Ile I
ロイシン Leu L
リジン Lys K
メチオニン Met M
フェニルアラニン Phe F
プロリン Pro P
セリン Ser S
スレオニン Thr T
トリプトファン Trp W
チロシン Tyr Y
バリン Val V
不明またはその他 X
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の新規な方法は、癌に関連するCA9遺伝子の遺伝子発現産物が、通常はMN/CA IXタンパク質を発現するが発癌に際してMN/CA IX発現が消失するかまたは顕著に低下する組織を冒す前腫瘍性/腫瘍性疾患に罹患した脊椎動物の生存に関連することを実証する。そのような前腫瘍性/腫瘍性疾患の典型は、胃粘膜、胆のう、胆管、十二指腸腺の管細胞、精巣輸出管および精巣網を含む精巣、表層体腔上皮および卵巣網を含む卵巣、毛包の基底細胞、または中枢神経系脈絡叢の前腫瘍性/腫瘍性疾患である。特に、CA9遺伝子発現産物のレベルは、臨床転帰を予測するため、およびアジュバント療法を必要とする高リスク患者を特定するために用いることができる。
【0025】
本発明は、CA IXタンパク質を通常発現する組織に関連する疾患、好ましくは、胃粘膜、胆のう、胆管、および十二指腸腺の管細胞の前腫瘍性/腫瘍性疾患の予後診断のための方法を提供する。その方法は、前腫瘍性/腫瘍性疾患を診断された患者から採取した試料中にもしあれば存在するMN/CA9遺伝子発現産物を定量することを含む;MN/CA9遺伝子発現産物は、CA IXタンパク質、CA IXポリペプチド、CA IXタンパク質またはポリペプチドをコードするmRNA、CA IXタンパク質またはポリペプチドをコードするmRNAに対応するcDNA、などであり得る。定量されたMN/CA9遺伝子発現産物レベルを、比較可能な患者から採取した比較可能な試料における平均レベルと比較し、さらに患者についてより良好なまたはより不良な予後と関連付ける。前記CA9遺伝子発現産物は、好ましくは患者から採取された試料中で定量されたCA IXタンパク質またはCA IXポリペプチドである。
【0026】
前腫瘍性/腫瘍性疾患についての予後診断指標としての癌遺伝子の遺伝子発現産物の使用は、当業者には従来法と考えられている。しかし、疾患が通常はCA IXタンパク質を発現するが発癌に際してCA IX発現が顕著に低下する組織を冒す前腫瘍性/腫瘍性疾患へのそのような方法の適用は新規である。CA IXタンパク質を通常発現しない組織(すなわち、大部分の組織型)を冒す、本発明の対象ではない多数の他のCA IX関連前腫瘍性/腫瘍性疾患についての予後診断の方法とは対照的に、本発明の方法は、CA IX遺伝子発現産物が、比較可能な罹患組織におけるCA9遺伝子発現産物レベルと比較した際に平均より高いレベルで発現している場合により不良な予後を示す。
【0027】
前腫瘍性/腫瘍性組織
好ましくは、前記前腫瘍性/腫瘍性組織は、前腫瘍性/腫瘍性疾患に冒されていない場合に組織の細胞の40%以上がCA IXタンパク質を発現する組織である。たとえばモノクローナル抗体M75および典型的な対応する腫瘍性組織を用いた免疫組織化学染色によって特定された、CA IXタンパク質をそのようなレベルで発現している典型的な正常ヒト組織は、以前に詳細に記載されている[45,49]。胃腸管では、散在性のCA IX免疫反応性が、胃粘膜、十二指腸腺の管細胞、および十二指腸、空腸の陰窩細胞、およびより小さい程度で回腸終端部および虫垂に観察されている。高レベルのCA IX発現は、毛包の漏斗および髄質の内部およびその近傍の基底細胞、中皮細胞、および体腔の体腔上皮に一貫して観察されている。内臓では、上皮における高レベルのCA IX発現が確認されているが、卵巣網、精巣網、精巣輸出管、胆管、および胆のうに限られる。末梢および中枢神経系では、CA IX発現は心室の被覆細胞および脈絡叢に限られる。
【0028】
本発明の方法によると、本発明の対象である前腫瘍性/腫瘍性組織は、CA IXタンパク質を通常発現するだけでなく、発癌に際してCA IXタンパク質発現が消失するかまたは著しく低下する、胃および胆のう組織といった組織である[16,45,54]。
【0029】
ここでは、「癌性」および「腫瘍性」は等しい意味を有し、および「前癌性」および「前腫瘍性」は等しい意味を有する。
【0030】
腸上皮化生は、「特に胃における、腸のものに類似しているが通常は絨毛を欠く腺粘膜への粘膜の変化」と定義される[Stedman's Medical Dictionary, 26th Edition (Williams &;Wilkins ; Baltimore, MD, USA; 1995)。 ]。
大腸は、「消化管の回盲弁から肛門までの範囲の部分;盲腸、結腸、直腸、および肛門管を含む。同義語:intestinum crassum.」と定義される[同上]。
【0031】
結腸は「大腸の盲腸から直腸までの部分」である[同上]。
【0032】
十二指腸腺は「十二指腸の前方1/3の粘膜下に主に存在する小さい分岐したコイル状の管状腺;胃液を中和する役割を果たすアルカリ性の粘液物質を分泌する。同義語:glandulae duodenales、ブルンナー腺、ヴェプファ腺」[同上]。
【0033】
本発明の好ましい一実施形態では、MN/CA9遺伝子発現産物はCA IX抗原であり、およびCA IX抗原は、前腫瘍性/腫瘍性脊椎動物試料、好ましくは哺乳類試料、より好ましくはヒト試料において定量される。そのような前腫瘍性/腫瘍性試料は、試料の中でも特に、組織標本、組織抽出物、細胞、細胞溶解物および細胞抽出物であり得る。好ましい組織試料は、ホルマリン固定、パラフィン包埋組織試料または凍結組織試料である。好ましい一実施形態では、疾患は胃癌であり、および試料は胃癌の浸潤先端部から採取される。
【0034】
さまざまな他の前腫瘍性/腫瘍性試料を用いてCA IX遺伝子発現産物を定量できることは当業者に理解され得る。たとえば、疾患が腫瘍である腫瘍性疾患の患者の場合、試料は腫瘍から、または腫瘍に由来する転移性病変から採取され得る。
【0035】
本明細書で開示されるものに加えて、CA9遺伝子発現産物を定量するために別の方法を用い得ることがさらに理解される。好ましい実施形態では、遺伝子発現産物は、免疫組織化学染色によって(たとえば、組織アレイなどを用いて)検出および定量されるCA IX抗原である。免疫組織化学染色によってアッセイするために好ましい組織標本は、たとえば、組織試料の中でも特に、細胞塗沫、生検組織または臓器からの組織切片、およびインプリント標本を含む。典型的な免疫組織化学染色手順が、下記の材料および方法の項に記載される。そのような組織標本はさまざまに保存することができ、たとえば、標本は新鮮、凍結、またはホルマリン、アルコールまたはアセトンまたは他の方法で固定および/またはパラフィン包埋および脱パラフィンされ得る。生検組織試料は、他の生検方法の中でも特に、たとえば、吸引、バイト、ブラシ、コーン、絨毛膜絨毛、内視鏡、切除、切開、針、経皮穿孔、および表面生検によって採取された試料であり得る。
【0036】
アッセイ
MNタンパク質/ポリペプチドおよび/またはMN核酸を用いるアッセイは、ここに記載の方法の通り、診断および/または予防診断の両方になることができ、すなわち、診断的/予後診断的である。「診断的/予後診断的」の語はここでは、臨床的背景に応じて下記の過程を個別にまたは累積的に包含すると定義される:疾患の存在を判定、疾患の性質を判定、ある疾患を別の疾患と識別、可能な疾患状態の転帰に関して予測、症例の性質および徴候によって示される疾患からの回復の見込みを判定、患者の疾患状態を監視、疾患の再発について患者を監視、および/または患者についての好ましい治療計画を決定。本発明の診断的/予後診断的方法は、たとえば、腫瘍性または前腫瘍性疾患の存在について集団をスクリーニング、腫瘍性疾患を生じるリスクの判定、腫瘍性および/または前腫瘍性疾患の存在を診断、腫瘍性疾患の患者の疾患状態を監視、および/または腫瘍性疾患の経過について予後診断を決定するために有用である。
【0037】
本発明のスクリーニング方法は、ここに示す通り、さまざまな前腫瘍性/腫瘍性疾患をスクリーニングするのに有用である。本発明の予後診断法の対象である疾患がまず、たとえば、胃癌と診断されるのと同時に、MN遺伝子発現産物のレベルがまた予後情報を提供し得ることが想像できる。たとえば、胃癌は同時に診断および予後診断され得る;胃組織試料の大半でのMN遺伝子発現産物の減少または消失は診断的である一方、浸潤先端部での顕著なMN遺伝子発現産物の存在は予後診断的である。そのような胃癌に隣接する非腫瘍性上皮におけるMN発現の正常レベルが維持される。
【0038】
本発明のアッセイはまた、外科手術、癌化学療法および/または放射線療法後の、すべての腫瘍組織の非存在または除去を確認するために用いることができる。さらに、癌化学療法および腫瘍再発を監視するために用いることができる。
【0039】
本発明の方法との使用のために多数の様式を適用できる。CA IXタンパク質またはCA9ポリペプチドの検出および定量は、本分野で一般に公知の他のアッセイの中でも特に、たとえば、ウェスタンブロット、酵素結合免疫吸着アッセイ、ラジオイムノアッセイ、競合イムノアッセイ、二抗体サンドイッチアッセイ、免疫組織化学染色アッセイ、凝集アッセイ、蛍光イムノアッセイ、サイトフルオロメトリー、免疫金を用いる免疫電子および走査顕微鏡法によって実施し得る。そのようなアッセイでのCA9遺伝子発現産物の定量は、本分野で公知である従来の方法に適合させ得る;たとえば、検出方法が免疫組織化学染色による場合は、CA IXタンパク質またはCA IXポリペプチドの定量は、免疫反応性細胞の割合および/または免疫反応性細胞の免疫染色の強度を測定することによって実施でき、および加えてこれらの値の加算または乗算、またはこれらの値を用いる他の数学的計算を含み得る。
【0040】
CA IXタンパク質またはポリペプチドを用いて、患者の体組織および/または細胞中のCA IX抗原を検出および定量できることは、イムノアッセイの当業者にはまた明らかである。そのような一実施形態では、CA IXタンパク質に対して作製された標識化抗体を使用する免疫測定アッセイを用いることができる。そのようなアッセイでは、抗原結合抗体と複合体化する標識化抗体の量は、試料中のCA IX抗原の量と正比例する。
【0041】
典型的な免疫組織化学アッセイ
MN/CA IXの分布および発現パターンを、実施例1に記載の免疫組織化学によって調べた。組織切片をMN/CA IX特異的モノクローナル抗体M75で染色した。典型的な免疫組織化学染色結果は、MN/CA IXを非腫瘍性胃粘膜、腸上皮化生に、および顕著により低頻度で胃癌に示す。MN/CA IX免疫染色の欠如が、中等度(G2)に分化した腸型の胃癌に、およびびまん型の胃癌に見出された一方、近傍の非腫瘍性上皮細胞は強い免疫染色を示した。しばしば免疫染色は不均一であることが見出された。たとえば、低分化(G3)腸型胃癌は、胃粘膜中の腫瘍細胞の免疫染色が見られなかったが、筋層に浸潤している腫瘍細胞の部分集合に強い染色が見られた。
【0042】
実施例3に記載される免疫組織化学分析は、さらに重要な観察を明らかにした。免疫反応性スコアを適用後、2つの群のCA IX発現パターンが胃癌で識別された。豊富なCA IXを発現している癌は低レベルのCA IX発現または全く発現無しの腫瘍と比較してより短い術後生存を示した。CA IX発現と不良な予後診断との同様の関連が近年、非小細胞肺癌でも報告されている[12];しかし、胃癌とは異なり、正常肺組織は感知可能なレベルでCA IXを発現しない。CA IX発現を保持した胃癌の免疫組織化学切片のさらなる分析で、CA IX発現は浸潤先端部に位置した癌細胞で主に観察され、CA IX発現の消失は胃癌では高頻度の現象である一方でCA IX発現を保持する胃腫瘍は浸潤性の増大を示し、このことがその不良な予後診断に寄与し得ることを示した[31]。本発明に至る際に行われたin vivo観察は、実施例4に記載のAGS胃癌細胞におけるCA IX過剰発現のin vitro分析によって支持される。そのような胃癌細胞におけるCA9 cDNAのトランスフェクションに際して、トランスフェクションされた細胞の細胞増殖および浸潤性増殖は顕著に促進された。このように、胃癌におけるCA IXの過剰発現はまた、細胞増殖および浸潤の増大を伴い、より不良な予後診断を示す、胃癌の浸潤先端部でのCA IX発現の知見を支持する。
【0043】
CA IXの過剰発現はさまざまな癌で報告されている一方、その発現は大部分の胃癌では低いかまたは失われてさえいる[15、16]。対象予後診断法の発明者らによる分析は、CA IX発現が患者57名中26名において癌細胞中で失われた一方、CA IXの正常胃発現は胃小窩上皮細胞および胃底腺および腔腺に保持されたことを示した。Pastorekovaらによる以前の研究は、限られた数の標本におけるCA IXの発現を評価し、およびまた、試験した胃癌におけるCA IX発現の低下を報告した[15]。CA IXの発現の消失は、胃発癌中の脱分化を含む腫瘍性変化の結果と解釈され得る一方、近年の研究は、実際にこの消失は単なる随伴現象ではなく胃発癌の過程の基礎となる決定的変化であることを示す。その仮説は、CA IX欠損マウスの作製によって支持され、そのマウスではCA IX遺伝子の不活性化が胃過形成の発生に繋がり、これは、細胞増殖の増大を伴う[17]。CA IX発現の消失を胃癌の約半分で実証した、対象予後診断法の発明者らによる研究と合わせて、CA IX欠損マウスでの研究は、CA IXは細胞増殖および胃粘膜の増殖もまた調節する決定的に重要な分化因子として作用し得ることを示す。実際に、本明細書でウェスタンブロットおよびPCR分析で開示する通りのCA IX発現の消失は、CA IX発現が胃癌の発生に決定的に重要であるという仮説を支持する可能性があり、および、胃発癌における初期現象であり得る。
【0044】
核酸ベースのアッセイ
本発明の一部の実施形態では、胃癌といった前腫瘍性/腫瘍性疾患の患者から採取した試料において、CA IXタンパク質またはCA IXポリペプチドをコードするmRNA、またはそのmRNAと相補的なcDNAを検出および定量し、比較可能な試料中のMN/CA9 mRNAレベルの平均と比較し、およびそれによって患者についての予後診断と相関させる。MN/CA9 mRNAまたはMN/CA9cDNAの発現が測定される場合は、平均を上回るCA9 mRNAまたは平均を上回るCA9cDNA発現はより不良な予後診断の指標である。CA9特異的mRNA発現のレベルの変化を測定するための一つの好ましい方法はノーザンブロッティングであり、ここでMN/CA9特異的mRNA発現を検出するためのプローブとして用いられる核酸配列は図1に示すMN/CA9cDNA配列の全部または一部と相補的である;RNAの調製物を変性アガロースゲルに流し、および活性化セルロース、ニトロセルロースまたはガラスまたはナイロン膜といった適当な担体に転写する。放射性標識化cDNAまたはRNAを次いで調製物とハイブリダイズさせ、洗浄し、およびオートラジオグラフィーによって分析する。試料は、試料の組織学的蘇生を示すためにヘマトキシリンで染色でき、および発色したエマルジョンを、適当な光フィルターを用いた暗視野法によって照明する。ジゴキシゲニンといった非放射性標識もまた用いることができる
CA9特異的mRNA発現を測定するための別の好ましい方法は、MN/CA9cDNA配列由来の核酸プローブの、生物試料から単離されたRNAから作製されたRT−PCR産物とのハイブリダイゼーションによる、CA9 mRNA発現の検出である。
【0045】
典型的なウェスタンブロットおよびPCRアッセイ
加えて、方法を組み合わせて用いることができる;たとえば、CA9 mRNAおよびCA IXタンパク質発現は、リアルタイム定量的PCRによっておよび/またはウェスタンブロッティングによって、たとえば胃癌の患者に由来する腫瘍試料および相当する非腫瘍性胃粘膜の対応試料において評価できる。実施例2に記載の通り、ウェスタンブロット分析およびリアルタイム定量的PCRを同一の患者において実施した5例すべてで、CA IXタンパク質レベルは胃癌では対応する非腫瘍性粘膜と比較して有意に低下し、およびCA9 mRNAレベル低下と関連した(図4)。
【0046】
MN遺伝子およびタンパク質
「MN/CA IX」および「MN/CA9」の語はここでは、MNの同義語と考えられる。また、G250抗原はMNタンパク質/ポリペプチドをいうと考えられる[35]。
【0047】
国際公開第93/18152号パンフレットおよび/または国際公開第95/34650号パンフレット(Zavada et al.,)は、本明細書で図1A〜1Cに示されるMNcDNA配列[配列番号1]、[配列番号2]同じく図1A〜1Cに示されるMNアミノ酸配列、および本明細書で図2A〜2Fに示されるMNゲノム配列[配列番号3]を開示する。MN遺伝子は11個のエクソンおよび10個のイントロンで構成されている。
【0048】
図1に示されるMNcDNAのORFは、計算分子量49.7kdの459アミノ酸タンパク質のコード容量を有する。MN/CA IXタンパク質の総アミノ酸組成はかなり酸性であり、およびpI4.3であることが予測される。CGL3細胞由来の天然MN/CA IXタンパク質の、二次元電気泳動に次いでイムノブロッティングによる分析は、コンピューター予測に合致して、MN/CA IXは4.7〜6.3の範囲のpIを有するいくつかの等電型で存在する酸性タンパク質であることを示している。
【0049】
図1A〜1Cに示すMNタンパク質の最初の37個のアミノ酸は、推定されるMNシグナルペプチド[配列番号6]である。MNタンパク質は細胞外ドメイン[図1A〜1Cのアミノ酸(aa)38〜414[配列番号7]、膜貫通ドメイン[aa415〜434;配列番号8]および細胞内ドメイン[aa435〜459;配列番号9]を有する。細胞外ドメインは、プロテオグリカン様ドメイン[aa53〜111;配列番号4]および炭酸脱水酵素(CA)ドメイン[aa135〜391;配列番号5]を含む。
【0050】
CAドメインは付着非依存性の誘導に必須である一方、TMアンカーおよびIC尾部はその生物学的作用には可欠である。MNタンパク質はまた、トランスフェクションされた細胞において原形質膜ラフリングを引き起こすことができ、およびその細胞の固相担体への付着に関与するように見える。データは、細胞増殖、接着および細胞間情報伝達の調節へのMNの関与を明示する。
【0051】
MNタンパク質およびポリペプチド
「MNタンパク質および/またはポリペプチド」(MNタンパク質/ポリペプチド)の語句は、ここではMN遺伝子またはその断片によってコードされるタンパク質および/またはポリペプチドを意味すると定義される。本発明に記載の典型的なおよび好ましいMNタンパク質は、図1に示す推定アミノ酸配列を有する。好ましいMNタンパク質/ポリペプチドは、図1に示すMNタンパク質と実質的な相同性を有するタンパク質および/またはポリペプチドである。たとえば、そのような実質的に相同なMNタンパク質/ポリペプチドは、MN特異的抗体、好ましくはMabM75またはその同等物と反応するものである。M75Mabを分泌するVU−M75ハイブリドーマはHB11128の名称で1992年9月17日に寄託された。
【0052】
「ポリペプチド」または「ペプチド」は、ペプチド結合によって共有結合で結合したアミノ酸の鎖であり、およびここでは50個以下のアミノ酸から成るとされる。「タンパク質」はここでは、50個より多いアミノ酸から成るポリペプチドと定義される。ポリペプチドという語は、ペプチドおよびオリゴペプチドの語を包含する。
【0053】
