説明

MRI造影剤

【課題】MRI造影剤における造影効果の増強手段を提供する。
【解決手段】本発明は磁気共鳴イメージング(MRI)の造影剤を提供する。この造影剤は肝細胞膜に発現する薬物トランスポーターへの認識性を与えることで、従来のガドリニウム系非特異分布性造影剤よりも肝移行性が増強された特徴を有する。上記造影剤は、1)造影効果発揮部位、2)トランスポーター基質認識プローブ部位をその構造中に含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は肝移行性を高めたMRI用造影剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体のMRIにおいては、撮像上の病変部位と非病変部位とのコントラストを強調させるために、生体に造影剤を投与して造影MRI撮像を得る画像診断検査を行うことがある。このときの造影剤は常磁性体を使用することがある。
造影剤に用いる常磁性体としては第1遷移金属元素の金属原子イオン(たとえば鉄イオン、銅イオン、マンガンイオンなど)やランタノイド元素のイオン(たとえばガドリニウムイオンなど)があり、これらは孤立電子をもつことによりMRI撮像に大きな影響を与えることが知られている。
【0003】
造影MRIでは、造影剤としてガドリニウム、鉄、マンガンなどを使用する方法が提案され、一部はMRI用造影剤の有効成分として臨床で用いられている。ガドリニウムは鉄、マンガンと比べて不対電子数が多く、生体に投与されたとき生体内プロトンの緩和時間短縮効果を強く示す。このように、ガドリニウムは生体内プロトンの縦緩和時間(T1)短縮効果に優れ、T1強調造影剤として広く認められている。
一方、ガドリニウムは毒性などのため単体で生体に使用することはできず、キレート錯体として生体に投与する必要がある。代表的なキレート剤としては、次の式(3)に示すジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)などがある。
【0004】
【化3】

【0005】
次の式(1)に示すとおり、米国特許第4647447号に記載のあるガドリニウムとDTPAとのキレート錯体ガドペンテト酸(GdDTPA)は、MRI用造影剤の薬効成分として広く公知であるが、血中に投与したとき細胞外液への非特異的分布を示すため、生体においてT1短縮効果が得られる臓器に制限がある。
【0006】
【化4】

【0007】
また、GdDTPAは腎排泄率の占める割合が胆汁排泄率と比べて非常に高い薬剤である。GdDTPAは肝においては細胞間隙コンパートメントに非特異的分布を示すため、例えばVan Montfoortらが報告するようにOATP1A2(ラットではOatp1b2が相当する)に基質として認識されて細胞内に取り込まれる輸送機構が存在するにもかかわらず(非特許文献:The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics, vol.290, 153 157, 1999)、尿中排泄の速度が早いため、生体内にとどまり造影効果を発揮する時間が短いという使用上の制限がある。
【0008】
特開平8-143478では金属内包フラーレンをMRI造影剤として用いる技術が記載されている。この技術でいうところの金属とはガドリニウムを含むものであるが、ガドリニウムをDTPA等とのキレート錯体としてMRI造影剤とする公知の技術と異なり、ガドリニウムを環状有機化合物フラーレンに内包した化合物をMRI造影剤として用いるものである。この技術はフラーレンに生体組織への特別な取り込み機能がないことを利用した高い血中滞留性を示しており、その波及効果として血管の豊富な臓器、たとえば肝の造影をも副次的に増強するものであり、能動的かつ効率的に肝細胞へのターゲッティングを果たして造影効果を発揮することは困難である。
【0009】
一方、g-グルタミルシステイニルグリシン(以下、本明細では一般名である「グルタチオン」あるいは「GSH」とよぶ)は、式(2)に示すとおり3つのアミノ酸、すなわちグルタミン酸、システイン、グリシンから構成されるトリペプチドであり、分子内にシステイン由来のスルフィド基(SH基)を有することや、システインのアミン基とグルタミン酸のカルボキシル基との間にペプチド結合を有すること等に分子構造上の特徴を持つ。
【0010】
【化5】

【0011】
生体内において、GSHは分子内のSH基に由来した酸化還元反応のほか、補酵素的反応や解毒反応などの生化学反応、細胞分裂及び細胞増殖等にかかわる。また、本邦では医療用医薬品として、薬物や農薬、金属等による中毒、妊娠悪阻や晩期妊娠中毒症等の妊娠中毒に対して適応が認められている。
【0012】
GSHは生体内において上記のような重要な役割を持つ物質であるため、細胞内濃度が一定に保たれるように、細胞膜に局在するトランスポーター蛋白質の働きによる細胞内外への取り込みや排出等の高度な細胞内濃度制御がなされている。その例として、Kepplerらは、GSHはトランスポーター蛋白質である多剤耐性蛋白質2(Multidrug resistance-associated protein 2: MRP2)に基質として認識され輸送を受けることを報告している(非特許文献:Advances in Enzyme Regulation, vol.36, 17 26, 1996; Advances in Enzyme Regulation, vol.37, 321 333, 1997)。
【0013】
【特許文献1】特開平8-143478
【0014】
【非特許文献1】The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics, vol.290, 153 157, 1999
【非特許文献2】Advances in Enzyme Regulation, vol.36, 17 26, 1996; Advances in Enzyme Regulation, vol.37, 321 333, 1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、生体内、特に肝における滞留時間が長い特徴を有するMRI造影剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、以下の式(1)に示すGdDTPAの持つ造影効果上の難点を解決するため、優れた造影効果を示す製剤上の工夫を鋭意検討した。その結果、次の式(2)に示すg-グルタミルシステイニルグリシン(以下、本明細では一般名である「グルタチオン」あるいは「GSH」とよぶ)を化学的に結合した、本発明の次の式(4)に示す化合物GdDTPA-SGをMRI用造影剤として使用した場合、肝細胞膜に発現する取り込み型トランスポーター蛋白質ならびに排出型トランスポーター蛋白質に属する膜蛋白質への基質認識性が与えられ、腸肝循環の体内動態サイクルにのる薬物動態学的特性を能動的に付加することで肝細胞内と血中への滞留時間を増し、肝造影能に優れたMRI用造影剤が実現することに成功した。
【0017】
【化6】

