説明

MRI誘導電流の低減のために構成された導体を含むリード線及び移植式医療用デバイス

磁気共鳴撮像法(MRI)のような医学的処置の際の磁場に対する移植式リード線の反応を改善するためのシステムおよび方法が記載される。様々な実施形態において、リード線は、螺旋形に形作られかつ1つ以上の高電圧導体によって少なくとも部分的に径方向に取り囲まれた内側導体を備えている。高電圧導体は、カプラーを介して、ショック用コイルに機械的に、または電気的に、あるいはその両方で結合されうる。内側導体または外側導体のうち少なくともいずれか一方のピッチは、リード線の長さに沿って(例えば連続的に、またはある地点で)変化してよい。いくつかの実施形態では、内側コイル、高電圧導体コイル、およびショック用コイルのファイラー厚さ、ピッチ、および平均コイル径は、これらのコイルがMRIスキャナによって通常生成される高周波(例えば40MHz〜300MHz)の外部から印加された電磁エネルギーに供された時に所望のインダクタンス値を有するように、構成されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の様々な実施形態は、概して移植式医療用デバイスに関する。より具体的には、本発明の実施形態は磁気共鳴撮像法(MRI)との適合のための導体構成に関する。
【背景技術】
【0002】
適切に機能している場合、ヒトの心臓はそれ自身固有のリズムを維持し、身体の循環系全体にわたって十分な血液をポンプ吹送することができる。しかしながら、一部の人々は、血液循環および心拍出量の低下をもたらしうる心律動異常と呼ばれる不規則な心律動を有する。心律動異常を治療する1つの方法は、ペースメーカ、移植式除細動器(ICD)、または心臓再同期療法(CRT)デバイスのような、パルス発生器の使用を含む。そのようなデバイスは、典型的には、心臓にペーシング療法または電気ショックのうち少なくともいずれか一方を送達するために使用可能な1つ以上の電極を有するいくつかの導電性リード線に結合される。例えば、房室(AV)ペーシングでは、リード線は通常は心臓の心室および心房の中に配置され、リード端子ピンを介して、胸筋または腹部内に移植されたペースメーカまたは除細動器に取り付けられる。
【0003】
磁気共鳴撮像法(MRI)は、患者の身体内部の画像を得るために核磁気共鳴技術を利用する非侵襲性の撮像手法である。典型的には、MRIシステムは、約0.2〜3テスラの磁場強度を有する磁気コイルを使用する。該手法の間、身体組織は、磁場に垂直な平面において電磁エネルギーのRFパルスに一時的に曝露される。これらのパルスから生じた電磁エネルギーは、組織中の励起された原子核の緩和特性を測定することにより身体組織を画像化するために使用することができる。場合によっては、患者の胸部エリアの画像化が臨床的に有益なこともある。胸部MRI手法では、移植されたパルス発生器およびリード線も印加された電磁場に曝露される可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の様々な実施形態は、概して、磁気共鳴撮像法(MRI)との適合のための移植式リード線の導体構成に関する。
実施例1において、電気リード線は可撓性本体を含んでなり、コネクタ、内側導体コイル、および高電圧多重ファイラー外側コイルが提供される。可撓性本体は、基端側端部を備えた基端領域と、先端領域とを有する。コネクタは、移植式パルス発生器にリード線を電気的かつ機械的に接続するために、リード線の可撓性本体の基端側端部に結合される。内側導体コイルは、内側コイル導体リード線がある範囲の高周波にさらされた時に内側導体コイルが0.0079μΗ/mm(0.2μΗ/インチ)以上の第1のインダクタンス値を有するように構成されたファイラー厚さ、ピッチおよび平均コイル径を有する1以上の略円筒状に巻線されたファイラーから形成される。高電圧多重ファイラー外側コイルは、基端側区域、先端側区域、および長さを有し、該高電圧多重ファイラー外側コイルはおよそ10オーム未満の直流(DC)抵抗を備えかつ各々がファイラー厚さを有する2以上の略円筒状に巻線されたファイラーから形成され、該高電圧多重ファイラー外側コイルは、該高電圧多重ファイラー外側コイルがある範囲の高周波にさらされた時に該高電圧多重ファイラー外側コイルが0.0039μΗ/mm(0.1μΗ/インチ)以上の第2のインダクタンス値を有するように構成されたピッチおよび平均コイル径を有する。
【0005】
実施例2において、実施例1の電気リード線は、内側導体コイルの少なくとも一部の周囲に絶縁体の層が配置される。
実施例3において、実施例1または2のうち少なくともいずれか一方の電気リード線は、内側導体コイルが単一ファイラー構造を有する。
【0006】
実施例4において、実施例1、2または3のうち少なくともいずれかの電気リード線は、内側導体コイルがおよそ0.13mm(およそ0.005インチ)の平均ピッチを有する。
【0007】
実施例5において、実施例4の電気リード線は、内側導体コイルが単一ファイラー構造および0.58mm(0.023インチ)の平均コイル径を有する。
実施例6において、実施例1〜5のうちいずれかの電気リード線は、内側導体コイルがおよそ0.020μΗ/mm(およそ0.5μΗ/インチ)より大きなインダクタンスを有する。
【0008】
実施例7において、実施例1〜6のうちいずれかの電気リード線は、第1のインダクタンス値(L)が、円筒状に巻線されたファイラーの数(N)、内側導体コイルのピッチ(b)、および平均コイル径(a)によって、式L≒μπa/4b(式中、μは自由空間の透磁率である)で規定される。
【0009】
実施例8において、実施例1〜7のうちいずれかの電気リード線は、内側導体コイルが200オーム未満の直流抵抗を有する。
実施例9において、実施例1〜8のうちいずれかの電気リード線は、内側導体コイルが双極性または単極性である。
【0010】
実施例10において、実施例1〜9の電気リード線は、高電圧多重ファイラー外側コイルがリボン型の導体コイルである。
実施例11において、医療用リード線は、可撓性本体、コネクタ、低電圧内側導体コイル、多重ファイラー高電圧外側導体コイル、およびトリファイラーのショック用コイルを含んでなる。可撓性本体は、基端側端部を備えた基端領域と先端領域とを有する。コネクタは、移植式パルス発生器にリード線を電気的かつ機械的に接続するために構成された本体の基端側端部に結合される。低電圧内側導体コイルはリード線の先端側区域と基端側区域との間で電気信号を伝えるように構成され、該低電圧内側導体コイルは、40MHz〜300MHzの高周波にさらされた時に該低電圧内側導体コイルが0.0079μΗ/mm(0.2μΗ/インチ)以上の第1のインダクタンスを有するように構成されたピッチおよび平均コイル径を有する、1以上の略円筒状に巻線されたファイラーから形成される。多重ファイラー高電圧外側導体コイルは、低電圧内側導体コイルの少なくとも一部を径方向に取り囲むカッドファイラーの螺旋様の形状と、10オーム未満の直流抵抗と、40MHz〜300MHzの高周波にさらされた時に0.0039μΗ/mm(0.1μΗ/インチ)以上の第2のインダクタンスを有する多重ファイラー高電圧外側導体コイルを提供するように構成された外径および平均ピッチとを有している。トリファイラーのショック用コイルは基端側端部を有し、トリファイラーのショック用コイルの基端側端部は、カプラーを介して多重ファイラー高電圧外側コイルの先端側端部に接続される。