腫瘍性細胞によってin vivoで産生されたタンパク質またはポリペプチドは、細胞培養中の腫瘍細胞、または形質転換細胞によって産生されたものとは配列が異なる可能性があることを理解することができる。したがって、アミノ酸置換、伸長、欠失、短縮、およびその組み合わせを制限無く含む、変化したアミノ酸配列を有するMNタンパク質および/またはポリペプチドは、本発明の範囲に含まれる。体液中に現存するタンパク質は、タンパク質分解過程といった分解過程の対象となることもまた理解され得る;したがって、相当に短縮されたMNタンパク質およびMNポリペプチドが、たとえば血清といった体液中に見出され得る。「MN抗原」の語句は、ここではMNタンパク質および/またはポリペプチドを包含するように用いられる。
【0054】
さらに、MNタンパク質およびポリペプチドのアミノ酸配列は遺伝子技術によって改変することができることが理解される。一種類以上のアミノ酸を欠失または置換させることができる。そのようなアミノ酸変化はタンパク質またはポリペプチドの生物学的活性に測定可能な変化を何ら生じない可能性があり、および結果として本発明の範囲内のタンパク質またはポリペプチド、およびMN突然変異タンパク質を生じ得る。
【0055】
核酸プローブ
本発明の核酸プローブは、図1に示されるMNcDNA配列と、または図2A〜Fの完全ゲノム配列[配列番号3]といった他のMN遺伝子配列と、相補的または実質的に相補的である配列を含むものである。「実質的に相補的」の語句は、本分野でよく理解されている通りの意味を有するとここでは定義され、および、したがって、標準的なハイブリダイゼーション条件との関連で用いられる。ハイブリダイゼーション条件の厳密性は、相補性の精度を調節するために調整できる。2つの核酸は、たとえば、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で互いにハイブリダイズするならば互いに実質的に相補的である。
【0056】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件はここでは、本分野で厳密であると理解される標準的なハイブリダイゼーション条件に適合すると考えられる。たとえば、ストリンジェントな条件は、0.02M〜0.15MNaCl、温度50℃〜70℃によって与えられるような相対的に低塩および/または高温条件、たとえば塩濃度0.15M〜0.9M、温度範囲20℃〜55℃、を包含すると一般的に理解される。厳密性がより低い条件は、42℃にて50%ホルムアミド存在下0.15M〜0.9MNaCl、最終洗浄65℃にて0.1%SSPEおよび0.1%SDS、といった典型的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件によって与えられるように、高温のようにハイブリッド二重らせんを不安定化する役割を果たす、より多量のホルムアルデヒドを添加することによって、より厳密にすることができる。
【0057】
さらに典型的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, pages 1.91 and 9.47-9. 51 (Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press; Cold Spring Harbor, N. Y.; 1989); Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, pages 387-389 (Cold Spring Harbor Laboratory; Cold Spring Harbor, N. Y.; 1982); Tsuchiya et al., Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Patholog 71-725 (June 1991);および米国特許第5,989,838号明細書,米国特許第5,972,353号明細書,米国特許第5,981,711号明細書,および米国特許第6,051,226号明細書に記載されている。
【0058】
少なくとも80〜90%のホモロジーを有するごく近い関係にある核酸配列だけが、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。
【0059】
抗体
「抗体」の語は、ここでは抗体全体だけでなく抗体の生物学的に活性である断片、好ましくは抗原結合領域を含む断片も含むと定義される。抗体の定義にさらに含まれるのは、MNタンパク質ともう一つの別の組織特異的抗原とに特異的な、二重特異性抗体である。ヒト化抗体および完全なヒト抗体はここでの「抗体」の定義に該当する。
【0060】
本発明の方法に記載の有用な抗体は、従来の方法論によって、および/または遺伝子工学によって作製し得る。抗体断片は、好ましくは超可変領域を含む軽鎖および/または重鎖(VHおよびVL)の可変領域から、およびさらにより好ましくはVHおよびVL領域の両方から遺伝子組み換えすることができる。たとえば、「抗体」の語はここでは、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体ならびにその生物学的に活性である断片を包含し、他の可能性の中でも特に、「一価」抗体[46];共有結合的にまたは非共有結合的に凝集していても、Fab'およびF(ab')2断片を含むFabタンパク質;軽鎖または重鎖単独、好ましくは重鎖および軽鎖の可変領域(VHおよびVL領域)、およびより好ましくは超可変領域[VHおよびVL領域の相補性決定領域(CDR)ともいう]を含む;Fcタンパク質;一種類より多い抗原に結合する能力のある「ハイブリッド」抗体;定常−可変領域キメラ;異なる起源の重鎖と軽鎖を有する「複合」免疫グロブリン;標準的組み換え技術によって、またはオリゴヌクレオチド指向性突然変異誘発技術によって調製された、特異性およびその他の特性が改良された「改変」抗体[47]を含む。
CA IXタンパク質/ポリペプチドを検出するのに有用な本発明に記載のモノクローナル抗体は、標識の中でも、たとえば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)のような酵素、蛍光化合物、または、125Iのような放射性同位体を用いて、任意の従来の方法で標識することができる。本発明に記載の好ましい標識は125Iであり、および抗体を標識化する好ましい方法は、クロラミン−Tを用いることによる[48]。
本発明に記載の有用な代表的なモノクローナル抗体は、Zavadaらの特許および特許出願に以前に記載されたMabM75、MN9、MN12、MN7およびV/10を含む[米国特許第6,297,041号;米国特許第6,204,370号;米国特許第6,093,548号;米国特許第6,051,226号;米国特許第6,004,535号;米国特許第5,989,838号;米国特許第5,981,711号;米国特許第5,972,353号;米国特許第5,955,075号;米国特許第5,387,676号;米国特許出願公開20030049828号および第20020137910号明細書;および国際公開第03/100029号パンフレット]。本発明に記載の有用なモノクローナル抗体は、さまざまな予後診断臨床検査においてたとえば臨床試料中に、MNタンパク質/ポリペプチドを検出するために有用である。たとえば、モノクローナル抗体M75(MabM75)は、ATCC番号HB11128の名称で1992年9月17日にAmerican Tissue Type Culture Collection[ATCC]に寄託されたマウスリンパ球ハイブリドーマVU−M75によって産生される。ハイブリドーマVU−M75の作製は、Zavada et al., 国際公開第93/18152号パンフレットに記載されている。Mab M75は、非グリコシル化GST−CA IX融合タンパク質およびCGL3細胞で発現された未変性CA IXタンパク質の両方を同様に良好に認識する。M75Mabは、CA IXタンパク質の天然型および変性型の両方を認識する[56]。
抗体の作製を含む、ここで有用な他の生物学的手法を記載する一般的教科書は、Berger and Kimmel, Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, Inc., Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, (Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press; Cold Spring Harbor, N. Y.; 1989) Vol. 1-3; Current Protocols in Molecular Biology, F. M. Ausabel et al. [Eds. ], Current Protocols, a joint venture between Green Publishing Associates, Inc. and John Wiley & Sons, Inc. (supplemented through 2000), Harlow et al., Monoclonal Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1988), Paul [Ed. ]; Fundamental Immunoloav, Lippincott Williams &; Wilkins (1998), および Harlow et al., Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1998)を含む。
【0061】
材料および方法
対象 患者59名(女性20名、男性39名、年齢範囲41〜84歳)に由来する腫瘍性および対応する非腫瘍性パラフィン包埋組織標本は、Institute of Pathology of the University of Magdeburgの保管庫から、免疫組織化学分析のために回収した。Lauren分類[18]によると、27名の患者はびまん型、および32名は腸型胃癌に罹患していた。分子的分析のために、胃癌および対応する非病変組織を、胃癌患者18名(女性2名、男性16名、年齢範囲43〜82歳)から、外科手術の直後に採取した。組織試料は液体窒素中で急速凍結し、および−80℃にて保存し、および下記の通りさらに処理し、または組織学的処理のために10%中性化ホルマリン中で固定しおよびパラフィンに包埋した。本研究はUniversity of Magdeburg(ドイツ)の人権問題委員会によって承認された。
細胞株 胃癌細胞株MKN45、MKN28、AGS、N87およびHela細胞はRiken Cell Bank(Tsukuba, Japan)およびAmerican Type Culture Collection (ATCC, Rockville, MD)より入手した。AGSおよびHela細胞以外のすべての細胞は、10%ウシ胎児血清を含むRPMI培地(Gibco BRL, Rockville, MD, USA)中で維持した。AGS細胞株は10%ウシ胎児血清を含むF−12K培地中で維持し、およびHela細胞は10%ウシ胎児血清添加ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM, Gibco BRL, Rockville, MD, USA)中で培養した。
【0062】
一過性トランスフェクションアッセイ AGS胃癌細胞を2x105細胞/60mmシャーレの密度で播種した。細胞を24時間後に、ヒトCA9cDNA(1.5kb,Kpnl/Sacl部位)[3]を含むpSG5Cベクター(5pg)、または空pCMVβベクター(対照B)を用いてトランスフェクションし、またはTransfectam試薬単独(対照A)(Promega, Mannheim)と取扱説明書に従ってTransfectam試薬/DNAの最適容量/重量比2pl/pgDNAを用いてインキュベートした。タンパク質発現は24時間、48時間、および72時間後にウェスタンブロット分析によって確認された(記載せず)。
【0063】
細胞の5−アザ−dCを用いた処理 細胞を1x106細胞/60mmシャーレの密度で播種した。24時間後、細胞を5μMの5−アザ−dC(Sigma Chemical Co. , Deisenhofen, Germany)を用いて処理した。同一の濃度のDMSOもまた、細胞に対する非特異的な溶媒の作用について対照として用いた。総細胞タンパク質を、以前に記載された通り、5−アザ−dCの添加の3日後に単離した[19]。
【0064】
細胞増殖アッセイ AGS細胞を、10%ウシ胎児血清(Gibco Invitrogen)および50μg/mlリフォバシンを添加した培地中で増殖させた。親AGS細胞、pCMVβベクターをトランスフェクションされたAGS細胞、およびCA IXトランスフェクションされたAGS細胞を、30x104細胞/200μl/ウェルの密度で96ウェルプレートに播種した。37℃、5%(v/v)CO2にて50時間培養後、細胞を3H−メチル−チミジン(0.2uCi/ウェル)を用いてさらに8時間パルス標識し、およびグラスファイバー膜上へ採取した。組み込まれた放射能をシンチレーションカウントで測定した。各例でDNA合成は並行して6回評価しおよび1度繰り返し、結果として1細胞株につき計12回の実験を行った[20]。
【0065】
In vitro浸潤アッセイ AGS細胞の細胞浸潤を、以前に記載された通り、24ウェルTranswellチャンバー(Costar, Bodenheim, Germany)中で評価した[21]。上側および下側の培養室は孔径8μmのポリカーボネートフィルターで分けられた。浸潤アッセイの前に、ポリカーボネートフィルターを100ngのマトリゲル・マトリクスで被覆した。浸潤アッセイのために、ウェル当たり3x104細胞を再構成基底膜上で72時間インキュベートした。フィルターを通過しおよびマトリゲル被覆膜の下部に付着する細胞を、トリプシン/EDTAを用いて採取した;細胞数をCoulter Counter ZII(Coulter Immunotech, Marseille, France)で計測した。移動する細胞の数は、同一の培養条件下で72時間 24 ウェルプレートで増殖した対照から計算した。すべての実験は三連で実施した。
【0066】
CA9 mRNAレベルのリアルタイム定量分析 組織標本を、超音波ホモジナイザー(Ultra-Turrax T25 basic, IKA, Staufen, Germany)を用いてホモジナイズした。 総RNA (1μg)を、100UのMMLV逆転写酵素、RNアーゼH Minus点突然変異体(Promega, Mannheim, Germany)、16UのRNアーゼ阻害剤(Promega)、200pmolのランダムプライマー(Promega)および0.5mMのdNTP(Biomol Feinchemikalien, Hamburg, Germany)を含む、終容量20μlの逆転写緩衝液(50 mM Tris-HCl、pH 8.3、7 mM MgCl2および40mM KCl、および10 mM DTT)中で 37℃にて1時間逆転写した。要約すると、PCRプライマーはCA IX遺伝子の240 bpのcDNA断片(センス5'- AGGAGGATCTGCCCAGTGA-3'[配列番号10];アンチセンス5'- GCCAATGACTCTGGTCATC-3')[配列番号11]を増幅するように設計された。[4]。 CA IXの発現レベルは、以前に記載された通り、LightCycler法(Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, Germany)を用いることによって測定した[20]。
免疫組織化学法 脱パラフィン処理した連続切片を、免疫組織化学法のために3μmで切り出し、およびSuperfrost Plusスライドグラスに載せた。免疫染色を、CA IXに対するモノクローナル抗体M75を用いて実施した[15]。免疫染色については、切片をキシレン中で脱パラフィン処理し、およびアルコール系列中で再水和した。抗CA IX(1:10希釈)を加湿チャンバー内で37℃にて1時間投与し、次いでビオチニル化抗マウスIgG/抗ウサギIgG(1:200; Vector Laboratories;販売者Camon, Wiesbaden, Germany)およびABCアルカリホスファターゼ試薬と、各30分間室温でのインキュベートを実施した。工程の間に、切片をTris緩衝生理食塩水で洗浄した。免疫反応はアビジン ビオチン複合体法を用いて、Vectastain ABCアルカリホスファターゼ・キット(販売者Camon, Wiesbaden, Germany)を使用して視覚化した。ニューフクシンが色素原として作用した。すべての標本をヘマトキシリンで対比染色した。陰性対照には一次抗体を省いた。
【0067】
免疫組織化学結果の評価 腫瘍細胞および胃上皮において観察されたCA IXの発現を評価するために、2つの分類を用いた数値得点系を用いた。分類Aは免疫反応性細胞の数を0(免疫反応性細胞無し)、1(<10%)、2(11〜50%)、および3(>50%)と記録した。陽性例は分類A値1を有すると定義された。分類Bは免疫染色の強度を0(免疫染色無し)、1(弱い)、2(中等度の)、および3(強い)と記録した。最後に、分類AおよびBの値を加算して、「免疫反応性スコア」(IRS)を与え、この値は0〜6の範囲になり得る。IRSを計算するこの方法は、各カテゴリを合計してIRS1とはなることはない点に注意する。
【0068】
ウェスタンブロット分析 ヒト胃組織および細胞株を、1mM EDTA、50mMβ−グリセロリン酸、2mMオルトバナジン酸ナトリウム、1%Triton-100、10%グリセロール、1mM DTTおよびプロテアーゼ阻害剤(10mg/mlベンズアミジン、2mg/mlアンチパイン、および1mg/mlロイペプチン)を含む緩衝液中で溶解した。分離後、タンパク質をフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)膜(Bio-Rad)にエレクトロブロッティングした。膜を、以前に記載された通り、1:200抗CA IXM75抗体と1時間室温にてインキュベートした[20]。膜に結合した二次抗体を、増幅化学発光によって取扱説明書に従って検出した。負荷量を確実に等しくするため、ブロットを200mmol/Lグリシン、1%Tween-20、0.1%SDS、pH2.2中で2時間室温にて除去し、およびモノクローナル抗β−アクチン抗体(1:2000希釈;クローンAC−74;Sigma)を用いて再ハイブリダイズした[19]。
【0069】
統計解析 増殖/浸潤する細胞の数およびCA IXの発現を、スチューデントのtアッセイを用いて解析した。生存曲線をKaplan−Meier法を用いてプロットし、さらに生存時間の比較を、ログランクアッセイを用いて実施した。有意水準としてp値<0.05を取った。
【実施例】
【0070】
下記の実施例は単に説明を目的とし、および本発明をいかなる形でも限定しないことが意図される。
【0071】
実施例1
胃癌細胞におけるCA IX発現の局在化
CA IXの分布および発現パターンを免疫組織化学法によって調べた。組織 切片は抗CA IX 抗体 M75を用いて染色した。CA IX は、非腫瘍性 胃粘膜, 腸上皮化生に、および顕著により低頻度で胃癌に見出された。しばしば免疫染色 は不均一であった: たとえば、低分化(G3)腸型胃癌 は、粘膜中の腫瘍細胞の免疫染色を示さず、および筋層に浸潤している腫瘍細胞の部分集合に強い染色を示した(ヘマトキシリン対比染色)。