【0018】
【化7】

【0019】
【化8】

【0020】
すなわち、本発明は、式(1)に示される化合物にクロル化剤を反応させることで、次の式(5)に示すようなクロル化体が得られ、次にGSHとグルタチオン−S−トランスフェラーゼを反応させることで式(4)に示す化合物GdDTPA-SGが得られることを記載している。
【0021】
【化9】

【0022】
さらにGdDTPA-SG(4)は、肝細胞膜に発現する取り込み型トランスポーター蛋白質ならびに排出型トランスポーター蛋白質に属する膜蛋白質への基質認識性が得られ、腸肝循環の体内動態サイクルにのる薬物動態学的特性を能動的に付加されたことで肝細胞内と血中への滞留時間を増し、肝造影能に優れたMRI用造影剤が実現することを記載している。
【発明の効果】
【0023】
生体の肝においてはGdDTPAであれば細胞間隙コンパートメントへの分布のみであったため造影時間等の造影能に限定がみられていたが、本発明のMRI造影剤GdDTPA-SGを用いることにより、肝細胞内へ造影成分が能動的にしかるべきトランスポーター蛋白質を介して取り込まれ、肝実質組織の造影が実現できる。
【0024】
前述の内容に加え、GdDTPA-SGの肝細胞外排出についてはしかるべきトランスポーター蛋白質を介して能動的に行う化学構造上の特徴があることから、何らかの原因により肝細胞へ当該MRI造影剤GdDTPA-SGの取り込み量が増えた場合でも、細胞外への薬剤排出が確保され、薬剤性肝細胞障害に対する安全性の担保が実現可能である。
【0025】
また、本発明のMRI造影剤GdDTPA-SGは、上記によりトランスポーター蛋白質を介した効率よい体内動態を実現することで、体内への投与量を従来よりも少なく設定することが可能となり、予期せぬ副作用発現の危険性の低減に貢献でき得る。
【0026】
GdDTPAは薬物代謝酵素の影響を受けないため、生体内に投与されたGdDTPAが排泄されるとき、未変化体として腎臓から尿中排泄される。一方、本発明のMRI造影剤GdDTPA-SGが投与されて生体内に存在するとき、生体では肝細胞内に取り込まれた当該化合物を体外排泄に備えてグルタチオン抱合されたGdDTPAとして認識する。その結果として、排泄経路として尿中排泄の他、胆汁中排泄及び糞中排泄が選ばれる割合が増えることとなるため、本発明では生体内からの確実な排泄経路が従来の1ルートから2ルートへと増えたことになり、薬剤のより安全な体外排泄が実現可能となり得る。
【0027】
ここで、肝細胞から排出されて胆汁中に移行した当該MRI造影剤GdDTPA-SGは、空腸から大腸にかけて消化管吸収を受け、再び血中へと取り込まれる。血中に移行したGdDTPA-SGは再び肝細胞に取り込まれ、また胆汁中へ排出されるいわゆる腸肝循環が見られる。この腸肝循環は薬学的に広く公知である。この現象によっても、見かけ上の血漿中濃度や肝細胞内濃度の維持、すなわち造影効果の発揮時間の延長が実現可能となり得る。
【0028】
以上、本発明のMRI造影剤GdDTPA-SGは、能動的な腸肝循環ならびに肝細胞取り込み・排出機能を薬学的に付加したことにより、造影成分の肝滞留時間上昇、また、肝のコントラスト持続時間の延長、さらに、安全性の向上も実現でき得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明の運用は以下に述べる具体例に限られるものではない。
【実施例1】
【0030】
本発明者は、以下の式(1)に示すGdDTPAの持つ造影効果上の難点を解決するため、優れた造影効果を示す製剤上の工夫を鋭意検討した。その結果、次の式(2)に示すg-グルタミルシステイニルグリシン(以下、本明細では一般名である「グルタチオン」あるいは「GSH」とよぶ)を化学的に結合した、本発明の次の式(4)に示す化合物GdDTPA-SGをMRI用造影剤として使用した場合、肝細胞膜に発現する取り込み型トランスポーター蛋白質ならびに排出型トランスポーター蛋白質に属する膜蛋白質への基質認識性が与えられ、腸肝循環の体内動態サイクルにのる薬物動態学的特性を能動的に付加することで肝細胞内と血中への滞留時間を増し、肝造影能に優れたMRI用造影剤が実現することに成功した。
【0031】
【化10】

【0032】
【化11】

【0033】
【化12】

【0034】
すなわち、本発明は、式(1)に示される化合物にクロル化剤を反応させることで、次の式(5)に示すようなクロル化体が得られ、次にGSHとグルタチオン−S−トランスフェラーゼを反応させることで式(4)に示す化合物GdDTPA-SGが得られることを記載している。
【0035】
【化13】

【0036】
さらにGdDTPA-SG(4)は、肝細胞膜に発現する取り込み型トランスポーター蛋白質ならびに排出型トランスポーター蛋白質に属する膜蛋白質への基質認識性が得られ、腸肝循環の体内動態サイクルにのる薬物動態学的特性を能動的に付加されたことで肝細胞内と血中への滞留時間を増し、肝造影能に優れたMRI用造影剤が実現することを記載している。
【0037】
なお、本発明で述べるGSHとは、特に断りのない限り還元型に限定される。GSHは式(2)に示すとおり3つのアミノ酸、すなわちグルタミン酸、システイン、グリシンから構成されるトリペプチドであり、分子内にシステイン由来のスルフィド基(SH基)を有することや、システインのアミン基とグルタミン酸のカルボキシル基との間に珍しいペプチド結合を有すること等に分子構造上の特徴を持つ。生体内において、GSHは分子内のSH基に由来した酸化還元反応のほか、補酵素的反応や解毒反応などの生化学反応、細胞分裂及び細胞増殖等にかかわる。また、本邦では医療用医薬品として、薬物や農薬、金属等による中毒、妊娠悪阻や晩期妊娠中毒症等の妊娠中毒に対して適応が認められている。
本発明のGdDTPA-SGは、以下のスキーム1に示すルートで製造される。
【0038】
【化14】