【0011】
実施例12において、実施例11の医療用リード線は、該リード線が、低電圧内側導体コイル、多重ファイラー高電圧外側導体コイル、およびトリファイラーのショック用コイルのうち1つ以上を取り囲む1つ以上の絶縁材層をさらに備える。
【0012】
実施例13において、実施例11または12のうち少なくともいずれかの医療用リード線は、多重ファイラー高電圧外側コイルがトリファイラーのショック用コイルの外径より大きな外径を有する。
【0013】
実施例14において、実施例11〜13のうちいずれかの医療用リード線は、低電圧内側導体コイル、多重ファイラー高電圧外側導体コイル、およびトリファイラーのショック用コイルが異なるピッチを有する。
【0014】
実施例15において、実施例11〜14のうちいずれかの医療用リード線は、低電圧内側導体コイル、多重ファイラー高電圧外側導体コイル、およびトリファイラーのショック用コイルがそれぞれ約0.005インチ(0.127mm)以下のピッチを有する。
【0015】
実施例16において、移植式医療用デバイスは、パルス発生器に機械的かつ電気的に結合された基端側端部を有する基端領域と、患者の心臓内部に移植された先端領域とを備えた可撓性本体を有するリード線を含んでなり、該リード線は心臓とパルス発生器との間で電気信号を伝えるように構成される。リード線は、リード線の先端領域と基端領域との間で電気信号を伝えるように構成された低電圧内側導体コイルをさらに備え、該低電圧内側導体コイルは1つ以上の巻線されたファイラーから形成されている。低電圧内側導体コイルは、ピッチ、平均コイル径を備えた分離された個々のターンを有し、1つ以上の巻線されたファイラーの数は、低電圧内側導体コイルが40MHz〜300MHzの高周波にさらされた時に0.0079μΗ/mm(0.2μΗ/インチ)以上の第1のインダクタンス値を有するように構成される。リード線はさらに、10オーム未満の直流抵抗を有するカッドファイラーの螺旋様の形状を備えた高電圧外側コイルを備え、該高電圧外側コイルは低電圧内側導体コイルの少なくとも一部を径方向に取り囲み、かつ、40MHz〜300MHzの高周波にさらされた時に0.0039μΗ/mm(0.1μΗ/インチ)以上の第2のインダクタンス値を有する高電圧外側コイルが得られるように構成された外径、ファイラー径、および平均ピッチを有している。該リード線はさらに、基端側端部を備えたトリファイラーのショック用コイルも備え、該基端側端部はカプラーを介して高電圧外側コイルの先端側端部に接続される。
【0016】
実施例17において、実施例16の移植式医療用デバイスは、リード線が200オーム未満の直流抵抗を有する。
実施例18において、実施例16または17のうち少なくともいずれかの移植式医療用デバイスは、低電圧内側導体コイルがdft(登録商標)MP35N(商標)から作製されたファイラーを含む。
【0017】
実施例19において、実施例16〜18のうちいずれかの移植式医療用デバイスは、低電圧内側導体コイルが双極性または単極性である。
実施例20において、実施例16〜19のうちいずれかの移植式医療用デバイスは、高電圧導体コイルのピッチは約0.25mm(約0.010インチ)であり、高電圧導体コイルの平均コイル径は約2.3mm(約0.090インチ)であって約0.0051μΗ/mm(約0.13μΗ/インチ)のコイルインダクタンス値をもたらし、かつ、内側導体コイルのピッチは約0.13mm(約0.005インチ)であり、内側導体コイルは1つの円筒状に巻線されたファイラーから形成され、内側導体コイルの平均コイル径は約0.58mm(約0.023インチ)であって約0.020μΗ/mm(約0.5μΗ/インチ)の単位長さ当たりのコイルインダクタンス値を有する。
【0018】
実施例21において、実施例16〜20のうちいずれかの移植式医療用デバイスは、パルス発生器がペースメーカまたは除細動器である。
実施例22において、移植式医療用リード線は、多重ルーメンのリード線本体、該リード線本体の基端側端部のコネクタアセンブリ、リード線本体に結合された複数の電極、およびリード線本体内部を伸びる複数の導体を有する。リード線本体は、長手方向に貫通する複数のルーメンを有する管状部材を備えている。各導体はそれぞれのルーメン内部を長手方向に伸び、電極のうちの1つと、さらにはコネクタアセンブリの電気接点にも、電気的に結合される。導体のうち少なくとも1つは、1つ以上の略円筒状に巻線されたファイラーから形成されたコイル導体であって、リード線がある範囲の高周波にさらされた時にコイル導体が0.0079μΗ/mm(0.2μΗ/インチ)以上の第1のインダクタンス値を有するように構成されたファイラー厚さ、ピッチおよび平均コイル径を有している。
【0019】
実施例23において、実施例21の移植式医療用リード線は、コイル導体が約0.10mm(約0.004インチ)の厚さを有する単一の円筒状に巻線されたファイラーから形成されることと、コイル導体は約0.13mm(約0.005インチ)のピッチおよび約0.58mm(約0.023インチ)の平均コイル径を有して約0.020μΗ/mm(約0.5μΗ/インチ)の単位長さ当たりのコイルインダクタンスを有する。
【0020】
実施例24において、実施例21または22の移植式医療用リード線は、コイル導体に結合される電極がペース/センス電極である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】MRIスキャナを備えた医療用システム、および本発明の様々な実施形態によるヒト患者の胴体内部に植え込まれた移植式心調律管理システムの概略図。
【図2A】本発明のいくつかの実施形態に従って使用されうる患者の身体内に移植された例示のパルス発生器およびリード線の概略図。
【図2B】図2Aのリード線のための簡略化された等価回路を示す概略図。
【図3】本発明の1つ以上の実施形態に従って使用されうる典型的なリード線を示す図。
【図4】本発明の様々な実施形態による、高電圧ショック用コイルおよび低電圧コイルの断面図。
【図5A】本発明のいくつかの実施形態による、内側導体コイル、高電圧導体コイル、およびショック用コイルの様々な部分を示す図。
【図5B】本発明のいくつかの実施形態による、内側導体コイル、高電圧導体コイル、およびショック用コイルの様々な部分を示す図。
【図5C】本発明のいくつかの実施形態による、内側導体コイル、高電圧導体コイル、およびショック用コイルの様々な部分を示す図。
【図6】標準的なリード線設計および本発明の様々な実施形態により設計された典型的なリード線がMRIに関連する周波数にさらされた時に生じる温度上昇の例を示す図。