全体として、CA IXは試験したすべての患者の非腫瘍性胃粘膜に見出された。CA IXは小窩上皮細胞、胃底腺および腔腺に限られた。腸上皮化生が患者15名(26.3%)に観察され、およびCA IXは患者10名(66.7%)で腸上皮化生の刷毛縁に発現されていた。CA IXは胃癌細胞of患者31名(54.0%)の胃癌細胞に発現されていた。胃癌の腸型とびまん型との間に差は見出されなかった。CA IXは、びまん型胃癌の患者14名(51.9%)、中等度(G2)に分化した腸型胃癌の患者12名(57.1%)、および低分化腸型胃癌の患者5名(55.6%)の腫瘍細胞に存在した。CA IXについて平均総免疫反応性スコアは、胃癌で1.95±1.98と比較して、小窩上皮で5.66±0.78と計算された(p<0.001)。ここでも、胃癌の腸型とびまん型との間に差は見出されなかった。表1はCA IXについて総免疫反応性スコアを要約する。
【表1】
【0072】
実施例2
胃癌におけるCA IX発現の定量的分析
CA9 mRNAおよびCA IXタンパク質発現を次いでリアルタイム定量PCRおよびウェスタンブロッティングによって評価した。腫瘍試料は胃癌の患者18名から採取し、および対応する非腫瘍性胃粘膜もまたそれらの患者から入手可能であった。癌組織および非癌組織におけるCA9 mRNAレベルを患者10名において評価し、一方、ウェスタンブロット分析を12例において実施した。5例で、ウェスタンブロット分析およびリアルタイム定量PCRの両方を同一の患者において実施し、胃癌および非腫瘍性胃粘膜におけるCA IXタンパク質およびCA9 mRNAの発現レベルの直接比較を可能にした。全体として、CA IXタンパク質およびCA9 mRNAのレベルは、対応する非腫瘍性粘膜と比較して胃癌で有意に低下した(p=0.04)。CA IXタンパク質およびCA9 mRNAレベルの両方を評価した5例の直接比較は、全例でタンパク質レベルの低下がCA9 mRNAレベルの低下を伴ったことを明らかにした(図4)。
【0073】
実施例3
胃癌におけるCA IX発現の予後診断的意義
胃癌切除を受けている胃癌患者23名から生存データを入手した。上記で概説した通りの免疫組織化学スコアに従って、2つの群の患者が、低CA IX発現(IRS≦3)の群Aに対して、癌細胞におけるCA IX発現が高い(IRS>3)群Bとして分類された。高CA IX発現の患者について術後生存時間は、CA IX発現が無いかまたは低い患者におけるよりも有意に短かった(p=0.0281)(図5)。興味深いことに、CA IXの発現は筋層の浸潤部位で非常に顕著であり、胃癌におけるCA IX発現の全体的な消失にもかかわらず、浸潤先端部でのCA IX発現の維持または再発現がCA IX発現を有する患者における全体的な不良な生存率に寄与し得ることを示した。
【0074】
実施例4
CA IXトランスフェクションはAGS細胞の浸潤および増殖を誘導する
CA9 mRNAおよびCA IXタンパク質レベルを、AGS、N87およびMKN28胃癌細胞において、リアルタイムPCRおよびウェスタンブロッティングによって調べた。HeLa細胞を陽性対照として用いた。CA9 mRNAおよびCA IXタンパク質はN87およびMKN28細胞に見出されたが、ただしHeLa細胞と比較して顕著に低レベルであった(図4)。CA9 mRNAおよびCA IXタンパク質はAGS細胞では検出不能であり、AGS細胞を次いでCA IX発現に伴う生物学的変化を評価するために、CA9cDNAのトランスフェクション用に選択した。AGS細胞を、完全長CA9cDNA、空発現ベクター(対照B)を用いてトランスフェクションし、またはtransfectam試薬のみを用いてDNA導入を伴わずに処理した(対照A)。トランスフェクションされた細胞におけるCA IXの発現はウェスタンブロッティングによって確認された(記載せず)。トランスフェクションされたAGS細胞の浸潤能力を、24ウェルTranswellチャンバーを用いて評価した。AGS細胞におけるCA IXの発現は、対照、すなわち親AGS細胞のtransfectamだけとのインキュベート、または空ベクターをトランスフェクションされたAGS細胞(対照AおよびB)と比較して移動性細胞の有意な増加を結果として生じた(図6)。さらに、トランスフェクションされたAGS細胞は、2つの対照群と比較して、細胞増殖の有意な増加を示した(図6)。
【0075】
実施例5
メチル化の阻害による胃癌細胞におけるCA IX発現の回復の生物学的効果
CA9 mRNAのレベルをまた、脱メチル化試薬である5'−アザ−デオキシシチジンを用いた処理後に、N87、MKN28、MKN45およびAGS細胞において分析した。5'−アザ−デオキシシチジンを用いた処理によって、N87、MKN45およびAGS細胞、ではCA9 mRNAレベルが5倍を超えて増大し、CA IXの発現が少なくとも部分的にはメチル化によって調節されることが示された。MNK28細胞では効果は見られなかった(図7)。in vitroマトリゲル浸潤アッセイを用いて、未処理AGS細胞と比較した5'−アザ−デオキシシチジン処理AGS細胞の浸潤能力を評価した。未処理AGS細胞はDMSO処理AGS細胞(対照)と比較して浸潤性に顕著な差を示さなかった。対照的に、5'−アザ−デオキシシチジン処理AGS細胞の2.9%が再構成マトリゲル・マトリクスを通過した一方、未処理の1.05%およびDMSO処理AGS細胞の1.04%だけがフィルターの下側に検出可能であった(p<0.01)(図7)。
【0076】
考察
腎癌における近年の研究は、CA IX発現が少なくとも部分的にはCA9遺伝子プロモーターのメチル化によって調節されること、およびCA9プロモーター領域中の−74bpおよび−6bp位の低メチル化がヒト腎癌細胞株においてCA IX発現の増大を伴うことを示す[32、33]。本明細書に示される通り、CA IX発現の低下または消失が多数の胃癌および胃癌細胞株で観察されたため、メチル化の阻害がCA IX発現の回復に繋がるかどうかを分析するため、4種類の確立した胃癌細胞株を脱メチル化剤の5'−アザ−デオキシシチジンで処理した。上記の実施例5に記載される通り、MKN28細胞を除くすべての細胞株が、5'−アザ−デオキシシチジンを用いた処理後にリアルタイムPCR分析においてCA9 mRNAレベルの上昇を示し、胃癌細胞株におけるCA IXの発現が少なくとも部分的にはCpG部位のメチル化によって調節されることを示した[図7を参照]。CA IXの再発現がこれらの細胞において、細胞を5'−アザ−デオキシシチジンで処理した後に観察されたため、CA IX発現の回復がまた細胞の生物学的特性を変化させるかどうかを評価することが有意義と思われた。したがって、細胞をまた、処理有りおよび無しの細胞の浸潤性の変化の評価を可能にする浸潤アッセイで分析した。培地に保持したかまたはDMSOを培地に添加したAGS細胞の浸潤性に変化は観察されなかった一方、5'−アザ−デオキシシチジンとインキュベートしたAGS細胞は顕著な、ほぼ3倍上昇したレベルの浸潤性を示し、それらの細胞におけるCA IXの回復が浸潤の増大を伴うことを示した。
【0077】
本明細書に報告したデータに基づき、CA IXの消失は胃癌における初期現象と仮定することができ、それはプロモーターメチル化の増大を伴い得る。胃癌進行の過程のより後期で、CA IX発現が癌細胞の浸潤先端部にて誘導され、そのことがそれらの細胞に、増殖および浸潤性増殖を促進することによる追加の増殖効果を与える。HIF−1αが腫瘍内部の低酸素症によって誘導され、これが次いでCA IX発現を誘導するため[24、25]、胃癌の浸潤先端部でのCA IXの再発現は、HIF−1のO2に調節されるサブユニットの活性化の結果として起こる可能性があると考えることができ、胃癌の浸潤先端部でのHIF−1α発現の増大に繋がり、このことは結腸癌およびその他の癌で既に報告されている[34]。要約すると、しばしば胃癌で観察されるCA IX発現の消失は初期現象であり得る一方、胃癌の部分集合の浸潤先端部でのCA IXの過剰発現は浸潤性増殖に繋がる可能性があり、およびそれによって胃癌の増殖および進行に寄与する。本発明者らはその結果、胃癌と類似のCA IX発現パターンを有する前腫瘍性/腫瘍性疾患もまた、本明細書で開示される予後診断法の対象となると結論する。
【0078】
ブダペスト条約寄託
下記に列挙した材料は、American Type Culture Collection (ATCC)、現所在10810 UniversityBlvd., Manassus, Virginia 20110-2209(米国)に寄託された。寄託は「特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約(「ブダペスト条約」)」の条項に基づいて行った。生存培養の維持は寄託の日から30年間保証されている。ハイブリドーマおよびプラスミドはブダペスト条約の条項に従ってATCCによって利用可能になり、寄託されたハイブリドーマおよびプラスミドの一般への制限無しの分譲を本出願の特許付与時から保証する、出願人とATCCとの間の合意下に置かれる。寄託された細胞株の入手可能性は、いかなる政府の権限下でもその政府の特許法に基づいて付与される権利に抵触して本発明を実施するための許諾と解してはならない。
ハイブリドーマ 寄託日 ATCC番号
VU−M75 1992年9月17日 HB 11128
MN 12.2.2 1994年6月9日 HB 11647
プラスミド 寄託日 ATCC番号
A4a 1995年6月6日 97199
XE1 1995年6月6日 97200
XE3 1995年6月6日 97198
【0079】
同様に、V/10 モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株V/10−VUは、2003年2月19日にブダペスト条約に基づき、Universeit Gent, K. L. Ledeganckstraat 35, B-9000 Gent(ベルギー)のLaboratorium voor Moleculaire Biologie-Plasmidencollectie (LMBP)の Belgian Coordianted Collections of Microorganisms (BCCM) [BCCM/LMBP]の国際寄託機関(IDA)に受託番号LMBP 6009CBとして寄託した。
本発明の前記実施形態の詳細な説明は例証および説明の目的で示されている。それらは網羅的であることまたは本発明を開示された正確な形に制限することを意図せず、および明らかに上記の教示に照らして多くの改変および変化が可能である。それらの実施形態は、本発明の原理および実用的な応用を説明し、それによって、さまざまな実施形態でおよび意図される特定用途に適したさまざまな改変を伴って、他の当業者に本発明を使用可能にするために選択され説明されている。
【0080】
本明細書に引用された全ての参考文献は参照により本開示に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1A〜CはMN/CA IX完全長cDNAのヌクレオチド配列を示す[配列番号1]。図1A〜Cはまた、そのcDNAによってコードされる推定アミノ酸配列を示す[配列番号2]。
【図2】図2A〜FはMN/CA9の10,898bpの完全なゲノム配列を示す[配列番号3]。塩基数は下記の通りである:A2654個;C2739個;G2645個;およびT2859個。11個のエクソンは一般に大文字で示されているが、エクソン1はRNアーゼ保護アッセイによって測定された通り、3507位で開始すると考えられる。
【図3】図3はヒト MN/CA9 遺伝子のエクソン−イントロンマップを示す。エクソン(番号を付した斜線囲み)の位置および大きさ、Alu反復配列(白囲み)、およびLTR関連配列(最初の番号無しの点描囲み)は表示のスケールに調整されている。個々のMN/CA IXタンパク質ドメインに対応するエクソンは、PG(プロテオグリカン様ドメイン)、CA(炭酸脱水酵素ドメイン)、TM(膜貫通性アンカー)、およびIC(細胞質内の尾部)と表示した破線枠で囲んである。マップの下に、アミノ酸配列の整列がMN/CA IXタンパク質PG領域(aa53〜111)[配列番号4]とヒト・アグリカン(aa781〜839)[配列番号5]との間のホモロジーの程度を示す
【図4】図4(実施例2で考察)は、胃癌におけるCA IXタンパク質およびCA9mRNのウェスタンブロット分析およびリアルタイムPCRからの結果を示す。(A)ウェスタンブロット分析は、非腫瘍性胃粘膜(N)と比較して、胃癌(T)におけるCA IXタンパク質レベルの低下を明らかにした。CA IXは54および58kDaを有するタンパク質として同定された。β−アクチンタンパク質レベルはタンパク質レベルの標準化のために評価された。CA IXタンパク質はAGS細胞には検出されなかった一方、低レベルがN87およびMKN28細胞で見出された。Hela細胞は対照に用いた。(B)対応する非腫瘍性胃粘膜(N)と比較したウェスタンブロット分析およびリアルタイムPCRによって評価された、胃腫瘍(T)におけるCA9 mRNAおよびCA IXタンパク質レベルの定量的分析。5例でタンパク質およびmRNAレベルを癌性および非癌性組織の両方で評価し、および全例が癌性部分でレベルの低下を示した。
【図5】図5(実施例3で考察)は、CA IXタンパク質の低レベルまたは高レベルを発現している胃癌を有する患者の生存分析を示す。材料および方法で概説した通りの免疫反応性スコアを用いて、IRS≦3(CA IX−)の患者の群およびIRS>3(CA IX+)の別の群が識別された。生存はCA IX発現の上昇がみられた患者(スコア>3;CA IX+)で有意に短かった(p=0.0281)。
【図6】図6(実施例4で考察)は、AGS胃癌細胞におけるCA IX過剰発現のin vitro分析を示す。(A)CA9cDNA(CA9)をトランスフェクションされたAGS細胞、DNA無しでTransfectam試薬とインキュベートしたもの(対照A)、または空pCMVβベクターをトランスフェクションされたもの(対照B)の細胞浸潤を、24ウェルTranswellチャンバー(Costar, Bodenheim, Germany)中で上記の通り評価した。空PCMVPベクターをトランスフェクションされたAGS細胞とCA9をトランスフェクションされた細胞との差、およびDNA導入無しの細胞とCA9トランスフェクションされた細胞との差は統計的に有意であった(対応のない両側tアッセイ;平均SD)。バーは平均SD。(B)AGS癌細胞におけるCA9トランスフェクションによる細胞増殖の誘導。CA9cDNAを用いたAGS細胞のトランスフェクションは、DNAトランスフェクション無しの細胞(対照A)または空pCMVβベクターをトランスフェクションされた細胞(対照B)と比較して細胞増殖の有意な誘導に繋がった(対応のない両側tアッセイ;平均SD)。バーは平均SD。
【図7】図7(実施例5で考察)は、胃癌細胞株におけるCA IX発現に対するメチル化効果の分析を示す。(A)胃癌細胞株におけるCA9 mRNAレベルを、5'−アザデオキシシチジン(AZA)とのインキュベート有りおよび無しで評価した。基礎mRNA発現(白棒)は全細胞で標準化され、および5'−アザデオキシシチジン(灰色棒)とのインキュベート後の相対変化をリアルタイムPCRによって評価した。MKN28細胞については有意な変化は観察されなかった一方、残りの細胞、すなわちAGS、MKN45およびN87細胞は、5'−アザデオキシシチジン(AZA)での処理後にCA9 mRNAレベルに5倍を超える増加を示した。(B)DMSOまたは5'−アザデオキシシチジン有りまたは無しで処理したAGS細胞の細胞浸潤を、24ウェルTranswell(孔径8μm)チャンバー(Costar, Bodenheim, Germany)中で評価した。浸潤細胞をフィルターの下側からトリプシン/EDTAを用いて採取した。細胞数はCoulter Counter ZII (Coulter Immunotech, Marseille, France)で計数した。5'−アザデオキシシチジン(AZA)と未処理AGS細胞(AGS、DMSO)との間の差は統計的に有意であった(対応のない両側tアッセイ;平均SD)。バーは平均SD。
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝医学の一般的分野および生化学工学、免疫化学、および腫瘍学の分野に属する。詳細には、本発明は、MNタンパク質、MN/CA IXアイソザイム、MN/CA IX、炭酸脱水酵素IX、CA IX、またはMN/G250タンパク質としても現在知られている癌蛋白(oncoprotein)をコードする、MN/CA9、CA9、または炭酸脱水酵素9として知られている癌遺伝子(oncogene)であると考えられている細胞遺伝子である、MN遺伝子に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は患者試料中のMN抗原またはMN遺伝子発現の同定に関するものであり、その同定は、癌の診断的/予後診断的アッセイのため、および癌治療について臨床的判断を行うための、基礎を提供する。さらにより詳細には、本発明は、前腫瘍性/腫瘍性疾患の患者の予後診断の方法に関するものであり、その疾患は、通常MN/CA IXタンパク質を発現するが発癌によってMN/CA IX発現を喪失するかまたはその発現が顕著に減少する組織を冒すものである。胃癌はそのような腫瘍性疾患の典型である。
【背景技術】
【0003】
上記で示したように、MN遺伝子およびタンパク質はいくつかの別名で知られ、その名称はここでは互換的に用いられる。MNタンパク質は亜鉛を結合し、さらに炭酸脱水酵素(CA)活性を有することが見出され、現在は、第9番目の炭酸脱水酵素アイソザイム−MN/CA IXまたはCA IXと考えられている[4]。炭酸脱水酵素命名法によると、ヒトCAアイソザイムは大文字のローマ字と数字とで表記され、一方、その遺伝子は斜体活字およびアラビア数字で記載される。代替的に、「MN」はここでは、文脈によって示される通り、炭酸脱水酵素アイソザイムIX(CA IX)タンパク質/ポリペプチド、または炭酸脱水酵素アイソザイム9(CA9)遺伝子、核酸、cDNA、mRNAなどを称するのに用いられる。
【0004】
MNタンパク質はまた、G250抗原を用いて同定されている。Uemuraら[35]は、「配列解析およびデータベース検索によって、G250抗原は、子宮頸癌(Pastorek et al., 1994)において同定されたヒト腫瘍関連抗原であるMNと同一であることが示された」と述べている。
【0005】
特許文献1(Zavada et al., 1993年9月16日公開)および特許文献2(1995年2月7日発行)は、MN遺伝子およびタンパク質の発見について記載する。MN遺伝子は試験したすべての脊椎動物の染色体DNA中に存在し、その発現は腫瘍原性と強く相関することが見出された。一般的に、腫瘍形成はCA IXタンパク質の異常発現によって示される。たとえば、腫瘍形成は:(1) CA IXタンパク質が、通常はCA IXタンパク質を顕著な程度では発現しない組織中に存在する場合;(2)CA IXタンパク質が、通常はそれを発現する組織に存在しない場合;(3)CA9遺伝子発現が、ある組織中で通常発現されるよりも有意に高いレベル、または有意に低いレベルである場合;または(4)CA IX タンパク質が細胞内の異常な部位で発現されている場合、によって示される。
MNタンパク質は、報告されている最初の腫瘍関連炭酸脱水酵素アイソザイムと現在考えられている。炭酸脱水酵素ファミリー(CA)は、下記の式で表される二酸化炭素の可逆的水和−脱水に関与する11種類の触媒活性亜鉛金属酵素を含む。