【0039】
ガドペンテト酸(GdDTPA;化合物(1))の製造方法は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA;化合物(3))の水溶液に対し、1)に示す塩化ガドリニウム(III)の水溶液をモル比として1 : 1 〜 1 : 10、好ましくは1 : 1 〜 1 : 5の割合で混和し、ミキサーで5 〜 60秒間、好ましくは20 〜 30秒間撹拌することで得られる。反応温度は0 〜 40oC、好ましくは18 〜 30oCである。得られた化合物(1)は、次の工程のために水に対して透析を行い、余剰のガドリニウムを除去して精製する。透析時の反応温度は−10 〜 30oC、好ましくは0 〜 5oCであり、反応時間は3 〜 48時間、好ましくは18 〜 24時間である。
【0040】
次に化合物(1)をクロル化する。クロル化は、適当な溶媒中、三塩化リン、五塩化リン、塩化チオニル等のクロル化剤2)を用いて行うことができる。クロル化剤は化合物(1)に対して1.5 〜 20倍当量、好ましくは5 〜 15倍当量を用いる。溶媒は特に限定はされないが、水、メタノールが挙げられ、好ましくは水もしくは水とメタノールの混合溶媒が用いられる。該溶媒の使用量は化合物(1)に対して5 〜 100倍容、好ましくは20 〜 50倍容である。反応温度は 0 〜 100oC、好ましくは0 〜 50oCであり、反応時間は1 〜 48時間、好ましくは12 〜 18時間である。クロル化により得られた本発明の化合物に関する中間化合物を式(5)に示す。
【0041】
次に化合物(5)に対しGSHの付加反応を行う。GSH付加は、適当な溶媒中、供与体としてのGSH及び酵素glutathione-S-transferase 3)を用いて酵素化学的に行うことができる。GSHは化合物(5)に対して2 〜 20倍当量、好ましくは5 〜 10倍量を用いる。Glutathione-S-transferaseはGSHに対して1 〜 10倍当量、好ましくは2 〜 5倍当量を用いる。溶媒は特に限定されないが、リン酸緩衝溶液等が挙げられる。該溶媒の使用量は化合物(5)に対して5 〜 100倍容、好ましくは20 〜 50倍容である。反応温度は 30 〜 50oC、好ましくは35 〜 40oCであり、反応時間は1 〜 18時間、好ましくは6 〜 12時間である。付加により得られた本発明の化合物GdDTPA-SGを式(4)に示す。
【0042】
肝臓、特に肝細胞においては、その形態が生物学的にいう極性細胞であり、血管に接する面(basolateral側もしくはbasal側と呼ばれることがある)の形質膜と胆管に接する面(apical側とよばれることがある)の形質膜とでその生理的役割が異なる。
【0043】
細胞内外への薬物の取り込み・排出にかかわる薬物トランスポーターの発現に関しては、ヒト肝細胞では血管に接するbasolateral側の形質膜に有機アニオントランスポートポリペプチド1A2、1B1、1B3(Organic anion transporting polypeptide 1A2, 1B1, 1B3: OATP1A2, 1B1, 1B3)の他、ナトリウムイオン−タウロコール酸コトランスポーターペプチド(Na+-taurocholate cotransport polypeptide: NTCP)、有機アニオントランスポーター2(Organic anion transporter 2: OAT2)、有機カチオントランスポーター1(Organic cation transporter 1: OCT1)の局在が同定されている。
【0044】
一方、胆管に接するapical側の形質膜には多剤耐性蛋白質2(Multidrug resistance-associated protein 2: MRP2)、P-糖蛋白質(P-glycoprotein: P-gp)、胆汁酸排泄ポンプ(Bile salt export pump: BSEP)、肺癌耐性由来蛋白質(Breast cancer resistance protein: BCRP)の局在が同定されている。
【0045】
GdDTPAはbasolateral側の細胞膜に局在するOATP1A2(ラットではOatp1b2が相当する)に基質として認識されて肝細胞内に取り込まれ、またGSHはapical側の細胞膜に局在するMRP2に基質として認識されて、肝細胞外へ排出されることが非特許文献より報告されている。
【0046】
本発明のMRI造影剤GdDTPA-SGは、肝細胞膜に発現している上記のような取り込み型トランスポーター蛋白質、排出型トランスポーター蛋白質のいずれかに基質として認識されて肝細胞内外へ輸送される。好ましくは取り込み型トランスポーター蛋白質、排出型トランスポーター蛋白質の双方に基質として認識されて肝細胞内外へ輸送される。
【0047】
本発明のGdDTPA-SGを基質として認識する取り込み型トランスポーター蛋白質は、先述のOATPファミリー(OATP1A2, 1B1, 1B3)の他、NTCP、OAT2、OCT1のいずれでもよいが、好ましくはOATPファミリー、さらに好ましくはOATP1A2である。
【0048】
また、GdDTPA-SGを基質として認識する排出型トランスポーター蛋白質は、先述のMRP2、P-gp、BSEP、BCRPのいずれでもよいが、好ましくはMRP2である。
【0049】
基質としてはGdDTPA、GSH双方の化学的性質を有する分子であれば、OATP1A2を介した肝細胞内取り込みとMRP2を介した肝細胞外排出がみられ、肝細胞においてトランスポーター蛋白質を活用した理想的な効率のよいベクトリアル輸送経路を実現できる。
【0050】
このような極性細胞において化合物のベクトリアル輸送をin vitro系の実験で検証するには、培養細胞系を用いた実験を行うと容易である。すなわち、公知の技術である、細胞のapical側、basolateral側のいずれかに取り込み型トランスポーター蛋白質、排出型トランスポーター蛋白質をそれぞれ強制発現させた細胞実験系を構築し、本発明のGdDTPA-SGと対照としてのGdDTPAとの経細胞ベクトリアル輸送の程度の比較を行うとよい。細胞に強制発現させるトランスポーター蛋白質は特に限定はないが、本発明についてはOATP1A2を介した細胞内取り込みならびにMRP2を介した細胞外排出がみられるように、ヒトOATP1A2及びヒトMRP2のトランスポーター蛋白質が強制発現されていればよい。なお、細胞を培養する容器としては、上部コンパートメントと下部コンパートメントとで構成され、細胞の上面と下面とにそれぞれ培地が接触することができることが好ましい。細胞は、上部コンパートメントの底面に張られた多細孔膜メンブレンフィルター上に培養される。このことにより、細胞のapical側とbasolateral側とにそれぞれ別組成の培地が接触することが可能となり、化合物の経細胞的な任意方向のベクトリアル輸送が容易に測定し得る。
【0051】