【図7】本発明のいくつかの実施形態において使用されうる多重ルーメン構造を備えたリード線の横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図面は必ずしも原寸に比例して描かれてはいない。例えば、図中の要素のうちのいくつかの寸法は、本発明の実施形態の理解を高めるのを支援するために拡大または縮小される場合がある。本発明には様々な改変形態および代替形態の可能性があるが、特定の実施形態が例として図面に示されており、かつ以下に詳細に説明される。しかしながら、本発明を記載の特定の実施形態に限定することが目的ではない。それどころか、本発明は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内にあるすべての改変形態、等価物、および代替形態を包含するように意図される。
【0023】
詳細な説明
移植式除細動器(ICD)は、典型的には患者の胸筋部に移植される。場合によっては、1つまたは2つの電極がICDから患者の心臓の心房または心室のうち少なくともいずれかの中へと延在することもある。心外膜リード線の場合、電極は患者の心臓の外表面に取り付けられる。ICDシステムは、患者の心臓へのペーシング機能の提供または患者の心臓を細動から正常な心臓機能へと変換する高電圧ショック療法の提供のうち少なくともいずれか一方を行うことができる。
【0024】
以下にさらに詳細に説明されるように、本発明の様々な実施形態は、磁気共鳴撮像法(MRI)の環境における作動に好都合に適合した新しいリード線の設計に関する。いくつかの実施形態では、リード線は、頻拍治療法のための適切な電気性能を提供するように、かつさらにはMRI手法の際に印加された電磁エネルギーへのリード線の反応を最小限にするように構成された、独自のショック用コイルまたはコイル導体のうち少なくともいずれか一方の組み合わせを備えている。
【0025】
以下の記載においては、説明のため、本発明の実施形態の完全な理解を提供するために多数の特定の細部が示される。しかしながら、当業者には、本発明の実施形態がそれらの特定の細部の一部を伴わずに実行可能であることが明白であろう。
【0026】
さらに、便宜上、いくつかの実施形態はMRIスキャナが存在する状態でのICDに関して記載されている。本発明の実施形態は、導電性リード線が時間的に変化する磁場に曝露される様々な他の生理学的計測値、処置、移植式医療用デバイス、およびその他の非侵襲性の検査技術に適用可能となりうる。そのため、本明細書中で議論される用途は限定するようには意図されず、例示的なものである。実施形態を適用可能な他のシステム、デバイスおよびネットワークには、限定するものではないが、他の種類の知覚システム、医療用デバイス、医学的処置、ならびにコンピュータデバイスおよびコンピュータシステムが挙げられる。加えて、様々な実施形態は、センサを備えた単一のIMDから知覚デバイスの大規模ネットワークまであらゆるレベルの知覚デバイスに適用可能である。
【0027】
図1は、MRIスキャナ110、ヒト患者120の胴体内に移植された移植式心調律管理(CRM)システム115、および様々な実施形態による1つ以上の外部デバイス130を備えた医療システム100の概略図である。外部デバイス130は、患者120に移植されたCRMシステム115と通信することができる。図1に示される実施形態では、CRMシステム115はパルス発生器(PG)140およびリード線150を備えている。正常なデバイス動作中、PG140は、頻拍心室細動、抗徐脈ペーシング、抗頻脈ペーシング、またはその他の種類の治療法のうち少なくともいずれかの提供のために患者の心臓160に治療的な電気刺激を送達するように構成されている。
【0028】
したがって、図の実施形態では、PG140は、例えばICD、除細動機能を備えた心臓再同期療法デバイス(CRT‐Dデバイス)、または同等のデバイスのようなデバイスであってよい。PG140は、身体内部、典型的には患者の胸部のような位置で、胸筋に移植可能である。いくつかの実施形態では、PG140は腹部または腹部付近に移植されてもよい。
【0029】
外部デバイス130は、患者の身体の外側の位置からPG140と通信するように作動可能な、ローカル端末もしくは遠隔端末またはその他のデバイス(例えば計算デバイスまたはプログラミングデバイスのうち少なくともいずれか)であってよい。様々な実施形態によれば、外部デバイス130は、遠隔測定可能かつPG140と通信可能な、患者の身体外部の任意のデバイスであってよい。外部デバイスの例には、限定するものではないが、プログラマ(PRM)、在宅監視デバイス、遠隔測定デバイスを備えたパーソナルコンピュータ、遠隔測定デバイスを備えたMRIスキャナ、製造検査設備、またはペン型スキャナ(wand)が挙げられる。いくつかの実施形態では、PG140は無線通信インタフェース経由で遠隔端末130と通信する。無線通信インタフェースの例には、限定するものではないが、高周波(RF)インタフェース、誘導インタフェース、および音響的遠隔測定インタフェースが挙げられる。
【0030】
図2Aは、患者の身体内に移植されたリード線150が装備された例示のPG140を備えたCRMシステム115のさらに詳細な概略図である。図の実施形態では、CRMシステム115は、患者の心臓160の近くに移植されたPGと、先端側部分が患者の心臓160の内部に移植されているリード線150とを備えている。図2Aに見られるように、心臓160は、右心房210、右心室220、左心房230、および左心室240を備えている。
【0031】
リード線150は、基端領域205および先端領域250を備えた可撓性本体200を有する。図のように、リード線150はPG140に結合され、リード線本体200の先端領域250は、右心室220内の所望の位置に少なくとも部分的に移植されている。さらに示されるように、リード線150は、先端領域250に沿って少なくとも1つの電極255を備えて、図2Aに示されるように移植された時に該電極が右心室220の内部に配置されるようになっている。以下にさらに詳細に説明かつ例証されるように、リード線150は、心臓160からPG140へ内因性の心臓の信号を送信するための、さらには電極255を介して心臓160に電気ショックまたは低電圧のペーシング刺激を送信するための、電極255を回路構成に電気的に結合するリード線本体250内部の1つ以上の導電体コイル(図2Aでは見えない)、およびPG140内部のその他の電気部品を備えている。
【0032】
例示の実施形態は患者の心臓160に挿入された単一のリード線150のみを示しているが、他の実施形態では心臓160の他のエリアを電気的に刺激するために複数のリード線が利用されてもよい。いくつかの実施形態では、例えば、第2のリード線(図示せず)の先端側部分が右心房210に移植されてもよい。加えて、または代替として、心臓160の左側を刺激するために別のリード線が心臓160の左側(例えば冠状静脈、左心室など)に移植されてもよい。図1〜2に示されたリード線150に加えて、またはその代替として、心外膜リード線のような他の種類のリード線が利用されてもよい。