二酸化炭素の可逆的水和−脱水:
CAはさまざまな生物に幅広く分布する。CAはさまざまな生理的および生物学的過程に関与し、および組織分布、細胞内局在、および生物学的機能に顕著な多様性を示す[1、2、27]。炭酸脱水酵素IX(CA IX)は、最も近年に同定されたアイソザイムのうちの一つである[3、4]。形質転換細胞株およびいくつかのヒト悪性腫瘍におけるCA IXの過剰発現のため、CA IXは腫瘍関連抗原と認められており、さらにヒト癌の発生に関連づけられている[5〜7]。
CA IXは、独自のN末端プロテオグリカン様鎖を有するグリコシル化膜貫通型CAアイソフォームである[4]。トランスフェクション試験によって、CA IXは3T3細胞の形質転換を誘導できることが実証されている[4]。近年の研究は、CA IXは細胞接着に関与するだけでなく、低酸素症において、MNプロモーターの低酸素反応領域(hypoxia-responsive element)へのHIF−1タンパク質の結合を介して誘導され得ることを明らかにしている[8,9]。MN遺伝子の転写は、腎細胞癌細胞においてはフォン・ヒッペル・リンドウ(von Hippel-Lindau)腫瘍抑制遺伝子によって負に調節される[28]。フォン・ヒッペル・リンドウ(von Hippel-Lindau)腫瘍抑制遺伝子のタンパク質産物は、酸素依存性タンパク質分解のためのHIF−1αの標的化を担うユビキチンリガーゼ複合体と相互作用する[29,30]。このように、低レベルの酸素はHIF−1αの安定化に繋がり、次にそれがMNの発現増加に繋がる[9]。癌におけるMNの高発現領域は、多数の癌で報告されているように、腫瘍の低酸素状態と関連しており、および、低酸素条件下での腫瘍細胞のインキュベーションはMN発現の誘導に繋がる[9〜14]。
【0006】
多数の研究が、前癌性および癌性子宮頸部病変の診断/予後診断においてMN特異的モノクローナル抗体(MAb)M75を用いて、MNの診断的/予後診断的な有用性を確認している[6,37,38,39,55]。M75Mabを用いた子宮頸癌の免疫組織化学試験、およびPCRベースの(RT−PCR)腎細胞癌の調査は、MN発現がこれらの癌と密接に関連していることを確認しており、さらにMNが腫瘍バイオマーカーとしての有用性を有することを示唆する[6,36,38]。さまざまな癌(中でも特に子宮頸部、卵巣、子宮内膜、腎臓、膀胱、乳房、結腸直腸、肺、食道、頭部および頸部、および前立腺癌)では、CA IX発現が増加し、さらに一部の腫瘍での微細血管密度および低酸素レベルと関連づけられている[10,11]。
【0007】
MNタンパク質を通常は発現しない組織では、CA IX陽性は肺癌、乳癌、および子宮頸癌といった前腫瘍性/腫瘍性疾患の診断となると考えられている[12〜14]。しかし、これらの癌性組織のうち、より高いMN発現はしばしばより良好な予後を示す。以前の研究は、明細胞RCC[40]、子宮頸癌[39]、結腸直腸腫瘍[7]、および食道癌[52]を含む一部の腫瘍で、CA IX発現と病期および重症度との間に逆相関が存在することを報告している。これらの研究のうち、非RCC関連であった3つは、CA IXの低発現がリンパ節転移および浸潤の深さといった予後不良因子と相関することを見出した。Bretheau et al. 1995 [41]は、Uemura et al.[40]によるとCA IXをより低レベルで発現することが予想される重症度および病期が進行した腫瘍を有するRCC患者の予後不良を報告しした。特許文献3(Bui et al. [42])は、「低」CA IX(≦85%)染色は転移性RCCの患者の生存に関する独立した予後不良因子であることを報告した。
【0008】
顕著にMNタンパク質を発現する正常組織はほとんど見つかっていない;それらMNを発現する正常組織は、ヒト胃粘膜および胆のう上皮、および他の一部の消化管の正常組織を含む[45,15,16]。正常大腸の免疫組織化学分析は、近側結腸に中等度のCA IX染色を示し、その反応は遠側でしだいに弱くなった。その染色は、最も高い増殖能力を有する領域である陰窩上皮細胞の基底外側表面に限定されていた。CA IXは粘膜の上部よりも、増殖している陰窩上皮ではるかに豊富であるため、腸上皮細胞の増殖および分化を調節する役割を果たしていると考えられる。細胞増殖は結腸直腸上皮の前癌病変および癌病変で異常に増加し、およびしたがって、結腸直腸腫瘍進行の指標と考えられる[43,44]。興味深いことに、CA9欠損マウスは増殖亢進に関連する胃の過形成を生じ[17]、胃癌の発生および進行におけるCA IXの推定される病態生理学的役割が、胃を起源としない癌で観察される役割と異なるのか疑問を生じさせる。
【0009】
胃癌は全世界的に癌関連死の二番目に多い原因である[22、23]。その低下している発生率にもかかわらず、胃癌は臨床医および癌専門医にとって大きな課題であり続けている。近年、さまざまなグループが、胃癌に繋がる遺伝的および分子的変化を分析している。これらの変化は、特に、増殖因子受容体K-samおよびc-metといった癌遺伝子の過剰発現、APCおよびp53といった特定の腫瘍抑制遺伝子の消失、および、E-カドヘリンおよびカテニンを含む接着分子の変化を含む[22〜26]。近年、炭酸脱水酵素群および特にCA IXへの注目が高まっている[2]。しかし、CA IXを通常において過剰発現する胃粘膜におけるCA IX発現を調べる研究は、胃癌の存在をCA IXのレベル低下またはCA IXの消失と関連づける診断分析のみを提供している。
【0010】
対応する正常組織で豊富であるCA IX発現の消失または低下によって診断される胃癌および関連する癌についての新規なおよび創意に富む予後診断法に繋がる驚くべき知見が本明細書で開示される。驚くべきことに、そのような癌の中で、胃および関連する癌の診断になると考えられるCA IX発現の不在またはその顕著に低下したレベルよりも高いCA IX発現は、特にそのようなより高いCA IX発現がそうした癌の浸潤先端部に見出される場合、そのような癌に関して診断を受けている患者のより不良な予後を示唆することが見出された。胃癌および関連する癌では、CA IXのより高い発現は、特に癌の浸潤先端部で発現される場合、罹患する患者についてより不良な予後を示すという、驚くべき知見が本明細書で開示される。
【特許文献1】国際公開第93/18152号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5,387,676号明細書
【特許文献3】国際公開第03/089659号パンフレット
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、組織の前腫瘍性/腫瘍性疾患に罹患した患者におけるMN/CA9遺伝子発現産物のレベルを定量することを含む予後診断法に関し、ここでそのような前腫瘍性/腫瘍性疾患に関与する正常組織は、CA IXを発現するが、発癌に際してCA IX発現が消失する。MN/CA9遺伝子発現産物のそのようなレベルを定量することは、患者の予後診断を決定するのに有用である。そのような組織は、好ましくは、胃粘膜、胆のう、胆管、十二指腸腺の管細胞、精巣輸出管および精巣網を含む精巣、表層体腔上皮および卵巣網を含む卵巣、毛包の基底細胞、および中枢神経系脈絡叢より成る群から選択される。より好ましくは、前記組織は、胃粘膜、胆のう、胆管または十二指腸腺の管細胞である;さらにより好ましくは、前記組織は、胃粘膜、胆のうまたは胆管である;さらに好ましくは、前記組織は胃粘膜である。
【0012】
第一の予後診断法は、患者から採取された組織試料中のMN/CA9遺伝子発現産物のレベルを定量すること、およびそのレベルを、同一の疾患に罹患した患者に由来する比較可能な組織試料中のMN/CA9遺伝子発現産物のレベルと比較することを含む。第二の予後診断法は、前記患者の前記前腫瘍性/腫瘍性疾患の浸潤先端部に由来する組織試料を分析すること、およびMN/CA9遺伝子発現レベルを前記組織中で通常見出されるレベルと比較することを含む。臨床転帰を予測することに加えて、本発明の方法はまた、治療方針の中でも特に、アジュバント療法および/またはCA IXを標的とする療法を必要とする高リスク患者を特定する。
【0013】
一態様では、本発明は対象脊椎動物、好ましくは哺乳類を冒す前腫瘍性/腫瘍性疾患を予後診断する方法に関し、ここで前記疾患は、通常はMN/CA IXタンパク質を発現するが発癌に際してMN/CA IX発現が消失または顕著に低下する組織を冒すものであり、該方法は:
(a)前記脊椎動物から採取した前腫瘍性/腫瘍性組織を含む試料中のMN/CA9遺伝子発現産物を検出し、
(b)前記試料中の前記MN/CA9遺伝子発現産物のレベルを定量し、
(c)工程(b)のMN/CA9遺伝子発現産物のレベルを、対象脊椎動物と同一の前腫瘍性/腫瘍性疾患に罹患した脊椎動物から採取した比較可能な試料中のMN/CA9遺伝子発現産物の平均レベルと比較し、さらに
(d)工程(b)のMN/CA9遺伝子発現産物のレベルが前記比較可能な試料中のMN/CA9遺伝子発現産物の平均レベルよりも高い場合、前記対象脊椎動物がより不良な予後を有すると判定する;工程を含み、
前記MN/CA IXタンパク質は下記より成る群から選択されるヌクレオチド配列によってコードされる:
(1)配列番号1のコード領域;
(2)配列番号1のコード領域の相補鎖と、42℃にて50%ホルムアミドのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列;および
(3)遺伝コードの縮重のために、配列番号1のコード領域または(2)のヌクレオチド配列とはコドン配列が異なるヌクレオチド配列。
【0014】
本発明の方法に基づき、前記MN/CA9遺伝子発現産物を検出工程(a)において検出するために使用が好ましいアッセイは、前記MN/CA9遺伝子発現産物がMN/CA IXタンパク質またはMN/CA IXポリペプチドを含み、および前記アッセイがウェスタンブロット、酵素結合免疫吸着アッセイ、ラジオイムノアッセイ、競合イムノアッセイ、二抗体サンドイッチアッセイ、免疫組織化学染色アッセイ、凝集アッセイ、蛍光イムノアッセイ、およびサイトフルオロメトリー(cytofluorometry)より成る群から選択されるものである。より好ましくは、前記MN/CA9遺伝子発現産物検出工程は(a)免疫組織化学染色によるものであり、および前記定量工程は(b)免疫反応性細胞の割合および/または免疫反応性細胞の免疫染色の強度の測定を含み、好ましくは免疫反応性細胞の前記割合および免疫反応性細胞の免疫染色の前記強度の加算または乗算を含む。さらにより好ましくは、前記検出工程は、(a)受託番号ATCC HB11128を有するハイブリドーマVU−M75によって分泌されるMN特異的M75モノクローナル抗体の使用を含む。
【0015】
本発明の好ましい一実施形態では、MN/CA9遺伝子発現産物はCA IX抗原であり、およびCA IX抗原は、前腫瘍性/腫瘍性脊椎動物試料、好ましくは哺乳類試料、より好ましくはヒト試料において定量される。そのような前腫瘍性/腫瘍性試料は、試料のうち特に、組織標本、組織抽出物、細胞、細胞溶解物および細胞抽出物であってよい。組織標本はさまざまに保存することができ、たとえば、標本は、新鮮、凍結、またはホルマリン、アルコールまたはアセトンまたは他の方法で固定および/またはパラフィン包埋および脱パラフィンされる。好ましい組織試料は、ホルマリン固定、パラフィン包埋組織試料または凍結組織試料である。好ましい一実施形態では、疾患は胃癌であり、および試料は胃癌の浸潤先端部から採取される。好ましくは、前記試料は、前記前腫瘍性/腫瘍性疾患、好ましくは腫瘍性疾患の浸潤先端部から採取され、および比較工程(c)で用いられる前記比較可能な試料は、類似の浸潤先端部試料である。
【0016】
対象脊椎動物が罹患する前腫瘍性/腫瘍性疾患の予後診断である典型的および好ましい方法であって、前記疾患は、通常はMN/CA IXタンパク質を発現するが発癌に際してMN/CA IX発現が消失または顕著に低下する組織を冒すものであり、該方法は:
(a)前記脊椎動物から採取した前腫瘍性/腫瘍性組織を含む試料中のMN/CA9遺伝子発現産物を検出し、該検出は試料中のMN/CA IXタンパク質を検出するためのMN/CA IX特異的抗体を用いた免疫組織化学染色を含む;
(b)前記試料中の前記MN/CA9遺伝子発現産物のレベルを定量し、該定量は下記の工程を含む:
(b1)免疫反応性細胞の割合に下記の値を割り当てて、免疫反応性細胞の割合を判定する
免疫反応性細胞無しの場合には値0、
免疫反応性細胞が10%未満の場合には値1、
免疫反応性細胞が11%ないし50%の場合には値2、または
免疫反応性細胞が50%を超える場合には値3;
(b2)MN/CA IX免疫染色の強度に下記の値を割り当てて、免疫反応性細胞の免疫染色の強度を判定する
陰性対照と等しい染色には値0、
弱い染色には値1、
中等度の染色には値2、または
強い染色には値3;および
(b3)工程(b1)で求められる免疫反応性細胞の割合の値、および工程(b2)で求められる免疫染色の強度の値を加算して、免疫反応性スコアを得る;
(c)工程(b1)から(b3)での対象脊椎動物に由来する試料の免疫反応性スコアの判定と同様に、比較可能な試料の免疫反応性スコアを判定し、さらに前記比較可能な試料からの前記免疫反応性スコアを平均することを含めて、工程(b)で求められる免疫反応性スコアを対象脊椎動物と同一の前腫瘍性/腫瘍性疾患に罹患した脊椎動物から採取した比較可能な試料における平均免疫反応性スコアと比較し;さらに
(d)工程(b1)から(b3)で判定された試料の前記免疫反応性スコアが、工程(c)で求められる前記比較可能な試料の平均免疫反応性スコアを上回る場合、前記対象脊椎動物の予後診断がより不良であると判定する;工程を含み
ここで前記MN/CA IXタンパク質は下記より成る群から選択されるヌクレオチド配列によってコードされる:
(2)配列番号1のコード領域;
(2)配列番号1のコード領域の相補鎖と、42℃にて50%ホルムアミドのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列;および
(3)遺伝コードの縮重のために、配列番号1のコード領域または(2)のヌクレオチド配列とはコドン配列が異なるヌクレオチド配列。
【0017】
別の好ましい一実施形態では、本発明の方法に基づき、前記MN/CA9遺伝子発現産物検出工程(a)において使用が好ましいアッセイは、核酸ベースのアッセイであり、ここで前記MN/CA9遺伝子発現産物は、MN/CA IXタンパク質またはMN/CA IXポリペプチドをコードするmRNA、または、MN/CA IXタンパク質またはMN/CA IXポリペプチドをコードするmRNAと相補的なcDNAを含む。好ましくは、前記検出工程(a)は、PCR、RT−PCR、リアルタイムPCRによるか、または定量的リアルタイムRT−PCRによる。
【0018】
好ましくは、本発明の予後診断法にしたがってMN/CA9遺伝子発現産物について試験される前腫瘍性/腫瘍性疾患は、組織の細胞の40%以上が、前記前腫瘍性/腫瘍性疾患に冒されていない場合にMN/CA IXタンパク質を発現する組織が罹患する疾患である。好ましくは対象脊椎動物が罹患する前記前腫瘍性/腫瘍性疾患は、粘膜、胆のう、胆管、十二指腸腺の管細胞、精巣輸出管および精巣網を含む精巣、表層体腔上皮および卵巣網を含む卵巣、毛包の基底細胞、および中枢神経系脈絡叢の前腫瘍性/腫瘍性疾患より成る群から選択される。より好ましくは、前記前腫瘍性/腫瘍性疾患は、胃粘膜、胆のう、胆管、および十二指腸腺の管細胞の前腫瘍性/腫瘍性疾患より成る群から選択される。好ましくは、前記脊椎動物は哺乳類、より好ましくはヒトである。さらにより好ましくは、脊椎動物はヒト患者であり、および前記前腫瘍性/腫瘍性疾患は、胃粘膜、胆のう、胆管および十二指腸腺の管細胞の腫瘍性疾患より成る群から選択される。非常に好ましくは、前記腫瘍性疾患は胃癌であり、および前記試料は前記胃癌の浸潤先端部から採取される。好ましくは、前記腫瘍性疾患は腫瘍であり、および前記試料は、前記腫瘍から、および/または前記腫瘍に由来する転移性病変から採取される。
【0019】
本発明に記載の好ましい予後診断法は、より不良な予後が、生存時間の短縮、前記前腫瘍性/腫瘍性疾患の再発のリスク増大、または、治療への反応の低下または不応性について測定されるものである。さらに好ましい方法は、前記疾患が腫瘍性であり、および、一つの腫瘍、または一つの腫瘍およびその腫瘍に由来する一つ以上の転移性病変を含み、および、より不良な予後が、その腫瘍またはその腫瘍および前記一つ以上の転移性病変の外科的除去後の、生存時間の短縮、前記腫瘍性疾患の再発のリスク増大、または、治療への反応の低下または不応性について測定されるものである。好ましくは、前記予後診断法は、前記脊椎動物が罹患する前記前腫瘍性/腫瘍性疾患のための治療の選択における補助として用いられる。典型的な治療は、化学療法、放射線、および/または外科手術を含む。
【0020】
別の一態様では、本発明は対象脊椎動物が罹患する前腫瘍性/腫瘍性疾患の予後診断の方法に関し、ここで前記疾患は、細胞の40%以上が通常はMN/CA IXタンパク質を発現するが発癌に際してMN/CA IXが消失するかまたはMN/CA IXを顕著に低下したレベルで発現する組織を冒すものであり、該方法は:
(a)前記前腫瘍性/腫瘍性疾患の浸潤先端部から組織試料を採取し;
(b)前記浸潤先端部試料において、MN/CA9遺伝子発現産物が、存在しないかまたは、前記組織が前記疾患に冒されていない場合に前記組織中で通常発現される前記MN/CA9遺伝子発現産物のレベルよりも顕著に低下したレベルであるかどうかを検出し;
(c) 前記MN/CA9遺伝子発現産物が前記浸潤先端部試料中に存在しないかまたは顕著に低下したレベルである場合ではないときに、前記浸潤先端部試料中に前記MN/CA9遺伝子発現産物が存在しないかまたは顕著に低下したレベルである場合よりも対象脊椎動物は予後が悪いと結論付ける;工程を含む。
【0021】
本明細書で開示される本発明の態様は下記により詳細に記載される。
【参考文献】
【0022】
略語
下記の略語が本明細書で用いられる:
aa− アミノ酸
ATCC− American Type Culture Collection (アメリカンタイプカルチャーコレクション)
AZA− アザデオキシシチジン
bp− 塩基対
BRL− Bethesda Research Laboratories
CA− 炭酸脱水酵素
℃− 摂氏
CDR− 相補性決定領域
DMEM− ダルベッコ改変イーグル培地
DMSO− ジメチルスルホキシド
ds− 二本鎖
DTT− ジチオスレイトール
EDTA− エチレンジアミン四酢酸
FCS− ウシ胎児血清
FITC− フルオレセインイソチオシアネート
HRP− ホースラディッシュペルオキシダーゼ
IC− 細胞内
IRS− 免疫反応性スコア
kb− キロ塩基
kbp− キロ塩基対
kdまたはkDa−キロダルトン
LTR− 長い末端反復
M− モル濃度
MAb− モノクローナル抗体
ME− メルカプトエタノール
min.− 分
mg− ミリグラム
ml− ミリリットル
mM− ミリモル濃度
MMLV− Moloneyマウス白血病ウイルス
mmol− ミリモル
N− 非腫瘍性胃粘膜
ng− ナノグラム
nm− ナノメートル
nM− ナノモル濃度
nt− ヌクレオチド
ORF− オープンリーディングフレーム
PCR− ポリメラーゼ連鎖反応
PG− プロテオグリカン
pI− 等電点
pmol− ピコモル
RCC− 腎細胞癌
RNP− RNアーゼ保護アッセイ