In vitroにおけるGdDTPAあるいはGdDTPA-SGの経細胞輸送は以下のように測定される。In vitro培養細胞系に使用する細胞はあらかじめ既述の取り込み型トランスポーター蛋白質あるいは排出型トランスポーター蛋白質を強制発現させておく。強制発現させるトランスポーター蛋白質の種類は、排出型トランスポーター蛋白質の場合はヒトMRP2である。一方、取り込み型トランスポーター蛋白質の場合はヒトOATP1A2である。用いられる細胞を前記の上部コンパートメント底面の多細孔膜メンブレンフィルター上に培養してコンフルエントに達するまで増殖させる。コンフルエントに達した後、さらに培養を続ける。培養を続ける期間に特に限定はないが、好ましくは14日以内、さらに好ましくは7日以内である。用いられる細胞は特に限定はされないが、MDCK-II株、Caco-2株、OK株等が挙げられ、好ましくはMDCK-II株もしくはCaco-2株、さらに好ましくはMDCK-II株である。次に、先に排出型トランスポーター蛋白質を強制発現させた場合は取り込み型トランスポーター蛋白質を、先に取り込み型トランスポーター蛋白質を強制発現させた場合は排出型トランスポーター蛋白質を導入する。このときの取り込み型トランスポーター蛋白質の種類はヒトOATP1A2である。さらに複数日間培養を続けることで、細胞のapical側もしくはbasolateral側にヒトMRP2、ヒトOATP1A2を別々に発現した極性を有する単層細胞膜シートが形成される。この細胞実験系は、薬剤の経細胞輸送を測定可能なin vitro実験系として活用できる。上部あるいは下部チャンバーの溶液中にGdDTPAもしくはGdDTPA-SGを添加して、所定時間経過後、下部あるいは上部チャンバーの溶液中にあらわれる薬剤量をそれぞれ経時的に定量することで、GdDTPAあるいはGdDTPA-SGのヒトMRP2、ヒトOATP1A2によるin vitro経細胞輸送量を測定し得る。このときの薬剤濃度は0.05 〜 5mM、好ましくは0.1 〜 2mM、さらに好ましくは0.5 〜 1mMである。また、測定時間は0 〜 72時間、好ましくは0 〜 48時間である。測定温度は25 〜 37oC、好ましくは30 〜 37oC、さらに好ましくは35 〜 37oCである。
【0052】
上記ならびに図面1に記載した内容に従い実験を行った例を以下に示す。
ガドペンテト酸(GdDTPA)はジエチレントリアミン五酢酸33.8mgの水溶液5mLに対し、予め調製した塩化ガドリニウム(III)水溶液をモル比として1 : 1の割合で混和し、ミキサーで20 秒間撹拌することで得た。このときの反応温度は20oCで行った。得られた8.6mM GdDTPA(濃度はGd3+当量)は水に対して4oC、24時間透析を行い、余剰のガドリニウムを除去して精製した。次に精製したGdDTPAをGd3+当量として5mM、10mLの水溶液に調製し、三塩化リン50mgを加えて50oC、12時間反応させてクロル化体を得た。このときの溶媒は水 : メタノール = 1 : 1の混合溶媒200mLとした。次に、得られたGdDTPAのクロル化体を1mM、10mLに調製し、5mM GSH及び10mM glutathione-S-transferaseをリン酸緩衝溶液中、37oC、12時間反応させてGdDTPA-SGを得た。
【0053】
MDCK-II細胞にプラスミドベクターへ組み込んだヒトMRP2を導入し、絨毛側(細胞上部)にヒトMRP2を強制発現させたヒトMRP2発現MDCK-II細胞を作製した。後日、ヒトMRP2発現MDCK-II細胞にプラスミドベクターへ組み込んだヒトOATP1A2を導入し、基底膜側(細胞下部)にヒトOATP1A2を強制発現させたヒトOATP1A2−ヒトMRP2共発現MDCK-II細胞を樹立した。この細胞を図1に示すような構成の培養容器の多細孔膜フィルターメンブラン上に播種し、コンフルエントに増殖するまで培養した。なお、このときの培養容器は市販品を用いてもよい。細胞がコンフルエントに達した後、さらに3日間培養を続けることで、細胞上部にヒトMRP2を、細胞下部にOATP1A2を別々に発現した極性を有する単層細胞膜シートが形成された。この細胞実験系は、薬剤の経細胞輸送を測定可能なin vitro実験系として活用できる。下部コンパートメントの溶液中に1mM GdDTPAもしくはGdDTPA-SGを添加して以降に示す所定時間後、上部コンパートメントの溶液中にあらわれる薬剤量をそれぞれ経時的に定量することで、GdDTPAあるいはGdDTPA-SGのヒトMRP2、ヒトOATP1A2によるin vitro経細胞輸送量を測定した。GdDTPA-SGの経時的な経細胞輸送量を添加後1, 2, 6, 12, 24, 48時間で、また、GdDTPAの経時的な経細胞輸送量を添加後1, 2, 6, 12, 24, 48時間で、それぞれ別々のチャンバーで測定し経過時間毎の薬剤移行量の比(GdDTPA-SG / GdDTPA比)を計算した。実験の結果、図3に示すとおり、被検物質添加後1時間ではGdDTPAとGdDTPA-SGとの経細胞輸送量の比は約1で差は見られなかったが、添加後24時間ではGdDTPAとGdDTPA-SGとの経細胞輸送量の比が約13、添加後48時間ではGdDTPAとGdDTPA-SGとの経細胞輸送量の比が約25となり、経過時間依存的なGdDTPA-SG / GdDTPA比の増加がin vivoで認められた。
【0054】
生体の肝においてはGdDTPAであれば細胞間隙コンパートメントへの分布のみであったため造影時間等の造影能に限定がみられていたが、本発明のMRI造影剤GdDTPA-SGを用いることにより、肝細胞内へ造影成分が能動的にしかるべきトランスポーター蛋白質を介して取り込まれ、肝実質組織の造影が実現できる。
【0055】
前述の内容に加え、GdDTPA-SGの肝細胞外排出についてはしかるべきトランスポーター蛋白質を介して能動的に行う化学構造上の特徴があることから、何らかの原因により肝細胞へ当該MRI造影剤GdDTPA-SGの取り込み量が増えた場合でも、細胞外への薬剤排出が確保され、薬剤性肝細胞障害に対する安全性の担保が実現可能である。
また、本発明のMRI造影剤GdDTPA-SGは、上記によりトランスポーター蛋白質を介した効率よい体内動態を実現することで、体内への投与量を従来よりも少なく設定することが可能となり、予期せぬ副作用発現の危険性の低減に貢献でき得る。
【0056】
GdDTPAは薬物代謝酵素の影響を受けないため、生体内に投与されたGdDTPAが排泄されるとき、未変化体として腎臓から尿中排泄される。一方、本発明のMRI造影剤GdDTPA-SGが投与されて生体内に存在するとき、生体では肝細胞内に取り込まれた当該化合物を体外排泄に備えてグルタチオン抱合されたGdDTPAとして認識する。その結果として、排泄経路として尿中排泄の他、胆汁中排泄及び糞中排泄が選ばれる割合が増えることとなるため、本発明では生体内からの確実な排泄経路が従来の1ルートから2ルートへと増えたことになり、薬剤のより安全な体外排泄が実現可能となり得る。
【0057】
ここで、肝細胞から排出されて胆汁中に移行した当該MRI造影剤GdDTPA-SGは、空腸から大腸にかけて消化管吸収を受け、再び血中へと取り込まれる。血中に移行したGdDTPA-SGは再び肝細胞に取り込まれ、また胆汁中へ排出されるいわゆる腸肝循環が見られる。この腸肝循環は薬学的に広く公知である。この現象によっても、見かけ上の血漿中濃度や肝細胞内濃度の維持、すなわち造影効果の発揮時間の延長が実現可能となり得る。
以上、本発明のMRI造影剤GdDTPA-SGは、能動的な腸肝循環ならびに肝細胞取り込み・排出機能を薬学的に付加したことにより、造影成分の肝滞留時間上昇、また、肝のコントラスト持続時間の延長、さらに、安全性の向上も実現でき得る。
【実施例2】
【0058】
本発明者は、以下の式(1)に示すGdDTPAの持つ造影効果上の難点を解決するため、優れた造影効果を示す製剤上の工夫を鋭意検討した。その結果、次の式(2)に示すg-グルタミルシステイニルグリシン(以下、本明細では一般名である「グルタチオン」あるいは「GSH」とよぶ)を化学的に結合した、本発明の次の式(4)に示す化合物GdDTPA-SGをMRI用造影剤として使用した場合、肝細胞膜に発現する取り込み型トランスポーター蛋白質ならびに排出型トランスポーター蛋白質に属する膜蛋白質への基質認識性が与えられ、腸肝循環の体内動態サイクルにのる薬物動態学的特性を能動的に付加することで肝細胞内と血中への滞留時間を増し、肝造影能に優れたMRI用造影剤が実現することに成功した。
【0059】
【化15】