【0033】
作動中、リード線150は心臓160とPG140との間で電気信号を伝える。例えば、PG140がペーシング機能を有する実施形態では、リード線150は心臓160をペーシングするための電気的な治療刺激を伝達するために利用可能である。PG140がICDである実施形態では、リード線150は心室細動のような事象に応答して電極255を介して心臓160に高電圧電気ショックを送達するために利用可能である。いくつかの実施形態では、PG140はペーシング機能および除細動機能の両方を備えている。
【0034】
図2Bは、図2Aのリード線150についての簡略化された等価回路260を示す概略図であり、MRIスキャナによって生じたRF電磁エネルギーからリード線150上で捉えられたRFエネルギーを表わしている。図2Bに示されるように、回路260の電圧(Vi)265は、MRIスキャナからリード線150によって捕らえられた等価なエネルギー源を表わす。磁気共鳴撮像の間、リード線150の長さはアンテナと同様に機能し、MRIスキャナから身体内へ伝達されるRFエネルギーを受け取っている。図2Bの電圧(Vi)265は、例えば、リード線150によってRFエネルギーから受け取られた、結果として生じた電圧を表わしうる。リード線150によって捕らえられるRFエネルギーは、例えば、MRIスキャナによって生じたRF回転磁場に起因しうるものであり、これにより導電性組織中の回転磁場ベクトルに垂直な平面上に電場が生成する。リード線150の長さに沿ったこれらの電場の接線成分はリード線150と連関する。したがって電圧(Vi)265はリード線150の長さに沿った接線方向の電場の積分(すなわち電場の線積分)と等しい。
【0035】
回路260のZlパラメータ270は、MRIスキャナのRF周波数でリード線150によって示される等価インピーダンスを表わす。インピーダンス値Zl 270は、例えば、1.5テスラMRIスキャナの64MHzのRF周波数、または3テスラMRIスキャナの128MHzのRF周波数においてリード線150によって示される並列インダクタンスおよびコイルのターンごとのキャパシタンスから生じるインダクタンスまたは等価インピーダンスを表わすことができる。リード線150のインピーダンスZlは、実数部(すなわち抵抗)および虚数部(すなわちリアクタンス)を有する複素量である。
【0036】
回路260のZb275は、リード接触点における身体組織のインピーダンスを表わすことができる。次にZc280は、リード線150の長さに沿って取り囲んでいる身体組織へのリード線150の容量結合を表わすことができるが、これは高周波電流(エネルギー)がMRIスキャナのRF周波数において周囲組織へ漏洩する経路を提供する可能性がある。吸収エネルギー(エネルギー源Vi265によって表わされる)を最小限にすることにより、身体組織とのリードの接触点において身体組織へ移動するエネルギーが低減される。
【0037】
図2Bにさらに見られるように、リード線150は、MRIスキャナのRF周波数において周囲組織へのある程度の量の漏洩を有する。275によってさらに示されるように、心臓160内部の周囲身体組織へのリード電極255の接触点におけるインピーダンスも存在する。その結果生じる、身体組織に送達される電圧Vbは、下式すなわち:
Vb=Vi Zbe/(Zbe+Zl) (式中、Zbe=Zcと並列のZb)
によって関連づけることができる。
【0038】
典型的には周囲組織に接触がなされるリード線150の先端の温度は、部分的には275で(すなわち「Zb」で)消散される電力に関連し、該電力はVbの二乗に関連する。275で消散される電力に起因する温度上昇を最小限にするためには、したがってVi(265)およびZc(280)を最小限にすると同時にリード線150のインピーダンスZl(270)を最大限にすることが望ましい。いくつかの実施形態では、リード線150のインピーダンスZl(270)はMRIスキャナのRF周波数で増大せしめられる場合があり、これは接触点275において周囲身体組織中へと消散されるエネルギーを低減する助けとなる。
【0039】
以下にさらに詳細に記載される様々な実施形態では、リード線150のインピーダンスは、リード線150へのインダクタンスの付加、または適切な構築技法のうち少なくともいずれか一方により、増大する可能性がある。例えば、様々な実施形態において、リード線150のインダクタンスは、導体コイルの平均径を増大させること、または電極255に電気エネルギーを供給するために使用される導体コイルのピッチを減少させること、のうち少なくともいずれか一方により、増大する。コイルピッチの減少は、コイルの連続したターンの間のキャパシタンス(すなわちコイルのターンごとのキャパシタンス)の増大をもたらすことができる。(コイルの螺旋形状由来の)インダクタンスおよびターンごとのキャパシタンスの並列の組み合わせは、共振回路を構成する。螺旋形に巻線されたリード線構築については、リード線の共振振動数がMRIのRF周波数を上回る場合、該螺旋コイルはインダクタとして作用する。インダクタについては、コイルエリアの断面積の増大またはコイルピッチの縮小のうち少なくともいずれか一方がインダクタンスを増大させ、その結果リード線150のインピーダンスを増大させる。
【0040】
図3は、本発明の1つ以上の実施形態に従って使用されうる例示のリード線150をさらに詳細に図解する。図3では、リード線本体200の一部分が、リード線150の内側形体をより十分に示すために部分切り取り図で示されている。図3に示されるように、リード線本体200は基端側端部302を備え、リード線150はさらに、リード線本体の基端側端部302に結合されたコネクタアセンブリ310、高電圧ショック用導体コイル320、ショック用コイル330、内側導体コイル340、カプラー350、およびペース/センス電極360を備えている。IMD140(図1を参照)の機能要件および患者の治療上の必要に応じて、先端領域は追加のショック用コイル(図示せず)またはペース/センス電極のうち少なくともいずれか一方を備えることができる。例えば、いくつかの実施形態では、一対のコイル電極が、心臓160に除細動ショックを提供するためのショック用電極として機能するように使用されうる。
【0041】
図中の実施形態では、コネクタアセンブリ310はコネクタ本体365および端子ピン370を備えている。コネクタアセンブリ310はリード線本体に結合されて、リード線をPG 140のヘッダに機械的かつ電気的に結合するように構成されうる(図1を参照)。様々な実施形態において、端子ピン370はコネクタ本体365から基端側へ伸び、いくつかの実施形態では、リード線本体200を通ってペース/センス電極360まで長手方向に伸びる内側導体コイル340に結合される。図中の実施形態では、ペース/センス電極360はリード線150の最も先端側の端にあるチップ電極であり、リード線150が受動固定リード線とみなされるようにリード線本体200に関して固定される。他の実施形態では、リード線150は、リード線150に沿ってより基端側に位置する追加のペース/センス電極を備えてもよい。いくつかの実施形態では、端子ピン370は、ガイドワイヤまたは挿入スタイレットを収容するために、内側導体コイル340によって画成されたルーメンと連通している該端子ピンを通り抜ける開孔部を備えることができる。