RT−PCR−逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
SDS− ドデシル硫酸ナトリウム
SP− シグナルペプチド
SSP− 標準生理食塩水リン酸エチレンジアミン四酢酸
T− 胃腫瘍
TM− 膜貫通
Tris− トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン
U− 単位
μg− マイクログラム
μl− マイクロリットル
μM− マイクロモル濃度
細胞株
AGS−ヒト胃癌細胞株;胃腺癌[American Type Culture Collection (ATCC), Rockville, MD]
HeLa細胞−ヒト子宮頸癌細胞株;上皮腺癌[American Type Culture Collection (ATCC), Rockville, MD]
MKN45−ヒト胃癌細胞株;低分化型腺癌[Riken Cell Bank, Tsukuba, Japan]
MKN28−ヒト胃癌細胞株;中等度分化型管状腺癌[Riken Cell Bank, Tsukuba, Japan]
N87−ヒト胃癌細胞株;胃癌由来、1976年A.Gazdarによって肝転移部から[American Type Culture Collection (ATCC), Rockville, MD]
ヌクレオチドおよびアミノ酸配列記号
下記の記号はここでヌクレオチドを表すのに用いられる:
塩基
記号 意味
A アデニン
C シトシン
G グアニン
T チミン
U ウラシル
I イノシン
M AまたはC
R AまたはG
W AまたはT/U
S CまたはG
Y CまたはT/U
K GまたはT/U
V AまたはCまたはG
H AまたはCまたはT/U
D AまたはGまたはT/U
B CまたはGまたはT/U
N/X AまたはCまたはGまたはT/U
【0023】
主要なアミノ酸は二十種類あり、そのそれぞれが、三個の隣接するヌクレオチドの異なる配列(トリプレットコードすなわちコドン)によって特定され、またアミノ酸は特定の順序で互いに結合して特徴的なタンパク質を形成する。三文字または一文字の慣習を用いてここではたとえば図1のように下記の通り前記アミノ酸を特定する:
アミノ酸名 三文字略号 一文字略号
アラニン Ala A
アルギニン Arg R
アスパラギン Asn N
アスパラギン酸 Asp D
システイン Cys C
グルタミン酸 Glu E
グルタミン Gln Q
グリシン Gly G
ヒスチジン His H
イソロイシン Ile I
ロイシン Leu L
リジン Lys K
メチオニン Met M
フェニルアラニン Phe F
プロリン Pro P
セリン Ser S
スレオニン Thr T
トリプトファン Trp W
チロシン Tyr Y
バリン Val V
不明またはその他 X
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の新規な方法は、癌に関連するCA9遺伝子の遺伝子発現産物が、通常はMN/CA IXタンパク質を発現するが発癌に際してMN/CA IX発現が消失するかまたは顕著に低下する組織を冒す前腫瘍性/腫瘍性疾患に罹患した脊椎動物の生存に関連することを実証する。そのような前腫瘍性/腫瘍性疾患の典型は、胃粘膜、胆のう、胆管、十二指腸腺の管細胞、精巣輸出管および精巣網を含む精巣、表層体腔上皮および卵巣網を含む卵巣、毛包の基底細胞、または中枢神経系脈絡叢の前腫瘍性/腫瘍性疾患である。特に、CA9遺伝子発現産物のレベルは、臨床転帰を予測するため、およびアジュバント療法を必要とする高リスク患者を特定するために用いることができる。
【0025】
本発明は、CA IXタンパク質を通常発現する組織に関連する疾患、好ましくは、胃粘膜、胆のう、胆管、および十二指腸腺の管細胞の前腫瘍性/腫瘍性疾患の予後診断のための方法を提供する。その方法は、前腫瘍性/腫瘍性疾患を診断された患者から採取した試料中にもしあれば存在するMN/CA9遺伝子発現産物を定量することを含む;MN/CA9遺伝子発現産物は、CA IXタンパク質、CA IXポリペプチド、CA IXタンパク質またはポリペプチドをコードするmRNA、CA IXタンパク質またはポリペプチドをコードするmRNAに対応するcDNA、などであり得る。定量されたMN/CA9遺伝子発現産物レベルを、比較可能な患者から採取した比較可能な試料における平均レベルと比較し、さらに患者についてより良好なまたはより不良な予後と関連付ける。前記CA9遺伝子発現産物は、好ましくは患者から採取された試料中で定量されたCA IXタンパク質またはCA IXポリペプチドである。
【0026】
前腫瘍性/腫瘍性疾患についての予後診断指標としての癌遺伝子の遺伝子発現産物の使用は、当業者には従来法と考えられている。しかし、疾患が通常はCA IXタンパク質を発現するが発癌に際してCA IX発現が顕著に低下する組織を冒す前腫瘍性/腫瘍性疾患へのそのような方法の適用は新規である。CA IXタンパク質を通常発現しない組織(すなわち、大部分の組織型)を冒す、本発明の対象ではない多数の他のCA IX関連前腫瘍性/腫瘍性疾患についての予後診断の方法とは対照的に、本発明の方法は、CA IX遺伝子発現産物が、比較可能な罹患組織におけるCA9遺伝子発現産物レベルと比較した際に平均より高いレベルで発現している場合により不良な予後を示す。
【0027】
前腫瘍性/腫瘍性組織
好ましくは、前記前腫瘍性/腫瘍性組織は、前腫瘍性/腫瘍性疾患に冒されていない場合に組織の細胞の40%以上がCA IXタンパク質を発現する組織である。たとえばモノクローナル抗体M75および典型的な対応する腫瘍性組織を用いた免疫組織化学染色によって特定された、CA IXタンパク質をそのようなレベルで発現している典型的な正常ヒト組織は、以前に詳細に記載されている[45,49]。胃腸管では、散在性のCA IX免疫反応性が、胃粘膜、十二指腸腺の管細胞、および十二指腸、空腸の陰窩細胞、およびより小さい程度で回腸終端部および虫垂に観察されている。高レベルのCA IX発現は、毛包の漏斗および髄質の内部およびその近傍の基底細胞、中皮細胞、および体腔の体腔上皮に一貫して観察されている。内臓では、上皮における高レベルのCA IX発現が確認されているが、卵巣網、精巣網、精巣輸出管、胆管、および胆のうに限られる。末梢および中枢神経系では、CA IX発現は心室の被覆細胞および脈絡叢に限られる。
【0028】
本発明の方法によると、本発明の対象である前腫瘍性/腫瘍性組織は、CA IXタンパク質を通常発現するだけでなく、発癌に際してCA IXタンパク質発現が消失するかまたは著しく低下する、胃および胆のう組織といった組織である[16,45,54]。
【0029】
ここでは、「癌性」および「腫瘍性」は等しい意味を有し、および「前癌性」および「前腫瘍性」は等しい意味を有する。
【0030】
腸上皮化生は、「特に胃における、腸のものに類似しているが通常は絨毛を欠く腺粘膜への粘膜の変化」と定義される[Stedman's Medical Dictionary, 26th Edition (Williams &;Wilkins ; Baltimore, MD, USA; 1995)。 ]。
大腸は、「消化管の回盲弁から肛門までの範囲の部分;盲腸、結腸、直腸、および肛門管を含む。同義語:intestinum crassum.」と定義される[同上]。
【0031】
結腸は「大腸の盲腸から直腸までの部分」である[同上]。
【0032】
十二指腸腺は「十二指腸の前方1/3の粘膜下に主に存在する小さい分岐したコイル状の管状腺;胃液を中和する役割を果たすアルカリ性の粘液物質を分泌する。同義語:glandulae duodenales、ブルンナー腺、ヴェプファ腺」[同上]。
【0033】
本発明の好ましい一実施形態では、MN/CA9遺伝子発現産物はCA IX抗原であり、およびCA IX抗原は、前腫瘍性/腫瘍性脊椎動物試料、好ましくは哺乳類試料、より好ましくはヒト試料において定量される。そのような前腫瘍性/腫瘍性試料は、試料の中でも特に、組織標本、組織抽出物、細胞、細胞溶解物および細胞抽出物であり得る。好ましい組織試料は、ホルマリン固定、パラフィン包埋組織試料または凍結組織試料である。好ましい一実施形態では、疾患は胃癌であり、および試料は胃癌の浸潤先端部から採取される。
【0034】
さまざまな他の前腫瘍性/腫瘍性試料を用いてCA IX遺伝子発現産物を定量できることは当業者に理解され得る。たとえば、疾患が腫瘍である腫瘍性疾患の患者の場合、試料は腫瘍から、または腫瘍に由来する転移性病変から採取され得る。
【0035】
本明細書で開示されるものに加えて、CA9遺伝子発現産物を定量するために別の方法を用い得ることがさらに理解される。好ましい実施形態では、遺伝子発現産物は、免疫組織化学染色によって(たとえば、組織アレイなどを用いて)検出および定量されるCA IX抗原である。免疫組織化学染色によってアッセイするために好ましい組織標本は、たとえば、組織試料の中でも特に、細胞塗沫、生検組織または臓器からの組織切片、およびインプリント標本を含む。典型的な免疫組織化学染色手順が、下記の材料および方法の項に記載される。そのような組織標本はさまざまに保存することができ、たとえば、標本は新鮮、凍結、またはホルマリン、アルコールまたはアセトンまたは他の方法で固定および/またはパラフィン包埋および脱パラフィンされ得る。生検組織試料は、他の生検方法の中でも特に、たとえば、吸引、バイト、ブラシ、コーン、絨毛膜絨毛、内視鏡、切除、切開、針、経皮穿孔、および表面生検によって採取された試料であり得る。
【0036】
アッセイ
MNタンパク質/ポリペプチドおよび/またはMN核酸を用いるアッセイは、ここに記載の方法の通り、診断および/または予防診断の両方になることができ、すなわち、診断的/予後診断的である。「診断的/予後診断的」の語はここでは、臨床的背景に応じて下記の過程を個別にまたは累積的に包含すると定義される:疾患の存在を判定、疾患の性質を判定、ある疾患を別の疾患と識別、可能な疾患状態の転帰に関して予測、症例の性質および徴候によって示される疾患からの回復の見込みを判定、患者の疾患状態を監視、疾患の再発について患者を監視、および/または患者についての好ましい治療計画を決定。本発明の診断的/予後診断的方法は、たとえば、腫瘍性または前腫瘍性疾患の存在について集団をスクリーニング、腫瘍性疾患を生じるリスクの判定、腫瘍性および/または前腫瘍性疾患の存在を診断、腫瘍性疾患の患者の疾患状態を監視、および/または腫瘍性疾患の経過について予後診断を決定するために有用である。
【0037】
本発明のスクリーニング方法は、ここに示す通り、さまざまな前腫瘍性/腫瘍性疾患をスクリーニングするのに有用である。本発明の予後診断法の対象である疾患がまず、たとえば、胃癌と診断されるのと同時に、MN遺伝子発現産物のレベルがまた予後情報を提供し得ることが想像できる。たとえば、胃癌は同時に診断および予後診断され得る;胃組織試料の大半でのMN遺伝子発現産物の減少または消失は診断的である一方、浸潤先端部での顕著なMN遺伝子発現産物の存在は予後診断的である。そのような胃癌に隣接する非腫瘍性上皮におけるMN発現の正常レベルが維持される。
【0038】
本発明のアッセイはまた、外科手術、癌化学療法および/または放射線療法後の、すべての腫瘍組織の非存在または除去を確認するために用いることができる。さらに、癌化学療法および腫瘍再発を監視するために用いることができる。
【0039】
本発明の方法との使用のために多数の様式を適用できる。CA IXタンパク質またはCA9ポリペプチドの検出および定量は、本分野で一般に公知の他のアッセイの中でも特に、たとえば、ウェスタンブロット、酵素結合免疫吸着アッセイ、ラジオイムノアッセイ、競合イムノアッセイ、二抗体サンドイッチアッセイ、免疫組織化学染色アッセイ、凝集アッセイ、蛍光イムノアッセイ、サイトフルオロメトリー、免疫金を用いる免疫電子および走査顕微鏡法によって実施し得る。そのようなアッセイでのCA9遺伝子発現産物の定量は、本分野で公知である従来の方法に適合させ得る;たとえば、検出方法が免疫組織化学染色による場合は、CA IXタンパク質またはCA IXポリペプチドの定量は、免疫反応性細胞の割合および/または免疫反応性細胞の免疫染色の強度を測定することによって実施でき、および加えてこれらの値の加算または乗算、またはこれらの値を用いる他の数学的計算を含み得る。
【0040】
CA IXタンパク質またはポリペプチドを用いて、患者の体組織および/または細胞中のCA IX抗原を検出および定量できることは、イムノアッセイの当業者にはまた明らかである。そのような一実施形態では、CA IXタンパク質に対して作製された標識化抗体を使用する免疫測定アッセイを用いることができる。そのようなアッセイでは、抗原結合抗体と複合体化する標識化抗体の量は、試料中のCA IX抗原の量と正比例する。
【0041】
典型的な免疫組織化学アッセイ
MN/CA IXの分布および発現パターンを、実施例1に記載の免疫組織化学によって調べた。組織切片をMN/CA IX特異的モノクローナル抗体M75で染色した。典型的な免疫組織化学染色結果は、MN/CA IXを非腫瘍性胃粘膜、腸上皮化生に、および顕著により低頻度で胃癌に示す。MN/CA IX免疫染色の欠如が、中等度(G2)に分化した腸型の胃癌に、およびびまん型の胃癌に見出された一方、近傍の非腫瘍性上皮細胞は強い免疫染色を示した。しばしば免疫染色は不均一であることが見出された。たとえば、低分化(G3)腸型胃癌は、胃粘膜中の腫瘍細胞の免疫染色が見られなかったが、筋層に浸潤している腫瘍細胞の部分集合に強い染色が見られた。
【0042】
実施例3に記載される免疫組織化学分析は、さらに重要な観察を明らかにした。免疫反応性スコアを適用後、2つの群のCA IX発現パターンが胃癌で識別された。豊富なCA IXを発現している癌は低レベルのCA IX発現または全く発現無しの腫瘍と比較してより短い術後生存を示した。CA IX発現と不良な予後診断との同様の関連が近年、非小細胞肺癌でも報告されている[12];しかし、胃癌とは異なり、正常肺組織は感知可能なレベルでCA IXを発現しない。CA IX発現を保持した胃癌の免疫組織化学切片のさらなる分析で、CA IX発現は浸潤先端部に位置した癌細胞で主に観察され、CA IX発現の消失は胃癌では高頻度の現象である一方でCA IX発現を保持する胃腫瘍は浸潤性の増大を示し、このことがその不良な予後診断に寄与し得ることを示した[31]。本発明に至る際に行われたin vivo観察は、実施例4に記載のAGS胃癌細胞におけるCA IX過剰発現のin vitro分析によって支持される。そのような胃癌細胞におけるCA9 cDNAのトランスフェクションに際して、トランスフェクションされた細胞の細胞増殖および浸潤性増殖は顕著に促進された。このように、胃癌におけるCA IXの過剰発現はまた、細胞増殖および浸潤の増大を伴い、より不良な予後診断を示す、胃癌の浸潤先端部でのCA IX発現の知見を支持する。
【0043】
CA IXの過剰発現はさまざまな癌で報告されている一方、その発現は大部分の胃癌では低いかまたは失われてさえいる[15、16]。対象予後診断法の発明者らによる分析は、CA IX発現が患者57名中26名において癌細胞中で失われた一方、CA IXの正常胃発現は胃小窩上皮細胞および胃底腺および腔腺に保持されたことを示した。Pastorekovaらによる以前の研究は、限られた数の標本におけるCA IXの発現を評価し、およびまた、試験した胃癌におけるCA IX発現の低下を報告した[15]。CA IXの発現の消失は、胃発癌中の脱分化を含む腫瘍性変化の結果と解釈され得る一方、近年の研究は、実際にこの消失は単なる随伴現象ではなく胃発癌の過程の基礎となる決定的変化であることを示す。その仮説は、CA IX欠損マウスの作製によって支持され、そのマウスではCA IX遺伝子の不活性化が胃過形成の発生に繋がり、これは、細胞増殖の増大を伴う[17]。CA IX発現の消失を胃癌の約半分で実証した、対象予後診断法の発明者らによる研究と合わせて、CA IX欠損マウスでの研究は、CA IXは細胞増殖および胃粘膜の増殖もまた調節する決定的に重要な分化因子として作用し得ることを示す。実際に、本明細書でウェスタンブロットおよびPCR分析で開示する通りのCA IX発現の消失は、CA IX発現が胃癌の発生に決定的に重要であるという仮説を支持する可能性があり、および、胃発癌における初期現象であり得る。
【0044】
核酸ベースのアッセイ
本発明の一部の実施形態では、胃癌といった前腫瘍性/腫瘍性疾患の患者から採取した試料において、CA IXタンパク質またはCA IXポリペプチドをコードするmRNA、またはそのmRNAと相補的なcDNAを検出および定量し、比較可能な試料中のMN/CA9 mRNAレベルの平均と比較し、およびそれによって患者についての予後診断と相関させる。MN/CA9 mRNAまたはMN/CA9cDNAの発現が測定される場合は、平均を上回るCA9 mRNAまたは平均を上回るCA9cDNA発現はより不良な予後診断の指標である。CA9特異的mRNA発現のレベルの変化を測定するための一つの好ましい方法はノーザンブロッティングであり、ここでMN/CA9特異的mRNA発現を検出するためのプローブとして用いられる核酸配列は図1に示すMN/CA9cDNA配列の全部または一部と相補的である;RNAの調製物を変性アガロースゲルに流し、および活性化セルロース、ニトロセルロースまたはガラスまたはナイロン膜といった適当な担体に転写する。放射性標識化cDNAまたはRNAを次いで調製物とハイブリダイズさせ、洗浄し、およびオートラジオグラフィーによって分析する。試料は、試料の組織学的蘇生を示すためにヘマトキシリンで染色でき、および発色したエマルジョンを、適当な光フィルターを用いた暗視野法によって照明する。ジゴキシゲニンといった非放射性標識もまた用いることができる
CA9特異的mRNA発現を測定するための別の好ましい方法は、MN/CA9cDNA配列由来の核酸プローブの、生物試料から単離されたRNAから作製されたRT−PCR産物とのハイブリダイゼーションによる、CA9 mRNA発現の検出である。
【0045】
典型的なウェスタンブロットおよびPCRアッセイ
加えて、方法を組み合わせて用いることができる;たとえば、CA9 mRNAおよびCA IXタンパク質発現は、リアルタイム定量的PCRによっておよび/またはウェスタンブロッティングによって、たとえば胃癌の患者に由来する腫瘍試料および相当する非腫瘍性胃粘膜の対応試料において評価できる。実施例2に記載の通り、ウェスタンブロット分析およびリアルタイム定量的PCRを同一の患者において実施した5例すべてで、CA IXタンパク質レベルは胃癌では対応する非腫瘍性粘膜と比較して有意に低下し、およびCA9 mRNAレベル低下と関連した(図4)。
【0046】
MN遺伝子およびタンパク質
「MN/CA IX」および「MN/CA9」の語はここでは、MNの同義語と考えられる。また、G250抗原はMNタンパク質/ポリペプチドをいうと考えられる[35]。
【0047】
国際公開第93/18152号パンフレットおよび/または国際公開第95/34650号パンフレット(Zavada et al.,)は、本明細書で図1A〜1Cに示されるMNcDNA配列[配列番号1]、[配列番号2]同じく図1A〜1Cに示されるMNアミノ酸配列、および本明細書で図2A〜2Fに示されるMNゲノム配列[配列番号3]を開示する。MN遺伝子は11個のエクソンおよび10個のイントロンで構成されている。
【0048】