【0060】
【化16】

【0061】
【化17】

【0062】
すなわち、本発明は、式(1)に示される化合物にクロル化剤を反応させることで、次の式(5)に示すようなクロル化体が得られ、次にGSHとグルタチオン−S−トランスフェラーゼを反応させることで式(4)に示す化合物GdDTPA-SGが得られることを記載している。
【0063】
【化18】

【0064】
さらにGdDTPA-SG(4)は、肝細胞膜に発現する取り込み型トランスポーター蛋白質ならびに排出型トランスポーター蛋白質に属する膜蛋白質への基質認識性が得られ、腸肝循環の体内動態サイクルにのる薬物動態学的特性を能動的に付加されたことで肝細胞内と血中への滞留時間を増し、肝造影能に優れたMRI用造影剤が実現することを記載している。
【0065】
なお、本発明で述べるGSHとは、特に断りのない限り還元型に限定される。GSHは式(2)に示すとおり3つのアミノ酸、すなわちグルタミン酸、システイン、グリシンから構成されるトリペプチドであり、分子内にシステイン由来のスルフィド基(SH基)を有することや、システインのアミン基とグルタミン酸のカルボキシル基との間に珍しいペプチド結合を有すること等に分子構造上の特徴を持つ。生体内において、GSHは分子内のSH基に由来した酸化還元反応のほか、補酵素的反応や解毒反応などの生化学反応、細胞分裂及び細胞増殖等にかかわる。また、本邦では医療用医薬品として、薬物や農薬、金属等による中毒、妊娠悪阻や晩期妊娠中毒症等の妊娠中毒に対して適応が認められている。
本発明のGdDTPA-SGは、以下のスキーム1に示すルートで製造される。
【0066】
【化19】