【0042】
いくつかの実施形態では、ペース/センス電極360は、リード線150の先端側端部の電気的に活性な固定螺旋体の形態であってもよい。様々なそのような実施形態において、ペース/センス電極360は、拡張可能/引込可能な螺旋体であって該螺旋体が回動するにつれてリード線本体に対する該螺旋体の長手方向の移行を容易にする機構に支援された螺旋体であってよい。それらの実施形態では、端子ピン370は、リード線本体200に対する端子ピン370の回動が、内側導体コイル340を、ひいては螺旋形のペース/センス電極360を、リード線本体200に対して回動かつ長手方向に移行させるように、コネクタ本体365およびリード線本体200に対して回動可能であってよい。拡張可能/引込可能な固定螺旋体アセンブリ(電気的に活性かつパッシブ)を提供するための様々な機構および技術は当業者には既知であり、本明細書中でさらに詳細に記載される必要はない。
【0043】
ペース/センス電極360(図3に示されたような固体のチップ電極であれ上述のような能動固定螺旋体であれ)は、任意の適切な導電材料、例えばElgiloy(登録商標)、MP35N(商標)、タングステン、タンタル、イリジウム、白金、チタン、パラジウム、ステンレス鋼、およびこれらの材料のうちいずれかの合金で作製可能である。
【0044】
内側導体コイル340は、心臓160との間でペーシング信号および感知信号を運ぶ比較的低電圧の導体であってよい。低電圧内側導体コイル340は、様々な実施形態によれば、1以上の略円筒状に巻線されたファイラーから形成可能である。以下にさらに詳細に説明されるように、いくつかの実施形態では、低電圧内側導体コイル340は、外部MRI磁場によって内側導体コイル340に誘導されるRF電流を低減し、かつさらには心臓の望ましからぬ高速の刺激を防止するために、0.0079μΗ/mm(0.2μΗ/インチ)以上のインダクタンス値を有するように構成される。いくつかの実施形態では、インダクタンス値はおよそ0.020μΗ/mm(およそ0.5μΗ/インチ)である。加えて、内側導体コイル340は、いくつかの実施形態では、200オーム未満の直流抵抗を有するように構成される。
【0045】
いくつかの実施形態では、高電圧導体コイル320は、抗頻脈電気ショックを適用するための必要に応じて、患者の心臓160に最大1000ボルトおよび40Jのエネルギーを送達することができる高電圧経路を提供することができる。高電圧導体コイル320は、様々な実施形態において、MRIデバイスまたはその他のシステムによって生成されたRFパルスにより誘導される電流を低減するために高いインダクタンスを有するように構成される。いくつかの実施形態では、インダクタンスは0.0039μΗ/mm(0.1μΗ/インチ)以上である。いくつかの実施形態ではインダクタンスの損失を補うために外径が増大される場合がある。1つ以上の実施形態によれば、高電圧導体コイル320は、直流抵抗を減少させるために多重ファイラー構造を有していてもよい。いくつかの実施形態では、直流抵抗はおよそ10オーム未満(例えばいくつかの実施形態では6または7オーム)となって、最大エネルギーが心臓に送達されうるようになっている。
【0046】
いくつかの実施形態では、高電圧コイル320は2つの経路に分割可能であり;一方の経路はICDより基端側にあるショック用コイルに接続されうる。別の経路はICDより先端側にあるショック用コイルに接続されうる。先端側のショック用コイルは、高電圧コイル320と共に、双極ペーシングにおけるペーシングパルスの帰還経路としての役割を果たすことができる。別例として、第2の高電圧経路が、高電圧コイル320とは隔てられた高電圧コイル(図示せず)を介して提供されてもよい。
【0047】
いくつかの実施形態では、高電圧導体コイル320は、カプラー350を介してショック用コイル330に機械的かつ電気的に結合される。この経路は、双極ペーシングにおけるペーシングパルスの帰還経路としての役割を果たすこともできる。ショック用コイル330は、患者の心臓に適切な治療法を送達することもできる。治療法の例には、限定するものではないが、頻拍心室細動、抗徐脈ペーシング、抗頻脈ペーシング、またはその他の種類の治療法のうち少なくともいずれかが挙げられる。
【0048】
いくつかの実施形態では、ショック用コイル330は組織の内方成長を制御(すなわち促進または防止)するように構成されたコーティングを有することができる。様々な実施形態において、リード線は、ショック用コイル330のような単一コイル電極のみを備えていてもよい。他の実施形態では、リード線150は、ショック用コイル電極330の代わりに、または該電極に加えて、リード線本体に沿って1つ以上のリング電極(図示せず)を備えていてもよい。存在する場合、リング電極は比較的低電圧のペース/センス電極として作動することができる。当業者には当然のことであるが、広く様々な電極の組み合わせが、本発明の様々な実施形態の範囲内でリード線150に組み入れ可能である。
【0049】
図4は、図3の線4Aに沿って得られたリード線150の断面図400を示す。図4に示されるように、図中の実施形態では、高電圧導体コイル320および低電圧内側導体コイル340は、リード線本体200の内部に同軸配置されている。さらに示されるように、図中の実施形態では、リード線150は、高電圧導体コイル320と低電圧内側導体コイル340との間に、これらのコイルを互いに電気的に分離するように絶縁体層410を備えている。様々な実施形態において、高電圧導体コイル320または低電圧内側導体コイル340のうち少なくともいずれか一方の個々のファイラーは、絶縁体層410の使用に加えて、または絶縁体層を使用する代わりに、個々に絶縁されてもよい。従って、図4に示される実施形態では、高電圧導体コイル320および低電圧内側導体コイル340のファイラーはそれぞれ絶縁体の薄い層を有している。他の実施形態では、高電圧導体コイル320または低電圧内側導体コイル340のうち少なくともいずれか一方のファイラーは個々には絶縁されず、隣接するファイラーとの接触を回避するように間隔を置いて配置される。
【0050】
本発明の様々な実施形態で使用することができる絶縁材の種類の例としては、限定するものではないが、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン、延伸ポリテトラフルオロエチレン、エチレン‐テトラフルオロエチレン、および前記のもののコポリマーが挙げられる。いくつかの実施形態では、個々のファイラーの絶縁層は、巻かれてないリード線が図5A〜5Cに示されるような螺旋形態に置かれたときにコイルのターンが互いに接触に至るのを防止することができる。加えて、いくつかの実施形態は、電気的結合を防ぐために低電圧コイルと高電圧コイルとの間に十分な絶縁体層を備えている。