図1に示されるMNcDNAのORFは、計算分子量49.7kdの459アミノ酸タンパク質のコード容量を有する。MN/CA IXタンパク質の総アミノ酸組成はかなり酸性であり、およびpI4.3であることが予測される。CGL3細胞由来の天然MN/CA IXタンパク質の、二次元電気泳動に次いでイムノブロッティングによる分析は、コンピューター予測に合致して、MN/CA IXは4.7〜6.3の範囲のpIを有するいくつかの等電型で存在する酸性タンパク質であることを示している。
【0049】
図1A〜1Cに示すMNタンパク質の最初の37個のアミノ酸は、推定されるMNシグナルペプチド[配列番号6]である。MNタンパク質は細胞外ドメイン[図1A〜1Cのアミノ酸(aa)38〜414[配列番号7]、膜貫通ドメイン[aa415〜434;配列番号8]および細胞内ドメイン[aa435〜459;配列番号9]を有する。細胞外ドメインは、プロテオグリカン様ドメイン[aa53〜111;配列番号4]および炭酸脱水酵素(CA)ドメイン[aa135〜391;配列番号5]を含む。
【0050】
CAドメインは付着非依存性の誘導に必須である一方、TMアンカーおよびIC尾部はその生物学的作用には可欠である。MNタンパク質はまた、トランスフェクションされた細胞において原形質膜ラフリングを引き起こすことができ、およびその細胞の固相担体への付着に関与するように見える。データは、細胞増殖、接着および細胞間情報伝達の調節へのMNの関与を明示する。
【0051】
MNタンパク質およびポリペプチド
「MNタンパク質および/またはポリペプチド」(MNタンパク質/ポリペプチド)の語句は、ここではMN遺伝子またはその断片によってコードされるタンパク質および/またはポリペプチドを意味すると定義される。本発明に記載の典型的なおよび好ましいMNタンパク質は、図1に示す推定アミノ酸配列を有する。好ましいMNタンパク質/ポリペプチドは、図1に示すMNタンパク質と実質的な相同性を有するタンパク質および/またはポリペプチドである。たとえば、そのような実質的に相同なMNタンパク質/ポリペプチドは、MN特異的抗体、好ましくはMabM75またはその同等物と反応するものである。M75Mabを分泌するVU−M75ハイブリドーマはHB11128の名称で1992年9月17日に寄託された。
【0052】
「ポリペプチド」または「ペプチド」は、ペプチド結合によって共有結合で結合したアミノ酸の鎖であり、およびここでは50個以下のアミノ酸から成るとされる。「タンパク質」はここでは、50個より多いアミノ酸から成るポリペプチドと定義される。ポリペプチドという語は、ペプチドおよびオリゴペプチドの語を包含する。
【0053】
腫瘍性細胞によってin vivoで産生されたタンパク質またはポリペプチドは、細胞培養中の腫瘍細胞、または形質転換細胞によって産生されたものとは配列が異なる可能性があることを理解することができる。したがって、アミノ酸置換、伸長、欠失、短縮、およびその組み合わせを制限無く含む、変化したアミノ酸配列を有するMNタンパク質および/またはポリペプチドは、本発明の範囲に含まれる。体液中に現存するタンパク質は、タンパク質分解過程といった分解過程の対象となることもまた理解され得る;したがって、相当に短縮されたMNタンパク質およびMNポリペプチドが、たとえば血清といった体液中に見出され得る。「MN抗原」の語句は、ここではMNタンパク質および/またはポリペプチドを包含するように用いられる。
【0054】
さらに、MNタンパク質およびポリペプチドのアミノ酸配列は遺伝子技術によって改変することができることが理解される。一種類以上のアミノ酸を欠失または置換させることができる。そのようなアミノ酸変化はタンパク質またはポリペプチドの生物学的活性に測定可能な変化を何ら生じない可能性があり、および結果として本発明の範囲内のタンパク質またはポリペプチド、およびMN突然変異タンパク質を生じ得る。
【0055】
核酸プローブ
本発明の核酸プローブは、図1に示されるMNcDNA配列と、または図2A〜Fの完全ゲノム配列[配列番号3]といった他のMN遺伝子配列と、相補的または実質的に相補的である配列を含むものである。「実質的に相補的」の語句は、本分野でよく理解されている通りの意味を有するとここでは定義され、および、したがって、標準的なハイブリダイゼーション条件との関連で用いられる。ハイブリダイゼーション条件の厳密性は、相補性の精度を調節するために調整できる。2つの核酸は、たとえば、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で互いにハイブリダイズするならば互いに実質的に相補的である。
【0056】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件はここでは、本分野で厳密であると理解される標準的なハイブリダイゼーション条件に適合すると考えられる。たとえば、ストリンジェントな条件は、0.02M〜0.15MNaCl、温度50℃〜70℃によって与えられるような相対的に低塩および/または高温条件、たとえば塩濃度0.15M〜0.9M、温度範囲20℃〜55℃、を包含すると一般的に理解される。厳密性がより低い条件は、42℃にて50%ホルムアミド存在下0.15M〜0.9MNaCl、最終洗浄65℃にて0.1%SSPEおよび0.1%SDS、といった典型的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件によって与えられるように、高温のようにハイブリッド二重らせんを不安定化する役割を果たす、より多量のホルムアルデヒドを添加することによって、より厳密にすることができる。
【0057】
さらに典型的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, pages 1.91 and 9.47-9. 51 (Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press; Cold Spring Harbor, N. Y.; 1989); Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, pages 387-389 (Cold Spring Harbor Laboratory; Cold Spring Harbor, N. Y.; 1982); Tsuchiya et al., Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Patholog 71-725 (June 1991);および米国特許第5,989,838号明細書,米国特許第5,972,353号明細書,米国特許第5,981,711号明細書,および米国特許第6,051,226号明細書に記載されている。
【0058】
少なくとも80〜90%のホモロジーを有するごく近い関係にある核酸配列だけが、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。
【0059】
抗体
「抗体」の語は、ここでは抗体全体だけでなく抗体の生物学的に活性である断片、好ましくは抗原結合領域を含む断片も含むと定義される。抗体の定義にさらに含まれるのは、MNタンパク質ともう一つの別の組織特異的抗原とに特異的な、二重特異性抗体である。ヒト化抗体および完全なヒト抗体はここでの「抗体」の定義に該当する。
【0060】
本発明の方法に記載の有用な抗体は、従来の方法論によって、および/または遺伝子工学によって作製し得る。抗体断片は、好ましくは超可変領域を含む軽鎖および/または重鎖(VHおよびVL)の可変領域から、およびさらにより好ましくはVHおよびVL領域の両方から遺伝子組み換えすることができる。たとえば、「抗体」の語はここでは、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体ならびにその生物学的に活性である断片を包含し、他の可能性の中でも特に、「一価」抗体[46];共有結合的にまたは非共有結合的に凝集していても、Fab'およびF(ab')2断片を含むFabタンパク質;軽鎖または重鎖単独、好ましくは重鎖および軽鎖の可変領域(VHおよびVL領域)、およびより好ましくは超可変領域[VHおよびVL領域の相補性決定領域(CDR)ともいう]を含む;Fcタンパク質;一種類より多い抗原に結合する能力のある「ハイブリッド」抗体;定常−可変領域キメラ;異なる起源の重鎖と軽鎖を有する「複合」免疫グロブリン;標準的組み換え技術によって、またはオリゴヌクレオチド指向性突然変異誘発技術によって調製された、特異性およびその他の特性が改良された「改変」抗体[47]を含む。
CA IXタンパク質/ポリペプチドを検出するのに有用な本発明に記載のモノクローナル抗体は、標識の中でも、たとえば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)のような酵素、蛍光化合物、または、125Iのような放射性同位体を用いて、任意の従来の方法で標識することができる。本発明に記載の好ましい標識は125Iであり、および抗体を標識化する好ましい方法は、クロラミン−Tを用いることによる[48]。
本発明に記載の有用な代表的なモノクローナル抗体は、Zavadaらの特許および特許出願に以前に記載されたMabM75、MN9、MN12、MN7およびV/10を含む[米国特許第6,297,041号;米国特許第6,204,370号;米国特許第6,093,548号;米国特許第6,051,226号;米国特許第6,004,535号;米国特許第5,989,838号;米国特許第5,981,711号;米国特許第5,972,353号;米国特許第5,955,075号;米国特許第5,387,676号;米国特許出願公開20030049828号および第20020137910号明細書;および国際公開第03/100029号パンフレット]。本発明に記載の有用なモノクローナル抗体は、さまざまな予後診断臨床検査においてたとえば臨床試料中に、MNタンパク質/ポリペプチドを検出するために有用である。たとえば、モノクローナル抗体M75(MabM75)は、ATCC番号HB11128の名称で1992年9月17日にAmerican Tissue Type Culture Collection[ATCC]に寄託されたマウスリンパ球ハイブリドーマVU−M75によって産生される。ハイブリドーマVU−M75の作製は、Zavada et al., 国際公開第93/18152号パンフレットに記載されている。Mab M75は、非グリコシル化GST−CA IX融合タンパク質およびCGL3細胞で発現された未変性CA IXタンパク質の両方を同様に良好に認識する。M75Mabは、CA IXタンパク質の天然型および変性型の両方を認識する[56]。
抗体の作製を含む、ここで有用な他の生物学的手法を記載する一般的教科書は、Berger and Kimmel, Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, Inc., Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, (Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press; Cold Spring Harbor, N. Y.; 1989) Vol. 1-3; Current Protocols in Molecular Biology, F. M. Ausabel et al. [Eds. ], Current Protocols, a joint venture between Green Publishing Associates, Inc. and John Wiley & Sons, Inc. (supplemented through 2000), Harlow et al., Monoclonal Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1988), Paul [Ed. ]; Fundamental Immunoloav, Lippincott Williams &; Wilkins (1998), および Harlow et al., Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1998)を含む。
【0061】
材料および方法
対象 患者59名(女性20名、男性39名、年齢範囲41〜84歳)に由来する腫瘍性および対応する非腫瘍性パラフィン包埋組織標本は、Institute of Pathology of the University of Magdeburgの保管庫から、免疫組織化学分析のために回収した。Lauren分類[18]によると、27名の患者はびまん型、および32名は腸型胃癌に罹患していた。分子的分析のために、胃癌および対応する非病変組織を、胃癌患者18名(女性2名、男性16名、年齢範囲43〜82歳)から、外科手術の直後に採取した。組織試料は液体窒素中で急速凍結し、および−80℃にて保存し、および下記の通りさらに処理し、または組織学的処理のために10%中性化ホルマリン中で固定しおよびパラフィンに包埋した。本研究はUniversity of Magdeburg(ドイツ)の人権問題委員会によって承認された。
細胞株 胃癌細胞株MKN45、MKN28、AGS、N87およびHela細胞はRiken Cell Bank(Tsukuba, Japan)およびAmerican Type Culture Collection (ATCC, Rockville, MD)より入手した。AGSおよびHela細胞以外のすべての細胞は、10%ウシ胎児血清を含むRPMI培地(Gibco BRL, Rockville, MD, USA)中で維持した。AGS細胞株は10%ウシ胎児血清を含むF−12K培地中で維持し、およびHela細胞は10%ウシ胎児血清添加ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM, Gibco BRL, Rockville, MD, USA)中で培養した。
【0062】
一過性トランスフェクションアッセイ AGS胃癌細胞を2x105細胞/60mmシャーレの密度で播種した。細胞を24時間後に、ヒトCA9cDNA(1.5kb,Kpnl/Sacl部位)[3]を含むpSG5Cベクター(5pg)、または空pCMVβベクター(対照B)を用いてトランスフェクションし、またはTransfectam試薬単独(対照A)(Promega, Mannheim)と取扱説明書に従ってTransfectam試薬/DNAの最適容量/重量比2pl/pgDNAを用いてインキュベートした。タンパク質発現は24時間、48時間、および72時間後にウェスタンブロット分析によって確認された(記載せず)。
【0063】
細胞の5−アザ−dCを用いた処理 細胞を1x106細胞/60mmシャーレの密度で播種した。24時間後、細胞を5μMの5−アザ−dC(Sigma Chemical Co. , Deisenhofen, Germany)を用いて処理した。同一の濃度のDMSOもまた、細胞に対する非特異的な溶媒の作用について対照として用いた。総細胞タンパク質を、以前に記載された通り、5−アザ−dCの添加の3日後に単離した[19]。
【0064】
細胞増殖アッセイ AGS細胞を、10%ウシ胎児血清(Gibco Invitrogen)および50μg/mlリフォバシンを添加した培地中で増殖させた。親AGS細胞、pCMVβベクターをトランスフェクションされたAGS細胞、およびCA IXトランスフェクションされたAGS細胞を、30x104細胞/200μl/ウェルの密度で96ウェルプレートに播種した。37℃、5%(v/v)CO2にて50時間培養後、細胞を3H−メチル−チミジン(0.2uCi/ウェル)を用いてさらに8時間パルス標識し、およびグラスファイバー膜上へ採取した。組み込まれた放射能をシンチレーションカウントで測定した。各例でDNA合成は並行して6回評価しおよび1度繰り返し、結果として1細胞株につき計12回の実験を行った[20]。
【0065】
In vitro浸潤アッセイ AGS細胞の細胞浸潤を、以前に記載された通り、24ウェルTranswellチャンバー(Costar, Bodenheim, Germany)中で評価した[21]。上側および下側の培養室は孔径8μmのポリカーボネートフィルターで分けられた。浸潤アッセイの前に、ポリカーボネートフィルターを100ngのマトリゲル・マトリクスで被覆した。浸潤アッセイのために、ウェル当たり3x104細胞を再構成基底膜上で72時間インキュベートした。フィルターを通過しおよびマトリゲル被覆膜の下部に付着する細胞を、トリプシン/EDTAを用いて採取した;細胞数をCoulter Counter ZII(Coulter Immunotech, Marseille, France)で計測した。移動する細胞の数は、同一の培養条件下で72時間 24 ウェルプレートで増殖した対照から計算した。すべての実験は三連で実施した。
【0066】
CA9 mRNAレベルのリアルタイム定量分析 組織標本を、超音波ホモジナイザー(Ultra-Turrax T25 basic, IKA, Staufen, Germany)を用いてホモジナイズした。 総RNA (1μg)を、100UのMMLV逆転写酵素、RNアーゼH Minus点突然変異体(Promega, Mannheim, Germany)、16UのRNアーゼ阻害剤(Promega)、200pmolのランダムプライマー(Promega)および0.5mMのdNTP(Biomol Feinchemikalien, Hamburg, Germany)を含む、終容量20μlの逆転写緩衝液(50 mM Tris-HCl、pH 8.3、7 mM MgCl2および40mM KCl、および10 mM DTT)中で 37℃にて1時間逆転写した。要約すると、PCRプライマーはCA IX遺伝子の240 bpのcDNA断片(センス5'- AGGAGGATCTGCCCAGTGA-3'[配列番号10];アンチセンス5'- GCCAATGACTCTGGTCATC-3')[配列番号11]を増幅するように設計された。[4]。 CA IXの発現レベルは、以前に記載された通り、LightCycler法(Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, Germany)を用いることによって測定した[20]。
免疫組織化学法 脱パラフィン処理した連続切片を、免疫組織化学法のために3μmで切り出し、およびSuperfrost Plusスライドグラスに載せた。免疫染色を、CA IXに対するモノクローナル抗体M75を用いて実施した[15]。免疫染色については、切片をキシレン中で脱パラフィン処理し、およびアルコール系列中で再水和した。抗CA IX(1:10希釈)を加湿チャンバー内で37℃にて1時間投与し、次いでビオチニル化抗マウスIgG/抗ウサギIgG(1:200; Vector Laboratories;販売者Camon, Wiesbaden, Germany)およびABCアルカリホスファターゼ試薬と、各30分間室温でのインキュベートを実施した。工程の間に、切片をTris緩衝生理食塩水で洗浄した。免疫反応はアビジン ビオチン複合体法を用いて、Vectastain ABCアルカリホスファターゼ・キット(販売者Camon, Wiesbaden, Germany)を使用して視覚化した。ニューフクシンが色素原として作用した。すべての標本をヘマトキシリンで対比染色した。陰性対照には一次抗体を省いた。
【0067】