【0067】
ガドペンテト酸(GdDTPA;化合物(1))の製造方法は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA;化合物(3))の水溶液に対し、1)に示す塩化ガドリニウム(III)の水溶液をモル比として1 : 1 〜 1 : 10、好ましくは1 : 1 〜 1 : 5の割合で混和し、ミキサーで5 〜 60秒間、好ましくは20 〜 30秒間撹拌することで得られる。反応温度は0 〜 40oC、好ましくは18 〜 30oCである。得られた化合物(1)は、次の工程のために水に対して透析を行い、余剰のガドリニウムを除去して精製する。透析時の反応温度は−10 〜 30oC、好ましくは0 〜 5oCであり、反応時間は3 〜 48時間、好ましくは18 〜 24時間である。
【0068】
次に化合物(1)をクロル化する。クロル化は、適当な溶媒中、三塩化リン、五塩化リン、塩化チオニル等のクロル化剤2)を用いて行うことができる。クロル化剤は化合物(1)に対して1.5 〜 20倍当量、好ましくは5 〜 15倍当量を用いる。溶媒は特に限定はされないが、水、メタノールが挙げられ、好ましくは水もしくは水とメタノールの混合溶媒が用いられる。該溶媒の使用量は化合物(1)に対して5 〜 100倍容、好ましくは20 〜 50倍容である。反応温度は 0 〜 100oC、好ましくは0 〜 50oCであり、反応時間は1 〜 48時間、好ましくは12 〜 18時間である。クロル化により得られた本発明の化合物に関する中間化合物を式(5)に示す。
【0069】
次に化合物(5)に対しGSHの付加反応を行う。GSH付加は、適当な溶媒中、供与体としてのGSH及び酵素glutathione-S-transferase 3)を用いて酵素化学的に行うことができる。GSHは化合物(5)に対して2 〜 20倍当量、好ましくは5 〜 10倍量を用いる。Glutathione-S-transferaseはGSHに対して1 〜 10倍当量、好ましくは2 〜 5倍当量を用いる。溶媒は特に限定されないが、リン酸緩衝溶液等が挙げられる。該溶媒の使用量は化合物(5)に対して5 〜 100倍容、好ましくは20 〜 50倍容である。反応温度は 30 〜 50oC、好ましくは35 〜 40oCであり、反応時間は1 〜 18時間、好ましくは6 〜 12時間である。付加により得られた本発明の化合物GdDTPA-SGを式(4)に示す。
【0070】
肝臓、特に肝細胞においては、その形態が生物学的にいう極性細胞であり、血管に接する面(basolateral側もしくはbasal側と呼ばれることがある)の形質膜と胆管に接する面(apical側とよばれることがある)の形質膜とでその生理的役割が異なる。
【0071】
細胞内外への薬物の取り込み・排出にかかわる薬物トランスポーターの発現に関しては、ヒト肝細胞では血管に接するbasolateral側の形質膜に有機アニオントランスポートポリペプチド1A2、1B1、1B3(Organic anion transporting polypeptide 1A2, 1B1, 1B3: OATP1A2, 1B1, 1B3)の他、ナトリウムイオン−タウロコール酸コトランスポーターペプチド(Na+-taurocholate cotransport polypeptide: NTCP)、有機アニオントランスポーター2(Organic anion transporter 2: OAT2)、有機カチオントランスポーター1(Organic cation transporter 1: OCT1)の局在が同定されている。
【0072】
一方、胆管に接するapical側の形質膜には多剤耐性蛋白質2(Multidrug resistance-associated protein 2: MRP2)、P-糖蛋白質(P-glycoprotein: P-gp)、胆汁酸排泄ポンプ(Bile salt export pump: BSEP)、肺癌耐性由来蛋白質(Breast cancer resistance protein: BCRP)の局在が同定されている。
【0073】
GdDTPAはbasolateral側の細胞膜に局在するOATP1A2(ラットではOatp1b2が相当する)に基質として認識されて肝細胞内に取り込まれ、またGSHはapical側の細胞膜に局在するMRP2に基質として認識されて、肝細胞外へ排出されることが非特許文献より報告されている。
【0074】
本発明のMRI造影剤GdDTPA-SGは、肝細胞膜に発現している上記のような取り込み型トランスポーター蛋白質、排出型トランスポーター蛋白質のいずれかに基質として認識されて肝細胞内外へ輸送される。好ましくは取り込み型トランスポーター蛋白質、排出型トランスポーター蛋白質の双方に基質として認識されて肝細胞内外へ輸送される。
【0075】
本発明のGdDTPA-SGを基質として認識する取り込み型トランスポーター蛋白質は、先述のOATPファミリー(OATP1A2, 1B1, 1B3)の他、NTCP、OAT2、OCT1のいずれでもよいが、好ましくはOATPファミリー、さらに好ましくはOATP1A2である。
【0076】
また、GdDTPA-SGを基質として認識する排出型トランスポーター蛋白質は、先述のMRP2、P-gp、BSEP、BCRPのいずれでもよいが、好ましくはMRP2である。
【0077】
基質としてはGdDTPA、GSH双方の化学的性質を有する分子であれば、OATP1A2を介した肝細胞内取り込みとMRP2を介した肝細胞外排出がみられ、肝細胞においてトランスポーター蛋白質を活用した理想的な効率のよいベクトリアル輸送経路を実現できる。
【0078】
生体におけるこれらの検証は、小動物を用いた実験を行うことが好ましい。すなわち、小動物に対して本発明のGdDTPA-SG又は対照としてのGdDTPAを投与し、それぞれの肝移行量、肝MRI撮像における輝度の比較を行うとよい。
【0079】
小動物を用いたGdDTPAあるいはGdDTPA-SGの肝移行量、肝輝度、尿中排泄量、胆汁中排泄量のin vivoでの検討は以下のように設定される。小動物にGdDTPAあるいはGdDTPA-SGを投与する。小動物はマウス、ラット、モルモット、ウサギ、サル等が用いられるが、好ましくはマウス、ラット、ウサギが用いられる。マウスの場合、体重について10 〜 40gの個体を用いるが、好ましくは20 〜 25gの個体を用いることが好ましい。ラットの場合、体重について150 〜 400gの個体を用いるが、好ましくは200 〜 300gの個体を用いることが好ましい。ウサギの場合、体重について1.5 〜 4kgの個体を用いるが、好ましくは2 〜 3kgの個体を用いることが好ましい。 被検物質の投与量は特に限定はないが、好ましくは0.1 〜 1000mmole/kg、さらに好ましくは1 〜 500mmole/kgに設定される。被検物質の投与ルートは血管に限定されるが、好ましくは左もしくは右頸静脈、左もしくは右大腿静脈、左もしくは右尾静脈であり、さらに好ましくは左もしくは右尾静脈である。被検物質投与後の観察期間は0 〜 120時間であるが、好ましくは0 〜 72時間である。
【0080】
上記ならびに図面2に記載した内容に従い実験を行った例を以下に示す。
