説明

MnZnフェライト

【課題】 高い初透磁率を示し、しかも広帯域にわたって、高い初透磁率のフェライト材料を得ることを目的とする。
【解決手段】 主成分であるMnZnフェライトを100重量部としたときに、添加物としてSiO2が0〜0.005重量部、CaOが0.05重量部〜0.2重量部、MoO3が0.05重量部〜0.5重量部、Bi23が0.005重量部〜0.1重量部含有するMnZnフェライトにおいて、得られた焼成体の焼成体表面にMoO3とCaOを含む析出相を有し、平均結晶粒径が30μm以上、100μm以下、焼成体比抵抗が20Ωcm以上、100Ωcm以下であり、1kHz時の透磁率が12,000以上、150kHz時の透磁率が12,500以上であるMnZnフェライトが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高透磁率フェライトに関し、特にノイズフィルタ用フェライトコアとして好適なMnZnフェライトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高性能化の技術革新が著しく、それに伴い使用されるMn-Zn系フェライトの高性能化、例えば高透磁率化、及び低損失化が求められている。なかでも、ノイズフィルタ用のフェライトコアは高い初透磁率と広帯域にわたり高い初透磁率を示すことが要求される。
【0003】
初透磁率は、結晶磁気異方性を小さくすることにより高くなる。また、透磁率は平均結晶粒径を大きくすることにより高くなる。結晶磁気異方性定数を小さくするためには、主成分組成のZnO量をrich組成とすることが一般的に知られている。具体的には52.0〜52.5mol%Fe23、24.0〜28.0mol%MnO、残部ZnO付近の組成が高透磁率材として製造されている。
【0004】
結晶粒径を大きくするためには、粒成長を促進することを目的として種々の粒成長添加物を適量添加する手法が用いられている。また、焼成保持温度を高くすることにより、粒成長を促進する方法が用いられている。特許文献1ではBi3を添加し結晶粒径を大きくすることが提案されている。
【0005】
広帯域にわたり高い初透磁率を示すためには材料の比抵抗を高くすることが必要である。
【0006】
渦電流損失は周波数の増加に伴って増大し、高周波域では初透磁率は低下する。これを防ぐ有効な手段は材料を高抵抗化することであり、それにより初透磁率の高周波域の周波数特性が良好となる。
【0007】
そのため、一般的には粒界に析出する添加物を添加することにより広帯域にわたり高い初透磁率を得る手法を用いている。
【0008】
【特許文献1】特公昭52−29439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
結晶粒径を大きくするために種々の粒成長添加物を用いることを先に述べた。しかしながら、粒成長添加物は異常粒成長促進因子でもあり、異常粒が発生しやすくなる。異常粒は、渦電流損失を増加させ比抵抗の低減につながり、高周波域では初透磁率は低下する。
【0010】
また、結晶粒径を大きくするためには焼成温度を高くすることを先に述べた。しかしながら、焼成温度を高くしすぎると焼成体表面からZnOが揮発し、その組成勾配により歪が生じ、初透磁率の低下を招く。
【0011】
以上述べたように、高い初透磁率を示し、しかも広帯域にわたって、高い初透磁率のフェライト材料を得ることは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
種々の検討を行った結果、主成分であるMnZnフェライトを100重量部としたときに、添加物としてSiO2が0〜0.005重量部、CaOが0.05重量部〜0.2重量部、MoO3が0.05重量部〜0.5重量部、Bi3が0.005重量部〜0.1重量部含有するMnZnフェライトにおいて、得られた焼成体の焼成体表面にMoO3とCaOを含む析出相を有し、平均結晶粒径が30μm以上、100μm以下、焼成体比抵抗が20Ωcm以上、100Ωcm以下であり、1kHz時の透磁率が12,000以上、150kHz時の透磁率が12,500以上であるMnZnフェライトが得られることを見出した。