免疫組織化学結果の評価 腫瘍細胞および胃上皮において観察されたCA IXの発現を評価するために、2つの分類を用いた数値得点系を用いた。分類Aは免疫反応性細胞の数を0(免疫反応性細胞無し)、1(<10%)、2(11〜50%)、および3(>50%)と記録した。陽性例は分類A値1を有すると定義された。分類Bは免疫染色の強度を0(免疫染色無し)、1(弱い)、2(中等度の)、および3(強い)と記録した。最後に、分類AおよびBの値を加算して、「免疫反応性スコア」(IRS)を与え、この値は0〜6の範囲になり得る。IRSを計算するこの方法は、各カテゴリを合計してIRS1とはなることはない点に注意する。
【0068】
ウェスタンブロット分析 ヒト胃組織および細胞株を、1mM EDTA、50mMβ−グリセロリン酸、2mMオルトバナジン酸ナトリウム、1%Triton-100、10%グリセロール、1mM DTTおよびプロテアーゼ阻害剤(10mg/mlベンズアミジン、2mg/mlアンチパイン、および1mg/mlロイペプチン)を含む緩衝液中で溶解した。分離後、タンパク質をフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)膜(Bio-Rad)にエレクトロブロッティングした。膜を、以前に記載された通り、1:200抗CA IXM75抗体と1時間室温にてインキュベートした[20]。膜に結合した二次抗体を、増幅化学発光によって取扱説明書に従って検出した。負荷量を確実に等しくするため、ブロットを200mmol/Lグリシン、1%Tween-20、0.1%SDS、pH2.2中で2時間室温にて除去し、およびモノクローナル抗β−アクチン抗体(1:2000希釈;クローンAC−74;Sigma)を用いて再ハイブリダイズした[19]。
【0069】
統計解析 増殖/浸潤する細胞の数およびCA IXの発現を、スチューデントのtアッセイを用いて解析した。生存曲線をKaplan−Meier法を用いてプロットし、さらに生存時間の比較を、ログランクアッセイを用いて実施した。有意水準としてp値<0.05を取った。
【実施例】
【0070】
下記の実施例は単に説明を目的とし、および本発明をいかなる形でも限定しないことが意図される。
【0071】
実施例1
胃癌細胞におけるCA IX発現の局在化
CA IXの分布および発現パターンを免疫組織化学法によって調べた。組織 切片は抗CA IX 抗体 M75を用いて染色した。CA IX は、非腫瘍性 胃粘膜, 腸上皮化生に、および顕著により低頻度で胃癌に見出された。しばしば免疫染色 は不均一であった: たとえば、低分化(G3)腸型胃癌 は、粘膜中の腫瘍細胞の免疫染色を示さず、および筋層に浸潤している腫瘍細胞の部分集合に強い染色を示した(ヘマトキシリン対比染色)。
全体として、CA IXは試験したすべての患者の非腫瘍性胃粘膜に見出された。CA IXは小窩上皮細胞、胃底腺および腔腺に限られた。腸上皮化生が患者15名(26.3%)に観察され、およびCA IXは患者10名(66.7%)で腸上皮化生の刷毛縁に発現されていた。CA IXは胃癌細胞of患者31名(54.0%)の胃癌細胞に発現されていた。胃癌の腸型とびまん型との間に差は見出されなかった。CA IXは、びまん型胃癌の患者14名(51.9%)、中等度(G2)に分化した腸型胃癌の患者12名(57.1%)、および低分化腸型胃癌の患者5名(55.6%)の腫瘍細胞に存在した。CA IXについて平均総免疫反応性スコアは、胃癌で1.95±1.98と比較して、小窩上皮で5.66±0.78と計算された(p<0.001)。ここでも、胃癌の腸型とびまん型との間に差は見出されなかった。表1はCA IXについて総免疫反応性スコアを要約する。
【表1】
【0072】
実施例2
胃癌におけるCA IX発現の定量的分析
CA9 mRNAおよびCA IXタンパク質発現を次いでリアルタイム定量PCRおよびウェスタンブロッティングによって評価した。腫瘍試料は胃癌の患者18名から採取し、および対応する非腫瘍性胃粘膜もまたそれらの患者から入手可能であった。癌組織および非癌組織におけるCA9 mRNAレベルを患者10名において評価し、一方、ウェスタンブロット分析を12例において実施した。5例で、ウェスタンブロット分析およびリアルタイム定量PCRの両方を同一の患者において実施し、胃癌および非腫瘍性胃粘膜におけるCA IXタンパク質およびCA9 mRNAの発現レベルの直接比較を可能にした。全体として、CA IXタンパク質およびCA9 mRNAのレベルは、対応する非腫瘍性粘膜と比較して胃癌で有意に低下した(p=0.04)。CA IXタンパク質およびCA9 mRNAレベルの両方を評価した5例の直接比較は、全例でタンパク質レベルの低下がCA9 mRNAレベルの低下を伴ったことを明らかにした(図4)。
【0073】
実施例3
胃癌におけるCA IX発現の予後診断的意義
胃癌切除を受けている胃癌患者23名から生存データを入手した。上記で概説した通りの免疫組織化学スコアに従って、2つの群の患者が、低CA IX発現(IRS≦3)の群Aに対して、癌細胞におけるCA IX発現が高い(IRS>3)群Bとして分類された。高CA IX発現の患者について術後生存時間は、CA IX発現が無いかまたは低い患者におけるよりも有意に短かった(p=0.0281)(図5)。興味深いことに、CA IXの発現は筋層の浸潤部位で非常に顕著であり、胃癌におけるCA IX発現の全体的な消失にもかかわらず、浸潤先端部でのCA IX発現の維持または再発現がCA IX発現を有する患者における全体的な不良な生存率に寄与し得ることを示した。
【0074】
実施例4
CA IXトランスフェクションはAGS細胞の浸潤および増殖を誘導する
CA9 mRNAおよびCA IXタンパク質レベルを、AGS、N87およびMKN28胃癌細胞において、リアルタイムPCRおよびウェスタンブロッティングによって調べた。HeLa細胞を陽性対照として用いた。CA9 mRNAおよびCA IXタンパク質はN87およびMKN28細胞に見出されたが、ただしHeLa細胞と比較して顕著に低レベルであった(図4)。CA9 mRNAおよびCA IXタンパク質はAGS細胞では検出不能であり、AGS細胞を次いでCA IX発現に伴う生物学的変化を評価するために、CA9cDNAのトランスフェクション用に選択した。AGS細胞を、完全長CA9cDNA、空発現ベクター(対照B)を用いてトランスフェクションし、またはtransfectam試薬のみを用いてDNA導入を伴わずに処理した(対照A)。トランスフェクションされた細胞におけるCA IXの発現はウェスタンブロッティングによって確認された(記載せず)。トランスフェクションされたAGS細胞の浸潤能力を、24ウェルTranswellチャンバーを用いて評価した。AGS細胞におけるCA IXの発現は、対照、すなわち親AGS細胞のtransfectamだけとのインキュベート、または空ベクターをトランスフェクションされたAGS細胞(対照AおよびB)と比較して移動性細胞の有意な増加を結果として生じた(図6)。さらに、トランスフェクションされたAGS細胞は、2つの対照群と比較して、細胞増殖の有意な増加を示した(図6)。
【0075】
実施例5
メチル化の阻害による胃癌細胞におけるCA IX発現の回復の生物学的効果
CA9 mRNAのレベルをまた、脱メチル化試薬である5'−アザ−デオキシシチジンを用いた処理後に、N87、MKN28、MKN45およびAGS細胞において分析した。5'−アザ−デオキシシチジンを用いた処理によって、N87、MKN45およびAGS細胞、ではCA9 mRNAレベルが5倍を超えて増大し、CA IXの発現が少なくとも部分的にはメチル化によって調節されることが示された。MNK28細胞では効果は見られなかった(図7)。in vitroマトリゲル浸潤アッセイを用いて、未処理AGS細胞と比較した5'−アザ−デオキシシチジン処理AGS細胞の浸潤能力を評価した。未処理AGS細胞はDMSO処理AGS細胞(対照)と比較して浸潤性に顕著な差を示さなかった。対照的に、5'−アザ−デオキシシチジン処理AGS細胞の2.9%が再構成マトリゲル・マトリクスを通過した一方、未処理の1.05%およびDMSO処理AGS細胞の1.04%だけがフィルターの下側に検出可能であった(p<0.01)(図7)。
【0076】
考察
腎癌における近年の研究は、CA IX発現が少なくとも部分的にはCA9遺伝子プロモーターのメチル化によって調節されること、およびCA9プロモーター領域中の−74bpおよび−6bp位の低メチル化がヒト腎癌細胞株においてCA IX発現の増大を伴うことを示す[32、33]。本明細書に示される通り、CA IX発現の低下または消失が多数の胃癌および胃癌細胞株で観察されたため、メチル化の阻害がCA IX発現の回復に繋がるかどうかを分析するため、4種類の確立した胃癌細胞株を脱メチル化剤の5'−アザ−デオキシシチジンで処理した。上記の実施例5に記載される通り、MKN28細胞を除くすべての細胞株が、5'−アザ−デオキシシチジンを用いた処理後にリアルタイムPCR分析においてCA9 mRNAレベルの上昇を示し、胃癌細胞株におけるCA IXの発現が少なくとも部分的にはCpG部位のメチル化によって調節されることを示した[図7を参照]。CA IXの再発現がこれらの細胞において、細胞を5'−アザ−デオキシシチジンで処理した後に観察されたため、CA IX発現の回復がまた細胞の生物学的特性を変化させるかどうかを評価することが有意義と思われた。したがって、細胞をまた、処理有りおよび無しの細胞の浸潤性の変化の評価を可能にする浸潤アッセイで分析した。培地に保持したかまたはDMSOを培地に添加したAGS細胞の浸潤性に変化は観察されなかった一方、5'−アザ−デオキシシチジンとインキュベートしたAGS細胞は顕著な、ほぼ3倍上昇したレベルの浸潤性を示し、それらの細胞におけるCA IXの回復が浸潤の増大を伴うことを示した。
【0077】
本明細書に報告したデータに基づき、CA IXの消失は胃癌における初期現象と仮定することができ、それはプロモーターメチル化の増大を伴い得る。胃癌進行の過程のより後期で、CA IX発現が癌細胞の浸潤先端部にて誘導され、そのことがそれらの細胞に、増殖および浸潤性増殖を促進することによる追加の増殖効果を与える。HIF−1αが腫瘍内部の低酸素症によって誘導され、これが次いでCA IX発現を誘導するため[24、25]、胃癌の浸潤先端部でのCA IXの再発現は、HIF−1のO2に調節されるサブユニットの活性化の結果として起こる可能性があると考えることができ、胃癌の浸潤先端部でのHIF−1α発現の増大に繋がり、このことは結腸癌およびその他の癌で既に報告されている[34]。要約すると、しばしば胃癌で観察されるCA IX発現の消失は初期現象であり得る一方、胃癌の部分集合の浸潤先端部でのCA IXの過剰発現は浸潤性増殖に繋がる可能性があり、およびそれによって胃癌の増殖および進行に寄与する。本発明者らはその結果、胃癌と類似のCA IX発現パターンを有する前腫瘍性/腫瘍性疾患もまた、本明細書で開示される予後診断法の対象となると結論する。
【0078】
ブダペスト条約寄託
下記に列挙した材料は、American Type Culture Collection (ATCC)、現所在10810 UniversityBlvd., Manassus, Virginia 20110-2209(米国)に寄託された。寄託は「特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約(「ブダペスト条約」)」の条項に基づいて行った。生存培養の維持は寄託の日から30年間保証されている。ハイブリドーマおよびプラスミドはブダペスト条約の条項に従ってATCCによって利用可能になり、寄託されたハイブリドーマおよびプラスミドの一般への制限無しの分譲を本出願の特許付与時から保証する、出願人とATCCとの間の合意下に置かれる。寄託された細胞株の入手可能性は、いかなる政府の権限下でもその政府の特許法に基づいて付与される権利に抵触して本発明を実施するための許諾と解してはならない。
ハイブリドーマ 寄託日 ATCC番号
VU−M75 1992年9月17日 HB 11128
MN 12.2.2 1994年6月9日 HB 11647
プラスミド 寄託日 ATCC番号
A4a 1995年6月6日 97199
XE1 1995年6月6日 97200
XE3 1995年6月6日 97198
【0079】
同様に、V/10 モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株V/10−VUは、2003年2月19日にブダペスト条約に基づき、Universeit Gent, K. L. Ledeganckstraat 35, B-9000 Gent(ベルギー)のLaboratorium voor Moleculaire Biologie-Plasmidencollectie (LMBP)の Belgian Coordianted Collections of Microorganisms (BCCM) [BCCM/LMBP]の国際寄託機関(IDA)に受託番号LMBP 6009CBとして寄託した。
本発明の前記実施形態の詳細な説明は例証および説明の目的で示されている。それらは網羅的であることまたは本発明を開示された正確な形に制限することを意図せず、および明らかに上記の教示に照らして多くの改変および変化が可能である。それらの実施形態は、本発明の原理および実用的な応用を説明し、それによって、さまざまな実施形態でおよび意図される特定用途に適したさまざまな改変を伴って、他の当業者に本発明を使用可能にするために選択され説明されている。
【0080】
本明細書に引用された全ての参考文献は参照により本開示に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1A〜CはMN/CA IX完全長cDNAのヌクレオチド配列を示す[配列番号1]。図1A〜Cはまた、そのcDNAによってコードされる推定アミノ酸配列を示す[配列番号2]。
【図2】図2A〜FはMN/CA9の10,898bpの完全なゲノム配列を示す[配列番号3]。塩基数は下記の通りである:A2654個;C2739個;G2645個;およびT2859個。11個のエクソンは一般に大文字で示されているが、エクソン1はRNアーゼ保護アッセイによって測定された通り、3507位で開始すると考えられる。
【図3】図3はヒト MN/CA9 遺伝子のエクソン−イントロンマップを示す。エクソン(番号を付した斜線囲み)の位置および大きさ、Alu反復配列(白囲み)、およびLTR関連配列(最初の番号無しの点描囲み)は表示のスケールに調整されている。個々のMN/CA IXタンパク質ドメインに対応するエクソンは、PG(プロテオグリカン様ドメイン)、CA(炭酸脱水酵素ドメイン)、TM(膜貫通性アンカー)、およびIC(細胞質内の尾部)と表示した破線枠で囲んである。マップの下に、アミノ酸配列の整列がMN/CA IXタンパク質PG領域(aa53〜111)[配列番号4]とヒト・アグリカン(aa781〜839)[配列番号5]との間のホモロジーの程度を示す
【図4】図4(実施例2で考察)は、胃癌におけるCA IXタンパク質およびCA9mRNのウェスタンブロット分析およびリアルタイムPCRからの結果を示す。(A)ウェスタンブロット分析は、非腫瘍性胃粘膜(N)と比較して、胃癌(T)におけるCA IXタンパク質レベルの低下を明らかにした。CA IXは54および58kDaを有するタンパク質として同定された。β−アクチンタンパク質レベルはタンパク質レベルの標準化のために評価された。CA IXタンパク質はAGS細胞には検出されなかった一方、低レベルがN87およびMKN28細胞で見出された。Hela細胞は対照に用いた。(B)対応する非腫瘍性胃粘膜(N)と比較したウェスタンブロット分析およびリアルタイムPCRによって評価された、胃腫瘍(T)におけるCA9 mRNAおよびCA IXタンパク質レベルの定量的分析。5例でタンパク質およびmRNAレベルを癌性および非癌性組織の両方で評価し、および全例が癌性部分でレベルの低下を示した。
【図5】図5(実施例3で考察)は、CA IXタンパク質の低レベルまたは高レベルを発現している胃癌を有する患者の生存分析を示す。材料および方法で概説した通りの免疫反応性スコアを用いて、IRS≦3(CA IX−)の患者の群およびIRS>3(CA IX+)の別の群が識別された。生存はCA IX発現の上昇がみられた患者(スコア>3;CA IX+)で有意に短かった(p=0.0281)。
【図6】図6(実施例4で考察)は、AGS胃癌細胞におけるCA IX過剰発現のin vitro分析を示す。(A)CA9cDNA(CA9)をトランスフェクションされたAGS細胞、DNA無しでTransfectam試薬とインキュベートしたもの(対照A)、または空pCMVβベクターをトランスフェクションされたもの(対照B)の細胞浸潤を、24ウェルTranswellチャンバー(Costar, Bodenheim, Germany)中で上記の通り評価した。空PCMVPベクターをトランスフェクションされたAGS細胞とCA9をトランスフェクションされた細胞との差、およびDNA導入無しの細胞とCA9トランスフェクションされた細胞との差は統計的に有意であった(対応のない両側tアッセイ;平均SD)。バーは平均SD。(B)AGS癌細胞におけるCA9トランスフェクションによる細胞増殖の誘導。CA9cDNAを用いたAGS細胞のトランスフェクションは、DNAトランスフェクション無しの細胞(対照A)または空pCMVβベクターをトランスフェクションされた細胞(対照B)と比較して細胞増殖の有意な誘導に繋がった(対応のない両側tアッセイ;平均SD)。バーは平均SD。
【図7】図7(実施例5で考察)は、胃癌細胞株におけるCA IX発現に対するメチル化効果の分析を示す。(A)胃癌細胞株におけるCA9 mRNAレベルを、5'−アザデオキシシチジン(AZA)とのインキュベート有りおよび無しで評価した。基礎mRNA発現(白棒)は全細胞で標準化され、および5'−アザデオキシシチジン(灰色棒)とのインキュベート後の相対変化をリアルタイムPCRによって評価した。MKN28細胞については有意な変化は観察されなかった一方、残りの細胞、すなわちAGS、MKN45およびN87細胞は、5'−アザデオキシシチジン(AZA)での処理後にCA9 mRNAレベルに5倍を超える増加を示した。(B)DMSOまたは5'−アザデオキシシチジン有りまたは無しで処理したAGS細胞の細胞浸潤を、24ウェルTranswell(孔径8μm)チャンバー(Costar, Bodenheim, Germany)中で評価した。浸潤細胞をフィルターの下側からトリプシン/EDTAを用いて採取した。細胞数はCoulter Counter ZII (Coulter Immunotech, Marseille, France)で計数した。5'−アザデオキシシチジン(AZA)と未処理AGS細胞(AGS、DMSO)との間の差は統計的に有意であった(対応のない両側tアッセイ;平均SD)。バーは平均SD。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象脊椎動物が罹患する腫瘍性/前腫瘍性疾患の予後診断方法であって、該疾患が、通常MN/CA IXタンパク質を発現するが発癌によってMN/CA IX発現を喪失するかまたはその発現が顕著に減少する組織を冒すものであり、該方法が:
(a)前記脊椎動物から採取した前腫瘍性/腫瘍性組織を含む試料中のMN/CA9遺伝子発現産物を検出し、
(b)前記試料中のMN/CA9遺伝子発現産物のレベルを定量し、
(c)前記工程(b)で定量したMN/CA9遺伝子発現産物のレベルを、対象脊椎動物と同じ前腫瘍性/腫瘍性疾患に罹患した脊椎動物から採取した比較可能な試料中のMN/CA9遺伝子発現産物の平均レベルと比較し、さらに