【0051】
上記に説明されるように、本発明の様々な実施形態によって、高電圧導体コイル320または低電圧内側導体コイル340のうち少なくともいずれか一方は、(例えば抗頻脈療法の提供のための)正常動作条件下での電気性能に過度に影響を与えることなく、適用されるMRI照射の影響を最小限にするために高いインピーダンスを有するように選択的に構成される。以下にさらに詳細に説明されるように、様々な実施形態において、高電圧導体コイル320または低電圧内側導体コイル340のうち少なくともいずれか一方についてのファイラー厚さ、ピッチ、または平均コイル径のうち少なくともいずれかは、電気的な動作性能およびMRI適合性の所望のバランスを提供するように選択的に選ばれる。
【0052】
図5A〜5Cは、それぞれ、本発明のいくつかの実施形態による内側導体コイル340、高電圧導体コイル320、およびショック用コイル330の様々な構成を示す。様々な実施形態によれば、螺旋のピッチは、螺旋の軸に沿って測定された1つの完全な螺旋1回転の幅である。図5A〜5Cの距離510a〜510cは図中のコイルのピッチを示し、参照数字520a〜520cはそれぞれのコイルのファイラー厚さを表わし、参照数字530a〜530cは平均コイル径を表わす。1つ以上の実施形態によれば、ピッチはリード線の長さに沿って一定ピッチであってもよいし(例えば図5C参照)、リード線の長さに沿って反復するパターンに従ってもよい(例えば図5Aおよび5B参照)。いくつかの実施形態では、高電圧導体コイル320およびショック用コイル330にリボン型導体が使用されてもよい。いくつかの実施形態では、コイル320、330、340のピッチ方向は同じである。
【0053】
図5Aは、本発明のいくつかの実施形態による高電圧導体コイル320の一部を示している。図中の実施形態では、高電圧導体コイル320はカッドファイラーのコイルである。しかしながら、1つ以上の実施形態において、高電圧多重ファイラー外側コイル320は他の種類の多重ファイラー構造を有することができる。高電圧導体コイル320の多重ファイラー構造は、例えばおよそ10オーム未満の比較的低い直流抵抗を生じ、かつ2以上の略円筒状に巻線されたファイラーから形成可能である。そのような構造により、高電圧導体コイル320が高電圧除細動リード線の用途における使用に適切となりうる。
【0054】
様々な実施形態において、高電圧多重ファイラー外側コイルは、該高電圧多重ファイラー外側コイル320がMRIスキャンに典型的な範囲の高周波(例えば40MHz〜300MHz)の電磁場に供されたときに所望のコイルインダクタンス値(例えば0.0079μΗ/mm(0.2μΗ/インチ)以上)を生じるように、様々な寸法のピッチ510aおよびファイラー厚さ520aを有することができる。いくつかの実施形態では、所望のコイルインダクタンス値はおよそ0.020μΗ/mm(およそ0.5μΗ/インチ)である。上記に議論されたように(例えば図2Bの議論を参照)、リード線150のインピーダンスおよびインダクタンスは、リード線の様々な構造上の特徴を選択することによって有利に調節可能である。構造上の特徴の例には、限定するものではないが、ピッチ510a、ファイラー厚さ520a、コイル径530aその他が挙げられる。
【0055】
典型的な円筒状に緊密に巻線されたコイルについて、単位長さ当たりのコイルのインダクタンスは次の式:
L≒μπa/4b
を使用して近似することが可能であり、上記式中、μは自由空間の透磁率であり、aはコイルの平均径530aであり、bはコイルのピッチ510a(すなわち隣接するファイラー間の距離)であり、Nはファイラー総数である。上記式に基づき、単位長さ当たりのコイルインダクタンスは半径の二乗に比例し、ピッチおよびファイラー総数の二乗に反比例する。
【0056】
図5Bは、本発明のいくつかの実施形態による高電圧ショック用コイル330の一部を示している。図中の実施形態では、高電圧ショック用コイル330はトリファイラーのコイルである。しかしながら、1つ以上の実施形態では、高電圧ショック用コイル330は他の種類の多重ファイラー構造を有することができる。高電圧ショック用コイル330の多重ファイラー構造は比較的低い直流抵抗をもたらし、2以上の略円筒状に巻線されたファイラーから形成可能である。そのような構造により、高電圧ショック用コイル330が高電圧除細動リード線の用途における使用に適切となりうる。
【0057】
いくつかの実施形態では、第3のコイルすなわちショック用コイル330は、カプラー350を介して高電圧多重ファイラー外側コイル320の先端側区域に接続される第一端を有することができる。第3のコイル330は、いくつかの実施形態において、2つ以上の略円筒状に巻線されたファイラーから形成されうる。様々な実施形態によれば、ファイラー厚さ、ピッチ510b、および平均コイル径520bは、ショック用コイル350がMRIスキャンに特徴的な範囲の高周波(例えば40MHzおよび300MHz)の電磁場に供されたときにショック用コイル330が高いインピーダンス値を有するように構成可能である。上記に議論されるように(例えば図2Bの議論を参照)、リード線150のインピーダンスおよびインダクタンスは、リード線の様々な構造上の特徴を選択することによって有利に調節可能である。構造上の特徴の例には、限定するものではないが、ピッチ、ファイラー厚さ、コイル径その他が挙げられる。
【0058】
図5Cは、本発明のいくつかの実施形態による低電圧内側コイル340の一部を示している。図中の実施形態では、低電圧内側コイル340は単一ファイラーのコイルである。しかしながら、1つ以上の実施形態において、低電圧内側コイル340は他の種類の多重ファイラー構造(例えば2ファイラー、3ファイラーなど)を有することができる。低電圧内側コイル340の単一ファイラー構造は、より高い直流抵抗、例えばおよそ200オームの直流抵抗を有する。そのような構造により、低電圧内側コイル340がペーシングの用途における使用に適切となりうる。
【0059】
いくつかの実施形態では、内側導体コイル340は2つの経路すなわち;ペーシングパルスのための1つはカソード用、1つはアノード用に分割可能である。1つの実施形態では、内側導体コイル340は、内側導体コイル340がある範囲の高周波(例えば40MHzおよび300MHz)に供されたときにコイルに所望のインピーダンス値を有するピッチ510c、ファイラー厚さ520cおよび平均コイル径530cを有する。上記に議論されるように(例えば図2Bの議論を参照)、リード線150またはリード線コイルのうち少なくともいずれか一方のインピーダンスおよびインダクタンスは、リード線の様々な構造上の特徴を選択することによって有利に調節可能である。構造上の特徴の例には、限定するものではないが、ピッチ、ファイラー厚さ、コイル径その他が挙げられる。
【0060】