ガドペンテト酸(GdDTPA)はジエチレントリアミン五酢酸33.8mgの水溶液5mLに対し、予め調製した塩化ガドリニウム(III)水溶液をモル比として1 : 1の割合で混和し、ミキサーで20 秒間撹拌することで得た。このときの反応温度は20oCで行った。得られた8.6mM GdDTPA(濃度はGd3+当量)は水に対して4oC、24時間透析を行い、余剰のガドリニウムを除去して精製した。次に精製したGdDTPAをGd3+当量として5mM、10mLの水溶液に調製し、三塩化リン50mgを加えて50oC、12時間反応させてクロル化体を得た。このときの溶媒は水 : メタノール = 1 : 1の混合溶媒200mLとした。次に、得られたGdDTPAのクロル化体を1mM、10mLに調製し、5mM GSH及び10mM glutathione-S-transferaseをリン酸緩衝溶液中、37oC、12時間反応させてGdDTPA-SGを得た。
【0081】
実験動物として体重200gのラットを用いて、20mmole/kgの投与量のGdDTPAあるいはGdDTPA-SGを血管内に投与した。GdDTPA-SGとGdDTPAの経時的な肝移行量はそれぞれ別々の個体から求め、経過時間毎の薬剤の肝移行量の比(GdDTPA-SG / GdDTPA比)を計算した。実験の結果、図4に示すとおり、被検物質投与後1時間ではGdDTPAとGdDTPA-SGとの肝移行量の比は約1でほとんど差は見られなかったが、投与後24時間ではGdDTPAとGdDTPA−SGとの肝移行量の比が約9、添加後72時間ではGdDTPAとGdDTPA-SGとの肝移行量の比が約19となり、投与後経過時間に依存的なGdDTPA-SG / GdDTPA比の増加がin vivoで認められた。
【0082】
また、実験動物として体重200gのラットを用いて、20mmole/kgの投与量のGdDTPAあるいはGdDTPA-SGを血管内に投与した。GdDTPAあるいはGdDTPA-SGを実験動物に投与して72時間まで経過を観察している間、途中で肝MRIを撮影して、経過時間毎の肝の適切な関心領域における輝度を求めた。GdDTPA-SGとGdDTPAの経時的な肝輝度はそれぞれ別々の個体から求め、経過時間毎の肝輝度の比(GdDTPA-SG / GdDTPA比)を計算した。実験の結果、図5に示すとおり、被検物質投与後1時間ではGdDTPAとGdDTPA-SGとの肝輝度の比は約1でほとんど差は見られなかったが、投与後24時間ではGdDTPAとGdDTPA−SGとの肝輝度の比が約17、添加後72時間ではGdDTPAとGdDTPA-SGとの肝輝度の比が約40となり、投与後経過時間に依存的なGdDTPA-SG / GdDTPA比の増加がin vivoで認められた。
【0083】
さらに、実験動物として体重200gのラットを用いて、20mmole/kgの投与量のGdDTPAあるいはGdDTPA-SGを血管内に投与した。なお、ラットは被検物質投与前に胆管及び尿道にカニューレを挿管し、それぞれ胆汁および尿を経時的に強制採取できる状態にした。GdDTPA-SGとGdDTPAの経時的な胆汁中排泄量、尿中排泄量はそれぞれ別々の個体から求めた。実験の結果、図6に示すとおり、GdDTPA投与ラットでは投与後24時間での尿中排泄量が投与量に対し約96%であり、胆汁中排泄量はほとんど認められなかった。一方、GdDTPA-SG投与ラットでは投与後24時間の尿中排泄量は投与量に対し約61%、胆汁中排泄量は約40%であり、GdDTPA-SGの肝移行性がin vivoで確認できた。
【0084】
生体の肝においてはGdDTPAであれば細胞間隙コンパートメントへの分布のみであったため造影時間等の造影能に限定がみられていたが、本発明のMRI造影剤GdDTPA-SGを用いることにより、肝細胞内へ造影成分が能動的にしかるべきトランスポーター蛋白質を介して取り込まれ、肝実質組織の造影が実現できる。
【0085】
前述の内容に加え、GdDTPA-SGの肝細胞外排出についてはしかるべきトランスポーター蛋白質を介して能動的に行う化学構造上の特徴があることから、何らかの原因により肝細胞へ当該MRI造影剤GdDTPA-SGの取り込み量が増えた場合でも、細胞外への薬剤排出が確保され、薬剤性肝細胞障害に対する安全性の担保が実現可能である。
【0086】
また、本発明のMRI造影剤GdDTPA-SGは、上記によりトランスポーター蛋白質を介した効率よい体内動態を実現することで、体内への投与量を従来よりも少なく設定することが可能となり、予期せぬ副作用発現の危険性の低減に貢献でき得る。
【0087】
GdDTPAは薬物代謝酵素の影響を受けないため、生体内に投与されたGdDTPAが排泄されるとき、未変化体として腎臓から尿中排泄される。一方、本発明のMRI造影剤GdDTPA-SGが投与されて生体内に存在するとき、生体では肝細胞内に取り込まれた当該化合物を体外排泄に備えてグルタチオン抱合されたGdDTPAとして認識する。その結果として、排泄経路として尿中排泄の他、胆汁中排泄及び糞中排泄が選ばれる割合が増えることとなるため、本発明では生体内からの確実な排泄経路が従来の1ルートから2ルートへと増えたことになり、薬剤のより安全な体外排泄が実現可能となり得る。
【0088】
ここで、肝細胞から排出されて胆汁中に移行した当該MRI造影剤GdDTPA-SGは、空腸から大腸にかけて消化管吸収を受け、再び血中へと取り込まれる。血中に移行したGdDTPA-SGは再び肝細胞に取り込まれ、また胆汁中へ排出されるいわゆる腸肝循環が見られる。この腸肝循環は薬学的に広く公知である。この現象によっても、見かけ上の血漿中濃度や肝細胞内濃度の維持、すなわち造影効果の発揮時間の延長が実現可能となり得る。
【0089】
以上、本発明のMRI造影剤GdDTPA-SGは、能動的な腸肝循環ならびに肝細胞取り込み・排出機能を薬学的に付加したことにより、造影成分の肝滞留時間上昇、また、肝のコントラスト持続時間の延長、さらに、安全性の向上も実現でき得る。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明を実証するためのin vitro実験系の概念図を示した。
【図2】本発明を実証するためのin vivo実験系の概念図を示した。
【図3】極性培養が可能なチャンバーの多細孔膜メンブラン上に培養したMDCK-II細胞において、下部コンパートメントに本発明のMRI造影剤等を添加後、上部コンパートメントにあらわれる薬物量との比率を経時的に示した結果である。MDCK-II細胞は、細胞上面にヒトMRP2を、また細胞下面にヒトOATP1A2をそれぞれ強制発現させている。
【図4】本発明のMRI造影剤GdDTPA-SGあるいはGdDTPAを静脈内投与したラットにおいて、GdDTPA-SGを投与したラットとGdDTPAを投与したラットにおけるそれぞれの造影剤の肝移行量の比を経時的に示した結果である。
【図5】本発明のMRI造影剤GdDTPA-SGあるいはGdDTPAを静脈内投与したラットにおいて、GdDTPA-SGを投与したラットとGdDTPAを投与したラットで肝MRIを撮影後、それぞれの肝撮像の適切な関心領域における輝度の比を経時的に示した結果である。
【図6】本発明のMRI造影剤GdDTPA-SGあるいはGdDTPAを静脈内投与したラットにおいて、GdDTPAを投与したラットにおけるGdDTPAの尿中排泄量及び胆汁中排泄量、GdDTPA-SGを投与したラットにおけるGdDTPA-SGの尿中排泄量及び胆汁中排泄量を経時的に示した結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分布した肝細胞内においてT1緩和時間短縮効果を示すことでT1強調画像上高信号の造影効果を得ることができる造影効果発揮部位を化学構造上有することを特徴とする造影剤。
【請求項2】
請求項1記載の造影剤において、前記造影効果発揮部位は臓器非特異的な細胞外液分布性を示すガドリニウムキレートであることを特徴とした造影剤。
【請求項3】
請求項1記載の造影剤において、前記造影効果発揮部位は次の式(1)に表される化合物であることを特徴とする造影剤。
[化1]