(d)前記工程(b)で定量したMN/CA9遺伝子発現産物のレベルが前記比較可能な試料中のMN/CA9遺伝子発現産物の平均レベルよりも高い場合、前記対象脊椎動物がより悪い予後を有すると判定する;工程を含み、
前記MN/CA IXタンパク質が:
(1)配列番号1のコード領域;
(2)配列番号1のコード領域の相補鎖に対して、42℃で50%ホルムアミドのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列;および
(3)遺伝コードの縮重のため配列番号1のコード領域または(2)のヌクレオチド配列とコドン配列が異なるヌクレオチド配列;より成る群から選択されるヌクレオチド配列によってコードされることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記前腫瘍性/腫瘍性疾患に罹患していない場合に、前記組織の細胞の40%以上がMN/CA IXタンパク質を発現することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記対象脊椎動物が罹患する前記前腫瘍性/腫瘍性疾患が、胃粘膜、胆のう、胆管、十二指腸腺の管細胞、精巣輸出管および精巣網を含む精巣、表層体腔上皮および卵巣網を含む卵巣、毛包の基底細胞、および中枢神経系脈絡叢の前腫瘍性/腫瘍性疾患より成る群から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記脊椎動物が哺乳類であり、かつ前記前腫瘍性/腫瘍性疾患が、胃粘膜、胆のう、胆管、および十二指腸腺の管細胞の前腫瘍性/腫瘍性疾患より成る群から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記脊椎動物がヒト患者であり、かつ前記前腫瘍性/腫瘍性疾患が、胃粘膜、胆のう、胆管および十二指腸腺の管細胞の腫瘍性疾患より成る群から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記腫瘍性疾患が胃癌であり、かつ前記試料が該胃癌の浸潤先端部から採取されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記腫瘍性疾患が腫瘍であり、かつ前記試料が該腫瘍からおよび/または該腫瘍に由来する転移性病変から採取されることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項8】
試料中のMN/CA IXタンパク質を検出および定量するためにMN/CA IX特異的抗体を用いた免疫組織化学染色が用いられ、
前記定量工程(b)が前記試料中の細胞の免疫反応性スコアを判定することを含み、該判定が下記工程を含み:
(b1)免疫反応性細胞の割合(%)を特定し、該割合を下記の値に割り当てる;
免疫反応性細胞無しの場合には値0、
免疫反応性細胞が10%未満の場合には値1、
免疫反応性細胞が11%ないし50%の場合には値2、または
免疫反応性細胞が50%を超える場合には値3
(b2)免疫反応性細胞の免疫染色の強度を特定し、MN/CA IX免疫染色の強度を下記の値に割り当てる;
陰性対照と等しい染色には値0、
弱い染色には値1、
中等度の染色には値2、または
強い染色には値3;さらに
(b3)前記工程(b1)で求められた免疫反応性細胞の割合に関する値、および前記(b2)で求められた免疫染色の強度に関する値を加算して、免疫反応性スコアを取得する;
前記比較工程(c)が、前記工程(b1)から(b3)での対象脊椎動物に由来する試料の免疫反応性スコアの判定と同様に、前記比較可能な試料の免疫反応性スコアを判定し、さらに該比較可能な試料からの免疫反応性スコアを平均することを含み;さらに
前記工程(b1)から(b3)で判定された前記試料の免疫反応性スコアが前記比較可能な試料の平均免疫反応性スコアを上回る場合、前記免疫反応性スコアが前記平均免疫反応性スコア以下の場合よりも前記対象脊椎動物がより悪い予後を有すると前記工程(d)で結論付けられることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
より悪い予後が、生存期間の短縮、前記前腫瘍性/腫瘍性疾患の再発リスクの増大、または、治療に対する低下したまたは抵抗性の反応について評価されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記疾患が腫瘍性であり、腫瘍または腫瘍およびその腫瘍に由来する一つ以上の転移性病変を含み、より悪い予後が、腫瘍または腫瘍および一つ以上の転移性病変の治療および/または外科的除去後の生存期間の短縮、腫瘍性疾患の再発リスクの増大、または治療に対する低下したまたは抵抗性の反応について評価されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記前腫瘍性/腫瘍性の試料が、ホルマリン固定パラフィン包埋組織試料または凍結組織試料であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記MN/CA9遺伝子発現産物が、MN/CA IXタンパク質またはMN/CA IXポリペプチドを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記MN/CA9遺伝子発現産物が、MN/CA IXタンパク質またはMN/CA IXポリペプチドをコードするmRNA、またはMN/CA IXタンパク質またはMN/CA IXポリペプチドをコードするcDNAを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記検出工程(a)が、ウェスタンブロット、酵素免疫測定法、ラジオイムノアッセイ、競合イムノアッセイ、二抗体サンドイッチアッセイ、免疫組織化学染色アッセイ、凝集アッセイ、蛍光イムノアッセイおよびサイトフルオロメトリーより成る群から選択されるアッセイの使用を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記検出工程(a)が、PCR、RT-PCR、リアルタイムPCRによるか、または定量的リアルタイムRT-PCRによることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記検出工程(a)が、受託番号ATCC HB11128を有するハイブリドーマVU-M75によって分泌されるモノクローナル抗体の使用を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記検出工程(a)が免疫組織化学染色によって行われ、かつ前記定量工程(b)が免疫反応性細胞の割合の特定を含むことを特徴とする請求項1の方法。
【請求項18】
前記検出工程(a)が免疫組織化学染色によって行われ、かつ前記定量工程(b)が免疫反応性細胞の割合および免疫染色の強度の特定を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記脊椎動物が哺乳類であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記哺乳類がヒトであることを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記脊椎動物が罹患する前記前腫瘍性/腫瘍性疾患の治療の選択において補助として用いられることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項22】
前記試料が前記前腫瘍性/腫瘍性疾患の浸潤先端部から採取され、かつ前記比較可能な試料が同様の浸潤先端部試料であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項23】
前記前腫瘍性/腫瘍性疾患が腫瘍性疾患であることを特徴とする請求項22記載の方法。
【請求項24】
対象脊椎動物が罹患する腫瘍性/前腫瘍性疾患の予後診断方法であって、該疾患が、細胞の40%以上が通常MN/CA IXタンパク質を発現するが発癌によってMN/CA IX発現を喪失するかまたはその発現レベルが顕著に低下する組織を冒すものであり、該方法が:
(a)前記前腫瘍性/腫瘍性疾患の浸潤先端部から組織試料を採取し;
(b)前記浸潤先端部試料において、MN/CA9遺伝子発現産物が存在しないか、またはその発現レベルが、前記組織が前記疾患に冒されていない場合に該組織において通常発現されるMN/CA9遺伝子発現産物のレベルよりも顕著に低下したレベルであるかどうかを検出し;さらに
(c)前記MN/CA9遺伝子発現産物が前記浸潤先端部試料中に存在しないかまたは顕著に低下したレベルである場合ではないときに、前記浸潤先端部試料中に前記MN/CA9遺伝子発現産物が存在しないかまたは顕著に低下したレベルである場合よりも対象脊椎動物は予後が悪いと結論付ける;工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項1】
対象脊椎動物が罹患する腫瘍性/前腫瘍性疾患の予後診断方法であって、該疾患が、通常MN/CA IXタンパク質を発現するが発癌によってMN/CA IX発現を喪失するかまたはその発現が顕著に減少する組織を冒すものであり、該方法が:
(a)前記脊椎動物から採取した前腫瘍性/腫瘍性組織を含む試料中のMN/CA9遺伝子発現産物を検出し、
(b)前記試料中のMN/CA9遺伝子発現産物のレベルを定量し、
(c)前記工程(b)で定量したMN/CA9遺伝子発現産物のレベルを、対象脊椎動物と同じ前腫瘍性/腫瘍性疾患に罹患した脊椎動物から採取した比較可能な試料中のMN/CA9遺伝子発現産物の平均レベルと比較し、さらに
(d)前記工程(b)で定量したMN/CA9遺伝子発現産物のレベルが前記比較可能な試料中のMN/CA9遺伝子発現産物の平均レベルよりも高い場合、前記対象脊椎動物がより悪い予後を有すると判定する;工程を含み、
前記MN/CA IXタンパク質が:
(1)配列番号1のコード領域;
(2)配列番号1のコード領域の相補鎖に対して、42℃で50%ホルムアミドのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列;および
(3)遺伝コードの縮重のため配列番号1のコード領域または(2)のヌクレオチド配列とコドン配列が異なるヌクレオチド配列;より成る群から選択されるヌクレオチド配列によってコードされることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記前腫瘍性/腫瘍性疾患に罹患していない場合に、前記組織の細胞の40%以上がMN/CA IXタンパク質を発現することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記対象脊椎動物が罹患する前記前腫瘍性/腫瘍性疾患が、胃粘膜、胆のう、胆管、十二指腸腺の管細胞、精巣輸出管および精巣網を含む精巣、表層体腔上皮および卵巣網を含む卵巣、毛包の基底細胞、および中枢神経系脈絡叢の前腫瘍性/腫瘍性疾患より成る群から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記脊椎動物が哺乳類であり、かつ前記前腫瘍性/腫瘍性疾患が、胃粘膜、胆のう、胆管、および十二指腸腺の管細胞の前腫瘍性/腫瘍性疾患より成る群から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記脊椎動物がヒト患者であり、かつ前記前腫瘍性/腫瘍性疾患が、胃粘膜、胆のう、胆管および十二指腸腺の管細胞の腫瘍性疾患より成る群から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記腫瘍性疾患が胃癌であり、かつ前記試料が該胃癌の浸潤先端部から採取されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記腫瘍性疾患が腫瘍であり、かつ前記試料が該腫瘍からおよび/または該腫瘍に由来する転移性病変から採取されることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項8】
試料中のMN/CA IXタンパク質を検出および定量するためにMN/CA IX特異的抗体を用いた免疫組織化学染色が用いられ、
前記定量工程(b)が前記試料中の細胞の免疫反応性スコアを判定することを含み、該判定が下記工程を含み:
(b1)免疫反応性細胞の割合(%)を特定し、該割合を下記の値に割り当てる;
免疫反応性細胞無しの場合には値0、
免疫反応性細胞が10%未満の場合には値1、
免疫反応性細胞が11%ないし50%の場合には値2、または
免疫反応性細胞が50%を超える場合には値3
(b2)免疫反応性細胞の免疫染色の強度を特定し、MN/CA IX免疫染色の強度を下記の値に割り当てる;
陰性対照と等しい染色には値0、
弱い染色には値1、
中等度の染色には値2、または
強い染色には値3;さらに
(b3)前記工程(b1)で求められた免疫反応性細胞の割合に関する値、および前記(b2)で求められた免疫染色の強度に関する値を加算して、免疫反応性スコアを取得する;
前記比較工程(c)が、前記工程(b1)から(b3)での対象脊椎動物に由来する試料の免疫反応性スコアの判定と同様に、前記比較可能な試料の免疫反応性スコアを判定し、さらに該比較可能な試料からの免疫反応性スコアを平均することを含み;さらに
前記工程(b1)から(b3)で判定された前記試料の免疫反応性スコアが前記比較可能な試料の平均免疫反応性スコアを上回る場合、前記免疫反応性スコアが前記平均免疫反応性スコア以下の場合よりも前記対象脊椎動物がより悪い予後を有すると前記工程(d)で結論付けられることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
より悪い予後が、生存期間の短縮、前記前腫瘍性/腫瘍性疾患の再発リスクの増大、または、治療に対する低下したまたは抵抗性の反応について評価されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記疾患が腫瘍性であり、腫瘍または腫瘍およびその腫瘍に由来する一つ以上の転移性病変を含み、より悪い予後が、腫瘍または腫瘍および一つ以上の転移性病変の治療および/または外科的除去後の生存期間の短縮、腫瘍性疾患の再発リスクの増大、または治療に対する低下したまたは抵抗性の反応について評価されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記前腫瘍性/腫瘍性の試料が、ホルマリン固定パラフィン包埋組織試料または凍結組織試料であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記MN/CA9遺伝子発現産物が、MN/CA IXタンパク質またはMN/CA IXポリペプチドを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記MN/CA9遺伝子発現産物が、MN/CA IXタンパク質またはMN/CA IXポリペプチドをコードするmRNA、またはMN/CA IXタンパク質またはMN/CA IXポリペプチドをコードするcDNAを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記検出工程(a)が、ウェスタンブロット、酵素免疫測定法、ラジオイムノアッセイ、競合イムノアッセイ、二抗体サンドイッチアッセイ、免疫組織化学染色アッセイ、凝集アッセイ、蛍光イムノアッセイおよびサイトフルオロメトリーより成る群から選択されるアッセイの使用を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記検出工程(a)が、PCR、RT-PCR、リアルタイムPCRによるか、または定量的リアルタイムRT-PCRによることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記検出工程(a)が、受託番号ATCC HB11128を有するハイブリドーマVU-M75によって分泌されるモノクローナル抗体の使用を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記検出工程(a)が免疫組織化学染色によって行われ、かつ前記定量工程(b)が免疫反応性細胞の割合の特定を含むことを特徴とする請求項1の方法。
【請求項18】
前記検出工程(a)が免疫組織化学染色によって行われ、かつ前記定量工程(b)が免疫反応性細胞の割合および免疫染色の強度の特定を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記脊椎動物が哺乳類であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記哺乳類がヒトであることを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記脊椎動物が罹患する前記前腫瘍性/腫瘍性疾患の治療の選択において補助として用いられることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項22】
前記試料が前記前腫瘍性/腫瘍性疾患の浸潤先端部から採取され、かつ前記比較可能な試料が同様の浸潤先端部試料であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項23】
前記前腫瘍性/腫瘍性疾患が腫瘍性疾患であることを特徴とする請求項22記載の方法。
【請求項24】
対象脊椎動物が罹患する腫瘍性/前腫瘍性疾患の予後診断方法であって、該疾患が、細胞の40%以上が通常MN/CA IXタンパク質を発現するが発癌によってMN/CA IX発現を喪失するかまたはその発現レベルが顕著に低下する組織を冒すものであり、該方法が:
(a)前記前腫瘍性/腫瘍性疾患の浸潤先端部から組織試料を採取し;
(b)前記浸潤先端部試料において、MN/CA9遺伝子発現産物が存在しないか、またはその発現レベルが、前記組織が前記疾患に冒されていない場合に該組織において通常発現されるMN/CA9遺伝子発現産物のレベルよりも顕著に低下したレベルであるかどうかを検出し;さらに
(c)前記MN/CA9遺伝子発現産物が前記浸潤先端部試料中に存在しないかまたは顕著に低下したレベルである場合ではないときに、前記浸潤先端部試料中に前記MN/CA9遺伝子発現産物が存在しないかまたは顕著に低下したレベルである場合よりも対象脊椎動物は予後が悪いと結論付ける;工程を含むことを特徴とする方法。
【図1】
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公表番号】特表2007−509612(P2007−509612A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−535445(P2006−535445)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/034573
【国際公開番号】WO2005/037083
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(501161745)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/034573
【国際公開番号】WO2005/037083
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(501161745)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]