1つの実施形態では、高電圧導体コイル320は約0.25mm(約0.010インチ)のピッチ510a、4つのファイラー総数、および約1.3mm(約0.050インチ)の平均コイル径530aを有し、約0.0051μΗ/mm(約0.13μΗ/インチ)のコイルインダクタンス値を生じる。よって高電圧コイルについての下限は、1つの実施形態では0.1μΗであるように設定される。内側導体コイル340は、ある実施形態において、約0.13mm(約0.005インチ)のピッチ510c、ファイラー総数1、および約0.58mm(約0.023インチ)の平均コイル径を有し、約0.020μΗ/mm(約0.5μΗ/インチ)の単位長さ当たりのコイルインダクタンスを生じる。低電圧コイルについての下限は、いくつかの実施形態ではおよそ0.2μΗに設定されうる。いくつかの実施形態では、低電圧コイルおよび高電圧コイルのインダクタンスの限界は異なっていてよいし、他の実施形態ではインダクタンスの限界は同じであってよい。
【0061】
上記に議論されるように、本発明の様々な実施形態の設計により、MRIに関連する周波数に曝露された時に通常のリード線の設計を上回る大幅な熱の低減がもたらされうる。1つの例示の実施形態では、試験サンプルはおよそ0.10mm(およそ0.004インチ)の外径のワイヤから作製された単一ファイラー低電圧コイルを有することができる。該コイルの外径はおよそ0.69mm(およそ0.027インチ)であり、コイルのピッチは0.10mm(0.004インチ)ほどである。該試験サンプルはさらに、およそ0.25mm(およそ0.010インチ)のワイヤから作製された4ファイラーの高電圧コイルを有する。該高電圧コイルはおよそ2.3mm(およそ0.090インチ)の外径を有し、コイルのピッチはおよそ0.30mm(およそ0.012インチ)である。
【0062】
図6は、標準的なリード線の設計および実例のリード線の設計がMRIに関連する周波数に供されたときに生じる温度上昇を示している。試作物(test mule)の全長は60cmである。標準的なリード線の設計および実例のリード線の設計についての加熱試験は、同じ64MHzの試験条件下で行なわれた。図6に見られるように、実例のリード線の設計は、先端において標準的なリード線の温度上昇よりもおよそ10度小さい温度上昇をもたらす。加えて、実例のリード線の設計は、リング電極において標準的なリード線の温度上昇よりもおよそ4度小さい温度上昇をもたらす。
【0063】
上記の実施形態は同軸として構成されたコイル導線を備えた多重導体リード線について説明かつ例証するが、高インダクタンス導体コイル320、340は、本発明の範囲内において他のリード線構成に有利に使用することも可能である。例えば、図7は従来の除細動リード線で一般に使用されるような多重ルーメンリード線本体を利用するリード線150の他の実施形態の横断面を示す。図7に示されるように、リード線本体は、内側管状部材710と、内側管状部材710の表面上に配置されて該管状部材に接合された外側管状部材720とを備えている。管状部材710、720は、任意の数の可撓性で生体適合性の絶縁材料、例えば、限定するものではないがシリコーンおよびポリウレタンのようなポリマー、ならびにこれらのコポリマーから作製可能である。さらに示されるように、内側管状部材710は複数のルーメン730、740、750を備え、導体760、770および780がそれぞれルーメン730、740および750の中に配置される。各導体760、770および780は、それぞれのルーメン730、740および750の内部を長手方向に伸び、電極(例えば図3の電極360)に、さらにはコネクタアセンブリ310の電気接点に、電気的に結合される。
【0064】
さらに、内側管状部材710はリード線150の特定の構成に応じてより多数または少数のルーメンを備えてもよい。例えば、内側管状部材710は、他のショック用コイルまたはペース/センス電極のうち少なくともいずれかに電流を供給するために、リード線150内部に追加の導体ワイヤまたは電極コイルのうち少なくともいずれかを収容するためより多数のルーメンを備えてもよい。
【0065】
図7の実施形態では、導体760は上述のコイル導体320とほぼ同じ方式で構成され、上述のような低電圧用ペース/センス回路として作動することができる。従って、導体760は、導体320に関して上記に記載されたのと同じ高インダクタンスの特徴を有利なように有している。図中の実施形態では、導体770、780は、例えば図3のショック用コイル330のような高電圧ショック用コイルに除細動刺激を供給するために、高電圧の用途で使用される当分野で良く知られた撚線ケーブル導体である。
【0066】
上述のリード線150の様々な実施形態は、外部MRI電磁場への曝露に起因するリード線導体中の誘導電流を有利に最小化する。このことは、PGからショック用電極へショック電流を伝送するために撚線ケーブル導体を利用する従来のICDリード線システムとは対照的である。そのようなケーブル導体は抗頻脈療法を送達するための優れた電気性能を提供するが、撚線ケーブル導体はさらに低インピーダンスも有し、従ってMRIスキャン時に存在するような交互に起こる電磁場に曝露された時に誘導電流を生成しやすい。上述のリード線150の高インピーダンスの導体構成は、MRI照射の影響を最小限にすると同時に、抗頻脈療法の用途における使用についても適切な電気性能を提供する。
【0067】
議論された典型的な実施形態に対し、本発明の範囲から逸脱することなく様々な改変および追加を加えることができる。例えば、上述の実施形態は特定の特徴を表しているが、本発明の範囲には、様々な組み合わせの特徴を有する実施形態および記載された特徴を必ずしも全て含んでいない実施形態も含まれる。従って、本発明の範囲は、特許請求の範囲の範囲内にあるそのような全ての代替形態、改変形態および変更形態を、それらの等価物全てとともに包含するように意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気リード線であって、
基端側端部を備えた基端領域及び先端領域を有する可撓性本体と、
移植式パルス発生器にリード線を電気的かつ機械的に接続するためにリード線の可撓性本体の基端側端部に結合されたコネクタと、
内側導体コイルであって、内側コイル導体リード線がある範囲の高周波にさらされた時に内側導体コイルが0.0079μΗ/mm以上の第1のインダクタンス値を有するように構成されたファイラー厚さ、ピッチおよび平均コイル径を有する1以上の略円筒状に巻線されたファイラーから形成される内側導体コイルと、
基端側区域、先端側区域、および長さを有する高電圧多重ファイラー外側コイルであって、該高電圧多重ファイラー外側コイルはおよそ10オーム未満の直流抵抗を備え、かつ各々がファイラー厚さを有する2以上の略円筒状に巻線されたファイラーから形成され、該高電圧多重ファイラー外側コイルは、該高電圧多重ファイラー外側コイルがある範囲の高周波にさらされた時に該高電圧多重ファイラー外側コイルが0.0039μΗ/mm以上の第2のインダクタンス値を有するように構成されたピッチおよび平均コイル径を有する、高電圧多重ファイラー外側コイルと
を備える電気リード線。
【請求項2】
内側導体コイルの少なくとも一部の周囲に絶縁体の層が配置される、請求項1に記載の電気リード線。