【請求項4】
請求項1記載の造影剤において、肝細胞での発現量が高いトランスポーター蛋白質に認識されるプローブを化学構造上有し、肝移行性を増強させたことを特徴とする造影剤。
【請求項5】
請求項4記載の造影剤において、前記プローブはペプチドであることを特徴とした造影剤。
【請求項6】
請求項5記載の造影剤において、前記ペプチドは次の式(2)に示されるg-グルタミルシステイニルグリシンであることを特徴とした造影剤。
[化2]

【請求項7】
造影剤の腸−肝循環を実現させる製剤設計を施すことで意図的に腎排泄速度を低下させ、造影剤の体内滞留時間を増加させることを特徴とした薬学的修飾方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法において、造影剤を肝細胞膜に発現する取り込み型トランスポーター蛋白質OATP1A2又ならびに排出型トランスポーター蛋白質MRP2に認識させるために、生体でg-グルタミルシステイニルグリシン抱合体と認識される造影剤を設計することで、血中投与された造影剤が肝に取り込まれ、胆汁中に排泄されて腸管から再吸収される一連の腸肝循環を示す体内動態プロセスを特徴とした薬学的修飾方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法において、造影剤の排泄経路について糞中排泄又は尿中排泄とすることを特徴とした薬学的修飾方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−106673(P2007−106673A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295839(P2005−295839)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】