【0013】
即ち、本発明によれば、MnO、ZnO、Feからなる主成分の合量100重量部に対して、添加物としてSiO2が0〜0.005重量部、CaOが0.05重量部〜0.2重量部、MoO3が0.05重量部〜0.5重量部、Bi3が0.005重量部〜0.1重量部含有することを特徴とするMnZnフェライトが得られる。以下、主成分を100重量部とする、副成分としての添加物の「重量部」を「wt%」で示す。なお、この添加物のwt%は主成分に対する外枠での重量%に相当している。
【0014】
また、MnZnフェライトの焼成体表面にMoO3とCaOを含む析出相を有し、平均結晶粒径が30μm以上、100μm以下であることを特徴とするMnZnフェライトが得られる。
【0015】
また、MnZnフェライトの焼成体比抵抗が20Ωcm以上、100Ωcm以下であることを特徴とするMnZnフェライトが得られる。
【0016】
また、MnZnフェライトの焼成体の1kHz時の透磁率が12,000以上、150kHz時の透磁率が12,000以上であることを特徴とするMnZnフェライトが得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明品によれば、CaOを0.05wt%〜0.2wt%とすることにより、結晶粒成長を阻害することなく、高抵抗の粒界層を形成できることから、渦電流損失の低減を図れる。また、MoO3を0.05wt%〜0.5wt%、Bi3を0.005wt%〜0.1wt%とすることにより、焼成体表面からZnOが揮発することのない焼成温度で結晶粒径を大きくすることができることより、高透磁率フェライトが得られる。
【0018】
さらに、得られた焼成体の焼成体表面にMoO3とCaOを含む析出相を有し、平均結晶粒径が30μm以上、100μm以下、焼成体比抵抗が20Ωcm以上、100Ωcm以下であり、1kHz時の透磁率が12,000以上、150kHz時の透磁率が12,500以上である、極めて高透磁率のMnZnフェライトが得られる。しかも、極めて高透磁率のMnZnフェライトであるため、ノイズフィルタ用フェライトコアとして用いた場合に小型で高インピーダンスのノイズフィルタを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
種々の検討を行った結果、主成分であるMnZnフェライトに対し、主成分を100とした時に外枠で、添加物としてSiO2が0〜0.005wt%、CaOが0.05wt%〜0.2wt%、MoO3が0.05wt%〜0.5wt%、Bi3が0.005wt%〜0.1wt%含有させることにより、高透磁率のMnZnフェライトが得られる事が分かった。また、得られるMnZnフェライト焼成体として焼成体表面にMoO3とCaOを含む析出相を有し、平均結晶粒径が30μm以上、100μm以下とすること、また、焼成体の比抵抗が20Ωcm以上、100Ωcm以下とすることで高透磁率材料として良好な材料が得られることが分かった。また、1kHz時の透磁率が12,000以上、150kHz時の透磁率が12,500以上であるMnZnフェライトとすることで、ノイズフィルタ用フェライトコアとして用いた場合に小型で高インピーダンスのノイズフィルタを提供できる。
【0020】
本発明品によれば、CaOを0.05wt%〜0.2wt%とすることにより、結晶粒成長を阻害することなく、高抵抗の粒界層を形成できることから、渦電流損失の低減を図れる。また、MoO3を0.05wt%〜0.5wt%、Bi3を0.005wt%〜0.1wt%とすることにより、焼成体表面からZnOが揮発することのない焼成温度で結晶粒径を大きくすることができることより、高透磁率フェライトが得られる。また、本発明品の焼成体表面にはMoO3とCaOを含む析出相が存在する。
【0021】