【請求項3】
内側導体コイルが単一ファイラー構造を有する、請求項1に記載の電気リード線。
【請求項4】
内側導体コイルがおよそ0.13mmの平均ピッチを有する、請求項1に記載の電気リード線。
【請求項5】
内側導体コイルが単一ファイラー構造および0.58mmの平均コイル径を有する、請求項4に記載の電気リード線。
【請求項6】
内側導体コイルがおよそ0.020μΗ/mmより大きなインダクタンスを有する、請求項1に記載の電気リード線。
【請求項7】
第1のインダクタンス値(L)が、円筒状に巻線されたファイラーの数(N)、内側導体コイルのピッチ(b)、および平均コイル径(a)によって、式L≒μπa/4b(式中、μは自由空間の透磁率である)で規定される、請求項1に記載の電気リード線。
【請求項8】
内側導体コイルが200オーム未満の直流抵抗を有する、請求項1に記載の電気リード線。
【請求項9】
内側導体コイルが双極性または単極性である、請求項1に記載の電気リード線。
【請求項10】
高電圧多重ファイラー外側コイルがリボン型の導体コイルである、請求項1に記載の電気リード線。
【請求項11】
医療用リード線であって、
基端側端部を備えた基端領域及び先端領域を有する可撓性本体と、
移植式パルス発生器にリード線を電気的かつ機械的に接続するために構成された本体の基端側端部に結合されるコネクタと、
リード線の先端側区域と基端側区域との間で電気信号を伝えるように構成された低電圧内側導体コイルであって、40MHz〜300MHzの高周波にさらされた時に該低電圧内側導体コイルが0.0079μΗ/mm以上の第1のインダクタンスを有するように構成されたピッチおよび平均コイル径を有する1以上の略円筒状に巻線されたファイラーから形成される、低電圧内側導体コイルと、
多重ファイラー高電圧外側導体コイルであって、低電圧内側導体コイルの少なくとも一部を径方向に取り囲むカッドファイラーの螺旋様の形状と、10オーム未満の直流抵抗と、40MHz〜300MHzの高周波にさらされた時に0.0039μΗ/mm以上の第2のインダクタンスを有する多重ファイラー高電圧外側導体コイルを提供するように構成された外径および平均ピッチとを備えた多重ファイラー高電圧外側導体コイルと、
基端側端部を有するトリファイラーのショック用コイルであって、トリファイラーのショック用コイルの基端側端部は、カプラーを介して多重ファイラー高電圧外側コイルの先端側端部に接続される、トリファイラーのショック用コイルと
を備える医療用リード線。
【請求項12】
低電圧内側導体コイル、多重ファイラー高電圧外側導体コイル、およびトリファイラーのショック用コイルのうち1つ以上を取り囲む1つ以上の絶縁材層をさらに備える請求項11に記載の医療用リード線。
【請求項13】
多重ファイラー高電圧外側コイルがトリファイラーのショック用コイルの外径より大きな外径を有する、請求項11に記載の医療用リード線。
【請求項14】
低電圧内側導体コイル、多重ファイラー高電圧外側導体コイル、およびトリファイラーのショック用コイルが異なるピッチを有する、請求項11に記載の医療用リード線。
【請求項15】
低電圧内側導体コイル、多重ファイラー高電圧外側導体コイル、およびトリファイラーのショック用コイルがそれぞれ約0.127mm以下のピッチを有する、請求項11に記載の医療用リード線。
【請求項16】
移植式医療用デバイスであって、
パルス発生器に機械的かつ電気的に結合される基端側端部を有する基端領域と、患者の心臓内部に移植される先端領域とを備えた可撓性本体を有するリード線であって、心臓とパルス発生器との間で電気信号を伝えるように構成されたリード線を含み、
該リード線は、
リード線の先端領域と基端領域との間で電気信号を伝えるように構成された低電圧内側導体コイルであって、該低電圧内側導体コイルは1つ以上の巻線されたファイラーから形成され、低電圧内側導体コイルは、ピッチ、平均コイル径を備えた分離された個々のターンを有し、1つ以上の巻線されたファイラーの数は、低電圧内側導体コイルが40MHz〜300MHzの高周波にさらされた時に0.0079μΗ/mm以上の第1のインダクタンス値を有するように構成される、低電圧内側導体コイルと、
10オーム未満の直流抵抗を有するカッドファイラーの螺旋様の形状を備えた高電圧外側コイルであって、該高電圧外側コイルは低電圧内側導体コイルの少なくとも一部を径方向に取り囲み、かつ、40MHz〜300MHzの高周波にさらされた時に0.0039μΗ/mm以上の第2のインダクタンス値を有する高電圧外側コイルが得られるように構成された外径、ファイラー径、および平均ピッチを有している、高電圧外側コイルと、
基端側端部を備えたトリファイラーのショック用コイルであって、該基端側端部はカプラーを介して高電圧外側コイルの先端側端部に接続される、トリファイラーのショック用コイルと
を備える移植式医療用デバイス。
【請求項17】
リード線が200オーム未満の直流抵抗を有する、請求項16に記載の移植式医療用デバイス。
【請求項18】
低電圧内側導体コイルがdft(登録商標)MP35N(商標)から作製されたファイラーを含む、請求項16に記載の移植式医療用デバイス。
【請求項19】
低電圧内側導体コイルが双極性または単極性である、請求項16に記載の移植式医療用デバイス。
【請求項20】
高電圧導体コイルのピッチは約0.25mmであり、高電圧導体コイルの平均コイル径は約2.3mmであって約0.0051μΗ/mmのコイルインダクタンス値をもたらし、かつ、内側導体コイルのピッチは約0.13mmであり、内側導体コイルは1つの円筒状に巻線されたファイラーから形成され、内側導体コイルの平均コイル径は約0.58mmであって約0.020μΗ/mmの単位長さ当たりのコイルインダクタンスを有する、請求項16に記載の移植式医療用デバイス。
【請求項21】
パルス発生器がペースメーカまたは除細動器である、請求項16に記載の移植式医療用デバイス。

【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図7】
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【図1】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−520238(P2013−520238A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554059(P2012−554059)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【国際出願番号】PCT/US2011/025457
【国際公開番号】WO2011/103444
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(505003528)カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド (466)
【Fターム(参考)】