添加物としてのSiO2は0.005wt%以上であると、結晶粒成長を阻害し、透磁率を著しく低くさせるので、SiO2の添加量は0〜0.005wt%とするのが良い。また、添加物としてのCaOは0.05wt%以下であると粒界層形成が不充分なことから抵抗が低くなり、渦電流損失の増大によって広帯域にわたり高い初透磁率がえられず、0.2wt%以上であると過剰のCaOが結晶粒成長を阻害し、十分な透磁率を得られないので、CaOの添加量は0.05wt%〜0.2wt%とするのが良い。さらに、添加物としてのMoO3とBi3に関しては、MoO3が0.05wt%以下、Bi3が0.005 wt%以下であると十分な結晶粒の成長が得られず透磁率が低く、MoO3が0.5wt%以上、Bi3が0.1wt%以上であると過剰添加により異常粒成長をもたらし広帯域にわたり高い初透磁率が得られないので、MoO3の添加量は0.05wt%〜0.5wt%、Bi3の添加量は0.005wt%〜0.1wt%とするのが良い。
【0022】
また、得られた高透磁率MnZnフェライトにおいて、焼成体の平均結晶粒径が30μm以下であると結晶粒径が小さいため十分な透磁率が得られず、100μm以上であると粒界層形成が不充分なことから抵抗が低くなり、渦電流損失の増大によって広帯域にわたり高い初透磁率が得られないため、得られる高透磁率MnZnフェライトの焼成体の平均結晶粒径が30μm以上、100μm以下とすることが望ましい。
【0023】
また、得られた高透磁率MnZnフェライトにおいて、焼成体の比抵抗が20Ωcm以下であると渦電流損失の増大によって広帯域にわたり高い初透磁率を得られず、比抵抗が100Ωcm以上であると結晶粒径が小さいため十分な透磁率が得られないため、得られる高透磁率MnZnフェライトの焼成体の比抵抗を20Ωcm以上、100Ωcm以下とすることが望ましい。
【0024】
また、得られた高透磁率MnZnフェライトにおいて、焼成体表面に存在するMoO3とCaOを含む析出相については詳細には不明だが、MoO3は揮発性の添加物であり、粒界成分のCaOと焼成体表面で共融混合物を形成したものと推察されるが、高透磁率の特性を得るためには、得られる焼成体表面にMoO3とCaOを含む析出相が存在する様にすることが望ましい。
【実施例1】
【0025】
発明品として、52.5mol%のFe23、22.5mol%のZnO、残部MnOの主成分と、これらの主成分100重量部に対し、さらに副成分として0〜0.006wt%SiO2、0.04wt%〜0.25wt%のCaO、0.04wt%〜0.6wt%のMoO3、0.004wt%〜0.15wt%のBi3を添加し、アトライターを用いて2時間混合した。混合後、スプレードライヤーで造粒し、850℃の大気中で2時間予焼した。得られた予焼粉末をアトライターにて粉砕した。粉砕後、スプレードライヤーにて造粒し、25mmφ-15mmφ-12mmのトロイダル形状にプレスし、1320℃で焼成した。
【0026】
従来品として、52.5mol%のFe23、22.5mol%のZnO、残部MnOの主成分と、これらの主成分100重量部に対し、副成分として0.015wt%のSiO2、0.015wt%のCaO、0.015wt%のBi3を秤量し、アトライターを用いて2時間混合した。混合の後、スプレードライヤーで造粒した。混合後、スプレードライヤーで造粒し、850℃の大気中で2時間予焼した。得られた予焼粉末をアトライターにて粉砕した。粉砕後、スプレードライヤーにて造粒し、25mmφ-15mmφ-12mmのトロイダル形状にプレスし、1320℃で焼成した。
【0027】
磁気特性は10ターンの巻線を施し透磁率、を測定した。比抵抗の測定は試料上下面にGa−Inペーストを塗布し、測定した。また、表面析出相の分析はSEM−EDXで行った。表1に従来品とSiO2、CaO、MoO3、Bi3量を変えた発明品の平均結晶粒径、比抵抗、1kHzにおけるμ、および150kHzにおける初透磁率μを示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示すように、SiO2が0〜0.005wt%以下、CaOが0.05wt%〜0.2wt%以下、MoO3が0.05wt%〜0.5wt%、Bi3が0.005wt%〜0.1wt%の発明品で、焼結体の平均結晶粒径が30μm以上100μm、比抵抗が20Ωcm〜100Ωcm、1kHzの透磁率が12,000以上、150kHz時の透磁率が12,500以上であることがわかる。また、SEM−EDX分析によりコア表面の組成分析を行った結果、すべての特性の良い発明品にMoO3とCaOの析出相が存在することが確認できた。
【0030】
図1に、発明品6と従来品の複素透磁率の実部透磁率μ’、虚部透磁率μ”の周波数特性を示す。図1に示すように、本発明品は、全周波数範囲で従来品と比べ透磁率が高く、広帯域にわたり高い初透磁率が得られており、ノイズフィルタ用材料として有用であることが分かる。
【実施例2】
【0031】
発明品として、52.5mol%のFe23、22.5mol%のZnO、残部MnOの主成分と、これらの主成分100重量部に対し、副成分として0.001wt%のSiO2、0.1wt%のCaO、0.25wt%のMoO3、0.05wt%のBi3を秤量し、アトライターを用いて2時間混合した。混合後、スプレードライヤーで造粒し、850℃の大気中で2時間予焼した。得られた予焼粉末をアトライターにて粉砕した。粉砕後、スプレードライヤーにて造粒し、25mmφ-15mmφ-12mmのトロイダル形状にプレスし、1300℃〜1450℃で焼成した。
【0032】
従来品として、52.5mol%のFe23、22.5mol%のZnO、残部MnOの主成分と、これらの主成分100重量部に対し、副成分として0.015wt%のSiO2、0.015wt%のCaO、0.015wt%のBi3を秤量し、アトライターを用いて2時間混合した。混合の後、スプレードライヤーで造粒した。混合後、スプレードライヤーで造粒し、850℃の大気中で2時間予焼した。得られた予焼粉末をアトライターにて粉砕した。粉砕後、スプレードライヤーにて造粒し、25mmφ-15mmφ-12mmのトロイダル形状にプレスし、1320℃で焼成した。
【0033】
磁気特性は10ターンの巻線を施し透磁率、を測定した。比抵抗の測定は試料上下面にGa−Inペーストを塗布し、測定した。また、表面析出相の分析はSEM−EDXで行った。表2に、焼成温度を変えた発明品の平均結晶粒径、比抵抗、1kHzにおける初透磁率μ、および150kHzにおけるμを示す。
【0034】
【表2】

【0035】
表2に示すように、すべての発明品で、焼結体の平均結晶粒径が30μm以上100μm、比抵抗が20Ωcm〜100Ωcm、1kHzの透磁率が12,000以上、150kHz時の透磁率が12,500以上であることがわかる。また、SEM−EDX分析によりコア表面の組成分析を行った結果、すべての特性の良い発明品にMoO3とCaOの析出相が存在することが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】発明品と従来品の複素透磁率μ’とμ”の周波数特性を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MnO、ZnO、Feからなる主成分の合量100重量部に対して、添加物としてSiO2が0〜0.005重量部、CaOが0.05〜0.2重量部、MoO3が0.05〜0.5重量部、Bi3が0.005〜0.1重量部含有することを特徴とするMnZnフェライト。
【請求項2】
請求項1記載のMnZnフェライトの焼成体表面にMoO3とCaOを含む析出相を有し、平均結晶粒径が30μm以上、100μm以下であることを特徴とするMnZnフェライト。
【請求項3】
請求項1記載のMnZnフェライトの焼成体比抵抗が20Ωcm以上、100Ωcm以下であることを特徴とするMnZnフェライト。
【請求項4】
請求項1記載のMnZnフェライトの焼成体の1kHz時の透磁率が12,000以上、150kHz時の透磁率が12,000以上であることを特徴とするMnZnフェライト。

【図1】
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【公開番号】特開2008−94663(P2008−94663A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278421(P2006−278421)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】